SB56開催中〜COP27に向けて途上国が求めるものとは?

6月6日から16日にかけて、国連気候変動枠組条約の第56回補助機関会合(SB56)が開催されています。補助機関会合では、条約の公式な決議などはありませんが、年に一度開催される締約国会議に向けた勧告や合意案が検討されます。

COP26以降、2022年2月には、IPCC第二作業部会が気候変動の「影響・適応・脆弱性」に関する報告書を公表しました。この報告の中で、気候変動の影響はすでに広範に及んでいること、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えることが達成されたとしても気候変動の影響による損失と被害を全く無にすることはできないこと、また、気候変動にレジリエントな開発ができるかどうかは、この10年の行動が鍵となることが指摘されました。

そして、2022年4月のIPCC第三作業部会による「緩和」に関する報告書では、現行の各国の気候変動対策目標(NDC)はパリ協定の1.5度はおろか、2度未満に抑えるためには極めて不十分であること、既存及び計画中の化⽯燃料インフラからのCO2排出量のみですでに1.5℃目標の達成は不可能であること、脱炭素技術の大規模な普及だけでなくこれまでに類をみない抜本的な社会変革が求められ ることが求められることが示されました。

このように、IPCCによる報告が相次いだ後に開催されているのが、今回の補助機関会合です。第一週目には、今回の補助機関会合の開幕に際し、気候正義を求める市民社会が、記者会見やイベントを開催しました。

もはや被害の時代に突入。求められるのはアクション

6月7日には、開催された気候正義を求める市民社会(Demand Climate Justice)の記者会見がありました、その中で、Third World Network/FoE マレーシアのMeena Ramanは、冒頭に述べたようなIPCC第六次報告の指摘を振り返りながら、

私たちは、求められる気候変動対策から程遠い所にいる。ウクライナ侵攻があってもなお、先進国はまだ化石燃料から脱却する準備ができていないようだ

と、求められる気候変動対策が進まないもどかしさを示しました。

また、議題から抜けていた途上国にとって極めて重要な、適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation、GGA)は初日の交渉で議題に盛り込まれましたが、損失被害の資金支援(グラスゴー対話)は、途上国からの強い要求があったにもかかわらず、今回の補助機関会合の主たる議題として取り上げられなかったことについても言及しました。

GGAはパリ協定第7条ですでに合意されてきた。にもかかわらず、どのように目標に向かって枠組を動かしていくかという重要な議論が未だになされていない。IPCCの第二作業部会の報告でも、適応にもっと注力すべきだという指摘があった。そして、今はもう損失と被害の時代になりつつある。途上国は、損失と被害に対応するための資金ファシリティを求めている。2025年以降の気候資金に関する新たな定量的な全体の⽬標(New Collective Quantified Goal on Climate Finance、NCQG)も、途上国にとっての優先事項だ

と、今回の補助機関会合での注目点を述べました。

Asian People Movement on Debt and Development のClaire Milandaは、求められる気候資金が十分に達していない一方、何十億ドルもの資金が化石燃料事業に使われている実態に触れ、2025年以降の気候資金に関する新たな定量的な全体の⽬標(NCQG)に関する議論で、具体的な額が提案されることを求めました。

Corporate AccountabilityのRachel Rose Jacsonも、理不尽なウクライナ戦争は、私たちが化石燃料中毒に陥っていることを示していると述べました。化石燃料によって引き起こされる気候変動によって、ナイジェリアやインドなど、気候変動にほとんど寄与していない人々やコミュニティが気候変動による被害を被っていること、そしてその被害はすでに日常茶飯事となり、多くの人々がなくなっていることにふれた上で、

気候変動に関する議論はもう26年も続いています。何年もの間、行動が先延ばしにされてきたことを、私たちはみてきました。もう話をしている場合ではなく、アクションを起こさないといけない時です。時間を無駄にしている場合ではありません。パリ協定の第6条2項および第6条4項は、私たちに求められている時間軸での温室効果ガス削減には役に立ちません。パリ協定の第6条8項に基づく、確実な温室効果ガス削減策や適応支援といった解決策が必要です

と、口だけで行動が伴わない実態を批判し、確実に温室効果ガスを削減する対策が必要であることを提示しました。

公平性の実現をーCOP27への期待

途上国の交渉官らも含めたイベントも開催されました。COP26の結果を振り返るとともに、COP27に求めることを発言しました。

途上国(G77+China)の気候資金に関するコーディネーターを担うZaheer Fakir氏は、現在の1000億ドルの長期資金が合意された背景や歴史を話したのち、

COP26では、年間1000億ドルの長期資金の動員に失敗したことについて、途上国はもっと怒りを示すべきだった。2025年以降の気候資金に関する新たな定量的な全体の⽬標(NCQG)についての議論が始まっているが、私たちは過去の1000億ドルの長期資金から学ぶ必要がある。つまり、資金の定義、会計方法について話し合うべきだ。1000億ドルの長期資金について話すとき、人によってこの動員額が異なる。それは、この年間1000億ドルの気候資金が決まった時にこの資金の定義を決めなかったからだ。

と、今後の議論に向け提言しました。

途上国同志グループ(LMDC)の第6条のスポークスパーソンを担うDiego Pacheco氏は、

グラスゴー気候合意には2つの問題点がある。一つは2050ネットゼロ、もう一つは、1.5度目標達成に関する文言だ。もちろん、1.5度目標を達成できなければ、気候危機の被害は深刻さを増すから、1.5度目標の達成は支持する。だが、その方法は、先進国にとって有利なものだ。2050年ネットゼロと設定し、発展途上国が先進国により依存せざるを得ない罠のような(市場メカニズム)制度を作り出すことで、先進国は気候危機のすべての負担を発展途上国に移している。この点こそ、私たちがグラスゴー気候合意を「グラスゴー植民地協定」だと呼ぶ理由だ。グラスゴー気候合意(での先進国と途上国の力関係)は、とてもアンバランスだ。今回の補助機関会合でも、私たちは適応に関する世界全体の目標(GGA)に関する議題を含めることを試みたが、うまくいかなかった。 適応に関する世界全体の目標の策定は簡単な作業ではない。でも簡単ではないからこそ、より多くの力を投入する必要がある。COP27では、バランスの取れた合意を求める。先進国は、少なくとも2030年までに確実な削減を行い、条約とPAの原則(Common But Differenated Responsibilities、共通だが再ある責任)を維持する必要がある。そして公平性を実現するならば、それは先進国は発展途上国のために炭素予算を残さなければならないはずだ。

インドの交渉を担うRicha Sharmaも、昨年のグラスゴー気候合意は緩和が中心となりすぎていると批判し、COP27での交渉は、適応策や損失と被害に関する議題が緩和策と同等に扱われるべきであることを指摘し、実効性のある対策や資金の拠出を求めました。

最後に、COP27のホスト国であるエジプトの大使Mohamed Nasr氏も発言しました。Mohamed氏は、近年の国際交渉では民間企業など関与するアクターが増えたこと、そして水問題、農業、ジェンダー問題など様々な課題にも包括的に立ち向かうことを強調しながら、COP27への意気込みを下記のように発言しました。

何をもってCOP27の成功というかは明確だ。バランスの取れ、実行力のある結果を伴う合意だ。そして、科学が私たちに伝えていることが優先されたものであるべきだ。

*サイドイベント “Developing country views on Road to COP 27”の様子はこちら

国際交渉の意義、先進国に住む私たちの役割とは

約2週間の補助機関会合では、正式な国際合意はありません。ですが、今回の補助機関会合は、COP27での合意に向けた勧告が作成される重要な場です。開催にあたっての記者会見やイベントにおける途上国の発言にあるように、今はもう温室効果ガスを減らすだけではなく、気候変動にどう適応していくか、これから多発するであろう損失と被害に対してどう備えるかを、形にしなくてはいけない時になっています。

記者会見の最後、Corporate AccountabilityのRachel Rose Jacsonが以下のような発言をしました。

私のようなグローバルノースの人々、メディアに伝えたいことがあります。私たちはこの交渉が辛いからといって、立ち去ることはできません。グローバルノースの人たちこそ、自分たちの政府にもっと訴えないといけません。私たちには、この交渉の会場で起こっている真実を先進国の人たちに伝えるメディアが必要です。多くの人が関心を持つ必要があります。

