【横須賀石炭訴訟報告 vol.9】環境省も指摘していた!?環境アセスメントの不備

本日、横須賀石炭火力訴訟の第9回期日が行われました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。

(裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

原告含め約40名の傍聴者が参加した今回は、千葉弁護士から、環境省の文書から判明した経済産業省との本件アセス(横須賀石炭火力行政訴訟の対象となっている石炭火力発電所の建設に係る環境アセスメント)に関するやりとりについての意見陳述があり、その後、小島弁護士から本訴訟全体の要点に関する陳述が行われました。

環境省も指摘していた!?環境アセスメントの不備

千葉弁護士から、環境省の文書から判明したこと(原告準備書面16)に関する意見陳述がありました。

火力発電所の建設に係る環境アセスメントには、配慮書、方法書、準備書、評価書の4つのステップがありますが、環境大臣は配慮書と準備書の段階で経済産業省に意見を提出することができます。

出典:https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/pdf/015_10_00.pdf

横須賀石炭火力行政訴訟の対象となっている石炭火力発電所の建設に係る環境アセスメントの期間中、環境省が経済産業省に対し100項目以上もの質問をしていたことがわかりました。

環境省の質問の例として、

「天然ガス火力などの燃料の複数案が考えられるが、最終的に石炭火力としたのはなぜか?」

「重大な環境影響がないと判断するに至った過程を示してほしい」

「リプレースというが、改善どころか悪化するのでは?環境アセスメントに記載されている”現状”の意味をしっかり明記せよ」

など、まさに、現在行われている裁判で原告代理人が指摘していることを、環境省も環境アセスメントが行われているときに指摘していたことが判明しました。

これらの環境省の質問や意見に対し、経済産業省からの回答は事業者の利益を守るような回答が多く見受けられました。(詳細は、後日、横須賀石炭火力行政訴訟のHPに掲載される迅美書面16をご覧ください。)

繰り返し指摘される気候変動の深刻さ

小島弁護士からは、改めてこの環境アセスメントの問題点や石炭火力発電所がもたらす影響についての陳述がありました。本訴訟全体の要点として、

  1. 原告らの生命、健康、住居などの財産等への危機が差し迫っていること
  2. 発電所の稼働は多大な温室効果ガスの排出をもたらし、原告らの生命、健康、住居などの財産、食料の危機など、深刻な危険を増大させ、より切迫させること
  3. CCSやアンモニア発電は稼働させる理由にならないこと
  4. 石炭火力を発電させなくても、電力不足にはならないこと
  5. 本件アセスメントの手続きは多くの重大な瑕疵があり、その手続きの不適切さが著しいこと

の5つにまとめられました。

気候変動の影響は、気候危機と呼ばれるほどに深刻化しています。人間への影響として、日本でも今年すでに多くの方が豪雨災害の被害をうけ、8000人の方が熱中症で救急搬送されています。また、インフラへの影響も深刻で、本行政訴訟の対象となる石炭火力発電所が建設される横須賀市でも、2021年11月9日に豪雨により道路が冠水し、3年前にも市内で道路の冠水が起きています。国外でも、気候変動の影響は深刻です。オランダの最高裁判所やフランスの行政最高裁判所などでは、気候危機を危機として受け止めた判決が出てきており、ドイツの連邦裁判所については、「気候危機は壊滅的で終末的な規模の環境破壊である」と、気候危機は深刻な問題であるとの認識を示しているそうです。

CCSやアンモニア混焼技術を用いたとしても、上述のように気候変動による影響がすでにある中、気候変動の原因であるCO2を追加的に排出させることは許されないこと、エネルギー消費量の削減など適切な政策措置が取られれば石炭火力を稼働させなくても再生可能エネルギー100%の実現は可能であること、そして何より、この石炭火力発電所に係る環境アセスメントの手続きが不適切であることを強調されました。

迫力のある意見陳述が2名の原告代理人からありました。

しかし、第9回期日も、冒頭では被告からも陳述を行うことが確認されたものの、原告代理人の陳述のみで終わり、もどかしさの残る裁判でした。

次回期日のご案内

本日の裁判の報告会は、12月21日(火)18:30〜19:30にオンラインにて開催されます。

申し込みはこちらです。

▼第9回期日 オンライン報告会(12月21日)

https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_KQqcIZ-SRyWBG1TAAPWJqQ

次回は、代理人だけでなく、原告の意見陳述及び尋問があります。ぜひ、原告の生の声を聞きにいらしてください。

▼次回の期日日程はこちら(傍聴前に、こちらで確認の上、お越しください)

2022年2月21日(月)13:30〜@東京地方裁判所第103号法廷

*2022年3月7日(月)10:30〜@東京地方裁判所第103号法廷(2/21に意見陳述の都合がつかなかった原告の意見陳述が予定されています。)

COP26でも、石炭火力の段階的削減が合意されました。日本は先進国として、石炭火力から脱却することが求められています。

FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や発電所建設の中止を求める地元住民、市民とともに、日本の脱石炭を求め活動していきます。

(髙橋英恵)

「地元の石炭火力のこと、もっと多くの人に知ってほしい」横須賀市民アンケート(後編)

今年4月、横須賀市と三浦市内の6つの地域で、それぞれの地域に住む住民の方の手によって、気候変動や石炭火力建設についての意識を調査するアンケートが行われました。

今回は、アンケートに関わった大木さん(野比在住)、竹渕さん(岩戸在住)にお時間をいただき、なぜアンケート活動を実施しようと考えたのか、アンケート活動を進める中でのエピソード、そしてこのアンケートに込める思いを伺いました。

(アンケートの結果については、「横須賀市民アンケート(前編)「約64%の方が石炭火力建設反対」をご覧ください。)

