「地球の変化に気付いて」横須賀海苔漁師の声

9/11、横須賀市走水で海苔養殖業を営む方を訪問し、気候変動が漁にどれほどの影響を与えているのかを伺いました。お話くださったのは長塚良治さん。今から約40年前、19歳の時から海苔養殖に携わり、現在2代目として、代々受け継がれてきた海苔養殖を引き継がれています。

「海苔はとても温度に敏感。魚は泳いで逃げられるけれど、海藻には足がない。そこ(地盤、網)に掴まるだけ。自分に耐えられない温度になってしまったら、死に絶えるだけなんです」

海苔の養殖技術については、昭和40年代は海に立てた支柱に自然に繁殖した海苔を加工・販売する形が主流だったようですが、研究開発が進んだ現在は、陸上で海苔の種付けをし、海水温が海苔にとって最適な温度になったら海に入れ、成長を促す漁法を取り入れています。だいたい9月後半に海苔の種つけ(陸上採苗)をし、11月頃に海に入れるそうです。しかし、海の状況について、40年間海苔養殖をやってきた中で、ここ20年急激に温暖化の影響を感じていると言います。

「海苔の成長に一番良い水温は18度。だいたい22〜23度になったら海に入れるけど、ここ20年、海水温がなかなか下がらない。海水温が下がってきたかなと思うと、台風がきて海がかき乱され、水温が不安定になる。」

海水温の上昇の影響は、それ以外にもあると教えてくださいました。今までは水の冷たさのせいで冬の期間は海底でじっとしていた魚たちが、海水温の上昇で活動できるようになり、養殖中の海苔を食べてしまうという、魚による食害も起きているようです。魚の食害を防ぐための網を張るようになりましたが、労力やお金もかかると言います。

「地球で言ったらとても短い期間で、地球は急に悪化している。この悪化を、人々はどのように捉えているのかを考えると怖い。国の偉い人が、気候変動の影響を全くわかっていない気がする。」

また、気候変動以外にも、頭を抱える問題があると言います。

三浦半島東海岸、千葉県に向かって少し突き出たところに位置する走水では、多くのプラスチックゴミが海岸に流れつくそうです。

東京湾の海流の図(丸良水産HPより)

東京湾に流れ込む海流は、千葉県沖に沿って湾内に入り、神奈川県沖に沿って外へ流れていくため、東京湾西部で少し湾に出っ張ったところに位置する走水には、東京湾北部からやってきたゴミが流れ着くそうです。

「ここに住む人たちは故意に海にゴミを捨てたりしない。なのに、海岸にはゴミがたくさんある。ということは、海を伝って東京湾一帯から流れついてきたとしか考えられない。」

できるところから地球に優しい取り組みをしたい

プラスチックゴミをきっかけに、長塚さんは多くのことに取り組んでいます。

「最近始めたのは、レジ袋の紙袋化。他にも養殖を始めた海ぶどうは、再生紙のパッケージで売るようにした。また、これからは、お客さんが入れ物を持ってきてくれたら、商品の割増をするような取り組みも検討している。」

既に取り組みを始めている長塚さんですが、実は葛藤もあるそうです。

「海苔を乾燥する時は、機械を使うんだけれど、その機械は今まで重油で動かしていた。他にも、たくさんの電気を使っている。こういった仕事に使うエネルギーを、自然エネルギーに切り替えていきたい」

「出荷用の容器も気になっている。今の海苔は段ボールの箱を使って発送しているが、一回使っておしまい、というのが当たり前で、とてももったいない。再利用させて欲しいけれど、なかなか難しい。昔は木の箱を使って魚を市場に送って、空いた箱を回収してまた詰めて、みたいにやっていた。もう一度、昔のやり方でやってもいいのではと思うけれど、そうすると魚の鮮度が落ちてしまう。発泡スチロールでの出荷になってから、今の人は昔に比べて格段に美味しい魚を食べられている。なので、使い捨ての容器を使うことは心ぐるしいけれど、使い方が大切なんだと思う。」

今年1月に訪問した相模湾の目突漁師に続き、私たちの生活の根幹を支えてくださっている漁業従事者や農業従事者など、自然に寄り添って生きる人々が真っ先に地球の変化を感じ取り、また気候変動の被害を受けています。

気候変動の影響はすでに日本でも起きており、この変化を危機として受け止め、即座に行動を開始してかないといけないことを改めて感じました。

これ以上の気候危機を防ぐための具体的な行動として、日本の気候変動対策の強化に向けて声を上げること、そして、温室効果ガスを大量に排出する石炭火力発電所の新規建設の中止に向けて行動を起こすことは急務です。

