オランダ環境3団体、政府が秘密裏に進めるバイオマス発電新規支援を控訴

オランダの環境団体 Comité Schone Lucht (CSL, 英名 Clean Air Committee)、Leefmilieu、mobilisation for the Environment (MOB)の3団体は、公的情報アクセス法(Public Access to Government Information Act)に基づく情報公開請求によって、2023年に気候エネルギー省がエネルギー大手のバッテンフォール (Vattenfall) 社のバイオマス発電建設に対し、3億9,500万ユーロもの補助金を獲得できるよう支援していたことを明らかにしました。オランダ中央政府は、この新たな補助金の交付割り当て決定を公開していませんでした。

2022年4月の閣議決定により、オランダではバイオマス発電への新たな補助金は即時廃止となったほか、バッテンフォール社がディーメンに予定しているバイオマス発電計画への環境許可1は、2023年夏の閣議決定及び国務院の裁定によって取り消されていました。

情報公開請求で得た文書には、気候エネルギー省の関係者間で「補助金の凍結の意図に従って」という文言を取り除くよう指示したことや、同省とバッテンフォールのやり取りにおいて、この件が公になれば問題が生じることを懸念することが記されていました。CSLは、補助金廃止の決定に反することを認識した上でのこの支援に対し、「前例のない規模の政治的誤ち」と指摘しています。

3団体は、本件に対して中央政府を控訴し、補助金の撤回と、その資金をクリーンエネルギーと省エネのために使うよう要求しています。


詳細は、以下の原典をご覧ください。

Comité Schone Lucht, “Ministry officials secretly helped with new biomass subsidy Vattenfall | ‘This is going to cause hassle’”, <https://comiteschonelucht.nl/en/ministry-officials-secretly-helped-with-new-biomass-subsidy-vattenfall>


  1. 環境管理法(Wet milieubeheer)に基づく環境許可(証)のこと ↩︎

カナダの23環境団体が英政府に書簡、英国は燃料のためにカナダの森林を燃やしている

2024年2月28日、カナダの23の環境団体は連名で英政府に書簡を発出し、カナダの森林を皆伐して作られた木質ペレットを大量に燃やすバイオマス産業への補助金を止め、バイオマスを燃やすことがクリーンエネルギーであると誤認させないよう求めました。

同書簡は、英政府のBECCS(バイオエネルギー炭素回収・貯蔵)を含む大規模バイオマス発電に対する移行支援政策案に対するものです。同政策案では、輸入木質ペレットを燃やす産業用発電所に数十億ポンドの補助金が費やされると推定されています。

また、世界第3位の木質ペレット生産国であるカナダでは、原生林(これまでに一度も商業伐採されていない森林)の産業伐採が進んでおり、実は「手つかずの森林景観 (Intact Forest Landscape)」の減少率が高く、世界第3位だそうです。さらに、英国はカナダの最大の木質ペレット消費国ですが、その木質ペレットを生産・調達するのは、補助金の主な受給者である英国電力大手のドラックス社であるため、カナダ産木質ペレットの実質的な生産者は英国であると指摘しています。同日に発表されたBBC(英国放送協会)の取材記事では、ドラックス社がカナダの老齢林由来の木質ペレットを利用していることが書かれています。

カナダの23環境団体は書簡を通じて、補助金によって木質ペレットの調達を支え続けるという英政府の政策案は、わずかに残った世界の原生林が失われていくことに貢献することになるとして、以下の4点を要求しています。

  • BECCSに対する将来的な補助金も含め、森林由来のバイオエネルギーに対する補助金(新規契約および現行政策の延長の両方)を廃止すること。
  • ネットゼロ目標を達成するために木質ペレット利用量を増加することを奨励する英政府の計画を撤回すること。
  • 発電に木質ペレットを燃やすことは気候の解決策であり、カーボンニュートラルであると公的に位置付けるのを止めること。これらは科学的根拠に反する主張である。
  • 英政府が、世界に残る原生林と老齢林を重要な炭素貯蔵庫として保護するために国際協力の推進者としての立場をとること。

