原発事故から13年の福島を訪問して(2024年3月10~12日)

2024年3月10日から12日まで、FoE Japanは、浪江町の今野寿美雄さんのご案内で、FoEドイツのメンバーとともに福島県を訪問しました。「3.11から13年」の11日、14:46には双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館の屋上で、海に向き合って黙祷しました。

原発事故から13年の各地の様子を、写真とともに紹介します。

3月10日 福島市にて交流会

10日(日)の午後に福島市に到着し、まずは福島テルサで交流会を開催しました。
ぽかぽかプロジェクトに参加する親子など、オンライン含め約30名が参加。ドイツに行ったことがある高校生なども、関心を持って来てくれました。
また参加者の方から、大河原さきさんのお話で、今の福島の状況を考えさせられたという感想もいただきました。

(FoEドイツの方のお話しについては、以下のトークでも報告します)
連続オンライントーク第2回「ドイツの脱原発とエネルギーシフトの現在地」2024年4月5日
https://foejapan.org/issue/20240326/16691/

福島市の方たち同士でも「久しぶり」「初めまして」などと会話があり、私たちも含め、今後に向けた新たなつながりもできました。

3月11日(月) 

浪江町民で福島市飯坂温泉で避難生活を送る今野寿美雄さんと合流し、2日間案内していただきました。今野さんが暮らす復興住宅には、浪江町から移り住んだ約50世帯が暮らしています。

飯舘村

前田地区の長谷川健一さん・花子さんのご自宅に立ち寄りました。

2021年10月に、甲状腺がんでなくなった長谷川健一さん。2012年にドイツにも訪問していました。仏壇にお参りし、花子さんと少しお話しすることができました。

玄関前での集合写真

東日本大震災・原子力災害伝承館

お昼頃に到着し、隣の産業交流センターで名物の浪江焼きそばをいただきました。

屋上からの眺め。

その後13時半すぎに伝承館へ。
14:46の黙祷は、伝承館の屋上で多くの方とともに行いました。

この日、伝承館でも夕方にはキャンドルナイトが予定されていました。

伝承館でも今野さんに案内していただきました
報道陣や行政の方もいるなか、伝承館の屋上での黙祷

イノベーションコースト

浜通り地域等の新たな産業基盤の構築を目指した国家プロジェクトという福島イノベーション・コースト構想では水素やロボットなどの研究開発拠点や農場など様々なプロジェクトがあり、多額の税金が投じられています。

エリアの中心部を一望できる高台にて今野さんが強調したのは意外にも太陽光パネルが並ぶ中にある空き地でした。この場所は以前、浪江・小高原子力発電所の立地計画があり、その計画に反対した住民が電力会社に土地を売らず、そのまま残っているというのです。

太陽光パネルに囲まれた空き地
太陽光パネルに囲まれた空き地

俺たちの伝承館

夕方、今野さんイチオシの『おれたちの伝承館』に移動。 福島県南相馬市小高にあるこの伝承館には実物やアートが中心に展示され、言葉だけでは表現できない原発事故のことが展示されているのが印象的です。

おれたちの伝承館ウェブサイト
https://suzyj1966.wixsite.com/moyai

キャンドルナイト

双葉屋旅館の前で、小高の住民の方たちが中心になってつくったキャンドルナイトに参加した後、おれたちの伝承館で行われたキャンドルナイトに参加しました。

竹や単管パイプで、写真家で館長の中筋純さんなどが手作りされたとのこと。
福島第一原発の方向を指す矢印が、キャンドルで照らされました。

ドイツからのメンバーからの挨拶もありました。インスタグラムでもその様子を配信しました。

インスタグラムの配信
小高の住民が開催したキャンドルナイト
おれたちの伝承館でのキャンドルナイト、奥には原発がモチーフのキャンドルも

双葉屋旅館

11日の夜は、小高駅・俺たちの伝承館からもすぐの、双葉屋旅館に宿泊しました。
女将の小林友子さんご夫妻は、原発事故後に避難生活をへて戻られ、2016年の常磐線開通に合わせ、旅館を再開しました。
その際に、仲間とともに綿密な放射能測定もされています。そういった活動をもとにウクライナへも訪問し、現在も交流を続けられています。
3月11日の当日に私たちが訪問したことに対し、小林さんは言ってくださいました。

「13年経ってようやく、前を向けるようになった。
これからも、原発事故のことを伝え続けなければならない。
海外からも東京からも、同じ思いを持つ人に来てもらい、一緒に過ごすことができるのはありがたい。」

双葉屋旅館前での集合写真

3月12日(火)

富岡町在住の西島香織さん・鈴木亮さん

浜通りを中心に活動をされている西島香織さん、鈴木亮さんにお話を伺いました。国際青年環境NGO A SEED JAPANでの活動などを経て、数年前に富岡町に移住し、原子力災害考証館furusatoの企画や運営、ふたば地域サポートセンター、有機農業という3つの柱を中心に活動されています。

核燃料税交付金事業で建設されたという富岡町にあるサポートセンターにて

お二人の子どもの健康についてFoEドイツのメンバーからは心配の声が上がりました。それに対して、鈴木さんは「かなり心配している。だが東京ではイメージで心配、ここ(富岡)では測定などをして具体的に心配。それ以上の心配はしたくない。これは難しいところ」と話しました。ただ、周りには「気にせず住んでいる人はいる。」とのことです。

西島さんは学生の頃、社会学の視点でどうして原発を受け入れたのかという研究をしていたといいます。考証館のコンテンツを考えたり、原子力市民委員会に所属し、FoE Japanの理事など、原子力災害に関する活動を続けています。

西島さん、鈴木さんとともに

ふくいち周辺の風景

当時のまま残された建物が散見できる国道六号線。多くの建物は解体され、空き地になっている様子がわかります。六号線からは以前は福島第一原発が見えたといいますが、今は見えることはなく、都心へ電力を運んできた送電線が伸びている様子が伺えます。

空き地が増えるも当時のまま残された建物がある
この向こうには福島第一原発、送電線が伸びている

武藤類子さん

中通りに位置する三春町に移動し、武藤類子さんと会いました。三春名物という三春そうめんを食べながら武藤さんのお話を伺いました。

武藤類子さんとともに
三春そうめん

コミュタン

その後、福島県環境創造センター交流棟(コミュタン福島)に移動し、今野さんや武藤さんに案内していただきました。

施設を見た後、武藤さんから政府・東電からのプロパガンダの話や、武藤さんが関わっている様々な裁判の話がありました。「さまざまな省庁、農林水産省、経産省、環境省、復興庁が事故後大々的に広告を出した。賠償を羨むようなプロパガンダをプロの広告代理店が行って、分断を生んでしまった」と、まさに放射能の安全神話を作り出している施設内で武藤さんは話します。
FoEドイツのメンバーからの武藤さんの活動に対する嫌がらせはないかという質問に対し、「SNSで攻撃があるかもしれないが、見ていないのでわからない。私自身に直接ではないが、例えばこの町で汚染水をどうして流してはいけないのかという講演会を開催した時、東京から来た人が『この趣旨の講演会に町が後援していいのか』というの苦情が町に入った。」と話しました。

裁判については、「関心がなくなり段々人数が減っている。福島原発告訴団の原告の数が14000人が4000人になった。裁判の原告団は会費で運営している任意団体」という。これに対し、来日したドイツのメンバーからは驚きの声が聞かれました。ドイツでは法人格を取るのが非常に簡単だというのです。汚染水の海洋放出について漁業者と市民が東電と国相手に裁判をしはじめたことについての共有もありました。

●感想

3月11日に福島の被災地へ。13年経って・・以前あらゆる空き地に置かれていたフレコンバックの山は中間貯蔵施設に運ばれ、帰還困難区域だったところも大きく様相が変わっています。家が解体された更地と新しく建てられた集合住宅、一見そのままであるように見えて、もう誰も住むことはなくなった家・・。それらの風景の背景にある、無数の悲痛な物語に思いをはせる2日間でした。(吉田明子)

3月11日当日を福島で迎えるのは今回が二度目でした。黙祷が捧げられた14:46、伝承館の屋上には行政の人や報道陣もおり、そこにしかない空気感がありました。13年経ってなお、事故の傷跡は消えることなく、当時のまま残された家屋がある一方で多くは壊され、荒れた大地にポツポツとある真新しい巨大施設が虚しくそびえているように思いました。日本の地方と国の問題が凝縮されたようなこの地域で、改めてこの国はどこへ向かっているのだろうか、そう感じました。(松本光)

