切っても切り離せない?フィリピンでの油流出とガス開発

2月28日、フィリピン・ミンドロ島沖で80万リットルの産業用燃料油を積載したオイルタンカーが転覆し、3月1日に沈没しました。燃料油の一部が流出し、周辺海域・住民に深刻な被害が出ています。

今回のブログ記事では、この油流出によってもたらされる現地での環境・社会影響と、より大規模な油流出を引き起こす可能性のある周辺海域での化石燃料開発に警鐘を鳴らす声の高まり、そしてその開発における日本の関与について紹介します。

フィリピン全土の地図と、ヴェルデ島海峡等の位置関係

「海のアマゾン」を脅かす油流出

2月28日、燃料油を運んでいたオイルタンカー「プリンセス・エンプレス」号にエンジンの故障があり、3月1日にミンドロ島沖で沈没しました。積載していた80万リットルの産業用燃料油の一部が流出して大きな被害につながっており、現地の活動家も政府による早急な油除去を求めています

この油流出はフィリピン現地の20以上もの海洋保護区の豊かな生物多様性を危険に晒すと指摘されています。というのも、この油流出が発生した周辺海域であるヴェルデ島海峡は、「海のアマゾン」と呼ばれているほど海洋生態系の豊かな海域です。世界で認知されている近海魚種のなんと6割がヴェルデ島海峡に生息しており、世界で最も豊かな海洋生物多様性を誇ります[1]。1,736種類以上の魚種、338種類以上のサンゴが豊かな生態系を形成しており、この海洋生物多様性の豊かさは、漁業、観光業、養殖業などを通じて現地の200万人以上の人々の生活を支えていると報告されています[2]。

今回の油流出はこの海域に住む多様な魚やサンゴに壊滅的な影響を与えてしまう可能性があります。環境問題に取り組む市民連合であるGreen ConvergenceのNina Glanag博士は現地市民団体のプレスリリースの中で、「この不幸な事故の犠牲になった魚や海鳥の死体の悲痛な写真は、迅速に対処されないであろう油流出による悲劇の始まりに過ぎません。油は、中毒や窒息によって海に住む生物を死に至らしめることがあります。ヴェルデ島海峡の海洋生態系と沿岸環境は大きな危機に瀕しています」と指摘しています

東ミンドロ州ポラの干潮時には、悲惨な油流出の影響で、油膜、油の塊、魚の残骸が確認された。(©︎ Jison Tiu, CEED)

東ミンドロ州ポラの干潮時には、悲惨な油流出の影響で、油膜、油の塊、魚の残骸が確認された。(©︎ Jison Tiu, CEED)

地元の漁村への影響

ヴェルデ島海峡の豊かな海洋生態系が崩れてしまうと、それを生活の糧にしている現地の人々も困窮してしまいます。特に漁民の方々にとっては、魚が捕れなくなってしまうため生計手段への影響は甚大です。実際、地元政府はすでに漁業活動を禁止しており、沈没したタンカーからの油流出を止めるためにどう処理を行うのか、またその処理がいつ完了するかも不透明な中、その間代わりとなる生計手段もない現状について、漁民の方々は「コロナ禍よりもひどい」と不安を吐露しています。

東ミンドロ州ポラで、干潮時に海岸で油の塊と魚の残骸を眺める漁師のRobert Lakdawさん(47)。彼は、現在進行中の除去活動にボランティアで参加していたが、健康被害を最小限に抑えるため、立ち入らないようにと言われた。(©︎ Jison Tiu, CEED)

「ヴェルデ島海峡を守ろう!」キャンペーンの呼びかけ人であるEdwin Gariguez神父は、油流出が起きた直後の3月1日に、「私たちは、流出への対応が遅れた場合、漁業活動が制限されるのではと心配しています。すでに漁獲量が減少している中、油流出によって魚が死滅することで魚がさらに減少するかもしれません。油流出は、この国で最も貧しいセクターの中に入る私たち漁師が既に直面している問題を悪化させるでしょう。食卓に並ぶであろう魚は、食用に適さず、食中毒を引き起こす可能性があることは言うまでもありません」と語っています

ナウハンの海岸に停泊している漁船。海に出航して漁業活動を再開する目処は立っていない (©︎ Jison Tiu, CEED)

同氏はまた3月10日に、油が流出して以降、「18,000人以上の漁師が漁に出られず、36,000ヘクタールものマングローブ、サンゴ礁、海藻地帯が危機に晒され、東ミンドロ州のポラ町に住む50名以上の住人が熱やアレルギー症状を起こしていると報告されている」と話しています。生物多様性や生計手段だけでなく、住民の健康にも悪影響を及ぼしていることがわかります。

漁民のJennifer Jaquecaさんはこう語ります。「規制があったとはいえ、パンデミックの間は生計を立てることができました。しかし今は油流出で漁業が禁止されています。私たちはどうなってしまうのでしょうか?」(©︎ Jison Tiu, CEED)

ヴェルデ島海峡におけるガス開発

しかし、このような環境破壊と生計手段への甚大な被害は、このヴェルデ島海峡の周辺に暮らす人々がずっと苦しんできたことです。

というのも、このヴェルデ島海峡は、海洋生態系の中心地である一方、フィリピンで急速に進むガス開発の中心地でもあるのです。フィリピンに存在するガス火力発電所6基のうち5基がここにあり、新規の液化天然ガス(LNG)・ガス火力発電所建設8案件とLNGターミナル建設7案件がここで進められる予定です。ヴェルデ島海峡で建設されている新規LNGターミナルの一つであるイリハンLNG輸入ターミナルは、日本の国際協力銀行(JBIC)及び大阪ガスが出資者として参画しています。

このような化石燃料事業が、ヴェルデ島海峡の豊かな海洋生態系とそれに依存する住民の生計手段を既に破壊してきました。FoE Japanがヴェルデ島海峡に接するバタンガス州で昨年実施した現地調査においても、現地に住む漁民の方々が、ガス火力発電所が建設されて以降、漁獲量が減り、生計が成り立たなくなったという話をしてくださいました。

また、フィリピンの市民団体CEED(Center for Energy, Ecology, and Development)は、昨年カリタス・フィリピンと共同で公表した研究報告書において、ヴェルデ島海峡で観測された海洋生物多様性の減少は同地でのガス開発によるものではないかと示唆しています。さらに両団体は水質についての別の報告書で、ヴェルデ島海峡のバタンガス湾(位置関係は上段地図参照のこと)の水質調査を実施したところ、リン酸塩、クロム、全銅、鉛、亜鉛などの汚染物質の濃度がフィリピン国内の水質基準を超えたという結果を紹介しました。これを受けてフィリピンの漁民団体であるバタンガス漁民団結(BMB:Bukluran ng Mangingisda ng Batangas)を中心とするグループは、フィリピン環境天然資源省(DENR)に要請書を提出し、事業地周辺のヴェルデ島海峡水域を、「自然または人為のいずれかの特定の汚染物質が既に水質ガイドラインの値を超えている」ことを意味する「(環境基準)未達成地域」として宣言し、基準を超過している汚染物質の新たな排出源となる施設の建設を許可しないよう要請しました。 

このように化石燃料事業による住民への悪影響は、枚挙に暇がありません。前述のイリハンLNG輸入ターミナル事業は、すぐそばに隣接する建設中のガス火力発電所にもLNGを供給することを目的としていますが、昨年11月下旬にこのガス火力発電所の建設現場で道路崩落事故が発生しました。杜撰な工事によって発生したこの事故で多くの市民が利用する幹線道路が崩落し、ここでも住民生活に悪影響を与えました。

