アブラヤシ生産の現場では何が?ー現地調査報告

みなさん、こんにちは。FoE Japanスタッフの杉浦です。

コロナがまだまだ収束せず、ステイホームが余儀なくされる今ですが、いかがお過ごしでしょうか?

今回は、去年の12月に行ったインドネシアでの現地調査についての報告をしたいと思います。

今回の調査の目的は、パーム油の原材料であるアブラヤシの実がどのように生産されているのか、本当に環境・人に優しい環境で栽培されているのかという実態調査です。

みなさんは、パーム油ってご存知ですか?

パーム油は、様々な商品に使われており、カップラーメンやチョコレート、ファストフードのような食品から、石鹸や化粧品にも使われています。あまり、日本では親しみがないように思えますが、広くいろいろなところで私たちの生活に関わっています。実際に、日本の国内植物油消費量の中では菜種油に続く、第二位となっています。

主な生産地はマレーシアとインドネシアで、その使いやすさから、生産量は2018年には71,453,193トンと1961年の48倍にも増えています。(下の図参照)

さらに、日本では2012年に再生可能エネルギーの普及を推進する目的で、固定価格買取制度、通称FiT制度が制定され、太陽光、風力、水力、地熱と共に、パーム油を含めたバイオマス発電も対象とされています。このFiT制度は、再生可能エネルギーを利用した発電設備で発電された電気を、一定の期間・価格で、電力会社が買い取ることを国が保証する制度であり、私たちの払う電気料金からのお金で成り立っています。

このFiT制度が制定されて以来、日本でのバイオマス発電所は増え続けており、認定されているうちの4分の1ほどはパーム油を燃料とする発電所です。現在認定を受けている事業がすべて稼働すれば、急激に日本のパーム油の輸入量が増えると予想されます。

パーム油は植物由来の油ですが、果たして本当に環境にいいのでしょうか?再生可能エネルギーと呼べるのでしょうか?現地調査から学んだことをまとめました。

インドネシアは何度か訪れていますが、今回は初めてインドネシア本島ではなく、アブラヤシ生産が盛んな、カリマンタン島の中央カリマンタンに行ってきました!下のグーグルマップでみると、赤い線で囲まれたところが中央カリマンタンになります。さらに、その中の丸く囲まれたところが今回調査した地域になります。

自然な豊かな土地から、様々な開発が行われており、アブラヤシ農園開発を含めた土地造成が至る所で行われています。下の図は、1990年と2017年を比べたものになります。緑のところが手が付けられていない自然、そして黄色いところが開発されたところになります。ご覧いただける通り、2017年には中央カリマンタン全体がほぼ黄色くなっていることがわかります(WALHI – FoE インドネシアのデータ)。

今回訪れた2つの農園をご紹介します。

一つ目はGawi Bahandep Sawit Mekar社と呼ばれる会社の保有する農園。

Seruyan地区Jahitan村Seruyan Hilir郡に位置し、トリプトラグループが保有する子会社です。面積は19,594.22ha (約東京ドームの4169倍 )にもなります。

そして、この農園は、2014年からRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証を取得しています。

このRSPOというのは「持続可能なパーム油が標準となるよう市場を変革する」というビジョンを持っていて、現存するパームアブラのための認証制度としては、とてもしっかりしているものだと思います。たとえば、生産段階の認証では

原則1:透明性への誓約
原則2:適用される法令と規則の厳守
原則3:長期的な経済的及び財政的存続可能性への誓約
原則4:生産者と搾油工場による適切な最善の慣行の活用
原則5:環境に関する責任と自然資源及び生物多様性の保全
原則6:従業員及び生産者や搾油工場によって影響を受ける個人とコミュ ニティに関する責任ある配慮
原則7:新規作付けの責任ある開発

といった7つの原則を持っており、それぞれ厳しいチェックが行われます。

さらには、様々な7つのステークホルダーが意思決定に参加しており、アブラヤシ生産者、精油業、商社、消費者製品製造業、小売業、銀行、投資家の他に、環境・自然保護NGOや社会・開発NGOが含まれており、市民社会の声も反映された制度になっています。

そういった点から、冒頭に説明した、FiT制度はRSPO認証をうけたパーム油(RSB認証というも認められているが日本にはまだほとんど入ってきていない)をFiT制度の対象にしています。

