SB56開催中〜COP27に向けて途上国が求めるものとは?

6月6日から16日にかけて、国連気候変動枠組条約の第56回補助機関会合(SB56)が開催されています。補助機関会合では、条約の公式な決議などはありませんが、年に一度開催される締約国会議に向けた勧告や合意案が検討されます。

COP26以降、2022年2月には、IPCC第二作業部会が気候変動の「影響・適応・脆弱性」に関する報告書を公表しました。この報告の中で、気候変動の影響はすでに広範に及んでいること、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えることが達成されたとしても気候変動の影響による損失と被害を全く無にすることはできないこと、また、気候変動にレジリエントな開発ができるかどうかは、この10年の行動が鍵となることが指摘されました。

そして、2022年4月のIPCC第三作業部会による「緩和」に関する報告書では、現行の各国の気候変動対策目標(NDC)はパリ協定の1.5度はおろか、2度未満に抑えるためには極めて不十分であること、既存及び計画中の化⽯燃料インフラからのCO2排出量のみですでに1.5℃目標の達成は不可能であること、脱炭素技術の大規模な普及だけでなくこれまでに類をみない抜本的な社会変革が求められ ることが求められることが示されました。

このように、IPCCによる報告が相次いだ後に開催されているのが、今回の補助機関会合です。第一週目には、今回の補助機関会合の開幕に際し、気候正義を求める市民社会が、記者会見やイベントを開催しました。

もはや被害の時代に突入。求められるのはアクション

6月7日には、開催された気候正義を求める市民社会(Demand Climate Justice)の記者会見がありました、その中で、Third World Network/FoE マレーシアのMeena Ramanは、冒頭に述べたようなIPCC第六次報告の指摘を振り返りながら、

私たちは、求められる気候変動対策から程遠い所にいる。ウクライナ侵攻があってもなお、先進国はまだ化石燃料から脱却する準備ができていないようだ

と、求められる気候変動対策が進まないもどかしさを示しました。

また、議題から抜けていた途上国にとって極めて重要な、適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation、GGA)は初日の交渉で議題に盛り込まれましたが、損失被害の資金支援(グラスゴー対話)は、途上国からの強い要求があったにもかかわらず、今回の補助機関会合の主たる議題として取り上げられなかったことについても言及しました。

GGAはパリ協定第7条ですでに合意されてきた。にもかかわらず、どのように目標に向かって枠組を動かしていくかという重要な議論が未だになされていない。IPCCの第二作業部会の報告でも、適応にもっと注力すべきだという指摘があった。そして、今はもう損失と被害の時代になりつつある。途上国は、損失と被害に対応するための資金ファシリティを求めている。2025年以降の気候資金に関する新たな定量的な全体の⽬標(New Collective Quantified Goal on Climate Finance、NCQG)も、途上国にとっての優先事項だ

と、今回の補助機関会合での注目点を述べました。

Asian People Movement on Debt and Development のClaire Milandaは、求められる気候資金が十分に達していない一方、何十億ドルもの資金が化石燃料事業に使われている実態に触れ、2025年以降の気候資金に関する新たな定量的な全体の⽬標(NCQG)に関する議論で、具体的な額が提案されることを求めました。

Corporate AccountabilityのRachel Rose Jacsonも、理不尽なウクライナ戦争は、私たちが化石燃料中毒に陥っていることを示していると述べました。化石燃料によって引き起こされる気候変動によって、ナイジェリアやインドなど、気候変動にほとんど寄与していない人々やコミュニティが気候変動による被害を被っていること、そしてその被害はすでに日常茶飯事となり、多くの人々がなくなっていることにふれた上で、

気候変動に関する議論はもう26年も続いています。何年もの間、行動が先延ばしにされてきたことを、私たちはみてきました。もう話をしている場合ではなく、アクションを起こさないといけない時です。時間を無駄にしている場合ではありません。パリ協定の第6条2項および第6条4項は、私たちに求められている時間軸での温室効果ガス削減には役に立ちません。パリ協定の第6条8項に基づく、確実な温室効果ガス削減策や適応支援といった解決策が必要です

と、口だけで行動が伴わない実態を批判し、確実に温室効果ガスを削減する対策が必要であることを提示しました。

公平性の実現をーCOP27への期待

途上国の交渉官らも含めたイベントも開催されました。COP26の結果を振り返るとともに、COP27に求めることを発言しました。

途上国(G77+China)の気候資金に関するコーディネーターを担うZaheer Fakir氏は、現在の1000億ドルの長期資金が合意された背景や歴史を話したのち、

