市街地のLNG事業計画を止めた市民の力!

2024年3月、静岡県静岡市清水区(旧清水市)に、清水港で計画されていた液化天然ガス(LNG)火力事業を止めた市民のお話を伺いに行きました。気候危機が深刻になる中、社会全体の脱炭素化が急がれ、LNGを含む全ての化石燃料からの脱却が必要だと認識されています。昨年の国連の気候変動に関する会議(COP28)でも、「化石燃料からの脱却」が合意されました。ここ数年、石炭火力発電によるCO2排出量が問題視され、国内外で「脱石炭火力」が進んでいますが、LNGの問題についてはそこまで知られていません。ですが、世界が脱化石燃料に合意する前から、日本ではLNGをめぐる力強い市民運動が展開されていたのです。

JR清水駅から見える、富士山と長年使用されていないガスタンク

当時の反対運動の活動の様子を、運動に参加していた清水区在住の皆さんにお伺いしました。清水区は元々、工業都市であり市民運動が熱心な地域であったそうです。その大きなきっかけとなったのが、工場からの煙などにより喘息に苦しんでいた地域の子ども達を救おうと、いつも動いていた地元の小児科、乾先生の呼びかけだそうです。彼の熱意、そして自分が生まれ育った場所で安全安心に暮らしたい、という思いから皆さんは反対運動に参加されていたご様子でした。

清水天然ガス発電所(仮称)事業に対する反対運動について話してくださった皆さん

地道に。大切なのは人数じゃなくて、いかに真剣に取り組むか

反対運動では、約3年もの間、デモ、ビラ配り、ポスティング、署名など様々な活動をされていたそうです。まず皆さんが始めたのは、「市民の学習会」ということで、寺子屋のような場所を毎週水曜日に開催し、清水港LNGに関する様々な知識を深められていたそうです。毎回講師を担当する住民を変え、それぞれが学んだものを伝えていくという形式で進められていました。この寺子屋では「子どもを守るmamaの会」というグループも形成されるなど、地域に住んでいる多様なグループが、それぞれの住民の立場から参加していたとおっしゃっていました。面白かったのが、「ウメノキゴケ」のお話です。ウメノキゴケは自然の環境指標とも呼ばれているらしく、木にこのコケが多く生えている時は大気が綺麗な状態、あまり生えていない時は大気が汚染されている状態だと言います。このように、日常の風景からも環境汚染がどのくらい深刻なのかを測ることができる知恵を、寺子屋などで皆さんで共有していたそうです。

他にも、JR清水駅からほど近いマンションにおいては、予定されていた火力発電の煙突と、住居の窓の高さが同じということで、出てきた煙が直接窓から部屋に入ってくるのではないかと心配する住民の声もあったそうです。そこで、マンションの住民も一体となり、一つのグループとして反対運動に参加していたそうです。実際に反対運動の中心メンバーを自宅に招き、どれほど発電所がマンションから近く危険性が高いのかを、窓から見せる住民もいたそうです。環境評価が甘いのではないか、というのが近隣住民、清水区民の考えでした。また、実際に現在稼働している三重県の川越LNG施設にバスを出し見学に行かれたそうです。清水での計画とは違い、住宅地から十分度離れた場所に発電所があり、そして塀が高く緊急時の対策もしっかりと取られていたそうです。「電気は必要」であることを前提とはしていますが、やはり街の中心部にLNG火力発電所を造ることには異議を唱える必要があると改めて実感されたそうです。

JR清水駅目の前のマンション

皆さんが反対運動をされていた理由の1つに、災害時のリスクが挙げられます。静岡県は、南海トラフ地震など、巨大な地震がいつ起きてもおかしくないと言われています。さらに清水区に関して言えば、港があり、海に面していることから津波の心配もあります。このようにリスクが高く、大規模な二次被害が避けられない場所であることから、なおさらLNG火力発電所の建設が強く反対されていました。LNG火力はクリーンなエネルギーであるとの説明が企業の方からされていたそうですが、企業側の人間は実際に清水区に住んでいる住人ではありませんでした。誰かの生活や命を脅かす方法で生産される電力が、果たしてクリーンな電力であると言えるのか、という意見を持たれていました。

清水港

皆さんのお話から、いかに市民側が行政への働きかけに力を入れていたのかも実感しました。実際、清水区が属している静岡市の当時の市長、そして静岡県知事が市民の訴えの味方をしたことが、計画中止の大きな力になったことは間違いありません。これも、市民側が学習会を重ねることで、行政側と対等に話し合える環境を作り出すことに成功し、功を奏したのだと思いました。今回お話を伺いに行った際にも、静岡県議会議員の松井さんが顔を出してくださり、政治家と市民との距離の近さを感じました。自分たちよりも若い世代の議員を地元から出し、政治の場に声を届けてもらっているとおっしゃていました。

他の方法では、ENEOSの株を購入し、株主総会の場での質疑応答に何人かで参加されたそうです。皆さんがばらばらに座ることで、指名されて質問権を得られるように工夫をしたと楽しそうに語られていました。

最後に、計画中止が発表された翌日、当初予定されていた反対デモは変更せずに実施されました。中には計画が中止されたことを知らずにデモに参加した方もいたようですが、「ありがとうデモ」と称して200から300人の人々が喜びを分かち合いながら街を歩いたそうです。

今回のお話では、同級生、幼馴染などの清水区内での元々の繋がり、そして区外、県外から清水に移り住んできた人々の、「今」、そして将来の清水のために動いた住民の様子を伺うことができました。世代、属性を超えた人々の、「地域住民」という繋がりのなかで発展していった運動の様子を語る皆さんの目は、とても輝いていました。反対運動では、皆さん楽しく活動をされていたそうです。その「楽しさ」こそが、今回の清水LNG火力発電所計画の中止成功への秘訣だとおっしゃっていました。

(佐藤万優子)

【清水天然ガス発電所(仮称)事業概要】
想定区域の位置:静岡県静岡市清水区
原動力の種類:ガスタービン及び汽力(コンバインドサイクル発電方式)
出力:約170万kW
燃料:天然ガス
事業者:東燃ゼネラル石油株式会社→ENEOS(東燃ゼネラルは2017年4月にJXエネルギーと合併し、JXTGエネルギー株式会社、2020年にENEOS株式会社に商号変更)
経緯:2015年にアセスメントの手続きが開始。元々は現ENEOSが清水港に持つ遊休地で2018年に着工し、22年に運転を始める予定であった。2017年、市民の反対の声を受け、アセスメントの次の段階であった準備書提出を延期、2018年に白紙撤回。

参考:
ー日経新聞「JXTG、静岡市のLNG火力計画の環境アセス延期」2017年9月15日 
ー経済産業省、環境アセスメント情報「清水天然ガス発電所(仮称)建設計画 清水天然ガス発電合同会社
ー清水まちづくり市民の会「まもろう愛しのまちを」2020年(静岡新聞社)

「サクリファイス・ゾーニング」とはーアメリカ・メキシコ湾岸ガス開発現場視察報告(4)

アメリカ南東部に位置するメキシコ湾岸。その名の通り、海岸線はアメリカからメキシコへと伸び、湾を出るとキューバ、そしてカリブ海へと繋がっています。生物多様性豊かなテキサス州やルイジアナ州の沿岸地域は、近年巨大化するハリケーンの影響を顕著にうける地域であり、奴隷貿易や黒人奴隷が使役されていたプランテーションの中心地の一つでもありました。2023年10月末、アメリカのメキシコ湾岸周辺で急速にすすむ液化天然ガス(LNG)事業による地域への影響を知るために、FoEJapanはテキサス州とルイジアナ州を訪ねました。ブログシリーズの第三回目をお届けします。
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「サクリファイス・ゾーニング」とは

