処理汚染水の海洋放出をめぐり、規制庁、東電、経産省と会合

6月2日、東電の福島第一原発の処理汚染水を海洋放出するための実施計画変更を認可する審査書案をめぐり、規制庁、東電、経産省と会合を持ちました。審査書案は6月17日までパブリックコメントにかけられています。

事前に提出した質問への3者の回答については、こちらをご覧ください。
https://foejapan.org/wpcms/wp-content/uploads/220602_answers.pdf

会合では、いろいろと驚きの事実が明らかになりました。

以下、ポイントをまとめました。

1.放出される放射性物質の総量は不明。

まあ、これは以前からたびたび問題提起していたことではありますが、やはり放出される放射性物質の総量については不明のままです。東電は40以上あるタンク群のうち3タンク群についてのみ、64核種(ALPS除去対象の62核種+トリチウム+炭素14)について測定を行い、濃度を公表しています。
残りについては、東電は準備がととのったものから、放出前に測定し、順次公表するとしています。ちなみに、現在、タンクの水の7割近くで、トリチウム以外の放射性物質について、告示濃度比総和が1を超えています(つまり基準を満たしていません。下図参照)。東電は2次処理を行ってから放出するとしています。…つまり、準備ができたタンクから、二次処理→測定→放出…ということになるので、全量の放出が終了する30年後(?)にしか、放射性物質の放出総量はわからないことになります。

2.「64核種以外の放射性物質が残留していないこと」については東電がこれから検証し、規制庁があらためて審査する。

東電は、64核種(ALPSの除去対象62核種+トリチウム+炭素14)以外が残留していないことについては、今後、検証するとしています。またその検証結果を踏まえて放出前の測定対象核種を決めるとしています。規制庁は、東電の今後の検証を待ち、それを改めて審査すると述べていました。
ただ、このポイントは審査がはじまった段階で規制庁側が提起した課題だったのですが…。

3.東電はかきまぜずに測定。

東電の放射線影響評価で、示されている3タンク群およびタンクごとの濃度を公開している主要7核種の測定の前には、東電は攪拌を行っていませんでした。
これではタンクの底部にたまっているかもしれない物質を捕捉しそこねている可能性があります。
これらのデータは、ALPS処理水中の放射性核種に関する検討や、放射線影響評価の前提として使われています。東電はタンクを攪拌した上での測定を踏まえた上で、あらためて放射線影響評価を行い、規制委員会は審査をやりなおすべきではないでしょうか。
なお、東電は放出前に攪拌を行って測定を行うとしており、そのための設備も設置予定です。つまり正確な測定には「攪拌」が必要だと認識しているわけです。

4.ウランの取扱い

東電は、核兵器不拡散条約における計量管理の対象核物質であるウラン類を測定対象としていません。
東電は、ALPS除去対象核種を決める時、「原子炉停止 365 日後の濃度が告示濃度限度に対して 1/100 を超えたもの」を対象としたと説明しています。そしてALPS対象核種を測定対象としているわけです(場合によってはもっと絞り込まれるかもしれません)。
原子力市民委員会の滝谷紘一さん(元原子力安全委員会事務局技術参与)は「ウラン類は、溶融炉心が原子炉圧力容器の破損箇所から飛散流出する際に一部が微粒子になって固化し、冷却水中に移行、ALPSのフィルターを通過した微粒子が貯蔵タンクの底部に沈殿していると考えられる。海洋放出に際して貯蔵タンクからの水流の攪拌作用により微粒子が再浮遊して流出するおそれがある」と指摘しています。

5.放出前の測定対象核種は決まっていない

前述の通り、東電は「測定評価対象核種については、国内における廃止措置や埋設施設に関する知見を踏まえ、汚染水中に有意に存在するか改めて検証」するとしています。こんな重要なことを先送りにして審査を通してしまうとは驚きです。

6.放出後の海域モニタリングはこれから検討する

質問は、「海域モニタリングにより異常値が検出された場合は、緊急遮断弁の自動作動又は運転員の操作により、ALPS処理水の海洋放出を停止する、としているが、トリチウムについては週1回の測定ということになっており、異常値が検出されたとしても、一週間遅れという事態にもなりかねない」とし、常時モニタリングとするべきではないかというものでした。(原子力市民委員会の大沼淳一さんの問題提起です)
これに対し、「いや、それは放出前の海域モニタリングの話。放出後はこれから検討する」ということでした。
しかも、規制庁は、「海域モニタリング」は規制委員会の審査の対象外とも述べていました。海域モニタリングは、総合モニタリング計画の一環で政府の関係省庁や東電も入ったモニタリング調整会議というところでとりまとめを行っている、とのことでした。