FoE Japanは、気候変動がもたらす影響についての発信をいっそう強めるとともに、日本の気候変動政策の強化、今回訪問した地域のすぐ近くで建設が進む横須賀石炭火力発電所建設の中止を求めていきます。

(高橋英恵)

横須賀石炭火力事業についてはこちら

https://www.foejapan.org/climate/nocoal/yokosuka.html

第4回期日を迎えた横須賀石炭訴訟。国からの回答弁論はなく。

6月26日、横須賀石炭火力訴訟第4回期日が、東京地方裁判所で執り行われました。

新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、傍聴者数を定員の約1/4に制限して開催された今回の裁判では、前回に引き続き「裁判の正当性」について議論されました。

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裁判所に向かう原告、訴訟サポーターたち。

法廷では、原告代理人より、裁判の正当性として、(1)処分性、(2)原告の適格性、について、再度強調した形で主張されました。主張は15分以内にという裁判官からの要請があり、限られた時間の中ではありましたが、上記2点の妥当性として、下記のように論点を整理されました。

 

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法廷での原告代理人の主張をもとに、筆者作成。

 

また、原告代理人は、被告の反論書類の提出が遅れており、それが裁判の進行に支障をきたしていることを指摘。被告は、提出書類の遅れの理由として、新型コロナウィルスによる業務形態のやむを得ざる変更をあげましたが、原告側は同様の状況下にもかかわわず、今回の期日への準備を進めてきたこと、そして、緊急事態宣言が発令された中においても横須賀石炭火力の新設工事は通常通り進行していた点をあげ、被告の主張の妥当性を問いました。しかし、原告側の主張は虚しく、書類提出の期限の前倒しはかないませんでした。

 

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閉廷後、手短に原告代理人の小島弁護士より、今回の裁判についてお話いただきました。

 

7月8日(水)14:00〜15:00に、オンラインにて、過去4回の期日を含めた横須賀石炭火力訴訟の報告会を実施します。参加ご希望の方は、こちらよりお申し込みください。

また、次回期日は、10月14日(水)14時から、東京地方裁判所で開催の予定です。

 

気候変動は待ったなしの状態です。「気候危機」という言葉が閣議決定に盛り込まれ、今月12日には、環境省も気候危機を宣言したばかりです。また、次回期日までの4ヶ月の間では、昨年や一昨年同様、巨大台風による被害も予想されます。10年後、20年後に、多くの命が失われたり、財産が奪われたりするような深刻な被害の増加を食い止めるには、「締め切りまでに間に合えば良い」というような悠長な概念は通用しないはずです。

FoE Japanは引き続き、横須賀で建設が進む石炭火力発電所の建設中止を求める人々とともに、石炭火力に依存する社会からの脱却のために尽力していきます。

(高橋 英恵)

*横須賀石炭訴訟についてはこちら:https://yokosukaclimatecase.jp/

*「石炭火力の電気はいらない!」事業者JERA(東京電力・中部電力の合弁会社)へのアクションはこちら!

→おうちのでんきから未来を変える!パワーシフト・キャンペーン

→横須賀の石炭火力発電所建設計画の中止を求める署名

 

*横須賀石炭火力の中止を求める若者たちFridays For Future Yokosukaも活躍中!最近の活躍についてはこちら

2020/6/8 「Fridays For Future Yokosukaからの手紙に小泉環境大臣が言及」東京新聞、朝日新聞

2020/6/26「小泉環境相、学生と意見交換 横須賀の火力中止要望には…」神奈川新聞

「自然を元に戻してほしい」横須賀の漁業者を取材して

1月21日、横須賀石炭火力訴訟の原告団長と弁護士とともに、裁判への意見陳述の準備のため、横須賀で漁業を営む方を訪問しました。

その漁師さんは視突漁(箱メガネで海の中を覗きながら、銛や網を用いて魚介を獲る漁法)を営んでおり、今回、その漁場の一部を案内くださいました。

船で漁場に向かい、海底を箱メガネで覗いたところ、海底の砂がよく見え、ところどころにウニが見られるような状況。

海底の皆で交互に見ている中、「何も見えないでしょ?」と漁師さん。

彼の言葉に戸惑う私達に、漁師の方はこう続けました。

「昔は、この時期になるとカジメやアラメとか、海藻の芽がこの辺り一帯に芽吹いていたんです。でも、10年くらい前から少なくなって、この2年で激減。今年なんか、このように、もう100%なくなってしまった。」

