「災害便乗型ビジネス」〜仙台港に乱立する火力発電所〜

2024年4月22日、宮城県多賀城市にて、仙台市に乱立する火力発電所を考えるための勉強会が開催されました。約35名の市民が参加する中、東北大学の長谷川公一教授が、2011年の東日本大震災以降、仙台市での火力発電所建設の動きについてお話しくださいました。

長谷川先生によれば、2011年3月11日の東日本大震災以降、東北地方には14基の石炭火力が計画されました(うち5基は中止、2基はバイオマス専焼に変更)。
その理由として、

  • 震災後の電力小売自由化によって、旧来の大手電力会社以外も発電事業に参入でき、また発電事業の場所にも管轄制限がなくなったこと
  • 燃料を陸上げできる港があること
  • 送電線の容量
  • 被災地の地価の安さ
  • 工業用水の確保
  • 県や市の企業誘致の熱心さ

を挙げ、「電力会社は港と空き地と送電線しかみていない。環境基準の壁さえクリアすればいいとして、環境アセスメントの義務が生じる規模以下の発電所を計画し、行政も事業者のいいなりのまま。これは一種の災害便乗型ビジネスだ」と指摘しました。

他にも、住民軽視の行政のあり方、仙台パワーステーション差し止め訴訟について、また発電所立地地域にほど近い蒲生干潟への石炭火力発電所などによる影響などの問題点を述べられました。

長谷川教授からの講演後、FoE Japan髙橋より簡単に、バイオマス発電の課題や石炭火力延命策としてのアンモニア・水素発電やCCSの問題点、気候正義の実現を求める世界の市民のアクションなどを紹介しました。

質疑や意見交換の時間には、「光化学オキシダントが2018年以降、7日中3日は基準値を超えている。それを議会に質したところ、議会はそれを把握していなかった。」との証言や、「仙台パワーステーションは、煙が出ている時と出ていない時がある。何か問題があって止まっているのか、それとも定期点検のための停止なのか、発電所からの情報が一切なく、とても秘密主義な会社だと感じている。そんな中、バイオマス発電所がさらに増える。6〜7月は南からの風が多くなるし、においが不安。」との声もありました。


5km圏内に乱立する火力発電所

勉強会後、仙台港の石炭過食発電所建設問題を考える会(以下、仙台港の会)の方々に、仙台パワーステーション、仙台港バイオマスパワー発電所建設地、仙台蒲生バイオマス発電所を案内いただきました。

仙台パワーステーション
・事業者:仙台パワーステーション株式会社
・出資者:株式会社関電エネルギーソリューション、エネクス電力株式会社
・事業地:仙台市宮城野区港一丁目4番1号
・規模:11.2万kW
・燃料:石炭(年間使用量約32万トン)
・2017年10月運転開始

案内くださった仙台港の会の方は、「パワーステーションが稼働している時はコークスのにおいがする。洗濯物も汚れるし、苦情を(仙台パワーステーションに)出しても反応がない」とのこと。

この港には太平洋フェリーという仙台と名古屋・苫小牧を結ぶ旅客船の乗り場もあり、幅約400mの港の両側に火力発電所ができると、乗船客は2つの発電所の煙を浴びることになる、ともお話しされました。

(建設中)仙台港バイオマスパワー発電所
・事業者:住友商事、プロミネットパワー株式会社、北陸電力、住友商事東北株式会社
・事業地:宮城県仙台市宮城野区
・規模:11.2万kW(想定年間発電量:約7.8億kWh/年(約26万世帯相当))
・燃料:輸入木質ペレット/国内材
・2022年4月着工、2025年10月に商業運転を開始予定。

仙台パワーステーションを臨む高松埠頭から車で10分もしないところに、輸入木質ペレットに頼る蒲生バイオマス発電所(杜の都バイオマス発電所)があります。
この発電所がたつ場所は元々小学校があった場所でしたが、東日本大震災の津波の被害をうけ小学校はなくなり、その跡地に建設されました。

仙台蒲生バイオマス発電所
・事業者:株式会社レノバ、ユナイテッド計画株式会社、住友林業株式会社
・事業地:宮城県仙台市宮城野区蒲生4-1-1
・規模:7.5 万kW(想定年間発電量:約55,330万kWh)
(一般家庭約17万世帯の年間使用電力量に相当)
・燃料:木質ペレット、パーム椰子殻(PKS)
・2021年2月着工、2023年11月運転開始

輸入木質バイオマスの問題点

再生可能エネルギーの一つとして導入が進められてきたバイオマス発電は、「光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収・固定し成長する『生物資源』を燃料としているため、大気中のCO2を新たに増やさない『カーボンニュートラル』な発電方法」と宣伝されることが多々あります。


しかし、近年急増したバイオマス発電所の燃料は、木質ペレットやパーム油など、海外から輸入されるものとなっています。需要の急増にともなって、海外の貴重な天然林が伐採され、生物多様性の破壊や森林とともに生きてきた人々の生活の破壊などの問題が起きています。


気候変動対策の観点からも、輸入型バイオマス燃料は、伐採や加工・輸送など、燃料を燃やす以外の工程でも多くのCO2を排出します。そもそも森林の再生には長い年月がかかり、それまで大気中のCO2は増加したままです。また、長い時間をかけて形成され、地上部にも地下部にも大量の炭素を貯留している森林を破壊してしまっては、かえって大気中のCO2を増やすことにつながっており、本当に持続可能なエネルギーとは言えません。

>より詳しくはこちら「バイオマス発電の7つの不都合な真実

終わりに

津波の被害を大きく受けた蒲生地区や七北田川の河口付近は、現在は津波の爪痕はすっかり見えません。しかし、災害後の被災状況を、金銭的な利益を生み出すビジネスチャンスとして捉えられ、震災を経てもいまだに、東京のための電気が、地方の人々の合意なしに作られる状況があることを突きつけられました。

日本は地震も多く、また、気候変動の悪化に伴い異常気象による災害の増加が予測されます。そのような中、小規模分散型の再生可能エネルギーに基づき、エネルギーの地産地消を目指すことが、災害の適応策にもなるのではないでしょうか。
災害後の地域復旧のあり方を考えさせられる機会になりました。

(髙橋英恵)