3月11日が近づくと、福島に暮らす人たちはざわざわすると。特別なその日に、私たちがお邪魔してもよいのだろうかと、思いながらの3日間でした。浜通りはフレコンバックも見当たらなくなり、空き地には新しい無機質な建物が並びます。人の温かみが感じられないその街で、暮らしている人たちに思いをはせました。13年は長くもあり、あっという間でもあり、昨日の事の様に考えている人たちもいます。これから長く続く廃炉作業や街づくりに、私たちにできることは何だろうと考えさせられました。(矢野恵理子)


脱原発の活動は、これまで皆さまのご寄付によって続けてきましたが、事故から月日が流れて関心が薄れる中、活動継続のための運営費用や、新たな映像や資料の制作、広報費用などの資金が不足しているため、クラウドファンディングに挑戦することにしました。

原発のない安全で公正な未来に向けて、一人でも多くの方に仲間に加わっていただくことが、私たちにとって大きな力になります。どうかよろしくお願いいたします。

▼クラファンはこちらから
https://camp-fire.jp/projects/view/740978

【概要】
タイトル:原発ゼロへ!持続可能なエネルギー社会を目指す活動へのご支援をお願いします
期  間:2024年3月1日(火) ~ 4月26日(火)
目標金額:500万円
U R L:https://camp-fire.jp/projects/view/740978

処理汚染水の海洋放出をめぐり、規制庁、東電、経産省と会合

6月2日、東電の福島第一原発の処理汚染水を海洋放出するための実施計画変更を認可する審査書案をめぐり、規制庁、東電、経産省と会合を持ちました。審査書案は6月17日までパブリックコメントにかけられています。

事前に提出した質問への3者の回答については、こちらをご覧ください。
https://foejapan.org/wpcms/wp-content/uploads/220602_answers.pdf

会合では、いろいろと驚きの事実が明らかになりました。

以下、ポイントをまとめました。

1.放出される放射性物質の総量は不明。

まあ、これは以前からたびたび問題提起していたことではありますが、やはり放出される放射性物質の総量については不明のままです。東電は40以上あるタンク群のうち3タンク群についてのみ、64核種(ALPS除去対象の62核種+トリチウム+炭素14)について測定を行い、濃度を公表しています。
残りについては、東電は準備がととのったものから、放出前に測定し、順次公表するとしています。ちなみに、現在、タンクの水の7割近くで、トリチウム以外の放射性物質について、告示濃度比総和が1を超えています(つまり基準を満たしていません。下図参照)。東電は2次処理を行ってから放出するとしています。…つまり、準備ができたタンクから、二次処理→測定→放出…ということになるので、全量の放出が終了する30年後(?)にしか、放射性物質の放出総量はわからないことになります。

2.「64核種以外の放射性物質が残留していないこと」については東電がこれから検証し、規制庁があらためて審査する。

東電は、64核種(ALPSの除去対象62核種+トリチウム+炭素14)以外が残留していないことについては、今後、検証するとしています。またその検証結果を踏まえて放出前の測定対象核種を決めるとしています。規制庁は、東電の今後の検証を待ち、それを改めて審査すると述べていました。
ただ、このポイントは審査がはじまった段階で規制庁側が提起した課題だったのですが…。

3.東電はかきまぜずに測定。

東電の放射線影響評価で、示されている3タンク群およびタンクごとの濃度を公開している主要7核種の測定の前には、東電は攪拌を行っていませんでした。
これではタンクの底部にたまっているかもしれない物質を捕捉しそこねている可能性があります。
これらのデータは、ALPS処理水中の放射性核種に関する検討や、放射線影響評価の前提として使われています。東電はタンクを攪拌した上での測定を踏まえた上で、あらためて放射線影響評価を行い、規制委員会は審査をやりなおすべきではないでしょうか。
なお、東電は放出前に攪拌を行って測定を行うとしており、そのための設備も設置予定です。つまり正確な測定には「攪拌」が必要だと認識しているわけです。

4.ウランの取扱い

東電は、核兵器不拡散条約における計量管理の対象核物質であるウラン類を測定対象としていません。
東電は、ALPS除去対象核種を決める時、「原子炉停止 365 日後の濃度が告示濃度限度に対して 1/100 を超えたもの」を対象としたと説明しています。そしてALPS対象核種を測定対象としているわけです(場合によってはもっと絞り込まれるかもしれません)。
原子力市民委員会の滝谷紘一さん(元原子力安全委員会事務局技術参与)は「ウラン類は、溶融炉心が原子炉圧力容器の破損箇所から飛散流出する際に一部が微粒子になって固化し、冷却水中に移行、ALPSのフィルターを通過した微粒子が貯蔵タンクの底部に沈殿していると考えられる。海洋放出に際して貯蔵タンクからの水流の攪拌作用により微粒子が再浮遊して流出するおそれがある」と指摘しています。

5.放出前の測定対象核種は決まっていない

前述の通り、東電は「測定評価対象核種については、国内における廃止措置や埋設施設に関する知見を踏まえ、汚染水中に有意に存在するか改めて検証」するとしています。こんな重要なことを先送りにして審査を通してしまうとは驚きです。

6.放出後の海域モニタリングはこれから検討する

質問は、「海域モニタリングにより異常値が検出された場合は、緊急遮断弁の自動作動又は運転員の操作により、ALPS処理水の海洋放出を停止する、としているが、トリチウムについては週1回の測定ということになっており、異常値が検出されたとしても、一週間遅れという事態にもなりかねない」とし、常時モニタリングとするべきではないかというものでした。(原子力市民委員会の大沼淳一さんの問題提起です)
これに対し、「いや、それは放出前の海域モニタリングの話。放出後はこれから検討する」ということでした。
しかも、規制庁は、「海域モニタリング」は規制委員会の審査の対象外とも述べていました。海域モニタリングは、総合モニタリング計画の一環で政府の関係省庁や東電も入ったモニタリング調整会議というところでとりまとめを行っている、とのことでした。

7.東電は海洋放出費用の総額を示さなかった

「海洋放出する場合、数十年にわたる放出期間全体の費用はどのように評価しているのか」という質問に対して、東電は「将来も含めて処理水の処分にいくらかかるかを現時点で見通すことは難しい」と回答。
そんな馬鹿な!いくつか仮定をおいて、概算でも見積もりを示すことは、東電と国の責任だと思うのですが…。
経済産業省のもとに設置された「トリチウム水タスクフォース」での議論では、海洋放出は91ヶ月、34億円、とされていました。現在、報道によれば、本体工事費約350億円
2021~24年度の4か年で計約430億円に上る見通し」とされています。
改めて、他の代替案との比較評価を行うべきなのではないか。」という問いに対して、東電は国が丁寧なプロセスを踏んですでに決定している、国内で放出実績がある点やモニタリング等を確実かつ安定的に実施可能な点を評価して海洋放出が選ばれた、と回答しています。

しかし、原子力市民委員会が提案している、石油備蓄に使われている大型タンクでの長期安定保管やモルタル固化処分も実績がある点では同じではないでしょうか。また、国は「幅広い関係者のご意見等を丁寧に伺ってきた」わけではなく、国が選んだ「関係者」の意見を形式的にきく場をもうけただけです。国は海洋放出決定以降、公開の場の公聴会は開催していません。

大切なことがいろいろと先送りになっているのにもかかわらず、この審査書案も通されてしまうのでしょうか。

FoE Japanでは、審査書案に関するパブコメ・セミナーを開催中です。ぜひご参加ください。

第1回:6/6 19:00-20:00 (終了しました)
コメント:宇野朗子さん(福島から京都へ避難)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZAuc-mhrjwsGtWbyeb1oiHH5KdSiAMcZ9I7

第2回:6/11 11:00-12:00
コメント:阪上武さん(原子力規制を監視する市民の会)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZ0kfuGvrTwpHdK-Mnw5c6Yc86xVi52xjd_N

第3回:6/13 19:00-20:00
コメント:濱岡 豊さん(慶応義塾大学商学部教授)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZAocumupjMiGdBoTMlDzdFaR6tIsH0EL0Z9


【2分でわかる!汚染水動画シリーズ】

1 汚染水って何? 何が含まれているの?

2トリチウムって何?

3 代替案は?

4 人々の声は?

東電による汚染水「放射線影響評価」から読み取れること、読み取れないこと~放出される64の放射性物質の総量は?

