処理汚染水の海洋放出をめぐり、規制庁、東電、経産省と会合

6月2日、東電の福島第一原発の処理汚染水を海洋放出するための実施計画変更を認可する審査書案をめぐり、規制庁、東電、経産省と会合を持ちました。審査書案は6月17日までパブリックコメントにかけられています。

事前に提出した質問への3者の回答については、こちらをご覧ください。
https://foejapan.org/wpcms/wp-content/uploads/220602_answers.pdf

会合では、いろいろと驚きの事実が明らかになりました。

以下、ポイントをまとめました。

1.放出される放射性物質の総量は不明。

まあ、これは以前からたびたび問題提起していたことではありますが、やはり放出される放射性物質の総量については不明のままです。東電は40以上あるタンク群のうち3タンク群についてのみ、64核種(ALPS除去対象の62核種+トリチウム+炭素14)について測定を行い、濃度を公表しています。
残りについては、東電は準備がととのったものから、放出前に測定し、順次公表するとしています。ちなみに、現在、タンクの水の7割近くで、トリチウム以外の放射性物質について、告示濃度比総和が1を超えています(つまり基準を満たしていません。下図参照)。東電は2次処理を行ってから放出するとしています。…つまり、準備ができたタンクから、二次処理→測定→放出…ということになるので、全量の放出が終了する30年後(?)にしか、放射性物質の放出総量はわからないことになります。

2.「64核種以外の放射性物質が残留していないこと」については東電がこれから検証し、規制庁があらためて審査する。

東電は、64核種(ALPSの除去対象62核種+トリチウム+炭素14)以外が残留していないことについては、今後、検証するとしています。またその検証結果を踏まえて放出前の測定対象核種を決めるとしています。規制庁は、東電の今後の検証を待ち、それを改めて審査すると述べていました。
ただ、このポイントは審査がはじまった段階で規制庁側が提起した課題だったのですが…。

3.東電はかきまぜずに測定。

東電の放射線影響評価で、示されている3タンク群およびタンクごとの濃度を公開している主要7核種の測定の前には、東電は攪拌を行っていませんでした。
これではタンクの底部にたまっているかもしれない物質を捕捉しそこねている可能性があります。
これらのデータは、ALPS処理水中の放射性核種に関する検討や、放射線影響評価の前提として使われています。東電はタンクを攪拌した上での測定を踏まえた上で、あらためて放射線影響評価を行い、規制委員会は審査をやりなおすべきではないでしょうか。
なお、東電は放出前に攪拌を行って測定を行うとしており、そのための設備も設置予定です。つまり正確な測定には「攪拌」が必要だと認識しているわけです。

4.ウランの取扱い

東電は、核兵器不拡散条約における計量管理の対象核物質であるウラン類を測定対象としていません。
東電は、ALPS除去対象核種を決める時、「原子炉停止 365 日後の濃度が告示濃度限度に対して 1/100 を超えたもの」を対象としたと説明しています。そしてALPS対象核種を測定対象としているわけです(場合によってはもっと絞り込まれるかもしれません)。
原子力市民委員会の滝谷紘一さん(元原子力安全委員会事務局技術参与)は「ウラン類は、溶融炉心が原子炉圧力容器の破損箇所から飛散流出する際に一部が微粒子になって固化し、冷却水中に移行、ALPSのフィルターを通過した微粒子が貯蔵タンクの底部に沈殿していると考えられる。海洋放出に際して貯蔵タンクからの水流の攪拌作用により微粒子が再浮遊して流出するおそれがある」と指摘しています。

5.放出前の測定対象核種は決まっていない

前述の通り、東電は「測定評価対象核種については、国内における廃止措置や埋設施設に関する知見を踏まえ、汚染水中に有意に存在するか改めて検証」するとしています。こんな重要なことを先送りにして審査を通してしまうとは驚きです。

6.放出後の海域モニタリングはこれから検討する

質問は、「海域モニタリングにより異常値が検出された場合は、緊急遮断弁の自動作動又は運転員の操作により、ALPS処理水の海洋放出を停止する、としているが、トリチウムについては週1回の測定ということになっており、異常値が検出されたとしても、一週間遅れという事態にもなりかねない」とし、常時モニタリングとするべきではないかというものでした。(原子力市民委員会の大沼淳一さんの問題提起です)
これに対し、「いや、それは放出前の海域モニタリングの話。放出後はこれから検討する」ということでした。
しかも、規制庁は、「海域モニタリング」は規制委員会の審査の対象外とも述べていました。海域モニタリングは、総合モニタリング計画の一環で政府の関係省庁や東電も入ったモニタリング調整会議というところでとりまとめを行っている、とのことでした。

7.東電は海洋放出費用の総額を示さなかった

「海洋放出する場合、数十年にわたる放出期間全体の費用はどのように評価しているのか」という質問に対して、東電は「将来も含めて処理水の処分にいくらかかるかを現時点で見通すことは難しい」と回答。
そんな馬鹿な!いくつか仮定をおいて、概算でも見積もりを示すことは、東電と国の責任だと思うのですが…。
経済産業省のもとに設置された「トリチウム水タスクフォース」での議論では、海洋放出は91ヶ月、34億円、とされていました。現在、報道によれば、本体工事費約350億円
2021~24年度の4か年で計約430億円に上る見通し」とされています。
改めて、他の代替案との比較評価を行うべきなのではないか。」という問いに対して、東電は国が丁寧なプロセスを踏んですでに決定している、国内で放出実績がある点やモニタリング等を確実かつ安定的に実施可能な点を評価して海洋放出が選ばれた、と回答しています。