国際交渉の現場では、市民社会や途上国の声よりも先進国等の利益が反映されがちで、時に無力感を覚えます。さらに、約2週間の補助機関会合では、正式な国際合意はないため、注目度はあまり高くありません。ですが、彼女のこのメッセージによって、気候変動の国際交渉の場で、すでに被害を受ける人々の声が議論の場に届いているかということに、私たちが関心を持ち続けることの重要性を再認識しました。

私たち日本の市民は、すでに気候変動の被害に直面する人々とどのように連帯できるのか。それを考えるためにも、日本のより多くの人々に、すでに被害を受ける人々、途上国の人々の声を届ける活動を続けていきます。

(髙橋英恵、小野寺ゆうり)

処理汚染水の海洋放出をめぐり、規制庁、東電、経産省と会合

6月2日、東電の福島第一原発の処理汚染水を海洋放出するための実施計画変更を認可する審査書案をめぐり、規制庁、東電、経産省と会合を持ちました。審査書案は6月17日までパブリックコメントにかけられています。

事前に提出した質問への3者の回答については、こちらをご覧ください。
https://foejapan.org/wpcms/wp-content/uploads/220602_answers.pdf

会合では、いろいろと驚きの事実が明らかになりました。

以下、ポイントをまとめました。

1.放出される放射性物質の総量は不明。

まあ、これは以前からたびたび問題提起していたことではありますが、やはり放出される放射性物質の総量については不明のままです。東電は40以上あるタンク群のうち3タンク群についてのみ、64核種(ALPS除去対象の62核種+トリチウム+炭素14)について測定を行い、濃度を公表しています。
残りについては、東電は準備がととのったものから、放出前に測定し、順次公表するとしています。ちなみに、現在、タンクの水の7割近くで、トリチウム以外の放射性物質について、告示濃度比総和が1を超えています(つまり基準を満たしていません。下図参照)。東電は2次処理を行ってから放出するとしています。…つまり、準備ができたタンクから、二次処理→測定→放出…ということになるので、全量の放出が終了する30年後(?)にしか、放射性物質の放出総量はわからないことになります。

2.「64核種以外の放射性物質が残留していないこと」については東電がこれから検証し、規制庁があらためて審査する。

東電は、64核種(ALPSの除去対象62核種+トリチウム+炭素14)以外が残留していないことについては、今後、検証するとしています。またその検証結果を踏まえて放出前の測定対象核種を決めるとしています。規制庁は、東電の今後の検証を待ち、それを改めて審査すると述べていました。
ただ、このポイントは審査がはじまった段階で規制庁側が提起した課題だったのですが…。

3.東電はかきまぜずに測定。

東電の放射線影響評価で、示されている3タンク群およびタンクごとの濃度を公開している主要7核種の測定の前には、東電は攪拌を行っていませんでした。
これではタンクの底部にたまっているかもしれない物質を捕捉しそこねている可能性があります。
これらのデータは、ALPS処理水中の放射性核種に関する検討や、放射線影響評価の前提として使われています。東電はタンクを攪拌した上での測定を踏まえた上で、あらためて放射線影響評価を行い、規制委員会は審査をやりなおすべきではないでしょうか。
なお、東電は放出前に攪拌を行って測定を行うとしており、そのための設備も設置予定です。つまり正確な測定には「攪拌」が必要だと認識しているわけです。

4.ウランの取扱い

東電は、核兵器不拡散条約における計量管理の対象核物質であるウラン類を測定対象としていません。
東電は、ALPS除去対象核種を決める時、「原子炉停止 365 日後の濃度が告示濃度限度に対して 1/100 を超えたもの」を対象としたと説明しています。そしてALPS対象核種を測定対象としているわけです(場合によってはもっと絞り込まれるかもしれません)。
原子力市民委員会の滝谷紘一さん(元原子力安全委員会事務局技術参与)は「ウラン類は、溶融炉心が原子炉圧力容器の破損箇所から飛散流出する際に一部が微粒子になって固化し、冷却水中に移行、ALPSのフィルターを通過した微粒子が貯蔵タンクの底部に沈殿していると考えられる。海洋放出に際して貯蔵タンクからの水流の攪拌作用により微粒子が再浮遊して流出するおそれがある」と指摘しています。

5.放出前の測定対象核種は決まっていない

前述の通り、東電は「測定評価対象核種については、国内における廃止措置や埋設施設に関する知見を踏まえ、汚染水中に有意に存在するか改めて検証」するとしています。こんな重要なことを先送りにして審査を通してしまうとは驚きです。

6.放出後の海域モニタリングはこれから検討する

質問は、「海域モニタリングにより異常値が検出された場合は、緊急遮断弁の自動作動又は運転員の操作により、ALPS処理水の海洋放出を停止する、としているが、トリチウムについては週1回の測定ということになっており、異常値が検出されたとしても、一週間遅れという事態にもなりかねない」とし、常時モニタリングとするべきではないかというものでした。(原子力市民委員会の大沼淳一さんの問題提起です)
これに対し、「いや、それは放出前の海域モニタリングの話。放出後はこれから検討する」ということでした。
しかも、規制庁は、「海域モニタリング」は規制委員会の審査の対象外とも述べていました。海域モニタリングは、総合モニタリング計画の一環で政府の関係省庁や東電も入ったモニタリング調整会議というところでとりまとめを行っている、とのことでした。

7.東電は海洋放出費用の総額を示さなかった

「海洋放出する場合、数十年にわたる放出期間全体の費用はどのように評価しているのか」という質問に対して、東電は「将来も含めて処理水の処分にいくらかかるかを現時点で見通すことは難しい」と回答。
そんな馬鹿な!いくつか仮定をおいて、概算でも見積もりを示すことは、東電と国の責任だと思うのですが…。
経済産業省のもとに設置された「トリチウム水タスクフォース」での議論では、海洋放出は91ヶ月、34億円、とされていました。現在、報道によれば、本体工事費約350億円
2021~24年度の4か年で計約430億円に上る見通し」とされています。
改めて、他の代替案との比較評価を行うべきなのではないか。」という問いに対して、東電は国が丁寧なプロセスを踏んですでに決定している、国内で放出実績がある点やモニタリング等を確実かつ安定的に実施可能な点を評価して海洋放出が選ばれた、と回答しています。

しかし、原子力市民委員会が提案している、石油備蓄に使われている大型タンクでの長期安定保管やモルタル固化処分も実績がある点では同じではないでしょうか。また、国は「幅広い関係者のご意見等を丁寧に伺ってきた」わけではなく、国が選んだ「関係者」の意見を形式的にきく場をもうけただけです。国は海洋放出決定以降、公開の場の公聴会は開催していません。

大切なことがいろいろと先送りになっているのにもかかわらず、この審査書案も通されてしまうのでしょうか。

FoE Japanでは、審査書案に関するパブコメ・セミナーを開催中です。ぜひご参加ください。

第1回:6/6 19:00-20:00 (終了しました)
コメント:宇野朗子さん(福島から京都へ避難)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZAuc-mhrjwsGtWbyeb1oiHH5KdSiAMcZ9I7

第2回:6/11 11:00-12:00
コメント:阪上武さん(原子力規制を監視する市民の会)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZ0kfuGvrTwpHdK-Mnw5c6Yc86xVi52xjd_N

第3回:6/13 19:00-20:00
コメント:濱岡 豊さん(慶応義塾大学商学部教授)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZAocumupjMiGdBoTMlDzdFaR6tIsH0EL0Z9


【2分でわかる!汚染水動画シリーズ】

1 汚染水って何? 何が含まれているの?

2トリチウムって何?

3 代替案は?

4 人々の声は?

