【横須賀石炭訴訟報告 vol.15】判決、原告の訴えは「却下」

1月27日、横須賀石炭火力訴訟の判決が言い渡されました。
14時過ぎに開廷、裁判長からの判決言い渡しはわずか30秒ほどで終了、「却下する」とのことでした。60名近くの人が集まりましたが、「判決文の通り」として理由さえ話されず、あまりにあっという間でした。

弁護団、原告団は15時すぎ「市民にCO2争う権利認めず」「世界の流れに逆行する不当判決」とする旗を出しました。


判決文は、こちらにアップされます。
横須賀石炭訴訟ウェブサイトはこちら https://yokosukaclimatecase.jp/


過去の横須賀石炭訴訟に関するブログ記事はこちら

COP27終盤を迎えて – FoEインターナショナル記者会見

COP27の閉幕予定日である18日を迎えました。

FoEインターナショナルは閉幕に先立ち、記者会見を行いました。

記者会見の様子についてお伝えします。(注:登壇者のコメントは抜粋です)

録画を見る:https://unfccc.int/event/friends-of-the-earth-international-closing-analysis-from-experts-and-activists

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最終日前日である17日夜、最後の全体会議が始まり、いくつかの議題を採択して中断しました。議論が終わっていない6条(国際市場メカニズム)や資金等の議題は今も継続して議論されています。18日に閉幕予定ですが、会議はこのまま週末にも継続される見通しです。

気候危機打開のためには、すでに気候危機の影響に苦しむ途上国に対し、先進国が歴史的責任に鑑み、削減目標や支援を強化していく必要があります。

Meena Raman(FoEマレーシア/ Third World Network)は「途上国が最も重視している成果は、COP27で損失と被害(Loss & Damage/ロスダメ)のための資金ファシリティを立ち上げることです。現状のドラフトでは、COP27でファシリティを立ち上げ細かい議論は今後行うというオプション、今後ファシリティを立ち上げることを決定するというオプション、そしてロスダメ資金ファシリティについては何も決定しないというオプションが示されています。最初のオプションですら、資金についてなんの見通しもないことから不十分と言えますが、しかし最初の一歩とは言えます。しかしアメリカを筆頭に先進国が交渉の進展を妨害しています」とコメント。

また「先進国は共通だが差異ある責任を認めようとしていません。パリ協定にすでに明記されている原則です。中国を言い訳に行動しようとしていません。」

Karen Orenstein(FoE US)はアメリカの役割に触れ「アメリカはUNFCCCの交渉で、これまでもフェアプレイヤーではありませんでしたが、今回は特に悪いと同僚が話していました。米国はロスダメ資金に資金を供給できないだろうから設置に反対しているようですが、だからといって他の国が設置しようとしていることを止める必要はありません。ケリーは1.5℃を守ると言っていますが、アメリカこそ気候危機の原因です。LNG輸出国としてトップで、昨日も新たなLNG事業開発に許可を与えました。」とコメントしました。

Soumya Dutta(FoEインド)は、国際炭素メカニズムによりインドで生じている問題について取り合げ「パリ協定成立以降、そしてグラスゴー以降、危険な炭素除去やジオエンジニアリングや自然に基づくオフセットなどが話し合われています。インドでは200以上の炭素市場事業がCDMを通じて行われています。炭素市場事業により先住民族が伝統的に利用してきた森から追い出されています。石炭事業を行う企業が実施する巨大なソーラー事業により、水源が影響をうけ、牧畜を営んできた人々に水が行き渡らなくなりました。過去10年近く炭素市場を見てきましたが、売り手側も買い手側も排出を削減できていません。炭素市場はまったくの詐欺です。」と炭素市場を批判しました。

最後に、Tatiana Roa(FoEコロンビア/CENSAT Agua Viva) は「ラテンアメリカの国々も他の地域と同じく、大きな影響を受けています。気候危機の悪化により、農業や生計手段、食糧安全保障への影響が懸念されます。気候危機の影響を受ける人々が増えているのに、危機に責任のある国は、真の解決策に資金をあてず、化石燃料産業への支援を続けています。真の解決策は、炭素を地中から掘りださないことです。」

昨年のCOPでは、石炭火力のフェーズダウンや化石燃料補助金の廃止などが盛り込まれました。交渉では、決定文書に「すべての化石燃料の廃止」を盛り込むのかどうかなどについて、議論が続いています。

化石燃料からの公正で、迅速なジャスト・トランジションを

11月15日は「エネルギー・デー」ということで、エネルギーに関連するアクションやサイドイベントが多数行われ、化石燃料のフェーズアウト(段階的廃止)を求める市民社会の声が会場内で響き渡りました。

交渉でも、先週の議長国コンサルテーションの場で、昨年に引き続きインド政府が「全ての化石燃料の公正な縮小(equitable phase down of all fossil fuel )」を求めました。

また今週の議長国コンサルテーションでは、ツバルが化石燃料生産の拡大停止や化石燃料補助金の廃止に言及。公正な移行の必要性を訴えました。

石炭火力の廃止だけでなく、全ての化石燃料の削減を求める文言を決定文書に残すよう市民社会から強い声が上がっています。

昨年のCOPでは、決定文書にCOPの歴史上初めて、石炭と化石燃料補助金に関する言及が盛り込まれ注目されましたが、温室効果ガスの排出のほとんどが化石燃料由来であること、そして化石燃料事業に頼り続けることよって、開発現場では水質汚染や環境破壊、人権侵害、土地収奪などの問題が起きていること、そして化石燃料中心の社会が先進国や大企業に利益をもたらし続け、不平等な社会構造の維持に繋がっていること…そういった側面を考えると、一刻も早く全ての化石燃料のフェーズアウトが不可欠です。

化石燃料のフェーズアウトのためには、公正な移行計画が不可欠です。

公正なエネルギー移行に関しては、G7諸国などを中心にJETP(ジャスト・エネルギー・トランジション・パートナーシップ)という途上国向けエネルギー移行支援が行われていますが、透明性の欠如やさらなる債務の拡大など重大な問題点が潜んでいます。

インドネシアで開催されているG20では、11月15日、米国と日本が主導するインドネシアとのJETPについても発表がなされました。しかし、詳細はまだ明らかではなく、今後6ヶ月かけて内容を詰めていくといいます。市民社会からは透明性に欠け、実効性や社会影響などを懸念する声があげられています。

また11月14日、アジア開発銀行(ADB)、インドネシア政府、丸紅が出資する事業者が、ADBの主導するエネルギー移行メカニズム(ETM)の下で、チレボン石炭火力発電所1号機の早期閉鎖を進めることを発表しました。

チレボン1号機が早期閉鎖される方向であることは歓迎されるものの、ETMの下で、バイオマスやアンモニア、水素との混焼など、代替電源を用いて発電所が「再利用」される可能性もあります。また今回の合意では、チレボン1号機において10~15年の早期閉鎖が計画されているようですが、これまで地域社会が被ってきた大気汚染や生計手段への影響についても考慮すれば、チレボン1号機の一刻も早い早期閉鎖と環境修復が必要不可欠です。

さらに、チレボン1号機の事業者(出資者は、丸紅(32.5%)、韓国中部発電(27.5%)、Samtan(20%)、Indika Energy(20%))は早期閉鎖に向けて補償措置を受けることになるため、民間企業がとるべき座礁資産に対する責任を公的資金で補填することによるモラル・ハザードも懸念されます。こうしたメカニズムは、現在も石炭セクターへの投融資を継続している民間企業に対し、将来的に座礁資産に対する責任を逃れる、あるいは回避することが可能であるという誤ったメッセージを送るだけです。