ちなみに、このガス火力発電所の事業者の親会社はフィリピンの大企業、サンミゲル社(San Miguel Corporation)ですが、今回の油流出事故のタンカーを手配したのも同じくサンミゲル系列の船会社(San Miguel Shipping)の子会社だと判明しました。サンミゲル社はフィリピンでのガス開発を主導しており、フィリピンの市民団体は今回の油の除去作業にかかっている費用や被害を受けた住民への賠償の支払いをサンミゲル社に求めています

終わりの見えない化石燃料開発による被害

フィリピンでの急速な化石燃料開発という背景に目を移すと、今回の油流出は、このより大きな問題の延長線上にあることがわかります。したがって、このような油流出は、根本の問題である化石燃料開発が続く限り、今後も発生してしまうことが懸念されます。

この点について前出のCEEDの事務局長であるGerry Arances氏は、「LNGターミナルの建設が続く限り、このような事故はヴェルデ島海峡で初めてでもなく、最後でもないでしょう。この海域を往来するタンカーが増えれば増えるほど、たとえ万全を期していたとしても、再びこのような事故が起こる可能性は高くなります。次に起こる事故はさらに深刻で、ヴェルデ島海峡に取り返しのつかない損害を与えるかもしれません。だから、私たちは政府に対し、電力危機の解決策としてLNGの輸入に頼ることを再考するよう求めています」と話しています

化石燃料開発による悪影響のみならず、油流出そのものによる悪影響も長引くと懸念されています。Arances氏は、「2006年に起きたギマラス海峡の事故は、油流出がいかに悲惨なものであるかを示すものでした。(油流出の影響を受けた:訳註)マングローブが回復の兆しを見せ始めたのは、事件から13年後の2019年のことでした。これは、化石燃料に依存すると環境に大きな損害をもたらすという政府に対する警告であったはずですが、政府はまだ教訓を学んでいないようです」と語ります

このように、化石燃料開発事業は現地の生態系のみならず住民の生活にも長期的な悪影響を及ぼします。油流出とその根本原因である化石燃料開発を止めるために、FoE Japanは今後も現地のパートナーたちと共に活動を続けていきます。(長田大輝)

出典

[1] Carpenter, K.E., Springer, V.G. 2005.The center of the center of marine shore fish biodiversity: the Philippine Islands. Environ Biol Fish 72: 467–480.

[2] Center for Energy, Ecology and Development. 2022. Financing a Fossil Future: Tracing the Money Pipeline of Fossil Gas in Southeast Asia. p.39

Center for Energy, Ecology, and Development. Press Release: Immediate action needed on oil spill to protect Verde Island Passage, group says. March 1. 2023 

Center for Energy, Ecology, and Development. Press Release: Groups demand strengthened measures in VIP to address environmental nightmare. March 3. 2023.

Center for Energy, Ecology, and Development. Press Release: Dispatches from a Disaster: Oil Spill in Mindoro. March 3. 2023.

Center for Energy, Ecology, and Development. Press Release: Dispatches from a Disaster: “Worse than COVID” March 9. 2023. 

Center for Energy, Ecology, and Development. Press Release: 10 days, zero accountability: oil spill-affected communities lament radio silence of responsible parties. March 10. 2023. 

Center for Energy, Ecology, and Development. Press Release: POLLUTER MUST PAY: STATEMENT OF PROTECT VIP ON THE INVOLVEMENT OF SAN MIGUEL CORPORATION IN THE OIL SPILL IN VERDE ISLAND PASSAGE. March 13. 2023.

日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(16)

第六回 えびの市大字西長江浦(その4)

本稿は、被害者の方々からお聞きしたお話を、ほぼそのまま「被害調書」として残しておくことを主目的としているものです。前回(2021年9月)からだいぶ期間が空いてしまいましたが、実際に起きている国内の違法伐採=盗伐について、引き続きご紹介していきます。

前回の投稿以降、盗伐問題への対応に関して、国や国会、そして九州圏内の自治体にも動きがありました。今後、本稿でも詳細を紹介していきたいと思います。

  • 2021(R3)年10月27日:林野庁による宮崎県森林盗伐現場視察
  • 2022(R4)年3月16日:森林の無断伐採及び無届伐採防止に関する南九州四県連携 実施要綱適用(熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県)
  • 2022(R4)年4月:伐採及び伐採後の造林の計画の届出(いわゆる伐採届)の様式改定
    ※森林法施行規則改正(2021(R3)年9月)に基づく
  • 2022(R4)年5月11日:田村貴昭共産党衆議院議員による国会質問
    ※宮崎県の現場再視察(2021(R3)年8月27日)に基づく

 今回も志水惠子さん被害事例の続編をご紹介します。
※今回も被害当事者の志水惠子さんのご了承を得て、実名で記述しております。

えびの署のあきれた対応~前回からの続き

前回は、志水さんが2020(R2)年12月21日に苦情申出に関してえびの署へ電話で確認をした際に、電話口で口頭での回答を得たところまで紹介しました。今回は、前回説明が漏れてしまった、えびの署が志水さんの盗伐事件に関して時効成立と判断した根拠についての説明から始めます。

えびの署A警部(課長)が言うには、①盗伐被疑者2名は2017年2月~3月28日に伐採したと供述している、②捜査した結果、盗伐木材は都城地区製材業協同組合に1,300本搬入されている、とのこと。この1,300本の丸太について、志水さんは同組合に確認に行きましたが、組合トップの2名からは「木の本数なんか分かりませんよ」、「ここにはサイズに伐った丸太しか搬入されません」という素っ気ない回答でした。このことをA警部(課長)に伝えると「回答できません」と定番の言い訳に終始し、明快な回答は得られていません。

その後、12月21日の電話口でのやり取りにおいて聞き逃しがあったため、2021(R3)年1月8日、確認のためにえびの署の副署長H氏を訪ねました。しかしこの日のやり取りは極めて非生産的なものでした。志水さんが質問するとH氏が事実と異なる警察の見解を述べ、志水さんが事実を訴え&主張し、H氏は揚げ足を取るような回答に終始するといった具合で、挙句の果てH氏は部屋の照明と暖房を消して二階に上がってしまう始末。仕方なく志水さんはご友人と駐車場の車内で40分程度待った後、再び窓口にH氏との面会を依頼すると、H氏は出てきたものの、何も答えなくなってしまったそうです。あきれた志水さんは「こんな状態では供述調書なんて作れるわけはないでしょう」とH氏に問いかけるも返答はなかったそうです。

被害者に大きな負担 ~再び体調を崩した志水さん

そんなやり取りを経た後、えびの署から「供述調書を作りたい」との連絡がありました。こうした極めてストレスフルなえびの署とのやり取りにより、2021(R3)年2月下旬、志水さんは再び体調を崩しました。突発性難聴で、「うつ」の症状も併発し、一日中暗い部屋で過ごさねばならないようなこともあったそうです。

追加的な証拠を入手

その後、体調も少しずつ回復に向かう中で、志水さんはえびの署からの依頼に対応することにしました。これまでのやり取りの繰り返しを回避すべく、志水さんはえびの署へ行く前に、宮崎地方検察庁(本庁)の告訴・告発係に相談。「警察の調書に志水さんの反論と同意できない理由を記載してもらうとよい」との助言を得ました。

さらに追加的な証拠が必要と判断し、2021(R3)年3月8日、知り合いの素材生産業者の方に盗伐現場を見てもらい第三者の見解を求めたのです。結果は「切り株からは伐採後2年くらいしか経過していない。また古い竹と新しい竹とを比べれば一目瞭然で4年が経過した現場ではない」というものでした(写真1)。さらには伐採後4年が経過した切り株と盗伐現場のものとの比較により、その見解の裏付けも行いました。

(写真1)古い竹と新しい竹の様子(志水氏撮影)

