気候危機解決、本当に必要なものは「システムチェンジ」

こんにちは。FoEでインターンをしている横浜国立大学の佐藤悠香です。

今回は、1月21日に行われたウェビナー「『私たちに必要なのはシステムチェンジだ』~斎藤幸平さんと考える、気候危機を生んだ世界像からの脱却後の世界像~」に参加報告です。
1時間半と短い時間でしたが、とても内容が濃く、個人的に刺さるものが多かった回でした。

このウェビナーではまず、大月書店の岩下さんからナオミ・クラインの著書『地球が燃えている』刊行記念として、この本の概要やナオミ・クラインが提唱するグリーンニューディールについてご説明いただきました。

気候変動を止めるための新しい社会のあり方「グリーンニューディール」とは、単なる環境政策ではなく、気候変動を格差や社会福祉の問題と結び付けて、包括的な解決策を提唱するものです。

ナオミ・クラインさんの著書『地球が燃えている』で詳しい説明がされていますので、みなさんもぜひ読んでみてください。

斎藤幸平さんからのお話:資本主義からの「脱却」

つぎに、斎藤幸平さんから「気候危機を生んだシステムからの脱却を」というテーマでお話いただきました。(投影資料はこちら

2020年は、今までどおりの「普通」が普通でなくなり、新しい「ニューノーマル」を考える転換点になりました。

しかし、ワクチンが広まり、コロナ危機の前の生活に戻ることが果たして本当に正しいのか。
私たちは破局への道を進んではいないか。改めて今の社会システムのあり方の再考が求められること、そして、コロナ危機と気候危機に直面する今だからこそ、新しい社会システムを求めていく「システムチェンジ」のタイミングにいることを強調されました。

この「システムチェンジ」というのは、単に電力システムとか交通システムの話ではなく、資本主義という経済・社会システムを抜本的に変えていくことを意味します。これは現在の社会を「スローダウン・スケールダウン」していくだけでは不十分で、新しいシステムを掲げる必要があるということです。

また、技術革新を頼り、今の生活水準を落とさずにEV車を普及させ、再エネへの転換を進めるだけでは圧倒的に不十分で根本的なところの解決にはなりません。

資本主義の下で進めるグリーンニューディールは、結局無限の経済成長を求めるだけで、自然と弱者からの収奪を強めてしまうのです。そして、これは結局グローバルな格差拡大につながってしまうことを指摘されました。

私たちは、成長主義とは決別し、抜本的なライフスタイルの転換を伴うグリーンニューディールを求めていく必要があります。

この別の社会のあり方を作り上げていくことは、オルタナティブな享楽主義(alternative hedonism)を求めていくチャンスでもあるといいます。現在のライフスタイルを続けることが本当に幸せなのか、そして、資本主義のもとで暮らす私たちの別の生き方・働き方を再考するきっかけになると、「資本主義からの脱却がもたらす新しい可能性」もお話くださいました。

気候正義(climate justice)とは

つづいて、FoE Japanの高橋さんから、気候変動アクションマップの紹介がありました。気候変動アクションマップは、今の社会システムがもたらしている日本が関係する環境破壊・人権侵害の問題についてまとめ描いたものです。

また、資本主義とも密接に関わり、気候危機解決に向けて最も大切であろう概念「気候正義(climate justice)」とは何か、そしてなぜ気候正義が重要なのかを、海外のFoEのメンバーの言葉を引用しながら説明していただきました。

気候変動は「単に科学や環境の問題ではない」
この言葉を聞いてすぐに意味が分かる方はどれほどいらっしゃるのでしょうか。

気候正義とは、気候変動を引き起こしてきた、自然や人間の搾取に基づく社会の仕組みを社会の公平性を実現する形で変えていくことです。

気候正義が何かを知ると、気候変動解決に向けた運動は、「自然を守りたい」「生物を傷つけたくない」人たちの運動ではないことが分かると思います。そして、気候不正義と資本主義は密接に関わっていることが分かると思います。

あくまでも先進国の豊かな生活を実現するための経済成長を続ける限り、その成長からこぼれ落ちる人々・成長実現のために踏みつぶされる人が大多数になります。そして、この経済活動のせいで生じてくる気候危機のツケまでも払わされるのが、CO2をほとんど排出していない途上国の人々です。

このような不正義と格差を目の前にして、私たちはもっと持続可能で公正な社会を求めていくべきではないでしょうか。こういう話をすると、規模が大きすぎて到底無理そうに聞こえるかもしれませんが、この不可能そうに聞こえることを実現しなければいけないほど、気候危機の中にいる私たちには時間がないのです。

変化を起こすのは市民である私たち

これに気が付くと、「マイ〇〇をもっておけばOK」という話では到底済まないことが分かります。個人のライフスタイルを環境に配慮したものに変えていくことはもちろん大切だけれど、消費者としての努力を求めるよりもそれ以上に市民が、

・本当に公正な政治的意思決定を求めていく

・グリーンウォッシュ企業に”NO”を突きつける

といった声を上げて生産のあり方を抜本的に変えていかない限りは、現在の自然破壊と弱者からの収奪が蔓延した社会は変わりません。

そして、FoE Japanの吉田さんから、FoE Japanの考えるシステムチェンジの原則について、ご紹介いただきました。

「国や企業ではなく市民が声を上げていかない限り、システムチェンジは実現できない。
政府や企業や大きな力を持つ人ではなく、私のような普通の市民が声を上げ続けることが実は一番大切で効果的」
というお話は、私自身としても、これからも声を上げ続けるモチベーションになりました。

また、齋藤さんも、「個人の変化」「政治の変化」「企業の変化」をセットで求め実行していくには、私たち一人一人の声とアクションが必要になるとおっしゃいました。

斎藤さんやFoE Japanのお話を聞くと、「現状を変えなくてはいけないことは分かったけれど私は何をすればいいの?」と思う方も多いと思います。

そのような方は、自らもアクションに参加することがネクストステップになります。NPO・NGO・政治活動・社会運動。世の中にはいろんな立場からすでに声を上げて活動している人がたくさんいます。

そんな人たちに話を聞きにいったり、支援をしたり、自分もその活動に加わることで人とのつながりを増やしていくことが重要なのではないでしょうか。

斎藤さんは、このアクションを起こすことのハードルの高さには二つあるとおっしゃっていました。一つは、アクションに対する心理的なハードル。二つ目は労働時間の長さによる時間的ハードルです。

斎藤さんによると、教育・医療・交通機関といった「コモン」を脱商品化し、みんなの共有財産にしてできるだけ安価にアクセスできるようになれば、賃労働に依存しない生活が維持できるようになります。そして、このように労働時間を減らすことで仕事以外のアクティビティに費やす時間を増やすことが可能になるのです。

私は、Fridays For Future Japanでの活動を通して、一つ目のハードル「アクションすることへの心理的ハードル」を下げていきたいと思っています。

同調圧力が強い日本社会でも、年齢や性別、人種に関わらず誰もがおかしいことは堂々と「おかしい」と言っていいこと、自分の声には価値があること、主張は持つだけでなくアクションを通じて示すことは最高にクールであることを特に同世代に伝えていきたいです。

本当の豊かさを見つける

今回のウェビナーを通じて、自分が特に意識せずに生活していた資本主義というシステムの中で、私たちは本当に必要のないものまで広告やメディアの影響を受け、「より早く、新しいものをたくさん」消費しようとしていたことに気が付きました。

資本主義から脱却するには、まず「足るを知る」こと。そして、物質に左右されない自分にとっての本当の幸せを見つめなおすことが大切です。

大量生産・大量消費ではなく、顔の見える消費をすること。地域への貢献を実感すること。このような暮らし方は単に、弱者とか地球環境とかだけだけでなく結局は自分自身の心の豊かさに繋がっていくのではないでしょうか。

スローダウンした社会のあり方は、今よりずっと公正で絶え間ない消費と労働からのプレッシャーから開放され、人々が心の余裕のある暮らし(働く以外の活動の領域が広がる生活)に繋がるのではないかと思います。

経済指標に左右されない「人間らしい」生活を大切にするには、今の社会でおかしいところを探してみる。興味を持つ。そして、自分で調べたりたくさんの人の声を聞きにいくこと。

そして、そこで得た情報や知識に満足するのではなく、次は自分が本当に実現したい社会のために行動して声を上げること。

このようなことが重要なのではないでしょうか。

水素やEV、アンモニア、自然エネルギーなどのイノベーションの前に、まず私たちが、資本主義の下で地球と弱者に負担をかけ続ける社会システムを見直さない限り何も根本的な解決にはなりません。

そのため、気候危機やグローバルな格差・貧困の解決には、個人のライフスタイルの変化は大前提であるものの、これだけでは実は全く足りてなくて、「国の政策と企業のあり方」をより公正で本当の意味で人々の心を豊かにする方向へいくように、私たち一人ひとりが市民の立場からプレッシャーをかけ続けることが重要です。

資本主義のような絶対に誰かをとりこぼすような社会システム、踏みつけられて泣き叫んでいるようなひとがいるシステムがおかしいと思うなら、レジ袋をもらうのをやめたりマイボトルを持つのだけでは到底十分ではなくて、この経済・産業システムの変革を求めてアクションをすることが大事だという斎藤さんとFoE Japanのみなさんから強いメッセージを受け取りました。