東京電力は福島第一原発の「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書」を公開し、国内外からの意見を募集しています(12月17日23:59まで)。

東電は放射性物質の海洋拡散シミュレーションを行い、3つのタンク群と、仮想のALPS 処理水の核種組成(炭素14、銀110m、カドミウム113mなど人への被ばく影響が大きい9つの核種を選定)の 4つのケースについて人への影響を評価し、「すべてのケースで一般公衆の線量限度および国内の原子力発電所に対する線量目標値のいずれも下回った」としています。また、海洋生物への影響評価も行い、問題のないレベルと結論づけています。

ところがこの「放射線影響評価」は問題だらけ。たとえば…

  • 放出は30年以上続くはずであるが、それについての記述がありません。
  • 海洋拡散シミュレーションをしているが、いつの時点での評価なのか、放出を開始して1年後なのか、10年後なのか、30年後なのか不明です。
  • 年間および 10km×10km の「平均濃度」により評価を行っています。季節ごと、また場所によって放射性物質の濃度が高い部分が生じたとしても、「平均」をとることによって薄めてしまうことになります。
  • 外部被ばくも、内部被ばくも、年単位での被ばく評価となっています。つまり、累積的な影響が評価されていないのです。

一方、この評価報告書から読み取れることもあります。
私が注目したのはp.50以降の、実際に64核種について測定を終えている3つのタンク群の水を、計画どおりトリチウムが年間22兆べくれる1年間放出し続けたとした場合の64核種の年間放出総量です(東電報告書p.50以降)。

たとえばK4タンク群の水を1年間流す場合の、いくつかの放射性物質の年間放出総量は

ストロンチウム90 2500万ベクレル
カドミウム113m 210万ベクレル
ヨウ素129 2億4,000万ベクレル
セシウム137 4,900万ベクレル
プルトニウム238 7万3000ベクレル
プルトニウム239 7万3000ベクレル
プルトニウム240 7万3000ベクレル
プルトニウム241 320万ベクレル

となります(トリチウムが年間22兆ベクレルになるように放出するという前提です)。告示濃度比総和1以下(つまり全体として規制基準以下)とはいえ、なにせ放出量が多いので、膨大です。いくら薄めても、総量は変わらないのです。つまり濃度でのみ規制をかけることの限界といえます。

プルトニウムに着目しましょう。同じくそれぞれのタンク群の水を、トリチウム年間22兆ベクレルとなるような放出を行うという前提です。

年間放出量(ベクレル)
K4タンク群 J1-C タンク群 J1-G タンク群
Pu-238 73,000 890,000 2,300,000
Pu-239 73,000 890,000 2,300,000
Pu-240 73,000 890,000 2,300,000
Pu-241 3,200,000 32,000,000 81,000,000

K4タンク群の水を1年間放出すると、プルトニウム238、239、240、241の合計で341万9,000ベクレル、J1-Cタンク群の水の場合、プルトニウム238、239、240、241の合計で3,467万ベクレル放出、J1-Gタンクの水の場合、年間8,790万ベクレル放出ということになります。

まだ、すべてのタンク群の核種ごとの濃度や容量が公開されていないため、不明なところがありますが、この3つのタンク群が特殊なものでない限り、このレベルの放出が30年以上続くことになります。

しかし、このような数字も、限定的なものに過ぎません。いままで東電は、放射性物質の濃度のみを公開してきており、放出の総量については示してきていませんでした。私たちは、いったい何が、どれくらい放出されるのかわからないままにいるのです。さらに、東電が測定・公開の対象としている64核種というのは、ALPSで処理の対象となっている62の放射性物質とトリチウム、ALPSの対象ではないがあとから存在することがわかった炭素14のみです。

技術者や研究者も含む、原子力市民委員会のメンバーが、パブコメを公開しています。

http://www.ccnejapan.com/wp-content/20211215CCNE.pdf

領域海洋モデルの再現性に関しての批判、有機トリチウムによる内部被ばくが過小評価されている件など、かなり具体的な指摘がならんでいます。
また、原子力市民委員会では、12月16日に開催したオンラインセミナーの「“東京電力「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書」の問題点”」の資料および録画をYouTubeにアップしています。(冒頭の私のところはイントロなので飛ばしてください)

ご参考にしていただければ幸いです。(満田夏花)

疑問だらけの東電・処理汚染水放出「素案」

3月24日、東電がALPS処理汚染水の放出に関する「素案」を発表した。
「一度に大量に放出せず、年間トリチウム放出量は、廃止措置に要する30~40年の期間を有効に活用する」とし、水蒸気放出・海洋放出のそれぞれのフローを示している。また、タンクの72%の水で基準超えしているトリチウム以外の放射性核種については、「二次処理を行う」としている。
この「素案」、以下のように数々の疑問が呈されているのにもかかわらず、経産省はこれをそのまま自らのウェブサイトに掲載し、現在行っている意見募集の基礎資料の一つとしている。

何が残留しているのか

東電によれば、トリチウムについては、タンク水に約860兆ベクレル残留している。(建屋の中には保守的に見て1,209兆ベクレル残留していると見積もっている。)
トリチウム以外に、セシウム137、134、ストロンチウム90、コバルト60、アンチモン125、ルテニウム106、ヨウ素129なども残留し、告示濃度比総和(注)の分布は以下の通り。

注)告示濃度比総和とは、それぞれの核種の濃度を告示濃度(排出濃度基準)で割ったものを足し合わせたもの。全体として排出基準の何倍になっているかを示す。排出する際は1を下回っていなければならない。

文書名東電への質問200423(解説付き).pdf

告示濃度比総和は、最大14442.15倍とのことだ(2018年10月1日付東電資料では約2万倍となっていた)。つまり、これらの核種で全体としてみたとき基準の最大14000倍以上となっているということを意味する。この数字は東電の説明資料からは省かれている。(ちなみに、2018年10月1日東電資料には書かれていた)

告示濃度比で最大なのはストロンチウム90。化学的性質がカルシウムに似ているので骨に蓄積することが知られている。

残留核種の総量は不明

問題なのは、東電はそれぞれの核種が、総量でどのくらい残留しているのか示していないことだ。タンクごとに核種濃度がわかれば、簡単に計算できるはずなのに、それをしない理由は何なのか。放出する水がどのようなものであるのかは、もっとも重要な情報である。

二次処理するからいいじゃないかということなのかもしれない。しかしそれでは、二次処理後はどの程度の量になるのか。二次処理した上で、その総量を示すべきだと思うのだが、それすら明言していない。

また、少なくとも二次処理せず放出する28%の水については、含まれている放射性核種、その総量、その他の汚染物質について開示すべきではないか。
また、排出する水の総量も不明である。もちろん、トリチウムの排出量、濃度をどうとるかによって変わってくるが、いくつかの代表的なケースごとに示すべきではないか。

「二次処理」の性能試験は?

それでは、「二次処理」によってどのくらい放射性物質を除去できるのか。
東電は、「素案」の中で、「2020年度、高濃度のもの(告示濃度限度比100倍以上)を約2,000m3程度処理し、二次処理の性能を確認する」としている。

リスク管理という観点からは、高濃度の水を優先的に二次処理することは理解できる。
しかし、目的が「二次処理の性能を確認」するためであれば、より低濃度の水も含め、1~100倍のものも含め、処理対象のそれぞれの濃度のバンドから抽出し、二次処理の性能を確認するべきではないか。

問題の多い海洋拡散シミュレーション

東電の「素案」には、海洋放出した際の拡散シミュレーションについても記載されている。

東電処理水200324_ページ_21

東電によれば、「2014年の実気象に対して、放出量を仮定して連続的に放出した場合のシミュレーション結果を一例として提示したもの」とのことである。
年間放出量ごとにトリチウム1ベクレル/ℓ以上となる海域が示されている。

しかし、このシミュレーションには数々の疑問が呈されている。

まず、影響範囲を1Bq/ℓ以上としている理由が不明だ。東電の「素案」p.22の図によれば、原発近傍ですら、核実験や原発事故の影響を受けていない期間の海水の濃度は0.5Bq/ℓ程度にみえる。影響範囲というのであれば、もう少しきめ細かく、0.5Bq/ℓ以上から何段階かに分けて示すべきではないだろうか。

東電処理水200324_ページ_23

また、鉛直方向にも30層にわけてシミュレーションを行ったとのことだが、示されているのは一番上の層だけ。「鉛直方向には均一に分布」しているとして、この30層のシミュレーションは開示していない。しかし、いくら何でも「鉛直方向に均一に分布」というのは不自然ではないだろうか。

