COPは化石燃料ロビイストで溢れかえっている!? – 化石燃料廃止に向けた強い取り組みは打ち出されるのか?

ドバイで11月30日から開催されているCOP28の第一週目が終わりを迎え、折り返し地点にきています。一週目には、ハイレベルセグメントやワールドリーダーズサミットで各国首脳らがスピーチを行い、議長国等による政治声明も数多く出されました。

今回のCOPでは、グローバルストックテイクや気候資金、ジャストトランジションなどの論点に加え、「化石燃料」について特に注目が集まっています。

気候変動の原因である温室効果ガスの人為的排出の7割がエネルギー由来です。そのため化石燃料の生産と消費を段階的に廃止していくことが重要ですが、COPの歴史の中で化石燃料が国際交渉の中で正面から議論され、決定文書に盛り込まれたのは2021年のCOP26グラスゴー会議が初めてでした。この時、排出削減対策の講じられていない石炭火力の段階的縮小ということが決定文書に盛り込まれましたが、続くCOP27ではそれよりさらに強い文言が期待されていました。残念ながらCOP27では進展が見られなかったのですが、COP28でさらに強い取り組みが打ち出されるか、注目されています。

また、議長国のアラブ首長国連邦が産油国で、議長自身が化石燃料会社のトップを勤めていることもあり、化石燃料廃止に向けた強いイニシアチブは期待できないのではと懸念されているこも化石燃料に関する交渉が注目される背景にあります。議長国がCOPを商談の場に使おうとしているという報道もありました。

COPの場における利益相反の問題は以前から問題視されていました。化石燃料という気候変動の原因から利益を得ている化石燃料企業などの参加者がCOPに参加し、交渉に影響を与えていることが指摘されてきましたん。そのため、多くのNGOが明らかに利益相反である化石燃料企業の参加を防ぐためのルール作りを求めており、今回のCOPで初めてCOP参加者には所属先を明らかにするよう求められるようになりました。ただし、化石燃料会社の参加を阻むことには繋がっておらず、今回のCOPには少なくとも2456人の化石燃料ロビイストが参加していることがわかっています(一方、先住民族の参加は316名)。

さて、過去の交渉では、カバー決定の中に化石燃料に関する文言が含まれていました。COPの会議では様々な会議(パリ協定の締約国の会議=CMAや、補助機関会合=SBI、SBSTAなど)が同時進行で行われます。これら全体をカバーする決定文書ということで、カバー決定が採択されることがあります。今回の交渉では、議長国は、グローバルストックテイク(GST)に関する議論の中で成果を出したいという方向性を示しており、GSTでの交渉でどのように化石燃料が扱われるかが注目されています。

また3年間かけ準備したGSTは今回のCOPで結論を出して終わるので、先進国は、既存の緩和作業計画で今後フォローアップすべきと提案しています。第一週目、GSTと緩和作業計画の交渉両方でその提案を出してきていますが、途上国は、先進国が緩和作業計画の中で資金支援を議論させないため、GSTの結論をそこに引き継ぐことに強く反対しています。

12月5日の早朝のGSTに関する文書のドラフトに残されている様々なオプションをみると、再生可能エネルギー・省エネの世界目標や、排出削減対策を講じた化石燃料、除去技術に触れたものまで残っています。市民社会が求めているのは、石炭だけではなくすべての化石燃料を含めた、また「対策なし/あり」に関わらず、そしてPhase-down(段階的削減)”ではなく”Phase-out(段階的廃止)”まで踏み込んだ、化石燃料経済からの脱却です。

排出削減対策とは一体何を意味するのでしょうか。2021年G7の首脳宣言に排出削減対策が講じられていない(Unabated)という言葉が出てきた際、英国政府はプレスリリースの中で、「対策が講じられていないもの(Unabated)とはCCSなどの技術がないものをさす」としていました。また、IPCC第6次報告書は、CCSを排出削減対策と見なすには90%以上の脱炭素化(排気からの炭素除去)であるべきとしています。

化石燃料事業に対する排出対策のあり・なしという議論は、脱化石燃料の議論を遅らせてしまうという強い懸念の声が出ています。排出対策を講じることを議論するということは、根本的な化石燃料からの脱却(排出源を断つ)という必要性を曖昧にしてしまい、排出対策技術の方への投資にばかり資金や注目が集まってしまいます。また「排出対策を講じる」ということは既存の化石燃料インフラを利用しつづけることが前提で、化石燃料への依存を長引かせてしまうことになります。(参考:Q&A Why defining the ‘phaseout’ of ‘unabated’ fossil fuels is so important at COP28