最後に

システムチェンジを求めて声を上げ続けること、そしてそれと同時に新しい社会の形成に向けて、「自分の人生には本当は何が必要なのか」という自分自身の考え方(生き方)を考え直すことが必要になります。

be the change you want to see in the world.
世の中で見たい変化があるならば、まずはその変化に自分がなること。

社会とともに、自分自身もこれまでとは違う「新しい豊かさ」を再考していきたいと思います。

(インターン・佐藤悠香)

*斉藤幸平さんの当日の投影資料はこちら

*FoE Japanの気候変動アクションマップの購入はこちら

*FoE Japanが考えるシステムチェンジの五原則「気候危機とコロナ禍からのシステム・チェンジを」はこちら

【横須賀石炭訴訟報告 vol.6】簡略化の不適切性、世界の気候危機対策との不整合を指摘

本日、横須賀石炭火力行政訴訟の第6回期日が開催されました。
新型コロナウイルスの緊急事態宣言の中での初の開催となり、今回は原告12名、傍聴も12名程度と過去最小人数の中で執り行われました。

「簡略化の不当性」

今回は原告代理人から「簡略化の不当性」「菅首相の2050カーボンエミッションゼロとの不整合」の二点、主張がありました。

原告代理人の千葉弁護士より、横須賀石炭火力発電所の環境影響評価(以下、環境アセスメント)簡略化の不当性について主張がありました。

前提として、環境アセスメントを簡略化できる条件には、

  • 既に十分に信頼できる環境影響評価の結果があること
  • リプレース(建て替え)の場合
    • 稼働している旧施設が新しい施設となった場合、環境影響が低減されること
    • 稼働している旧施設が新しい施設となる間に、空白期間がないこと

があります。「稼働している旧施設が新しい施設となる間に、空白期間がないこと」という条件は、計画立案時の環境と比較するべきという考え方があります。

しかし、今回の訴訟の対象となっている横須賀石炭火力発電所は、確かに旧火力発電所内ではあるものの、稼働時と計画立案時では空白期間があります。さらに、事業者JERAが実施した環境アセスメントでは、45年以上前に建設された旧施設稼働時のものと比較しています。

千葉弁護士は、「これらの事実から環境アセスメントの簡略化は不適切であると考えられる」と主張されました。

なお、簡略化した内容は、

  • 発電所からの温排水による海洋生物の影響
  • 大気汚染についての現地調査
  • 解体工事による影響の調査・予測

となっています。

「菅首相の2050カーボンエミッションゼロとの不整合」

次に、小島弁護士より、昨年10月26日に表明された菅首相の2050カーボンエミッションゼロとの不整合についての主張がありました。

小嶋弁護士は、菅首相の上記所信表明演説における「省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。」という発言や、12月25日のグリーン成長戦略での「電力部門での脱炭素化は不可欠」との記述を引用し、横須賀石炭火力稼働の不整合性を指摘しました。

また、そもそも、時系列的に考えて、横須賀石炭火力発電所建設計画の環境アセスメントの確定通知は国際的な気候変動の動向・政策に反することも指摘しました。

具体的には、横須賀石炭火力発電所建設はパリ協定締結後に計画されたこと、さらに、同建設計画の環境アセスメントの確定通知が出されたタイミングが、1.5度の気温上昇と2度の気温上昇ではその被害に大きな差があること、1.5度の上昇でも重大な被害があること、そして2030年までの取り組みが重要であることを指摘したIPCCによる1.5度特別報告書の公表後であることを指摘しました。

第6回の裁判の報告会は2月5日(金)18:00〜19:30にオンラインで実施します。
ぜひご参加ください。申し込みはこちら(事前要申込み・無料)

次からいよいよ被告の反論

次回は5月17日(月)14:00〜、東京地方裁判所です。

今回は被告からの答弁はありませんでしたが、次からいよいよ被告の反論が始まります。裁判官も今回の裁判で「できるだけ準備してくるように」と被告に言い渡しています。被告である経済産業省がどのように反論してくるのか、注目です。

とはいえ、裁判は非常にゆっくり進む一方、工事は着々と進んでおり、焦りを強く感じます。裁判の進み方に歯痒さを感じますが、原告の弁護団の小島弁護士、浅岡弁護士は、「企業や政府の対応などの社会の変化や市民の声の高まりは、必ず裁判に影響を与える。諦めずにいきたい。」と心強い言葉もくださいました。

FoE Japanでは引き続き裁判を応援するとともに、地域住民、若い世代と共に運動を盛り上げていきます。

(高橋英恵)

横須賀石炭火力訴訟について:https://yokosukaclimatecase.jp

過去の裁判の報告、横須賀石炭火力問題に関する活動についてはこちら

日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(12)

第五回 国富町大字木脇(その4)

 2017年11月から翌年4月の間に宮崎県西都市内のスギ計179本を伐採させて盗み、2020年7月に逮捕、9月に起訴され、森林法違反(森林窃盗)の罪に問われていた宮崎市の伐採業者「朝日商事」元代表、現在無職の中原朝男被告に対して、宮崎地裁は12月15日、懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年)の判決を言い渡しました。角田康洋裁判官は「被害者に誤伐と言うなど犯情は良くない」としました*1
 なお11月24日の論告求刑公判で、検察側は「根こそぎ伐採し、ばれたら弁償すればいいと考えており、動機に酌量の余地はない」と指摘し実刑を求刑、弁護側は「被害弁償を進めている。息子の支援を受け、林業から引退する」と情状酌量を求めていました*2

 今回は、これまで三回に渡って紹介した高野恭司さんの隣の林地の所有者で、同様に黒木林産の盗伐被害に遭われたTさんの事例を紹介します。

被害林地の概要
 Tさんの林地は国富町大字木脇2532番地。面積は700m2(0.07[ha])で500m2は平坦です。その理由は戦時中、兵舎が建っていたとのこと。土地入手の経緯は27年前、いとこから「林地を買ってくれ」との依頼を受け、購入したのだそうです。
 被害の状況については、第五回 国富町大字木脇(その2)で触れましたが、被害本数77本、警察による実況見分によって認められたのは13本です。

 Tさんの林地には2007(H19)年に境界調査が入り、境界は明確でした。さらに被害を受ける前、2014(H26)年に森林組合に依頼して「しっかり太らせていく」という計画の下、間伐してもらったばかりでした。Tさんは生まれも育ちも国富町で、現在も居住しています。頻繁に現場に足を運び山を見るのが楽しみだったそうです。したがって、一般論として盗伐被害の要因にあげられる「不在地主」、「経営意欲の低い所有者」、「地籍調査が及んでいない境界が不明確な林地」といったことには該当しない事例であり、そのような所有者でも被害に遭ってしまう、ということを強調しておきます。

まさか自分の山が被害に遭うとは?
 2018(H30)年5月に国富町役場では町の広報誌で見開き2ページの盗伐の注意喚起の記事を掲載しました。Tさんもこれを読み、「盗伐行為が横行している」ことを認識していましたが、さすがに自分の山が被害に遭うとは夢にも思いませんでした。しかもTさんは6月2日に現場を車で通ったそうです。そのとき伐採準備は進んでいて、H鋼で水路に橋を架けている様子を含め、準備作業を目撃していたのですが、自分の林地の被害と結び付かなかったようです。Tさんは「だから材を出されてしまってからではわからないのでしょうね」と振り返ります。「盗伐は人が入らない裏山とか奥山とか、見えないところでやるものだと思っていた。だから白昼堂々と作業を進めていって、ばれた場合は『誤って伐りました。ごめんなさい。示談金を払います』としてやっていたのだろう」。

「無届伐採」が判明
 2018(H30)年9月13日、Tさんも高野さんに続き国富町役場に情報開示請求をしました。結果は9月14日に交付され、「該当する関係書類は存在しません。理由は当該申請地における伐採及び伐採後の造林の届出書が提出なされていないため」というもので、いわゆる無届伐採が判明しました。
 その後、Tさんも国富町役場に「現場に来てくれ」と働きかけ、役場の担当者数名の現場視察が実現しました。その時、Tさんは台風24号の豪雨によりすでに崩れはじめている盗伐跡地を指しながら、その補償の可能性について役場職員に問うと「自然災害は補償の対象にはならない」との回答だったそうです。さらに「林地に盗まれずに残っている数本の樹木が倒れた場合はどうなるのか?」という問いに対しては「話し合いしかないのでは?」と完全に他人事のような回答で、親身になって考えてくれているような様子は微塵も見られませんでした。
 高野さんが警察とのやりとりをする中で、2018(H30)9月30日にTさんの林地でも警察の実況見分が実施されました。その後2回、計3回かかり、Tさんも都度立ち会い、切り株を指さした写真の撮影を警察から要求されることなどもあったそうです。

 ところが役場や警察の対応は遅々として進まなくなり、問い合わせをしても「難しいのですよね・・・」といった回答が続いたため、Tさんは宮崎日日新聞の「窓」に盗伐被害について投書もしました。

