森林破壊に繋がる私たちの日常

こんにちは。FoEでインターンをしている佐藤悠香です。

今回は、10代・20代向け オンライン連続セミナー第4回「食卓と繋がっている気候変動の影響」に参加しました。

このセミナーではまずはじめに、地球環境戦略研究機関(IGES)で長年、土地利用と気候変動の関係を研究されている山ノ下麻木乃さんからお話がありました。

気候変動と聞くと、エネルギー排出の多い交通系や製造業を想像する方が多いのではないでしょうか。しかし、実は農林業は世界の温室効果ガス排出の23%を占めています。

農林業が大きな排出源になる原因としては、窒素肥料の過剰使用や牧畜・稲作が挙げられます。つまり、化学肥料の使い過ぎや牛肉と米の生産が気候変動に結びついているのです。

農業からの温室効果ガス(Green House Gas, GHG)排出の要因はいくつかあり、

  1. 化学肥料の製造過程で多くのGHGが排出
  2. 窒素肥料を過剰に投入すると余剰分からN2Oが発生
  3. 農業機器で化石燃料の使用
  4. 水田からを耕すことでメタン排出

などが挙げられます。そして、わたしたち個人がこの問題に取り組むためにまずできることは、有機栽培された食材の購入や、地産地消を心掛けた消費を行うことでしょう。

また、それ以外にも「森林の減少」も大きな要因の一つです。

人口の急激な増加に従って、人間は食料生産を大幅に増やす必要がありました。そのため、化学肥料を使って収量を増加させるだけでなく、森林を農地に転換することで作付面積を拡大してきました。

主に増えたのは大豆の生産量で、これは人間の食用よりも主に家畜の飼料として使われています。そして、農地の8割が家畜の餌を生産するために使われているにも関わらず、世界の食料供給(カロリー)は全体のわずか2割ほどです。

現在、世界人口の9%である6億9000万人が飢餓状態であると言われています。わたしたちは人間が食料として消費するよりも、主に牛肉を生産するために大量の大豆と穀物を生産しているのです。

森林の減少は都市化が原因と考えられがちですが、実は農地への転換が主因で、こうしている今も6秒にサッカー場1個分の熱帯の森林が失われています。

また、山ノ下さんのお話のなかで「国産牛でも飼料の約半分は輸入している」というお話は個人的に驚きました。日本で育てられる牛は、森林伐採に関係していないというわけではなく、その牛を育てるために生産される餌が森林を壊しているのです。

そのほかにも、畜産は牛のゲップ・おならがメタンを放出させたり、輸出入の際にCO2を排出したり、糞尿が環境汚染をもたらしたりと幅広く地球環境に悪影響を与えます。

考えてみると、こんなに莫大な温室効果ガスを排出し自然を汚染しながら生産されたお肉でも、レストラン・スーパー・家庭で多くのフードロスが発生しています。これはお肉に限った話ではありません。私たちは、「食べ物を捨てるために食べ物を生産している」といってもおかしくないでしょう。

私はNetflixで”Cowspiracy(サステナビリティの秘密)”を見たことがきっかけで肉食をやめましたが、山ノ下さんのお話を聞いて、自分も知らなかった畜産と気候変動の関係だけでなく、日本人の食文化であるお米が与える悪影響について初めて知り大変驚きました。

続いて、FoE マレーシアのMageswari Sangaralingamさんから、マレーシアで実践している持続可能な農業「アグロエコロジー」についてお話を伺いました。

アグロエコロジーとは、大規模な工業型農業ではなく、地球への環境負荷を最小限に抑えた農業のことを指します。また、家族やコミュニティで一丸となって農業に励むため、人との繋がりを生み、新たな分散型社会の形成に貢献します。

Mageswariさんたちは、マレーシアで実際にアグロエコロジーの実践方法を農民の方に教えたり、化学肥料を用いずコンポストを利用したりするなどして地球環境に配慮した、持続的な農業を広めていく活動をしています。

ときには、ワークショップを開いて現地の子どもたちと一緒に土壌を触ってアグロエコロジーを体験できる機会を設けたり、コミュニティ内の人の繋がりをサポートしたりと、地域住民の方が自立してアグロエコロジーを継続していくお手伝いをしていらっしゃるようです。

