日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(10)

第五回 国富町大字木脇(その2)

 2020年7月14日、新たな盗伐容疑者が逮捕されました。中原朝男容疑者は宮崎県西都市山田の山林で宮崎市在住の所有者の林地約1,300m2(0.13[ha])において、スギの立木77本を、中原容疑者の親族が経営する会社の作業員に指示して伐らせ、盗んだ容疑です*1
 そして9月4日、宮崎地検は中原朝男容疑者を森林法違反(森林窃盗)の罪で起訴しました*2。これで宮崎県内の盗伐事件で起訴されたのは5件となりました。
 中原被告の初公判は9月16日、宮崎地裁で開かれました。検察側は冒頭陳述で、犯行当時、山林売買関係の会社役員だった中原被告が「周辺で山の買い付けをする中、被害者と連絡が取れないまま犯行に及んだ」と指摘。被告は起訴内容を認めました*3。次回の公判は10月22日に開かれます。

 今回は、前回に引き続き、「黒木林産」の被害に遭った高野恭司さんの事例を紹介します。
※今回も被害当事者の高野恭司さんのご了承を得て、実名で記述しております。

高岡警察署から連絡、「供述調書を作るから」
 小里泰弘農水副大臣、武井俊輔衆議院議員らが木脇の現場を視察したのが2018(H30)年11月30日。その後、間もない12月6日、高野さんに高岡警察から連絡が入りました。「調書を作るから署にきてくれ」。高野さんが高岡署に出向くと、県警本部からも人がきており、聞き取りを受けました。聞き取りは一度で終わらず、二度目は12月13日でした。いろいろと話をして、最後に被害届が受理されたそうです。
 このとき警察から「お宅の被害は7本、被害額は52,000円」という説明がありました。高野さんはこれを容易に承服することができず随分と抗議をしたそうです。「林地は丸ごと伐採されており、200本くらいはあったはず」と高野さんは考えていましたが、警察からは「被害本数の出し方は切り株の数であり、切り株が残っていないものは特定できない。他の被害地でもそのように判断している」と説明され、「おかしいだろう、全部伐られているのに」と食い下がったのでした。しかし「7本でしか被害届は受理できない」と突っぱねられ、「あんまりやわー」と感じながらも渋々、「被害7本、52,000円」で受け入れるしかありませんでした。
 高野さんは「県警はやっぱり誤伐にしたかったのだな」と、釈然としない思いです。

被害届が受理される前日に届いた「お詫び」
 高野さんの被害届が高岡警察署に受理された前日、2018(H30)年12月11日付けの「お詫び」書が内容証明郵便物として高野さんのご実家に届きました。差出人は黒木林産(株)代理人のN弁護士で、示談の申し入れでした。示談金は立木代として35万円(4,000円/m3、スギ(45年生)170本相当)、および迷惑料(慰謝料)として5万円の合計40万円でした。

 この「お詫び」書をどう見るか。立場によって見解は異なるでしょうが、当事者の高野さんは「40万円の示談金を取るか、被害額7万円を取るか」という選択を突き付けられたようなものだと感じたそうです。「普通なら示談を取るだろう」と高野さんもいいます。
 高野さんや宮崎県盗伐被害者の会では、警察とつながっているN弁護士が示談で済ませるよう動いたのであろう、と考えています。警察が事を穏便に済ませ不起訴にするためか、それとも被害者をおとなしくさせるためなのか、本当の理由はわかりません。
 しかし被害当事者にしてみれば「警察は悪人や盗人を捕まえる正義の味方」と考えていたため、「警察は盗伐業者をかばうために、ここまでのことをするのか」というように見えます。高野さんは「よくもこんな書類が被害届受理の前日に届くものか」と、呆れてものも言えない様子でした。

「被害本数7本」という報道がもたらすもの
 高野さんの被害届が受理され、新聞各紙やNHKニュースなどで「盗伐容疑者逮捕」が報じられました。事件がマスコミによって大きく報じられたことは盗伐に関する関心が高まることが期待でき、喜ばしいことでした。
 一方、「テレビで流す被害本数7本を聞いた人が『どうしてそんな本数で逮捕するのか』と知らない人は皆思うだろう」と高野さんは言います。ニュースでは「それ以外にも余罪がある(相当伐られている)」と付け加えてくれてはいるものの、やはり「被害7本」という文字や言葉は「ケチな話である」といった印象を与えるものであり、警察の被害内容確定においてはそうしたことも想定に入れているのであろう、と高野さんは警察の対応を疑っています。