詳細は、以下の書簡(英語)をご覧ください。

英政府への書簡 (2024年2月28日)

https://www.nrdc.org/sites/default/files/2024-02/rt-hon-claire-coutinho-forests-canada-20240228.pdf


【関連情報】

NRDC, Expert Blog, “The U.K. is Burning Canadian Forests for Fuel”

https://www.nrdc.org/bio/courtenay-lewis/uk-burning-canadian-forests-fuel

BBC, “Drax: UK power station still burning rare forest wood”

https://www.bbc.com/news/science-environment-68381160

アンモニア混焼と輸入木質バイオマス発電の課題〜JERA石炭火力発電所の視察から〜

2月初旬、愛知県にある碧南火力発電所と武豊火力発電所を、気候ネットワーク主催のスタディツアーで視察しました。この2つの発電所は、日本最大の火力発電会社であるJERAによるものです。

碧南火力発電所は、石炭火力発電所としては国内最大で、2024年3月からアンモニア実証実験の開始が予定されています。また、武豊火力発電所は、輸入木質バイオマスの混焼を行なっており、2024年1月31日に火災事故がありました。

碧南火力発電所とは?

愛知県には、石炭火力発電が11基あります。このうち、碧南火力発電所(愛知県碧南市港南町2-8-2)は、井浦湾に面する愛知県碧南市の南部に位置します。1991年10月に1号機が営業運転開始して以来、中部エリアをはじめとする各地へ電力を供給してきました。2002年には5号機が営業運転を開始し、総出力が410万kwと石炭火力発電所としては国内最大、世界でも最大級の発電規模になりました。

約160万m²という広大な敷地の中には、ボイラー、タービン、発電機に加え、貯炭場、灰捨地などの設備が並んでいます。タービン建屋の壁面には、三河湾の青い海に浮かぶヨットをモチーフにしたというデザインが施されており、発電所の仕組みを展示する電力館(訪問時は工事のため休館)やヒーリングガーデン、エコパークなども併設されています。


碧南火力発電所の構内見学

碧南火力発電所の見学ツアーでは、発電所内を車で移動しながら、4・5号機のタービン建屋、3・4・5号機の中央制御室、貯炭場をまわりました。

タービン建屋について、一つの建物に2つのタービンが入っていることから、4号機のものはオレンジ色に、5号機は青色に色分けされていました。発電所内ではJERA以外の人も働いており、発電員(発電所で働いている人々)が、それぞれの担当すべきタービンが一目でわかるようにするための工夫とのことです。また、原則タービン建屋には誰もおらず、1日に1~2回、発電員が1人で巡視するとのことでした。


続いて、中央制御室へ向かいました。制御室内には入室できませんでしたが、窓越しに発電員の姿と発電機の制御盤を見ることができました。発電員は、タービンの巡視以外の時間は基本的にこの中央制御室にいるとのことです。一つの発電機につき、8名の発電員が配置され、12時間交代(7:30-20:40/20:30-7:40。10分の重複があるのは引き継ぎのため)で発電状況の監視にあたっているそうです。また、中央制御室の制御盤には、その日使用している石炭の輸出国の国旗が貼られており、複数の国の石炭を混ぜ、最も燃焼効率が良くなるようにしているとのことでした。

タービン建屋の見学のあとは貯炭場へ。碧南石炭火力発電所の貯炭場は屋外にあり、大小様々な大きさの穴が空いた遮風壁で囲まれています。いろんな種類の石炭を混ぜやすいという理由から屋外貯炭をしており、入荷した石炭を貯炭場のどこに置くかは、そのときの在庫の石炭と新規石炭の相性を考えて貯炭されるとのことです。「近隣からの粉塵への苦情はないのか?」と疑問に思い尋ねたところ、苦情はないとのことでした。また、石炭の粉やばいじんが飛び散らないよう、定期的に石炭の上に散水しているそうです。

その後、石炭輸送船の発着場の横を通り過ぎながら、最初に訪れた施設へと戻り、質疑の時間を持ちました。

アンモニア混焼、本当にクリーン?