 キャメロンを後にした私たちは、ルイジアナ州最大の都市ニューオーリンズに移動し、さらにニューオーリンズから車で1時間弱の場所にあるセントジョンザバプテスト郡にジョー・バナーさんを訪ねました。ジョー・バナーさんは The Descendants Projectというプロジェクトを、双子の姉妹であるジョイ・バナーさんとともに行っている方で、奴隷制度についての歴史を伝えたり、工業化によって破壊される黒人奴隷の埋葬地を守る活動などもされています。

 バナーさんは数百年前にアメリカに連れてこられた黒人奴隷の子孫で、自身の家系についても調査を行っています。またルイジアナの「がん回廊」(ルイジアナ州都バトンルージュからニューオーリンズに至る一帯で、工場からの有害物質の排出によりがん罹患率が高い地域。また黒人が多く住む地域でもある)の住民として、石油化学工場の問題にも取り組んでいます。

写真:ジョー・バナーさん

 1990年代にフォルモサ(台湾の石油化学企業)の工場建設計画が持ち上がった際、ジョーさんの祖父母が住んでいた地域が影響を受けました。バナーさんは「これ」がまた別の形で今も繰り返されていると話します。どういうことなのでしょうか。バナーさんは、彼女たち自身が今直面する危機について話してくれました。

 現在、バナーさんの暮らす地域で穀物を貯蔵するカントリーエレベーター(サイロと穀物搬入用エレベーター、穀物の乾燥施設等を兼ね備えた施設)の建設計画が、住宅地と密接した形で進んでいます。

 建設予定地であるバナーさんの住む地域は、黒人奴隷やプランテーションの歴史を伝える重要な場所です。このように歴史的重要な場所で建設を行うときには、開発による影響を最小限にするための措置が法的に求められています。しかし、事業会社(グリーンフィールドホールディングス)が調査を委託した会社は、歴史的に重要な施設等がこの場所にあるとは考えにくいという報告書を提出。これには意図的な書き換えがあったのではないかという指摘もあります。

 このカントリーエレベーターは自由の女神にも匹敵する高さになる予定で、穀物は燃えやすいために火災のリスクがあることや、周辺地域への騒音などの懸念もあるといいます。(なお、ここから輸出される穀物は中国で主に飼料として使われるとも話していました。)

 バナー姉妹は、建設予定地に黒人奴隷の墓が残されている可能性が高いとして、ルイジアナの裁判所に、建設作業を止めるよう求める裁判を起こしました。バナー姉妹の訴えは認められ勝訴しましたが、事業が完全に止まったわけではないそうです。

写真:カントリーエレベーターの完成予想図。事業計画書等を元に、アーティストに作成を依頼したとのこと。

図:ウィットニープランテーション博物館に屋外展示されていたパネル。建設予定のカントリーエレベーターが自由の女神に匹敵する大きさであることが図示されている。

 バナーさんは奴隷制度の歴史や黒人差別がどのように現在の石油化学産業・LNG開発と結びついているのか話します。

 サクリファイスゾーン(犠牲地域)という言葉があります。

 サクリファイスゾーンとは、工場等の建設・運営に伴い発生する環境破壊や環境汚染が深刻な地域で、人々が健康被害を受けるような地域のことを指します。もしくは、「発展」のために犠牲にされる地域とも言えるでしょう。

 バナーさんは、奴隷制度を調査したり、奴隷制度の歴史に関する保全活動をする中で、今、自分たちに迫っている脅威についても気づいたといいます。奴隷制度に遡のぼると、サトウキビを育てるプランテーションの近くに砂糖製造工場が建設され、そこで働きかつその近くに住んでいた黒人が健康被害に遭っていました。奴隷制が廃止された後も、プランテーションがあった地域に石油化学工場群が集中したのは、川が近く運搬に便利なこと、企業が買収できる土地があったということ、有色人種の人口が多く搾取できる人々がいたということが関係しているとバナーさんは話します。

 バナーさんは、これを「ゾーニング」の問題であるといいます(ゾーニングとは、土地を区分けしてその利用目的を定めたり開発計画を立てたりすること)。バナーさんはゾーニングはサイレント・キラーであるといいます。バナーさんが住んでいる地域は「サクリファイスゾーン」ですが、犠牲的ゾーニング、つまり搾取を可能にさせるゾーニングが行われているのです。ニューオーリンズからバトンルージュの間、まさにがん回廊に当たる地域は、元々奴隷だった人々が解放されて街を作り、栄え、慈悲に溢れた街の運営を行っていました。しかし、黒人は白人と平等に扱われず、黒人の言葉に耳を傾けない政治が続いています。

 バナーさんは、LNG開発も同じパターンの中で起きていると指摘します。

 歴史的に繰り返される脅威と立ち向かうためには、自分のコミュニティの歴史を知ることが重要だと彼女は力説します。歴史、文化について知ることが彼女の戦いで物事を大きく変えたと話しました。

 世界中に、「サクリファイスゾーン」が作られています。人々は不当に大きな環境破壊や人権侵害に苦しみ、それらから回復するための投資や支援、賠償も十分に行われず、そこで搾取された利益は多国籍企業が独占し地域の外に出ていきます。しかしバナーさんがいうように、そういった土地は搾取の構造があって「犠牲にされる地域」として権力者や大企業がゾーニングを行っているのです。犠牲にされた人々は、偶然そこにいたから犠牲になったのではなく、化石資源からの利益を生み出す構造や人種差別の構造の中で犠牲者として選ばれていると言えるのではないでしょうか。

(ジョー・バナーさんへの聞き取り部分は、11月8日にニューオーリンズで開催されたFoEUSのカンファレンスでの発言も元に構成)

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 ニューオーリンズでは他にも環境団体や市民団体が主催するイベントに参加したり、現地のNGOの方との意見交換などを行いました。

 ニューオーリンズは音楽の街でもあります。日本でもデモやマーチに音楽隊が参加することがありますが、ニューオーリンズでのマーチは一味違いました。セカンドラインと呼ばれるバンドがマーチを先導し、街を練り歩きます。セカンドラインとは、ルイジアナ州ニューオーリンズのブラスバンドを伴った伝統的なパレードのことで、お葬式や結婚式、お祭りなどの時に登場するそうです。明るい文化や人々のパワーに触れる一方で、この地域で脈々と続いている黒人差別や社会の不正義について、とても考えさせられる滞在となりました。(深草亜悠美)

原発事故から13年の福島を訪問して(2024年3月10~12日)

2024年3月10日から12日まで、FoE Japanは、浪江町の今野寿美雄さんのご案内で、FoEドイツのメンバーとともに福島県を訪問しました。「3.11から13年」の11日、14:46には双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館の屋上で、海に向き合って黙祷しました。

原発事故から13年の各地の様子を、写真とともに紹介します。

3月10日 福島市にて交流会

10日(日)の午後に福島市に到着し、まずは福島テルサで交流会を開催しました。
ぽかぽかプロジェクトに参加する親子など、オンライン含め約30名が参加。ドイツに行ったことがある高校生なども、関心を持って来てくれました。
また参加者の方から、大河原さきさんのお話で、今の福島の状況を考えさせられたという感想もいただきました。

(FoEドイツの方のお話しについては、以下のトークでも報告します)
連続オンライントーク第2回「ドイツの脱原発とエネルギーシフトの現在地」2024年4月5日
https://foejapan.org/issue/20240326/16691/

