最低限のニーズが満たされるためにコミュニティ内で助け合うことが活動の鍵ーアメリカ・メキシコ湾岸ガス開発現場視察報告(5)

アメリカ南東部に位置するメキシコ湾岸。その名の通り、海岸線はアメリカからメキシコへと伸び、湾を出るとキューバ、そしてカリブ海へと繋がっています。生物多様性豊かなテキサス州やルイジアナ州の沿岸地域は、近年巨大化するハリケーンの影響を顕著にうける地域であり、奴隷貿易や黒人奴隷が使役されていたプランテーションの中心地の一つでもありました。2023年10月末、アメリカのメキシコ湾岸周辺で急速にすすむ液化天然ガス(LNG)事業による地域への影響を知るために、FoEJapanはテキサス州とルイジアナ州を訪ねました。ブログシリーズの最終回をお届けします。
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視察の最後に訪れたのはアメリカ南部ルイジアナ州の南西部に位置するレイク・チャールズです。レイク・チャールズではロシェッタ・オゼーンさんが私たちを迎えてくれました。

地図出典:Visit Lake Charles

オゼーンさんは6人の子どもを持つシングルマザーで、ヴェッセル・プロジェクトという事業の運営に加え、様々な団体やネットワークで精力的に活動しています。

オゼーンさんに、LNGの問題に取り組むことになったきっかけについて尋ねたところ、ハリケーンによって受けた影響について話してくれました。

2020年、短期間に、非常に勢力の強い2つのハリケーン、ローラとデルタがルイジアナ州を襲いました(ローラは2020年8月27日に、デルタは2020年10月9日にルイジアナに上陸。ローラはルイジアナ州の観測史上最強の勢力で上陸。)。避難指示が出ていましたが、行政等から十分な支援がなく、避難が困難だった人がたくさんいたそうです。避難する先もわからないまま、オゼーンさんは子どもたちをとにかく車に乗せ、最初はミシシッピ州の方に避難しようとしましたが、最終的に数時間もかけてヒューストンに逃れました。避難の最中、オゼーンさんの娘が、「避難したくてもできない人に金銭支援をします、とにかく連絡して」と知り合いがSNSで呼びかけていたことに気づきます。オゼーンさんが連絡すると直ぐに支援金を送ってくれました。最終的にオゼーンさんたちは避難先のヒューストンのホテルで数週間過ごしました。

その時、オゼーンさんは、「ものごとはこうあるべきだ」と思ったそうです。本来支援をすべき政府は迅速に自分たちを助けてはくれませんでした。支援が必要な人が、必要なときに、適切な支援先に結びつくことができる。迅速に支援してもらった経験がオゼーンさんの心にずっと残っていました。また、支援を必要とする人は自分だけではないはずだと思ったそうです。

ある日、オゼーンさんはフェイスブックに「支援を必要としている人はいますか?」と投稿します。それに対する反応は想像を超えた「クレイジー」なものだったといいます。

オゼーンさんは、コロナ禍のために準備された緊急支援金に申し込み、得たお金を持って、コミュニティの人々を訪ねます。オゼーンさんが住むノースレイクチャールズ地域は多くが黒人で、ハリケーンで壊されたままの家で生活している人や、車で生活している人がいました。オゼーンさんは、そういった人々にホテルに泊まれるように支援し始めます。クレジットカードが使えなくなるまで、支援を続けました。

オゼーンさんはフェイスブックに「支援を必要している人がいる」と訴えますが、「嘘だ」、という人や「ホームレスをしてお金を稼いでいる人もいる」というようなコメントをする人もいたそうです。しかし、オゼーンさんの訴えは徐々に広がり始め、直接支援をしてくれる人が現れ始めました。また、地元の政治家にも市民を助けるように粘り強く訴えかけました。ハリケーンからの復興がままならいまま冬になり、寒波がやってくるという時、市民同士の助け合いにより、300人のホームレスや避難先を必要としている人がホテルに宿泊することができたそうです。オゼーンさんのヴェッセル・プロジェクトはそのようにして始まったのです。

オゼーンさんの車でレイク・チャールズを案内してもらいながら、3年たってもなおハリケーンの影響から復興していない街の様子を伺い知ることができました。

いくつかの家庭にはRV(レクリエーショナルビークル)が泊まっていました。オゼーンさんは、「RVを持っているとお金を持っていると思うかもしれないけど、家を直せないからRVに寝泊まりしているのだ」と説明してくれました。

オゼーンさんは、ハリケーンによって被災したことにより、気候危機や、それを加速させているLNG開発について声をあげるようになったといいます。

ハリケーンだけでなく石油化学産業やLNG開発によって健康被害を受けている人々は黒人の貧困層です。日常から十分な社会補償も与えられず、ハリケーン後の町の再建に十分な支援もありません。そのような状況では、気候危機や企業に立ち向かうことができません。だからこそ相互扶助(ミューチュアルエイド)が必要なのだとオゼーンさんはいいます。

写真:レイクチャールズを案内してくれたオゼーンさん。女子ソフトのグラウンドのすぐ目と鼻の先にタンクが並んでいるのが見える。
写真:レイクチャールズの工場群
写真:昼夜問わずフレアリングが行われている。工場の近くには幼稚園や学校もあった。住居も多く、オゼーンさんは「ここはフェンスラインコミュニティだ」と話す。フェンスラインコミュニティとは、文字通り汚染企業などの工場のフェンス越しにあるコミュニティ。多くの場合、フェンスラインコミュニティは低所得や黒人などのコミュニティと重なっている。

レイク・チャールズには、多くの石油化学企業が密集しています。病気の人も多く、オゼーンさんの子どもたちも肌の病気や気管支系の病気に苦しんでいます。

写真:レイクチャールズの道路沿いにあった広告。「企業による汚染が原因でがんになった人は連絡を」という弁護士事務所の看板。汚染の根本に取り組んでいるわけではなく、汚染を利用して商売しているのでは、と道中オゼーンさんと話す。

もしガス事業や石油化学企業に立ち向かおうと思ったら、地元ですでに苦しんでいる人々に支援が必要です。最初は地域の人々も自分たちの生活が苦しいため、周辺企業がヒアリングを実施していても数人しかそれに参加することができませんでした。しかし今では、そういった活動にも多くの人が参加するようになったといいます。

オゼーンさんとレイクチャールズをみて回った翌日、ニューオーリンズで開催されたFoEUSのカンファレンスでスピーチをしたオゼーンさんは、以下のようにスピーチを締めくくりました。

「誰かがコミュニティにやってきて、あなたたちのためにLNG事業と闘います、支援します、ということではないんです。コミュニティの人々は文字通り、貧困の中で日々生きようと必死です。誰かがやってきてそういった産業と闘うだけでは、コミュニティは脆弱なままです。コミュニティが助け合い、必要な支援を得て、コミュニティ自身が強くなり、彼ら自身が闘うのです。それがヴェセル・プロジェクトで実践している『相互扶助』なのです。」

写真:ロシェッタ・オゼーンさん。

(ロシェッタ・オゼーンさんのお話の部分は、11月8日にニューオーリンズで開催されたFoEUSのカンファレンスでの発言も元に構成)

備考:
・レイク・チャールズでは九州電力が関与するレイクチャールズLNG事業が進んでいるが、バイデン政権による輸出許可一時停止措置により、九州電力は参画判断を延期すると報道されている。
・三菱商事等はレイク・チャールズでクリーンアンモニアの生産事業を行うことを発表している。

(深草亜悠美)

カルカシュー湖の漁業者を脅かすLNG開発ーアメリカ・メキシコ湾岸ガス開発現場視察報告(3)