Tさんにも届いた「示談書」
 第五回(その2)で触れた高野さんに届いたN弁護士から内容証明での「示談書」は、Tさんの手元にも届きました。記載内容は77本、315,000円の支払いを明記した「詫び状」でした。高野さん同様、Tさんもこの通知には対応しませんでした。

刑事が終わったら民事で
 Tさんにお話をお聞きしたのは、まだ黒木林産の刑が確定する前のことでしたが、Tさんは刑事裁判が決着した後は、民事裁判で損害賠償を求めていくつもり、との考えを話してくれました。「黒木林産は裁判になっても、一度も挨拶にも詫びにもこない」。Tさんも誠意のかけらも見られない盗伐業者を許すつもりはないようです。

最後に
 本稿冒頭で触れた中原朝男被告が代表を務めていた「朝日商事」は、現在も宮崎県森林組合連合会が認定する合法木材供給事業者です。つまり黒木林産に続き宮崎県内で2件目の「合法木材供給事業者」が関与した盗伐事件の有罪判決となります。
 一方、宮崎県盗伐被害者の会の会員家族数は現在120で、これも「氷山の一角に過ぎない」と同会会長の海老原さんは言います。「黒木林産は国富町木脇の盗伐現場以外でも盗伐を繰り返している。朝日商事も同様」。

 このような状況下で生産された「合法木材」、その信頼性は極めて低いと言わざるを得ません。その信頼性の低い「合法木材」は、製材、集成材、合板などに加工され、「合法木材」として日本全国へ出荷されています。さらには宮崎県産スギも含め、近隣県の原木が鹿児島県志布志港から中国、韓国、台湾などに「合法木材」として輸出されています。現状の制度と取り組み状況において、「その中に盗伐材が含まれていない」と断言できるだけのトレーサビリティが確保されているとは、とても思えません。

 なお、無断伐採に関する国の調査(2020)*3によれば、2018年1月~2019年12月において市町村等へ相談のあった件数は、全国で95件、そのうち警察への相談件数は32件でした。その内訳において「伐採業者や伐採仲介業者が故意に伐採した疑いがあるもの」は7件で、うち警察への相談件数が3件となっています。その7件は全国を6ブロックに分けたうちの、北海道・東北、中国・四国、九州・沖縄で確認されています。また「境界の不明確または当事者の認識違いにより無断で伐採されたもの」については66件あり、全国6ブロックすべてで確認されています。本調査は本ブログ第三回(その2)で紹介したとおり、2017年12月の国会衆議院農林水産委員会における田村貴昭衆議院議員の質問に端を発するもので、2018年3月にされて以来、毎年継続的に調査されているものです。
 したがって、無断伐採や盗伐は宮崎県のみで起こっていることではなくて、全国規模で起こっていることは明らかです。人の良い、物言わぬ高齢者を狙う盗伐業者や仲介業者に対して、ようやく司法が「犯罪者」として認めるようになり、「盗伐=犯罪」と断言できるようになりましたが、行政による対応には、未だ大きな動きは見られません。特に宮崎県においては「宮崎県と県警は盗伐を擁護している。県警は被害者の言うことに耳を貸さない」と被害者の会会長の海老原さんは切り捨てます。
 こうした行政の対応について、2020(R2)年11月18日の衆議院農林水産委員会において、田村貴昭衆議院議員は「盗伐業者、こういう違法操業をしている犯罪企業に対して国の補助金が流れておったんですよ。そして、こういう司直の判断をもってやっと補助金の返還請求ですか。ちょっと生ぬるいんじゃないんですか。こういうことが今いろいろ起こっているわけですよ。それをずっと私は三年間言ってきた。林野庁、農水省の対応としては極めて甘いと言わざるを得ないと思います」と指摘しています*4

 これまで看過されてきた国内の「盗伐」問題。今後は、警察組織の「被害者に寄り添った」真摯で適切な対応、国、県、市町村による「より厳しい対応」が求められています。(三柴淳一)

*1 毎日新聞2020年12月16日 地域面
*2 宮崎日日新聞2020年11月25日 紙面
*3 林野庁(2020). 無断伐採に係る都道府県調査結果について(令和2年6月23日)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/keikaku/attach/pdf/200623-1.pdf
*4 衆議院農林水産委員会議事速報(未定稿)(令和2年11月18日)

第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その1)
第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その2)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その1)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その1)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その3)
第四回 宮崎市田野町字荷物取地乙
第五回 国富町大字木脇(その1)
第五回 国富町大字木脇(その2)
第五回 国富町大字木脇(その3)
第五回 国富町大字木脇(その4)

【第2回 スクール・オブ・サスティナビリティ報告】未来を担う私たちができること

はじめまして、FoEインターンの小出です。2回目のスクール・オブ・サスティナビリティに参加しました。

第2回は、「気候危機に立ち向かうため、世界はどのように動いているの?」ということで、気候変動と政治の関係について、国立環境研究所の亀山康子さんと、NO YOUTH NO JAPAN 能條桃子さんにお話を伺いました。

はじめに、気候変動に関する国際関係を専門としている亀山さんから、気候変動の現状や、世界の気候変動対策について、そして温室効果ガス実質ゼロに向けた4つのゴールをお話しいただきました。冒頭に、気候変動の現状を解説していただきました。実際に気候変動に直面しているグリーンランドの写真などを見ながら話を聞くと、「気候変動は本当に今まさに起こっていることなのだ」と実感する参加者の方は多かったのではと思います。

その後、国連気候変動枠組条約の歴史や、2015年に制定されたパリ協定について解説いただき、アメリカの大統領選では、アメリカ国内へのインパクトだけではなく国際交渉に大きく影響を与えたことなどを説明くださいました。

また、日本の現状について、石炭の消費量が増え続けていること、石炭火力についてはアメリカより遅れていることなどを指摘したうえで、今年発表された2050年温室効果ガス排出量実質ゼロを実現させるためには、2030年目標を変えなくてはならないことを強調していました。

さらに、実質ゼロ達成に向けた4つのゴールとして、①エネルギーの脱炭素化、②エネルギーの効率的利用(省エネ)、③エネルギーサービス需要の(節エネ)、④森林保全&CO2以外の温室効果ガス対策(メタン、フロンなど)の4つがあると整理してお話くださいました。

続いて、参加者と同世代である、NO YOUTH NO JAPANの能條桃子さんがお話をしました。

NO YOUTH NO JAPANは、「若者が声を届け、その声が響く社会へ」をビジョンに、10代・20代でもわかるように、政治についてわかりやすく発信したり、国会議員とのトークをライブ配信したりしている団体です。
(NO YOUTH NO JAPANの団体詳細はこちら→http://noyouthnojapan.org/

その代表を務める能條さんの問題意識は、特に若い世代(20代)の投票率が低いというところにあるそうです。選挙の候補者の下でインターンをしていた頃、候補者の周りにいるのは高齢者、子育てを終えた世代ばかりだったそうです。また、デンマークに留学していた際、若い世代が動くことで社会を変えていく様子を目の当たりにし、今の活動を始めたとお話をしてくださいました。

政治を気軽に話せる時代を目指して、SNSでの発信を通じて、自分では何ができるかを考えてほしい、そして、政治に声を上げたいと思う仲間を増やしたいので、是非参加者の人とも何かできればとメッセージを伝えていました。

後半のディスカッションで参加者の声を聞くと、同世代である能條さんのお話のインパクトが大きかったようです。政治を変えるのは大変だけど、個人個人が行動を起こすことで、波及して行くような雰囲気を作りたいという感想を持った方もいました。

また、亀山さんのお話を聞くまで、省エネ、節エネを同じものだと思っていたという参加者もいて、それぞれ様々な発見、新しい知識を得ることができたセミナーだったのではと思います。

そして、参加者の方々とお話をする時間があり、感想を共有できただけではなく、違う考え方にも触れることができました。次回のスクール・オブ・サスティナビリティも楽しみです!