アンケート活動のきっかけを教えてください

大木さん

「2020年11月、コンビニの中でばったり、2年ぶりくらいに岸さんという友人に会ったんです。そこで10-15分立ち話をして。その時に、彼女から石炭火力が新しく作られていることを知ったんです。大昔に石炭火力があったのは知っていたんですが、新しい石炭火力がたつとは知らなかった。そのあと、新聞などで自分で調べていくうちに、石炭火力を止めるための訴訟をやっていることとか、全国の石炭火力発電所のあるところでアクションがあることを知ったんです。グレタの言葉も知って、なんとかしないと、と。あと、私はずっと楽器店で働いていて、音楽教室の運営をしていたのですが、コロナの影響で仕事がなくなってしまって。今年に入って仕事を探していたけれど、なかなか見つからない。でも、この石炭火力のことをもっと多くの人に知って欲しいという気持ちも強くて、とりあえず多くの人に知ってもらうために時間を使おうと思ったんです。。というのも、自分が岸さんから石炭火力の話を聞いたとき自分が石炭火力を知らない人間だったので、知らない人がいっぱいいるのではと。

竹渕さん

「石炭火力については、前から横須賀火力建設を考える会(横須賀石炭火力問題について活動している団体)の内藤さんからよく話を聞いていて、逗子でのイベントにも参加したりしていました。何か力になりたいと思い、途中から原告にもなっています。でも、石炭火力についての危機感をもっと強くしたのは、2020年1月の野比での気候変動の勉強会。COP(気候変動に関する国際会議)やグレタの話を聞いて、本当に止めないといけないんだと感じたんです。何かできないかと色々考えていた時に、ハイランド(横須賀石炭火力発電所の建設地の近くの地域)での石炭火力についての意識調査アンケートを知って。でも、このアンケートがハイランドだけで終わったらまずいと思い、アンケートを広げないかと仲間に相談して、そこでやろうということになりました。」

どのようにアンケートを進めたのでしょうか?

大木さん

「1月半ば、アンケートをやりたい人たちで集まりました。その時は、野比、岩戸、佐原の3地域から集まり、まずは自分たちの住んでいる地域で広めようと。でも、地元の知り合いに声をかけてみたら、他にもやりたいという人が増えてきて、バラバラでやるのはもったいないと思ったので、まとまってやろうということになりました。2月半ばには、横須賀火力建設を考える会とも一緒にやろうということになって。アンケートを始めようとした時は3地域30人くらいだったのに、進めていくうちに6つの地域(野比、岩戸、佐原、長沢・津久井・グリーンハイツ、三浦、その他横須賀市内)で112人になったんです。たくさんの人が関わってくれるのはとても嬉しくて。」

アンケート活動の中での苦労はありましたか?

竹渕さん

「私は岩戸に住んでいるので、岩戸でのアンケート活動をしていました。石炭をどうにかしたいと、自発的に25人くらいが集まったんです。10代も3人いたし、80代の方も孫のためになんとかしたいと主体的に関わってくれました。また、初めてこのような活動をするという人も2人加わってくださったんです。とはいえ、アンケート用紙を地元でポスティングすることは、みんなにとってハードルの高いものでした。2つのハードルがあったと思っていて、一つは高齢化。体力的な問題で、階段の多くある世帯などにはポスティングをあきらめました。

もう一つは人の目。「出るくいは打たれる」でないけど、周りがやっていないことへの抵抗は大きかったのだろうなと思います。どれほど彼女たちにとってチャレンジングだったか。」

アンケート活動中の思い出は?

大木さん

「地元のパン屋に買い物に言った時、『アンケートお疲れ様。絶対反対。協力します』とパン屋のオーナーさんがコメントしてくれたこと。あ、見てくれている人がいるんだ!って思ったんです。」

竹渕さん

「直接手渡しできた人には対話ができて、思いが同じとわかったときは嬉しかった。もっとこのアンケートを大きくしなきゃ、と大きなモチベーションになった。知らなかった人に知ってもらえるっていうのはやりがいとして大きかった。」

4000通以上もの回答がありましたが、集計中に気づいたことや感じたことはありますか?

大木さん

「自由記述が多かったのが印象的でした。野比のあるアンケートには、筆圧強く「がんばれ」とかいてくれている人もいたんです。また、アンケートの回答用紙と一緒にカンパもくださる方も。読みながらうるうるしてしまいました。見てくれている人がいる、このアンケートの声を国まで届けに行かなくちゃと。横須賀出身の小泉大臣に直接読んで欲しい。あと、アンケートを配っていない地域でも、アンケートの結果を伝えたい、世論を作りたい、国が無視できないくらいに。」

竹渕さん

「岩戸では高齢者が多く、パソコン作業をあまりやったことがない人が多かったけれど、パソコンでの打ち込み作業を紹介し体験もしてもらいました。そして出来上がった集計結果と自由記述はアンケートを配って回ったみなさんと共有しました。自由記述のコメントの中には、元気の出るコメントもある反面、凹むコメントもありました。懸念していることは、『ゼロカーボンになるからいいじゃない』という考えが広がること。とても怖く感じています。解決策は自然エネルギーだということを伝えたい。2050年にCO2排出ゼロになっていればいいというのは遅い。どうにかしたいと思いましたね。」

横須賀は将来、どのようになっていくことを希望しますか?

大木さん

「私は横須賀で生まれ育った。故郷なので、住み続けられる海とか山とか、自然の恵みを未来の子どもたちに引き継ぎたい。横須賀は自然が豊富。横須賀や三浦半島にあった自然エネルギーの方法を探して、地産地消や地域産業として成り立つような使い方があるはず。」

竹渕さん

「大木さんの言う通り、今のままだと横須賀のいいところが活かしきれていないと思う。野比には研究開発の先端地域として大企業の研究機関が来ているけれど、自然エネルギーの研究開発拠点になれば、自然エネルギーのモデル都市にもなれるはず。そうすれば、誰もが住みたくなるのでは。」

最後に

新型コロナウイルスの感染拡大予防のために大きな集会などが実施できない中、一人一人が地域の各戸に自分の足で歩いてアンケート用紙を配っていくという改めて地域で運動することで生まれる連帯感の強さを感じました。

