【COP26 vol.1】COP26開幕。2年ぶりに開催される国連気候変動会議の行方と、市民の声

10月31日から11月12日にかけ、英国グラスゴーで第26回国連気候変動枠組条約締結国会議(COP26)が開催されます。コロナ禍により一年延期されたCOP26ですが、対面での開催となります。

 新型コロナウイルスの流行により私たちの生活は一変した一方、私たちは深刻な気候危機にも直面しています。2021年、熱波は北米に深刻な被害をもたらしました。カナダでは49.6度を記録し、これまでの最高記録を5度も上回るものでした。世界各地で深刻な山火事被害が発生しています。ドイツの洪水被害も記憶に新しいでしょう。インドや東南アジアの国々でも大規模災害が多発しています。日本も毎年のように豪雨災害に見舞われています。

 世界の平均気温はすでに1℃以上上昇しています。今年発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書の第一作業部会のレポートは、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断言しています。気温の上昇を1.5℃以下に抑えるためには、世界全体の人為的なCO2の排出量を2030年までに約45%削減、2050年頃までにはゼロにする必要がありますが、現在、各国が表明している削減目標をすべて達成したとしても、このままでは21世紀末までに約3℃気温が上昇してしまいます。

私たちはCOP26に何を期待できるのか、何が論点になっているのか、整理したいと思います。

開催国の意気込みと実態の乖離ー過去のCOPの中で最も不公平な条件での開催ー

COP26議長国の英国は、各国に気候変動対策目標の引き上げを求めてきました。また、自国としても気候変動対策への資金を拠出し、今回のCOP26においても、1・2日目は各国首相に参加を呼びかけるWorld Leader’s Summitが予定され各国の貢献を期待している様子が伺えます。また各日にテーマを設定し、それぞれのテーマへの議論や取り組みを強めようとしています。

一方で、コロナ禍の影響により、途上国からの参加が非常に困難な状況となっています。開催日に近づくにつれ規制緩和が行われたり、COP参加者に対する支援パッケージなども用意されましたが、ワクチン接種が進んでいない途上国のメンバーには依然高いハードルがあり、コロナ対策のための追加費用も高額になるためそれぞれの国からの入国条件には差があり、参加の機会が平等に確保されているとは全く言えない状況です。FoEグループはじめ、途上国のClimate Justiceをもとめるグループの多くのメンバーが、新型コロナウイルスの状況や資金不足等の観点から参加を見送っています。

そのような問題もあるなかで開催される今回のグラスゴー会合ですが、注目される論点は、主に下記の3点です。2、3点めについては、次回以降のブログで扱います。

  1. 野心の強化
    1. 各国の2030年目標(NDC)の引き上げ
    2. 長期目標の強化
  2. パリ協定ルールブック交渉で未解決の議題の合意
    1. NDCの共通時間枠(第4条)
    2. 協力的アプローチ(第6条)
    3. 透明性(第13条)
  3. 途上国への気候資金など、損失と被害への支援強化

気候変動目標の強化を

 パリ協定に基づき、各国はNDCを国連に提出することになっており、NDCには温室効果ガスの削減目標や、適応などについて書かれています。

 COP開幕に先立つ10月25日、これまで提出されているNDCの統合報告書の最新版が発表されました。192カ国のうち、143カ国は削減目標などが更新されたものを国連に提出していますが、それでもこのままの計画でいけば、2030年には2010年比で16%排出が増加することになってしまい、今世紀後半までに2.7℃の気温上昇が予測されます。

出典:https://unfccc.int/news/updated-ndc-synthesis-report-worrying-trends-confirmed

 つまり、各国が一刻も早く削減目標を強化すること、特に歴史的に排出量の多い先進国が削減目標を大幅に強化し、今すぐそれを実行していく必要があるのです。

 また気候変動対策のための資金が少ない途上国は、資金支援を前提としたNDCを提出している国も多く、途上国のNDC達成のためには、先進国による支援の重要性も強調されました。COPにおいても気候資金は重要なアジェンダです。気候資金の議論も注目されます。

排出削減=化石燃料は地中に!

