EUタクソノミーと原発をめぐる議論

EU域内における2050年カーボンニュートラル達成のための資金を動員するため、ファイナンスに関係するさまざまな取り組みも進めています。その一つのEUタクソノミーをめぐり、年末に一つの重大ニュースが飛び込んできました。タクソノミーに、原発と化石燃料ガス(天然ガス)を含めるというものです。タクソノミーでの原発の扱いはこれまで加盟国内で激しい議論がありましたが、どういうことなのでしょうか。

タクソノミーとはもともと分類法を意味し、環境的に持続可能な投資を促進するために、グリーンな活動を分類する仕組みです。EUタクソノミーでは6つの環境分野に貢献する活動を明確にし(分類し)、いくつかの主要な条件を設けています。

6つの分野:

  1. 気候変動の緩和
  2. 気候変動への適応
  3. 水と海洋資源の持続可能な利用と保全
  4. サーキュラーエコノミーへの移行
  5. 環境汚染の防止と抑制
  6. 生物多様性と生態系の保全と回復

これら6つの分野のどれかもしくは複数に貢献することが条件で、いずれの目標に対しても「著しい害を及ぼさない(Do No Significant Harm、DNSH)」こと、ビジネスと人権に関する指導原則など「最低限のセーフガード」を満たしていること、またEUのサステナブルファイナンスに関する技術専門グループ(TEG)が示す「技術的スクリーニング基準(TSC)」を満たしていることが求められています。

2021年末、欧州委員会がこのタクソノミーに原発と化石燃料ガス(天然ガス)を含める方向性であることがリーク記事により明らかになりました。

2022年1月1日には欧州委員会がプレスリリースを発出し、再生可能エネルギー中心の社会への移行に天然ガスと原発には役割があること、一定の条件(注1)のもとで両エネルギーを認めることを提案し、これら両エネルギーに関する委託法令(注2)のドラフトに関する協議を開始したことを発表しました。委員会は加盟国の専門家グループ等との協議結果を踏まえ、1月中にも採択するとしています。

注1)新規のガス火力について、2030年までに建設許可が出ている事業に関しては、より高排出の施設をリプレースする目的で建設する、排出上限270gCO2e/kWhとすること等が条件。新規の原発については2045年までに建設許可が発行され、放射性廃棄物の管理計画がしっかりと整備されていること等が条件になる。

注2)Delegated Act。欧州委員会が議会から委任をうける形で採択するもので法的拘束力がある。

原発の扱いに関してはEU加盟国内でも意見の対立が続いていました。フランスやフィンランド、東欧諸国などは原発を推進しており、フランスとフィンランドは現在も自国内で新規原発を建設中です。一方、脱原発を決定しているドイツや、オーストリアなどの国はタクソノミーに原発を含めることに反対していました。

オーストリアの環境団体Global2000(FoEオーストリア)はこの動きを批判し、「これまでの議論で、すでに原発は除外されていた。特に今回示された原発に関するスクリーニング基準はこれまで一度も公開で議論されたことがない上に、既存の法令や規制をリストにしただけにすぎない」と批判。またドラフトテキストの中で、原発が「ベースロード電源」とされていることに関しても批判しています。

オーストリアの環境エネルギー大臣も、一連の動きを「グリーンウォッシングである」と批判し、タクソノミーで原発を認めることになれば訴訟も辞さないとしています。

また技術専門家グループ(TEG)のメンバーのDawn Slevin氏は、原発を認めることに対する反対署名を2021年12月21日に開始。この署名にはTEGのメンバーやその他の専門家が賛同しています。

Slevin氏らは、技術専門家グループ (TEG)が原発はEUタクソノミーに含めないことを勧告したのにもかかわらず、原子力技術を促進したいごく少数の国々が政治的な理由から原発に科学的というお墨付きを与えようとしていると批判し、核廃棄物やウラン採掘による環境影響の観点から原発はDNSH原則に反すること、事故のリスクは拭い去れないこと、気候変動による影響が原発を脆弱にさせる(熱波により取水できない、洪水のリスクがあるなど)ことなどを指摘し、原発をタクソノミーに含めることに反対しています。

欧州の原発をめぐっては、前述のようにフランスとフィンランドで原発の建設が進んでいます。また、EUから脱退した英国でも建設が進んでいます。(その他東欧諸国にも原発建設計画あり

フランスのフラマンヴィル3号機(EPR(欧州加圧水型炉)、1600MW)は2007年に建設が開始されました。2012年に完成、2013年に運転開始予定でしたが、技術的問題に見舞われ、運転(送電)開始は10年遅れの2023年とされています。またコストも増加し、当初33億ユーロとされていたものが、約4倍の124億ユーロに膨れ上がっています

フィンランドで建設中のオルキルオト原発3号機(EPR、1600MW)も、当初の完成予定が2009年でしたが、現在も営業運転を開始していません。

英国ではヒンクリーポイントC原発(EPR、1600MW×2基)の建設が進んでいますが、こちらも大幅な遅延とコスト増加に見舞われています。

英国といえば、やや脇道にそれますが、日立製作所が英国ウェールズへの原発輸出を試みましたが頓挫したことはみなさんの記憶にも新しいかもしれません。英国では1995年にサイズウェルB原発が稼働したのを最後に、原発の新設がありませんでした。2010年、英国政府は原発新設の8つの適地を発表しましたが、現在建設が進んでいるのはこのうちヒンクリーポイントCのみです。その他サイズウェルC原発も計画中ですが、それ以外についてはほとんど進んでいません。(なお、英国の国家インフラ委員会は昨年9月、原発が低炭素電源とは認めた上で、建設に時間がかかりすぎることなどからこれ以上大型原発の建設は必要ないとする助言も発出しています。)

現状、欧州での原発建設には10年の歳月がかかっており、コストも大幅に増加しています。

冒頭で説明したようにタクソノミーの目的は、環境的に持続可能な投資(environmentally sustainable investment)を促進することで、掲げられた6つの分野に対して「著しい害を及ぼさない(Do No Significant Harm、DNSH)」ことが求められています。

気候変動対策の観点からいえば、英国の国会インフラ委員会も指摘するように、原発は時間がかかりすぎて、2030年までに排出半減、2050年にはネットゼロを求める気候変動対策に間に合いません。原発にかける資金があれば別の低炭素電源の開発や省エネ技術に回すべきでしょう。

また原発は気候変動に適応できないことも指摘されています。これまでも、温暖化による冷却水不足で原発の出力制限が行われるケースが実際に発生しています。昨年発表された研究によれば、台風やハリケーンによる影響も今後より受けることが指摘されています。気候災害に備えた設備の強化も行い得ますが、さらに追加のコストがかかります。