アメリカ南東部に位置するメキシコ湾岸。その名の通り、海岸線はアメリカからメキシコへと伸び、湾を出るとキューバ、そしてカリブ海へと繋がっています。生物多様性豊かなテキサス州やルイジアナ州の沿岸地域は、近年巨大化するハリケーンの影響を顕著にうける地域であり、奴隷貿易や黒人奴隷が使役されていたプランテーションの中心地の一つでもありました。2023年10月末、アメリカのメキシコ湾岸周辺で急速にすすむ液化天然ガス(LNG)事業による地域への影響を知るために、FoEJapanはテキサス州とルイジアナ州を訪ねました。ブログシリーズの第三回目をお届けします。
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視察3日目、私たちはルイジアナ州に入りました。昨日、対岸から見たザビーンパスLNGの横を走り、湿地帯を通り抜けて東へと向かいます。

写真:ザビーンパスLNG付近にて。湿地が広がっている。

LNGターミナルは、港湾施設です。LNGは通常船で運ばれるため、ターミナルは海沿いに建設されます。

写真からもわかるように、ルイジアナ州南西部のLNG施設の周辺は豊かな湿地、そして海に囲まれています。この辺りに生息するアリゲーター(ワニ)は観光資源になっているようで、道すがらアリゲーターと触れ合うための施設もありました。ザビーンパスLNGはシェニエール・エナジーという企業が運営していますが、現地の人はバイユー(Bayou)と呼んでいます。シェニエールというのは湿地や沼を意味し、バイユーは、ルイジアナ周辺アメリカ南西部でゆっくりと流れる小川や湿地帯をさす言葉だそうです。

ザビーンパスを後にした私たちは、カルカシュー湖のあるキャメロンへと向かいます。

キャメロンでは、Better Bayouという団体の代表であるジェームズ・ハイアットさんはじめ、ルイジアナ・バケットブリゲード、シエラクラブのメンバーなどが迎えてくれました。

ジョン・アレアさんという方の土地にお邪魔し(アレアさんは当日不在でしたが快く訪問を受け入れてくれました)、みなさんの話を伺いました。

アレアさんは、長年ルイジアナの沿岸に住まわれている方で、普段この土地でバードウォッチングなどをして過ごしているそうです。不在のアレアさんにかわり、ハイアットさんが、この湿地がたくさんの生き物の住処となっていることを説明してくれました。

写真:アレアさんの土地で。LNGターミナルが目の前にみえる。夜間もフレアリング(ガスを焼却処分すること)が行われ、とても明るいという。

午後には、地元の漁師であるトラヴィス・ダーダーさんの船に乗って、カルカシュー湖の湖上からLNG施設を視察しました。

写真:トラヴィス・ダーダーさん。漁師。エビ漁を生活の糧としている。

ダーダーさんによると、カルカシューパスLNGが2022年に稼働を開始してからというもの、エビの漁獲量が激減したそうです。たくさんの船が行き交うので、カニのための罠も壊れてしまうそうです。ハイアットさんによると、地元の漁業者は昨年までと比べ、漁獲高が9割も減少したと話しているとのことでした。

ダーダーさんは、LNG施設のすぐ近くに住んでおり、建設作業時には家にその振動が伝わってくると言います。カルカシューパスLNGの横にはCP2という新たなLNG事業計画が進んでいます。ダーダーさんは「LNGプラントが全て立つ頃には魚がいなくなっているだろう。もしLNG事業がそんなにいいものなのなら、なぜ漁業は衰退し、(LNG企業の)重役ばかり金持ちになるのか?」とLNG開発を非難します。

カルカシュー湖周辺ではカルカシューパスLNGとキャメロンLNGがすでに運転していますが、それ以外に既存のカルカシューパスLNGの近くにCP2、コモンウェルスLNG、そして湖の北側にドリフトウッドLNG、レイクチャールズLNG、マグノリアLNGなどの建設・計画が進んでいます。キャメロンLNGは、拡張計画が進んでおり、日本の公的金融機関である日本貿易保険が拡張事業への付保を検討しています。

表:カルカシュー湖周辺のLNG事業

事業名ステータス事業者主な日本の関わり
キャメロン稼働中センプラ三菱商事などが出資JBICによる融資支援
カルカシューパス稼働中(コミッショニング中)ベンチャーグローバルJERAがLNGの購買契約
CP2審査中ベンチャーグローバルJERAがLNGの購買契約
コモンウェルス許可取得=延期コモンウェルスLNG
ドリフトウッド許可取得済テルリアン
マグノリア許可取得=延期マグノリアLNG
レイクチャールズ許可取得=再申請エナジートランスファーSMBCがフィナンシャルアドバイザー

図:メキシコ湾岸で進むLNG建設。青=稼働中、緑=建設中、黄色=許認可、オレンジ=審査中、*=拡張計画あり(出典:グリーンピース

カルカシューパスLNGは2022年に稼働を開始しました。ルイジアナ・バケットブリゲードのモニタリングレポートによると、稼働する181日のうち、71日はフレアリングが行われ、その後ベンチャーグローバル社自らが報告した分も足し合わせると、181日中115日フレアリングが行われていたことがわかりました。実に稼働期間の63%にあたります。環境影響評価ではフレアリングはこのように頻繁に行われる想定ではなかったとのこと。

全米で第4位の輸出容量(14.5mtpa)を誇るキャメロンLNGは2019年にLNG輸出を開始しました。ルイジアナ・バケットブリゲードの調査によると、稼働を開始して以来、2023年1月までの時点で既に67回、つまり月に2度もの漏出事故を起こしていています。これらの事故のうち48件は、熱酸化装置のトリップが原因で、事故はいずれもメタン、揮発性有機化合物、がん発症を誘発するベンゼン、その他の有害汚染物質の漏出につながっていました。ルイジアナ州の規制当局が2度調査を実施し、キャメロンLNGが大気汚染に関する許可証に違反したという結論が出されましたが、なんの罰金も課せられていません。

ダーダーさんの船で航行する間、船の横には数多くのペリカンが飛び交い、イルカたちが自由に泳いでいました。

写真:カルカシュー湖のイルカたち。たくさんのイルカが群れをなして泳いでいた。

ハイアットさんは「湿地は食料品店のようなものです。何世代にもわたって私たちに恵みをもたらしてきたのです。しかし私たち人間は絶え間なく汚染を続け、終わりがないかのように採掘や搾取を続けていますが、それを続けていくことはできません。人々ではなく、利益だけを追求したら何が起きるでしょうか。私たちが化石燃料に対する依存を断ち切れないことで将来子どもたちに降りかかる重荷について考えています。」と話してくれました。

日本の官民はアメリカでのLNG開発に多額の資金を投じています。

一方、2023年1月26日、米バイデン政権が化石燃料の一種である液化天然ガスについて輸出許可申請がされている事業に対する許認可の判断を一時停止すると発表しました(参照:FoE Japanブログ「バイデン政権によるLNG輸出許可一時停止の意味とは」)。その間に認可の際の判断基準の改訂をするとしています。気候危機を食い止め、環境や地元の人々への影響を考えると、バイデン政権は正しい第一歩を踏み出したと言えます。しかし日本政府は日本のエネルギー安全保障が脅かされることを懸念しています。

一方で、現在の第6次エネルギー基本計画においては、2030年のエネルギーミックスにおけるガスの割合を2019年の37%から20%に減少させるとしています。バイデン政権の決定は、すでに許認可を得ているLNG事業には影響がないため、短期的には日本へのLNG供給に影響はないと見られています。したがって、今回の決定が短期的に日本のエネルギー安全保障を脅かすとは言い難い状況です。

長期的に見ても、気候危機回避のためには、ガスを含む全ての化石燃料からの脱却が必要とされています。世界の平均気温の上昇を1.5℃以下に抑えるというパリ協定の目標の達成のためにも、地域の人々の綺麗な空気への権利を守るためにも、今、エネルギー転換を考えなければなりません。

(深草亜悠美)

「ポート・アーサーに立ちこめる死の匂い」ーアメリカ・メキシコ湾岸ガス開発現場視察報告(2)

