EU科学者団体がバイオマス持続可能性ワーキンググループへ書簡提出ー森林バイオマスはカーボンニュートラルではないと主張

欧州連合(EU)の科学者団体である「European Academies’ Science Advisory Council」、通称EASACが日本のバイオマス持続可能性ワーキンググループに対し、森林バイオマスはカーボンニュートラルではなく、持続可能ではないことを示す書簡を提出いたしました。

現在ヨーロッパでは、再生可能エネルギー源のかなりの部分をバイオマスが占めており、森林バイオマスを「再生可能」エネルギー源と見なす基準が疑問視されています。  EASACは、特に発電における石炭の代替としての森林バイオマスの使用について多くの研究を行ってきました。

書簡では、伐採された木は再び成長するのでバイオマスはカーボンニュートラルだと主張されてきたが、伐採後の森林の再成長に時間がかかり、実際は排出量を増加させること、サプライチェーン(伐採、輸送、乾燥、ペレット化、長距離輸送)における排出量を組み合わせると、バイオマスは、発電量(kWh)当たり、代替する石炭よりも遥かに多くのCO2を排出すること、また炭素会計のルールにおいて、排出量が林業部門で記録されていると想定されるため、燃焼時のバイオマスによる排出量をゼロ評価にすることを許し、それが間違った認識を生んでいることなどが述べられています。

以下、書簡の本文です(日本語仮訳、英語原本はこちら)。


2020年10月22日

森林バイオマス・エネルギーに関する最近の問題とEUにおける科学的議論

バイオマス持続可能性ワーキンググループ委員 各位

経済産業省(METI)の省エネルギー・新エネルギー部は、ヨーロッパの動向に合わせて、日本のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギー(RE)のシェアを拡大することを目指していると伺っております。 その一環として、木質バイオマス原料の持続可能性基準と、風力、太陽光、地熱などの再生可能エネルギー源と比較してバイオマス・エネルギーに与えられる優先順位の再検討も行われていると聞いております。 特に、2030年生物多様性戦略において、「EUで生産されたものであれ輸入されたものであれ、エネルギー生産のための立木、食用および飼料作物の使用を最小限に抑えるべきである」と公約された後、これはヨーロッパで非常に活発に議論されている領域です。 その結果、既存の持続可能性基準と再生可能エネルギー指令が現在再検討されています。 私は、現在議論されている主要な科学的側面、特に欧州アカデミー科学諮問委員会(EASAC)によって導き出された証拠と結論の要約を提供するように求められました。 

バイオマスはヨーロッパの再生可能エネルギー源のかなりの部分を占めており、森林バイオマスを「再生可能」エネルギー源と見なす基準が疑問視されています。  EASACは、特に発電における石炭の代替としての森林バイオマスの使用について多くの研究を行ってきました(参考文献リストを参照)。本文書に要約した結論は、ヨーロッパの28の科学アカデミーすべての総意を示すものです。

再生可能エネルギーの基本的な目的は、全体的な温室効果ガス排出レベルを削減することであると一般的に考えられています。 太陽光と風力では、その運転による温室効果ガス排出量が非常に少ないため、この目的は迅速に達成されます。 しかし、バイオマス・エネルギーの場合、CO2は大量に排出され続け、大気中のCO2レベルと気候への正味の影響を評価するには、関連する炭素の流れを慎重に検討する必要があります。

EASACが精査した広範な科学的研究は、現在の慣行と規制が気候への影響を適切に評価できていないことを示しています。特に、木質ペレットの国際貿易を通じてもたらされる森林バイオマスの大規模な使用は、実際には長期間にわたって排出量を増加させることを発見しました。これは、再生可能エネルギーの目的と相反します。 森林バイオマスが気候変動の緩和に貢献できるという考えは、従来、伐採された木は再び成長するのでバイオマスは「カーボンニュートラル」と見なすことができるという仮定に基づいていました。 しかし、現在では、炭素循環の目に余るほどの過度な単純化であり、関連する相当なタイムラグを無視していると認められています。 したがって、カーボンニュートラルは間違った、誤解を招く概念であり、前提とされるべきではありません。  