90%以上の脱炭素化を可能にするために、注目されているのがCCS(炭素回収貯留)です。CCSは、発電所や工場から出るCO2を回収し地中もしくは海中、海底下に貯留する技術を指します。しかしながら、CCSが大規模に運用されているケースはほとんどなく、回収率も90%を下回る60〜70%で、さらに炭素以外の温室効果ガスを回収できるわけではありません。

(CCSについてはこちらもチェック→https://foejapan.org/issue/20231121/14984/ )

クライメート・アナリティクスは、「化石燃料の排出削減対策」を議論することはCCSによって排出対策が可能であるという「誤った認識」を作り出すリスクがあると指摘しています。排出対策があろうとなかろうと2050年までに化石燃料のフェーズアウトが必要であるとした上で、実際、現状の低い炭素回収率でCCSに大きく頼ったエネルギーシナリオを実行すると、86Gtの二酸化炭素が余計に排出されると試算しています。

この文脈で注目されるのは日本の動向です。

日本政府は、CCSだけでなく、石炭火力発電所でアンモニアを混焼したり、バイオマスを混焼することで排出削減対策になると主張しているからです。同じ論理で、アジア諸国に混焼技術を輸出することはアジアの脱炭素化に貢献すると主張しており、それがグリーンウォッシュであるということでCOP27、COP28で気候変動対策を後退させようとする国にNGOが与える不名誉な賞である「化石賞」が贈呈されました。

一方で、交渉の外で脱化石燃料に関する様々な前向きな動きもありました。

COP26グラスゴー会議で、議長国英国が主導したクリーンエネルギー・トランジション・パートナーシップ(CETP)は、海外における化石燃料事業への公的支援を停止し、再生可能エネルギー支援に転換するという内容で、当時日本を除くG7全ての国が賛同したことで話題になりました。このイニシアチブに今回新たにノルウェーとオーストラリアが加盟したのです。

2021年にデンマークとコスタリカによって立ち上げられたBeyond Oil and Gas Alliance (BOGA) という石油・ガスの生産の段階的廃止を求める連合にも、今回のCOPで新たにスペイン、サモア、ケニア、コロンビアが参加することが発表されました。

また、12月4日には世界各国から集まった市民によって、COP28会場にて日本による化石燃料投融資に抗議するアクションも行われました。アクションにはピカチュウも登場し、「#SayonaraFossilFuels(さよなら化石燃料)」のスローガンを掲げアピールしました。

フィリピンの若者団体Youth for Climate Hopeの呼びかけ人であるKrishna Ariolaは、「日本は1,000万ドルを損失と被害基金に拠出すると約束したが、化石燃料に執着しフィリピンのような国が危険にさらされることに費やした数十億ドルに比べれば取るに足らない」と述べ、気候変動対策に貢献するふりをしながら実際は気候危機を悪化させる日本を批判しました。

(©︎FoE Japan)

バングラデシュのWaterkeepers Bangladeshのコーディネーター、Sharif Jamilは「日本が、気候危機に対する誤った対策と実証されていない技術を用い、輸入に依存する化石燃料を軸としたエネルギー基本計画を作成することで、私の国に最も重大な害を及ぼすことになるのは、非常に残念なことだ」とし、日本がバングラデッシュのエネルギー計画作成に関与し化石燃料を推進していることに抗議しました。

(©︎FoE Japan)

また、米国Port Arthur Community Action Networkの創設者であるJohn Beard, Jr.は、「私が住むコミュニティは、世界でも最もがん罹患率が高い地域の一つであり、有害なフラッキングガス(水圧破砕法を用いて採掘されるガス。化学物質を含んだ水を地層に圧入する。)による影響に苦しんでいる。日本が気候を破壊し、世界がパリ協定の目標達成を妨げている。日本の投資は、南西部の先住民族からテキサス、ルイジアナ、メキシコの港近くに住む人々に至るまで、米国の人々にさらなる打撃を与えるだけだ。」と話しました。

温暖化を1.5度以下に抑えるために欠かせない脱化石燃料と、いまだに化石燃料に固執する日本。COP28で脱化石燃料の方針が明確化されるのか、注目が集まります。

(深草亜悠美・長田大輝・小野寺ゆうり)