アメリカ南東部に位置するメキシコ湾岸。その名の通り、海岸線はアメリカからメキシコへと伸び、湾を出るとキューバ、そしてカリブ海へと繋がっています。生物多様性豊かなテキサス州やルイジアナ州の沿岸地域は、近年巨大化するハリケーンの影響を顕著にうける地域であり、奴隷貿易や黒人奴隷が使役されていたプランテーションの中心地の一つでもありました。2023年10月末、アメリカのメキシコ湾岸周辺で急速にすすむ液化天然ガス(LNG)事業による地域への影響を知るために、FoEJapanはテキサス州とルイジアナ州を訪ねました。ブログシリーズの第二回目をお届けします。(第一回はこちら

11月1日、ヒューストンから東に160キロほど進んだところにあるポート・アーサーを訪ねました。テキサス州とルイジアナ州の州境のテキサス側に位置します。

ポート・アーサーで私たちを迎えてくれたのはポート・アーサー・コミュニティ・アクション・ネットワーク(PICAN)のジョン・ビアード3世さんです。ビアードさんは、「金の匂いがすると言う人もいる。しかし私にとってこれは死の匂いだ」と話します。

写真:ポートアーサーを案内してくれたジョン・ビアード3世さん

街を訪れてすぐ、ビアードさんが言うように、異様な匂いに気づきました。フリーポートもそうでしたが、街には数えきれないほど石油化学工場やLNG施設が存在し、文字通り工場に包囲されているような様相です。

ポートアーサーには5万人の住民がおり、4割は黒人で、その次に多いのがヒスパニック系の白人です。ジョンさんによると、たくさんの化学工場が立地しているにも関わらず、「昔は賑わっていたが、仕事がなくてどんどん人が出ていく」と話します。また、ここも海沿いであるために、かつては海の幸に恵まれていましたが、産業による汚染が深刻です。

健康被害についてビアードさんは、自身も22歳の時に腎臓移植したことを話してくれました。ポート・アーサーでは、発がん性物質であるベンゼン汚染が深刻です。2020年、ポート・アーサーにあるトタル・エナジーズの製油所からは、EPA(米国環境保護庁)基準の2倍以上のベンゼンが排出されていました。工場の半径5キロメートル以内に2万人近くが住んでいますが、その約半数は黒人です。ポート・アーサー地域のがんリスクは非常に高く、EPAが許容範囲とするレートの190倍だそうです。住民の健康被害が深刻化する一方、汚染源である企業からの医療補償はないといいます。ポート・アーサーの20%という貧困率も全国平均より高く、貧しい住民は高額な医療サービスを受けることができません。

また、町の至る所でフレアリングが行われているのも衝撃的な光景でした。フレアリングとは、余ったガスを燃やす作業です。日本の工場などでも行われていますが、煙突の先で燃えているのが見えるのが一般的なのではないでしょうか。ポートアーサーでは、グランドフレアも行われていて(その後各地で見ることになるのですが)、とてつもなく大きな囲いの中で煙突ではなく地面の高さでフレアリングが昼夜問わず行われていました。

写真:グランドフレアの様子。中で火が燃えているのがみえる。

ポートアーサーの周辺では、ポートアーサーLNGだけではなくゴールデンパスLNGというLNGターミナルが建設中で、ちょうど州境を超えたところにあるザビーンパスLNGはすでに稼働しています。

写真:テキサス州とルイジアナ州の境を流れるザビーン川から。「ゴミの燃焼禁止」と書かれている。対岸ではLNG施設(ザビーン・パスLNG)が稼働し、フレアリングを行っている。

「人々はこの水路で魚も釣っています」とビアードさんは話します。大気だけではなく、水質も深刻に汚染されています。汚染の原因は単にLNG事業や石油化学施設が急増したことに留まりません。これらの工場が、規制当局による環境基準を遵守していないのです。またハリケーンなどの際に、石油化学施設が未処理の廃水を地元の水路に廃棄することもあると言います。

工場は多くの水を使います。これらの施設は「大水食らい」で、地域住民のニーズよりも工業用水の利用が優先されていると、視察に同行したテキサス・キャンペーン・フォー・エンバイロンメントのジェフリー・ジャコビー氏も話します。 

こういった状況に対し、ビアードさんは一家で長年闘ってきました。

この日、ポートアーサーを案内してくれたジョン・ビアード3世さんの父ジョン・ビアード・ジュニアさんは、環境規制の緩和に反対し、テキサス環境諮問委員会はポートーアーサーLNGにおける排出基準を厳しくするよう、行政法審判官に申し立てました。申し立ては認められましたが、テキサス環境諮問委員会は、基準の強化はポート・アーサーLNGを所有するセンプラ社(次回のブログに出てくるキャメロンLNGもセンプラ社のLNG事業)にとって追加コストになるとして、申し立て結果を無視。その後ジョン・ビアード・ジュニアさんはさらに異議申し立てを行います。

この異議申し立てに関して、私たちが帰国した後、良いニュースが飛び込んできました。

11月15日、米国の裁判所は、ポートアーサーLNGに課されている排出基準が、リオ・グランデLNGなど他のLNGに課されている排出基準に及ばないと判断し、ポートアーサーLNGに対する排出許可を取り消したのです(参考 1 2)。

この勝利に関する記事の中で、ジョン・ビアード・ジュニアさんはいいます。

「私たちは右からも左からも攻撃されている。これは不正義だ。誰かが綺麗な空気のために戦わないといけないのだ」

ポートアーサーLNG事業
第1・第2系列(フェーズ1)第3・第4系列(フェーズ2)
事業者ポート・アーサー・フェーズ1,LLC. = KKR(42%)、コノコフィリップス(30%)、センプラエナジー(28%)が出資ポート・アーサー・フェーズ2,LLC. = センプラエナジー、コノコフィリップスが出資
液化容量1350mtpa1350mtpa
状況(2024.3現在)建設中最終投資判断前
生産開始予定2027~2028年未定

表出典:JOGMEC,GEM,などを元に作成

ベトナム木質ペレットのFSC認証偽装、全貌の解明に向けた調査始まる。最大の輸出先は日本。

2022年秋、ベトナムの木質ペレット大手のAn Viet Phat Energy (AVP) 社を含む2社が、FSC認証を偽装したことが発覚し、FSCから排除されるという事件が起きました。AVP社のペレットは、三井商事、伊藤忠商事、JFE商事との取引きによりバイオマス発電の燃料に使われていたことが東洋経済新報社の取材で明らかになっています。FSCは国際的に有名な森林認証制度で、ベトナムのFSC認証木質ペレットの最大の輸出先は日本です。日本のFIT制度では、木質バイオマス燃料の持続可能性・合法性を確認する方法の一つとして、森林認証制度が利用されています。日本は、2022年に約440万トンの木質ペレットを輸入しており、そのうち半分以上にあたる約240万トンがベトナムから輸出されたものでした。また、FSCの調査では、FSC管理木材*1を購入した日本企業が、認証を取得していない別の日本企業に販売していたことも分かり、このことはFSCの規則に反する行為が広がっている可能性を示唆するとして懸念されています。FSCは過去の取引をさらに検証する調査を実施する予定です。

*1 管理木材についてはこちら→ FSCジャパンHP「管理木材」 https://jp.fsc.org/jp-ja/Controlled_Wood

関連情報

日本が議長国 今年のG7で何が決まった?現場からの報告と世界の市民の声

2023年5月19日から21日にわたり、日本を議長国として広島でG7首脳会合が開催されました。首脳会合ではウクライナのゼレンスキー大統領の訪日などが大きな話題になりましたが、気候変動・エネルギー問題についてはどのような議論があったのでしょうか。今回の記事では、気候科学や化石燃料ファイナンスの観点でG7各国に求められていることについて概観しつつ、成果文書である首脳コミュニケの内容について見ていきます。

最新の気候科学とG7に求められていること

2023年3月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の統合報告書が発表され、改めて気候変動を食い止めるために必要な行動とその緊急性が確認されました。報告書は、「すべての人にとって生存可能で、持続可能な未来を確保するために残された時間は、急速に短くなっており…今後10年間に実施される選択と行動は、現在、そして何千年にもわたって影響を及ぼす(SPM C1)」と述べています。その上で、気温上昇を産業革命以前と比較して1.5℃以下に(50%の確率で)抑えるには、2030年にはGHG(温室効果ガス)排出量を2019年比で43%削減する必要があり、2035年には60%削減する必要があるとしています(Box SPM 1)。