アラメやカジメなどの海藻の芽吹いていた時は、岩場が真っ黒になっていたそうです。しかし、現在は、海藻のようなものは一切見当たらず、岩肌が見え、ウニしか生息しないような状態に。地上で例えると、土地が砂漠化し、木が生えてこなくなってしまう状態と一緒だとおっしゃっていました。つまり、東京湾では既に、”海の干ばつ”が起きているともいえます。

海藻がなくなることは、貝や魚の住む所が失われることと同じです。

また、そのような環境で生息しているウニにとっても十分な食糧が無いため身は無く、商品にできないとのこと。ウニもギリギリで生きているので、海藻の種を植えても、ウニに食べられてしまうそうです。

天気の変化においても、この地域では今まで冬になると西風が吹き、それによって岩場が洗われ、海藻が芽吹く土壌が形成されるとのこと。しかし、風が吹かず、そのサイクルがなくなってしまったのではと漁師さんは言います。

「海が死んでいる」

漁師さんはそうおっしゃっていました。

東京に住んでいると、気候変動や環境汚染の影響は分かりにくいと思います。

しかし、自然を相手にする漁師さん。天候や海の状況、すべてが昔と同じ感覚では考えられないとのこと。

このような変化の原因が気候変動によるものかはまだ解明されていません。しかし、海の環境が年々悪化しており、そのせいで、江戸時代から受け継がれてきた方法で海藻をとり、生活をしてきた漁師さんの生きる術が失われつつあることは確かです。

「自然を元に戻してほしい」

それが彼の願いでした。

横須賀石炭火力新設を問う行政訴訟は2019年5月に提訴。2019年10月2日2019年12月23日と裁判が行われました。

次回期日は3月23日(月)14:00~、場所は東京地方裁判所(東京・霞ヶ関)です。裁判後、同裁判の報告会を会場近くの日比谷図書館にて開催します。

法廷に入廷できなかった場合も、裁判の様子はこちらの会にて裁判の報告をさせていただきますので、ぜひご参加ください。

報告会の申込みは、下記webサイトに掲載の予定です。
https://yokosukaclimatecase.jp/

FoE Japanは、引き続き、原告および訴訟サポーターのみなさまとともに、石炭火力の新設計画中止を求めて活動してまいります。

   (鷹啄りな・高橋英恵)

   

【日々のくらしの裏側で – vol.2】過去の経験から未来へ。あの公害を繰り返したくない。

都心から近く、海と山に囲まれた地域ということで移住者の多い三浦半島。

その三浦半島の一端である横須賀市久里浜に「(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機建設計画」の建設が計画されています。

この建設計画は、東京電力フュエル&パワー(株)と中部電力(株)が共同出資して設立した(株)JERAが、横須賀火力発電所内の発電設備を撤去し、新たに設備容量65万kWの石炭火力発電設備2基を建設するものです。

現在、環境影響評価法等に基づく環境アセスメントの手続きが進められていますが、長期計画停止していた既存設備の更新と位置づけられ、環境負荷の実測値との比較が行われない等の課題を抱えており、既存設備解体工事は住民への説明も不十分なまま既に進められています。

そのような中、2017年4月、この問題について考える市民団体、横須賀石炭火力を考える会が発足しました。この一年間、横須賀だけでなく逗子や三浦、鎌倉で横須賀石炭火力の問題についての学習会を開催してきた、同会代表の鈴木陸郎さんにお話を伺いました。

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(横須賀石炭火力を考える会、鈴木陸郎さん)

 

この横須賀の石炭火力発電所の建設計画はどのような経緯で知ったのでしょうか?

“発電所ができるらしいよという話を聞いたんです。それで、いろいろ調べたらやっぱりそうだったということでした。それまで石炭火力はあまり意識したことがなかったので、どんなものになるかってことをまず知ろうとして、経産省外郭団体の研究所の方に横須賀に来ていただいて、いろいろ話を伺ったのが最初でした。そこで、石炭火力に頼らなくとも電気は十分足りると、しかも節電とか、再生可能エネルギーで十分やっていけるという話を伺った。その時先生が強調されたのが印象的でした。というのも、節電というと「我慢」ということをよく言うでしょ。でも、そんなに我慢しなくとも節電は可能だということを話されて。だから、生活の水準を落とさずに節電と再生可能エネルギーで産業もやっていけるし、私たちの暮らしも十分エネルギーが足りるという話をされたんです。ふりかえって横須賀の計画のことを考えると、これは必要のない火力発電所を作る計画だということだと。その間に温暖化の問題があるし、大気汚染物質が出るということも同時に学んで、じゃぁ横須賀で何かしなきゃというのでみんなで相談して、それから半年ぐらいかかって、今の考える会(横須賀石炭火力を考える会)をみんなで立ち上げたと。こういうことです。”