大木さん、竹渕さんのお話を伺う中で、「地元で作られている石炭火力について、皆で考えたい」という思いが伝わってきました。行動が制限される中であるにもかかわらず、自らの足で配布した122人に敬意を評したいと思います。

FoE Japanでは引き続き、石炭火力の建設中止を地域住民の方と共に求めていきます。

(高橋英恵)

「約64%が石炭火力建設反対」横須賀市民アンケート(前編)

今年4月、横須賀市と三浦市の6つの地域で、それぞれの地域に住む地元住民の方の手によって、気候変動や石炭火力建設についての意識を調査するアンケートが行われました。

今回は2回にわたって、第一回はアンケートの結果を、第二回はアンケートに関わった地元の方の声を紹介します。

回答者の3割、いまだ石炭火力新設を知らず。

アンケートは3月下旬から4月上旬にかけて配布され、4月20日が回収締め切りでした。

配布地域は建設地に近い久里浜、野比、北下浦、岩戸を中心に横須賀市全域と三浦市です。

配布数は 25,620 枚、回収数は 4,074 枚、回収率 15.9%でした。

アンケートの質問は、下記の5点です。

1. 久里浜で石炭火力発電所が建設されていることをご存知ですか?(知っていた/噂程度に知っていた/知らなかったから3択)

2.石炭火力による、温暖化や気候変動への影響をどうお考えでしょうか?(影響ない/影響あり/わからないから3択)

3.石炭火力による、健康や生活環境への影響をどうお考えでしょうか?(影響ない/影響あり/わからないから3択)

4. 石炭火力発電所建設についてどうお考えでしょうか?(建設すべき/やむをえない/建設反対/わからないから4択)

5. 将来の望ましいエネルギー源は?(原子力/石炭、LNG、石油/再生可能エネルギー/わからないから複数回答可)

結果、久里浜で石炭火力発電所が建設されていることを知っていたのは45.2%、噂程度に知っていたのは25.1%、知らなかったと回答したのは29.7%でした。建設を知らなかったとの回答が3割弱あり、周知の徹底ができていなかったことが伺えます。

また、石炭火力が気候変動に影響があると考えている方も80%近くおり、健康や生活環境への影響についても、影響があると考える方が約75%いらっしゃいました。

気候変動や生活環境への影響を聞いた上で、石炭火力発電所の建設の可否について考えを尋ねたところ、4.7%の方が建設すべき、約20%の方がやむをえない、約64%の方が建設反対、残りの約11%はわからないとの回答でした。

最後の将来の望ましいエネルギーについては、再生可能エネルギーが全体の約77%、化石燃料や原発を選んだ方それぞれ全体の約8%いらっしゃいました。

自由記述欄の記入数が 1755 通

また、自由記述欄への記入数が 1755 通、回収数の 43.1% と半数に近くもあり関心の高さが示されました。

例えば、問4で「建設すべき」と回答された189名中120名から自由記述に記入があり、「原発が信頼を失った以上、火力発電のほかない。再エネですべて賄えない」「再エネに頼るのはダメ。分散してリスクを低減すべき」「原子力よりましであると思う」「火力発電がなくては便利な生活を出来ない」といった意見が見られました。

一方、「建設反対」と回答された2568人中1166名と約45%の方が自由記述に記入があり、「世界の潮流に逆行」「アレルギーがあり大変不安。建設されたら横須賀から引っ越しを考える」「小泉環境大臣のお膝元このような計画が進行中とは嘆かわしい」「市民の知らないとことで工事が進んでいることに疑問を感じる。ショック。市民として悲しい。」などの意見でした。

また、「やむをえない」「わからない」と回答した人の自由記述は、「もう建設が進んでいる。今更反対しても止まらない」「具体的にどんな問題があるかわからない」というようなものでした。

現実とアンケート結果のギャップ

横須賀市内の石炭火力発電所の建設地域付近の地域や三浦市内の6つの地域で実施した今回のアンケートは回収率は約16%であるものの、回答者全体の6割以上が建設反対という結果となりました。また、石炭火力と気候変動の関係、石炭火力と生活環境や健康との関係に影響があると認識されている方も7割以上ということもわかり、住民の中にはこの事業に懸念を持っていることが明確になったことは、とても大きな成果です。

アンケートの自由記述にも、「環境大臣はなぜ地元の石炭火力を止めようとしないのか」「世界に逆行している石炭火力をなぜ今更作るのか」という声が多く見られました。一方、「再生可能エネルギーだけでは不安定なのでは」「建設が進んでいる以上もう止められない」と悲観的なコメントもありました。地域住民の声を聞かずに建設を進め、諦めを感じさせるやり方には、憤りを覚えます。

また、横須賀石炭火力発電所の事業者であるJERAは昨年10月に「JERAゼロエミッション2050」をうちだし、2030年までに発電原単位あたりのCO2排出量を20%減、2040年までにアンモニア専焼を目指すとしていますが、この横須賀石炭火力発電所をどのようにゼロエミッションにしていくのかは公開されていませんし、そもそもJERAが検討している化石燃料からアンモニアを製造する方法は、炭素回収貯留(CCS)という不確実な技術に頼ったもので、真の脱炭素燃料とは言えません。

さらに、今年6月に開催されたG7首脳会合においては、「石炭火力発電が温室効果ガス排出の唯一最大の原因である」ことを認識し、「国内的には、我々は、2030年代の電力システムの最大限の脱炭素化を達成すること、また、それを更に加速させる行動にコミットする」と明記しています。気候変動をさらに加速させる石炭火力を建設・稼働する余裕はどこにもないはずです。

後編では、アンケート活動に関わった方に、アンケートに至った経緯、活動に込めた想いを伺います。

(高橋英恵)

【横須賀石炭訴訟報告 vol.6】簡略化の不適切性、世界の気候危機対策との不整合を指摘

本日、横須賀石炭火力行政訴訟の第6回期日が開催されました。
新型コロナウイルスの緊急事態宣言の中での初の開催となり、今回は原告12名、傍聴も12名程度と過去最小人数の中で執り行われました。