また、統合報告書では、化石燃料についても従来のIPCCの見解を再確認しています。特に重要なのは、「排出削減対策が講じられていない既存の化石燃料インフラから、1.5℃の温度上昇につながる残余カーボンバジェットを超える量の二酸化炭素が排出されると試算されている(SPM B.5)」という点です。これは、温暖化を1.5℃以下に抑えるためには新規の化石燃料インフラを建設することは許されず、既存のインフラも利用を停止していく必要があることを示唆しています。従ってG7各国も、新規化石燃料事業に対する経済支援を停止する必要があるでしょう。

広島でのアクション(©︎350.org Japan)

G7の化石燃料依存

気候変動を引き起こしてきたというG7の責任は重大です。日本をはじめとするG7諸国は、化石燃料に多くの資金を投じ、結果として大量の温室効果ガスが排出されています。気候変動対策の緊急性と必要性が叫ばれる今でも、化石燃料開発に対するG7による新規支援は止まっていないのです。

Oil Change Internationalが発表した報告書によれば、2020年から2022年の間のG7各国による化石燃料への公的資金支援は730億米ドルに及び、同時期のクリーンエネルギーへの投資(286億米ドル)の2.6倍にもなります。

G7の中でも日本の化石燃料への資金支援額は非常に大きいものとなっています。同レポートによれば、G7の中で化石燃料への投融資額が最も大きかったのは日本とカナダです。しかしカナダは2022年末までに海外の化石燃料事業への資金支援を、2023年末には国内向けの補助金を終えると約束しているため、近いうちに日本が1位になるとみられています。

問題は、化石燃料に対する支援だけではありません。日本政府が国策として推し進めているGX(グリーントランスフォーメーション)やAZEC(アジアゼロエミッション共同体)といった経済戦略では、ガス開発を進めるだけでなく、水素・アンモニア混焼やCCS(炭素回収・貯留技術)などいわゆる「誤った気候変動対策」に大規模投資し、それをアジアなど海外に売り込もうとしています。これはアジア全体の脱炭素と気候変動対策を遅らせる戦略として、日本以外のG7諸国やグローバルサウス等から大きな反発を招いています。ではなぜ、ガス、水素・アンモニア、CCSは「誤った気候変動対策」で、気候変動対策を遅らせてしまうのでしょうか。

日本政府は石炭から再生可能エネルギーへの移行に必要な「繋ぎの燃料」としてガスを位置づけ、その必要性を訴えています。しかし、FoE Japanが以前こちらのページでまとめたように、そもそも1.5℃に温暖化を抑えるために私たちが排出できる温室効果ガスの量は非常に小さく、「繋ぎ」として新しいガス関連施設をつくる余裕はありません。例えガスが石炭よりも排出量が低くとも、1.5℃目標に向けて化石燃料利用を減らさなければならない以上、ガスはもうこれ以上推進できないのです。

オーストラリア、メルボルンでのアクション

また、水素・アンモニアは燃焼時に二酸化炭素を排出しないためそれを火力発電所で燃やすことで「脱炭素火力」が実現できると日本政府は喧伝していますが、これも間違いです。水素、アンモニアは大部分が化石燃料由来で、製造時に大量の二酸化炭素が排出されます(詳しくは、こちらのリーフレットをご参照ください)。これではたとえ燃焼時に排出がなくとも、結局二酸化炭素が排出されることになり、気候変動対策になりえません。さらに、アンモニア混焼はPM2.5の排出量を増加させ、健康被害が増加することも懸念されます。ヘルシンキに拠点を置く独立系研究機関、エネルギー・クリーンエアー研究センター(CREA)の最新の研究報告書によれば、20%の混焼でPM2.5の排出量は67%増加します。混焼率20%は碧南火力発電所で既に2023年に達成が予定されています。同報告書によれば、日本で数千人もの早期死亡の原因とされている大気汚染物質であるPM2.5排出が大量に増加することが懸念されます。

水素・アンモニア混焼と同様に、CCSも技術的にもコスト的にも大きな問題があり、気候変動対策として期待できません。現在発電事業として稼働しているCCSは世界でカナダのバウンダリーダム火力発電所のみしかなく[注1]、そこでさえ二酸化炭素回収率は6割に留まるという状況で、排出量削減という面からも問題です。

ウクライナ、キエフでのアクション

前述したように日本政府はこれらの「誤った気候変動対策」で「脱炭素火力」を実現すると主張して、これらの技術をガス火力発電所やガスターミナルなど化石燃料インフラと一緒にアジア各国に売り込んでいます。JICAの支援でインドネシア、バングラデシュなどのエネルギー基本計画等を作成し、その中に石炭火力におけるアンモニア混焼などを入れ込み、「誤った気候変動対策」を売り込もうとしています。しかしそれによって得するのは日本の商社や電力会社など一部の大企業のみで、現地の発電所近辺に住むコミュニティや気候変動による損失と損害を被る世界中の市民が苦しむことになります。

気候変動対策に真っ向から逆行する日本の対外的なエネルギー分野での支援は、アメリカイギリス、カナダなどG6(日本を除いたG7各国)のみならずアジア各国をはじめとしたグローバルサウスなど世界中から反発の声が上がっており、今回のG7広島サミットを機になんと世界22カ国で60以上の抗議活動が実施されました(本記事の各写真参照)。

東京でのアクション

今年のG7の焦点

では、気候・エネルギー問題に関して今年のG7は何が焦点だったのでしょうか。昨年の2022年G7エルマウサミットでは気候変動対策に関して大きく3つの進展があり、2023年はこれらの合意をさらに強化することが期待されました。

2022年の合意の重要な成果の一つ目は、「国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトを加速するという目標に向けた、具体的かつ適時の取組を重点的に行うことにコミットする」として、国内の石炭火力の段階的廃止に合意したことです。このコミットメントをさらに強化させるため、第一に石炭火力発電フェーズアウトの具体的な年限を明示すること、第二に石炭だけでなくガスも含めた化石燃料全般からのフェーズアウトへのコミットメントを示すことが今回のG7サミットで期待されました。

2022年の合意の成果二点目は、「2035年までに電力部門の完全または大部分(predominantly)の脱炭素化」に合意したことです。これはIEA(国際エネルギー機関)が発表した2050年ネットゼロシナリオ[注2]に沿ったもので、そのシナリオでは2030年に石炭火力発電が0%、2035年にガスが2%以下とされています。日本は「大部分」とは50%以上を意味すると解釈していますが、これはIEAなど世界の共通認識とは明らかにかけ離れています。ちなみにこのIEAシナリオやClimate Analyticsによると、日本など先進国は石炭火力発電を2030年までにフェーズアウトすることが求められており、前述した石炭火力発電フェーズアウトの年限の目安とされています。

2022年の合意の成果の三点目は、「1.5℃の気温上昇に抑えることやパリ協定の目標に合致する、各国が明確に定義した限られた状況を除いて、2022年末までに国際的に排出削減対策がとられていない(unabated)化石燃料電力部門への新たな直接公的支援を終了する」ことに合意しました。大雑把に言えば、いくつか条件がついているものの海外の化石燃料事業への公的な資金支援を2022年末に終えることに合意したということです。これは歴史的にG7が化石燃料に対し多額の資金支援をしている点を鑑みると、非常に重要な合意であることがわかります。

2022年のG7首脳会合は以上のように、いくつかの進展がありました。今回のG7会合では、これらの進展をどのように強化するのかが問われていました。また、水素、アンモニアの扱いも注目されました。日本は前述したように脱炭素火力として水素・アンモニア混焼を推進しています。日本政府はG7を通じてこれらの技術や自らのGXを世界に認めてもらうべく、文言に混焼を盛り込ませる方針でした。脱炭素を遅らせかねないこの混焼技術に対して厳しい文言が含まれるかが、今回のG7の追加の焦点でした。