一方、英国のパビリオンでは、昨年のCOPで発表された「クリーンエネルギーへの移行の公的支援に関するグラスゴー声明」(グラスゴー声明)の一周年を記念するイベントが開かれました。

これは、クリーンエネルギーへの公的支援を優先し、2022年末までに新規の化石燃料事業への公的支援を停止することを含んだ声明で 、日本以外のG7諸国が署名していることでも注目されました。

今日のイベントでは、新たにネパールが署名国として加わり(グアテマラも署名予定)、署名国・団体が41に増えました。署名団体のいくつかは、化石燃料に対する公的支援の制限を始めていますが、いくつかの国は、未だ新たな方針を掲げていなかったり、制限を設けても大きな抜け穴を残している国もあります。今後も声明に示された内容が確実に実行されているのか市民社会がウォッチする必要がありますし、署名していない日本政府に対しては、直ちに署名し、公的支援を停止するよう呼びかける必要があります。

(深草亜悠美)

気候資金と化石燃料ファイナンス – 日本は最大の化石燃料事業支援国

11/9は、議長国エジプトが「ファイナンス」をテーマとして設定しています。この「ファイナンスの日」に合わせ、会場内で「ファイナンス」に関するアクションが多数行われました。

気候危機が深刻になる中、先進国による途上国への資金支援は不足しています。

これまでも途上国から、すでに生じている変化に適応するための資金や、損失と被害(ロスダメ)に対応するための資金の拠出が強く求められていました。

先進国は2020年までに年間1000億ドル の気候資金を拠出する約束でしたが、それすら達成されておらず、気候危機の被害が拡大する中で資金不足は深刻です。そもそも途上国がNDC(国別気候変動目標)を達成するためには、2030年までに5兆米ドル必要だと試算されており、対策の実行には先進国が資金支援の義務を果たすことが必須です。

また、緑の気候基金(GCF)は緩和・適応事業への資金支援を行う重要な基金ですが、資金が底をついており、この状況も深刻です。また、損失と被害に対する資金拠出の道を開くことが途上国にとって重要です。

一方、先進国がいまだに多くの公的資金を化石燃料事業に費やしていることが問題です。

昨日発表された米国のNGOオイル・チェンジ・インターナショナルのブリーフィングは、日本が石油、ガス、石炭事業に対する世界最大の公的支援国であることを明らかにしました。

日本は2019年から 2021年の間に年間平均106億米ドルを拠出し、ガス事業に対してだけでも年間平均67億米ドルを拠出し、これは世界最大です。

日本の官民はアジア諸国において、多くのLNG事業に関与していますが、今回のCOPが開催されているこのアフリカ地域でも多くの資金を拠出しています。

日本のガスに関する資金の最大の受入国はモザンビークとロシアでした。2019年から2021年にかけて、日本はモザンビークと82億ドルの融資契約を結んでいますが、資金の99.5%は国内消費やエネルギーへのアクセスではなく、採掘と輸出に関連した施設に費やされています。

アフリカ大陸は、世界で一番温室効果ガス排出の少ない地域です。世界の排出のうち、たった3~4%しか排出していません。それにもかかわらず気候変動による大きな影響を受けています。

FoEインターナショナルの国際プログラムコーディネーターでモザンビーク在住のDipti Bhatnagarは「世界最大級のガス埋蔵地がモザンビーク北部で見つかり、豊かな国がそれを採掘しようとしている。海の資源や大地に依存して生きている地元のコミュニティからそれらを奪おうとしており、すでにガス開発によって100万人もの難民が発生している。2020年に日本を訪れ、モザンビークでガス開発をしないでほしいと申し入れた。しかしその後、日本政府は事業への融資を決定した。」とスピーチ。日本に対し、そしてその他の先進国や企業に対し、「アフリカを燃やすな(Don’t let Africa Burn)」と訴えました。

また、日本の官民によるガス開発が進むフィリピンから参加したKrishna Ariola(Center for Energy, Ecology and Development)は「気候危機に責任がある国々が、さらに多くの化石燃料を燃やそうとしている。フィリピンや他の東南アジア諸国は、まだ石炭から脱却する途上にあるのに、人々や環境を犠牲にしてガス依存の状況に陥りつつある。海のアマゾンと言われるヴェルデ島海峡で、巨大なガス開発が進んでおり、生物多様性も破壊されようとしている。今すぐ、融資国は化石燃料への公的支援を止めるべきだ」とコメントしました。

日本政府は化石燃料事業への公的支援を直ちにやめ、持続可能で地域のニーズに基づいた支援を行うべきです。

出典:http://priceofoil.org/content/uploads/2022/11/Japans-Dirty-Secret-JPN.pdf

写真(全て):Bianka Csenki, Artivist Network

(深草亜悠美)

COP27開幕 – FoEインターナショナル記者会見

記者会見を視聴する:https://unfccc.int/event/friends-of-the-earth-international-expectations-and-demands-for-climate-justice

FOEIのブリーフィングペーパーはこちら(英語)

FoEIのプレスリリース(11/4)はこちら(英語)

11月6日、エジプトのシャルム・エル・シェイクでCOP27が開幕しました。

開幕当日、FoEインターナショナルは現地で記者会見を行いました。

FoEイングランド・ウェールズ・北アイルランドのRachel Kennerleyは、気候正義の重要性に触れ、「先進国は十分に責任を果たしていません。前議長国の英国は今でも新たな炭鉱の開発や石油・ガス開発を続けています」とコメント。エジプトの人権状況にも触れ、「市民社会スペースなしに気候正義はありえません。ここエジプト、そしてモザンビーク、インド、ベトナム、世界各地で市民社会に危機が訪れています。市民社会のスペースを取り戻すためにたたかい続けます。」とコメントしました。

エジプトと同じくアラブの国であるパレスチナのFoE・PENGONのメンバーAbeer Butmerは「私たちはアラブアフリカ地域のエジプトにいます。エジプトは水ストレスの深刻な国です。適応支援がなければ、気候変動により農業等に大きな影響がでます。私はパレスチナから参加していますが、私たちはイスラエルの占領下で生活しており、気候危機に対する活動ができない状況にあります。抑圧を解体しなくてはいけません。」と付け加えました。

2016年にモロッコ・マラケシュでCOPが開かれて以来のアフリカでの開催です。アフリカの多くの場所で、土地収奪や汚染、人権侵害、そして気候危機により人々が被害を受けています。日本の官民が関わるモザンビークLNG事業や東アジア原油パイプラインなどもその例に含まれます。

FoEアフリカでナイジェリア出身のウブレイ・ジョー・マイモニ(Ubrei-Joe Maimoni)は、「過去アフリカで開かれたCOPは私たちを失望させました。化石燃料をフェーズアウトさせる明確な約束もまだありません。欧州諸国はアフリカでガス開発をすべきではありません。アフリカを燃やさないでください。」と発言。ガス開発ではなく、コミュニティを中心にすえた再生可能エネルギーの開発を行うよう求めました。

