【ブログシリーズ 東南アジアのガス開発】第2回 ガスと地球を燃やす日本マネー

3回にわたって東南アジアのガス開発状況とその意味について概説するブログシリーズ「東南アジアのガス開発」。初回の記事では、気候変動問題やそれに対する国際的取り組み、その中でのガスなど化石燃料の位置付けについて解説しました。

今回はその背景知識を踏まえて、東南アジアのガス開発の現状について、フィリピンのシンクタンクCEED(Center for Energy, Ecology, and Development)が作成した “Financing a Fossil Future: Tracing the Money Pipeline of Fossil Gas in Southeast Asia”(以下、「報告書」)を読んで理解を深めていきましょう。

目次

1.東南アジアでのガス開発を推進する事業者と投融資者

 ・事業者

 ・投融資者

2.今求められていることは何か

3.最後に

1. 東南アジアでのガス開発を推進する事業者と投融資者

前回の記事での説明の通り、気候変動を食い止めるためには石炭やガスといった化石燃料から今すぐ脱却し、再生可能エネルギーに迅速に移行しなければならないというのがIPCCやIEAの結論でした[i]。しかしながら、現在東南アジアでは急速にガス関連インフラの開発が進んでいます。東アジアで計画中の新設ガス火力発電の総発電容量は77 GW(ギガワット)であるのに対し、東南アジアで計画されているガス火力の発電容量はそれを凌ぐ総計117 GWに上ります[ii]

化石燃料から再生可能エネルギーへの移行が求められる中、未だに東南アジアでガス関連事業を開始しようとしているのはどういった企業や金融機関なのか?CEEDの報告書はその問いに答えるべく、2016年のパリ協定発効以降も東南アジアで事業者、投融資者としてガス事業を推進している企業などをランク付けしています。

誰がガス開発を進めているのか(事業者)

それではまず、事業者(ガス関連施設を建設、運営する企業)に注目してみましょう。以下のランキングでは2016年1月1日から2022年3月31日までの期間内で操業が見込まれる事業を持つ事業者がカウントされています。 

発電容量で換算すると、東南アジアでガス火力発電事業を最も大規模に推し進めているのは以上の11社です。圧倒的な一位はフィリピンでガス開発を主導するサンミゲル社です。サンミゲル社はFoE Japanもモニタリングしているイリハン・ガス輸入ターミナルのあるバタンガス州で火力発電所の建設を計画しており、同ターミナルで受け入れるガスの主要な消費者ということになります。日本からはタイでガス火力事業に関与している三井物産と、インドネシア、ミャンマー、ベトナムの事業に関与している丸紅がランクインしています。

また、事業の数で換算すると、日本からは三井物産とJ –Powerがそれぞれ3位と5位にランクインしています。両者とも操業中の事業が大半である一方、三井物産は計画中と建設中の事業が合計3案件、 J –Powerは計画中の事業が一案件あり、パリ協定以降もガス火力発電を推進していることが見てとれます。

ガス輸入ターミナルの事業者上位10社の中には、シェル、エクソンモービル、トタルといった欧米の有名オイルメジャーが名を連ねていますが、日本のINPEX、JXTG、兼松といった企業もランクインしています。

以上が2016年1月1日から2022年3月31日までの期間内で操業を開始した事業を持つ事業者に絞ったランキングでした。次に同期間内に建設中、計画中の事業を持つ事業者に絞って見てみましょう。

ガス火力発電事業に関しては上位11社にランクインしている日本企業はありませんが、LNG輸入ターミナルについては1社、LNG輸出ターミナルについては4社がランクインしています。それぞれ見てみましょう。

LNG輸入ターミナルの部門では、7位に北陸電力が入っています。一方LNG輸出ターミナルについては、2位にINPEX、6位に三菱、8位にJXTG、9位に兼松、10位にLNGジャパンがランクインしており、この分野での日本企業のプレゼンスが高いことがわかります。

以上のランキングからわかるのは、

1)日本企業は2016年のパリ協定発効以降も、事業者として東南アジアのガス開発に深く関与してきており、それは現在でも続いていること。

2)   傾向として、日本企業が事業者として関与して2016年に操業開始が見込まれていた事業はガス火力発電と輸出ターミナルが主だったが、2016年以降に建設、計画されている事業で今後操業開始するものは輸出ターミナルと輸入ターミナルである、ということです。

誰がガス開発のお金を工面しているのか(投融資者)

それでは次に、投融資者(ガス開発事業やガス開発会社に対して融資や債権購入を通じてお金を工面する金融機関のこと)に焦点を当てて分析してみましょう。

6年前にパリ協定が発効されて以降も、123もの金融機関が合計334億米ドルもの資金を東南アジアの化石燃料ガスセクターに投融資してきました[iii]。これも気候変動への対応を強化する国際的な流れと逆行するものです。

2021年4月には、2050年までに投融資ポートフォリオを通じた温室効果ガス排出ネットゼロを目指す銀行間の国際的イニシアチブである「Net-Zero Banking Alliance(NZBA)」が設立され、日本からも三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループなどが参加している[iv]ものの、これらの企業は以下に見るように、東南アジアでの化石燃料ガス投融資をリードしてきました。

それではパリ協定以後、2016年1月から2022年3月までの間に取引が行われた事業の投融資額のランキングを見てみましょう。

上位10社の中になんと日本の金融機関が4社もランクインしています。1位が三井住友フィナンシャルグループ、2位にみずほフィナンシャルグループ、5位に三菱UFJフィナンシャルグループ、そして10位に日本の政府系金融機関である国際協力銀行(JBIC)が入っています。

投融資者を国別で換算した場合、日本はインドネシアに次ぐ2番目となっており、パリ協定以降の東南アジアでのガス開発に日本が深く関わってきたことを示しています。報告書は、日本やシンガポールなど、国内の電力をガス火力に頼っている国からの投融資が多いと分析しています(p.31)。 

日本の銀行だけでなく世界各国の銀行が、国際的なイニシアチブに参加していながらガス開発に引き続き投融資しており、これは銀行のコミットメントがいかに空虚であるかを示しています。レポートでも言及されていますが、この事実はThe Oil and Gas Policy Trackerによる、銀行の気候変動への対応に対する評価格付けでも確認することができます。この格付けでは、金融機関が投融資のポートフォリオから石油・ガス事業やそれを実施する企業を除外しているかどうか、そしてガス事業からフェーズ・アウトするコミットメントの質を分析した上で点数がつけられます。当然のことながら、JBIC(公的金融機関であるため、ランク付の対象外)を除く日本の上記3社は、全て10点満点中0点と評価されています。

一方で、民間銀行だけではなく公的金融機関もガス開発において重要な役割を担っていることを見逃してはいけません。東南アジアでのガス投融資の半分以上が、政府系銀行、二国間開発金融機関、輸出信用機関によって投じられています[v]。上記のJBICや日本貿易保険(NEXI)は、輸出信用機関に分類されます。

公的資金によるガス事業の支援はその金額が重要なだけでなく、民間金融機関や事業者にとってはリスクヘッジの観点から、なくてはならないものです。というのも輸出信用機関は多くの場合、ガス事業の中でも事業規模が大きくリスキーなものに対する保険を提供しており、それらは公的資金でなければ保険の提供が難しいであろう事業です[vi]。つまり、エネルギー安全保障など国家のエネルギー戦略を推し進めるために、公的資金が、気候変動対策を求める声とガス投融資の非経済性をおしのけてガス投融資を継続させているということです。

さて、2016年以降という時間軸で見ると日本企業の存在がかなり大きいというのがここまでの議論ですが、2020年以降(2020年1月から2022年3月までに取引が行われた事業への投融資額)で区切って見るとトレンドの変化が見てとれるとレポートは指摘しています。どういうことでしょうか。下の図2つをご覧ください。

一つ目の図は2020年以降、東南アジアのガス事業に投融資した企業を投融資額でランキングしたものですが、日本企業は上位10社にランクインしておらず、変わってタイ企業が上位5社を独占しています。これは二つ目の図(国別ランキング)でも明らかで、タイが圧倒的にガス投融資を引っ張っており、アメリカ(9位から3位)とイギリス(8位から5位)も順位を大きく上げています。アメリカからはJPMorgan Chase & Co、イギリスからはStandard Chartered PLCが金融機関別ランキングにそれぞれ10位、9位にランクインしており、これらの企業が米英の順位を押し上げていると見ることができます。一方、日本は2位から7位へと順位を下げています。それでも11億4,010 万 米ドルもの額をこの期間に投融資しており、相対的に下がったとはいえ、まだまだ巨額の投融資を続けていることに変わりありません。

3. 今求められていることは何か

以上の分析を踏まえて、レポートは金融機関に実効性のある対策をとるよう提言しています。

1.  IPCCの地球温暖化に関する特別報告書のP1シナリオ(1.5℃)に基づき、1.5℃パスウェイ(2030年までに世界のCO2排出量を2010年比で45%削減し、今世紀半ばまでにCO2排出量をネットゼロとする)を誤った対策なしに追求する政策、つまりパリ協定に整合した政策を実施すること。具体的には以下。

a. 新規油田・ガス田、LNGターミナル、およびGlobal Oil & Gas Exit Listに掲載された企業への直接・間接の資金供与を禁止する。

(解説: Global Oil & Gas Exit Listとは、環境NGO Urgewaldが作成した、ガス・石油開発に投融資者、事業者として深く関与している企業のリストです。ちなみになぜ直接投資と間接投資とどちらにも言及しているのでしょうか?レポートによれば、パリ協定以降の東南アジアでのガス開発の資金調達は4分の3がコーポレートファイナンス(間接投資)から、残りの4分の1のみがプロジェクトファイナンス(直接投資)から来ていると指摘しています[vii]。つまり、化石燃料事業への直接投資のみを規制するだけでは、ガス開発への資金の流れを止めることができないのです。)

b. ガス火力発電所の新規事業や拡張事業が、その国の低炭素社会への移行に必要かつ経済的に実行可能な繋ぎの燃料(bridge fuel)であると判断される場合には、厳しい制限を設ける。

c. 1.5℃目標に整合する期限内に、全てのガス事業のエクスポージャーからフェーズアウトし、既存のガス火力発電事業については、株式投資の場合、早期撤退を追求する計画と測定可能な計画目標(短期、中期、長期目標を含む)を設定し、開示すること。