インド、コルカタでのアクション

G7コミュニケのキーポイント

さて、以上の背景説明を踏まえ、今年のG7サミットの成果文書である首脳コミュニケの内容を見ていきましょう。コミュニケでは前述のIPCCの報告を踏まえ、「世界のGHG排出量を2019年比で2030年までに約43%、2035年までに約60%削減することの緊急性(政府仮訳、パラグラフ18)」が強調されました。この削減目標を達成するため、以降で具体的な行動について触れています。

1)化石燃料フェーズアウト

まず今年のG7コミュニケの重要な成果は、「遅くとも2050年までにエネルギー・システムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させるという我々のコミットメントを強調(政府仮訳、パラグラフ26)」するとして、化石燃料フェーズアウトに合意したことです。この「フェーズアウト」という文言に対して、日本はドラフトの段階から反対していましたが、イギリス、ドイツ、フランスの推しがあり最終文言に残されたとFinancial Timesが報じています。G7で化石燃料フェーズアウトの合意がなされたことで、今年の年末に開催される気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)においても同様のコミットメントがなされることが期待されます。

2)石炭の具体的なフェーズアウト年限

先進国は2030年までの石炭火力発電段階的廃止が求められており、G7でもそのようなコミットメントが期待されていましたが、残念ながらその文言は盛り込まれませんでした。

パキスタンでのアクション

3)化石燃料への国際的な資金支援終了

今年のG7首脳コミュニケでは「..排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援を、2022年までに終了したことを強調する」という文言が盛り込まれました。

しかし日本は未だに海外の新規化石燃料事業に対する支援を実施しています。日本の公的金融機関である国際協力銀行(JBIC)は、今年3月にもウズベキスタン共和国シルダリアII天然ガス焚複合火力発電事業に対する貸付契約を締結しました。新規のガス火力発電事業である以上、当事業は明らかに1.5℃目標に整合していません。

一方で、元々2022年のコミュニケの文章には抜け穴があることも指摘できます。例えば「排出削減対策が講じられていない(unabated)」という部分。IPCCでは「排出削減対策が講じられていない化石燃料」とは、「ライフサイクルを通じて排出されるGHGの量を大幅に削減する措置をとらずに生産・使用される化石燃料」を指すとし、例えば、「発電所から90%以上のCO2を回収したり、エネルギー供給から排出されるメタンガスの50~80%を回収するなど(IPCC AR6 SYR SPM, 脚注 51, 筆者訳」と明記していますが、G7首脳コミュニケでは明確な定義がされていません。それゆえ日本などが火力発電所に水素・アンモニア混焼やCCSを導入することで「排出削減対策が講じられた」とみて公的支援をする可能性を残しており、今後定義が明確化されることが望まれます。しかしそもそも、排出削減対策が講じられている、講じられていないに関わらず、新規の化石燃料事業は1.5℃目標に整合していないので、そのような事業に対する資金支援は認められません。

台湾、台南でのアクション

4)水素・アンモニア混焼の位置付け

日本は火力発電への水素・アンモニアの混焼を強く主張しましたが、コミュニケでは排出削減が難しいセクターにおいて使用されるべきとされ、日本の期待したような文言とはなりませんでした。水素・アンモニア混焼は、先述したように排出削減にならないため国際的にも懐疑的な意見が多く、アメリカのケリー特使も「長期的な脱炭素を遅らせる」として懸念を示し、イギリスとカナダの閣僚も反対を示していました

実際、首脳コミュニケでは、「低炭素及び再生可能エネルギー由来の水素並びにアンモニアなどのその派生物は、摂氏1.5度への道筋と整合する場合、産業及び運輸といった特に排出削減が困難 なセクターにおいて、セクター及び産業全体の脱炭素化を進めるための効果的な排出削減ツールとして効果的な場合に、温室効果ガスであるN2Oと大気汚染物質であるNOxを回避しつつ、開発・使用されるべきであることを認識する(政府仮訳、パラグラフ25)」とされ、エネルギーセクターの利用については、「摂氏1.5度への道筋及び2035年までの電力セクター の完全又は大宗の脱炭素化という我々の全体的な目標と一致する場合、ゼロ・エミッション火力発電に向けて取り組むために、電力セクターで低炭素及び再生可能エネルギー由来の水素並びにその派生物の使用を検討している国があることにも留意する(政府仮訳、パラグラフ25)」と述べられるにとどまり、水素・アンモニアをエネルギーセクターで積極利用することに関してG7としての合意は得られなかったことがわかります。

スリランカ、コロンボでのアクション

5)ガス投資

ガス部門への公的支援については、今回のG7サミットは後退したと言えます。首脳コミュニケでは「液化天然ガス(LNG)の供給の増加が果たすことのできる重要な役割を強調するとともに、ガス部門への投資が、現下の危機及びこの危機により引き起こされ得る将来的なガス市場の不足に対応するために、適切であり得ることを認識する(政府仮訳、パラグラフ26)」とし、地政学的な理由でガス部門への投資をする余地を残しました。ただしここで、「ロシアのエネルギーへの依存のフェーズアウトを加速していくという例外的な状況において、明確に規定される国の状況に応じて、例えば低炭素及び再生可能エネルギー由来の水素の開発のための国家戦略にプロジェクトが統合されることを確保すること等により、ロックイン効果[注3]を創出することなく、我々の気候目標と合致した形で実施されるならば、ガス部門への公的に支援された投資は、一時的な対応として適切であり得る(政府仮訳、パラグラフ26)」という条件がつけられています。ロシアから天然ガスを輸入してきたドイツなど欧州諸国がガスの他の供給源を探している現状を踏まえ、それをあくまで一時的であるとしています。

6)再生可能エネルギー導入目標

今回のG7サミットでは、初めて再エネ導入目標が示されました。首脳コミュニケでは「G7は、2030年までに洋上風力の容量を各国の既存目標に基づき合計で150GW増加させ、太陽光 発電の容量を、各国の既存目標や政策措置の手段を通じて、IEAや国際再生可能エネ ルギー機関(IRENA)で推計された2030年までに合計で1TW以上に増加させることも含め、再生可能エネルギーの世界的な導入拡大及びコスト引下げに貢献する(政府仮訳、パラグラフ25)」と記載されています。日本政府はこの合意を踏まえ、風力発電と太陽光発電の導入目標の引き上げを検討するべきです。

7)原子力発電について

首脳コミュニケでは、「原子力エネルギーの使用を選択した諸国は、原子力エネルギー、原子力科学及び原子力技術の利用が、低廉な低炭素のエネルギーを提供することに貢献することを認識する」という原子力発電に対して好意的な文言が盛り込まれましたが、これは大きな誤りです。

この10年、再生可能エネルギーのコストは劇的に下がり、原発のコストは上昇し続けており、今や原発は最も高い電源となっているため、原子力発電は「低廉」であるとは言えません。また、ウラン採掘から、燃料製造、運転、廃炉、核燃料の処分に至るまで、放射性物質で環境を汚染し、人権侵害をひきおこすだけでなく、トラブルや事故、放射能汚染、何万年も保管を要する核のごみといった原発のリスクやコストを考慮すると、気候変動の解決策にすべきものではありません。

なお、日本政府は、コミュニケに盛り込む文言の主語を「我々は」としたかったようですが、脱原発を達成したドイツやイタリアが難色を示し、上記のような限定的な主語にしかできなかったと報じられています

フィリピン、マニラでのアクション

まとめ

G7各国が気候変動対策のためにできることがたくさんあります。石炭火力発電からのフェーズアウト年限を決めてそこに向けて具体的な廃止計画を定め実践すること、排出削減対策が講じられているか否かに関わらず海外化石燃料事業に対する資金支援を終了すること、そして水素・アンモニア、CCS、原発など誤った気候変動対策の推進をやめ、徹底的な省エネと再生可能エネルギーの促進など真の気候変動対策を推進すること。G7各国、特に日本は世界中で実施された抗議活動で明らかになった市民の声に耳を傾け、以上のような気候変動対策を真摯に進めるべきです。

