日本の官民が進めるニッケル開発現場で深刻な被害


日本のフィリピン・ニッケル鉱山/製錬開発の環境・健康影響

日常の中で何気なく使っているスマホやパソコンのリチウムイオン電池。近年、電気自動車などの普及とともに、益々欠かせない電池となっています。その電池の原料として欠かせないのがレアメタル(希少金属)の一つ、ニッケルという鉱物。フィリピンは、現在世界最大のニッケル鉱石生産国で、日本が官民でその開発・製錬に深く関わっています。住友金属鉱山をはじめ、大平洋金属、双日、三井物産が現地企業などに出資し、また国際協力銀行(JBIC)が融資、日本貿易保険(NEXI)が付保しています。

日本が関わるフィリピンのパラワン州や北スリガオ州におけるニッケル鉱山・製錬所周辺地域の河川水や湧水などで、これまで日本の環境基準を超える六価クロムが検出されてきました。天然で存在することがほとんどない六価クロムは東京築地などでも基準値以上が検出され、話題となった毒性の高い物質です。皮膚の腐食、臓器障害、癌、DNA損傷の可能性もあると言います

2018年12月の現地調査(北スリガオ州)

この12月、FoEのスタッフになってから初めて、北スリガオ州タガニートでの現地調査に同行しました。成田空港を離陸してからおよそ16時間、3つのフライトを乗り継ぎ到着したスリガオ空港は美しい緑の山林に囲まれており、雨季の湿気を含んだ暑さと、空気の良さを感じながらプロペラ機を降りました。翌日、車で東岸沿いを2時間ほど南下したところにあるタガニート鉱山付近に到着。グーグルマップでも確認できますが、赤茶になった山肌が幹線道路からもちらほらと目視できるようになりました。しかし、PARC制作ビデオ『スマホの真実』で撮影された鉱山開発の現場が最もよく見える場所には立ち入りができませんでした。

今回、メインの水質調査は、タガニート鉱山/製錬所からの排水が流れ込むタガニート川、ハヤンガボン川にて二日間行われました。六価クロム簡易検知管の検査では引き続き複数地点で環境基準値(0.05 mg/L)を超えており、周辺地域の住民への健康被害や水生生物への悪影響などが懸念される状況でした。1日目の調査では、タガニート川とハヤンガボン川でそれぞれ0.1 mg/L、0.075 mg/Lと、基準値以上の六価クロムが検出され、2日目にもタガニート川で基準値以上の0.15mg/Lが検出。今後、採取した水は専門家に精密に分析してもらう予定です。

dav
タガニート川検査結果
(2018年12月撮影、FoE Japan)

今回、何度も現場で検査を行なってきたスタッフからも驚きの声が上がったのは、先住民族ママヌワの移転地近くに暮らすビサヤの人びと数軒が主に利用している湧水の検査結果。簡易検知管の検査で基準値の20倍である1.0 mg/Lが計測されました。湧水をホースで導水し、煮沸などの処理もせぬまま飲料水としても利用しているとのことでした。移転地での水不足の際は先住民族ママヌワの人びとも利用し、この地域の住民の重要な水源になっているようでした。

先住民族ママヌワの移転地近くにあるビサヤ住民の住宅(2018年12月撮影、FoE Japan)

六価クロムの簡易検知管は、汲んだ水を試薬の入った透明なプラスティック製のチューブに吸い取り、六価クロムに反応した場合、1〜2分経過するとピンク色に変化します。この湧水は、チューブで吸い取った直後からみるみるうちに色が変わり始め、その事態の深刻さを人々にどう伝えるのがいいのか、複雑な心境を覚えました。先住民族ママヌワの人びとにとっては、そもそも、鉱山開発によって余儀なくされた移転。移転先で十分な水がなく、このような危険な水を利用することになっている実態――日本の官民が多額の出資・融資をして進める事業によって、住民の人びとが深刻な汚染状態にある水の利用を押し付けられていると自分は感じました。

先住民族ママヌワの移転地近くに暮らす住民が主に利用する湧水の検査結果(2018年12月撮影、FoE Japan)
先住民族ママヌワの移転地近くに暮らす住民らが主に利用している湧水。ホースで導水している(2018年12月撮影、FoE Japan)

FoE Japanは、パラワン州リオツバでも六価クロムがニッケル開発・製錬所の周辺から検出され続けていることから、2016年に製錬事業の最大の出資者である住友金属鉱山に水質調査に関する要請書を提出しました。事業者は、2012年から、鉱石置き場のシート掛け、沈砂池の掘削、また、河川につづく沈砂池の出口付近における活性炭の設置を対策として行っているといいます。しかし、FoEに長年協力してくださっている専門家の大沼淳一氏(金城学院大学元非常勤講師、中部大学元非常勤講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)は、その対策は十分ではないと指摘をしてきました。現に六価クロムは検出され続けているのです。

さらに、深刻な人権侵害も起きています。2017年1月、自分たちの土地・生活の権利を訴えてきた先住民族ママヌワのリーダーであるヴェロニコ・デラメンテ氏が殺害され、住民たちは事業に対する懸念の声を上げにくい状況となっています。また、今回、私たちが水質調査を行ったミンダナオでは、フィリピン政府により戒厳令が敷かれており、周辺の町では軍によるチェックポイントが点在するなど緊張感の高さを肌で感じました。

日々の暮らしに欠かせないリチウムイオン電池に含まれるニッケル。その開発は、深刻な水質汚染や住民リーダーの殺害といった人権侵害にも加担するものであり、多大な犠牲の上になりたっている――今回の訪問で、そのことを改めて痛感しました。

