エネルギー需要削減の本気度は? ーエネルギー基本計画素案を読む(5)

第6次エネルギー基本計画素案では、エネルギー需要や電力需要の想定が、2018年度の第5次計画に比べて少し下方修正されましたが、そもそも第5次計画の想定が過大なものでした。

以下の図は、2019年度まで最終エネルギー消費量とGDPのデータに、今回示された2030年目標を置いたものです。エネルギー需要は減る見通しとなっていますが、2011年以降の減少傾向から直線を引いたもので、野心的なものではありません。

2050年の排出ゼロを目指すというものには、まったくなっていないのです。

図:最終エネルギー消費と実質GDPの推移(エネルギー白書2021より)より作成

エネルギー需要はどのくらい削減するのか

前提となるエネルギー需要がどのように推定されているのかという部分を、素案の記述に加えて、8月4日の基本政策分科会の資料5、「2030年におけるエネルギー需給の見通し参考資料」を中心に見ていきます。

まずは、エネルギー需要の推計方法です。

↑図1:「2030年におけるエネルギー需給の見通し参考資料」p.6 

このように、人口やGDPを推計し、これらを参考に主要業種の活動量を想定して、省エネ前のエネルギー消費を推定、そこに省エネ対策を加味します。

まずは、経済成長について。下記の図のように、前回計画(H27策提示)での想定に比べれば下方修正されているものの、2021年度から2030年度までの成長率は、コロナ禍前(2013~2019年度)を上回る右肩上がりの想定です。

↑図2:同上 

GDPの大きさは、エネルギー消費の増大とイコールではありません。GDPを上げながらエネルギー消費を下げることをデカップリングと言いますが、最初の図をみると、日本でも2011年以降すでにそのような傾向になっています。

例えば「レポート2030ーグリーン・リカバリ―と2050年カーボンニュートラルを実現する2030年までのロードマップ」(https://green-recovery-japan.org/)では、仮に政府の予想のようGDPが640兆円まで増加したとしても、グリーン・リカバリ―戦略(環境に配慮した経済再生政策)を実施すればエネルギー消費量を40%削減できると試算しています(同レポートのp.13)。

各部門の活動量見通し

続いて、各部門ごとの活動量を見てみます。

産業部門での主要4業種、粗鋼、エチレン、セメント、紙・板紙の生産量は、2000年度から2020年度にかけてそれぞれ減少傾向が見て取れますが、2020年度〜2030年度の想定はほぼ横ばいとなっています。

社会全体で使う資源の量を減らしていくことや、産業構造の転換によって生産量を減らしていくという意図も可能性も、まったく考慮されていません。

業務床面積も、人口減少にもかかわらず、微増となっています。

旅客交通需要は、コロナ禍の影響やテレワーク等の普及、通信技術の普及・発達などにより減少する可能性について十分に考慮されたものではありません。

↑図3:同上
(左上)粗鋼、エチレンの生産量 (右上)セメント、紙・板紙の生産量

(左下)業務床面積 (右下)旅客交通需要と貨物交通需要

その結果、最終エネルギー消費の想定(省エネを加味する前)は、約350百万kl(原油換算)と、2019年度の334百万kl (省エネがなければ356.5百万kl)とほぼ同じです。(図4)

このように、人口減少にも関わらず、「需要量の削減」はほとんど考慮されていないのです。

日本のエネルギー政策で言われる「省エネ」とは、機器の効率改善や性能の向上など、エネルギー効率の改善のことで、消費量・需要量自体や、需要のあり方を大きく見直す・減らすということではないのです。

その「省エネ」を加味した280百万klでも、2019年度の334百万klに比べて約16%削減にとどまっています。

↑図4:同上

各部門ごとの「省エネ」の内容

次に、具体的な「省エネ」の内容についてざっと見てみましょう。

素案では39~42ページに書かれていますが、長文のため、ここでは大枠のみ、概要版の記載から抜粋します。

まず、産業部門について。

「エネルギー消費原単位の改善は進展したものの、近年は足踏みの状態である。」(素案p.39)

これについては、4月13日の審議会資料の中に以下があります。主要4業種において、エネルギー原単位の改善は鈍化、また石炭など化石燃料に大きく依存していることがわかります。

↑図5:第40回基本政策分科会 資料5より

このようなエネルギー多消費型の産業のあり方そのものを、本来見直さなければならないはずですが、そのような議論はまったくありません。

エネルギー基本計画で言う「省エネの深堀り」とは、すでに現在省エネが進んでいる部分について、現実に沿って想定を見直す、という作業にすぎないのです。

業務家庭部門については、建築物・住宅の省エネや断熱性能を高めることは最も重要です。素案に、

「2030年の新築平均ZEH・ZEB目標と整合的な誘導基準・住宅トップランナー基準の引き上げや、省エネルギー基準の段階的な水準の引上げを遅くとも2030年度までに実施する。」(p.41)

とあります。本当は2030年よりももっと早くやらなければならなかいはずですが、ようやく、というものです。

2019年度の新築住宅の断熱性能でも、ZEHレベルはまだまだ小さい割合(戸建て住宅の約25%、共同住宅の約2%、下図参照)です。

↑図6:「2030年におけるエネルギー需給の見通し参考資料」p.20より抜粋

2021年の4月に国土交通省に「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」が設置されて議論が重ねられ、ようやくの前進、ではありますが、2030年度の目標を絵にかいた餅に終わらせず、なおできるだけ前倒しするにはどうすればよいのか、引き続き注目していく必要があります。

脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会(国土交通省)


最後に運輸について。

素案に書かれている内容は、自動車の燃費向上やEV化、消費原単位の改善などです。

しかし、本当に取り組まなければならないのは、ここでも需要削減、例えばテレワーク化や出張の削減、車の利用を減らしてもくらしやすいまちづくりなどです。

欧州ではすでに、近距離の航空利用を削減する動きが広がっています。フランスでは、2時間半以内の国内航空路線の運航を禁止することを盛り込んだ気候変動対策・レジリエンスの強化法案が2021年7月に成立しています。