(長田大輝)

[注1] 自然エネルギー財団. 2022年4月. 「CCS火力発電政策の隘路とリスク」p.9

[注2] International Energy Agency. May 2021. Net Zero by 2050: A Roadmap for the Global Energy Sector

[注3] ロックイン効果とは、新規の化石燃料事業が建設、稼働する場合、投資を回収するためその後数十年の間稼働し続けることになり、数十年の二酸化炭素排出が確約されてしまう(ロックイン)こと。

参考文献

外務省. 2023年. G7広島首脳コミュニケ仮訳 

イギリス・ロンドンでのアクション(クレジット:Chris Ratcliffe)

アメリカ、ワシントンDCでのアクション

バングラデシュでのアクション

ネパールでのアクション

フィリピン・マニラでのアクション(クレジット:350 Pilipinas)

切っても切り離せない?フィリピンでの油流出とガス開発

2月28日、フィリピン・ミンドロ島沖で80万リットルの産業用燃料油を積載したオイルタンカーが転覆し、3月1日に沈没しました。燃料油の一部が流出し、周辺海域・住民に深刻な被害が出ています。

今回のブログ記事では、この油流出によってもたらされる現地での環境・社会影響と、より大規模な油流出を引き起こす可能性のある周辺海域での化石燃料開発に警鐘を鳴らす声の高まり、そしてその開発における日本の関与について紹介します。

フィリピン全土の地図と、ヴェルデ島海峡等の位置関係

「海のアマゾン」を脅かす油流出

2月28日、燃料油を運んでいたオイルタンカー「プリンセス・エンプレス」号にエンジンの故障があり、3月1日にミンドロ島沖で沈没しました。積載していた80万リットルの産業用燃料油の一部が流出して大きな被害につながっており、現地の活動家も政府による早急な油除去を求めています

この油流出はフィリピン現地の20以上もの海洋保護区の豊かな生物多様性を危険に晒すと指摘されています。というのも、この油流出が発生した周辺海域であるヴェルデ島海峡は、「海のアマゾン」と呼ばれているほど海洋生態系の豊かな海域です。世界で認知されている近海魚種のなんと6割がヴェルデ島海峡に生息しており、世界で最も豊かな海洋生物多様性を誇ります[1]。1,736種類以上の魚種、338種類以上のサンゴが豊かな生態系を形成しており、この海洋生物多様性の豊かさは、漁業、観光業、養殖業などを通じて現地の200万人以上の人々の生活を支えていると報告されています[2]。

今回の油流出はこの海域に住む多様な魚やサンゴに壊滅的な影響を与えてしまう可能性があります。環境問題に取り組む市民連合であるGreen ConvergenceのNina Glanag博士は現地市民団体のプレスリリースの中で、「この不幸な事故の犠牲になった魚や海鳥の死体の悲痛な写真は、迅速に対処されないであろう油流出による悲劇の始まりに過ぎません。油は、中毒や窒息によって海に住む生物を死に至らしめることがあります。ヴェルデ島海峡の海洋生態系と沿岸環境は大きな危機に瀕しています」と指摘しています

東ミンドロ州ポラの干潮時には、悲惨な油流出の影響で、油膜、油の塊、魚の残骸が確認された。(©︎ Jison Tiu, CEED)

東ミンドロ州ポラの干潮時には、悲惨な油流出の影響で、油膜、油の塊、魚の残骸が確認された。(©︎ Jison Tiu, CEED)

地元の漁村への影響

ヴェルデ島海峡の豊かな海洋生態系が崩れてしまうと、それを生活の糧にしている現地の人々も困窮してしまいます。特に漁民の方々にとっては、魚が捕れなくなってしまうため生計手段への影響は甚大です。実際、地元政府はすでに漁業活動を禁止しており、沈没したタンカーからの油流出を止めるためにどう処理を行うのか、またその処理がいつ完了するかも不透明な中、その間代わりとなる生計手段もない現状について、漁民の方々は「コロナ禍よりもひどい」と不安を吐露しています。

東ミンドロ州ポラで、干潮時に海岸で油の塊と魚の残骸を眺める漁師のRobert Lakdawさん(47)。彼は、現在進行中の除去活動にボランティアで参加していたが、健康被害を最小限に抑えるため、立ち入らないようにと言われた。(©︎ Jison Tiu, CEED)

「ヴェルデ島海峡を守ろう!」キャンペーンの呼びかけ人であるEdwin Gariguez神父は、油流出が起きた直後の3月1日に、「私たちは、流出への対応が遅れた場合、漁業活動が制限されるのではと心配しています。すでに漁獲量が減少している中、油流出によって魚が死滅することで魚がさらに減少するかもしれません。油流出は、この国で最も貧しいセクターの中に入る私たち漁師が既に直面している問題を悪化させるでしょう。食卓に並ぶであろう魚は、食用に適さず、食中毒を引き起こす可能性があることは言うまでもありません」と語っています

ナウハンの海岸に停泊している漁船。海に出航して漁業活動を再開する目処は立っていない (©︎ Jison Tiu, CEED)

同氏はまた3月10日に、油が流出して以降、「18,000人以上の漁師が漁に出られず、36,000ヘクタールものマングローブ、サンゴ礁、海藻地帯が危機に晒され、東ミンドロ州のポラ町に住む50名以上の住人が熱やアレルギー症状を起こしていると報告されている」と話しています。生物多様性や生計手段だけでなく、住民の健康にも悪影響を及ぼしていることがわかります。

漁民のJennifer Jaquecaさんはこう語ります。「規制があったとはいえ、パンデミックの間は生計を立てることができました。しかし今は油流出で漁業が禁止されています。私たちはどうなってしまうのでしょうか?」(©︎ Jison Tiu, CEED)

ヴェルデ島海峡におけるガス開発

しかし、このような環境破壊と生計手段への甚大な被害は、このヴェルデ島海峡の周辺に暮らす人々がずっと苦しんできたことです。

というのも、このヴェルデ島海峡は、海洋生態系の中心地である一方、フィリピンで急速に進むガス開発の中心地でもあるのです。フィリピンに存在するガス火力発電所6基のうち5基がここにあり、新規の液化天然ガス(LNG)・ガス火力発電所建設8案件とLNGターミナル建設7案件がここで進められる予定です。ヴェルデ島海峡で建設されている新規LNGターミナルの一つであるイリハンLNG輸入ターミナルは、日本の国際協力銀行(JBIC)及び大阪ガスが出資者として参画しています。

このような化石燃料事業が、ヴェルデ島海峡の豊かな海洋生態系とそれに依存する住民の生計手段を既に破壊してきました。FoE Japanがヴェルデ島海峡に接するバタンガス州で昨年実施した現地調査においても、現地に住む漁民の方々が、ガス火力発電所が建設されて以降、漁獲量が減り、生計が成り立たなくなったという話をしてくださいました。

また、フィリピンの市民団体CEED(Center for Energy, Ecology, and Development)は、昨年カリタス・フィリピンと共同で公表した研究報告書において、ヴェルデ島海峡で観測された海洋生物多様性の減少は同地でのガス開発によるものではないかと示唆しています。さらに両団体は水質についての別の報告書で、ヴェルデ島海峡のバタンガス湾(位置関係は上段地図参照のこと)の水質調査を実施したところ、リン酸塩、クロム、全銅、鉛、亜鉛などの汚染物質の濃度がフィリピン国内の水質基準を超えたという結果を紹介しました。これを受けてフィリピンの漁民団体であるバタンガス漁民団結(BMB:Bukluran ng Mangingisda ng Batangas)を中心とするグループは、フィリピン環境天然資源省(DENR)に要請書を提出し、事業地周辺のヴェルデ島海峡水域を、「自然または人為のいずれかの特定の汚染物質が既に水質ガイドラインの値を超えている」ことを意味する「(環境基準)未達成地域」として宣言し、基準を超過している汚染物質の新たな排出源となる施設の建設を許可しないよう要請しました。 