福島市の方たち同士でも「久しぶり」「初めまして」などと会話があり、私たちも含め、今後に向けた新たなつながりもできました。

3月11日(月) 

浪江町民で福島市飯坂温泉で避難生活を送る今野寿美雄さんと合流し、2日間案内していただきました。今野さんが暮らす復興住宅には、浪江町から移り住んだ約50世帯が暮らしています。

飯舘村

前田地区の長谷川健一さん・花子さんのご自宅に立ち寄りました。

2021年10月に、甲状腺がんでなくなった長谷川健一さん。2012年にドイツにも訪問していました。仏壇にお参りし、花子さんと少しお話しすることができました。

玄関前での集合写真

東日本大震災・原子力災害伝承館

お昼頃に到着し、隣の産業交流センターで名物の浪江焼きそばをいただきました。

屋上からの眺め。

その後13時半すぎに伝承館へ。
14:46の黙祷は、伝承館の屋上で多くの方とともに行いました。

この日、伝承館でも夕方にはキャンドルナイトが予定されていました。

伝承館でも今野さんに案内していただきました
報道陣や行政の方もいるなか、伝承館の屋上での黙祷

イノベーションコースト

浜通り地域等の新たな産業基盤の構築を目指した国家プロジェクトという福島イノベーション・コースト構想では水素やロボットなどの研究開発拠点や農場など様々なプロジェクトがあり、多額の税金が投じられています。

エリアの中心部を一望できる高台にて今野さんが強調したのは意外にも太陽光パネルが並ぶ中にある空き地でした。この場所は以前、浪江・小高原子力発電所の立地計画があり、その計画に反対した住民が電力会社に土地を売らず、そのまま残っているというのです。

太陽光パネルに囲まれた空き地
太陽光パネルに囲まれた空き地

俺たちの伝承館

夕方、今野さんイチオシの『おれたちの伝承館』に移動。 福島県南相馬市小高にあるこの伝承館には実物やアートが中心に展示され、言葉だけでは表現できない原発事故のことが展示されているのが印象的です。

おれたちの伝承館ウェブサイト
https://suzyj1966.wixsite.com/moyai

キャンドルナイト

双葉屋旅館の前で、小高の住民の方たちが中心になってつくったキャンドルナイトに参加した後、おれたちの伝承館で行われたキャンドルナイトに参加しました。

竹や単管パイプで、写真家で館長の中筋純さんなどが手作りされたとのこと。
福島第一原発の方向を指す矢印が、キャンドルで照らされました。

ドイツからのメンバーからの挨拶もありました。インスタグラムでもその様子を配信しました。

インスタグラムの配信
小高の住民が開催したキャンドルナイト
おれたちの伝承館でのキャンドルナイト、奥には原発がモチーフのキャンドルも

双葉屋旅館

11日の夜は、小高駅・俺たちの伝承館からもすぐの、双葉屋旅館に宿泊しました。
女将の小林友子さんご夫妻は、原発事故後に避難生活をへて戻られ、2016年の常磐線開通に合わせ、旅館を再開しました。
その際に、仲間とともに綿密な放射能測定もされています。そういった活動をもとにウクライナへも訪問し、現在も交流を続けられています。
3月11日の当日に私たちが訪問したことに対し、小林さんは言ってくださいました。

「13年経ってようやく、前を向けるようになった。
これからも、原発事故のことを伝え続けなければならない。
海外からも東京からも、同じ思いを持つ人に来てもらい、一緒に過ごすことができるのはありがたい。」

双葉屋旅館前での集合写真

3月12日(火)

富岡町在住の西島香織さん・鈴木亮さん

浜通りを中心に活動をされている西島香織さん、鈴木亮さんにお話を伺いました。国際青年環境NGO A SEED JAPANでの活動などを経て、数年前に富岡町に移住し、原子力災害考証館furusatoの企画や運営、ふたば地域サポートセンター、有機農業という3つの柱を中心に活動されています。

核燃料税交付金事業で建設されたという富岡町にあるサポートセンターにて

お二人の子どもの健康についてFoEドイツのメンバーからは心配の声が上がりました。それに対して、鈴木さんは「かなり心配している。だが東京ではイメージで心配、ここ(富岡)では測定などをして具体的に心配。それ以上の心配はしたくない。これは難しいところ」と話しました。ただ、周りには「気にせず住んでいる人はいる。」とのことです。

西島さんは学生の頃、社会学の視点でどうして原発を受け入れたのかという研究をしていたといいます。考証館のコンテンツを考えたり、原子力市民委員会に所属し、FoE Japanの理事など、原子力災害に関する活動を続けています。

西島さん、鈴木さんとともに

ふくいち周辺の風景

当時のまま残された建物が散見できる国道六号線。多くの建物は解体され、空き地になっている様子がわかります。六号線からは以前は福島第一原発が見えたといいますが、今は見えることはなく、都心へ電力を運んできた送電線が伸びている様子が伺えます。

空き地が増えるも当時のまま残された建物がある
この向こうには福島第一原発、送電線が伸びている

武藤類子さん

中通りに位置する三春町に移動し、武藤類子さんと会いました。三春名物という三春そうめんを食べながら武藤さんのお話を伺いました。

武藤類子さんとともに
三春そうめん

コミュタン

その後、福島県環境創造センター交流棟(コミュタン福島)に移動し、今野さんや武藤さんに案内していただきました。

施設を見た後、武藤さんから政府・東電からのプロパガンダの話や、武藤さんが関わっている様々な裁判の話がありました。「さまざまな省庁、農林水産省、経産省、環境省、復興庁が事故後大々的に広告を出した。賠償を羨むようなプロパガンダをプロの広告代理店が行って、分断を生んでしまった」と、まさに放射能の安全神話を作り出している施設内で武藤さんは話します。
FoEドイツのメンバーからの武藤さんの活動に対する嫌がらせはないかという質問に対し、「SNSで攻撃があるかもしれないが、見ていないのでわからない。私自身に直接ではないが、例えばこの町で汚染水をどうして流してはいけないのかという講演会を開催した時、東京から来た人が『この趣旨の講演会に町が後援していいのか』というの苦情が町に入った。」と話しました。

裁判については、「関心がなくなり段々人数が減っている。福島原発告訴団の原告の数が14000人が4000人になった。裁判の原告団は会費で運営している任意団体」という。これに対し、来日したドイツのメンバーからは驚きの声が聞かれました。ドイツでは法人格を取るのが非常に簡単だというのです。汚染水の海洋放出について漁業者と市民が東電と国相手に裁判をしはじめたことについての共有もありました。

●感想

3月11日に福島の被災地へ。13年経って・・以前あらゆる空き地に置かれていたフレコンバックの山は中間貯蔵施設に運ばれ、帰還困難区域だったところも大きく様相が変わっています。家が解体された更地と新しく建てられた集合住宅、一見そのままであるように見えて、もう誰も住むことはなくなった家・・。それらの風景の背景にある、無数の悲痛な物語に思いをはせる2日間でした。(吉田明子)

3月11日当日を福島で迎えるのは今回が二度目でした。黙祷が捧げられた14:46、伝承館の屋上には行政の人や報道陣もおり、そこにしかない空気感がありました。13年経ってなお、事故の傷跡は消えることなく、当時のまま残された家屋がある一方で多くは壊され、荒れた大地にポツポツとある真新しい巨大施設が虚しくそびえているように思いました。日本の地方と国の問題が凝縮されたようなこの地域で、改めてこの国はどこへ向かっているのだろうか、そう感じました。(松本光)