オランダやドイツでも、近距離路線の減便や鉄道との連携が始まっています。

日本でも、コロナ禍により、航空便の利用は大幅に減少し、航空便の減便は行われていますが、これを一時的な対応とせず、気候変動対策として将来の運行のあり方を大きく見直す必要があるのではないでしょうか。

自動車についても、利用自体を大きく減らさなければなりません。

鉄道やバスなど公共交通へのシフトや、自転車や徒歩で暮らせるまちづくり、自動車のシェアや働き方・通勤のあり方などを含めて、できることはたくさんあるのではないでしょうか。EV化の議論は、そのうえでのことです。

リニア中央新幹線の建設についても、すでに移動需要が減少しているなかで、本当に必要なのか、その環境・社会影響の大きさに鑑みて、見直すべき時ではないでしょうか。

偽りの「カーボンニュートラル」ではなく、真の排出ゼロを目指すための第一歩は、まずは化石燃料からの脱却を進めること、そして同時に需要の大幅な削減を行うことです。

第6次エネルギー基本計画の議論の中では、この需要な点が抜けているのです。

(吉田明子)

鉱物資源の需要拡大の先には?――エネルギー基本計画の素案を読む(4)

気候危機への対策として化石燃料からの脱却が急務な中、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の普及が急速に進められようとしています。こうした動きの中で蓄電池などの原料として需要拡大が見込まれるのがリチウム、コバルト、ニッケルなどの「鉱物資源」。エネルギー基本計画の中でも、その安定確保に関する項目が盛り込まれています。しかし、鉱物資源の開発現場では、これまでも生態系や先住民族の生活・文化の破壊など、さまざまな問題が起きてきました。今回は「カーボンニュートラル」の裏に潜む、もう一つの危機に目を向けてみます。

結局、海外依存の鉱物資源確保?

まず、鉱物資源について、第6次エネルギー基本計画(素案)の中では、一体どのようなことが書かれているのでしょうか。

以下のように、カーボンニュートラルの実現のために再生可能ネルギーやEVへの移行が不可欠であること、そして、その中で鉱物資源の安定供給が重要との認識が示されています

鉱物資源は、あらゆる工業製品の原材料として、国民生活及び経済活動を支える重要な資源であり、カーボンニュートラルに向けて需要の増加が見込まれる再生可能エネルギー関連機器や電動車等の製造に不可欠である。特に、エネルギーの有効利用の鍵となる蓄電池、モーター、半導体等の製造には、銅やレアメタル等の鉱物資源の安定的な供給確保が欠かせない。」(p.82)

一方、以下のように、海外からの輸入に依存せざるを得ない鉱物資源を安定的に確保するには、さまざまなリスクがあることも認識はしているようです。

「鉱種ごとに埋蔵・生産地の偏在性、中流工程の寡占度、価格安定性等の状況が異なり、上流の鉱山開発から下流の最終製品化までに多様な供給リスクが存在している。」(p.82)
「資源ナショナリズムの高まりや開発条件の悪化等により、資源開発リスクは引き続き上昇傾向にある。」(p.82)

しかし、ここに示されたリスクはあくまで日本側の主観によるリスクであり、後述するような開発現場で影響を受ける人びとや自然環境の視点から見たリスクは一切書かれておらず、一面的なものと言えます。

日本側が特定しているリスクの中で、どうやって必要な鉱物資源を確保していくのか――その方策については、以下のようなことが挙げられています。

・特定国に依存しない強靭なサプライチェーン構築
・リサイクル資源の最大限の活用、製錬等のプロセス改善・技術開発による回収率向上等のため投資を促進
・レアメタルの使用量低減技術やその機能を代替する新材料開発に向けた取組の更なる支援(p.83)

これらを見ると、海外からの調達が前途多難であることから、日本国内での循環型社会の重要性を認識しているようにも見えなくはありません。ただ、今後の技術開発にかかっているという点で不確実性があることは否めず、海外の、ひいては地球の資源をいつまで採掘し続けるのか――という疑問が生まれてきます。

具体的な数値としては、以下のようなものも挙げられています。

・ベースメタル(銅、亜鉛、鉛、アルミニウムなど)の自給率を2018年度の50.1%から2030年までに80%%以上に引上げる。そして、2050年までに日本企業が権益をもつ海外の鉱山等からの調達を合わせて国内需要量相当にする。(p.83)(下線は筆者による)

一見、自給率をほぼ100%まで引き上げるのかと歓迎したくなりますが、下線部はすなわち、日本のカーボンニュートラル社会を実現するため、2050年まで海外での採掘を続けますと言っているのと同じです。
なお、レアメタル(リチウム、ニッケル、クロム、コバルトなど)に至っては、自給率について一律の目標は設けず、「鉱種ごとに安定供給確保に取り組む」(p.83)とされており、具体策は示されていません。

こう見ると、これから需要が急増する鉱物資源の大部分を結局は海外からの調達に頼る、つまりは、海外で資源を掘り続けて日本に運んでくることになってしまいそうです。しかし、それで鉱物資源の採掘現場の環境や人びとの生活、そして私たちの住まいである地球は持続可能なのでしょうか。

2050年に必要な鉱物資源は倍増以上?!

