【COP26 vol.10】グラスゴー会議閉幕 – バランスを欠く合意に途上国は失望

交渉2週目の最終日。気候正義を求める市民たち

10月31日より開催されてきた第26回国連気候変動枠組条約締結国会議(COP26)は、1日の延期を経て、11月13日夜に閉幕しました。

閉会式では、議長Alok Sharma氏や国連気候枠組条約事務局長Patricia Espinoza氏が、COP24からの宿題となっていたパリ協定第6条、第4条、第13条の議論をまとめられたことを理由に「COP26は成功した」と発言する一方、後発開発国やアフリカ、島嶼国は、緩和目標強化の作業計画がグラスゴーでの合意(Glasgow Climate Pact) に盛り込まれたことは歓迎するものの、今回強く求めていた適応や損失と被害に対応するための資金提供を先進国がほぼ拒絶し、バランスを欠く合意であるとして失望の意も示しました。

また、決定文書に記載された石炭火力の段階的廃止に関する文言(para20)についても、インド等の反対があり、閉会式前のCOP決定文書案は、“Phase out(段階的廃止)”が”Phase down(段階的削減)”へと、文言が弱められた形となりました。パリ協定の1.5℃目標達成のためには先進国は2030年までに、その他の国も2040年には石炭火力発電を全廃する必要がありますが、ただでさえ弱かった文言がさらに弱くなったことは残念です。しかし、気候変動枠組条約の決定で、化石燃料対策が直接取り上げたことはかつてなく、文言が弱められたからと言って廃止の必要性が国際的に理解され、実際に各国が脱石炭に向けて動き出していることには変わりません。先進国が率先して石炭火力発電を廃止し、途上国のジャスト・トランジションを支援する必要があります。またその他の化石燃料に関しても、公平性に配慮した形でフェーズアウトを進めていく必要があります。

FoE Internationalの気候正義・エネルギープログラムのSara Shawは、今回の結果について、下記のように述べています

“今回の結果は、気候正義を求める市民団体が望んだ結果とは程遠く、炭素市場取引という形で、途上国の土地をオフセットのために使うことで、先進国に継続的な排出を許すものなりました。英国政府とその同盟国は、交渉をまとめあげた自分たちを褒め称えていますが、炭素市場については、合意が全くない方がましでした。

これはスキャンダルに他なりません。具体的な行動策を伴わずに、ただ単に1.5℃目標を言っているだけでは無意味です。COP26は、すでに気候危機にありながら、エネルギーシステムの変革や気候変動への適応策の実行、また、すでに起きている損失と被害に対応するための資金の乏しいグローバルサウスを裏切ったものとして記憶されるでしょう。これが最終的に炭素市場での取引が強制された瞬間であったことは今更驚くことではありません。炭素市場は、排出量の削減に消極的な先進国のためのものです。

多くのグローバルサウスの国々は、今回の会合に参加したり彼らの声を届けたりするうえで困難を伴った一方、化石燃料企業の存在感は大きいものでした。

今回の交渉結果は、世界全体の温室効果ガスの排出量を増加させてしまうことに加え、今世紀半ばまでに温室効果ガスを”ネットゼロ”にするといった弱いコミットメントや、途上国の土地での大規模植林をもたらす聞こえのよい自然に基づく解決策は、実際には先進国自らの排出を相殺するためであり、途上国や先住民族の土地収奪を加速させてしまいます。

気候正義の実現を求め、COP26期間中に開催された気候マーチに参加した15万人以上の市民は、何が本当の気候変動への解決策か知っています。化石燃料に依存しない社会への公正な移行、そして先進国から途上国への気候変動対策のための資金を供与することです。

残念なことに、豊かな国々は「逃亡条項」を選択してしまったものといえます。”

今回の決定文書には、”Climate Jusitce(気候正義)”という言葉が記載されました。気候変動への影響をより深刻に受ける国々や人々への配慮が会議期間中の首脳サミットやイベントでのスピーチに散りばめられていましたが、いずれも中身のない言葉に過ぎず、会議場内での交渉では先進国が団結して、すでに厳しい気候変動の影響を受けている開発途上国の声を断固として拒絶し続けました。決定文書の内容は、公平性の原則やシステムチェンジからは程遠く、歴史的累積排出量の責任を負う先進国の大量排出を今後も許し、途上国に排出責任の肩代わりを求め、かつ彼らが必要とする支援を拒み続けるものです。

議長国英国の下で、先進国は気候植民地主義的な枠組みを推進し、既存の権益と世界での優位の維持を優先しています。決定文書に盛り込まれた言葉とは裏腹に、パリ協定の1.5℃目標の実現を危うくするものでもあります。ですが、早急で野心的な行動の必要性は変わらないのです。FoEグループは引き続き、Climate Justiceの真の実現に向けて活動していきます。

(小野寺ゆうり、高橋英恵、深草亜悠美)

【COP26 vol.9】グラスゴー会合終盤〜COP26のポイントや課題〜

 イギリス・グラスゴーで開かれている気候変動枠組条約締約国会合(COP26)は11月12日に閉幕を予定しています。現地時間19時現在、まだ会議は終了していませんが、この二週間続いているグラスゴー会合のポイントや課題についてまとめます。

公平な参加

 今回のCOPは、これまでの歴史の中でも最も多くの参加者が登録されていますが、途上国のメンバーにとって参加のハードルはとても高く、参加の機会が均等に確保されたとは到底言えないCOPになってしまいました。ワクチンが世界的に公平に行き届いておらず、英国へのVISA申請や高騰する渡航にかかるコストが、途上国のメンバーの参加を阻みました。気候変動の影響を最も強く受ける途上国の市民の代表が不在のCOPになったといえます。FoEグループの参加も、残念ながら開催地である英国やヨーロッパのFoEメンバーの参加が多く、上記の理由等により、多様性を確保することは困難でした。

 またコーポレート・アカウンタビリティやグローバル・ウィットネスなどのNGOが調査したところ、少なくとも503人の化石燃料ロビーストがCOPに参加していることがわかっています。これはどこの国の政府代表団よりも大きな数字です(政府代表団メンバーとして最も多くの数が登録されているのはブラジル政府で479人)。途上国の人々がCOPに参加できない一方で、化石燃料産業に利害関係を持つ人間がたくさんCOPに参加しているのです。

 また会場には原子力産業のロビー団体も出展し、サイドイベントなどを行い原発を宣伝していました。

炭素市場、「ネットゼロ」、「自然に基づいた解決策(NbS)」 – 危険な目眩し

炭素市場

 FoEグループは温室効果ガスの削減に繋がらない炭素市場に反対の意を示してきました。今回のグラスゴー会議でも炭素市場に関して交渉が継続されていますが、そもそも炭素市場は気候変動対策にはならず、今の交渉状況をみると、むしろ炭素市場はより多くの排出を促してしまうことが懸念されます。