「簡略化の不当性」

今回は原告代理人から「簡略化の不当性」「菅首相の2050カーボンエミッションゼロとの不整合」の二点、主張がありました。

原告代理人の千葉弁護士より、横須賀石炭火力発電所の環境影響評価(以下、環境アセスメント)簡略化の不当性について主張がありました。

前提として、環境アセスメントを簡略化できる条件には、

  • 既に十分に信頼できる環境影響評価の結果があること
  • リプレース(建て替え)の場合
    • 稼働している旧施設が新しい施設となった場合、環境影響が低減されること
    • 稼働している旧施設が新しい施設となる間に、空白期間がないこと

があります。「稼働している旧施設が新しい施設となる間に、空白期間がないこと」という条件は、計画立案時の環境と比較するべきという考え方があります。

しかし、今回の訴訟の対象となっている横須賀石炭火力発電所は、確かに旧火力発電所内ではあるものの、稼働時と計画立案時では空白期間があります。さらに、事業者JERAが実施した環境アセスメントでは、45年以上前に建設された旧施設稼働時のものと比較しています。

千葉弁護士は、「これらの事実から環境アセスメントの簡略化は不適切であると考えられる」と主張されました。

なお、簡略化した内容は、

  • 発電所からの温排水による海洋生物の影響
  • 大気汚染についての現地調査
  • 解体工事による影響の調査・予測

となっています。

「菅首相の2050カーボンエミッションゼロとの不整合」

次に、小島弁護士より、昨年10月26日に表明された菅首相の2050カーボンエミッションゼロとの不整合についての主張がありました。

小嶋弁護士は、菅首相の上記所信表明演説における「省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。」という発言や、12月25日のグリーン成長戦略での「電力部門での脱炭素化は不可欠」との記述を引用し、横須賀石炭火力稼働の不整合性を指摘しました。

また、そもそも、時系列的に考えて、横須賀石炭火力発電所建設計画の環境アセスメントの確定通知は国際的な気候変動の動向・政策に反することも指摘しました。

具体的には、横須賀石炭火力発電所建設はパリ協定締結後に計画されたこと、さらに、同建設計画の環境アセスメントの確定通知が出されたタイミングが、1.5度の気温上昇と2度の気温上昇ではその被害に大きな差があること、1.5度の上昇でも重大な被害があること、そして2030年までの取り組みが重要であることを指摘したIPCCによる1.5度特別報告書の公表後であることを指摘しました。

第6回の裁判の報告会は2月5日(金)18:00〜19:30にオンラインで実施します。
ぜひご参加ください。申し込みはこちら(事前要申込み・無料)

次からいよいよ被告の反論

次回は5月17日(月)14:00〜、東京地方裁判所です。

今回は被告からの答弁はありませんでしたが、次からいよいよ被告の反論が始まります。裁判官も今回の裁判で「できるだけ準備してくるように」と被告に言い渡しています。被告である経済産業省がどのように反論してくるのか、注目です。

とはいえ、裁判は非常にゆっくり進む一方、工事は着々と進んでおり、焦りを強く感じます。裁判の進み方に歯痒さを感じますが、原告の弁護団の小島弁護士、浅岡弁護士は、「企業や政府の対応などの社会の変化や市民の声の高まりは、必ず裁判に影響を与える。諦めずにいきたい。」と心強い言葉もくださいました。

FoE Japanでは引き続き裁判を応援するとともに、地域住民、若い世代と共に運動を盛り上げていきます。

(高橋英恵)

横須賀石炭火力訴訟について:https://yokosukaclimatecase.jp

過去の裁判の報告、横須賀石炭火力問題に関する活動についてはこちら

「地球の変化に気付いて」横須賀海苔漁師の声

9/11、横須賀市走水で海苔養殖業を営む方を訪問し、気候変動が漁にどれほどの影響を与えているのかを伺いました。お話くださったのは長塚良治さん。今から約40年前、19歳の時から海苔養殖に携わり、現在2代目として、代々受け継がれてきた海苔養殖を引き継がれています。

「海苔はとても温度に敏感。魚は泳いで逃げられるけれど、海藻には足がない。そこ(地盤、網)に掴まるだけ。自分に耐えられない温度になってしまったら、死に絶えるだけなんです」

海苔の養殖技術については、昭和40年代は海に立てた支柱に自然に繁殖した海苔を加工・販売する形が主流だったようですが、研究開発が進んだ現在は、陸上で海苔の種付けをし、海水温が海苔にとって最適な温度になったら海に入れ、成長を促す漁法を取り入れています。だいたい9月後半に海苔の種つけ(陸上採苗)をし、11月頃に海に入れるそうです。しかし、海の状況について、40年間海苔養殖をやってきた中で、ここ20年急激に温暖化の影響を感じていると言います。

「海苔の成長に一番良い水温は18度。だいたい22〜23度になったら海に入れるけど、ここ20年、海水温がなかなか下がらない。海水温が下がってきたかなと思うと、台風がきて海がかき乱され、水温が不安定になる。」

海水温の上昇の影響は、それ以外にもあると教えてくださいました。今までは水の冷たさのせいで冬の期間は海底でじっとしていた魚たちが、海水温の上昇で活動できるようになり、養殖中の海苔を食べてしまうという、魚による食害も起きているようです。魚の食害を防ぐための網を張るようになりましたが、労力やお金もかかると言います。

「地球で言ったらとても短い期間で、地球は急に悪化している。この悪化を、人々はどのように捉えているのかを考えると怖い。国の偉い人が、気候変動の影響を全くわかっていない気がする。」

また、気候変動以外にも、頭を抱える問題があると言います。

三浦半島東海岸、千葉県に向かって少し突き出たところに位置する走水では、多くのプラスチックゴミが海岸に流れつくそうです。

東京湾の海流の図(丸良水産HPより)

東京湾に流れ込む海流は、千葉県沖に沿って湾内に入り、神奈川県沖に沿って外へ流れていくため、東京湾西部で少し湾に出っ張ったところに位置する走水には、東京湾北部からやってきたゴミが流れ着くそうです。