日本だけではなく、世界が現在取り組んでいる気候変動対策の中でどれだけの鉱物資源が必要となるのか――世界銀行グループが2020年5月に発表した報告書「気候変動対策と鉱物:クリーン・エネルギーへの移行に鉱物が果たす役割」では、パリ協定の2度目標達成のため、太陽光や風力等への移行とその蓄電技術に必要とされる鉱物について、2050年時点での予測年間生産量が示されています。(図1)

図 1.  2度シナリオ達成のために求められるエネルギー技術に必要とされる2050年の年間鉱物需要予測(左:2018年生産レベルとの比較(%)/右:2050年の生産量予測(百万トン))
出典:世界銀行グループ報告書「気候変動対策と鉱物:クリーン・エネルギーへの移行に鉱物が果たす役割」(2020年5月)p.73

この左側のグラフの中で目を引くのは、グラファイト、リチウム、コバルト(左1~3本目の棒)の年間生産量が2050年までに2018年比で450%以上になるとの予測が出されていることでしょう。これは、リチウムイオン電池の需要増加が見込まれ、その構成材料として必要なためです。

一方、同じくリチウムイオン電池の材料として欠かせないニッケル(左から6本目の棒)は、2018年比で99%の生産量となっています。この99%というニッケルの生産増加割合については、他の鉱物より小さいからと言って、安心できるものではないという点に注意が必要です。

2050年のニッケル年間生産量は226.8万トン(右側グラフを参照。左側から3本目の棒)と予測されており、2018年時の生産量230万トンとほぼ同量のニッケルの生産が求められるということになります。世銀の同報告書(p.82)によれば、2050年までに使用済み製品からニッケルを100%回収し、新しい製品向けにリサイクル利用ができるようになったとしても、必要とされる一次ニッケル(鉱石を製錬所等で処理した後の生産物)の量は23%しか抑えることができないと予測しています。

このような予測から懸念されるのは、気候変動対策が進められていく中で、どの鉱物資源であれ、開発が継続・拡張され、これまで開発現場で地域コミュニティが経験してきた被害が繰り返し起こる、あるいは、むしろひどくなる可能性です。

土地、環境、生活、命を奪ってきた鉱山開発

下の地図は、2021年3月に英の市民グループが出した報告書に掲載されているもので、太陽光や風力発電、蓄電等に必要な鉱物資源の開発に関連して、地域コミュニティが問題の解決を求めている現場をプロットしたものです。すべてをプロットしたものではありませんが、森林伐採、生物多様性の喪失、土壌浸食、水問題、大気汚染、鉱山廃棄物といった環境問題から、児童・強制労働、地域紛争、汚職、健康被害、ジェンダーへの影響、軍事化、労働問題といった社会問題まで、世界各地でさまざまな問題が引き起こされていることが見て取れます。

図 2. 移行に必要な鉱物資源に関連してコミュニティーが問題解決を求めている一部のサイト
出典:英War on Want報告書「気候変動対策と鉱物:クリーン・エネルギーへの移行に鉱物が果たす役割(A Material Transition: Exploring supply and demand solutions for renewable energy minerals)」(2021年3月)p.16-17

実際にどのような環境社会問題が起きているのか、事例を見てみましょう。

下の写真は、FoE Japanが調査を行なってきたフィリピンのニッケル鉱山の様子を遠目から見たものです。

そして、この鉱山周辺をGoogle Earthで見ると、このように黄土色の広がりが確認でき、森林が伐採されて山肌が露出しているのがわかります。(中央に見える茶色は製錬所の鉱滓ダム)

このニッケル鉱山が面している海岸沿いの風景は、こちらです。

このフィリピンのタガニート・ニッケル鉱山(4,862.75 haの採掘許可。2034年まで)では、1987年から大平洋金属と双日が出資する日系企業が採掘を開始。その後、中国や台湾の企業も進出してきたため、どんどん採掘現場は広がるばかりです。そして、2013年からは住友金属鉱山と三井物産が出資する日系企業が国際協力銀行(JBIC)の支援を受けて、製錬所の稼働も始めました。

この開発の波の中で企業が鉱山サイトを拡張する度、20年以上もの間に少なくとも5回は居住地から追い立てられてきたのが先住民族ママヌワの人びとです。鉱山企業が移転地を用意したのは2011年になってからでした。

「これが最後(の移転)と言われている。ここの生活はコンクリートの家で、電気やテレビもあって、よく見えるかもしれないね。でも、決して自分たちが望んでいた(発展の)形ではないんだ。ここでは農業ができないし、木も山に行かないとない。海は(鉱山サイトから流出した)赤土で汚れてしまって魚も獲れない。生活の糧が近くになく、交通費が必要だろう?」

2012年に移転地での生活の様子をこう語ってくれたママヌワの若きリーダーだった”ニコ”ことヴェロニコ・デラメンテさんは、当時、これ以上の開発で自分たち先住民族の土地が奪われていくことにも懸念を示していました。
「最初にこの地での鉱山活動を許した自分たちの年長者を責めはしない。でも、もしチャンスがあるのであれば、企業が鉱山のために先祖の土地を使うのを止めさせたい。

ニコさんはその5年後の2017年1月、移転地近くでオートバイに乗ってやってきた2人組によって射殺されました。27歳でした。ニコさんはこの時、中国系の企業が同地域で計画していた鉱山開発の拡張に反対の声をあげており、生前から死の脅迫を受けていたとのことです。

このように、自分たちの土地の権利や生活を守ろうと声をあげてきた先住民族や住民が殺害されるという超法規的処刑(Extrajudicial killings)は、さまざまな開発現場で起きています。国際NGOグローバル・ウィットネスの報告書「明日を守ること(Defending Tomorrow)」 (2020年7月)によれば、2019年に殺害された土地・環境擁護者は世界で212人にのぼるとのことです。そして、その犠牲者の数が一番多かったのが鉱山問題に関係するケースでした(50名)。

図3. 2019年に殺害された土地・環境擁護者の人数(左:国別/右:セクター別)
出典:グローバル・ウィットネス報告書「明日を守る(Defending Tomorrow)」 (2020年7月)p.9

資源集約的でない解決策を!