(解説:パリ協定の1.5℃目標を達成するためには、エネルギー部門で化石燃料から脱却する必要があります。したがって、既存のガス火力発電事業もできるだけ早く止めなければなりません。そのため、金融機関はガス関連事業に対する投融資を引き揚げることでこの目標達成を促進する必要があります。それは「2050年までに投融資を引き揚げます」といった漠然とした約束ではなく、「5年後にはここまで引き揚げ、10年後にはここまで引き揚げます」と言った短期・中期目標を含めた、具体的かつ実効性のある目標を設定する必要があるということです。)

2. パリ協定に基づく対策を実施する上で、地域開発銀行と地方銀行の重要な役割について区別して考える必要がある。

a. 地域開発銀行は、東南アジアにおいて必要なエネルギー転換のための資金を調達するために、ガスの新規事業および拡張事業に従事する全ての企業に対する融資の禁止をはじめとした、パリ協定に整合する最も野心的なエネルギー対策および戦略の採用を主導するべきである。

b. 地方銀行は、1.5℃目標における自国の妥当な貢献量を達成するために迅速かつ公正な移行パスウェイに資金提供を整合させるべきであり、そのためには新規の油田・ガス田に対する融資を禁止しなければならない。

(解説:繰り返しになりますが、1.5℃目標達成のためには新規のガス開発事業は受け入れられません。銀行の規模に関わらず、新規のガス開発事業への投融資は禁止されなければなりません。加えて、より広範な影響力を持つ地域開発銀行に関しては、模範的な化石燃料脱却戦略を提示して地域内の銀行を引っ張っていかなければなりません。)

3. 人権を侵害し、生物学的に重要で多様な生態系と生息地を危険にさらし、重大な評判リスクをもたらすガス開発事業に対する融資を撤回し、禁止すること。

4. ガス関連事業及びガス会社に提供された全ての金融サービスを開示し、株主及びステークホルダーが気候関連リスクを適切に評価・算定し、事業及び投融資判断において気候変動の影響全般が日常的に考慮されるよう支援するため、気候関連財務情報開示タスクフォースの勧告を全面的に採択すること。

(解説:気候関連の情報開示及び金融機関の対応について検討する気候関連財務情報開示タスクフォース(略してTCFD : Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、 企業等に対して気候変動関連のリスクと機会について、ガバナンスや戦略といった項目を開示するよう推奨しています。報告書はこのTCFDの提言に沿って気候関連情報を開示するべきであるとしています。)

4. 最後に

 CEEDの報告書を精読して明らかになったのは、パリ協定発効以降も日本企業が事業者として、そして投融資者として、東南アジアのガス開発を推し進めているということです。この状況を止めるためには、資本の流れをこれ以上化石燃料に向かわせないことが重要であり、そのためにガス事業投融資からの引き揚げ、具体的な投融資撤退目標の設定、気候関連情報の開示が提言されています。

これらの提言を実現させるため、私たち環境NGOは、企業に対する株主提案、エンゲージメント、株主に対する要請と言った活動を継続しておこなっています。特に提言の1.c 及び4に関しては、近年世界中で大きな盛り上がりを見せる環境関連の株主提案でも求められていることと一致しています。日本でも今年、国内外の環境NGOや機関投資家が三菱商事、三井住友フィナンシャルグループ、東京電力、中部電力、J-Powerに対して同様の内容を求める株主提案がなされ、否決されたものの多くの株主の賛同を集めました

気候変動と、東南アジアのガス開発と、日本企業と、株主提案。どれも一見すると繋がりがなさそうですが、日本企業などが推し進める東南アジアのガス開発が温暖化をさらに加速させるため、それを防ぐための株主提案ということで、これらは密接に関わり合っています。次回は、東南アジア諸国の一つ、フィリピンに焦点を当ててガス開発の現状をさらに詳しくみていきます。


[i] IPCC, 2022: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [P.R. Shukla, J. Skea, R. Slade, A. Al Khourdajie, R. van Diemen, D. McCollum, M. Pathak, S. Some, P. Vyas, R. Fradera, M. Belkacemi, A. Hasija, G. Lisboa, S. Luz, J. Malley, (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, UK and New York, NY, USA. C.3. 及び、International Energy Agency. 2021. Net Zero by 2050: A Roadmap for the Global Energy Sector. Summary for Policy Makers. p.9

[ii]Center for Energy, Ecology and Development. 2022. Financing a Fossil Future: Tracing the Money Pipeline of Fossil Gas in Southeast Asia. p.12

[iii] ibid. p.26

[iv] https://www.unepfi.org/net-zero-banking/members/

[v] Center for Energy, Ecology and Development. 2022. Financing a Fossil Future: Tracing the Money Pipeline of Fossil Gas in Southeast Asia. p.27

[vi] Darouich, Laila., Igor Shishlov and Philipp Censkowsky. 2021. Paris Alignment of Export Credit Agencies: Case Study #3 Japan. Perspectives Climate Research. p.5.[vii]Center for Energy, Ecology and Development. 2022. Financing a Fossil Future: Tracing the Money Pipeline of Fossil Gas in Southeast Asia. p.31

【ブログシリーズ 東南アジアのガス開発】第1回 気候変動と化石燃料ガス

3回にわたって東南アジアのガス開発状況とその意味について解説するブログシリーズ「東南アジアのガス開発」。初回である今回は、2回目以降の記事を理解するにあたって必要になる前提知識を概観します。具体的には、気候変動に関する科学的知見と、その壊滅的な影響を防ぐために国際的にどのような対策が求められているのかについて解説します。

目次

1. 気候変動の影響

2. パリ協定と1.5℃目標

3. 1.5℃目標達成の道筋

4. なぜ新規の化石燃料事業はパリ協定に整合しないのか

1. 気候変動の影響

気候変動に関する科学的知見は年を追うごとに精密になっています。そこでまず、気候変動に関する研究をまとめ、評価しているIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の評価報告書から幾つかの重要な科学的知見を確認してみましょう。

「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。」[i]

IPCCはこれまで、温暖化の原因が人間の影響であることを、高い可能性があるとし、2021年8月に公表されたIPCC 第6次評価報告書の第1作業部会の報告(以下、IPCC AR6, WG 1, SPM)では、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。」と改めて断言しました。

実際日本でもここ数年、「記録的猛暑」という言葉をニュースで聞き飽きるくらい耳にします。さらに今年6月25日には伊勢崎市で6月の観測史上初の40.2℃を観測しました。6 月下旬から 7 月初めの記録的な高温について、気象研究所などが9月に発表した調査結果によると、「地球温暖化の影響が無かったと仮定した状況下では、同じラニーニャ現象等の影響があったとしても、およそ 1200 年に 1 度という非常に稀な事例であった」と指摘し、温暖化により高温の発生確率が格段に上がっていたことを明らかにしています[ii]

また、このような猛暑についてIPCCは、「過去10年に観測された最近の極端な高温の一部は、気候システムに対する人間の影響なしには発生した可能性が極めて低い(IPCC AR 6, WG 1, SPM, A.3.1)」としています。こういった極端な熱波のみならず、極端な大雨、干ばつ、熱帯低気圧などが既に世界中で見られるようになっています。

図1(出典:文部科学省、気象庁訳。IPCC AR6, WG 1, SPM、図SPM.6) 

さらに同報告書によれば、こういった「極端現象」は地球温暖化が進むにつれて、これからより激しく、より頻繁になると予想されています。上図で示されているように、産業革命以前と比較した1度の気温上昇時 (産業革命以前と比べて、地球は既に1.09度上昇したと推定されている[iii])には、人間の影響がない気候で平均して50年に1回発生するような極端な気温は、頻度にして4.8倍、強度にして1.2℃増加します。一方で、温暖化が4℃に達すると、頻度にしてなんと39.2倍、強度にして5.3℃増加すると予想されています。地球温暖化は既に猛暑といった形で私たちに明らかな影響をもたらしていますが、温暖化がさらに悪化すれば、それだけ猛暑の頻度と強度が増幅するということで、それに伴って損失や損害が拡大します。気温上昇と、気候変動による壊滅的な被害を避けるための対策や被災時の対応の強化が急務です。

2. パリ協定と1.5℃目標

IPCCが1988年に設立され、1990年に発表した第1次評価報告書が、1992年に採択されることになった国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の重要な科学的根拠とされました。その締約国会議(COP3)で京都議定書が、そしてCOP21ではパリ協定が採択されました。パリ協定では「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃以下に抑える努力をする[iv]」ことに合意しています。

ここでは気温の上昇を2℃未満という目標と共に1.5℃以下に抑えるという努力目標が両方記されていますが、上述のように現在の1度の温度上昇ですら、既に熱波など目に見える極端現象が頻発していることを考えると、1.5℃以下を目指さなければならないのは明らかです。実際、2018年に発表されたIPCCの『1.5℃特別報告書』では、2℃の気温上昇が起こった場合と比べて1.5℃の場合の方が、「海洋生物多様性、漁業[資源]、及び生態系、並びにこれらがもたらす人間への機能とサービスに対するリスクが減少することが予測される[v]」など、1.5℃に気温上昇を抑えるべき理由を科学に基づいて主張しました。社会的な影響についても、「2℃に比べて1.5℃に地球温暖化を抑えることで、気候に関連するリスクに曝されるとともに貧困の影響を受けやすい人々の数を2050年までに最大数億人削減しうるだろう(確信度が中程度)[vi]。」と述べており、気温の上昇を1.5℃以下に抑えることの重要性がわかります。開発途上国が国際交渉の場で1.5℃目標を粘り強く主張し続けてきたこともあり、今ではパリ協定の枠組みで目指すべき気温目標は1.5℃とされるようになりました。

3. 1.5℃目標達成の道筋

では、1.5℃目標を達成するにはどうすればよいのでしょうか?IPCC 第6次評価報告書の第1作業部会の報告によれば、気温上昇を産業革命以前と比べて(67%の確率で)1.5℃に抑えるためには、私たちが将来にわたって排出できるCO2の量(残余カーボンバジェット[vii])の推定値は400Gt(ギガトンは10億トン)です[viii]。これは報告書が発表された2021年時の残余カーボンバジェットですが、2010年から2019年の10年間のCO2排出量は410Gtであり[ix]、この排出ペースが変わらなければ2021年からの10年間で、温暖化を1.5℃に抑える残余カーボンバジェットを使い切ってしまいます。

図2(出典:文部科学省、気象庁訳。IPCC AR6, WG 1, SPM, 図SPM.4) 