(インターン 小出愛菜)

第2回のゲストスピーカーのお話は、Youtubeからご覧いただけます。

*お話の内容*
・亀山康子さん「政治の世界で気候変動はどのように語られてきたのか」
資料はこちら
・能條桃子さん「若者が声を届け、その声が響く社会を目指して」
資料はこちら

★次回のお知らせ★
「暮らしのどんなところで気候変動につながっているの?
part1〜サステナブルファッションにチャレンジしよう!〜」
・日時:2021年2月3日(水)19:30〜21:00
・ゲストスピーカー:
 青沼愛さん(Kamakura Sustainability Institute)、
 中西悦子さん(パタゴニア日本支社 環境社会部)
・参加費無料
・申込みはこちら

*【10代・20代向けオンライン連続セミナー】スクール・オブ・サステナビリティ〜気候変動の危機から世界を守るために立ち上がろう!〜の詳細はこちら

【第1回スクール・オブ・サステナビリティ報告】日本にくらす私たちも気候危機に加担。その中で私たちにできること、参加者の声。

初めまして。FoEでインターンをしている横浜国立大学の佐藤悠香です。

今回は、スクールオブサスティナビリティの第1回目に参加させていただきました。

このセミナーでは、まず初めにFoE MozambiqueのDipti Bhatnagarさんから、気候変動は単なる環境問題ではなく、社会システムがもたらすあらゆる不平等と密接に関わっているということを「気候正義」の点からお話しいただきました。先進国が中心となって引き起こした気候変動の被害を最も受けているのは途上国だという事実を、数字や写真を用いながら説明していただき、気候危機が喫緊の問題であることを痛感した参加者の方は多かったように思います。 

 私自身、気候正義という言葉も、途上国で起きている災害の状況もだいたいは知っているつもりでしたが、写真で彼らの被害状況を改めてみると、とてもショッキングで気候危機がいかに不平等かを再確認させられました。

 日本が、これまで排出してきたCO2量に全く見合わない対策を取っていることを知ると、政府や企業を責めたくなりますが、でも実は自分もその加害者の一人であり、この暴力的な不平等に加担していること。私としても、とても受け入れがたい事実ですが、これが現実です。確かに、自分の行動の選択を全てを誰も傷つけないものに変えることは難しいかもしれません。しかし、今回のセミナーを通じて、それでもなお日本に住む一人の日本人として、日本政府に対して声を上げ、世論を変えようと情報発信を行いながら、先進国としての責任を果たしていく必要性を強く感じました。

2人目のゲストスピーカー Fridays For Future Tokyoの谷口美優さんのお話では、Fridays For Future(以下、FFF)の紹介や活動内容、そして美優さんがこのムーブメントに参加するようになったきっかけを動画や写真とともに紹介していただきました。

美優さんのお話を聞き、同世代で実際にアクションを起こしている方の考えや感情を知ることで、FFFの活動に共感し、アクションを起こすきっかけを見つけた参加者の方もいたのではないでしょうか。まずは若い世代が連結し、強い意志を持って行動し続けることで私たちの未来は少しでも良い方向へ向かっていきます。運動を継続させるためには、同じ危機感を抱き、同じ目標を掲げる仲間を見つけることはとても重要になってくるため、今回のセミナーがそういった仲間づくりの場になっていれば大変うれしく思います。

その後の小グループに分かれて行ったディスカッションでは、ゲストスピーカーのお話を聞いた上での感想として、

・漠然とした危機感を感じていたが、数字を見ることでその危機感が増した。

・Net zeroの考え方が、政府に利用されやすい考え方だというのが新鮮だった。

・身の回りで仲間を見つけ、なにかアクションを起こすことの敷居の高さを感じる。

・知識がなくても行動に起こすことの大切さは日々痛感している。

日々の生活で危機を感じることは日本人だとあまりないが、実際に毎日恐怖を感じている人は世界中にたくさんいることを知り、この問題の緊急性を感じた。

・自分たちが加害者で途上国の人々が被害を受けていることは初耳だった。

・無関心を変える方法は教育が最重要ではないか。

・気候変動アクションをする際に周りの人に伝えにくい。自分の想いと周りからの見え方にギャップがある。高圧的な印象にとらえられがち。伝え方が難しい。

といった意見が参加者の皆さんから出ました。

そこから、「無関心層を惹きつけるにはどうするべき?」という話題について話し合うと、「マイボトルやマイバックなど、マイ〇〇を友達にプレゼントとして話のきっかけにする」「SNSで発信してみる」「環境問題以外の社会問題にも関係していることを説明する」など、各々のやり方で工夫をしながら取り組まれていることが分かりました。

私自身も活動していて、「応援してるよ」「頑張ってるね」と友人から声をかけてもらうことは多いのですが、そのたびに応援の言葉だけでなく「一緒にアクションを起こしたいと言ってくれたらな」などと毎度思ってしまいます。熱意がありすぎても一歩距離を置かれてしまうし、一方でただ曖昧に伝えたところで本当に大切なことは伝わらないでしょう。試行錯誤しながらも、より多くの人へ影響を与えられる「関心を持ってもらう伝え方」を自分も見つけていかなければと痛感しました。

(インターン 佐藤悠香)

第1回のゲストスピーカーのお話は、Youtubeからご覧いただけます。

*お話しの内容*
・Dipti Bhatnagarさん「モザンビークでの気候危機と、気候正義に則った解決策」資料はこちら
・谷口美優さん「台風15号によって気付かされた気候危機」

★次回のお知らせ★
「気候危機に立ち向かうため、世界はどのように動いているの?〜パリ協定から5年。気候変動と政治の関係〜」
・日時:2020年12月15日(火)19:30〜21:00
・ゲストスピーカー:亀山康子さん(国立環境研究所)、
          能條桃子さん(NO YOUTH NO JAPAN)
・参加費無料
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スタッフインタビュー:村上正子さん

日本の政府機関や企業は「開発支援」や「途上国支援」の名の下に海外で様々な事業を行っていますが、その中には人権侵害や環境破壊につながっているものも少なくありません。FoE Japanの「開発金融と環境チーム」は、日本の官民が関わる開発事業によって犠牲になる人が出ないよう調査提言活動を重ねてきました。村上正子さんは2004年から2007年までFoEの開発金融と環境プログラムに在籍し、ロシアの巨大石油・ガス開発事業に関するキャンペーンを担当。当時のお話や思いを聞きました。(聞き手:深草亜悠美、記事化にあたり話の順序や追加情報などは適宜追加・編集)

深草:自己紹介とFoEに入ったきっかけを教えてください。

村上:村上正子といいます。学生時代は自分が何をやりたいのかよく分からず、就職後も事務の仕事をしながら何かを探していたのを覚えています。両親が幼い頃に広島で被爆しているので、私は被爆二世なんです。迷っていた頃、アメリカ人のクエーカー教徒の女性が広島で立ち上げたワールド・フレンドシップ・センターという被爆者支援団体があるのですが、そこが被爆者とともにアメリカに「平和巡礼」にいくメンバーを募集していました。「平和のために何ができる?」というキャッチコピーにひかれ、広島と長崎の被爆者の方々とアメリカを3週間近く旅しました。1998年のことです。これが「核」の問題に向き合った最初で、現在の高木仁三郎市民科学基金の仕事にもつながっています。(注:高木仁三郎市民科学基金(高木基金)は、核・原子力利用への専門的批判に尽力した高木仁三郎(1938-2000)の遺志によって、現代の科学技術がもたらす問題や脅威に対して、科学的な考察に裏づけられた批判のできる「市民科学者」を育成・支援するため設立された)。

深草:なるほど。核の問題から始められているのですね。そこからどのようにNGO職員への道へと進まれたのでしょうか。

村上:そうですね。この旅では、受け入れ側である米国の「市民活動」にとても感銘を受けました。彼らは広島・長崎での被爆の証言活動をコーディネートしてくれたわけですが、小学校から大学、教会、市役所、議会までいたるところで誰からも好意的かつ対等に受け入れられました。アメリカでは市民活動が社会にしっかり根づいていると実感し、自分もその中に飛び込んでみたくなり、2年半ほど米国のNPOでボランティア活動に従事しました。

 最初はテキサス州でホームレスシェルターに住み込み、給仕やホームレスと一緒に生活しながらのボランティア活動。そこで出会う人々からは非暴力不服従運動から貧困をもたらす構造問題など、様々な刺激を受け、社会を根本的に変えるには政治に働きかける必要があると思い、中央政府があってNGOも集まっているワシントンDCに移りました。ワシントンDCでは、先進国と途上国間の経済格差の問題(いわゆる南北問題)に取り組む団体、センター・フォー・エコノミック・ジャスティスで、世界銀行の様々な問題(途上国での構造調整、債務の問題、環境・社会影響の深刻な開発)に取り組むグローバルサウスの市民に連帯する活動のひとつとして、世銀の債権ボイコット運動に取り組みました。(http://www.econjustice.net/wbbb/、今は閉鎖)。その頃、FoEの開発金融と環境プログラムのディレクター(当時)だった松本郁子さんに会い、そのご縁でFoEに入ることになりました。

深草:FoEにいらっしゃった当時、ロシアの巨大ガス開発に関するキャンペーンに携わっていたと聞いています。どんなプロジェクトでしたか?

村上:FoEに入ってすぐに担当となったのが、サハリン2石油・天然ガス開発です。サハリンは、生物多様性豊かな寒冷地の島です。この事業は絶滅危惧種のニシコククジラの唯一の餌場付近に掘削リグを設置したり、島の北東部からサケの遡上する河川を含む1000本以上の河川をパイプラインで横断したり、南部のアニワ湾という浅瀬の生態系豊かな湾岸にプラントと港湾施設をつくり、石油と天然ガスをタンカーで輸送するという大規模なものでした。

写真:2005年12月、サハリン北東部ナビリ湾で先住民族の漁師の人たちと

 開発企業には日本企業(三井物産・三菱商事)が入り、公的融資機関として欧州復興開発銀行(EBRD)などとともに国際協力銀行(JBIC)が融資を検討していました。石油やガスの大半が日本に輸出されるといった日本の開発側での関与の他に、タンカーからの油流出事故による北海道の沿岸地域や漁業への影響、日本との間を行き来する渡り鳥や海洋生物の生息地への開発影響など、日本自体が影響を受ける側にもなるプロジェクトということで、FoE Japanは現地や海外のNGOと協力して行う国際キャンペーンと同時に、北海道の漁業者や油防除の専門家、野生生物の研究者やNPOと協力して行う国内キャンペーンの二つの運動を展開しました。1997年のナホトカ号の油流出事故の記憶も新しい頃だったので、日本でもサハリン開発の危険性がリアルに受けとめられていたのだと思います。

そういえば、漁業者の意見を聞きたくて、北海道のオホーツク海沿岸の漁協を端から順に訪ねて行ったこともありました。みなさん情報を必要としているけれど、ロシアの情報はほとんど入らない。FoE Japanはロシア語から英語になった情報を日本語に訳して伝えることができたので、突然の訪問でも歓迎されたのを覚えています。

深草:ロシア語の情報も翻訳して伝えていたんですね。どのようなところに一番苦労しましたか?