第6次エネルギー基本計画(素案)の中では、「気候変動や周辺環境との調和など環境適合性の確保」という項目があり、以下のようなことが書かれています。

「エネルギーの脱炭素化に当たっては、発電所の建設のための土木・建設工事のための掘削や建設機械の使用等に加え、EVや蓄電池、太陽光パネルなどの脱炭素化を支える鉱物の採掘・加工や製品の製造過程におけるCO2排出を考慮する必要もあり、エネルギー供給面のみならず、サプライチェーン全体での環境への影響も評価しながら脱炭素化を進めていく観点が重要である。」
「気候変動のみならず、周辺環境との調和や地域との共生も重要な課題であり、エネルギー関連設備の導入・建設、運用、廃棄物の処理・処分に際して、これらへの影響も勘案していく必要がある。」(p.18)

昨今、サプライチェーン全体で「責任ある鉱物調達」を目指すという方針やスローガンは、鉱山開発を行う川上の企業から、製品を組立て販売する川下の企業まで、大手の企業であれば、どこでも取り入れてきており、環境・社会・人権配慮が行われ、負の影響は回避あるいは低減される前提で開発が進められてきました。

しかし、上述のように既存の鉱山開発の現場では環境・社会・人権問題が解決されておらず、地域の環境と人びとが多大な犠牲を強いられてきた実態をみると、こうした素案の文言があったからと言って、「周辺環境との調和や地域との共生」が実現できるだろうと楽観的な気分にはなれません。今後、需要が高まる鉱物資源の確保を海外に依存し続け、さらに開発の場所を広げるのであれば尚更です。

気候危機への対処が急務で、化石燃料に依存した社会からの急速な脱却が必要であることは言うまでもありません。しかし、大量の電気を使い続けることが前提であれば、結果的に際限なく鉱物資源を掘り続け、そこで土地、環境、生活、命を奪うような開発を繰り返すことになるでしょう。

今、私たちが考えていかなくてはならないのは、エネルギーや電力需要自体を削減し、鉱物資源への依存を拡大する方向ではない社会システムへの移行ではないでしょうか。

  (波多江秀枝)

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「STOP!ニッケル鉱山拡張 in フィリピン」

今、フィリピンのパラワン島で日系企業が関わるニッケル鉱山の拡張計画が進もうとしています。水質汚染、自然保護区の解除など多くの問題が指摘されています。

バイオマス発電は大丈夫?――エネルギー基本計画の素案を読む(3)

再生可能エネルギーの一つとして導入が進められてきたバイオマス発電ですが、木質ペレットなど、燃料の多くは海外から輸入されています。需要の急増にともなって、貴重な天然林が伐採されたり、生物多様性が破壊されたりすることが問題となっています。気候変動対策という点からいっても、長い時間をかけて形成され、地上部にも地下部にも大量の炭素を貯留している森林を破壊してしまっては、かえって大気中の二酸化炭素を増やすことにもつながってしまいます。これでは本末転倒ではないでしょうか? 

地域の間伐材・未利用材では足りず、海外から燃料輸入…

バイオマス発電は、固定価格買取制度(FIT)により、促進されてきました。2012年のFIT施行前の導入量は231万kWでした。これにFITで認定されたものを加えた量は、2015年度末に601万kW、2019年12月には1,085万kWにまで急増しています(図1)。うち747万kWが「一般木質バイオマスおよび農産物残さ」(輸入木質ペレット・木質チップ、パーム椰子殻(PKS)など)およびバイオマス液体燃料(パーム油など)による発電で、その多くを海外に依存しているのです。

図 1. バイオマスのFIT認定量
出典:第6回バイオマス持続可能性ワーキンググループ(2020年8月4日)資料1

それでは、第6次エネルギー基本計画素案では、バイオマス発電についてはどのように書かれているのでしょうか?

「木質バイオマスを始めとしたバイオマス発電は、災害時のレジリエンスの向上、森林整備・林業活性化などの役割を担い、地域の経済・雇用への波及効果が大きいなど、地域分散型、地産地消型のエネルギー源として多様な価値を有するエネルギー源である。」(p.34)

確かに、FITの導入時には、地域の間伐材や未利用材を上手にバイオマス発電に使えば、林業が活性化し、森林整備にお金が流れ、「疲弊した山間地が活性化する!」という期待が大きかったことは理解できます。しかし、現状はそう甘くはありませんでした。

そもそも、地域の間伐材、未利用材の量には限界があります。5,000kW級のバイオマス発電所を稼働させるのには、年間約60,000トンの燃料(約10万立方メートル相当)が必要とされていますが、これは一つの県の木材生産量にも匹敵します(注1)。つまり、中規模以上のバイオマス発電所を稼働させるためには、地域の間伐材・未利用材ではまったく足りないのです。

また、林地残材は林地からの搬出コストが高く、大量に調達するためには広範囲から収集する必要があるため、運搬費がかさみます。

このため、ほとんどの大規模なバイオマス発電所は、安定的かつ大量に調達できる輸入バイオマス燃料を前提にして計画されているのです。

経済産業省にもそのような認識はあるようで、前述の続きとして、

「一方、エネルギー利用可能な木質や廃棄物などバイオマス資源が限定的であること、持続可能性の確保、そして発電コストの高止まり等の課題を抱えることから、森林・林業施策などの各種政策を総動員して、持続可能性の確保を大前提に、バイオマス燃料の安定的な供給拡大、発電事業のコスト低減等を図っていくことが必要である。」(p.34)

というようなことが書いてあります。しかし、ここで大前提としている「持続可能性の確保」は具体的には何をさすのでしょうか? また、どのように担保するのでしょうか? 

