【横須賀石炭訴訟報告 vol.15】判決、原告の訴えは「却下」

1月27日、横須賀石炭火力訴訟の判決が言い渡されました。
14時過ぎに開廷、裁判長からの判決言い渡しはわずか30秒ほどで終了、「却下する」とのことでした。60名近くの人が集まりましたが、「判決文の通り」として理由さえ話されず、あまりにあっという間でした。

弁護団、原告団は15時すぎ「市民にCO2争う権利認めず」「世界の流れに逆行する不当判決」とする旗を出しました。


判決文は、こちらにアップされます。
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【横須賀石炭訴訟報告 vol.14】異例の裁判長異動で追加の期日。判決は1月27日に

10月4日、横須賀石炭火力訴訟の裁判が開かれました。
横須賀石炭火力訴訟は、6月6日に結審、11月28日に判決が出されるはずでした。しかし、裁判長が法務省の訟務局長に異動となって交代したため、9月に急遽スケジュールが変更されて10月4日の期日が追加されました。

当日は約50名が、傍聴と報告会に参加しました。国を相手にした行政訴訟の裁判長が、国側の役職に異動することは異例だと、弁護団長の小島弁護士は報告会で力を込めていました。

気候危機はこの夏にも大きな被害をもたらした

6月の期日の後、この夏も国内外各地で気候危機の深刻な被害が起こりました。

原告団長の鈴木陸郎さんは、気候危機の激化と、気候危機は人権侵害であることを訴えました。横須賀石炭火力は逆行している、しかし「今ならまだ間に合う」と、司法での判断を求めました。

小島弁護士はまず、新たな裁判長に対し「これまでの記録を一から見直してほしい」と求めました。石炭火力発電所は1日に1万トンの石炭をもやし2万トンのCO2(体積では東京ドーム8個分)を出す、1日1000トンの粉じんも出す、と改めて強調しました。

半田弁護士は、この夏の欧州の熱波やパキスタンの洪水、8月上旬の東北から北海道での豪雨の被害状況を紹介しました。

最後に再び小島弁護士が、気候変動による災害で多くの方が亡くなったり、東京湾周辺でも磯焼けや漁獲高の減少がここ数年で顕著であることを説明、今回の行政訴訟の経緯を振り返り、「司法が責任を果たすことが強く求められている」と締めくくりました。

裁判の背景や詳細はこちら:なぜ訴えるのか | 横須賀石炭訴訟 (yokosukaclimatecase.jp)

判決は1月27日(金)、裁判長にお手紙を!

終了後の報告会で、判決までにできることとして、小島弁護士からこんな提案がありました。

「品田裁判長に心のこもったお手紙を書いてはどうでしょうか。言いたいことを一つにしぼって、短くていいのです。」

これは、誰でもできて効果がありそうなアクションです!

(宛先は、東京地方裁判所の品田裁判長。詳しい住所や宛先の書きかた等は後日訴訟ホームページに掲載されます。)

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(吉田明子)

【横須賀石炭訴訟報告 vol.13】ついに結審。判決は11月28日に。

本日、横須賀石炭火力訴訟の第13回期日が開廷されました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。

(裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

今日をもって原告と被告の主張は終わり、結審となりました。判決前最後の審理であるということもあり、雨天にもかかわらず定員50名を超える約60名が会場に集まりました。

結審では、小島弁護士から今回の裁判の要点について、千葉弁護士からは横須賀石炭火力建設に係る環境アセスメントの瑕疵について、改めて提起されました。一方、被告からの陳述はありませんでした。

「気候保護に関する世論や議論が成熟していない」は、原告の訴えを退ける理由にならない

小島弁護士は、結審にあたり、次の5点についてお話ししました。

  1. 原告らの生命・健康・住居などの財産・食料への危険が差し迫っていること。危機は極めて深刻で重大な人権問題。
  2. 地球温暖化・気候変動による人権侵害を防止するためには、排出量の削減が決定的に重要である。
  3. 先進工業国それぞれが、パリ協定及び1.5度特別報告書で求められる排出削減措置を尽くすことが必要であり、それが世界各地の裁判所の共通認識ともなっている。
  4. 司法が自らの責任を果たすことが求められている。
  5. 気候保護に関する社会情勢や議論がまだ成熟していないとの理由で、司法による法的保護を否定するのは3つの意味で間違っている。

1点目について、指摘にあたっては、今年4月26日の神戸石炭火力訴訟の大阪高等裁判所の判決で「もはや地球温暖化対策は国境を超えて人類の喫緊の課題であることは疑いない(中略)」と、気候危機が裁判所でも認められたことを引用し、異常気象や漁業の被害を強調しました。そのほか、昨年ヨーロッパ各地を襲った山火事や、カナダでの49度という異常気温、日本での熱中症被害が頻発し毎年1000人が亡くなるほどになっていること、洪水などの気象災害によって600名が命を落とし3万件もの住居が流されたことに触れました。そのほか、原告尋問でも証言があったように、原告の居住地域である横須賀市内でも土砂崩れが起きたこと、海藻が育たず海の生態系が急速に失われていること、そしてその結果として漁業という生計手段が成り立たなくなりつつあることを再確認しました。

排出量の削減が決定的に重要であるという2点目については、昨今のIPCCの報告を引用し、人間活動によるCO2排出が地球温暖化を引き起こしており、排出量をゼロにしていくことは不可欠であることを訴えました。国際的にも、具体例として、世界エネルギー機関(IEA)は、「2021年以降のCCS(大気中のCO2を回収して貯留する技術)の備えない石炭火力の建設中止」「2030年までに先進国のCCSを備えない石炭火力の廃止」などが示されています。しかし、CCSについては、日本では適切に貯留できる場所が陸域にないことが経済産業省の報告書の中でされており、現在は海域での貯留場所も探索中で確実なものとはいえず、吸収量の増加に頼る対策は極めて困難であることを強調しました(注1)。

(注1)報告会では、北海道苫小牧市におけるCCS実証実験では3年間で30万トンのCO2貯留に成功した一方、横須賀石炭火力発電所が稼働した場合、年間726万トンのCO2が排出されることを比較されました。

次に、近年の世界各地での気候訴訟の判決事例を挙げながら、先進国としての責任、そして裁判所に求められる役割について指摘しました。2015年のハーグ地方裁判所での判決では、「少ない排出量だからやらなくてもいいというのでは、温室効果ガス削減を達成できない。人為的な温室効果ガスの排出は、どんな小さな量でも待機中のCO2濃度の上昇に寄与し、気候変動につながることが立証されている」と判断され、2019年のオランダ最高裁判所の判決でも踏襲されているそうです。また、2020年7月のアイルランドでの裁判、2020年11月のフランスでの裁判、そして2021年3月のドイツでも同様な判断がなされたことも紹介し、「世界的な共同体として、それぞれがちゃんとした責務を果たさなくてはならない」ということが、世界各地の共通認識であることを示しました。

