福島第一 増設ALPS(多核種除去装置)でヨウ素129の基準超え60回以上 除去水処分の説明・公聴会の前提は崩れた

トリチウムしか残留していないはずが…

経済産業省は、東電福島第一原発における多核種除去装置(いわゆるALPS)処理水の処分に関する説明・公聴会を8月30日、31日に富岡、郡山、東京で開催しようとしています。経産省は、処理水はトリチウム以外の放射性物質はほとんど除去されていること、トリチウムは弱い放射線しか出さず、自然界にも存在し、生物濃縮はせず、世界中の原発から排出されているとして、海中放出を行おうとし、原子力規制委員会もこれを後おししています。(ちなみにタンクにたまっているトリチウムの量は約1,000兆ベクレルです。)

ところが、このところ、ALPS処理水にヨウ素129、ストロンチウム90が告知濃度限度(基準値)を超えて残留していたことが明らかになりました。

経済産業省のトリチウム・タスクフォースや多核種除去設備等処理水の小委員会では、トリチウムしか残留していない前提で検討が行われており、他の核種については検討が行われていません。

東電の公表データによれば、ヨウ素129については既設ALPS以外に増設ALPSで、告示濃度を超える値が2017年4月~2018年7月まで60回以上計測されており、出口A~Cでまんべんなく見られます。最高は2017年9月18日の62.2Bq/Lでした(下図)。つまり、何かのはずみに1回高い値がでたのではなく、慢性的に発生しているのです。

増設ALPS出口グラフ

出典:東電公表データ(福島第一原子力発電所における日々の放射性物質の分析結果、「増設多核種」)より作成

ストロンチウム90に関しては、増設ALPSでは2017年11月30日に141Bq/Lと告示濃度(30Bq/L)を超えていました(出口C)。

8月22日の会見で、原子力規制委員会・更田委員長は「2015年くらいに告示濃度を超えるものがあると東電から報告があった」「告示濃度超えがあったのは、古い(既設)ALPSの出口Cでしょう」などと発言しています。更田委員長はかねてより、ALPS除去水に関しては、「海洋放出以外の選択肢はない」とし、今回のヨウ素129などについても、「薄めて告示濃度以下にすれば放出をとどめることはできない」という趣旨の発言をしています。

2015年に東電が告示濃度を超えたと報告し、その対策は取られていたはずです。しかし、2017年4月から現在にいたるまでヨウ素129が60回以上も告知濃度を超えているのはなぜなのでしょうか? 原子力規制委員会や、経済産業省は、こうした状況を把握していたのでしょうか。原子力規制委員長の発言をみる限り、正確に認識していたとは思えません。

ヨウ素129は、半減期1,570万年。特に海藻に濃縮・蓄積される。体内にとりこまれるとほぼすべて甲状腺に集まり、とりわけ胎児や乳幼児への影響が懸念されます。「薄めて出せばよい」とは思えません。なお、放射性ヨウ素については、「美浜の会」の以下の資料が、生物の進化の過程とヨウ素について、また放射性ヨウ素の危険性についてわかりやすく解説しておりたいへん興味深いです。>こちら

海洋放出以外にも有力な代替案がある

ちなみに、研究者・技術者・NGOなどが参加する「原子力市民委員会」は、トリチウムのリスクに関して諸説ある中で海洋放出を強行するのではなく、恒久的なタンクの中に保管することを提案しています。>詳しくはこちら

国家石油備蓄基地で使用している10万トン級の大型タンクを10基建設して、その中に100年以上備蓄する案です。トリチウムの半減期は12.3年。100年で減衰により、トリチウムの量が現在の約1000分の1に減少します。大型タンクでの貯留は、すでに十分実績のある手法であること、現在の1,000トン容量のタンクに比して面積効率がはるかに高いという利点があります。十分現実的な提案なのではないでしょうか。タンクの設置場所については、福島第一原発の敷地内にこだわらず、その周辺またはその他の東電所有地も考えられます。このような地上における保管案が十分に検討されているとは思えません。

また、予定されている説明・公聴会も、海洋など環境中への放出前提のものになっており、こうした代替案については、提示されていません。

いずれにしても説明・公聴会の前提はくずれました。経済産業省は、改めて検討をやりなおすべきでしょう。

(満田夏花)