しかし、RSPO認証を受けていても、現場では様々な問題が起きていました。

まず、農園の近隣に住む人から話を聞くと、農園開発のせいで、彼らの生活は一変したと言います。

企業は2006年ごろからこの土地を開拓しようとやってきて、住民とぶつかります。その理由は、企業が開発しようとした地域に住民の土地が含まれてしまっていたから。住民たちは、ここは自分たちの土地だと訴えましたが、企業側は一切引かず、実は今現在も解決していません。2016年ごろから、何度も市や警察が関わり仲裁が取られているにもかかわらず、話し合いは平行線をたどっているそうです。

しかし、そんな住民の反対にもかかわらず、事業は推し進められ、住民たちの生計手段は大きく変わります。彼らの農地は奪われ、川は汚れ、農業や漁業で前のように生計は立てられなくなりました。

さらに、森林火災も頻繁に起きています。現地NGO、研究者によると、所有する敷地内・外で火災が起きており、2019年には、毎年インドネシア政府から発表される森林火災の容疑者のリストにも上がっています。

下の写真は、今回僕が訪れた時に撮ったものです。去年の森林火災によって、あたり一面の木が燃え、このように燃えかすが残っていました。このように自然林を燃やすことによって、企業はアブラヤシ農園開拓の場所を広げたり、または自分の農園が燃えることによって、保険金を手に入れることができるそうです。

訪れたもう一つの農園は、Mustika Sanbulu社という企業の農園。Kotawaringin Timur地区Mentaya Hilir Utara郡・ Telawang郡, Pondok Damar村, Bangkal村, Tanah Putih 村 and Sei Babi村と多くの村にわたって位置し、日本にパーム油を輸出しているウィルマー社がもつ子会社の農園です。こちらも、2010年からRSPO認証を取得しています。こちらも、19,632,27haという広大な土地にアブラヤシが一面に広がっています。

この農園でも、1つ目の農園と似たような問題が起きていました。

まずは、土地紛争。1996年ごろから住民が強制的に移転させられ、現地住民の土地は奪われてしまいました。彼らの土地を奪っただけではなく、いまだに地域住民に対しては平等な権利が与えられていません。具体的には、企業は、企業が有する土地の20%を地域住民が主体となりアブラヤシを管理する小農農園(Plasma)として割り当てなければならない(2007年農業大臣令)のにもかかわらず、企業が拒んでいるそうです。

奪われた土地は、農業・漁業で使われていた土地で、現在は生活も厳しくなったと、現地の人たちはいいます。

さらにはこの近くにはサンピット川と呼ばれる川が流れていますが、農園からの汚染がひどく、現地の人々は

「事業が始まると川も汚れていった。」

「水の色はどす黒くなり、匂いがする。」

「魚が死に、生活用水(水浴び)として 利用もできない。」

と嘆いています。健康被害もあり、水に入ると体がかゆくなったり、発疹がでるそうです。

汚染の原因の一つとして、現地住民が見つけたのは、工業廃水の貯水タンクが破損しているということ。

現地保健局にも問い合わせ、そうすると貯水タンクの数が規定に合っていないことが判明しました。なのにもかかわらず、いまだに現状は変わっていないそうです。

さらに、森林火災にも関わっているようです。この企業は、1999年から森林火災に関与しているそうで、2019年も同じように森林火災が農園内・外で起きているということでした。

親会社のウィルマーグループは、パーム油生産で大変有名な企業で、しかし森林火災に関わっていることが多く、常に要チェック対象になっています。

現地でお話を聞いた住民の一人はこう述べています。

「アブラヤシ農園ができる前は、私たちの生活は豊かだった。農 業で野菜を取り、森に肉を取りにいって川や湖に魚を取りにいっ た。なのに今はなにもできない。私たちにはなにもない。誰だっ て、どこにいたってみんな生きる権利がある。みんなだ。もう私 たちは死んだも同然だ。」

以上、簡単でしたが2つの事例を今回の現地調査から紹介させていただきました。

今回の調査で、パーム油は植物由来の油であるが、大量生産・大量消費をすることによって、農地拡大が大規模におき、現地に住むひとびとの生活・暮らしを壊していること、さらに、RSPO認証といった認証制度があっても、様々な抜け穴や、管理がちゃんとされておらず、持続可能だということは言い切れないことが改めて認識できました。今後、FiT制度により、バイオマス発電が促進されると、さらにパーム油や木質由来の燃料を国外から輸入することになり、需要は急激に高まり、それに比例し現地での生産が拡大、そして森林破壊・人権侵害につながる恐れがあります。

特に、FiT制度は私たちのお金が使われている制度です。こういったパーム油のような燃料に、「再生可能エネルギー」だといって私たちのお金が使われていいのでしょうか?

