ドバイ会議終盤〜主要論点のゆくえ〜

12月8日、COP28議長は11日から始まる閣僚級会合に向けて、Majlis(マジリス)という単発の委員会を設立しました。Majlisでは、グローバルストックテイク、適応世界目標、公正な移行、そしてパリ協定第2条1項cなどの資金・実施手段の扱いといった、今回のCOP28 における主要な論点を網羅するパッケージを作成しています。

上述のような注目議題について、COP2週目開始時点では十分に議論しきれなかったということもあり、議長によって指名された交渉官の下、技術的な議論が継続されました。そして、12月8日から10日朝にかけて、グローバルストックテイク、適応世界目標、公正な移行などの決定文書案が第5回パリ協定締約国会合(CMA5)に送られましたが、交渉官レベルで合意がなされたわけではなく、政治的な交渉に委ねている箇所が多くあります。以下、それぞれの主要論点の状況です。

グローバルストックテイク

グローバルストックテイクでは、決定文書の中心に気候目標の野心(ambition)の強化を据えるのか、それとも公平性(equity)を中心に据えるのかで、先進国と途上国で意見の違いが見られています。

途上国は、コロナ禍による社会への影響や、債務問題に直面している中で、先進国による途上国支援の強化がなければ排出削減の強化は困難であると主張しています。また、途上国の一部は1.5度の気温上昇は時間の問題であるとみており、途上国自身が自国の緩和策に資源を投入するならば、適応対策や損失と被害への先進国からの支援は必須だと求めています。

途上国は、先進国による削減目標の強化、途上国への支援 – 特に適応対策支援は先進国の義務であると主張しています。しかし先進国は、削減強化における先進国と途上国の区別を拒否し、途上国への支援を、グローバルストックテイクの決定文書内で言及されることを拒否しています。

また、今回の議論の成果が新しい国別目標(NDC)策定のための単なる情報提供にとどまるのか、それとも、次のNDC策定のガイドラインとされるべきなのかということも、気候変動対策の強化にあたって重要な点です。そして、「共通だが差異ある責任(CBDR)」の原則が、今回のGSTの中に含まれることが重要であり、その原則を実現するためには、気候変動資金、緩和策の強化、適応策、そして、公平かつ迅速で十分な資金による化石燃料の段階的廃止(A fair, fast and funded fossil fuel phase out )が含まれることが重要です。

また、決定文書案には“unabated”の文言が複数出ています。しかし、 “unabated”という文言を入れることによって、CCSや水素、バイオマスなどが認められてしまいます(2023年12月7日ブログも参照)。

適応世界目標

適応世界目標について、異常気象、農業、食料、水問題への影響など、気候変動の影響のさらなる悪化から世界中の人々とコミュニティを守るためには、公平で資金の伴った適応対策が極めて重要です。

決定文書案では、途上国が求めてきた定量的指標は言及されているものの、具体的な指標とはなっていません。途上国は、適応世界目標の実施を確実なものとするためにも、気候の影響による被害を回避した人の割合などの具体的で計測可能な目標が必要であると主張しています。

適応のための資金についても、先進国への拠出の義務を呼びかける案が入りましたが、この文言については、閣僚級の会合での議論が予想されます。

公正な移行に向けた作業計画

公正な移行に向けた作業計画についての決定文書案の前文には、途上国が求める「共通だが差異ある責任」が書き込まれています。本文においても、スコープ(公正な移行の範囲)はエネルギー分野のみならず、社会経済的側面、労働力、そしてそのほかの分野も含まれる案が提出されています。

ただし、途上国が求めている技術移転の実施や移行に伴う資金については、現状、同作業計画の決定文書案の前文でその必要性が強調される程度にとどまっています。途上国や市民社会は、決定文書にて、公正な移行は国内での議論にとどまらず国際的な協力であるべきとして、実施手段の提供が決定されることを求めています。また、COP30の議長国となる予定のブラジルは、公正な移行に向けた作業計画は、南北の格差を無くしてより平等な社会を目指すための作業計画であるべきと主張しています。その他、今後のこの作業計画の立て付けなどについて、決定文書案では、この作業計画はパリ協定締約国会合への勧告を提出するに留まるとしていますが、決定文書本文にて言及される提出を求めています。