宮崎県議会でも「盗伐」が話題に、その発言には??
 今回の国富町大字木脇の盗伐事件では、高野さんのほか、もう一人の被害者が「被害13本」として高岡警察に被害届を受理されました。高野さんによると、県議会を傍聴したその被害者も日向市選出の西村賢議員(宮崎県議会自由民主党)の発言にとても驚いたそうです。以下にその発言を記します。

 近年、林業が活況となり、それに合わせ誤伐・盗伐の報道も多くなってまいりました。ことし、日向市内の伐採業者が盗伐により逮捕される事件がありました。新聞報道などで私の知る限りでは、杉7本、杉13本の伐採を、当人は誤伐と主張し、被害者は盗伐と主張し、当事者間で示談を進めていたとのことですが、一転し、伐採業者の逮捕に至ってしまいました。係争中の案件ですから、具体的にこの場で触れませんが、この案件は、林業の未来や担い手の確保も含めて大きな影響があるのではないかと思います。
 当然ながら、本県で過去に起こった、悪質なブローカーが行った契約書の偽造などの悪意のある犯罪は、許しがたいものでありますし、盗伐自体は許されるものではありません。過去に、県内の地籍調査の進捗を質問したことがありますが、地籍調査の済んでいない山林においては、境界の確定は難しく、先祖から相続した山林の場所さえ知らない相続人が毎年増加しているのが現実であります。無断伐採に間違いがあった場合、ほとんどの案件は穏当に和解がなされているとのことでありますが、今回のように刑事事件にまで発展することは、極めてまれなケースと考えています。広大な山林の伐採に際しての数本の誤伐は、業務の特性上、ある意味避けられないことではないかなと思いますが、そのような誤伐も絶対に許されない社会状況になれば、林業後継者の確保も難しくなります。森林法、県や市町村の規定によれば、純粋な伐採自体は、極端に広大な面積にならなければ、保安林以外は基本的に届け出だけで済む内容になっています。保安林であっても、許可を取得することによって伐採自体は禁じられてはおりません。その届け出と許可申請において、土地所有者の同意を得るということは求めておりますが、隣接者との境界確認などというものは特に求められていません。これは、山林の特殊性を考慮し、伐採・植林がスムーズに行われるように配慮されているのではないかと理解をしますが、今回の事件のような伐採業者のケースは、今後も起こりかねないと思います。
 土地の境界も不確かな山林でのわずかな誤伐がもとで、訴えられたり、失業したり、廃業せざるを得ない状況に追い込まれることがあってはならないと考えます。そもそも、地籍調査の進捗を進めていくことが重要だと思います。その進捗も求めながら、また一方で、当事者同士の和解方法の確立というものも、今後検討していただきたいと思っております。昨日の有岡議員の質問とは真逆になるかもしれませんが、当然ながら、誤伐もいいことではありません。しかし、誤伐によって、その伐採業者が大きなペナルティーを受けることが、果たして宮崎県の林業の将来につながるのかということも、同時に考えていかなければならないと思いまして、この問題を取り上げさせていただきました。

注:上記文中の下線は筆者によるもの
(出所)宮崎県議会 令和元年11月定例会質問一覧. 令和元年12月3日(火)
(議事録209~211ページ)
http://www.pref.miyazaki.lg.jp/gikai/minutes/plenary/R01/201911-2-1203.pdf

 この発言について、高野さんの見解は「警察が発表した誤伐の本数7本でどうして逮捕したのかを強調したかったのだろう」。
 なお、この西村議員の質問で、宮崎県における無断伐採の相談件数を問われた宮崎県環境森林部長は以下のように回答しています。

 県や市町村への森林所有者からの相談件数につきましては、平成26年度から本年10月末までに合計で125件となっております。直近の3年間では、相談された年に伐採されたものばかりではございませんが、平成29年度が42件、30年度が36件、令和元年度が10月末までに22件の相談件数となっております。

 ちなみに国の調査によると、無断伐採に係る市町村等への相談等の件数は以下のとおりです。

調査対象期間九州ブロック(件数)全国(件数)
H29年4月-H30年1月3362
H30年1月-H30年12月51(38)*78
H31年1月-R1年12月4395