さらに、「持続可能」であるバイオマス燃料は、どの程度、存在しているのでしょうか? これが大問題です。

「持続可能性」はあいまいなまま

「持続可能性」というからには、少なくとも森林減少・劣化を引き起こしたり、生物多様性を破壊したり、人権侵害や労働問題などを引き起こしたりしてはいけないはずです。

しかし、現在、輸入されているバイオマス燃料の多くは、この点があいまいなまま残されています。

たとえば、日本の主要商社は、バイオマス発電用に年間数百万トンもの木質ペレットを、北米やベトナムから輸入しています。

図 2. 日本の木質ペレット輸入量
出典:財務省 普通貿易統計「品別国別表(HSコード4401.31.000)」よりFoE Japanが作成

日本の商社は、アメリカの大手ペレットメーカーであるエンビバ社、カナダのパシフィック・バイオエナジー社やピナクル・リニューアブル・エナジー社などと木質ペレットの長期売買契約を結んでおり、今後数年以内に輸入量はさらに数百万トン以上上積みされそうです(注2)。

しかし、アメリカやカナダで森林保全に取り組むNGOからは、これらの木質ペレット生産用の木材を得るため、湿地林や天然林が皆伐され、貴重な生態系が破壊されたことが報告されています。企業は「もっとも持続可能な原料を利用している」などと説明していましたが、ペレット工場に次々に丸太が運び込まれている様子が写真入りで報告されています。

貴重なカリブー(トナカイ)の生息地である森林にも伐採が及んでいます。

写真:パシフィック・バイオエナジー社のペレット工場に丸太を運び込むトラック © Dominick DellaSala

写真:木質ペレットの原料生産のために伐採された湿地林(アメリカ・東南部)©Dogwood Alliance

マレーシアやインドネシアから輸入したパーム油も、バイオマス燃料として、発電所で燃やされています。パーム油の需要急増は、原料となるアブラヤシ生産のための農園拡大により、熱帯林減少の原因になるのに加え、先住民族や地域住民の土地や森林を農園にしてしまったり、農園における労働問題が発生したりといった社会的な問題も指摘され続けています。持続可能性が確認されたRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証油を使うとしている企業もありますが、RSPO認証油は供給量に限界があり、食品など従来用途の需要を満たすのに精いっぱいではないでしょうか。

現在、FITの事業計画策定ガイドラインでは、燃料の持続可能性については触れられているものの、具体性がなく、とりわけ木質バイオマスに関しては、第三者機関による認証制度だけではなく、事業者団体による認定や、企業の独自による確認でも足りることになってしまっています(注3)。

そもそもCO2を削減できるのか?

バイオマス発電の促進により、本当にCO2削減ができるのかどうかにも疑問があります。

前述の通り、バイオマス燃料の生産段階において、森林減少・劣化が生じることも多く、その場合、森林や土壌に貯蔵されていた炭素が、CO2の形で大気中に排出されてしまいます。つまり、バイオマス発電の促進が、地表での重要な炭素ストックである森林や土壌を破壊し、むしろCO2排出の原因となってしまうのです。

破壊された森林が元の状態に回復しないこともありますし、回復したとしても、数十年以上かかることが多く、それまでは森林・土壌に固定されていた炭素が燃焼により大気中に放出されるため、大気中のCO2が増加した状態となります(注4)。

バイオマス事業がある場合、ない場合双方における、
一定期間後のCO2の蓄積変化の概念図

森林は森林のまま、「炭素の貯蔵庫」として、また、生物多様性保全のために、そのまま維持していくことが重要なのではないでしょうか?

森林を破壊せず、地域の間伐材・未利用材や廃棄物系によるバイオマス発電がどのくらい可能なのか。これについては慎重に検討する必要があります。

また、バイオマス発電の発電効率は化石燃料と比べても低いため、発電よりも熱利用の方を追求するべきではないでしょうか?

現在のエネルギー基本計画は、2030年における電源構成目標としてバイオマス発電を6-7GWとしています。第6次のエネルギー基本計画においては、さらに拡大して8GW+αとしています。しかし、上記の観点から、バイオマス発電は、廃棄物系、地域の間伐材・未利用などでまかなえる規模とし、熱利用を検討すべきでしょう。

(満田夏花、小松原和恵)

参考)バイオマス発電のFIT認定容量(2021年3月末時点)
メタン発酵ガス:107,807kW
未利用材:561,384kW
建設廃材:94,210kW
一般廃棄物・木質以外:460,251kW
上記合計 1,223,652 kW (1.2GW)
一般木質・農作物残さ:6,738,709kW(6.7GW)「一般木質・農作物残さ」の多くが輸入燃料と考えられます。農作物残渣は、PKS(パーム椰子種子殻)です。

注1)田中淳夫(2019)「絶望の林業」

注2)商社等の木質ペレットの主な長期購入契約は下表参照。

出典:サプライヤー等のウェブサイトよりFoE Japanが作成

注3)FITの「事業計画策定ガイドライン」においては、パーム油、PKSなどの農産物の収穫に伴って生じるバイオマス燃料については、主産物・副産物を問わず、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)、RSB(持続可能なバイオマスのための円卓会議)といった第三者認証制度によって持続可能性が認証されたものでなければならないとしています。一方で、木質バイオマスについては、具体的な認証については記述されておらず、詳細は、林野庁による「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」を参照することとしており、当該ガイドラインでは、第三者認証のみならず「関係団体による認定」「個別企業の独自の取組」も併記しています。

注4)IPCCの報告書の著者をはじめとする科学者796名は、バイオマスエネルギーのために木を伐採すると、森林に貯留されている炭素が放出されること、たとえ森林が再生したとしても、大気中の炭素が数十年から数世紀にわたって増加することを指摘。さらに世界のエネルギーの3%を木材によって発電するとなると、世界の商業伐採量を現在の2倍にしなければ賄えないと警告しています。

“Letter From Scientists to the EU Parliament Regarding Forest Biomass”, 9 January 2018