そしてウラン採掘から稼働まで、被爆による健康被害や放射性廃棄物を生み出します。環境汚染の抑制と防止もできないのです。

事故がおきれば、その影響は甚大です。東電福島原発事故の影響は今でも続いています。なによりチェルノブイリ原発事故の影響もまだ続いています。

今月中にも欧州委員会はこのガス・原発を認める委託法令を採択するとみられていますが、ドイツやオーストリアなどは今も強い反対の姿勢を示しており、行方が注目されます。

★1月27日のオンラインセミナーにもぜひご参加ください。

オンラインセミナー:1/27 原発は気候変動対策?最新の議論を追う

(深草亜悠美)

日本の官民が関わるカナダのガス開発事業で深刻な人権侵害と環境破壊

日本の民間銀行(三井住友銀行、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友信託銀行)が融資するパイプライン事業で、深刻な人権侵害が起きています。カナダのブリテッシュ・コロンビア州で建設が進むコースタル・ガスリンク・パイプラインは先住民族の土地を通りますが、先住民族Wet’suwet’enは、建設に同意していません。さらに、警察が非暴力の反対運動を続ける先住民族を相次いで逮捕する事態も発生しています。気候変動の観点からも問題です。

Photo: Michael Toledano

事業の問題

先住民族が事業に合意していない。

先住民族Wet’suwet’enは、彼らが伝統的に利用してきた土地や水源を守るため、事業に対し反対の声を上げ続けています。先住民族の権利はカナダの最高裁判所でも認められており、Wet’suwet’enの伝統的酋長らがその土地に対し権利を持つと認められています(Delgamuukwケース)。しかし、パイプラインを建設するコースタル・ガスリンク・パイプライン社(CGL社)は先住民族の「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(free, prior and informed consent)」(FPIC)を取得せず、パイプライン建設を続けています。

融資に参加している日本の民間銀行は、それぞれ「エクエーター原則」の採択銀⾏であり、エクエーター原則採択銀行には、「先住⺠族が伝統的に領有、または、慣習的に使⽤している⼟地と⾃然資源に対する影響があるプロジェクト」について、FPICの取得を要件としている国際⾦融公社(IFC)パフォーマンススタンダードの規定を踏まえた融資判断をすることが求められています。

FPICに関しては、国連人種差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Racial Discrimination)が、2019年12月13日付けで、Wet’suwet’enのFPICが得られるまで、コースタル・ガスリンク・パイプライン事業の建設を即時停止すること、(カナダ王立騎馬警察(RCMP)やその他警察がWet’suwet’enの伝統的土地から退去すること、また殺傷能力のある武器の使用を禁止し、Wet’suwet’enに対するいかなる武力も行使しないことを保証することをカナダ連邦政府に求める決議を発表しています。にもかかわらず、11月にも30名近くの抗議者や先住民族がRCMPによって逮捕されています。また記者も逮捕されました。

気候変動を加速させ、環境を破壊する

この事業は人権を脅かすだけではなく、気候変動を加速させ、現地の環境を破壊します。国際エネルギー機関(IEA)は、パリ協定の1.5℃目標を達成するならば、新規の石油・ガス開発事業への投資はやめるべきとしています。ガスも化石燃料です。燃やせば温室効果ガスを排出します。ガスの採掘や運搬の際などに温室効果ガスであるメタンが漏れだすことも問題です。

ガスは石炭火力に比べれば温室効果ガスを排出しないので、再生可能エネルギーが普及するまでの「つなぎのエネルギー」とよく言われます。しかし、新たなガス田の開発や採掘、ガス関連施設を建設することは、新たな温室効果ガスの排出を長期にわたり固定(「ロックイン」)することに繋がり、パリ協定の目標とも合致しません。

パイプラインを通じて運搬されたガスは、液化施設(LNGカナダ)で処理され、アジア市場に輸出されます。この液化ターミナル施設は、2024年度中から40年稼働が計画されており、計画通り進めば2050年を超えて運転することになります。

さらに、現地の環境当局は、パイプラインを建設する事業者が廃棄物処理や生態系保全等の点で問題があることをこれまでも何度も指摘し、改善を求めています。

経済的なリスクも大きい

これまで、気候変動対策に伴う規制の強化や、国際的な「ダイベストメント運動」の高まりなどから、これ以上石炭火力発電所が動かせなくなり利益を生み出せなくなる「座礁資産化」が指摘されてきましたが、ガス事業についても同様の理由から「座礁資産化」のリスクが指摘されています。また、新型コロナウイルス感染症の拡大による影響や、先住民族の反対運動などによってパイプラインの建設作業が遅れており、LNGカナダとCGL社との間で追加のコストをめぐって対立も生まれています。さらに、米国のシンクタンク・エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)が、LNGカナダ事業を分析し、上流でのガスの生産が鈍化していることや市場の変化、ブリティッシュ・コロンビア州の政策変更などが、今後事業の経済性に深刻な影響を与えうることを指摘しています。

私たちにできること

現地の先住民族や、NGOがアクションを呼びかけています。
彼らの投稿をシェアする、事業に関わる銀行や企業に対し事業から撤退するよう求める声を届ける、動画をシェアするなどにぜひご協力ください!

  1. 事業についてさらに詳しく知る→LNGカナダ事業概要10月2日ウェビナー(Wet’suwet’enの方をゲストに事業の問題点やカナダの先住民族をめぐる状況にについて解説したウェビナーです。ぜひご覧ください)
  2. 現地の先住民族の声を聞く→Gidimt’en Checkpoint
  3. 動画の上映会をする(日本語字幕もあります)→Invasion

東電による汚染水「放射線影響評価」から読み取れること、読み取れないこと~放出される64の放射性物質の総量は?

東京電力は福島第一原発の「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書」を公開し、国内外からの意見を募集しています(12月17日23:59まで)。

東電は放射性物質の海洋拡散シミュレーションを行い、3つのタンク群と、仮想のALPS 処理水の核種組成(炭素14、銀110m、カドミウム113mなど人への被ばく影響が大きい9つの核種を選定)の 4つのケースについて人への影響を評価し、「すべてのケースで一般公衆の線量限度および国内の原子力発電所に対する線量目標値のいずれも下回った」としています。また、海洋生物への影響評価も行い、問題のないレベルと結論づけています。

ところがこの「放射線影響評価」は問題だらけ。たとえば…

  • 放出は30年以上続くはずであるが、それについての記述がありません。
  • 海洋拡散シミュレーションをしているが、いつの時点での評価なのか、放出を開始して1年後なのか、10年後なのか、30年後なのか不明です。
  • 年間および 10km×10km の「平均濃度」により評価を行っています。季節ごと、また場所によって放射性物質の濃度が高い部分が生じたとしても、「平均」をとることによって薄めてしまうことになります。
  • 外部被ばくも、内部被ばくも、年単位での被ばく評価となっています。つまり、累積的な影響が評価されていないのです。