供述調書作成は手書きで

2021(R3)年3月11日からいよいよえびの署において志水さんの供述調書の作成が始まりました。作成に際し、志水さんは容易に編集可能なパソコンでの作業ではなくて、手書き作業を要望し、受け入れられました。作業は一日3時間で4日かかりました。その内容には志水さんが主張する様々な事実、例えば、盗伐された林地内の樹木にはピンクのリボンが付けられていたこと、盗伐発見時に伐根には土が付いていたこと、A警部(課長)が言うような伐採後3年が経過したような林地ではないことなどがきちんと記述されました。

手書きを要望した理由の一つは、それが目視確認できることでした。しかしすべて満足とはいかず、えびの署は捜査資料に関しては一切志水さんに開示することはありませんでした。また2020年3月上旬に被害者の会会長の海老原氏が志水さんの盗伐に関して第三者に相談している事実は認められず、最後までえびの署は志水さんから盗伐相談があったのは2020年4月ということを押し通したのでした。

宮崎地方検察庁都城支部へ直接アプローチ

4日間に渡る計12時間をかけた調書は、2021(R3)年5月7日、えびの署から宮崎地方検察庁都城支部に送致されました。しかしながら、被害者の会のこれまでの経験から警察の対応に疑念を抱いている志水さんは、検察の判断をただ待つのみならず、宮崎地検都城支部のT副検事に宛て、警察に提供した資料に加えて新たな証拠となる資料2つを提供しました。一つはえびの市農林整備課の職員2名が2020(R2)年1月29日の直近に伐採しているという証言、一つはGoogle Earthの衛星画像で盗伐被害前の様子を示した3種の画像(2019年1月4日(伐採跡なし)、2019年10月30日(伐採後)、2020年2月21日(伐採後))です。この画像から伐採行為があったのは2019年1月4日以降から10月30日以前であることが分かります。少なくとも2019年1月4日までは伐採されていなかったことが判明しており、警察が時効の根拠としている2017年2~3月というのは事実とは異なるものです。

宮崎地検都城支部に資料を提供した後、志水さんはT副検事と直接電話でやり取りをしましたが、そのやり取りで幾つか志水さんが知らされていなかった事実が確認されました。

(1)不動産侵奪罪に関する実況見分の実施

志水さんの認識では、えびの署は盗伐に関するヒノキの林分に対する実況見分は実施したものの、畑にされた林分に対する実況見分は実施していないというものでした。ところがえびの署から検察へ送られた資料において、えびの署は不動産侵奪罪についても実況見分を実施し、調書を作成していたのです。

このことについては2021年10月20日、志水さんも西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)に確認をしたところ、九州支社宮崎高速道路事務所管理第一課長O氏から「旧道路公団の杭は20mごとにあり、志水さんの林地は畑になっている」との証言を得ました(写真2)。また畑部分の実況見分に関しても、えびの署の4名(A警部(課長)、署員S、他2名)とNEXCO西日本とで実施したことを確認しました。なおNEXCO西日本側では志水さんの亡父から土地を入手した記録や取得金額についても把握しており、開示してくれたのだそうです。

(写真2)道路公団の境界杭(志水氏撮影)

それにも関わらずT副検事は「森林法は時効で、不動産侵奪罪に関しては志水さんの森が盗まれた証拠がない」と回答したそうです。

(2)Google Earthの衛星画像は証拠不十分

志水さんが宮崎地検都城支部に提供した資料について、T副検事は「その資料は見なかった。不動産侵奪罪に関しては証拠が不十分である」と回答したそうです。志水さんは「では現場を見てください」と問いかけると、「現場に行きました」との回答。しかしながらT副検事は志水さんの多くの質問に答えられず、その受け答えからは現場を十分に把握、理解しているとは到底思えないものでした。なおT副検事は本来ならば「伐採届がないと伐採できない」ことすら知らなかったそうです。

結果から言えば、宮崎地検都城支部T副検事は、資料を見ない、被害者の話は聞かない、質問しない、という対応であり、えびの署A警部(課長)と同じ対応でした。被害者の会会長の海老原さんは「宮崎県内の警察機構と司法機関は、被害者の言う事は全て聞き入れないことを徹底している。今回のシナリオは警察が作ったものであろうし、事業者への取り調べなどしていないだろう。事業者も偽証罪などを加えられる恐れもあるため、警察には易々と嘘はつけないだろう」と警察、検察への不信感を露わにしています。

志水さんも宮崎地検都城支部にアプローチをした当初、電話にて「警察の調書は捏造されているので、検察が最後の砦だからしっかり捜査をしてくれ」と依頼したそうですが、「結局、都城支部は何もしなかった」と期待外れにがっかりしています。

田村衆議院議員、再び盗伐現場へ

志水さんの頑張りも空しく、2021(R3)年7月9日、宮崎地検都城支部から不起訴処分の通知が届きました。

森林窃盗罪の上に不動産侵奪罪まで明白な容疑者Iを野放しにしておく。こんなことが許されてよいのか?被害者の会ではこの事態を打開すべく、再び田村貴昭衆議院議員に働きかけ、2021(R3)年8月27日、田村議員の現地視察が実現しました。この視察において、ニンニク畑の周辺に実生のスギ、ヒノキの稚樹を発見。これは林地内の立木の樹齢が実をつける頃合いだった、つまり50~60年生以上だったことを証明するものです。またその成長度合からは伐採時期についても示唆するものです。伐採後4年が経過した伐採地であれば、3~4年生の稚樹が想定されますが、そのサイズには至っていませんでした。

その後、被害者の期待どおり、田村議員は2022(R4)年5月11日、衆議院農林水産委員会において、志水さんの被害現場視察に基づく国会質問をしました。以下、衆議院農林水産員会のサイトにおける議事録から抜粋したものを掲載します。

人の山林を無断で伐採して木々を盗み取る盗伐が後を絶ちません。大量の木が伐採された後に、植林はおろか、材木は置いたまま、路網も放置したまま。今述べてきたような災害の温床となります。

またしても宮崎県の事例を紹介するのですけれども、資料の2を御覧いただきたいと思います。上の写真は宮崎県串間市です。所有者、盗まれた杉の木が実に三千本。下は宮崎市高岡のところです。これは公道に面しているところで、大胆不敵といいますが、木を切られました。共に所有者の方は憤慨しておられます。
(中略)

取調べは警察の役割であります。警察庁にお越しいただいております。

盗伐は、れっきとした犯罪であります。この事例以外にも、例えば宮崎県のえびの市でこんな話を聞きました。私も見てきたんですけれども、ヒノキを二百本以上、勝手に切られた、その後、畑地にした、そしてニンニクとか牧草、イタリアンを勝手に植えておるんですよね。それで平然としているんですよ、切った人が。何でこういう犯罪がまかり通るのか。すなわち、捕まらないからなんですよ。
窃盗の上に不動産侵奪、これはひどいですよ。厳重に取り締まるように、立件するように繰り返して求めてきましたけれども、更に強化していただきたいと思います。

森林の無断伐採を防ぐために、宮崎県、熊本県、大分県、鹿児島県の九州四県は、立件されるなどとした悪質な業者をリスト化して、そして情報共有する取組を始めました。こうした県と連携を取って、取締りを強化していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○住友政府参考人 お答え申し上げます。
今委員御指摘がありました、熊本県、大分県、宮崎県及び鹿児島県を主体としてこうした情報共有が行われているということは、我々も承知をしております。

そして、都道府県警察においては、従前から、自治体や関係機関と連携をし、森林窃盗被害に関する情報共有、合同パトロールや取締りを行っておるところでございます。

そして、警察庁としては、昨年の十月に、林野庁の、先ほどもお話が出ておりましたけれども、新たな取組といったものを踏まえて、都道府県警察に、森林窃盗事案発生の未然防止に向けた関係機関との緊密な連携について改めて周知を図ったところでございます。

