【第1回スクール・ オブ・サステナビリティ2報告】1番被害を受けている人々の声が、1番耳を傾けてもらえない

こんにちは!FoE インターンの佐藤悠香です!

今日は、今月から始まったスクール・オブ・サステイナビリティ2の第1回の報告ブログとなります!

第1回では、大阪大学大学院の川尻京子さんとClimate Frontlines CollectiveのStella Miria-Robinsonさんをゲストにお迎えして、川尻さんには海面上昇に直面する国の一つ「ツバル」について、Stellaさんには気候変動に大きく左右されている「パプアニューギニア」についてお話しいただきました。

気候変や地球温暖化と聞くと、海面上昇をイメージする方は多いかと思いますが、現地の方の声を直接聞いたことがない人がほとんどではないでしょうか。わたしもFridays For Futureのオーガナイザーとして活動していながら、実際に南太平洋諸島出身の方から直接話を聞いたことはなかったので今回のウェビナーを大変楽しみにしていました。

気候変動の被害はもう後戻りできないところまで拡大

最初に川尻さんからは、海抜2メートルの国「ツバル」が直面する気候変動の影響を多くの写真と動画と共にお伝えいただきました。ツバルは世界で3番目に人口が少なく、世界で4番目に面積が小さい国です。そんなツバルは、もともと月の満ち欠けによる潮位の変化を受けやすく、満潮時には晴れの日でも家のブロック(壁)に海水とゴミが押し寄せることがあるそうですが、これに加えて気候変動の悪化によりその被害は拡大しています。

個人的に川尻さんのお話のなかで特に印象に残ったのは、今はもう気候変動の緩和策(温室効果ガスの排出量を削減する対策)ではなく、適応策(気候変動に”適応”していくための対策)にも目を向け動き出さなければいけない段階にあるということです。もう戻れないところまで被害が拡大してしまった太平洋諸島は、これからますます増えていく損失と被害に対して「気候変動を受け入れ、どう適応していくか」を考えていかなければいけません。

日本で暮らしていると、気候変動の影響がより強く実感するようになるのは5年後、10年後だという印象がありますが、実際に今現在、拡大する被害を目の当たりにしながら生活のあり方を変えることを強要されている人がいるのです。特に、サイクロンと潮位が上昇するシーズンが重なるときの被害はより一層悲惨で、多くの家屋が流され、国民の約半分が被災することもありました。

また、他に印象的だったのは、ツバルの人々は人間が居住していない無人島も島民に所有権があると考えるため、サイクロンによって無人島を失うことは自分たちの財産を失うことを意味しているということです。

単に誰も住んでいない島が消えたという問題ではなく、彼らが祖先の代から大切に守り所有してきた彼らの持ち物が永久に消滅してしまったのです。この感覚は、日本で生まれ育った私には完全に理解することはできませんが、彼らの喪失感が計り知れないものだということは想像がつきます。

最近発表された第6次IPCC報告書では、「人間活動の温暖化への影響は疑う余地がない」ことが断言されました。私たちは南太平洋の方々が受ける被害を最小限に留めるため、温室効果ガスの排出量を大幅に削減しパリ協定で定められた1.5度目標を達成する必要があります。

彼らのような気候変動の影響を肌で感じていない、先進国「日本」で暮らす一人の人間として私たちには一体何ができるのでしょうか。気候変動悪化の原因の一部になっているからこそ、私たちの立場や特権を利用して自分たちの声を聞いてもらえない彼らに代わってできることを早急に行動へ移していく必要性を強く感じました。

結局自分も先進国目線が抜けていない…

続いてStellaさんからは、太平洋諸国の人々にとって祖国を離れ移民になることが何を意味するのかについて語っていただきました。

私たちが、適応策について語るとき議題に多く上がるのは「彼らをより安全な場所へ移動させること」です。しかし、「たとえ気候変動がより悪化したとしても住む場所さえ変えれば問題ない」という先進国にとって都合のいい考えを押し付けているだけかもしれません。故郷を捨てて移民になるということは、その場所で暮らした生活自体を、そして長い年月をかけて作り上げてきたコミュニティ全体を失うということです。さらに、これまで過ごしてきた土地で生まれた文化・言語・知恵は、そこに住む人々のアイデンティティの一部です。母国を失うということは、自分自身の一部を失うことと同じではないでしょうか。

