フィリピンの先住民族・人権活動家のジョアン・カーリングさん、国連環境計画の「地球大賞」受賞

国連環境計画(UNEP)の「地球大賞」(Champions of the Earth)を私たちの古くからの友人で、フィリピンの先住民族・人権活動家であるジョアン・カーリングさんが受賞したとの嬉しい報せが届きました!>UNEPのリリースはこちら

ジョアン
彼女はフィリピン、また、アジア地域の先住民族団体で20年以上活動。ごく最近では国連にエクスパートとして任命され、先住民族やSDG関連の会議等に参加してきましたが、今年2月にフィリピン政府が出したテロリスト600名以上のリストにも名前が掲載され、弾圧の対象となっています。

FoE Japanとジョアンさんの付き合いは、彼女がフィリピ北部のコルディリェラ人民連合(CPA)代表として、サンロケダムの問題に取り組んでいた頃からで、2002年の世界ダム委員会のシンポジウムや2003年の世界水フォーラム(京都)のときに来日してもらいました。

彼女はビデオでも見られるとおり、知的でスマートですが、穏やかで優しく、コミュニティーの信頼も非常に厚い活動家です。冗談も大好きで、小さな身体からこれでもかという程、大きな笑い声を立てるので、周りにいる人たちをよくびっくりさせています。そんなところも、皆から愛される理由だと思います。

私(波多江)個人としては、サンロケダムの問題に取り組み始めた2001年に初めてフィリピンで会い、2004年に活動拠点を東京からフィリピンに移した際の最初のハウスメイトでもあります。フィリピン北部で使われているイロカノ語の私の先生の一人とも言えます。今では、サンロケダムに反対して2006年に暗殺された農民リーダー・アポの奥さんと一緒に、クリスマス時期にバギオの彼女の自宅を訪ねるのが年行事になっています。

ジョアン・カーリングさんの受賞を心から祝福するとともに、身体、そして身の安全に気を付けながら、世界の先住民族や社会的弱者のために益々活躍していってもらいたいと思います。

(波多江秀枝)

貧困と森林のつながりへの気づき

ニュースレターやブログなどを通じFoEの活動は見えてきても、スタッフの姿は見えないことが多いと思います。どんな人がFoE Japanで働いているのでしょうか?なぜFOEに?
インターンスタッフに3名の職員にインタビューをしてもらいました。

第二弾は「森林保全と生物多様性チーム」の三柴淳一です。

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FoE Japan では何をされていますか?
木材消費国側から森林を守るための活動「フェアウッドキャンペーン」に2004年から携わっています。

なぜ「森」だったのでしょうか?
元々電気系の仕事をしていましたが、青年海外協力隊でガーナに行ったことが転機になりました。当時のガーナでは計画停電が行われ、ガーナの工業高校では電気を必要とする電気電子工学の実験が出来ないという状況でした。このようなアフリカの生活を見たことで、開発や貧困の方へ関心を寄せるようになりました。その後、大学院へ進み、貧困問題について学んでいく中で、世界的な貧困層の多くは森のそばに住んでいるということを知り、「森」に関わっていくことにしました。

FoE Japan に入るきっかけは?活動のモチベーションは何ですか?
入ったきっかけは、たまたま2004年にスタッフ募集があったからです。ですが、その後、2006年にボルネオ島の熱帯林に調査に行ったことで、エンジンがかかりました。物事は必ずしも予定調和的には動かないので、その動かないものを障害を取り除いて動くようにする・解決することに興味を持っています。

最後に、FoE Japan は一言で言うとどのような場所ですか?
「どのような場所というか、自分にとってどのような場所にするかという部分もあると思います。」–– FoE Japan は、一言では収まらない組織。やりたいとかやるとか決めている人の集合体だと思います。

(聞き手:インターン 杉浦佳蕗)

「銃とブルドーザー」に抗う人びととともに−波多江秀枝インタビュー

ニュースレターやブログなどを通じFoEの活動は見えてきても、スタッフの姿は見えないことが多いと思います。どんな人がFoE Japanで働いているのでしょうか?なぜFOEに?
インターンスタッフに3名の職員をインタビューをしてもらいました。

第一弾は「開発と環境チーム」の波多江秀枝です。IMG_20160401_100252

FoE Japan では何をされていますか?

日本の政府機関や企業が携わっている海外での大規模開発事業に関する問題を提起しつつ、その影響を受けている地元の住民の人やNGOと共に問題に取り組んでいます。ここ最近は、インドネシア等における石炭火力発電所開発問題に注力して活動しています。

FoE Japan に入ったきっかけはなんですか?
元々開発や環境問題には関心があり、大学では環境に関するゼミに入っていました。授業や文献等を通して、開発事業の光の部分だけではなく陰の部分についても知る機会があったのですが、その「陰」の部分が自分の中で引っ掛かっていました。大学3年生になり就職活動の時期が迫ってきた際に、開発事業によって被害を受けている人がいるかもしれないのに、その加害者側に加担する立場にはなりたくないと感じ、問題解決を図っている団体を探していく中で FoE Japan にたどり着きました。大学3年生の終わり頃からボランティアで関わり、インターンを経て、スタッフになりました。