*( )内は宮崎県の件数
(出所)林野庁. 「無断伐採に係る市町村等への相談等の件数」. 2018年, 2019年, 2020年の結果から筆者作成.
朝日新聞デジタル記事. 「他人の山林で盗伐、業者に有罪判決 「誤伐」主張退ける」(2020年1月27日)
https://www.asahi.com/articles/ASN1W3G0ZN1STNAB00L.html

 上記の数値を比べてみると、全国の無断伐採に係る相談件数のおおよそ半数は九州ブロックに集中しており、且つ九州ブロックにおいても宮崎の件数が高い割合を占めていることがわかります。つまり宮崎県は全国と比較して特異な状況だと言えます。
 
 こうした状況にも関わらず、高野さんの被害7本(実際は約200本)、もう一人の被害者の被害13本(実際は約70本)、加えて30筆のうち彼らを除く少なくとも4筆の被害本数の特定されていない林地が丸裸にされてしまったような伐採行為に対して、「杉7本、杉13本の伐採」を強調するような形で「数本の誤伐は、業務の特性上、ある意味避けられないこと」、「そのような誤伐も絶対に許されない社会状況になれば、林業後継者の確保も難しくなる」、「わずかな誤伐がもとで、訴えられたり、失業したり、廃業せざるを得ない状況に追い込まれることがあってはならない」といった西村議員の発言は、盗伐事業者を擁護する発言と見受けられます。さらに、このような発言を被害の実態や詳細を知らない人が聞いた場合、「その程度でなぜ逮捕するのか?」という感想を持つのが当然のようにも感じます。
 このような社会背景が、「盗伐」を「誤伐」として押し切れる、さらには業者自ら「盗伐」だと言い切れるだけの「空気」というか「雰囲気」のようなものを作り出し、宮崎県の素材生産業者の界隈、もしくは森林・林業界に蔓延していることが推察できます。

 次回は、起訴後の黒木被告の審理の状況などについて紹介します。(三柴淳一)

*1 宮崎日日新聞2020年7月15日 紙面
*2 宮崎日日新聞2020年9月5日 紙面
*3 宮崎日日新聞2020年9月17日 紙面

第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その1)
第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その2)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その1)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その1)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その3)
第四回 宮崎市田野町字荷物取地乙
第五回 国富町大字木脇(その1)
第五回 国富町大字木脇(その2)

「地球の変化に気付いて」横須賀海苔漁師の声

9/11、横須賀市走水で海苔養殖業を営む方を訪問し、気候変動が漁にどれほどの影響を与えているのかを伺いました。お話くださったのは長塚良治さん。今から約40年前、19歳の時から海苔養殖に携わり、現在2代目として、代々受け継がれてきた海苔養殖を引き継がれています。

「海苔はとても温度に敏感。魚は泳いで逃げられるけれど、海藻には足がない。そこ(地盤、網)に掴まるだけ。自分に耐えられない温度になってしまったら、死に絶えるだけなんです」

海苔の養殖技術については、昭和40年代は海に立てた支柱に自然に繁殖した海苔を加工・販売する形が主流だったようですが、研究開発が進んだ現在は、陸上で海苔の種付けをし、海水温が海苔にとって最適な温度になったら海に入れ、成長を促す漁法を取り入れています。だいたい9月後半に海苔の種つけ(陸上採苗)をし、11月頃に海に入れるそうです。しかし、海の状況について、40年間海苔養殖をやってきた中で、ここ20年急激に温暖化の影響を感じていると言います。

「海苔の成長に一番良い水温は18度。だいたい22〜23度になったら海に入れるけど、ここ20年、海水温がなかなか下がらない。海水温が下がってきたかなと思うと、台風がきて海がかき乱され、水温が不安定になる。」

海水温の上昇の影響は、それ以外にもあると教えてくださいました。今までは水の冷たさのせいで冬の期間は海底でじっとしていた魚たちが、海水温の上昇で活動できるようになり、養殖中の海苔を食べてしまうという、魚による食害も起きているようです。魚の食害を防ぐための網を張るようになりましたが、労力やお金もかかると言います。

「地球で言ったらとても短い期間で、地球は急に悪化している。この悪化を、人々はどのように捉えているのかを考えると怖い。国の偉い人が、気候変動の影響を全くわかっていない気がする。」