3月11日が近づくと、福島に暮らす人たちはざわざわすると。特別なその日に、私たちがお邪魔してもよいのだろうかと、思いながらの3日間でした。浜通りはフレコンバックも見当たらなくなり、空き地には新しい無機質な建物が並びます。人の温かみが感じられないその街で、暮らしている人たちに思いをはせました。13年は長くもあり、あっという間でもあり、昨日の事の様に考えている人たちもいます。これから長く続く廃炉作業や街づくりに、私たちにできることは何だろうと考えさせられました。(矢野恵理子)


脱原発の活動は、これまで皆さまのご寄付によって続けてきましたが、事故から月日が流れて関心が薄れる中、活動継続のための運営費用や、新たな映像や資料の制作、広報費用などの資金が不足しているため、クラウドファンディングに挑戦することにしました。

原発のない安全で公正な未来に向けて、一人でも多くの方に仲間に加わっていただくことが、私たちにとって大きな力になります。どうかよろしくお願いいたします。

▼クラファンはこちらから
https://camp-fire.jp/projects/view/740978

【概要】
タイトル:原発ゼロへ!持続可能なエネルギー社会を目指す活動へのご支援をお願いします
期  間:2024年3月1日(火) ~ 4月26日(火)
目標金額:500万円
U R L:https://camp-fire.jp/projects/view/740978

カルカシュー湖の漁業者を脅かすLNG開発ーアメリカ・メキシコ湾岸ガス開発現場視察報告(3)

アメリカ南東部に位置するメキシコ湾岸。その名の通り、海岸線はアメリカからメキシコへと伸び、湾を出るとキューバ、そしてカリブ海へと繋がっています。生物多様性豊かなテキサス州やルイジアナ州の沿岸地域は、近年巨大化するハリケーンの影響を顕著にうける地域であり、奴隷貿易や黒人奴隷が使役されていたプランテーションの中心地の一つでもありました。2023年10月末、アメリカのメキシコ湾岸周辺で急速にすすむ液化天然ガス(LNG)事業による地域への影響を知るために、FoEJapanはテキサス州とルイジアナ州を訪ねました。ブログシリーズの第三回目をお届けします。
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視察3日目、私たちはルイジアナ州に入りました。昨日、対岸から見たザビーンパスLNGの横を走り、湿地帯を通り抜けて東へと向かいます。

写真:ザビーンパスLNG付近にて。湿地が広がっている。

LNGターミナルは、港湾施設です。LNGは通常船で運ばれるため、ターミナルは海沿いに建設されます。

写真からもわかるように、ルイジアナ州南西部のLNG施設の周辺は豊かな湿地、そして海に囲まれています。この辺りに生息するアリゲーター(ワニ)は観光資源になっているようで、道すがらアリゲーターと触れ合うための施設もありました。ザビーンパスLNGはシェニエール・エナジーという企業が運営していますが、現地の人はバイユー(Bayou)と呼んでいます。シェニエールというのは湿地や沼を意味し、バイユーは、ルイジアナ周辺アメリカ南西部でゆっくりと流れる小川や湿地帯をさす言葉だそうです。

ザビーンパスを後にした私たちは、カルカシュー湖のあるキャメロンへと向かいます。

キャメロンでは、Better Bayouという団体の代表であるジェームズ・ハイアットさんはじめ、ルイジアナ・バケットブリゲード、シエラクラブのメンバーなどが迎えてくれました。

ジョン・アレアさんという方の土地にお邪魔し(アレアさんは当日不在でしたが快く訪問を受け入れてくれました)、みなさんの話を伺いました。

アレアさんは、長年ルイジアナの沿岸に住まわれている方で、普段この土地でバードウォッチングなどをして過ごしているそうです。不在のアレアさんにかわり、ハイアットさんが、この湿地がたくさんの生き物の住処となっていることを説明してくれました。

写真:アレアさんの土地で。LNGターミナルが目の前にみえる。夜間もフレアリング(ガスを焼却処分すること)が行われ、とても明るいという。

午後には、地元の漁師であるトラヴィス・ダーダーさんの船に乗って、カルカシュー湖の湖上からLNG施設を視察しました。

写真:トラヴィス・ダーダーさん。漁師。エビ漁を生活の糧としている。

ダーダーさんによると、カルカシューパスLNGが2022年に稼働を開始してからというもの、エビの漁獲量が激減したそうです。たくさんの船が行き交うので、カニのための罠も壊れてしまうそうです。ハイアットさんによると、地元の漁業者は昨年までと比べ、漁獲高が9割も減少したと話しているとのことでした。

ダーダーさんは、LNG施設のすぐ近くに住んでおり、建設作業時には家にその振動が伝わってくると言います。カルカシューパスLNGの横にはCP2という新たなLNG事業計画が進んでいます。ダーダーさんは「LNGプラントが全て立つ頃には魚がいなくなっているだろう。もしLNG事業がそんなにいいものなのなら、なぜ漁業は衰退し、(LNG企業の)重役ばかり金持ちになるのか?」とLNG開発を非難します。

カルカシュー湖周辺ではカルカシューパスLNGとキャメロンLNGがすでに運転していますが、それ以外に既存のカルカシューパスLNGの近くにCP2、コモンウェルスLNG、そして湖の北側にドリフトウッドLNG、レイクチャールズLNG、マグノリアLNGなどの建設・計画が進んでいます。キャメロンLNGは、拡張計画が進んでおり、日本の公的金融機関である日本貿易保険が拡張事業への付保を検討しています。

表:カルカシュー湖周辺のLNG事業

事業名ステータス事業者主な日本の関わり
キャメロン稼働中センプラ三菱商事などが出資JBICによる融資支援
カルカシューパス稼働中(コミッショニング中)ベンチャーグローバルJERAがLNGの購買契約
CP2審査中ベンチャーグローバルJERAがLNGの購買契約
コモンウェルス許可取得=延期コモンウェルスLNG
ドリフトウッド許可取得済テルリアン
マグノリア許可取得=延期マグノリアLNG
レイクチャールズ許可取得=再申請エナジートランスファーSMBCがフィナンシャルアドバイザー

図:メキシコ湾岸で進むLNG建設。青=稼働中、緑=建設中、黄色=許認可、オレンジ=審査中、*=拡張計画あり(出典:グリーンピース

カルカシューパスLNGは2022年に稼働を開始しました。ルイジアナ・バケットブリゲードのモニタリングレポートによると、稼働する181日のうち、71日はフレアリングが行われ、その後ベンチャーグローバル社自らが報告した分も足し合わせると、181日中115日フレアリングが行われていたことがわかりました。実に稼働期間の63%にあたります。環境影響評価ではフレアリングはこのように頻繁に行われる想定ではなかったとのこと。

全米で第4位の輸出容量(14.5mtpa)を誇るキャメロンLNGは2019年にLNG輸出を開始しました。ルイジアナ・バケットブリゲードの調査によると、稼働を開始して以来、2023年1月までの時点で既に67回、つまり月に2度もの漏出事故を起こしていています。これらの事故のうち48件は、熱酸化装置のトリップが原因で、事故はいずれもメタン、揮発性有機化合物、がん発症を誘発するベンゼン、その他の有害汚染物質の漏出につながっていました。ルイジアナ州の規制当局が2度調査を実施し、キャメロンLNGが大気汚染に関する許可証に違反したという結論が出されましたが、なんの罰金も課せられていません。