 削減強化に何よりも重要なのは化石燃料をこれ以上燃やないことです。ほとんどの温室効果ガスはエネルギー由来であり、エネルギーの中でも電力部門については、電力源の中でもっとも温室効果ガスを排出する石炭火力発電を廃止していこうという動きがここ数年活発です。

 議長国英国は2016年にPowerrng Past Coal Allianceをカナダと立ち上げ、脱石炭政策を推進してきました。2024年までに石炭火力発電を廃止する方針を掲げており、禁煙発電に占める石炭火力の割合は近年2%ほどにまで減少しています(10/31現在は0%)。

 今回のCOPでも英国による脱石炭への強いメッセージがすでに発信されています。こういった個別のエネルギー等についてはCOPの議題ではありませんが、11月4日は議長によってEnergy Day (エネルギーの日)に設定されており、どのような動きがあるのか注目されます。

  また、石炭火力だけではなく、石油・ガスについても新たな動きが見られます。コスタリカとデンマークは、石油・ガスの生産を廃止していくBeyond Oil and Gas Allianceを立ち上げ、COPで正式に発足を予定しています(2週目)。また議長国英国とEIBも石油・ガスへの公的支援を停止するイニチアチブを発表予定です(1週目)。

 一方、日本は今も石炭火力発電所を国内外で建設し続けています。国外については原則輸出事業に公的な支援を行わないとしていますが、例外を認め続けています。国内については廃止の計画すらなく、今も10基が計画・建設段階です。日本はようやく、NDCを更新し26%から46%削減(2030年、2013年比)と目標を引き上げましたが、まだまだ不十分です。

FoEグループのメッセージシステムチェンジ、ジャスト・トランジション、真の解決策

 気候危機を超えて、私たちの地球はさまざまな危機に直面しています。社会的、政治的、経済的な危機の中心には持続可能ではない成長と利益を追い求める経済システムが存在します。

 私たちの社会、エネルギーのあり方、経済のあり方、食料システムのあり方、そういったものを抜本的に変えていくことでしか、今の危機を乗り越えることはできません。

 この数年、若者による運動、世界各地の草の根の運動を通じ、多くの人々が各国政府に対し気候危機対策、そしてそれに関連するさまざまな危機への対策を求めてきました。

 これ以上森林や生態系を破壊せずに守っていくこと、石炭や原発は即時、そしてその他の化石燃料についても段階的に廃止していく計画を策定していくこと、それらが重要な解決策となります。そして、世界規模でこのような脱化石燃料を促進していくために、気候変動への大きな責任を持つ先進国は、途上国への資金提供や技術支援を行なっていかなくてはなりません。

 FoEグループは今回のCOPでも気候正義を求めて、さまざまなアクションや提言を行っていく予定です。

▼COP26に関するHPはこちら

https://unfccc.int/conference/glasgow-climate-change-conference-october-november-2021

(深草亜悠美、高橋英恵)

今さら石炭火力の延命計画!?「GENESIS松島計画」の環境アセス配慮書に意見を提出しました

こんにちは。FoE Japanの高橋です。

9月28日、電源開発株式会社(以下、J-POWER)が、長崎県西海市の松島石炭火力発電所の一部の設備を、石炭ガス化複合発電の設備を備え付けるという計画について、計画段階環境配慮書への意見募集を開始しました。

この計画は、1981年から稼働してきた旧式(超臨界圧)石炭火力2機のうち第2号機に、石炭をガス化する設備をつけ、今後も使い続けるというものです。

この事業者であるJ-POWERは、昨年10月の菅前首相によるカーボンニュートラル宣言以降、加速化するカーボンニュートラルの流れを受け、2021年2月に「J-POWER “BLUE MISSION 2050”」を発表しました。そして、立て続けに、2021年4月には、J-POWERの中期計画において、既存設備にガス化設備を付加することにより、水素を利用した高効率な発電システムへの「アップサイクル」を進めるという「J-POWER GENESIS Vision」を発表しました。今回の松島火力発電所での計画は、その「アップサイクル」の第一号の計画です。