入ってから今日まで続ける上でのモチベーションは何ですか?
現地の人の笑顔や逞しく生きている姿だと思います。例えば、農民の人たちが農作業をしているのを見ていても、それが好きで大切なんだなというのが伝わってくる。だからこそ、そういう彼らの生活が、理不尽なものによって破壊されるのを何とかしたいと感じます。しかし、私の心の奥底にあるのは、2002年にダムの問題に取り組んでいた時に、20歳の青年がゲリラに入った後、フィリピン軍との交戦で殺されてしまったという出来事です。彼がゲリラに入った理由は、ダム建設に伴う立ち退きの現場で、事業者と共に来た軍に親戚・友人が銃を突きつけられ、立ち向かいたいのに銃の前には何も出来なかった悔しさでした。この出来事があったからこそ、私は今でも活動し続けています。

もどかしさや困難に直面した時に、どのように折り合いをつけていらっしゃいますか?
「やるんだったら、とことんやりたい。」 ––日本の開発側の人たちとの認識の差が埋まらない等、もどかしいと思うこともあります。しかし、私は自分が実際に被害を受けているわけではないので手を引こうと思えば引けるけれど、住民の人たちは逃げることが出来ません。彼等は弾圧されるリスクがあり、暗殺されてしまう場合もあります。そういう立場に置かれた住民のことを考えた時に、「こんなところで挫けられるか!」と思います。

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フィリピンのダム反対運動の最中に暗殺された農民リーダーの奥さん(写 真左)とともに。ここの家は波多江にとって、フィリピンの実家のようなところ。

FoEでボランティアやインターンをしたい方へのメッセージ
FoE Japan は、自分がやりたいことが十二分に出来る場所だと思います。是非一緒に活動しましょう!

最後に、FoE Japan は一言で言うとどのような場所ですか?
「現場力」–– 程度は異なるけれど現場に行って、現場を見て、現場のニーズや声に基づいて提言活動をやるのが FoE Japan。それが強みだと思いますし、それがなければFoE Japan ではない気がします。

(聞き手:インターン 杉浦佳蕗)

石炭推進の「クリーン・コール・デー」国際会議に、石炭NOのアクションをしました

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石炭推進の人たちによる「クリーン・コール・デー」国際シンポジウム(一般社団法人日本鉄鋼連盟、一般社団法人セメント協会、 日本製紙連合会、電源開発株式会社、一般財団法人石炭エネルギーセンターなど)が都内のホテルで開催されました。

これに対して9/10朝、会場前でアピールを行いました。「石炭火力問題を考える東京湾の会」のメンバーをはじめ、仙台や神戸の考える会からも参加がありました。国際シンポジウム参加者および一般市民向けに、LNG火力の2倍のCO2を出す石炭火力の問題点をアピールしました。チラシは受け取らなくても「千葉に青空を」などの横断幕はとても分かり易く効果的でした。FoE Japanからは3名(+赤ちゃん1名)が参加しました。(文責 鈴木国夫)

「石炭火力問題を考える東京湾の会」
http://nocoal-tokyobay.net/2018/09/10/no_more_coal_action/

国連気候変動会議 ー今すぐの脱石炭を、気候正義を

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国連気候変動交渉が行われているバンコクにおいて、市民社会によるアクションが開催されました。現在の気候変動による被害は、これまでに先進国が大量の化石エネルギーを利用し発展してきたことに要因がある一方、ほとんど温室効果ガスを排出していない途上国の貧しい人々が特に深刻な被害を受けているという不正義を是正するよう訴え、特に日本や韓国などのアジアの先進国に対して、インドネシアやベトナムに依然石炭火力発電所を輸出していることを批判が繰り広げられました。

パリ協定の目標を達成し、気候変動の影響を特に受けやすい人々を守っていくためには、日本は劇的な温室効果ガス排出の削減、パリ協定に矛盾せず人権を尊重した途上国支援、適応に対する支援や、すでに生じている気候変動被害に対応する支援などが必要です。しかし、2016年以降、日本は少なくとも海外において7つの石炭火力発電事業への支援を決めています。

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そのうちの一つはインドネシア・チレボン石炭火力発電所事業です。日本の国際協力銀行が融資を行っています。このプロジェクトは、深刻な人権侵害や生計手段の喪失などが起きています(詳しくはこちら)。

FoE Japanも参加する国際的な気候正義の「Demand Climate Justice」ネットワークでは、各国政府に対し、8つのことを求めています。

1. 100パーセント再生可能エネルギーへのコミットメント(先進国は2030年までに、途上国は2050年までに)
2. 民主的で持続可能なエネルギーを達成するために必要な資金
3. 新規石炭プロジェクトへの国際的なモラトリアム
4. フラッキングの禁止と、新規化石燃料探査・採掘の禁止
5. 大規模で危険なエネルギープロジェクトの中止
6. 化石燃料への補助金の停止(先進国は2020年までに)
7. 大規模バイオマスや巨大ダムから公的資金の撤退
8. 国際気候変動交渉における利益相反ポリシーの制定

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日本は国外への石炭火力輸出だけでなく、国内でも石炭火力発電所の拡大を続けていますが、これはパリ協定やそれを受けて脱炭素化を目指す世界の潮流に逆行しています。
日本は今すぐ石炭火力発電や原発などの環境汚染を生み、人権や生命を脅かすプロジェクトへの支援をやめ、再エネや人々を中心とした支援に切り替えて行くべきです。