ダーダーさんの船で航行する間、船の横には数多くのペリカンが飛び交い、イルカたちが自由に泳いでいました。

写真:カルカシュー湖のイルカたち。たくさんのイルカが群れをなして泳いでいた。

ハイアットさんは「湿地は食料品店のようなものです。何世代にもわたって私たちに恵みをもたらしてきたのです。しかし私たち人間は絶え間なく汚染を続け、終わりがないかのように採掘や搾取を続けていますが、それを続けていくことはできません。人々ではなく、利益だけを追求したら何が起きるでしょうか。私たちが化石燃料に対する依存を断ち切れないことで将来子どもたちに降りかかる重荷について考えています。」と話してくれました。

日本の官民はアメリカでのLNG開発に多額の資金を投じています。

一方、2023年1月26日、米バイデン政権が化石燃料の一種である液化天然ガスについて輸出許可申請がされている事業に対する許認可の判断を一時停止すると発表しました(参照:FoE Japanブログ「バイデン政権によるLNG輸出許可一時停止の意味とは」)。その間に認可の際の判断基準の改訂をするとしています。気候危機を食い止め、環境や地元の人々への影響を考えると、バイデン政権は正しい第一歩を踏み出したと言えます。しかし日本政府は日本のエネルギー安全保障が脅かされることを懸念しています。

一方で、現在の第6次エネルギー基本計画においては、2030年のエネルギーミックスにおけるガスの割合を2019年の37%から20%に減少させるとしています。バイデン政権の決定は、すでに許認可を得ているLNG事業には影響がないため、短期的には日本へのLNG供給に影響はないと見られています。したがって、今回の決定が短期的に日本のエネルギー安全保障を脅かすとは言い難い状況です。

長期的に見ても、気候危機回避のためには、ガスを含む全ての化石燃料からの脱却が必要とされています。世界の平均気温の上昇を1.5℃以下に抑えるというパリ協定の目標の達成のためにも、地域の人々の綺麗な空気への権利を守るためにも、今、エネルギー転換を考えなければなりません。

(深草亜悠美)

「ポート・アーサーに立ちこめる死の匂い」ーアメリカ・メキシコ湾岸ガス開発現場視察報告(2)

アメリカ南東部に位置するメキシコ湾岸。その名の通り、海岸線はアメリカからメキシコへと伸び、湾を出るとキューバ、そしてカリブ海へと繋がっています。生物多様性豊かなテキサス州やルイジアナ州の沿岸地域は、近年巨大化するハリケーンの影響を顕著にうける地域であり、奴隷貿易や黒人奴隷が使役されていたプランテーションの中心地の一つでもありました。2023年10月末、アメリカのメキシコ湾岸周辺で急速にすすむ液化天然ガス(LNG)事業による地域への影響を知るために、FoEJapanはテキサス州とルイジアナ州を訪ねました。ブログシリーズの第二回目をお届けします。(第一回はこちら

11月1日、ヒューストンから東に160キロほど進んだところにあるポート・アーサーを訪ねました。テキサス州とルイジアナ州の州境のテキサス側に位置します。

ポート・アーサーで私たちを迎えてくれたのはポート・アーサー・コミュニティ・アクション・ネットワーク(PICAN)のジョン・ビアード3世さんです。ビアードさんは、「金の匂いがすると言う人もいる。しかし私にとってこれは死の匂いだ」と話します。

写真:ポートアーサーを案内してくれたジョン・ビアード3世さん

街を訪れてすぐ、ビアードさんが言うように、異様な匂いに気づきました。フリーポートもそうでしたが、街には数えきれないほど石油化学工場やLNG施設が存在し、文字通り工場に包囲されているような様相です。

ポートアーサーには5万人の住民がおり、4割は黒人で、その次に多いのがヒスパニック系の白人です。ジョンさんによると、たくさんの化学工場が立地しているにも関わらず、「昔は賑わっていたが、仕事がなくてどんどん人が出ていく」と話します。また、ここも海沿いであるために、かつては海の幸に恵まれていましたが、産業による汚染が深刻です。

健康被害についてビアードさんは、自身も22歳の時に腎臓移植したことを話してくれました。ポート・アーサーでは、発がん性物質であるベンゼン汚染が深刻です。2020年、ポート・アーサーにあるトタル・エナジーズの製油所からは、EPA(米国環境保護庁)基準の2倍以上のベンゼンが排出されていました。工場の半径5キロメートル以内に2万人近くが住んでいますが、その約半数は黒人です。ポート・アーサー地域のがんリスクは非常に高く、EPAが許容範囲とするレートの190倍だそうです。住民の健康被害が深刻化する一方、汚染源である企業からの医療補償はないといいます。ポート・アーサーの20%という貧困率も全国平均より高く、貧しい住民は高額な医療サービスを受けることができません。

また、町の至る所でフレアリングが行われているのも衝撃的な光景でした。フレアリングとは、余ったガスを燃やす作業です。日本の工場などでも行われていますが、煙突の先で燃えているのが見えるのが一般的なのではないでしょうか。ポートアーサーでは、グランドフレアも行われていて(その後各地で見ることになるのですが)、とてつもなく大きな囲いの中で煙突ではなく地面の高さでフレアリングが昼夜問わず行われていました。

写真:グランドフレアの様子。中で火が燃えているのがみえる。

ポートアーサーの周辺では、ポートアーサーLNGだけではなくゴールデンパスLNGというLNGターミナルが建設中で、ちょうど州境を超えたところにあるザビーンパスLNGはすでに稼働しています。

写真:テキサス州とルイジアナ州の境を流れるザビーン川から。「ゴミの燃焼禁止」と書かれている。対岸ではLNG施設(ザビーン・パスLNG)が稼働し、フレアリングを行っている。

「人々はこの水路で魚も釣っています」とビアードさんは話します。大気だけではなく、水質も深刻に汚染されています。汚染の原因は単にLNG事業や石油化学施設が急増したことに留まりません。これらの工場が、規制当局による環境基準を遵守していないのです。またハリケーンなどの際に、石油化学施設が未処理の廃水を地元の水路に廃棄することもあると言います。

工場は多くの水を使います。これらの施設は「大水食らい」で、地域住民のニーズよりも工業用水の利用が優先されていると、視察に同行したテキサス・キャンペーン・フォー・エンバイロンメントのジェフリー・ジャコビー氏も話します。 

こういった状況に対し、ビアードさんは一家で長年闘ってきました。

この日、ポートアーサーを案内してくれたジョン・ビアード3世さんの父ジョン・ビアード・ジュニアさんは、環境規制の緩和に反対し、テキサス環境諮問委員会はポートーアーサーLNGにおける排出基準を厳しくするよう、行政法審判官に申し立てました。申し立ては認められましたが、テキサス環境諮問委員会は、基準の強化はポート・アーサーLNGを所有するセンプラ社(次回のブログに出てくるキャメロンLNGもセンプラ社のLNG事業)にとって追加コストになるとして、申し立て結果を無視。その後ジョン・ビアード・ジュニアさんはさらに異議申し立てを行います。

この異議申し立てに関して、私たちが帰国した後、良いニュースが飛び込んできました。

11月15日、米国の裁判所は、ポートアーサーLNGに課されている排出基準が、リオ・グランデLNGなど他のLNGに課されている排出基準に及ばないと判断し、ポートアーサーLNGに対する排出許可を取り消したのです(参考 1 2)。