わたしのように東京に住んでいる人間からしたら、なかなか普段の生活で農業にチャレンジすることはハードルが高い気がしていましたが、都内でもコミュニティが共同で農業を行う場はあるようなので早速トライしてみたいと思います。

最後は参加者の方々に、このセミナーを通じて感じたことを自由に話し合っていただきました。

・パーム油マークは時々見るが、パーム油と森林破壊の繋がりは初めて知った

・アグロエコロジーという言葉自体、聞いたのは初めてだが、楽しいからこそ多くの人が無理なく続けているのだろう

・幼い時からコンポストをやるという経験が日本でも広まると、日本人の環境意識が変わるのではないか

・買い物をするときに自分で食べ物を選択する機会がなかなかないので、問題意識を自分の家族と共有することがまず大切だということに気が付いた

・すごく安い製品の裏側には誰かの犠牲があることを忘れないようにする

といった感想を聞くことが出来ました。

農林業とか畜産とか、アグロエコロジーとか、こういったお話を聞くととんでもないことがこの世界で起きていることを知り、ショックを受ける人が多いと思います。しかし、「じゃあどうやって自分の日常を変えていけばいいの?」と思う人でも出来ることはたくさんあります。

お肉を食べる量を半分に減らしてみる。少し高くてもオーガニックのものを選択してみる。自分の家のベランダで野菜を育ててみる。

こうした行動を継続していくことで、周りの人も感化され行動に移していくかもしれません。今の社会状況や搾取の仕組みを一人で変えることはできないけれど、みなさん一人一人が消費行動をもう一度考え直して実践していけば、周りの人間も企業もこの社会も絶対に変わると思います。

この問題を知った方と一緒に私も不安や怒りを感じるだけでなく、それを行動に移していきたいと思います。

(インターン 佐藤悠香)

第4回のゲストスピーカーのお話は、Youtubeからご覧いただけます。

*お話の内容*
・山ノ下麻木乃さん「食卓とつながっている気候変動の影響」資料はこちら
・Mageswari Sangaralingamさん「Agroecology」資料はこちら

★次回のお知らせ★
「気候危機から未来を守るために立ち上がろう!〜日本でアクションするということ〜」
・日時:2021年3月16日(火)19:00〜21:00
・ゲストスピーカー:
 白馬高校、
 総社南高校、
 Fridays For Future Sendai、
 Fridays For Future Shizuoka、
 Fridays For Future Yokosuka
・参加費無料
・申込みはこちら

★スクール・オブ・サステナビリティの概要はこちら

500名以上の科学者が日本政府に書簡を提出:森林バイオマスを使った発電はカーボンニュートラルではない

2月11日(米国時間)、42の国と地域の500名を超える科学者が日本政府に対し、木質バイオマスを使った発電はカーボンニュートラル(炭素中立)ではないと主張する書簡を提出しました。書簡は米国政府、欧州連合(EU)及び韓国政府にも同時に送付されました。

書簡では、バイオマスの発電利用により森林が伐採され、森林に蓄えられている炭素が大気中に放出されること、森林の再生には時間がかかり、数十年から数百年にわたって気候変動を悪化させること、バイオマスの発電利用は化石燃料を使用した場合の2〜3倍の炭素を放出する可能性があることが指摘されています。また、各国政府は「気候変動対策」として、バイオマスを燃焼することに対する補助金やインセンティブにより、実際は気候変動を悪化させていること、そして真の排出削減のためには、森林を燃やすのではなく、保全と再生に努めるべきことが述べられています。

日本では、2012年にFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)が開始されて以降国内のバイオマス発電事業が急増しています。

FIT認定量は、2020年9月には821.5万kWで、そのうち747万kWが一般木質バイオマスおよび農作物残さ(輸入木質ペレット・木質チップ、PKSなど)やバイオマス液体燃料(パーム油など)による発電となっています。同時点で、FIT制度下で稼働している発電事業数は446件、認定されている事業数は709件にのぼります。

大規模バイオマス発電事業は、輸入燃料に頼っています。例えば木質ペレットの輸入量は、2012年には約7.2万トンでしたが、2019年には161.4万トンに急増しています。