(深草亜悠美)

パリ協定実施指針採択に向けて 〜主要論点〜

パリ協定実施の核である「国別貢献(各国が独自に定める気候変動対策に関する目標/NDC)」の定義に関しては、貢献は緩和だけでなく適応や途上国支援、発生した被害への対策などを含め包括的であるべきとする途上国と、緩和のみで適応や途上国支援は一切外したい米国主導の先進国グループとの間で交渉開始当初から大きく隔たったままの状況です。

・透明性枠組み
各国の進捗報告のシステム(「透明性枠組み」)の構築においては、途上国側は、先進国からの資金・技術移転なしには実施できない部分が多いため、報告すべき内容に先進国による案件レベルの支援に関する情報を含めるよう求めています。一方、米国主導の先進国側は、支援を受ける国が、受けた支援の報告も含め、先進国と同様の報告を求める主張が併記された形になっています。また先進国は発生している気候変動による被害の情報は含まれないと主張し、含まれるべきと主張する途上国と対立しています。

・グローバルストックテーク
パリ協定の下で2023年から5年ごとに行われる進捗状況の全体評価(グローバルストックテイク)の手続きの議論では、1.5/2℃目標に対する進捗評価だけでなく、適応の進捗や資金技術支援、発生被害の評価もすべきとする途上国に対し、先進国の間では、緩和以外に支援評価などを含めることに対して強い抵抗があります。また米国などの先進国はここでも発生する被害の評価を含めることに強く反対しています。

・途上国支援
現在、各国が発表しているNDCを積み上げると、将来の気温上昇は3℃以上になると予想されていますが、この数字はあくまでも途上国が十分自国の貢献を果たせたという仮定に基づいており、追加的な資金・技術の移転が先進国からなされなければ、気温は更に上昇します。そのため、途上国は、先進国による途上国支援の報告や、パリ協定下での次の途上国支援目標額の設置、適応資金の継続など、途上国への支援についての内容が先進国のNDCに含まれ、また透明性枠組みの下での報告や全体評価にきちんと含まれることを求めているわけですが、米国や一部の先進国は強硬な反対を続けています。

更には、COP16(2010年、メキシコ・カンクン)の決定で設置された途上国支援の要である緑気候基金(Green Climate Fund, GCF)は、初期資金の3/4がすでに拠出されており、このままだと来年で資金が底をつく状況です。先進国、特に米国は拠出を約束した額の一部しか拠出しておらず、7月の緑気候基金の理事会で先進国理事が追加拠出の手続き開始に合意しなかったことが途上国の危機感を煽っています。

・市場メカニズム
日本や欧州先進国及び一部途上国はパリ協定に盛り込まれた国際市場メカニズムのCOP24での国際ルール合意に強い意欲を見せています。化石燃料や農業に関わる国際資本は、途上国でのバイオマスやバイオ燃料を使った削減事業のクレジットでビジネスを継続できることから、交渉に深く関わっており、今回の会合でCOP決定文書案に整理されため市場メカニズムに関する交渉文書が作られる可能性があります。国際市場メカニズムが設けられることはパリ協定ですでに合意されているとはいえ、京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)と桁違いの大量のオフセットが取引されることになり、大口排出国の国内対策が更に遅れることになるため、これに懸念を持つ国々はオフセットではなく純削減とする原則や、取引できる量を制限する「補完性」と呼ばれる国際ルールを求めています。

・利益相反
これは大資本の利権がパリ協定の実施方針を弱める一例でもあります。先進国の大資本は、エネルギー政策に決定的影響を与えています。国連気候変動交渉において、多くの化石燃料企業が関与しており、気候正義を求めるFoEや国際的な市民のムーブメントは、気候変動による破滅的状況を避けるためにはエネルギーシステムの抜本的改革が必要であると訴えています。中でも今日の気候危機を生み出している、強い政治力を持つ企業資本が大きな影響力を持つ現在の状況から、市民が決定権を取り戻すことを呼びかけています(例えば、気候変動交渉には利益相反指針がなく、化石燃料企業も多く交渉に関与しているため、気候正義を求める市民グループは、利益相反指針(COI)を設けるよう提言している)。

(文:小野寺ゆうり、編:深草亜悠美)

巨額の原子力賠償は国が負担? 賠償措置額が1200億円で据え置かれる理由とは? 原子力損害賠償法見直しにパブコメを!(9月10日まで)

>原子力委員会・文科省との会合報告はこちら

原発事故の賠償の枠組みを定めた「原子力損害賠償法」の改定案が、9月10日まで、一般からの意見公募(パブリック・コメント)にかけられています。しかし、この案では、原子力事業者が事故前に保険などで備える賠償金(賠償措置額)が1200億円にすえおかれることになっています。

東電福島第一原発事故では、現時点で見積もられているだけで7兆円をこす賠償金が発生し、この賠償措置額を大きく上回りました。

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要賠償額の推移

除染や事故収束にかかる費用も入れれば政府試算で21.5兆円とされており、この額はさらに上振れするとみられています。

事故後、東京電力を救済するため、国は「原子力損害賠償・廃炉支援機構」を設立し、国債発行による公的資金や、他の電力事業者からの負担金(もともとは私たちの電気料金)を「機構」経由で東電に流し込んでいる状況です。