気候危機対策のために、化石燃料に依存した社会を変え、持続可能な社会を形成していくことが必要です。一方で、気候危機に対する対策として、「自然に基づく解決策(NBS)」や国際炭素取引市場など「誤った気候変動対策」が強力に推進されています。FoEグループは、これらの対策は、排出を削減せず、むしろ環境や社会に悪影響を与えかねないと警鐘を鳴らしてきました。

FoEインターナショナルのKirtana Chandrasekaranは「企業は排出を続けるために、複雑な抜け穴を作り始めています。オフセットは実質的な排出削減に繋がりません。汚染企業がこの先も化石燃料中心の社会を維持したいがために、ほとんど気候変動に責任のない途上国に責任を押し付けようとしているのです」と非難。続けて、「森林を炭素市場に組み込むべきではありません。先住民族やコミュニティの知恵や知識が気候変動や生物多様性損失から地球を守ってきたのです。世界70%の人々を養っている小規模農家をサポートすべきです。」と訴えました。

また、FoEマレーシアのMeena Ramanは「前議長であるAlok Sharmaが、グラスゴーで1.5℃の約束を維持することに成功したとコメントしたが、大きな間違いです。」と強く非難。「ネットゼロはまやかしであり、私たちは何度でもそう訴えます。私たちに必要なのは真の削減です。2050年までのネットゼロではほとんど意味がありません。また、パリ協定6条の下で除去(Removal)に関するガイダンスが議論されていますが、まさしくジオエンジニアリングなどの誤った対策が含まれているのです。CBD(生物多様性条約)はジオエンジニアリングのモラトリアムを設けていますが、COP27でジオエンジニアリングが正当化されてしまうことを恐れています。」とコメントしました。また「損失と被害に対する資金に関する議題は、これまでアメリカの妨害により長年議題に挙げることができていませんでした。しかし今回は議題に入りました。しかし悪魔は細部に宿ります。まだ喜べません。議論や動向を注視していく必要があります。また気候資金に関して、2009年に約束された2020年までに年間1000億ドル拠出する目標は達成されていません。先進国に真の解決策をもたらすよう強く求めます。」と交渉への期待と懸念を示しました。

ネットゼロについてはこちらもご覧ください。https://foejapan.org/issue/20211018/4992/

COP27開幕目前 – 議長国エジプトは「実施(行動)のCOP」と位置付け

2022年11月6日から18日まで、エジプトのシャルム・エル・シェイクでCOP27(第27回気候変動枠組条約締約国会議)が開催されます。世界各地で気候変動による影響が拡大し、温室効果ガスの抜本的な削減に加え、適応や損害への対応が迫られています。COP27の注目点などについて解説します。

気候危機

 2022年6月以降の大雨などが原因で、パキスタンは国土の3分の1もが水没するような大規模な災害に見舞われています。1600人以上が命を落とし、数百万人規模の避難民が発生しています。水が引いても衛生状況等の悪化でマラリアの感染が拡大し、300人以上が亡くなっています。人道危機にあるパキスタンに、さらなる支援が必要とされています。

 いわゆる途上国(グローバル・サウス)を中心に気候変動の被害が日々拡大しています。フィリピンやインドネシア、太平洋の島嶼国、アフリカ等の国々が、洪水、熱波、旱ばつ、海面上昇などで生活に大きな影響を受けています。コロナ禍もあり、日本を含む先進国(グローバル・ノース)も大きな被害を受けていますが、債務が膨れ上がる途上国において、もとより貧困や社会格差に喘ぐ貧困層への影響は計り知れません。多くの温室効果ガスを排出してきた先進国には極めて大きな責任があり、先進国は、すでに生じている取り返しのつかない被害に対し、資金支援や「気候債務」の返還を行わなくてはいけません。COP27直前に出された最新の報告書では、各国の2030年目標を積み上げて集計すると、全ての国が目標を実施し、達成したとしても、2.5℃の気温上昇となることが報告されています(昨年の集計では2.7℃)。

損失と被害(ロスダメ)への資金支援を

 中でも重要なのは、歴史的責任の大きい先進国から途上国への支援です。これまでも途上国から、すでに生じている変化に適応するための資金や、損失と被害に対応するための資金の拠出が強く求められていました。

先進国は2020年までに年間1000億ドル(注1) の気候資金を拠出する約束でしたが、それですら達成されておらず、気候危機の被害が拡大する中で資金不足は深刻です。そもそも途上国がNDC(国別気候変動目標)を達成するためには、2030年までに5兆米ドル必要だと試算されており、対策の実行には先進国が資金支援の義務を果たすことが必須です。

 また、緑の気候基金(GCF)は緩和・適応事業への資金支援を行う重要な基金ですが、資金が底をついており、この状況も深刻です。

 COP27でも資金関連の議題は注目されるとみられており、とくに損失と被害(ロスダメ)に対する資金拠出の道を開くことが途上国にとって重要です。

 ロスダメ資金支援について、COP26では、ロスダメについて「対話」を行うことが決定されたのみでした。この対話についても、途上国としては資金について対話を行いたいという意向がありましたが、先進国がそれに反対しています。そもそも「対話」だけで具体的な行動が先送りされている状況に加え、資金に関する議論をブロックしているのです。今回のCOPで中身のある議論ができるか、そしてその先の行動に進めるか、注目されます。

注1:COP16決定で2020年までに年間1000億ドルに資金支援引き上げ、COP25決定で2020年から2024年までの次期資金目標を定める作業計画(NCQG)を採択し、次期資金目標が定まる2025年までの間は最低年間1000億ドルを維持する決定もされました。

化石燃料からの脱却を

 他方で、COP27直前に出された国連報告書でも化石燃料に対する資金の流れが依然大きなままであることが改めて示され、非常に問題です。温室効果ガス削減や、民主的なエネルギーシステムのために、今の化石燃料に依存する社会をいかに早く転換していくかが重要になります。温室効果ガス排出のほとんどが化石燃料を使用することに由来します。パリ協定に掲げられている1.5℃目標達成のためには、先進国は石炭火力発電所を2030年までに廃止する必要があると言われており、また国際エネルギー機関(IEA)も、新規の炭鉱開発やガス・石油の上流開発を拡大することは、2050年ネットゼロ達成への道筋と整合しないことを示しています。

 2022年11月にNGOが発表したレポートによれば、G20諸国やMDBs(多国籍開発金融機関)は、2019年から2021年の間に、年間550億米ドルもの資金を石油、ガス、石炭事業に融資しています。

 2022年2月にロシアがウクライナに侵攻し、ロシア産の化石燃料依存からの脱却を図るため、欧米諸国などが省エネや再生可能エネルギー開発へと舵を切っていますが、同時にアフリカなどにおける新たな化石燃料開発にも関心を示しています。今年のCOP27はアフリカ大陸での開催ですが、そのアフリカで新規のガス開発の推進が行われているのです。気候危機の影響を大きく受けるアフリカ諸国において、再生可能エネルギーへの支援や、すでに生じている被害に対応するための資金こそ必要であるのに、一部の企業や先進国の「エネルギー安全保障」の名の下に化石燃料事業がすすめられているのです。日本政府はロシアにおけるガス事業からの撤退を拒み、官民連携して、モザンビークやカナダ、フィリピンといった国で新たなガス開発事業に関与し続けています。