自治体等と一層連携を図りながら、森林窃盗被害に対応できるように、我々としても、引き続き都道府県警察を指導してまいります。
(出所)衆議院のWEBサイトから
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000920820220511014.htm

宮崎地方検察庁(本庁)に最後の望みをかけて

田村議員の盗伐現場視察で高まった機運に乗り、2021(R3)年8月30日、志水さんは最後の望みをかけて宮崎地方検察庁(本庁)にアプローチ。これまでの内容に不動産侵奪罪、軽犯罪法違反、証拠隠滅罪、そして容疑者Iにつけられた作業道によって境界杭が壊された境界損壊罪を加えた「告発状」を直接提出しました。

この提出にもドラマがありました。志水さんは当日午前9時に窓口に提出したのですが、窓口で応対してくれた告訴告発係のM課長が内容を確認すると、別室にて入念に手直しを指示してくれ、結局午後7時半までかかって、ようやく提出したのだそうです。出来上がった「告発状」は志水さんに有利に働くようなものに仕上がりました。

その後、宮崎地検本庁M課長から告発状が正式に受理された旨の電話連絡があり、『一度不起訴処分の案件が再び受理されたことは宮崎県初で、全国でも異例』と言っていたそうです。そして、2021(令和3)年9月28日には検察審査会に審査申立をして、受理されたのでした。

その後、志水さんは2022年3月31日に実測図が入手できたことをM課長に電話で伝え、「後日、現物を持っていきます」と話をしていたのですが、残念なことにM課長は2022年4月1日付で福岡地検に異動してしまったそうです。

被害地に「立ち入り禁止」の看板を立てるも、、、

再び告発状が受理され、宮崎地検本庁を動かすことができ、わずかな望みを繋ぐ間、2021(令和3)年10月7日、志水さんは不動産侵奪被害を受けている盗伐被害地に「立ち入り禁止」看板を立てました(写真3)。ところが一週間もたたずに壊されてしまったのです(写真4,5)。怯むことなく11月に再び「立ち入り禁止」看板を立てるも、すぐに壊されてしまいました。そこで12月21日、今度はコンクリートで基礎を固めて頑丈な看板に仕立て上げたのですが、それもあっさりと引き抜かれてしまいました。

(写真3)「立ち入り禁止」の立て看板を設置(志水氏撮影)
(写真4)壊され、倒された看板(志水氏撮影)
(写真5)えびの警察署署員の現場検証の様子(志水氏撮影)

さすがに志水さんも黙っていられず、えびの署へ器物損壊被害を訴える告訴状を提出しました。これを受けてえびの署K警部補は容疑者Iを呼び出して確認をすると、Iは「看板が見えなかったから農機具がぶつかった」と供述したそうです。志水さんが写真を見せながら「これはぶつかった話ではないでしょう。切り裂かれていますよ」と問うと、K警部補も小さな声で「私もそう思います」と発言したのでした。

志水さんの他にもIによる盗伐被害者が

志水さんが一回目の「立ち入り禁止」看板を立てた後、10月19日にご友人の一人から知らせがありました。志水さんの被害地近辺で同様の盗伐被害者4名が明らかになったのです。その4名のうち3名はすでにIからわずかな示談金を受け取っていました。1名は志水さんをはじめとする被害者の会がサポートし、告訴状を宮崎地方検察庁に提出しました。また宮崎地検本庁にも告発状を提出し受理されたのでした。この詳細は次回、ご説明します。

止まない犯罪行為~容疑者Iは野放し状態

志水さんが所有地の盗伐被害に気付いてから1年半以上が経過し、その間、警察、検察の捜査が入っているにも関わらず、容疑者Iは犯罪行為を咎められることもなく、逮捕されることもなく、さらには大人しくなるどころか開き直ったように堂々と不法な土地利用を続け、土地所有者の警告の意を示す看板すら破壊する始末(写真6)。『宮崎県えびの警察署が犯罪者の捜査をしていないから、人の山を今だに耕すのでしょう。約二反の畑です。不甲斐ない、でも現実です』とは、志水さんの悔しさがにじみ出るような発言です。

(写真6)被害地ではマルチも使用され、堂々と耕作地として使用されている

なぜ、このような状態が放置されているのでしょうか?その答えが得られ、このような状態が解決されるまで、盗伐被害者の会の方々の苦難は続きます。FoE Japanも彼らを継続して応援していきます。(三柴 淳一)

第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その1)
第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その2)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その1)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その1)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その3)
第四回 宮崎市田野町字荷物取地乙
第五回 国富町大字木脇(その1)
第五回 国富町大字木脇(その2)
第五回 国富町大字木脇(その3)
第五回 国富町大字木脇(その4)
第六回  えびの市大字西長江浦(その1)
第六回  えびの市大字西長江浦(その2)
第六回  えびの市大字西長江浦(その3)
第六回  えびの市大字西長江浦(その4)

「気候変動かるた」の出前授業を行いました!


スタッフの木次です。

2月上旬、中野区立桃花小学校の6年生4クラスを対象に、「気候変動かるた」の出前授業を行いました。

気候変動って?
どうして起こっているの?
私たちはどうすれば良いの?

そもそもNGO団体って?
どんな活動をしているの?

それぞれ単語は聞いたことがあっても、内容や意味がよく分からなかったり、難しいイメージを持つ方もいると思います。

そんな、なかなか難しい問題を知ってもらうために、今回の授業では気候変動について解説をしたうえで「気候変動かるた」で遊んでもらいました。

FoE Japanが作成・販売している気候変動かるた

授業の前半では、スライドを使いながら、SDGsを切り口に気候変動についての説明と、FoE Japanの活動紹介をしました。
難しい用語も多く分かりづらかったところもあったと思いますが、生徒たちは真剣に聞いてくれていました。

SDGsの意味やどんなゴールがあるのかを知っている生徒もおり、子どもたちにも単語や意味が浸透していることを実感しました。

気候変動についてのレクチャーを聞く生徒たち

後半は、いよいよ気候変動かるたです。

3~5人で1グループ作ってもらい、机を集めて絵札を広げます。お手つきなどのルールは各グループで決めてもらいました。

気候変動かるたで遊ぶ生徒たち

どのクラスも、札を読み始めるとすぐに大盛り上がりでした。

途中から、読み札を先に読むのではなく、読み札についている解説を先にヒントとして読み、どの札か予想してもらうなど、関心を持ってもらうために試行錯誤しました。

笑顔だったり、真剣だったり、悔しがっていたり、生徒たちがいろんな表情で遊んでくれていた姿が印象に残っています。

レインボーフラッグを持ちマーチを行っている様子を描いた札

残った時間では、一番気になった絵札と選んだ理由を教えてもらいました。

この絵札を見て、「なぜ旗がレインボーなのか」と質問をしてくれた生徒がいました。
これは、LGBTQ+コミュニティのシンボルであるレインボーフラッグです。絵札は、LGBTQ+コミュニティの文化をお祝いしたり、権利を求めて声を上げるための「プライド」のパレードの様子を描いており、参加している人たちがレインボーフラッグを持っていることが分かります。

そんなプライドパレードを描いた絵札には、「のぞむのは『だれもとりのこさない社会』」という読み札がついています。

FoE Japanでも、「地球上のすべての生命(人、民族、生物、自然)が互いに共生し、尊厳をもって生きることができる、平和で持続可能な社会を目指す。」を活動ビジョンとしています。

誰もとりのこさない社会にするためにも、気候変動の現状だけでなく、差別や格差などといった課題が社会にあると知ることが大切だと考えています。

今回の出前授業を通して、生徒たちにとって1つでも新たな発見や学びがあったら嬉しいです。

同じく中野区の江原小学校でも、5年生のSDGsの授業の導入としてかるたを使っていただきました。気候変動の問題についてまずは楽しく触れてもらえるよう、こうした活動をもっと広げていきたいと考えています。気になった方はお気軽にお声がけください!