また、気候変動以外にも、頭を抱える問題があると言います。

三浦半島東海岸、千葉県に向かって少し突き出たところに位置する走水では、多くのプラスチックゴミが海岸に流れつくそうです。

東京湾の海流の図(丸良水産HPより)

東京湾に流れ込む海流は、千葉県沖に沿って湾内に入り、神奈川県沖に沿って外へ流れていくため、東京湾西部で少し湾に出っ張ったところに位置する走水には、東京湾北部からやってきたゴミが流れ着くそうです。

「ここに住む人たちは故意に海にゴミを捨てたりしない。なのに、海岸にはゴミがたくさんある。ということは、海を伝って東京湾一帯から流れついてきたとしか考えられない。」

できるところから地球に優しい取り組みをしたい

プラスチックゴミをきっかけに、長塚さんは多くのことに取り組んでいます。

「最近始めたのは、レジ袋の紙袋化。他にも養殖を始めた海ぶどうは、再生紙のパッケージで売るようにした。また、これからは、お客さんが入れ物を持ってきてくれたら、商品の割増をするような取り組みも検討している。」

既に取り組みを始めている長塚さんですが、実は葛藤もあるそうです。

「海苔を乾燥する時は、機械を使うんだけれど、その機械は今まで重油で動かしていた。他にも、たくさんの電気を使っている。こういった仕事に使うエネルギーを、自然エネルギーに切り替えていきたい」

「出荷用の容器も気になっている。今の海苔は段ボールの箱を使って発送しているが、一回使っておしまい、というのが当たり前で、とてももったいない。再利用させて欲しいけれど、なかなか難しい。昔は木の箱を使って魚を市場に送って、空いた箱を回収してまた詰めて、みたいにやっていた。もう一度、昔のやり方でやってもいいのではと思うけれど、そうすると魚の鮮度が落ちてしまう。発泡スチロールでの出荷になってから、今の人は昔に比べて格段に美味しい魚を食べられている。なので、使い捨ての容器を使うことは心ぐるしいけれど、使い方が大切なんだと思う。」

今年1月に訪問した相模湾の目突漁師に続き、私たちの生活の根幹を支えてくださっている漁業従事者や農業従事者など、自然に寄り添って生きる人々が真っ先に地球の変化を感じ取り、また気候変動の被害を受けています。

気候変動の影響はすでに日本でも起きており、この変化を危機として受け止め、即座に行動を開始してかないといけないことを改めて感じました。

これ以上の気候危機を防ぐための具体的な行動として、日本の気候変動対策の強化に向けて声を上げること、そして、温室効果ガスを大量に排出する石炭火力発電所の新規建設の中止に向けて行動を起こすことは急務です。

FoE Japanは、気候変動がもたらす影響についての発信をいっそう強めるとともに、日本の気候変動政策の強化、今回訪問した地域のすぐ近くで建設が進む横須賀石炭火力発電所建設の中止を求めていきます。

(高橋英恵)

横須賀石炭火力事業についてはこちら

https://www.foejapan.org/climate/nocoal/yokosuka.html

リニア送電線のために樹齢300年のブナの大木が伐採危機!

樹齢300年以上のブナの木
『あわのうた』・・・若いお母さん達の思いを聴いてください

長野県大鹿村で、リニア中央新幹線に電力を送るために4.1kmの高圧電線と高さ80mもの9基の鉄塔を建てるための山林の伐採工事が始まりました。(※1)

鉄塔1基あたり約 1,000~3,000m2の樹木が伐採されます。伐採対象地には2本の樹齢約300年もの巨木が立っています。中部電力によると、周辺一帯の脆弱な地盤の中、僅かな強い地盤の場所を選んでいるため、ブナの木を避けることが困難ということです。

ブナのある森は、地下水を蓄え、生き物の住みかとなり、地盤を強化することで災害を防ぎ、麓の畜産農家にも多くの自然の恩恵をもたらしてきました。ブナ伐採を知った住民達は、「堪忍袋の緒が切れる」「納得できないことばかり進む」「暮らしが破綻させられていく」と憤りの思いを語ります。リニア推進の立場を取る大鹿村では、リニアに関連する問題に疑問や反対の意見を出すと、村内では「こんなことしたら(村への)反乱だよ」と言われます。本当は疑問を持っていても、声を上げることが出来ない人もたくさんいるようです。それでも「ブナを守ろう!」と住民たち30人ほどが立ち上がり、中部電力に要請書を提出し、署名運動を始めました。