国際炭素取引制度

国際炭素取引制度について、パリ協定第6条2項の下で2国間の炭素市場メカニズムについて議論され、パリ協定第6条4項では、国連が管理する国際炭素取引制度が議論されています。6条4項で議論されている制度に関して結論は先送りとなると予想されています。第6条2項については、島嶼国グループやラテンアメリカのグループは、技術的な議論についてはより精査が必要であるとして、また欧州グループも技術的な問題点があるとして、COP29まで議論を継続することを求めています。環境社会配慮がなく不十分な状態であっても、日本は、2024年から6条2項目の事業を開始するべきと求めています。市民社会としては、そもそも国際炭素市場メカニズムは、根本的な排出削減に繋がらず、途上国での土地収奪や人権侵害や環境破壊、また排出の責任の転嫁につながるとして、反対しています。

損失と被害

COP28初日、損失と被害に関する基金(The Loss & Damage Funding Facility)の設立が合意されました。同基金については先進国の複数の締約国から7億ドル以上の誓約がありましたが[注1]、今回誓約された金額は、現状の気候変動による損失と被害額と比較すると(例えば2022年のパキスタンでの洪水での被害額及び復興にかかる額は30億米ドルと推計されている[注2])全く足りていません。

また、過去、緑気候基金(Green Climate Fund, GCF)において、先進国がプレッジした額よりも少ない額しか実際には拠出されていなかったということがあり[注3]、この損失と被害の基金に関しても同様のことが起きないよう注視が必要です。そして、合意された基金の文書においては、今後どのように定期的にこの損失と被害の基金に対して資金を補充していくかということは書かれておらず、これからも定期的に拠出があるよう監視していかなくてはいけません。

実際の基金の運用面に関しても、同基金は当面、世界銀行の下に置かれることになっています。決定文書においては、世界銀行による途上国への投融資に関する様々な要件が損失と被害対応を阻まないよう、世界銀行に対して条件を提示しています。世界銀行には、COP28閉会後6ヶ月以内に、提示された条件をどのように守るのかの計画を文書化・提出することが求められており、同計画が提出されなければ、独立した基金へと移行することとなっています。

懸念点はあるものの、この基金の設立は、非常に重要で歴史的な一歩です。

市民社会の動き

12月9日には「平和と人権尊重なくして気候正義は実現しない(There is no climate justice without peace and human rights)[注4]」として、気候正義とガザでの永遠停戦を求めるマーチが開催され、会場内の多くの市民社会が参加しました。

また、12月11日には、 “People’s Plenary”という、市民社会による全体会合を模したアクションも開催されました。パレスチナ市民、若者、労働団体、小農民、女性グループ、環境団体などの市民社会から、ガザでの永遠停戦や、脱化石燃料を伴う公正な移行、利益のためではなく人々のための気候変動対策、など気候正義の実現を求める力強いメッセージが響き渡りました。

世界での国家による極度の弾圧や戦禍は人々の間に分断をもたらしており、市民社会の中でも今回のドバイ会議の参加をめぐって議論がありました。それでも、COP28の現場では開催期間中、平和や人権、民主主義のために連帯の声をあげる人々の姿がありました。FoE Japanは、公正で平和な社会のために声をあげる市民社会とともに、交渉が気候正義に基づいた結果となることを求めます。

(髙橋英恵、小野寺ゆうり)

[注1] The Guardian “$700m pledged to loss and damage fund at Cop28 covers less than 0.2% needed”, 2023/12/6, https://www.theguardian.com/environment/2023/dec/06/700m-pledged-to-loss-and-damage-fund-cop28-covers-less-than-02-percent-needed

[注2] World Bank “Pakistan: Flood Damages and Economic Losses Over USD 30 billion and Reconstruction Needs Over USD 16 billion – New Assessment”, 2022/10/22, https://www.worldbank.org/en/news/press-release/2022/10/28/pakistan-flood-damages-and-economic-losses-over-usd-30-billion-and-reconstruction-needs-over-usd-16-billion-new-assessme

[注3] Climate Home News “Green Climate Fund ambition at risk after ‘disappointing’ pledges”, 2023/10/5, https://www.climatechangenews.com/2023/10/05/green-climate-fund-ambition-at-risk-after-disappointing-pledges/

[注4] Friends of the Earth Internationalでは、2023年12月8日、”Palestine is a cause of human rights and climate justice“を公表。