さて、この碧南火力発電所はアンモニア混焼が行われるということで注目されています。JERAはテレビ広告などで大々的に「CO2の出ない火を作る」と宣伝していて、JERAがスポンサーを務めるプロ野球セ・リーグの試合や、TOHOシネマズの映画館でも上映前に頻繁にその広告が流れています。

JERAは、アンモニアは燃やすときにCO2を出さないため、石炭火力発電所で石炭と一緒に燃やす(混焼)ことで、削減できた石炭の分だけCO2の排出を抑えられる、と主張します。最終的に石炭の代わりにアンモニアだけ燃やせるようになれば「CO2の出ない火」ができる、というわけです。

しかし残念ながらこの主張は正確ではありません。というのも現在商用的に確立しているアンモニアの製造方法は、天然ガスなど化石燃料を原料としたものです(天然ガスに含まれる炭化水素と大気中の窒素を反応させて製造するハーバーボッシュ法)。最新鋭の設備を用いても、1トンのアンモニアを製造するのに約1.6トンのCO2が排出され、「脱炭素」燃料とはいえません。

こちらの図を見てもわかるように、アンモニア混焼をしても石炭だけ燃やした場合と比べて大きなCO2排出削減効果がないことが見て取れます。(アンモニア混焼の問題点について詳しくはこちら

つまり「燃やす」時にCO2がでなくても、「つくる」時にCO2が出てしまうアンモニア燃やしてできた火は、結局「CO2が出る火」というわけです。
JERAの「ゼロエミッション2050」ロードマップでは、50%混焼を2040年頃、専焼の実現は2050年頃と大まかに示されています。すなわちそれまで、石炭の燃焼が続くということでもあります。

実際、このJERAの広告は、環境NPO気候ネットワークと環境法律家連盟から公益社団法人 日本広告審査機構(JARO)に対し、このようなミスリーディングな広告を中止するよう勧告を求める申立が提出されています

ちなみに、この碧南火力発電所では2024年3月からアンモニア混焼の実証実験が開始されますが、そのアンモニアが製造されるのはアメリカ南部のメキシコ湾岸地域です。この地域には、先日のブログでも紹介したキャメロンLNG(三菱商事、三井物産、日本郵船が出資)やフリーポートLNG(JERA、大阪ガスが出資)など多くのLNG施設が集積し、住民の健康被害やエビが取れなくなるなど漁業への悪影響がすでに顕著に出ています。ここでアンモニア製造をすることは、地域の環境や人々の健康に更なる負荷がかかる懸念があります。

全廃からはほど遠い、日本の石炭火力政策

国連事務総長が2021年以降「OECD諸国は2030年までに、途上国も2040年までには石炭火力の全廃を」と呼びかける中、日本では石炭火力発電がいまだに発電量の32%を占めています(2021年度)。そして、2030年度にもまだ19%も使い続ける方針(第6次エネルギー基本計画)です。
2020年7月、「非効率な石炭火力発電所を2030年までにフェードアウトさせる」ことが発表されましたが、大型・高効率のものはむしろ積極的に活用を続ける方針なのです。非効率なものの全廃さえ期限が明示されておらず、2030年にもまだ動き続けている可能性があります。碧南火力発電所でみれば、1、2号機が政府が定義する非効率のもの(超臨界:SC)、3~5号機が政府が定義する高効率のもの(超々臨界:USC)です。1、2号機の廃止時期は示されていません。

日本も2050年カーボンニュートラルをめざす中で、石炭火力発電をそのまま続けるというわけにはいきません。

そこで進められようとしているのがアンモニア混焼ですが、前述のように2050年に専焼にたどり着くか否かというスケジュール、またそのアンモニアを再エネ由来で国内で作ることはほぼ不可能という状況です。莫大なコストと30年近い時間をかけてアンモニア専焼をめざすことは、それまでの期間、石炭火力を使い続けるということです。
アンモニア発電の実装化を石炭火力を使い続けながら待つのではなく、石炭火力発電を廃止し、省エネ・再エネに舵を切らなければなりません。