「ここに住む人たちは故意に海にゴミを捨てたりしない。なのに、海岸にはゴミがたくさんある。ということは、海を伝って東京湾一帯から流れついてきたとしか考えられない。」

できるところから地球に優しい取り組みをしたい

プラスチックゴミをきっかけに、長塚さんは多くのことに取り組んでいます。

「最近始めたのは、レジ袋の紙袋化。他にも養殖を始めた海ぶどうは、再生紙のパッケージで売るようにした。また、これからは、お客さんが入れ物を持ってきてくれたら、商品の割増をするような取り組みも検討している。」

既に取り組みを始めている長塚さんですが、実は葛藤もあるそうです。

「海苔を乾燥する時は、機械を使うんだけれど、その機械は今まで重油で動かしていた。他にも、たくさんの電気を使っている。こういった仕事に使うエネルギーを、自然エネルギーに切り替えていきたい」

「出荷用の容器も気になっている。今の海苔は段ボールの箱を使って発送しているが、一回使っておしまい、というのが当たり前で、とてももったいない。再利用させて欲しいけれど、なかなか難しい。昔は木の箱を使って魚を市場に送って、空いた箱を回収してまた詰めて、みたいにやっていた。もう一度、昔のやり方でやってもいいのではと思うけれど、そうすると魚の鮮度が落ちてしまう。発泡スチロールでの出荷になってから、今の人は昔に比べて格段に美味しい魚を食べられている。なので、使い捨ての容器を使うことは心ぐるしいけれど、使い方が大切なんだと思う。」

今年1月に訪問した相模湾の目突漁師に続き、私たちの生活の根幹を支えてくださっている漁業従事者や農業従事者など、自然に寄り添って生きる人々が真っ先に地球の変化を感じ取り、また気候変動の被害を受けています。

気候変動の影響はすでに日本でも起きており、この変化を危機として受け止め、即座に行動を開始してかないといけないことを改めて感じました。

これ以上の気候危機を防ぐための具体的な行動として、日本の気候変動対策の強化に向けて声を上げること、そして、温室効果ガスを大量に排出する石炭火力発電所の新規建設の中止に向けて行動を起こすことは急務です。

FoE Japanは、気候変動がもたらす影響についての発信をいっそう強めるとともに、日本の気候変動政策の強化、今回訪問した地域のすぐ近くで建設が進む横須賀石炭火力発電所建設の中止を求めていきます。

(高橋英恵)

横須賀石炭火力事業についてはこちら

https://www.foejapan.org/climate/nocoal/yokosuka.html

第4回期日を迎えた横須賀石炭訴訟。国からの回答弁論はなく。

6月26日、横須賀石炭火力訴訟第4回期日が、東京地方裁判所で執り行われました。

新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、傍聴者数を定員の約1/4に制限して開催された今回の裁判では、前回に引き続き「裁判の正当性」について議論されました。

FOE_0565

裁判所に向かう原告、訴訟サポーターたち。

法廷では、原告代理人より、裁判の正当性として、(1)処分性、(2)原告の適格性、について、再度強調した形で主張されました。主張は15分以内にという裁判官からの要請があり、限られた時間の中ではありましたが、上記2点の妥当性として、下記のように論点を整理されました。

 

200626

法廷での原告代理人の主張をもとに、筆者作成。

 

また、原告代理人は、被告の反論書類の提出が遅れており、それが裁判の進行に支障をきたしていることを指摘。被告は、提出書類の遅れの理由として、新型コロナウィルスによる業務形態のやむを得ざる変更をあげましたが、原告側は同様の状況下にもかかわわず、今回の期日への準備を進めてきたこと、そして、緊急事態宣言が発令された中においても横須賀石炭火力の新設工事は通常通り進行していた点をあげ、被告の主張の妥当性を問いました。しかし、原告側の主張は虚しく、書類提出の期限の前倒しはかないませんでした。

 

FOE_0573

閉廷後、手短に原告代理人の小島弁護士より、今回の裁判についてお話いただきました。

 

7月8日(水)14:00〜15:00に、オンラインにて、過去4回の期日を含めた横須賀石炭火力訴訟の報告会を実施します。参加ご希望の方は、こちらよりお申し込みください。

また、次回期日は、10月14日(水)14時から、東京地方裁判所で開催の予定です。

 

気候変動は待ったなしの状態です。「気候危機」という言葉が閣議決定に盛り込まれ、今月12日には、環境省も気候危機を宣言したばかりです。また、次回期日までの4ヶ月の間では、昨年や一昨年同様、巨大台風による被害も予想されます。10年後、20年後に、多くの命が失われたり、財産が奪われたりするような深刻な被害の増加を食い止めるには、「締め切りまでに間に合えば良い」というような悠長な概念は通用しないはずです。

FoE Japanは引き続き、横須賀で建設が進む石炭火力発電所の建設中止を求める人々とともに、石炭火力に依存する社会からの脱却のために尽力していきます。

(高橋 英恵)

*横須賀石炭訴訟についてはこちら:https://yokosukaclimatecase.jp/

*「石炭火力の電気はいらない!」事業者JERA(東京電力・中部電力の合弁会社)へのアクションはこちら!