私たちは今後も調査を進め、政府への提言を行なっていきます。

現在、旅行会社であるHISが進めるパーム油を燃料としたバイオマス発電事業に反対する署名活動も行っております。是非、署名にご協力ください!

署名サイトはこちらから👉http://chng.it/LLXWdXfF

FoE Japanスタッフ 杉浦

山林から恩恵を受けているということ~鴨川市田原地区メガソーラー計画を取材して

○再生可能エネルギーと開発

福島原発事故以来、原発への依存度を下げるべく、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の割合を増やすことが決定されました。固定価格買取制度もあいまって、国内では大規模な開発を必要とするメガソーラーの建設が多く計画されています。

再エネの普及は、気候変動の原因である温室効果ガスを減らすための有効な手段でもあります。しかし現在、再エネの名の下に森林を伐採し、環境を破壊するような開発事例(以下、乱開発)が見られるようになってきました。

FoE Japanは、再エネの普及の名の下で山林を破壊することは、生物多様性の保全の観点から、また、気候変動の観点からも、森林は温室効果ガスの吸収に重要な役割を果たすため看過できないものであると考え、再エネによる乱開発の現場の取材を始めています。(FoE Japanでは北杜市も訪問

その一つとして今回、千葉県鴨川市に計画されている、メガソーラーの建設予定地を訪問しました。 (取材日時:2019年2月15日)

○鴨川市、田原地区、メガソーラー計画の主な問題点

千葉県鴨川市におけるメガソーラーは、田原地区という、鴨川市の玄関と言えるような場所に計画されています。同計画は、千葉県による林地開発許可審査中で、まだ着工はされていません。詳細はこちら

同計画の問題点として挙げられているのは、大規模な土地改変です。東京ドーム32個分にもなる広大な山林を平坦にするため、1,300万立方メートルの山を削り、その土砂で谷を埋め立てる予定であると事業者は言います。10トンのダンプトラック約200万台にもなる土砂も移動するそうで、流れる川や沢も埋め立てられる予定となっています。流れる川や沢が埋め立てられた場合、その川や沢に流れていた水が行き場を無くし、地中に水分が含まれていくため、地盤の脆弱化の恐れが考えられています。また、建設予定地は林野庁により「山地災害危険地区」に指定されている急峻な土地で、開発自体も危険や困難が伴う可能性があります。さらに、10万本以上の木が伐採されるとの意見もあり、この開発による大規模な環境破壊は免れません。

削られる予定地の山なみ
事業計画地映像(鴨川の山と川と海を守る会より)

○山林は漁業にとって必須

「山の緑から海に流れる豊富な栄養分は魚にとって大切だ。それを知らない漁師はいない。生計に関わる問題であり、本事業は反対だ」

とてもシンプルなコメントを述べたのは、年間25億円の販売高、組合員数約1400人の鴨川市漁業協同組合を統括する松本ぬい子組合長(以下、松本さん)。「今回の事業は環境破壊である」とさらに付け加え、山と海の関係を強調する松本さんの言葉からは、鴨川で漁業を営む人々は人間が生きるために長年自然を大切にし、持続可能な環境を作り上げてきたことを感じます。

松本ぬい子組合長

○山林の開発は、地主さんだけの問題ではない、公益性がある

現場で説明をする今西さん

鴨川の海と川と山を守る会(以下「守る会」)代表の勝又さんは、メガソーラー開発に対して、地元民の動きに懸念を示しました。「建設予定地は5区の財産区だったのだが、40数年前にリゾート開発会社へ売却している。その後、転売を重ねてきた山なので愛着がわかないのではないか。これは地主さんだけの問題ではない。そこに暮らして田んぼを耕作する人、川の水を利用する人、魚を取る人、それらを利用し、山の恩恵に浴する鴨川市民全体の問題だ」

