ベトナム・原発からの「勇気ある撤退」の理由とは

11月10日、ベトナム政府は、ベトナム中南部のニントァン省原発建設計画について白紙撤回を求める決議案を国会に提出しました。22日にも採決される予定と報じられています。
ニントゥアン省では2か所で原発建設が予定されており、第一原発はロシアが、第二原発は日本が受注を予定しており、実現すれば同国初の原発となったはずでした。
なぜ、ベトナムは原発からの撤退を決断したのでしょうか?
国会議員で科学技術環境委員会副委員長のレ・ホン・ティン氏は、VNEXPRESSのインタビューに答えて、まず経済性をあげ、原発の発電単価が当初計画よりも上昇していること、再生可能エネルギーやLNGが競争力をもったこと、ベトナムの巨額の対外債務問題、放射性廃棄物の処理の問題をあげました。
「これは“勇気ある撤退”だ」とレ・ホン・ティン氏。「これ以上展開し、さらなる損失を被らないうちに早期に計画を中止する必要がある」。
かたや日本では、原発事故の被害額は膨らむ一方。損害賠償や廃炉費用を国民にさらに転嫁するような検討も進んでいます。その一方で、40年超の老朽原発も相次いで運転延長が決まりました。「勇気ある撤退」は程遠い状況です。
以下、VNEXPRESS紙のレ・ホン・ティン氏のインタビュー記事を、翻訳者のご厚意により転載いたします。

VNEXPRESS
2016年11月10日(木)なぜ国会は原発計画を中止へと見直しするのか

11月10日、国会の廊下でレ・ホン・ティン氏(科学技術環境委員会副主任)は、マスコミ取材に対し、政府がどのような観点でニントゥアン原発計画実施を見直し、中止とする議案を国会に提出することにしたかを述べた。

-政府が国会に、ニントゥアン原発建設計画の実施を見直して中止とする議案を国会に提出するに至った主要な理由は何か。

-主な理由は、原発計画の実現可能性が、現時点ですでにないことだ。以前の建設計画では発電原価が約4.9セント/kWhとなっていたが、今ではこれが8セント/kWhにまで上昇している。

さらに、2009年、政府が国会に原発計画を諮ったとき、経済成長が9-10%の速度であることを条件として、それに伴い電力需要も17-20%の伸びを条件としていた。
当時の政府はわが国の電力需要を十分に賄うために、22%の伸びを見込んでいた。
しかし現在、経済成長率はそれよりもずっと低く、毎年約6-7%で推移している。これにより電力需要も予想より伸びが低く、今後5年間で11%、さらに10-20年後には7-8%と見積もられている。

現在は節電技術が進み、エネルギー消費が抑えられてきた。今後2021年までの間に、国内需要は十分賄える見込みだ。さらに、再生可能エネルギーが発展を始めており、電力原価は5 セント/kWh以下にまで下がった。わが国にはニントゥアン、ビントゥアン、バックリュウ等々、風力発電を展開できる多くの地域がある。原油価格1バレル50USDという予想が出ているが、これに代わるLPGガスが合理的な原価を示しているので、我々が輸入して環境にやさしいエネルギー源として発展させることができるだろう。

原発の話で言うと、計画を展開した後に出る核廃棄物の解決は議論が必要だ。特に、最近の環境事故の後ではその必要が高まっている。

さらに現時点で原発計画を中止すべきもうひとつの理由として、わが国の債務がすでに許容範囲ぎりぎりに迫っていることが挙げられる。さらに大きな計画に投資を続けるとなると、危険はさらに増す。もちろん原発への投資をやめると、わが国の電気需要に対応するための電源を確保するために他の電源開発への投資が必要になるだろう。ニントゥアンですでに建設したインフラは別の事業に利用できるだろう、たとえば土地を確保して太陽光発電などの再生可能エネルギーに充てる、工業団地を建設する等々。

―もしも原発計画を続けるとしたら、40京ドンの投資が必要になるといわれているが、この数字をどう評価するか。

―当初の計画では投資金額は20京ドンとされていた、しかし現在計算しなおすとこれが2倍に膨れ上がっている。もし計画が遅れれば、投資金額はさらに膨れ上がる。その後の廃炉費用まで計算すると、発電コストはさらに上がるだろう。

―もし国会で中止が決定したら、すでに署名ずみの契約相手との関係の問題はどうなるのか。

―関係各省庁、各部局が契約相手と合理的な話し合いや協議を行う必要がある。というのも、この計画中止には、すでに述べたような「不可抗力的な」理由があるからだ。

―海外へ原発技術研修に派遣した人材はどうなるのか。

―高度人材はいつでも必要だ。当面は発電総合会社や稼働中の発電所でこの人材を使用することができるだろうし、カネの無駄にはならない。

―この原発計画中止決定を「勇気ある撤退」だとする意見があれば、これをどう評価するか。

―その通りだ。私はこの原発計画中止の提案は、勇気ある撤退だと考える。ベトナムは原発で後発の国であり、立案時には原油価格が高く原発が必要と考えられていた。その後状況が変化し、我々は、さらなる損失を被らないうちに早期に計画を中止する必要がある。

―原発への投資を決定してから、このような難解な数学の問題に直面したような国の例はあるか。

―もちろんある。たとえば南アフリカだ。ほとんど準備が整った時点で中止した。もしくはドイツがある。技術上の変化、安全上の要求、そして使用済み核燃料の問題から、多くの原発を廃止したり中止したりしている。我々が現時点で原発を中止するのは、時機を得た、かつ必要なことだ。

(囲み記事)

2009年11月25日に、382票の議員の賛成を得て(全議員の77.48%に相当)、国会はニントゥアン原発建設計画を議決した。計画では原発は2ヶ所、1ヶ所につき2基の原子炉が予定されていた。ニントゥアン第一原発はトゥアンナム県フォックジン郡に、ニントゥアン第二原発はニンハイ県ヴィンハイ郡に、それぞれ2,000MWの容量で建設が決まっていた。

ヴォー・ハイ、アイン・ミン

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▼色あせてしまったニントゥアン第二原発の看板 (c)FoE Japan

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