→おうちのでんきから未来を変える!パワーシフト・キャンペーン

→横須賀の石炭火力発電所建設計画の中止を求める署名

 

*横須賀石炭火力の中止を求める若者たちFridays For Future Yokosukaも活躍中!最近の活躍についてはこちら

2020/6/8 「Fridays For Future Yokosukaからの手紙に小泉環境大臣が言及」東京新聞、朝日新聞

2020/6/26「小泉環境相、学生と意見交換 横須賀の火力中止要望には…」神奈川新聞

「自然を元に戻してほしい」横須賀の漁業者を取材して

1月21日、横須賀石炭火力訴訟の原告団長と弁護士とともに、裁判への意見陳述の準備のため、横須賀で漁業を営む方を訪問しました。

その漁師さんは視突漁(箱メガネで海の中を覗きながら、銛や網を用いて魚介を獲る漁法)を営んでおり、今回、その漁場の一部を案内くださいました。

船で漁場に向かい、海底を箱メガネで覗いたところ、海底の砂がよく見え、ところどころにウニが見られるような状況。

海底の皆で交互に見ている中、「何も見えないでしょ?」と漁師さん。

彼の言葉に戸惑う私達に、漁師の方はこう続けました。

「昔は、この時期になるとカジメやアラメとか、海藻の芽がこの辺り一帯に芽吹いていたんです。でも、10年くらい前から少なくなって、この2年で激減。今年なんか、このように、もう100%なくなってしまった。」

アラメやカジメなどの海藻の芽吹いていた時は、岩場が真っ黒になっていたそうです。しかし、現在は、海藻のようなものは一切見当たらず、岩肌が見え、ウニしか生息しないような状態に。地上で例えると、土地が砂漠化し、木が生えてこなくなってしまう状態と一緒だとおっしゃっていました。つまり、東京湾では既に、”海の干ばつ”が起きているともいえます。

海藻がなくなることは、貝や魚の住む所が失われることと同じです。

また、そのような環境で生息しているウニにとっても十分な食糧が無いため身は無く、商品にできないとのこと。ウニもギリギリで生きているので、海藻の種を植えても、ウニに食べられてしまうそうです。

天気の変化においても、この地域では今まで冬になると西風が吹き、それによって岩場が洗われ、海藻が芽吹く土壌が形成されるとのこと。しかし、風が吹かず、そのサイクルがなくなってしまったのではと漁師さんは言います。

「海が死んでいる」

漁師さんはそうおっしゃっていました。

東京に住んでいると、気候変動や環境汚染の影響は分かりにくいと思います。

しかし、自然を相手にする漁師さん。天候や海の状況、すべてが昔と同じ感覚では考えられないとのこと。

このような変化の原因が気候変動によるものかはまだ解明されていません。しかし、海の環境が年々悪化しており、そのせいで、江戸時代から受け継がれてきた方法で海藻をとり、生活をしてきた漁師さんの生きる術が失われつつあることは確かです。

「自然を元に戻してほしい」

それが彼の願いでした。

横須賀石炭火力新設を問う行政訴訟は2019年5月に提訴。2019年10月2日2019年12月23日と裁判が行われました。

次回期日は3月23日(月)14:00~、場所は東京地方裁判所(東京・霞ヶ関)です。裁判後、同裁判の報告会を会場近くの日比谷図書館にて開催します。

法廷に入廷できなかった場合も、裁判の様子はこちらの会にて裁判の報告をさせていただきますので、ぜひご参加ください。

報告会の申込みは、下記webサイトに掲載の予定です。
https://yokosukaclimatecase.jp/

FoE Japanは、引き続き、原告および訴訟サポーターのみなさまとともに、石炭火力の新設計画中止を求めて活動してまいります。

   (鷹啄りな・高橋英恵)

   

【日々のくらしの裏側で – vol.2】過去の経験から未来へ。あの公害を繰り返したくない。

都心から近く、海と山に囲まれた地域ということで移住者の多い三浦半島。

その三浦半島の一端である横須賀市久里浜に「(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機建設計画」の建設が計画されています。

この建設計画は、東京電力フュエル&パワー(株)と中部電力(株)が共同出資して設立した(株)JERAが、横須賀火力発電所内の発電設備を撤去し、新たに設備容量65万kWの石炭火力発電設備2基を建設するものです。

現在、環境影響評価法等に基づく環境アセスメントの手続きが進められていますが、長期計画停止していた既存設備の更新と位置づけられ、環境負荷の実測値との比較が行われない等の課題を抱えており、既存設備解体工事は住民への説明も不十分なまま既に進められています。

そのような中、2017年4月、この問題について考える市民団体、横須賀石炭火力を考える会が発足しました。この一年間、横須賀だけでなく逗子や三浦、鎌倉で横須賀石炭火力の問題についての学習会を開催してきた、同会代表の鈴木陸郎さんにお話を伺いました。

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(横須賀石炭火力を考える会、鈴木陸郎さん)

 

この横須賀の石炭火力発電所の建設計画はどのような経緯で知ったのでしょうか?

“発電所ができるらしいよという話を聞いたんです。それで、いろいろ調べたらやっぱりそうだったということでした。それまで石炭火力はあまり意識したことがなかったので、どんなものになるかってことをまず知ろうとして、経産省外郭団体の研究所の方に横須賀に来ていただいて、いろいろ話を伺ったのが最初でした。そこで、石炭火力に頼らなくとも電気は十分足りると、しかも節電とか、再生可能エネルギーで十分やっていけるという話を伺った。その時先生が強調されたのが印象的でした。というのも、節電というと「我慢」ということをよく言うでしょ。でも、そんなに我慢しなくとも節電は可能だということを話されて。だから、生活の水準を落とさずに節電と再生可能エネルギーで産業もやっていけるし、私たちの暮らしも十分エネルギーが足りるという話をされたんです。ふりかえって横須賀の計画のことを考えると、これは必要のない火力発電所を作る計画だということだと。その間に温暖化の問題があるし、大気汚染物質が出るということも同時に学んで、じゃぁ横須賀で何かしなきゃというのでみんなで相談して、それから半年ぐらいかかって、今の考える会(横須賀石炭火力を考える会)をみんなで立ち上げたと。こういうことです。”

 

具体的に横須賀発電所の計画はどのようなものか、教えていただきました。

“ここはもともと石油を燃料にした発電所があったんです。作られてから、40年50年以上経って施設が古くなって、長期の計画停止となり全く発電しなくなってからしばらく経っているんです。その古い発電所を解体して、新しく発電所を作るんですけれど、その燃料を今度は石炭に変え、石炭火力発電所として作ろうとしているわけです。