【横須賀石炭訴訟報告 vol.13】ついに結審。判決は11月28日に。

本日、横須賀石炭火力訴訟の第13回期日が開廷されました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。

(裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

今日をもって原告と被告の主張は終わり、結審となりました。判決前最後の審理であるということもあり、雨天にもかかわらず定員50名を超える約60名が会場に集まりました。

結審では、小島弁護士から今回の裁判の要点について、千葉弁護士からは横須賀石炭火力建設に係る環境アセスメントの瑕疵について、改めて提起されました。一方、被告からの陳述はありませんでした。

「気候保護に関する世論や議論が成熟していない」は、原告の訴えを退ける理由にならない

小島弁護士は、結審にあたり、次の5点についてお話ししました。

  1. 原告らの生命・健康・住居などの財産・食料への危険が差し迫っていること。危機は極めて深刻で重大な人権問題。
  2. 地球温暖化・気候変動による人権侵害を防止するためには、排出量の削減が決定的に重要である。
  3. 先進工業国それぞれが、パリ協定及び1.5度特別報告書で求められる排出削減措置を尽くすことが必要であり、それが世界各地の裁判所の共通認識ともなっている。
  4. 司法が自らの責任を果たすことが求められている。
  5. 気候保護に関する社会情勢や議論がまだ成熟していないとの理由で、司法による法的保護を否定するのは3つの意味で間違っている。

1点目について、指摘にあたっては、今年4月26日の神戸石炭火力訴訟の大阪高等裁判所の判決で「もはや地球温暖化対策は国境を超えて人類の喫緊の課題であることは疑いない(中略)」と、気候危機が裁判所でも認められたことを引用し、異常気象や漁業の被害を強調しました。そのほか、昨年ヨーロッパ各地を襲った山火事や、カナダでの49度という異常気温、日本での熱中症被害が頻発し毎年1000人が亡くなるほどになっていること、洪水などの気象災害によって600名が命を落とし3万件もの住居が流されたことに触れました。そのほか、原告尋問でも証言があったように、原告の居住地域である横須賀市内でも土砂崩れが起きたこと、海藻が育たず海の生態系が急速に失われていること、そしてその結果として漁業という生計手段が成り立たなくなりつつあることを再確認しました。

排出量の削減が決定的に重要であるという2点目については、昨今のIPCCの報告を引用し、人間活動によるCO2排出が地球温暖化を引き起こしており、排出量をゼロにしていくことは不可欠であることを訴えました。国際的にも、具体例として、世界エネルギー機関(IEA)は、「2021年以降のCCS(大気中のCO2を回収して貯留する技術)の備えない石炭火力の建設中止」「2030年までに先進国のCCSを備えない石炭火力の廃止」などが示されています。しかし、CCSについては、日本では適切に貯留できる場所が陸域にないことが経済産業省の報告書の中でされており、現在は海域での貯留場所も探索中で確実なものとはいえず、吸収量の増加に頼る対策は極めて困難であることを強調しました(注1)。

(注1)報告会では、北海道苫小牧市におけるCCS実証実験では3年間で30万トンのCO2貯留に成功した一方、横須賀石炭火力発電所が稼働した場合、年間726万トンのCO2が排出されることを比較されました。

次に、近年の世界各地での気候訴訟の判決事例を挙げながら、先進国としての責任、そして裁判所に求められる役割について指摘しました。2015年のハーグ地方裁判所での判決では、「少ない排出量だからやらなくてもいいというのでは、温室効果ガス削減を達成できない。人為的な温室効果ガスの排出は、どんな小さな量でも待機中のCO2濃度の上昇に寄与し、気候変動につながることが立証されている」と判断され、2019年のオランダ最高裁判所の判決でも踏襲されているそうです。また、2020年7月のアイルランドでの裁判、2020年11月のフランスでの裁判、そして2021年3月のドイツでも同様な判断がなされたことも紹介し、「世界的な共同体として、それぞれがちゃんとした責務を果たさなくてはならない」ということが、世界各地の共通認識であることを示しました。

最後の「気候保護に関する社会情勢や議論がまだ成熟していないとの理由で、司法による法的保護を否定するのは3つの意味で間違っている」という点は、前述の神戸高裁判決で、原告の訴えを退けた理由となっています。しかし、今回の裁判では、この点について、1)少数派の権利を保護するという人権保護の理念にそぐわないこと、2)気候変動の被害は全ての人に等しく同じタイミングで及ぶものではなくすでに被害を被っている人々がいること、そして、3)政治参加の権利を持たない未成年など将来世代がより深刻に気候変動による人権侵害を被ることを挙げ、反論しました。

再度提示されるアセスの瑕疵、被告の反論書面への指摘

千葉弁護士からは、「適切な複数案検討がされなかったこと」「環境アセスメントの簡略化」の2点に絞って、再度、横須賀石炭火力発電所建設に係る環境アセスメントの問題点について強調されました。

また、最後に、小島弁護士から、被告の準備書面への指摘がありました。被告の「今回の環境影響評価は『局長級取りまとめ(注2)』にそって行なっている」との主張について、もしそれに基づけば、事業審査の段階でパブリックコメントや専門家による審議が必要となるものの、それらが一切なされていないことを指摘し、仮に今回のアセスメントが『局長級取りまとめ』に沿ったアセスメントだったとしても、手続きに瑕疵があることを取り上げました。

(注2)『局長級取りまとめ』とは、2015年に経済産業省と環境省の局長が、東電が火力発電の入札をする際の扱いをまとめた文書。この文書をもって新規の石炭火力も検討することとされた。従って、電気事業法46-17-1(環境要件)として使い、確定通知に該当する。具体的には、電気事業者が経済産業省に申請するが、行政手続法上では、申請においては、審査基準をもうけ、パブリックコメントなどを実施しなくてはいけない。

判決は11月28日。公正な判断は下されるか

次回は、約半年後の11月28日(月)14:00〜、東京地方裁判所103号法廷です。いよいよ判決になります。

報告会では、判決まで時間があくことについて、小島弁護士は「他の石炭火力訴訟の結果を単に踏襲するのではなく、今までの口頭言論や原告尋問の内容などを踏まえて判断するゆえではないか」と述べました。

また、神戸石炭訴訟にも関わる浅岡弁護士も、「神戸と横須賀の裁判の違うところは、環境アセスメントの瑕疵がより明確であること。ここが横須賀裁判の特徴になっている」と、お話しされました。

先月末に開催されたG7環境・気候・エネルギー会合では、「2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化する」ことが合意されました。COP26の合意文書にも書かれた「排出削減対策がなされていない石炭火力発電の削減」をより明確化した形になります。さらに、横須賀市内では4月24日と6月4日に気候マーチが開催され、のべ300人以上が参加し、この横須賀石炭火力の建設中止を訴え、少しずつですが着実に、横須賀市民の中でこの石炭火力建設の問題が共有されつつあります。

一方、日本政府は明確な脱石炭政策を打ち出すどころか、水素やアンモニア混焼に対し、グリーンイノベーション基金を通じて支援しています。燃やしてもCO2が出ないことから「ゼロエミッション燃料」と呼ばれる水素・アンモニアですが、現状、化石燃料で水素・アンモニアを生産することが公表されており、生産の過程でも温室効果ガスが排出されてしまいます。日本は、削減につながらない技術で石炭火力を延命するのではなく、今こそ、再生可能エネルギー社会へと転換すべきです。

日本の脱石炭につながるよう、FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や気候変動対策の抜本的な強化を求める市民とともに活動していきます。

横須賀石炭訴訟について:https://yokosukaclimatecase.jp/

過去の訴訟報告ブログはこちら

(髙橋英恵)

G7:日本の置かれている立場と求められる取り組みとは

2022年6月にドイツで第48回G7サミットが開催されます。

議長国ドイツは気候変動分野を重要な議題の一つに据えていますが、「脱石炭」を声明に盛り込む議長案に日本政府だけが反対しているとの事前報道がありました。また、5月25〜27日にかけて気候・環境・エネルギー大臣会合が開催されています。

参考:
朝日新聞「日本に難題、石炭火力「30年廃止」 G7環境相会合声明原案」2022年4月26日
日経新聞「「脱石炭」孤立深まる日本 G7、米独が歩み寄り「全廃」削除要求は1カ国」2022年5月22日

気候変動とG7、そして日本の置かれている状況についてまとめました。

脱石炭の重要性

気候危機を食い止めるためには温室効果ガスの排出が最も多い石炭火力発電所の廃止が求められてきました。昨年のCOP26(気候変動枠組条約締約国会議)でも脱石炭の重要性が再認識され、多くの国が脱石炭を宣言しています。例えば脱石炭火力を目指す国などの連合PPCAには現在48の国が参加しています。

パリ協定の1.5℃目標達成のためには、先進国は2030年までに、それ以外の国も2040年までに脱石炭が求められており、今回のG7会議で議長国のドイツが2030年までの国内石炭火力の全廃をG7各国に打診していると報道されています。