では、このわずかなカーボンバジェットを使い切らないようにするにはどうすればよいのでしょうか?上図にあるように、IPCCの同報告書は、将来のCO2排出シナリオを5つ示しています。この中で1.5℃目標を達成できる程度までCO2排出量を十分抑えられているのはただ一つ、水色のシナリオ(SSP1-1.9)であり、このシナリオならば「世界平均気温が、1.5℃の地球温暖化を0.1℃より超えない一時的なオーバーシュートを伴いながら、21世紀末にかけて1.5℃未満に戻るように低下するだろうことは、どちらかと言えば可能性が高い[x]。」としています。SSP1-1.9は、CO2排出量が2030年頃には半減、2050年頃には正味ゼロ(ネットゼロとも言う。排出したCO2の量と森林による吸収などによって除去されたCO2の量が釣り合って全体として排出量がゼロになる状況のこと)となり、それ以降は排出量より除去量が多くなっています(SSP1-1.9の線は、2050年以降0より下のマイナスで推移しており、これはCO2を除去していることを意味する)。

しかし、オフセットに頼ったネットゼロ達成を至上目標とすることは危険なことでもあります。気候変動対策には化石燃料由来の温室効果ガス排出の削減が最重要ですが、「化石燃料を燃焼して温室効果ガスを排出しても、木を植えてオフセットするから問題ない」という口実を与えかねないからです。実際、大手の化石燃料企業は大規模植林に頼ったネットゼロ計画を策定し、化石燃料の開発を継続しています。また、除去の別の手段として炭素回収・貯留技術(CCSと略される。発電時に排出されたCO2を回収し地中に貯留する技術)も注目されています。しかしコストが高く、将来にわたり安定的に貯留できるのか不透明です。また日本国内では貯留に適する場所も限られているといった課題もあります[xi]。こういった未確立の技術を言い訳に温室効果ガスを排出し続けるのは、取らぬ狸の皮算用のようです。

従って、1.5℃目標達成に向けた理想の道筋としては、オフセットに頼ることを前提とした「ネットゼロ」ではなく、できるだけオフセットに頼らない「リアルゼロ」がより良い選択肢となります。実際、2022年に発表されたIPCCの第3作業部会の第6次評価報告書では、リアルゼロに近いシナリオが取り上げられています(下図参照)。

図2(出典:IPCC AR6, WG 3, SPM, 図SPM.5よりFoE Japan作成) 

図中の3つのシナリオIMP-LD(効率的な資源の利用、世界的な消費パターンの転換による低需要の実現)、IMP-REN(再エネ重視)、 IMP-SP(不平等の軽減を含む持続可能な開発への転換を通じた排出削減)はいずれも50%以上の確率で温暖化を1.5℃に抑えられるとされています[xii]。さらに、これら3つのシナリオは排出量が大きくマイナスに推移していないため、前図のSSP1-1.9と比べて世紀後半の温室効果ガスの除去に頼っていないことが見てとれます。オフセットに頼るネットゼロでなくとも、リアルゼロに近い形で温暖化を1.5℃に抑える可能性はまだ残されているのです。

さらに、IPCCの将来シナリオはその多くが既存の経済モデルをベースにしており、ライフスタイルの変革などより突っ込んだ社会経済変革(システムチェンジ)による排出量削減ポテンシャルはまだ限定的にしか評価されていない点も留意しておく必要があります。大胆な政治決断を通じてIPCCシナリオが想定するより早く脱化石燃料を達成することも可能です。先の3つのリアルゼロ・シナリオを私たちが達成できる限界として見るのではなく、さらなる可能性を模索しなければなりません。

ここまでの議論をまとめると、気候変動による壊滅的な影響を抑えるためには、温暖化による気温上昇を(産業革命前と比べて)1.5℃以下に抑える必要があり、そのためには除去に頼らないで温室効果ガスの排出を実質的に、それもできる限り早く削減していく必要があるのです。

4. なぜ新規の化石燃料事業はパリ協定に整合しないのか

では、温室効果ガスの排出削減には、具体的に何が求められるのでしょうか?そこで鍵になるのがエネルギーセクターです。エネルギーセクターは現在世界の温室効果ガス排出の4分の3を占めます[xiii]。石炭、ガス、石油といった化石燃料由来のエネルギーは、採掘、輸送、火力発電所での燃焼時に多大な温室効果ガスを排出します。したがってこの部門での対策が1.5℃目標達成に不可欠となります。

IPCCによると、現在稼働中・そして計画中の化石燃料インフラからだけでも、2℃を超える温度上昇につながる量のCO2が排出されると試算されています[xiv]。国際エネルギー機関IEAが2021年に出した2050年ネットゼロシナリオでも、これ以上新規の石油・ガス開発事業や炭鉱の新設・拡張はネットゼロの道筋と整合しないと明らかにしています[xv]。化石燃料に代わって再生可能エネルギーへの投資を急増させ、2035年までに先進国の電力をネットゼロとし、2040年までには世界全体の電力をネットゼロ、2050年までには世界全体の電力の90%を自然エネルギーで賄うとしています[xvi]。IPCCの第6次評価報告書第3作業部会報告書においても、気温上昇を1.5℃に抑えるためのシナリオでは化石燃料利用を急激に削減し、再生可能エネルギーに移行されるとしています[xvii]

つまり、気候変動による壊滅的な影響を避けるための1.5℃目標を達成するためには、石炭及びガスといった化石燃料を新規に開発する余裕はなく、むしろそれらは段階的に廃止しつつ、再生可能エネルギーへの移行を促進する必要があるということです。そしてもちろん移行に際しては、地域社会の声を尊重する必要もあります。再生可能エネルギーの蓄電や電気自動車に使用されるニッケルを採掘、精錬する際に現地住民の生活や環境を破壊してしまうことがあっては、本末転倒です(例えば、フィリピンのリオツバタガニート、インドネシアのポマラにおけるニッケル開発)。 

さて、IPCC報告書やIEAの2050年ネットゼロシナリオでも、これから世界が進むべき脱化石燃料の方向を示しているにも関わらず、 実は東南アジアではガス開発事業が急速に進んでいます。そしてその事業に対し、事業者としても投融資者としても、日本の官民が深く関与してきているのです。本記事で紹介した気候変動の背景を踏まえた上で、次回以降の記事では東南アジアのガス開発に関するレポート等を解説します。


[i]IPCC, 2021: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S.L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M. I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T. K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu and B. Zhou (eds.)]. In Press.(文部科学省、気象庁訳。『IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書 気候変動2021:自然科学的根拠 政策決定者向け要約(SPM) 暫定訳(2022年5月12日版)』 )

[ii]文部科学省、気象庁気象研究所、2022年9月6日。「令和 4 年 6 月下旬から 7 月初めの記録的な高温に 地球温暖化が与えた影響に関する研究に取り組んでいます。 ―イベント・アトリビューションによる速報― 」https://www.mext.go.jp/content/20220906-mxt_kankyou-000024830_1.pdf

[iii]IPCC, 2021: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S.L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M. I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T. K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu and B. Zhou (eds.)]. In Press. A.1.2\

 [iv] Paris Agreement (Dec. 13, 2015), in UNFCCC, COP Report No. 21, Addenum, at 21, U.N. Doc. FCCC/CP/2015/10/Add, 1 (Jan. 29, 2016). (訳文は以下を参照:資源エネルギー庁。2017年8月17日。「今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~

(最終閲覧日2022年7月25日))

[v]IPCC, 2018: Summary for Policymakers. In: Global Warming of 1.5°C. An IPCC Special Report on the impacts of global warming of 1.5°C above pre-industrial levels and related global greenhouse gas emission pathways, in the context of strengthening the global response to the threat of climate change, sustainable development, and efforts to eradicate poverty [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, H.-O. Pörtner, D. Roberts, J. Skea, P.R. Shukla, A. Pirani, W. Moufouma-Okia, C. Péan, R. Pidcock, S. Connors, J.B.R. Matthews, Y. Chen, X. Zhou, M.I. Gomis, E. Lonnoy, T. Maycock, M. Tignor, and T. Waterfield (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, UK and New York, NY, USA, pp. 3-24. (『1.5°Cの地球温暖化:気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における、工業化以前の水準から1.5°Cの地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関するIPCC特別報告書、政策決定者向け(SPM)要約』、環境省仮訳、B.4)

[vi]同上、B5.1.

[vii] IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書 気候変動2021:自然科学的根拠 政策決定者向け要約(SPM) 暫定訳(2022年5月12日版)、表SPM.2

[viii]「カーボンバジェットという用語は、他の人為的な気候強制力の影響を考慮した上で、地球温暖化を所与の確率で所与の水準に抑えることにつながる、世界全体の正味の人為的累積 CO2排出量の最大値のことである。これは、工業化以前の時代を起点とした場合は総カーボンバジェットと呼ばれ、最近の特定の日を起点とした場合は残余カーボンバジェットと呼ばれる(用語集)。過去の累積 CO2排出量は、これまでの温暖化を大 部分決定し、将来の排出は将来の追加的な温暖化の原因となる。残余カーボンバジェットは、温暖化を特定の気温水準以下に抑えるにあたり、まだ排出しうるCO2の量を示す。」IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書 気候変動2021:自然科学的根拠 政策決定者向け要約(SPM) 暫定訳(2022年5月12日版)脚注43

[ix]IPCC, 2022: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [P.R. Shukla, J. Skea, R. Slade, A. Al Khourdajie, R. van Diemen, D. McCollum, M. Pathak, S. Some, P. Vyas, R. Fradera, M. Belkacemi, A. Hasija, G. Lisboa, S. Luz, J. Malley, (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, UK and New York, NY, USA. B. 1.3

[x]ibid. B.1.3

[xi]大野 輝之、2021年9月30日。「CCSへの過剰な依存が日本のエネルギー政策を歪める」自然エネルギー財団。

[xii]ただし、1.5°Cを数十年にわたって最大0.1°Cまで超過する、限定的なオーバーシュートが67%以下の確率で発生する。ibid. Box SPM.1. 

[xiii]International Energy Agency. 2021. Net Zero by 2050: A Roadmap for the Global Energy Sector. Summary for Policy Makers. p.2

[xiv]IPCC, 2022: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [P.R. Shukla, J. Skea, R. Slade, A. Al Khourdajie, R. van Diemen, D. McCollum, M. Pathak, S. Some, P. Vyas, R. Fradera, M. Belkacemi, A. Hasija, G. Lisboa, S. Luz, J. Malley, (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, UK and New York, NY, USA. B.7.