このように化石燃料事業による住民への悪影響は、枚挙に暇がありません。前述のイリハンLNG輸入ターミナル事業は、すぐそばに隣接する建設中のガス火力発電所にもLNGを供給することを目的としていますが、昨年11月下旬にこのガス火力発電所の建設現場で道路崩落事故が発生しました。杜撰な工事によって発生したこの事故で多くの市民が利用する幹線道路が崩落し、ここでも住民生活に悪影響を与えました。

ちなみに、このガス火力発電所の事業者の親会社はフィリピンの大企業、サンミゲル社(San Miguel Corporation)ですが、今回の油流出事故のタンカーを手配したのも同じくサンミゲル系列の船会社(San Miguel Shipping)の子会社だと判明しました。サンミゲル社はフィリピンでのガス開発を主導しており、フィリピンの市民団体は今回の油の除去作業にかかっている費用や被害を受けた住民への賠償の支払いをサンミゲル社に求めています

終わりの見えない化石燃料開発による被害

フィリピンでの急速な化石燃料開発という背景に目を移すと、今回の油流出は、このより大きな問題の延長線上にあることがわかります。したがって、このような油流出は、根本の問題である化石燃料開発が続く限り、今後も発生してしまうことが懸念されます。

この点について前出のCEEDの事務局長であるGerry Arances氏は、「LNGターミナルの建設が続く限り、このような事故はヴェルデ島海峡で初めてでもなく、最後でもないでしょう。この海域を往来するタンカーが増えれば増えるほど、たとえ万全を期していたとしても、再びこのような事故が起こる可能性は高くなります。次に起こる事故はさらに深刻で、ヴェルデ島海峡に取り返しのつかない損害を与えるかもしれません。だから、私たちは政府に対し、電力危機の解決策としてLNGの輸入に頼ることを再考するよう求めています」と話しています

化石燃料開発による悪影響のみならず、油流出そのものによる悪影響も長引くと懸念されています。Arances氏は、「2006年に起きたギマラス海峡の事故は、油流出がいかに悲惨なものであるかを示すものでした。(油流出の影響を受けた:訳註)マングローブが回復の兆しを見せ始めたのは、事件から13年後の2019年のことでした。これは、化石燃料に依存すると環境に大きな損害をもたらすという政府に対する警告であったはずですが、政府はまだ教訓を学んでいないようです」と語ります

このように、化石燃料開発事業は現地の生態系のみならず住民の生活にも長期的な悪影響を及ぼします。油流出とその根本原因である化石燃料開発を止めるために、FoE Japanは今後も現地のパートナーたちと共に活動を続けていきます。(長田大輝)

出典

[1] Carpenter, K.E., Springer, V.G. 2005.The center of the center of marine shore fish biodiversity: the Philippine Islands. Environ Biol Fish 72: 467–480.

[2] Center for Energy, Ecology and Development. 2022. Financing a Fossil Future: Tracing the Money Pipeline of Fossil Gas in Southeast Asia. p.39

Center for Energy, Ecology, and Development. Press Release: Immediate action needed on oil spill to protect Verde Island Passage, group says. March 1. 2023 

Center for Energy, Ecology, and Development. Press Release: Groups demand strengthened measures in VIP to address environmental nightmare. March 3. 2023.

Center for Energy, Ecology, and Development. Press Release: Dispatches from a Disaster: Oil Spill in Mindoro. March 3. 2023.

Center for Energy, Ecology, and Development. Press Release: Dispatches from a Disaster: “Worse than COVID” March 9. 2023. 

Center for Energy, Ecology, and Development. Press Release: 10 days, zero accountability: oil spill-affected communities lament radio silence of responsible parties. March 10. 2023. 

Center for Energy, Ecology, and Development. Press Release: POLLUTER MUST PAY: STATEMENT OF PROTECT VIP ON THE INVOLVEMENT OF SAN MIGUEL CORPORATION IN THE OIL SPILL IN VERDE ISLAND PASSAGE. March 13. 2023.

「気候変動かるた」の出前授業を行いました!


スタッフの木次です。

2月上旬、中野区立桃花小学校の6年生4クラスを対象に、「気候変動かるた」の出前授業を行いました。

気候変動って?
どうして起こっているの?
私たちはどうすれば良いの?

そもそもNGO団体って?
どんな活動をしているの?

それぞれ単語は聞いたことがあっても、内容や意味がよく分からなかったり、難しいイメージを持つ方もいると思います。

そんな、なかなか難しい問題を知ってもらうために、今回の授業では気候変動について解説をしたうえで「気候変動かるた」で遊んでもらいました。

FoE Japanが作成・販売している気候変動かるた

授業の前半では、スライドを使いながら、SDGsを切り口に気候変動についての説明と、FoE Japanの活動紹介をしました。
難しい用語も多く分かりづらかったところもあったと思いますが、生徒たちは真剣に聞いてくれていました。

SDGsの意味やどんなゴールがあるのかを知っている生徒もおり、子どもたちにも単語や意味が浸透していることを実感しました。

気候変動についてのレクチャーを聞く生徒たち

後半は、いよいよ気候変動かるたです。

3~5人で1グループ作ってもらい、机を集めて絵札を広げます。お手つきなどのルールは各グループで決めてもらいました。

気候変動かるたで遊ぶ生徒たち

どのクラスも、札を読み始めるとすぐに大盛り上がりでした。

途中から、読み札を先に読むのではなく、読み札についている解説を先にヒントとして読み、どの札か予想してもらうなど、関心を持ってもらうために試行錯誤しました。

笑顔だったり、真剣だったり、悔しがっていたり、生徒たちがいろんな表情で遊んでくれていた姿が印象に残っています。

レインボーフラッグを持ちマーチを行っている様子を描いた札

残った時間では、一番気になった絵札と選んだ理由を教えてもらいました。

この絵札を見て、「なぜ旗がレインボーなのか」と質問をしてくれた生徒がいました。
これは、LGBTQ+コミュニティのシンボルであるレインボーフラッグです。絵札は、LGBTQ+コミュニティの文化をお祝いしたり、権利を求めて声を上げるための「プライド」のパレードの様子を描いており、参加している人たちがレインボーフラッグを持っていることが分かります。

そんなプライドパレードを描いた絵札には、「のぞむのは『だれもとりのこさない社会』」という読み札がついています。

FoE Japanでも、「地球上のすべての生命(人、民族、生物、自然)が互いに共生し、尊厳をもって生きることができる、平和で持続可能な社会を目指す。」を活動ビジョンとしています。

誰もとりのこさない社会にするためにも、気候変動の現状だけでなく、差別や格差などといった課題が社会にあると知ることが大切だと考えています。

今回の出前授業を通して、生徒たちにとって1つでも新たな発見や学びがあったら嬉しいです。

同じく中野区の江原小学校でも、5年生のSDGsの授業の導入としてかるたを使っていただきました。気候変動の問題についてまずは楽しく触れてもらえるよう、こうした活動をもっと広げていきたいと考えています。気になった方はお気軽にお声がけください!

「気候変動かるた」はご家庭や地域の集まりで遊んでいただくのもおすすめです!

