日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件

 

盗伐被害地(記事とは別の被害地)。土地の境界標があってもお構いなし!(宮崎盗伐被害者の会提供)

第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷

 2019年7月12日、新聞各紙の地方版紙面において、宮崎県国富町の山林における森林法違反(森林窃盗)、いわゆる“盗伐”の疑いで日向市の素材生産業者「黒木林産」社長、黒木達也容疑者が7月11日に逮捕されたことが報じられました。記事によれば宮崎県内で同容疑での逮捕は2例目で、伐採業者の逮捕は初めてのことです。
 その1例目の事例とは、2017年10月5日、有印私文書偽造、および同行使、森林法違反(森林窃盗)の容疑で岩村進、松本喜代美、他1名の計3名の容疑者が逮捕され(10月26日に再逮捕)、2018年3月20日、岩村進、松本喜代美被告がそれぞれ懲役2年6ヶ月(執行猶予5年)と懲役2年6ヶ月(執行猶予4年)の有罪判決が下された事例のことです。

 今回は、この事例の被害当事者であり、宮崎県盗伐被害者の会会長の海老原裕美さんの事件を紹介します。

被害者 海老原明美さんの事件

 海老原さんが被害にあった山林の所在は「宮崎市大字瓜生野字ツブロケ谷4689-2」。県道26号宮崎須木線から「エコクリーンプラザみやざき」へ向かう主要道路に面した林地で面積は0.21(ha)。この山は、海老原さんが生まれた記念にご両親が作った山で、母親の明美さんもとても愛着のある山だったそうです。

私の山がない!
 その山の異変に気付いたのは2016年8月。現在は千葉県千葉市に在住している海老原さん家族がお盆の墓参りに帰省し、たまたま林地を通りかかった際に「私の山がない」ことに気付きました。裕美さんは「何かの間違いだろう」と思いつつも、明美さんが「間違いない。ここに私たちの山があった」と言うので、翌日法務局にて地籍図を入手し確認したところ、そこは皆伐された海老原明美さん所有の山林だったのです。
 明美さんは、後日放映されたTV番組の取材*1で被害に遭ったことについて「(伐採され)本当にくやしかった。泣き寝入りだけはしたくない。犯人がいるのだから逮捕してほしい。ただそれだけ」と悔しさをにじませて話しています。

犯人探し
 それから海老原さんは宮崎市役所や宮崎北警察署に被害の相談に行きましたが、まったく取り合ってもらえませんでした。「一体誰が伐採したのか」。海老原さんはその犯人探しを独自ではじめました。まずは宮崎市役所へ「伐採及び伐採後の造林の届出書(いわゆる伐採届)」に関する情報開示請求。驚くことにその開示された文書には15年前に亡くなった父親の海老原政勝さんの署名と捺印がありました。これは明らかに有印私文書偽造、同行使の罪に問われる行為です。犯罪です。
 さらに森林法に規定された手続きとして各市町村に提出された伐採届は、それが受理された後「伐採及び伐採後の造林の計画の適合通知書」が「伐採後の造林に係る権原を有する者」、つまりは山林所有者届出者に対して送付されることになっており、宮崎市役所は、なんと既に亡くなっている海老原政勝さん宛てに3回も送付していました。当然宛名はこの世にいない人ゆえ、市役所に返送され、その後適合通知書の事務処理未処理状態になっていたことが、その後の宮崎市とのやりとりの中で明らかになりました。この適合通知書が戻ってきたことを受け、伐採届の記載内容についてより慎重に検証、例えば海老原政勝さんの住民票との照合などをしていれば、海老原さんの林地の盗伐は未然に防げた可能性もあります。明らかに行政の不手際だったと言えます。
 海老原さんはその後も宮崎市役所や宮崎北警察署に対して、盗伐や有印私文書偽造という犯罪行為について「捜査してほしい」と繰り返し相談を続けたものの、両者とも書類の偽装を確かめようともしませんでした。

 こうした状況を受け、海老原さんは各報道機関に訴えかけ、盗伐被害とそれに対する行政機関等の対応の実態を世に知らしめるべく動きました。宮崎日日新聞や旬刊宮崎といった宮崎の地方紙のみならず、全国紙の地方版でも取り上げてくれました。さらには宮崎市議会議員の伊豆康久氏*2の協力を取り付け、平成28年第6回定例会(2016年12月6日)から継続して「盗伐問題」についての宮崎市の対応を追及してもらいました*3

被害届の受理
 翌2017年3月、宮崎北警察署は海老原さんの「示談には応じない。そして犯人に対する厳しい処罰を希望する」という強い意思を確認した上で、ようやく海老原さんからの被害届を受理しました。

 その後、2017年4月にMRT(宮崎放送)の撮影が宮崎市役所に入った際、宮崎市森林水産課課長が海老原さんの「既に亡くなっている人物の名前が記載されているのに、その文書を市が受理したのはおかしいですよね。この届出は有効ですか、無効ですか」との問いに「それを確認できていないのはまずかった。(伐採届は)体をなしていない」と回答し、海老原さんの最初の相談から8ヶ月、ようやく宮崎市は書類の不備を認めたのでした。

被害者の会、設立
 この間、海老原さんは大勢の盗伐被害者の方々とともに動いてきました。海老原さんが被害に遭った2016年8月頃よりも2年も前に被害に遭った方など、近隣にも大勢の被害者がいたのです。「泣き寝入りは絶対にしない」。盗伐の原因追及と責任の明確化、および行政、警察、業界団体に対して然るべき対応を求めていくべく、海老原さんは被害者の方々とともに宮崎県盗伐被害者の会を立ち上げ、2017年9月29日、宮崎県庁記者クラブにて同会設立総会を開催しました。十数家族の参加で船出した会は、現在88家族が参加する会に拡大しています。声をあげる家族が少しずつ増えてきているということのあらわれです。

 なお、前出の前宮崎市議、現宮崎盗伐被害者の会事務局長の伊豆さんが、宮崎市議会平成29年第4回定例会で「過去十年間で宮崎盗伐被害者の会で把握している9つの盗伐業者や個人から何通の伐採届が出されているのか」と宮崎市に回答を求めたところ、836件だったことが判明しました。これらの多くが「盗伐」の可能性が高いと考られます。
 被害者の会が把握している被害者家族は会員家族以外に85家族あります。会員家族とあわせれば被害家族は173家族です。さらに驚くことに、ある県内企業の社長によると、その社長自身の山林も過去3回も盗伐被害に遭っており、「盗伐被害者数は少なくとも1,000家族以上はいる」と海老原さんに話したそうです。

 宮崎の盗伐問題の根はとても深く、まだまだ明らかにしなければならないことはたくさんありますが、被害を受けたにも関わらず無念にも泣き寝入りをせざるを得なかった被害者の方々の無念を晴らすためにも、海老原さんの活動は続きます。

 次回は、宮崎北警察に受理された海老原さんの被害届のその後、そして被害地の瓜生野ツブロケ谷で起こった大規模な盗伐の全容について紹介します。

*1:MRT宮崎放送特別報道番組「私の森が消えた ~森林盗伐問題を追う」(2017年5月31日午後1時55分放映)
*2:現在、元宮崎市議会議員の伊豆康久氏は宮崎盗伐被害者の会事務局長。
*3:伊豆元宮崎市議の質問は、平成28年第6回定例会(第3号)から平成31年第1回定例会(第3号)まで継続的に行われた。

(三柴 淳一)

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