「気候変動かるた」はご家庭や地域の集まりで遊んでいただくのもおすすめです!

\「気候変動かるたで遊んでみよう!」紹介ページ/

気候変動かるたで遊んでみよう! | 国際環境NGO FoE Japan

\ご購入はこちらから/

【横須賀石炭訴訟報告 vol.15】判決、原告の訴えは「却下」

1月27日、横須賀石炭火力訴訟の判決が言い渡されました。
14時過ぎに開廷、裁判長からの判決言い渡しはわずか30秒ほどで終了、「却下する」とのことでした。60名近くの人が集まりましたが、「判決文の通り」として理由さえ話されず、あまりにあっという間でした。

弁護団、原告団は15時すぎ「市民にCO2争う権利認めず」「世界の流れに逆行する不当判決」とする旗を出しました。


判決文は、こちらにアップされます。
横須賀石炭訴訟ウェブサイトはこちら https://yokosukaclimatecase.jp/


過去の横須賀石炭訴訟に関するブログ記事はこちら

若者向けオンラインイベント「オランダの学生と学ぶ、暮らしと環境問題」実施報告

こんにちは!

FoE Japanインターンの片山果恋です。

本日は、11月17日(木)に行われた10代・20代向けオンラインイベント「オランダの学生と学ぶ、暮らしと環境問題 ―私たちに今できること―」の報告ブログです!

気候変動対策など環境問題は世界全体で取り組むべきスケールの大きい課題です。しかし同時に日々の生活のあらゆる場面と深く結びついており、一人一人の力が非常に重要となります。

今回は「暮らしと環境問題」をテーマにとりあげ、オランダ在住の松下さんの協力で、オランダの学生たちと共に勉強し、交流することができました。

  • さまざまな環境問題が日常生活とどのように結びついているのか
  • 私達一人ひとりが何をすべきか
  • 海外ではどのような環境政策が行われているのか
  • 若者は環境問題に対してどのように考えているのか

このような疑問に対して気付きを得る機会となりました。

前半の勉強会ではオランダと日本の学生が各3組ずつ、関心のある分野についてプレゼンテーションを行いました。

(以下発表の概要)

~オランダ~

①リサイクル

飲料容器のデポジット制度 ”statieheld”は、スーパーマーケットで買ったペットボトルやビンなどを返却するとお金が戻る仕組みです。また、電池の回収箱が店に設置されていたり、路上に家具を置いておくとリサイクルしてくれるなど、オランダにはさまざまなリサイクル制度があります。国王の誕生日である4月27日には毎年大規模なフリーマーケットが開かれており、文化としても根付いています。

②交通

“サイクリングの天国” オランダでは自転車の普及が進んでおり、大統領も自転車で通勤するほどです。レーンの整備や教育、文化など、自転車の利用を進めるためにさまざまな取り組みが進んでいます。また、ゼロエミッションバスや電気自動車など、環境に配慮した乗り物も利用され始めています。交通のサスティナビリティにおいて世界をリードしていると言えます。

③電子廃棄物

電子機器生産の裏には発展途上国における鉱物の採掘、内線、採掘の際に毒素による健康被害があります。またパソコンやスマホを買い替えることで、古いものは電子廃棄物となります。電子廃棄物はリサイクルされているものも多いですが、一部は途上国で燃やされ、その過程で再び健康被害や児童労働など人権問題が発生します。私達は電子機器をむやみに買い替えず、中古品を賢く使うべきです。

~日本~

①建築

日本の建築には歴史的に「寒すぎる」という問題があり、暖房の使用量を減らすべく断熱性能の向上が求められます。行政の取り組みとして、今年6月に定められた建築物省エネ法では、新築の住宅や住宅以外の建物の断熱性能が義務化されました。また、個人ができる取り組みとしては、住宅の太陽光パネルの設置などによるエネルギーの自給自足があります。

②化粧品

歯磨き粉などに使われるマイクロビーズや日焼け止めに使われるオキシベンソンは海洋生物の命を脅かしており、化粧品に使われる雲母は途上国で児童労働により採集されているなど、化粧品に含まれる化学物質はさまざまな環境問題・人権侵害を引き起こしています。

また美容業界の対応として、グリーンウオッシングによって事実を隠蔽し、消費者を誤解させることもあります。化粧品業界はresponsible(責任のある)、aware(環境に配慮している)、truthful(嘘をつかない)であるべきです。

③食糧生産

農林業由来の温室効果ガスは人間活動の4分の1を占めており、特に畜産業は餌となる穀物の生産~飼育の過程で大量のメタンや亜酸化炭素を排出しています。また、畜産業は大量の水の使用や森林伐採にも繋がっています。ヴィーガンやベジタリアンなど肉食を控えることは解決策の一つであり、近年注目されています。日本において認知度はまだまだ低いですが、大手スーパーマーケットや飲食店では、肉の代替食品が増え始めています。

発表の後はグループに分かれ、発表の内容やお互いの国の環境政策・文化について活発な意見交換が行われました。英語が堪能な人もそうでない人も、言語の壁を越えて交流することができました。

イベントに参加した感想として、まず、私達の便利で豊かな生活の裏にはさまざまな環境問題や多くの人々の犠牲があり、それは絶えず続いています。その事実を一人ひとりが知り、自分にできる行動をすることで地球環境に少しずつ良い影響を与えられるのではないかと思いました。

また、オランダの学生発表や交流を通して、オランダにおける環境政策の浸透、人々の意識の高さに大変驚かされました。日本ではあまり環境に意識したライフスタイルが普及しているとは言えず、現状を改善していくべきだと思いました。

環境知識のインプットはもちろん、普段なかなかできない国際交流をオンライン上で経験することができ、大変有意義なイベントとなりました!

COP27閉幕 – 損失と被害に対する基金設立は歴史的一歩であるものの、その他の結果は危険なほど弱いものに

2022年11月20日, シャルム・エル・シェイク(FoEIによるプレスリリース)

原文はこちら

気候変動の取り返しのつかない影響を発展途上国に補償する損失と被害(ロスアンドダメージ)の基金が、米国や他の先進国による一貫した妨害にもかかわらず設立されたことは、膠着状態に陥っていたCOP27の交渉が歴史的な突破口を開いたことを意味します。この基金は発展途上国の主要な要求の一つでありましたが、実現が困難とみられていました。これは歓迎すべき第一歩です。しかし、先進国が責任を放棄する可能性はまだ十分に残されており、その他のCOP27の成果は極めて弱いものでした。

FoEインターナショナルのSara Shawは「数十年の苦闘を経て、ようやくロスアンドダメージのための基金が設立されたことは救いです。しかし現在、基金はまだ空っぽです。正義と公平性に沿って、先進国にそれに貢献することを保証させるための戦いが私たちを待っています。私たちは、十数年前に約束されたものの未だ達成されていない年間1000億ドル目標に対する富裕国の惨憺たる成績を繰り返させてはいけません。」とコメントしました。

COP27の結果には 「クリーンで公正な再生可能エネルギーへの移行」 の必要性への歓迎が含まれていますが、移行を達成するための、排出削減のための資金支援などの合意はなされておらず、緩和に関する成果は弱いものに留まりました。石炭の段階的縮小(フェーズダウン)について昨年合意されましたが、この部分に関して前進がなかったことは化石燃料産業を喜ばせるだけになると懸念しています。

