横須賀石炭訴訟控訴審は棄却。最高裁へ

2024年2月22日、横須賀石炭火力控訴審の判決がありました。

原告含め、冷たい小雨が降る中、約70人が集まりました。判決は開廷直後、「本件控訴をいずれも棄却する、控訴費用は原告がもつ。以上」との一言で、わずか10秒ほどで閉廷しました。

★横須賀石炭火力訴訟とは?
→横須賀火力発電所の新1・2号機(石炭火力)の環境影響評価書確定通知の取り消しを求める行政訴訟です。2019年5月に提訴されましたが、2023年2月「原告らの訴えをいずれも棄却する」という判決が言い渡されました。原告はその後、控訴(第一審裁判所の判決に対する当事者の不服の限度で,事実と法律の適用を再度審査することを求めること)しています。
https://yokosukaclimatecase.jp

判決への分析

この判決に対し、弁護士団長の小島延夫弁護士は下記のように分析しています。

  1. CO2の累積的影響を認識しながらも、横須賀石炭火力発電所からの排出を許容する矛盾:
    判決文では、気候変動の影響の深刻さを認識している。また、CO2の累積排出によって気候変動が起きていること、今後よりしっかりとした気候変動対策が必要であることも確認している。しかし、気候変動の原因がCO2排出が積み重なって起きていることに触れながらも、判決文では、横須賀石炭火力発電所が稼働した場合のCO2排出量は世界のエネルギー起源CO2(約323億トン・2015年)の約5000分の1に過ぎず、横須賀石炭火力発電所「単体」の影響は小さいとしている。横須賀火力発電所と同等のCO2を出す発電所は国内外にあり、横須賀石炭火力発電所の稼働を許すことは、それらの発電所の稼働を許すことにつながる。そして、それらの発電所のCO2排出を集計した場合、その累積量は看過できない量となるはずである。

  2. 気候変動は地球規模の問題と認めながら、原告への影響はないとする矛盾:
    世界規模の気候変動の被害の深刻性を認めながらも、横須賀石炭火力発電所は周辺住民の気候変動による被害を特に増大させるものではないとして、控訴人・原告適格を棄却した。気候変動は地球規模の問題と認めながら個人への影響はないとすることは、今回の判決の矛盾点といえるうえに、気候変動によって被害を受ける恐れがあると訴える人々が自らの将来の救済を求め提訴したとしても、「気候変動は個人に影響はない」ということになり、裁判を受ける権利そのものの侵害につながる。

  3. 合理化ガイドラインの適用が妥当と判断する根拠が環境アセスメントの趣旨に反している
    判決文の論理では、昭和45年と比較して今の発電所におけるCO2及びそのほかの汚染物質の排出量が減っているから、環境アセスメント手続きを簡略化して構わない、というもの。少しでも改善しているなら環境アセスメントを簡略化してもいいというのは、「実際の環境影響を調査すべき」という環境アセスメントの趣旨に反している。

原告・弁護団のコメント

「判決の言い渡しはほんの数秒で終わった。衝撃を受けた方もいると思うが、あの場面は、あれ以上あの場に裁判官がいることができない、ということの表れだったのだと思う。内容的には圧勝している戦いをやってきているということ。ここで(裁判を通じた闘いを)やめたら、自分たちは諦めたのかということになってしまう。最高裁判所に最後まで判断を仰ぎたい。ぜひご賛同いただきたい。また、この裁判を通じて学んだのは、今の社会が、このままの状態で将来に渡していいのかという状況にあるということ。CO2を出していることによって今の社会が成り立っている、そんな社会の仕組みを作ってしまった、そういう責任があると思う。それを解決する方法を目指さないと、次の世代に申し訳ない。その方法として、我々が武器にしていた環境アセスメントはものすごい武器になるはず。環境アセスメントの仕組みは、そんな法律にしていかないといけない。」鈴木陸郎さん(原告団長)

「裁判は、気候変動問題にどう戦うかという、世界の中の日本の重要な取り組みの一つ。今、何をすることが大事かを考えて行動したい。世界では、政府に挑戦しようという裁判官は増えてきている。気候変動は人々の生活基盤や生きていく術を奪っていく問題であり、人々の生活基盤や生きていく術を守っていくのが裁判官の役割だと、判決文に書くようになった裁判官も世界にはいる。COP28ではブラジルの最高裁判官も参加しており、そのようなことを言っていた。しかし、裁判官もそのような意識になるには、日本の社会が変わっていかないといけない。」浅岡美恵弁護士

「判決文における簡略化の部分は、明らかにおかしい。こういうおかしさを、こういう判決を許していいのか、ということを問う最高裁での裁判になる。温暖化の問題についてこんな判決書いていたら、世界に笑われてしまうということを世界に訴えたい。」千葉恒久弁護士

「なぜ裁判官がこういう判断したのかということを考えてみる。高等裁判は、最後の事実認定をする場所であり、今回の判決では気候変動の深刻さを事実認定し、CO2の累積排出量の影響も認めた。今回の判決は、裁判官にとっても苦しい判断だったのではと想像する。そのような裁判官を助けるのは、国が石炭をやめるということ。」半田虎生弁護士

「今年の夏も記録的な猛暑になるのではないかとのニュースを聞いた。判決文で、裁判官は気候危機を認識していることがわかる。しかし、今回の判決で裁判の動きを止めてしまうと、気候変動の影響からの救済を求める裁判が退けられる根拠を残したままとなり、気候変動に派生する裁判ができなくなる。最高裁に判断を仰ぐということは、裁判を受ける権利を侵害されることを放置しなかったぞということ。それは、一つ世界に示せるところになるはず。」永井久楽太弁護士

気候危機対策を超えて、民主主義の問題が問われている

2019年5月から始まった横須賀石炭火力裁判は、気候危機の問題を超え、「おかしいことはおかしいと声をあげないといけない。おかしいことはそのまま放置したままでいいのか?」と私たちの社会、民主主義のあり方が問われていると感じます。

また、COP28では「化石燃料からの脱却(Transition away from fossil fuels)」が採択されました。
すでに世界の平均気温が1.1度上昇し、気候危機が顕在化している今、この 10 年間に排出量を早急かつ迅速に削減することが求められています。
歴史的に多くの温室効果ガスを排出してきた国として、世界の約束を守るならば、日本は国内にあるすべての石炭火力発電所を段階的に早急に廃止するための明確な計画を策定するべきです。

また、世界では気候訴訟で市民の勝利も見られ(例:オランダのシェル訴訟)、実際に化石燃料事業へのプレッシャーとなっています。

<FoE オランダ等による気候訴訟>

  • 2021年5月27日「歴史的勝利!市民がシェルに勝訴」

横須賀控訴審の結果は残念なものではありますが、それは決して石炭火力廃止の動きを止めるものではありません。FoE Japanは、横須賀石炭火力を止めるために立ち上がった人々と連帯し、日本の脱石炭の実現に向けて活動を続けていきます。

(髙橋英恵)