日本政府は現在、効率の低い石炭火力発電所のみを廃止する方針を掲げており、さらにアンモニアやバイオマス燃料を混焼することで、効率を上げたとみなす方針で、脱石炭とはほど遠い状況です。また横須賀などで、新規の石炭火力発電所の建設も進んでいます。

海外への石炭火力発電の輸出に対する公的支援に関しては、すでに過去のG7首脳コミュニケに原則停止が明記されています。しかし、日本政府は国際協力機構(JICA)の支援で新たに建設が進められようとしているバングラデシュ・マタバリ2石炭火力発電事業およびインドネシア・インドラマユ石炭火力発電事業を例外扱いしており、公的支援を継続する姿勢を崩していません。

写真:既存のインドラマユ石炭火力発電所。この隣接地で新たな発電所の建設計画が進む。

<参考:2021年のG7首脳コミュニケ抜粋

公的資金の流れをグリーンに

石炭以外の化石燃料への補助金や公的支援についても、過去のG7やG20、COPなどで議論されてきており、資金の流れを1.5℃目標に合致したものにシフトしていく重要性は今回のG7でも取り上げられると見られています。

米国のNGOオイル・チェンジ・インターナショナルの調査によると、現在も多額の公的資金がG7諸国から化石燃料に流れており、中でも日本による支援はトップクラスです。

出典:OCI G7ファクトシート

一方、昨年のCOPで「クリーンエネルギーへの移行のための国際的な公的支援に関する声明」が発表され、化石燃料事業への国際的な支援を2022年末までに停止することが明記されました。

この声明には日本を除くG7諸国が署名をしており、この点でも日本政府に対する圧力は高まっています。

ロシアのウクライナ侵攻と化石燃料

ロシアのウクライナ侵攻をうけて、ロシアからの化石燃料の輸入停止がG7やEUなどで、進められています(例えば、EUはロシア産の石炭に続き、石油についても輸入を停止する方針を表明しています。日経新聞2022年5月4日付「EUが対ロシア追加制裁案 年内に石油禁輸へ」)。化石燃料の輸出はロシアの歳入の36%を占めており、プーチン政権を支えてきたと考えられます。欧米企業がロシアでの事業から撤退を決める中、日本の官民の動きは鈍いままです。例えば、日本が官民をあげて推進した「サハリン1」「サハリン2」といった石油・ガス事業に関して、欧米の石油メジャーは撤退を表明しましたが、日本の官民は継続する方針を明らかにしています。

今、日本は一次エネルギーの約9割、電力の75%を化石燃料に依存しています。LNGや石炭、原油など化石燃料の価格は国際的にも2021年から上昇し、ウクライナ侵攻の影響で今後さらに上がる見通しです。それは当然、家計にも影響します。特にコロナ禍ですでに影響を受けている生活困窮者などへの負担増が懸念されます。

このような状況の中「エネルギー安全保障」の議論では、原発再稼働や石炭火力の維持などの声も強くなっています。しかし、原発は、莫大な安全対策費が必要で、燃料も輸入に依存しています。事故やトラブルも多く、戦争やテロの攻撃対象になるリスクもあります。「エネルギー安全保障」とは真逆のものです。海外産の化石燃料への依存こそ、エネルギーコスト上昇に結びついてきました。

気候変動対策のためには化石燃料依存を断ち切らなければなりません。解決不可能な核のごみをはじめ、さまざまな問題を抱える原子力発電の再稼働、新設や新型炉の開発も、行うべきではありません。早急に進めなければならないのは、エネルギー政策の根本的な見直しと、省エネの徹底など短期の需給状況への対策です。

EUは先般RePowerEUという政策パッケージを発表しましたが、これはロシア産化石燃料への依存脱却とともに気候変動対策も追求する内容になっています。

最後に

来年は日本がG7の議長国です。日本政府が、気候変動政策などでG7の中で孤立していると報道されていますが、来年のG7でリーダーシップを発揮するためにも、日本政府には気候変動対策の強化、脱化石燃料に向けた強いコミットメントが求められます。(深草亜悠美)

参考:

南極に迫る気候危機

毎年4月25日は世界ペンギンデーです!
ペンギンたちも住む南極は、地球上でもっとも手つかずの自然が残るといわれてきました。しかし、資源乱獲や気候変動によって大きな打撃を受けています。

この3月には南極で平年の記録を30℃以上も上回るような記録的な高温を記録しています。温暖化とこの高温の因果関係について専門家の意見は慎重で、明確な関係性はまだ立証されていませんが、例えば、コンコルディア基地の3月の最高気温の平均は-49℃のところ、37℃も上回る-12.2℃まで上がりました

3月には南極の海氷の大きさが過去最少になっていると報告されました。この海氷の減少については、自然の変動によるものと指摘されていますが、温暖化による影響の可能性も同時に指摘されており、さらなる研究が待たれます(Nature, 2022)。温暖化による南極の植生変化も指摘されています。

気候変動以外に、南極の自然に対する脅威となっているのは、資源乱獲や違法漁業があります。

かつてアザラシやクジラ、コオリウオ科の魚などが乱獲されたり、たくさんの海鳥が漁網にかかって死んでしまったことがありました。その後は対策が進み、こうした被害は減りましたが、最近ではメロ漁やオキアミ漁の拡大が問題となっています。日本はアメリカとならんで世界最大のメロ輸入国で、私たちの食卓にも並ぶ身近な食材です。

FoE Japanは、国際的な南極保護のネットワーク(ASOC)に加盟しており、南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)の会合にオブザーバーとして参加して南極における海洋保護区(MPAs)設定のための提言活動をするなど、南極保全に関する政策提言活動を行っています。しかし、海洋保護区設定や違法漁業の取り締まりに関してはまだまだ結果が出ていないのが現状です。

CCAMLRが南極海における海洋保護区システムに取りかかって10年以上になりますが、これまでに海洋保護区に指定されたのはロス海とサウスオークニー諸島の二つです。東南極、ウェッデル海、南極半島の三海域の保護区指定に向けて、今後も提言活動を続けていきます。

【横須賀石炭訴訟報告 vol.12】「安心して生きたい。ただそれだけのことなのに」建設地付近に暮らす原告の証言

本日、横須賀石炭火力訴訟の第12回期日が行われました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。

 (裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

今回は、最後の原告尋問でした。建設地の北岸地域である長瀬にお住まいの橋本かほるさんが原告として、原告弁護人の浅岡弁護士の質問に答えながら、近年感じる変化や気象災害の状況について、証言されました。

豪雨で久々に感じた恐怖―橋本さんの証言

横須賀で育ち、一旦仕事のために地元を離れたものの、子育てを機に再び横須賀に戻ってきたという橋本さん。ご自身の子供の頃と気候の変化を感じるとともに、近年の豪雨により、恐怖を感じるようになったと言います。

浅岡弁護士から、地元に戻ってきて以来、変わったことはあるのかとの質問に対し、以下のように答えました。

「14年くらい前から、夏でも暑さを感じるようになりました。そして、3-4年くらい前から雨が激しくなって、音がものすごい。屋根が壊れそうでした。まさに豪雨で、恐怖を感じました。日常生活にも不安なことはよくあります。けれど、恐怖を感じることはほどんどなかったんです。個人的な話になるけれど、娘が5歳の時に事故に遭いました。その時に感じた恐怖と同じ恐さで、あの事故以来感じたことのない感情でした。」

そして、最近の雨は、雨量も多く、雨粒も大きいそうです。橋本さんのご自宅は、特別警戒区域に指定されるような急傾斜地に位置しており、先日雨がふった時には、家の裏山に降った雨は側溝を通じて麓に流れたものの、側溝からも溢れたとのことでした。

また最近、横須賀市内で豪雨による土砂崩れ(*)が多発していることも、そのような恐怖感のきっかけになっているそうです。

「このまま豪雨が続いたら、自分の家も危ないと思うようになりました。最近は、家の裏山の地盤が緩んで家の方に土砂が来るのではと思うと、恐怖を感じます」

* 2014年6月「住民「危険感じてた」横須賀ハイランドで再び崩落事故」https://www.kanaloco.jp/news/social/entry-48199.html

*2021年7月「「ドドーン」突然目の前に土砂…神奈川で崖崩れ52か所」https://www.yomiuri.co.jp/national/20210704-OYT1T50133/