書簡は、日本のFIT制度について「日本は、木材を燃やす発電所への補助金をやめる必要がある」と言及しています。

以下、日本語の仮訳です(原文はこちら)。


森林のバイオマスエネルギー利用に関する書簡<仮訳>

2021年2月11日

米国大統領 バイデン様、
欧州委員会委員長 フォン・デア・ライエン様、
欧州理事会議長 ミシェル様、
日本国内閣総理大臣 菅様、
大韓民国大統領 文様

下記に署名した科学者および経済学者は、米国、欧州連合、日本、韓国が、2050年までにカーボンニュートラルを達成するために野心的な目標を発表したことに称賛の意を表します。森林の保全と再生こそが、この目標を達成するための重要な手段であり、同時に地球規模の生物多様性の危機への対処に役立つものです。私たちは、エネルギー生産のための燃料を化石燃料から木質燃料に転換することにより、気候目標と世界の生物多様性の双方が損われることがないよう、強く求めます。

何十年もの間、紙や木材製品の生産者は副産物として各工程の廃棄物を電気や熱を生成してきました。この利用は木材の新たな伐採につながるものではありません。しかし近年では、バイオマスエネルギーのために樹木を伐採し、木材の大部分を燃料に転用することで、森林に蓄えられるはずの炭素を放出させてしまう誤った動きが見られます。

このような新たな伐採の結果、当初は炭素排出量が大幅に増加し「炭素負債」が発生します。バイオマスエネルギー利用のために伐採される木が増えれば増えるほど、炭素負債は増加します。森林を再生し化石燃料を代替することで、最終的にはこの炭素負債が解消されるかもしれません。しかし、森林再生には時間がかかり、世界が気候変動を解決するためにはその時間的猶予がありません。数多くの研究が示しているように、このような木材の燃焼は数十年から数百年にわたって温暖化を悪化させることになります。木材が石炭や石油、天然ガスに取って代わる場合も同様です。

その理由は基本的なことです。森林は炭素を蓄えているからです。乾燥した木材の重量の約半分は炭素です。木材が伐採されて燃やされる場合、エネルギーを供給する前に伐採と加工の過程で、伐採された樹木の多く、しばしば半分以上は、化石燃料を代替することもなく炭素を大気に追加しながら、失われます。また、木材の燃焼は炭素効率が悪く、エネルギーとして燃やされる木材は、化石燃料よりも多くの炭素を排出します。全体的にみて、木材の燃焼により1キロワット時の熱や電気を生成に対して、化石燃料を使用した場合の2~3倍の炭素が大気中に放出される可能性が高いです。

今後数十年の地球温暖化の悪化は危険です。この温暖化は、増加する森林火災や海面上昇、猛暑などによる、より直接的な被害を意味します。また、氷河の急速な消失と永久凍土の融解、世界の海の温度上昇と酸性化により、さらに永続的な被害がもたらされることを意味します。これらの被害は、今から数十年後に炭素を除去したとしても、元に戻ることはありません。

木材を燃やすための政府の補助金は、二重の気候問題を引き起こしています。なぜなら、この誤った解決策が本当の炭素排出量削減策に取って代わっているからです。企業は、化石エネルギーの使用を、真に温暖化を減少させる太陽光や風力に転換する代わりに、温暖化を悪化させる木材に転換しています。

日本やフランス領ギアナなどでは、木材を燃やして電気を作るだけでなく、パーム油や大豆油を燃やす案も出ています。これらの燃料を生産するためには、パーム油や大豆の生産を拡大する必要があり、その結果、炭素密度の高い熱帯林が皆伐され、その炭素吸収量が減少し、大気中に炭素が放出されます。

森林や植物油の管理に関する「持続可能性の基準」では、これらの結果を変えることはできません。持続可能な管理とは、木材の伐採後に最終的に炭素負債が返済されることを可能にしますが、それまでの数十年、あるいは数百年の温暖化の進行を変えることはできません。同様に、植物油の需要が増加すれば、食糧需要の高まりによってすでに発生している世界的な森林伐採の圧力にさらに拍車がかかるでしょう。

土地利用変化に起因する排出について、国が責任を負うことは望ましいことではありますが、それだけでは木材を燃やすことをカーボンニュートラルとみなす法律による問題を解決できません。なぜなら、発電所や工場で木材を燃やすための法律で定められたインセンティブを変えるものではないからです。同様に、ディーゼル燃料の使用からの排出について各国が責任を負っているという事実は、ディーゼルがカーボンニュートラルであるという誤った理論に基づいており、トラックがより多くのディーゼルを燃やすことを奨励する法律を是正することにはなりません。国家の気候変動に関する責任を定める条約も、それを果たすための各国のエネルギー関連法も、それらが奨励する諸活動が気候に与える影響を正確に捉えたものでなければなりません。