しかし、原子力市民委員会が提案している、石油備蓄に使われている大型タンクでの長期安定保管やモルタル固化処分も実績がある点では同じではないでしょうか。また、国は「幅広い関係者のご意見等を丁寧に伺ってきた」わけではなく、国が選んだ「関係者」の意見を形式的にきく場をもうけただけです。国は海洋放出決定以降、公開の場の公聴会は開催していません。

大切なことがいろいろと先送りになっているのにもかかわらず、この審査書案も通されてしまうのでしょうか。

FoE Japanでは、審査書案に関するパブコメ・セミナーを開催中です。ぜひご参加ください。

第1回:6/6 19:00-20:00 (終了しました)
コメント:宇野朗子さん(福島から京都へ避難)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZAuc-mhrjwsGtWbyeb1oiHH5KdSiAMcZ9I7

第2回:6/11 11:00-12:00
コメント:阪上武さん(原子力規制を監視する市民の会)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZ0kfuGvrTwpHdK-Mnw5c6Yc86xVi52xjd_N

第3回:6/13 19:00-20:00
コメント:濱岡 豊さん(慶応義塾大学商学部教授)
お申込み>https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZAocumupjMiGdBoTMlDzdFaR6tIsH0EL0Z9


【2分でわかる!汚染水動画シリーズ】

1 汚染水って何? 何が含まれているの?

2トリチウムって何?

3 代替案は?

4 人々の声は?

東電による汚染水「放射線影響評価」から読み取れること、読み取れないこと~放出される64の放射性物質の総量は?

東京電力は福島第一原発の「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書」を公開し、国内外からの意見を募集しています(12月17日23:59まで)。

東電は放射性物質の海洋拡散シミュレーションを行い、3つのタンク群と、仮想のALPS 処理水の核種組成(炭素14、銀110m、カドミウム113mなど人への被ばく影響が大きい9つの核種を選定)の 4つのケースについて人への影響を評価し、「すべてのケースで一般公衆の線量限度および国内の原子力発電所に対する線量目標値のいずれも下回った」としています。また、海洋生物への影響評価も行い、問題のないレベルと結論づけています。

ところがこの「放射線影響評価」は問題だらけ。たとえば…

  • 放出は30年以上続くはずであるが、それについての記述がありません。
  • 海洋拡散シミュレーションをしているが、いつの時点での評価なのか、放出を開始して1年後なのか、10年後なのか、30年後なのか不明です。
  • 年間および 10km×10km の「平均濃度」により評価を行っています。季節ごと、また場所によって放射性物質の濃度が高い部分が生じたとしても、「平均」をとることによって薄めてしまうことになります。
  • 外部被ばくも、内部被ばくも、年単位での被ばく評価となっています。つまり、累積的な影響が評価されていないのです。

一方、この評価報告書から読み取れることもあります。
私が注目したのはp.50以降の、実際に64核種について測定を終えている3つのタンク群の水を、計画どおりトリチウムが年間22兆べくれる1年間放出し続けたとした場合の64核種の年間放出総量です(東電報告書p.50以降)。

たとえばK4タンク群の水を1年間流す場合の、いくつかの放射性物質の年間放出総量は

ストロンチウム90 2500万ベクレル
カドミウム113m 210万ベクレル
ヨウ素129 2億4,000万ベクレル
セシウム137 4,900万ベクレル
プルトニウム238 7万3000ベクレル
プルトニウム239 7万3000ベクレル
プルトニウム240 7万3000ベクレル
プルトニウム241 320万ベクレル

となります(トリチウムが年間22兆ベクレルになるように放出するという前提です)。告示濃度比総和1以下(つまり全体として規制基準以下)とはいえ、なにせ放出量が多いので、膨大です。いくら薄めても、総量は変わらないのです。つまり濃度でのみ規制をかけることの限界といえます。

プルトニウムに着目しましょう。同じくそれぞれのタンク群の水を、トリチウム年間22兆ベクレルとなるような放出を行うという前提です。

年間放出量(ベクレル)
K4タンク群 J1-C タンク群 J1-G タンク群
Pu-238 73,000 890,000 2,300,000
Pu-239 73,000 890,000 2,300,000
Pu-240 73,000 890,000 2,300,000
Pu-241 3,200,000 32,000,000 81,000,000

K4タンク群の水を1年間放出すると、プルトニウム238、239、240、241の合計で341万9,000ベクレル、J1-Cタンク群の水の場合、プルトニウム238、239、240、241の合計で3,467万ベクレル放出、J1-Gタンクの水の場合、年間8,790万ベクレル放出ということになります。