実際、2021年には、5年に一度行われる神奈川県による土砂災害危険区域に関する調査が行われました。その結果によると、長瀬さんのお住まいの地域は、特別警戒区域に指定されました。その他にも、横須賀市内には土砂災害の警戒区域に指定された箇所が多く、その結果を見た橋本さんは、「警戒しなくてはいけない区域がこんなに多いとは。以前よりも危険な場所が増えて、怖いと思います。豪雨は自然災害だけれど、温暖化の影響によるもの。これ以上温暖化を進めないことが大事」と、ご自身の気持ちを表されました。

出典:横須賀石炭訴訟 甲第232-2号証:https://yokosukaclimatecase.jp/wp/wp-content/uploads/2021/12/%E7%94%B2223-2.pdf

浅岡弁護士の最後の質問は、石炭火力発電事業の存在を知ってどのように感じたかというものでした。この質問に対して、

「石炭火力が近くにできると知って、信じられない。世界はどんどん石炭から撤退している中、日本で、しかも家の目の前で建つなんて、言葉を失う。自分の家からも建設が見えるけれど、私は平和に暮らしたいだけ。この石炭火力(は問題であると)のことは、切実に訴えていきたい」

と締めくくりました。

「安心して生きたい。ただそれだけのことなのに」

裁判後の報告会でも、原告として話した中で、改めて、橋本さんからメッセージをいただきました。

「自宅から、日々背の高いクレーンが伸びて着々と建設が進んでいるのを目のあたりにするなかで、夏がきて、台風がきて、また豪雨が来るのだと思う。別に特別なことを望んでいるわけじゃないと思う。普通に、穏やかに暮らしたいというだけのこと。それが許されないというか、大事になれば命の危険がある中に、自分だけでなくて多くの人が晒されている。温暖化を止めない限り、幸せには生きていけない、安心して生きていけないということをいろんな形で感じていらっしゃると思うので、どうしても、あの石炭火力の建設を中止に追い込んでいかないといけないと、改めて思っている。」

今回の橋本さんのお話を聞いて、気候変動は命の問題そのものであると実感しました。橋本さんが証言されたように、大きな雨音の中で感じる恐怖を想像すると、苦しささえ感じます。ただただ穏やかに暮らしたいという、素朴で当たり前の願望が脅かされていること、そしてそのように恐怖を感じている人々が潜在的に多くいることは、見過ごしてはならないはずです。

次回期日のご案内

次回の裁判は、6月6日(月)10:30〜、東京地方裁判所で執り行われます。

6月の口頭弁論が、本行政訴訟の結審となる可能性が高いと裁判長も言及しており、2019年5月から約3年続いている裁判が、そろそろ終わりを迎えます。

次回の裁判に向け、小島弁護団長は、

「過去3回の裁判では、この環境アセスメントのおかしさ、国内外の海の被害の深刻さ、そして、気象災害の恐怖を、原告から直接話してもらった。石炭火力の建設という、人々の被害を拡大させるような方向でいいのかということを問うていきたい。世界の裁判所は気候変動に対して積極的に動いている。そのような中、日本の裁判所は今のままで良いのか問われている。最後の弁論ではそのようなことを話していきたい。」

と述べました。

裁判は終盤に差し掛かっていますが、横須賀市では、石炭火力の建設中止を求める動きが大きくなっています。

先週末の4月10日に開催された、「グレタひとりぼっちの挑戦」横須賀映画上映会では、目標を大きく上回り、1011人が来場しました。

今月末の4月24日(日)にも、横須賀市内で気候危機への具体的なアクションを求めよう、そして横須賀の石炭火力中止の声を盛り上げようと、気候マーチを予定しています。ぜひご参加ください。

本裁判が、日本の気候訴訟の転換点となるよう、そして、日本の脱石炭につながるよう、FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や発電所建設の中止を求める地元住民、市民とともに活動していきます。

(髙橋英恵)

【横須賀石炭訴訟報告 vol.11】海水温をもとに戻して〜原告漁業者の証言

先月末に引き続き、本日、横須賀石炭火力訴訟の第11回期日が行われました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。

 (裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

今回も前回同様、原告尋問でした。当初2名の原告尋問の予定でしたが、原告の都合により、1名となりました。今回、原告尋問を受けたのは、横須賀で漁業を営む小松原哲也さん(79)です。小松原さんは14歳の時から、父の手伝いをしながら、横須賀や東京湾海域で潜水漁業や底引網漁などに携わってきたそうです。横須賀で漁業を営む身として、この数十年間に渡って直面している変化について、小島弁護士に質問されながら証言しました。

気候変動の影響を直に受ける漁業の実態〜小松原さんの証言

小松原さんは長い漁師生活の中で、様々な漁法を営んでこられました。種類としては、潜水漁業、底引網漁が主なものですが、かつては海藻の採取やサヨリ網漁、アナゴの土管漁、アワビやサザエの採取も行っていたそうです。今も小松原さんの息子さんと一緒に、漁を営んでいるとのことでした。

潜水漁業では、エアホースのついたヘルメットを被って海に潜り、ミル貝(通年)、タイラ貝(5月〜11月)、なまこ(3月10日〜4月10日)を採取する漁法で、今は横須賀市内では小松原さんしか実施していないそうです。小松原さんは、猿島から追浜までの安浦漁港近くでこの潜水漁業をしていますが、近年は、タイラ貝の漁獲量はほぼ無に等しく、ミル貝も全盛期の120kg/日から50kg/日にまで減少、なまこもかつては1000kg/日取れたものが、75kg/日の範囲でとるまで激減してしまったと言います。大きく漁獲量が減ってしまった原因を小島弁護士が尋ねたところ、小松原さんは「一番の原因は、海水温が上がったから。貝は冷たい水を好む」と回答しました。

また、底引網漁についても、昔と今では漁れる魚の種類が変化し、漁獲高が大きく変化したと言います。昭和期には、江戸前高級魚のイシガレイやマコガレイが一日500kg(約2000枚)ほどとれたようですが、2000年代になって減り始め、今はイシガレイやマコガレイがとれることはほとんどなく、代わりに漁れるのはトビウオやタイ、イシモチだそうです。エボダイもとれるが、身が小さく売り物にならないと言います。

ワカメの採取も、かつては3月頃におこなっていたそうです。小松原さんが採取していたのは、田戸ワカメという、皇室への献上品にもなるようなワカメで、生計に大きく影響していたのですが、ミル貝やタイラ貝同様、海水温の上昇により今はもう取れなくなっていると証言しました。ワカメの他にも、テングサやヒジキ、アラメも採取していたが、今はほぼ取れなくなっているそうです。また、アラメやワカメを餌とするアワビやサザエも、久里浜沖にもぐれば50~60kg/日と、漁協組合で決める上限量まで簡単にとれるくらいたくさんいたそうですが、アラメやワカメが育たなくなる磯やけによって、今は漁れる量が大きく減ってしまったと証言しました。

そのほか、2隻の船の間に網をはり、海の表層を好む魚をとるサヨリ網漁も、猿島や金田漁港、そして横須賀火力発電所のある久里浜付近でおこなっていたと言います。サヨリも高級品で、かつては一晩に1000kgくらいとれ、大きな収入源になっていたそうですが、10年ほど前からほどんど取れなくなり、そして燃料費の高騰もあり、今は実施していないとお話ししました。サヨリがいなくなった理由として、科学者とともに調査した結果、サヨリの餌となる虫が育つために必要な海藻が海水温の上昇によって育たなくなってしまったことがわかったそうです。

このように、かつて売上の大半を占めていたミル貝、タイラ貝、ナマコ、カレイなどがとれなくなってしまったことにより、収入がかつての5分の1にまで大幅に減少してしまったと、生計に大きな影響があることを最後に証言され、「気候変動の影響は大きい。海水温をもとに戻してほしい」と締めくくりました。

「海は戻ってこない」

今回の小松原さんの証言を聞き、気候危機による生計への影響の大きさを改めて実感しました。また、閉廷後に開催された報告会では、傍聴者から「発電所の稼働により温排水がでていた時期と、稼働が止まって出なくなった時期の違いはあるか?」との質問がありました。その質問に対する小松原さんからの回答は、次のようなものでした。