バイオマス混焼の武豊石炭火力で、1月末に爆発・火災

井浦湾を挟んで碧南火力発電所のちょうど対岸にある、武豊火力発電所(愛知県知多郡武豊町字竜宮1-1)のすぐそばにも行き、外から見学しました。武豊火力発電所は、輸入木質バイオマスを混焼している石炭火力発電所で、1月31日に爆発・火災があったところです。バイオマス燃料の発酵による火災は、近年各地のバイオマス発電所でも起こっています。

黒く焼け焦げた火災のあとは敷地の外からもよく見え、生々しく残っていました。


この発電所は、特に住宅地と隣接した立地で、小さな公園と道路を挟んですぐに住宅が立ち並んでいます。

地元で活動している「武豊町の環境問題を考える会」の方からは、火災を受けて発電所の稼働停止を申し入れたが、回答はなかったとのことでした。
この発電所はもともと重油発電所を廃止し、一時期太陽光発電所になっていたとのこと。
しかし、バイオマス混焼の高効率石炭火力発電所ということで新たに建設され、2022年8月に稼働が開始されたものでした。「太陽光発電のままにしておけば・・・」地元の方も悔やんでいました。

武豊火力発電所の変遷
1966年 1号機運転開始(22万kW)
1972年 2~4号機運転開始(2〜4号機いずれも37.5万kW)
2002年 1号機閉鎖2011年 発電所敷地内に「メガソーラーたけとよ」(7,500kW)運転開始
2015年2月 武豊発電所リプレース計画(1〜4号機の閉鎖、5号機の建設)公表
2016年3月 2~4号機閉鎖
2017年 「メガソーラーたけとよ」閉鎖、川越発電所構内(三重県)に移転
2022年8月 5号機(107万kW)運転開始
*中部電力、JERAの報道資料よりFoE Japan作成

見学を終えて

気候変動は世界的な問題であり、前述の通り日本は2030年までに石炭火力発電の廃止が求められています。この要請から目を背けず、そもそも省エネなどを通じて消費電力量を減らした上で、石炭火力から再生可能エネルギーへと舵を切ることが、日本のすべき気候変動対策です。その道筋として、未来のためのエネルギー転換研究グループ(JUST)は、2050年に再生可能エネルギー100%の社会を目指すことは可能だという調査報告書も公表しています。

今回のツアーでは、実際に発電所内で働く人々の姿、発電所の周辺地域の様子も目にしました。石炭火力発電の廃止策を実施するうえで、労働者や産業立地地域が取り残されることなく、公正かつ平等な方法で持続可能な社会へ移行することを目指すこと、つまり「公正な移行」は、まさに私たちが直面する課題であると感じました。

(長田大輝、髙橋英恵、轟木典子、吉田明子)

500名以上の科学者が日本政府に書簡を提出:森林バイオマスを使った発電はカーボンニュートラルではない

2月11日(米国時間)、42の国と地域の500名を超える科学者が日本政府に対し、木質バイオマスを使った発電はカーボンニュートラル(炭素中立)ではないと主張する書簡を提出しました。書簡は米国政府、欧州連合(EU)及び韓国政府にも同時に送付されました。

書簡では、バイオマスの発電利用により森林が伐採され、森林に蓄えられている炭素が大気中に放出されること、森林の再生には時間がかかり、数十年から数百年にわたって気候変動を悪化させること、バイオマスの発電利用は化石燃料を使用した場合の2〜3倍の炭素を放出する可能性があることが指摘されています。また、各国政府は「気候変動対策」として、バイオマスを燃焼することに対する補助金やインセンティブにより、実際は気候変動を悪化させていること、そして真の排出削減のためには、森林を燃やすのではなく、保全と再生に努めるべきことが述べられています。

日本では、2012年にFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)が開始されて以降国内のバイオマス発電事業が急増しています。