大鹿村では、2016年11月、住民を無視した形でリニア中央新幹線の起工式が行われ、その後、リニアのための工事が村内あちこちで進められています。そしてすでに多くの環境影響が生じているのです。着工翌年の2017年末にはリニア工事が原因でトンネル崩落事故が起こり、住民が村外に往来するための生命線でもある道路が封鎖される事態が起こりました。また、この年に始まった釜沢非常口付近のダイナマイト発破では、住民が地響きを感じるほどの振動や音が集落を襲いました。大量の残土が積み上げられ、集落からの景色も一変しました。猛禽類を見なくなったとの声もあります。交通にも影響が生じています。環境影響評価によると、大鹿村を往来するリニアのトラックの数は1日最大1736台。生活道路である山道は一般車でもすれ違うことすら困難な場所が多くあります。前述の釜沢集落や青木川工区では、トンネルが地下水系・河川の下を通ることから、水源の枯渇や水量の減少が心配されています。

そして、工事は計画通りに進んだとしても、10年間も続きます。さらに生態系や水量に影響が出れば、住民の苦しみは10年でも終わらないのです。

今年7月、南信州を襲った大雨の影響により、釜沢集落へ続く道とリニアの工事現場に向かう道路が地滑り、大陥没が発生しました。トンネル非常口付近、残土置き場周辺も甚大な被害を受けており、工事は当面休止となります。

そのような状況の中で始まった送電線のための伐採工事です。村内の工事も目処が立たない状況、そして静岡では水問題で着工も出来ていない今、300年もこの地を守ってきた巨木を伐らなければならないのかと、住民の方々は疑問の声をあげたのです。8月17日の伐採開始日、中部電力に伐採中止を求めて217筆の署名を提出、現場ではアクションを行いました。住民の働きかけにより、ブナの木2本は環境省の日本の巨木に登録されることになりました。中部電力も、当初今年10月頃伐採予定だったブナの木自体の伐採は来年の7月まで延期すると伝えてきました。近くで牧場を営む土屋道子さんは「最初の一歩を踏み出しただけ。これからもみんなと一緒に運動を続ける。」と話します。伐採を先延ばしにするだけでなく、伐採計画そのものを中止させる必要があります。

大鹿村内だけでなく、全国に署名の協力を呼びかけています。署名、拡散にご協力ください。

オンライン署名 

※第2次集計:9月27日締切り、第3次集計:10月25日締切り

 ※1)送電線概要
区間下伊那変電所~JR東海小渋川変電所
電圧・回線数15万4千V・3回線
距離11.3km(内大鹿村4.1km)
鉄塔30基(内大鹿村9基)

関連:動画「リニアという夢と現実~長野県大鹿村~」

   動画「20190630リニア工事の現場~大鹿村からの報告」

モーリシャス重油流出事故にみる国際的な賠償制度の欠陥 ――事故を二度と繰り返さないために

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 モーリシャス沖合で日本の大型貨物船「WAKASHIO」が2020年7月25日に座礁してからひと月余りが過ぎた。座礁から8月6日に燃料油が流出し始めるまでの13日間、なぜここまでの被害を食い止めることができなかったのだろうか。その全貌はいまだ不明であり、徹底かつ独立した事故の検証が待たれる。

 そして今、新たな疑問が加わった。二つに分断された船体の前方部分が、「モーリシャス政府からの指示」で8月24日に海洋に投棄されたという。なぜ船体の海洋投棄という方法を選んだのか。報道によると、15キロ沖合まで曳航して沈めたというが、それであれば解体が可能な場所まで曳航することもできたのではないか。廃棄物の海洋投棄を禁止するロンドンダンピング条約への違反も指摘されている[1]

 島では、環境中に拡散された油を回収するために、多くの住民が命がけの作業を続けている。彼らはこのような選択を望んだだろうか。事故を発生させた船舶の関係者と事故対応にあたる当局は、流出油の除去や環境回復の過程で、住民、漁業者、観光業者、NPOなどの声を十分に反映した判断をする必要がある。そうしなければ、後々まで禍根を残すことになる。