「久里浜の発電所ができる前は(久里浜沖では)アワビがたくさん取れた。稼働したら、磯やけでできなくなった。稼働が止まっても、海は戻ってこなかった。」

発電所からの温排水という直接的な影響はすでにあり、その影響は不可逆的です。そのような中、現在建設中の石炭火力発電所が稼働開始したら、海の生態系やそれに依存する周辺漁業者に更なる影響を及ぼします。

報告会の最後に、小松原さんは、「できれば、被告が親身に受け止めて、久里浜の発電所を動かさないでほしい」と今回の尋問にあたっての心境をお話されました。

次回期日のご案内

今後の裁判の予定は、下記の通りです。

第12回期日 4月13日(水)14:00〜 東京地方裁判所(原告尋問の予定)
第13回期日 6月6日(月)10:30〜 東京地方裁判所

被告からの反論が特になければ、6月の期日で結審となると予想されています。2019年5月から約3年続いている裁判も、そろそろ終わりを迎えます。本裁判が、日本の気候訴訟の転換点となるよう、FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や発電所建設の中止を求める地元住民、市民とともに、日本の脱石炭を求め活動していきます。

また、横須賀では、気候変動への関心を高めたいと、地域住民が映画上映会も企画しています。ぜひ、こちらの上映会にもご参加ください。(上映会の詳細:https://nocoal-tokyobay.net/2022/02/07/greta_movie_20220410/

(髙橋英恵)

IPCCが第6次報告書第二作業部会のレポートを公開「気候危機は、これまで予測されていたよりも早いスピードで進行」

昨日、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、第6次報告書第二作業部会のレポートを公開しました。

IPCCは気候変動に関する科学を評価する国連の機関で、現在、第6次報告書の作成期間にあります。先月2月14日から27日にかけ、政策決定者向けサマリー(Summary for Policy Makers, SPM)に関する交渉がオンラインで行われました。

第二作業部会は、気候変動の影響・脆弱性・適応に焦点を当てており、本体は3600ページ以上に及びます。新しいレポートは、気候危機がさらに加速していることを示した一方、いくつかの論点で大きな議論があり、本レポートをまとめる過程で、先進国は損失と被害や、途上国における適応策への資金支援に関する言及を弱めようとしました。

本レポートの公表を受け、FoE インターナショナルがプレスリリースを発出しました。詳しくは以下をご覧ください。
(プレスリリース原文はこちら


アムステルダム, 2022/2/28 – アメリカ等の先進国が、気候資金に関する言及をIPCCの第二作業部会報告書から取り除こうとする試み、世界中の専門家や活動家から責任逃れであると非難されています。政治に左右されず、科学に基づくべきであるIPCC報告書の作成過程で、先進国は損失と被害といった重要な概念に関する情報を削除しようとしたり、適応策に向けた資金に関する言及を弱めようとしていました。今回のレポートは、気候危機はより早く進行しており、これまで予測されていたよりも早くに、より悪い影響が生じること、そして途上国での気候変動に対応するための気候資金の増額が急務であることを指摘しています。

FoEインターナショナルの活動家や専門家は、今回のIPCC報告書に対し、次のようにコメントしています。

数十年もの間、先進国が決断を先送りにしたために、今回のIPCCの報告書で書かれているような悲惨な気候危機をもたらすことになってしまったことは恥ずべきことです。特にアメリカは、途上国が今まさに経験している気候危機を生み出してきた国としての責任を受け入れるべきです。
損失と被害という概念や、資金に関する記述をIPCCの報告書から取り除こうとする先進国の試みは阻止されました。しかし、私たちは、気候変動を引き起こしてきた最も責任ある国々を非難します。責任から逃れようとすることは、とても恥知らずな行為です。
気候変動による取り返しのつかない被害を最小限に抑えたり、気候変動に適応するために、先進国から途上国へのより多くの資金提供の必要性を科学者たちは認めています。この資金は、人々のウェルビーイングと経済をまもるために必要です。もしこの資金がなければ、私たちの公正、平等、正義の実現に向けた苦難多い取り組みが無駄になってしまいます。

Meena Raman、FoEマレーシア

気候変動による影響はすでに世界の至るところで、予測されていたよりもよりも早い段階でより深刻な形で起きています。私たちはすでに、2100年までは起こらないだろうと予測されていた異常気象を目撃しています。COP26以降において、この報告書は現実を知らしめるものです。気候危機はすぐ目の前に迫っています。システム・チェンジを今こそ起こさなければなりません。見せかけではない温室効果ガスの削減、本物の解決策、早急な対応が必要です。

Hemantha Withanage、FoEインターナショナルの議長

このIPCCによる新たなレポートは、いくつかの被害からはすでに回復不可能であり、もし1.5℃を超えてしまったら、多くの国にとって適応することすら不可能だと指摘しています。私たちは、今世紀中に数億人もの人々が住み慣れた土地から離れざるをえず、農地も作物が育てられない状態となる可能性に直面しています。私たちは、脆弱な人々を助けるために、適応策や損失と被害のための資金を緊急に求めます。

Amos Nkpeebo、FoEガーナ

気候危機への脆弱性は、植民地主義によって形作られ、ジェンダー、先住民族のアイデンティティ、健康、貧困、紛争、そして教育とも関わっていると、今回の報告書は指摘します。科学は、最も脆弱で周辺化された人々の権利こそ、気候変動対策の実施において優先しなければならないと繰り返しています。

33〜36億人もの人々が気候変動への脆弱性が高い国々に住んでおり、その多くはグローバルサウスの国々です[1]。しかし、これは真新しいことではありません。気候危機の最前線にいる人々は、今までもずっと声をあげてきました。アフリカは気候変動による深刻な影響に直面しており、最も暑い地域はすでに耐えられなくなっています。私たちは、私たちの生活、土地、文化が、悪意ある政治やグローバルエリートたちの短期的な利益の犠牲となることを許しません。

Anabela Lemos、FoE モザンビーク

今回のレポートによれば、グローバルサウスの地域は、異常気象による食料生産への影響に対する適応に苦しむことが指摘されています。科学者は報告書の政策決定者向け要約の中で、気候危機が、アフリカや南アジア、島嶼国でのSDG目標2「飢餓をなくす」の達成を妨げるだろうと警告しています。
また、先住民族の権利と知恵が気候変動に立ち向かうために必要不可欠であることも強調しています。生物多様性の80%が先住民族の土地にあり[FoE Japan補足1]、生態系の変化は先住民族や地域コミュニティに大きな影響を与えています。

私たちは、気候変動による最初の絶滅を目撃しています。いくつかの森林、草原、泥炭地はすでに炭素の貯留地から排出源へと変わってしまいました。ゆたかな生態系は一度は私たちを助けてくれたものの、今は危機へと加速しており、過去数千年にわたって前例のない形で大きく変化しています。化石燃料や環境破壊や人権侵害を伴うエネルギーの使用を完全にやめることのみが、危機をさらに加速させるティッピングポイントに到達することを防ぎます。

Ricardo Navarro、FoEエルサルバドル

また、今回のレポートは、太陽放射を変化させる技術(Solar radiation management, SRM)や大規模バイオマスエネルギー、炭素回収技術(Carbon Captute and Strage, CCS)など、いくつかのジオエンジニアリング技術の実施についても警告しています[2]。

このレポートは、先進国や多国籍企業が、化石燃料からの早急な脱却を避けるために頼ろうとしている技術のリスクに対して警鐘を鳴らしています。

Sara Show、FoEインターナショナル 気候正義とエネルギープログラムコーディネーター

このレポートで科学は、昨年11月のCOP26期間中にグラスゴーや世界中で市民が求めてきたような、政府による決定的で抜本的な改革の必要性を繰り返しています。決定的で抜本的な改革とは、化石燃料への補助金の廃止、先進国から途上国への気候資金の供与、そして全ての人々のための公正で早急な再生可能エネルギーへの移行を意味します。

[1] IPCC, 2022: Summary for Policymakers, In: Climate Change 2022 Impacts, Adaptation & Vulnerability, Contribution of Working Group II to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change B.2 (page 12) 

[2] IPCC, 2022: Summary for Policymakers, In: Climate Change 2022 Impacts, Adaptation & Vulnerability, Contribution of Working Group II to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change B.5.4 and B.5.5 (Page 20, 21)

[FoE Japan補足1] National Geographic, “Indigenous peoples defend Earth’s biodiversity—but they’re in danger”: https://www.nationalgeographic.com/environment/article/can-indigenous-land-stewardship-protect-biodiversity-, 最終閲覧日2022/3/1