FIT認定量は、2020年9月には821.5万kWで、そのうち747万kWが一般木質バイオマスおよび農作物残さ(輸入木質ペレット・木質チップ、PKSなど)やバイオマス液体燃料(パーム油など)による発電となっています。同時点で、FIT制度下で稼働している発電事業数は446件、認定されている事業数は709件にのぼります。

大規模バイオマス発電事業は、輸入燃料に頼っています。例えば木質ペレットの輸入量は、2012年には約7.2万トンでしたが、2019年には161.4万トンに急増しています。

書簡は、日本のFIT制度について「日本は、木材を燃やす発電所への補助金をやめる必要がある」と言及しています。

以下、日本語の仮訳です(原文はこちら)。


森林のバイオマスエネルギー利用に関する書簡<仮訳>

2021年2月11日

米国大統領 バイデン様、
欧州委員会委員長 フォン・デア・ライエン様、
欧州理事会議長 ミシェル様、
日本国内閣総理大臣 菅様、
大韓民国大統領 文様

下記に署名した科学者および経済学者は、米国、欧州連合、日本、韓国が、2050年までにカーボンニュートラルを達成するために野心的な目標を発表したことに称賛の意を表します。森林の保全と再生こそが、この目標を達成するための重要な手段であり、同時に地球規模の生物多様性の危機への対処に役立つものです。私たちは、エネルギー生産のための燃料を化石燃料から木質燃料に転換することにより、気候目標と世界の生物多様性の双方が損われることがないよう、強く求めます。

何十年もの間、紙や木材製品の生産者は副産物として各工程の廃棄物を電気や熱を生成してきました。この利用は木材の新たな伐採につながるものではありません。しかし近年では、バイオマスエネルギーのために樹木を伐採し、木材の大部分を燃料に転用することで、森林に蓄えられるはずの炭素を放出させてしまう誤った動きが見られます。

このような新たな伐採の結果、当初は炭素排出量が大幅に増加し「炭素負債」が発生します。バイオマスエネルギー利用のために伐採される木が増えれば増えるほど、炭素負債は増加します。森林を再生し化石燃料を代替することで、最終的にはこの炭素負債が解消されるかもしれません。しかし、森林再生には時間がかかり、世界が気候変動を解決するためにはその時間的猶予がありません。数多くの研究が示しているように、このような木材の燃焼は数十年から数百年にわたって温暖化を悪化させることになります。木材が石炭や石油、天然ガスに取って代わる場合も同様です。

その理由は基本的なことです。森林は炭素を蓄えているからです。乾燥した木材の重量の約半分は炭素です。木材が伐採されて燃やされる場合、エネルギーを供給する前に伐採と加工の過程で、伐採された樹木の多く、しばしば半分以上は、化石燃料を代替することもなく炭素を大気に追加しながら、失われます。また、木材の燃焼は炭素効率が悪く、エネルギーとして燃やされる木材は、化石燃料よりも多くの炭素を排出します。全体的にみて、木材の燃焼により1キロワット時の熱や電気を生成に対して、化石燃料を使用した場合の2~3倍の炭素が大気中に放出される可能性が高いです。

今後数十年の地球温暖化の悪化は危険です。この温暖化は、増加する森林火災や海面上昇、猛暑などによる、より直接的な被害を意味します。また、氷河の急速な消失と永久凍土の融解、世界の海の温度上昇と酸性化により、さらに永続的な被害がもたらされることを意味します。これらの被害は、今から数十年後に炭素を除去したとしても、元に戻ることはありません。

木材を燃やすための政府の補助金は、二重の気候問題を引き起こしています。なぜなら、この誤った解決策が本当の炭素排出量削減策に取って代わっているからです。企業は、化石エネルギーの使用を、真に温暖化を減少させる太陽光や風力に転換する代わりに、温暖化を悪化させる木材に転換しています。

日本やフランス領ギアナなどでは、木材を燃やして電気を作るだけでなく、パーム油や大豆油を燃やす案も出ています。これらの燃料を生産するためには、パーム油や大豆の生産を拡大する必要があり、その結果、炭素密度の高い熱帯林が皆伐され、その炭素吸収量が減少し、大気中に炭素が放出されます。