FoEアフリカのBabawale Obayanjuは「COPの結果が 『排出削減の講じられていない石炭火力の段階的縮小』 のみに留まったという事実は、アフリカと気候にとっての大惨事です。石油やガスも迅速かつ公正に段階的に廃止されなければなりません。「排出削減の講じられていない(unabated)」 という小さな言葉は、巨大な抜け穴を作り、新たな化石ベースの水素と炭素の回収・貯蔵プロジェクトへの扉を開き、排出の継続を可能にしてしまいます。豊かな国や企業の利益のためにコミュニティを破壊しているガスを、これ以上アフリカで採掘する必要はありません。COP27で必要だったのは、すべての化石燃料を迅速かつ公平に段階的に廃止するという合意でした。」とコメントしました。

昨年、COP26では環境・社会正義団体の強い反対にもかかわらず、長い議論の末、炭素市場について合意に達しました。COP27では、地球工学や自然に基づくオフセットを炭素市場の仕組みに組み込もうとする急速な動きがみられました。警戒すべき動きです。これに関する議論は2年延長されることになりました。一方、最終決定文書からは、人権、先住民族の権利、労働権への言及は削除されています。

FoEインターナショナルの議長でスリランカ出身のHemantha Withanageは「炭素市場に関する決定を非常に憂慮しています。COP27は、地球工学、危険で検証されていない技術、いわゆる自然に基づく解決策をカーボンオフセット市場に組み込もうとする動きを一時的に遅らせましたが、これらの脅威が去ったわけではありません。炭素市場は、汚染者による継続的な排出、脆弱なコミュニティからの土地、森林、水の奪取、人々の権利の侵害を覆い隠しています。」とコメントしました。

COP27は、エジプトの活動家やジャーナリストに対する国家による弾圧の中で開催されました。これについてSara Shawは次のようにコメントしました。

「COPが終わってエジプトを離れても、私たちはここに残っている良心の囚人を忘ません。人権なくして気候正義はありません。市民社会はこれからもそれぞれの政府に働きかけ続け連帯を示します。」

このプレスリリースに関する連絡先

Sara Shaw, Climate Justice & Energy coordinator, Friends of the Earth International

sara[at]foe.co.uk, WhatsApp/Signal +44 79 7400 8270, @climatemouse, speaks English, Spanish

dipti bhatnagar, Climate justice & energy coordinator, Friends of the Earth International

dipti[at]foei.org, Whatsapp/Signal +258 84 035 6599, @diptimoz, speaks English, Portuguese, Spanish, Hindi

Madeleine Race, madeleine[at]foei.org, @foeint, speaks English, Spanish, French.

写真:Bianka Csenki, Artivist Network (@8iank4 / @artivistnet)

COP27終盤を迎えて – FoEインターナショナル記者会見

COP27の閉幕予定日である18日を迎えました。

FoEインターナショナルは閉幕に先立ち、記者会見を行いました。

記者会見の様子についてお伝えします。(注:登壇者のコメントは抜粋です)

録画を見る:https://unfccc.int/event/friends-of-the-earth-international-closing-analysis-from-experts-and-activists

画像

最終日前日である17日夜、最後の全体会議が始まり、いくつかの議題を採択して中断しました。議論が終わっていない6条(国際市場メカニズム)や資金等の議題は今も継続して議論されています。18日に閉幕予定ですが、会議はこのまま週末にも継続される見通しです。

気候危機打開のためには、すでに気候危機の影響に苦しむ途上国に対し、先進国が歴史的責任に鑑み、削減目標や支援を強化していく必要があります。

Meena Raman(FoEマレーシア/ Third World Network)は「途上国が最も重視している成果は、COP27で損失と被害(Loss & Damage/ロスダメ)のための資金ファシリティを立ち上げることです。現状のドラフトでは、COP27でファシリティを立ち上げ細かい議論は今後行うというオプション、今後ファシリティを立ち上げることを決定するというオプション、そしてロスダメ資金ファシリティについては何も決定しないというオプションが示されています。最初のオプションですら、資金についてなんの見通しもないことから不十分と言えますが、しかし最初の一歩とは言えます。しかしアメリカを筆頭に先進国が交渉の進展を妨害しています」とコメント。

また「先進国は共通だが差異ある責任を認めようとしていません。パリ協定にすでに明記されている原則です。中国を言い訳に行動しようとしていません。」

Karen Orenstein(FoE US)はアメリカの役割に触れ「アメリカはUNFCCCの交渉で、これまでもフェアプレイヤーではありませんでしたが、今回は特に悪いと同僚が話していました。米国はロスダメ資金に資金を供給できないだろうから設置に反対しているようですが、だからといって他の国が設置しようとしていることを止める必要はありません。ケリーは1.5℃を守ると言っていますが、アメリカこそ気候危機の原因です。LNG輸出国としてトップで、昨日も新たなLNG事業開発に許可を与えました。」とコメントしました。

Soumya Dutta(FoEインド)は、国際炭素メカニズムによりインドで生じている問題について取り合げ「パリ協定成立以降、そしてグラスゴー以降、危険な炭素除去やジオエンジニアリングや自然に基づくオフセットなどが話し合われています。インドでは200以上の炭素市場事業がCDMを通じて行われています。炭素市場事業により先住民族が伝統的に利用してきた森から追い出されています。石炭事業を行う企業が実施する巨大なソーラー事業により、水源が影響をうけ、牧畜を営んできた人々に水が行き渡らなくなりました。過去10年近く炭素市場を見てきましたが、売り手側も買い手側も排出を削減できていません。炭素市場はまったくの詐欺です。」と炭素市場を批判しました。

最後に、Tatiana Roa(FoEコロンビア/CENSAT Agua Viva) は「ラテンアメリカの国々も他の地域と同じく、大きな影響を受けています。気候危機の悪化により、農業や生計手段、食糧安全保障への影響が懸念されます。気候危機の影響を受ける人々が増えているのに、危機に責任のある国は、真の解決策に資金をあてず、化石燃料産業への支援を続けています。真の解決策は、炭素を地中から掘りださないことです。」

昨年のCOPでは、石炭火力のフェーズダウンや化石燃料補助金の廃止などが盛り込まれました。交渉では、決定文書に「すべての化石燃料の廃止」を盛り込むのかどうかなどについて、議論が続いています。

化石燃料からの公正で、迅速なジャスト・トランジションを

11月15日は「エネルギー・デー」ということで、エネルギーに関連するアクションやサイドイベントが多数行われ、化石燃料のフェーズアウト(段階的廃止)を求める市民社会の声が会場内で響き渡りました。

交渉でも、先週の議長国コンサルテーションの場で、昨年に引き続きインド政府が「全ての化石燃料の公正な縮小(equitable phase down of all fossil fuel )」を求めました。

また今週の議長国コンサルテーションでは、ツバルが化石燃料生産の拡大停止や化石燃料補助金の廃止に言及。公正な移行の必要性を訴えました。

石炭火力の廃止だけでなく、全ての化石燃料の削減を求める文言を決定文書に残すよう市民社会から強い声が上がっています。

昨年のCOPでは、決定文書にCOPの歴史上初めて、石炭と化石燃料補助金に関する言及が盛り込まれ注目されましたが、温室効果ガスの排出のほとんどが化石燃料由来であること、そして化石燃料事業に頼り続けることよって、開発現場では水質汚染や環境破壊、人権侵害、土地収奪などの問題が起きていること、そして化石燃料中心の社会が先進国や大企業に利益をもたらし続け、不平等な社会構造の維持に繋がっていること…そういった側面を考えると、一刻も早く全ての化石燃料のフェーズアウトが不可欠です。

