【横須賀石炭訴訟報告 vol.14】異例の裁判長異動で追加の期日。判決は1月27日に

10月4日、横須賀石炭火力訴訟の裁判が開かれました。
横須賀石炭火力訴訟は、6月6日に結審、11月28日に判決が出されるはずでした。しかし、裁判長が法務省の訟務局長に異動となって交代したため、9月に急遽スケジュールが変更されて10月4日の期日が追加されました。

当日は約50名が、傍聴と報告会に参加しました。国を相手にした行政訴訟の裁判長が、国側の役職に異動することは異例だと、弁護団長の小島弁護士は報告会で力を込めていました。

気候危機はこの夏にも大きな被害をもたらした

6月の期日の後、この夏も国内外各地で気候危機の深刻な被害が起こりました。

原告団長の鈴木陸郎さんは、気候危機の激化と、気候危機は人権侵害であることを訴えました。横須賀石炭火力は逆行している、しかし「今ならまだ間に合う」と、司法での判断を求めました。

小島弁護士はまず、新たな裁判長に対し「これまでの記録を一から見直してほしい」と求めました。石炭火力発電所は1日に1万トンの石炭をもやし2万トンのCO2(体積では東京ドーム8個分)を出す、1日1000トンの粉じんも出す、と改めて強調しました。

半田弁護士は、この夏の欧州の熱波やパキスタンの洪水、8月上旬の東北から北海道での豪雨の被害状況を紹介しました。

最後に再び小島弁護士が、気候変動による災害で多くの方が亡くなったり、東京湾周辺でも磯焼けや漁獲高の減少がここ数年で顕著であることを説明、今回の行政訴訟の経緯を振り返り、「司法が責任を果たすことが強く求められている」と締めくくりました。

裁判の背景や詳細はこちら:なぜ訴えるのか | 横須賀石炭訴訟 (yokosukaclimatecase.jp)

判決は1月27日(金)、裁判長にお手紙を!

終了後の報告会で、判決までにできることとして、小島弁護士からこんな提案がありました。

「品田裁判長に心のこもったお手紙を書いてはどうでしょうか。言いたいことを一つにしぼって、短くていいのです。」

これは、誰でもできて効果がありそうなアクションです!

(宛先は、東京地方裁判所の品田裁判長。詳しい住所や宛先の書きかた等は後日訴訟ホームページに掲載されます。)

横須賀石炭訴訟について:https://yokosukaclimatecase.jp/

過去の訴訟報告ブログはこちら 

(吉田明子)

【横須賀石炭訴訟報告 vol.5】訴訟はターニングポイントへ。次回から本案審理開始。

10月14日、第5回期日が実施されました。前回に引き続き、新型コロナウイルス感染拡大予防の観点から、傍聴人数を制限しての開催でした。

今回の裁判では、前半に原告代理人からの主張があった後、後半は裁判長より今後の裁判の方針についての話がありました。

第5回の裁判の内容の結論から言うと、過去4回の期日を通じて議論されていた原告適格や訴訟要件の議論と並行し、次回の第6回期日から、本案の審理に進むこととなりました。本案審理に進むにあたり、裁判長は被告である経済産業省に対し、原告が今まで提出してきた書類への反論準備を、次次回期日(5月17日予定)までにするようにとの指示をしました。

原告適格や訴訟要件の議論と並行してではありますが、本案の審理が開始されるということは、次のステップに進むことなったといえます。

以下、裁判での原告主張は下記の通りです。今回、原告代理人からの主張は、浅岡弁護士より(1)環境アセスメントにおける地球温暖化の影響の評価について、小島弁護士より(2)温室効果ガス排出による漁業者への影響についての二点ありました。