最後の「気候保護に関する社会情勢や議論がまだ成熟していないとの理由で、司法による法的保護を否定するのは3つの意味で間違っている」という点は、前述の神戸高裁判決で、原告の訴えを退けた理由となっています。しかし、今回の裁判では、この点について、1)少数派の権利を保護するという人権保護の理念にそぐわないこと、2)気候変動の被害は全ての人に等しく同じタイミングで及ぶものではなくすでに被害を被っている人々がいること、そして、3)政治参加の権利を持たない未成年など将来世代がより深刻に気候変動による人権侵害を被ることを挙げ、反論しました。

再度提示されるアセスの瑕疵、被告の反論書面への指摘

千葉弁護士からは、「適切な複数案検討がされなかったこと」「環境アセスメントの簡略化」の2点に絞って、再度、横須賀石炭火力発電所建設に係る環境アセスメントの問題点について強調されました。

また、最後に、小島弁護士から、被告の準備書面への指摘がありました。被告の「今回の環境影響評価は『局長級取りまとめ(注2)』にそって行なっている」との主張について、もしそれに基づけば、事業審査の段階でパブリックコメントや専門家による審議が必要となるものの、それらが一切なされていないことを指摘し、仮に今回のアセスメントが『局長級取りまとめ』に沿ったアセスメントだったとしても、手続きに瑕疵があることを取り上げました。

(注2)『局長級取りまとめ』とは、2015年に経済産業省と環境省の局長が、東電が火力発電の入札をする際の扱いをまとめた文書。この文書をもって新規の石炭火力も検討することとされた。従って、電気事業法46-17-1(環境要件)として使い、確定通知に該当する。具体的には、電気事業者が経済産業省に申請するが、行政手続法上では、申請においては、審査基準をもうけ、パブリックコメントなどを実施しなくてはいけない。

判決は11月28日。公正な判断は下されるか

次回は、約半年後の11月28日(月)14:00〜、東京地方裁判所103号法廷です。いよいよ判決になります。

報告会では、判決まで時間があくことについて、小島弁護士は「他の石炭火力訴訟の結果を単に踏襲するのではなく、今までの口頭言論や原告尋問の内容などを踏まえて判断するゆえではないか」と述べました。

また、神戸石炭訴訟にも関わる浅岡弁護士も、「神戸と横須賀の裁判の違うところは、環境アセスメントの瑕疵がより明確であること。ここが横須賀裁判の特徴になっている」と、お話しされました。

先月末に開催されたG7環境・気候・エネルギー会合では、「2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化する」ことが合意されました。COP26の合意文書にも書かれた「排出削減対策がなされていない石炭火力発電の削減」をより明確化した形になります。さらに、横須賀市内では4月24日と6月4日に気候マーチが開催され、のべ300人以上が参加し、この横須賀石炭火力の建設中止を訴え、少しずつですが着実に、横須賀市民の中でこの石炭火力建設の問題が共有されつつあります。

一方、日本政府は明確な脱石炭政策を打ち出すどころか、水素やアンモニア混焼に対し、グリーンイノベーション基金を通じて支援しています。燃やしてもCO2が出ないことから「ゼロエミッション燃料」と呼ばれる水素・アンモニアですが、現状、化石燃料で水素・アンモニアを生産することが公表されており、生産の過程でも温室効果ガスが排出されてしまいます。日本は、削減につながらない技術で石炭火力を延命するのではなく、今こそ、再生可能エネルギー社会へと転換すべきです。

日本の脱石炭につながるよう、FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や気候変動対策の抜本的な強化を求める市民とともに活動していきます。

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(髙橋英恵)

【横須賀石炭訴訟報告 vol.12】「安心して生きたい。ただそれだけのことなのに」建設地付近に暮らす原告の証言

本日、横須賀石炭火力訴訟の第12回期日が行われました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。

 (裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

今回は、最後の原告尋問でした。建設地の北岸地域である長瀬にお住まいの橋本かほるさんが原告として、原告弁護人の浅岡弁護士の質問に答えながら、近年感じる変化や気象災害の状況について、証言されました。

豪雨で久々に感じた恐怖―橋本さんの証言

横須賀で育ち、一旦仕事のために地元を離れたものの、子育てを機に再び横須賀に戻ってきたという橋本さん。ご自身の子供の頃と気候の変化を感じるとともに、近年の豪雨により、恐怖を感じるようになったと言います。

浅岡弁護士から、地元に戻ってきて以来、変わったことはあるのかとの質問に対し、以下のように答えました。

「14年くらい前から、夏でも暑さを感じるようになりました。そして、3-4年くらい前から雨が激しくなって、音がものすごい。屋根が壊れそうでした。まさに豪雨で、恐怖を感じました。日常生活にも不安なことはよくあります。けれど、恐怖を感じることはほどんどなかったんです。個人的な話になるけれど、娘が5歳の時に事故に遭いました。その時に感じた恐怖と同じ恐さで、あの事故以来感じたことのない感情でした。」

そして、最近の雨は、雨量も多く、雨粒も大きいそうです。橋本さんのご自宅は、特別警戒区域に指定されるような急傾斜地に位置しており、先日雨がふった時には、家の裏山に降った雨は側溝を通じて麓に流れたものの、側溝からも溢れたとのことでした。

また最近、横須賀市内で豪雨による土砂崩れ(*)が多発していることも、そのような恐怖感のきっかけになっているそうです。

「このまま豪雨が続いたら、自分の家も危ないと思うようになりました。最近は、家の裏山の地盤が緩んで家の方に土砂が来るのではと思うと、恐怖を感じます」

* 2014年6月「住民「危険感じてた」横須賀ハイランドで再び崩落事故」https://www.kanaloco.jp/news/social/entry-48199.html

*2021年7月「「ドドーン」突然目の前に土砂…神奈川で崖崩れ52か所」https://www.yomiuri.co.jp/national/20210704-OYT1T50133/

実際、2021年には、5年に一度行われる神奈川県による土砂災害危険区域に関する調査が行われました。その結果によると、長瀬さんのお住まいの地域は、特別警戒区域に指定されました。その他にも、横須賀市内には土砂災害の警戒区域に指定された箇所が多く、その結果を見た橋本さんは、「警戒しなくてはいけない区域がこんなに多いとは。以前よりも危険な場所が増えて、怖いと思います。豪雨は自然災害だけれど、温暖化の影響によるもの。これ以上温暖化を進めないことが大事」と、ご自身の気持ちを表されました。