今後の皆様のご決断は、世界の森林に大きな影響を与えます。もし世界のエネルギー需給量のさらに2%を木材から供給するとしたら、木材の商業伐採量を2倍にする必要があるからです。ヨーロッパでのバイオマスエネルギーの増加は、すでに欧州における森林の伐採量の大幅な増加につながっていることを示す十分な証拠があります。これらのアプローチは、熱帯諸国に森林をもっと伐採するよう促すモデルを作り出し、世界が目指してきた森林に関する合意を台無しにします。既に数か国は森林伐採を増加させると表明しています。

このような悪影響を回避するために、各国政府は、自国産であれ他国産であれ、木材を燃焼させることに対する既存の補助金やその他のインセンティブを廃止しなければなりません。欧州連合は、再生可能エネルギー基準や排出量取引制度において、バイオマスの燃焼をカーボンニュートラルとみなすのをやめる必要があります。日本は、木材を燃やす発電所への補助金をやめる必要があります。また、米国では、新政権が気候変動に関するルールを作り、地球温暖化を抑制するためのインセンティブを生み出す中で、バイオマスをカーボンニュートラルまたは低炭素として扱わないようにする必要があります。

樹木は、生きているものの方がそうでないものより気候と生物多様性の両方にとって価値があります。将来のネット・ゼロ・エミッション目標を達成するために、貴政府は森林を燃やすのではなく、森林の保全と再生に努めるべきです。

ピーター・レイヴン(ミズーリ植物協会 名誉会長、米国ミズーリ州セントルイス)

その他の主唱者:

(*原文をご参照ください)

原発推進の大合唱ー異様なエネルギー基本計画改定議論

スタッフの吉田です。
2020年10月から始まっているエネルギー基本計画の改定議論。
これまでと同様、エネルギー業界や産業界に関係する委員が中心の審議会で、市民参加の機会もほとんどない中で行われています。

「2050年カーボンニュートラル」をどう実現するのかについても話されていますが、その中身は、火力発電と原子力発電を引き続き重視、そのうえで、水素やアンモニア、CCUS(炭素回収貯留・利用)で火力発電を「クリーン化」するという議論です。原子力についても、次世代炉の開発に加え新増設も明記すべきだという意見が多数あがり、世論とも現実とも乖離しています。
▼審議の場「基本政策分科会」はこちら
総合資源エネルギー調査会|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

2月8日、フクロウFoEチャンネルFFTVで、エネルギー基本計画の見直し議論について取り上げました。
よろしければぜひ、録画と資料をご覧ください。
▼録画はこちら
FFTV 原発推進の大合唱…異様なエネルギー基本計画改定議論/ゲスト:吉田明子さん(FoE Japan) – YouTube

ちなみに・・どんなメンバーが審議会委員なのか、Fridays For Future Japanがこのような「エネモンカード」を作成しているので、参考にご紹介します。火力推し、原子力推し、バックがグレーのメンバーも資源エネルギー庁が提示する資料の方向性に基本的に賛成しています。

Fridays For Future Japan作成の「エネモン」カード

市民参加が無視された厳しい状況です。しかし私たちにできることはあります。
「市民の声や世の中の現実」と「政府の方針」とのギャップを可視化し、声を大きくしていくことです。
FoE Japanも参加し、さまざまな団体のネットワークで2020年12月より、「あと4年、未来を守れるのは今」キャンペーンを呼びかけています。署名のほか、さまざまなアクションが呼びかけられています。
2月4日の「市民のエネルギー気候会議」や、12月10日の発足記者会見の映像も、よろしければぜひご覧ください。
http://ato4nen.com

また、1月27日より政府は「エネルギー政策に関する『意見箱』」を設置しています。
提出された意見が十分に「反映」されるかといえば、残念ながらそのようなプロセスになっていません。しかし、基本政策分科会の会議の際に資料として提示され、ウェブサイトにも掲載されます。
私たちの声の「可視化」として重要ですので、ぜひ多くの声を届けていきましょう。
エネルギー政策に関する「意見箱」|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

▼FoE Japanの声明(2020年12月18日)
エネルギー基本計画見直し―原発や石炭火力依存から脱却し、システムチェンジを!| FoE Japan

【第3回 スクール・オブ・サステナビリティ報告】サステナブルファッションにチャレンジしよう!