気候危機が加速する中、これ以上の気候変動による深刻な被害を防ぐためには、迅速かつ確実に温室効果ガスの削減につながる対策が求められています。今年の8月には、IPCCの第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)が公表され、それを受け、国連事務総長アントニオ・グテーレス氏は、

「2021年以降、石炭火力発電所は新設されるべきではないこと」

「経済協力開発機構(OECD)加盟国は2030年までに、他のすべての国々も2040年までに、既存の石炭火力発電所を段階的に廃止しなければならないこと」

「各国は化石燃料の新たな探査と生産をすべて中止し、化石燃料への補助金を再生可能エネルギーに振り替えるべきであること」

を訴えています。

また、いよいよ来週からのCOP26の議長国英国のジョンソン首相も、10月13日の電話会議にて、岸田首相に対し国内の石炭火力をやめるよう要求しています。

このような背景も踏まえ、FoE Japanもこの「GENESIS松島計画」に対し、下記の通り意見を提出しました。

PDFはこちらです。

1. 石炭火力事業はそもそもおこなうべきではない。パリ協定1.5℃目標の達成を遠ざける。

気候変動による深刻な被害が広がりつつある現在、気候変動によるこれ以上の損害を防ぎ、パリ協定の1.5˚C目標達成のためには、迅速かつ確実に温室効果ガスの削減につながる対策が求められている。今年6月に開催されたG7では、G7各国の首相は石炭火力を最大の温室効果ガス排出源として認め、国内電力システムの大幅な脱炭素化や、石炭火力輸出に対する公的支援の停止にコミットしたさらに、2021年8月に公表されたIPCCの第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)を受け、国連事務総長アントニオ・グテーレス氏は下記のことを訴えている

  • 2021年以降、石炭火力発電所は新設されるべきではないこと。
  • 経済協力開発機構(OECD)加盟国は2030年までに、他のすべての国々も2040年までに、既存の石炭火力発電所を段階的に廃止しなければならないこと
  • 各国は化石燃料の新たな探査と生産をすべて中止し、化石燃料への補助金を再生可能エネルギーに振り替えるべきであること。

石炭火力発電所からの脱却は、世界の要請である。石炭ガス化複合発電という形であっても、石炭を使用し続けることにはかわりなく、気候危機をさらに加速させるものであると言わざるをえない。

2. 同事業はJ-POWERのカーボンニュートラル方針と矛盾する。

2050年カーボンニュートラルを約束した「J-POWER “BLUE MISSION 2050”」の名の下、新たな化石燃料の探査と生産を伴う同事業は、「ゼロエミッションウォッシュ」そのものである。真にカーボンニュートラルを目指すのであれば、石炭の使用を前提とした石炭ガス化複合発電や、石炭由来の「CO2フリー水素」の製造、新たな化石燃料の探査と生産を伴うアンモニアに依存したゼロエミッション火力ではなく、再生可能エネルギーによって2050年にCO2ゼロエミッションを目指すべきである。

3. 設備の「アップサイクル」による温室効果ガス排出削減量の定量的データが示されていない.

本事業は、カーボンニュートラルに向けた流れの加速化に伴い、発電方法を改善するものとして計画されているが、どれほど温室効果ガス排出量が削減されるのかの具体的数値が示されていない。現状の温室効果ガス排出量のほか、設備の「アップサイクル」による温室効果ガス排出削減量の定量的データを記載するべきである。

4. 温室効果ガスの排出量が、配慮事項として考慮されていない。

配慮書では、「アップサイクルにより効率の向上を図り、発電量あたりの二酸化炭素排出量を低減することから、配慮事項として選定しない」との理由から、計画段階配慮事項から温室効果ガス等の項目を削除している。気候変動が加速する中、どのような事業であれ、温室効果ガスの測定が求められているため、温室効果ガスの排出量も、計画段階配慮事項に選定すべきである。