出典:横須賀石炭訴訟 甲第232-2号証:https://yokosukaclimatecase.jp/wp/wp-content/uploads/2021/12/%E7%94%B2223-2.pdf

浅岡弁護士の最後の質問は、石炭火力発電事業の存在を知ってどのように感じたかというものでした。この質問に対して、

「石炭火力が近くにできると知って、信じられない。世界はどんどん石炭から撤退している中、日本で、しかも家の目の前で建つなんて、言葉を失う。自分の家からも建設が見えるけれど、私は平和に暮らしたいだけ。この石炭火力(は問題であると)のことは、切実に訴えていきたい」

と締めくくりました。

「安心して生きたい。ただそれだけのことなのに」

裁判後の報告会でも、原告として話した中で、改めて、橋本さんからメッセージをいただきました。

「自宅から、日々背の高いクレーンが伸びて着々と建設が進んでいるのを目のあたりにするなかで、夏がきて、台風がきて、また豪雨が来るのだと思う。別に特別なことを望んでいるわけじゃないと思う。普通に、穏やかに暮らしたいというだけのこと。それが許されないというか、大事になれば命の危険がある中に、自分だけでなくて多くの人が晒されている。温暖化を止めない限り、幸せには生きていけない、安心して生きていけないということをいろんな形で感じていらっしゃると思うので、どうしても、あの石炭火力の建設を中止に追い込んでいかないといけないと、改めて思っている。」

今回の橋本さんのお話を聞いて、気候変動は命の問題そのものであると実感しました。橋本さんが証言されたように、大きな雨音の中で感じる恐怖を想像すると、苦しささえ感じます。ただただ穏やかに暮らしたいという、素朴で当たり前の願望が脅かされていること、そしてそのように恐怖を感じている人々が潜在的に多くいることは、見過ごしてはならないはずです。

次回期日のご案内

次回の裁判は、6月6日(月)10:30〜、東京地方裁判所で執り行われます。

6月の口頭弁論が、本行政訴訟の結審となる可能性が高いと裁判長も言及しており、2019年5月から約3年続いている裁判が、そろそろ終わりを迎えます。

次回の裁判に向け、小島弁護団長は、

「過去3回の裁判では、この環境アセスメントのおかしさ、国内外の海の被害の深刻さ、そして、気象災害の恐怖を、原告から直接話してもらった。石炭火力の建設という、人々の被害を拡大させるような方向でいいのかということを問うていきたい。世界の裁判所は気候変動に対して積極的に動いている。そのような中、日本の裁判所は今のままで良いのか問われている。最後の弁論ではそのようなことを話していきたい。」

と述べました。

裁判は終盤に差し掛かっていますが、横須賀市では、石炭火力の建設中止を求める動きが大きくなっています。

先週末の4月10日に開催された、「グレタひとりぼっちの挑戦」横須賀映画上映会では、目標を大きく上回り、1011人が来場しました。

今月末の4月24日(日)にも、横須賀市内で気候危機への具体的なアクションを求めよう、そして横須賀の石炭火力中止の声を盛り上げようと、気候マーチを予定しています。ぜひご参加ください。

本裁判が、日本の気候訴訟の転換点となるよう、そして、日本の脱石炭につながるよう、FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や発電所建設の中止を求める地元住民、市民とともに活動していきます。

(髙橋英恵)

【横須賀石炭訴訟報告 vol.11】海水温をもとに戻して〜原告漁業者の証言

先月末に引き続き、本日、横須賀石炭火力訴訟の第11回期日が行われました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。

 (裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

今回も前回同様、原告尋問でした。当初2名の原告尋問の予定でしたが、原告の都合により、1名となりました。今回、原告尋問を受けたのは、横須賀で漁業を営む小松原哲也さん(79)です。小松原さんは14歳の時から、父の手伝いをしながら、横須賀や東京湾海域で潜水漁業や底引網漁などに携わってきたそうです。横須賀で漁業を営む身として、この数十年間に渡って直面している変化について、小島弁護士に質問されながら証言しました。

気候変動の影響を直に受ける漁業の実態〜小松原さんの証言

小松原さんは長い漁師生活の中で、様々な漁法を営んでこられました。種類としては、潜水漁業、底引網漁が主なものですが、かつては海藻の採取やサヨリ網漁、アナゴの土管漁、アワビやサザエの採取も行っていたそうです。今も小松原さんの息子さんと一緒に、漁を営んでいるとのことでした。

潜水漁業では、エアホースのついたヘルメットを被って海に潜り、ミル貝(通年)、タイラ貝(5月〜11月)、なまこ(3月10日〜4月10日)を採取する漁法で、今は横須賀市内では小松原さんしか実施していないそうです。小松原さんは、猿島から追浜までの安浦漁港近くでこの潜水漁業をしていますが、近年は、タイラ貝の漁獲量はほぼ無に等しく、ミル貝も全盛期の120kg/日から50kg/日にまで減少、なまこもかつては1000kg/日取れたものが、75kg/日の範囲でとるまで激減してしまったと言います。大きく漁獲量が減ってしまった原因を小島弁護士が尋ねたところ、小松原さんは「一番の原因は、海水温が上がったから。貝は冷たい水を好む」と回答しました。

また、底引網漁についても、昔と今では漁れる魚の種類が変化し、漁獲高が大きく変化したと言います。昭和期には、江戸前高級魚のイシガレイやマコガレイが一日500kg(約2000枚)ほどとれたようですが、2000年代になって減り始め、今はイシガレイやマコガレイがとれることはほとんどなく、代わりに漁れるのはトビウオやタイ、イシモチだそうです。エボダイもとれるが、身が小さく売り物にならないと言います。

ワカメの採取も、かつては3月頃におこなっていたそうです。小松原さんが採取していたのは、田戸ワカメという、皇室への献上品にもなるようなワカメで、生計に大きく影響していたのですが、ミル貝やタイラ貝同様、海水温の上昇により今はもう取れなくなっていると証言しました。ワカメの他にも、テングサやヒジキ、アラメも採取していたが、今はほぼ取れなくなっているそうです。また、アラメやワカメを餌とするアワビやサザエも、久里浜沖にもぐれば50~60kg/日と、漁協組合で決める上限量まで簡単にとれるくらいたくさんいたそうですが、アラメやワカメが育たなくなる磯やけによって、今は漁れる量が大きく減ってしまったと証言しました。