支援機構

これでは、事故を引き起こした原子力事業者の負担はほんのわずかですみ、結局は国民が負担するということになりかねません。
利益は企業へ、事故が起きたときの費用は大部分は国民へ…?
そんなことは許されませんし、事故のリスクも含めた原発のトータルなコストが認識されないことにもつながります。

ぜひ、みなさんからもパブコメを出してください。

>パブコメはこちらから(9/10まで)

>(参考)原子力損害賠償法の概要
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo01/siryo1-6.pdf

◆パブコメ文例

  • 1200億円の賠償措置額は引き上げるべき。支援機構を介しての支援を前提にしては、最終的には国民にしわ寄せが行き、モラル・ハザードを引き起こす。
  • 原子力事業者を国が支援することを定めた原賠法第16条は削除すべき。
  • 原賠法の目的(第1条)から「原子力事業の健全な発達に資する」は削除し、被害者の保護のみとすべき。

原子力委員会・文科省との会合報告
本日(9月5日)、国会議員や議員秘書、eシフト有志やこの原賠法の見直しについて、とりわけ、賠償措置額の引き上げをなぜ行わなかったかについて、原子力委員会事務局の内閣府、および原賠法を所管する文科省からご説明いただきました。以下、要点のみまとめました。

内閣府…原子力政策担当室
文部科学省…研究開発局 原子力損害賠償対策室
      原賠法改正準備室

◆原賠法の見直しの経緯・スケジュール
<内閣府からの説明>
原子力損害賠償支援機構法附則第6条第1項に、原賠法見直しについて書かれている。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo01/siryo1-3.pdf
これをうけ、副大臣会議において検討が進められたが、平成27年1月22日の会合で、専門的な検討を原子力委員会に要請することとなった。
これをうけ、原子力委員会では、「原子力損害賠償制度専門部会」を設け、20回の検討を行ってきた。
原子力損害賠償制度専門部会設置について・名簿
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo01/siryo1-1.pdf
現在、そのとりまとめを行い、パブコメにかけているところ。
公聴会については考えていない。委員・オブザーバーの中には、被害者を代表している人もいる。福島県副知事からのヒアリングも行った。
原子力委員会として、課題を整理し、今後、文科省に法改正の議論を引き継ぐ。原賠法の当面の改正においては、1200億円については改正しないという方向。

<文科省からの説明>
原子力委員会からの提言を受け、原賠法の改定案を作成する。国会にかける。原子力委員会の案がパブコメにかかっており、それをもとに改正案をつくるので、改正案のパブコメは考えていない。

◆なぜ、賠償措置額をあげなかったのか
<原子力委員会>
・専門部会において、あげたほうがよいであろう、というのが一応のコンセンサス。しかし、だれの責任でどういう負担するのかというコンセンサスは得られなかった。
・賠償は、事故を起こした事業者が担うべきであるが、その資力を超えた場合、どうするのか。支援機構による相互扶助により捻出するのか、もしくは一般税で補てんすべきという意見もあった。
・現在の賠償措置額1200億円は、民間の保険で措置している。しかし、大幅にこの額を引き上げられないのが現状。引受能力を超えている。国際的には、ほぼ最高レベル。
Q:引き上げられない理由は?
→保険会社に査定を依頼したわけではない。「日本原子力保険プール」からも委員になってもらっていただき、「引き上げられない」という意見をいただいた。
Q:保険料を引き上げても?
→通常の責任保険とは違う。原子力事故では保険金支払い額が巨額になるため、国内損害保険20社によって日本原子力保険プールが結成された。原子力保険はすべて「日本原子力保険プール」を通じて契約される。国際的なシンジケートがあり、そこでどこまでの金額を引き受けられるのかが検討されている。
Q:政府補償契約をあげるべきでは?
→民間保険でカバーできないものを政府が、という考え方。むしろ、そちらの方がモラルハザードになるという意見が多かった。
Q:第16条は事故を起こした原子力事業者を救うための仕組みとなっている。撤廃すべきでは?
→法的整理を行い、賠償額を捻出するというのもありうるが、議論としては、むしろ企業を存続させて、賠償させる方が被害者救済に資するという感じであった。
Q:支援機構の資金源は東電の特別負担金、電力各社の負担金。しかし、22兆円規模の賠償を支払うとなるとざっくり95年かかる。新たに同規模の事故がおきても、対応できないだろう。
→(明確な答えはなし)
Q:支援機構経由で東電に支払われている金額のかなりの部分は国債。これは国民負担では?
→国債については、返済されていくことが前提。確かに利子分は、国庫負担ではあるが…。
Q:原子力委員会の「賠償資力確保のための新たな枠組みの検討について」で挙げられている「第2レイヤー」の「保険的スキームの活用」「資金的な手当」とは何を想定しているのか?
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo18/siryo18-1.pdf#page=12
→「保険的スキーム」は、あらかじめ保険料をとる現行の保険的スキームの拡大。「資金的な手当て」は、賠償措置額を超える部分を国が支払い、あとから回収するというもの。
いずれも委員からは、ピンとくるという意見がなかった(から、パブコメの案にはのせなかったらしい)