現代社会において、パソコンやスマホを手放すことは困難ですが、まだ使えるのに新しい機種を購入するといった行動は疑問を感じざるを得ません。大量生産・大量消費のひずみの一端を引き続き発信し続け、日本から遠く離れた出来事をより身近に感じてもらえるよう、そして、スマホやパソコンをはじめ、モノを大事に扱う大切さを改めて伝えられるよう、FoE Japanで活動を続けていきたいと思います。 (松本 光)

原発輸出>JBIC/NEXIによるコンサルテーション会合報告…内閣府による「要綱」のズサンさが明らかに

9月21日、国際協力銀行(JBIC)と日本貿易保険(NEXI)の原子力関連プロジェクトにかかる情報公開指針(仮称)作成に関する第3回のコンサルテーション会合が開催されました。

これは、JBIC/NEXIが、原発輸出に対して公的信用を付与(つまり、融資や保険をつける)際の情報公開に関しての指針をつくるため、広く関心を有する人たちの意見を聞くため開催しているものです。JBIC/NEXIが、合意形成や透明性を重んじてこのようなプロセスをもつこと自体は高く評価したいと思います。

NGO4団体は、JBIC/NEXIに対して、原発輸出を支援すべきでないという前提にたちつつも、指針に関しては、情報公開にとどまらず、プロジェクトごとに立地特性などに即した実質的な安全確認をするべきだとして、今年1月、以下の提言書を提出していました。
http://www.foejapan.org/energy/news/160128.html

JBIC/NEXI側は、指針の内容を情報公開に限る理由として、「安全配慮確認は国が行う」としていました。
しかし国(内閣府)が実施する安全配慮確認は、原子力安全条約などの加入や加入意思、IAEAの総合規制評価サービス(IRRS)の受け入れを確認するだけであり、極めて形式的なものにすぎません。
詳しくは以下の要綱をご覧ください。http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genshiryoku_kakuryo_kaigi/pdf/1006siryou3.pdf

本日の会合では、NGO側がかねてから求めていた国による「安全配慮確認」に関して、内閣府からの説明が実現しました。説明は概ね、上記の要綱の内容をなぞっただけですが、とりわけ、印象に残ったのは、「安全配慮確認」を以下のようにきわめて限定的に定義しているということです。

1) 相手国又は地域における原子力安全の確保、放射性廃棄物対策及び原子力事故時の対応に関する国際的取決めの遵守及び国内制度の整備
2) 当該原子力施設主要資機材の供給事業者による国際標準に適合した品質の確保に係る契約の締結及び安全関連サービス提供態勢の整備
3) 発電用原子炉施設の設置の場合における IAEA(国際原子力機関)の実施する主要な評価サービスの受入れ及び関連する許認可の取得

その後の質疑で、以下のようなやりとりがありました。(そのうちJBICのサイトに議事録が公開される予定です)。総じて、現在の内閣府による確認体制が、「形だけ」であることが明らかになったと思います。

・立地や耐震性などプロジェクトに即した実質的な安全確認はしないのか
→一義的には、安全確認は相手国が行うもの。日本としては、相手国が条約に加入していること、または加入の意思があること、IAEAのレビューを受けていること、または同等の措置を行っていることを確認する。

・原子力安全条約・IAEAレビューだけでは実質的な安全は担保できない。現に同条約に加入し、IAEAレビューを受けている日本でも事故が起こった。福島原発事故を繰り返さないというのが国是ではないのか
→明確な答えなし。

・内閣府に置かれた「審議官級」の会議では、実質的な安全確認はできない。根本的に見直すべき
→組織的に対応するという意味。見直すつもりはない。

・議事要旨を事後に公開するだけでは不十分。議事録を公開し、傍聴・中継を認めるなど、原子力規制委員会が行っているような対応をすべき
→自由な議論をさまたげないように、議事要旨のみの公開としている。

・パブリック・コメントを行うなど国民の意見の収集・反映に努めたのか。
→国民の権利・義務にかかわることではないので、パブコメは不要。

・実際に調査票を埋める外部専門家とはだれか?
→IAEAにつとめた経験のある専門家など。

・外部専門家の氏名・レポートは公開されるのか。
→まだきまっていない。

・15億円以下は安全配慮確認の対象としないのは問題ではないのか?
→行政コストの合理化という観点から。ネジ一本に至るまで確認することはできない。OECDのコモンアプローチも考慮した。

・被ばく労働など社会的な配慮に関する評価は行わないのか
→相手国が行うことである。

福島原発事故を繰り返さない、そのことさえ、蔑ろにされています。少なくとも内閣府の参事官は一度もそれを口にしませんでした。

また、「事業の安全配慮確認の責任は一義的には相手国が担うこと」…総じて、この内閣府によるやる気のない「要綱」はそこから出発しているようです。

しかし、日本が総力をあげて、国として、事前調査から多額の税金を投入し、オールジャパンで海外の原子力事業をすすめようとしている中、それは無責任きわまりない論でしょう。

数十年前、日本のODAを含む投融資が海外で甚大な人権侵害・環境破壊を引き起こしていたとき(そしてその状況はまだ続いているのですが)、ともかくも「いや、実施国だけではなく、資金を提供する日本にも相応の責任がある」とコンセンサスがえられた時代に逆もどりしたような状況です。

みなさん、今後もこのプロセスに注目してください。

(満田)