原発20~22%とは?ーエネルギー基本計画の素案を読む(2)

現在、「エネルギー基本計画」の改訂議論が最終段階を迎えています。「エネルギー基本計画」はおおむね3年に一度改訂されるもので、先日第6次計画の「素案」が発表されました。まもなくパブリックコメントが開始されます。

このブログでは第6次エネルギー基本計画(素案)について、「原子力」というテーマでその中身や問題点をみていきます。

今回のエネルギー基本計画素案でも、2030年の電源構成のうち原子力は「20~22%」という割合が維持されました。

しかし、2020年度、原発の割合は4%程度。2019年度は約6%でした。いったん再稼働した原発が安全設備の建設の遅れなどにより相次いで停止したことが原因で減少しました。

2030年、原子力で2割をまかなうのは、さすがに無理なのではないかと思いますが、政府はどのような想定をしているのでしょうか。

原子力20~22%の内容とは?

以下の表は、審議会「基本政策分科会」で7月13日に提示された資料からの抜粋です。現在ある36基の原発のうち、新規制基準未申請の9基を除いた27基すべて(表の4つ目まで)を設備利用率80%で動かした場合、年間発電量の合計は1,940億kWhとなります。
これを2030年の想定発電量(9,300~9,400億kWh)で割ると、その割合が20.6~20.9%となるのです。

(↑第45回基本政策分科会資料より)


「今後動く可能性と政府が想定している原子炉」27基とは、具体的にどの原子炉でしょうか?

再稼働に向けて「新規制基準適合性審査」の申請が行われているもので、以下の図でオレンジや黄色の色付けがされているものです。まだ建設途上の大間原発(青森県)や、10年以上動いていない浜岡原発(静岡県)なども含まれています。27基すべてが稼動するとは、非常に考えにくいものです。
未申請の9基は、柏崎刈羽原発1~5号機、東通原発、志賀原発1号機、女川原発3号機、浜岡原発5号機です。

(↑同上、第45回基本政策分科会資料より)

2030年は今から9年後なので、原発もその分老朽化します。高浜原発1号機は運転開始からすでに46年、同2号機は45年ですが、2030年には、それぞれ55年、54年が経過することになります。このような老朽原発もフル稼働(設備利用率80%)しなければならないのです。

しかし、ここ最近の状況を見ても、様々な不祥事や故障、人為的ミス等により、原発の再稼働スケジュールが遅れたり、点検期間が長引いたりすることが相次いでいます。また裁判により運転差し止めになるケースもあります(注1)。

「稼働率80%」は、そういった不具合やミス、裁判による運転停止がほとんど起こらないという想定なのです。
これが果たして現実的と言えるでしょうか?

2020年の国内原子力発電所の運転状況が、総発電電力量449億7,520万kWh、設備利用率15.5%(全36基に対する割合)(注2)だったことを考えても、この想定に無理があることがわかります。

再稼働推進が強調された

上記のように、「20~22%」の想定は、実現可能性だけをみても大いに疑問のある「積み上げ」です。
また今回素案には、
「(p.64)原子力事業者をはじめとした産業界は、新たな連携体制として「再稼働加速タスクフォース」を立ち上げ、外部専門家を含め人材や知見を集約し、審査中の泊、島根、浜岡、東通、志賀、大間及び敦賀において、原子力規制委員会による設置変更許可等の審査や使用前検査への的確かつ円滑な対応、現場技術力の維持・向上を進める。」

ということが書き込まれました。

中立厳正な十分な審査を行おうとすれば、当然、時間がかかるものです。「再稼働加速」とうたうことは、そうした審査のあり方に、「早くしろ」と圧力をかけることになりかねません。

老朽原発の長期運転が視野に

20~22%の中には、運転開始から40年以上たつ原子炉の運転も当然想定されています。

福島第一原発事故後、原発の稼働は「原則40年」とされました。40年を超える原発の運転は例外的措置であり、一度に限って最長60年までの延長を申請できることになっています。しかし7月15日、「60年超の運転を可能とする案が浮上している」と報道されました(注3)。

老朽原発の運転はとても危険なものです。劣化しても交換できないものが多いのです。たとえば圧力容器は交換できません。長い間、中性子が当たり続けて、材料の金属が劣化し、脆くなっていきます。地震などの緊急時に停止するするための装置が起動したとき、圧力容器が急激に冷え、割れる恐れがあるのです。原子炉の中と外をつなぐ配管や、一部の電気ケーブルなども交換することはできません。

素案には、以下のように「長期運転」を進めていく方向が書かれており、こちらも今後要注意です。

「(p.64)一方、東日本大震災後に原子力発電所の停止期間が長期化していることを踏まえ、メーカー等も含めた事業者間の連携組織が中心となり、保全活動の充実や設計の経年化対策、製造中止品の管理等に取り組むとともに、安全性を確保しつつ長期運転を進めていく上での諸課題について、官民それぞれの役割に応じ、検討する。加えて、メーカー等も含めた事業者間の連携組織が中心となり、トラブル低減に向けた技術共通課題の検討体制の構築や照射脆化等の経年劣化に係る継続的な知見拡充、安全性を確保しつつ定期検査の効果的・効率的な実施や運転サイクルの長期化を図るための技術的検討が始められており、こうした取組を引き続き進める。」

「原発依存度の低減」の表現は維持

原子力について、「福島復興はエネルギー政策を進める上での原点」として、反省と教訓に触れたうえで、

「(p.7)東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国としては、2050年カーボンニュートラルや2030年の新たな削減目標の実現を目指すに際して、原子力については安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する。」

と書かれています。

「可能な限り原発依存度を低減」について、産業界や電力業界は、この表現を削除すべきという要望を出していましたが、何とか維持されることとなりました。新増設やリプレースについて書き込まれなかったことは、原発廃止を望む全国の市民の声が、プレッシャーとなっていると言えます。