排出削減の強化ーネットゼロではなくリアルゼロを

 温室効果ガスの削減、いわゆる緩和の議論も注目されます。昨年のグラスゴー会議で「ネットゼロ」が実質的に正当化されてしまいました。ネットゼロとはある一定期間の人為的排出と吸収のバランスの取れた状況をいいます。多くの国や企業がネットゼロを宣言していますが、それらは具体的な削減対策に欠け、大規模植林を想定した吸収量増大や将来の技術発展に頼った内容になっているものが多いのが実情です。昨年のグラスゴー気候合意は緩和に重点をおいた合意で、1.5℃以下に抑えるという目標が強調されたことは評価されるものの、ネットゼロの目標を要に据えているため、具体的な行動に欠けるネットゼロ宣言が事実上正当化されていると言えます。

(ネットゼロについて詳しく:https://foejapan.org/issue/20211018/4992/

 また、緩和作業プログラム(MWP)の運用が来年から開始される予定ですが、この中身を詰める議論が進んでいます。中でも、国際炭素取引制度を通じた吸収源や既存の森林保護による排出回避で化石燃料からの排出を見かけ上相殺(オフセット)する議論が急速に進んでいます。

 CCSやNBS(自然に基づく解決策、Nature Based Solution)といったコンセプトも炭素除去や吸収源拡大に関係するものです。CCSは炭素を回収し、貯留するものですが、現在のところほとんど商業化されておらず、数世紀にわたって漏らさずに貯留できるわけでもなく、また全ての炭素を回収できるわけでもありません。CCSを備えることで化石燃料インフラの利用継続が正当化される傾向にありますが、必要なのは化石燃料依存からの脱却です。

 NBSには大規模植林なども含まれますが、かえって先住民族や地元住民の土地への権利を侵害したり、単一種のプランテーションが広がり生物多様性が脅かされる、さらには生態系の金融商品化(もしくは炭素市場商品化)が急速に進む危険性が指摘されています。

(NBSについて詳しくはこちら:https://foejapan.org/issue/20220613/8344/

市民社会スペースの縮小

 最後に、エジプトの市民社会がおかれている状況も無視できません。

 気候変動政策のみならず、政策を形成する上で市民の参加は欠かせません。しかし、そもそもCOPの場は、一般の参加者、とくにグローバル・サウスからの参加者にとっては、費用等の観点から参加のハードルが高く、とても民主的なスペースであるとは言えません。そして、コロナ禍に入ってから初めて開催された英国・グラスゴーでのCOPは、ワクチンの配分の不平等などから、さらに途上国からの参加のハードルが高まりました。

 今回COPが開催されるエジプトには現在ほとんど市民社会スペースが存在しません。事実上、デモも禁止されています。多くの活動家やジャーナリストが、良心の囚人として逮捕されています。

 気候危機や社会正義のために声を上げる人々がエジプトで、そして世界中で迫害されています。私たちは土地や自然をまもるために立ち上がる人々と連帯し、民主的なスペースなしに気候正義はないと今回のCOPでも訴えていく予定です。

(深草亜悠美・小野寺ゆうり)

本当にできる?日本でのCCSの可能性と苫小牧実証事業

スタッフの吉田です。

気候変動対策のための「脱炭素技術」として「CCS(二酸化炭素回収・貯留)」が注目されています。CCSの活用に関して、GX(グリーントランスフォーメーション)の柱の一つとして日本でも議論が進んでいますが、実現可能性や気候変動対策としての実効性はどの程度あるのでしょうか。

大規模なものとして日本で最初に行われたのが、苫小牧の「CCS大規模実証試験」です。

2016年4月から2019年11月の3年半余りで、合計30万トンが圧入され、現在もモニタリングが続けられています。

一般の人もこの施設を見学できるため、8月下旬に訪問してきました。

日本CCS調査株式会社が運営している実施用実験施設は、苫小牧市の工業地帯の海沿い、出光の製油所の隣にあります。製油所から発生するガスを施設の敷地内に送り、そのガスから化学反応を使って二酸化炭素を取り出します。それが海底深くの地層に圧入されています。

見学では、20分ほどのビデオを見た後に解説を聞き、その後施設の見学、最後に質疑応答の時間があって全体で1時間ちょっとでした。

事業の概要はこちら
https://www.japanccs.com/business/demonstration/index.php

↑こちらの3本の塔の設備で、CO2を取り出します。

↑取り出されたCO2は、こちらの圧入井に送られます。

2本の圧入井があり、約3キロ先・深さ1000~1200メートル、約4キロ先、深さ2400~3000メートルの2つの地層にCO2が圧入されています。

説明の中で興味深かったのは、2つの地層のうち、深い方の地層(滝ノ上層)には、実際にはほとんどCO2が入らなかったとのこと。30万トンのうちほとんどが、浅い方の地層(萌別層)に入れられたそうです。実際に掘ってみなければわからなかった、とのことでした。

ただこの「実際には深い方の地層にはほとんど入らなかった」ことは、報告書には書かれているものの、説明資料やウェブサイト上では、わかりやすくは書かれていません。

↑圧入井のある方向

2018年9月6日に、北海道胆振東部地震が起こりました。苫小牧の施設敷地内も震度5の揺れだったそうですが、その時はちょうど圧入装置は止まっており、特に被害はなかったそうです。

2019年11月に30万トンの圧入を達成して以降、漏れがないか等モニタリングが続けられています。海洋環境の調査なども行われていますが、今のところ、CO2の漏出やそのおそれは確認されていないとのことでした。

本当は、2021年で実証実験施設は閉鎖される予定でした。しかし、2020年に視察に訪れた萩生田前経産大臣が、「ここをCCU(CO2の回収利用)やカーボンリサイクルの実証の場としても活用しよう」と発言したことによって廃止は延期され、とはいえCCUに関する計画はまだ立たず、現在は待機の状態のようです。

苦労の一つは、海風によるさび。装置がすぐにさびてしまうため、ペンキの塗りなおしを何度かしているそうです。「ペンキ屋が儲かっている状態」と、説明の方。

30万トンの圧入に成功したものの、今後の社会実装に向けての課題は多いと、資料にもまとめられています。具体的には、以下の課題が挙げられています

ー低コスト化
ーCO2輸送手段の確立
ー貯留適地の確保
ー国内法など事業環境整備

・詳しくはこちら
苫小牧におけるCCS大規模実証試験 30万トン圧入時点報告書(詳細版、概要版)」
https://www.japanccs.com/library_category/report/

日本の現在のCCSに関する検討状況を見てみましょう。

2021年の第6次エネルギー基本計画でCCSについて明記され、2022年1月から「CCS長期ロードマップ検討会」が開始されました。そして2022年5月に「中間とりまとめ」が出されています。

https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/ccs_choki_roadmap/index.html

議論の中で、長期的な目安として示されたのは、2030年中にCCS事業を開始し、2050年までの20年間で毎年12~24本の圧入井(1本あたり50万トン/年)を増やし、2050年には年間1.2~2.4億トンの年間貯留量を想定するというものです。

それは、2050年までに240~480本の圧入井を掘るということです。苫小牧の実証事業が30万トンということを考えても、それは膨大な量です。

地震国の日本でいまだに明確な適地が見つかっていない状況で、本当に可能なのでしょうか。

一方、石炭火力発電所を1年間運転すれば、500~1000万トンのCO2が出てしまいます。
2023年、2024年に稼動を予定している横須賀火力発電所から出る予定のCO2は年間726万トンです。圧入井一本で、仮に年間50万トンの圧入ができたとしても、火力発電(石炭火力も天然ガス火力も)を運転していては、ほとんど意味がないことになります。