原子力市民委員会委員、大沼淳一氏(元愛知県環境調査センター主任研究員)は以下のように指摘している。

「そもそも拡散シミュレーションをする場合には、初期条件と環境条件を明らかにしてからしか作業することが出来ないが、それが明らかにされていない。日間、月間、年間を含めた干満、沿岸流、海底地形、流入河川水、年によって変動する黒潮の蛇行などである。放出される汚染水の水量、放出速度、放流水深、放流口の形状、水温、密度なども必須の入力項目である。シミュレーション結果は、これらの変数を変化させて、そのケース毎に拡散図が示されるべきである」

「素案では、解像度が水平方向は1㎞メッシュ、鉛直方向は水深に対して30層(深さ1㎞まで)とされている。すなわち1km四方で深さ「水深/30」mの箱(水深30mなら100万立米、1000mなら3000万立米)を積み上げて計算していることになるが、いかにも箱が大きすぎる。最初の箱に汚染水を放出して均等にかき回される保証はどこにもない。汚染水の放出速度にもよるが、せめて10mx10m(30層)の箱を積み上げるべきである」

つまり前提条件が不明確な上に、おおざっぱすぎる、ということだ。

ちなみに、「何年間放出すると仮定したのか」という質問に対して、東電は、「1年間の連続放出をした場合、例えば、22 兆ベクレルを一定の放出率で1年間継続して放出する場合、開始から1年以内に放出と拡散とのバランスがとれて、その後は、任意の点における濃度が準定常状態(濃度がある一定の変動範囲内に収まること)となります。従いまして、「何年間」という仮定はしておりません。」と回答している。

前述の大沼氏は、以下のように指摘する。

「素案で示したのは、長期間放出を続けて、準定常状態になった時の汚染分布図」だと回答している。コンピューター上で、数百回(1年間なら約700潮汐)の潮汐を繰り返させた結果であろう。漁民や市民が懸念しているのは、こうした平均値ではない。1日に2回起きる潮汐でも大きさが異なる。大潮と小潮では干満差が全く違う。黒潮の蛇行も季節変化や年変化が大きい。風の影響、降水量の影響なども大きく、沿岸流の方向は逆転することも頻繁に起きている。こうした環境要因の変動ごとに、放出される汚染水塊がどのように拡散するかが知りたいのである。」

東電によれば、このシミュレーションは、電力中央研究所が実施し、米国Rudgers 大学により開発された領域海洋モデル「ROMS:Regional Ocean Modeling System」に、トレーサー計算できるように改良を加えたプログラムを利用しているとのことである。また、シミュレーションの適用にあたっては、Cs-137 の実測データによりモデルの検証を行っているということだ。>参考文献

その他、モニタリングなどに関しても数々の疑問があるが、それらはまた後日述べたい。

(満田夏花)

※FoE Japanでは、「原発ゼロの会」のご協力をえて、東電の「素案」に関して、現在までに3回東電に対して質問書を提出しています。質問への回答は以下をご参照ください。(すべてPDF)

東電回答(2020年4月1日)
東電回答(2020年4月8日)
東電回答(2020年4月29日)

「よりよい海を取り戻したい。海洋放出は反対」…福島の漁業者が訴え

福島第一原発のサイトでタンク内にためられているALPS処理汚染水--。
政府小委員会は、「水蒸気放出」「海洋放出」が現実的とし、「海洋放出」の方が利点が大きいとする報告書をだしました。
FoE Japanでは、2020年3月、小名浜や新地町の漁業者のインタビューを行いましたが、より多くの人たちに漁業者の直接の声をきいていただきたいということで、小名浜から底曳網漁協の理事である柳内さんをお迎えし、永田町の議員会館で、経済産業省・東電・国会議員がいる前で「お話しをきく会」を開催しました。新型コロナの影響を考慮し、一般の方々には、オンラインで参加していただきました。
柳内さんは処理汚染水を海に流すことは、福島の漁業に大きな打撃を与えるとして、放出反対の意見を述べました。

柳内さん(議員会館にて)
(議員会館にて、福島の漁業の状況や処理汚染水を放出に関する懸念を述べる柳内さん)

以下、柳内さんのお話の概要です。>録画映像はこちらから。

・現在、ほとんどの魚種が出荷制限解除になっているが、なかなか震災前の水揚げが回復していない
・ALPS小委員会の報告書が、海洋放出を推奨しているともとれる内容でたいへん危惧している
たとえ浄化して海洋放出が実施されたとしても水産業にとって大きな打撃となる。海外の輸出禁止措置の解除もむずかしくなる
・漁業の先が見通せず、投資意欲も減退している
・投資をしたとしても売り上げが回復しなければ借金のみが残ってしまう
事故前のトリチウムの放出量は年間2.2兆ベクレル、これが東電の「素案」では少なくとも年間22兆ベクレルのトリチウムが、数十年かけて放出されてしまう
・(2018年の)公聴会でいろいろな人が意見を述べたが、多くの人が陸上での保管継続をすべきと発言。しかし、それができないと。できない理由として(敷地外に持ち出すことについて)法律がネックになっているということであったが、たとえば中間貯蔵施設についても新たな法律をつくって対応していた。今回の水の件も同様に対応できるはず。
・事故前の漁業に戻すには、競争力を取り戻さなければならない。福島の海をよりよい海にしていく必要がある。さもないと私たちは復興できない。

また、今回、経済産業省が、「地元をはじめ、幅広い関係者の意見をきく」としていることについては、以下のように指摘。

「関係者の意見をきく、というが、すでに公聴会のときに(海洋放出反対の)意見は言っている。意見をきいて、それをどう反映するかが問題だ」

柳内さんのお話のあと、東電・経済産業省との質疑を行いました。

東電が発表している処理汚染水の「処分素案」に関して、東電は以下のように説明。

・年間の放出量が事故前の福島第一原発の管理目標値22兆ベクレルであるとすると、放出完了までに20~30年かかる。
・排出する水の総量(m3/日)は示すことができない。
・現在、タンクにたまっている水には、トリチウム以外に、セシウム-137、セシウム-134、ストロンチウム-90、コバルト-60、アンチモン-125、ルテニウム-106、ヨウ素-129などの放射性核種が残留している。
・トリチウム以外の核種の告示濃度比総和(各核種の濃度を、その核種の排出濃度基準で割り足し合わせたもの)の最高値は14442.15倍となっている(2018年10月の発表資料では約2万倍)。この中でもっとも告示濃度比総和が高いものはストロンチウム90

東電は、タンク水の二次処理を行い、トリチウム以外の放射性物質の濃度を基準以下に下げると言っていますが、どの程度下げられるのか、残留する放射性核種や微生物などはどの程度になるのかについては、示していません。

東電処理水200324_ページ_10

(東電、3月24日発表のALPS処理水処分素案 p.9)

また、東電が3月24日に公開した、仮に海洋放出を行った場合の拡散シミュレーションについても議論となりました。

東電処理水200324_ページ_21

(東電、3月24日発表のALPS処理水処分素案 p.20)

このシミュレーション、いろいろと問題が多いと思いますが、最も問題なのは放出の前提が示されていないことでしょう。
季節、干潮時・満潮時、水温、水量などが示されていません。

また、東電は、1Bq/L以上の部分を示していますが、なぜ1Bq/Lなのでしょうか。
東電が発表している以下のグラフを見る限り、福島第一原発近くにおいても、核実験や原発事故の影響を受けていない時期の値は0.5Bq/L程度に見えます。

東電処理水200324_ページ_23

(東電、3月24日発表のALPS処理水処分素案 p.23)

さらに、水深ごとの鉛直方向の結果を出してほしいと言っても、「表層から放出されたトリチウムは、海洋の混合の影響によって、鉛直方向に均一に分布する」という回答でした。

「ALPS(多核種除去設備)で処理されたがトリチウムなど放射性物質を含む水」(以下、ALPS処理汚染水)について、現在、経済産業省が一般からの意見を募集しています(5月15日まで)。

多くのみなさまにパブコメを書いていただくことを目的として、以下のオンラインでのパブコメセミナーを開催します。ぜひご参加ください。

〇第1回 ALPS処理汚染水パブコメ・セミナー:4月17日(金)12:00~13:30
(講師:満田夏花/FoE Japan)
〇第2回 ALPS処理汚染水パブコメ・セミナー:4月26日(日)14:00~15:30
〇第3回 ALPS処理汚染水パブコメ・セミナー:5月 2日(土)14:00~15:30
内容:ALPS処理汚染水を議論のポイント
実際にパブコメを書いてみよう

ご参加の方は以下からお申込みください。
https://pro.form-mailer.jp/fms/27c1d91b193245
お申込者に後ほど、メールにて、オンラインでの会議システムzoomの使い方と
参加可能なリンクをお送りします。

▼以下ご一読ください。
【ALPS処理汚染水、大気・海洋放出で本当にいいの? パブコメを出そう!(〆切5月15日)】
http://www.foejapan.org/energy/fukushima/200407.html

★東電福島第一原発で増え続ける、放射能を含んだ「処理水」Q&A
Q:そもそも「処理水」って何?
Q:「処理水」には何が含まれているの?
Q:トリチウムは安全?
Q:海洋放出しか現実的な手段はないの?
Q:敷地は本当に足りないの?
Q:漁業者は何と言っているの? など

http://www.foejapan.org/energy/fukushima/200324.html
http://www.foejapan.org/energy/fukushima/200324.html

住民無視 那須町の除染土埋め戻し実証事業~このまま全国展開?

