リニア工事の実態~大鹿村釜沢集落

長野県大鹿村釜沢。標高1000mにある鎌倉時代から続く自然と共生する美しい集落です。畑の脇を人一人通るのがやっとの細い急な坂道を息を切らしながら家にたどり着くと、昔ながらの古民家が出迎えてくれます。自分で手直ししながら大切に使う家、近くの森で取れる薪、斜面の小さな野菜畑。住民達がこの土地を愛し、ここでの暮らしを大切にして生きていることがうかがい知れます。利便性や利益の追求からは得られない豊かさを求め、この集落では県外などから移り住んで来た人々が少なくありません。

静寂と自然の音、人々の丁寧な暮らしから育まれる音のみが存在してきた釜沢集落に、2008年からリニア中央新幹線のトンネル工事のためのボーリング調査が始まり、その後の24時間ボーリング工事の騒音被害を受けて集落を離れて行く人々も出てきました。2017年末にはダイナマイトの発破が始まり、「ドーン」という住民が地震か、雷かと思うほどの振動と騒音が起こりました。これが昼夜を問わず続く中、元々脆弱な地盤の集落内では、落石や石垣の崩壊、コンクリートのひび割れ、雨漏りなどが生じました。しかしリニア工事との因果関係は認めらませんでした。「村の他の集落の人からは、そんなところに住んでいるやつが悪いと言われることもあります。でも、そんなところで発破作業すること自体がどうなのか」と、釜沢集落の前自治会長の谷口昇さんは憤ります。

現在、釜沢にはまた別の音が生じています。トンネル工事から排出される残土を積み重ねる鎮圧する音が響きます。かつて人工物がほとんど見えることのなかった集落の景色の中に、積み重ねられる残土の山、工事現場が見えます。JR東海は南信の自治体各地で発生土置き場受け入れの交渉をしていますが、現在までに長野県内のリニアトンネル工事から発生する970万立米の残土の行き場はほとんど決まってなく、行き場のない土は釜沢にも仮置きされています。田畑が残土で埋め尽くされていく中、いつまで「仮置き」されるのか住民の不安は募ります。住民の内田ボブさんは、以前は上空を飛んでいた「クマタカやイヌワシが見えなくなった」と心配します。谷間に発破音や工事音が響くここ2年ほどの間に生態系も変わってしまった可能性があります。

大鹿村では、リニア工事の影響は釜沢集落の問題だけではありません。2017年には、トンネル掘削の発破が原因で土砂崩落が起こり、大鹿村と村外をつなぐ重要な生活道路が寸断されました。大鹿村にはコンビニもスーパーもないことから、多くの住民は日々の買い物や医療機関受診、通勤等のために村外に通っています。代替ルートとされたのは、両側を崖に挟まれた離合の難しい細い道路。道路が凍結する時期でもあり、高齢者や運転に自信のない方は実質的に陸の孤島に閉じ込められた形になりました。

リニア工事の影響は物理的な影響だけではありません。JR東海が一方的に定めたルールによって、住民説明会から村のリニア対策委員である住民の同席を拒否したり、住民に十分な説明もせず、住民が納得していないまま「理解が得られた」ことになって進められていたりと住民の意思を尊重する姿勢は見られません。リニア工事による道路改良や道の駅の建設等の懐柔策とも取れる事業が持ち込まれることで、地域内に対立や分断も生じています。

これから本格的に工事が始まる青木地区。残土運搬や青木川の水量への影響が懸念されています。青木地区に実家のある紺野 香糸さんは、「山梨を見に行ったとき、本当にこんな風になっちゃうんだって思ったけれど、やっぱり実際自分の村もこんな風になってきちゃったんだって思う」と話します。「始まってしまったから諦めるしかないというのは違う。本当に長いものが始まってしまったから、それに向けて住民がどう感じていたり、どういう影響を受けるのか、私たちは知っておかなければならない。」

明日、6月30日(日)、大鹿村のリニア工事の実態について、都内でリニアの走る大田区で報告会を開催します。ぜひ住民の生の声を聞いてください。沿線では未だ工事が始まっていない場所も、土地収用が進んでいない場所も少なくありません。すでに工事が始まっている地域で何が起きているかを知ることで、今後の開発を止めることも可能かもしれません。

http://www.foejapan.org/aid/doc/evt_190630.html

日本国内外での脱石炭を!横須賀、アジア各国と共に発信

昨日6月26日、横須賀市久里浜にある横須賀石炭火力発電所建設計画地に隣接する緑地で、日本政府に対して実質的な気候変動対策の推進、そして、早期の脱石炭への舵切りを求める市民アクションを実施しました。

