エネルギー需要削減の本気度は? ーエネルギー基本計画素案を読む(5)

第6次エネルギー基本計画素案では、エネルギー需要や電力需要の想定が、2018年度の第5次計画に比べて少し下方修正されましたが、そもそも第5次計画の想定が過大なものでした。

以下の図は、2019年度まで最終エネルギー消費量とGDPのデータに、今回示された2030年目標を置いたものです。エネルギー需要は減る見通しとなっていますが、2011年以降の減少傾向から直線を引いたもので、野心的なものではありません。

2050年の排出ゼロを目指すというものには、まったくなっていないのです。

図:最終エネルギー消費と実質GDPの推移(エネルギー白書2021より)より作成

エネルギー需要はどのくらい削減するのか

前提となるエネルギー需要がどのように推定されているのかという部分を、素案の記述に加えて、8月4日の基本政策分科会の資料5、「2030年におけるエネルギー需給の見通し参考資料」を中心に見ていきます。

まずは、エネルギー需要の推計方法です。

↑図1:「2030年におけるエネルギー需給の見通し参考資料」p.6 

このように、人口やGDPを推計し、これらを参考に主要業種の活動量を想定して、省エネ前のエネルギー消費を推定、そこに省エネ対策を加味します。

まずは、経済成長について。下記の図のように、前回計画(H27策提示)での想定に比べれば下方修正されているものの、2021年度から2030年度までの成長率は、コロナ禍前(2013~2019年度)を上回る右肩上がりの想定です。

↑図2:同上 

GDPの大きさは、エネルギー消費の増大とイコールではありません。GDPを上げながらエネルギー消費を下げることをデカップリングと言いますが、最初の図をみると、日本でも2011年以降すでにそのような傾向になっています。

例えば「レポート2030ーグリーン・リカバリ―と2050年カーボンニュートラルを実現する2030年までのロードマップ」(https://green-recovery-japan.org/)では、仮に政府の予想のようGDPが640兆円まで増加したとしても、グリーン・リカバリ―戦略(環境に配慮した経済再生政策)を実施すればエネルギー消費量を40%削減できると試算しています(同レポートのp.13)。

各部門の活動量見通し

続いて、各部門ごとの活動量を見てみます。

産業部門での主要4業種、粗鋼、エチレン、セメント、紙・板紙の生産量は、2000年度から2020年度にかけてそれぞれ減少傾向が見て取れますが、2020年度〜2030年度の想定はほぼ横ばいとなっています。

社会全体で使う資源の量を減らしていくことや、産業構造の転換によって生産量を減らしていくという意図も可能性も、まったく考慮されていません。

業務床面積も、人口減少にもかかわらず、微増となっています。

旅客交通需要は、コロナ禍の影響やテレワーク等の普及、通信技術の普及・発達などにより減少する可能性について十分に考慮されたものではありません。

↑図3:同上
(左上)粗鋼、エチレンの生産量 (右上)セメント、紙・板紙の生産量

(左下)業務床面積 (右下)旅客交通需要と貨物交通需要

その結果、最終エネルギー消費の想定(省エネを加味する前)は、約350百万kl(原油換算)と、2019年度の334百万kl (省エネがなければ356.5百万kl)とほぼ同じです。(図4)

このように、人口減少にも関わらず、「需要量の削減」はほとんど考慮されていないのです。

日本のエネルギー政策で言われる「省エネ」とは、機器の効率改善や性能の向上など、エネルギー効率の改善のことで、消費量・需要量自体や、需要のあり方を大きく見直す・減らすということではないのです。

その「省エネ」を加味した280百万klでも、2019年度の334百万klに比べて約16%削減にとどまっています。

↑図4:同上

各部門ごとの「省エネ」の内容

次に、具体的な「省エネ」の内容についてざっと見てみましょう。

素案では39~42ページに書かれていますが、長文のため、ここでは大枠のみ、概要版の記載から抜粋します。

まず、産業部門について。

「エネルギー消費原単位の改善は進展したものの、近年は足踏みの状態である。」(素案p.39)

これについては、4月13日の審議会資料の中に以下があります。主要4業種において、エネルギー原単位の改善は鈍化、また石炭など化石燃料に大きく依存していることがわかります。

↑図5:第40回基本政策分科会 資料5より

このようなエネルギー多消費型の産業のあり方そのものを、本来見直さなければならないはずですが、そのような議論はまったくありません。

エネルギー基本計画で言う「省エネの深堀り」とは、すでに現在省エネが進んでいる部分について、現実に沿って想定を見直す、という作業にすぎないのです。

業務家庭部門については、建築物・住宅の省エネや断熱性能を高めることは最も重要です。素案に、

「2030年の新築平均ZEH・ZEB目標と整合的な誘導基準・住宅トップランナー基準の引き上げや、省エネルギー基準の段階的な水準の引上げを遅くとも2030年度までに実施する。」(p.41)

とあります。本当は2030年よりももっと早くやらなければならなかいはずですが、ようやく、というものです。

2019年度の新築住宅の断熱性能でも、ZEHレベルはまだまだ小さい割合(戸建て住宅の約25%、共同住宅の約2%、下図参照)です。

↑図6:「2030年におけるエネルギー需給の見通し参考資料」p.20より抜粋

2021年の4月に国土交通省に「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」が設置されて議論が重ねられ、ようやくの前進、ではありますが、2030年度の目標を絵にかいた餅に終わらせず、なおできるだけ前倒しするにはどうすればよいのか、引き続き注目していく必要があります。

脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会(国土交通省)


最後に運輸について。

素案に書かれている内容は、自動車の燃費向上やEV化、消費原単位の改善などです。

しかし、本当に取り組まなければならないのは、ここでも需要削減、例えばテレワーク化や出張の削減、車の利用を減らしてもくらしやすいまちづくりなどです。

欧州ではすでに、近距離の航空利用を削減する動きが広がっています。フランスでは、2時間半以内の国内航空路線の運航を禁止することを盛り込んだ気候変動対策・レジリエンスの強化法案が2021年7月に成立しています。

オランダやドイツでも、近距離路線の減便や鉄道との連携が始まっています。

日本でも、コロナ禍により、航空便の利用は大幅に減少し、航空便の減便は行われていますが、これを一時的な対応とせず、気候変動対策として将来の運行のあり方を大きく見直す必要があるのではないでしょうか。

自動車についても、利用自体を大きく減らさなければなりません。

鉄道やバスなど公共交通へのシフトや、自転車や徒歩で暮らせるまちづくり、自動車のシェアや働き方・通勤のあり方などを含めて、できることはたくさんあるのではないでしょうか。EV化の議論は、そのうえでのことです。

リニア中央新幹線の建設についても、すでに移動需要が減少しているなかで、本当に必要なのか、その環境・社会影響の大きさに鑑みて、見直すべき時ではないでしょうか。

偽りの「カーボンニュートラル」ではなく、真の排出ゼロを目指すための第一歩は、まずは化石燃料からの脱却を進めること、そして同時に需要の大幅な削減を行うことです。

第6次エネルギー基本計画の議論の中では、この需要な点が抜けているのです。

(吉田明子)