「地元の石炭火力のこと、もっと多くの人に知ってほしい」横須賀市民アンケート(後編)

今年4月、横須賀市と三浦市内の6つの地域で、それぞれの地域に住む住民の方の手によって、気候変動や石炭火力建設についての意識を調査するアンケートが行われました。

今回は、アンケートに関わった大木さん(野比在住)、竹渕さん(岩戸在住)にお時間をいただき、なぜアンケート活動を実施しようと考えたのか、アンケート活動を進める中でのエピソード、そしてこのアンケートに込める思いを伺いました。

(アンケートの結果については、「横須賀市民アンケート(前編)「約64%の方が石炭火力建設反対」をご覧ください。)

アンケート活動のきっかけを教えてください

大木さん

「2020年11月、コンビニの中でばったり、2年ぶりくらいに岸さんという友人に会ったんです。そこで10-15分立ち話をして。その時に、彼女から石炭火力が新しく作られていることを知ったんです。大昔に石炭火力があったのは知っていたんですが、新しい石炭火力がたつとは知らなかった。そのあと、新聞などで自分で調べていくうちに、石炭火力を止めるための訴訟をやっていることとか、全国の石炭火力発電所のあるところでアクションがあることを知ったんです。グレタの言葉も知って、なんとかしないと、と。あと、私はずっと楽器店で働いていて、音楽教室の運営をしていたのですが、コロナの影響で仕事がなくなってしまって。今年に入って仕事を探していたけれど、なかなか見つからない。でも、この石炭火力のことをもっと多くの人に知って欲しいという気持ちも強くて、とりあえず多くの人に知ってもらうために時間を使おうと思ったんです。。というのも、自分が岸さんから石炭火力の話を聞いたとき自分が石炭火力を知らない人間だったので、知らない人がいっぱいいるのではと。

竹渕さん

「石炭火力については、前から横須賀火力建設を考える会(横須賀石炭火力問題について活動している団体)の内藤さんからよく話を聞いていて、逗子でのイベントにも参加したりしていました。何か力になりたいと思い、途中から原告にもなっています。でも、石炭火力についての危機感をもっと強くしたのは、2020年1月の野比での気候変動の勉強会。COP(気候変動に関する国際会議)やグレタの話を聞いて、本当に止めないといけないんだと感じたんです。何かできないかと色々考えていた時に、ハイランド(横須賀石炭火力発電所の建設地の近くの地域)での石炭火力についての意識調査アンケートを知って。でも、このアンケートがハイランドだけで終わったらまずいと思い、アンケートを広げないかと仲間に相談して、そこでやろうということになりました。」

どのようにアンケートを進めたのでしょうか?

大木さん

「1月半ば、アンケートをやりたい人たちで集まりました。その時は、野比、岩戸、佐原の3地域から集まり、まずは自分たちの住んでいる地域で広めようと。でも、地元の知り合いに声をかけてみたら、他にもやりたいという人が増えてきて、バラバラでやるのはもったいないと思ったので、まとまってやろうということになりました。2月半ばには、横須賀火力建設を考える会とも一緒にやろうということになって。アンケートを始めようとした時は3地域30人くらいだったのに、進めていくうちに6つの地域(野比、岩戸、佐原、長沢・津久井・グリーンハイツ、三浦、その他横須賀市内)で112人になったんです。たくさんの人が関わってくれるのはとても嬉しくて。」

アンケート活動の中での苦労はありましたか?

竹渕さん

「私は岩戸に住んでいるので、岩戸でのアンケート活動をしていました。石炭をどうにかしたいと、自発的に25人くらいが集まったんです。10代も3人いたし、80代の方も孫のためになんとかしたいと主体的に関わってくれました。また、初めてこのような活動をするという人も2人加わってくださったんです。とはいえ、アンケート用紙を地元でポスティングすることは、みんなにとってハードルの高いものでした。2つのハードルがあったと思っていて、一つは高齢化。体力的な問題で、階段の多くある世帯などにはポスティングをあきらめました。

もう一つは人の目。「出るくいは打たれる」でないけど、周りがやっていないことへの抵抗は大きかったのだろうなと思います。どれほど彼女たちにとってチャレンジングだったか。」

アンケート活動中の思い出は?