[xv]International Energy Agency. 2021. Net Zero by 2050: A Roadmap for the Global Energy Sector. Summary for Policy Makers. p.11

[xvi] ibid. p.9

[xvii]IPCC, 2022: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [P.R. Shukla, J. Skea, R. Slade, A. Al Khourdajie, R. van Diemen, D. McCollum, M. Pathak, S. Some, P. Vyas, R. Fradera, M. Belkacemi, A. Hasija, G. Lisboa, S. Luz, J. Malley, (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, UK and New York, NY, USA. C.3.

原発とガスを「グリーン投資」に!?欧州議会が承認 「グリーンウォッシュのツール」「プーチンへの贈り物」批判の声続々 

7月6日、グリーン投資を促進するための「EUタクソノミー」(注1)に原発と天然ガスを含めるという欧州委員会の提案が、欧州議会(注2)本会議で承認されました。

正確には、欧州議会の下の環境と経済の合同会議で、6月14日、欧州委員会の同提案に反対する決議が採択されたものの、本会議に付された同じ決議が、否決されたという形です。

「原発とガスをタクソノミーに入れる補完的委任法」に対する反対決議案に対して:
賛成:278、反対:328、棄権 : 33 

本会議が行われたストラスブールの会場の前では、環境活動家らが、原発とガスを含めることに反対し、「原発・ガスはグリーンではない」「プーチンに贈り物をするのをやめろ」などと書いたバナーを持って抗議アクションを繰り広げました。

Twitter上では、#NotMyTaxonomyというハッシュタグがトレンド入りし、この決定に対する憤りの声でみちあふれました。

「グリーンウォッシュ」

本会議での採決の結果を受け、欧州議会環境委員会の副委員長であるBas Eickhout氏は、「EUは有害なシグナルを投資家やEU以外の国々に送ることになる」と述べ、また、「エネルギー分野での環境投資の信頼性を低め、グリーンウォッシュすることになる」と批判しました。(ガーディアン紙

欧州気候基金CEOのLaurence Tubianas氏はツイッターで、「今日、政治と既得権益が科学に勝った。真剣な投資家、企業、消費者は、必要な環境基準を求めて他の場所を探すことになる」と発信しました。

Friends of the Earth Franceで金融と化石燃料のキャンペーナーを務めるLorette Philippot氏は、 「欧州委員会に続いて、欧州議会議員の多くは、科学者や市民社会、ウクライナ国民の声よりも、ガスや原子力産業の利益に耳を傾けることを選んだ。これらの2つの有害なエネルギーをグリーンラベルから除外することによって、グリーンウォッシングを拒否することも、金融関係者の責任である」とコメントしました。

グリーンピースEUの持続可能な金融活動家アリアドナ・ロドリゴ氏は、「ガスと核にグリーンというレッテルを貼り、プーチンの軍資金により多くの資金を注ぎ込む言語道断の決定である。しかし今、私たちはこれと法廷で戦うつもりだ」と述べています。

「プーチンへの贈り物」?

注目されるのは、「原発・ガスはグリーンではない」という本来の論調に加え、EUからロシアのガス・原子力産業に資金が流れることに抗議する論調が強くなった点です。

今年5月、ロシアのこれらの産業からの欧州議会へのロビイングについて、グリーンピース・フランスが調査レポートを発表(注3)。実際、EUはガスのみならず、ウランをかなりロシアから輸入していますし、ロシアの原子力産業は東欧に強い影響力を持っています。

7月5日には、「原発とガスをタクソノミーに含めることは、環境的にも間違っているだけでなく、ウラジミル・プーチンに対して何十億ユーロもプレゼントすることになる」という趣旨で、ル・モンド紙にNGOのリーダーたちの論説も掲載されました(グリーンピース・フランスやCANフランス、FoEフランスなどが連名)。

European green taxonomy: ‘Including gas and nuclear would benefit Russia to the tune of several billion euros per year’

同じ趣旨のAvaazの署名には、わずか5日間で30万筆を超える署名が集まりました。

今回の欧州議会の採決により、原発・ガスは、一定の条件は付されますが、「環境的に持続可能」とされ、今後、EUの環境や持続可能性を目的とした投資メニューに含まれることになります。

一方で、オーストリアやルクセンブルクは、この法令が発効したあと、提訴する構えを見せています。

タクソノミーに原発とガスを含めることに抗議するドイツとフランスの市民たち(c)BUND(FoEドイツ)

「信頼性を損なう」

今回の件、NGOのみならず、たとえば以下のように、投資家たちからも明確な批判の声があげられていました。

「タクソノミーは政府が自分たちの好きな経済活動に資金を誘導したり、グリーンウオッシュ(見せかけだけの環境対応)したりするための道具ではない」(オランダ年金連合会)(注4)

「ガスと原発を含めることは持続可能な事業への投資を促進するタクソノミーの信頼性と有用性に悪影響を与えるだろう」(EUROSIF(欧州社会的責任投資フォーラム))(注5)

これらの投資家の声をみるにつけ、本来グリーンウォッシュを防止するために創設されたEUタクソノミーの制度そのものが、信頼性を失い、機能不全に陥る結果につながってしまう可能性は大いにあるでしょう。

原子力ロビーの影響力

もう一つ特筆したいのは、原子力産業の影響力です。

以前より、今回の欧州委の唐突な提案に関して、「原子力産業からのロビー」の影響を指摘する人は多かったですが、それは、原子力とガスがあとから突っ込まれた一連の経緯からもうかがえます。とりわけ、当初、タクソノミーの正式な諮問機関である技術専門家グループ(TEG)が、原発をタクソノミーに含めないことを勧告していたのにもかかわらず、欧州委がわざわざ別の機関(JRC)に諮問したのはとても恣意的に思えます。

<経緯>

  • もともと技術専門家グループ(TEG)は、原発は「著しく害を与えない(DNSH)」基準(注4)に適合しないとし、タクソノミーに含めないことを欧州委員会に勧告していた
  • 2020年7月 欧州委員会がJoint Research Center(JRC)に原子力のDNSH基準についての評価を委託、JRCは2021年4月、原発はDNSHに適合するという評価報告書を提出
  • 2021年に発効したEUタクソノミー(委員会委任規則2021/2139)には原発・ガスは含まれず。
  • 2021年末に欧州委員会がEUタクソノミーに原発・ガスを含めることがリーク記事により明らかに
  • 2022年1月1日、欧州委員会が原発・ガスの技術的基準を含めた補完的委員会委任規則案を発表
  • 2022年1月21日「持続可能な金融に関するプラットフォーム」が「補足委任法への回答」を公表。「原発を持続可能な経済活動として認知することはできない」とした。同プラットフォームは欧州委員会の正式な諮問機関。
  • 2022年2月2日、欧州委員会が正式に原発・ガスの技術的基準を含めた補完的委員会委任規則を採択
  • 2022年6月14日、欧州議会の環境委員会と経済金融委員会の合同委員会にて、欧州委員会提案に対する反対決議を採択
  • 2022年7月6日、欧州議会の本会議で上記反対決議は否決

FoE Japanは7月1日、オンラインセミナー「オンラインセミナー:原発はグリーンか? 欧州のエネルギー事情とEUタクソノミーのゆくえ」を開催しました。

セミナーで講演したFoEドイツのヤン・ヴァローデさんは、「EUは、グリーンウォッシングを防ぐ代わりに、過去最大のグリーンウォッシングの道具を作ろうとしている」と痛烈に批判。

ヴァローデさんによれば、EUタクソノミーの考えられる影響として、以下があげられるとのことです。

  • 「持続可能な金融商品」と銘打つすべての投資活動が、タクソノミーによって定義される。
  • 大企業は、自社の活動がタクソノミーにどの程度適合しているかを報告する必要がある。
  • EU以外の国も追従する可能性がある。
  • EUの公的資金が原発に流れこむ可能性がある
  • 原子力事業の実現可能性が高まり、真に持続可能な経済活動への投資が減る。

セミナーの映像および資料は以下からみることができます。

https://foejapan.org/issue/20220621/8455/

持続可能性投資の分野で国際的な世論を引っ張ってきたEUだけに、今回の決定の影響力はやはり大きいと言わざるをえません。

とはいうものの、EU内外の反対の声が可視化され、投資家からも強い批判の声があがったことも事実です。FoE Japanとして、継続的に原発やガスの問題を訴えるとともに、今後の動きを注視していきたいと思います。

(満田夏花)

注1)EUタクソノミーとは、「環境的に持続可能」な経済活動への投資を促進するため、以下の6つの環境分野に貢献する活動を分類するもの。

  • 気候変動の緩和
  • 気候変動への適応
  • 水と海洋資源の持続可能な利用と保全
  • 循環型経済への移行
  • 環境汚染の防止と抑制
  • 生物多様性と生態系の保全と回復
  • いずれの目標に対しても「著しい害を及ぼさない(Do No Significant Harm、DNSH)」ことなどの条件がある。

注2)欧州議会とは、直接選挙で選出される議員から構成されるEUの組織。EU理事会とともに立法府を形成している。一方で、欧州委員会とはEUの政策執行機関。

注3)Greenpeace EU, ‘Russian doll’ gas and nuclear lobbying threatens EU energy independence – new research

注4)日経新聞2022年2月2日「原発・天然ガスはグリーンか EU「変心」に投資家反発

注5)EURACTIV, “Investors warn ‘green’ label for gas undermines EU taxonomy” February 4, 2022

注6)タクソノミーの対象となる当該経済活動が、気候変動などの環境目標に合致するのみならず、他の環境目標(たとえば環境汚染の防止と抑制など)に対しても「著しい害を及ぼさない(Do No Significant Harm、DNSH)」ことが条件となっている。

SB56開催中〜COP27に向けて途上国が求めるものとは?