COP26では、年間1000億ドルの長期資金の動員に失敗したことについて、途上国はもっと怒りを示すべきだった。2025年以降の気候資金に関する新たな定量的な全体の⽬標(NCQG)についての議論が始まっているが、私たちは過去の1000億ドルの長期資金から学ぶ必要がある。つまり、資金の定義、会計方法について話し合うべきだ。1000億ドルの長期資金について話すとき、人によってこの動員額が異なる。それは、この年間1000億ドルの気候資金が決まった時にこの資金の定義を決めなかったからだ。

と、今後の議論に向け提言しました。

途上国同志グループ(LMDC)の第6条のスポークスパーソンを担うDiego Pacheco氏は、

グラスゴー気候合意には2つの問題点がある。一つは2050ネットゼロ、もう一つは、1.5度目標達成に関する文言だ。もちろん、1.5度目標を達成できなければ、気候危機の被害は深刻さを増すから、1.5度目標の達成は支持する。だが、その方法は、先進国にとって有利なものだ。2050年ネットゼロと設定し、発展途上国が先進国により依存せざるを得ない罠のような(市場メカニズム)制度を作り出すことで、先進国は気候危機のすべての負担を発展途上国に移している。この点こそ、私たちがグラスゴー気候合意を「グラスゴー植民地協定」だと呼ぶ理由だ。グラスゴー気候合意(での先進国と途上国の力関係)は、とてもアンバランスだ。今回の補助機関会合でも、私たちは適応に関する世界全体の目標(GGA)に関する議題を含めることを試みたが、うまくいかなかった。 適応に関する世界全体の目標の策定は簡単な作業ではない。でも簡単ではないからこそ、より多くの力を投入する必要がある。COP27では、バランスの取れた合意を求める。先進国は、少なくとも2030年までに確実な削減を行い、条約とPAの原則(Common But Differenated Responsibilities、共通だが再ある責任)を維持する必要がある。そして公平性を実現するならば、それは先進国は発展途上国のために炭素予算を残さなければならないはずだ。

インドの交渉を担うRicha Sharmaも、昨年のグラスゴー気候合意は緩和が中心となりすぎていると批判し、COP27での交渉は、適応策や損失と被害に関する議題が緩和策と同等に扱われるべきであることを指摘し、実効性のある対策や資金の拠出を求めました。

最後に、COP27のホスト国であるエジプトの大使Mohamed Nasr氏も発言しました。Mohamed氏は、近年の国際交渉では民間企業など関与するアクターが増えたこと、そして水問題、農業、ジェンダー問題など様々な課題にも包括的に立ち向かうことを強調しながら、COP27への意気込みを下記のように発言しました。

何をもってCOP27の成功というかは明確だ。バランスの取れ、実行力のある結果を伴う合意だ。そして、科学が私たちに伝えていることが優先されたものであるべきだ。

*サイドイベント “Developing country views on Road to COP 27”の様子はこちら

国際交渉の意義、先進国に住む私たちの役割とは

約2週間の補助機関会合では、正式な国際合意はありません。ですが、今回の補助機関会合は、COP27での合意に向けた勧告が作成される重要な場です。開催にあたっての記者会見やイベントにおける途上国の発言にあるように、今はもう温室効果ガスを減らすだけではなく、気候変動にどう適応していくか、これから多発するであろう損失と被害に対してどう備えるかを、形にしなくてはいけない時になっています。

記者会見の最後、Corporate AccountabilityのRachel Rose Jacsonが以下のような発言をしました。

私のようなグローバルノースの人々、メディアに伝えたいことがあります。私たちはこの交渉が辛いからといって、立ち去ることはできません。グローバルノースの人たちこそ、自分たちの政府にもっと訴えないといけません。私たちには、この交渉の会場で起こっている真実を先進国の人たちに伝えるメディアが必要です。多くの人が関心を持つ必要があります。

国際交渉の現場では、市民社会や途上国の声よりも先進国等の利益が反映されがちで、時に無力感を覚えます。さらに、約2週間の補助機関会合では、正式な国際合意はないため、注目度はあまり高くありません。ですが、彼女のこのメッセージによって、気候変動の国際交渉の場で、すでに被害を受ける人々の声が議論の場に届いているかということに、私たちが関心を持ち続けることの重要性を再認識しました。