この勝利に関する記事の中で、ジョン・ビアード・ジュニアさんはいいます。

「私たちは右からも左からも攻撃されている。これは不正義だ。誰かが綺麗な空気のために戦わないといけないのだ」

ポートアーサーLNG事業
第1・第2系列(フェーズ1)第3・第4系列(フェーズ2)
事業者ポート・アーサー・フェーズ1,LLC. = KKR(42%)、コノコフィリップス(30%)、センプラエナジー(28%)が出資ポート・アーサー・フェーズ2,LLC. = センプラエナジー、コノコフィリップスが出資
液化容量1350mtpa1350mtpa
状況(2024.3現在)建設中最終投資判断前
生産開始予定2027~2028年未定

表出典:JOGMEC,GEM,などを元に作成

オランダ環境3団体、政府が秘密裏に進めるバイオマス発電新規支援を控訴

オランダの環境団体 Comité Schone Lucht (CSL, 英名 Clean Air Committee)、Leefmilieu、mobilisation for the Environment (MOB)の3団体は、公的情報アクセス法(Public Access to Government Information Act)に基づく情報公開請求によって、2023年に気候エネルギー省がエネルギー大手のバッテンフォール (Vattenfall) 社のバイオマス発電建設に対し、3億9,500万ユーロもの補助金を獲得できるよう支援していたことを明らかにしました。オランダ中央政府は、この新たな補助金の交付割り当て決定を公開していませんでした。

2022年4月の閣議決定により、オランダではバイオマス発電への新たな補助金は即時廃止となったほか、バッテンフォール社がディーメンに予定しているバイオマス発電計画への環境許可1は、2023年夏の閣議決定及び国務院の裁定によって取り消されていました。

情報公開請求で得た文書には、気候エネルギー省の関係者間で「補助金の凍結の意図に従って」という文言を取り除くよう指示したことや、同省とバッテンフォールのやり取りにおいて、この件が公になれば問題が生じることを懸念することが記されていました。CSLは、補助金廃止の決定に反することを認識した上でのこの支援に対し、「前例のない規模の政治的誤ち」と指摘しています。

3団体は、本件に対して中央政府を控訴し、補助金の撤回と、その資金をクリーンエネルギーと省エネのために使うよう要求しています。


詳細は、以下の原典をご覧ください。

Comité Schone Lucht, “Ministry officials secretly helped with new biomass subsidy Vattenfall | ‘This is going to cause hassle’”, <https://comiteschonelucht.nl/en/ministry-officials-secretly-helped-with-new-biomass-subsidy-vattenfall>


  1. 環境管理法(Wet milieubeheer)に基づく環境許可(証)のこと ↩︎

カナダの23環境団体が英政府に書簡、英国は燃料のためにカナダの森林を燃やしている

2024年2月28日、カナダの23の環境団体は連名で英政府に書簡を発出し、カナダの森林を皆伐して作られた木質ペレットを大量に燃やすバイオマス産業への補助金を止め、バイオマスを燃やすことがクリーンエネルギーであると誤認させないよう求めました。

同書簡は、英政府のBECCS(バイオエネルギー炭素回収・貯蔵)を含む大規模バイオマス発電に対する移行支援政策案に対するものです。同政策案では、輸入木質ペレットを燃やす産業用発電所に数十億ポンドの補助金が費やされると推定されています。

また、世界第3位の木質ペレット生産国であるカナダでは、原生林(これまでに一度も商業伐採されていない森林)の産業伐採が進んでおり、実は「手つかずの森林景観 (Intact Forest Landscape)」の減少率が高く、世界第3位だそうです。さらに、英国はカナダの最大の木質ペレット消費国ですが、その木質ペレットを生産・調達するのは、補助金の主な受給者である英国電力大手のドラックス社であるため、カナダ産木質ペレットの実質的な生産者は英国であると指摘しています。同日に発表されたBBC(英国放送協会)の取材記事では、ドラックス社がカナダの老齢林由来の木質ペレットを利用していることが書かれています。

カナダの23環境団体は書簡を通じて、補助金によって木質ペレットの調達を支え続けるという英政府の政策案は、わずかに残った世界の原生林が失われていくことに貢献することになるとして、以下の4点を要求しています。

  • BECCSに対する将来的な補助金も含め、森林由来のバイオエネルギーに対する補助金(新規契約および現行政策の延長の両方)を廃止すること。
  • ネットゼロ目標を達成するために木質ペレット利用量を増加することを奨励する英政府の計画を撤回すること。
  • 発電に木質ペレットを燃やすことは気候の解決策であり、カーボンニュートラルであると公的に位置付けるのを止めること。これらは科学的根拠に反する主張である。
  • 英政府が、世界に残る原生林と老齢林を重要な炭素貯蔵庫として保護するために国際協力の推進者としての立場をとること。

詳細は、以下の書簡(英語)をご覧ください。

英政府への書簡 (2024年2月28日)

https://www.nrdc.org/sites/default/files/2024-02/rt-hon-claire-coutinho-forests-canada-20240228.pdf


【関連情報】

NRDC, Expert Blog, “The U.K. is Burning Canadian Forests for Fuel”

https://www.nrdc.org/bio/courtenay-lewis/uk-burning-canadian-forests-fuel

BBC, “Drax: UK power station still burning rare forest wood”

https://www.bbc.com/news/science-environment-68381160

「私たちは毎日危険と隣り合わせに生きている」ーアメリカ・メキシコ湾岸ガス開発現場視察報告(1)

アメリカ南東部に位置するメキシコ湾岸。その名の通り、海岸線はアメリカからメキシコへと伸び、湾を出るとキューバ、そしてカリブ海へと繋がっています。

生物多様性豊かなテキサス州やルイジアナ州の沿岸地域は、近年巨大化するハリケーンの影響を顕著にうける地域であり、奴隷貿易や黒人奴隷が使役されていたプランテーションの中心地の一つでもありました。

2023年10月末、アメリカのメキシコ湾岸周辺で急速にすすむ液化天然ガス(LNG)事業による地域への影響を知るために、FoEJapanはテキサス州とルイジアナ州を訪ねました。

「私たちは毎日危険と隣り合わせに生きている」

10月末日、私たちはテキサス州ヒューストンに降り立ちました。その日はこの地域にしてはかなり珍しく冷え込んだそうですが、普段はとても温暖な地域とのこと。Texas Campaign For Environmentという現地の団体の協力を得て、ヒューストンから車で最初の目的地であるフリーポートLNG(液化天然ガス)ターミナルへと向かいました。

写真:フリーポートに向かう道すがら。左右にたくさんの化学工場が立地している。

アメリカ南部テキサス州の沿岸に位置するブラゾリア郡に建設されたフリーポートLNG施設には、日本のJERA(東京電力と中部電力の合弁会社)や大阪ガスが関与しています。2022年6月8日には、爆発事故を起こし稼働停止を強いられました。それにもかかわらず、施設の拡張計画が進んでいます。

現地で迎えてくれたのはBetter Brazoriaという団体のメンバーのメラニー・オルハムさんたちです。フリーポートLNGターミナルで爆発事故があったこと、事故がまたいつか起こるかわからないという不安の中で人々が暮らしているということ、地域にはたくさんの化学工場がありそこから排出される有害物質が原因で病気の子どもたちが多いこと、かつては栄えていた黒人の街が今は廃れてしまっていることなどを話してくれました。

写真:フリーポートLNGターミナル。写真の右手前に公園がある。

メラニーさんは、日本企業を含む投資家や融資者はこの事業から撤退すべきだと話します。「地元にはほとんど利益はもたらされていません。人々は危険と隣り合わせで生活しています。爆発事故の後、多くの問題が発覚しました。メンテナンスも不十分で、必要とされる従業員の数が94人も足りていなかったのです。長時間労働もありました。事業に巨額を投資しているのに、安全に運転することすらできないのです。」