大木さん

「地元のパン屋に買い物に言った時、『アンケートお疲れ様。絶対反対。協力します』とパン屋のオーナーさんがコメントしてくれたこと。あ、見てくれている人がいるんだ!って思ったんです。」

竹渕さん

「直接手渡しできた人には対話ができて、思いが同じとわかったときは嬉しかった。もっとこのアンケートを大きくしなきゃ、と大きなモチベーションになった。知らなかった人に知ってもらえるっていうのはやりがいとして大きかった。」

4000通以上もの回答がありましたが、集計中に気づいたことや感じたことはありますか?

大木さん

「自由記述が多かったのが印象的でした。野比のあるアンケートには、筆圧強く「がんばれ」とかいてくれている人もいたんです。また、アンケートの回答用紙と一緒にカンパもくださる方も。読みながらうるうるしてしまいました。見てくれている人がいる、このアンケートの声を国まで届けに行かなくちゃと。横須賀出身の小泉大臣に直接読んで欲しい。あと、アンケートを配っていない地域でも、アンケートの結果を伝えたい、世論を作りたい、国が無視できないくらいに。」

竹渕さん

「岩戸では高齢者が多く、パソコン作業をあまりやったことがない人が多かったけれど、パソコンでの打ち込み作業を紹介し体験もしてもらいました。そして出来上がった集計結果と自由記述はアンケートを配って回ったみなさんと共有しました。自由記述のコメントの中には、元気の出るコメントもある反面、凹むコメントもありました。懸念していることは、『ゼロカーボンになるからいいじゃない』という考えが広がること。とても怖く感じています。解決策は自然エネルギーだということを伝えたい。2050年にCO2排出ゼロになっていればいいというのは遅い。どうにかしたいと思いましたね。」

横須賀は将来、どのようになっていくことを希望しますか?

大木さん

「私は横須賀で生まれ育った。故郷なので、住み続けられる海とか山とか、自然の恵みを未来の子どもたちに引き継ぎたい。横須賀は自然が豊富。横須賀や三浦半島にあった自然エネルギーの方法を探して、地産地消や地域産業として成り立つような使い方があるはず。」

竹渕さん

「大木さんの言う通り、今のままだと横須賀のいいところが活かしきれていないと思う。野比には研究開発の先端地域として大企業の研究機関が来ているけれど、自然エネルギーの研究開発拠点になれば、自然エネルギーのモデル都市にもなれるはず。そうすれば、誰もが住みたくなるのでは。」

最後に

新型コロナウイルスの感染拡大予防のために大きな集会などが実施できない中、一人一人が地域の各戸に自分の足で歩いてアンケート用紙を配っていくという改めて地域で運動することで生まれる連帯感の強さを感じました。

大木さん、竹渕さんのお話を伺う中で、「地元で作られている石炭火力について、皆で考えたい」という思いが伝わってきました。行動が制限される中であるにもかかわらず、自らの足で配布した122人に敬意を評したいと思います。

FoE Japanでは引き続き、石炭火力の建設中止を地域住民の方と共に求めていきます。

(高橋英恵)

「約64%が石炭火力建設反対」横須賀市民アンケート(前編)

今年4月、横須賀市と三浦市の6つの地域で、それぞれの地域に住む地元住民の方の手によって、気候変動や石炭火力建設についての意識を調査するアンケートが行われました。

今回は2回にわたって、第一回はアンケートの結果を、第二回はアンケートに関わった地元の方の声を紹介します。

回答者の3割、いまだ石炭火力新設を知らず。

アンケートは3月下旬から4月上旬にかけて配布され、4月20日が回収締め切りでした。

配布地域は建設地に近い久里浜、野比、北下浦、岩戸を中心に横須賀市全域と三浦市です。

配布数は 25,620 枚、回収数は 4,074 枚、回収率 15.9%でした。

アンケートの質問は、下記の5点です。

1. 久里浜で石炭火力発電所が建設されていることをご存知ですか?(知っていた/噂程度に知っていた/知らなかったから3択)

2.石炭火力による、温暖化や気候変動への影響をどうお考えでしょうか?(影響ない/影響あり/わからないから3択)

3.石炭火力による、健康や生活環境への影響をどうお考えでしょうか?(影響ない/影響あり/わからないから3択)