村上:活動で苦労したのは、どのキャンペーンも様々な団体や専門家が関わっていて、両方のコーディネートをするのが大変だったこと、また、私自身思いはあるものの、アドボカシー(政策提言)活動を行うに足る知識も経験もなかったため、霞が関用語(官僚が使う言葉)などもさっぱりわからず、次にどのような手を打つのかといった戦略も立てられず、とにかく未熟だったことでしょうか。ただその分、国内外のキャンペーンに関わった方々からいろんなことを教えてもらったことが今の自分の財産ですね

深草:アドボカシーといえば、今も石炭火力や様々な開発案件でJBICとやり取りすることがあります。サハリン2については、JBICでステークホルダーとの意見交換会が行われるなど、今とは少し違う対応が見られたようですが、どんな経緯だったのですか?

村上:ステークホルダーを広く集めてのJBICとの意見交換の場(環境関連フォーラム)が実施できたのは、JBICが2003年に施行された環境社会配慮ガイドラインを策定する過程で、JBIC内にもステークホルダーの意見を聞くことがグローバルスタンダードだという認識ができつつあったことが背景にあると思います。また、日本に影響がある開発だったので、JBICとしてもこうした場を通して、海上保安庁などを巻き込んで、必要な体制を構築する流れをつくりたかったのかもしれません。ただ、開発による環境社会問題が大きすぎて、そこまで議論が及ばず、ただかみ合わない場になりました。JBICはとにかく早く切り上げたい、NGO側は説明責任を果たせとなり…。すぐに公開されるはずだった環境影響評価(EIA)の補遺版が出ず、融資審査も長引き、結局13回(東京と札幌合わせて)も開催されました。せっかくの場でしたが、ステークホルダーとの対話という面で、後につながるものにならなかったことは心残りです。

 結局、サハリン2第二期工事期間中、次々と開発問題が明るみとなり、それも一要因となって、公的資金の融資を検討していた欧州復興開発銀行と米・英の公的機関が融資から撤退しました。しかしJBICは融資要請から5年後の2008年に37億ドルの融資を実施。日本が国際的な環境NGOから「金融機関が最低限の環境・社会政策を維持するために行ってきた努力を著しく傷つける決定だ」と強く批判されたプロジェクトとなりました。キャンペーンに日本側で関わった者としては、敗北感を感じました。ちょうど中国などの新興国の国外での開発問題が懸念され始めていた頃だったのですが、「日本はアジアで環境面でのリーダーにはなれない」ことを実感した瞬間でした。

深草:私たちは今でも同じような構造の問題に取り組んでいると思うのですが、今と昔、違いはあるでしょうか。

村上:私がFoEに勤務していた頃(2004~2007)は、日本の国際金融機関への拠出金も多く、国際的な環境問題において、よくも悪くもそれなりの存在感や影響力があったように思います。でも今はグローバル社会のプレーヤーが大きく変わり、かつての先進国がOECDなどの枠組みなどを通して作り上げてきた環境基準や行動規範が通用しなくなっているのではないかと思います。日本は特に原発事故以降、国内で抱えている問題が深刻過ぎて、グローバルな視点で物事を見るのがますます難しくなっている一方で、IT、AIなどの技術もあいまって、世界はどんどん小さく密になっているように感じます。国際環境NGOとしても、活動の焦点を絞るのはとても難しい時代だと思います。

深草:今の時代、どのような活動が可能なのか、もしくは求められているのだと思いますか?

村上:これまでのどおりの経済活動(ビジネス)をしていたら、もはや自然環境は守れず、野生生物はおろか人類、つまりは地球上の生物の存続の危機に直面しているという認識は必要だと思います。しかしその分、新しい生き方、生活のあり方、人と自然の関係性をつくりだしてゆける「転換の時代」にきているとも思います。過去の常識や、既存の法律や制度などにしばられず、あたらしい発想を持つ若者が、クリエイティブで挑戦的かつ根源的な活動をし、大人・シニアはそれを支えていければいいなと思います。

深草:FoE40周年を受けて何かメッセージはありますか?

村上:FoEの活動をいつもまぶしく見ています。いま、FoEで若手が育っていることにも期待しています。FoEは以前から被害者に寄り添った活動をしていて、その知見や経験が福島原発事故の対応でも活かされたと思っています。FoEの活動をみて、自分もその一部に関われたことをうれしく思うし、これからもともにがんばりたいと思います。

深草:ありがとうございました。

サハリンⅡ石油・天然ガス開発
サハリンの北東部の2鉱床で、オホーツク海の海底に埋蔵する石油とガスを掘削し、800kmに及ぶパイプラインを通してサハリン南部まで運ぶ事業。輸出先は日本向けが約6割、その他に韓国や米国など。1999年から夏季の原油生産を開始し(フェーズ1)、2008年12月には石油の通年生産、2009年春にはガスの生産が開始された(フェーズ2)。

EU科学者団体がバイオマス持続可能性ワーキンググループへ書簡提出ー森林バイオマスはカーボンニュートラルではないと主張

欧州連合(EU)の科学者団体である「European Academies’ Science Advisory Council」、通称EASACが日本のバイオマス持続可能性ワーキンググループに対し、森林バイオマスはカーボンニュートラルではなく、持続可能ではないことを示す書簡を提出いたしました。

現在ヨーロッパでは、再生可能エネルギー源のかなりの部分をバイオマスが占めており、森林バイオマスを「再生可能」エネルギー源と見なす基準が疑問視されています。  EASACは、特に発電における石炭の代替としての森林バイオマスの使用について多くの研究を行ってきました。

書簡では、伐採された木は再び成長するのでバイオマスはカーボンニュートラルだと主張されてきたが、伐採後の森林の再成長に時間がかかり、実際は排出量を増加させること、サプライチェーン(伐採、輸送、乾燥、ペレット化、長距離輸送)における排出量を組み合わせると、バイオマスは、発電量(kWh)当たり、代替する石炭よりも遥かに多くのCO2を排出すること、また炭素会計のルールにおいて、排出量が林業部門で記録されていると想定されるため、燃焼時のバイオマスによる排出量をゼロ評価にすることを許し、それが間違った認識を生んでいることなどが述べられています。

以下、書簡の本文です(日本語仮訳、英語原本はこちら)。


2020年10月22日

森林バイオマス・エネルギーに関する最近の問題とEUにおける科学的議論

バイオマス持続可能性ワーキンググループ委員 各位

経済産業省(METI)の省エネルギー・新エネルギー部は、ヨーロッパの動向に合わせて、日本のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギー(RE)のシェアを拡大することを目指していると伺っております。 その一環として、木質バイオマス原料の持続可能性基準と、風力、太陽光、地熱などの再生可能エネルギー源と比較してバイオマス・エネルギーに与えられる優先順位の再検討も行われていると聞いております。 特に、2030年生物多様性戦略において、「EUで生産されたものであれ輸入されたものであれ、エネルギー生産のための立木、食用および飼料作物の使用を最小限に抑えるべきである」と公約された後、これはヨーロッパで非常に活発に議論されている領域です。 その結果、既存の持続可能性基準と再生可能エネルギー指令が現在再検討されています。 私は、現在議論されている主要な科学的側面、特に欧州アカデミー科学諮問委員会(EASAC)によって導き出された証拠と結論の要約を提供するように求められました。 

バイオマスはヨーロッパの再生可能エネルギー源のかなりの部分を占めており、森林バイオマスを「再生可能」エネルギー源と見なす基準が疑問視されています。  EASACは、特に発電における石炭の代替としての森林バイオマスの使用について多くの研究を行ってきました(参考文献リストを参照)。本文書に要約した結論は、ヨーロッパの28の科学アカデミーすべての総意を示すものです。

再生可能エネルギーの基本的な目的は、全体的な温室効果ガス排出レベルを削減することであると一般的に考えられています。 太陽光と風力では、その運転による温室効果ガス排出量が非常に少ないため、この目的は迅速に達成されます。 しかし、バイオマス・エネルギーの場合、CO2は大量に排出され続け、大気中のCO2レベルと気候への正味の影響を評価するには、関連する炭素の流れを慎重に検討する必要があります。

EASACが精査した広範な科学的研究は、現在の慣行と規制が気候への影響を適切に評価できていないことを示しています。特に、木質ペレットの国際貿易を通じてもたらされる森林バイオマスの大規模な使用は、実際には長期間にわたって排出量を増加させることを発見しました。これは、再生可能エネルギーの目的と相反します。 森林バイオマスが気候変動の緩和に貢献できるという考えは、従来、伐採された木は再び成長するのでバイオマスは「カーボンニュートラル」と見なすことができるという仮定に基づいていました。 しかし、現在では、炭素循環の目に余るほどの過度な単純化であり、関連する相当なタイムラグを無視していると認められています。 したがって、カーボンニュートラルは間違った、誤解を招く概念であり、前提とされるべきではありません。  