100万トン実用化モデルでのCCSコストは6,186~7,261円t/CO2と試算されています(ただし、計算通りに行くかは不明)。膨大なコストと手間をかけて、CO2をただ地中に埋める、ほかに特に生み出すもののない事業を推し進める意味はどこにあるのでしょうか。

苫小牧の施設では、CCSの理解を広げるためのPR活動も重要な仕事です。苫小牧市やその近隣で、展示やイベント出展、講演などが行われています。

2020年に菅前首相がカーボンニュートラルを宣言してからは、CCSにこれまで以上に注目が集まり、「目の色が変わった」企業などの視察が増えたそうです。

また、子どもの訪問や子どもへの説明機会も多いようで、マンガの資料や遊べる模型なども充実していました。

しかし、世界の期待とは裏腹にとても「静かな」苫小牧の現場。

「うーん、、、」とうなりながら、現地を後にしました。

気候変動対策のためであれば、まずは化石燃料から脱却し、エネルギーシフトをしなければなりません。実現可能性すら定かでないCCS事業につぎ込む膨大なエネルギーを、省エネと再エネに振り向けなければなりません。
                                                                                                                                                         (吉田明子)

・CCSに関する審議会の議論
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/ccs_choki_roadmap/index.html

・資源エネルギー庁「CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccs_tomakomai.html

【横須賀石炭訴訟報告 vol.14】異例の裁判長異動で追加の期日。判決は1月27日に

10月4日、横須賀石炭火力訴訟の裁判が開かれました。
横須賀石炭火力訴訟は、6月6日に結審、11月28日に判決が出されるはずでした。しかし、裁判長が法務省の訟務局長に異動となって交代したため、9月に急遽スケジュールが変更されて10月4日の期日が追加されました。

当日は約50名が、傍聴と報告会に参加しました。国を相手にした行政訴訟の裁判長が、国側の役職に異動することは異例だと、弁護団長の小島弁護士は報告会で力を込めていました。

気候危機はこの夏にも大きな被害をもたらした

6月の期日の後、この夏も国内外各地で気候危機の深刻な被害が起こりました。

原告団長の鈴木陸郎さんは、気候危機の激化と、気候危機は人権侵害であることを訴えました。横須賀石炭火力は逆行している、しかし「今ならまだ間に合う」と、司法での判断を求めました。

小島弁護士はまず、新たな裁判長に対し「これまでの記録を一から見直してほしい」と求めました。石炭火力発電所は1日に1万トンの石炭をもやし2万トンのCO2(体積では東京ドーム8個分)を出す、1日1000トンの粉じんも出す、と改めて強調しました。

半田弁護士は、この夏の欧州の熱波やパキスタンの洪水、8月上旬の東北から北海道での豪雨の被害状況を紹介しました。

最後に再び小島弁護士が、気候変動による災害で多くの方が亡くなったり、東京湾周辺でも磯焼けや漁獲高の減少がここ数年で顕著であることを説明、今回の行政訴訟の経緯を振り返り、「司法が責任を果たすことが強く求められている」と締めくくりました。

裁判の背景や詳細はこちら:なぜ訴えるのか | 横須賀石炭訴訟 (yokosukaclimatecase.jp)

判決は1月27日(金)、裁判長にお手紙を!

終了後の報告会で、判決までにできることとして、小島弁護士からこんな提案がありました。

「品田裁判長に心のこもったお手紙を書いてはどうでしょうか。言いたいことを一つにしぼって、短くていいのです。」

これは、誰でもできて効果がありそうなアクションです!

(宛先は、東京地方裁判所の品田裁判長。詳しい住所や宛先の書きかた等は後日訴訟ホームページに掲載されます。)

横須賀石炭訴訟について:https://yokosukaclimatecase.jp/

過去の訴訟報告ブログはこちら 

(吉田明子)

【ブログシリーズ 東南アジアのガス開発】第1回 気候変動と化石燃料ガス

3回にわたって東南アジアのガス開発状況とその意味について解説するブログシリーズ「東南アジアのガス開発」。初回である今回は、2回目以降の記事を理解するにあたって必要になる前提知識を概観します。具体的には、気候変動に関する科学的知見と、その壊滅的な影響を防ぐために国際的にどのような対策が求められているのかについて解説します。

目次

1. 気候変動の影響

2. パリ協定と1.5℃目標

3. 1.5℃目標達成の道筋

4. なぜ新規の化石燃料事業はパリ協定に整合しないのか

1. 気候変動の影響

気候変動に関する科学的知見は年を追うごとに精密になっています。そこでまず、気候変動に関する研究をまとめ、評価しているIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の評価報告書から幾つかの重要な科学的知見を確認してみましょう。

「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。」[i]

IPCCはこれまで、温暖化の原因が人間の影響であることを、高い可能性があるとし、2021年8月に公表されたIPCC 第6次評価報告書の第1作業部会の報告(以下、IPCC AR6, WG 1, SPM)では、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。」と改めて断言しました。

実際日本でもここ数年、「記録的猛暑」という言葉をニュースで聞き飽きるくらい耳にします。さらに今年6月25日には伊勢崎市で6月の観測史上初の40.2℃を観測しました。6 月下旬から 7 月初めの記録的な高温について、気象研究所などが9月に発表した調査結果によると、「地球温暖化の影響が無かったと仮定した状況下では、同じラニーニャ現象等の影響があったとしても、およそ 1200 年に 1 度という非常に稀な事例であった」と指摘し、温暖化により高温の発生確率が格段に上がっていたことを明らかにしています[ii]

また、このような猛暑についてIPCCは、「過去10年に観測された最近の極端な高温の一部は、気候システムに対する人間の影響なしには発生した可能性が極めて低い(IPCC AR 6, WG 1, SPM, A.3.1)」としています。こういった極端な熱波のみならず、極端な大雨、干ばつ、熱帯低気圧などが既に世界中で見られるようになっています。

図1(出典:文部科学省、気象庁訳。IPCC AR6, WG 1, SPM、図SPM.6) 

さらに同報告書によれば、こういった「極端現象」は地球温暖化が進むにつれて、これからより激しく、より頻繁になると予想されています。上図で示されているように、産業革命以前と比較した1度の気温上昇時 (産業革命以前と比べて、地球は既に1.09度上昇したと推定されている[iii])には、人間の影響がない気候で平均して50年に1回発生するような極端な気温は、頻度にして4.8倍、強度にして1.2℃増加します。一方で、温暖化が4℃に達すると、頻度にしてなんと39.2倍、強度にして5.3℃増加すると予想されています。地球温暖化は既に猛暑といった形で私たちに明らかな影響をもたらしていますが、温暖化がさらに悪化すれば、それだけ猛暑の頻度と強度が増幅するということで、それに伴って損失や損害が拡大します。気温上昇と、気候変動による壊滅的な被害を避けるための対策や被災時の対応の強化が急務です。

2. パリ協定と1.5℃目標

IPCCが1988年に設立され、1990年に発表した第1次評価報告書が、1992年に採択されることになった国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の重要な科学的根拠とされました。その締約国会議(COP3)で京都議定書が、そしてCOP21ではパリ協定が採択されました。パリ協定では「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃以下に抑える努力をする[iv]」ことに合意しています。