5. 複数案の検討結果が明記されていない。

配慮書では、「複数案の設定を検討したが、環境影響に有意な差がある複数案はなく、計画段階環境配慮書における事業計画案は単一案とした」と記載されているが、太陽光や風力、潮力などの再生可能エネルギーによる発電方法を検討すべきである。なお、気候変動が加速する中、温室効果ガスの更なる増加をもたらす化石燃料やバイオマスによる発電方法や、放射性廃棄物の問題がある原子力発電については、検討案として入れるべきでない。

6. 事業想定区域の動物の生息調査について、現地確認がなされていない。

事業想定区域の動物の生息調査について、文献その他の資料調査に留まっている。事業区域内の動物の生息調査は、現地確認もすべきである。

7. 事業で検討されている技術はいずれも環境負荷の高いものである。

本計画は、1981年に石炭火力発電所として稼働していた松島2号機(出力50万kW)を、石炭ガス化設備を新設し、また、アンモニアやバイオマスも燃料として活用しながら、将来的には石炭由来の「CO2フリー水素」をつくってカーボンニュートラルと目指すというものである。しかし、同計画で予定されている技術には、どれも問題が多い。それぞれの問題点について以下に示す。

  • ガス化施設

2012年以降大崎クールジェンにて実証実験されてきたガス化技術を、今回初めて商用化するとしている。しかし、石炭をガス化して効率を高めたとしても、発電時にCO2を排出することにはかわりないため、問題である。

  • CCS

「ガス化技術は、CCUS/カーボンリサイクルと高い親和性を持つ」と書かれているが、本配慮書において、発電所から排出されたCO2の分離回収設備については新設設備の一覧に記載されておらず、また、温室効果ガスの回収率はどの程度なのか、回収したCO2をどこに貯留するのか、どのように再利用するのかの記述が一切見当たらない。そもそも、CCSは、回収した炭素を埋めるために広大な土地を必要とする。さらに、仮に石炭火力発電所にCCSを設置しても、温室効果ガスの回収率は9割程度と完全ではなく、回収に際しては莫大なエネルギーが必要となる上に、現時点では実用化には高いコストがかかるため、商用化は現実的でない。

  • アンモニア混焼

カーボンニュートラルを実現するために、将来的にはカーボンフリー燃料である燃料アンモニアの混焼をあげている。しかし、水素、燃料アンモニアについては、現状、化石燃料から生成される予定であることが、官民協働燃料アンモニア協議会の中間取りまとめ資料にて記載されている。化石燃料から水素や燃料アンモニアを生産する際には、化石燃料採掘時や水素やアンモニア生成時多くの温室効果ガスを排出する。この時に排出された温室効果ガスを回収した「ブルー水素」「ブルーアンモニア」も検討されているが、回収時に莫大なエネルギーを使うため、石炭よりもブルー水素・ブルーアンモニアの方がカーボンフットプリントが多くなるという研究もある。また、海外で燃料アンモニアや水素を生産し、それを輸送することになると考えられるが、現時点では輸送時にも温室効果ガスが発生する。以上の観点から、ライフサイクル全体で見た際に、温室効果ガスを低減できていない燃料アンモニアは、発電の燃料として使用すべきでない。

  • バイオマス

混焼のための燃料として、アンモニアの他にもバイオマスがあげられている。バイオマス発電は、燃料となる植物の燃焼段階でのCO2排出と、植物の成長過程における光合成によるCO2の吸収量が相殺されるとされ、「カーボン・ニュートラル」であると説明されることが多いが、これは「燃焼」という一つの段階のみをとりあげ、燃料を生産した植生が元通り再生されるという前提にたっている。バイオマス発電は、燃料の栽培、加工、輸送といったライフサイクルにわたるCO2排出を考えれば、実際には、「カーボン・ニュートラル」とは言えない。また、燃料の生産にあたり、森林減少など土地利用変化を伴う場合がある。その場合、森林や土壌に貯蔵されていた大量の炭素が、CO2の形で大気中に排出されることになる。つまり、バイオマス発電の促進が、地表での重要な炭素ストックである森林や土壌を破壊し、むしろCO2排出の原因となってしまうこともある。さらに、燃料生産のために伐採した森林が、もとの状態に回復したとしても、回復には数十年以上かかることが多く、それまでは森林に固定化されていた炭素が燃焼により大気中に放出されるため、大気中のCO2の増加に寄与していることになる。 