IPCCは今後、4月に気候変動の緩和策に関する第三作業部会報告書、9月に第一作業部会から第三作業部会の報告をまとめた統合報告書の採択を予定しています。

今回の第二作業部会のレポートでは、これまでの予測より早く気候危機が進行しており、人々の命や生物多様性への影響の深刻さが強調されました。気候危機はすぐ目の前に迫っており、温室効果ガスを削減する緩和策だけでなく、損失と被害への対応や適応策の早急な強化の必要性が強調されています。

IPCC のレポートは現実を知らしめるものです。日本を含む先進国は、気候変動への歴史的責任を認め、フェアシェアに基づいた行動が求められています。

FoE Japanは引き続き、日本政府に対し、歴史的責任に基づいた気候変動対策の強化を訴えていきます。

(髙橋英恵、深草亜悠美)

*参考

・IPCC, “Climate Change 2022: Impacts, Adaptation and Vulnerability”: https://www.ipcc.ch/report/sixth-assessment-report-working-group-ii/, 最終閲覧日2022/3/1

・環境省、AR6 WG2 政策決定者向け要約: http://www.env.go.jp/press/files/jp/117548.pdf、最終閲覧日2022/3/1

【横須賀石炭訴訟報告 vol.10】本訴訟初の原告尋問。訴訟の根底にある原告の思い

昨日、横須賀石炭火力訴訟の第10回期日が行われました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。
(裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

今回の裁判は今までとは異なり、原告への尋問を中心に執り行われました。今回、原告として尋問を受けたのは原告団代表の鈴木陸郎さんとプロダイバー兼環境活動家の武本匡弘さんです。両者40分程度、鈴木さんは発電所建設計画を知った経緯、計画を知ってからの活動内容、提訴に至った経緯を、千葉弁護士(原告の弁護団弁護士)に質問されながら証言し、武本さんはこの20年間の国内外の海の変化について、半田弁護士(原告の弁護団弁護士)の尋問の下、証言しました。

今回は、原告の主張の内容と、今回の裁判を初めて傍聴した大学生である著者の感想を紹介したいと思います。

環境アセスメント制度をより良いものにする責任〜鈴木陸郎さん

鈴木さんが横須賀の火力発電所建設について知ったのは、2016年7月でした。発電所ができると知って、いろいろ調べていく中で、「世界でも脱石炭火力発電へと動いているのになぜ今さら火力発電所を建設する必要があるのか?」と疑問を持ったそうです。

以来、仲間とともに発電所建設について調べる、アンケートを行うといった活動をおこないました。調べているうちに、不当なアセスの簡略化の理由となる「環境が良くなる」という説明が、いつと比べているのかについて不記載であるといった問題に気づくこととなりました。

鈴木さんは、環境アセスメントの方法書の説明会に参加し、上記の疑問について質問をしました。しかし、事業者にいくら質問しても回答なく、事業者の態度が不誠実であると感じ、鈴木さんの国に対する[高橋1] 不信感が高まったそうです。「環境が良くなる」という説明がいつと比べているのかについては、同じ説明会に居合わせた他の参加者も何度も質問したそうです。その結果、事業者は18年前との比較であると回答し、参加者もびっくりしたそうです。鈴木さんも「そんな昔と比べてよくなると言われても納得できない」と感じたそうです。また、2017年に実施したアンケート結果に関しては、約3分の1の人が発電所建設について知らず、1割の人が建設に賛成、4割の人は反対しているとのことでした。

そして、鈴木さんが訴訟を起こすことを決意したのは、主に3つの理由があるとのことでした。1つは、このまま温暖化が進んだら人間が生活できない環境になってしまう可能性があり、温暖化を止めるために温室効果ガスの削減が求められる中、石炭火力の新設は到底許されないと考えたからだそうです。2つ目の理由は、人間の活動によって地球の回復能力がオーバーしている中、これ以上の悪化を防ぐための制度である環境アセスメントを簡略化することは、アセス制度の破壊につながる行為と考えたためです。そして最後の理由が、気候変動を悪化させたのは自分たちの世代でもあるが、将来世代により良い世界を残すためには、環境アセスメントをより良いものにしていく責任があると感じたためだとして、尋問の最後の質問を締めくくりました。

プロダイバーが感じてきた気候変動の影響〜武本さん

武本さんは、約40年間、プロダイバーとして活動されてきました。活動のフィールドは、拠点の葉山を中心に三浦半島周辺、沖縄、北海道など日本全国、そして中部太平洋に及びます。その40年のうち、後半の20年間、海がどんどんひどくなっていく様子を目の当たりにしてきたと証言しました。1998年から、プロダイバーの仕事と並行して環境活動を始めたそうで、そのきっかけはサンゴの白化であるそうです。

サンゴの白化とは、水温が30度以上の水温が続くと起きる現象で、サンゴの体内に住みサンゴの呼吸の役割を担っている褐虫藻がサンゴから放出され、サンゴが死んでしまうことを指します。人間も体内にたくさんの細菌を宿していて、それら最近がいなければ生きていけないのと同じことだと、武本さんは説明しました。そして、一度白化したサンゴは、二度と元に戻ることはないそうです。

武本さんは、マーシャル諸島沖付近、沖縄、江ノ島、葉山でのそれぞれ2013年と2021年の海中写真を比較しながら、海がどのように変化しているのかを証言されました(尋問で使用した写真資料はこちら)。マーシャル諸島沖付近、沖縄の写真の比較では、サンゴ礁が白化によって崩れてしまっており、江ノ島、葉山の写真の比較では、海藻が繁茂していた場所に全く海藻がなくなってしまった様子がわかりました。

海藻が繁茂するには、水温が12度以下である必要があるそうですが、近年は水温の上昇によって、本来冬眠しているはずの魚が海藻の芽を食べてしまい、海藻が十分に育つ前になくなってしまうそうです。海藻は、海の生き物の隠れ家になったり産卵の場所になったりと、海の生物多様性を育むのに重要な役割を果たしています。海藻がなくなる「磯焼け」は、海の生物多様性の損失のほか、その恩恵に預かる漁業者にも大きな打撃を与え得ていると証言しました。

サンゴの白化も磯焼けも、水温の上昇が原因で起こり、水温上昇は主にCO2排出による影響であるそうです。また、風の変化も、海の環境を整える役割を担っていましたが、本来吹くべき風が吹かなくなったこと、台風の発生地や経路が変わったことも、磯焼けやサンゴの原因であると話しました。そして最後に、海水温の上昇や風向きの変化などをもたらす気候変動の影響によって、漁業者やダイバーの仕事が奪われていることを再度強調しました。だからこそ、CO2を多く排出する火力発電所建設には反対しているそうです。

弁護団からのメッセージ

今回は裁判後に報告会を開催しました。報告会での、弁護団からのメッセージを紹介します。

小島弁護団長は、

「オランダやドイツ、フランスで市民側勝訴の案件が増えている。日本の裁判所は世界の裁判の動向になかなか影響されないけれども、一つ一つ積み上げていくことが大事。」

今回新しく原告弁護団に入った長井弁護士は、

「気候危機は我々の生命を脅かすものになってきている。弁護士としてそれに取り組み、食い止めたい。」

今回の尋問で武本さんに質問をした半田弁護士は、

「武本さんの生の声をいかに伝えるかで考えてきた。裁判官も手元の写真を見ながら反応し、武本さんも傍聴者に聞こえるように大きな声で話してくれた。環境訴訟を見ていると、若い弁護士があまりいないが、これからも頑張っていきたい。」

神戸での石炭訴訟も担当されている浅岡弁護士は、

「裁判官はよく聞いてくれた。原告の気持ち、なぜ裁判を起こしたのかというのがよく伝わったと思う。気候変動は今よりもっと悪くなる。世界の裁判所は気候変動が人権侵害をもたらすことを理解している。この4年の間、世界の裁判所の認識はおそろしく変わった。世論を動かしてしっかり反映させていきたい。」

今回の尋問で鈴木さんに質問をした千葉弁護士は、

「この発電所の計画が地元の人に知られていった過程、鈴木さんが初めからアセスの問題点に注目していたことが伝わったと思う。裁判官に、このままではいけないんだという気持ちにさせていきたい。」