そのほか、2隻の船の間に網をはり、海の表層を好む魚をとるサヨリ網漁も、猿島や金田漁港、そして横須賀火力発電所のある久里浜付近でおこなっていたと言います。サヨリも高級品で、かつては一晩に1000kgくらいとれ、大きな収入源になっていたそうですが、10年ほど前からほどんど取れなくなり、そして燃料費の高騰もあり、今は実施していないとお話ししました。サヨリがいなくなった理由として、科学者とともに調査した結果、サヨリの餌となる虫が育つために必要な海藻が海水温の上昇によって育たなくなってしまったことがわかったそうです。

このように、かつて売上の大半を占めていたミル貝、タイラ貝、ナマコ、カレイなどがとれなくなってしまったことにより、収入がかつての5分の1にまで大幅に減少してしまったと、生計に大きな影響があることを最後に証言され、「気候変動の影響は大きい。海水温をもとに戻してほしい」と締めくくりました。

「海は戻ってこない」

今回の小松原さんの証言を聞き、気候危機による生計への影響の大きさを改めて実感しました。また、閉廷後に開催された報告会では、傍聴者から「発電所の稼働により温排水がでていた時期と、稼働が止まって出なくなった時期の違いはあるか?」との質問がありました。その質問に対する小松原さんからの回答は、次のようなものでした。

「久里浜の発電所ができる前は(久里浜沖では)アワビがたくさん取れた。稼働したら、磯やけでできなくなった。稼働が止まっても、海は戻ってこなかった。」

発電所からの温排水という直接的な影響はすでにあり、その影響は不可逆的です。そのような中、現在建設中の石炭火力発電所が稼働開始したら、海の生態系やそれに依存する周辺漁業者に更なる影響を及ぼします。

報告会の最後に、小松原さんは、「できれば、被告が親身に受け止めて、久里浜の発電所を動かさないでほしい」と今回の尋問にあたっての心境をお話されました。

次回期日のご案内

今後の裁判の予定は、下記の通りです。

第12回期日 4月13日(水)14:00〜 東京地方裁判所(原告尋問の予定)
第13回期日 6月6日(月)10:30〜 東京地方裁判所

被告からの反論が特になければ、6月の期日で結審となると予想されています。2019年5月から約3年続いている裁判も、そろそろ終わりを迎えます。本裁判が、日本の気候訴訟の転換点となるよう、FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や発電所建設の中止を求める地元住民、市民とともに、日本の脱石炭を求め活動していきます。

また、横須賀では、気候変動への関心を高めたいと、地域住民が映画上映会も企画しています。ぜひ、こちらの上映会にもご参加ください。(上映会の詳細:https://nocoal-tokyobay.net/2022/02/07/greta_movie_20220410/

(髙橋英恵)

【横須賀石炭訴訟報告 vol.10】本訴訟初の原告尋問。訴訟の根底にある原告の思い

昨日、横須賀石炭火力訴訟の第10回期日が行われました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。
(裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

今回の裁判は今までとは異なり、原告への尋問を中心に執り行われました。今回、原告として尋問を受けたのは原告団代表の鈴木陸郎さんとプロダイバー兼環境活動家の武本匡弘さんです。両者40分程度、鈴木さんは発電所建設計画を知った経緯、計画を知ってからの活動内容、提訴に至った経緯を、千葉弁護士(原告の弁護団弁護士)に質問されながら証言し、武本さんはこの20年間の国内外の海の変化について、半田弁護士(原告の弁護団弁護士)の尋問の下、証言しました。

今回は、原告の主張の内容と、今回の裁判を初めて傍聴した大学生である著者の感想を紹介したいと思います。

環境アセスメント制度をより良いものにする責任〜鈴木陸郎さん

鈴木さんが横須賀の火力発電所建設について知ったのは、2016年7月でした。発電所ができると知って、いろいろ調べていく中で、「世界でも脱石炭火力発電へと動いているのになぜ今さら火力発電所を建設する必要があるのか?」と疑問を持ったそうです。

以来、仲間とともに発電所建設について調べる、アンケートを行うといった活動をおこないました。調べているうちに、不当なアセスの簡略化の理由となる「環境が良くなる」という説明が、いつと比べているのかについて不記載であるといった問題に気づくこととなりました。

鈴木さんは、環境アセスメントの方法書の説明会に参加し、上記の疑問について質問をしました。しかし、事業者にいくら質問しても回答なく、事業者の態度が不誠実であると感じ、鈴木さんの国に対する[高橋1] 不信感が高まったそうです。「環境が良くなる」という説明がいつと比べているのかについては、同じ説明会に居合わせた他の参加者も何度も質問したそうです。その結果、事業者は18年前との比較であると回答し、参加者もびっくりしたそうです。鈴木さんも「そんな昔と比べてよくなると言われても納得できない」と感じたそうです。また、2017年に実施したアンケート結果に関しては、約3分の1の人が発電所建設について知らず、1割の人が建設に賛成、4割の人は反対しているとのことでした。

そして、鈴木さんが訴訟を起こすことを決意したのは、主に3つの理由があるとのことでした。1つは、このまま温暖化が進んだら人間が生活できない環境になってしまう可能性があり、温暖化を止めるために温室効果ガスの削減が求められる中、石炭火力の新設は到底許されないと考えたからだそうです。2つ目の理由は、人間の活動によって地球の回復能力がオーバーしている中、これ以上の悪化を防ぐための制度である環境アセスメントを簡略化することは、アセス制度の破壊につながる行為と考えたためです。そして最後の理由が、気候変動を悪化させたのは自分たちの世代でもあるが、将来世代により良い世界を残すためには、環境アセスメントをより良いものにしていく責任があると感じたためだとして、尋問の最後の質問を締めくくりました。

プロダイバーが感じてきた気候変動の影響〜武本さん

武本さんは、約40年間、プロダイバーとして活動されてきました。活動のフィールドは、拠点の葉山を中心に三浦半島周辺、沖縄、北海道など日本全国、そして中部太平洋に及びます。その40年のうち、後半の20年間、海がどんどんひどくなっていく様子を目の当たりにしてきたと証言しました。1998年から、プロダイバーの仕事と並行して環境活動を始めたそうで、そのきっかけはサンゴの白化であるそうです。

サンゴの白化とは、水温が30度以上の水温が続くと起きる現象で、サンゴの体内に住みサンゴの呼吸の役割を担っている褐虫藻がサンゴから放出され、サンゴが死んでしまうことを指します。人間も体内にたくさんの細菌を宿していて、それら最近がいなければ生きていけないのと同じことだと、武本さんは説明しました。そして、一度白化したサンゴは、二度と元に戻ることはないそうです。