森林や植物油の管理に関する「持続可能性の基準」では、これらの結果を変えることはできません。持続可能な管理とは、木材の伐採後に最終的に炭素負債が返済されることを可能にしますが、それまでの数十年、あるいは数百年の温暖化の進行を変えることはできません。同様に、植物油の需要が増加すれば、食糧需要の高まりによってすでに発生している世界的な森林伐採の圧力にさらに拍車がかかるでしょう。

土地利用変化に起因する排出について、国が責任を負うことは望ましいことではありますが、それだけでは木材を燃やすことをカーボンニュートラルとみなす法律による問題を解決できません。なぜなら、発電所や工場で木材を燃やすための法律で定められたインセンティブを変えるものではないからです。同様に、ディーゼル燃料の使用からの排出について各国が責任を負っているという事実は、ディーゼルがカーボンニュートラルであるという誤った理論に基づいており、トラックがより多くのディーゼルを燃やすことを奨励する法律を是正することにはなりません。国家の気候変動に関する責任を定める条約も、それを果たすための各国のエネルギー関連法も、それらが奨励する諸活動が気候に与える影響を正確に捉えたものでなければなりません。

今後の皆様のご決断は、世界の森林に大きな影響を与えます。もし世界のエネルギー需給量のさらに2%を木材から供給するとしたら、木材の商業伐採量を2倍にする必要があるからです。ヨーロッパでのバイオマスエネルギーの増加は、すでに欧州における森林の伐採量の大幅な増加につながっていることを示す十分な証拠があります。これらのアプローチは、熱帯諸国に森林をもっと伐採するよう促すモデルを作り出し、世界が目指してきた森林に関する合意を台無しにします。既に数か国は森林伐採を増加させると表明しています。

このような悪影響を回避するために、各国政府は、自国産であれ他国産であれ、木材を燃焼させることに対する既存の補助金やその他のインセンティブを廃止しなければなりません。欧州連合は、再生可能エネルギー基準や排出量取引制度において、バイオマスの燃焼をカーボンニュートラルとみなすのをやめる必要があります。日本は、木材を燃やす発電所への補助金をやめる必要があります。また、米国では、新政権が気候変動に関するルールを作り、地球温暖化を抑制するためのインセンティブを生み出す中で、バイオマスをカーボンニュートラルまたは低炭素として扱わないようにする必要があります。

樹木は、生きているものの方がそうでないものより気候と生物多様性の両方にとって価値があります。将来のネット・ゼロ・エミッション目標を達成するために、貴政府は森林を燃やすのではなく、森林の保全と再生に努めるべきです。

ピーター・レイヴン(ミズーリ植物協会 名誉会長、米国ミズーリ州セントルイス)

その他の主唱者:

(*原文をご参照ください)

「木質ペレットをFITの対象とすべきではない」17の米国環境団体が日本政府にレター

米国の17のNGOが、経済産業省 (METI)、林野庁などに対して、木質ペレットをFITの対象から外すよう求める書簡を提出しました。

書簡では、アメリカ南部において、天然林を伐採して木質ペレットが生産されていることを指摘。「森林は木や土壌に膨大な量の炭素を貯蔵し、洪水や嵐といった災害の影響からコミュニティを守っている」として、CO2排出量の削減、生物の生息地保護、洪水調整機能の維持のためには、森林を保全するべきであり、木質ペレットを利用するバイオマスを対象から除外しなければならないと主張しています。

アメリカ南部では、木質ペレットの生産のために、端材ではなく、樹木全体が使われたり、天然林が皆伐されたりする状況が報告されています。エンビバ・パートナーズLP社がノースカロライナ州におけるペレット製造工場の原料を得るため、ロアノーク川流域の樹齢100年以上の貴重な湿地広葉樹林の皆伐を行っていることがたびたび報道されてきました。これらの湿地林は、河川の沖積地に発達し、生物多様性に富む森林であるとともに、洪水制御、炭素の貯留といった意味でも重要な意味をもちます。