6月6日から16日にかけて、国連気候変動枠組条約の第56回補助機関会合(SB56)が開催されています。補助機関会合では、条約の公式な決議などはありませんが、年に一度開催される締約国会議に向けた勧告や合意案が検討されます。

COP26以降、2022年2月には、IPCC第二作業部会が気候変動の「影響・適応・脆弱性」に関する報告書を公表しました。この報告の中で、気候変動の影響はすでに広範に及んでいること、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えることが達成されたとしても気候変動の影響による損失と被害を全く無にすることはできないこと、また、気候変動にレジリエントな開発ができるかどうかは、この10年の行動が鍵となることが指摘されました。

そして、2022年4月のIPCC第三作業部会による「緩和」に関する報告書では、現行の各国の気候変動対策目標(NDC)はパリ協定の1.5度はおろか、2度未満に抑えるためには極めて不十分であること、既存及び計画中の化⽯燃料インフラからのCO2排出量のみですでに1.5℃目標の達成は不可能であること、脱炭素技術の大規模な普及だけでなくこれまでに類をみない抜本的な社会変革が求められ ることが求められることが示されました。

このように、IPCCによる報告が相次いだ後に開催されているのが、今回の補助機関会合です。第一週目には、今回の補助機関会合の開幕に際し、気候正義を求める市民社会が、記者会見やイベントを開催しました。

もはや被害の時代に突入。求められるのはアクション

6月7日には、開催された気候正義を求める市民社会(Demand Climate Justice)の記者会見がありました、その中で、Third World Network/FoE マレーシアのMeena Ramanは、冒頭に述べたようなIPCC第六次報告の指摘を振り返りながら、

私たちは、求められる気候変動対策から程遠い所にいる。ウクライナ侵攻があってもなお、先進国はまだ化石燃料から脱却する準備ができていないようだ

と、求められる気候変動対策が進まないもどかしさを示しました。

また、議題から抜けていた途上国にとって極めて重要な、適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation、GGA)は初日の交渉で議題に盛り込まれましたが、損失被害の資金支援(グラスゴー対話)は、途上国からの強い要求があったにもかかわらず、今回の補助機関会合の主たる議題として取り上げられなかったことについても言及しました。

GGAはパリ協定第7条ですでに合意されてきた。にもかかわらず、どのように目標に向かって枠組を動かしていくかという重要な議論が未だになされていない。IPCCの第二作業部会の報告でも、適応にもっと注力すべきだという指摘があった。そして、今はもう損失と被害の時代になりつつある。途上国は、損失と被害に対応するための資金ファシリティを求めている。2025年以降の気候資金に関する新たな定量的な全体の⽬標(New Collective Quantified Goal on Climate Finance、NCQG)も、途上国にとっての優先事項だ

と、今回の補助機関会合での注目点を述べました。

Asian People Movement on Debt and Development のClaire Milandaは、求められる気候資金が十分に達していない一方、何十億ドルもの資金が化石燃料事業に使われている実態に触れ、2025年以降の気候資金に関する新たな定量的な全体の⽬標(NCQG)に関する議論で、具体的な額が提案されることを求めました。

Corporate AccountabilityのRachel Rose Jacsonも、理不尽なウクライナ戦争は、私たちが化石燃料中毒に陥っていることを示していると述べました。化石燃料によって引き起こされる気候変動によって、ナイジェリアやインドなど、気候変動にほとんど寄与していない人々やコミュニティが気候変動による被害を被っていること、そしてその被害はすでに日常茶飯事となり、多くの人々がなくなっていることにふれた上で、

気候変動に関する議論はもう26年も続いています。何年もの間、行動が先延ばしにされてきたことを、私たちはみてきました。もう話をしている場合ではなく、アクションを起こさないといけない時です。時間を無駄にしている場合ではありません。パリ協定の第6条2項および第6条4項は、私たちに求められている時間軸での温室効果ガス削減には役に立ちません。パリ協定の第6条8項に基づく、確実な温室効果ガス削減策や適応支援といった解決策が必要です

と、口だけで行動が伴わない実態を批判し、確実に温室効果ガスを削減する対策が必要であることを提示しました。

公平性の実現をーCOP27への期待

途上国の交渉官らも含めたイベントも開催されました。COP26の結果を振り返るとともに、COP27に求めることを発言しました。

途上国(G77+China)の気候資金に関するコーディネーターを担うZaheer Fakir氏は、現在の1000億ドルの長期資金が合意された背景や歴史を話したのち、

COP26では、年間1000億ドルの長期資金の動員に失敗したことについて、途上国はもっと怒りを示すべきだった。2025年以降の気候資金に関する新たな定量的な全体の⽬標(NCQG)についての議論が始まっているが、私たちは過去の1000億ドルの長期資金から学ぶ必要がある。つまり、資金の定義、会計方法について話し合うべきだ。1000億ドルの長期資金について話すとき、人によってこの動員額が異なる。それは、この年間1000億ドルの気候資金が決まった時にこの資金の定義を決めなかったからだ。

と、今後の議論に向け提言しました。

途上国同志グループ(LMDC)の第6条のスポークスパーソンを担うDiego Pacheco氏は、

グラスゴー気候合意には2つの問題点がある。一つは2050ネットゼロ、もう一つは、1.5度目標達成に関する文言だ。もちろん、1.5度目標を達成できなければ、気候危機の被害は深刻さを増すから、1.5度目標の達成は支持する。だが、その方法は、先進国にとって有利なものだ。2050年ネットゼロと設定し、発展途上国が先進国により依存せざるを得ない罠のような(市場メカニズム)制度を作り出すことで、先進国は気候危機のすべての負担を発展途上国に移している。この点こそ、私たちがグラスゴー気候合意を「グラスゴー植民地協定」だと呼ぶ理由だ。グラスゴー気候合意(での先進国と途上国の力関係)は、とてもアンバランスだ。今回の補助機関会合でも、私たちは適応に関する世界全体の目標(GGA)に関する議題を含めることを試みたが、うまくいかなかった。 適応に関する世界全体の目標の策定は簡単な作業ではない。でも簡単ではないからこそ、より多くの力を投入する必要がある。COP27では、バランスの取れた合意を求める。先進国は、少なくとも2030年までに確実な削減を行い、条約とPAの原則(Common But Differenated Responsibilities、共通だが再ある責任)を維持する必要がある。そして公平性を実現するならば、それは先進国は発展途上国のために炭素予算を残さなければならないはずだ。

インドの交渉を担うRicha Sharmaも、昨年のグラスゴー気候合意は緩和が中心となりすぎていると批判し、COP27での交渉は、適応策や損失と被害に関する議題が緩和策と同等に扱われるべきであることを指摘し、実効性のある対策や資金の拠出を求めました。

最後に、COP27のホスト国であるエジプトの大使Mohamed Nasr氏も発言しました。Mohamed氏は、近年の国際交渉では民間企業など関与するアクターが増えたこと、そして水問題、農業、ジェンダー問題など様々な課題にも包括的に立ち向かうことを強調しながら、COP27への意気込みを下記のように発言しました。

何をもってCOP27の成功というかは明確だ。バランスの取れ、実行力のある結果を伴う合意だ。そして、科学が私たちに伝えていることが優先されたものであるべきだ。

*サイドイベント “Developing country views on Road to COP 27”の様子はこちら

国際交渉の意義、先進国に住む私たちの役割とは

約2週間の補助機関会合では、正式な国際合意はありません。ですが、今回の補助機関会合は、COP27での合意に向けた勧告が作成される重要な場です。開催にあたっての記者会見やイベントにおける途上国の発言にあるように、今はもう温室効果ガスを減らすだけではなく、気候変動にどう適応していくか、これから多発するであろう損失と被害に対してどう備えるかを、形にしなくてはいけない時になっています。

記者会見の最後、Corporate AccountabilityのRachel Rose Jacsonが以下のような発言をしました。

私のようなグローバルノースの人々、メディアに伝えたいことがあります。私たちはこの交渉が辛いからといって、立ち去ることはできません。グローバルノースの人たちこそ、自分たちの政府にもっと訴えないといけません。私たちには、この交渉の会場で起こっている真実を先進国の人たちに伝えるメディアが必要です。多くの人が関心を持つ必要があります。

国際交渉の現場では、市民社会や途上国の声よりも先進国等の利益が反映されがちで、時に無力感を覚えます。さらに、約2週間の補助機関会合では、正式な国際合意はないため、注目度はあまり高くありません。ですが、彼女のこのメッセージによって、気候変動の国際交渉の場で、すでに被害を受ける人々の声が議論の場に届いているかということに、私たちが関心を持ち続けることの重要性を再認識しました。

私たち日本の市民は、すでに気候変動の被害に直面する人々とどのように連帯できるのか。それを考えるためにも、日本のより多くの人々に、すでに被害を受ける人々、途上国の人々の声を届ける活動を続けていきます。

(髙橋英恵、小野寺ゆうり)

処理汚染水の海洋放出をめぐり、規制庁、東電、経産省と会合

6月2日、東電の福島第一原発の処理汚染水を海洋放出するための実施計画変更を認可する審査書案をめぐり、規制庁、東電、経産省と会合を持ちました。審査書案は6月17日までパブリックコメントにかけられています。

事前に提出した質問への3者の回答については、こちらをご覧ください。
https://foejapan.org/wpcms/wp-content/uploads/220602_answers.pdf

会合では、いろいろと驚きの事実が明らかになりました。

以下、ポイントをまとめました。

1.放出される放射性物質の総量は不明。

まあ、これは以前からたびたび問題提起していたことではありますが、やはり放出される放射性物質の総量については不明のままです。東電は40以上あるタンク群のうち3タンク群についてのみ、64核種(ALPS除去対象の62核種+トリチウム+炭素14)について測定を行い、濃度を公表しています。
残りについては、東電は準備がととのったものから、放出前に測定し、順次公表するとしています。ちなみに、現在、タンクの水の7割近くで、トリチウム以外の放射性物質について、告示濃度比総和が1を超えています(つまり基準を満たしていません。下図参照)。東電は2次処理を行ってから放出するとしています。…つまり、準備ができたタンクから、二次処理→測定→放出…ということになるので、全量の放出が終了する30年後(?)にしか、放射性物質の放出総量はわからないことになります。

2.「64核種以外の放射性物質が残留していないこと」については東電がこれから検証し、規制庁があらためて審査する。

東電は、64核種(ALPSの除去対象62核種+トリチウム+炭素14)以外が残留していないことについては、今後、検証するとしています。またその検証結果を踏まえて放出前の測定対象核種を決めるとしています。規制庁は、東電の今後の検証を待ち、それを改めて審査すると述べていました。
ただ、このポイントは審査がはじまった段階で規制庁側が提起した課題だったのですが…。

3.東電はかきまぜずに測定。

東電の放射線影響評価で、示されている3タンク群およびタンクごとの濃度を公開している主要7核種の測定の前には、東電は攪拌を行っていませんでした。
これではタンクの底部にたまっているかもしれない物質を捕捉しそこねている可能性があります。
これらのデータは、ALPS処理水中の放射性核種に関する検討や、放射線影響評価の前提として使われています。東電はタンクを攪拌した上での測定を踏まえた上で、あらためて放射線影響評価を行い、規制委員会は審査をやりなおすべきではないでしょうか。
なお、東電は放出前に攪拌を行って測定を行うとしており、そのための設備も設置予定です。つまり正確な測定には「攪拌」が必要だと認識しているわけです。