7.東電は海洋放出費用の総額を示さなかった

「海洋放出する場合、数十年にわたる放出期間全体の費用はどのように評価しているのか」という質問に対して、東電は「将来も含めて処理水の処分にいくらかかるかを現時点で見通すことは難しい」と回答。
そんな馬鹿な!いくつか仮定をおいて、概算でも見積もりを示すことは、東電と国の責任だと思うのですが…。
経済産業省のもとに設置された「トリチウム水タスクフォース」での議論では、海洋放出は91ヶ月、34億円、とされていました。現在、報道によれば、本体工事費約350億円
2021~24年度の4か年で計約430億円に上る見通し」とされています。
改めて、他の代替案との比較評価を行うべきなのではないか。」という問いに対して、東電は国が丁寧なプロセスを踏んですでに決定している、国内で放出実績がある点やモニタリング等を確実かつ安定的に実施可能な点を評価して海洋放出が選ばれた、と回答しています。

しかし、原子力市民委員会が提案している、石油備蓄に使われている大型タンクでの長期安定保管やモルタル固化処分も実績がある点では同じではないでしょうか。また、国は「幅広い関係者のご意見等を丁寧に伺ってきた」わけではなく、国が選んだ「関係者」の意見を形式的にきく場をもうけただけです。国は海洋放出決定以降、公開の場の公聴会は開催していません。

大切なことがいろいろと先送りになっているのにもかかわらず、この審査書案も通されてしまうのでしょうか。

FoE Japanでは、審査書案に関するパブコメ・セミナーを開催中です。ぜひご参加ください。

第1回:6/6 19:00-20:00 (終了しました)
コメント:宇野朗子さん(福島から京都へ避難)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZAuc-mhrjwsGtWbyeb1oiHH5KdSiAMcZ9I7

第2回:6/11 11:00-12:00
コメント:阪上武さん(原子力規制を監視する市民の会)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZ0kfuGvrTwpHdK-Mnw5c6Yc86xVi52xjd_N

第3回:6/13 19:00-20:00
コメント:濱岡 豊さん(慶応義塾大学商学部教授)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZAocumupjMiGdBoTMlDzdFaR6tIsH0EL0Z9


【2分でわかる!汚染水動画シリーズ】

1 汚染水って何? 何が含まれているの?

2トリチウムって何?

3 代替案は?

4 人々の声は?

東電による汚染水「放射線影響評価」から読み取れること、読み取れないこと~放出される64の放射性物質の総量は?

東京電力は福島第一原発の「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書」を公開し、国内外からの意見を募集しています(12月17日23:59まで)。

東電は放射性物質の海洋拡散シミュレーションを行い、3つのタンク群と、仮想のALPS 処理水の核種組成(炭素14、銀110m、カドミウム113mなど人への被ばく影響が大きい9つの核種を選定)の 4つのケースについて人への影響を評価し、「すべてのケースで一般公衆の線量限度および国内の原子力発電所に対する線量目標値のいずれも下回った」としています。また、海洋生物への影響評価も行い、問題のないレベルと結論づけています。

ところがこの「放射線影響評価」は問題だらけ。たとえば…

  • 放出は30年以上続くはずであるが、それについての記述がありません。
  • 海洋拡散シミュレーションをしているが、いつの時点での評価なのか、放出を開始して1年後なのか、10年後なのか、30年後なのか不明です。
  • 年間および 10km×10km の「平均濃度」により評価を行っています。季節ごと、また場所によって放射性物質の濃度が高い部分が生じたとしても、「平均」をとることによって薄めてしまうことになります。
  • 外部被ばくも、内部被ばくも、年単位での被ばく評価となっています。つまり、累積的な影響が評価されていないのです。

一方、この評価報告書から読み取れることもあります。
私が注目したのはp.50以降の、実際に64核種について測定を終えている3つのタンク群の水を、計画どおりトリチウムが年間22兆べくれる1年間放出し続けたとした場合の64核種の年間放出総量です(東電報告書p.50以降)。

たとえばK4タンク群の水を1年間流す場合の、いくつかの放射性物質の年間放出総量は

ストロンチウム90 2500万ベクレル
カドミウム113m 210万ベクレル
ヨウ素129 2億4,000万ベクレル
セシウム137 4,900万ベクレル
プルトニウム238 7万3000ベクレル
プルトニウム239 7万3000ベクレル
プルトニウム240 7万3000ベクレル
プルトニウム241 320万ベクレル

となります(トリチウムが年間22兆ベクレルになるように放出するという前提です)。告示濃度比総和1以下(つまり全体として規制基準以下)とはいえ、なにせ放出量が多いので、膨大です。いくら薄めても、総量は変わらないのです。つまり濃度でのみ規制をかけることの限界といえます。

プルトニウムに着目しましょう。同じくそれぞれのタンク群の水を、トリチウム年間22兆ベクレルとなるような放出を行うという前提です。

年間放出量(ベクレル)
K4タンク群 J1-C タンク群 J1-G タンク群
Pu-238 73,000 890,000 2,300,000
Pu-239 73,000 890,000 2,300,000
Pu-240 73,000 890,000 2,300,000
Pu-241 3,200,000 32,000,000 81,000,000

K4タンク群の水を1年間放出すると、プルトニウム238、239、240、241の合計で341万9,000ベクレル、J1-Cタンク群の水の場合、プルトニウム238、239、240、241の合計で3,467万ベクレル放出、J1-Gタンクの水の場合、年間8,790万ベクレル放出ということになります。