しかし、油断はできません。

素案発表後、7月30日に開催されたの資源エネ庁の審議会(基本政策分科会)でも、オブザーバーとして発言した経済団体連合会や日本商工会議所、そして審議会の複数の委員から、「新増設やリプレースについて書き込むべき」という強い意見が、改めて出されました。この段階でもまったくあきらめていないのです。

また、2050年カーボンニュートラルを視野に入れた表現としては
「(p.23)原子力については、国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく。」

と書かれました。

これは、「リプレースについても余地を残す表現だ」(産経新聞、注4)とも報道されています。総選挙が終わってから、3年後のエネ基改訂に向けて、原発推進の声がいっそう強くなることも十分に考えられます。

私たち市民も、パブリックコメントや選挙に向けて、「原発はフェーズアウトを」「新増設やリプレースは論外」の声を、あげ続けなければなりません。

(吉田明子・満田夏花)

注1:たとえば、いったん再稼働した川内原発、高浜原発の4基は、テロ対策施設(特定重大事故等対処施設)の建設の遅れにより、2020年には停止に追い込まれました(その後、川内原発は再稼働)。定期点検中の伊方原発3号機は、広島高裁による運転差し止め判断で、定期点検が終わっても運転再開できていません(2021年3月18日、広島高裁が差し止めを取り消し)。また、2020年12月4日、関西電力大飯原発3・4号機をめぐり、大阪地裁は国に設置許可の取り消しを命じる判決を出しました。国は控訴し、判決は確定していないため、ただちに大飯原発の運転を止めるわけではありませんが、今後、全国の原発に波及する可能性があります。

注2:原子力産業新聞、2021年1月8日「2020年の原子力発電設備利用率は15.5%」

注3:日経新聞、2021年7月15日「原発60年超運転浮上 建て替え見送り延命頼み」

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA15CZB0V10C21A7000000/

注4:産経新聞、2021年7月6日「原発「必要規模を持続的に」 エネ基骨子案判明」
https://www.sankei.com/article/20210706-ZQBRWGADEVNBZJSLJ3EXPLUDTE/

「カーボンニュートラル」は現状追認?!ーエネルギー基本計画の素案を読む(1)

現在、経済産業省の審議会で「エネルギー基本計画」の改訂が議論されています。「エネルギー基本計画」は3年に一度改訂されるもので、先日第6次計画の「素案」が発表されました。今後「原案」が作成され、その後国民から広く意見を募るパブリックコメントのプロセスが開始されるとみられます。

このブログでは第6次エネルギー基本計画(素案)について、「カーボンニュートラル」というテーマでその中身や問題点をみていきます。

2050年カーボンニュートラル

素案の前文には、「第六次のエネルギー基本計画は、気候変動問題への対応と日本のエネルギー需給構造の抱える課題の克服という二つの大きな視点を踏まえて策定する」と書かれています。また「世界的な状況も踏まえ、我が国は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言するとともに、2021年4月には、2030年度の新たな温室効果ガス削減目標として、2013年度から46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けるとの新たな方針を示した。」とあります。

FoE Japanも含め多くの環境NGOは、先進国たる日本は、2030年に少なくとも60%の温室効果ガスの削減、2050年よりも早期に排出ゼロに近づけていくことを求めていますが、それでは、どのようにカーボンニュートラルを達成するのでしょうか?

化石燃料を脱炭素化?!

注目されるのは火力発電の扱い、特に石炭です。パリ協定の、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃までに抑える目標を達成するためには、先進国は2030年までに石炭火力発電所を廃止しなくてはならないとされています(注1)。

しかし素案では、「火力発電から大気に排出されるCO2排出を実質ゼロにしていくという、火力政策の野心的かつ抜本的な転換を進めることが必要である。(p.25)」「脱炭素型の火力発電への置き換えに向け、アンモニア・水素等の脱炭素燃料の混焼やCCUS/カーボンリサイクル等の火力発電からのCO2排出を削減する措置(アベイトメント措置)の促進(中略)に取り組む。(中略)非効率な石炭火力については、(中略)最新鋭のUSC(超々臨界)並みの発電効率(事業者単位)をベンチマーク目標として設定する。」(下線部筆者、p.74)

としています。つまり、化石燃料を使い続けながら、CO2排出を削減するとしているのです。化石燃料を脱炭素化する、という言い方も矛盾する表現ではないでしょうか。石炭に関しては、バイオマス混焼やCCS付きの石炭火力(発電所から出る温室効果ガスを回収し利用もしくは貯留する技術)の存続を許しているのみならず、非効率と定義したものだけを廃止する計画です。バイオマス発電はカーボンニュートラルとみなされがちですが、現状日本で利用されている多くのバイオマス燃料は海外からの輸入に頼っており、運輸の面で見てもカーボンニュートラルではありません(詳しい解説は下記動画もご覧ください)。またCCSはコストも高く、全ての温室効果ガスを回収できるわけでもないため気候変動対策としてまったく不十分です。

また、アンモニアや水素への過度の期待も気になります。素案の別の箇所を見ると、天然ガスに関する記述の中に「将来的には、燃焼してもCO2を排出しない水素・アンモニアの原料としての利用拡大が期待され、カーボンニュートラル社会の実現後も重要なエネルギー源である」(p.35)と書かれています。

しかし、実際、現在世の中に流通しているアンモニアの多くは天然ガスから作られています。「燃焼時」には温室効果ガスを排出しないかもしれませんが、生成時や運搬時には温室効果ガスを発生させます。実際、水素生産により年間8億3,000万トンのCO2が排出されており、アンモニア生産には約4億2,000万トンが排出されています。これを合わせると世界の温室効果ガス(GHG)年間排出量の約2%を占めます(注2)。