書簡に署名したDogwood Alliance(ドッグウッド・アライアンス)のキャンペーンディレクターのリタ・フロストさんは、「気候変動に真剣に取り組むのなら、森林を燃料として燃やすことは奨励できない。日本政府にとって、本来は森林、気候、コミュニティを保護するはずである『再生可能エネルギー』の定義から木質ペレットバイオマスを除外するよい機会ではないでしょうか。」とコメントしています。

現在、日本は主として、ベトナム、カナダなどから木質ペレットを輸入していますが、大手商社がアメリカの大手バイオマス企業エンビバ・パートナーLP社と大口の長期契約を結んでおり、今後、アメリカからの木質ペレットの輸入が急増するのではないかとみられています。

以下にレターの本文を掲載します。


2020年9月30日

経済産業大臣 梶山弘志 様
林野庁長官 本郷 浩二 様
バイオマス持続可能性ワーキンググループ委員 各位

私たち、日本の新たな木質ペレットバイオマス市場の供給地である米国の17のNGOは、森林由来の木質ペレットバイオマスを「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」から除外し、森林を燃料とする再生可能エネルギーへの直接的・間接的な補助金を廃止するよう日本政府に求めます。私たちは、世界最大の木質ペレット生産地である地域にくらし、その生産と消費が気候、森林、コミュニティに悪影響を及ぼすことを見てきました。木質ペレットのバイオマスを「再生可能エネルギー」の名の下で生産消費することはグリーンウォッシュに他なりません。
米国南部はエンビバ・パートナーズ社の木質ペレット生産の主要な原料供給地であり、同社はFIT制度のインセンティブにより住友商事を含む日本企業に木質ペレットを大量に供給しています。Dogwood Alliance(ドッグウッド・アライアンス)の現地調査は、木質ペレットバイオマス産業がペレットを天然林から調達している様子を詳細に描きだしました。多くの現地調査により、エンビバ社がペレット製造のために、丸太全体を利用するとともに、天然林の伐採に関わっていることを明らかにしました 。これは、エンビバ社が事業を展開している地域において責任ある行動をとることができていないことを示しています。持続可能性の保証を与えられたことにより、グリーンウォッシュをしているのです。
エンビバ社の工場の多くはノースカロライナ州で操業しています。ノースカロライナ州政府は最近、独自のクリーンエネルギー計画の中で、ノースカロライナ州の森林を外国市場で大規模に利用することは「国内・国際的なレベルで再検討されるべきだ」と述べており、公式文書では、木質ペレット産業が伐採、加工、輸送を通じて同州の炭素排出量を増加させていることを明確に認めています 。ノースカロライナ州のこれらの発言は、バイオマスエネルギーの生産と消費は有害であり、将来的には州がバイオマスエネルギー施設の操業を制限する措置を取る可能性があるということを示しています。
木質ペレットの生産と消費による炭素排出についても深刻な懸念があります。木質ペレットバイオマスは炭素排出量が大きいため、気候変動への効果的な緩和策にはならない、という科学的なコンセンサスが形成されてきています。したがって、再生可能エネルギーの目標を達成するために木質ペレットをバイオマス発電に利用することには大きなリスクがあると言えます。科学者は、木材の原料(パルプ、全木等)に関係なく、木材を使ってペレットを製造すると、数十年から数世紀にわたって大気中の炭素が増加すると示しています。