\「気候変動かるたで遊んでみよう!」紹介ページ/

気候変動かるたで遊んでみよう! | 国際環境NGO FoE Japan

\ご購入はこちらから/

【横須賀石炭訴訟報告 vol.15】判決、原告の訴えは「却下」

1月27日、横須賀石炭火力訴訟の判決が言い渡されました。
14時過ぎに開廷、裁判長からの判決言い渡しはわずか30秒ほどで終了、「却下する」とのことでした。60名近くの人が集まりましたが、「判決文の通り」として理由さえ話されず、あまりにあっという間でした。

弁護団、原告団は15時すぎ「市民にCO2争う権利認めず」「世界の流れに逆行する不当判決」とする旗を出しました。


判決文は、こちらにアップされます。
横須賀石炭訴訟ウェブサイトはこちら https://yokosukaclimatecase.jp/


過去の横須賀石炭訴訟に関するブログ記事はこちら

COP27閉幕 – 損失と被害に対する基金設立は歴史的一歩であるものの、その他の結果は危険なほど弱いものに

2022年11月20日, シャルム・エル・シェイク(FoEIによるプレスリリース)

原文はこちら

気候変動の取り返しのつかない影響を発展途上国に補償する損失と被害(ロスアンドダメージ)の基金が、米国や他の先進国による一貫した妨害にもかかわらず設立されたことは、膠着状態に陥っていたCOP27の交渉が歴史的な突破口を開いたことを意味します。この基金は発展途上国の主要な要求の一つでありましたが、実現が困難とみられていました。これは歓迎すべき第一歩です。しかし、先進国が責任を放棄する可能性はまだ十分に残されており、その他のCOP27の成果は極めて弱いものでした。

FoEインターナショナルのSara Shawは「数十年の苦闘を経て、ようやくロスアンドダメージのための基金が設立されたことは救いです。しかし現在、基金はまだ空っぽです。正義と公平性に沿って、先進国にそれに貢献することを保証させるための戦いが私たちを待っています。私たちは、十数年前に約束されたものの未だ達成されていない年間1000億ドル目標に対する富裕国の惨憺たる成績を繰り返させてはいけません。」とコメントしました。

COP27の結果には 「クリーンで公正な再生可能エネルギーへの移行」 の必要性への歓迎が含まれていますが、移行を達成するための、排出削減のための資金支援などの合意はなされておらず、緩和に関する成果は弱いものに留まりました。石炭の段階的縮小(フェーズダウン)について昨年合意されましたが、この部分に関して前進がなかったことは化石燃料産業を喜ばせるだけになると懸念しています。

FoEアフリカのBabawale Obayanjuは「COPの結果が 『排出削減の講じられていない石炭火力の段階的縮小』 のみに留まったという事実は、アフリカと気候にとっての大惨事です。石油やガスも迅速かつ公正に段階的に廃止されなければなりません。「排出削減の講じられていない(unabated)」 という小さな言葉は、巨大な抜け穴を作り、新たな化石ベースの水素と炭素の回収・貯蔵プロジェクトへの扉を開き、排出の継続を可能にしてしまいます。豊かな国や企業の利益のためにコミュニティを破壊しているガスを、これ以上アフリカで採掘する必要はありません。COP27で必要だったのは、すべての化石燃料を迅速かつ公平に段階的に廃止するという合意でした。」とコメントしました。

昨年、COP26では環境・社会正義団体の強い反対にもかかわらず、長い議論の末、炭素市場について合意に達しました。COP27では、地球工学や自然に基づくオフセットを炭素市場の仕組みに組み込もうとする急速な動きがみられました。警戒すべき動きです。これに関する議論は2年延長されることになりました。一方、最終決定文書からは、人権、先住民族の権利、労働権への言及は削除されています。

FoEインターナショナルの議長でスリランカ出身のHemantha Withanageは「炭素市場に関する決定を非常に憂慮しています。COP27は、地球工学、危険で検証されていない技術、いわゆる自然に基づく解決策をカーボンオフセット市場に組み込もうとする動きを一時的に遅らせましたが、これらの脅威が去ったわけではありません。炭素市場は、汚染者による継続的な排出、脆弱なコミュニティからの土地、森林、水の奪取、人々の権利の侵害を覆い隠しています。」とコメントしました。

COP27は、エジプトの活動家やジャーナリストに対する国家による弾圧の中で開催されました。これについてSara Shawは次のようにコメントしました。

「COPが終わってエジプトを離れても、私たちはここに残っている良心の囚人を忘ません。人権なくして気候正義はありません。市民社会はこれからもそれぞれの政府に働きかけ続け連帯を示します。」

このプレスリリースに関する連絡先

Sara Shaw, Climate Justice & Energy coordinator, Friends of the Earth International

sara[at]foe.co.uk, WhatsApp/Signal +44 79 7400 8270, @climatemouse, speaks English, Spanish

dipti bhatnagar, Climate justice & energy coordinator, Friends of the Earth International

dipti[at]foei.org, Whatsapp/Signal +258 84 035 6599, @diptimoz, speaks English, Portuguese, Spanish, Hindi

Madeleine Race, madeleine[at]foei.org, @foeint, speaks English, Spanish, French.

写真:Bianka Csenki, Artivist Network (@8iank4 / @artivistnet)

気候資金と化石燃料ファイナンス – 日本は最大の化石燃料事業支援国

11/9は、議長国エジプトが「ファイナンス」をテーマとして設定しています。この「ファイナンスの日」に合わせ、会場内で「ファイナンス」に関するアクションが多数行われました。

気候危機が深刻になる中、先進国による途上国への資金支援は不足しています。

これまでも途上国から、すでに生じている変化に適応するための資金や、損失と被害(ロスダメ)に対応するための資金の拠出が強く求められていました。

先進国は2020年までに年間1000億ドル の気候資金を拠出する約束でしたが、それすら達成されておらず、気候危機の被害が拡大する中で資金不足は深刻です。そもそも途上国がNDC(国別気候変動目標)を達成するためには、2030年までに5兆米ドル必要だと試算されており、対策の実行には先進国が資金支援の義務を果たすことが必須です。

また、緑の気候基金(GCF)は緩和・適応事業への資金支援を行う重要な基金ですが、資金が底をついており、この状況も深刻です。また、損失と被害に対する資金拠出の道を開くことが途上国にとって重要です。

一方、先進国がいまだに多くの公的資金を化石燃料事業に費やしていることが問題です。

昨日発表された米国のNGOオイル・チェンジ・インターナショナルのブリーフィングは、日本が石油、ガス、石炭事業に対する世界最大の公的支援国であることを明らかにしました。

日本は2019年から 2021年の間に年間平均106億米ドルを拠出し、ガス事業に対してだけでも年間平均67億米ドルを拠出し、これは世界最大です。

日本の官民はアジア諸国において、多くのLNG事業に関与していますが、今回のCOPが開催されているこのアフリカ地域でも多くの資金を拠出しています。

日本のガスに関する資金の最大の受入国はモザンビークとロシアでした。2019年から2021年にかけて、日本はモザンビークと82億ドルの融資契約を結んでいますが、資金の99.5%は国内消費やエネルギーへのアクセスではなく、採掘と輸出に関連した施設に費やされています。

アフリカ大陸は、世界で一番温室効果ガス排出の少ない地域です。世界の排出のうち、たった3~4%しか排出していません。それにもかかわらず気候変動による大きな影響を受けています。

FoEインターナショナルの国際プログラムコーディネーターでモザンビーク在住のDipti Bhatnagarは「世界最大級のガス埋蔵地がモザンビーク北部で見つかり、豊かな国がそれを採掘しようとしている。海の資源や大地に依存して生きている地元のコミュニティからそれらを奪おうとしており、すでにガス開発によって100万人もの難民が発生している。2020年に日本を訪れ、モザンビークでガス開発をしないでほしいと申し入れた。しかしその後、日本政府は事業への融資を決定した。」とスピーチ。日本に対し、そしてその他の先進国や企業に対し、「アフリカを燃やすな(Don’t let Africa Burn)」と訴えました。

また、日本の官民によるガス開発が進むフィリピンから参加したKrishna Ariola(Center for Energy, Ecology and Development)は「気候危機に責任がある国々が、さらに多くの化石燃料を燃やそうとしている。フィリピンや他の東南アジア諸国は、まだ石炭から脱却する途上にあるのに、人々や環境を犠牲にしてガス依存の状況に陥りつつある。海のアマゾンと言われるヴェルデ島海峡で、巨大なガス開発が進んでおり、生物多様性も破壊されようとしている。今すぐ、融資国は化石燃料への公的支援を止めるべきだ」とコメントしました。

日本政府は化石燃料事業への公的支援を直ちにやめ、持続可能で地域のニーズに基づいた支援を行うべきです。

出典:http://priceofoil.org/content/uploads/2022/11/Japans-Dirty-Secret-JPN.pdf

写真(全て):Bianka Csenki, Artivist Network

(深草亜悠美)