 例えば、11日の時点で、EUは京都議定書下の炭素市場であるクリーン開発メカニズム(CDM)の下で生成されたクレジットをパリ協定の下でも使えるようにする方向に、立場を和らげています。CDM下でできたクレジットの移管が許されてしまえば、取引のために使用できるクレジットは、約300トン〜約3400トンになると計算されています

Net Zero ネットゼロの欺瞞

 グラスゴー会合のCOP決定文書案CMA決定文書案には、「今世紀半ばまでにネットゼロを目指す」と書き込まれまれています。これは、排出量を技術至上主義的な考え方で吸収量を差し引きすることで相殺することを想定しており、相殺をあてにして裕福な国や大企業にこの先何十年にもわたって温室効果ガスの排出を続けることを許すことにつながります

 また、エネルギーシステムの公正な移行のための具体的な計画や、移行をすすめるための新しい公的資金支援が欠落しています。石炭からの脱却や化石燃料支援への公的資金の中止がを宣言するだけでは不十分です(化石燃料に関するこれらの文言は12日朝現在のドラフトには記載されている)。いずれにせよ、これは最終的な決定文書からは削除される可能性もまだあります。

 

Nature based solutions 自然に基づく解決策

 10日に出された決定文書案には、「自然に基づく解決策(Nature based solutions)」という言葉が複数回出てきますが12日の朝に発表されたものからは消えていました。ですが文言自体は消えていてもそういった考え方は文書の中に残っています。自然に基づく解決策という言葉は聞こえは良いですが、実態は土地収奪や食料安全保障の不安定化、そしてすでに気候変動の影響を受けている途上国の人々への人権侵害を引き起こしかねないものです

 大規模な排出企業や先進国の排出量を吸収するのに十分な土地や森はありません。

 企業や国は、オフセットや技術に頼ることで排出量を相殺し、この先何十年も今まで通りの事業を続けるのではなく、化石燃料からの早急な脱却を進めていく必要があります。

「アナウンスメント」だけでは1.5℃目標は達成できない

 今回のCOPでは議長国等の主導により、交渉の外で、さまざまな宣言や取り組みが発表されました。

 そもそも、気候変動に対する歴史的責任の大きな先進国は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減し、途上国に対して負っている気候・環境負債を返済しなくてはいけません。

 2030年までに排出を半減し、2050にはネットゼロにする、というのはグローバルなゴールです。「共通だが差異ある責任(Common but differenciated responsibilities, CBDR)」の原則に基づき、先進国が先んじて行動する必要があります。しかし今回の交渉でも、差異ある責任の議論は主に先進国によってブロックされていました。

 今回のCOPでは、これまでのブログでもお伝えした通りさまざまな「宣言」が飛び出したCOPでした。これらは各国の自主的な取り組みを表明しているだけで、国連の交渉の外で行われています。

 もちろんこういった宣言も重要です。これまで、石炭については英国等中心に廃止を求める国際的な流れが形成されており、「脱石炭」の運気を盛り上げ、実際に加盟する各国は脱石炭を進めてきました。しかし、それぞれの宣言の中身を見ても、1.5℃目標や、気候正義を達成するには全く不十分な内容です。

 こういった「交渉の外」の取り組みに加え、先進国は途上国への支援を交渉の中で表明し、NDCの目標を引き上げ、まずは国内での削減を確実に進めていくことが重要です。

 気候資金についても重要です。コペンハーゲン会議(COP15)で約束された年間1000万ドルの気候資金動員目標はまったくもって達成されていません。公的資金による供与が望まれるところ、民間資金の動員が強調されていることも懸念されます。

英国政府のダブルスタンダード?

 英国政府は一見野心的な取り組みを次々と発表しているように見えますが、実際国外内での化石燃料開発の手を緩めておらず、環境団体などから批判の声が上がっているのも事実です。

 実際英国の政府系銀行はモザンビークにおける巨大なガス開発に支援を続けており、国内でもカンボ石油開発事業やカンブリアにおける新規炭鉱の開発を続けようとしています。.

解決策は草の根から〜市民の力、真の解決策、システムチェンジ

 この数年間、私たちは、政府に対し気候危機をはじめとした様々に関連する危機に対応するよう要求する市民による大きな運動、特に若者による運動を目にしてきました。COP26期間中の気候マーチは、英国内で過去最大の規模のマーチとなりました。風と雨が強かったにもかかわらず、20万人以上が参加しました。主催者によれば、グラスゴー以外の都市でも、世界中で約300のデモが行われ、英国だけでも100を超えるデモが行われたとのことです。

 人々はすでに草の根レベルで変化をもたらし、食料、エネルギー、経済システムを変革するための真の解決策を追求しています。コミュニティは、クリーンで持続可能な再生可能エネルギーを作り始めています。市民は食糧主権と農民の自然と調和したアグロエコロジーを追求することにより、産業・企業主導の農業に挑戦しています。

 先住民族と地域コミュニティこそ自然を守ってくれています。私たちは彼らの権利を守らなければなりません。

 気候危機だけでなく、地球は複数の、互いに関係しあっている社会的、政治的、経済的な危機に直面しています。この危機の中心にあるのは、利益を追求することのみを目的とした、持続不可能な経済システムです。エネルギー、食料、経済の根本的なシステムチェンジによってのみ、気候変動の大惨事や世界の平均気温の上昇を1.5度までにを防ぐことができます。

交渉は続く…

現地時間12日18時の時点でまだ交渉は続いています。私たちが各国政府に求めるのは、化石燃料に依存した社会のあり方から持続可能な社会に転換していくための計画とその実行です。追加的な排出を許してしまう炭素市場のような危険な解決策が今回の会合の場で認められてしまわないよう、今後も市民社会として監視や提言を続けていきます。

(高橋英恵・深草亜悠美)

【COP26 vol.8】シェル訴訟の成功秘話〜希望をすてない市民が紡ぎ出した勝訴〜

COP26の開催地グラスゴーでは、気候マーチ翌日の日曜日から水曜日にかけ、COP26 Coalition(COP26連合は、気候正義を求める環境団体、労働組合、人権団体などによる市民社会連合)によるPeople’s Summitが開催されました。2年間かけて準備されたPeople’s Summitでは、連日市内の様々な場所で、Just Transition(公正な移行)やアグロエコロジーに関するセミナー、これから気候正義の運動を盛り上げていくためのワークショップなど、多様なイベントが行われていました。