◆最後に、私たちから第16条による国による支援は削除すべきと考えていること、第1条の原賠法の目的から、「原子力事業の健全な発達に資する」を削除すべきこと、また、国民的議論を行うために、公聴会を開いてほしいことを、重ねて申し入れました。

パリ協定実施指針採択に向けて—クライメートジャスティス(Climate Justice)への道のり

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今日9月4日から9日までタイ・バンコクにて、12月に開かれる気候変動枠組条約締約国会合(COP24/ポーランド開催)で採択される予定のパリ協定の実施指針(ルールブックまたはPAWP)を交渉するための追加会合が開催されています。COP24前最後となる公式の政府間交渉で、交渉のたたき台となる決定文書案を準備することが望まれています。パリ協定は世界の気候変動対策の枠組みであり、その効果的な実施が世界の将来を左右するため、COP24での実施指針採択はパリ協定が採択されたCOP21パリ会議以来、最も重要な会議と見られています。

これまでにすでに世界平均で1℃前後の気温上昇が記録され、日本だけではなく、世界各地で記録的な猛暑を記録し、集中豪雨などが発生しています。記録的な飢饉、水不足、農業生産の減少・食糧危機、洪水や海面上昇による避難民(気候難民)がアフリカ、南アジアや中南米の各地で増加しています。それにより多数の犠牲者が出ています。
特に、近年被害が急速に拡大している途上国の市民はCOP24を強い関心を持って見守っています。インフラが脆弱で、十分な資金のない途上国にとって、追加的な資金支援や技術支援、公平性を反映した実施指針の策定が重要です。COP24の開催国であるポーランドが、COP24に参加予定の市民団体を弾圧する立法を行ったこともあり、このバンコクでの会合の機会を最大限に活かそうと、アジアの市民社会を中心に、会議場周辺で連日さまざまな抗議行動や集会が開催される予定です。

これまでに各国が提出した2025/2030年までの協定の下での気候変動に関する行動計画(NDC)を積み上げた結果では、3℃以上の気温上昇が予想されます。21世紀末までの気温上昇を1.5℃までに留めるよう努力するというパリ協定の目標とは程遠いのが現実です。 10月には1.5℃の気温目標に関し世界の科学者の知見を集めた特別報告(IPCC特別報告書)が出されますが、その中でももう時間の猶予がほとんどなく、被害規模の予測とともに、今すぐの脱化石燃料の必要性が明らかにされるとみられます。最近発表された研究では、平均気温が1.5〜2℃以上上昇すると、森林火災、アマゾン森林の枯渇、局地に存在する大量のメタンガスの放出などが引き金となって、もはや人間では止めようのない温暖化が発生する可能性があると報告されています。

バンコクに集う市民やFoEのメンバーは、政府による行動の不十分さ、とくに歴史的な温室効果ガス排出の半分を占め、化石燃料で発展を遂げた先進国の責任を追及しています。パリ協定の実施指針だけでなく協定の内容を超えた速やかな脱石炭、脱化石燃料と自然エネルギーへの移行、大規模被害への支援や気候避難民の保護、更にこれらを達成するために必要となる社会経済システムの変革を問い、先進国がその責任を果たすことを求めています。

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(C) Chidambaram SP

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(C) APMDD

実際の交渉では、先進国(特に米国をリーダーとする日本を含む環太平洋の先進国)は協定下で途上国や新興国との差異化を認めず、様々な局面において同等の扱いを要求しています。また、化石燃料や産業型農業などの多国籍資本が主要な交渉内容に大きな影響力を持ち、協定の実施指針を弱めようとする状況が続いています。

世界の市民はパリ以来、今また改めてCOP24に向けて大きな声を上げようとしており、その国際的な組織化がこのバンコクで弾みをつけることになります。

(小野寺ゆうり)

住民無視 那須町の除染土埋め戻し実証事業~このまま全国展開?

【アップデート情報(2018.9.17)】

・浸出水は測定後、ゼオライトなどで処理し、側溝に流すことになっていることがわかりました。住民の方によると、側溝の水は住宅街を通り、三蔵川に流れるとのこと。心配する住民に対して、環境省は、「十分に対応しているから問題ない」と回答したとのことです。

・環境省は9月17日の週にも、実証事業のための準備作業を開始するとしています。9月16日、実証事業を行う旧テニスコートで行われた「作業説明会」で、環境省は「浸出水は濃度測定し、処理した上で放流する」としたそうです。環境省の管理を問われると「処理水が出なくなるまで。後は町に管理してもらう」と回答したとのことです。

・浸出水の放流問題もさることながら、豪雨の際のオーバーフローや決壊などが心配です。これらの点を断面図に書き込んでみました。

福島県外除染土処分のガイドライン策定へ

環境省は福島県外の汚染状況重点調査地域の除染土計33万m3を埋め立て処分するための施行規則・ガイドラインを策定しようとしており、現在、栃木県那須町、茨城県東海村で実証事業を進めている。しかし、この実証事業は、「安全を確認することありき」で、住民への説明がほとんどないままなし崩し的に進められようとしているようにみえる。