  • “ネガティブエミッション”の認識の誤り

配慮書では、「バイオマスの使用に加えて、CCSを実施した場合、光合成を通じて大気中のCO2を固定したバイオマス燃料により発生するCO2を分離・回収して地中に埋めることになるため、発電所の運用によりCO2排出量を実質ゼロにする”ネガティブエミッション”が可能」書かれている。しかしこの考え方は、数万年単位の時間をかけて作られた化石燃料を燃焼することによって排出されたCO2は、数時間〜数百年の時間のサイクルで循環する大気・海洋・陸地における生態系による炭素循環とは違う時間軸での排出であり、生態系による炭素循環の中に組み込まれないという重要な性質を見落としている。

*カーボンニュートラルの問題点については、次を参照されたい。
・FoE Japan, 「“カーボンニュートラル”のまやかし」, 2021/10/18
・FoE Japan, 翻訳レポート発行『カーボンユニコーンを追いかける〜炭素市場と「ネットゼロ」のまやかし〜』」, 2021/10/25

8. その他、意見募集のあり方について

意見提出のあり方について、今回の配慮書への意見提出方法は、郵送のみを想定したものとなっている。より広範な市民からの意見を募集する観点から、郵送だけでなく、電子メール、電子フォーム等を活用することが望ましい。方法書以降の手続きでは、意見募集方法を改善することを要望する。

締切は10月29日!皆で意見を出そう!

本件について、気候変動に取り組むたくさんの仲間が意見を出しています。

意見提出の期限は今週金曜日です。提出方法は、今回郵送のみと限られており、期限までの時間はわずかですが、実際に配慮書に目を通したり、他の団体の意見もぜひ参考にしたりして、意見を届けましょう!

事業者が公表した計画段階環境配慮書はこちら

環境アセスメント GENESIS松島計画(J-POWERのHP)

他団体の提出意見等についてはこちら

・気候ネットワーク:「GENESIS松島計画」に対する環境アセスへの意見提出を(2021/10/15)

・350 New ENEration:https://www.instagram.com/350neweneration/

(高橋英恵)

【第5回スクール・オブ・サステナビリティ2報告】わたしが住みたい理想の街のあり方

こんにちは!FoEインターンの佐藤です!

スクール企画最終回の第5回は、環境分野の通訳・ライターとしてご活躍されている熊崎実佳さんと、パッシブハウスジャパン代表理事の森みわさんをゲストにお迎えしました。

車が走らない地域づくり

まずは、ドイツの環境先進都市「フライブルク」における車のない社会作りについて、熊崎さんからお話を聞きました。

みなさんは、そもそも「車」の必要性について考えたことはありますか?

車は移動も簡単、そしてラクに荷物も運べることがメリットですが、デメリットには何が挙げられるでしょう。

私自身、デメリットというと「車=二酸化炭素排出!」の印象が強いのですが、それだけでなく実は車はものすごく場所を占拠する乗り物。車が道路を塞ぐだけではなく、車を止めるための駐車場自体も実は大きな面積を占めています。

その大きな面積を自転車用道路や、トラム(路面電車)の通路に当てたら一体街はどう変わるのでしょうか?

これを実現したのがドイツのフライブルクです。

フライブルクでは、「車から脱却した社会」を目指して、代わりに公共交通・自転車・徒歩を中心とした生活が営めるように地域がデザインされています。

フライブルクの交通政策としては、路面電車と自転車優先道路が張り巡らされており、そういった乗り物では移動がカバーできない地域には加えてバスも走っています。また、レンタル自転車の利用も盛んで、公共機関には乗り放題の定期券も作られているのです。このように、車に頼らない交通網が普及しているため、車なしでの日常生活も豊かで充実したものとなります。

そして、車なしで移動するのが理想ですが、そうはいかない人には「カーシェアリング」もよく利用されています。一家に車一台という広まった価値観から離れ、「そもそも車は本当に必要なのか」「車のない地域は具体的にどんな姿をしているのか」というような疑問に向き合い、解決策を生み出していったのがフライブルクです。