一方、この評価報告書から読み取れることもあります。
私が注目したのはp.50以降の、実際に64核種について測定を終えている3つのタンク群の水を、計画どおりトリチウムが年間22兆べくれる1年間放出し続けたとした場合の64核種の年間放出総量です(東電報告書p.50以降)。

たとえばK4タンク群の水を1年間流す場合の、いくつかの放射性物質の年間放出総量は

ストロンチウム90 2500万ベクレル
カドミウム113m 210万ベクレル
ヨウ素129 2億4,000万ベクレル
セシウム137 4,900万ベクレル
プルトニウム238 7万3000ベクレル
プルトニウム239 7万3000ベクレル
プルトニウム240 7万3000ベクレル
プルトニウム241 320万ベクレル

となります(トリチウムが年間22兆ベクレルになるように放出するという前提です)。告示濃度比総和1以下(つまり全体として規制基準以下)とはいえ、なにせ放出量が多いので、膨大です。いくら薄めても、総量は変わらないのです。つまり濃度でのみ規制をかけることの限界といえます。

プルトニウムに着目しましょう。同じくそれぞれのタンク群の水を、トリチウム年間22兆ベクレルとなるような放出を行うという前提です。

年間放出量(ベクレル)
K4タンク群 J1-C タンク群 J1-G タンク群
Pu-238 73,000 890,000 2,300,000
Pu-239 73,000 890,000 2,300,000
Pu-240 73,000 890,000 2,300,000
Pu-241 3,200,000 32,000,000 81,000,000

K4タンク群の水を1年間放出すると、プルトニウム238、239、240、241の合計で341万9,000ベクレル、J1-Cタンク群の水の場合、プルトニウム238、239、240、241の合計で3,467万ベクレル放出、J1-Gタンクの水の場合、年間8,790万ベクレル放出ということになります。

まだ、すべてのタンク群の核種ごとの濃度や容量が公開されていないため、不明なところがありますが、この3つのタンク群が特殊なものでない限り、このレベルの放出が30年以上続くことになります。

しかし、このような数字も、限定的なものに過ぎません。いままで東電は、放射性物質の濃度のみを公開してきており、放出の総量については示してきていませんでした。私たちは、いったい何が、どれくらい放出されるのかわからないままにいるのです。さらに、東電が測定・公開の対象としている64核種というのは、ALPSで処理の対象となっている62の放射性物質とトリチウム、ALPSの対象ではないがあとから存在することがわかった炭素14のみです。

技術者や研究者も含む、原子力市民委員会のメンバーが、パブコメを公開しています。

http://www.ccnejapan.com/wp-content/20211215CCNE.pdf

領域海洋モデルの再現性に関しての批判、有機トリチウムによる内部被ばくが過小評価されている件など、かなり具体的な指摘がならんでいます。
また、原子力市民委員会では、12月16日に開催したオンラインセミナーの「“東京電力「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書」の問題点”」の資料および録画をYouTubeにアップしています。(冒頭の私のところはイントロなので飛ばしてください)

ご参考にしていただければ幸いです。(満田夏花)

【横須賀石炭訴訟報告 vol.9】環境省も指摘していた!?環境アセスメントの不備

本日、横須賀石炭火力訴訟の第9回期日が行われました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。

(裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

原告含め約40名の傍聴者が参加した今回は、千葉弁護士から、環境省の文書から判明した経済産業省との本件アセス(横須賀石炭火力行政訴訟の対象となっている石炭火力発電所の建設に係る環境アセスメント)に関するやりとりについての意見陳述があり、その後、小島弁護士から本訴訟全体の要点に関する陳述が行われました。

環境省も指摘していた!?環境アセスメントの不備

千葉弁護士から、環境省の文書から判明したこと(原告準備書面16)に関する意見陳述がありました。

火力発電所の建設に係る環境アセスメントには、配慮書、方法書、準備書、評価書の4つのステップがありますが、環境大臣は配慮書と準備書の段階で経済産業省に意見を提出することができます。

出典:https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/pdf/015_10_00.pdf

横須賀石炭火力行政訴訟の対象となっている石炭火力発電所の建設に係る環境アセスメントの期間中、環境省が経済産業省に対し100項目以上もの質問をしていたことがわかりました。

環境省の質問の例として、

「天然ガス火力などの燃料の複数案が考えられるが、最終的に石炭火力としたのはなぜか?」

「重大な環境影響がないと判断するに至った過程を示してほしい」

「リプレースというが、改善どころか悪化するのでは?環境アセスメントに記載されている”現状”の意味をしっかり明記せよ」

など、まさに、現在行われている裁判で原告代理人が指摘していることを、環境省も環境アセスメントが行われているときに指摘していたことが判明しました。

これらの環境省の質問や意見に対し、経済産業省からの回答は事業者の利益を守るような回答が多く見受けられました。(詳細は、後日、横須賀石炭火力行政訴訟のHPに掲載される迅美書面16をご覧ください。)

繰り返し指摘される気候変動の深刻さ

小島弁護士からは、改めてこの環境アセスメントの問題点や石炭火力発電所がもたらす影響についての陳述がありました。本訴訟全体の要点として、

  1. 原告らの生命、健康、住居などの財産等への危機が差し迫っていること
  2. 発電所の稼働は多大な温室効果ガスの排出をもたらし、原告らの生命、健康、住居などの財産、食料の危機など、深刻な危険を増大させ、より切迫させること
  3. CCSやアンモニア発電は稼働させる理由にならないこと
  4. 石炭火力を発電させなくても、電力不足にはならないこと
  5. 本件アセスメントの手続きは多くの重大な瑕疵があり、その手続きの不適切さが著しいこと

の5つにまとめられました。

気候変動の影響は、気候危機と呼ばれるほどに深刻化しています。人間への影響として、日本でも今年すでに多くの方が豪雨災害の被害をうけ、8000人の方が熱中症で救急搬送されています。また、インフラへの影響も深刻で、本行政訴訟の対象となる石炭火力発電所が建設される横須賀市でも、2021年11月9日に豪雨により道路が冠水し、3年前にも市内で道路の冠水が起きています。国外でも、気候変動の影響は深刻です。オランダの最高裁判所やフランスの行政最高裁判所などでは、気候危機を危機として受け止めた判決が出てきており、ドイツの連邦裁判所については、「気候危機は壊滅的で終末的な規模の環境破壊である」と、気候危機は深刻な問題であるとの認識を示しているそうです。

CCSやアンモニア混焼技術を用いたとしても、上述のように気候変動による影響がすでにある中、気候変動の原因であるCO2を追加的に排出させることは許されないこと、エネルギー消費量の削減など適切な政策措置が取られれば石炭火力を稼働させなくても再生可能エネルギー100%の実現は可能であること、そして何より、この石炭火力発電所に係る環境アセスメントの手続きが不適切であることを強調されました。