まだ、すべてのタンク群の核種ごとの濃度や容量が公開されていないため、不明なところがありますが、この3つのタンク群が特殊なものでない限り、このレベルの放出が30年以上続くことになります。

しかし、このような数字も、限定的なものに過ぎません。いままで東電は、放射性物質の濃度のみを公開してきており、放出の総量については示してきていませんでした。私たちは、いったい何が、どれくらい放出されるのかわからないままにいるのです。さらに、東電が測定・公開の対象としている64核種というのは、ALPSで処理の対象となっている62の放射性物質とトリチウム、ALPSの対象ではないがあとから存在することがわかった炭素14のみです。

技術者や研究者も含む、原子力市民委員会のメンバーが、パブコメを公開しています。

http://www.ccnejapan.com/wp-content/20211215CCNE.pdf

領域海洋モデルの再現性に関しての批判、有機トリチウムによる内部被ばくが過小評価されている件など、かなり具体的な指摘がならんでいます。
また、原子力市民委員会では、12月16日に開催したオンラインセミナーの「“東京電力「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書」の問題点”」の資料および録画をYouTubeにアップしています。(冒頭の私のところはイントロなので飛ばしてください)

ご参考にしていただければ幸いです。(満田夏花)

「処理水」?「汚染水」? どっち? そして、何をどれくらい放出するの?

FoE Japanの満田です。この記事を図でざっくりまとめるとこんな感じです。

もう少し詳しく解説します。

政府は、福島第一原発の敷地でタンク保管されている処理汚染水について、今年4月13日海洋放出を決定しました。

また、同日、経済産業省は「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水』のみを『ALPS処理水』と呼称する」という、少し不思議なプレスリリースを出しました。

さて、この水をめぐっては、政府は従来「ALPS処理水」と呼び、海洋放出に反対する人たちは「汚染水」と呼んでいます。まあ、処理しているのを強調したいのか、まだ汚染されているのを強調したいのかの違いでしょうか…。ただ、政府は、「汚染水」という報道を見かけると、結構しつこく、いや失礼、こまめに、「いや処理水です」と訂正に努めていたようです。

FoE Japanでは、間をとって、というわけではありませんが、「処理されているが放射性物質は残留している水」ということから、「処理汚染水」と呼んでいます。

ところが、タンクの水の7割において、どうしても取り除けないとされていたトリチウム以外の放射性物質について全体として基準を超えているのです。

この水は、事故で溶け落ちた燃料デブリを冷却する水と、建屋内に流入した水が混じった正真正銘のこ~い「汚染水」をALPS(多核種除去装置)など何段階にわたって処理しています(下図)。

残留しているのは、ヨウ素129、ルテニウム106、ストロンチウム90、セシウム137など…。ストロンチウム90というのは、骨にたまる怖い放射性物質。ヨウ素129は、半減期は1570万年で気が遠くなるほど長いのが特徴です。最近では炭素14なんてものが残留していることが明らかになりました。ここらへんの顛末は以下の記事もご覧ください。

ALPS処理水、ヨウ素129などトリチウム以外核種の残留~「説明・公聴会」の前提は崩れた | FoE Japan

東電は、トリチウム以外の放射性物質が基準内におさまるように、二次処理をする、としています。

さて、ここで問題です。

最初の政府による「処理水」の定義(「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水』のみを『ALPS処理水』と呼称する」)からすると、

いま現在、タンクにたまっている水はなんと呼べばよいのでしょうか?

実は、私も気になっていたこの点に関して、質問を出してくれた議員さんが…!

立憲民主党の阿部知子議員です。

そうしたら、回答が出ました。(答弁書といいます)

「政府としてその呼称を定めていない」。

ガクッ。

まあ、呼びたいように呼んでください、ということなのでしょうか。

ということで、私は、引き続き、「処理汚染水」と呼ぶことといたします。悪しからず…。

ちなみに、この質問主意書、もっと重要なことも聞いていますので、ご紹介します。

いまタンクに溜まっている水に含まれいている放射性物質の種類ごとの総量、および放出するであろう水に含まれる放射性物質の核種ごとの総量の推定値についてです。

つまり濃度ではなくて、どれくらいの量が含まれているの? もしくは、どれくらいの量を海に出しちゃうの? ということです。

これ、知りたかった! 実は、私も何度も何度も、東電や経産省に聞き続けてきたのです…。

で、その答えは…

「東電に公表を求める予定はない」

ガクッ。

濃度がわかっているんだからいいでしょ? ということ? でも総量が、総量が、重要なんです~。

おいおいおいおい。

何をどのくらい放出するつもりか、教えてくださいよ~。基本情報でしょ~。

ということで、質問主意書、答弁書のオリジナル、以下に貼り付けます。

阿部知子議員、ありがとうございました。 

(なお、この「水」をめぐっては、東電は、放出前に濃度を測定せず、計算だけで基準を満たしているか判断する方針であることが報じられています。こちらもまた、びっくりです。>東電、放出処理水の濃度測定せず 規制委で妥当性議論へ(2021年6月10日付東京新聞のサイトですが、共同通信の配信です。))

(満田夏花)

