【横須賀石炭訴訟報告 vol.6】簡略化の不適切性、世界の気候危機対策との不整合を指摘

本日、横須賀石炭火力行政訴訟の第6回期日が開催されました。
新型コロナウイルスの緊急事態宣言の中での初の開催となり、今回は原告12名、傍聴も12名程度と過去最小人数の中で執り行われました。

「簡略化の不当性」

今回は原告代理人から「簡略化の不当性」「菅首相の2050カーボンエミッションゼロとの不整合」の二点、主張がありました。

原告代理人の千葉弁護士より、横須賀石炭火力発電所の環境影響評価(以下、環境アセスメント)簡略化の不当性について主張がありました。

前提として、環境アセスメントを簡略化できる条件には、

  • 既に十分に信頼できる環境影響評価の結果があること
  • リプレース(建て替え)の場合
    • 稼働している旧施設が新しい施設となった場合、環境影響が低減されること
    • 稼働している旧施設が新しい施設となる間に、空白期間がないこと

があります。「稼働している旧施設が新しい施設となる間に、空白期間がないこと」という条件は、計画立案時の環境と比較するべきという考え方があります。

しかし、今回の訴訟の対象となっている横須賀石炭火力発電所は、確かに旧火力発電所内ではあるものの、稼働時と計画立案時では空白期間があります。さらに、事業者JERAが実施した環境アセスメントでは、45年以上前に建設された旧施設稼働時のものと比較しています。

千葉弁護士は、「これらの事実から環境アセスメントの簡略化は不適切であると考えられる」と主張されました。

なお、簡略化した内容は、

  • 発電所からの温排水による海洋生物の影響
  • 大気汚染についての現地調査
  • 解体工事による影響の調査・予測

となっています。

「菅首相の2050カーボンエミッションゼロとの不整合」

次に、小島弁護士より、昨年10月26日に表明された菅首相の2050カーボンエミッションゼロとの不整合についての主張がありました。

小嶋弁護士は、菅首相の上記所信表明演説における「省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。」という発言や、12月25日のグリーン成長戦略での「電力部門での脱炭素化は不可欠」との記述を引用し、横須賀石炭火力稼働の不整合性を指摘しました。

また、そもそも、時系列的に考えて、横須賀石炭火力発電所建設計画の環境アセスメントの確定通知は国際的な気候変動の動向・政策に反することも指摘しました。

具体的には、横須賀石炭火力発電所建設はパリ協定締結後に計画されたこと、さらに、同建設計画の環境アセスメントの確定通知が出されたタイミングが、1.5度の気温上昇と2度の気温上昇ではその被害に大きな差があること、1.5度の上昇でも重大な被害があること、そして2030年までの取り組みが重要であることを指摘したIPCCによる1.5度特別報告書の公表後であることを指摘しました。

第6回の裁判の報告会は2月5日(金)18:00〜19:30にオンラインで実施します。
ぜひご参加ください。申し込みはこちら(事前要申込み・無料)

次からいよいよ被告の反論

次回は5月17日(月)14:00〜、東京地方裁判所です。

今回は被告からの答弁はありませんでしたが、次からいよいよ被告の反論が始まります。裁判官も今回の裁判で「できるだけ準備してくるように」と被告に言い渡しています。被告である経済産業省がどのように反論してくるのか、注目です。

とはいえ、裁判は非常にゆっくり進む一方、工事は着々と進んでおり、焦りを強く感じます。裁判の進み方に歯痒さを感じますが、原告の弁護団の小島弁護士、浅岡弁護士は、「企業や政府の対応などの社会の変化や市民の声の高まりは、必ず裁判に影響を与える。諦めずにいきたい。」と心強い言葉もくださいました。

FoE Japanでは引き続き裁判を応援するとともに、地域住民、若い世代と共に運動を盛り上げていきます。

(高橋英恵)

横須賀石炭火力訴訟について:https://yokosukaclimatecase.jp

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