Stellaさんの話しを聞いてより一層実感したのは、「一番被害を受けている彼らの声が、一番耳を傾けてもらえない」ということです。自然から乖離した生活を送る西欧諸国の人々は、彼らを助けたいと言いながら結局は経済成長を前提とした解決策を提示します。弱い立場にいるマイノリティの彼らの声はいつだって聞いてもらえないし、反映もされません。

この話を聞き私はハッとしました。太平洋諸国の海面上昇やゴミ問題、気候難民とも呼ばれる移民が増えている問題については知っていたし、こういった不正義に違和感を感じて活動もしてきたけれど、結局自分も先進国目線が抜けていないのではないか、と感じたのです。彼らの意志にそぐわない解決策の提示に対して何ら疑問を持っていなかったかもしれません。

全く違う環境で生まれ育ち、生活をする私たちには彼らの本当の心情も葛藤も理解できないでしょう。だからこそ、映像や文章や彼らが発する言葉を通じて、ローカルの人々がどんな想いを抱えているのかを随時学び、感じることが重要ではないでしょうか。自分のものさしで判断せずに、現場の人の声を絶えず聞き現状についての知識をアップデートしていくことで、自分のエゴを知らぬ間に押し付けないように気をつけていきたいと思います。

気候変動によって自分の住む地域がボロボロになり、移民にならざるをえないという現在の被害状況は、単に環境という観点からのみではなく、人権の視点から考えても決して見て見ぬふりできるような問題ではありません。今回のウェビナーでは、こういった気候変動と人権の関係性に気が付いた参加者が多かったような気がします。

お2人の話を受けての参加者の声

ゲストのお話を受けてのディスカッションでは、以下のような意見を聞くことができました。

・海水面の上昇により移住するということは、一見解決策のように見えるが、当事者たちにとっては文化・アイデンティティなどが失われることを意味することに気づかなかった。

・地球環境のことは考えてきたけれど、被害を受けている方々の文化的な側面について考えたことがなかったことに気づかされて、活動は最も被害を受けている人、環境のことを一番に考えなくてはいけないと思った。

・土地を失う、移動させられるということは、目に見えないもの(季節、土着の文化・精神、コミュニティなど)も消失してしまうことでもあるというお話をきき、遠い国で起きている事でも全く他人事ではない、と感じました。その被害も目に見えるものだけでなく、精神的ダメージも大きいと思いました。

河尻さん、Stellaさんのお話で共通しているのは、「土地が沈むならじゃあ別の場所に移ればいいよね」という問題ではないということです。その土地はただの島ではなく、彼らの遠い祖先が必死に守り抜き、育て作り上げてきた歴史の積み重ねです。そして、そこで暮らしてきた人々のアイデンティティそのものです。

自分が一生離れなけらばいけないことを想像したとき、自分自身を形成してきた土地や慣習や、何よりも大切な人との繋がりを失ってしまうのだと考えると、その後には自分に何が残るのか想像したとき、非常に恐ろしさを感じました。しかも、この物理的・精神的喪失の原因が自分たちではない外部に由来するならどれほどの憤りを感じることでしょう。

気候正義の重要性を再認識

今回のウェビナーを聞いて気候正義(次回のウェビナーでも解説します!)という概念の重要性を再認識しました。特にマーシャル諸島の人は世界の温室効果ガス排出の0.0001%しか占めていないにもかかわらず、気候変動の影響を最も受ける国の一つです。先進国に住む自分が気候変動の悪化に加担することによって、彼らの居場所を奪う原因の一部になっていること、この事実にこれからも向き合いながら、彼らのストーリーをより多くの人と共有することで、彼らの声に耳を傾ける人を増やしていかなければいけません。そして、それだけではなくアドボカシー活動を通じて声を上げることで、より具体的で気候正義にそくした政策の立案を求めていく必要があります。

私も記事や動画などを通じて、現地の人の声を積極的に聞き、学び、あくまでも彼らの意思を尊重しながら自分がするべきアクションを探り一つずつ実行していきたいと思います。

(インターン 佐藤悠香)

▼スクール・オブ・サステナビリティ2についてはこちら

https://www.foejapan.org/climate/event/school2021.html

▼当日のゲストスピーカーのお話はこちら

▼第1回のプログラム
・海面上昇に直面するツバルの状況(川尻京子さん)
・気候変動に左右されるパプアニューギニアの文化(Climate Frontlines Collective, Stella Miria-Robinsonさん)
※ゲストスピーカーの講演のみ公開しています。