ここでは気温の上昇を2℃未満という目標と共に1.5℃以下に抑えるという努力目標が両方記されていますが、上述のように現在の1度の温度上昇ですら、既に熱波など目に見える極端現象が頻発していることを考えると、1.5℃以下を目指さなければならないのは明らかです。実際、2018年に発表されたIPCCの『1.5℃特別報告書』では、2℃の気温上昇が起こった場合と比べて1.5℃の場合の方が、「海洋生物多様性、漁業[資源]、及び生態系、並びにこれらがもたらす人間への機能とサービスに対するリスクが減少することが予測される[v]」など、1.5℃に気温上昇を抑えるべき理由を科学に基づいて主張しました。社会的な影響についても、「2℃に比べて1.5℃に地球温暖化を抑えることで、気候に関連するリスクに曝されるとともに貧困の影響を受けやすい人々の数を2050年までに最大数億人削減しうるだろう(確信度が中程度)[vi]。」と述べており、気温の上昇を1.5℃以下に抑えることの重要性がわかります。開発途上国が国際交渉の場で1.5℃目標を粘り強く主張し続けてきたこともあり、今ではパリ協定の枠組みで目指すべき気温目標は1.5℃とされるようになりました。

3. 1.5℃目標達成の道筋

では、1.5℃目標を達成するにはどうすればよいのでしょうか?IPCC 第6次評価報告書の第1作業部会の報告によれば、気温上昇を産業革命以前と比べて(67%の確率で)1.5℃に抑えるためには、私たちが将来にわたって排出できるCO2の量(残余カーボンバジェット[vii])の推定値は400Gt(ギガトンは10億トン)です[viii]。これは報告書が発表された2021年時の残余カーボンバジェットですが、2010年から2019年の10年間のCO2排出量は410Gtであり[ix]、この排出ペースが変わらなければ2021年からの10年間で、温暖化を1.5℃に抑える残余カーボンバジェットを使い切ってしまいます。

図2(出典:文部科学省、気象庁訳。IPCC AR6, WG 1, SPM, 図SPM.4) 

では、このわずかなカーボンバジェットを使い切らないようにするにはどうすればよいのでしょうか?上図にあるように、IPCCの同報告書は、将来のCO2排出シナリオを5つ示しています。この中で1.5℃目標を達成できる程度までCO2排出量を十分抑えられているのはただ一つ、水色のシナリオ(SSP1-1.9)であり、このシナリオならば「世界平均気温が、1.5℃の地球温暖化を0.1℃より超えない一時的なオーバーシュートを伴いながら、21世紀末にかけて1.5℃未満に戻るように低下するだろうことは、どちらかと言えば可能性が高い[x]。」としています。SSP1-1.9は、CO2排出量が2030年頃には半減、2050年頃には正味ゼロ(ネットゼロとも言う。排出したCO2の量と森林による吸収などによって除去されたCO2の量が釣り合って全体として排出量がゼロになる状況のこと)となり、それ以降は排出量より除去量が多くなっています(SSP1-1.9の線は、2050年以降0より下のマイナスで推移しており、これはCO2を除去していることを意味する)。

しかし、オフセットに頼ったネットゼロ達成を至上目標とすることは危険なことでもあります。気候変動対策には化石燃料由来の温室効果ガス排出の削減が最重要ですが、「化石燃料を燃焼して温室効果ガスを排出しても、木を植えてオフセットするから問題ない」という口実を与えかねないからです。実際、大手の化石燃料企業は大規模植林に頼ったネットゼロ計画を策定し、化石燃料の開発を継続しています。また、除去の別の手段として炭素回収・貯留技術(CCSと略される。発電時に排出されたCO2を回収し地中に貯留する技術)も注目されています。しかしコストが高く、将来にわたり安定的に貯留できるのか不透明です。また日本国内では貯留に適する場所も限られているといった課題もあります[xi]。こういった未確立の技術を言い訳に温室効果ガスを排出し続けるのは、取らぬ狸の皮算用のようです。

従って、1.5℃目標達成に向けた理想の道筋としては、オフセットに頼ることを前提とした「ネットゼロ」ではなく、できるだけオフセットに頼らない「リアルゼロ」がより良い選択肢となります。実際、2022年に発表されたIPCCの第3作業部会の第6次評価報告書では、リアルゼロに近いシナリオが取り上げられています(下図参照)。

図2(出典:IPCC AR6, WG 3, SPM, 図SPM.5よりFoE Japan作成) 

図中の3つのシナリオIMP-LD(効率的な資源の利用、世界的な消費パターンの転換による低需要の実現)、IMP-REN(再エネ重視)、 IMP-SP(不平等の軽減を含む持続可能な開発への転換を通じた排出削減)はいずれも50%以上の確率で温暖化を1.5℃に抑えられるとされています[xii]。さらに、これら3つのシナリオは排出量が大きくマイナスに推移していないため、前図のSSP1-1.9と比べて世紀後半の温室効果ガスの除去に頼っていないことが見てとれます。オフセットに頼るネットゼロでなくとも、リアルゼロに近い形で温暖化を1.5℃に抑える可能性はまだ残されているのです。

さらに、IPCCの将来シナリオはその多くが既存の経済モデルをベースにしており、ライフスタイルの変革などより突っ込んだ社会経済変革(システムチェンジ)による排出量削減ポテンシャルはまだ限定的にしか評価されていない点も留意しておく必要があります。大胆な政治決断を通じてIPCCシナリオが想定するより早く脱化石燃料を達成することも可能です。先の3つのリアルゼロ・シナリオを私たちが達成できる限界として見るのではなく、さらなる可能性を模索しなければなりません。

ここまでの議論をまとめると、気候変動による壊滅的な影響を抑えるためには、温暖化による気温上昇を(産業革命前と比べて)1.5℃以下に抑える必要があり、そのためには除去に頼らないで温室効果ガスの排出を実質的に、それもできる限り早く削減していく必要があるのです。

4. なぜ新規の化石燃料事業はパリ協定に整合しないのか

では、温室効果ガスの排出削減には、具体的に何が求められるのでしょうか?そこで鍵になるのがエネルギーセクターです。エネルギーセクターは現在世界の温室効果ガス排出の4分の3を占めます[xiii]。石炭、ガス、石油といった化石燃料由来のエネルギーは、採掘、輸送、火力発電所での燃焼時に多大な温室効果ガスを排出します。したがってこの部門での対策が1.5℃目標達成に不可欠となります。

IPCCによると、現在稼働中・そして計画中の化石燃料インフラからだけでも、2℃を超える温度上昇につながる量のCO2が排出されると試算されています[xiv]。国際エネルギー機関IEAが2021年に出した2050年ネットゼロシナリオでも、これ以上新規の石油・ガス開発事業や炭鉱の新設・拡張はネットゼロの道筋と整合しないと明らかにしています[xv]。化石燃料に代わって再生可能エネルギーへの投資を急増させ、2035年までに先進国の電力をネットゼロとし、2040年までには世界全体の電力をネットゼロ、2050年までには世界全体の電力の90%を自然エネルギーで賄うとしています[xvi]。IPCCの第6次評価報告書第3作業部会報告書においても、気温上昇を1.5℃に抑えるためのシナリオでは化石燃料利用を急激に削減し、再生可能エネルギーに移行されるとしています[xvii]

