「分断ではなく共生を」地域住民抜きの事業に声をあげる、徳島県陸上風力発電所を視察して

6月20日、徳島県那賀町、上勝町、神山町周辺の陸上風力発電所を視察しました。

お話を伺ったのは、徳島県那賀町の「風力発電とまちづくり(共生)を考える会」を立ち上げた桑高仁志さんです。桑高さんは群馬県出身ですが、新潟県の地域復興支援員を経て、8年前に徳島県那賀町の地域おこし協力隊に。現在は古民家ゲストハウスを営む傍ら地域づくりの活動をされています。

桑高さんが風力発電事業に関心を持ったのは、2018年、隣町の方から徳島西部・天神丸での陸上風力事業-(仮称)天神丸風力発電事業について相談を受けてからでした。一杯のそばで買収されたと、冗談を交えながら、そのきっかけを話してくださいました。

「天神丸の事業について話を聞いて、で、環境影響評価書の配慮書が縦覧開始されるというのを町の広報誌で知って、調べてみてインターネットで見てみたら、300ページくらいある。こんなもの地元の爺さん婆さん見ないと思って。だから、要約してわかりやすいリーフレットみたいにしないと地元の人はどこで何が起こるのかがわからない。それで勉強会の資料を作って、公民館押さえても町は周知をさせてくれない。中立ですといっても、公民館や役場の掲示板をつかわせてもらえず、移住者がこうした話題を取り上げることにタブーを感じた。」

きっかけとなった天神丸での計画は2021年5月末に見送りとなりましたが[1]、2020年、徳島南部の那賀町での計画が持ち上がりました。新型コロナによる一回目の緊急事態宣言期間中の縦覧は町広報での事前周知もありませんでした。オンライン縦覧こそ行われましたが、桑高さんは、オンライン中心の縦覧だと地域のお年寄りは取り残されるという問題を指摘します。

とはいえ、県内では、風力発電に疑問を持つ人はとても少ないといいます。

「風力を問題視できる人が少ない。やっぱりメリットとして、雇用が生まれるんじゃないかとか、土木が潤うとか。再生可能エネルギーじたい必要なんだし。たぶん電気代安くなるんでしょとか。あと、考えることをやめてしまっている人たち。何もないところにやって来てくれる。そこに期待してしまう。町としての戦略はずっと林業。今までの産業を、どう守っていくかという考え方だからなかなか新しい雇用が生まれてこない。」

そのほかにも、住民や行政積極的になりづらい理由があるようです。

「那賀町の木頭地区[2]ってところが、過去にダムを「作る」「作らない」で二分された。分断のせいで、村の助役が自殺するようなことも起きた。住民運動の結果、ダムは作らないことになったけれど、そのせいで県にずっと睨まれ、道路の拡張工事とかをしてもらえなかった。村が賛成反対で二分されたという過去があるところに、風力でまた賛成反対の議論になってしまうと。またいざこざが起きると。でも、俺からしたら、声をあげなかったら議論が始まらない。だったら、中立でいいから、事業者からどうやってメリットを引き出すかという知識をつけていきましょうよ、ということをずっと言っているんですけどね。どうしても、登山家とか自然の愛好家とか外部の人から「反対」の声が先に上がってしまう。でも、風力が建つ山を持っている山主はお年寄りで、山が売れないという後ろめたさや、少しでもお金になるんだったらという淡い期待をもってしまう。地元の人は賛成も反対も言わないオロオロしている状態のときに周りの意識高い系の人たちが反対って言っちゃうんですよ。移住者もそうだけど。そうなると地元は、賛成したい人もいるのに反対って言えなくなっちゃう。神山は実際風力が立つにあたって立て看板で「絶対反対」って言っている。海陽町の方は、県議を巻き込んで運動しているが賛成反対の構図ではまた分断が生まれてしまう。」