化石燃料のフェーズアウトのためには、公正な移行計画が不可欠です。

公正なエネルギー移行に関しては、G7諸国などを中心にJETP(ジャスト・エネルギー・トランジション・パートナーシップ)という途上国向けエネルギー移行支援が行われていますが、透明性の欠如やさらなる債務の拡大など重大な問題点が潜んでいます。

インドネシアで開催されているG20では、11月15日、米国と日本が主導するインドネシアとのJETPについても発表がなされました。しかし、詳細はまだ明らかではなく、今後6ヶ月かけて内容を詰めていくといいます。市民社会からは透明性に欠け、実効性や社会影響などを懸念する声があげられています。

また11月14日、アジア開発銀行(ADB)、インドネシア政府、丸紅が出資する事業者が、ADBの主導するエネルギー移行メカニズム(ETM)の下で、チレボン石炭火力発電所1号機の早期閉鎖を進めることを発表しました。

チレボン1号機が早期閉鎖される方向であることは歓迎されるものの、ETMの下で、バイオマスやアンモニア、水素との混焼など、代替電源を用いて発電所が「再利用」される可能性もあります。また今回の合意では、チレボン1号機において10~15年の早期閉鎖が計画されているようですが、これまで地域社会が被ってきた大気汚染や生計手段への影響についても考慮すれば、チレボン1号機の一刻も早い早期閉鎖と環境修復が必要不可欠です。

さらに、チレボン1号機の事業者(出資者は、丸紅(32.5%)、韓国中部発電(27.5%)、Samtan(20%)、Indika Energy(20%))は早期閉鎖に向けて補償措置を受けることになるため、民間企業がとるべき座礁資産に対する責任を公的資金で補填することによるモラル・ハザードも懸念されます。こうしたメカニズムは、現在も石炭セクターへの投融資を継続している民間企業に対し、将来的に座礁資産に対する責任を逃れる、あるいは回避することが可能であるという誤ったメッセージを送るだけです。

一方、英国のパビリオンでは、昨年のCOPで発表された「クリーンエネルギーへの移行の公的支援に関するグラスゴー声明」(グラスゴー声明)の一周年を記念するイベントが開かれました。

これは、クリーンエネルギーへの公的支援を優先し、2022年末までに新規の化石燃料事業への公的支援を停止することを含んだ声明で 、日本以外のG7諸国が署名していることでも注目されました。

今日のイベントでは、新たにネパールが署名国として加わり(グアテマラも署名予定)、署名国・団体が41に増えました。署名団体のいくつかは、化石燃料に対する公的支援の制限を始めていますが、いくつかの国は、未だ新たな方針を掲げていなかったり、制限を設けても大きな抜け穴を残している国もあります。今後も声明に示された内容が確実に実行されているのか市民社会がウォッチする必要がありますし、署名していない日本政府に対しては、直ちに署名し、公的支援を停止するよう呼びかける必要があります。

(深草亜悠美)

一週目終了 – COP27は「アフリカCOP」なのか

11月6日に開幕したCOP27の一週目が終わりました。

通常一週目に技術的な交渉を中心に行い、二週目には閣僚級の政府関係者が参加し政治的な合意を話し合う段階に入ります。

12日に開催したFoEインターナショナルの記者会見の内容と共に、この1週間のハイライトを紹介します。

(12日のマーチ 写真:https://twitter.com/Artivistnet/status/1591398886287212545?s=20&t=_zR_dnsMIjr64kKaYeWT7Q )

人権なくして気候正義なし

一週目の最後、11/12は「COP27連合」(COP27のために結成された市民社会等のネットワーク)により世界的な行動の日(Global day of action)が呼びかけられており、日本を含め、世界各地で気候変動対策を求めるアクションが行われました。

2013年以降、エジプトの市民社会は深刻な抑圧を受けています。政府は活動家や女性、性的マイノリティ、ジャーナリストを対象に、不当逮捕や弾圧を続けています。

英国系エジプト人の活動家で、良心の囚人であるアラー・アブデル・ファターは、4月2日からハンガーストライキを行っていますが、11月1日からは1日に取っていた100キロカロリーの食事をやめ、COP開始日の6日からは水を飲むことも止めています。COPに先立ち、エジプト含む世界の市民団体などが、アラーの解放を求め、自由に市民活動ができるスペースなしに、気候変動対策はなしえないと声をあげています。

11月15日〜16日のG20開催が近づくインドネシア・バリ島でも市民活動の制限が厳しくなっています。過去10年間に、世界で少なくとも1733名の環境人権擁護者が殺害されました。カナダで、伝統的に守り継いできた水源や森を開発や収奪から守るために立ち上がっている先住民族やその支援者が犯罪者扱いされ、弾圧されています。ベトナムでも、環境問題に取り組んでいた方が逮捕された状況が続いています。

FoEグループは、権利侵害や環境のために立ち上がり、不当逮捕・迫害されている全ての人々に対し、これまでも連帯を示し、声をあげてきました。

グローバル・アクションデーの今日、エジプト国内では自由にデモ活動ができないため、12日には国連の会議場内(国連の会議場は国連の管轄になる)で短いマーチが行われました。本来であれば、路上にでて自由に市民が声をあげられるべきです。

12日に現地で開かれたFoEインターナショナルの記者会見においても、FoEインターナショナルのプログラムコーディネーターであるDipti Bhatnagarは「気候正義には連帯が重要です。私たちは今日ここにいない人のためにもCOPにきて活動しています。エジプト政府による人権侵害を受け入れることはできません。」と発言し、気候正義にとって人権や民主的スペースが不可欠であることを訴えました。

気候変動による損失と被害

COP開幕当初から注目されている損失と被害(ロスダメ)。途上国はロスダメに対する資金支援を長年求めてきましたが、今回のCOPで初めて正式な議題に上がりました。

Bareesh Hasan Chowdhury(FoEバングラデシュ)は12日の会見で「長年議論されてこなかったロスダメ資金に対する期待がある一方、交渉において、先進国は、今でも方向性を捻じ曲げたり議論を遅らせたりしようとしています。ロスダメは将来の問題ではなく、今すでに私たちが経験していることです。ロスダメ資金の合意なしに、シャルム・エル・シェイクを去ることはできません」とコメント。

交渉の中で、途上国グループ全てが、2024年より前に資金ファシリティが運用されることが重要であると主張していますが、アメリカは損失と被害に対しての先進国の責任や賠償を認めておらず、またしても交渉をブロックすることが懸念されます。

炭素市場

パリ協定6条、いわゆる炭素市場や二国間支援に関する交渉も、注目されます。

COP開始前日、6条4項の監督委員会が「除去」に関する勧告(Recommendation)をまとめました。この勧告は幅広い種類の除去手段をオフセットとして取引することを認めるもので、まだ技術的に確立していなかったり(CCS/CCUSなど)、土地収奪や環境への悪影響が予測される土地部門の除去やジオエンジニアリングをも認める内容でした。これに関して、市民社会だけでなく先進国途上国双方の政府からも懸念の声があがっています。

FoEグループはこれまでもオフセットは排出対策に繋がらないとして反対の立場をとってきました。また、「自然に基づく解決策」についても、大規模な土地収奪に繋がりかねないことや、排出削減に繋がらないことなどを訴えてきました(詳しくは:https://foejapan.org/issue/20220613/8344/ )

なお、ジオエンジニアリング(一般的に、気候変動問題の解決のために地球規模の影響をもたらしうる技術を利用することを気候工学、ジオエンジニアリングと呼ぶ)については、環境や社会への影響が未知数なことなどから、2010年に生物多様性条約で全ての気候変動関連ジオエンジニアリング技術に対し、モラトリウム(一時停止)が設けられています。

監督委員会が勧告を採択した段階ですが、第二週目でCOPが委員会に差し戻し、見直しを求める可能性は十分あります。

COPは化石燃料まみれ?