迫力のある意見陳述が2名の原告代理人からありました。

しかし、第9回期日も、冒頭では被告からも陳述を行うことが確認されたものの、原告代理人の陳述のみで終わり、もどかしさの残る裁判でした。

次回期日のご案内

本日の裁判の報告会は、12月21日(火)18:30〜19:30にオンラインにて開催されます。

申し込みはこちらです。

▼第9回期日 オンライン報告会(12月21日)

https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_KQqcIZ-SRyWBG1TAAPWJqQ

次回は、代理人だけでなく、原告の意見陳述及び尋問があります。ぜひ、原告の生の声を聞きにいらしてください。

▼次回の期日日程はこちら(傍聴前に、こちらで確認の上、お越しください)

2022年2月21日(月)13:30〜@東京地方裁判所第103号法廷

*2022年3月7日(月)10:30〜@東京地方裁判所第103号法廷(2/21に意見陳述の都合がつかなかった原告の意見陳述が予定されています。)

COP26でも、石炭火力の段階的削減が合意されました。日本は先進国として、石炭火力から脱却することが求められています。

FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や発電所建設の中止を求める地元住民、市民とともに、日本の脱石炭を求め活動していきます。

(髙橋英恵)

【COP26 vol.10】グラスゴー会議閉幕 – バランスを欠く合意に途上国は失望

交渉2週目の最終日。気候正義を求める市民たち

10月31日より開催されてきた第26回国連気候変動枠組条約締結国会議(COP26)は、1日の延期を経て、11月13日夜に閉幕しました。

閉会式では、議長Alok Sharma氏や国連気候枠組条約事務局長Patricia Espinoza氏が、COP24からの宿題となっていたパリ協定第6条、第4条、第13条の議論をまとめられたことを理由に「COP26は成功した」と発言する一方、後発開発国やアフリカ、島嶼国は、緩和目標強化の作業計画がグラスゴーでの合意(Glasgow Climate Pact) に盛り込まれたことは歓迎するものの、今回強く求めていた適応や損失と被害に対応するための資金提供を先進国がほぼ拒絶し、バランスを欠く合意であるとして失望の意も示しました。

また、決定文書に記載された石炭火力の段階的廃止に関する文言(para20)についても、インド等の反対があり、閉会式前のCOP決定文書案は、“Phase out(段階的廃止)”が”Phase down(段階的削減)”へと、文言が弱められた形となりました。パリ協定の1.5℃目標達成のためには先進国は2030年までに、その他の国も2040年には石炭火力発電を全廃する必要がありますが、ただでさえ弱かった文言がさらに弱くなったことは残念です。しかし、気候変動枠組条約の決定で、化石燃料対策が直接取り上げたことはかつてなく、文言が弱められたからと言って廃止の必要性が国際的に理解され、実際に各国が脱石炭に向けて動き出していることには変わりません。先進国が率先して石炭火力発電を廃止し、途上国のジャスト・トランジションを支援する必要があります。またその他の化石燃料に関しても、公平性に配慮した形でフェーズアウトを進めていく必要があります。

FoE Internationalの気候正義・エネルギープログラムのSara Shawは、今回の結果について、下記のように述べています

“今回の結果は、気候正義を求める市民団体が望んだ結果とは程遠く、炭素市場取引という形で、途上国の土地をオフセットのために使うことで、先進国に継続的な排出を許すものなりました。英国政府とその同盟国は、交渉をまとめあげた自分たちを褒め称えていますが、炭素市場については、合意が全くない方がましでした。

これはスキャンダルに他なりません。具体的な行動策を伴わずに、ただ単に1.5℃目標を言っているだけでは無意味です。COP26は、すでに気候危機にありながら、エネルギーシステムの変革や気候変動への適応策の実行、また、すでに起きている損失と被害に対応するための資金の乏しいグローバルサウスを裏切ったものとして記憶されるでしょう。これが最終的に炭素市場での取引が強制された瞬間であったことは今更驚くことではありません。炭素市場は、排出量の削減に消極的な先進国のためのものです。

多くのグローバルサウスの国々は、今回の会合に参加したり彼らの声を届けたりするうえで困難を伴った一方、化石燃料企業の存在感は大きいものでした。

今回の交渉結果は、世界全体の温室効果ガスの排出量を増加させてしまうことに加え、今世紀半ばまでに温室効果ガスを”ネットゼロ”にするといった弱いコミットメントや、途上国の土地での大規模植林をもたらす聞こえのよい自然に基づく解決策は、実際には先進国自らの排出を相殺するためであり、途上国や先住民族の土地収奪を加速させてしまいます。

気候正義の実現を求め、COP26期間中に開催された気候マーチに参加した15万人以上の市民は、何が本当の気候変動への解決策か知っています。化石燃料に依存しない社会への公正な移行、そして先進国から途上国への気候変動対策のための資金を供与することです。

残念なことに、豊かな国々は「逃亡条項」を選択してしまったものといえます。”

今回の決定文書には、”Climate Jusitce(気候正義)”という言葉が記載されました。気候変動への影響をより深刻に受ける国々や人々への配慮が会議期間中の首脳サミットやイベントでのスピーチに散りばめられていましたが、いずれも中身のない言葉に過ぎず、会議場内での交渉では先進国が団結して、すでに厳しい気候変動の影響を受けている開発途上国の声を断固として拒絶し続けました。決定文書の内容は、公平性の原則やシステムチェンジからは程遠く、歴史的累積排出量の責任を負う先進国の大量排出を今後も許し、途上国に排出責任の肩代わりを求め、かつ彼らが必要とする支援を拒み続けるものです。

議長国英国の下で、先進国は気候植民地主義的な枠組みを推進し、既存の権益と世界での優位の維持を優先しています。決定文書に盛り込まれた言葉とは裏腹に、パリ協定の1.5℃目標の実現を危うくするものでもあります。ですが、早急で野心的な行動の必要性は変わらないのです。FoEグループは引き続き、Climate Justiceの真の実現に向けて活動していきます。

(小野寺ゆうり、高橋英恵、深草亜悠美)

【COP26 vol.9】グラスゴー会合終盤〜COP26のポイントや課題〜

 イギリス・グラスゴーで開かれている気候変動枠組条約締約国会合(COP26)は11月12日に閉幕を予定しています。現地時間19時現在、まだ会議は終了していませんが、この二週間続いているグラスゴー会合のポイントや課題についてまとめます。

公平な参加

 今回のCOPは、これまでの歴史の中でも最も多くの参加者が登録されていますが、途上国のメンバーにとって参加のハードルはとても高く、参加の機会が均等に確保されたとは到底言えないCOPになってしまいました。ワクチンが世界的に公平に行き届いておらず、英国へのVISA申請や高騰する渡航にかかるコストが、途上国のメンバーの参加を阻みました。気候変動の影響を最も強く受ける途上国の市民の代表が不在のCOPになったといえます。FoEグループの参加も、残念ながら開催地である英国やヨーロッパのFoEメンバーの参加が多く、上記の理由等により、多様性を確保することは困難でした。