4. 石炭火力発電所建設についてどうお考えでしょうか?(建設すべき/やむをえない/建設反対/わからないから4択)

5. 将来の望ましいエネルギー源は?(原子力/石炭、LNG、石油/再生可能エネルギー/わからないから複数回答可)

結果、久里浜で石炭火力発電所が建設されていることを知っていたのは45.2%、噂程度に知っていたのは25.1%、知らなかったと回答したのは29.7%でした。建設を知らなかったとの回答が3割弱あり、周知の徹底ができていなかったことが伺えます。

また、石炭火力が気候変動に影響があると考えている方も80%近くおり、健康や生活環境への影響についても、影響があると考える方が約75%いらっしゃいました。

気候変動や生活環境への影響を聞いた上で、石炭火力発電所の建設の可否について考えを尋ねたところ、4.7%の方が建設すべき、約20%の方がやむをえない、約64%の方が建設反対、残りの約11%はわからないとの回答でした。

最後の将来の望ましいエネルギーについては、再生可能エネルギーが全体の約77%、化石燃料や原発を選んだ方それぞれ全体の約8%いらっしゃいました。

自由記述欄の記入数が 1755 通

また、自由記述欄への記入数が 1755 通、回収数の 43.1% と半数に近くもあり関心の高さが示されました。

例えば、問4で「建設すべき」と回答された189名中120名から自由記述に記入があり、「原発が信頼を失った以上、火力発電のほかない。再エネですべて賄えない」「再エネに頼るのはダメ。分散してリスクを低減すべき」「原子力よりましであると思う」「火力発電がなくては便利な生活を出来ない」といった意見が見られました。

一方、「建設反対」と回答された2568人中1166名と約45%の方が自由記述に記入があり、「世界の潮流に逆行」「アレルギーがあり大変不安。建設されたら横須賀から引っ越しを考える」「小泉環境大臣のお膝元このような計画が進行中とは嘆かわしい」「市民の知らないとことで工事が進んでいることに疑問を感じる。ショック。市民として悲しい。」などの意見でした。

また、「やむをえない」「わからない」と回答した人の自由記述は、「もう建設が進んでいる。今更反対しても止まらない」「具体的にどんな問題があるかわからない」というようなものでした。

現実とアンケート結果のギャップ

横須賀市内の石炭火力発電所の建設地域付近の地域や三浦市内の6つの地域で実施した今回のアンケートは回収率は約16%であるものの、回答者全体の6割以上が建設反対という結果となりました。また、石炭火力と気候変動の関係、石炭火力と生活環境や健康との関係に影響があると認識されている方も7割以上ということもわかり、住民の中にはこの事業に懸念を持っていることが明確になったことは、とても大きな成果です。

アンケートの自由記述にも、「環境大臣はなぜ地元の石炭火力を止めようとしないのか」「世界に逆行している石炭火力をなぜ今更作るのか」という声が多く見られました。一方、「再生可能エネルギーだけでは不安定なのでは」「建設が進んでいる以上もう止められない」と悲観的なコメントもありました。地域住民の声を聞かずに建設を進め、諦めを感じさせるやり方には、憤りを覚えます。

また、横須賀石炭火力発電所の事業者であるJERAは昨年10月に「JERAゼロエミッション2050」をうちだし、2030年までに発電原単位あたりのCO2排出量を20%減、2040年までにアンモニア専焼を目指すとしていますが、この横須賀石炭火力発電所をどのようにゼロエミッションにしていくのかは公開されていませんし、そもそもJERAが検討している化石燃料からアンモニアを製造する方法は、炭素回収貯留(CCS)という不確実な技術に頼ったもので、真の脱炭素燃料とは言えません。

さらに、今年6月に開催されたG7首脳会合においては、「石炭火力発電が温室効果ガス排出の唯一最大の原因である」ことを認識し、「国内的には、我々は、2030年代の電力システムの最大限の脱炭素化を達成すること、また、それを更に加速させる行動にコミットする」と明記しています。気候変動をさらに加速させる石炭火力を建設・稼働する余裕はどこにもないはずです。

後編では、アンケート活動に関わった方に、アンケートに至った経緯、活動に込めた想いを伺います。

(高橋英恵)