写真:フリーポートLNGターミナル関連施設を案内するメラニー・オルハムさん

訪問の間、複数のLNG施設を視察しましたが、行く先々で事故の多さに驚かされました。フリーポートLNGターミナルでは2022年の事故の前にも、2015年の操業開始から6度の事故調査が行われており、その中には、100ガロンのトリエチレングリコールの流出によって作業員が病院に搬送される事故も含まれています。米連邦パイプライン・危険物安全管理局(PHMSA)による強制手続きも11回に及んでいます(出典)。メキシコ湾岸では、既存の5事業(フリーポート、キャメロン、ザビーネパス、コーパス・クリスティ、カルカシューパス)に加え、数多くのターミナル建設や拡張計画が進行しています。安全を担保するために十分な人数の従業員を雇わない事例が散見される中、これ以上ターミナルを建設して安全に運転することができるのか、大きな疑問が残りました。

フリーポートは、かつてはエビ漁業などで栄えた街でした。しかし石油化学産業の参入やLNG施設により地域は汚染され、エビ漁業は衰退していきます。住民のジェニーさんは、孫が釣りをしたところ、獲れた魚は弱っていて、鱗がハラハラと落ちたという話をしてくれました。写真は地元の歴史を伝える小さな博物館のパネルの一枚です。地元のエビ漁業がいかに栄えていたのか、1980年代にはテキサスの中でも第5位の水揚げ量を誇っていたことなどが書かれています。同時に、エビ漁業の衰退については、エビ価格の下落、燃料や氷の価格の高騰、漁獲制限などを挙げ、石油化学産業やLNG施設による汚染については一言も記載がありませんでした。

石油化学産業による地域の環境汚染については、いくつものデータがありますが(参考:1, 2) 、化学工場がもたらす影響についてはこの博物館に展示がなく、むしろフリーポートLNGが他の石油化学産業などと並んで地元の産業リーダーとして掲載されていました。なお、この地元の小さな博物館は化学メーカーのダウ・ケミカルやフリーポートLNGなどの企業が出資をして運営されていたので、無理もないかもしれません。

私たちは今回LNG事業による環境や社会への影響を知るために視察にいきましたが、この後の視察でも出てくるように、メキシコ湾岸には化学工場やLNGターミナルが集中しており、大規模複合汚染が生じていることがよくわかりました。多くの工場がプラスチックの生産に関連しています。気候変動問題を考える上で化石燃料をエネルギー源としてばかり捉えがちですが、石油化学製品や特にプラスチック生産の問題としても見る必要をひしひしと感じました。(フリーポートにあるダウ・ケミカルの工場は西半球最大の化学工場を自称しており、プラスチックの生産に携わっています)

フリーポートの住民であるマニン・ローラーソンさんは、フリーポートLNGターミナルの拡張はおろか、既存のターミナルもこの街にあるべきでないと話します。

「フリーポートは貧困に喘いでいます。有名な企業がフリーポートにやってきましたが、フリーポートは経済的に死んでいるのです。連邦貧困レベルに分類されているのです。(注:アメリカ合衆国保健福祉省によって毎年更新される収入のレベルを決める為の指標。特定の事業や支援をうける資格があるかどうかを決めるのに使われる。フリーポートの人口の20%が連邦貧困レベルにあたり、全国平均の12%を大きく上回っている。出典:USA Data)数兆ドル規模の企業がフリーポートの街で経済活動しているにも関わらずです。彼らは私たちの生活を助けてはいないのです。街の中心にもう活気はありません。LNG事業の利益はCEOたちのところにいくだけです。人々は病気になり、貧しくなるばかりです。」

フリーポートの街にある「イーストエンド」はかつてとても栄えた一角でした。元々黒人隔離地区として設立された区画ですが、黒人たちが住居を購入することが許され、教会が建ち、商店が立ち並んでいたそうです。しかし港拡大のために次々と立ち退きを強いられ、今ではほとんど人が住んでいないゴーストタウンと化していました。

港湾の拡大のため、残された土地についても、補償と引き換えに土地を収用すること(エミネント・ドメイン)が今もすすめられています。マニンさん含む複数の住民は土地収用を拒否して訴訟を起こしましたが、イーストエンドの土地の9割以上が港湾拡張のためにすでに買収されています。LNGターミナルを含む産業施設にとっては、大規模な深海港が不可欠とされています。しかしその裏で、黒人コミュニティが破壊されているのです。(参考:1,2,3)

写真:フリーポートの街で。水害対策のため床を高くあげている家が多く見られた。フリーポートLNGは、LNG施設がカテゴリー4~5(アメリカでハリケーンの強度を示すスケール。5が最大)のハリケーンに耐えられるように建設されていると説明しているそうだが、住民は本当に耐えられるのかどうか疑っていると話していた。また、近年激化するハリケーンに対し、保険料の高騰で貧しい住民等が住宅損害保険をかけることもままならない中、LNG施設には手厚く保険がかけられていると話していた。

(深草亜悠美)

アンモニア混焼と輸入木質バイオマス発電の課題〜JERA石炭火力発電所の視察から〜

2月初旬、愛知県にある碧南火力発電所と武豊火力発電所を、気候ネットワーク主催のスタディツアーで視察しました。この2つの発電所は、日本最大の火力発電会社であるJERAによるものです。

碧南火力発電所は、石炭火力発電所としては国内最大で、2024年3月からアンモニア実証実験の開始が予定されています。また、武豊火力発電所は、輸入木質バイオマスの混焼を行なっており、2024年1月31日に火災事故がありました。

碧南火力発電所とは?

愛知県には、石炭火力発電が11基あります。このうち、碧南火力発電所(愛知県碧南市港南町2-8-2)は、井浦湾に面する愛知県碧南市の南部に位置します。1991年10月に1号機が営業運転開始して以来、中部エリアをはじめとする各地へ電力を供給してきました。2002年には5号機が営業運転を開始し、総出力が410万kwと石炭火力発電所としては国内最大、世界でも最大級の発電規模になりました。

約160万m²という広大な敷地の中には、ボイラー、タービン、発電機に加え、貯炭場、灰捨地などの設備が並んでいます。タービン建屋の壁面には、三河湾の青い海に浮かぶヨットをモチーフにしたというデザインが施されており、発電所の仕組みを展示する電力館(訪問時は工事のため休館)やヒーリングガーデン、エコパークなども併設されています。


碧南火力発電所の構内見学

碧南火力発電所の見学ツアーでは、発電所内を車で移動しながら、4・5号機のタービン建屋、3・4・5号機の中央制御室、貯炭場をまわりました。

タービン建屋について、一つの建物に2つのタービンが入っていることから、4号機のものはオレンジ色に、5号機は青色に色分けされていました。発電所内ではJERA以外の人も働いており、発電員(発電所で働いている人々)が、それぞれの担当すべきタービンが一目でわかるようにするための工夫とのことです。また、原則タービン建屋には誰もおらず、1日に1~2回、発電員が1人で巡視するとのことでした。


続いて、中央制御室へ向かいました。制御室内には入室できませんでしたが、窓越しに発電員の姿と発電機の制御盤を見ることができました。発電員は、タービンの巡視以外の時間は基本的にこの中央制御室にいるとのことです。一つの発電機につき、8名の発電員が配置され、12時間交代(7:30-20:40/20:30-7:40。10分の重複があるのは引き継ぎのため)で発電状況の監視にあたっているそうです。また、中央制御室の制御盤には、その日使用している石炭の輸出国の国旗が貼られており、複数の国の石炭を混ぜ、最も燃焼効率が良くなるようにしているとのことでした。

タービン建屋の見学のあとは貯炭場へ。碧南石炭火力発電所の貯炭場は屋外にあり、大小様々な大きさの穴が空いた遮風壁で囲まれています。いろんな種類の石炭を混ぜやすいという理由から屋外貯炭をしており、入荷した石炭を貯炭場のどこに置くかは、そのときの在庫の石炭と新規石炭の相性を考えて貯炭されるとのことです。「近隣からの粉塵への苦情はないのか?」と疑問に思い尋ねたところ、苦情はないとのことでした。また、石炭の粉やばいじんが飛び散らないよう、定期的に石炭の上に散水しているそうです。

その後、石炭輸送船の発着場の横を通り過ぎながら、最初に訪れた施設へと戻り、質疑の時間を持ちました。

アンモニア混焼、本当にクリーン?