木材がよりエネルギー含有量が少ないことと、サプライチェーン(伐採、輸送、乾燥、ペレット化、長距離輸送)における排出量を組み合わせると、バイオマスは、発電量(kWh)当たり、代替する石炭よりも遥かに多くのCO2を排出することを多くの研究が示しています。したがって、発電所で化石燃料からバイオマスに切り替えることによる初期影響は、大気への正味排出量を増やすことです。 伐採後のバイオマスの想定される再成長がこの初期増加を相殺できるようになる前に、かなりの「タイムラグ」(炭素回収期間)があります。  したがって、気候への初期影響は、再生可能エネルギーに期待されるものとは正反対です。

この逆効果が多くの規制当局にとって明らかでない理由は、炭素会計のルールにあります。 ルールでは、排出量が林業部門で記録されていると想定されるため、燃焼時のバイオマスによる排出量をゼロ評価にすることを許します。 したがって、IPCCが認めているように、現在の気候への排出量に関する会計ルールは、誤った印象を与えます。  気候への影響を適切に評価するには、サプライチェーン上のすべての排出量と森林の炭素蓄積量の変化を記録する完全なライフサイクルアセスメントが不可欠です。 

したがって、適切な炭素会計は、バイオマスの気候への影響を評価するための極めて重要な要素です。それにより、初期の炭素負債と炭素回収期間を計算できます。 これは、いかなる「持続可能性」基準においても基本的な要素であるべきです。 ヨーロッパで活発に議論されているのは、気温上昇を1.5〜2度に抑制するというパリ協定に基づく約束と両立する回収期間の長さです。 現在、世界の気温が1.5度目標に近づいているので、短い回収期間(10年未満)に限り、加盟国のパリ協定の約束に合致すると見なすことができるとEASACは主張します。したがって、より長い回収期間を伴うバイオマスの使用は、補助金を支給されたり、「再生可能」と見なされたりするべきではありません。

これらの論点は、査読付き雑誌「Global Change Biology-Bioenergy」に掲載された私たちの論文に述べられています。その中で、EU 15か国の科学者らが「過剰な排出量は、パリ協定に定められた目的に準拠するために排出量を削減することの緊急性と両立しない」と主張しています。 日本の政策目標もパリ協定の目標を達成することですので、政策の最良の基盤として、科学に基づくライフサイクルCO2会計を使用することが極めて重要であることに注目しています。 

最後に強調したい点は、EUの規制(および他の規制)において、原料の性質、そして合法、違法、または「持続可能」かどうかに関する規則が策定されたことです。しかしながら、これは気候の観点からすれば、関係ないことです。 CO2の増加による大気への影響は、炭素がどこから来たとしても同じであるため、そのような基準は、排出量の適切な計算の代わりにはなりません。 国家がバイオマスにより気候変動の緩和に真に貢献することを望むなら、完全なライフサイクル会計を義務付けるとともに、補助金は回収期間が短い案件に限定しなければなりません。これを適用した場合、本論文は、気候に適した森林バイオマスは、地元で供給される既存の森林経営からの残さに限定されるであろうことを強く示しています。

上記の論点でEUの議論を説明しましたが、各国のバイオマス・エネルギー政策も審査中です。 英国は、持続可能性基準においてサプライチェーンからの許容排出量を大幅に削減しました(参照:「再生可能エネルギー義務:持続可能性基準」https://www.ofgem.gov.uk/system/files/docs/2018/04/ro_sustainability_criteria.pdf)。  オランダ社会経済評議会は、バイオマスの燃焼は持続可能ではなく、最小限に抑えるべきと結論付けました(https://www.euractiv.com/section/energy/news/the-dutch-have-decided-burning-biomass-is-not-sustainable/)。スロベニアでは、バイオマス・エネルギーの使用は森林残さに厳しく限定されており、デンマークとスウェーデンでも活発な議論が行われています。

上記のヨーロッパにおける重要な問題の要約がお役に立てば幸いです。さらに情報が必要でしたら、いつでもご提供いたします。

敬具

参考文献

関連情報)
バイオマス発電をめぐる要請書提出ー環境負荷が大きい事業はFIT対象外に
https://www.foejapan.org/forest/biofuel/200714.html

日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(11)

第五回 国富町大字木脇(その3)

 2020年9月25日、最高裁第2小法廷(岡村和美裁判長)は、宮崎県国富町の民有林のスギを無断で伐採、盗んだとして森林法違反(森林窃盗)の罪に問われた「黒木林産」社長、黒木達也被告の上告を棄却しました。懲役1年、執行猶予4年とした一審、二審の判決が確定しました。2020年1月の一審宮崎地裁判決によると、被告は2018年9月、スギ20本を従業員に伐採させ盗みました。被告は「誤伐」と無罪主張していましたが、二審福岡高裁宮崎支部判決も一審判決を支持していました*1
 今後は、有罪判決を受けた伐採業者が受けていた補助金について、国、自治体がどのような判断を下すのか、注目です。

 今回も、前回に引き続き、「黒木林産」の被害に遭った高野恭司さんの事例を紹介します。
※なお、今回も被害当事者の高野恭司さんのご了承を得て、実名で記述しております。

ついに「黒木林産」社長、黒木達也容疑者逮捕
 2019(R1)年7月11日、ついに黒木林産社長、黒木達也容疑者が逮捕されました。報道によれば、宮崎県内では初めての素材生産業者の逮捕で、また同社は宮崎県造林素材生産事業協同組合連合会(県素連)の「合法木材供給事業者」に認定され、2016(H28)年度日向市森林整備加速化・林業再生事業(基金)の補助金約1,400万円も受けていました*2。さらに8月5日、黒木容疑者は高野さんの被害林地に隣接するTさんの所有林地のスギ13本を伐採して盗んだとして、森林法違反(森林窃盗)の疑いで再逮捕されました*3。Tさんも宮崎県盗伐被害者の会会員です。

“誠実”という言葉のかけらも感じられない被告と弁護人
 冒頭の説明のとおり、黒木被告の審理は最高裁にまで持ち込まれましたが、最終的に上告棄却となり、執行猶予は付いていますが有罪となりました。伐採業者の有罪判決は宮崎県内では初めてのことです。以下に、黒木被告の審理の経過を整理します。

公判日内容など
一審:宮崎地裁
初公判
(2019(R1)/9/27)
「(他人が所有する木と)知らずに伐採した。窃盗はしていない」と起訴内容を否認、無罪を主張*4
第二回公判
(10/18)
2018(H30)年9月7日、高野さんも同行した高岡警察の現場検証のとき、作業中の黒木被告は手元に地図を持っていたが、公判では「地図は持っていなかった」と発言。
第三回公判
(10/28)
過去20年で約10件の無断伐採が発覚。それについて「誤伐の場合、地権者に相場の2倍を支払うなどした」と説明。誤伐対策をしなかった理由は「経験に基づき、勘に頼って作業する。いちいち図面を見ることはない」*5
第四回公判
(12/13)
論告求刑
第五回公判
判決(2020/1/27)
(2020(R2)年1月27日) 懲役1年、執行猶予4年(求刑懲役1年6月)の有罪判決。裁判官は、被告が事件の約2カ月前、仲介業者から売買契約が未締結であるとの説明を受けていたと認定し、『仲介業者の説明を「失念していた」との被告の供述は、不自然不合理で信用できない』と無罪の主張を退けた。被告は即日控訴*6
二審:福岡高裁宮崎支部
初公判
(4/16)
弁護側は無罪を主張し、検察側は控訴棄却を求めて結審*7
第二回公判
判決(6/18)
懲役1年、執行猶予4年とした一審判決を支持し、控訴を棄却。弁護側は即日上告*8
三審:最高裁
9/25上告棄却*9

(出所)各紙の報道を参考に筆者作成

 高野さんは、被害を受けた後、最初は黒木被告を許してやろうか、と思った時期もあったそうです。被害届が受理されてから黒木被告逮捕までに約半年を要し、前回紹介したとおり各種報道機関から事件が報道されたものの、被害規模は再逮捕後で「20本」、「そんな程度?」との声もささやかれ、県議会の議論でも盗伐業者を擁護するような発言があるような中で、被害者が「被害」を訴え続けることが簡単でない「空気」というか「雰囲気」があったことは、容易に想像がつくところです。
 ところが「黒木は嘘ばかりつく」。裁判における被告や弁護人の主張や態度、受け答えを聞いていて、そうした感覚は一切なくなりました。第四回公判の論告求刑の際、最後に裁判長が黒木被告に発言を求めたとき、被告は「泥棒はしていない。高野さんらには申し訳ない」と、初公判から第四回目で初めて謝罪の言葉があったそうです。高野さんはこの発言について一言、「遅い」。

