台湾・エネルギーシフトの現場を訪ねて(その3)

台湾報告 その1 その2

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原発・石炭火力に反対する市民の声をお伝えしてきましたが、台湾はどのようにエネルギーシフトをしようとしているのでしょうか。

今回はエネルギーシフトのキーとなる、再生可能エネルギーの拡大とエネルギーシフトへの道筋についてまとめたいと思います。

台湾の再エネ

2016年10月、蔡英文政権は「2025年までに再生可能エネルギー発電量を20%とする目標」を閣議決定しました。

台湾が2025年までに脱原発する根拠となっている改正電業法(2017年)は、再エネ市場の開放(注:発電部門はすでに民間参入可能)と送配電網へのオープンアクセスを促進することが目的の一つに掲げられています。これには将来的には一般の電力自由化、地元レベルやコミュニティベースの発電会社の設立も可能することが含まれています。

現在、台湾で再エネが発電に占める割合は5パーセント(2015年)ですが、注目される太陽光と風力についてそれぞれ見ていきます。

★太陽光
太陽光に関しては2025年までに20GW(うち3GWがルーフトップ)に増やす計画ですが、直近の2カ年計画では、2018年までに1.52GW(プラスして)増やす計画になっています。

しかし、限られた領土と山勝ちな地形、そして台風が多いことなどから地滑りのリスクもあり、太陽光パネルの設置場所の確保が課題となっています。

そのため前政権下ではMillion Solar Rooftop プロジェクト(2012~)を通じ、補助金の導入や技術支援などで、屋根への太陽光パネル設置を促しました。

現政権は新しく10000ヘクタールの農地を太陽光発電用にすると発表しています(6GW分に相当)。

台湾は太陽電池の生産量が世界で2番目に多い国ですが、国内の太陽光設備はこれからで、ソーラーシェアリングの取り組みや、引き続き屋根のポテンシャルマッピングなども行われています。

★風力
実は台湾滞在中、タイミングよくEUと台湾の合同で開催された風力開発のシンポジウムに参加することができました。現在台湾政府は洋上発電開発に積極的に乗り出しています。

シンポジウムでは台湾の風力開発計画の進捗や、ヨーロッパの経験共有、大手グローバル銀行などが台湾で風力開発に投資する際のポイントなどについて解説。多くのグローバル企業が台湾でのビジネスチャンスを狙っていること、そして台湾政府も積極的に投資を呼び込もうとしている姿勢が見て取れました。

現状では、陸上風力は国営が294MW、民営が388MWで、全再エネ発電の14.4%を占めています。
洋上風力のポテンシャルが望まれている台湾海峡では、開発のためのゾーニングが行われ、2025年までに3GWを目標にしています。しかし様々な課題もあります。

そのうちの一つは、漁業者に対する補償です。洋上風力を建設することにより、操業に影響を受ける漁業者やコミュニティに対しての補償金については今も一部で話し合いが続いているそうです。

他にも台湾海峡には白イルカの生息地があり保護団体が風力開発に反対していることです。シンポジウムの最中にも、反対派の団体がイルカ保護を呼びかけ風力に反対するリーフレットを会場内で配布していました。

課題を乗り越え、エネルギーシフトの達成を

持続可能でないエネルギーに頼らない世界に向かっていくために、どのような変革をえがくのか?台湾で様々な方とお話をしましたが、その中の多くの方が言っていたのは「原発・石炭に頼らないという共通認識(consensus)があり、台湾はそれに向かう途中(in transition)だ」という言葉です。

国立台湾大学の林子倫教授は、政治学の教授ですが、温暖化対策の専門家として委員会にも参加されています。

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中央が林教授。台湾国立大学にて

台湾は国連に正式に加盟しておらず、日本とも国交はありません。そのため、国際的な気候変動の会議においてはオブザーバーとしての参加しか認められていませんが、政府は温室効果ガスの削減目標も定めており(数値目標は、2050年に2005年比50パーセント削減)、台湾でもすでに11の都市が、気候変動に対してコミットすることを宣言し、グローバルなネットワークに参加しています。

林教授は、現状の台湾のシナリオだと2020年までは排出量が増え続け、2025年には減少に転じるだろうと話します。またエネルギーシフトを達成するためには、まだまだ議論や技術が必要で、今後、台湾政府は市民も巻き込んで「エネルギー変革白書」を作成する予定とのことです。これは、新しい民主的で政治的な取り組みでもあり、林教授が中心となって進めています。2017年7月から議論が始められるとのことです。

また、脱原発に関しても2025年というゴールが定められましたが、詳細なプランができているわけではないので、政府の高いレベルで脱原発特別タスクフォースが立ち上げられるとのことでした。

林教授は政治や公共政策の専門家で、エネルギーの問題を市民の政治参加の問題としても捉え、いかに市民がエネルギー政策への意思決定に参加できるか研究と実践を行っているそうです。(上記の委員会や市民を巻き込んでの白書作りも林教授が大きな役割を果たしています)

林教授はエネルギーシフトの一つの課題として「public acceptance(市民による同意、理解)」の問題を挙げます。

林教授曰く、過去4050年、台湾の人々はほとんど政府を信用していませんでした。その国民感情は今も根強く残っていて、政策決定プロセスへの参加を促すためにも丁寧な信頼回復が必要で、そのためにどう対話の場をデザインしていくか、政府と共に取り組んでいるとのことでした。

前回のブログで登場した、リャオさんは、政府の政策が本当に市民の利益になっているのか、そして本当に必要な電力量がどれくらいなのか、その議論が必要だといいます。「政府の風力開発計画は、海外企業や大手企業しか参入できず、コミュニティに資するものになっていない。電力開発の補助金は企業には資するかもしれないが、もっと包括的で透明性の高い再エネのポテンシャルのマッピングが必要。」

また、Air Clean Taiwanのリーダーの楊さんは「(風力開発の影響を受ける)漁業者が補助金をもらっても持続可能でなく、もし風力発電をそこでやるなら、その地域の人がシェアホルダー(本来は株主という意味ですが、ここでは利益を共有する人々)になるような仕組みにするべきだ。今後はコミュニティ発電にも取り組みたい。」と話していました。

もちろん、エネルギーシフトを達成する道のりは短くはなく、課題も山積しています。しかし、脱原発を達成するという政治的な意思と、市民による継続した取り組み、若者もたくさん巻き込んでの活動、草の根の活動から政策決定プロセスに積極的に参加していく市民の存在、「どうやって脱原発・脱石炭への道筋をデザインしていくか」という問いに課題を理解しつつも前向きに取り組む台湾の市民社会の一面が見られた気がします。

他にもお話を伺った方や団体がたくさんありますが、詳しくはセミナーで報告したいと思います。→報告会:台湾エネルギー革命~脱原発方針をかちとった人々の力(7/6)