さて、この碧南火力発電所はアンモニア混焼が行われるということで注目されています。JERAはテレビ広告などで大々的に「CO2の出ない火を作る」と宣伝していて、JERAがスポンサーを務めるプロ野球セ・リーグの試合や、TOHOシネマズの映画館でも上映前に頻繁にその広告が流れています。

JERAは、アンモニアは燃やすときにCO2を出さないため、石炭火力発電所で石炭と一緒に燃やす(混焼)ことで、削減できた石炭の分だけCO2の排出を抑えられる、と主張します。最終的に石炭の代わりにアンモニアだけ燃やせるようになれば「CO2の出ない火」ができる、というわけです。

しかし残念ながらこの主張は正確ではありません。というのも現在商用的に確立しているアンモニアの製造方法は、天然ガスなど化石燃料を原料としたものです(天然ガスに含まれる炭化水素と大気中の窒素を反応させて製造するハーバーボッシュ法)。最新鋭の設備を用いても、1トンのアンモニアを製造するのに約1.6トンのCO2が排出され、「脱炭素」燃料とはいえません。

こちらの図を見てもわかるように、アンモニア混焼をしても石炭だけ燃やした場合と比べて大きなCO2排出削減効果がないことが見て取れます。(アンモニア混焼の問題点について詳しくはこちら

つまり「燃やす」時にCO2がでなくても、「つくる」時にCO2が出てしまうアンモニア燃やしてできた火は、結局「CO2が出る火」というわけです。
JERAの「ゼロエミッション2050」ロードマップでは、50%混焼を2040年頃、専焼の実現は2050年頃と大まかに示されています。すなわちそれまで、石炭の燃焼が続くということでもあります。

実際、このJERAの広告は、環境NPO気候ネットワークと環境法律家連盟から公益社団法人 日本広告審査機構(JARO)に対し、このようなミスリーディングな広告を中止するよう勧告を求める申立が提出されています

ちなみに、この碧南火力発電所では2024年3月からアンモニア混焼の実証実験が開始されますが、そのアンモニアが製造されるのはアメリカ南部のメキシコ湾岸地域です。この地域には、先日のブログでも紹介したキャメロンLNG(三菱商事、三井物産、日本郵船が出資)やフリーポートLNG(JERA、大阪ガスが出資)など多くのLNG施設が集積し、住民の健康被害やエビが取れなくなるなど漁業への悪影響がすでに顕著に出ています。ここでアンモニア製造をすることは、地域の環境や人々の健康に更なる負荷がかかる懸念があります。

全廃からはほど遠い、日本の石炭火力政策

国連事務総長が2021年以降「OECD諸国は2030年までに、途上国も2040年までには石炭火力の全廃を」と呼びかける中、日本では石炭火力発電がいまだに発電量の32%を占めています(2021年度)。そして、2030年度にもまだ19%も使い続ける方針(第6次エネルギー基本計画)です。
2020年7月、「非効率な石炭火力発電所を2030年までにフェードアウトさせる」ことが発表されましたが、大型・高効率のものはむしろ積極的に活用を続ける方針なのです。非効率なものの全廃さえ期限が明示されておらず、2030年にもまだ動き続けている可能性があります。碧南火力発電所でみれば、1、2号機が政府が定義する非効率のもの(超臨界:SC)、3~5号機が政府が定義する高効率のもの(超々臨界:USC)です。1、2号機の廃止時期は示されていません。

日本も2050年カーボンニュートラルをめざす中で、石炭火力発電をそのまま続けるというわけにはいきません。

そこで進められようとしているのがアンモニア混焼ですが、前述のように2050年に専焼にたどり着くか否かというスケジュール、またそのアンモニアを再エネ由来で国内で作ることはほぼ不可能という状況です。莫大なコストと30年近い時間をかけてアンモニア専焼をめざすことは、それまでの期間、石炭火力を使い続けるということです。
アンモニア発電の実装化を石炭火力を使い続けながら待つのではなく、石炭火力発電を廃止し、省エネ・再エネに舵を切らなければなりません。

バイオマス混焼の武豊石炭火力で、1月末に爆発・火災

井浦湾を挟んで碧南火力発電所のちょうど対岸にある、武豊火力発電所(愛知県知多郡武豊町字竜宮1-1)のすぐそばにも行き、外から見学しました。武豊火力発電所は、輸入木質バイオマスを混焼している石炭火力発電所で、1月31日に爆発・火災があったところです。バイオマス燃料の発酵による火災は、近年各地のバイオマス発電所でも起こっています。

黒く焼け焦げた火災のあとは敷地の外からもよく見え、生々しく残っていました。


この発電所は、特に住宅地と隣接した立地で、小さな公園と道路を挟んですぐに住宅が立ち並んでいます。

地元で活動している「武豊町の環境問題を考える会」の方からは、火災を受けて発電所の稼働停止を申し入れたが、回答はなかったとのことでした。
この発電所はもともと重油発電所を廃止し、一時期太陽光発電所になっていたとのこと。
しかし、バイオマス混焼の高効率石炭火力発電所ということで新たに建設され、2022年8月に稼働が開始されたものでした。「太陽光発電のままにしておけば・・・」地元の方も悔やんでいました。

武豊火力発電所の変遷
1966年 1号機運転開始(22万kW)
1972年 2~4号機運転開始(2〜4号機いずれも37.5万kW)
2002年 1号機閉鎖2011年 発電所敷地内に「メガソーラーたけとよ」(7,500kW)運転開始
2015年2月 武豊発電所リプレース計画(1〜4号機の閉鎖、5号機の建設)公表
2016年3月 2~4号機閉鎖
2017年 「メガソーラーたけとよ」閉鎖、川越発電所構内(三重県)に移転
2022年8月 5号機(107万kW)運転開始
*中部電力、JERAの報道資料よりFoE Japan作成

見学を終えて

気候変動は世界的な問題であり、前述の通り日本は2030年までに石炭火力発電の廃止が求められています。この要請から目を背けず、そもそも省エネなどを通じて消費電力量を減らした上で、石炭火力から再生可能エネルギーへと舵を切ることが、日本のすべき気候変動対策です。その道筋として、未来のためのエネルギー転換研究グループ(JUST)は、2050年に再生可能エネルギー100%の社会を目指すことは可能だという調査報告書も公表しています。

今回のツアーでは、実際に発電所内で働く人々の姿、発電所の周辺地域の様子も目にしました。石炭火力発電の廃止策を実施するうえで、労働者や産業立地地域が取り残されることなく、公正かつ平等な方法で持続可能な社会へ移行することを目指すこと、つまり「公正な移行」は、まさに私たちが直面する課題であると感じました。

(長田大輝、髙橋英恵、轟木典子、吉田明子)