そのイベントの一つとして、FoEオランダによる気候訴訟に関するセミナーが開催されました。

FoEオランダは、他の6つの環境団体と17379人の市民とともに、大手化石燃料企業Shellを彼らの事業が気候変動に大きな影響を与えているという点で裁判を起こしており、今年の5月勝訴しました。大手化石燃料企業を相手に訴えた裁判での勝訴は初めてで、非常に歴史的な裁判です。

(勝訴のプレスリリースの翻訳はこちら:https://foejapan.wordpress.com/2021/05/27/shell/

イベントでは、シェルを訴えるに至った経緯、どのように市民原告を増やしていったか、勝訴の秘訣などを紹介していました。登壇者のスピーチの中で印象に残った箇所を紹介します。

シェル訴訟でのキャンペーナーの役割を担っていたNine De Paterさんは、

「シェルが石油の採掘を行なっているナイジェリアでは、石油が漏れだし現地住民の健康被害に大きな影響を与えました。中にはその汚染のせいで命を落とした人もいます。このような明らかな人権侵害が起きている中、2016年、パリ協定が採択されました。パリ協定採択以降、シェルは再生可能エネルギー事業を始めると言いましたが、気候変動を引き起こしてきた化石燃料企業は自らの事業をやめることはありませんでした。シェルが始めるといった再生可能エネルギー事業はシェルの事業のわずか4%の規模でしかなく、グリーンウオッシュそのものです。彼らは常に人々の命より儲けることを優先しています。」

と話しました。

訴訟の準備は2016年から始めていましたが、シェル訴訟そのものは2018年にから始まりました。より多くの市民を巻き込み、この訴訟を盛り上げる過程は、トライアンドエラーの繰り返しだったと、市民参加を促す役割を担っていたHilde Brontsemaさんは言います。

「より多くの市民を巻き込むためにできることはなんでもやりました。例えば、SNS上で、ヴィーガンや環境保護など人々の関心毎に広告を出して反応を地道に確かめたり、シェルの問題を伝えるための動画を作成したり。また、メディアにこの訴訟をより取り上げてもらうための勉強会を開きました。そして何より重要なのは、ただ単にこの問題を知ってもらうだけではなく、この訴訟に関わってもらうことです。賛同者には少なくとも1ユーロは寄付してもらう仕組みを作り、賛同者には知り合いにこの訴訟に誘うことを奨励しました。」

シェルの問題を伝えるための動画

そして何より大切だったのは、「勝訴を信じて続けること」だったと言います。

「気候変動は人権と密接に繋がっています。そして、科学は気候危機によって、人々の生活を脅かすことを示しています。法廷は、さまざまな企業による宣伝に影響されるテレビ番組と全く違い、事実だけが求められる空間です。そのような場では、事実や科学が示していることだけが判断材料になります。そして、健康に生きる権利は誰も否定できるものではありません。そして、健康に生きる権利は誰も否定できるものではありません。“歴史を変えたい、変えられる”と信じ続け、その思いを表出させた市民の力が形の結晶です。」

また、質疑応答の時間には、「裁判に負ける可能性は考えなかったのか」と言ったような質問をありましたが、この件を担当したRoger Cox弁護士は、
「負けたとしても次の裁判への反省材料になる。私たちが諦めない限り、無駄になることは何もない」
と力強いメッセージをくださいました。

私たちには社会を変える力がある

「私たちには社会を変える力がある」と信じ続けることはとても険しい道のりです。ですが、「社会を変えたい」という思いを心の中にしまっておくのではなくその思いを表に出していくことで、私たちが望むような社会へと近づけることができるのだと、胸がふるえるほどの市民の力を感じた機会でした。

日本とオランダでは裁判の規定が異なっていたり、今回紹介したオランダの事例は企業を相手取っている一方、2019年に始まった横須賀の石炭火力発電所建設に関する訴訟(https://yokosukaclimatecase.jp/)は経済産業省を訴えていたりなど差異はあり、一概に真似できるものではありませんが、裁判を応援してくれる人々をサポートしていくこと、そして裁判への関心を高めていくことは、このような違いを超えてできることだと感じました。

気候正義を求める世界の訴訟とともに、FoE Japanは引き続き横須賀石炭火力訴訟を盛り上げていきます。

(高橋英恵)

▼イベントはこちらから視聴できます。

▼横須賀石炭火力行政訴訟のサポーターにぜひ登録ください!次回の期日は

https://yokosukaclimatecase.jp/support_us/

▼過去の横須賀石炭火力行政訴訟の報告はこちら

https://www.foejapan.org/climate/nocoal/activity.html

【COP26 vol.7】COP26-各国は口約束だけに終わらず脱化石燃料を加速させることができるか?

英国・グラスゴーで開催されているCOP26の5日目にあたる11月4日はエネルギーをテーマに議長国の主催イベントなどが多数開催されました。また、11月11日にはコスタリカとデンマークの主導で「Beyond Oil and Gas Alliance(BOGA)」という石油・ガスの新規開発許可の停止を求めるイニシアチブも発表されます。COP期間中の化石燃料をめぐる動きをまとめます。

「脱石炭」

英国とカナダ政府は2017年にPowering Past Coal Alliance(PPCA、脱石炭同盟)を立ち上げ、各国に脱石炭の加速を求めてきましたが、この日、新たに英国政府のイニシアチブにより「Global Coal To Clean Power Transition Statement」が発表され、これには40カ国以上が賛同しました(一部の国は部分的に賛同)。

この声明は、署名団体に対し

  1. クリーンエネルギー利用とエネルギー効率強化を加速させること
  2. 主要な経済大国は2030年代(のなるべく早い段階)に、それ以外の国についても2040年代(のなるべく早い段階)排出削減対策の講じられていない石炭火力発電(CCSのついていない石炭火力発電)を廃止していくこと
  3. 新規石炭火力の建設や、許可を止めること
  4. トランジションのための国内外での努力を強めること

などを求めています。

声明にはベトナムや韓国、インドネシア(条件付き)も賛同を示しています。ベトナムやインドネシアは日本が多くの石炭火力発電所の輸出をこれまで行ってきた国なので、今後どのように脱石炭に取り組むのか注目されます(注:インドネシアは移行に関する1、2、4に賛同したのみで、新設中止等には賛同していない。)。(声明全文と署名した国名のリストはこちら、Japan Beyond Coalによる日本語訳はこちら​​)

