気候正義の観点からみるCOP28の論点〜気候危機の根本的な解決策を議論しない国際交渉から脱却することはできるのか

11月30日から、アラブ首長国連邦にて、第28回気候変動枠組条約締約国会議が開催されます。

IPCCなどが明らかにしているように、長年の気候変動交渉にもかかわらず、排出は削減されずむしろ増加傾向にあります。2015年のCOP21で採択されたパリ協定には、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前 に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること」が掲げられていますが、世界全体で気温の上昇を産業革命前と比較して1.5℃以下に抑えるためには、2035年までに2019年比で60%の温室効果ガスを削減しなければなりません[注1]。

先進国による温室効果ガスの削減目標の強化も遅々として進まず、途上国の貧困層を中心に、気候変動による損失と被害に苦しむ人が増えています。そのため、グローバルサウスを中心とした多くの市民社会は、具体的な行動や損失と被害への支援が進まない状況に強い懸念を示しています。今回のCOP28の開催にあたって、FoE インターナショナルでは、会議の成果が公正かつ公平な気候変動対策をもたらすものとなるよう求めています。(今回の開催にあたってのFoE インターナショナルの声明はこちら

気候正義の観点から、注目すべき論点として、「グローバルストックテイク」「脱化石燃料」「再生可能エネルギー拡大」「適応世界目標」「公正な移行」「緩和作業計画」が挙げられます。それぞれの点について論点をまとめました。(気候資金、炭素市場については、別途詳細を掲載予定)

グローバルストックテイク

COP28(CMA5[注2])で一番重要と考えられている論点が、グローバルストックテイク(GST)です。パリ協定の下で各国が「国の決定する貢献(National Determined Contribution、NDC)」を提出することになっています(パリ協定第4条)。グローバルストックテイクは、パリ協定の目標達成に向けた進捗評価のことを指します。5年ごとに行うと定められており、COP28は1回目のグローバルストックテイクの結論を出す回にあたります。このグローバルストックテイクが注目される理由としては、今回の評価をもとに、次期NDCに向けた指針が提言されるためです。

グローバルストックテイクにおいては、温室効果ガスの削減目標だけでなく、適応、実施行動や途上国への支援、損失と被害の対策、気候変動対策の負の影響について、包括的に評価します。すでに、COP28の前に具体的な情報を網羅した報告書が出されており、COP28ではこれにもとに、次期NDCに向けた指針が提言の策定の交渉が進められます。

このグローバルストックテイクについて、先進国は「先進国/途上国」といったこれまでの国際交渉の構図をつくりかえる機会にしようとしています。具体的には、パリ協定では「先進国は途上国への支援やキャパシティ・ビルディング、資金提供の責任を負う」(パリ協定第9~11条)とされていますが、これからは、パリ協定第2条1項の「資金の流れはパリ協定に整合するよう」との部分を強調し、支援に関しては民間資金主体で、また、パリ協定第9条(先進国から途上国への支援)はほんの一部であるとしようとしています。1.5℃目標の達成も危ぶまれている中、改めて交渉の枠組みを作りかえるような話を持ち込むこと、そもそも、これまでの責任も十分に達成されていないという観点から、途上国はこの動きに強く反発しています。

脱化石燃料

化石燃料経済からの脱却に舵を切れるかについても、COP28で注目を集める論点の一つです。決定文書に初めて化石燃料に言及することができたのはCOP26とつい最近のことで、COP26では石炭火力の “phase-down(段階的削減)”が明記されました[注3]。今回のCOP28では、石炭だけではなくすべての化石燃料を含めた、また「対策ある/なし(unabated/abated)」に関わらず、”Phase-down(段階的削減)”ではなく”Phase-out(段階的廃止)”まで踏み込み、将来的に化石燃料経済からの脱却へと合意ができるかが注目されています。非常に困難な交渉と予想されますが、これはCOP28の成果を図る一つの指標でもあります。

再生可能エネルギー目標

G7やG20など、さまざまな国際交渉の場で再生可能エネルギー普及拡大の議論が取り上げられる中、今年9月にIEAが公表した改訂版の「Net-Zero Roadmap 」によると、1.5℃目標の達成のためには、2030年までに世界の再生可能エネルギー導入容量を3倍、エネルギー効率の改善率を年間2倍にする必要があるとの指摘がされました。COP28議長もこの動きを前向きに捉えており、COP28ではこの点をしっかりとした形で合意に踏み込み、次の行動に移せるかが注目すべき点となっています。ただし、先述した脱化石燃料と同時に実施されなければ、需要の増加分を再エネで賄うだけで、化石燃料の脱却には繋がりません。また、途上国での実質的な普及策も入れていかないといけません。さらに重要なこととして、再生可能エネルギーへの移行にあたって、膨大な金属資源が世界的に必要になりますが、資源開発という名の下、途上国での資源収奪が悪化していくことへの対策が必要です。

GGA(適応世界目標)