はじめまして、FoEインターンの増田千紗です。第3回スクール・オブ・サステナビリティに参加しました。

今回は、「暮らしのどんなところで気候変動に繋がっているの?」パート1として、サステナブルファッションについて、Kamakura Sustainability Instituteの青沼愛さんと、パタゴニア日本支社環境社会部の中西悦子さんにお話していただきました。

ソーシャルオーディタ―(社会的責任監査員)として活躍されている青沼さんから、ファッション産業がいかに自然環境と人権に影響を与えているのか、また私たちは具体的に何ができるのかについてご説明頂きました。口に入らない商品だからこそ気にしてこなかった、見えてこなかった汚染問題や資源の無駄遣いがあることに気が付かされました。洗濯方法一つで、環境汚染を抑えることができることに驚いた方は少なくなかったのではないでしょうか。

一方で、サプライチェーンにかかる環境問題や強制労働等の構造に変化をもたらすためには、消費者としての責任ある行動が必要だと感じました。ゲストスピーカーのお二人が指摘していた、企業や社会に訴えかけていくというアクションに貢献できると感じた参加者が多くいらっしゃいました。大量消費文化を見直し、効率性よりも公正性を求める行動を心がけたいですね。

上述の通り、私たちが企業や社会に訴えかけていくことが必要とされています。しかし、参加者の方からは「発信したいけどできない」という声が聞かれました。というのも、日本では個人がSNSで政治や社会情勢について考えを発信する文化が受け入れられていないのが現状なのです。ある参加者の方は、アメリカにいたときと比較し、日本はSNSを発信ツールとして使いにくいとおっしゃっていました。地球規模の問題を「自分事」として捉えることができていないユーザーが多いのかもしれません。

これを解決するには、魅力的で発信力のある企業が、情報提供や行動指針を提示していくことが求められているのではないでしょうか。そのような取り組みを早くから行うのが、パタゴニアです。二人目のゲストスピーカーとして、中西悦子さんには、パタゴニアが取り組む環境再生型(リジェネラティブ)の活動や、再エネ化や選挙にむけたアクション事例について伺いました。

興味深かったのは、パタゴニアのビール生産。なぜアパレルブランドが食料品を?と疑問に思うかもしれませんが、これもリジェネラティブな取り組みなのです。青沼さんから指摘があったように、世界で排出されている二酸化炭素量の10%がファッション産業から。パタゴニアは、炭素を土に固定するための農業によって、ファッション産業などから排出される炭素の環境負荷を軽減させようと取り組んでいます。特に、農業のリジェネラティブ化は、カーボンニュートラルに大きく寄与できるそうです。必要性のあるものでビジネスを拡大するという考えは、これぞ「つくる責任」。中西さんが「ヒット商品であっても、本当に必要とされていたものだったのか」と何度も考え直し、悩むこともあるとおっしゃっていたのが印象的です。

グループディスカッションでは、参加者の方から「知ってるつもりになっていた。まだまだ知らないことが多い。」「考えや情報を家族や友人と共有したい」といった声が聞かれました。知らないことへの探求心を持つ次世代が、声を上げることができる社会を私たちでつくっていきたいと強く思いました。

(インターン 増田千紗)

第3回のゲストスピーカーの青沼さんのお話は、Youtubeからご覧いただけます。
https://youtu.be/hI-Ic-2vg84

★次回のお知らせ★
「暮らしのどんなところで気候変動につながっているの?
part2〜食卓とつながっている気候変動の影響〜」
・日時:2021年2月17日(水)19:30〜21:00
・ゲストスピーカー:山ノ下麻木乃さん(地球環境戦略研究機関)、
          Mageswari Sangaralingam(FoE マレーシア)
・参加費無料