一方の日本政府は、国内の石炭火力発電を廃止する計画を持たず、かつ海外への輸出支援も止めていません。海外へ石炭火力発電事業を輸出する際の公的支援は2021年末までに止めるとしていますが、インドネシア・インドラマユ石炭火力発電事業とバングラデシュ・マタバリ2石炭火力発電事業はいまだに例外扱いし、国際協力機構(JICA)による支援の可能性を残しています。

国内外の環境団体の連合であるNo Coal Japanは、依然遅れを見せる日本政府の姿勢に抗議し、COP26の会場近くでアクションを行いました。

インドネシア環境フォーラム(WALHI)のメンバーでCOP26に参加しているアブドゥル・ゴファルは「インドネシア政府は供給過剰を理由に、インドラマユ石炭火力発電事業を電力供給事業計画(2021〜2030年)から除外しました。同発電所が2030年まで不要であると明確に認めているのです。日本政府は今すぐ決断し、インドラマユ石炭火力発電事業をもう支援しないとはっきり表明するべきです。」と指摘しています。また、「インドラマユでは事業に反対する人々が身に覚えのない罪で収監されるなど深刻な人権侵害が起きています。また火力発電所は大気汚染の主要な原因で、住民の健康や生活を脅かしています。インドラマユの人々に連帯を示したいと思います」と話しました。

イギリス議長国は、石炭からクリーンエネルギーへの転換を支援するための資金支援プログラムなども発表しました。つい先日もアジア開発銀行が、石炭からの転換を促進する新たなプログラム(ETM、Energy Transition Mechanisms)を発表し、これには日本政府が一番に支援を発表しています。

石炭から持続可能でクリーンなエネルギーへの転換はとても重要なことであり、石炭火力発電所の早期廃止などを支援することも重要です。しかし、誰をどのように支援するのかについて、十分かつ開かれた議論が必要です。これまで不必要な石炭火力発電所を建設し続けてきた大企業やそれを支援してきた金融機関は、現地の電力公社と長期の電力購入契約を結んだり、公的資金のバックアップを受けたりすることで、さまざまなリスクを軽減しながら石炭火力発電事業への投融資を続けてきました。エネルギーを転換していく中で、途上国の市民への影響やリスクの回避が必要なことはもちろんのことですが、クリーンエネルギーへの移行を支援するためのメカニズムが、石炭火力の早期廃止に伴う座礁資産化などのリスクを本来負うべき大企業や銀行の救済になってしまわないかという懸念も考慮されるべきです。

化石燃料事業への直接的な公的支援を停止

議長国によってエネルギー・デーに指定されたこの日、石炭以外のエネルギーに関しても新たなイニシアチブが発表されました。

英国政府は、2022年末までにエネルギーセクターにおける、排出対策が講じられていない(=”unabated”、通常はCCUSが設置されていないものを意味する)全ての化石燃料事業について直接の公的支援を止めること含むイニシアチブを発表し、これには化石燃料産業への依存の大きいカナダやアメリカも賛同しました。

(賛同リストはこちら

日本は、G20の中でも最も多くの公的資金を化石燃料開発に注いでいます。先日発表されたFoEUSとオイルチェンジインターナショナルの報告によれば、2012年以降、日本の支援実績はG20中2番目に大きいことが報告されました。

COP26直前にも、日本の公的機関である国際協力銀行(JBIC)がLNGカナダターミナル事業への融資を決定しましたが、気候危機に立ち向かう世界の「脱化石燃料」の取組みを無視し続けている日本の姿勢には国内外から抗議の声が上げられています。

海外における化石燃料事業への公的支援停止は必要なステップですが、声明に賛同を表明したカナダやアメリカは国内での化石燃料開発も大規模に行われています。国内における開発についても規制を強めて行くことが必要です。また声明には例外規定も設けてあり、これらの抜け穴を閉じる必要もあります。また議長国英国の足元でも、スコットランド・カンボオイルフィールドの開発が今まさに進められようとしており、現地のNGOや活動家、市民から英国政府の欺瞞を指摘する声があがっています。

そんな中、11日にはコスタリカとデンマークによるBeyond Oil & Gas Alliance (BOGA、国内における化石燃料開発許可の停止を求めるイニシアチブ。)が正式にローンチされる予定で、会場で記者会見が行われます。

今回のCOPではさまざまな「アナウンスメント」がありました。これらは全て国連の気候変動交渉の外で行われています。前向きな政治的決意と捉えられる一方で、こういった「声明」や「アナウンスメント」がただのアナウンスメントで終わってしまわないよう、各国がしっかりと約束を果たすよう、今後も監視し、行動を求めて行く必要があります。

(深草亜悠美)

【COP26 vol.6】炭素市場にノー!- 排出増加につながりかねない「誤った」解決策

気候変動に対する取り組みが議論される中、炭素市場に反対する声が再び会場で響きました。炭素市場については、これまでも先住民族グループや気候正義グループを中心に、これまでのCOPや今回のCOP26の第一週目でも批判されてきました。

炭素市場は、植林、炭素クレジットの購入、またはまだ実証されていない炭素を空気から取り出す技術への依存を通じ、他の場所での排出量を削減することを前提に、継続的な温室効果ガスの排出を許容しています。 これらは、化石燃料の排出を削減するものではなく、グローバルサウスのコミュニティにより多くの土地取得と人権侵害を引き起こします。 さらに、現在の議論の流れでは、炭素市場協定は排出量の増加を引き起こすリスクがあります。また、炭素市場を支持するのは多くが化石燃料企業です。彼らの化石燃料事業の継続を許す上に、化石燃料に依存する国にとっても、化石燃料に依存した経済を引き伸ばすことに繋がります。このような理由から、FoE グループは、炭素市場に頼ることに反対しています。

炭素市場や、聞こえのいいネットゼロ宣言、誤った気候変動対策には今すぐ反対の意思を示す必要があります。炭素市場や「ネットゼロ」という言葉に隠された、オフセットや大規模植林などの誤った解決策は、気候変動への真の解決策を遅らせるだけで、グリーンウォッシュそのものです。気候変動による損失や被害が顕在化する現在、気候変動対策は迅速かつ確実なものであるべきであり、炭素市場への依存は取り返しのつかない事態をもたらしかねません。

私たちは利益ばかり追い求める「解決策」ではなく地球と人権を尊重した気候変動対策を求めます。そして、気候変動への歴史的責任の観点から、先進国は市場メカニズムに頼るのではなく、国内の化石燃料の使用依存から脱却すること、そして、公正な分担と行動能力に沿って、気候資金の提供することが求められています。

FoE Japanでは、2021年2月にFoE Internationalが公表した、炭素市場に関する問題点をまとめたレポート”Chasing Carbon Unicorn”を翻訳しました。