今、世界的に見ても、石炭火力というのは温暖化ガスの問題があって廃止していくという状況にも関わらず、石炭を燃料にしようとしているんですよ。しかも、65万キロワットの発電所を2基作る。2基合わせて130万キロワットになるわけですけれど、130万キロワットというのは大型の原子力発電所と同じぐらいの能力を持つ、そういう大きな発電所なんですね。電気が足りないかというとそうでない。十分電気が足りているのに、燃料を石炭にして、ここに発電所を作ろうとしているわけなんです。” 

 

電力が十分に足りている。それなのに、なぜ新しい発電所を、しかも、世界に環境対策に逆行するような石炭を燃料とする発電所がなぜ建てられるのか。その理由を尋ねると、次のような答えが。

なぜかというのはよく聞かれます。けれど、それはやっぱり、現時点で石炭が燃料として一番安いからなんですね。一番安い燃料で作れば、安い電気ができると。電力自由化の中で、事業者は競争にさらされているわけですから、競争に打ち勝つだめには、安い電気を作ると。こういう事情で石炭を選んでいると思うんですけど。果たして、石炭がいつまでも安い燃料かというともうそうでない。自然エネルギーの方がコストがずっと安くなっていくというのが世界的な流れになっていますので。必ずしも、今事業者が考えているように、石炭が安い電気を作る燃料ではない。これからそういう時代になってくる。別に発電することに反対しているわけではないの。ただ、環境的にも、経済的にも問題がある発電所を作るということを、問題と考えているわけです。”

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(現在解体作業中の横須賀火力発電所。振り返るとすぐ目の前にマンション、新築の戸建が経つ。)

アセスメントの制度が十分に整っていない時期に当初の発電所が建設されたからか、建設予定地のすぐまわりにはたくさんの住宅が。この横須賀計画について、近隣住民の反応はどうなのかというと、そもそも計画を知っている人がほとんどいなかったそうです。そればかりか、たとえ知っている人がいたとしても、次のような反応だったそう。

“たまたま知っている人がいても、高効率のいい、新しい技術の発電所が作られるのだから問題ない、という受け止めだったんです。ですけども、知らないという方が圧倒的に多かったという状況自体といいますか、これだけのものを作ろうというのに事業者は周りの住民に知らせないというのはどういうことなんだろう、ということを最初の頃はよく考えました。”

 

計画のことを知ったとしても、「そうなんだ」と終わってしまう人が多いのが、悲しくもこのご時世。無関心の多い中で、どうして会を立ち上げようと思ったのでしょうか?

“どうしてと言われても困ってしまうのだけれど、私達の年代からすれば、いわゆる公害問題を経験している。私自身は公害で健康を害したということはなかったですけど、そういう悲惨な状況を同じ世代が経験しているわけですよ。それで、公害問題が起こったときも、「公害対策にお金をかけたら産業が大変になっちゃうからほどほどに」という議論があって、それと非常によく似た論理で温暖化問題が言われているわけですよね。節電すると電気をいれなくなるだとか。非常に似た構造だと思ったんです。そうなると公害問題をそれなりに経験してきた立場からすればほっとけないという気持ち。このままの社会を残したら持続ができないというのがはっきりしてきているじゃないですか。それを私達の世代が作ってきたわけでしょ。それをそのまま残していいのかというのがやはり問われる。そういう気持ちがあったんですよね。だからできるときにできることをやらないと。やっぱり後悔するかなという思いで。”

 

公害問題をそれなりに経験してきた立場からすれば放っておけないという鈴木さん。放っておけないと思うほどの公害は、実際どのような経験だったのでしょうか。

“若いときに川崎に住んでいました。その時の川崎というと、もう公害の街と言われていたんですね。まだ完全に公害がなくなっているわけではないんですけども、やっぱり公害問題を克服したまちというか、今は若い人にすごい人気のあるまちになっていますよね。

川崎にいた頃は工場から出てくる煤塵がうちの中まで入ってきてね、朝出ていって、帰ってくると、テーブルの上がザラザラするというような、それぐらいひどい時代があったんです。

それからもう一つ、東京も昔は自動車の排ガスがひどいときがあったでしょ。幹線道路の沿線で喘息とか、公害病になる人が非常に多かった時期があった。その頃、私の甥なんですけど、東京の大学に来ているときに喘息を患って、公害認定患者になったんです。もう亡くなったんですけどね。当時、東京では暮らしていけないというので田舎に帰ったんですけど、その喘息がとうとう治らなくて、何べんも発作を起こして緊急に入院したり、それから喉を切開して人工呼吸をやったり。そういう非常に悲惨な状況で暮らさざるを得なかった。その甥はサッカーの好きな子で、とても身体の丈夫な甥っ子だったんですけどね。そういう公害病の恐ろしさというのは自分の身内にもいたということでね。本当に目に見えないですから、大気汚染物質というのは。目に見えないのに病を起こすというそういう経験もあって、そういう思いは他の人にしてほしくないというのはとても強く思っています。”

 

「放っておけない」という鈴木さんの想いから始まった横須賀石炭火力を考える会。会を立ち上げてからは何をされてきたのでしょうか?

“一番多いのは学習会。何回も重ねましたし、それから横須賀の会が立ち上がったときにちょうど千葉県の蘇我、袖ヶ浦の方でも同じような運動をしているということを気候ネットワークの方を通じて知って、同じ問題抱えているのなら、連絡会のようなものを作って、いろいろ情報交換すれば運動に役に立つのではないかということで、それから1ヶ月か2ヶ月くらい後に、東京湾の会(石炭火力を考える東京湾の会)立ち上がったわけです。そこで、一緒に環境省への申し入れをしたり、それぞれの事業者に直接申し入れをしたりしてきました。”

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(写真:三浦のセミナーで計画の概要を説明をする鈴木さん。)

 