また、徳島県那賀町の立体地図を見せながら、徳島の風力発電の状況をお話くださいました。

「今稼働中のところは佐那河内(大川原ウインドファーム[3])。今建設中なのがこの上勝神山あたり(上勝・神山ウインドファーム[4])。あと、天神丸ってところで計画されたけど2021年撤回になって(天神丸風力発電事業[5]、オリックス株式会社、144,900kW、42基)、JAG国際エナジーがあたらしくやろうとしているのが木沢から鷲敷までのこの黒い尾根(那賀・勝浦風力発電事業[6])と海陽町(那賀・海部・安芸風力発電事業[7])。天神丸あたりは四国の中でも1000m超えで、ブナの原生林もあって、この辺で風力発電建てられるんだったら、四国はどこでも建てられるでしょって話になるんですよ。だから、那賀町が毅然とした態度で挑めば、建てていい場所、建てちゃいけない場所の基準が出てくると思うんです。また四国で20数頭しかいない絶滅危惧種のツキノワグマ生息域もあるため、ゾーニング(事業適地の絞り込み)をちゃんとやってほしい。クマなんかいらないという地元の人もいれば、クマがいるってことはそれだけ生態系が豊かであるということだから残した方がいいっていう人もいる。」

上勝・神山ウインドファームの建設現場へ

桑高さんにお話を伺ったのち、桑高さんと一緒に、現在建設中の上勝・神山ウインドファームに向かいました。自然観察指導員でもあり森林活動ガイドでもある登山家の坪内強さんが現場を案内くださいました。

左:ヤマツツジ、右:鹿が木の皮を食べた跡

上の写真は、T1の設置場所の脇にある登山道を進んでいった時の風景です。写真を撮った場所と写真の赤丸で囲ったところは本来繋がった登山道だったそうで、陸上風力の部品を運び込むために山が削られ、上記の写真のような形となったそうです。「再エネの主旨はわかる。でも、自然のかたちをここまで変えて発電所を作る必要があるのか?」と案内くださったお二人は漏らします。

風力発電事業への住民の思い

上勝神山ウインドファームの建設現場視察後、意見交換を行いました。

大川原ウインドファームの発電基を見上げながら、坪内さんは、大川原ウインドファームでは、冬の期間、風車のブレードが凍ること、その氷を取り除く作業を時々やっていることをお話くださいました。タワーのブレード上部に届く60m位の高さのクレーンで氷を除去している。現在建設が進む(上勝神山ウインドファームの)高さ80mの風車は、冬期の積雪期には現在のメンテナンス方法では厳しいのではと懸念していました。

また、事業と地域の関わりについても、地域で得たエネルギーなら、電源交付金のように地元にお金を落とすべきところ、風力にはそんな仕組みはなく、何か地元に利益が還元する仕組みがあればよいのですがと話していました。

年に20回は、この尾根を歩いている。ある時、巨大な風速計が山の中に立った。それでなんやろと思っていたら、土質調査のボーリングが始まった。その後重機が入って大規模に山を削り、自然林を伐採して建設用地と作業道が造られた。その結果、家内と四季折々山野草を楽しみながら歩いた尾根筋は通行できなくなってしまった。自然を楽しんで歩く「四国のみち」も尾根道から林道に変更されてしまった。那賀町の建設予定地はサラサドウダン絶滅危惧2類などの珍しい植物が自生していて建設による絶滅が心配される。造形物と自然の美しさ、どちらを残したいか。私は反対って立場ではない。ただ、現場をみて皆に考えてもらいたい。

また、今回一緒に建設現場を視察した、勝浦町の農村体験型宿泊施設や上勝町のキャンプ場で働きながら地域自家発電の研究に携わる新居彗香さんは、

「風力発電事業は桑高さんのSNSの投稿を通じて事業に興味を持った。風力の何が問題なのか分からず、いい点、悪い点を知りたかった。地元では、大川原高原はとても流行っていて、いいじゃんという人が多い。」

と、地域の多くの住民の様子を教えてくださいました。

それに付け加えるように、桑高さんも、風力発電のできる地域は住民が普段来るようなところではなく、地元の人すら行ったことのない山で事業を計画されるから関心持ちづらいと、住民の関心をあげる難しさを教えてくださいました。とはいえ、桑高さんが考えていきたいことは、「風力発電と共生する地域づくり」だといいます。最後に、桑高さんに、徳島での陸上風力発電事業(那賀町と海陽町の事業)について、どのように関わっていこうと考えているのかお聞きしました。