私たち日本の市民は、すでに気候変動の被害に直面する人々とどのように連帯できるのか。それを考えるためにも、日本のより多くの人々に、すでに被害を受ける人々、途上国の人々の声を届ける活動を続けていきます。

(髙橋英恵、小野寺ゆうり)

IPCCが第6次報告書第二作業部会のレポートを公開「気候危機は、これまで予測されていたよりも早いスピードで進行」

昨日、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、第6次報告書第二作業部会のレポートを公開しました。

IPCCは気候変動に関する科学を評価する国連の機関で、現在、第6次報告書の作成期間にあります。先月2月14日から27日にかけ、政策決定者向けサマリー(Summary for Policy Makers, SPM)に関する交渉がオンラインで行われました。

第二作業部会は、気候変動の影響・脆弱性・適応に焦点を当てており、本体は3600ページ以上に及びます。新しいレポートは、気候危機がさらに加速していることを示した一方、いくつかの論点で大きな議論があり、本レポートをまとめる過程で、先進国は損失と被害や、途上国における適応策への資金支援に関する言及を弱めようとしました。

本レポートの公表を受け、FoE インターナショナルがプレスリリースを発出しました。詳しくは以下をご覧ください。
(プレスリリース原文はこちら


アムステルダム, 2022/2/28 – アメリカ等の先進国が、気候資金に関する言及をIPCCの第二作業部会報告書から取り除こうとする試み、世界中の専門家や活動家から責任逃れであると非難されています。政治に左右されず、科学に基づくべきであるIPCC報告書の作成過程で、先進国は損失と被害といった重要な概念に関する情報を削除しようとしたり、適応策に向けた資金に関する言及を弱めようとしていました。今回のレポートは、気候危機はより早く進行しており、これまで予測されていたよりも早くに、より悪い影響が生じること、そして途上国での気候変動に対応するための気候資金の増額が急務であることを指摘しています。

FoEインターナショナルの活動家や専門家は、今回のIPCC報告書に対し、次のようにコメントしています。

数十年もの間、先進国が決断を先送りにしたために、今回のIPCCの報告書で書かれているような悲惨な気候危機をもたらすことになってしまったことは恥ずべきことです。特にアメリカは、途上国が今まさに経験している気候危機を生み出してきた国としての責任を受け入れるべきです。
損失と被害という概念や、資金に関する記述をIPCCの報告書から取り除こうとする先進国の試みは阻止されました。しかし、私たちは、気候変動を引き起こしてきた最も責任ある国々を非難します。責任から逃れようとすることは、とても恥知らずな行為です。
気候変動による取り返しのつかない被害を最小限に抑えたり、気候変動に適応するために、先進国から途上国へのより多くの資金提供の必要性を科学者たちは認めています。この資金は、人々のウェルビーイングと経済をまもるために必要です。もしこの資金がなければ、私たちの公正、平等、正義の実現に向けた苦難多い取り組みが無駄になってしまいます。

Meena Raman、FoEマレーシア

気候変動による影響はすでに世界の至るところで、予測されていたよりもよりも早い段階でより深刻な形で起きています。私たちはすでに、2100年までは起こらないだろうと予測されていた異常気象を目撃しています。COP26以降において、この報告書は現実を知らしめるものです。気候危機はすぐ目の前に迫っています。システム・チェンジを今こそ起こさなければなりません。見せかけではない温室効果ガスの削減、本物の解決策、早急な対応が必要です。

Hemantha Withanage、FoEインターナショナルの議長

このIPCCによる新たなレポートは、いくつかの被害からはすでに回復不可能であり、もし1.5℃を超えてしまったら、多くの国にとって適応することすら不可能だと指摘しています。私たちは、今世紀中に数億人もの人々が住み慣れた土地から離れざるをえず、農地も作物が育てられない状態となる可能性に直面しています。私たちは、脆弱な人々を助けるために、適応策や損失と被害のための資金を緊急に求めます。

Amos Nkpeebo、FoEガーナ

気候危機への脆弱性は、植民地主義によって形作られ、ジェンダー、先住民族のアイデンティティ、健康、貧困、紛争、そして教育とも関わっていると、今回の報告書は指摘します。科学は、最も脆弱で周辺化された人々の権利こそ、気候変動対策の実施において優先しなければならないと繰り返しています。