環境省は2箇所の実証事業で施行規則をつくり、全国展開するつもりだ。

「被ばくと健康研究プロジェクト」の田代真人さんに案内していただき、那須町の除染土の埋め戻し実証事業の現場を訪れた。また、住民の方にお話しをきいた。

埋め戻す除染土のセシウム量は不明

那須町伊王野除染土埋め戻し実証事業サイトこの実証事業は、那須町伊王野山村広場内旧テニスコート内に地下保管してある除染土壌350袋、約350m3を袋から取り出し、埋め直すもの。30cmの覆土を行う。(写真右:実証事業が行われようとしている旧テニスコート 7月21日、著者撮影)

除染土の埋め立ての下部には集水砂層とその下に遮水シートを設置(遮水シートの有無については住民への説明では明らかにされなかったが、その後付け加わった)。収集した浸透水の放射性セシウム濃度、周辺の空間線量率の測定、エアサンプリングを行う。

那須町除染土埋め戻し図(コメント入り)

平成 30 年度除去土壌埋立処分実証事業等業務に係る仕様書に加筆)

環境省は、福島県外の除染土壌の放射性セシウムの中央値は800Bq/kg、約95%は2,500Bq/kg以下としているが、実際に埋め戻す土に含まれているセシウム量は現段階では不明だ。

実証事業では、350袋について、重量及び表面線量率(上面1箇所及び側面4箇所)を測定。また、除去土壌計 350 袋中の 35 袋について、放射能濃度測定のための土壌サンプリングを実施する。サンプリングにあたっては、1袋から 10 サンプルを採取して混合し、1検体とする。実証事業の契約期間は、来年3月まで。これでは、長期にわたる影響については捕捉することができない。(くわしくは、環境省による仕様書を参照。)

「新聞報道後、回覧板がまわってきた」

以下、住民の受け止めについて、田代さんや住民たちのお話しをまとめた。

  • 住民がこの実証事業について知ったのは今年2月1日付の下野新聞。近隣住民には2月5日回覧板で「報道でご心配かと思いますが、こういうことやろうとしています…」というような2枚紙がまわってきた。
  • 那須町は、懸念する住民の問い合わせに対して「安全性は確認されている」と回答。いつからいつまでの事業で、そのあとどうするかについては国の事業なので不明。住民説明はやらないと回答。
  • 2017年9月にすでに環境省から那須町に打診があり、12月には議会の災害対策協議会で町から説明があった。反対意見がなかったということで、12月末に環境省にOKの返事を伝えた。こうしたことをあとから知った
  • 町からは、周辺に住む1人の住民に説明があった。そのあと、その人が13人に説明したというが、どういう基準で選ばれた13人であったかは不明
  • 環境省は、セシウムは土壌に吸着して、下方に移動しないというが、それは間違い。わずかではあるが下方に移動するという研究もある。
  • 那須町は基本的には火山灰の影響を受けている土壌で特殊。これをもって、安全性が確認されたとは言えないのではないか
  • 那須町住民申し入れ1805105月10日、住民が環境省に説明会の実施を申し入れた(写真右)。6月8日住民説明会が実現した。19:00~20:30のたった1時間半。住民からの質問が殺到し、15分だけ延長された。住民たちは、実証事業の内容を問うよりも、手続きがおかしいという怒りの表明が多かった。
  • 伊王野は高齢化が進む。ずっと住んでいる人たちは積極的に反対をいいづらい空気。
  • 住民たちとしては、庭先にうまっている除染土をなんとかしてほしい。この実証事業の受け止めは、「きちんとやってくれるなら容認してもよいのではないか」という人、「行政の言うことは信用できない」という人、さまざま。しかし、この実証事業で、結局、フレコンパックから出して埋め立てても安全とされ、庭先の除染土をそのままにする理由付けにつかわれるかも、と懸念している。
  • 町独自の予算で甲状腺がん検査を行うなど、被ばく問題に関してはしっかりとした考えをもっていた町長が脳梗塞で倒れているさなかにこの話しが進行した。
  • 実証事業がいつまでなのか、そのあとどうするのかは、説明されていない。
  • その後、8月7日、住民たちは環境省に対して、再度の説明会を行うことを要請したが、環境省はこれを拒否。環境省の資料によれば、9月にも実証事業が開始されようとしている。

何が問題なのか?

この実証事業の主な問題としては、以下があげられよう。

  • 住民への説明があまりに不十分で一方的。住民に事業の詳細が知らされず、意見もききいれてもらえていない。
  • 実際に埋め戻す除染土中のセシウムなどの放射性物質の濃度・総量が明らかになっていない。全袋調査を行うべきではないか。
  • 実証事業の契約期間は来年3月までであるが、長期のセシウムの動向や環境への影響を把握するには、モニタリング期間があまりに短い
  • 実質的に最終処分地となってしまいかねない。実証事業後、だれがどのような管理を行うか、モニタリング体制はどのようなものになるのか不明長期的な管理・監視体制をつくるべきではないか。
  • 豪雨対策など、放射性物質を含む土壌の拡散を防止するための措置をとっていない。
  • 除染土の再利用・処分については、フレコン入りの除染土の山を、埋めたり、公共事業につかったり、とりあえず「見えなく」するための場当たり的な方針のように思える。