つまり、気候変動による壊滅的な影響を避けるための1.5℃目標を達成するためには、石炭及びガスといった化石燃料を新規に開発する余裕はなく、むしろそれらは段階的に廃止しつつ、再生可能エネルギーへの移行を促進する必要があるということです。そしてもちろん移行に際しては、地域社会の声を尊重する必要もあります。再生可能エネルギーの蓄電や電気自動車に使用されるニッケルを採掘、精錬する際に現地住民の生活や環境を破壊してしまうことがあっては、本末転倒です(例えば、フィリピンのリオツバタガニート、インドネシアのポマラにおけるニッケル開発)。 

さて、IPCC報告書やIEAの2050年ネットゼロシナリオでも、これから世界が進むべき脱化石燃料の方向を示しているにも関わらず、 実は東南アジアではガス開発事業が急速に進んでいます。そしてその事業に対し、事業者としても投融資者としても、日本の官民が深く関与してきているのです。本記事で紹介した気候変動の背景を踏まえた上で、次回以降の記事では東南アジアのガス開発に関するレポート等を解説します。


[i]IPCC, 2021: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S.L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M. I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T. K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu and B. Zhou (eds.)]. In Press.(文部科学省、気象庁訳。『IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書 気候変動2021:自然科学的根拠 政策決定者向け要約(SPM) 暫定訳(2022年5月12日版)』 )

[ii]文部科学省、気象庁気象研究所、2022年9月6日。「令和 4 年 6 月下旬から 7 月初めの記録的な高温に 地球温暖化が与えた影響に関する研究に取り組んでいます。 ―イベント・アトリビューションによる速報― 」https://www.mext.go.jp/content/20220906-mxt_kankyou-000024830_1.pdf

[iii]IPCC, 2021: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S.L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M. I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T. K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu and B. Zhou (eds.)]. In Press. A.1.2\

 [iv] Paris Agreement (Dec. 13, 2015), in UNFCCC, COP Report No. 21, Addenum, at 21, U.N. Doc. FCCC/CP/2015/10/Add, 1 (Jan. 29, 2016). (訳文は以下を参照:資源エネルギー庁。2017年8月17日。「今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~

(最終閲覧日2022年7月25日))

[v]IPCC, 2018: Summary for Policymakers. In: Global Warming of 1.5°C. An IPCC Special Report on the impacts of global warming of 1.5°C above pre-industrial levels and related global greenhouse gas emission pathways, in the context of strengthening the global response to the threat of climate change, sustainable development, and efforts to eradicate poverty [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, H.-O. Pörtner, D. Roberts, J. Skea, P.R. Shukla, A. Pirani, W. Moufouma-Okia, C. Péan, R. Pidcock, S. Connors, J.B.R. Matthews, Y. Chen, X. Zhou, M.I. Gomis, E. Lonnoy, T. Maycock, M. Tignor, and T. Waterfield (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, UK and New York, NY, USA, pp. 3-24. (『1.5°Cの地球温暖化:気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における、工業化以前の水準から1.5°Cの地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関するIPCC特別報告書、政策決定者向け(SPM)要約』、環境省仮訳、B.4)

[vi]同上、B5.1.

[vii] IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書 気候変動2021:自然科学的根拠 政策決定者向け要約(SPM) 暫定訳(2022年5月12日版)、表SPM.2

[viii]「カーボンバジェットという用語は、他の人為的な気候強制力の影響を考慮した上で、地球温暖化を所与の確率で所与の水準に抑えることにつながる、世界全体の正味の人為的累積 CO2排出量の最大値のことである。これは、工業化以前の時代を起点とした場合は総カーボンバジェットと呼ばれ、最近の特定の日を起点とした場合は残余カーボンバジェットと呼ばれる(用語集)。過去の累積 CO2排出量は、これまでの温暖化を大 部分決定し、将来の排出は将来の追加的な温暖化の原因となる。残余カーボンバジェットは、温暖化を特定の気温水準以下に抑えるにあたり、まだ排出しうるCO2の量を示す。」IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書 気候変動2021:自然科学的根拠 政策決定者向け要約(SPM) 暫定訳(2022年5月12日版)脚注43

[ix]IPCC, 2022: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [P.R. Shukla, J. Skea, R. Slade, A. Al Khourdajie, R. van Diemen, D. McCollum, M. Pathak, S. Some, P. Vyas, R. Fradera, M. Belkacemi, A. Hasija, G. Lisboa, S. Luz, J. Malley, (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, UK and New York, NY, USA. B. 1.3

[x]ibid. B.1.3

[xi]大野 輝之、2021年9月30日。「CCSへの過剰な依存が日本のエネルギー政策を歪める」自然エネルギー財団。

[xii]ただし、1.5°Cを数十年にわたって最大0.1°Cまで超過する、限定的なオーバーシュートが67%以下の確率で発生する。ibid. Box SPM.1. 

[xiii]International Energy Agency. 2021. Net Zero by 2050: A Roadmap for the Global Energy Sector. Summary for Policy Makers. p.2

[xiv]IPCC, 2022: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [P.R. Shukla, J. Skea, R. Slade, A. Al Khourdajie, R. van Diemen, D. McCollum, M. Pathak, S. Some, P. Vyas, R. Fradera, M. Belkacemi, A. Hasija, G. Lisboa, S. Luz, J. Malley, (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, UK and New York, NY, USA. B.7.

[xv]International Energy Agency. 2021. Net Zero by 2050: A Roadmap for the Global Energy Sector. Summary for Policy Makers. p.11

[xvi] ibid. p.9

[xvii]IPCC, 2022: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [P.R. Shukla, J. Skea, R. Slade, A. Al Khourdajie, R. van Diemen, D. McCollum, M. Pathak, S. Some, P. Vyas, R. Fradera, M. Belkacemi, A. Hasija, G. Lisboa, S. Luz, J. Malley, (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, UK and New York, NY, USA. C.3.

SB56開催中〜COP27に向けて途上国が求めるものとは?

6月6日から16日にかけて、国連気候変動枠組条約の第56回補助機関会合(SB56)が開催されています。補助機関会合では、条約の公式な決議などはありませんが、年に一度開催される締約国会議に向けた勧告や合意案が検討されます。

COP26以降、2022年2月には、IPCC第二作業部会が気候変動の「影響・適応・脆弱性」に関する報告書を公表しました。この報告の中で、気候変動の影響はすでに広範に及んでいること、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えることが達成されたとしても気候変動の影響による損失と被害を全く無にすることはできないこと、また、気候変動にレジリエントな開発ができるかどうかは、この10年の行動が鍵となることが指摘されました。

そして、2022年4月のIPCC第三作業部会による「緩和」に関する報告書では、現行の各国の気候変動対策目標(NDC)はパリ協定の1.5度はおろか、2度未満に抑えるためには極めて不十分であること、既存及び計画中の化⽯燃料インフラからのCO2排出量のみですでに1.5℃目標の達成は不可能であること、脱炭素技術の大規模な普及だけでなくこれまでに類をみない抜本的な社会変革が求められ ることが求められることが示されました。

このように、IPCCによる報告が相次いだ後に開催されているのが、今回の補助機関会合です。第一週目には、今回の補助機関会合の開幕に際し、気候正義を求める市民社会が、記者会見やイベントを開催しました。

もはや被害の時代に突入。求められるのはアクション

6月7日には、開催された気候正義を求める市民社会(Demand Climate Justice)の記者会見がありました、その中で、Third World Network/FoE マレーシアのMeena Ramanは、冒頭に述べたようなIPCC第六次報告の指摘を振り返りながら、