武本さんは、マーシャル諸島沖付近、沖縄、江ノ島、葉山でのそれぞれ2013年と2021年の海中写真を比較しながら、海がどのように変化しているのかを証言されました(尋問で使用した写真資料はこちら)。マーシャル諸島沖付近、沖縄の写真の比較では、サンゴ礁が白化によって崩れてしまっており、江ノ島、葉山の写真の比較では、海藻が繁茂していた場所に全く海藻がなくなってしまった様子がわかりました。

海藻が繁茂するには、水温が12度以下である必要があるそうですが、近年は水温の上昇によって、本来冬眠しているはずの魚が海藻の芽を食べてしまい、海藻が十分に育つ前になくなってしまうそうです。海藻は、海の生き物の隠れ家になったり産卵の場所になったりと、海の生物多様性を育むのに重要な役割を果たしています。海藻がなくなる「磯焼け」は、海の生物多様性の損失のほか、その恩恵に預かる漁業者にも大きな打撃を与え得ていると証言しました。

サンゴの白化も磯焼けも、水温の上昇が原因で起こり、水温上昇は主にCO2排出による影響であるそうです。また、風の変化も、海の環境を整える役割を担っていましたが、本来吹くべき風が吹かなくなったこと、台風の発生地や経路が変わったことも、磯焼けやサンゴの原因であると話しました。そして最後に、海水温の上昇や風向きの変化などをもたらす気候変動の影響によって、漁業者やダイバーの仕事が奪われていることを再度強調しました。だからこそ、CO2を多く排出する火力発電所建設には反対しているそうです。

弁護団からのメッセージ

今回は裁判後に報告会を開催しました。報告会での、弁護団からのメッセージを紹介します。

小島弁護団長は、

「オランダやドイツ、フランスで市民側勝訴の案件が増えている。日本の裁判所は世界の裁判の動向になかなか影響されないけれども、一つ一つ積み上げていくことが大事。」

今回新しく原告弁護団に入った長井弁護士は、

「気候危機は我々の生命を脅かすものになってきている。弁護士としてそれに取り組み、食い止めたい。」

今回の尋問で武本さんに質問をした半田弁護士は、

「武本さんの生の声をいかに伝えるかで考えてきた。裁判官も手元の写真を見ながら反応し、武本さんも傍聴者に聞こえるように大きな声で話してくれた。環境訴訟を見ていると、若い弁護士があまりいないが、これからも頑張っていきたい。」

神戸での石炭訴訟も担当されている浅岡弁護士は、

「裁判官はよく聞いてくれた。原告の気持ち、なぜ裁判を起こしたのかというのがよく伝わったと思う。気候変動は今よりもっと悪くなる。世界の裁判所は気候変動が人権侵害をもたらすことを理解している。この4年の間、世界の裁判所の認識はおそろしく変わった。世論を動かしてしっかり反映させていきたい。」

今回の尋問で鈴木さんに質問をした千葉弁護士は、

「この発電所の計画が地元の人に知られていった過程、鈴木さんが初めからアセスの問題点に注目していたことが伝わったと思う。裁判官に、このままではいけないんだという気持ちにさせていきたい。」

今回の裁判を聞いて

筆者は、まず第一に武本さんがおっしゃるような海中の変化が起こっていることを知らなかったため、とても驚きました。こういったことを私の周りの若者が知っているとは到底思えないので、こういった変化を正確に広めることがとても重要であると思いました。また、環境を犠牲にする経済成長は許されるべきではないと思うので、今回の裁判を勝訴し、環境保全のための裁判の良い前例となることを願っています。また、環境アセスメントの簡略化などについて、国側の誠実な対応を求めます。

(祐谷直樹)

次回期日のご案内

次回も今回同様、原告2名の尋問が行われます。
2022年3月7日(月)10:30〜@東京地方裁判所第103号法廷です。ぜひ、傍聴にいらしてください。

また、閉廷後、日比谷図書文化館大ホールで報告会(オンライン中継あり)を行います。傍聴への参加が難しい場合でも、ぜひこちらもご参加ください。

*傍聴と報告会の詳細は、後日こちらに掲載されます。

https://yokosukaclimatecase.jp/

FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や発電所建設の中止を求める地元住民、市民とともに、日本の脱石炭を求め活動していきます。

(髙橋英恵)

【横須賀石炭訴訟報告 vol.9】環境省も指摘していた!?環境アセスメントの不備

本日、横須賀石炭火力訴訟の第9回期日が行われました。

本裁判は、石炭火力発電所を建設するにあたって、環境影響評価手続きが適切にされていないことを指摘し、本建設に係る環境影響評価の確定通知の取り消しを求める裁判です。

(裁判についてのより詳しい説明はこちら:横須賀石炭火力、提訴へ!日本4件目の気候変動訴訟。その背景とは?

原告含め約40名の傍聴者が参加した今回は、千葉弁護士から、環境省の文書から判明した経済産業省との本件アセス(横須賀石炭火力行政訴訟の対象となっている石炭火力発電所の建設に係る環境アセスメント)に関するやりとりについての意見陳述があり、その後、小島弁護士から本訴訟全体の要点に関する陳述が行われました。

環境省も指摘していた!?環境アセスメントの不備

千葉弁護士から、環境省の文書から判明したこと(原告準備書面16)に関する意見陳述がありました。

火力発電所の建設に係る環境アセスメントには、配慮書、方法書、準備書、評価書の4つのステップがありますが、環境大臣は配慮書と準備書の段階で経済産業省に意見を提出することができます。

出典:https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/pdf/015_10_00.pdf

横須賀石炭火力行政訴訟の対象となっている石炭火力発電所の建設に係る環境アセスメントの期間中、環境省が経済産業省に対し100項目以上もの質問をしていたことがわかりました。

環境省の質問の例として、

「天然ガス火力などの燃料の複数案が考えられるが、最終的に石炭火力としたのはなぜか?」

「重大な環境影響がないと判断するに至った過程を示してほしい」

「リプレースというが、改善どころか悪化するのでは?環境アセスメントに記載されている”現状”の意味をしっかり明記せよ」

など、まさに、現在行われている裁判で原告代理人が指摘していることを、環境省も環境アセスメントが行われているときに指摘していたことが判明しました。

これらの環境省の質問や意見に対し、経済産業省からの回答は事業者の利益を守るような回答が多く見受けられました。(詳細は、後日、横須賀石炭火力行政訴訟のHPに掲載される迅美書面16をご覧ください。)