木質ペレットバイオマス産業は、すでに森林資源が過剰に利用されている地域にさらなる負荷を与えています。米国南部の森林面積は世界全体のわずか2%にすぎませんが、世界の丸太の12%、パルプ・紙製品の19%を生産しています 。言い換えれば、米国南部の木材製品産業は、世界のどの森林よりも生産性が高いということになります。米国南部における工業規模の木質ペレットバイオマス生産は、木質ペレットが低品質の木材製品であるために、より多くの森林伐採を引き起こしています。かつては経済的価値のなかった森林が、木質ペレット産業の急成長によって伐採され、利益を生むようになったのです。
米国南部の森林は、南米の熱帯雨林が伐採される速度の4倍ものスピードで伐採されています。さらに、木質ペレットのために皆伐が行われることは、従来の伐採方法よりもはるかに多くの木質繊維の除去をもたらします。これは、炭素貯蔵や、生態系サービス、および野生生物にさらなる悪影響を及ぼします。
エンビバ社が主導する木質ペレットバイオマス産業は、洪水などの気候変動影響に対するレリジリエンスへの影響だけでなく、大気や水質などコミュニティ全体に直接の影響を及ぼします。研究によると、木質ペレットバイオマス産業は、何百万トンもの温室効果ガスの排出に繋がるだけでなく、喘息や心臓発作を引き起こす可能性のある何トンもの粉塵や、発癌物質やスモッグを形成する汚染物質も排出しています 。このような影響は、主に非白人人口が多く、貧困レベルの中央値を超えているコミュニティで起きています 。工場から1~3 km以内に住む地域住民は、日々目に見える形のチリや埃に覆われて生活しているのです。
米国南部の森林は、樹木や土壌に大量の炭素を蓄積し、洪水や嵐といった災害の影響からコミュニティを守っており、気候変動対策に重要な役割を果たしています。気候変動に関連した大規模な洪水は、何年にもわたって甚大な被害をもたらしており、その経済コストは数百億ドルに上ると推定されています。 エンビバ社のような木質ペレット企業がクリーンエア法(大気浄化法)のガイドラインや規則に従わないで操業を続けた場合、このような気候変動の影響はさらに増幅します。 生きた森林を手付かずのままに残すことで、天然の洪水対策になるのです。
日本政府の目標が発電における温室効果ガスの削減であるなら、再生可能エネルギーとして木質ペレットを使用することは目的に合いません。木質ペレットバイオマスによる排出を米国の土地利用・土地利用変化及び林業(LULUCF)部門の「責任」と仮定するのは難しいでしょう。なぜなら、米国はパリ協定を採択しようとしていないし、京都議定書の締約国でもないからです。したがって、米国は日本で発電に使用される木質ペレットバイオマスからのLULUCF排出量を国際的に計上しないことになります。そうなれば、木質ペレットバイオマスによる排出量がどこの会計にも計上されないということになるのです。温室効果ガスの排出を削減しようとするならば、このような重大な抜け穴に頼るべきではありません。実際、温室効果ガスは大気中に排出されており、文書上だけから消えてしまっているのです。気候変動に関する政府間パネル (IPCC) は、科学者や市民とともに、木質ペレットのバイオマスをカーボンニュートラルとして計算することについて、「バイオエネルギーのためのバイオマスの生産と利用は、土地劣化のリスク、温室効果ガス排出、およびその他の環境開発目標について、マイナスの影響を与えうる。」と警告しました。
我々は、日本政府が気候変動の解決策を模索していることを称賛いたします。しかし、私たちが住むコミュニティのすぐそばで行われている木質ペレット産業を目撃する中で、森林を燃料として燃やすことを促進する政策は間違っているとわかりました。電気のために木を燃やすと大気中により多くの炭素が放出されます。つまりクリーンエネルギーへの道を進むのではなく、後退していくことになります。我々は、日本に対し、再生可能エネルギーの定義及び「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」から木質ペレット森林系バイオマスを除外することを求めます。

賛同団体:

Dogwood Alliance
Natural Resources Defense Council
John Muir Project
Center for Biological Diversity
Southern Forests Conservation Coalition
Earth Action, Inc.
Environmental Protection Information Center
Wild Heritage
Fern
Pivot Point
Partnership for Policy Integrity
North Carolina Climate Justice Collective
350 Triangle
Clean Air Carolina
Restore: The North Woods
Coastal Plain Conservation Group
Spruill Farm Conservation Project

関連情報)
バイオマス発電をめぐる要請書提出ー環境負荷が大きい事業はFIT対象外に
https://www.foejapan.org/forest/biofuel/200714.html