 ようやく上告棄却により刑が確定したため、今後、高野さんとしては民事での損害賠償を黒木達也被告に求めていくことも検討しているそうです。

被害林地のその後: 台風による二次被害
 2018(H30)年9月初旬に盗伐された林地は、9月30日の台風24号の豪雨によって土砂崩れを起こしました。その土砂と林地残材は不運にも被害エリアに隣接する高野さんの水田にも及びました。盗伐への対応もあり、水田はその後しばらく放置されていましたが、田植えの時期を控え、隣接する水田を所有する農家などからの依頼もあり、高野さんは木脇土地改良区にも相談し、国富町役場が音頭を取る形で2019(R1)年4月20日、地域の公民館にて黒木林産を交えた話し合いが持たれました。その結果、黒木林産が土砂をせき止める土留めの設置と残材の撤去を60万円で引き受けることとなりました。支払いは崩れた林地の所有者と木脇土地改良区とで折半となりました。
 高野さんの水田については、2019年は結局使用できず、「今年(2020年)はやろう」と仕事帰りに田んぼに通い、復旧に着手したのですが、スギの伐根や残材などが水田に埋まっていて、その撤去と焼却にしばらくかかったそうです。

最後に
 今回の国富町木脇の盗伐被害現場は、その後、隣接する水田への影響はないながらも、豪雨のたびに土砂が崩れ、元の状態に戻すには相当なコストを要する状態です。
 高野さんは、黒木林産の盗伐行為に関して「大胆不敵、そしてめちゃくちゃな伐り方。あんなところを伐るとは。急斜面で山のプロならずれるのがわかるだろう」と、プロの仕事とは思えない行為に、ある意味驚いています。また、人の良い老人を騙す「ごめんなさい詐欺」ともいえる盗伐行為は「絶対に許せない」と憤ります。「盗伐業者らは、高齢者を完全になめており、『“ごめんなさい”と詫びて、わずかなお金をつかませればだいたいは大丈夫』、と考えていて、今回の事件についてもまさか被害者が警察を呼ぶとは思っていなかっただろう」。
 こうした状況を打破するためには、「警察がこれまで盗伐を繰り返してきた業者すべてを一覧にして公表し、反省させるべきであり、業者らはきちんと罪を償ってほしい」と高野さんは考えています。
 
 なお、今回の現場でさらに驚かされることとして、黒木林産が伐採した約5[ha]のすぐ奥で、ほぼ同面積の伐採が別の業者、H林業によって行われていることです。このH林業とは、本ブログ「第二回宮崎市高岡町花見字山口」で紹介した川越静子さんの盗伐事件の犯人です。H林業が伐採したエリアについて、今のところ声を上げる被害者は特定されていないため、「盗伐」と断定することはできません。しかし今回の黒木林産が伐採した5[ha]が30筆もの小さな林地の集合体であったことからも、H林業の伐採地も、多くの筆数からなる林地だと推察され、それらすべての所有者が適切な手続きを経てH林業に立木を売却したとは考えにくいです。

 ’90年代前半から続く、スギ丸太生産量日本一の宮崎県。その陰で盗伐被害に遭い、そして泣き寝入りを強いられてきた森林所有者は相当な数だと考えられます。その全貌が明らかになるよう、引き続きこの根深い「盗伐」問題に取り組んでいきます。(三柴淳一)

*1 毎日新聞2020年10月4日 地域面
*2 旬刊宮崎1670号(2019(令和元)年10月5日), 1面
*3 宮崎日日新聞2020年8月6日 紙面
*4 宮崎日日新聞2019年9月28日 社会面 27ページ
*5 宮崎日日新聞2019年10月29日 社会面 25ページ
*6 宮崎日日新聞2020年1月28日 社会面 27ページ
*7 宮崎日日新聞2020年4月17日 紙面
*8 宮崎日日新聞2020年6月19日 紙面
*9 *1に同じ

第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その1)
第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その2)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その1)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その1)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その3)
第四回 宮崎市田野町字荷物取地乙
第五回 国富町大字木脇(その1)
第五回 国富町大字木脇(その2)
第五回 国富町大字木脇(その3)

【横須賀石炭訴訟報告 vol.5】訴訟はターニングポイントへ。次回から本案審理開始。

10月14日、第5回期日が実施されました。前回に引き続き、新型コロナウイルス感染拡大予防の観点から、傍聴人数を制限しての開催でした。

今回の裁判では、前半に原告代理人からの主張があった後、後半は裁判長より今後の裁判の方針についての話がありました。

第5回の裁判の内容の結論から言うと、過去4回の期日を通じて議論されていた原告適格や訴訟要件の議論と並行し、次回の第6回期日から、本案の審理に進むこととなりました。本案審理に進むにあたり、裁判長は被告である経済産業省に対し、原告が今まで提出してきた書類への反論準備を、次次回期日(5月17日予定)までにするようにとの指示をしました。

原告適格や訴訟要件の議論と並行してではありますが、本案の審理が開始されるということは、次のステップに進むことなったといえます。

以下、裁判での原告主張は下記の通りです。今回、原告代理人からの主張は、浅岡弁護士より(1)環境アセスメントにおける地球温暖化の影響の評価について、小島弁護士より(2)温室効果ガス排出による漁業者への影響についての二点ありました。

環境アセスメントにおける地球温暖化の影響の評価について

浅岡弁護士は、CO2の排出累積量と気温上昇の推移の関連性を示しながら、CO2と温暖化の関連性を改めて示した上で、地球温暖化に伴う気象災害リスクや熱中症被害の増加の危険性があり、温暖化は命や生活を脅かすものであることを強調されました。そして、環境基本法では、人の健康や生活環境が守られ、良好な状態に保持されることが規定されている(第14条1号)ことに言及しながら、生命・生活環境は環境影響評価法において確保すべき目標であり、CO2増加に起因する気候変動による影響は、命や生活環境の保全に支障をきたすものであるにもかかわらず、温暖化の影響が横須賀石炭火力建設にあたっての環境アセスメントで評価されていないと主張されました。

漁業者への影響について

小島弁護士は今回の環境アセスメントが始まる2016年以前に、すでに漁業と気候変動の影響に関する調査報告が中央環境審議会や農林水産省より公表されていることを指摘しました。

小島弁護士によれば、様々な調査の結果、一番大きい影響を受けているのはブリやサワラ、スルメイカといった回遊魚だそうで、すでにブリの分布域が北方面に移動していること、スルメイカの漁獲高が2000年代には1980年代と比較して95%減となっていると報告されました。そして将来の予測として、サンマの体重が減り漁期の遅れること、サケの生息域の減少し、2050年にはオホーツク海でもサケの適温水域が消失する可能性があることをあげられました。

養殖業にも大きな影響を与えているようで、帆立や牡蠣にも影響がすでに出ているほか、特に海面養殖業の中で漁獲高第一位の海苔については、神奈川県の海苔の8割を生産する横須賀走水でも生産量が急激に減っていることを述べました(横須賀走水の海苔養殖漁師の話はこちら)。

「今は当たり前のようにおにぎりに海苔を巻いているが、このままだと海苔が高級品になり、その当たり前がなくなっていく」と、身近な食事に照らし合わせて温暖化の漁業への影響を話されたのは印象的でした。

また、神奈川県近海には、高級魚であるマコガレイやアワビの漁獲高も激減っていることも、神奈川県水産技術センター等の調査で判明しているそうです。

その上で、今回の環境アセスメントについては、このような漁業者の手段ともなっていたマコガレイやアワビなど、特定種の生態調査が実施されていない点を指摘し、アセスメントの内容の不十分性を主張しました。

閉廷後、小規模ながら今回の裁判の報告会を実施しました。報告会の中で、弁護団長の小島弁護士は、裁判長の本案審理を開始するという発言について、「世界や大きな変化と世論の盛り上がり、前回の裁判での傍聴席からの圧力を感じたのではないか」とコメントされました。

本案審理が始まる一方、反論準備のために被告に与えられた時間は半年以上と長く、気候危機のタイムリミットを考えるとあまりに悠長であり、歯痒く感じます。

被告である国の反論について、来年1月には神戸石炭火力行政訴訟の結審が予定されており、ここでの被告の反論が今後の横須賀石炭訴訟でも参考になるかもしれません。

次回期日は2021年1月22日(金)14:00から、東京地方裁判所で実施の予定です。

今回の裁判は、横須賀訴訟原告団による地道な漁業者への聞き取り、全国各地で広がる気候変動対策の強化を求める運動、そして裁判の傍聴に参加されてきた皆様や弁護団の熱意が、裁判長の判断につながったものと考えます。

本案審理が始まるからこそ、FoE Japan は引き続き、よりいっそうの世論を盛り上げに注力し、多くの市民の関心をこの裁判に集めていきたいと思います。

(高橋英恵)

*横須賀石炭火力事業についてはこちら:https://www.foejapan.org/climate/nocoal/yokosuka.html

*横須賀石炭火力訴訟についてはこちら:https://yokosukaclimatecase.jp/

*この裁判を応援してくださるサポーターを募集しています!詳細はこちら:https://yokosukaclimatecase.jp/support_us/

*日本の石炭火力問題について、2030年に石炭火力ゼロを目指すキャンペーン「Japan Beyond Coal」が2020年9月29日始まりました。石炭火力発電の問題点や気候変動との関係がまとめられています。ぜひご覧ください。