私たちは、求められる気候変動対策から程遠い所にいる。ウクライナ侵攻があってもなお、先進国はまだ化石燃料から脱却する準備ができていないようだ

と、求められる気候変動対策が進まないもどかしさを示しました。

また、議題から抜けていた途上国にとって極めて重要な、適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation、GGA)は初日の交渉で議題に盛り込まれましたが、損失被害の資金支援(グラスゴー対話)は、途上国からの強い要求があったにもかかわらず、今回の補助機関会合の主たる議題として取り上げられなかったことについても言及しました。

GGAはパリ協定第7条ですでに合意されてきた。にもかかわらず、どのように目標に向かって枠組を動かしていくかという重要な議論が未だになされていない。IPCCの第二作業部会の報告でも、適応にもっと注力すべきだという指摘があった。そして、今はもう損失と被害の時代になりつつある。途上国は、損失と被害に対応するための資金ファシリティを求めている。2025年以降の気候資金に関する新たな定量的な全体の⽬標(New Collective Quantified Goal on Climate Finance、NCQG)も、途上国にとっての優先事項だ

と、今回の補助機関会合での注目点を述べました。

Asian People Movement on Debt and Development のClaire Milandaは、求められる気候資金が十分に達していない一方、何十億ドルもの資金が化石燃料事業に使われている実態に触れ、2025年以降の気候資金に関する新たな定量的な全体の⽬標(NCQG)に関する議論で、具体的な額が提案されることを求めました。

Corporate AccountabilityのRachel Rose Jacsonも、理不尽なウクライナ戦争は、私たちが化石燃料中毒に陥っていることを示していると述べました。化石燃料によって引き起こされる気候変動によって、ナイジェリアやインドなど、気候変動にほとんど寄与していない人々やコミュニティが気候変動による被害を被っていること、そしてその被害はすでに日常茶飯事となり、多くの人々がなくなっていることにふれた上で、

気候変動に関する議論はもう26年も続いています。何年もの間、行動が先延ばしにされてきたことを、私たちはみてきました。もう話をしている場合ではなく、アクションを起こさないといけない時です。時間を無駄にしている場合ではありません。パリ協定の第6条2項および第6条4項は、私たちに求められている時間軸での温室効果ガス削減には役に立ちません。パリ協定の第6条8項に基づく、確実な温室効果ガス削減策や適応支援といった解決策が必要です

と、口だけで行動が伴わない実態を批判し、確実に温室効果ガスを削減する対策が必要であることを提示しました。

公平性の実現をーCOP27への期待

途上国の交渉官らも含めたイベントも開催されました。COP26の結果を振り返るとともに、COP27に求めることを発言しました。

途上国(G77+China)の気候資金に関するコーディネーターを担うZaheer Fakir氏は、現在の1000億ドルの長期資金が合意された背景や歴史を話したのち、

COP26では、年間1000億ドルの長期資金の動員に失敗したことについて、途上国はもっと怒りを示すべきだった。2025年以降の気候資金に関する新たな定量的な全体の⽬標(NCQG)についての議論が始まっているが、私たちは過去の1000億ドルの長期資金から学ぶ必要がある。つまり、資金の定義、会計方法について話し合うべきだ。1000億ドルの長期資金について話すとき、人によってこの動員額が異なる。それは、この年間1000億ドルの気候資金が決まった時にこの資金の定義を決めなかったからだ。

と、今後の議論に向け提言しました。

途上国同志グループ(LMDC)の第6条のスポークスパーソンを担うDiego Pacheco氏は、

グラスゴー気候合意には2つの問題点がある。一つは2050ネットゼロ、もう一つは、1.5度目標達成に関する文言だ。もちろん、1.5度目標を達成できなければ、気候危機の被害は深刻さを増すから、1.5度目標の達成は支持する。だが、その方法は、先進国にとって有利なものだ。2050年ネットゼロと設定し、発展途上国が先進国により依存せざるを得ない罠のような(市場メカニズム)制度を作り出すことで、先進国は気候危機のすべての負担を発展途上国に移している。この点こそ、私たちがグラスゴー気候合意を「グラスゴー植民地協定」だと呼ぶ理由だ。グラスゴー気候合意(での先進国と途上国の力関係)は、とてもアンバランスだ。今回の補助機関会合でも、私たちは適応に関する世界全体の目標(GGA)に関する議題を含めることを試みたが、うまくいかなかった。 適応に関する世界全体の目標の策定は簡単な作業ではない。でも簡単ではないからこそ、より多くの力を投入する必要がある。COP27では、バランスの取れた合意を求める。先進国は、少なくとも2030年までに確実な削減を行い、条約とPAの原則(Common But Differenated Responsibilities、共通だが再ある責任)を維持する必要がある。そして公平性を実現するならば、それは先進国は発展途上国のために炭素予算を残さなければならないはずだ。

インドの交渉を担うRicha Sharmaも、昨年のグラスゴー気候合意は緩和が中心となりすぎていると批判し、COP27での交渉は、適応策や損失と被害に関する議題が緩和策と同等に扱われるべきであることを指摘し、実効性のある対策や資金の拠出を求めました。

最後に、COP27のホスト国であるエジプトの大使Mohamed Nasr氏も発言しました。Mohamed氏は、近年の国際交渉では民間企業など関与するアクターが増えたこと、そして水問題、農業、ジェンダー問題など様々な課題にも包括的に立ち向かうことを強調しながら、COP27への意気込みを下記のように発言しました。

何をもってCOP27の成功というかは明確だ。バランスの取れ、実行力のある結果を伴う合意だ。そして、科学が私たちに伝えていることが優先されたものであるべきだ。

*サイドイベント “Developing country views on Road to COP 27”の様子はこちら

国際交渉の意義、先進国に住む私たちの役割とは

約2週間の補助機関会合では、正式な国際合意はありません。ですが、今回の補助機関会合は、COP27での合意に向けた勧告が作成される重要な場です。開催にあたっての記者会見やイベントにおける途上国の発言にあるように、今はもう温室効果ガスを減らすだけではなく、気候変動にどう適応していくか、これから多発するであろう損失と被害に対してどう備えるかを、形にしなくてはいけない時になっています。

記者会見の最後、Corporate AccountabilityのRachel Rose Jacsonが以下のような発言をしました。

私のようなグローバルノースの人々、メディアに伝えたいことがあります。私たちはこの交渉が辛いからといって、立ち去ることはできません。グローバルノースの人たちこそ、自分たちの政府にもっと訴えないといけません。私たちには、この交渉の会場で起こっている真実を先進国の人たちに伝えるメディアが必要です。多くの人が関心を持つ必要があります。

国際交渉の現場では、市民社会や途上国の声よりも先進国等の利益が反映されがちで、時に無力感を覚えます。さらに、約2週間の補助機関会合では、正式な国際合意はないため、注目度はあまり高くありません。ですが、彼女のこのメッセージによって、気候変動の国際交渉の場で、すでに被害を受ける人々の声が議論の場に届いているかということに、私たちが関心を持ち続けることの重要性を再認識しました。

私たち日本の市民は、すでに気候変動の被害に直面する人々とどのように連帯できるのか。それを考えるためにも、日本のより多くの人々に、すでに被害を受ける人々、途上国の人々の声を届ける活動を続けていきます。

(髙橋英恵、小野寺ゆうり)