 またコーポレート・アカウンタビリティやグローバル・ウィットネスなどのNGOが調査したところ、少なくとも503人の化石燃料ロビーストがCOPに参加していることがわかっています。これはどこの国の政府代表団よりも大きな数字です(政府代表団メンバーとして最も多くの数が登録されているのはブラジル政府で479人)。途上国の人々がCOPに参加できない一方で、化石燃料産業に利害関係を持つ人間がたくさんCOPに参加しているのです。

 また会場には原子力産業のロビー団体も出展し、サイドイベントなどを行い原発を宣伝していました。

炭素市場、「ネットゼロ」、「自然に基づいた解決策(NbS)」 – 危険な目眩し

炭素市場

 FoEグループは温室効果ガスの削減に繋がらない炭素市場に反対の意を示してきました。今回のグラスゴー会議でも炭素市場に関して交渉が継続されていますが、そもそも炭素市場は気候変動対策にはならず、今の交渉状況をみると、むしろ炭素市場はより多くの排出を促してしまうことが懸念されます。

 例えば、11日の時点で、EUは京都議定書下の炭素市場であるクリーン開発メカニズム(CDM)の下で生成されたクレジットをパリ協定の下でも使えるようにする方向に、立場を和らげています。CDM下でできたクレジットの移管が許されてしまえば、取引のために使用できるクレジットは、約300トン〜約3400トンになると計算されています

Net Zero ネットゼロの欺瞞

 グラスゴー会合のCOP決定文書案CMA決定文書案には、「今世紀半ばまでにネットゼロを目指す」と書き込まれまれています。これは、排出量を技術至上主義的な考え方で吸収量を差し引きすることで相殺することを想定しており、相殺をあてにして裕福な国や大企業にこの先何十年にもわたって温室効果ガスの排出を続けることを許すことにつながります

 また、エネルギーシステムの公正な移行のための具体的な計画や、移行をすすめるための新しい公的資金支援が欠落しています。石炭からの脱却や化石燃料支援への公的資金の中止がを宣言するだけでは不十分です(化石燃料に関するこれらの文言は12日朝現在のドラフトには記載されている)。いずれにせよ、これは最終的な決定文書からは削除される可能性もまだあります。

 

Nature based solutions 自然に基づく解決策

 10日に出された決定文書案には、「自然に基づく解決策(Nature based solutions)」という言葉が複数回出てきますが12日の朝に発表されたものからは消えていました。ですが文言自体は消えていてもそういった考え方は文書の中に残っています。自然に基づく解決策という言葉は聞こえは良いですが、実態は土地収奪や食料安全保障の不安定化、そしてすでに気候変動の影響を受けている途上国の人々への人権侵害を引き起こしかねないものです

 大規模な排出企業や先進国の排出量を吸収するのに十分な土地や森はありません。

 企業や国は、オフセットや技術に頼ることで排出量を相殺し、この先何十年も今まで通りの事業を続けるのではなく、化石燃料からの早急な脱却を進めていく必要があります。

「アナウンスメント」だけでは1.5℃目標は達成できない

 今回のCOPでは議長国等の主導により、交渉の外で、さまざまな宣言や取り組みが発表されました。

 そもそも、気候変動に対する歴史的責任の大きな先進国は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減し、途上国に対して負っている気候・環境負債を返済しなくてはいけません。

 2030年までに排出を半減し、2050にはネットゼロにする、というのはグローバルなゴールです。「共通だが差異ある責任(Common but differenciated responsibilities, CBDR)」の原則に基づき、先進国が先んじて行動する必要があります。しかし今回の交渉でも、差異ある責任の議論は主に先進国によってブロックされていました。

 今回のCOPでは、これまでのブログでもお伝えした通りさまざまな「宣言」が飛び出したCOPでした。これらは各国の自主的な取り組みを表明しているだけで、国連の交渉の外で行われています。

 もちろんこういった宣言も重要です。これまで、石炭については英国等中心に廃止を求める国際的な流れが形成されており、「脱石炭」の運気を盛り上げ、実際に加盟する各国は脱石炭を進めてきました。しかし、それぞれの宣言の中身を見ても、1.5℃目標や、気候正義を達成するには全く不十分な内容です。

 こういった「交渉の外」の取り組みに加え、先進国は途上国への支援を交渉の中で表明し、NDCの目標を引き上げ、まずは国内での削減を確実に進めていくことが重要です。

 気候資金についても重要です。コペンハーゲン会議(COP15)で約束された年間1000万ドルの気候資金動員目標はまったくもって達成されていません。公的資金による供与が望まれるところ、民間資金の動員が強調されていることも懸念されます。

英国政府のダブルスタンダード?

 英国政府は一見野心的な取り組みを次々と発表しているように見えますが、実際国外内での化石燃料開発の手を緩めておらず、環境団体などから批判の声が上がっているのも事実です。

 実際英国の政府系銀行はモザンビークにおける巨大なガス開発に支援を続けており、国内でもカンボ石油開発事業やカンブリアにおける新規炭鉱の開発を続けようとしています。.

解決策は草の根から〜市民の力、真の解決策、システムチェンジ

 この数年間、私たちは、政府に対し気候危機をはじめとした様々に関連する危機に対応するよう要求する市民による大きな運動、特に若者による運動を目にしてきました。COP26期間中の気候マーチは、英国内で過去最大の規模のマーチとなりました。風と雨が強かったにもかかわらず、20万人以上が参加しました。主催者によれば、グラスゴー以外の都市でも、世界中で約300のデモが行われ、英国だけでも100を超えるデモが行われたとのことです。

 人々はすでに草の根レベルで変化をもたらし、食料、エネルギー、経済システムを変革するための真の解決策を追求しています。コミュニティは、クリーンで持続可能な再生可能エネルギーを作り始めています。市民は食糧主権と農民の自然と調和したアグロエコロジーを追求することにより、産業・企業主導の農業に挑戦しています。

 先住民族と地域コミュニティこそ自然を守ってくれています。私たちは彼らの権利を守らなければなりません。

 気候危機だけでなく、地球は複数の、互いに関係しあっている社会的、政治的、経済的な危機に直面しています。この危機の中心にあるのは、利益を追求することのみを目的とした、持続不可能な経済システムです。エネルギー、食料、経済の根本的なシステムチェンジによってのみ、気候変動の大惨事や世界の平均気温の上昇を1.5度までにを防ぐことができます。

交渉は続く…

現地時間12日18時の時点でまだ交渉は続いています。私たちが各国政府に求めるのは、化石燃料に依存した社会のあり方から持続可能な社会に転換していくための計画とその実行です。追加的な排出を許してしまう炭素市場のような危険な解決策が今回の会合の場で認められてしまわないよう、今後も市民社会として監視や提言を続けていきます。

(高橋英恵・深草亜悠美)