勝又さん

同じく守る会の今西さんは「市はほとんどなにもしていない。これだけの規模の山を削り、谷を埋めることは、エネルギー問題とは関係なく通常の人の感覚では実行できないはずだ」と憤ります。

「山に降った雨が山林で浄化され川に流れ、そこに住む動物、生命の多様性が維持されている。これらは公共性があるものであり、都市部の方々も関係している。地主さんの意向で開発を決める筋合いのものではない」と今西さんは言います。

守る会では「エネルギーの問題については多様な意見があるが『この場所とこの規模』はダメという言い方をしている」と、統一見解はあると勝又さんは言います。また、「ようやく2018年2月ころから市民や議員の意識が変わり始めたと感じる。市民の関心が少し出てきたからこそ、未だに林地開発許可の審査に時間がかかっていて下りていないのだと思う」と、市民活動の成果についても分析していました。

◯市議会の雰囲気は?

佐藤カズユキ議員

鴨川市議会の中で本事業に唯一反対表明している、佐藤カズユキ議員に話を伺いました。

佐藤議員が反対を表明する理由についてお聞きしたところ、

「漁師の家に生まれ、自然を守ることを公約に掲げている。今回の事業は環境破壊である」

と自然破壊の懸念に加え、

「農業、漁業、林業の1次産業、観光が特徴の当市であるが、本事業はいずれにも大打撃を与える可能性がある。一時的な税金収入よりも失うものの方が大きいと思う」

と、経済的な懸念も理由として挙げていました。

これだけの問題のある事業に他の議員はなぜ表立って反対しないのかについて質問したところ、「事業に賛成の議員もいるが、個人的には反対だと言う議員が多い。しかし、個人的には反対としながらも、あくまでこの問題は市に許可権限はなく、国や県の問題であって市の問題ではないと言う議員が多く、個人の事業であることから、市や市議会が賛否を示すものではないという意見も多い。これは鴨川だけの問題ではないが、地方議会の議員の多くは国の方針にそのまま従う傾向がある」

と、議会の中で自らの意見を発することが困難であることを憂慮の声を漏らしました。

鴨川の市議会の構成については、

「鴨川市議会は圧倒的に自民系が多い。どこの政党であっても、漁業、農業、林業の1次産業が基幹産業である鴨川市を守るのは当然であるが、外部からの投資を優先させるなど、地元産業を守る動きにはなっていない」

との回答。

さらに、「良い再エネ、悪い再エネがある。本事業のような悪い再エネが再エネ全体の評判を落とすことになるのを懸念している」と話し、再エネの固定価格買取制度についても「再エネの使い方をしっかり国が制度化すべきだったと思う。再エネは、再エネ賦課金など国民が負担している公共の事業である。民間の事業利益主義だけ考えると今回のようにおかしくなってしまう」と、懸念を示していました。

加えて、「個人の事業だから私たちは何も言えませんという態度を行政がとっているのが問題。議会内での勉強会も進んでいないし、国からの通達がないと動かない。トップの方の意見が大きく左右する」

と、トップダウンでの動きにしか対応しない鴨川市にも問題があるといいます。

○市長のやるべきことはなにか

鴨川市役所訪問
亀田鴨川市長(左)

今回の訪問では、市民団体や市議会議員の他、2017年3月から鴨川市長を務める、亀田郁夫市長(以下、市長)との会合も実施しました。

鴨川市議会が昨年12月20日、国に対して提出した意見書『大規模太陽光発電施設の開発に対する法整備等を求める』には「自然環境、景観への影響・・・土砂災害等自然災害発生の懸念・・・市民生活を脅かす事態となっている」と説明があり、鴨川市としても、市長としても本事業は「自然環境、景観・・・災害の観点から問題である」と考えるのかを問うたところ、市長は以下のように答えました。

「個人的にはいろいろな意見があるが、法令等の基準に則り対応していく」。加えて、「鴨川市の環境破壊は市への大きな打撃となるのでは」との質問に対しては、「制度の範囲内で対応していくしかない。事業者としても法令遵守を前提として申請している。市としては現行法令の中でできることとして、市民の皆様に対して説明会を開催することや、市民の皆様の疑問に文書で答えることを求めたり、事業終了後あるいは災害等に対応するための積立金をするよう事業者に要請してきたところである」と市民との対話を促しつつも、他の地方行政にあるような条例を市として制定するなどの対策をする構えではありませんでした。