炭素市場に関する問題点についての詳細は、ぜひこちらをご覧ください。https://www.foejapan.org/climate/about/report_carbonunicorns.html

(高橋英恵)

【COP26 vol.5】COP26グラスゴー会合、2週目に突入。“外向け”の宣言と交渉の実態の差

10月31日から始まったCOP26グラスゴー会合が2週目を迎えました。第一週目はワールドリーダーズサミットをはじめ、様々な議長国主催イベントでの宣言等がメディアを賑わせましたが、途上国が重要視している気候資金、損失と被害に関する交渉などについては、ほとんど進捗が見られませんでした。

閣僚級会合で合意が待たれる気候資金

第一週の議長国によるワールドリーダーズサミットや、ファイナンスデーでは、途上国への資金支援の増額や先進国が脱炭素に向けた資金動員をアナウンスしましたが、実際の交渉では、長期資金や適応資金、損失と被害に対応するための資金に関する交渉はほとんど進んでいません。

例えば、途上国は、2025年まで提供することが合意されている年間1000億ドルの資金(長期資金)について、2025年以降の資金提供について議論を始めたいと考えていますが、先進国はその議論を拒んでおり、実際に交渉されていることと、先進国政府が交渉の外で言っていることとの間に大きな差があります。

先送りにされる損失と被害の交渉

世界的に気候変動の被害が深刻化する中、コロナウイルスのパンデミックもあり、気候変動による損失と被害に対する具体的な支援も、途上国にとって喫緊の議題です。

損失と被害に関する制度については、2013年のCOP19で設立されたワルシャワ国際メカニズムがありますが、先進国の圧力によって、極めて機能が限定されたものになっています。また、2019年に開催された前回のCOP25では、損失と被害に関するサンティアゴ・ネットワークが設立されました。途上国としては、今回のCOP26で、サンティアゴネットワークをワルシャワ国際メカニズムとどのように差別化するか、そしてこのネットワークを本格的に稼働させていくために、具体的に損失と被害を最小化したり避けるための具体的な技術支援の内容や、支援の受け方、対策のための資金提供の仕組みなどを話し合いたいと考えていますが、それに対してもアメリカが中心となって議論が前進することを阻んでいます。

先進国のニーズ優先で進んだ第一週の交渉。二週目は?

気候変動による影響を特に大きく受ける途上国グループは、気候変動への適応策に対する支援や、損失と被害に対する具体的な支援や資金に関する合意がない限り、今回のグラスゴー会議は成功したといえないと、本日開かれたストックテイク(各会議体の進捗確認をするための会合)にて発言し、同様のコメントが島嶼国グループや後発開発国グループの国からも相次ぎました。気候資金に関する交渉は閣僚級会合に引き継がれ、適応策や損失と被害に関する交渉は、一部の議題を引き続き交渉官による議論を行った後、閣僚級会合に引き継がれる予定です。

交渉と並行して行われている議長イベント

今回のグラスゴー会合では、議長国がそれぞれの日にテーマを設定しています。11月1-2日に開催されたワールドリーダーズサミットでは、120カ国以上の首相たちが参加し、NDCの引き上げなどの宣言がありました。日本は、岸田首相が600億ドルの気候資金に加え、現在足りていない分を補うため、新たに5年間で最大100億ドルを追加することを述べたほか、アジアの途上国において水素やアンモニアといったゼロエミッション火力を推進するため1億ドル規模の支援を展開することをスピーチで述べました。しかし、ゼロエミ火力は石炭火力を延命させるためのものでしかありません。

それ以外にも、ワールドリーダーズサミットでは、生態系保全のために2030年までに森林保全を推進するGlasgow’s Leaders’ Declaration on Forest and Land Useに133カ国が賛同し、9月にEUと米国が公表した二酸化炭素に次いで気候変動に影響があるメタンを2030年までに2020年比30%削減を目指すMethane emission reduction pledgeにもこのワールドリーダーズサミットで参加表明する国が相次ぐなど、様々なイニシアチブが打ち出されました。

エネルギーデー(Energy Day)として定められた11月4日には、議長国が脱石炭に向けた世界規模の公正な移行に関するイニシアチブ “GLOBAL COAL TO CLEAN POWER TRANSITION STATEMENT” や、2022年以降の化石燃料事業への公的支援を停止するイニシアチブ “STATEMENT ON INTERNATIONAL PUBLIC SUPPORT FOR THE CLEAN ENERGY TRANSITION“の発表など、脱石炭だけでなく脱化石燃料を促す動きがありました。FoE Japanも、このエネルギーデーにあわせ、日本の脱石炭を求めるアクションを他の国のNGOとともに会場付近で行いました。

上記のように多くの宣言が出された第一週ですが、いずれの宣言も公式な交渉外での宣言であり、それぞれの宣言についてどのように進捗を図るのかが不明瞭であるという問題点があります。これらが宣言だけに留まらず、気候変動対策に資する内容が伴うものとなるよう今後の働きかけが重要となってきます。

通常と異なる形で議論されるCover Decision

また、今回のグラスゴー会合では、COP(UNFCCCの締約国の会議)、CMP(京都議定書締約国の会議)、CMA(パリ協定締約国の会議)全てにかかる文書(Cover Desision)が議長国や各交渉グループによって検討されています。通常は、COP、CMP、CMAの合意内容に基づき文案が作成されますが、今回は1.5度目標の明示やNDCの継続的な引き上げ、ネットゼロに向けた取り組みの強化など、実際の議題にはない文言が、合意文書のたたき台にあがっています。一部の国は、会合の議題として取り上げられていないことが書かれていることから同文書の法的拘束力を疑問視しています。また、本日開催されたストックテイクにおいても、途上国グループや市民社会が同文書の決定プロセスが公正でないことを指摘しました。さらに、現在検討されている文案の中には、先進国のネットゼロを達成するための要素(自然に基づく解決策の活用など)など、途上国や市民社会が問題視するような内容が盛り込まれており、決して途上国の声が反映されたものであるとはいえません。このCover Decisionについても、今後どのような内容になるのか、どのような位置付けになるのかを注視していかなくてはなりません。

交渉結果に気候正義を求める市民の声を

先進国が歴史的責任に鑑み、確実な方法で自国の排出削減をし、途上国へもしっかりとした支援を行っていくことが、気候正義に基づいた1.5度目標達成への道のりです。

土曜日に行われた世界気候マーチには、10万人以上が参加しました。グラスゴー以外でも、世界各地で気候正義を求める市民の声があげられています。気候変動対策を具体的な行動にうつすのは私たち市民です。