【COP26 vol.8】シェル訴訟の成功秘話〜希望をすてない市民が紡ぎ出した勝訴〜

COP26の開催地グラスゴーでは、気候マーチ翌日の日曜日から水曜日にかけ、COP26 Coalition(COP26連合は、気候正義を求める環境団体、労働組合、人権団体などによる市民社会連合)によるPeople’s Summitが開催されました。2年間かけて準備されたPeople’s Summitでは、連日市内の様々な場所で、Just Transition(公正な移行)やアグロエコロジーに関するセミナー、これから気候正義の運動を盛り上げていくためのワークショップなど、多様なイベントが行われていました。

そのイベントの一つとして、FoEオランダによる気候訴訟に関するセミナーが開催されました。

FoEオランダは、他の6つの環境団体と17379人の市民とともに、大手化石燃料企業Shellを彼らの事業が気候変動に大きな影響を与えているという点で裁判を起こしており、今年の5月勝訴しました。大手化石燃料企業を相手に訴えた裁判での勝訴は初めてで、非常に歴史的な裁判です。

(勝訴のプレスリリースの翻訳はこちら:https://foejapan.wordpress.com/2021/05/27/shell/

イベントでは、シェルを訴えるに至った経緯、どのように市民原告を増やしていったか、勝訴の秘訣などを紹介していました。登壇者のスピーチの中で印象に残った箇所を紹介します。

シェル訴訟でのキャンペーナーの役割を担っていたNine De Paterさんは、

「シェルが石油の採掘を行なっているナイジェリアでは、石油が漏れだし現地住民の健康被害に大きな影響を与えました。中にはその汚染のせいで命を落とした人もいます。このような明らかな人権侵害が起きている中、2016年、パリ協定が採択されました。パリ協定採択以降、シェルは再生可能エネルギー事業を始めると言いましたが、気候変動を引き起こしてきた化石燃料企業は自らの事業をやめることはありませんでした。シェルが始めるといった再生可能エネルギー事業はシェルの事業のわずか4%の規模でしかなく、グリーンウオッシュそのものです。彼らは常に人々の命より儲けることを優先しています。」

と話しました。

訴訟の準備は2016年から始めていましたが、シェル訴訟そのものは2018年にから始まりました。より多くの市民を巻き込み、この訴訟を盛り上げる過程は、トライアンドエラーの繰り返しだったと、市民参加を促す役割を担っていたHilde Brontsemaさんは言います。

「より多くの市民を巻き込むためにできることはなんでもやりました。例えば、SNS上で、ヴィーガンや環境保護など人々の関心毎に広告を出して反応を地道に確かめたり、シェルの問題を伝えるための動画を作成したり。また、メディアにこの訴訟をより取り上げてもらうための勉強会を開きました。そして何より重要なのは、ただ単にこの問題を知ってもらうだけではなく、この訴訟に関わってもらうことです。賛同者には少なくとも1ユーロは寄付してもらう仕組みを作り、賛同者には知り合いにこの訴訟に誘うことを奨励しました。」

シェルの問題を伝えるための動画

そして何より大切だったのは、「勝訴を信じて続けること」だったと言います。

「気候変動は人権と密接に繋がっています。そして、科学は気候危機によって、人々の生活を脅かすことを示しています。法廷は、さまざまな企業による宣伝に影響されるテレビ番組と全く違い、事実だけが求められる空間です。そのような場では、事実や科学が示していることだけが判断材料になります。そして、健康に生きる権利は誰も否定できるものではありません。そして、健康に生きる権利は誰も否定できるものではありません。“歴史を変えたい、変えられる”と信じ続け、その思いを表出させた市民の力が形の結晶です。」

また、質疑応答の時間には、「裁判に負ける可能性は考えなかったのか」と言ったような質問をありましたが、この件を担当したRoger Cox弁護士は、
「負けたとしても次の裁判への反省材料になる。私たちが諦めない限り、無駄になることは何もない」
と力強いメッセージをくださいました。

私たちには社会を変える力がある

「私たちには社会を変える力がある」と信じ続けることはとても険しい道のりです。ですが、「社会を変えたい」という思いを心の中にしまっておくのではなくその思いを表に出していくことで、私たちが望むような社会へと近づけることができるのだと、胸を振るわせるくらいの市民の力を感じた機会でした。

日本とオランダでは裁判の規定が異なっていたり、今回紹介したオランダの事例は企業を相手取っている一方、2019年に始まった横須賀の石炭火力発電所建設に関する訴訟(https://yokosukaclimatecase.jp/)は経済産業省を訴えていたりなど差異はあり、一概に真似できるものではありませんが、裁判を応援してくれる人々をサポートしていくこと、そして裁判への関心を高めていくことは、このような違いを超えてできることだと感じました。

気候正義を求める世界の訴訟とともに、FoE Japanは引き続き横須賀石炭火力訴訟を盛り上げていきます。

(高橋英恵)

▼イベントはこちらから視聴できます。

▼横須賀石炭火力行政訴訟のサポーターにぜひ登録ください!次回の期日は

https://yokosukaclimatecase.jp/support_us/

▼過去の横須賀石炭火力行政訴訟の報告はこちら

https://www.foejapan.org/climate/nocoal/activity.html

【COP26 vol.7】COP26-各国は口約束だけに終わらず脱化石燃料を加速させることができるか?

英国・グラスゴーで開催されているCOP26の5日目にあたる11月4日はエネルギーをテーマに議長国の主催イベントなどが多数開催されました。また、11月11日にはコスタリカとデンマークの主導で「Beyond Oil and Gas Alliance(BOGA)」という石油・ガスの新規開発許可の停止を求めるイニシアチブも発表されます。COP期間中の化石燃料をめぐる動きをまとめます。

「脱石炭」

英国とカナダ政府は2017年にPowering Past Coal Alliance(PPCA、脱石炭同盟)を立ち上げ、各国に脱石炭の加速を求めてきましたが、この日、新たに英国政府のイニシアチブにより「Global Coal To Clean Power Transition Statement」が発表され、これには40カ国以上が賛同しました(一部の国は部分的に賛同)。

この声明は、署名団体に対し

  1. クリーンエネルギー利用とエネルギー効率強化を加速させること
  2. 主要な経済大国は2030年代(のなるべく早い段階)に、それ以外の国についても2040年代(のなるべく早い段階)排出削減対策の講じられていない石炭火力発電(CCSのついていない石炭火力発電)を廃止していくこと
  3. 新規石炭火力の建設や、許可を止めること
  4. トランジションのための国内外での努力を強めること

などを求めています。

声明にはベトナムや韓国、インドネシア(条件付き)も賛同を示しています。ベトナムやインドネシアは日本が多くの石炭火力発電所の輸出をこれまで行ってきた国なので、今後どのように脱石炭に取り組むのか注目されます(注:インドネシアは移行に関する1、2、4に賛同したのみで、新設中止等には賛同していない。)。(声明全文と署名した国名のリストはこちら、Japan Beyond Coalによる日本語訳はこちら​​)