【アップデート情報(2018.9.17)】

・浸出水は測定後、ゼオライトなどで処理し、側溝に流すことになっていることがわかりました。住民の方によると、側溝の水は住宅街を通り、三蔵川に流れるとのこと。心配する住民に対して、環境省は、「十分に対応しているから問題ない」と回答したとのことです。

・環境省は9月17日の週にも、実証事業のための準備作業を開始するとしています。9月16日、実証事業を行う旧テニスコートで行われた「作業説明会」で、環境省は「浸出水は濃度測定し、処理した上で放流する」としたそうです。環境省の管理を問われると「処理水が出なくなるまで。後は町に管理してもらう」と回答したとのことです。

・浸出水の放流問題もさることながら、豪雨の際のオーバーフローや決壊などが心配です。これらの点を断面図に書き込んでみました。

福島県外除染土処分のガイドライン策定へ

環境省は福島県外の汚染状況重点調査地域の除染土計33万m3を埋め立て処分するための施行規則・ガイドラインを策定しようとしており、現在、栃木県那須町、茨城県東海村で実証事業を進めている。しかし、この実証事業は、「安全を確認することありき」で、住民への説明がほとんどないままなし崩し的に進められようとしているようにみえる。

環境省は2箇所の実証事業で施行規則をつくり、全国展開するつもりだ。

「被ばくと健康研究プロジェクト」の田代真人さんに案内していただき、那須町の除染土の埋め戻し実証事業の現場を訪れた。また、住民の方にお話しをきいた。

埋め戻す除染土のセシウム量は不明

那須町伊王野除染土埋め戻し実証事業サイトこの実証事業は、那須町伊王野山村広場内旧テニスコート内に地下保管してある除染土壌350袋、約350m3を袋から取り出し、埋め直すもの。30cmの覆土を行う。(写真右:実証事業が行われようとしている旧テニスコート 7月21日、著者撮影)

除染土の埋め立ての下部には集水砂層とその下に遮水シートを設置(遮水シートの有無については住民への説明では明らかにされなかったが、その後付け加わった)。収集した浸透水の放射性セシウム濃度、周辺の空間線量率の測定、エアサンプリングを行う。

那須町除染土埋め戻し図(コメント入り)

平成 30 年度除去土壌埋立処分実証事業等業務に係る仕様書に加筆)

環境省は、福島県外の除染土壌の放射性セシウムの中央値は800Bq/kg、約95%は2,500Bq/kg以下としているが、実際に埋め戻す土に含まれているセシウム量は現段階では不明だ。

実証事業では、350袋について、重量及び表面線量率(上面1箇所及び側面4箇所)を測定。また、除去土壌計 350 袋中の 35 袋について、放射能濃度測定のための土壌サンプリングを実施する。サンプリングにあたっては、1袋から 10 サンプルを採取して混合し、1検体とする。実証事業の契約期間は、来年3月まで。これでは、長期にわたる影響については捕捉することができない。(くわしくは、環境省による仕様書を参照。)

「新聞報道後、回覧板がまわってきた」

以下、住民の受け止めについて、田代さんや住民たちのお話しをまとめた。

  • 住民がこの実証事業について知ったのは今年2月1日付の下野新聞。近隣住民には2月5日回覧板で「報道でご心配かと思いますが、こういうことやろうとしています…」というような2枚紙がまわってきた。
  • 那須町は、懸念する住民の問い合わせに対して「安全性は確認されている」と回答。いつからいつまでの事業で、そのあとどうするかについては国の事業なので不明。住民説明はやらないと回答。
  • 2017年9月にすでに環境省から那須町に打診があり、12月には議会の災害対策協議会で町から説明があった。反対意見がなかったということで、12月末に環境省にOKの返事を伝えた。こうしたことをあとから知った
  • 町からは、周辺に住む1人の住民に説明があった。そのあと、その人が13人に説明したというが、どういう基準で選ばれた13人であったかは不明
  • 環境省は、セシウムは土壌に吸着して、下方に移動しないというが、それは間違い。わずかではあるが下方に移動するという研究もある。
  • 那須町は基本的には火山灰の影響を受けている土壌で特殊。これをもって、安全性が確認されたとは言えないのではないか
  • 那須町住民申し入れ1805105月10日、住民が環境省に説明会の実施を申し入れた(写真右)。6月8日住民説明会が実現した。19:00~20:30のたった1時間半。住民からの質問が殺到し、15分だけ延長された。住民たちは、実証事業の内容を問うよりも、手続きがおかしいという怒りの表明が多かった。
  • 伊王野は高齢化が進む。ずっと住んでいる人たちは積極的に反対をいいづらい空気。
  • 住民たちとしては、庭先にうまっている除染土をなんとかしてほしい。この実証事業の受け止めは、「きちんとやってくれるなら容認してもよいのではないか」という人、「行政の言うことは信用できない」という人、さまざま。しかし、この実証事業で、結局、フレコンパックから出して埋め立てても安全とされ、庭先の除染土をそのままにする理由付けにつかわれるかも、と懸念している。
  • 町独自の予算で甲状腺がん検査を行うなど、被ばく問題に関してはしっかりとした考えをもっていた町長が脳梗塞で倒れているさなかにこの話しが進行した。
  • 実証事業がいつまでなのか、そのあとどうするのかは、説明されていない。
  • その後、8月7日、住民たちは環境省に対して、再度の説明会を行うことを要請したが、環境省はこれを拒否。環境省の資料によれば、9月にも実証事業が開始されようとしている。

何が問題なのか?

この実証事業の主な問題としては、以下があげられよう。

  • 住民への説明があまりに不十分で一方的。住民に事業の詳細が知らされず、意見もききいれてもらえていない。
  • 実際に埋め戻す除染土中のセシウムなどの放射性物質の濃度・総量が明らかになっていない。全袋調査を行うべきではないか。
  • 実証事業の契約期間は来年3月までであるが、長期のセシウムの動向や環境への影響を把握するには、モニタリング期間があまりに短い
  • 実質的に最終処分地となってしまいかねない。実証事業後、だれがどのような管理を行うか、モニタリング体制はどのようなものになるのか不明長期的な管理・監視体制をつくるべきではないか。
  • 豪雨対策など、放射性物質を含む土壌の拡散を防止するための措置をとっていない。
  • 除染土の再利用・処分については、フレコン入りの除染土の山を、埋めたり、公共事業につかったり、とりあえず「見えなく」するための場当たり的な方針のように思える。

県別除染土
確かに現在、除染土は庭先に埋められているものもあり、これをこのままにしてよいわけはない。しかし、このように、長期的な管理や豪雨対策もしないまま、除染土を埋設するのは、あまりに乱暴ではないか。

環境省は、除染土を長期的に安全に管理し、拡散を防ぐという視点から、広い層の専門家や市民の参加のもとで、検討を行い、全国レベルでの公聴会など、国民的な議論を行うべきだろう。(満田夏花)