*【10代・20代向けオンライン連続セミナー】スクール・オブ・サステナビリティ〜気候変動の危機から世界を守るために立ち上がろう!〜の詳細はこちら

ナイジェリアの農民ら、シェルに対する訴訟で勝訴 – 多国籍企業に対する画期的な判決

2021年1月29日、ナイジェリアの農民らがFoEオランダ(Milieudefensie)とともにオランダ・ハーグの裁判所で提起していたシェルに対する訴訟で、農民側とFoEの訴えが認められ勝訴しました。

ニジェールデルタの三箇所で発生していた石油汚染については、シェル・ナイジェリアの責任が認められ、同時に親会社であるロイヤル・ダッチ・シェルの注意義務(Duty of care)違反が認められました。また判決では、石油汚染によって生じた損害について4人の原告のうち3名の原告及び影響を受けた村人に対し補償を行うこと、シェルに対してナイジェリアのオイルパイプラインに石油漏れを検出するシステムをもうけることを命じました。今回の判決は、オランダの多国籍企業の海外での活動における注意義務違反を認めた、初めての判決です。

この数十年、ニジェールデルタでは大規模な石油汚染による被害で数百万人もの人が苦しんできました。毎年汚染により16,000の乳児が死亡しており、デルタエリアの人々はそれ以外のナイジェリアの地域と比べ、10年も寿命が短くなっています。FoEオランダの訴訟は、シェルの石油流出の影響を受ける3つの村での被害を中心に提起されました。流出した石油は、今でも十分に回収されてはおらず、新たな石油流出が定期的に発生している状況です。

原告の一人で、ゴイ村の農民のエリック・ドー(Eric Dooh)は、「ついに、シェルの石油流出で苦しむ人々にいくらかの正義がもたらされました。しかしこれはほろ苦い勝利でもあります。原告に参加していた私の父を含む二名は、生きてこの訴訟の結果を見ることが叶いませんでした。しかし、この結果はニジェールデルタの将来に希望をもたらしました。」

農民とNGO側の弁護士を務めたチャンナ・サムカルデン(Channa Samkalden)は「数年にも及ぶ訴訟の結果、ついに正義がもたらされましたが、Ikot Ada Udo(注:原告の中の一名)の訴訟はまだ続いています。シェルの石油流出への責任だけでなく、原告側が持つ権利が認められました。この訴訟は、ヨーロッパの企業が海外でも責任を持って振舞うべきであることを示しました。」

FoEオランダの事務局長であるドナルド・ポールズ(Donald Pols)は「これは影響を受ける農民にとって素晴らしいニュースです。シェルが損害を補償しなければならないことは非常に大きなことです。これは、世界各地で不正に関与しているすべてのオランダの多国籍企業に対する警告でもあります。環境汚染、土地の奪取、搾取の犠牲者が、企業との法廷闘争で勝つ可能性が高まりました。発展途上国の人々が、多国籍企業を前に権利を失っている状況ではもうないのです。」とコメントしました。

多国籍企業への規制が必須

この訴訟はほぼ13年続き、多国籍企業の活動によって損害を受ける被害者が正義を得ることがいかに難しいかを示しています。FoEグループは、企業に対して海外事業で引き起こした損害への責任を負わせるための野心的なヨーロッパおよび国際的な法整備を求めています。すでに多くの市民が、拘束力のあるデューデリジェンス法を導入するよう欧州委員会に求めるオンラインアクションに参加しています。

企業に対し責任ある行動を求め活動しているFoEヨーロッパのジル・マカードル(Jill McArdle)は次のように述べています。「今日は、石油会社の汚染と人権侵害の犠牲者すべてにとって希望に満ちた日です。しかし、正義がなされるのに被害者が13年も待たされるべきではありません。欧州企業にサプライチェーンで起こったことに対して責任を負わせるために、今より良いEU法が必要です。何千人ものヨーロッパの市民がEUに対し、企業に説明責任を負わせる新しい法律の提案を要求しています。」

ナイジェリアでの日常的な油流出

何十年にもわたりかわされた約束や、プロジェクト、報告、訴訟にもかかわらず、ニジェールデルタはひどく汚染されたままです。油流出は今も毎日おきているのです。ナイジェリア政府やシェルが行うと約束した浄化作業も、10年間が約束と準備についやされたままで、まだ行われていません。シェルの従業員がサボタージュしているというFoEオランダとナイジェリアによる報告もあります。

プレスリリース原文はこちら:https://www.foei.org/press_releases/victory-oil-shell-nigeria