住友商事・スミフルは今すぐ対応を!血に染まるバナナ―現場からの緊急報告

バナナプランテーションの実態

庶民の食べ物として広く流通するバナナ。日本のコンビニやスーパーなどで見ないことはありません。日本におけるバナナの購入数量は生鮮菓物のなかで2004年以降、みかんを抜き、13年連続1位。その需要の高さが伺えます。その日本のバナナのうち、金額・数量をそれぞれ85%、83%占めるのがフィリピン産[1]。そして、国内販売量No.1を謳(うた)うスミフル(旧住友フルーツ)は、大手金融機関による投融資も受け、住友商事が株を49%保有しています。しかし、スミフルが事業を展開するフィリピンのバナナ農園を巡って、農薬による野菜・環境の被害や深刻な健康被害が告発されてきました

フィリピンにおけるバナナプランテーションへの批判の歴史は日本では長く、故・鶴見良行氏の『バナナと日本人』(1982年、岩波新書)に始まります。しかし、問題は残念ながら解決されていません。今、正当な権利を勝ち取ろうと声をあげるバナナプランテーションの労働者を狙い、軍や警察、私兵などによる脅迫・暴力行為が起き、銃撃・放火事件も相次ぐなか、死傷者が出るなど深刻な事態となっています。 その深刻な人権侵害の状況把握と背景を調査するため、12月にフィリピンのミンダナオ島コンポステラ・バレー州をPARC(アジア太平洋資料センター)と訪問しました。

現場からの緊急報告(コンポステラ・バレー州)

ドゥテルテ大統領が2016年まで市長を務めていた南部の大都市ダバオに到着。翌日、早朝の目覚めとともに衝撃的な一報が入りました。スミフルの労働組合NAMASUFA(Nagkahiusang  Mamumuo  sa  Suyapa  Farm)の現地事務所と組合のリーダーの家など4棟が未明に放火されたというのです。急いで支度し、出発。ダバオから北東へ車でおよそ2時間、コンポステラ・バレー州に入りバナナのプランテーションが視界に入ってきました。途中スミフル専用の港やトラック、バナナを梱包する工場を横目にしながら現場に到着。数十人 の人々が集まっているその奥に煙が見えました。

道の両脇に広がるバナナプランテーション(2018年12月撮影、FoE Japan)

スミフルの労働者から聞取りをするため、使用させてもらう予定だったNAMASUFAの事務所が未だに煙を上げていました。衝撃を隠せませんでした。幸いなことに死傷者はいませんでしたが、リーダーの家や組合事務所を含む4棟、そしてNAMASUFAが所有していたという重要書類が全焼。現場には消防や警察、メディア関係者などはおらず、周辺住民が燻(くすぶ)る炎に水をかけていました。

スミフルの労働組合NAMASUFAのリーダー宅焼け跡(2018年12月撮影、FoE Japan)
バケツで水をかけ火消し(2018年12月撮影、FoE Japan)

NAMASUFAの事務所の焼け跡には、スミフルの備品と思われる焼け焦げた机もありました。日本へ出荷されるバナナの農園・梱包工場で働く労働者たちへの弾圧と理不尽さを目の当たりにし、気持ちの整理がつかないまま、その人たちへのインタビューを開始。根深く、深刻な実態を聞くことになります。

事務所焼け跡からスミフルの備品(2018年12月、FoE Japan)

なぜ、このような事態になってしまったのか。2017年6月に、スミフルの正社員であることを訴えてきた労働者側が最高裁判決で勝利を収めてから事態が悪化したと言います。判決の内容は労働組合NAMASUFAをスミフルの正式な労働組合と認定し、訴えていた従業員をスミフルの労働者と認めるというものでした。ところが、スミフル側がこれを無視。バナナプランテーション及び梱包工場等の操業を変わらずに続けたことにより、今年10月、フィリピン・ミンダナオ島南東部コンポステラ・バレー州におけるバナナプランテーションの主に梱包工場で働く従業員900余名による大規模なストライキが決行されました。しかし、ストライキに参加した900人は事実上の解雇となっています。暴行・放火・銃撃事件が相次ぎ、今回の組合リーダー宅への放火も二度目でした。