33〜36億人もの人々が気候変動への脆弱性が高い国々に住んでおり、その多くはグローバルサウスの国々です[1]。しかし、これは真新しいことではありません。気候危機の最前線にいる人々は、今までもずっと声をあげてきました。アフリカは気候変動による深刻な影響に直面しており、最も暑い地域はすでに耐えられなくなっています。私たちは、私たちの生活、土地、文化が、悪意ある政治やグローバルエリートたちの短期的な利益の犠牲となることを許しません。

Anabela Lemos、FoE モザンビーク

今回のレポートによれば、グローバルサウスの地域は、異常気象による食料生産への影響に対する適応に苦しむことが指摘されています。科学者は報告書の政策決定者向け要約の中で、気候危機が、アフリカや南アジア、島嶼国でのSDG目標2「飢餓をなくす」の達成を妨げるだろうと警告しています。
また、先住民族の権利と知恵が気候変動に立ち向かうために必要不可欠であることも強調しています。生物多様性の80%が先住民族の土地にあり[FoE Japan補足1]、生態系の変化は先住民族や地域コミュニティに大きな影響を与えています。

私たちは、気候変動による最初の絶滅を目撃しています。いくつかの森林、草原、泥炭地はすでに炭素の貯留地から排出源へと変わってしまいました。ゆたかな生態系は一度は私たちを助けてくれたものの、今は危機へと加速しており、過去数千年にわたって前例のない形で大きく変化しています。化石燃料や環境破壊や人権侵害を伴うエネルギーの使用を完全にやめることのみが、危機をさらに加速させるティッピングポイントに到達することを防ぎます。

Ricardo Navarro、FoEエルサルバドル

また、今回のレポートは、太陽放射を変化させる技術(Solar radiation management, SRM)や大規模バイオマスエネルギー、炭素回収技術(Carbon Captute and Strage, CCS)など、いくつかのジオエンジニアリング技術の実施についても警告しています[2]。

このレポートは、先進国や多国籍企業が、化石燃料からの早急な脱却を避けるために頼ろうとしている技術のリスクに対して警鐘を鳴らしています。

Sara Show、FoEインターナショナル 気候正義とエネルギープログラムコーディネーター

このレポートで科学は、昨年11月のCOP26期間中にグラスゴーや世界中で市民が求めてきたような、政府による決定的で抜本的な改革の必要性を繰り返しています。決定的で抜本的な改革とは、化石燃料への補助金の廃止、先進国から途上国への気候資金の供与、そして全ての人々のための公正で早急な再生可能エネルギーへの移行を意味します。

[1] IPCC, 2022: Summary for Policymakers, In: Climate Change 2022 Impacts, Adaptation & Vulnerability, Contribution of Working Group II to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change B.2 (page 12) 

[2] IPCC, 2022: Summary for Policymakers, In: Climate Change 2022 Impacts, Adaptation & Vulnerability, Contribution of Working Group II to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change B.5.4 and B.5.5 (Page 20, 21)

[FoE Japan補足1] National Geographic, “Indigenous peoples defend Earth’s biodiversity—but they’re in danger”: https://www.nationalgeographic.com/environment/article/can-indigenous-land-stewardship-protect-biodiversity-, 最終閲覧日2022/3/1


IPCCは今後、4月に気候変動の緩和策に関する第三作業部会報告書、9月に第一作業部会から第三作業部会の報告をまとめた統合報告書の採択を予定しています。

今回の第二作業部会のレポートでは、これまでの予測より早く気候危機が進行しており、人々の命や生物多様性への影響の深刻さが強調されました。気候危機はすぐ目の前に迫っており、温室効果ガスを削減する緩和策だけでなく、損失と被害への対応や適応策の早急な強化の必要性が強調されています。

IPCC のレポートは現実を知らしめるものです。日本を含む先進国は、気候変動への歴史的責任を認め、フェアシェアに基づいた行動が求められています。

FoE Japanは引き続き、日本政府に対し、歴史的責任に基づいた気候変動対策の強化を訴えていきます。

(髙橋英恵、深草亜悠美)

*参考

・IPCC, “Climate Change 2022: Impacts, Adaptation and Vulnerability”: https://www.ipcc.ch/report/sixth-assessment-report-working-group-ii/, 最終閲覧日2022/3/1

・環境省、AR6 WG2 政策決定者向け要約: http://www.env.go.jp/press/files/jp/117548.pdf、最終閲覧日2022/3/1