東京電力福島第一原子力発電所敷地内タンクの放射性物質の総量の公表に関する質問主意書

疑問だらけの東電・処理汚染水放出「素案」

3月24日、東電がALPS処理汚染水の放出に関する「素案」を発表した。
「一度に大量に放出せず、年間トリチウム放出量は、廃止措置に要する30~40年の期間を有効に活用する」とし、水蒸気放出・海洋放出のそれぞれのフローを示している。また、タンクの72%の水で基準超えしているトリチウム以外の放射性核種については、「二次処理を行う」としている。
この「素案」、以下のように数々の疑問が呈されているのにもかかわらず、経産省はこれをそのまま自らのウェブサイトに掲載し、現在行っている意見募集の基礎資料の一つとしている。

何が残留しているのか

東電によれば、トリチウムについては、タンク水に約860兆ベクレル残留している。(建屋の中には保守的に見て1,209兆ベクレル残留していると見積もっている。)
トリチウム以外に、セシウム137、134、ストロンチウム90、コバルト60、アンチモン125、ルテニウム106、ヨウ素129なども残留し、告示濃度比総和(注)の分布は以下の通り。

注)告示濃度比総和とは、それぞれの核種の濃度を告示濃度(排出濃度基準)で割ったものを足し合わせたもの。全体として排出基準の何倍になっているかを示す。排出する際は1を下回っていなければならない。

文書名東電への質問200423(解説付き).pdf

告示濃度比総和は、最大14442.15倍とのことだ(2018年10月1日付東電資料では約2万倍となっていた)。つまり、これらの核種で全体としてみたとき基準の最大14000倍以上となっているということを意味する。この数字は東電の説明資料からは省かれている。(ちなみに、2018年10月1日東電資料には書かれていた)

告示濃度比で最大なのはストロンチウム90。化学的性質がカルシウムに似ているので骨に蓄積することが知られている。

残留核種の総量は不明

問題なのは、東電はそれぞれの核種が、総量でどのくらい残留しているのか示していないことだ。タンクごとに核種濃度がわかれば、簡単に計算できるはずなのに、それをしない理由は何なのか。放出する水がどのようなものであるのかは、もっとも重要な情報である。

二次処理するからいいじゃないかということなのかもしれない。しかしそれでは、二次処理後はどの程度の量になるのか。二次処理した上で、その総量を示すべきだと思うのだが、それすら明言していない。

また、少なくとも二次処理せず放出する28%の水については、含まれている放射性核種、その総量、その他の汚染物質について開示すべきではないか。
また、排出する水の総量も不明である。もちろん、トリチウムの排出量、濃度をどうとるかによって変わってくるが、いくつかの代表的なケースごとに示すべきではないか。

「二次処理」の性能試験は?

それでは、「二次処理」によってどのくらい放射性物質を除去できるのか。
東電は、「素案」の中で、「2020年度、高濃度のもの(告示濃度限度比100倍以上)を約2,000m3程度処理し、二次処理の性能を確認する」としている。

リスク管理という観点からは、高濃度の水を優先的に二次処理することは理解できる。
しかし、目的が「二次処理の性能を確認」するためであれば、より低濃度の水も含め、1~100倍のものも含め、処理対象のそれぞれの濃度のバンドから抽出し、二次処理の性能を確認するべきではないか。

問題の多い海洋拡散シミュレーション

東電の「素案」には、海洋放出した際の拡散シミュレーションについても記載されている。

東電処理水200324_ページ_21

東電によれば、「2014年の実気象に対して、放出量を仮定して連続的に放出した場合のシミュレーション結果を一例として提示したもの」とのことである。
年間放出量ごとにトリチウム1ベクレル/ℓ以上となる海域が示されている。

しかし、このシミュレーションには数々の疑問が呈されている。

まず、影響範囲を1Bq/ℓ以上としている理由が不明だ。東電の「素案」p.22の図によれば、原発近傍ですら、核実験や原発事故の影響を受けていない期間の海水の濃度は0.5Bq/ℓ程度にみえる。影響範囲というのであれば、もう少しきめ細かく、0.5Bq/ℓ以上から何段階かに分けて示すべきではないだろうか。

東電処理水200324_ページ_23

また、鉛直方向にも30層にわけてシミュレーションを行ったとのことだが、示されているのは一番上の層だけ。「鉛直方向には均一に分布」しているとして、この30層のシミュレーションは開示していない。しかし、いくら何でも「鉛直方向に均一に分布」というのは不自然ではないだろうか。

原子力市民委員会委員、大沼淳一氏(元愛知県環境調査センター主任研究員)は以下のように指摘している。

「そもそも拡散シミュレーションをする場合には、初期条件と環境条件を明らかにしてからしか作業することが出来ないが、それが明らかにされていない。日間、月間、年間を含めた干満、沿岸流、海底地形、流入河川水、年によって変動する黒潮の蛇行などである。放出される汚染水の水量、放出速度、放流水深、放流口の形状、水温、密度なども必須の入力項目である。シミュレーション結果は、これらの変数を変化させて、そのケース毎に拡散図が示されるべきである」