活動していての感触について尋ねると、

“環境省の担当者の方たちは環境問題に熱心でね、温暖化の問題をこのまま放置してはだめだという思いが共通していて、お互いに頑張っていきましょうというようなやり取りをしたことはとても印象的でした。ただ、アセスの審査会を何度も傍聴したとき、その審査会の先生方が非常に頑張っていらっしゃるのはよくわかるんですけど、なかなか審査員の先生方と私達との間で情報交換ができていなくて。審査会で私たちの声をもう少し反映できたらなという思いは今でもあります。そういうつながり研究者とのつながりをもっと早くからつくることが出来ていれば、と。あと、事業者には私たちの力が及ばないなと常々感じますね。事業者の方はやっぱり事業ですから利益が上がるということを目指してやっているわけですから。けれども、それでも今は事業者への働きかけを強めなきゃいけないのかなという感じを持っています。”

 

横須賀の会の活動の働きかけもあり、近隣住民のこの問題に対する周知は高まったそうです。

 “事業者は近隣住民に説明する責任がもちろんあるから、環境アセスメントの書類(注1)を提出するたびに説明会を開くわけ。でも、環境アセスメントの方法書が提出されたときに説明会が実施されたんですけど、参加したのは30人くらい。2か所合わせて60人か70人くらいしかいなかったんです。そして、次に環境アセスメントの準備書が提出された。できるだけ多くの人に計画を知らせるというのは事業者の役割ですけれども、この時は私達も住民に呼びかけて。そうしたら全体で410名も集まって、会場が溢れて、第2会場、第3会場を準備しなくてはいけないような状況になりました。質問時間も1時間くらいしか用意していなかったのに、さらに延長1時間半というほどになりました。そういう状況を作ったというのは、それなりに関心がやっぱりあって多くの人が集まってきたと思います。“

 

これからどのようなことをやっていこうとしているのでしょうか?

“これからやらないといけないこと、たくさんあるんです。準備書が出されて、それで、環境大臣がそれの準備書に対する意見を出しているんです。これはとても厳しい意見です。いまでさえ、今運転している石炭火力発電所も止めなきゃいけないほどのCO2を出しているわけですね。減らさなきゃいけない状況の中で、新しく作るっていうのは、30年とか40年、CO2を出し続けるということになってしまうでしょ。世界的に見れば石炭火力はやめましょうという時代なのに、先進国がやめるときに日本がピークを迎えるというような、そういう状況ですから、やっぱりいろんな人にまだまだ訴え続けてですね、やらなきゃいけないことはまだいっぱいあると思っているんです。事業者に対してもやはり環境大臣があれだけ厳しい意見を出しているのに、事業者がそれに対する答えを出して、公表するという場面がないんですね。ですから、そういうこともこれから事業者に対して聞いていく必要があるかなというふうに考えています。”

 

最後に、この活動にかける想いを聞きました。

“横須賀というのは本当に温暖な気候で、とても住みやすい場所なんですね。そういう場所でありながら米軍の基地があって、その他にこういう石炭火力の発電所ができるなんていうことになると、非常にこう、環境の恵まれた町がいわば財産を失っていくみたいな、そういうことになる。ですけれども、やはりそうでなくて、自然豊かな町で、それを求めて都会からも多くの人が横須賀に移り住んでくれると。そういう時代になるというふうに思いますのでね、東京湾の側もいいところですし、相模湾の方も、そこなんかは本当に景観も優れているし、気候も本当にいいところですので、そういう町にずっとしていきたいというふうに思っています。

今はまだこの計画を知らない人も多いけれど、とにかく話を聞いてもらえれば、理解してもらえる話ではないかな。昨日の三浦での勉強会でも、「電気がたくさんあった方がいいんじゃないか」という質問があったけれど、あの方の気持ちからすれば、電気というのは余裕を持っていっぱい持っていれば、何かあったときにちゃんと電気が供給できるじゃないかと、だから発電所はいっぱいあったほうがいいと。そういう意味でおっしゃっていたのかなと思いました。やっぱりそういう人多いと思うんですよ。当然だと思います。だから不自由なく暮らしているわけなのでね。でも、そういうことは起こらない。ここに石炭火力をつくらなくとも、そういう問題は心配しなくともいいということも知らせたい。ここに新しく石炭火力発電所を作ることによって30年40年、温室効果ガスを出し続けるということになると、世界中で石炭火力がなくなってしまったときに、日本だけがそういうことをずっと抱えているということになったら、いろんな面で支障があると思うんですね。だから、世界の流れから見ても石炭火力をやめることは当然のことなので、理解してもらえると思っています。とにかく、反対運動のようにだけとられちゃうと、その入口でシャットアウトされちゃうんでね、だからそうでない、ポジティブな、例えば再生可能エネルギーをどんどん増やしましょうというメッセージと一緒に、石炭火力はそういう意味ではブレーキをかけるし、時代遅れになってしまうよという、そういう形で伝えていけば、どんどん受け入れてもらえるというふうに考えていますね。”

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(公園から建設予定地が一望できる。計画では、遠くに見える海を隠すように、発電所が建設される予定となっている。)

 

鈴木さんの描く横須賀の未来像。それは、鈴木さんだけでなく、横須賀の人々全てが描くものなのではないでしょうか。

その一方、建設予定地を視察した際に痛感したのは近隣住民の無関心。発電所のすぐ隣には、建設されてから日の浅そうなマンションや、新築の戸建てがありました。そのマンションの前の通りに立ってみると、途切れることなく響く解体工事の音。また、現在はまだ旧発電所の解体段階であるものの、石炭火力発電所が稼働した場合には、多くの排煙を浴びることになりそうです。そのような状況にも関わらず、建設予定地周辺には、建設計画に対する反対のバナー、のぼり等は全く見られないという風景。

 

横須賀石炭火力を考える会のfacebookでは、石炭火力発電所問題について積極的に情報発信しています。ぜひ、フォローしてみてください。

(高橋英恵)

 

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(注1)環境アセスメント(環境影響評価)とは、大規模な開発事業などを実施する際に、事業者が、あらかじめその事業が環境に与える影響を予測・評価し、その内容について、住民や関係自治体などの意見を聴くとともに、専門的立場からその内容を審査することにより、事業の実施において適正な環境配慮がなされるようにするための一連の手続きをさす。事業の開始に当たっては、配慮書、方法書、準備書、評価書の4段階をふむ必要がある。詳細はこちら