最も被害を受けている人々が不在の中での開催であっても、気候正義の実現を求める声が交渉に反映されるよう引き続き、会場内外で市民社会の声を高めていきます。

(高橋英恵、小野寺ゆうり)

【COP26 vol.4】史上最も不公平なCOP? – 参加を阻まれる途上国の市民社会

開幕ブログでもお伝えしたように、今回のCOPはコロナ禍の影響により、途上国からの参加が非常に困難な状況となっています。開催日に近づくにつれ規制が緩和されたり、COP参加者に対する支援パッケージなどが用意されたりしましたが、ワクチン接種が進んでいない途上国のメンバーには依然高いハードルがあり、コロナ対策のための追加費用も高額になるためそれぞれの国からの入国条件には差があり、参加の機会が平等に確保されているとは全く言えない状況です。FoEグループはじめ、途上国のClimate Justiceをもとめるグループの多くのメンバーが、新型コロナウイルスの状況や資金不足等の観点から参加を見送っています。

この問題を広く訴えるため、本日会場の前と、会場の中で350.orgとFoEインターナショナルの呼びかけでアクションが行われました。

アクションでは、今回COPにこれなかった人々の声をあつめた録音を流し、「Nothing about us without us(私たち抜きに、私たちのことは語れない)」と書かれたバナーを持って「気候変動交渉は気候変動の影響をうける私たち「人々」の交渉であるべきだ」とアピールしました。

録音メッセージを寄せたFoEインターナショナルの議長でFoEスリランカのヘマンサ・ウィサネージは「毎年COPに参加し、COPの場にグローバルサウスの声を届けてきました。英国政府はCOP参加者に対し、ワクチンの供給を約束したがはたされませんでした。スリランカではまだワクチンの接種も進んでおらず、コロナの追加対策にもお金がかかり、また高騰するホテルの価格は途上国の人々が払えるものではありません」とコメントしました。

COP開幕直前にも、英・ガーディアン紙が、島嶼国の政府がCOPの参加が困難で、海外に駐在する政府関係者をCOPに送り出すしかないといった状況も報道しています。

FoEインターナショナルの気候正義・エネルギープログラムコーディネーターでモザンビークに住むディプティ・バタナーガーも、今回のCOPには参加できなかったメンバーの一人です。「英国政府はコロナが今でも猛威をふるう中、最も排他的なCOPを強行してしまっています。グローバル・サウスの多くのメンバーがワクチンやビザをえることができず、頻繁に変更される隔離ルールに翻弄されています。COP26に正当性を見出すのは困難な状況です。豊かな国や、汚染企業が市場メカニズムなどの危険なアイディアを交渉で推進していくことが非常に懸念されます。」とメッセージを寄せました。

現在COP会場では、パリ協定6条の交渉などが日夜行われていますが、FoEグループが反対する市場メカニズムの議論では、更なる排出を許すようなルール作りが議論されています。

また大規模植林やCCS、原発など間違った方法に頼った「ネットゼロ」が強行に推進されています。

私たちに必要なのは、気候危機の影響を受ける人々の人権や命が守られること、化石燃料の採掘をやめ、化石燃料依存の社会から持続可能な社会へと移行していくこと、そして気候危機の影響をもっともうける途上国に対し資金支援や技術支援を行うこと、そしてその移行を支援していくことです。

今日ここにいない人々こそ、気候変動の影響を最も受け、気候変動に立ち向かい、気候変動の解決策を持つ人々であることを忘れてはならないと思います。

(深草亜悠美・高橋英恵)

【COP26 vol.3】化石燃料は地中に!世界は脱化石燃料に向かって動き出している

現在、イギリス・グラスゴーでCOP26が開催中です。気候変動対策で最も重要なものの一つは、化石燃料への依存から脱却することです。世界の温室効果ガスの排出の7割は化石燃料由来で、化石燃料からいかに早く脱却するかが気候危機を止める鍵になります。化石燃料の使用については、COPの議題ではありませんが、脱化石燃料に向けて各国がどのような対策や宣言を行うのかが注目されます。

これまで、エネルギー分野の中でも電力セクターの脱炭素化が急がれており、さらにその中でも最も温室効果ガスを排出する石炭火力からの脱却が急がれていました。

議長国であるイギリスは脱石炭火力を進め(10月31日現在、英国の電力に占める石炭の割合は0パーセント)、今回のCOPでも各国に脱石炭を加速させるよう求めています。COP期間中の11月4日をエネルギー・デーと定め議長国プログラムや英国のパビリオンにおいて、化石燃料関連のさまざまなイベントが予定されています。また、11月4日には各国に脱石炭を求める声明を発表予定で、声明への賛同を募っています。

日本政府の石炭火力政策は国内外で批判の的になっていました。G7諸国の中で唯一国内外で石炭火力発電を推進し続けているからです。

つい先日のワールド・リーダーズ・サミットの岸田首相の声明も、実質的に火力発電を推進する内容でした。スピーチで岸田首相は、水素・アンモニアを解決策の一つとして掲げましたが、これらは気候変動の解決策にはなりません。日本政府は現在、火力発電に水素やアンモニアを混焼して、温室効果ガスの排出量を減らす計画を立てていますが、現在流通している水素・アンモニアはほとんど化石燃料から作られており、かつ輸入に頼らざるをえません。全く解決策にはなっていません。

岸田首相はまた、アジアの「不安定な太陽光発電」を支えるために「火力発電の脱炭素」が必要であると述べ、「Asia Energy Transition Initiativeを通じ、化石火力をアンモニア・水素などのゼロエミッション火力に転換するため1億ドル規模の先導的な事業を展開する」と述べました。しかし、アジアの国々においても、必要なのは既存の火力発電の低炭素化ではなく、人権や地元のコミュニティに配慮した持続可能な再生可能エネルギー中心の社会への移行のための支援です。(詳しくは→https://www.foejapan.org/climate/policy/211102.html

昨年、日本政府は海外への石炭火力発電事業の輸出に原則として公的支援を行わないと発表しました。また今年のG7サミットで、G7各国は海外の石炭火力事業への公的融資を今年末までに停止することを約束しました。それにもかかわらず、日本は今もバングラデシュのマタバリ2石炭火力発電事業とインドネシアのインドラマユ石炭火力発電事業への融資を計画しています。これは、G7コミュニケで交わされた約束に反するものです。