繰り返し指摘される気候変動の深刻さ

小島弁護士からは、改めてこの環境アセスメントの問題点や石炭火力発電所がもたらす影響についての陳述がありました。本訴訟全体の要点として、

  1. 原告らの生命、健康、住居などの財産等への危機が差し迫っていること
  2. 発電所の稼働は多大な温室効果ガスの排出をもたらし、原告らの生命、健康、住居などの財産、食料の危機など、深刻な危険を増大させ、より切迫させること
  3. CCSやアンモニア発電は稼働させる理由にならないこと
  4. 石炭火力を発電させなくても、電力不足にはならないこと
  5. 本件アセスメントの手続きは多くの重大な瑕疵があり、その手続きの不適切さが著しいこと

の5つにまとめられました。

気候変動の影響は、気候危機と呼ばれるほどに深刻化しています。人間への影響として、日本でも今年すでに多くの方が豪雨災害の被害をうけ、8000人の方が熱中症で救急搬送されています。また、インフラへの影響も深刻で、本行政訴訟の対象となる石炭火力発電所が建設される横須賀市でも、2021年11月9日に豪雨により道路が冠水し、3年前にも市内で道路の冠水が起きています。国外でも、気候変動の影響は深刻です。オランダの最高裁判所やフランスの行政最高裁判所などでは、気候危機を危機として受け止めた判決が出てきており、ドイツの連邦裁判所については、「気候危機は壊滅的で終末的な規模の環境破壊である」と、気候危機は深刻な問題であるとの認識を示しているそうです。

CCSやアンモニア混焼技術を用いたとしても、上述のように気候変動による影響がすでにある中、気候変動の原因であるCO2を追加的に排出させることは許されないこと、エネルギー消費量の削減など適切な政策措置が取られれば石炭火力を稼働させなくても再生可能エネルギー100%の実現は可能であること、そして何より、この石炭火力発電所に係る環境アセスメントの手続きが不適切であることを強調されました。

迫力のある意見陳述が2名の原告代理人からありました。

しかし、第9回期日も、冒頭では被告からも陳述を行うことが確認されたものの、原告代理人の陳述のみで終わり、もどかしさの残る裁判でした。

次回期日のご案内

本日の裁判の報告会は、12月21日(火)18:30〜19:30にオンラインにて開催されます。

申し込みはこちらです。

▼第9回期日 オンライン報告会(12月21日)

https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_KQqcIZ-SRyWBG1TAAPWJqQ

次回は、代理人だけでなく、原告の意見陳述及び尋問があります。ぜひ、原告の生の声を聞きにいらしてください。

▼次回の期日日程はこちら(傍聴前に、こちらで確認の上、お越しください)

2022年2月21日(月)13:30〜@東京地方裁判所第103号法廷

*2022年3月7日(月)10:30〜@東京地方裁判所第103号法廷(2/21に意見陳述の都合がつかなかった原告の意見陳述が予定されています。)

COP26でも、石炭火力の段階的削減が合意されました。日本は先進国として、石炭火力から脱却することが求められています。

FoE Japanは引き続き、横須賀石炭火力訴訟に関わる原告や発電所建設の中止を求める地元住民、市民とともに、日本の脱石炭を求め活動していきます。

(髙橋英恵)

「地元の石炭火力のこと、もっと多くの人に知ってほしい」横須賀市民アンケート(後編)

今年4月、横須賀市と三浦市内の6つの地域で、それぞれの地域に住む住民の方の手によって、気候変動や石炭火力建設についての意識を調査するアンケートが行われました。

今回は、アンケートに関わった大木さん(野比在住)、竹渕さん(岩戸在住)にお時間をいただき、なぜアンケート活動を実施しようと考えたのか、アンケート活動を進める中でのエピソード、そしてこのアンケートに込める思いを伺いました。

(アンケートの結果については、「横須賀市民アンケート(前編)「約64%の方が石炭火力建設反対」をご覧ください。)

アンケート活動のきっかけを教えてください

大木さん

「2020年11月、コンビニの中でばったり、2年ぶりくらいに岸さんという友人に会ったんです。そこで10-15分立ち話をして。その時に、彼女から石炭火力が新しく作られていることを知ったんです。大昔に石炭火力があったのは知っていたんですが、新しい石炭火力がたつとは知らなかった。そのあと、新聞などで自分で調べていくうちに、石炭火力を止めるための訴訟をやっていることとか、全国の石炭火力発電所のあるところでアクションがあることを知ったんです。グレタの言葉も知って、なんとかしないと、と。あと、私はずっと楽器店で働いていて、音楽教室の運営をしていたのですが、コロナの影響で仕事がなくなってしまって。今年に入って仕事を探していたけれど、なかなか見つからない。でも、この石炭火力のことをもっと多くの人に知って欲しいという気持ちも強くて、とりあえず多くの人に知ってもらうために時間を使おうと思ったんです。。というのも、自分が岸さんから石炭火力の話を聞いたとき自分が石炭火力を知らない人間だったので、知らない人がいっぱいいるのではと。

竹渕さん

「石炭火力については、前から横須賀火力建設を考える会(横須賀石炭火力問題について活動している団体)の内藤さんからよく話を聞いていて、逗子でのイベントにも参加したりしていました。何か力になりたいと思い、途中から原告にもなっています。でも、石炭火力についての危機感をもっと強くしたのは、2020年1月の野比での気候変動の勉強会。COP(気候変動に関する国際会議)やグレタの話を聞いて、本当に止めないといけないんだと感じたんです。何かできないかと色々考えていた時に、ハイランド(横須賀石炭火力発電所の建設地の近くの地域)での石炭火力についての意識調査アンケートを知って。でも、このアンケートがハイランドだけで終わったらまずいと思い、アンケートを広げないかと仲間に相談して、そこでやろうということになりました。」

どのようにアンケートを進めたのでしょうか?

大木さん

「1月半ば、アンケートをやりたい人たちで集まりました。その時は、野比、岩戸、佐原の3地域から集まり、まずは自分たちの住んでいる地域で広めようと。でも、地元の知り合いに声をかけてみたら、他にもやりたいという人が増えてきて、バラバラでやるのはもったいないと思ったので、まとまってやろうということになりました。2月半ばには、横須賀火力建設を考える会とも一緒にやろうということになって。アンケートを始めようとした時は3地域30人くらいだったのに、進めていくうちに6つの地域(野比、岩戸、佐原、長沢・津久井・グリーンハイツ、三浦、その他横須賀市内)で112人になったんです。たくさんの人が関わってくれるのはとても嬉しくて。」

アンケート活動の中での苦労はありましたか?