参考:環境省「除去土壌の処分に関する検討チーム会合配布資料」

http://josen.env.go.jp/material/disposal_of_soil_removed/

汚染水の公聴会大もめ~海洋放出に反対意見次々

経済産業省は、東電福島第一原発における多核種除去装置(いわゆるALPS)処理水の処分に関する説明・公聴会を8月30日、31日に富岡、郡山、東京で開催しました。
経産省の資料によれば、タンクにたまっているトリチウムの量は1,000兆ベクレル。
トリチウム以外の放射性物質はほとんど除去されていること、トリチウムは弱い放射線しか出さず、自然界にも存在し、生体濃縮はせず、世界中の原発から排出されているとし、海中放出を含む4案を提案しています。
しかし、放出されたトリチウムの一部は、光合成により有機結合型トリチウムに変化すること、有機結合型トリチウムは生物の体内に長くとどまり生体濃縮をおこすこと、細胞やDNAに取り込まれること、放射線による細胞やDNAの損傷のみならず、崩壊による損傷もおこすことなどが指摘されています。
さらに、今回、ALPS処理水の中に、基準を超えるヨウ素129、ストロンチウム90、ルテニウム106が残存していたことが明らかになりました。ヨウ素129に至っては、FoE Japanの確認では、2017年4月~2018年7月の間に143サンプル中65サンプルで告示濃度超を起こしていたことがわかりました。
しかし、説明・公聴会の資料では、基準を超えていない2014年9月20-28日のデータがつかわれていました。
3会場での「説明・公聴会」で意見をのべた人は、富岡1名、郡山1名で海中放出を容認する意見があったほかは、ほとんどが海中放出など環境への放出に反対しました。とりわけ、県漁連の野崎会長などは漁業への影響を訴えました。

180829

多くの人たちはトリチウムの危険性を指摘した上で、陸上でタンクで長期保管すべきと述べました。

私は東京会場の「説明・公聴会」に参加しました。経産省や委員が公述人の「意見をききおく」だけの公聴会だったはずが、それですまされず、公述人や傍聴者が、経産省の事務局や委員を問い詰める場面もあり、「大もめ」の公聴会となりました。

トリチウム水を海に流すな トリチウム水公聴会

公述人・傍聴者たちが問うたのは、主には以下のようなものでした。

  • なぜ、代替案にタンクでの保管案が入っていないのか
  • トリチウムの危険性についてきちんと検討されていないのはおかしいではないか。
  • なぜ、他核種の残存について資料には書かれておらず、古いデータが使われたのか
  • 現在の海洋放出の計画では、1,000兆ベクレルを52~88カ月かけて放出することになっている。これは年間の排出量が、福島第一原発が動いていたときの保安規定の年間排出の上限(22兆ベクレル)を上回る量となるのだが、よいのか。

>原子力市民委員会による大型タンクでの陸上保管案については、こちらをご覧ください。終了後、山本委員長は、タンク保管案も代替案に加えると発言したと報道されています。私が述べた主な意見は以下のとおりです。

  • 大量のトリチウムを希釈して環境中に放出することに反対。
  • 総量規制を行うべき。また、すでに海中に放射性物質が放出されている。累積的な影響についても考慮すべき。
  • トリチウム、とりわけ有機結合型のトリチウムのリスクについて、資料に掲載されていないのはなぜか。
  • ヨウ素129など他核種が慢性的に残留していたのにもかかわらず、古いデータが使われていたのはなぜか。委員たちは、このことを知らされていたのか。
  • トリチウムのみが残留しているとされていた。他核種については検討されていない。説明・公聴会の前提がくずれた。小委員会での検討をやりなおすべき。

なお、意見陳述時間は5分と限られていたので、全部は発言しきれませんでしたが、事前に提出した意見書を以下に掲載します。(満田夏花)


多核種除去装置(ALPS)処理水の処分に関する意見

<要点>

  • 既設・増設ALPS処理水でヨウ素129、ストロンチウム90の基準超えが明らかに。ヨウ素129は2017年4月~2018年7月まで60回以上基準超え。公聴会の前提は崩れた。
  • 経済産業省が示している処分方法以外にも有力な代替案がある
  • トリチウムのリスクに関して十分検討されていない
  • 放射性物質は、環境中に放出するのではなく、安全保管を行って減衰を待つという原則を守るべきである
  • 公聴会のやり方がおかしい。

1.既設・増設ALPSでヨウ素129、ストロンチウム90の基準超えが明らかに。ヨウ素129は60回以上基準超え。公聴会の前提は崩れた。 ヨウ素129、ストロンチウム90の告示濃度限度(基準)超えがあきらかになった。経済産業省のタスクフォースや多核種除去設備等処理水の小委員会では、「ALPS処理水はトリチウム以外は除去されている」という東電の説明の通りの前提で検討が行われており、他の核種については検討が行われていない。 しかし、今回問題になったのはヨウ素129については増設ALPSで2017年4月~2018年7月まで告示濃度(9Bq/Lを超えるものが60回以上計測されており、出口はA~C。最高は2017年9月18日の62.2Bq/Lであった。慢性的に基準超えしている状況である。180829_2ストロンチウム90に関しては、増設ALPSでは2017年11月30日に141Bq/Lと告示濃度30Bq/L)を超えていた(出口C)。

ヨウ素129は、半減期1,570万年。特に海藻に濃縮・蓄積される。体内にとりこまれるとほぼすべて甲状腺に集まり、とりわけ胎児や乳幼児への影響が懸念される。「薄めて出せばよい」とは思えない。 いずれにしても説明・公聴会の前提はくずれた。経済産業省は、改めて検討をやりなおすべきである。

2.経済産業省が示している処分方法以外にも有力な代替案がある 

経済産業省の5つの案以外にも有力な代替案がある。

研究者・技術者・NGOなどが参加する「原子力市民委員会」は、現在トリチウムのリスクに関してさまざまな説がある中で海洋放出を強行するのではなく、恒久的なタンクの中に保管することを提案している。国家石油備蓄基地で使用している10万トン級の大型タンクを10基建設して、その中に100年以上備蓄する案であり、減衰により、トリチウムの量が現在の1000分の1程度に減少する。大型タンクでの貯留は、すでに実績のある既存の手法であること、現在の1,000トン容量のタンクに比して面積効率がはるかに高いという利点がある。十分現実的な提案なのではないか。タンクの設置場所については、福島第一原発の敷地内にこだわらず、その周辺またはその他の東電所有地も考えられる。このような地上における保管案が十分に検討されているとは思えない。

3.トリチウムのリスクに関して十分検討されていない

経済産業省は「トリチウムは安全である」という前提で、放出に向けたステップを踏もうとしているように思われる。たとえ、経済産業省が言うようにトリチウムの人体への影響がセシウムの700分の1であったとしても、1,000兆Bqのトリチウムの放出は、膨大な放射性物質の放出である。

光合成により有機結合型トリチウムが生じれば、リスクはさらに高まる。決して過小評価すべきではない。作業員や公衆についての疫学調査は、影響をトリチウムに特化することができないため、なかなか有用な結果がでていないようである。しかし、トリチウムが人体に取り込まれた場合、その一部が細胞核の中にまで入り込んで、DNAを構成する水素と置き換わる可能性があること、その場合、エネルギーが低く飛ぶ距離が短いベータ線により遺伝子を損傷する危険性があると指摘する専門家もいる。また、有機結合型トリチウムは、生物濃縮されるのに加え、生体構成分子として体内に蓄積されるため、長期間影響を及ぼしうるという指摘もある。これらのトリチウムのリスクについて、経済産業省におけるトリチウム・タスクフォースで徹底的に議論すべきであろう。トリチウムが、世界中で運転中の原発から放出され続けているという事実は、安全性の証明とはならない。なお、トリチウムの摂取基準は世界的には国によって大きな幅があり、経済産業省が引用しているWHOは10,000Bq/Lであるが、アメリカでは740Bq/L、EUでは100Bq/Lである。このことは、トリチウムのリスクに関して国際的にも定説が得られていないことの表れではないか。

4.放射性物質は、環境中に放出するのではなく、安全保管を行って減衰を待つという原則を守るべきである

経済産業省は、トリチウムの人体への影響がセシウムの700分の1であるとするが、そうであったとしても、1,000兆ベクレルにも及ぶトリチウムの放出のリスクを否定することはできない。さらに他核種が残留していることもわかった。トリチウムを環境中に放出するのではなく、前述の原子力市民委員会の提案などにより、安全保管を行って減衰を待つべきである。

5.公聴会のやり方がおかしい

前述のように、トリチウム以外は除去されていたという公聴会の前提が崩れた。それ以外にも以下の点で公聴会のやり方がおかしい。

①代替案を検討する段階から、多くの意見をきくべき 環境中に放出することが前提となっている。代替案の検討の段階から広く意見をきくべきである。

②資料の作成段階から異なる意見を有する第三者からのインプットを得るべき 資料作成の段階で、経済産業省の「環境放出ありき」の結論に導くのではなく、第三者のインプットをえるか、または環境放出以外の意見をもつ団体等の資料も並列すべきである。