 私はかつてFoE Japanのスタッフとして、「ロシア・サハリン2石油天然ガス開発」による環境・社会問題に取り組んだが、開発の大きな懸念のひとつが、油流出事故リスクの増大であった。サハリン2の通年生産が始まった2008年以降、石油タンカーは4日に1度、LNGタンカーは2日に1度、年間約240隻の大型船が新たにオホーツク海を南下し、北海道周辺を通過し、日本海や太平洋へ向けて航行することとなった。幸い、大規模事故は起きていないものの、今もそこにリスクはある。

 油流出事故が発生した際、環境保全の観点から迅速に保護すべき沿岸域を判別するための「環境脆弱性指標図(ESIマップ)」というものがある[2]。今回、油が漂着したモーリシャスの沿岸は、珊瑚礁やマングローブ林のある湿地が広がり、ESIマップの脆弱度が最高ランクに位置づけられる場所だ。このような場所では、汚染の影響が長期に渡り、回収方法にも細かな配慮が必要となる。そして、長期にわたる環境回復への取り組みが必要となる。事故を起こした当事者はその責任を負わなければならない。

タンカーでなく、「貨物船」であることが意味すること

 今回流出事故を起こした「WAKASHIO」は、主に鉄鉱石を輸送する「ばら積み貨物船」だが、貨物船のような一般船舶と、石油等を運ぶタンカーとでは、損害賠償に関する国際条約の枠組みが異なる。仮に、タンカーが油濁事故を起こし、その賠償額が船主等の責任限度額の上限を超えた場合、追加的に被害者に補償を行う国際的な基金がある(FC条約、SF議定書)。しかし、貨物船などの一般船舶の場合、そのような補償基金はない[3]

「WAKASHIO」(貨物船)の事故に適用されるバンカー条約では、船舶所有者は無過失責任を負うが、やはり責任には一定限度の制限が認められている(LLMC条約)。モーリシャスは、責任限度額を約70億円に引き上げたLLMC条約1996年議定書を批准していないので、古い限度額の約20億円が適用されるようだ[4]。このいずれであっても、今回の被害に対してあまりに不十分な額である。(船主の故意・過失による場合、責任制限は認められないようだが、今後の情報を待ちたい)。

早急にタンカーと同様の規制と補償基金の整備が必要

上記のように、タンカーと、貨物船のような一般船舶における損害賠償制度には大きな「格差」が存在するが[5]、「WAKASHIO」は、総トン数10万トンを超える大型船舶である。驚くことに、一般船舶だからという理由で、被害者への補完的な基金はないにもかかわらず、10万トンクラスの巨大な船舶が航行しているのだ。WAKASHIOから流出した千トン余りという量は、過去の大規模事故と比較すれば最大級とは言えないかもしれないが、今、モーリシャスの事例で目の当たりしているように、油流出事故は発生する場所によっては、取りかえしのつかない惨事を自然環境や地域社会にもたらす。この事故を機に、早急に、貨物船などの一般船舶に対し、タンカーと同様の規制や国際的な補償条約の制定を進める必要がある。

責任主体の複雑さからくる「責任逃れ」は許されない

この間のメディアの報道で気になっていることに、責任主体の問題がある。もっぱら「賠償責任は船主の長鋪汽船にあり、(運航者である)商船三井にはない」とする記事が多くみられるが、そんなに単純な話ではないはずだ。バンカー条約も、船舶所有者を「船舶の所有者(登録所有者を含む)、管理人及び運航者並びに裸傭船者」と定義しており、長鋪汽船、商船三井ともに責任主体である。

 船舶の世界は複雑で、今回のケースでは船主と運航者は異なるが、「船舶所有者」として一体となって海運業を営んでいる。その先には、鉄鉱石などを売る荷主がいる。これら複数の企業の経済活動の一環として、「WAKASHIO」は航行していた。船舶所有者がさらに複数となるケースもあり、「登録所有者」が賠償義務を負う理由のひとつには、被害者救済の観点から賠償請求の相手を明確にすることがあげられている。つまり、運航者などその他の船舶所有者が免責されているわけではない。この点、エクソン・バルディーズ号の油流出事故の反省の下に米国で制定された油濁法(OPA90)では、明確に責任当事者を「船舶を所有、運航、借用しているもの」として、連帯責任を負わせている。