フライブルクのなかでも特に自動車を減らす取り組みに尽力したのが「ヴォーバン地区」です。

ここは、まず地区全体を袋小路にして通過交通(目的があって寄ったのではなく、たまたま通りかかった車の量)を無くすことで、交通量の削減が図られています。

そして、駐車場を自宅に併設する代わりに、共同の立体駐車場に移します。そうすることで自動車に乗るまでの移動が増えて必要なときに素早く乗れるという自動車の魅力が失われることで、それならトラムを利用し目的地の都市まで向かう方が効率が良いと考える人が増えました。

車の量を減らすことは、道路が誰もが使える空間に変わるということ。その分、路上に子どもが遊べるスペースが確保でき、これまでにない場所の使い方も生まれてくるでしょう。

また、徒歩や自転車の利用は車よりも、ご近所さんと顔を合わせる機会も増えるために、人同士の繋がりも生まれるそうです。

何より、車社会であったフライブルクで、「自動車のないまちづくり」を可能にしたのは一体誰なのでしょうか。

熊崎さんは、この答えは「市民」だとおっしゃいます。自動車産業というのはとてもロビイング力は強いため、産業政策にも大きな影響を与えてしまいます。

そのため、理想の街づくりを行うには政治家に任せておくままではいけません。トップダウンによる変化が期待できないとき、動き出したのがフライブルクの市民だったのです。

「車の量を減らしたい。自分たちの街を変えたい」この意志がどの地域よりも強く、そして実際に行動に移していく行動力があったからこそ、車依存社会を脱するという大きな変化がもたらされました。

このお話を聞き、権力を持っている大企業などに対してでも、市民が結束して行動を起こすことで求めていた結果が出たという、この事例にわたしも大変励まされました。

「Eco(環境)」も「Ego(経済性)」も両立できる家づくり

続いて、パッシブハウスジャパンの森さんからエコフレンドリーな建築「パッシブハウス」についてご説明いただきました。

私たちが住む日本では、この50年間で一人当たりのエネルギー消費量は3.6倍まで上がり、エネルギーを大量に消費する生活が営まれています。

エネルギーを温水のように使う私たちの暮らしのなかで、最もエネルギーが消費されているのが「給湯」そしてその次が「暖房」です。この暖房部分にメスをいれ、熱を逃がさない仕組みを作ったのがパッシブハウスです。

パッシブハウスは、「健康×省エネ×経済性」を両立させた新しい建築の形で、いまある普通の家よりも90%ほど熱を逃さないと言われています。

森さんは、「Eco×Ego= パッシブハウス」とも言えるとおっしゃいます。つまり、環境のために我慢をしたり何かを犠牲にすることなく気持ちよく過ごせる家が「パッシブハウス」なのです。

パッシブハウスの特徴としては以下のものが挙げられます。

①しっかりした断熱
②空気の漏れを無くすこと
③熱橋(熱が簡単に通り抜けるところ)をなくすこと
④良い性能の窓(三層ガラスなど)
⑤熱交換換気(熱を逃がさないで新鮮な空気を取り込む)
→これらを上手く組み合わせることで暖房のいらない家づくりが可能に

こんなに優れたパッシブハウスでも、たとえオール電化仕様で、巨大な蓄電池を積んだとしても冬のエネルギー自活にはなかなか難しいものがありました。

この課題の解決策の一つとして挙げられるのが”P2G(Power to Gas)です。

余剰の太陽光をストレージとして貯蔵することで、インフラにバイオメタンを戻すことができます。

スイスの独立した集合住宅やドイツの賃貸住宅でもこの仕組みの利用がすでに実現し、再エネをどうマネジメントしていくかが問われるこれからの時代に、非常に有望視されている住宅の仕組みとなっています。