気候危機が深刻化する中、温室効果ガスの削減だけではなく、気候変動への適応も急がれています。パリ協定では、世界的な適応策について議論する適応世界目標(Global Goal on Adaptaion、 GGA)という枠組みがあります。気候変動の影響が深刻化している途上国にとって、適応世界目標は非常に重要なものであり、世界的な適応対策の実施にあたって具体的に進捗をはかれるよう、具体的な数値目標や指標の策定・合意を目指しています。一方、先進国は、適応策はすべての国がそれぞれの国の政策として実施していくべきであるとして、世界共通の指標の策定に反対しています。また、先進国は、適応の資金問題をこのフレームワークの合意に含めることにも強く反対しています。

公正な移行に向けた作業計画(JTWP)

前回のCOP27では、公正な移行に向けた作業計画の策定が合意されました[注4]。これは、途上国の長期的な経済移行に対し、国際的に支援を促進させるための作業計画であり、COP28では作業計画の中身を決め、来年から運用を開始するものとしています。しかし、先進国の中には、公正な移行に向けた作業計画は緩和作業計画と競合する側面があるとして、この公正な移行に向けた作業計画は1-2年で打ち切り、緩和作業計画の方に議論を集中するべきとの主張しています。また、経済移行の中でも、エネルギー部門における雇用と労働に絞った議論をすべきであるとの意見や、また先進国/途上国の区別なく議論すべきとの意見もあります。COP30までこの作業計画の策定の議論は続きますが、初回であるCOP28でどのような方向性を実現できるのかは注目すべき点です。

緩和作業計画(MWP)

パリ協定第3~5条では、1.5℃/2℃に抑えるための温室効果ガスの削減、つまり「緩和」の必要性が記されています。緩和作業計画は、このパリ協定の条文に従い、COP26でその計画策定が決定されたものです。前回のCOP27では、緩和策についての対話や、情報交換とベストプラクティスの共有をする機会とすることが決定されました。

COP28では、先述の再エネ普及及び省エネ率改善にかかる世界目標に関する議論がここに持ち込まれる可能性がある一方、国内の炭素市場の整備や水素アンモニア・CCSといった、本来の解決策から脇道に逸れる対策の議論やそれらへの投資促進に関する議論が持ち込まれる可能性があり、気候正義を訴えるグループとしては、そのような誤った気候変動対策が、緩和作業計画で議論されるべきではないと考えています。

国際炭素取引制度

パリ協定の第6条では、気候変動対策の国際的なアプローチの実施を定めています。パリ協定第6条では、市場メカニズム(第6条2項、第6条4項)と、非市場メカニズム(第6条8項)が言及されていますが、市場メカニズム(第6条2項、第6条4項)が第6条のメインの議題となっているのが現状です。現在議論されている市場メカニズムは国際炭素取引制度とも呼ばれ、例えば、A国で削減または吸収・除去された量をB国が買い、B国の削減量とすることができるという、オフセットの考え方に基づくものです。

この議論に対し、FoEI含め多くの市民社会は、すでに1.5℃目標の達成が危うい中、排出量の削減ではなくオフセットの議論に時間を使っていること自体がおかしいと、声を上げています。

さらに、COP28では、吸収・除去のクレジットの方法論として、「自然を活用した対策」やCCSといった、大規模な土地を必要とする案が提案されています。しかし、このような事業はコストの安い途上国の土地や海洋で行われる可能性が高く、海外投資家による土地収奪、気候植民地につながるものとして、市民社会は強く反対しています。

このパリ協定の第6条の議論は多くの論点があるため、すべての論点で合意できない可能性があると言われていますが、各国の報告書様式、国際登録簿、各国内の制度の整備要件に合意できれば、来年から部分運用が始まると予想され、その場合、参加を希望している途上国での制度整備が来年早々から始まるのではと、気候正義を求める市民社会は懸念しています。

COP28に求められるもの

歴史的責任に基づく排出量削減目標の設定、化石燃料の廃止、途上国での再生可能エネルギーや省エネ転換への支援を含んだ再エネ国際目標、COP27で合意された損失と被害基金の来年からの即時運用開始と先進国が基金への拠出義務を負うことが求められています。

今回のCOP28は、世界での国家による極度の弾圧や戦禍を踏まえ、COPに出席しないことを選択した人々が多くいます。しかし、COP28の現場にいなくても、世界中で人権、民主主義、環境正義のために立ち上がる人々がいます。FoE Japanは、公正で平和な社会のために声をあげる市民社会に連帯し、彼らの声を強調し、世界が気候危機に向き合うことを、そして気候正義に基づくいた根本的な解決策を訴えていきます。

髙橋英恵、小野寺ゆうり、深草亜悠美

[注1] AR6 Synthesis Report Summary for Policymakers, https://www.ipcc.ch/report/ar6/syr/downloads/report/IPCC_AR6_SYR_SPM.pdf

[注2] COPでは、「国連気候変動枠組条約」に基づく会議体、「京都議定書」に基づく会議体、「パリ協定」に基づく会議体の3つがあり、順に「COP」「CMP」「CMA」と呼ぶ。

[注3] https://unfccc.int/sites/default/files/resource/cma2021_10_add1_adv.pdf

[注4] https://unfccc.int/sites/default/files/resource/cma2022_10a01_adv.pdf