竹渕さん

「私は岩戸に住んでいるので、岩戸でのアンケート活動をしていました。石炭をどうにかしたいと、自発的に25人くらいが集まったんです。10代も3人いたし、80代の方も孫のためになんとかしたいと主体的に関わってくれました。また、初めてこのような活動をするという人も2人加わってくださったんです。とはいえ、アンケート用紙を地元でポスティングすることは、みんなにとってハードルの高いものでした。2つのハードルがあったと思っていて、一つは高齢化。体力的な問題で、階段の多くある世帯などにはポスティングをあきらめました。

もう一つは人の目。「出るくいは打たれる」でないけど、周りがやっていないことへの抵抗は大きかったのだろうなと思います。どれほど彼女たちにとってチャレンジングだったか。」

アンケート活動中の思い出は?

大木さん

「地元のパン屋に買い物に言った時、『アンケートお疲れ様。絶対反対。協力します』とパン屋のオーナーさんがコメントしてくれたこと。あ、見てくれている人がいるんだ!って思ったんです。」

竹渕さん

「直接手渡しできた人には対話ができて、思いが同じとわかったときは嬉しかった。もっとこのアンケートを大きくしなきゃ、と大きなモチベーションになった。知らなかった人に知ってもらえるっていうのはやりがいとして大きかった。」

4000通以上もの回答がありましたが、集計中に気づいたことや感じたことはありますか?

大木さん

「自由記述が多かったのが印象的でした。野比のあるアンケートには、筆圧強く「がんばれ」とかいてくれている人もいたんです。また、アンケートの回答用紙と一緒にカンパもくださる方も。読みながらうるうるしてしまいました。見てくれている人がいる、このアンケートの声を国まで届けに行かなくちゃと。横須賀出身の小泉大臣に直接読んで欲しい。あと、アンケートを配っていない地域でも、アンケートの結果を伝えたい、世論を作りたい、国が無視できないくらいに。」

竹渕さん

「岩戸では高齢者が多く、パソコン作業をあまりやったことがない人が多かったけれど、パソコンでの打ち込み作業を紹介し体験もしてもらいました。そして出来上がった集計結果と自由記述はアンケートを配って回ったみなさんと共有しました。自由記述のコメントの中には、元気の出るコメントもある反面、凹むコメントもありました。懸念していることは、『ゼロカーボンになるからいいじゃない』という考えが広がること。とても怖く感じています。解決策は自然エネルギーだということを伝えたい。2050年にCO2排出ゼロになっていればいいというのは遅い。どうにかしたいと思いましたね。」

横須賀は将来、どのようになっていくことを希望しますか?

大木さん

「私は横須賀で生まれ育った。故郷なので、住み続けられる海とか山とか、自然の恵みを未来の子どもたちに引き継ぎたい。横須賀は自然が豊富。横須賀や三浦半島にあった自然エネルギーの方法を探して、地産地消や地域産業として成り立つような使い方があるはず。」

竹渕さん

「大木さんの言う通り、今のままだと横須賀のいいところが活かしきれていないと思う。野比には研究開発の先端地域として大企業の研究機関が来ているけれど、自然エネルギーの研究開発拠点になれば、自然エネルギーのモデル都市にもなれるはず。そうすれば、誰もが住みたくなるのでは。」

最後に

新型コロナウイルスの感染拡大予防のために大きな集会などが実施できない中、一人一人が地域の各戸に自分の足で歩いてアンケート用紙を配っていくという改めて地域で運動することで生まれる連帯感の強さを感じました。

大木さん、竹渕さんのお話を伺う中で、「地元で作られている石炭火力について、皆で考えたい」という思いが伝わってきました。行動が制限される中であるにもかかわらず、自らの足で配布した122人に敬意を評したいと思います。

FoE Japanでは引き続き、石炭火力の建設中止を地域住民の方と共に求めていきます。

(高橋英恵)

「約64%が石炭火力建設反対」横須賀市民アンケート(前編)

今年4月、横須賀市と三浦市の6つの地域で、それぞれの地域に住む地元住民の方の手によって、気候変動や石炭火力建設についての意識を調査するアンケートが行われました。

今回は2回にわたって、第一回はアンケートの結果を、第二回はアンケートに関わった地元の方の声を紹介します。

回答者の3割、いまだ石炭火力新設を知らず。

アンケートは3月下旬から4月上旬にかけて配布され、4月20日が回収締め切りでした。

配布地域は建設地に近い久里浜、野比、北下浦、岩戸を中心に横須賀市全域と三浦市です。

配布数は 25,620 枚、回収数は 4,074 枚、回収率 15.9%でした。

アンケートの質問は、下記の5点です。

1. 久里浜で石炭火力発電所が建設されていることをご存知ですか?(知っていた/噂程度に知っていた/知らなかったから3択)

2.石炭火力による、温暖化や気候変動への影響をどうお考えでしょうか?(影響ない/影響あり/わからないから3択)

3.石炭火力による、健康や生活環境への影響をどうお考えでしょうか?(影響ない/影響あり/わからないから3択)

4. 石炭火力発電所建設についてどうお考えでしょうか?(建設すべき/やむをえない/建設反対/わからないから4択)

5. 将来の望ましいエネルギー源は?(原子力/石炭、LNG、石油/再生可能エネルギー/わからないから複数回答可)

結果、久里浜で石炭火力発電所が建設されていることを知っていたのは45.2%、噂程度に知っていたのは25.1%、知らなかったと回答したのは29.7%でした。建設を知らなかったとの回答が3割弱あり、周知の徹底ができていなかったことが伺えます。

また、石炭火力が気候変動に影響があると考えている方も80%近くおり、健康や生活環境への影響についても、影響があると考える方が約75%いらっしゃいました。

気候変動や生活環境への影響を聞いた上で、石炭火力発電所の建設の可否について考えを尋ねたところ、4.7%の方が建設すべき、約20%の方がやむをえない、約64%の方が建設反対、残りの約11%はわからないとの回答でした。

最後の将来の望ましいエネルギーについては、再生可能エネルギーが全体の約77%、化石燃料や原発を選んだ方それぞれ全体の約8%いらっしゃいました。

自由記述欄の記入数が 1755 通

また、自由記述欄への記入数が 1755 通、回収数の 43.1% と半数に近くもあり関心の高さが示されました。

例えば、問4で「建設すべき」と回答された189名中120名から自由記述に記入があり、「原発が信頼を失った以上、火力発電のほかない。再エネですべて賄えない」「再エネに頼るのはダメ。分散してリスクを低減すべき」「原子力よりましであると思う」「火力発電がなくては便利な生活を出来ない」といった意見が見られました。