今回の裁判を聞いて

筆者は、まず第一に武本さんがおっしゃるような海中の変化が起こっていることを知らなかったため、とても驚きました。こういったことを私の周りの若者が知っているとは到底思えないので、こういった変化を正確に広めることがとても重要であると思いました。また、環境を犠牲にする経済成長は許されるべきではないと思うので、今回の裁判を勝訴し、環境保全のための裁判の良い前例となることを願っています。また、環境アセスメントの簡略化などについて、国側の誠実な対応を求めます。

(祐谷直樹)

次回期日のご案内

次回も今回同様、原告2名の尋問が行われます。
2022年3月7日(月)10:30〜@東京地方裁判所第103号法廷です。ぜひ、傍聴にいらしてください。

また、閉廷後、日比谷図書文化館大ホールで報告会(オンライン中継あり)を行います。傍聴への参加が難しい場合でも、ぜひこちらもご参加ください。

*傍聴と報告会の詳細は、後日こちらに掲載されます。

https://yokosukaclimatecase.jp/

FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や発電所建設の中止を求める地元住民、市民とともに、日本の脱石炭を求め活動していきます。

(髙橋英恵)

EUタクソノミーと原発をめぐる議論

EU域内における2050年カーボンニュートラル達成のための資金を動員するため、ファイナンスに関係するさまざまな取り組みも進めています。その一つのEUタクソノミーをめぐり、年末に一つの重大ニュースが飛び込んできました。タクソノミーに、原発と化石燃料ガス(天然ガス)を含めるというものです。タクソノミーでの原発の扱いはこれまで加盟国内で激しい議論がありましたが、どういうことなのでしょうか。

タクソノミーとはもともと分類法を意味し、環境的に持続可能な投資を促進するために、グリーンな活動を分類する仕組みです。EUタクソノミーでは6つの環境分野に貢献する活動を明確にし(分類し)、いくつかの主要な条件を設けています。

6つの分野:

  1. 気候変動の緩和
  2. 気候変動への適応
  3. 水と海洋資源の持続可能な利用と保全
  4. サーキュラーエコノミーへの移行
  5. 環境汚染の防止と抑制
  6. 生物多様性と生態系の保全と回復

これら6つの分野のどれかもしくは複数に貢献することが条件で、いずれの目標に対しても「著しい害を及ぼさない(Do No Significant Harm、DNSH)」こと、ビジネスと人権に関する指導原則など「最低限のセーフガード」を満たしていること、またEUのサステナブルファイナンスに関する技術専門グループ(TEG)が示す「技術的スクリーニング基準(TSC)」を満たしていることが求められています。

2021年末、欧州委員会がこのタクソノミーに原発と化石燃料ガス(天然ガス)を含める方向性であることがリーク記事により明らかになりました。

2022年1月1日には欧州委員会がプレスリリースを発出し、再生可能エネルギー中心の社会への移行に天然ガスと原発には役割があること、一定の条件(注1)のもとで両エネルギーを認めることを提案し、これら両エネルギーに関する委託法令(注2)のドラフトに関する協議を開始したことを発表しました。委員会は加盟国の専門家グループ等との協議結果を踏まえ、1月中にも採択するとしています。

注1)新規のガス火力について、2030年までに建設許可が出ている事業に関しては、より高排出の施設をリプレースする目的で建設する、排出上限270gCO2e/kWhとすること等が条件。新規の原発については2045年までに建設許可が発行され、放射性廃棄物の管理計画がしっかりと整備されていること等が条件になる。

注2)Delegated Act。欧州委員会が議会から委任をうける形で採択するもので法的拘束力がある。

原発の扱いに関してはEU加盟国内でも意見の対立が続いていました。フランスやフィンランド、東欧諸国などは原発を推進しており、フランスとフィンランドは現在も自国内で新規原発を建設中です。一方、脱原発を決定しているドイツや、オーストリアなどの国はタクソノミーに原発を含めることに反対していました。

オーストリアの環境団体Global2000(FoEオーストリア)はこの動きを批判し、「これまでの議論で、すでに原発は除外されていた。特に今回示された原発に関するスクリーニング基準はこれまで一度も公開で議論されたことがない上に、既存の法令や規制をリストにしただけにすぎない」と批判。またドラフトテキストの中で、原発が「ベースロード電源」とされていることに関しても批判しています。

オーストリアの環境エネルギー大臣も、一連の動きを「グリーンウォッシングである」と批判し、タクソノミーで原発を認めることになれば訴訟も辞さないとしています。

また技術専門家グループ(TEG)のメンバーのDawn Slevin氏は、原発を認めることに対する反対署名を2021年12月21日に開始。この署名にはTEGのメンバーやその他の専門家が賛同しています。

Slevin氏らは、技術専門家グループ (TEG)が原発はEUタクソノミーに含めないことを勧告したのにもかかわらず、原子力技術を促進したいごく少数の国々が政治的な理由から原発に科学的というお墨付きを与えようとしていると批判し、核廃棄物やウラン採掘による環境影響の観点から原発はDNSH原則に反すること、事故のリスクは拭い去れないこと、気候変動による影響が原発を脆弱にさせる(熱波により取水できない、洪水のリスクがあるなど)ことなどを指摘し、原発をタクソノミーに含めることに反対しています。

欧州の原発をめぐっては、前述のようにフランスとフィンランドで原発の建設が進んでいます。また、EUから脱退した英国でも建設が進んでいます。(その他東欧諸国にも原発建設計画あり

フランスのフラマンヴィル3号機(EPR(欧州加圧水型炉)、1600MW)は2007年に建設が開始されました。2012年に完成、2013年に運転開始予定でしたが、技術的問題に見舞われ、運転(送電)開始は10年遅れの2023年とされています。またコストも増加し、当初33億ユーロとされていたものが、約4倍の124億ユーロに膨れ上がっています

フィンランドで建設中のオルキルオト原発3号機(EPR、1600MW)も、当初の完成予定が2009年でしたが、現在も営業運転を開始していません。

英国ではヒンクリーポイントC原発(EPR、1600MW×2基)の建設が進んでいますが、こちらも大幅な遅延とコスト増加に見舞われています。

英国といえば、やや脇道にそれますが、日立製作所が英国ウェールズへの原発輸出を試みましたが頓挫したことはみなさんの記憶にも新しいかもしれません。英国では1995年にサイズウェルB原発が稼働したのを最後に、原発の新設がありませんでした。2010年、英国政府は原発新設の8つの適地を発表しましたが、現在建設が進んでいるのはこのうちヒンクリーポイントCのみです。その他サイズウェルC原発も計画中ですが、それ以外についてはほとんど進んでいません。(なお、英国の国家インフラ委員会は昨年9月、原発が低炭素電源とは認めた上で、建設に時間がかかりすぎることなどからこれ以上大型原発の建設は必要ないとする助言も発出しています。)

現状、欧州での原発建設には10年の歳月がかかっており、コストも大幅に増加しています。

冒頭で説明したようにタクソノミーの目的は、環境的に持続可能な投資(environmentally sustainable investment)を促進することで、掲げられた6つの分野に対して「著しい害を及ぼさない(Do No Significant Harm、DNSH)」ことが求められています。

気候変動対策の観点からいえば、英国の国会インフラ委員会も指摘するように、原発は時間がかかりすぎて、2030年までに排出半減、2050年にはネットゼロを求める気候変動対策に間に合いません。原発にかける資金があれば別の低炭素電源の開発や省エネ技術に回すべきでしょう。

また原発は気候変動に適応できないことも指摘されています。これまでも、温暖化による冷却水不足で原発の出力制限が行われるケースが実際に発生しています。昨年発表された研究によれば、台風やハリケーンによる影響も今後より受けることが指摘されています。気候災害に備えた設備の強化も行い得ますが、さらに追加のコストがかかります。

そしてウラン採掘から稼働まで、被爆による健康被害や放射性廃棄物を生み出します。環境汚染の抑制と防止もできないのです。

事故がおきれば、その影響は甚大です。東電福島原発事故の影響は今でも続いています。なによりチェルノブイリ原発事故の影響もまだ続いています。

今月中にも欧州委員会はこのガス・原発を認める委託法令を採択するとみられていますが、ドイツやオーストリアなどは今も強い反対の姿勢を示しており、行方が注目されます。

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(深草亜悠美)