本事業のメリットについて市長は、「市としてメリットの有無で判断するものではないが、地域には短い期間経済的メリットはあろう。市内には、太陽光発電事業者によりミニトマトの温室栽培が行われているところもある」とあくまで中立性を強調しました。

一方で、本事業は鴨川市にとって失われるものについては「地域が担保できる積立金をするように事業者と合意を得たい」と事業者との合意形成に関しては積極的な姿勢は示すものの、本事業のデメリットについての言及はしませんでした。

最後に、「市としてそれ以上対応しないのは他に課題があるからか?」と、鴨川市における福祉や経済など他の課題が優先されて、本事業に関連した対応ができないのかという問いに対して市長は、「他の案件によって今回の事業への対応ができないということではない。繰り返しとなるが、法令に則して中立に対応していく」と否定しました。

と、上記のような形で面談は終了しました。市民や事業者との対話は重要視をしつつも、乱開発の規制を求めるような条例の制定や法令以上の対応には否定的でした。本事業は、鴨川市の基幹産業を脅かす課題とは捉えていないようです。

○鴨川市の向かうべき方向

今回は鴨川市のメガソーラー建設計画についての視察でしたが、メガソーラーへの懸念だけではなく、鴨川市の前向きな側面も発見しました。

守る会の勝又さんは、「鴨川市は移住者が多く自分で得られるものを自分で得る暮らしがしたい、自然の中で暮らしたいという方が多い。ジビエ、サーフィンも魅力であり、半分第一次産業、半分他の仕事(半農半X)みたいな生活に興味がある方々に良いまちである」と自然と触れ合いながら、自分の興味のあることに取り組める受け皿が鴨川にはあると強調されていました。

また、漁業組合長の松本さんも、「他地区は苦戦している中で当漁協は13年間黒字、若い方も入れ替わり入ってくるし経験者がやりかたを教えるという雰囲気が次世代を育てているようだ」と、鴨川の漁師も外からの移住者への対応も積極的で、これがモデル化されはじめ、鴨川のように漁師が増えることを「鴨川方式」といわれることがあるといいます。新しい風が吹いている鴨川でメガソーラー開発に対して「次世代のために反対。若い人たちの姿があるからこそ、想像がつく」と松本さんは強調します。

○自然とともに生きるとはなにか

今回の訪問で多くの方にお話を伺い、鴨川市における本事業は、再エネへの悪い印象が市民の間で広まるのではないかという懸念を感じました。国際環境経済研究所前所長の澤昭裕氏によると、ドイツでは太陽光発電の「施設建設に当たって森林等の伐採を行えば、その6倍の植林を行わないといけない」そうです。大規模な開発を伴うメガソーラー建設に頼らずとも、植林など対応が難しい耕作放棄地や一般住宅、工場などに設置する再エネを普及させるなど、やるべきことは他にもあります。

大規模に土地を削り、埋めるような事業は、再エネ事業に関わらず根本的に問題です。今回の訪問で、鴨川の経済を支える漁業組合を始め、一部の議員にも大規模開発に対する問題意識があり、自然環境の大切さが共有されていること強く感じました。長年維持されてきた自然環境は失ってから気づくのでは遅いのです。さらに、これは地域の問題ではなく都市部に住む人々も自然の利益を受けており、責任があると感じます。固定価格買取制度や環境影響評価法などの制度は短い期間の利益や影響は考慮していますが、さらに30年50年以上先を見据えるような長期的な視点が必要です。漁業や農業を支える自然保護の大切さを改めて感じ、行動していく必要があるのではないかと感じた取材となりました。

「計画概要」(鴨川の山と川と海を守る会調べ

場所:千葉県鴨川市、鴨川有料道路西側、清澄山系の山林

面積:事業面積250ha, 伐採面積150ha

発電規模:130mw

事業者:AS鴨川ソーラーパワー合同会社

地権者:Aスタイル

造成:大蓉工業

設計:ユニ設計

発電設備:日立製作所

(2019年2月 高橋英恵、松本光、天野遼太郎、田渕透)