 さらに、荷主も賠償責任を負うべきという考えから、前述のタンカー事故の補償基金は荷主によって拠出されている。船やその運航の質を高めるためには、当然、一般船舶の荷主もその責任を負うべきである。登録所有者のみに「上限つきの責任」を負わせればよいという考えでは、事故を防ぐことは決してできない。

日本が国として果たすべき役割

 日本の船の経済活動が起こした環境汚染を目の当たりにし、忸怩たる思いにかられる人は多いだろう。その一方で、日本の国としての動きは後手後手である。安倍首相が今回のモーリシャスでの重油流出事故に対し、「関係省庁で連携して支援するよう指示した」と報じられたのは8月26日だ。これまでに派遣された人員や届けられた油防除資機材などの物資も十分には程遠い。「民間企業の話」として高をくくっているのであれば[6]、海洋国家の名折れである。

船の世界には「便宜置籍船」という悪法としか言いようのない制度があり、「WAKASHIO」もご多分にもれず、船主の国は日本でありながら、法律や税制面で「優遇」されるパナマに船籍を置いていた。結局は、安価が求められ、規制が緩められ、安全性が二の次になるシステムがある。日本に船籍を置く船であれば、日本政府には、船舶の安全性を審査し、違反を取り締まる権限と責任が生じていた。また、日本籍の船であれば、船長、機関長などの資格の必要な船員は日本人でなければならなかった。事故調査にあたっては、これらの点がどのように影響したのかの検証も徹底的になされるべきである。

世界の海運会社、海洋国家としての矜持を保つ

海に囲まれる日本は、船舶事故の被害を受ける国でもあり、これまでにも国際海事機関(IMO)の理事国として、「主要海運・造船国としての知見を活かして、各種条約を始めとしたルール策定の審議」に貢献してきた経緯がある[7]。今回の事故を受け、日本政府は、悪法の上にあぐらをかくのではなく、まずモーリシャスでの油回収・環境回復に全面的にかかわり、十全な賠償を見届けたうえで、今後の船舶における国際的な条約や枠組みの改善に向けた役割を担う必要がある。そして、これまでも大規模な事故が起こるたびに責任範囲の拡大や賠償上限額の引き上げ、基金の設立などがなされてきたが、もはやそれだけでは十分ではない。あらためて、化石燃料に依存する暮らしの見直しを私たち一人ひとりが成し遂げていかなければならない。それが、青い海にかがやくサンゴ礁や湿地帯、マングローブ林をすみかとする生物たち、そこに生業をたてて暮らす人々に対するつぐないではないか。

(高木仁三郎市民科学基金 アジア担当プログラムオフィサー 村上正子)

参考図書:

  • 海洋工学研究所出版部編(1998)「重油汚染・明日のために — 「ナホトカ」は日本を変えられるか」
  • 除本理史(2007)「環境被害の責任と費用負担」

[1] グリーンピース・アフリカとジャパンが連名で、同条約違反を指摘するレターを、曳航船の所有国であるマルタ共和国や日本を含む関係国に8月24日に提出している。

https://www.greenpeace.org/africa/en/publications/12002/sinking-of-the-mv-wakashio-wreck-letter-to-malta/

https://www.greenpeace.org/japan/nature/press-release/2020/08/20/18048/

[2] ESIについて(海上保安庁)https://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/ceisnet/esi.htm

ESIマップとは(環境省)http://www.env.go.jp/water/esi/esi_title.html

[3]上谷田 卓「海洋汚染損害に対する責任及び補償等に係る国際ルール ―バンカー条約及び難破物除去ナイロビ条約の概要―」立法と調査 2019. 4 No. 411

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2019pdf/20190415041.pdf

[4] ロイター「情報BOX:モーリシャス沖座礁事故、日本船の賠償が焦点に」2020年8月14日

https://jp.reuters.com/article/mauritius-environment-idJPKCN25A0AK

[5] タンカーによる油濁事故を対象とする国際条約(CLC条約、FC条約)は、貨物として積載される油のみならず、今回のような燃料油による汚染にも適用される。

[6] 日本経済新聞「モーリシャス沖重油回収、日本は後手『民間事故』で消極姿勢 仏が全面支援で存在感」 2020年8月27日

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63136020X20C20A8EA1000/

[7] 外務省「国際海事機関の概要」

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/imo/