環境アセスメントにおける地球温暖化の影響の評価について

浅岡弁護士は、CO2の排出累積量と気温上昇の推移の関連性を示しながら、CO2と温暖化の関連性を改めて示した上で、地球温暖化に伴う気象災害リスクや熱中症被害の増加の危険性があり、温暖化は命や生活を脅かすものであることを強調されました。そして、環境基本法では、人の健康や生活環境が守られ、良好な状態に保持されることが規定されている(第14条1号)ことに言及しながら、生命・生活環境は環境影響評価法において確保すべき目標であり、CO2増加に起因する気候変動による影響は、命や生活環境の保全に支障をきたすものであるにもかかわらず、温暖化の影響が横須賀石炭火力建設にあたっての環境アセスメントで評価されていないと主張されました。

漁業者への影響について

小島弁護士は今回の環境アセスメントが始まる2016年以前に、すでに漁業と気候変動の影響に関する調査報告が中央環境審議会や農林水産省より公表されていることを指摘しました。

小島弁護士によれば、様々な調査の結果、一番大きい影響を受けているのはブリやサワラ、スルメイカといった回遊魚だそうで、すでにブリの分布域が北方面に移動していること、スルメイカの漁獲高が2000年代には1980年代と比較して95%減となっていると報告されました。そして将来の予測として、サンマの体重が減り漁期の遅れること、サケの生息域の減少し、2050年にはオホーツク海でもサケの適温水域が消失する可能性があることをあげられました。

養殖業にも大きな影響を与えているようで、帆立や牡蠣にも影響がすでに出ているほか、特に海面養殖業の中で漁獲高第一位の海苔については、神奈川県の海苔の8割を生産する横須賀走水でも生産量が急激に減っていることを述べました(横須賀走水の海苔養殖漁師の話はこちら)。

「今は当たり前のようにおにぎりに海苔を巻いているが、このままだと海苔が高級品になり、その当たり前がなくなっていく」と、身近な食事に照らし合わせて温暖化の漁業への影響を話されたのは印象的でした。

また、神奈川県近海には、高級魚であるマコガレイやアワビの漁獲高も激減っていることも、神奈川県水産技術センター等の調査で判明しているそうです。

その上で、今回の環境アセスメントについては、このような漁業者の手段ともなっていたマコガレイやアワビなど、特定種の生態調査が実施されていない点を指摘し、アセスメントの内容の不十分性を主張しました。

閉廷後、小規模ながら今回の裁判の報告会を実施しました。報告会の中で、弁護団長の小島弁護士は、裁判長の本案審理を開始するという発言について、「世界や大きな変化と世論の盛り上がり、前回の裁判での傍聴席からの圧力を感じたのではないか」とコメントされました。

本案審理が始まる一方、反論準備のために被告に与えられた時間は半年以上と長く、気候危機のタイムリミットを考えるとあまりに悠長であり、歯痒く感じます。

被告である国の反論について、来年1月には神戸石炭火力行政訴訟の結審が予定されており、ここでの被告の反論が今後の横須賀石炭訴訟でも参考になるかもしれません。

次回期日は2021年1月22日(金)14:00から、東京地方裁判所で実施の予定です。

今回の裁判は、横須賀訴訟原告団による地道な漁業者への聞き取り、全国各地で広がる気候変動対策の強化を求める運動、そして裁判の傍聴に参加されてきた皆様や弁護団の熱意が、裁判長の判断につながったものと考えます。

本案審理が始まるからこそ、FoE Japan は引き続き、よりいっそうの世論を盛り上げに注力し、多くの市民の関心をこの裁判に集めていきたいと思います。

(高橋英恵)

*横須賀石炭火力事業についてはこちら:https://www.foejapan.org/climate/nocoal/yokosuka.html

*横須賀石炭火力訴訟についてはこちら:https://yokosukaclimatecase.jp/

*この裁判を応援してくださるサポーターを募集しています!詳細はこちら:https://yokosukaclimatecase.jp/support_us/

*日本の石炭火力問題について、2030年に石炭火力ゼロを目指すキャンペーン「Japan Beyond Coal」が2020年9月29日始まりました。石炭火力発電の問題点や気候変動との関係がまとめられています。ぜひご覧ください。

Japan Beyond Coalはこちら:https://beyond-coal.jp/