このアクションは、28日から大阪で開催されるG20の議長である安倍晋三首相に対し、大阪G20サミットを機に、日本もパリ協定に基づく1.5℃目標達成に向け、脱石炭への舵きり、そして、G20議長としてのリーダーシップをとるよう求めるものです。

アクションには、地元の横須賀市民だけでなく、応援に駆けつけた蘇我の会を中心とした東京湾の会のメンバー、FridaysforFutureTokyo、そして、脱石炭への想いを強く持つ市民約100人が参加。

旧横須賀火力発電所の解体作業の現場をバックに、石炭を手に満面の笑みを浮かべる安倍首相を形どったパネルが登場し、横須賀の石炭火力発電所の中止を求めるバナーなどをかかげての写真撮影、各団体から石炭火力発電中止を求めるメッセージが発信されました。

参加者の皆と。
横須賀行政訴訟原告団!

この日は、日本が石炭技術輸出を進めている国々や、石炭事業で関連のある国であるフィリピン、インドネシア、インド、パキスタン、バングラディッシュでも、脱石炭などのメッセージを掲げたアクションが、日本に脱石炭を求める『NO COAL JAPAN』キャンペーンの下で行われました。

フィリピンでアクションを起こしているメンバーの一人のメッセージを、紹介します。

「石炭や化石燃料を燃やすこと、容赦ない自然破壊、増え続ける化石燃料の採掘、利益のための生産。これらは全て、大気中の温室効果ガスが増える原因であり、そして、これが、climate crisis, 気候危機をもたらしている。

日本は、G20ホスト国として気候変動対策に貢献するといいつつ、石炭や化石燃料のプロジェクトを継続したり、また、新規に開拓したいりするための公的資金の最大の提供国です。

私たちは、石炭と化石燃料の資金の最大の供給源としての日本に、スポットライトを当てたい。

そして、私たちは、日本政府が石炭火力をやめるよう、要求します。

石炭プロジェクトの拡大は、私たちを危険にさらし続けます。

私たちは、家族の生存と安全を脅かす脅威に直面し続けていくことはできません。

このような石炭プロジェクトの拡大はできるだけ早くやめなければならないはずです。

We demand that they say goodbye to coal.  Sayonara Coal!” 」

石炭廃止を求める想いは、世界において共通です。

6月26日のみにとどまらず、横須賀、神戸等国内で進む石炭火力計画に反対する人々、そして日本の石炭融資に苦しむアジアの国々とともに訴えます。

また、この日、横須賀行政訴訟についての特設サイトが開設されました。

裁判の期日は、こちらに掲載される予定です。たくさんの方が傍聴すれば、それだけ市民の関心が高いことを裁判官に示すことにつながります。

ぜひお誘い合わせの上、傍聴にお越しください。

横須賀石炭訴訟 日本語サイトはこちら   英語サイトはこちら

横須賀訴訟のポイントについてはこちら

横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

(高橋 英恵)

フランス学生最大イベント! Youth For Climate現地報告

初めまして。6月19日から約6週間、FoE Japanでインターンをすることになったカミーユ・パラです。南仏出身の大学四年生で、エクサンプロヴァンス政治学院で国際法、国際関係と国際経営学を専攻しています。環境に関わる問題とその解決法や、特に沖縄に興味があり、FoEでインターンシップをしたいと思いました。6週間という短い期間ですが、色々経験できたら嬉しいです。趣味は競技かるた、チーズケーキ喫茶店めぐり、旅行とカラオケです。絵を書いたり、外国語で小説を読んだりするのが好きです。最近韓国語の勉強にはまっています。宜しくおねがいします。

今回は、私がフランスで経験してきた、Youth For Climate運動について、紹介したいと思います。

3月15日(金)、フランス全国の中学生、高校生と学生が一斉にYouth For Climateに参加しました。授業に行かずに、運動に加わる学生や、それを支援するする社会人の姿もあり、フランス中を震わせた大イベントです。

フランスで起きているYouth For Climate運動というのは、その名の通り、若者が環境のために訴える運動のことです。その中心のテーマになっているのが気候変動、生物多様性、社会正義であると同時に、人と人が関わって絆が生まれるような運動でもあります。

同じ日にフランス各都市に開かれて何万人も参加したそうです[1]。その中でも、南仏とエクサンプロヴァンス(Aix-en-Provence)で起きた運動が盛大でした。最大学生数を誇る大学の一つであるエクスマルセイユ大学、エクス政治学院の学生や、各地方高校と中学校の生徒たちが肩を並べて、勢いよくミラボー通りを歩きました。その数2000人を上回りました[2]。エクスの人口の約7分の1にもなる規模でした。看板には「まだ間に合う!」や「次の世代を大事にしよう」、「馬鹿な真似はよせ、化石燃料に手を出すな!」など、強いメッセージが込められていました。その点、温和な日本とは違って、フランスのストライキのアグレッシブさが確認できました。