4.ウランの取扱い

東電は、核兵器不拡散条約における計量管理の対象核物質であるウラン類を測定対象としていません。
東電は、ALPS除去対象核種を決める時、「原子炉停止 365 日後の濃度が告示濃度限度に対して 1/100 を超えたもの」を対象としたと説明しています。そしてALPS対象核種を測定対象としているわけです(場合によってはもっと絞り込まれるかもしれません)。
原子力市民委員会の滝谷紘一さん(元原子力安全委員会事務局技術参与)は「ウラン類は、溶融炉心が原子炉圧力容器の破損箇所から飛散流出する際に一部が微粒子になって固化し、冷却水中に移行、ALPSのフィルターを通過した微粒子が貯蔵タンクの底部に沈殿していると考えられる。海洋放出に際して貯蔵タンクからの水流の攪拌作用により微粒子が再浮遊して流出するおそれがある」と指摘しています。

5.放出前の測定対象核種は決まっていない

前述の通り、東電は「測定評価対象核種については、国内における廃止措置や埋設施設に関する知見を踏まえ、汚染水中に有意に存在するか改めて検証」するとしています。こんな重要なことを先送りにして審査を通してしまうとは驚きです。

6.放出後の海域モニタリングはこれから検討する

質問は、「海域モニタリングにより異常値が検出された場合は、緊急遮断弁の自動作動又は運転員の操作により、ALPS処理水の海洋放出を停止する、としているが、トリチウムについては週1回の測定ということになっており、異常値が検出されたとしても、一週間遅れという事態にもなりかねない」とし、常時モニタリングとするべきではないかというものでした。(原子力市民委員会の大沼淳一さんの問題提起です)
これに対し、「いや、それは放出前の海域モニタリングの話。放出後はこれから検討する」ということでした。
しかも、規制庁は、「海域モニタリング」は規制委員会の審査の対象外とも述べていました。海域モニタリングは、総合モニタリング計画の一環で政府の関係省庁や東電も入ったモニタリング調整会議というところでとりまとめを行っている、とのことでした。

7.東電は海洋放出費用の総額を示さなかった

「海洋放出する場合、数十年にわたる放出期間全体の費用はどのように評価しているのか」という質問に対して、東電は「将来も含めて処理水の処分にいくらかかるかを現時点で見通すことは難しい」と回答。
そんな馬鹿な!いくつか仮定をおいて、概算でも見積もりを示すことは、東電と国の責任だと思うのですが…。
経済産業省のもとに設置された「トリチウム水タスクフォース」での議論では、海洋放出は91ヶ月、34億円、とされていました。現在、報道によれば、本体工事費約350億円
2021~24年度の4か年で計約430億円に上る見通し」とされています。
改めて、他の代替案との比較評価を行うべきなのではないか。」という問いに対して、東電は国が丁寧なプロセスを踏んですでに決定している、国内で放出実績がある点やモニタリング等を確実かつ安定的に実施可能な点を評価して海洋放出が選ばれた、と回答しています。

しかし、原子力市民委員会が提案している、石油備蓄に使われている大型タンクでの長期安定保管やモルタル固化処分も実績がある点では同じではないでしょうか。また、国は「幅広い関係者のご意見等を丁寧に伺ってきた」わけではなく、国が選んだ「関係者」の意見を形式的にきく場をもうけただけです。国は海洋放出決定以降、公開の場の公聴会は開催していません。

大切なことがいろいろと先送りになっているのにもかかわらず、この審査書案も通されてしまうのでしょうか。

FoE Japanでは、審査書案に関するパブコメ・セミナーを開催中です。ぜひご参加ください。

第1回:6/6 19:00-20:00 (終了しました)
コメント:宇野朗子さん(福島から京都へ避難)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZAuc-mhrjwsGtWbyeb1oiHH5KdSiAMcZ9I7

第2回:6/11 11:00-12:00
コメント:阪上武さん(原子力規制を監視する市民の会)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZ0kfuGvrTwpHdK-Mnw5c6Yc86xVi52xjd_N

第3回:6/13 19:00-20:00
コメント:濱岡 豊さん(慶応義塾大学商学部教授)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZAocumupjMiGdBoTMlDzdFaR6tIsH0EL0Z9


【2分でわかる!汚染水動画シリーズ】

1 汚染水って何? 何が含まれているの?

2トリチウムって何?

3 代替案は?

4 人々の声は?

【横須賀石炭訴訟報告 vol.13】ついに結審。判決は11月28日に。

本日、横須賀石炭火力訴訟の第13回期日が開廷されました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。

(裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

今日をもって原告と被告の主張は終わり、結審となりました。判決前最後の審理であるということもあり、雨天にもかかわらず定員50名を超える約60名が会場に集まりました。

結審では、小島弁護士から今回の裁判の要点について、千葉弁護士からは横須賀石炭火力建設に係る環境アセスメントの瑕疵について、改めて提起されました。一方、被告からの陳述はありませんでした。

「気候保護に関する世論や議論が成熟していない」は、原告の訴えを退ける理由にならない

小島弁護士は、結審にあたり、次の5点についてお話ししました。

  1. 原告らの生命・健康・住居などの財産・食料への危険が差し迫っていること。危機は極めて深刻で重大な人権問題。
  2. 地球温暖化・気候変動による人権侵害を防止するためには、排出量の削減が決定的に重要である。
  3. 先進工業国それぞれが、パリ協定及び1.5度特別報告書で求められる排出削減措置を尽くすことが必要であり、それが世界各地の裁判所の共通認識ともなっている。
  4. 司法が自らの責任を果たすことが求められている。
  5. 気候保護に関する社会情勢や議論がまだ成熟していないとの理由で、司法による法的保護を否定するのは3つの意味で間違っている。

1点目について、指摘にあたっては、今年4月26日の神戸石炭火力訴訟の大阪高等裁判所の判決で「もはや地球温暖化対策は国境を超えて人類の喫緊の課題であることは疑いない(中略)」と、気候危機が裁判所でも認められたことを引用し、異常気象や漁業の被害を強調しました。そのほか、昨年ヨーロッパ各地を襲った山火事や、カナダでの49度という異常気温、日本での熱中症被害が頻発し毎年1000人が亡くなるほどになっていること、洪水などの気象災害によって600名が命を落とし3万件もの住居が流されたことに触れました。そのほか、原告尋問でも証言があったように、原告の居住地域である横須賀市内でも土砂崩れが起きたこと、海藻が育たず海の生態系が急速に失われていること、そしてその結果として漁業という生計手段が成り立たなくなりつつあることを再確認しました。

排出量の削減が決定的に重要であるという2点目については、昨今のIPCCの報告を引用し、人間活動によるCO2排出が地球温暖化を引き起こしており、排出量をゼロにしていくことは不可欠であることを訴えました。国際的にも、具体例として、世界エネルギー機関(IEA)は、「2021年以降のCCS(大気中のCO2を回収して貯留する技術)の備えない石炭火力の建設中止」「2030年までに先進国のCCSを備えない石炭火力の廃止」などが示されています。しかし、CCSについては、日本では適切に貯留できる場所が陸域にないことが経済産業省の報告書の中でされており、現在は海域での貯留場所も探索中で確実なものとはいえず、吸収量の増加に頼る対策は極めて困難であることを強調しました(注1)。

(注1)報告会では、北海道苫小牧市におけるCCS実証実験では3年間で30万トンのCO2貯留に成功した一方、横須賀石炭火力発電所が稼働した場合、年間726万トンのCO2が排出されることを比較されました。

次に、近年の世界各地での気候訴訟の判決事例を挙げながら、先進国としての責任、そして裁判所に求められる役割について指摘しました。2015年のハーグ地方裁判所での判決では、「少ない排出量だからやらなくてもいいというのでは、温室効果ガス削減を達成できない。人為的な温室効果ガスの排出は、どんな小さな量でも待機中のCO2濃度の上昇に寄与し、気候変動につながることが立証されている」と判断され、2019年のオランダ最高裁判所の判決でも踏襲されているそうです。また、2020年7月のアイルランドでの裁判、2020年11月のフランスでの裁判、そして2021年3月のドイツでも同様な判断がなされたことも紹介し、「世界的な共同体として、それぞれがちゃんとした責務を果たさなくてはならない」ということが、世界各地の共通認識であることを示しました。

最後の「気候保護に関する社会情勢や議論がまだ成熟していないとの理由で、司法による法的保護を否定するのは3つの意味で間違っている」という点は、前述の神戸高裁判決で、原告の訴えを退けた理由となっています。しかし、今回の裁判では、この点について、1)少数派の権利を保護するという人権保護の理念にそぐわないこと、2)気候変動の被害は全ての人に等しく同じタイミングで及ぶものではなくすでに被害を被っている人々がいること、そして、3)政治参加の権利を持たない未成年など将来世代がより深刻に気候変動による人権侵害を被ることを挙げ、反論しました。

再度提示されるアセスの瑕疵、被告の反論書面への指摘

千葉弁護士からは、「適切な複数案検討がされなかったこと」「環境アセスメントの簡略化」の2点に絞って、再度、横須賀石炭火力発電所建設に係る環境アセスメントの問題点について強調されました。

また、最後に、小島弁護士から、被告の準備書面への指摘がありました。被告の「今回の環境影響評価は『局長級取りまとめ(注2)』にそって行なっている」との主張について、もしそれに基づけば、事業審査の段階でパブリックコメントや専門家による審議が必要となるものの、それらが一切なされていないことを指摘し、仮に今回のアセスメントが『局長級取りまとめ』に沿ったアセスメントだったとしても、手続きに瑕疵があることを取り上げました。

(注2)『局長級取りまとめ』とは、2015年に経済産業省と環境省の局長が、東電が火力発電の入札をする際の扱いをまとめた文書。この文書をもって新規の石炭火力も検討することとされた。従って、電気事業法46-17-1(環境要件)として使い、確定通知に該当する。具体的には、電気事業者が経済産業省に申請するが、行政手続法上では、申請においては、審査基準をもうけ、パブリックコメントなどを実施しなくてはいけない。