まだ、すべてのタンク群の核種ごとの濃度や容量が公開されていないため、不明なところがありますが、この3つのタンク群が特殊なものでない限り、このレベルの放出が30年以上続くことになります。

しかし、このような数字も、限定的なものに過ぎません。いままで東電は、放射性物質の濃度のみを公開してきており、放出の総量については示してきていませんでした。私たちは、いったい何が、どれくらい放出されるのかわからないままにいるのです。さらに、東電が測定・公開の対象としている64核種というのは、ALPSで処理の対象となっている62の放射性物質とトリチウム、ALPSの対象ではないがあとから存在することがわかった炭素14のみです。

技術者や研究者も含む、原子力市民委員会のメンバーが、パブコメを公開しています。

http://www.ccnejapan.com/wp-content/20211215CCNE.pdf

領域海洋モデルの再現性に関しての批判、有機トリチウムによる内部被ばくが過小評価されている件など、かなり具体的な指摘がならんでいます。
また、原子力市民委員会では、12月16日に開催したオンラインセミナーの「“東京電力「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書」の問題点”」の資料および録画をYouTubeにアップしています。(冒頭の私のところはイントロなので飛ばしてください)

ご参考にしていただければ幸いです。(満田夏花)

「処理水」?「汚染水」? どっち? そして、何をどれくらい放出するの?

FoE Japanの満田です。この記事を図でざっくりまとめるとこんな感じです。

もう少し詳しく解説します。

政府は、福島第一原発の敷地でタンク保管されている処理汚染水について、今年4月13日海洋放出を決定しました。

また、同日、経済産業省は「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水』のみを『ALPS処理水』と呼称する」という、少し不思議なプレスリリースを出しました。

さて、この水をめぐっては、政府は従来「ALPS処理水」と呼び、海洋放出に反対する人たちは「汚染水」と呼んでいます。まあ、処理しているのを強調したいのか、まだ汚染されているのを強調したいのかの違いでしょうか…。ただ、政府は、「汚染水」という報道を見かけると、結構しつこく、いや失礼、こまめに、「いや処理水です」と訂正に努めていたようです。

FoE Japanでは、間をとって、というわけではありませんが、「処理されているが放射性物質は残留している水」ということから、「処理汚染水」と呼んでいます。

ところが、タンクの水の7割において、どうしても取り除けないとされていたトリチウム以外の放射性物質について全体として基準を超えているのです。

この水は、事故で溶け落ちた燃料デブリを冷却する水と、建屋内に流入した水が混じった正真正銘のこ~い「汚染水」をALPS(多核種除去装置)など何段階にわたって処理しています(下図)。

残留しているのは、ヨウ素129、ルテニウム106、ストロンチウム90、セシウム137など…。ストロンチウム90というのは、骨にたまる怖い放射性物質。ヨウ素129は、半減期は1570万年で気が遠くなるほど長いのが特徴です。最近では炭素14なんてものが残留していることが明らかになりました。ここらへんの顛末は以下の記事もご覧ください。

ALPS処理水、ヨウ素129などトリチウム以外核種の残留~「説明・公聴会」の前提は崩れた | FoE Japan

東電は、トリチウム以外の放射性物質が基準内におさまるように、二次処理をする、としています。

さて、ここで問題です。

最初の政府による「処理水」の定義(「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水』のみを『ALPS処理水』と呼称する」)からすると、

いま現在、タンクにたまっている水はなんと呼べばよいのでしょうか?

実は、私も気になっていたこの点に関して、質問を出してくれた議員さんが…!

立憲民主党の阿部知子議員です。

そうしたら、回答が出ました。(答弁書といいます)

「政府としてその呼称を定めていない」。

ガクッ。

まあ、呼びたいように呼んでください、ということなのでしょうか。

ということで、私は、引き続き、「処理汚染水」と呼ぶことといたします。悪しからず…。

ちなみに、この質問主意書、もっと重要なことも聞いていますので、ご紹介します。

いまタンクに溜まっている水に含まれいている放射性物質の種類ごとの総量、および放出するであろう水に含まれる放射性物質の核種ごとの総量の推定値についてです。

つまり濃度ではなくて、どれくらいの量が含まれているの? もしくは、どれくらいの量を海に出しちゃうの? ということです。

これ、知りたかった! 実は、私も何度も何度も、東電や経産省に聞き続けてきたのです…。

で、その答えは…

「東電に公表を求める予定はない」

ガクッ。

濃度がわかっているんだからいいでしょ? ということ? でも総量が、総量が、重要なんです~。

おいおいおいおい。

何をどのくらい放出するつもりか、教えてくださいよ~。基本情報でしょ~。

ということで、質問主意書、答弁書のオリジナル、以下に貼り付けます。

阿部知子議員、ありがとうございました。 

(なお、この「水」をめぐっては、東電は、放出前に濃度を測定せず、計算だけで基準を満たしているか判断する方針であることが報じられています。こちらもまた、びっくりです。>東電、放出処理水の濃度測定せず 規制委で妥当性議論へ(2021年6月10日付東京新聞のサイトですが、共同通信の配信です。))

(満田夏花)

東京電力福島第一原子力発電所敷地内タンクの放射性物質の総量の公表に関する質問主意書