気候変動影響を受ける人々の声は国際社会に届いたか(COP閉幕レポート1)

11月6日から18日まで、ドイツ・ボンにて気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)が開催されました。

気候変動の影響を受けやすい島嶼国・フィジーが今回の議長国であったこともあり、FoE Japanは気候変動による損失と被害に対する支援がどれくらい議論されるかなどについて注目してきましたが、残念ながら気候変動による損失と被害についての交渉には、あまり大きな成果が出ませんでした。

FoEグループはこれまでも、先進国や一部の裕福な人々による気候変動への歴史的責任と、一方で多くの被害は貧しい人々や途上国に集中している不公正さを訴え、気候正義を求めてきました。またCOP期間中にもかかわらず、日本の国際協力銀行は住民から強い反対の声も上がっていたインドネシア・チレボン石炭火力発電所への貸付を実行。これについては、アジア諸国の市民社会からも大きな非難の声が上がり、ボンでは緊急アクションが行われました。

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また、FoE JapanはアジアのFoEグループなどと協力して、COP一週目にアジアの気候変動影響に関するレポートの発表や関連するイベントを行いました。

太平洋諸島では海面が上昇し、多くの人々が移住を迫られている。フラッキングを行う企業が干ばつの影響を受ける地域に入り込んでいる。ハリケーンは国全体を機能不全に陥らせ、そして気候変動移民を含む人々の自由な移動を阻止するための壁やフェンスが建てられている—

これらはFoEインターナショナルの「気候変動の影響を受ける人々」のワークショップで聞いた、話の一部です。

世界の人口の60%が集中するアジア太平洋地域は、気候変動の影響を最も影響を受けやすい人々の地域でもあり、ワークショップの初めには、FoEアジア太平洋による新たなレポートの発表も行いました。このレポートは、スリランカ、フィリピン、パプアニューギニアの3つの国のケーススタディを取り上げ、気候変動が引き起こす移住への懸念が高まる中、政府や政府機関がこの問題に早急に対応するよう訴える内容になっています。

ワークショップには、四人のスピーカーが登壇。

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左からステラ-マリア、マリナ、ヘマンサ(ファシリテーター)、カティア、ジョイ

FoEオーストラリア/ブリスベンの気候最前線グループ(Climate Frontlines Collective)のメンバーでパプアニューギニア出身のステラ-マリア・ロビンソンは、「ママの骨」と題した演劇のビデオの一部を上映。海面上昇が原因で母国を離れて新しい国へと移動する人々の現実を扱った演劇です。母国に根付いた文化や伝統、スピリチュアリティは移動のプロセスの中で失われていきます。

ロビンソンは、「オーストラリアは良い隣人ではない。彼らは移民の面倒を見ないし、自国の富の蓄積のためにしか行動しない。この状況を変えるために私たちは共に行動しなければならない。今、行動しなければならない。すぐに手遅れになり、地球という家がなくなるだろう。」と話を締めくくりました。

南アフリカのカルー地域のコイサン族の族長、ジョイ・ダーリングは、コミュニティーの「雨乞い人」。カルーは干ばつの土地という意味だそう。2017年6月、彼は部族を率いて、伝統的な雨の踊りのセレモニーに参加したましたが「雨は降らず、私たちは全ての家畜を失い、植物を植えることもできなくなった。これは、私がコミュニティーを破壊させてしまったことを意味する」と話しました。

コイサン族の干ばつで破壊されたエリアでは、現在、企業がフラッキングを行おうとしています。カルー環境正義運動にも参加しているダーリングは、「私たちは、フラッキングに反対し、私たちの大切な土地を破壊する活動にお金を与えないよう、世界銀行に求めている。お金はコミュニティーを分断し、人々の要求を満たすことはない。」と訴えます。

プエルトリコは、9月の2週間の間にイルマとマリアという2つのハリケーンに襲われ、深刻な状況が続いています。ハリケーン・イルマは電力供給を破壊し、ハリケーン・マリアは水インフラに影響を及ぼしました。「私たちのコミュニティーでは電気も水もなくなり、食料も不足してから60日間が経過した。」カティア・アヴィレス・ヴァスケスは、プエルトリコの小さなコミュニティーとともに25年間活動している彼女が話す姿は、多くの人の感情に訴えました。

ハリケーンによりプエルトリコのインフラ設備の多くが失われ、プエルトリコ政府は深刻な状況にある人々を支援せず、自分たちのために使っていると彼女は指摘します。16人しか死者が出ていないというのは政府のプロパガンダであると指摘し、「私たちの政府は実際には900以上の死体を燃やし、さらに100以上が死体安置所で燃やされるのを待っている。」と話しました。

マリナ・ソフィア・フレヴォトマスは、難民が壁に直面しており、食糧危機、戦争、海面上昇などの自国の過酷な現実から逃げるための自由な移動ができなくなっているという状況を指摘。

「壁を築いているのは、まさしくその移住の原因をつくっている人々である」彼女は、先進国が利益を求めて起こす行動こそが、移住の原因をつくっており、その不正義を訴えました。彼女は、「難民」はいつかは自国に帰るという希望をもって新しい場所に移動している一方で、気候変動移民は、精神面でも自らの場所を追い出され、もう自国には戻れない状況になります。多くの人々が、多くの人が想像できないような状況に置かれています。多くはヨーロッパに向かう途中で命を落とし、中にはヨーロッパとの境界に到達することすらできない人々もいます。この境界の警備には莫大な費用がかけられ、移民たちが到達した時には彼らは歓迎されない状態にあります。

「移民とは恐れるべき存在で、彼らの入国は止めなければいけないという恐れの物語を作り上げた。先進国にはこの不当な行為をやめるという責任がある」「壁は解決策ではない。気候正義は、壁がないという意味である。」

世界中で特に貧しい国や地域の人々が、気候変動の影響を受けています。国連気候変動交渉のもとでは、ワルシャワ国際メカニズムという気候変動の損失と被害を扱う会議の下に、「人々の移動」に関する特別委員会が設けられました。

しかしこのメカニズムには、十分な資源が与えられていません。気候変動による損害を認めてしまうと、気候危機をおこした過失と責任の追及につながる可能性があるために、汚染の原因をつくっている先進国が強い反対をしているからです。

これらの国々は、排出を迅速に削減したり、実際に被害を受けている人々を助けるために必要な資源を供給したりするなどの、歴史的な責任を負うための取り組みを、ほとんどしていないのが現状です。

気候変動の影響を受ける人々の人権、安全と尊厳は、保障され、尊重されなければなりません。
豊かな国々の政府は、一刻も早く排出を削減し、再生可能エネルギー中心で民主的なシステムに移行し、これまで気候変動を起こしてきた任をとらなくてはいけません。

ワークショップのレポートの詳細はこちら(英語)ワークショップのレポートの詳細はこちら(英語)