一方の日本政府は、国内の石炭火力発電を廃止する計画を持たず、かつ海外への輸出支援も止めていません。海外へ石炭火力発電事業を輸出する際の公的支援は2021年末までに止めるとしていますが、インドネシア・インドラマユ石炭火力発電事業とバングラデシュ・マタバリ2石炭火力発電事業はいまだに例外扱いし、国際協力機構(JICA)による支援の可能性を残しています。

国内外の環境団体の連合であるNo Coal Japanは、依然遅れを見せる日本政府の姿勢に抗議し、COP26の会場近くでアクションを行いました。

インドネシア環境フォーラム(WALHI)のメンバーでCOP26に参加しているアブドゥル・ゴファルは「インドネシア政府は供給過剰を理由に、インドラマユ石炭火力発電事業を電力供給事業計画(2021〜2030年)から除外しました。同発電所が2030年まで不要であると明確に認めているのです。日本政府は今すぐ決断し、インドラマユ石炭火力発電事業をもう支援しないとはっきり表明するべきです。」と指摘しています。また、「インドラマユでは事業に反対する人々が身に覚えのない罪で収監されるなど深刻な人権侵害が起きています。また火力発電所は大気汚染の主要な原因で、住民の健康や生活を脅かしています。インドラマユの人々に連帯を示したいと思います」と話しました。

イギリス議長国は、石炭からクリーンエネルギーへの転換を支援するための資金支援プログラムなども発表しました。つい先日もアジア開発銀行が、石炭からの転換を促進する新たなプログラム(ETM、Energy Transition Mechanisms)を発表し、これには日本政府が一番に支援を発表しています。

石炭から持続可能でクリーンなエネルギーへの転換はとても重要なことであり、石炭火力発電所の早期廃止などを支援することも重要です。しかし、誰をどのように支援するのかについて、十分かつ開かれた議論が必要です。これまで不必要な石炭火力発電所を建設し続けてきた大企業やそれを支援してきた金融機関は、現地の電力公社と長期の電力購入契約を結んだり、公的資金のバックアップを受けたりすることで、さまざまなリスクを軽減しながら石炭火力発電事業への投融資を続けてきました。エネルギーを転換していく中で、途上国の市民への影響やリスクの回避が必要なことはもちろんのことですが、クリーンエネルギーへの移行を支援するためのメカニズムが、石炭火力の早期廃止に伴う座礁資産化などのリスクを本来負うべき大企業や銀行の救済になってしまわないかという懸念も考慮されるべきです。

化石燃料事業への直接的な公的支援を停止

議長国によってエネルギー・デーに指定されたこの日、石炭以外のエネルギーに関しても新たなイニシアチブが発表されました。

英国政府は、2022年末までにエネルギーセクターにおける、排出対策が講じられていない(=”unabated”、通常はCCUSが設置されていないものを意味する)全ての化石燃料事業について直接の公的支援を止めること含むイニシアチブを発表し、これには化石燃料産業への依存の大きいカナダやアメリカも賛同しました。

(賛同リストはこちら

日本は、G20の中でも最も多くの公的資金を化石燃料開発に注いでいます。先日発表されたFoEUSとオイルチェンジインターナショナルの報告によれば、2012年以降、日本の支援実績はG20中2番目に大きいことが報告されました。

COP26直前にも、日本の公的機関である国際協力銀行(JBIC)がLNGカナダターミナル事業への融資を決定しましたが、気候危機に立ち向かう世界の「脱化石燃料」の取組みを無視し続けている日本の姿勢には国内外から抗議の声が上げられています。

海外における化石燃料事業への公的支援停止は必要なステップですが、声明に賛同を表明したカナダやアメリカは国内での化石燃料開発も大規模に行われています。国内における開発についても規制を強めて行くことが必要です。また声明には例外規定も設けてあり、これらの抜け穴を閉じる必要もあります。また議長国英国の足元でも、スコットランド・カンボオイルフィールドの開発が今まさに進められようとしており、現地のNGOや活動家、市民から英国政府の欺瞞を指摘する声があがっています。

そんな中、11日にはコスタリカとデンマークによるBeyond Oil & Gas Alliance (BOGA、国内における化石燃料開発許可の停止を求めるイニシアチブ。)が正式にローンチされる予定で、会場で記者会見が行われます。

今回のCOPではさまざまな「アナウンスメント」がありました。これらは全て国連の気候変動交渉の外で行われています。前向きな政治的決意と捉えられる一方で、こういった「声明」や「アナウンスメント」がただのアナウンスメントで終わってしまわないよう、各国がしっかりと約束を果たすよう、今後も監視し、行動を求めて行く必要があります。

(深草亜悠美)

【COP26 vol.6】炭素市場にノー!- 排出増加につながりかねない「誤った」解決策

気候変動に対する取り組みが議論される中、炭素市場に反対する声が再び会場で響きました。炭素市場については、これまでも先住民族グループや気候正義グループを中心に、これまでのCOPや今回のCOP26の第一週目でも批判されてきました。

炭素市場は、植林、炭素クレジットの購入、またはまだ実証されていない炭素を空気から取り出す技術への依存を通じ、他の場所での排出量を削減することを前提に、継続的な温室効果ガスの排出を許容しています。 これらは、化石燃料の排出を削減するものではなく、グローバルサウスのコミュニティにより多くの土地取得と人権侵害を引き起こします。 さらに、現在の議論の流れでは、炭素市場協定は排出量の増加を引き起こすリスクがあります。また、炭素市場を支持するのは多くが化石燃料企業です。彼らの化石燃料事業の継続を許す上に、化石燃料に依存する国にとっても、化石燃料に依存した経済を引き伸ばすことに繋がります。このような理由から、FoE グループは、炭素市場に頼ることに反対しています。

炭素市場や、聞こえのいいネットゼロ宣言、誤った気候変動対策には今すぐ反対の意思を示す必要があります。炭素市場や「ネットゼロ」という言葉に隠された、オフセットや大規模植林などの誤った解決策は、気候変動への真の解決策を遅らせるだけで、グリーンウォッシュそのものです。気候変動による損失や被害が顕在化する現在、気候変動対策は迅速かつ確実なものであるべきであり、炭素市場への依存は取り返しのつかない事態をもたらしかねません。

私たちは利益ばかり追い求める「解決策」ではなく地球と人権を尊重した気候変動対策を求めます。そして、気候変動への歴史的責任の観点から、先進国は市場メカニズムに頼るのではなく、国内の化石燃料の使用依存から脱却すること、そして、公正な分担と行動能力に沿って、気候資金の提供することが求められています。

FoE Japanでは、2021年2月にFoE Internationalが公表した、炭素市場に関する問題点をまとめたレポート”Chasing Carbon Unicorn”を翻訳しました。