1200メガワット(MW)のマタバリ2石炭火力発電事業は、有毒な汚染物質の排出が予測されたり、地元の農民や漁師の生活を脅かすことなどから、バングラデシュ国内だけでなく世界中で大きな反対運動が起きています。日本政府は、インドネシアのインドラマユ石炭火力発電所の1000MWの拡張工事への融資も検討する予定ですが、インドネシア政府が電力供給事業計画(2021〜2030)で認めたとおり、建設地があるジャワ島・バリ島の電力網では電力供給が過剰になっており同事業は不要です。また、事業反対の声をあげる地域住民に対する深刻な人権侵害も起きています。

日本は2050年までにネットゼロ(排出実質ゼロ)を達成する誓約を掲げていますが、国内で石炭火力発電所を段階的に廃止する計画はありません。それどころか日本政府は水素とアンモニアの混焼を使って既存の石炭火力発電所の寿命を延ばす技術を支援しています。日本政府は、褐炭水素やアンモニアをカーボンフリーにするCCS/CCUS技術の商用化を目指していますが、これは火力発電の寿命を延ばすだけです。

英国政府は石炭火力を廃止するだけでなく、石油・ガスに関してもCOP期間中にイニシアチブを発表予定です。英国と欧州投資銀行(EIB)は、すべての化石燃料プロジェクトへの国際的な融資を終わらせることを国や関連機関に呼びかけており、各国政府にもこうした動きへの参加を呼びかけています。またデンマークとコスタリカもBOGA(Beyond Oil and Gas Alliance)を呼びかけ、COPの2週目に正式な立ち上げを予定しています。

先日発表された国際エネルギー機関(IEA)の「世界エネルギー見通し(WEO)」では、今年から石炭火力発電所の新規建設を中止すること、新規油田・ガス田・炭鉱や炭鉱拡張、新規LNG(液化天然ガス)輸出事業の承認を停止すること、先進国では2035年までに、すべての国では2040年までに電力部門を完全に脱炭素化することなど、化石燃料の段階的な廃止に向けた重要な方向性が示されました。

一方、日本は、すべての化石燃料事業に対して世界第2位の公的資金を提供しており、2018年から2020年までの平均で毎年109億ドルを提供しています。

COP26開催直前の10月29日にも国際協力銀行(JBIC)は、カナダのLNG輸出ターミナルへの融資を決定しました。先住民族ウェットスウェテンは、自分たちの土地・文化・生活を守ろうと事業の中止を求めてきました。しかし、事業者は先住民族ウェットスウェテンの「自由意思による、事前の、十分な情報に基づいた同意(FPIC)」を得ないまま、この事業および関連したパイプライン事業を進めており、JBICの環境ガイドラインにも明確に反しています。COP直前のJBICによる融資決定は、全くもって世界の脱化石燃料への流れを無視し、現地の人権をも無視しています。

世界の取り組みが、すでに石炭だけでなく石油・ガス廃止の議論に移っているなか、いまだに国内外の石炭すら完全な停止の道筋を立てられていない日本は、益々世界の脱炭素の流れから取り残されようとしています。日本政府は、現地でも不要とされているインドネシア・インドラマユ石炭火力とバングラデシュ・マタバリ2石炭火力の支援中止を決断するとともに、石油・ガスへの公的支援停止の議論もすぐに始めるべきです。

(深草亜悠美)

【COP26 vol.2】「ネットゼロ目標ではなく具体的な行動を」開幕にあたってのFoE International記者会見

2週間にわたるCOPの開幕にあたり、FoE InternationalはCOP会場内で記者会見を行い、気候正義の観点から今回のCOPに期待することを語りました。

気候変動交渉を長年追ってきたFoE マレーシアのMeena Ramanは、

「私たちにとっての主要論点は2050年に向けたネットゼロ目標ではありません。特に先進国のネットゼロ宣言は論点ではありません。目標を掲げるには(2050年は)遅すぎで、小さすぎます。先進国が掲げるべき目標は、「真のゼロ」であるべきで、この目標を掲げるとしても、すでに遅すぎるくらいです」

と、先進国に向けたメッセージを発しました。

今回コロナによる入国制限等の関係で現地での参加が叶わなかったメンバーもいます。そのメンバーの1人であり、モザンビーク在住のFoE International気候正義プログラムのコーディネーターの1人であるDipti Bhatnagar は、この記者会見に向け事前にビデオレターを送り、その中で、新たな気候変動対策が先進国が途上国の土地や資源を搾取する構造を残していることを指摘しました。

「権力のある国々は、歴史的責任や気候負債のことを考えらたがらず、その代わりに炭素市場の話ばかりしています。彼らは「我々はどこにでも炭素を貯留できる」と言っていますが、でも実際具体的にはどこなのでしょうか?それは私の住む国のような途上国に埋めることを想定しているのです」

また、FoE EWNI(イングランド・ウェールズ・北アイルランド)のRachel Kennerleyは、

「英国は、自分が他の国に求めていることを自分の国で実行していません。国やコミュニティを越えて、人々は多くの化石燃料事業に反対しています。政府はいまだに何十億ドルもの資金をモザンビークでの天然ガス開発に費やし、気候危機や人権侵害を加速させています」

と、議長国の矛盾を指摘しました。

最後に、FoE ScotlandのMary Churchは、

「たとえ政治家が行動していなくても、過去にないほど多様で多くの市民が気候危機を防ぐために行動を起こしています。気候変動を止めるために活動する市民たちによって、利益ではなく人々の命が優先される向けたシステムチェンジは可能だと信じています」

と、今回のCOPへの期待を述べました。

「ネットゼロ目標ではなく具体的な行動を」

「ネットゼロ」や「カーボンニュートラル」という新しい言葉が使われ始めても、化石燃料を使用し続け、先進国が途上国の資源を自らの利益のために搾取する構造は変わなければ、気候危機は解決できません。

見栄えの良い「ネットゼロ」宣言や野心の引き上げといった口約束ではなく、化石燃料の使用をやめること、利益よりも人々の命を優先する紗j界に向けた具体的な行動が、今求められています。

(高橋英恵、深草亜悠美)

▼FoE Internationalの開会記者会見は、こちらからご覧いただけます。

https://unfccc-cop26.streamworld.de/webcast/friends-of-the-earth-international

▼COP26に関するブログはこちら

2021年10月31日「COP26開幕。2年ぶりに開催される国連気候変動会議の行方と、市民の声

【COP26 vol.1】COP26開幕。2年ぶりに開催される国連気候変動会議の行方と、市民の声

10月31日から11月12日にかけ、英国グラスゴーで第26回国連気候変動枠組条約締結国会議(COP26)が開催されます。コロナ禍により一年延期されたCOP26ですが、対面での開催となります。