 

具体的に横須賀発電所の計画はどのようなものか、教えていただきました。

“ここはもともと石油を燃料にした発電所があったんです。作られてから、40年50年以上経って施設が古くなって、長期の計画停止となり全く発電しなくなってからしばらく経っているんです。その古い発電所を解体して、新しく発電所を作るんですけれど、その燃料を今度は石炭に変え、石炭火力発電所として作ろうとしているわけです。

今、世界的に見ても、石炭火力というのは温暖化ガスの問題があって廃止していくという状況にも関わらず、石炭を燃料にしようとしているんですよ。しかも、65万キロワットの発電所を2基作る。2基合わせて130万キロワットになるわけですけれど、130万キロワットというのは大型の原子力発電所と同じぐらいの能力を持つ、そういう大きな発電所なんですね。電気が足りないかというとそうでない。十分電気が足りているのに、燃料を石炭にして、ここに発電所を作ろうとしているわけなんです。” 

 

電力が十分に足りている。それなのに、なぜ新しい発電所を、しかも、世界に環境対策に逆行するような石炭を燃料とする発電所がなぜ建てられるのか。その理由を尋ねると、次のような答えが。

なぜかというのはよく聞かれます。けれど、それはやっぱり、現時点で石炭が燃料として一番安いからなんですね。一番安い燃料で作れば、安い電気ができると。電力自由化の中で、事業者は競争にさらされているわけですから、競争に打ち勝つだめには、安い電気を作ると。こういう事情で石炭を選んでいると思うんですけど。果たして、石炭がいつまでも安い燃料かというともうそうでない。自然エネルギーの方がコストがずっと安くなっていくというのが世界的な流れになっていますので。必ずしも、今事業者が考えているように、石炭が安い電気を作る燃料ではない。これからそういう時代になってくる。別に発電することに反対しているわけではないの。ただ、環境的にも、経済的にも問題がある発電所を作るということを、問題と考えているわけです。”

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(現在解体作業中の横須賀火力発電所。振り返るとすぐ目の前にマンション、新築の戸建が経つ。)

アセスメントの制度が十分に整っていない時期に当初の発電所が建設されたからか、建設予定地のすぐまわりにはたくさんの住宅が。この横須賀計画について、近隣住民の反応はどうなのかというと、そもそも計画を知っている人がほとんどいなかったそうです。そればかりか、たとえ知っている人がいたとしても、次のような反応だったそう。

“たまたま知っている人がいても、高効率のいい、新しい技術の発電所が作られるのだから問題ない、という受け止めだったんです。ですけども、知らないという方が圧倒的に多かったという状況自体といいますか、これだけのものを作ろうというのに事業者は周りの住民に知らせないというのはどういうことなんだろう、ということを最初の頃はよく考えました。”

 

計画のことを知ったとしても、「そうなんだ」と終わってしまう人が多いのが、悲しくもこのご時世。無関心の多い中で、どうして会を立ち上げようと思ったのでしょうか?

“どうしてと言われても困ってしまうのだけれど、私達の年代からすれば、いわゆる公害問題を経験している。私自身は公害で健康を害したということはなかったですけど、そういう悲惨な状況を同じ世代が経験しているわけですよ。それで、公害問題が起こったときも、「公害対策にお金をかけたら産業が大変になっちゃうからほどほどに」という議論があって、それと非常によく似た論理で温暖化問題が言われているわけですよね。節電すると電気をいれなくなるだとか。非常に似た構造だと思ったんです。そうなると公害問題をそれなりに経験してきた立場からすればほっとけないという気持ち。このままの社会を残したら持続ができないというのがはっきりしてきているじゃないですか。それを私達の世代が作ってきたわけでしょ。それをそのまま残していいのかというのがやはり問われる。そういう気持ちがあったんですよね。だからできるときにできることをやらないと。やっぱり後悔するかなという思いで。”

 