判決は11月28日。公正な判断は下されるか

次回は、約半年後の11月28日(月)14:00〜、東京地方裁判所103号法廷です。いよいよ判決になります。

報告会では、判決まで時間があくことについて、小島弁護士は「他の石炭火力訴訟の結果を単に踏襲するのではなく、今までの口頭言論や原告尋問の内容などを踏まえて判断するゆえではないか」と述べました。

また、神戸石炭訴訟にも関わる浅岡弁護士も、「神戸と横須賀の裁判の違うところは、環境アセスメントの瑕疵がより明確であること。ここが横須賀裁判の特徴になっている」と、お話しされました。

先月末に開催されたG7環境・気候・エネルギー会合では、「2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化する」ことが合意されました。COP26の合意文書にも書かれた「排出削減対策がなされていない石炭火力発電の削減」をより明確化した形になります。さらに、横須賀市内では4月24日と6月4日に気候マーチが開催され、のべ300人以上が参加し、この横須賀石炭火力の建設中止を訴え、少しずつですが着実に、横須賀市民の中でこの石炭火力建設の問題が共有されつつあります。

一方、日本政府は明確な脱石炭政策を打ち出すどころか、水素やアンモニア混焼に対し、グリーンイノベーション基金を通じて支援しています。燃やしてもCO2が出ないことから「ゼロエミッション燃料」と呼ばれる水素・アンモニアですが、現状、化石燃料で水素・アンモニアを生産することが公表されており、生産の過程でも温室効果ガスが排出されてしまいます。日本は、削減につながらない技術で石炭火力を延命するのではなく、今こそ、再生可能エネルギー社会へと転換すべきです。

日本の脱石炭につながるよう、FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や気候変動対策の抜本的な強化を求める市民とともに活動していきます。

横須賀石炭訴訟について:https://yokosukaclimatecase.jp/

過去の訴訟報告ブログはこちら

(髙橋英恵)

G7:日本の置かれている立場と求められる取り組みとは

2022年6月にドイツで第48回G7サミットが開催されます。

議長国ドイツは気候変動分野を重要な議題の一つに据えていますが、「脱石炭」を声明に盛り込む議長案に日本政府だけが反対しているとの事前報道がありました。また、5月25〜27日にかけて気候・環境・エネルギー大臣会合が開催されています。

参考:
朝日新聞「日本に難題、石炭火力「30年廃止」 G7環境相会合声明原案」2022年4月26日
日経新聞「「脱石炭」孤立深まる日本 G7、米独が歩み寄り「全廃」削除要求は1カ国」2022年5月22日

気候変動とG7、そして日本の置かれている状況についてまとめました。

脱石炭の重要性

気候危機を食い止めるためには温室効果ガスの排出が最も多い石炭火力発電所の廃止が求められてきました。昨年のCOP26(気候変動枠組条約締約国会議)でも脱石炭の重要性が再認識され、多くの国が脱石炭を宣言しています。例えば脱石炭火力を目指す国などの連合PPCAには現在48の国が参加しています。

パリ協定の1.5℃目標達成のためには、先進国は2030年までに、それ以外の国も2040年までに脱石炭が求められており、今回のG7会議で議長国のドイツが2030年までの国内石炭火力の全廃をG7各国に打診していると報道されています。

日本政府は現在、効率の低い石炭火力発電所のみを廃止する方針を掲げており、さらにアンモニアやバイオマス燃料を混焼することで、効率を上げたとみなす方針で、脱石炭とはほど遠い状況です。また横須賀などで、新規の石炭火力発電所の建設も進んでいます。

海外への石炭火力発電の輸出に対する公的支援に関しては、すでに過去のG7首脳コミュニケに原則停止が明記されています。しかし、日本政府は国際協力機構(JICA)の支援で新たに建設が進められようとしているバングラデシュ・マタバリ2石炭火力発電事業およびインドネシア・インドラマユ石炭火力発電事業を例外扱いしており、公的支援を継続する姿勢を崩していません。

写真:既存のインドラマユ石炭火力発電所。この隣接地で新たな発電所の建設計画が進む。

<参考:2021年のG7首脳コミュニケ抜粋

公的資金の流れをグリーンに

石炭以外の化石燃料への補助金や公的支援についても、過去のG7やG20、COPなどで議論されてきており、資金の流れを1.5℃目標に合致したものにシフトしていく重要性は今回のG7でも取り上げられると見られています。

米国のNGOオイル・チェンジ・インターナショナルの調査によると、現在も多額の公的資金がG7諸国から化石燃料に流れており、中でも日本による支援はトップクラスです。

出典:OCI G7ファクトシート

一方、昨年のCOPで「クリーンエネルギーへの移行のための国際的な公的支援に関する声明」が発表され、化石燃料事業への国際的な支援を2022年末までに停止することが明記されました。

この声明には日本を除くG7諸国が署名をしており、この点でも日本政府に対する圧力は高まっています。

ロシアのウクライナ侵攻と化石燃料

ロシアのウクライナ侵攻をうけて、ロシアからの化石燃料の輸入停止がG7やEUなどで、進められています(例えば、EUはロシア産の石炭に続き、石油についても輸入を停止する方針を表明しています。日経新聞2022年5月4日付「EUが対ロシア追加制裁案 年内に石油禁輸へ」)。化石燃料の輸出はロシアの歳入の36%を占めており、プーチン政権を支えてきたと考えられます。欧米企業がロシアでの事業から撤退を決める中、日本の官民の動きは鈍いままです。例えば、日本が官民をあげて推進した「サハリン1」「サハリン2」といった石油・ガス事業に関して、欧米の石油メジャーは撤退を表明しましたが、日本の官民は継続する方針を明らかにしています。

今、日本は一次エネルギーの約9割、電力の75%を化石燃料に依存しています。LNGや石炭、原油など化石燃料の価格は国際的にも2021年から上昇し、ウクライナ侵攻の影響で今後さらに上がる見通しです。それは当然、家計にも影響します。特にコロナ禍ですでに影響を受けている生活困窮者などへの負担増が懸念されます。

このような状況の中「エネルギー安全保障」の議論では、原発再稼働や石炭火力の維持などの声も強くなっています。しかし、原発は、莫大な安全対策費が必要で、燃料も輸入に依存しています。事故やトラブルも多く、戦争やテロの攻撃対象になるリスクもあります。「エネルギー安全保障」とは真逆のものです。海外産の化石燃料への依存こそ、エネルギーコスト上昇に結びついてきました。

気候変動対策のためには化石燃料依存を断ち切らなければなりません。解決不可能な核のごみをはじめ、さまざまな問題を抱える原子力発電の再稼働、新設や新型炉の開発も、行うべきではありません。早急に進めなければならないのは、エネルギー政策の根本的な見直しと、省エネの徹底など短期の需給状況への対策です。

EUは先般RePowerEUという政策パッケージを発表しましたが、これはロシア産化石燃料への依存脱却とともに気候変動対策も追求する内容になっています。

最後に

来年は日本がG7の議長国です。日本政府が、気候変動政策などでG7の中で孤立していると報道されていますが、来年のG7でリーダーシップを発揮するためにも、日本政府には気候変動対策の強化、脱化石燃料に向けた強いコミットメントが求められます。(深草亜悠美)

参考:

南極に迫る気候危機

毎年4月25日は世界ペンギンデーです!
ペンギンたちも住む南極は、地球上でもっとも手つかずの自然が残るといわれてきました。しかし、資源乱獲や気候変動によって大きな打撃を受けています。

この3月には南極で平年の記録を30℃以上も上回るような記録的な高温を記録しています。温暖化とこの高温の因果関係について専門家の意見は慎重で、明確な関係性はまだ立証されていませんが、例えば、コンコルディア基地の3月の最高気温の平均は-49℃のところ、37℃も上回る-12.2℃まで上がりました

3月には南極の海氷の大きさが過去最少になっていると報告されました。この海氷の減少については、自然の変動によるものと指摘されていますが、温暖化による影響の可能性も同時に指摘されており、さらなる研究が待たれます(Nature, 2022)。温暖化による南極の植生変化も指摘されています。

気候変動以外に、南極の自然に対する脅威となっているのは、資源乱獲や違法漁業があります。

かつてアザラシやクジラ、コオリウオ科の魚などが乱獲されたり、たくさんの海鳥が漁網にかかって死んでしまったことがありました。その後は対策が進み、こうした被害は減りましたが、最近ではメロ漁やオキアミ漁の拡大が問題となっています。日本はアメリカとならんで世界最大のメロ輸入国で、私たちの食卓にも並ぶ身近な食材です。

FoE Japanは、国際的な南極保護のネットワーク(ASOC)に加盟しており、南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)の会合にオブザーバーとして参加して南極における海洋保護区(MPAs)設定のための提言活動をするなど、南極保全に関する政策提言活動を行っています。しかし、海洋保護区設定や違法漁業の取り締まりに関してはまだまだ結果が出ていないのが現状です。

CCAMLRが南極海における海洋保護区システムに取りかかって10年以上になりますが、これまでに海洋保護区に指定されたのはロス海とサウスオークニー諸島の二つです。東南極、ウェッデル海、南極半島の三海域の保護区指定に向けて、今後も提言活動を続けていきます。

【横須賀石炭訴訟報告 vol.12】「安心して生きたい。ただそれだけのことなのに」建設地付近に暮らす原告の証言

本日、横須賀石炭火力訴訟の第12回期日が行われました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。

 (裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

今回は、最後の原告尋問でした。建設地の北岸地域である長瀬にお住まいの橋本かほるさんが原告として、原告弁護人の浅岡弁護士の質問に答えながら、近年感じる変化や気象災害の状況について、証言されました。

豪雨で久々に感じた恐怖―橋本さんの証言

横須賀で育ち、一旦仕事のために地元を離れたものの、子育てを機に再び横須賀に戻ってきたという橋本さん。ご自身の子供の頃と気候の変化を感じるとともに、近年の豪雨により、恐怖を感じるようになったと言います。

浅岡弁護士から、地元に戻ってきて以来、変わったことはあるのかとの質問に対し、以下のように答えました。

「14年くらい前から、夏でも暑さを感じるようになりました。そして、3-4年くらい前から雨が激しくなって、音がものすごい。屋根が壊れそうでした。まさに豪雨で、恐怖を感じました。日常生活にも不安なことはよくあります。けれど、恐怖を感じることはほどんどなかったんです。個人的な話になるけれど、娘が5歳の時に事故に遭いました。その時に感じた恐怖と同じ恐さで、あの事故以来感じたことのない感情でした。」