「素案では、解像度が水平方向は1㎞メッシュ、鉛直方向は水深に対して30層(深さ1㎞まで)とされている。すなわち1km四方で深さ「水深/30」mの箱(水深30mなら100万立米、1000mなら3000万立米)を積み上げて計算していることになるが、いかにも箱が大きすぎる。最初の箱に汚染水を放出して均等にかき回される保証はどこにもない。汚染水の放出速度にもよるが、せめて10mx10m(30層)の箱を積み上げるべきである」

つまり前提条件が不明確な上に、おおざっぱすぎる、ということだ。

ちなみに、「何年間放出すると仮定したのか」という質問に対して、東電は、「1年間の連続放出をした場合、例えば、22 兆ベクレルを一定の放出率で1年間継続して放出する場合、開始から1年以内に放出と拡散とのバランスがとれて、その後は、任意の点における濃度が準定常状態(濃度がある一定の変動範囲内に収まること)となります。従いまして、「何年間」という仮定はしておりません。」と回答している。

前述の大沼氏は、以下のように指摘する。

「素案で示したのは、長期間放出を続けて、準定常状態になった時の汚染分布図」だと回答している。コンピューター上で、数百回(1年間なら約700潮汐)の潮汐を繰り返させた結果であろう。漁民や市民が懸念しているのは、こうした平均値ではない。1日に2回起きる潮汐でも大きさが異なる。大潮と小潮では干満差が全く違う。黒潮の蛇行も季節変化や年変化が大きい。風の影響、降水量の影響なども大きく、沿岸流の方向は逆転することも頻繁に起きている。こうした環境要因の変動ごとに、放出される汚染水塊がどのように拡散するかが知りたいのである。」

東電によれば、このシミュレーションは、電力中央研究所が実施し、米国Rudgers 大学により開発された領域海洋モデル「ROMS:Regional Ocean Modeling System」に、トレーサー計算できるように改良を加えたプログラムを利用しているとのことである。また、シミュレーションの適用にあたっては、Cs-137 の実測データによりモデルの検証を行っているということだ。>参考文献

その他、モニタリングなどに関しても数々の疑問があるが、それらはまた後日述べたい。

(満田夏花)

※FoE Japanでは、「原発ゼロの会」のご協力をえて、東電の「素案」に関して、現在までに3回東電に対して質問書を提出しています。質問への回答は以下をご参照ください。(すべてPDF)

東電回答(2020年4月1日)
東電回答(2020年4月8日)
東電回答(2020年4月29日)

「よりよい海を取り戻したい。海洋放出は反対」…福島の漁業者が訴え

福島第一原発のサイトでタンク内にためられているALPS処理汚染水--。
政府小委員会は、「水蒸気放出」「海洋放出」が現実的とし、「海洋放出」の方が利点が大きいとする報告書をだしました。
FoE Japanでは、2020年3月、小名浜や新地町の漁業者のインタビューを行いましたが、より多くの人たちに漁業者の直接の声をきいていただきたいということで、小名浜から底曳網漁協の理事である柳内さんをお迎えし、永田町の議員会館で、経済産業省・東電・国会議員がいる前で「お話しをきく会」を開催しました。新型コロナの影響を考慮し、一般の方々には、オンラインで参加していただきました。
柳内さんは処理汚染水を海に流すことは、福島の漁業に大きな打撃を与えるとして、放出反対の意見を述べました。

柳内さん(議員会館にて)
(議員会館にて、福島の漁業の状況や処理汚染水を放出に関する懸念を述べる柳内さん)

以下、柳内さんのお話の概要です。>録画映像はこちらから。

・現在、ほとんどの魚種が出荷制限解除になっているが、なかなか震災前の水揚げが回復していない
・ALPS小委員会の報告書が、海洋放出を推奨しているともとれる内容でたいへん危惧している
たとえ浄化して海洋放出が実施されたとしても水産業にとって大きな打撃となる。海外の輸出禁止措置の解除もむずかしくなる
・漁業の先が見通せず、投資意欲も減退している
・投資をしたとしても売り上げが回復しなければ借金のみが残ってしまう
事故前のトリチウムの放出量は年間2.2兆ベクレル、これが東電の「素案」では少なくとも年間22兆ベクレルのトリチウムが、数十年かけて放出されてしまう
・(2018年の)公聴会でいろいろな人が意見を述べたが、多くの人が陸上での保管継続をすべきと発言。しかし、それができないと。できない理由として(敷地外に持ち出すことについて)法律がネックになっているということであったが、たとえば中間貯蔵施設についても新たな法律をつくって対応していた。今回の水の件も同様に対応できるはず。
・事故前の漁業に戻すには、競争力を取り戻さなければならない。福島の海をよりよい海にしていく必要がある。さもないと私たちは復興できない。