木材がよりエネルギー含有量が少ないことと、サプライチェーン(伐採、輸送、乾燥、ペレット化、長距離輸送)における排出量を組み合わせると、バイオマスは、発電量(kWh)当たり、代替する石炭よりも遥かに多くのCO2を排出することを多くの研究が示しています。したがって、発電所で化石燃料からバイオマスに切り替えることによる初期影響は、大気への正味排出量を増やすことです。 伐採後のバイオマスの想定される再成長がこの初期増加を相殺できるようになる前に、かなりの「タイムラグ」(炭素回収期間)があります。  したがって、気候への初期影響は、再生可能エネルギーに期待されるものとは正反対です。

この逆効果が多くの規制当局にとって明らかでない理由は、炭素会計のルールにあります。 ルールでは、排出量が林業部門で記録されていると想定されるため、燃焼時のバイオマスによる排出量をゼロ評価にすることを許します。 したがって、IPCCが認めているように、現在の気候への排出量に関する会計ルールは、誤った印象を与えます。  気候への影響を適切に評価するには、サプライチェーン上のすべての排出量と森林の炭素蓄積量の変化を記録する完全なライフサイクルアセスメントが不可欠です。 

したがって、適切な炭素会計は、バイオマスの気候への影響を評価するための極めて重要な要素です。それにより、初期の炭素負債と炭素回収期間を計算できます。 これは、いかなる「持続可能性」基準においても基本的な要素であるべきです。 ヨーロッパで活発に議論されているのは、気温上昇を1.5〜2度に抑制するというパリ協定に基づく約束と両立する回収期間の長さです。 現在、世界の気温が1.5度目標に近づいているので、短い回収期間(10年未満)に限り、加盟国のパリ協定の約束に合致すると見なすことができるとEASACは主張します。したがって、より長い回収期間を伴うバイオマスの使用は、補助金を支給されたり、「再生可能」と見なされたりするべきではありません。

これらの論点は、査読付き雑誌「Global Change Biology-Bioenergy」に掲載された私たちの論文に述べられています。その中で、EU 15か国の科学者らが「過剰な排出量は、パリ協定に定められた目的に準拠するために排出量を削減することの緊急性と両立しない」と主張しています。 日本の政策目標もパリ協定の目標を達成することですので、政策の最良の基盤として、科学に基づくライフサイクルCO2会計を使用することが極めて重要であることに注目しています。 

最後に強調したい点は、EUの規制(および他の規制)において、原料の性質、そして合法、違法、または「持続可能」かどうかに関する規則が策定されたことです。しかしながら、これは気候の観点からすれば、関係ないことです。 CO2の増加による大気への影響は、炭素がどこから来たとしても同じであるため、そのような基準は、排出量の適切な計算の代わりにはなりません。 国家がバイオマスにより気候変動の緩和に真に貢献することを望むなら、完全なライフサイクル会計を義務付けるとともに、補助金は回収期間が短い案件に限定しなければなりません。これを適用した場合、本論文は、気候に適した森林バイオマスは、地元で供給される既存の森林経営からの残さに限定されるであろうことを強く示しています。

上記の論点でEUの議論を説明しましたが、各国のバイオマス・エネルギー政策も審査中です。 英国は、持続可能性基準においてサプライチェーンからの許容排出量を大幅に削減しました(参照:「再生可能エネルギー義務:持続可能性基準」https://www.ofgem.gov.uk/system/files/docs/2018/04/ro_sustainability_criteria.pdf)。  オランダ社会経済評議会は、バイオマスの燃焼は持続可能ではなく、最小限に抑えるべきと結論付けました(https://www.euractiv.com/section/energy/news/the-dutch-have-decided-burning-biomass-is-not-sustainable/)。スロベニアでは、バイオマス・エネルギーの使用は森林残さに厳しく限定されており、デンマークとスウェーデンでも活発な議論が行われています。

上記のヨーロッパにおける重要な問題の要約がお役に立てば幸いです。さらに情報が必要でしたら、いつでもご提供いたします。

敬具

参考文献

関連情報)
バイオマス発電をめぐる要請書提出ー環境負荷が大きい事業はFIT対象外に
https://www.foejapan.org/forest/biofuel/200714.html