そして、最近の雨は、雨量も多く、雨粒も大きいそうです。橋本さんのご自宅は、特別警戒区域に指定されるような急傾斜地に位置しており、先日雨がふった時には、家の裏山に降った雨は側溝を通じて麓に流れたものの、側溝からも溢れたとのことでした。

また最近、横須賀市内で豪雨による土砂崩れ(*)が多発していることも、そのような恐怖感のきっかけになっているそうです。

「このまま豪雨が続いたら、自分の家も危ないと思うようになりました。最近は、家の裏山の地盤が緩んで家の方に土砂が来るのではと思うと、恐怖を感じます」

* 2014年6月「住民「危険感じてた」横須賀ハイランドで再び崩落事故」https://www.kanaloco.jp/news/social/entry-48199.html

*2021年7月「「ドドーン」突然目の前に土砂…神奈川で崖崩れ52か所」https://www.yomiuri.co.jp/national/20210704-OYT1T50133/

実際、2021年には、5年に一度行われる神奈川県による土砂災害危険区域に関する調査が行われました。その結果によると、長瀬さんのお住まいの地域は、特別警戒区域に指定されました。その他にも、横須賀市内には土砂災害の警戒区域に指定された箇所が多く、その結果を見た橋本さんは、「警戒しなくてはいけない区域がこんなに多いとは。以前よりも危険な場所が増えて、怖いと思います。豪雨は自然災害だけれど、温暖化の影響によるもの。これ以上温暖化を進めないことが大事」と、ご自身の気持ちを表されました。

出典:横須賀石炭訴訟 甲第232-2号証:https://yokosukaclimatecase.jp/wp/wp-content/uploads/2021/12/%E7%94%B2223-2.pdf

浅岡弁護士の最後の質問は、石炭火力発電事業の存在を知ってどのように感じたかというものでした。この質問に対して、

「石炭火力が近くにできると知って、信じられない。世界はどんどん石炭から撤退している中、日本で、しかも家の目の前で建つなんて、言葉を失う。自分の家からも建設が見えるけれど、私は平和に暮らしたいだけ。この石炭火力(は問題であると)のことは、切実に訴えていきたい」

と締めくくりました。

「安心して生きたい。ただそれだけのことなのに」

裁判後の報告会でも、原告として話した中で、改めて、橋本さんからメッセージをいただきました。

「自宅から、日々背の高いクレーンが伸びて着々と建設が進んでいるのを目のあたりにするなかで、夏がきて、台風がきて、また豪雨が来るのだと思う。別に特別なことを望んでいるわけじゃないと思う。普通に、穏やかに暮らしたいというだけのこと。それが許されないというか、大事になれば命の危険がある中に、自分だけでなくて多くの人が晒されている。温暖化を止めない限り、幸せには生きていけない、安心して生きていけないということをいろんな形で感じていらっしゃると思うので、どうしても、あの石炭火力の建設を中止に追い込んでいかないといけないと、改めて思っている。」

今回の橋本さんのお話を聞いて、気候変動は命の問題そのものであると実感しました。橋本さんが証言されたように、大きな雨音の中で感じる恐怖を想像すると、苦しささえ感じます。ただただ穏やかに暮らしたいという、素朴で当たり前の願望が脅かされていること、そしてそのように恐怖を感じている人々が潜在的に多くいることは、見過ごしてはならないはずです。

次回期日のご案内

次回の裁判は、6月6日(月)10:30〜、東京地方裁判所で執り行われます。

6月の口頭弁論が、本行政訴訟の結審となる可能性が高いと裁判長も言及しており、2019年5月から約3年続いている裁判が、そろそろ終わりを迎えます。

次回の裁判に向け、小島弁護団長は、

「過去3回の裁判では、この環境アセスメントのおかしさ、国内外の海の被害の深刻さ、そして、気象災害の恐怖を、原告から直接話してもらった。石炭火力の建設という、人々の被害を拡大させるような方向でいいのかということを問うていきたい。世界の裁判所は気候変動に対して積極的に動いている。そのような中、日本の裁判所は今のままで良いのか問われている。最後の弁論ではそのようなことを話していきたい。」

と述べました。

裁判は終盤に差し掛かっていますが、横須賀市では、石炭火力の建設中止を求める動きが大きくなっています。

先週末の4月10日に開催された、「グレタひとりぼっちの挑戦」横須賀映画上映会では、目標を大きく上回り、1011人が来場しました。

今月末の4月24日(日)にも、横須賀市内で気候危機への具体的なアクションを求めよう、そして横須賀の石炭火力中止の声を盛り上げようと、気候マーチを予定しています。ぜひご参加ください。

本裁判が、日本の気候訴訟の転換点となるよう、そして、日本の脱石炭につながるよう、FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や発電所建設の中止を求める地元住民、市民とともに活動していきます。

(髙橋英恵)

【横須賀石炭訴訟報告 vol.11】海水温をもとに戻して〜原告漁業者の証言

先月末に引き続き、本日、横須賀石炭火力訴訟の第11回期日が行われました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。

 (裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

今回も前回同様、原告尋問でした。当初2名の原告尋問の予定でしたが、原告の都合により、1名となりました。今回、原告尋問を受けたのは、横須賀で漁業を営む小松原哲也さん(79)です。小松原さんは14歳の時から、父の手伝いをしながら、横須賀や東京湾海域で潜水漁業や底引網漁などに携わってきたそうです。横須賀で漁業を営む身として、この数十年間に渡って直面している変化について、小島弁護士に質問されながら証言しました。

気候変動の影響を直に受ける漁業の実態〜小松原さんの証言

小松原さんは長い漁師生活の中で、様々な漁法を営んでこられました。種類としては、潜水漁業、底引網漁が主なものですが、かつては海藻の採取やサヨリ網漁、アナゴの土管漁、アワビやサザエの採取も行っていたそうです。今も小松原さんの息子さんと一緒に、漁を営んでいるとのことでした。

潜水漁業では、エアホースのついたヘルメットを被って海に潜り、ミル貝(通年)、タイラ貝(5月〜11月)、なまこ(3月10日〜4月10日)を採取する漁法で、今は横須賀市内では小松原さんしか実施していないそうです。小松原さんは、猿島から追浜までの安浦漁港近くでこの潜水漁業をしていますが、近年は、タイラ貝の漁獲量はほぼ無に等しく、ミル貝も全盛期の120kg/日から50kg/日にまで減少、なまこもかつては1000kg/日取れたものが、75kg/日の範囲でとるまで激減してしまったと言います。大きく漁獲量が減ってしまった原因を小島弁護士が尋ねたところ、小松原さんは「一番の原因は、海水温が上がったから。貝は冷たい水を好む」と回答しました。

また、底引網漁についても、昔と今では漁れる魚の種類が変化し、漁獲高が大きく変化したと言います。昭和期には、江戸前高級魚のイシガレイやマコガレイが一日500kg(約2000枚)ほどとれたようですが、2000年代になって減り始め、今はイシガレイやマコガレイがとれることはほとんどなく、代わりに漁れるのはトビウオやタイ、イシモチだそうです。エボダイもとれるが、身が小さく売り物にならないと言います。

ワカメの採取も、かつては3月頃におこなっていたそうです。小松原さんが採取していたのは、田戸ワカメという、皇室への献上品にもなるようなワカメで、生計に大きく影響していたのですが、ミル貝やタイラ貝同様、海水温の上昇により今はもう取れなくなっていると証言しました。ワカメの他にも、テングサやヒジキ、アラメも採取していたが、今はほぼ取れなくなっているそうです。また、アラメやワカメを餌とするアワビやサザエも、久里浜沖にもぐれば50~60kg/日と、漁協組合で決める上限量まで簡単にとれるくらいたくさんいたそうですが、アラメやワカメが育たなくなる磯やけによって、今は漁れる量が大きく減ってしまったと証言しました。

そのほか、2隻の船の間に網をはり、海の表層を好む魚をとるサヨリ網漁も、猿島や金田漁港、そして横須賀火力発電所のある久里浜付近でおこなっていたと言います。サヨリも高級品で、かつては一晩に1000kgくらいとれ、大きな収入源になっていたそうですが、10年ほど前からほどんど取れなくなり、そして燃料費の高騰もあり、今は実施していないとお話ししました。サヨリがいなくなった理由として、科学者とともに調査した結果、サヨリの餌となる虫が育つために必要な海藻が海水温の上昇によって育たなくなってしまったことがわかったそうです。

このように、かつて売上の大半を占めていたミル貝、タイラ貝、ナマコ、カレイなどがとれなくなってしまったことにより、収入がかつての5分の1にまで大幅に減少してしまったと、生計に大きな影響があることを最後に証言され、「気候変動の影響は大きい。海水温をもとに戻してほしい」と締めくくりました。

「海は戻ってこない」

今回の小松原さんの証言を聞き、気候危機による生計への影響の大きさを改めて実感しました。また、閉廷後に開催された報告会では、傍聴者から「発電所の稼働により温排水がでていた時期と、稼働が止まって出なくなった時期の違いはあるか?」との質問がありました。その質問に対する小松原さんからの回答は、次のようなものでした。

「久里浜の発電所ができる前は(久里浜沖では)アワビがたくさん取れた。稼働したら、磯やけでできなくなった。稼働が止まっても、海は戻ってこなかった。」

発電所からの温排水という直接的な影響はすでにあり、その影響は不可逆的です。そのような中、現在建設中の石炭火力発電所が稼働開始したら、海の生態系やそれに依存する周辺漁業者に更なる影響を及ぼします。

報告会の最後に、小松原さんは、「できれば、被告が親身に受け止めて、久里浜の発電所を動かさないでほしい」と今回の尋問にあたっての心境をお話されました。

次回期日のご案内

今後の裁判の予定は、下記の通りです。

第12回期日 4月13日(水)14:00〜 東京地方裁判所(原告尋問の予定)
第13回期日 6月6日(月)10:30〜 東京地方裁判所

被告からの反論が特になければ、6月の期日で結審となると予想されています。2019年5月から約3年続いている裁判も、そろそろ終わりを迎えます。本裁判が、日本の気候訴訟の転換点となるよう、FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や発電所建設の中止を求める地元住民、市民とともに、日本の脱石炭を求め活動していきます。

また、横須賀では、気候変動への関心を高めたいと、地域住民が映画上映会も企画しています。ぜひ、こちらの上映会にもご参加ください。(上映会の詳細:https://nocoal-tokyobay.net/2022/02/07/greta_movie_20220410/

(髙橋英恵)