一方、「建設反対」と回答された2568人中1166名と約45%の方が自由記述に記入があり、「世界の潮流に逆行」「アレルギーがあり大変不安。建設されたら横須賀から引っ越しを考える」「小泉環境大臣のお膝元このような計画が進行中とは嘆かわしい」「市民の知らないとことで工事が進んでいることに疑問を感じる。ショック。市民として悲しい。」などの意見でした。

また、「やむをえない」「わからない」と回答した人の自由記述は、「もう建設が進んでいる。今更反対しても止まらない」「具体的にどんな問題があるかわからない」というようなものでした。

現実とアンケート結果のギャップ

横須賀市内の石炭火力発電所の建設地域付近の地域や三浦市内の6つの地域で実施した今回のアンケートは回収率は約16%であるものの、回答者全体の6割以上が建設反対という結果となりました。また、石炭火力と気候変動の関係、石炭火力と生活環境や健康との関係に影響があると認識されている方も7割以上ということもわかり、住民の中にはこの事業に懸念を持っていることが明確になったことは、とても大きな成果です。

アンケートの自由記述にも、「環境大臣はなぜ地元の石炭火力を止めようとしないのか」「世界に逆行している石炭火力をなぜ今更作るのか」という声が多く見られました。一方、「再生可能エネルギーだけでは不安定なのでは」「建設が進んでいる以上もう止められない」と悲観的なコメントもありました。地域住民の声を聞かずに建設を進め、諦めを感じさせるやり方には、憤りを覚えます。

また、横須賀石炭火力発電所の事業者であるJERAは昨年10月に「JERAゼロエミッション2050」をうちだし、2030年までに発電原単位あたりのCO2排出量を20%減、2040年までにアンモニア専焼を目指すとしていますが、この横須賀石炭火力発電所をどのようにゼロエミッションにしていくのかは公開されていませんし、そもそもJERAが検討している化石燃料からアンモニアを製造する方法は、炭素回収貯留(CCS)という不確実な技術に頼ったもので、真の脱炭素燃料とは言えません。

さらに、今年6月に開催されたG7首脳会合においては、「石炭火力発電が温室効果ガス排出の唯一最大の原因である」ことを認識し、「国内的には、我々は、2030年代の電力システムの最大限の脱炭素化を達成すること、また、それを更に加速させる行動にコミットする」と明記しています。気候変動をさらに加速させる石炭火力を建設・稼働する余裕はどこにもないはずです。

後編では、アンケート活動に関わった方に、アンケートに至った経緯、活動に込めた想いを伺います。

(高橋英恵)

【横須賀石炭訴訟報告 vol.6】簡略化の不適切性、世界の気候危機対策との不整合を指摘

本日、横須賀石炭火力行政訴訟の第6回期日が開催されました。
新型コロナウイルスの緊急事態宣言の中での初の開催となり、今回は原告12名、傍聴も12名程度と過去最小人数の中で執り行われました。

「簡略化の不当性」

今回は原告代理人から「簡略化の不当性」「菅首相の2050カーボンエミッションゼロとの不整合」の二点、主張がありました。

原告代理人の千葉弁護士より、横須賀石炭火力発電所の環境影響評価(以下、環境アセスメント)簡略化の不当性について主張がありました。

前提として、環境アセスメントを簡略化できる条件には、

  • 既に十分に信頼できる環境影響評価の結果があること
  • リプレース(建て替え)の場合
    • 稼働している旧施設が新しい施設となった場合、環境影響が低減されること
    • 稼働している旧施設が新しい施設となる間に、空白期間がないこと

があります。「稼働している旧施設が新しい施設となる間に、空白期間がないこと」という条件は、計画立案時の環境と比較するべきという考え方があります。

しかし、今回の訴訟の対象となっている横須賀石炭火力発電所は、確かに旧火力発電所内ではあるものの、稼働時と計画立案時では空白期間があります。さらに、事業者JERAが実施した環境アセスメントでは、45年以上前に建設された旧施設稼働時のものと比較しています。

千葉弁護士は、「これらの事実から環境アセスメントの簡略化は不適切であると考えられる」と主張されました。

なお、簡略化した内容は、

  • 発電所からの温排水による海洋生物の影響
  • 大気汚染についての現地調査
  • 解体工事による影響の調査・予測

となっています。

「菅首相の2050カーボンエミッションゼロとの不整合」

次に、小島弁護士より、昨年10月26日に表明された菅首相の2050カーボンエミッションゼロとの不整合についての主張がありました。

小嶋弁護士は、菅首相の上記所信表明演説における「省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。」という発言や、12月25日のグリーン成長戦略での「電力部門での脱炭素化は不可欠」との記述を引用し、横須賀石炭火力稼働の不整合性を指摘しました。

また、そもそも、時系列的に考えて、横須賀石炭火力発電所建設計画の環境アセスメントの確定通知は国際的な気候変動の動向・政策に反することも指摘しました。

具体的には、横須賀石炭火力発電所建設はパリ協定締結後に計画されたこと、さらに、同建設計画の環境アセスメントの確定通知が出されたタイミングが、1.5度の気温上昇と2度の気温上昇ではその被害に大きな差があること、1.5度の上昇でも重大な被害があること、そして2030年までの取り組みが重要であることを指摘したIPCCによる1.5度特別報告書の公表後であることを指摘しました。

第6回の裁判の報告会は2月5日(金)18:00〜19:30にオンラインで実施します。
ぜひご参加ください。申し込みはこちら(事前要申込み・無料)

次からいよいよ被告の反論

次回は5月17日(月)14:00〜、東京地方裁判所です。

今回は被告からの答弁はありませんでしたが、次からいよいよ被告の反論が始まります。裁判官も今回の裁判で「できるだけ準備してくるように」と被告に言い渡しています。被告である経済産業省がどのように反論してくるのか、注目です。

とはいえ、裁判は非常にゆっくり進む一方、工事は着々と進んでおり、焦りを強く感じます。裁判の進み方に歯痒さを感じますが、原告の弁護団の小島弁護士、浅岡弁護士は、「企業や政府の対応などの社会の変化や市民の声の高まりは、必ず裁判に影響を与える。諦めずにいきたい。」と心強い言葉もくださいました。

FoE Japanでは引き続き裁判を応援するとともに、地域住民、若い世代と共に運動を盛り上げていきます。

(高橋英恵)

横須賀石炭火力訴訟について:https://yokosukaclimatecase.jp

過去の裁判の報告、横須賀石炭火力問題に関する活動についてはこちら