また、今回、経済産業省が、「地元をはじめ、幅広い関係者の意見をきく」としていることについては、以下のように指摘。

「関係者の意見をきく、というが、すでに公聴会のときに(海洋放出反対の)意見は言っている。意見をきいて、それをどう反映するかが問題だ」

柳内さんのお話のあと、東電・経済産業省との質疑を行いました。

東電が発表している処理汚染水の「処分素案」に関して、東電は以下のように説明。

・年間の放出量が事故前の福島第一原発の管理目標値22兆ベクレルであるとすると、放出完了までに20~30年かかる。
・排出する水の総量(m3/日)は示すことができない。
・現在、タンクにたまっている水には、トリチウム以外に、セシウム-137、セシウム-134、ストロンチウム-90、コバルト-60、アンチモン-125、ルテニウム-106、ヨウ素-129などの放射性核種が残留している。
・トリチウム以外の核種の告示濃度比総和(各核種の濃度を、その核種の排出濃度基準で割り足し合わせたもの)の最高値は14442.15倍となっている(2018年10月の発表資料では約2万倍)。この中でもっとも告示濃度比総和が高いものはストロンチウム90

東電は、タンク水の二次処理を行い、トリチウム以外の放射性物質の濃度を基準以下に下げると言っていますが、どの程度下げられるのか、残留する放射性核種や微生物などはどの程度になるのかについては、示していません。

東電処理水200324_ページ_10

(東電、3月24日発表のALPS処理水処分素案 p.9)

また、東電が3月24日に公開した、仮に海洋放出を行った場合の拡散シミュレーションについても議論となりました。

東電処理水200324_ページ_21

(東電、3月24日発表のALPS処理水処分素案 p.20)

このシミュレーション、いろいろと問題が多いと思いますが、最も問題なのは放出の前提が示されていないことでしょう。
季節、干潮時・満潮時、水温、水量などが示されていません。

また、東電は、1Bq/L以上の部分を示していますが、なぜ1Bq/Lなのでしょうか。
東電が発表している以下のグラフを見る限り、福島第一原発近くにおいても、核実験や原発事故の影響を受けていない時期の値は0.5Bq/L程度に見えます。

東電処理水200324_ページ_23

(東電、3月24日発表のALPS処理水処分素案 p.23)

さらに、水深ごとの鉛直方向の結果を出してほしいと言っても、「表層から放出されたトリチウムは、海洋の混合の影響によって、鉛直方向に均一に分布する」という回答でした。

「ALPS(多核種除去設備)で処理されたがトリチウムなど放射性物質を含む水」(以下、ALPS処理汚染水)について、現在、経済産業省が一般からの意見を募集しています(5月15日まで)。

多くのみなさまにパブコメを書いていただくことを目的として、以下のオンラインでのパブコメセミナーを開催します。ぜひご参加ください。

〇第1回 ALPS処理汚染水パブコメ・セミナー:4月17日(金)12:00~13:30
(講師:満田夏花/FoE Japan)
〇第2回 ALPS処理汚染水パブコメ・セミナー:4月26日(日)14:00~15:30
〇第3回 ALPS処理汚染水パブコメ・セミナー:5月 2日(土)14:00~15:30
内容:ALPS処理汚染水を議論のポイント
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ご参加の方は以下からお申込みください。
https://pro.form-mailer.jp/fms/27c1d91b193245
お申込者に後ほど、メールにて、オンラインでの会議システムzoomの使い方と
参加可能なリンクをお送りします。

▼以下ご一読ください。
【ALPS処理汚染水、大気・海洋放出で本当にいいの? パブコメを出そう!(〆切5月15日)】
http://www.foejapan.org/energy/fukushima/200407.html

★東電福島第一原発で増え続ける、放射能を含んだ「処理水」Q&A
Q:そもそも「処理水」って何?
Q:「処理水」には何が含まれているの?
Q:トリチウムは安全?
Q:海洋放出しか現実的な手段はないの?
Q:敷地は本当に足りないの?
Q:漁業者は何と言っているの? など

http://www.foejapan.org/energy/fukushima/200324.html
http://www.foejapan.org/energy/fukushima/200324.html

置き去りとなったALPS処理汚染水長期陸上保管の選択肢

東京電力福島第一原発で増え続けるALPS処理汚染水について、経産省のもとに設置された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(ALPS小委員会)は、昨年12月23日、「海洋放出」、「水蒸気放出」、そしてその組み合わせという3つの案に絞り込んだ「とりまとめ案」を発表した。しかし、これらはいずれも放射性物質の環境中の拡散を許すものとなっている。大型タンク貯留案やモルタル固化案などの陸上長期保管の代替案は無視されてしまった。

ALPS処理汚染水は、2019年10月段階で約116万m3、タンク数は960基にのぼる。トリチウムの総量でいえば推定856兆ベクレル(注1)。タンクにためられている水のうち約8割で、トリチウム以外の62の放射線核種の告示比総和が1を超えている(告示比総和とは各核種濃度の告示濃度限度に対する割合を足し合わせたもの。排出基準として1未満でなければならない)。ヨウ素129やストロンチウム90などだ。東電は海洋放出する場合は二次処理を行い、基準以下にするとしている。

汚染水に関しては、更田原子力規制委員会委員長が「希釈して海洋放出が現実的な唯一の選択肢」と繰り返し発言。原田前環境大臣も記者会見で「海洋放出しかない」と発言し、大きく報道された。しかし、十分現実的な陸上保管案が提案されているのにもかかわらず、それについてはほとんど検討されていないし、報道もされていない。