炭素市場に関する問題点についての詳細は、ぜひこちらをご覧ください。https://www.foejapan.org/climate/about/report_carbonunicorns.html

(高橋英恵)

【COP26 vol.5】COP26グラスゴー会合、2週目に突入。“外向け”の宣言と交渉の実態の差

10月31日から始まったCOP26グラスゴー会合が2週目を迎えました。第一週目はワールドリーダーズサミットをはじめ、様々な議長国主催イベントでの宣言等がメディアを賑わせましたが、途上国が重要視している気候資金、損失と被害に関する交渉などについては、ほとんど進捗が見られませんでした。

閣僚級会合で合意が待たれる気候資金

第一週の議長国によるワールドリーダーズサミットや、ファイナンスデーでは、途上国への資金支援の増額や先進国が脱炭素に向けた資金動員をアナウンスしましたが、実際の交渉では、長期資金や適応資金、損失と被害に対応するための資金に関する交渉はほとんど進んでいません。

例えば、途上国は、2025年まで提供することが合意されている年間1000億ドルの資金(長期資金)について、2025年以降の資金提供について議論を始めたいと考えていますが、先進国はその議論を拒んでおり、実際に交渉されていることと、先進国政府が交渉の外で言っていることとの間に大きな差があります。

先送りにされる損失と被害の交渉

世界的に気候変動の被害が深刻化する中、コロナウイルスのパンデミックもあり、気候変動による損失と被害に対する具体的な支援も、途上国にとって喫緊の議題です。

損失と被害に関する制度については、2013年のCOP19で設立されたワルシャワ国際メカニズムがありますが、先進国の圧力によって、極めて機能が限定されたものになっています。また、2019年に開催された前回のCOP25では、損失と被害に関するサンティアゴ・ネットワークが設立されました。途上国としては、今回のCOP26で、サンティアゴネットワークをワルシャワ国際メカニズムとどのように差別化するか、そしてこのネットワークを本格的に稼働させていくために、具体的に損失と被害を最小化したり避けるための具体的な技術支援の内容や、支援の受け方、対策のための資金提供の仕組みなどを話し合いたいと考えていますが、それに対してもアメリカが中心となって議論が前進することを阻んでいます。

先進国のニーズ優先で進んだ第一週の交渉。二週目は?

気候変動による影響を特に大きく受ける途上国グループは、気候変動への適応策に対する支援や、損失と被害に対する具体的な支援や資金に関する合意がない限り、今回のグラスゴー会議は成功したといえないと、本日開かれたストックテイク(各会議体の進捗確認をするための会合)にて発言し、同様のコメントが島嶼国グループや後発開発国グループの国からも相次ぎました。気候資金に関する交渉は閣僚級会合に引き継がれ、適応策や損失と被害に関する交渉は、一部の議題を引き続き交渉官による議論を行った後、閣僚級会合に引き継がれる予定です。

交渉と並行して行われている議長イベント

今回のグラスゴー会合では、議長国がそれぞれの日にテーマを設定しています。11月1-2日に開催されたワールドリーダーズサミットでは、120カ国以上の首相たちが参加し、NDCの引き上げなどの宣言がありました。日本は、岸田首相が600億ドルの気候資金に加え、現在足りていない分を補うため、新たに5年間で最大100億ドルを追加することを述べたほか、アジアの途上国において水素やアンモニアといったゼロエミッション火力を推進するため1億ドル規模の支援を展開することをスピーチで述べました。しかし、ゼロエミ火力は石炭火力を延命させるためのものでしかありません。

それ以外にも、ワールドリーダーズサミットでは、生態系保全のために2030年までに森林保全を推進するGlasgow’s Leaders’ Declaration on Forest and Land Useに133カ国が賛同し、9月にEUと米国が公表した二酸化炭素に次いで気候変動に影響があるメタンを2030年までに2020年比30%削減を目指すMethane emission reduction pledgeにもこのワールドリーダーズサミットで参加表明する国が相次ぐなど、様々なイニシアチブが打ち出されました。

エネルギーデー(Energy Day)として定められた11月4日には、議長国が脱石炭に向けた世界規模の公正な移行に関するイニシアチブ “GLOBAL COAL TO CLEAN POWER TRANSITION STATEMENT” や、2022年以降の化石燃料事業への公的支援を停止するイニシアチブ “STATEMENT ON INTERNATIONAL PUBLIC SUPPORT FOR THE CLEAN ENERGY TRANSITION“の発表など、脱石炭だけでなく脱化石燃料を促す動きがありました。FoE Japanも、このエネルギーデーにあわせ、日本の脱石炭を求めるアクションを他の国のNGOとともに会場付近で行いました。

上記のように多くの宣言が出された第一週ですが、いずれの宣言も公式な交渉外での宣言であり、それぞれの宣言についてどのように進捗を図るのかが不明瞭であるという問題点があります。これらが宣言だけに留まらず、気候変動対策に資する内容が伴うものとなるよう今後の働きかけが重要となってきます。

通常と異なる形で議論されるCover Decision

また、今回のグラスゴー会合では、COP(UNFCCCの締約国の会議)、CMP(京都議定書締約国の会議)、CMA(パリ協定締約国の会議)全てにかかる文書(Cover Desision)が議長国や各交渉グループによって検討されています。通常は、COP、CMP、CMAの合意内容に基づき文案が作成されますが、今回は1.5度目標の明示やNDCの継続的な引き上げ、ネットゼロに向けた取り組みの強化など、実際の議題にはない文言が、合意文書のたたき台にあがっています。一部の国は、会合の議題として取り上げられていないことが書かれていることから同文書の法的拘束力を疑問視しています。また、本日開催されたストックテイクにおいても、途上国グループや市民社会が同文書の決定プロセスが公正でないことを指摘しました。さらに、現在検討されている文案の中には、先進国のネットゼロを達成するための要素(自然に基づく解決策の活用など)など、途上国や市民社会が問題視するような内容が盛り込まれており、決して途上国の声が反映されたものであるとはいえません。このCover Decisionについても、今後どのような内容になるのか、どのような位置付けになるのかを注視していかなくてはなりません。

交渉結果に気候正義を求める市民の声を

先進国が歴史的責任に鑑み、確実な方法で自国の排出削減をし、途上国へもしっかりとした支援を行っていくことが、気候正義に基づいた1.5度目標達成への道のりです。

土曜日に行われた世界気候マーチには、10万人以上が参加しました。グラスゴー以外でも、世界各地で気候正義を求める市民の声があげられています。気候変動対策を具体的な行動にうつすのは私たち市民です。

最も被害を受けている人々が不在の中での開催であっても、気候正義の実現を求める声が交渉に反映されるよう引き続き、会場内外で市民社会の声を高めていきます。

(高橋英恵、小野寺ゆうり)