出典:http://sur.laprovence.com/WIm-a?fbclid=IwAR1wTyGuq6rQfvjNY48_BZcMScrEQSO6I1Aw8BHbid4fProfS5SSk2q9y08
出典:Youth For Climate Aix-en-Provence FB page : https://www.facebook.com/yfcaix/photos/rpp.322037085083986/336983690255992/?type=3&theater
出典:https://www.facebook.com/yfcaix/photos/rpp.322037085083986/336983630255998/?type=3&theater

また、Youth For Climate運動者たちに混じって「ストップマクロン!」の看板も目に入りました。このようなメッセージを発していたのは、gilets jaunes(ジレ・ジョーヌ。「イエローベスト運動」「黄色のベスト運動」と日本では報道されている。)。ジレ・ジョーヌは昨年秋から始まった、燃料税の値上げに反対する運動で、今では燃料税の値上げだけでなく、他にも国に対する様々な不満を表明しています。その名は、団員の着ているジャッケットの色から来ています。警官との対決のせいで怪我人が出ているほどの激しいストライキは、フランス革命とも思わせる大事件です。

「燃料税の値上げに反対」という、一見Youth for Climateの主張とは反対の訴えを掲げているますが、彼らの主張の根本には、社会正義の実現があります。多様な主張を巻き込んだフランスのYouth For Climate運動は、とても賑やかで、人と人の絆が生まれるような雰囲気でした。

(インターン・カミーユ)


[1] https://www.notre-planete.info/actualites/2097-marche-climat-France-mars-2019

[2] https://www.notre-planete.info/actualites/2097-marche-climat-France-mars-2019

危機に瀕す「環境と民主主義」にどう立ち向かう?~若者たちからのメッセージ

6月1日、文京区区民会議室にて、トークイベント「危機に瀕する『環境と民主主義』」~次世代の私たちがつくる未来」およびFoE Japan総会を開催しました。

トークイベントの登壇者は全員20代の若者。沖縄、フィリピン、インドネシアなど、各地で繰り広げられる環境や人権、民主主義を守るためのたたかいと自らの想いを語りました。

まず、「辺野古」県民投票の会の元山仁士郎さんが登壇。辺野古米軍基地建設を問う沖縄県民投票を呼びかけたいと思った目的や、いくつかの自治体で投票を行わないという方針を発表したとき、全県実施をハンガーストライキによって訴えた想い、圧倒的な「辺野古米軍基地建設ノー」の結果を受け、本土の私たちが問われていることについて、迫力のあるお話しをいただきました。「とにかく沖縄の基地のことを、話せる“空気”をつくりだしたかった」「自分も宜野湾市民で、投票できないかもしれなかった。“投票する権利”を守るため、自分ひとりでもできる行動をと思った。体をはって訴えることによって状況を打破したかった」という言葉が印象的でした。

続いて、FoE Japanの新スタッフ3人、松本光、杉浦成人、高橋英恵が、それぞれの活動を踏まえて報告。松本からは、日本に輸入されるバナナの一大拠点であるフィリピンの日系企業スミフルフィリピンが経営する農園・梱包工場で、労働者への深刻な人権侵害(殺傷を含む銃撃、放火等を含む)について報告しました。

杉浦からは、インドネシアで日本のODAにより進められているインドラマユ火力発電所で、土地やくらしを守るため、事業に反対を続けている農民が、「国旗侮辱罪」の冤罪をきせられ、投獄された状況を報告しました。高橋からは「クライメート・ジャスティス」という言葉にあらわされるように、気候変動の本質は格差であること、一部の先進国や富裕層の責任で、発展途上国や貧困層が最も被害をうけていること、世界中の若者たちが未来のためにたちあがったFridays for Futureやグローバル・マーチの取り組みなどについて報告しました。

4人の話はテーマこそ違え、国家や大企業といった強い「力」によって、人々が守ろうとしている土地や環境が奪われようとしている実態、それに立ち向かう人々の勇気と理不尽な弾圧など共通点がありました。

私たちにできることはある

「肝心なのは、あきらめないこと」

若者たちが発した力強いメッセージに心動かされた一日となりました。

FoE Japanは3人の新スタッフを迎え、環境や民主主義の危機を乗り越えるため、微力ですが、活動を継続していきたいと思います。(満田夏花)

FoE Japan総会後、参加者と。