細かい仕組みまで完全に理解することは難しいかもしれませんが「健康も守り、地球も守る」。そんな新しい住宅の選択肢に魅力を感じる人は多いのではないでしょうか。

人と違うことに自信をもつ

最後にお2人から、参加者へ向けて一言ずつ頂きました。

この日本社会では、人と違うことはとても目立つし、ネガティブな言葉をかけてくる人も少なくはありません。

しかし、森さんは「自分の考えを持ち、人との違いが生まれることは、自分自身が確立したことを示している」と仰っていました。そして、出る杭は打たれる状況のなかでも、自分を信じ守れるのは自分だけだと。
それと同時に、「できった杭は打たれない」という言葉もくださいました。もう周りが口を出せないほど突き抜けてしまえば、周りからの視線も変わります。自分の感性を信じてブレずに突き進むことの大切さに気付き、その勇気をもらいました。

そして熊崎さんからは、仲間を見つけることの大切さをお話しいただきました。他人を巻き込むことは、自分自身の強さになるだけでなくその周りに影響を与えることにもなります。自分の殻にこもって抱えすぎないで、同じ方向をもつ仲間とともに辛抱強く向き合い続けることの重要性を改めて認識しました。

今回の第5回が最終回となりましたが、最後まで参加してくださり、ありがとうございました!

毎回新しい知識を得ていくのが、私もとっても楽しかったです!

みなさんとまたどこかでお会いできるのを楽しみにしております!

(インターン 佐藤悠香)

▼第4回のプログラム
・車のない社会を目指して〜ドイツ・フライブルク市の取り組み〜(熊崎実佳さん、環境分野の通訳・ライター)
・誰も置き去りにしないエコハウスを!(森みわさん、一般社団法人パッシブハウス・ジャパン代表理事)
※ゲストスピーカーの講演のみ公開しています。


*過去のスクール・オブ・サステナビリティ2の報告ブログや動画はこちらからご覧いただけます。

https://www.foejapan.org/climate/event/school2021.html

世界遺産の隣では…米軍北部訓練場が「やんばるの森」に与える影響

9月21日、世界自然遺産に登録された沖縄島北部(やんばるの森)に関して、環境省・防衛省と意見交換会を行いました。オンラインで、沖縄から蝶類研究者の宮城秋乃さん、Okinawa Environmental Justice Projectの吉村秀樹さんなどを含め、80名以上の市民が参加しました。

やんばるの森は、奄美大島、徳之島、西表島などとともに、7月26日に世界自然遺産に登録されました。かけがえのない生態系や生物多様性の普遍的な価値が、国際的にも認められたのです。しかし、隣接する米軍北部訓練場がこの地域の自然や人々の脅威となっています。

意見交換会では、北部訓練場における米軍機による訓練による騒音や低周波音などの影響、また、世界遺産登録地に含まれている北部訓練場の返還地に大量に残された米軍廃棄物などについて議論となりました。>事前質問書

訓練場近隣で深刻化する米軍機騒音

北部訓練場の米軍機による訓練が、騒音や低周波音により、世界自然遺産の野生生物や周辺住民の脅威になっていることを指摘し、防衛省、環境省の認識について問いました。
防衛省は、2012年の米軍が実施した環境レビューをもとに、「影響は小さい」という認識を示しました。しかし、この環境レビューはあくまで予測値を用いた簡略なものであり、日本政府として、騒音や低周波などに関して実データをもとにした登録地の生態系に与える評価を行ったわけではありません。

琉球新報の報道(2021年5月11日付「世界自然遺産推薦地のすぐ近く…東村高江周辺では米軍機の騒音が約3・5倍に」)では、周辺集落では頻繁に80デシベル以上の騒音が観測されており、その頻度は、2014年度は80デシベル以上の騒音測定回数は105回だったのが、20年度は368回に増加したことが報じられています。

防衛省は、北部訓練場周辺の集落3か所において常時騒音測定を行っているのですが、いずれもLden値(時間帯補正等価騒音レベル)では、環境基準を超えていないとしました。

一方で、環境省は、「訓練が野生生物に及ぼす影響については、必要に応じて、日米合同委員会のもとにある環境分科委員会で共有していく」としました。

市民側は、騒音レベルは平均値ではなく最大値を重視するべきこと、訓練が世界遺産登録地の野生生物に与える影響を評価するべきこと、また、米軍に対して世界遺産登録地および集落上空での低空飛行や旋回をしないように日本政府として要請してほしいとうったえました。