 新型コロナウイルスの流行により私たちの生活は一変した一方、私たちは深刻な気候危機にも直面しています。2021年、熱波は北米に深刻な被害をもたらしました。カナダでは49.6度を記録し、これまでの最高記録を5度も上回るものでした。世界各地で深刻な山火事被害が発生しています。ドイツの洪水被害も記憶に新しいでしょう。インドや東南アジアの国々でも大規模災害が多発しています。日本も毎年のように豪雨災害に見舞われています。

 世界の平均気温はすでに1℃以上上昇しています。今年発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書の第一作業部会のレポートは、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断言しています。気温の上昇を1.5℃以下に抑えるためには、世界全体の人為的なCO2の排出量を2030年までに約45%削減、2050年頃までにはゼロにする必要がありますが、現在、各国が表明している削減目標をすべて達成したとしても、このままでは21世紀末までに約3℃気温が上昇してしまいます。

私たちはCOP26に何を期待できるのか、何が論点になっているのか、整理したいと思います。

開催国の意気込みと実態の乖離ー過去のCOPの中で最も不公平な条件での開催ー

COP26議長国の英国は、各国に気候変動対策目標の引き上げを求めてきました。また、自国としても気候変動対策への資金を拠出し、今回のCOP26においても、1・2日目は各国首相に参加を呼びかけるWorld Leader’s Summitが予定され各国の貢献を期待している様子が伺えます。また各日にテーマを設定し、それぞれのテーマへの議論や取り組みを強めようとしています。

一方で、コロナ禍の影響により、途上国からの参加が非常に困難な状況となっています。開催日に近づくにつれ規制緩和が行われたり、COP参加者に対する支援パッケージなども用意されましたが、ワクチン接種が進んでいない途上国のメンバーには依然高いハードルがあり、コロナ対策のための追加費用も高額になるためそれぞれの国からの入国条件には差があり、参加の機会が平等に確保されているとは全く言えない状況です。FoEグループはじめ、途上国のClimate Justiceをもとめるグループの多くのメンバーが、新型コロナウイルスの状況や資金不足等の観点から参加を見送っています。

そのような問題もあるなかで開催される今回のグラスゴー会合ですが、注目される論点は、主に下記の3点です。2、3点めについては、次回以降のブログで扱います。

  1. 野心の強化
    1. 各国の2030年目標(NDC)の引き上げ
    2. 長期目標の強化
  2. パリ協定ルールブック交渉で未解決の議題の合意
    1. NDCの共通時間枠(第4条)
    2. 協力的アプローチ(第6条)
    3. 透明性(第13条)
  3. 途上国への気候資金など、損失と被害への支援強化

気候変動目標の強化を

 パリ協定に基づき、各国はNDCを国連に提出することになっており、NDCには温室効果ガスの削減目標や、適応などについて書かれています。

 COP開幕に先立つ10月25日、これまで提出されているNDCの統合報告書の最新版が発表されました。192カ国のうち、143カ国は削減目標などが更新されたものを国連に提出していますが、それでもこのままの計画でいけば、2030年には2010年比で16%排出が増加することになってしまい、今世紀後半までに2.7℃の気温上昇が予測されます。

出典:https://unfccc.int/news/updated-ndc-synthesis-report-worrying-trends-confirmed

 つまり、各国が一刻も早く削減目標を強化すること、特に歴史的に排出量の多い先進国が削減目標を大幅に強化し、今すぐそれを実行していく必要があるのです。

 また気候変動対策のための資金が少ない途上国は、資金支援を前提としたNDCを提出している国も多く、途上国のNDC達成のためには、先進国による支援の重要性も強調されました。COPにおいても気候資金は重要なアジェンダです。気候資金の議論も注目されます。

排出削減=化石燃料は地中に!

 削減強化に何よりも重要なのは化石燃料をこれ以上燃やないことです。ほとんどの温室効果ガスはエネルギー由来であり、エネルギーの中でも電力部門については、電力源の中でもっとも温室効果ガスを排出する石炭火力発電を廃止していこうという動きがここ数年活発です。

 議長国英国は2016年にPowerrng Past Coal Allianceをカナダと立ち上げ、脱石炭政策を推進してきました。2024年までに石炭火力発電を廃止する方針を掲げており、禁煙発電に占める石炭火力の割合は近年2%ほどにまで減少しています(10/31現在は0%)。

 今回のCOPでも英国による脱石炭への強いメッセージがすでに発信されています。こういった個別のエネルギー等についてはCOPの議題ではありませんが、11月4日は議長によってEnergy Day (エネルギーの日)に設定されており、どのような動きがあるのか注目されます。

  また、石炭火力だけではなく、石油・ガスについても新たな動きが見られます。コスタリカとデンマークは、石油・ガスの生産を廃止していくBeyond Oil and Gas Allianceを立ち上げ、COPで正式に発足を予定しています(2週目)。また議長国英国とEIBも石油・ガスへの公的支援を停止するイニチアチブを発表予定です(1週目)。

 一方、日本は今も石炭火力発電所を国内外で建設し続けています。国外については原則輸出事業に公的な支援を行わないとしていますが、例外を認め続けています。国内については廃止の計画すらなく、今も10基が計画・建設段階です。日本はようやく、NDCを更新し26%から46%削減(2030年、2013年比)と目標を引き上げましたが、まだまだ不十分です。

FoEグループのメッセージシステムチェンジ、ジャスト・トランジション、真の解決策

 気候危機を超えて、私たちの地球はさまざまな危機に直面しています。社会的、政治的、経済的な危機の中心には持続可能ではない成長と利益を追い求める経済システムが存在します。

 私たちの社会、エネルギーのあり方、経済のあり方、食料システムのあり方、そういったものを抜本的に変えていくことでしか、今の危機を乗り越えることはできません。

 この数年、若者による運動、世界各地の草の根の運動を通じ、多くの人々が各国政府に対し気候危機対策、そしてそれに関連するさまざまな危機への対策を求めてきました。

 これ以上森林や生態系を破壊せずに守っていくこと、石炭や原発は即時、そしてその他の化石燃料についても段階的に廃止していく計画を策定していくこと、それらが重要な解決策となります。そして、世界規模でこのような脱化石燃料を促進していくために、気候変動への大きな責任を持つ先進国は、途上国への資金提供や技術支援を行なっていかなくてはなりません。

 FoEグループは今回のCOPでも気候正義を求めて、さまざまなアクションや提言を行っていく予定です。

▼COP26に関するHPはこちら

https://unfccc.int/conference/glasgow-climate-change-conference-october-november-2021

(深草亜悠美、高橋英恵)