6条の交渉からもわかるように、国際炭素取引市場でのオフセットや自然に基づく解決策など、いわゆる私たちが誤った気候変動対策と呼んでいる策を強力に推し進めようとする(特に先進国の)政府や企業が数多く参加しています。

COP開始時点から強く懸念されていたのはガスを推進する勢力です。COP開始前から、ロシアのウクライナ侵攻を背景に、アフリカでのガス開発への関心が高まり、またアフリカのガス利権関係者は、アフリカのガス開発を開発の権利として主張し、脱化石燃料とは逆方向の主張を繰り広げていました。

12日の記者会見でも、FoEナイジェリアのRita Uwakaは「化石燃料事業の継続はコミュニティへの宣戦布告です。ニジェールデルタ(注:ナイジェリア最大の産油地帯で、環境汚染や人権侵害が非常に深刻な地域)で起きていることからもわかるように、石油採掘が水や土を汚染し、漁業者や農民に影響を与えています。自然は私たちの命です。」とコメント。また、気候危機や企業による環境破壊や土地収奪によって女性が被害を受けており、一方で、土や水を守ってきたのも女性であると強く訴えました。

世界中の市民社会団体や活動家、先住民族が立ち上がり、気候危機やそれを生み出した構造を変えようと取り組む中で、先に述べた通り、市民社会のスペースが世界中で縮小しています。

一方、今回のCOPには石油ガス産業の関係者が少なくとも636人が参加していることがわかっています。これは去年の数字から25%も増加しています。化石燃料産業がパビリオンでイベントを行い、化石燃料由来の水素の喧伝も行っています。

FoEUSのKaren Orensteinは会見で「米国政府はさまざまなイニシアチブを発表し、一見良く見えますが、一方でガス開発を拡大し、欧州への輸出を増やそうとしています。米国の気候変動に対する歴史的責任を考えると、排出対策も途上国支援も大幅に拡大しないといけません」とコメント。

また、米国の姿勢について、資金支援の文脈で、FoEマレーシアのMeena Ramanは「現在の資金支援のあり方では、気候危機に緊急に対応することはできません。資金に関する議論の文章はまだほとんどが「括弧付き」(交渉で未合意)です。米国は新たな資金支援なしにCOPに参加しました。また、米国が動かないのを言い訳に米国以外の先進国、EUや日本が動かないだろうことも問題です。気候変動対策が遅れている国々(Laggards)を待っていることはできません。これらの先進国に今すぐ行動を強化するよう叫び続けないといけません」と記者会見で述べました。

アフリカCOP?

12日に会場内で行われたマーチでは、ナイジェリア出身のNnimmo Baseyが「これはアフリカのCOPではありません。人々のためのCOPが必要です。汚染者をCOPから追い出すべきなのです。アフリカは歴史的に、そしてまた今まさに、豊かな国や企業により搾取されてきてました。奪われ、搾取され、破壊されている、まさに帝国主義です。」と力強いスピーチを行いました。

先進国によるアフリカでのガス開発もCOP中の大きな話題の一つとなっています。

12日、アフリカでのガス開発を止めるよう求めるアフリカの市民社会団体の連合「Dont’ Gas Africa」が新たなレポートを発表しました。レポートでは、このまま開発が進めば、投資回収ができず「座礁資産」となる可能性があり、また海外の企業に事業の権利を与えることはアフリカのエネルギーシステムが海外資本によって所有されることを意味し、その利益はアフリカの人々ではなく権益を持つ先進国に渡ること、開発による環境影響は地元の人々が被ること、などと指摘しています。

図:アフリカ大陸で建設中・計画中・操業中の石油・ガス関連インフラ(出典:https://dont-gas-africa.org/cop27-report/#press-release)

交渉がどう進展するのか、また交渉と並行して市民社会がどのようなことを訴えているのか、来週もお伝えしたいと思います。

(深草亜悠美)

気候資金と化石燃料ファイナンス – 日本は最大の化石燃料事業支援国

11/9は、議長国エジプトが「ファイナンス」をテーマとして設定しています。この「ファイナンスの日」に合わせ、会場内で「ファイナンス」に関するアクションが多数行われました。

気候危機が深刻になる中、先進国による途上国への資金支援は不足しています。

これまでも途上国から、すでに生じている変化に適応するための資金や、損失と被害(ロスダメ)に対応するための資金の拠出が強く求められていました。

先進国は2020年までに年間1000億ドル の気候資金を拠出する約束でしたが、それすら達成されておらず、気候危機の被害が拡大する中で資金不足は深刻です。そもそも途上国がNDC(国別気候変動目標)を達成するためには、2030年までに5兆米ドル必要だと試算されており、対策の実行には先進国が資金支援の義務を果たすことが必須です。

また、緑の気候基金(GCF)は緩和・適応事業への資金支援を行う重要な基金ですが、資金が底をついており、この状況も深刻です。また、損失と被害に対する資金拠出の道を開くことが途上国にとって重要です。

一方、先進国がいまだに多くの公的資金を化石燃料事業に費やしていることが問題です。

昨日発表された米国のNGOオイル・チェンジ・インターナショナルのブリーフィングは、日本が石油、ガス、石炭事業に対する世界最大の公的支援国であることを明らかにしました。

日本は2019年から 2021年の間に年間平均106億米ドルを拠出し、ガス事業に対してだけでも年間平均67億米ドルを拠出し、これは世界最大です。

日本の官民はアジア諸国において、多くのLNG事業に関与していますが、今回のCOPが開催されているこのアフリカ地域でも多くの資金を拠出しています。

日本のガスに関する資金の最大の受入国はモザンビークとロシアでした。2019年から2021年にかけて、日本はモザンビークと82億ドルの融資契約を結んでいますが、資金の99.5%は国内消費やエネルギーへのアクセスではなく、採掘と輸出に関連した施設に費やされています。

アフリカ大陸は、世界で一番温室効果ガス排出の少ない地域です。世界の排出のうち、たった3~4%しか排出していません。それにもかかわらず気候変動による大きな影響を受けています。

FoEインターナショナルの国際プログラムコーディネーターでモザンビーク在住のDipti Bhatnagarは「世界最大級のガス埋蔵地がモザンビーク北部で見つかり、豊かな国がそれを採掘しようとしている。海の資源や大地に依存して生きている地元のコミュニティからそれらを奪おうとしており、すでにガス開発によって100万人もの難民が発生している。2020年に日本を訪れ、モザンビークでガス開発をしないでほしいと申し入れた。しかしその後、日本政府は事業への融資を決定した。」とスピーチ。日本に対し、そしてその他の先進国や企業に対し、「アフリカを燃やすな(Don’t let Africa Burn)」と訴えました。

また、日本の官民によるガス開発が進むフィリピンから参加したKrishna Ariola(Center for Energy, Ecology and Development)は「気候危機に責任がある国々が、さらに多くの化石燃料を燃やそうとしている。フィリピンや他の東南アジア諸国は、まだ石炭から脱却する途上にあるのに、人々や環境を犠牲にしてガス依存の状況に陥りつつある。海のアマゾンと言われるヴェルデ島海峡で、巨大なガス開発が進んでおり、生物多様性も破壊されようとしている。今すぐ、融資国は化石燃料への公的支援を止めるべきだ」とコメントしました。

日本政府は化石燃料事業への公的支援を直ちにやめ、持続可能で地域のニーズに基づいた支援を行うべきです。

出典:http://priceofoil.org/content/uploads/2022/11/Japans-Dirty-Secret-JPN.pdf

写真(全て):Bianka Csenki, Artivist Network

(深草亜悠美)