③開催場所が限定的すぎるなぜ、富岡、郡山、東京の3箇所なのかがわからない。福島県でも多くの漁業者がいるいわきで開催しなかったのはなぜか。漁業が影響を受ける太平洋側の主要都市で開催すべきではないか。

④異なる立場の専門家等からの重点的な意見聴取を トリチウムの放出のリスクに警鐘を鳴らしている専門家や漁業・流通関係者、過去の公害経験などに知見を有する人たち等からの重点的な意見聴取を行うべきである。

⑤自由な質疑および意見陳述の時間を ④に加え、参加者が説明に対して質問および意見陳述ができる時間帯を設けるべきである。

市民の力で、「汚染土再利用実証事業」を撃退!~二本松より

9月1日、二本松にて、「みんなでつくる二本松・市政の会(以下みんなの会)」「救援復興二本松市民共同センター」の主催で、環境省計画の「汚染土壌再利用実証事業」ストップの市民報告集会がありました。環境省が全国で展開しようとしている除染土の再利用の実証事業を、市民の力で撃退した、その経緯を総括した集会でした。この件をウォッチ・サポートし続けている政野淳子さんとともにお招きいただきました。

この事業は二本松市原セ才木地区で200メートルくらいの農道を掘削し、近くの仮置き場に積まれた除染土500袋を、袋から出して路床材として埋め、50cm程度の覆土を行うというものです。

二本松農道

(写真上、実証事業が行われようとしていた農道 2018年7月27日 撮影:満田)

計画が持ち上がったのは昨年末の12月。当初、ごくごく限られた範囲の住民にしか知らされていませんでした。あとから知った二本松の市民が説明会のやり直しを求め、環境省福島事務所に事業の白紙撤回を求める申し入れを行いました。これをNHK福島が大きく報道。市議会でも取り上げられました。
3月には、政野淳子さんを講師にした学習会と意見交換会が開かれました。
3月末には環境省が業者と契約しましたが、「みんなの会」は「ふるさとを汚すな!STOP!汚染土再利用」のノボリ旗を100本設置。
「白紙撤回を求めます」のチラシを市内全域各戸に配布。
4月18日には、環境省がより広い範囲の住民も参加できる説明会をやり直しました。ここで反対意見が相次ぎ、「地元は反対している」と認めざるをえない状況となりました。
4月26日には、福島農民連による環境省交渉が行われ、「みんなの会」も参加。
5月になり、近くの家畜用飼料を手掛ける生産組合への取引見直しの動きがでるという「実害」が発生していることが明らかに。
市民たちは、三保市長にも「環境省に全市民対象の説明会を実施ように要請すること」を求めました。
6月11日、FoE Japan主催の環境省交渉に「みんなの会」からも参加。
6月25日、ついに環境省は二本松市長に対して、「風評被害への懸念など多数のご意見をいただいたことを踏まえ、請負業者との契約解除に向け調整することとしたい」「事業計画を再検討することとした」と伝えました。実質撤回です。
三保市長はこの席で環境省に対して、「重ねて慎重な判断を求めるとともに、併せて中間貯蔵施設への早期輸送を」要請したといいます。

詳しくは、「市民の会」の報告データをご覧ください
汚染土壌実証事業ストップみんなの会の経過報告(2018年9月1日)

報告集会では、冒頭、みんなの会の佐藤代表が、「実証事業を止めた喜びをわかちあいたい」「放射性廃棄物は一か所にあつめて厳重管理すべき」と挨拶。
続けて、みんなの会事務局長の菅野さんが、経過報告をしました。

そのあと、住民のみなさんから、以下のような報告がありました。

  • 原発事故は止めることができなかったが、今回のことは止めなくてはならないこと。地元の人たちが声をあげたことによって止まったことに感謝したい。
  • 推進していた人に「あんたらが勝ったねー」と言われたが、勝ち負けではないと思う。1時間半かけて話をした。
  • 最初の説明会では、私ともう一人くらいが反対。あとの人は無言。小さくなっていた。そのあと、学習会に参加して、多くの人たちが同じことを考えていることを知った。「ああ、反対してもいいんだな」と思った。
  • ネット署名に取り組んだ。はじめての経験だった。多くの反響。コメント欄に「絶対に許してはいけない」「これはみんなの問題」と。その後、中止となったことを署名をしてくれた人たちに伝えた。「私たちのところは止められました。次はあなたのところに行くかもしれない」と。
  • 5月17日の説明会で、環境省に「(袋の中の土壌を)はかったんですか?」ときいたら「はかっていない」と。袋の上から空間線量をはかる測定器をあてて、推定しているだけだった。「ああ、これはだめだな」と思った。
  • 原セ才木地区の21戸の中で9戸しか参加していない中で、説明会が開催され、「地元了解」ということにされてしまった。これは問題だ。
  • いまある除染土の仮置き場は、地元住民のたいへんな葛藤の中で決まった。”中間貯蔵施設に運ぶ”という約束であった。実証事業は、その約束違反になる。
  • 実証事業は、800億円をかけて除染した土を、また3億5,000万円かけてもとに戻すもの。(同じ距離の農道を舗装するのならば)260万円ですむ。
  • このようなやり方は、地域住民を分断する。
  • NHKは報道したが、福島民友・福島民報はとりあげなかった。新たな風評被害が起こることを恐れた?
  • これは風評ではなく実害だ。

二本松報告集会_180901

(写真上:9月1日に二本松市で開かれた報告集会 撮影:満田)

続いて、政野淳子さんから、「環境省はまだあきらめていない」という報告がありました。なぜならば、2200万m3もの除染土を減らすことを至上命題にしているからであると。また、飯舘村長泥地区での実証事業や、栃木県那須町の状況について、および環境省が放射能汚染対処特別措置法の実施規則を策定しようとしていることを紹介。

満田からは、放射能汚染対処特別措置法により、8,000ベクレル/kg以下の放射能ごみが全国各地にばらまかれようとしている実態について、またそれに対抗しようとしている取り組みなどについて報告しました。また、ALPS処理水の海中放出の問題点についても言及し、全国レベルで公聴会を開くことを求めていくことが必要であると発言させていただきました。

環境省による除染土の再利用を正当化するための実証事業を、地域の住民が勇気をふるって声をあげ、結集し、知恵と行動力で退けました。二本松の市民のみなさんに、心から感謝します。

繰り返しになりますが、これは、全国の問題です。
除染土再利用に関しては、ALPS処理水放出と根っこは同じ問題です。環境中に放出するか、集中管理を行うか…。しかし、放射性物質は、他の有害物質と同様、集中管理することが大前提でしょう。

環境省は、再利用方針をこのまま進めるのであれば、全国で、「説明・公聴会」を開き、国民の声をきくべきでしょう。

近く、東京でもこの問題に関する報告集会を企画できればと考えています。(満田夏花)

(二本松)市民の声でストップに!(除染土)

(みんなの会ニュース No.6)

福島第一 増設ALPS(多核種除去装置)でヨウ素129の基準超え60回以上 除去水処分の説明・公聴会の前提は崩れた

トリチウムしか残留していないはずが…

経済産業省は、東電福島第一原発における多核種除去装置(いわゆるALPS)処理水の処分に関する説明・公聴会を8月30日、31日に富岡、郡山、東京で開催しようとしています。経産省は、処理水はトリチウム以外の放射性物質はほとんど除去されていること、トリチウムは弱い放射線しか出さず、自然界にも存在し、生物濃縮はせず、世界中の原発から排出されているとして、海中放出を行おうとし、原子力規制委員会もこれを後おししています。(ちなみにタンクにたまっているトリチウムの量は約1,000兆ベクレルです。)

ところが、このところ、ALPS処理水にヨウ素129、ストロンチウム90が告知濃度限度(基準値)を超えて残留していたことが明らかになりました。

経済産業省のトリチウム・タスクフォースや多核種除去設備等処理水の小委員会では、トリチウムしか残留していない前提で検討が行われており、他の核種については検討が行われていません。

東電の公表データによれば、ヨウ素129については既設ALPS以外に増設ALPSで、告示濃度を超える値が2017年4月~2018年7月まで60回以上計測されており、出口A~Cでまんべんなく見られます。最高は2017年9月18日の62.2Bq/Lでした(下図)。つまり、何かのはずみに1回高い値がでたのではなく、慢性的に発生しているのです。