Japan Beyond Coalはこちら:https://beyond-coal.jp/

「木質ペレットをFITの対象とすべきではない」17の米国環境団体が日本政府にレター

米国の17のNGOが、経済産業省 (METI)、林野庁などに対して、木質ペレットをFITの対象から外すよう求める書簡を提出しました。

書簡では、アメリカ南部において、天然林を伐採して木質ペレットが生産されていることを指摘。「森林は木や土壌に膨大な量の炭素を貯蔵し、洪水や嵐といった災害の影響からコミュニティを守っている」として、CO2排出量の削減、生物の生息地保護、洪水調整機能の維持のためには、森林を保全するべきであり、木質ペレットを利用するバイオマスを対象から除外しなければならないと主張しています。

アメリカ南部では、木質ペレットの生産のために、端材ではなく、樹木全体が使われたり、天然林が皆伐されたりする状況が報告されています。エンビバ・パートナーズLP社がノースカロライナ州におけるペレット製造工場の原料を得るため、ロアノーク川流域の樹齢100年以上の貴重な湿地広葉樹林の皆伐を行っていることがたびたび報道されてきました。これらの湿地林は、河川の沖積地に発達し、生物多様性に富む森林であるとともに、洪水制御、炭素の貯留といった意味でも重要な意味をもちます。

書簡に署名したDogwood Alliance(ドッグウッド・アライアンス)のキャンペーンディレクターのリタ・フロストさんは、「気候変動に真剣に取り組むのなら、森林を燃料として燃やすことは奨励できない。日本政府にとって、本来は森林、気候、コミュニティを保護するはずである『再生可能エネルギー』の定義から木質ペレットバイオマスを除外するよい機会ではないでしょうか。」とコメントしています。

現在、日本は主として、ベトナム、カナダなどから木質ペレットを輸入していますが、大手商社がアメリカの大手バイオマス企業エンビバ・パートナーLP社と大口の長期契約を結んでおり、今後、アメリカからの木質ペレットの輸入が急増するのではないかとみられています。

以下にレターの本文を掲載します。


2020年9月30日

経済産業大臣 梶山弘志 様
林野庁長官 本郷 浩二 様
バイオマス持続可能性ワーキンググループ委員 各位

私たち、日本の新たな木質ペレットバイオマス市場の供給地である米国の17のNGOは、森林由来の木質ペレットバイオマスを「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」から除外し、森林を燃料とする再生可能エネルギーへの直接的・間接的な補助金を廃止するよう日本政府に求めます。私たちは、世界最大の木質ペレット生産地である地域にくらし、その生産と消費が気候、森林、コミュニティに悪影響を及ぼすことを見てきました。木質ペレットのバイオマスを「再生可能エネルギー」の名の下で生産消費することはグリーンウォッシュに他なりません。
米国南部はエンビバ・パートナーズ社の木質ペレット生産の主要な原料供給地であり、同社はFIT制度のインセンティブにより住友商事を含む日本企業に木質ペレットを大量に供給しています。Dogwood Alliance(ドッグウッド・アライアンス)の現地調査は、木質ペレットバイオマス産業がペレットを天然林から調達している様子を詳細に描きだしました。多くの現地調査により、エンビバ社がペレット製造のために、丸太全体を利用するとともに、天然林の伐採に関わっていることを明らかにしました 。これは、エンビバ社が事業を展開している地域において責任ある行動をとることができていないことを示しています。持続可能性の保証を与えられたことにより、グリーンウォッシュをしているのです。
エンビバ社の工場の多くはノースカロライナ州で操業しています。ノースカロライナ州政府は最近、独自のクリーンエネルギー計画の中で、ノースカロライナ州の森林を外国市場で大規模に利用することは「国内・国際的なレベルで再検討されるべきだ」と述べており、公式文書では、木質ペレット産業が伐採、加工、輸送を通じて同州の炭素排出量を増加させていることを明確に認めています 。ノースカロライナ州のこれらの発言は、バイオマスエネルギーの生産と消費は有害であり、将来的には州がバイオマスエネルギー施設の操業を制限する措置を取る可能性があるということを示しています。
木質ペレットの生産と消費による炭素排出についても深刻な懸念があります。木質ペレットバイオマスは炭素排出量が大きいため、気候変動への効果的な緩和策にはならない、という科学的なコンセンサスが形成されてきています。したがって、再生可能エネルギーの目標を達成するために木質ペレットをバイオマス発電に利用することには大きなリスクがあると言えます。科学者は、木材の原料(パルプ、全木等)に関係なく、木材を使ってペレットを製造すると、数十年から数世紀にわたって大気中の炭素が増加すると示しています。

木質ペレットバイオマス産業は、すでに森林資源が過剰に利用されている地域にさらなる負荷を与えています。米国南部の森林面積は世界全体のわずか2%にすぎませんが、世界の丸太の12%、パルプ・紙製品の19%を生産しています 。言い換えれば、米国南部の木材製品産業は、世界のどの森林よりも生産性が高いということになります。米国南部における工業規模の木質ペレットバイオマス生産は、木質ペレットが低品質の木材製品であるために、より多くの森林伐採を引き起こしています。かつては経済的価値のなかった森林が、木質ペレット産業の急成長によって伐採され、利益を生むようになったのです。
米国南部の森林は、南米の熱帯雨林が伐採される速度の4倍ものスピードで伐採されています。さらに、木質ペレットのために皆伐が行われることは、従来の伐採方法よりもはるかに多くの木質繊維の除去をもたらします。これは、炭素貯蔵や、生態系サービス、および野生生物にさらなる悪影響を及ぼします。
エンビバ社が主導する木質ペレットバイオマス産業は、洪水などの気候変動影響に対するレリジリエンスへの影響だけでなく、大気や水質などコミュニティ全体に直接の影響を及ぼします。研究によると、木質ペレットバイオマス産業は、何百万トンもの温室効果ガスの排出に繋がるだけでなく、喘息や心臓発作を引き起こす可能性のある何トンもの粉塵や、発癌物質やスモッグを形成する汚染物質も排出しています 。このような影響は、主に非白人人口が多く、貧困レベルの中央値を超えているコミュニティで起きています 。工場から1~3 km以内に住む地域住民は、日々目に見える形のチリや埃に覆われて生活しているのです。
米国南部の森林は、樹木や土壌に大量の炭素を蓄積し、洪水や嵐といった災害の影響からコミュニティを守っており、気候変動対策に重要な役割を果たしています。気候変動に関連した大規模な洪水は、何年にもわたって甚大な被害をもたらしており、その経済コストは数百億ドルに上ると推定されています。 エンビバ社のような木質ペレット企業がクリーンエア法(大気浄化法)のガイドラインや規則に従わないで操業を続けた場合、このような気候変動の影響はさらに増幅します。 生きた森林を手付かずのままに残すことで、天然の洪水対策になるのです。
日本政府の目標が発電における温室効果ガスの削減であるなら、再生可能エネルギーとして木質ペレットを使用することは目的に合いません。木質ペレットバイオマスによる排出を米国の土地利用・土地利用変化及び林業(LULUCF)部門の「責任」と仮定するのは難しいでしょう。なぜなら、米国はパリ協定を採択しようとしていないし、京都議定書の締約国でもないからです。したがって、米国は日本で発電に使用される木質ペレットバイオマスからのLULUCF排出量を国際的に計上しないことになります。そうなれば、木質ペレットバイオマスによる排出量がどこの会計にも計上されないということになるのです。温室効果ガスの排出を削減しようとするならば、このような重大な抜け穴に頼るべきではありません。実際、温室効果ガスは大気中に排出されており、文書上だけから消えてしまっているのです。気候変動に関する政府間パネル (IPCC) は、科学者や市民とともに、木質ペレットのバイオマスをカーボンニュートラルとして計算することについて、「バイオエネルギーのためのバイオマスの生産と利用は、土地劣化のリスク、温室効果ガス排出、およびその他の環境開発目標について、マイナスの影響を与えうる。」と警告しました。
我々は、日本政府が気候変動の解決策を模索していることを称賛いたします。しかし、私たちが住むコミュニティのすぐそばで行われている木質ペレット産業を目撃する中で、森林を燃料として燃やすことを促進する政策は間違っているとわかりました。電気のために木を燃やすと大気中により多くの炭素が放出されます。つまりクリーンエネルギーへの道を進むのではなく、後退していくことになります。我々は、日本に対し、再生可能エネルギーの定義及び「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」から木質ペレット森林系バイオマスを除外することを求めます。

賛同団体:

Dogwood Alliance
Natural Resources Defense Council
John Muir Project
Center for Biological Diversity
Southern Forests Conservation Coalition
Earth Action, Inc.
Environmental Protection Information Center
Wild Heritage
Fern
Pivot Point
Partnership for Policy Integrity
North Carolina Climate Justice Collective
350 Triangle
Clean Air Carolina
Restore: The North Woods
Coastal Plain Conservation Group
Spruill Farm Conservation Project

関連情報)
バイオマス発電をめぐる要請書提出ー環境負荷が大きい事業はFIT対象外に
https://www.foejapan.org/forest/biofuel/200714.html