実質的な議論がなされなかった大型タンク保管案

陸上保管案については、大型プラントの技術者も参加する民間のシンクタンク「原子力市民委員会」の技術部会が、「大型タンク貯留案」、「モルタル固化案」を提案し、経済産業省に提出している(注2)。

大型タンク貯留案については、ドーム型屋根、水封ベント付きの10万m3の大型タンクを建設する案だ。建設場所としては、7・8号機予定地、土捨場、敷地後背地等から、地元の了解を得て選択することを提案。800m×800mの敷地に20基のタンクを建設し、既存タンク敷地も順次大型に置き換えることで、今後、新たに発生する汚染水約48年分の貯留が可能になる。

2018年8月、ALPS小委員会事務局が実施した公聴会では、漁業関係者も含めた多くの参加者が海洋放出に反対し、「陸上長期保管を行うべき」という意見が表明された。これを受けて山本 一良委員長は、「一つのオプションとして検討する」と約束。

しかし、陸上保管がようやく俎上に上がったのは、一年近くたった2019年8月9日の第13回委員会でのことだった。第13回の会合で東電が大型タンク貯留に関して、「検討したが、デメリットが大きい」という趣旨の説明を行ったのみだ。これに対する質疑や議論は行われていない。

東電がデメリットとして挙げたのは、「敷地利用効率は標準タンクと大差ない」「雨水混入の可能性がある」「破損した場合の漏えい量大」といった点であった。大型タンクは、石油備蓄などに使われており、多くの実績をもつことは周知の事実だ。また、ドーム型を採用すれば、 雨水混入の心配はない。さらに、原子力市民委員会による大型タンクの提案には、防液堤の設置も含まれている。ALPS小委員会は、東電の一方的な説明のみを受け入れるべきではない。

「モルタル固化案」はまったく無視

原子力市民委員会が提案する「モルタル固化案」は、アメリカのサバンナリバー核施設の汚染水処分でも用いられた手法で、汚染水をセメントと砂でモルタル化し、半地下の状態で保管するというもの。

「利点としては、固化することにより、放射性物質の海洋流出リスクを遮断できることです。ただし、セメントや砂を混ぜるため、容積効率は約4分の1となります。それが欠点といえるでしょう。それでも800m×800mの敷地があれば、今後、約18年分の汚染水をモルタル化して保管できます」。同案のとりまとめ作業を行った原子力市民委員会の川井康郎氏(元プラント技術者)はこう説明する。

事務局は、「実績がない」として片付けようとしているが、サバンナリバー核施設での実績をもちだすまでもなく、原発の運転時に発生する低レベル廃棄物についても、その多くがモルタル固化され、トレンチあるいはビット処理を行っている。きわめてシンプルな手法であり、現実的だ。「実績がない」として片付けることは理屈にあわない。

敷地は本当に足りないのか

敷地をめぐる議論も、中途半端なままだ。

東電が示した敷地利用計画は、使用済核燃料や燃料デブリの一時保管施設、資機材保管に加え、モックアップ施設、研究施設など、本当に敷地内に必要なのかよくわからないものも含まれている(注3)。さらに、使用済み核燃料取り出しの計画はつい最近最大5年程度先送りすることが発表されたばかり。デブリの取り出しについても、処分方法も決まっていない。そもそもデブリの取り出し自体を抜本的に見直すべきではないか。

委員からは、「福島第一原発の敷地の利用状況をみると、現在あるタンク容量と同程度のタンクを土捨て場となっている敷地の北側に設置できるのではないか」「敷地が足りないのであれば、福島第一原発の敷地を拡張すればよいのではないか」などといった意見がだされた。

敷地の北側の土捨て場にもし大型タンクを設置することができれば、今後、約48年分の水をためることができると試算されている。

委員から再三にわたり、「土捨て場の土を外に運びだすことができないのか」という質問がなされたが、原子力規制庁は、「外に出す基準について検討が必要」という趣旨のあいまいな回答にとどまっている。

土捨て場にためられている土について、東電は「数Bq/kg~数千Bq/kg」と説明しており(注4)、これが正しければ敷地から動かせないレベルの土ではない。

敷地拡大の可能性については、事務局は「福島第一原発の外側である中間貯蔵施設予定地は、地元への説明を行い、福島復興のために受け入れていただいており、他の用途で使用することは難しい」としている(注5)。もちろん、地元への説明・理解は不可欠であるが、その努力をまったくせずに、「敷地拡大は困難」という結論を出すことは時期尚早だろう。

問題が多い小委員会「取りまとめ案」

 昨年12月に発表されたALPS小委員会の「取りまとめ案」は小委員会の議論を反映したものではなく、事務局や東電の誘導により「海洋放出」、「水蒸気放出」、そしてその組み合わせという結論を導き出したように思える。

 前述の大型タンクをめぐっては、東電の説明をそのままなぞるだけの文面となっている。

土捨て場の土壌の運びだしに関しては、「敷地内土壌が汚染されている実態が明らかになっていないこと、敷地内の土壌の搬出先、保管方法等についての具体化がなされていないこと、敷地内土壌の最終的な処分方法が決まっていないことから、敷地外へ土壌を持ち出すことは困難であるとの結論に至った」など、小委員会で議論されていないことも含めて、決めつけている(注5)。