公害問題をそれなりに経験してきた立場からすれば放っておけないという鈴木さん。放っておけないと思うほどの公害は、実際どのような経験だったのでしょうか。

“若いときに川崎に住んでいました。その時の川崎というと、もう公害の街と言われていたんですね。まだ完全に公害がなくなっているわけではないんですけども、やっぱり公害問題を克服したまちというか、今は若い人にすごい人気のあるまちになっていますよね。

川崎にいた頃は工場から出てくる煤塵がうちの中まで入ってきてね、朝出ていって、帰ってくると、テーブルの上がザラザラするというような、それぐらいひどい時代があったんです。

それからもう一つ、東京も昔は自動車の排ガスがひどいときがあったでしょ。幹線道路の沿線で喘息とか、公害病になる人が非常に多かった時期があった。その頃、私の甥なんですけど、東京の大学に来ているときに喘息を患って、公害認定患者になったんです。もう亡くなったんですけどね。当時、東京では暮らしていけないというので田舎に帰ったんですけど、その喘息がとうとう治らなくて、何べんも発作を起こして緊急に入院したり、それから喉を切開して人工呼吸をやったり。そういう非常に悲惨な状況で暮らさざるを得なかった。その甥はサッカーの好きな子で、とても身体の丈夫な甥っ子だったんですけどね。そういう公害病の恐ろしさというのは自分の身内にもいたということでね。本当に目に見えないですから、大気汚染物質というのは。目に見えないのに病を起こすというそういう経験もあって、そういう思いは他の人にしてほしくないというのはとても強く思っています。”

 

「放っておけない」という鈴木さんの想いから始まった横須賀石炭火力を考える会。会を立ち上げてからは何をされてきたのでしょうか?

“一番多いのは学習会。何回も重ねましたし、それから横須賀の会が立ち上がったときにちょうど千葉県の蘇我、袖ヶ浦の方でも同じような運動をしているということを気候ネットワークの方を通じて知って、同じ問題抱えているのなら、連絡会のようなものを作って、いろいろ情報交換すれば運動に役に立つのではないかということで、それから1ヶ月か2ヶ月くらい後に、東京湾の会(石炭火力を考える東京湾の会)立ち上がったわけです。そこで、一緒に環境省への申し入れをしたり、それぞれの事業者に直接申し入れをしたりしてきました。”

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(写真:三浦のセミナーで計画の概要を説明をする鈴木さん。)

 

活動していての感触について尋ねると、

“環境省の担当者の方たちは環境問題に熱心でね、温暖化の問題をこのまま放置してはだめだという思いが共通していて、お互いに頑張っていきましょうというようなやり取りをしたことはとても印象的でした。ただ、アセスの審査会を何度も傍聴したとき、その審査会の先生方が非常に頑張っていらっしゃるのはよくわかるんですけど、なかなか審査員の先生方と私達との間で情報交換ができていなくて。審査会で私たちの声をもう少し反映できたらなという思いは今でもあります。そういうつながり研究者とのつながりをもっと早くからつくることが出来ていれば、と。あと、事業者には私たちの力が及ばないなと常々感じますね。事業者の方はやっぱり事業ですから利益が上がるということを目指してやっているわけですから。けれども、それでも今は事業者への働きかけを強めなきゃいけないのかなという感じを持っています。”

 

横須賀の会の活動の働きかけもあり、近隣住民のこの問題に対する周知は高まったそうです。

 “事業者は近隣住民に説明する責任がもちろんあるから、環境アセスメントの書類(注1)を提出するたびに説明会を開くわけ。でも、環境アセスメントの方法書が提出されたときに説明会が実施されたんですけど、参加したのは30人くらい。2か所合わせて60人か70人くらいしかいなかったんです。そして、次に環境アセスメントの準備書が提出された。できるだけ多くの人に計画を知らせるというのは事業者の役割ですけれども、この時は私達も住民に呼びかけて。そうしたら全体で410名も集まって、会場が溢れて、第2会場、第3会場を準備しなくてはいけないような状況になりました。質問時間も1時間くらいしか用意していなかったのに、さらに延長1時間半というほどになりました。そういう状況を作ったというのは、それなりに関心がやっぱりあって多くの人が集まってきたと思います。“

 

これからどのようなことをやっていこうとしているのでしょうか?