米軍が自然遺産登録地で訓練? 境界越えを防ぐために

北部訓練場と自然遺産登録地は、地図上では長く曲がりくねった境界線を共有しています。

防衛省・環境省は、米軍が陸伝いに境界線を越えて自然遺産登録地に入ったり、自然遺産登録地を訪れた人が北部訓練場に入ったりすることを防止するような措置はとっていないし、今後とる予定もない、としました。

市民側は、安全上の観点からも、世界遺産登録地への影響を回避するためからも、境界線を越えが起こらないよう、境界線を明示するなどあらゆる対策をとることを要請しました。

Hideki Yoshikawa, Dr. Masami Kawamura, “NGO Evaluation and Recommendations regarding The Nomination of NPOI for World Natural Heritage“(October 05, 2019)

世界遺産に残された米軍廃棄物~「いであ」への委託は十分だったのか?

米軍廃棄物の問題を訴え続けてきた東村に住む蝶類研究者の宮城秋乃さんは、世界遺産登録地に含まれる北部訓練場返還地で、実弾1発を含む不発弾、放射性物質を含む電子部品、その他多くの廃棄物を発見たことを指摘。宮城さんは県警に連絡しましたが、対応はされなかったそうです。

意見交換会にて、防衛省は返還地の廃棄物や土壌汚染について、「いであ株式会社」に委託して調査および廃棄物や汚染除去を行ったと説明。その際、対象範囲は、土壌汚染の蓋然性が高いと考えられる、ヘリパットや過去のヘリ墜落地点などに限定して実施したとのことです。「業務終了の際、防衛省も現場に行き、問題がないこと確認を行った」としました。

しかし、実際には、対象地でも、その他の地域でも多くの米軍廃棄物が見つかっているのです。

防衛省は、「引き渡し後に、廃棄物が発見されたときでも、防衛省として地権者や関係機関と連携をとり適切に処理していく」とし、また、米軍廃棄物が発見されたときは、「地権者である沖縄県森林管理所もしくは沖縄防衛局に連絡してほしい」としました。

市民側からは、「いであ株式会社」への委託は範囲が限定的でありすぎ、また調査や廃棄物除去が十分ではなかったことを指摘。あらためて、包括的な米軍廃棄物除去計画の策定と実施を提案しました。

また、宮城さんは、米国海兵隊北部訓練場ゲート前に、発見した米軍廃棄物を少量置くことにより、抗議の意を示しました。ところが、これが「威力業務妨害」にあたるとして、沖縄県警から捜査を受け、書類送検されたのです。

市民側はこれは不当で威圧行為であるとし、「政府は廃棄物を発見し、問題提起を行った宮城さんにむしろ感謝の意を示すべき」としましたが、防衛省は、捜査中の案件なので回答を差し控えるとするにとどまりました。

主催団体は、北部訓練場の返還地の廃棄物除去に関するいであ株式会社との契約の詳細などについて、防衛省・環境省に追加の質問書を提出しました。

また、今回の会合の報告をIUCNなどに提出するなどのアクションをとっていきたいと考えています。

(満田夏花)

<アーカイブ映像>


0:00:00- Part I: オンライン集会
0:05:55-「やんばるの森の実状ーこれで本当に世界自然遺産?」宮城秋乃さん/蝶類研究者
0:29:15-「世界遺産登録の持つ意味は?」吉川秀樹さん/Okinawa Environmental Justice Project
1:05:08- Part II: 防衛省・環境省との意見交換
1:09:41-北部訓練場での訓練について(低空飛行、騒音など)
1:45:40-北部訓練場と自然遺産登録地の境界について
2:07:30-北部訓練場返還地の米軍廃棄物について

やんばるの森は「多くの固有種が集中して分布する国内最大級の亜熱帯照葉樹林の生態系、雲霧林、渓流植物群落などの河川生態系、石灰岩地特有の動植物、マングローブ生態系といった多様な生態系が複合的に一体となった景観」が評価され、世界遺産に指定された。(写真は環境省資料より)