 にもかかわらず、小委員会の委員が明確な異論を示さない限り、この事務局主導の「取りまとめ案」が委員会の意思として固まってしまうだろう。

 ALPS小委員会での議論はそろそろ大詰めだ。近日中に小委員会が開催され、「取りまとめ」が確定するだろう。そして、地元の理解を得たことにする何らかのプロセスがはじまると思われる。

 しかし、地元の漁業者は「放出ありき」の議論に、早くも反発を強めている。

 ALPS小委員会は、陸上保管案を真剣に検討し直し、地元も含めた幅広い市民の意見をきくべきだろう。

注1) 2019年11⽉18⽇東電発表資料
注2)原子力市民委員会「ALPS 処理水取扱いへの見解」2019年10月3日
注3) 第14回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 資料3
注4) 第15回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会における東電発言
注5)第16回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 資料4

福島第一 増設ALPS(多核種除去装置)でヨウ素129の基準超え60回以上 除去水処分の説明・公聴会の前提は崩れた

トリチウムしか残留していないはずが…

経済産業省は、東電福島第一原発における多核種除去装置(いわゆるALPS)処理水の処分に関する説明・公聴会を8月30日、31日に富岡、郡山、東京で開催しようとしています。経産省は、処理水はトリチウム以外の放射性物質はほとんど除去されていること、トリチウムは弱い放射線しか出さず、自然界にも存在し、生物濃縮はせず、世界中の原発から排出されているとして、海中放出を行おうとし、原子力規制委員会もこれを後おししています。(ちなみにタンクにたまっているトリチウムの量は約1,000兆ベクレルです。)

ところが、このところ、ALPS処理水にヨウ素129、ストロンチウム90が告知濃度限度(基準値)を超えて残留していたことが明らかになりました。

経済産業省のトリチウム・タスクフォースや多核種除去設備等処理水の小委員会では、トリチウムしか残留していない前提で検討が行われており、他の核種については検討が行われていません。

東電の公表データによれば、ヨウ素129については既設ALPS以外に増設ALPSで、告示濃度を超える値が2017年4月~2018年7月まで60回以上計測されており、出口A~Cでまんべんなく見られます。最高は2017年9月18日の62.2Bq/Lでした(下図)。つまり、何かのはずみに1回高い値がでたのではなく、慢性的に発生しているのです。

増設ALPS出口グラフ

出典:東電公表データ(福島第一原子力発電所における日々の放射性物質の分析結果、「増設多核種」)より作成

ストロンチウム90に関しては、増設ALPSでは2017年11月30日に141Bq/Lと告示濃度(30Bq/L)を超えていました(出口C)。

8月22日の会見で、原子力規制委員会・更田委員長は「2015年くらいに告示濃度を超えるものがあると東電から報告があった」「告示濃度超えがあったのは、古い(既設)ALPSの出口Cでしょう」などと発言しています。更田委員長はかねてより、ALPS除去水に関しては、「海洋放出以外の選択肢はない」とし、今回のヨウ素129などについても、「薄めて告示濃度以下にすれば放出をとどめることはできない」という趣旨の発言をしています。

2015年に東電が告示濃度を超えたと報告し、その対策は取られていたはずです。しかし、2017年4月から現在にいたるまでヨウ素129が60回以上も告知濃度を超えているのはなぜなのでしょうか? 原子力規制委員会や、経済産業省は、こうした状況を把握していたのでしょうか。原子力規制委員長の発言をみる限り、正確に認識していたとは思えません。

ヨウ素129は、半減期1,570万年。特に海藻に濃縮・蓄積される。体内にとりこまれるとほぼすべて甲状腺に集まり、とりわけ胎児や乳幼児への影響が懸念されます。「薄めて出せばよい」とは思えません。なお、放射性ヨウ素については、「美浜の会」の以下の資料が、生物の進化の過程とヨウ素について、また放射性ヨウ素の危険性についてわかりやすく解説しておりたいへん興味深いです。>こちら

海洋放出以外にも有力な代替案がある

ちなみに、研究者・技術者・NGOなどが参加する「原子力市民委員会」は、トリチウムのリスクに関して諸説ある中で海洋放出を強行するのではなく、恒久的なタンクの中に保管することを提案しています。>詳しくはこちら

国家石油備蓄基地で使用している10万トン級の大型タンクを10基建設して、その中に100年以上備蓄する案です。トリチウムの半減期は12.3年。100年で減衰により、トリチウムの量が現在の約1000分の1に減少します。大型タンクでの貯留は、すでに十分実績のある手法であること、現在の1,000トン容量のタンクに比して面積効率がはるかに高いという利点があります。十分現実的な提案なのではないでしょうか。タンクの設置場所については、福島第一原発の敷地内にこだわらず、その周辺またはその他の東電所有地も考えられます。このような地上における保管案が十分に検討されているとは思えません。

また、予定されている説明・公聴会も、海洋など環境中への放出前提のものになっており、こうした代替案については、提示されていません。

いずれにしても説明・公聴会の前提はくずれました。経済産業省は、改めて検討をやりなおすべきでしょう。

(満田夏花)