県別除染土
確かに現在、除染土は庭先に埋められているものもあり、これをこのままにしてよいわけはない。しかし、このように、長期的な管理や豪雨対策もしないまま、除染土を埋設するのは、あまりに乱暴ではないか。

環境省は、除染土を長期的に安全に管理し、拡散を防ぐという視点から、広い層の専門家や市民の参加のもとで、検討を行い、全国レベルでの公聴会など、国民的な議論を行うべきだろう。(満田夏花)

参考:環境省「除去土壌の処分に関する検討チーム会合配布資料」

http://josen.env.go.jp/material/disposal_of_soil_removed/

汚染水の公聴会大もめ~海洋放出に反対意見次々

経済産業省は、東電福島第一原発における多核種除去装置(いわゆるALPS)処理水の処分に関する説明・公聴会を8月30日、31日に富岡、郡山、東京で開催しました。
経産省の資料によれば、タンクにたまっているトリチウムの量は1,000兆ベクレル。
トリチウム以外の放射性物質はほとんど除去されていること、トリチウムは弱い放射線しか出さず、自然界にも存在し、生体濃縮はせず、世界中の原発から排出されているとし、海中放出を含む4案を提案しています。
しかし、放出されたトリチウムの一部は、光合成により有機結合型トリチウムに変化すること、有機結合型トリチウムは生物の体内に長くとどまり生体濃縮をおこすこと、細胞やDNAに取り込まれること、放射線による細胞やDNAの損傷のみならず、崩壊による損傷もおこすことなどが指摘されています。
さらに、今回、ALPS処理水の中に、基準を超えるヨウ素129、ストロンチウム90、ルテニウム106が残存していたことが明らかになりました。ヨウ素129に至っては、FoE Japanの確認では、2017年4月~2018年7月の間に143サンプル中65サンプルで告示濃度超を起こしていたことがわかりました。
しかし、説明・公聴会の資料では、基準を超えていない2014年9月20-28日のデータがつかわれていました。
3会場での「説明・公聴会」で意見をのべた人は、富岡1名、郡山1名で海中放出を容認する意見があったほかは、ほとんどが海中放出など環境への放出に反対しました。とりわけ、県漁連の野崎会長などは漁業への影響を訴えました。

180829

多くの人たちはトリチウムの危険性を指摘した上で、陸上でタンクで長期保管すべきと述べました。

私は東京会場の「説明・公聴会」に参加しました。経産省や委員が公述人の「意見をききおく」だけの公聴会だったはずが、それですまされず、公述人や傍聴者が、経産省の事務局や委員を問い詰める場面もあり、「大もめ」の公聴会となりました。

トリチウム水を海に流すな トリチウム水公聴会

公述人・傍聴者たちが問うたのは、主には以下のようなものでした。

  • なぜ、代替案にタンクでの保管案が入っていないのか
  • トリチウムの危険性についてきちんと検討されていないのはおかしいではないか。
  • なぜ、他核種の残存について資料には書かれておらず、古いデータが使われたのか
  • 現在の海洋放出の計画では、1,000兆ベクレルを52~88カ月かけて放出することになっている。これは年間の排出量が、福島第一原発が動いていたときの保安規定の年間排出の上限(22兆ベクレル)を上回る量となるのだが、よいのか。

>原子力市民委員会による大型タンクでの陸上保管案については、こちらをご覧ください。終了後、山本委員長は、タンク保管案も代替案に加えると発言したと報道されています。私が述べた主な意見は以下のとおりです。

  • 大量のトリチウムを希釈して環境中に放出することに反対。
  • 総量規制を行うべき。また、すでに海中に放射性物質が放出されている。累積的な影響についても考慮すべき。
  • トリチウム、とりわけ有機結合型のトリチウムのリスクについて、資料に掲載されていないのはなぜか。
  • ヨウ素129など他核種が慢性的に残留していたのにもかかわらず、古いデータが使われていたのはなぜか。委員たちは、このことを知らされていたのか。
  • トリチウムのみが残留しているとされていた。他核種については検討されていない。説明・公聴会の前提がくずれた。小委員会での検討をやりなおすべき。

なお、意見陳述時間は5分と限られていたので、全部は発言しきれませんでしたが、事前に提出した意見書を以下に掲載します。(満田夏花)


多核種除去装置(ALPS)処理水の処分に関する意見

<要点>

  • 既設・増設ALPS処理水でヨウ素129、ストロンチウム90の基準超えが明らかに。ヨウ素129は2017年4月~2018年7月まで60回以上基準超え。公聴会の前提は崩れた。
  • 経済産業省が示している処分方法以外にも有力な代替案がある
  • トリチウムのリスクに関して十分検討されていない
  • 放射性物質は、環境中に放出するのではなく、安全保管を行って減衰を待つという原則を守るべきである
  • 公聴会のやり方がおかしい。