今は準備書前の現地調査をする段階。考えているのは、この間にうまく事業者を引っ張り出せないかと考えている。事業者は、地元が反対していたとしても調査はさせてほしいと言っている。その結果、できるかできないかを協議させてほしいという立場。だから、事業者にうまいこと「じゃぁどういう共生を考えているんですか?地元の小学生中学生と一緒に考えませんか?地元の人が何をしたいのかを聞く場面を設けますんで、よかったらきませんか?」というのをやりたい。子どもとの共生WSとかだったら向こうも断りづらいだろうし。僕は風力発電を、自分たちの町の未来を前向きに考えるテーマとして積極的に捉えようってスタンスなんです。僕は、町のみんなが自分の町の未来を考えるお手伝いをしたい。

一呼吸あって、桑高さんはこう続けました。

「共生というのは一つのキーワードのはず。いいもの悪いものってのはやっぱり皆で議論して初めてわかるもの。事業者のベストの形もあるし、行政のベストな形もあれば、住民のベストな形もあるので、そのすり合わせはやっぱりしないとダメなんです。

僕は、風は地域の資源だと思っている。便利な言葉で、『7つの風』という言葉がある。風土とか風味とか風習とか、風がつくる7つの景観があると。風によって地域は形作られているんだから、その風を使うなら地元が一番その恩恵を受けられるよう対話をしていく必要があるのではないかと思う。」

エネルギーを考えるうえで大切なこととは

今回の視察を通じて、改めて、生活のためであるはずの電力なのに利益追求のための電力になっていること、事業への賛成/反対の議論が地域の分断をもたらしてしまうこと、その分断を恐れ何もいえなくなっている状況を目の当たりにしました。

脱原発や気候変動の防止の観点から、再エネは重要なエネルギー源です。再生可能エネルギーのポテンシャルが高い地域から、大消費地に送電する方法もあります。しかし、事業を誘致すれば自治体にお金がはいるような仕組みができたとしても、それは地域の内発的な活動を阻害したり、地域の人々の分断を生んでしまったりするようなものは、再生可能エネルギーであったとしても許されないはずです。

建設現場の一部をみていても、本当に必要な伐採だったのか、排水や廃棄物の影響をどのように考えているのか、工事で出てきた作業土はどこに行くのか、山に生きる動植物への影響などの疑問が残りました。事業のライフサイクルにわたった環境・社会影響の調査、評価、予測、対策の強化の必要性を感じます。

また、陸上風力発電の建設が進む神山町では、戦前は地域や各戸の小水力発電があり、コミュニティベースで管理していたそうです。しかし、大規模供給にあたり、小水力発電で発電したものを電線に繋げようとすると不具合が生じることから、四国電力は住民の水車を買い上げたり水車を閉じさせたりして、今では住民の中で小水力発電のノウハウがなくなっているということもあるようです。

一方、桑高さんとお話する中で、事業の進め方によっては、住民を巻き込んだ民主的な地域づくりの可能性を感じました。

化石燃料依存社会から脱炭素社会への移行は、単なる「エネルギー・チェンジ」ではなく、発電所周辺の住民の声が無視されたり、発電機の製造に必要な資源や燃料を搾取されたりすることのない電力システムへの「システム・チェンジ」であってほしいと思います。

(高橋英恵)

*再生可能エネルギーの持続可能性に関するFoE Japanの見解はこちら


[1] 2021/5/29、徳島新聞「オリックス、風力発電計画の事業化見送り 美馬、神山、那賀の3市町境

[2] 2005年、鷲敷町、相生町、上那賀町、木沢村、木頭村が合併し、那賀町となった。

[3] 株式会社ユーラスエナジーホールディングス、最大19,500kW(1,300kW x 15基)

[4] 株式会社ユーラスエナジーホールディングス、最大34,500kW(2,300kW x 15基)

[5] オリックス株式会社、最大144,900kW(42基)

[6] JAG国際エナジー、最大96,000kW程度

[7] JAG国際エナジー、最大96,000kW