増設ALPS出口グラフ

出典:東電公表データ(福島第一原子力発電所における日々の放射性物質の分析結果、「増設多核種」)より作成

ストロンチウム90に関しては、増設ALPSでは2017年11月30日に141Bq/Lと告示濃度(30Bq/L)を超えていました(出口C)。

8月22日の会見で、原子力規制委員会・更田委員長は「2015年くらいに告示濃度を超えるものがあると東電から報告があった」「告示濃度超えがあったのは、古い(既設)ALPSの出口Cでしょう」などと発言しています。更田委員長はかねてより、ALPS除去水に関しては、「海洋放出以外の選択肢はない」とし、今回のヨウ素129などについても、「薄めて告示濃度以下にすれば放出をとどめることはできない」という趣旨の発言をしています。

2015年に東電が告示濃度を超えたと報告し、その対策は取られていたはずです。しかし、2017年4月から現在にいたるまでヨウ素129が60回以上も告知濃度を超えているのはなぜなのでしょうか? 原子力規制委員会や、経済産業省は、こうした状況を把握していたのでしょうか。原子力規制委員長の発言をみる限り、正確に認識していたとは思えません。

ヨウ素129は、半減期1,570万年。特に海藻に濃縮・蓄積される。体内にとりこまれるとほぼすべて甲状腺に集まり、とりわけ胎児や乳幼児への影響が懸念されます。「薄めて出せばよい」とは思えません。なお、放射性ヨウ素については、「美浜の会」の以下の資料が、生物の進化の過程とヨウ素について、また放射性ヨウ素の危険性についてわかりやすく解説しておりたいへん興味深いです。>こちら

海洋放出以外にも有力な代替案がある

ちなみに、研究者・技術者・NGOなどが参加する「原子力市民委員会」は、トリチウムのリスクに関して諸説ある中で海洋放出を強行するのではなく、恒久的なタンクの中に保管することを提案しています。>詳しくはこちら

国家石油備蓄基地で使用している10万トン級の大型タンクを10基建設して、その中に100年以上備蓄する案です。トリチウムの半減期は12.3年。100年で減衰により、トリチウムの量が現在の約1000分の1に減少します。大型タンクでの貯留は、すでに十分実績のある手法であること、現在の1,000トン容量のタンクに比して面積効率がはるかに高いという利点があります。十分現実的な提案なのではないでしょうか。タンクの設置場所については、福島第一原発の敷地内にこだわらず、その周辺またはその他の東電所有地も考えられます。このような地上における保管案が十分に検討されているとは思えません。

また、予定されている説明・公聴会も、海洋など環境中への放出前提のものになっており、こうした代替案については、提示されていません。

いずれにしても説明・公聴会の前提はくずれました。経済産業省は、改めて検討をやりなおすべきでしょう。

(満田夏花)

「法的根拠」不明のまま進む除染土の再利用~撤回を求めて署名提出

みなさまにもご協力いただきました、「除染土の再利用方針の撤回を!」署名ですが、昨日6月11日、環境省宛てに15,374筆を提出しました。前回までの提出分27,246筆とあわせると、合計42,620筆となりました。厚く御礼を申し上げます。
署名では、除染土の再利用方針の撤回を求めるとともに、除染のあり方、除染土の処分のあり方に関しては、福島県内外の各地の幅広い人たちの参加のもとでの議論を求めるものになっています。

当日は、除染土の道路の路床材の実証事業が行われようとしている二本松市の「みんなでつくる二本松・市政の会」の菅野さん、鈴木さんにご参加いただき、また、除染土を埋める実証事業が行われようとしている栃木県那須町からも、田代さんが参加されました。まさのあつこさんに全体的な状況についてお話しいただきました。

環境省のこの除染土再利用方針については、以下の検討会の資料をご覧ください。
「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」
この検討会の名称でもわかるように、環境省が除染土壌の「再利用」をする目的は、大量の除染土を減らすことにあります。

再利用の実証事業に関しては、その概要が直近の検討会資料に記されています。>資料

那須町・東海村での除染土の埋め立て処分の実証事業についての情報はこちらをご覧ください。>資料
政府交渉では、驚くべき事実が明らかになりました。

1.除染土の再利用についての法的根拠は不明

法的根拠を問われ、環境省は、「放射性物質対処特措法」41条を上げました。
しかし、環境省の除染土の再利用方針は、除染土の減容化を目的としたものであり、同法の目的に書かれている「事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減する」という目的とは、本質的に異なるのではないかと思います。

第四十一条 除去土壌の収集、運搬、保管又は処分を行う者は、環境省令で定める基準に従い、当該除去土壌の収集、運搬、保管又は処分を行わなければならない。

ちなみに、この「処分」については施行規則はなく、環境省は、那須町・東海村における、埋め立て処分の実証事業や、一連の再利用の実証事業を踏まえて、作成するようです。

「実証事業の法的根拠は?」と問われると、同法の第54条(調査研究、技術開発等の推進)を上げました。
しかし、ここでも、「事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を低減するための方策等に関する調査研究、技術開発等」とされていますが、あくまで事業は、大量の除染土の減容化を目的とした、「再利用」であり、根本的に異なります。

2.飯舘村長泥地区の除染土再利用は、除染と「バーター」

長泥地区では、除染土の農地造成への再利用の実証実験が進められようとしています。
飯舘村から集められた除染土を運びこみ、農地をかさ上げし、上に覆土するというものです。

長泥地区実証実験イメージ
資料
環境省は、長泥の住民の理解を得られた、村からも事業を進めてほしいという要請がきたとしますが、飯舘村の支援を続けられている糸長先生から、長泥のみなさんは、この事業を受け入れなければ、復興拠点に指定されず、家のまわりを除染してもらえないという認識があったという指摘がありました。

環境省は、「条件というわけではない」「”バーター”と言ったかどうか確かではないが、バーターというわけではい」と言っていましたが、長泥地区を復興拠点(「特定復興再生拠点区域」)にする飯舘村の計画の中に、この除染土再利用という「環境再生事業」も記入されています。環境省としては村からの要望で進めていると言いますが、住民たちには、復興拠点事業と除染土再利用の農地造成実証事業が「セット」として説明されていたことが浮かび上がりました。

※たとえば、復興拠点計画の以下の文書の3ページ目に以下のように記されています。
「農の再生にあたっては、実証事業により安全性を確認したうえで、造成が可能な農用地等については、再生資材で盛土した上で覆土することで、農用地等の造成を行い、農用地等の利用促進を図る(環境省事業)。」

環境省は、「この除染土再利用実証事業がなければ、復興拠点に指定できないということではない」と言っていたため、「セット」ではない、ということをあらためて説明しなおすべきではないでしょうか?

3.実証事業で使われる土の詳細はわからない。

二本松でも那須町でも、実証事業で使われる土の汚染レベルなどについてはわかっていません。
「線量から推定するに、だいたい1,000ベクレル/kgくらいのレベルではないか」「実証実験については、決まっていないが1,000~2,000ベクレルくらいのレベルの土を使うのではないか」と言っていましたが、実際に使う土の汚染レベルという最も重要なことを決めずに、実証事業を行うということがありえるのでしょう
か?

4.本当に「実証事業」なのか?

長泥地区・二本松・那須町などで行われるのは、本当に「実証事業」なのでしょうか?
実証事業で、「安全性」を確認するのであれば、環境省が指針で示している上限の値(覆土にもよりますが、8,000Bq)でも大丈夫であるかどうかを示さなければなりません。
一連の「実証事業」は、実証というよりも、アリバイづくり、もしくは除染土を再利用することを、人々に「慣れさせる」ことが目的のように思えてなりません。

一方で、環境省は、「実証事業についてはさまざまな意見をいただき、検討している。白紙撤回も選択肢としてはある」というような趣旨のことも言っていました。

大量の除染土は確かに深刻な問題です。

だからといって、それを公共事業に利用することにより、環境中に拡散させてしまうことは許されるものではありません。環境省は、「管理主体が明確な公共事業で使う」としていますが、実際には、形上、管理主体が明確だったとしても、そこに埋められた放射性物質を「管理」できるわけではありません。

除染土をどうするのか。再利用ありきではなく、根本から議論を進める必要があるのではないでしょうか?

(満田夏花)

▼当日資料

まさのあつこさん資料

環境省からの資料(飯舘・二本松 実証事業資料)

環境省からの資料(5月17日、二本松実証事業説明r資料)

▼除染土再利用の反対を求め、署名を提出しました。

除染土再利用反対署名提出_180611