“これからやらないといけないこと、たくさんあるんです。準備書が出されて、それで、環境大臣がそれの準備書に対する意見を出しているんです。これはとても厳しい意見です。いまでさえ、今運転している石炭火力発電所も止めなきゃいけないほどのCO2を出しているわけですね。減らさなきゃいけない状況の中で、新しく作るっていうのは、30年とか40年、CO2を出し続けるということになってしまうでしょ。世界的に見れば石炭火力はやめましょうという時代なのに、先進国がやめるときに日本がピークを迎えるというような、そういう状況ですから、やっぱりいろんな人にまだまだ訴え続けてですね、やらなきゃいけないことはまだいっぱいあると思っているんです。事業者に対してもやはり環境大臣があれだけ厳しい意見を出しているのに、事業者がそれに対する答えを出して、公表するという場面がないんですね。ですから、そういうこともこれから事業者に対して聞いていく必要があるかなというふうに考えています。”

 

最後に、この活動にかける想いを聞きました。

“横須賀というのは本当に温暖な気候で、とても住みやすい場所なんですね。そういう場所でありながら米軍の基地があって、その他にこういう石炭火力の発電所ができるなんていうことになると、非常にこう、環境の恵まれた町がいわば財産を失っていくみたいな、そういうことになる。ですけれども、やはりそうでなくて、自然豊かな町で、それを求めて都会からも多くの人が横須賀に移り住んでくれると。そういう時代になるというふうに思いますのでね、東京湾の側もいいところですし、相模湾の方も、そこなんかは本当に景観も優れているし、気候も本当にいいところですので、そういう町にずっとしていきたいというふうに思っています。

今はまだこの計画を知らない人も多いけれど、とにかく話を聞いてもらえれば、理解してもらえる話ではないかな。昨日の三浦での勉強会でも、「電気がたくさんあった方がいいんじゃないか」という質問があったけれど、あの方の気持ちからすれば、電気というのは余裕を持っていっぱい持っていれば、何かあったときにちゃんと電気が供給できるじゃないかと、だから発電所はいっぱいあったほうがいいと。そういう意味でおっしゃっていたのかなと思いました。やっぱりそういう人多いと思うんですよ。当然だと思います。だから不自由なく暮らしているわけなのでね。でも、そういうことは起こらない。ここに石炭火力をつくらなくとも、そういう問題は心配しなくともいいということも知らせたい。ここに新しく石炭火力発電所を作ることによって30年40年、温室効果ガスを出し続けるということになると、世界中で石炭火力がなくなってしまったときに、日本だけがそういうことをずっと抱えているということになったら、いろんな面で支障があると思うんですね。だから、世界の流れから見ても石炭火力をやめることは当然のことなので、理解してもらえると思っています。とにかく、反対運動のようにだけとられちゃうと、その入口でシャットアウトされちゃうんでね、だからそうでない、ポジティブな、例えば再生可能エネルギーをどんどん増やしましょうというメッセージと一緒に、石炭火力はそういう意味ではブレーキをかけるし、時代遅れになってしまうよという、そういう形で伝えていけば、どんどん受け入れてもらえるというふうに考えていますね。”

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(公園から建設予定地が一望できる。計画では、遠くに見える海を隠すように、発電所が建設される予定となっている。)

 

鈴木さんの描く横須賀の未来像。それは、鈴木さんだけでなく、横須賀の人々全てが描くものなのではないでしょうか。

その一方、建設予定地を視察した際に痛感したのは近隣住民の無関心。発電所のすぐ隣には、建設されてから日の浅そうなマンションや、新築の戸建てがありました。そのマンションの前の通りに立ってみると、途切れることなく響く解体工事の音。また、現在はまだ旧発電所の解体段階であるものの、石炭火力発電所が稼働した場合には、多くの排煙を浴びることになりそうです。そのような状況にも関わらず、建設予定地周辺には、建設計画に対する反対のバナー、のぼり等は全く見られないという風景。

 

横須賀石炭火力を考える会のfacebookでは、石炭火力発電所問題について積極的に情報発信しています。ぜひ、フォローしてみてください。

(高橋英恵)

 

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・動画:「日々のくらしの裏側で〜神奈川県横須賀市久里浜

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・インタビュー記事:「【日々のくらしの裏側で ーvol.1】横須賀石炭火力発電所建設計画への地元高校生への目線

 

(注1)環境アセスメント(環境影響評価)とは、大規模な開発事業などを実施する際に、事業者が、あらかじめその事業が環境に与える影響を予測・評価し、その内容について、住民や関係自治体などの意見を聴くとともに、専門的立場からその内容を審査することにより、事業の実施において適正な環境配慮がなされるようにするための一連の手続きをさす。事業の開始に当たっては、配慮書、方法書、準備書、評価書の4段階をふむ必要がある。詳細はこちら