1.既設・増設ALPSでヨウ素129、ストロンチウム90の基準超えが明らかに。ヨウ素129は60回以上基準超え。公聴会の前提は崩れた。 ヨウ素129、ストロンチウム90の告示濃度限度(基準)超えがあきらかになった。経済産業省のタスクフォースや多核種除去設備等処理水の小委員会では、「ALPS処理水はトリチウム以外は除去されている」という東電の説明の通りの前提で検討が行われており、他の核種については検討が行われていない。 しかし、今回問題になったのはヨウ素129については増設ALPSで2017年4月~2018年7月まで告示濃度(9Bq/Lを超えるものが60回以上計測されており、出口はA~C。最高は2017年9月18日の62.2Bq/Lであった。慢性的に基準超えしている状況である。180829_2ストロンチウム90に関しては、増設ALPSでは2017年11月30日に141Bq/Lと告示濃度30Bq/L)を超えていた(出口C)。

ヨウ素129は、半減期1,570万年。特に海藻に濃縮・蓄積される。体内にとりこまれるとほぼすべて甲状腺に集まり、とりわけ胎児や乳幼児への影響が懸念される。「薄めて出せばよい」とは思えない。 いずれにしても説明・公聴会の前提はくずれた。経済産業省は、改めて検討をやりなおすべきである。

2.経済産業省が示している処分方法以外にも有力な代替案がある 

経済産業省の5つの案以外にも有力な代替案がある。

研究者・技術者・NGOなどが参加する「原子力市民委員会」は、現在トリチウムのリスクに関してさまざまな説がある中で海洋放出を強行するのではなく、恒久的なタンクの中に保管することを提案している。国家石油備蓄基地で使用している10万トン級の大型タンクを10基建設して、その中に100年以上備蓄する案であり、減衰により、トリチウムの量が現在の1000分の1程度に減少する。大型タンクでの貯留は、すでに実績のある既存の手法であること、現在の1,000トン容量のタンクに比して面積効率がはるかに高いという利点がある。十分現実的な提案なのではないか。タンクの設置場所については、福島第一原発の敷地内にこだわらず、その周辺またはその他の東電所有地も考えられる。このような地上における保管案が十分に検討されているとは思えない。

3.トリチウムのリスクに関して十分検討されていない

経済産業省は「トリチウムは安全である」という前提で、放出に向けたステップを踏もうとしているように思われる。たとえ、経済産業省が言うようにトリチウムの人体への影響がセシウムの700分の1であったとしても、1,000兆Bqのトリチウムの放出は、膨大な放射性物質の放出である。

光合成により有機結合型トリチウムが生じれば、リスクはさらに高まる。決して過小評価すべきではない。作業員や公衆についての疫学調査は、影響をトリチウムに特化することができないため、なかなか有用な結果がでていないようである。しかし、トリチウムが人体に取り込まれた場合、その一部が細胞核の中にまで入り込んで、DNAを構成する水素と置き換わる可能性があること、その場合、エネルギーが低く飛ぶ距離が短いベータ線により遺伝子を損傷する危険性があると指摘する専門家もいる。また、有機結合型トリチウムは、生物濃縮されるのに加え、生体構成分子として体内に蓄積されるため、長期間影響を及ぼしうるという指摘もある。これらのトリチウムのリスクについて、経済産業省におけるトリチウム・タスクフォースで徹底的に議論すべきであろう。トリチウムが、世界中で運転中の原発から放出され続けているという事実は、安全性の証明とはならない。なお、トリチウムの摂取基準は世界的には国によって大きな幅があり、経済産業省が引用しているWHOは10,000Bq/Lであるが、アメリカでは740Bq/L、EUでは100Bq/Lである。このことは、トリチウムのリスクに関して国際的にも定説が得られていないことの表れではないか。

4.放射性物質は、環境中に放出するのではなく、安全保管を行って減衰を待つという原則を守るべきである

経済産業省は、トリチウムの人体への影響がセシウムの700分の1であるとするが、そうであったとしても、1,000兆ベクレルにも及ぶトリチウムの放出のリスクを否定することはできない。さらに他核種が残留していることもわかった。トリチウムを環境中に放出するのではなく、前述の原子力市民委員会の提案などにより、安全保管を行って減衰を待つべきである。

5.公聴会のやり方がおかしい

前述のように、トリチウム以外は除去されていたという公聴会の前提が崩れた。それ以外にも以下の点で公聴会のやり方がおかしい。

①代替案を検討する段階から、多くの意見をきくべき 環境中に放出することが前提となっている。代替案の検討の段階から広く意見をきくべきである。

②資料の作成段階から異なる意見を有する第三者からのインプットを得るべき 資料作成の段階で、経済産業省の「環境放出ありき」の結論に導くのではなく、第三者のインプットをえるか、または環境放出以外の意見をもつ団体等の資料も並列すべきである。

③開催場所が限定的すぎるなぜ、富岡、郡山、東京の3箇所なのかがわからない。福島県でも多くの漁業者がいるいわきで開催しなかったのはなぜか。漁業が影響を受ける太平洋側の主要都市で開催すべきではないか。

④異なる立場の専門家等からの重点的な意見聴取を トリチウムの放出のリスクに警鐘を鳴らしている専門家や漁業・流通関係者、過去の公害経験などに知見を有する人たち等からの重点的な意見聴取を行うべきである。

⑤自由な質疑および意見陳述の時間を ④に加え、参加者が説明に対して質問および意見陳述ができる時間帯を設けるべきである。