素案ではまた、「余剰の再生可能エネルギー電力等から水素・アンモニアを製造することで、脱炭素電源のポテンシャルを最大限活用することを可能とするだけでなく、CCUSと組み合わせることで、化石燃料をクリーンな形で有効活用することを可能とする。」(p.36)としていますが、現状ではいわゆる天然ガスから作る水素・アンモニアが供給の多数をしめる中で、再エネだけでつくるグリーン水素の供給はあってもごくわずかです。そもそも、アンモニア混焼や水素を石炭と混焼させて発電する技術は開発段階で、実用化されているわけではありません。CCS/CCUS(二酸化炭素回収貯留・利用)も、回収した二酸化炭素を貯留する場がないことやコストが見合わないことなどから日本で実用化の可能性は低いと言われています(注3)。水素・アンモニアの推進は化石燃料のフェーズアウトを遅らせかねません。

事例:JERAが進める「ゼロエミッション火力」

中部電力と東京電力の合弁会社であるJERAは日本最大の石炭火力発電事業者です。水素・アンモニアを「ゼロエミッション火力」として推進する動きは、昨年10月のJERA(東京電力と中部電力の合弁会社)が2020年10月に公表した「JERAゼロエミッション2050」でも明らかです。この構想の中でJERAは、2050年までのネットゼロを目指し、ゼロエミッション火力の普及と洋上風力発電事業を柱とする計画を打ち出しています。また、「2050年時点で専焼化できない発電所から排出されるCO2はオフセット技術やCO2フリーLNG等を活用」としています。

アンモニア火力については、2040年代にアンモニアによる専焼を開始、2030年代前半から既存の石炭火力への20%混焼を達成、そして2030年までに排出源単位あたりのCO2排出量を20%減らす、という計画です。

この戦略の一環として、2024年より、愛知県碧南市の火力発電所で既存の石炭火力発電所1、2号機(いずれも100万kW)の発電基に20%のアンモニア混焼の実証実験が行われますが、100万kWの発電機で20%のアンモニア混焼の場合、50万トンものアンモニアが必要になります(実証実験では100万kW2基なので、合計100万トン)。つまり、碧南での実証実験基を100%アンモニア専焼にするだけでも500万トンのアンモニアが必要になります。また、もしJERAの石炭火力すべてを2030年代にアンモニア20%混焼とする場合は516万トン(USCのみの場合446万トン)のアンモニア、2040年までにアンモニア専焼とする場合2580万トン(USCのみの場合2230万トン)のアンモニアが必要となります。しかし、現状日本でのアンモニアの消費量は100万トンであり、碧南での実証実験で必要なアンモニア量に匹敵します。仮にJERAが石炭火力全機をアンモニア専焼を実現するには、現状の22〜25倍のアンモニアが必要になるのです。

また、この「ゼロエミッション2050」の影で進められているのが、横須賀石炭火力発電所の建設です。同事業は、2023年に新1号機、2024年に新2号機が稼働開始が予定されていますが、JERAに説明を求めても、「実証実験の結果次第、順次アンモニア混焼を進める」という説明で、横須賀火力発電所がいつゼロエミッション火力になるのかは明確に説明されていないままですし、同混焼技術が商業的に確立していない技術であることも伺えます。また、仮に商業的に今後確立されたとしても、化石燃料由来のアンモニア燃料である限り、ゼロエミッション火力とはいえません。

この「JERAゼロエミッション2050」は、まさに解決を先送りにさせる「ネットゼロ」の典型例といえます。

ネットゼロはノットゼロ

カーボンニュートラルやネットゼロとは、人為的な温室効果ガスの純排出量(絶対量)から森林などによる吸収源による吸収量を引いた量を指します。

すでに大気の二酸化炭素の濃度が420ppm近くになっています(注4)。人類にとって安全とされるCO2濃度は350ppmまでとされます。CO2は排出されるとしばらく大気に留まることを考えれば、気候危機を食い止めるためには「人為的な温室効果ガスの追加排出量」をいかに抑えるかが問題です。

ネットゼロシナリオでは、どれだけ吸収量を見込むかによって、どれくらいの追加排出量が許されるのかが変わってきます。10-10も100-100もゼロですが、100の温室効果ガスを回収するより10の温室効果ガスを回収する方がはるかに楽でコストがかかりません。大規模植林は、土地の確保や生物多様性の面から懸念があります。CCS・DACなどの実用化されていない技術によって大気中の温室効果ガスの除去を見込んでいるのであれば(本当に除去できるのかにかかわらず)、それだけ排出量も追加的に増やせることになってしまいます。温室効果ガスの排出量をなるべく早く、真の意味で可能な限りゼロに近づけていく努力が求められている中、アンモニアや水素、CCSを使ってネットゼロを達成しようというシナリオは気候変動対策にならず、むしろ解決策を先送りにし、既存の化石燃料依存社会を維持してしまうことになります。

「ネットゼロ」政策で問われるべき点

  • いつまでに、どの種類の温室効果ガスを(絶対量で)どれだけ減らすのか?
  • 達成のためにどのくらいの量の温室効果ガスを除去するつもりなのか、またどのような技術に依存しているか?
  • 現在から「ネットゼロ」の目標達成日までに、累積の追加排出量は合計いくらと想定されるのか?
  • 企業や政府はどうなったらネットゼロが達成されたと宣言できるのか?
  • ネットゼロシナリオに「オーバーシュート(気候変動が不可逆的に加速する1.5°Cを超えてしまうこと)」を想定しているか?
    ( ”NOT ZERO: How ‘net zero’ targets disguise climate inaction”を参考に作成)

今、私たちに求められているのは、実用化の目処も立たずコストも高い技術への投資や拡大ではなく、化石燃料の確実なフェーズアウトと、省エネや大量消費・大量生産を軸とした社会からの転換ではないでしょうか。

(深草亜悠美・高橋英恵)