11月30日に組合代表の家に撃込まれた8発中2発の銃弾(2018年12月、FoE Japan)

訴訟やストライキを決行した理由には梱包工場での過酷な労働環境や不当な労働契約、有毒な薬の使用などがあります。毎日23時間、身体がボロボロになるまで働かされたという証言。過大なノルマを課せられ、最低賃金を大きく下回り、辞めた女性もいました。

また、バナナ農園においても、親が土地をバナナ栽培用に契約し、再契約をさせてもらえずに子どもにそのまま受け継がれてしまうケースも深刻で、自分たちが聞き取りしたその契約内容は、23年間も納品単価の据置きを可能にするものでした。自分の土地について、「Intervention Contract(介入契約)」を結ばされた男性は多額の借金を抱えていました。その聞き取りの内容は衝撃的なもので、10年間の契約が切れた後、バナナ農園の運営をスミフルが担うという名目上、スミフルに対し、年間1ヘクタールあたり35,000ペソ(約73,500円)を支払う必要があるという再契約を結ばされたというものでした。さらに、その契約書のコピーは手渡されることもありませんでした。当初の契約内容も、現在の契約内容も、スミフルのみぞ知るところで、自分たちには確認する術がないのです。現在その男性は500,000ペソ(約105万円)の借金があると言います。この地域の最低賃金が1日365ペソ(約767円)であることを考えると、とても払える額ではありません。

地元コンポステラ町での人権状況の悪化とスミフルが交渉を拒否しつづけている現状から、11月下旬、ストライキをしている900余名のうち、およそ330人はコンポステラ・バレー州から遠く離れたフィリピンの首都マニラに乗り込むことを決断し、大統領府前や労働雇用省前、日本大使館前などでのデモ活動を繰り返しています。コンポステラでの聞き取りを終え、マニラに戻ってから、早速その労働者たちが拠点にしている野外テントを訪れました。

その労働者へも聞き取りを行ない、明らかになったのは2014年から施行された『圧縮労働週間制度(Compressed work week)』が悪用されている実態でした。それは週に6日48時間働く代わりに、週に3日36時間ないし4日で48時間働くというものでした。そうすると1日12時間までが日払い(365ペソ=約767円)となり、残業代(1時間あたり52ペソ=約109円)は12時間労働した後に払われるというものです。つまり、同じ賃金(365ペソ)でも1日の労働時間を4時間長く設定できるので、事業者からすると支払いを抑えることができる=従業員は同じ時間を働いているのにもかかわらず収入が減ります。結果として、労働者たちは以前4時間分の残業を得ていた分を、追加で残業しなければ生活できないので、1日20時間以上も働くことになってしまうのです。

マニラでのデモ(2018年11月撮影、FoE Japan)

加えて、「数種類の農薬が使われている。最近では無臭のものになり、農薬を過剰に吸いやすくなり、深刻な健康被害になる恐れがある」と農薬の調合を担当していた男性は危惧しました。今回、梱包工場の労働者への調査では、PARC制作ビデオ『甘いバナナの苦い現実』で登場するような失明のような深刻な被害を受けた人はいませんでしたが、多くの人が皮膚病をはじめ、腹痛、高熱、アレルギーを訴えており、防具も十分に支給されなかったそうです。

マニラでの聞取り(2018年12月撮影、FoE Japan)

これらの事例は氷山の一角であり、こうした労働環境はスミフルに限ったことではなく、他のバナナブランドでも同じようなことが起きているという証言もありました。また、12月4日のTBSラジオで立教大学異文化コミュニケーション学部教授の石井正子さんが「バナナの大量廃棄処分の実態もあるが全容が明らかでない」と話されていたように、バナナには、他にも様々な問題があります。

朝ごはんやおやつにバナナを食べている方、チョコバナナやバナナパフェが好きな人も多いかと思います。栄養価が高く、健康にも良いとされるバナナを食べるなとは言えません。ついつい安いバナナ、黒い点のない黄色いバナナに手が伸びることでしょう。しかし、その安さや黒い点のないバナナを作っている人たちのことを忘れないでほしいと願っています。そのバナナは血に染まっているかもしれません。

なお、ストライキをするスミフルの従業員の方々は現在、収入がない状況で、募金などの支援により自分たちの正当な権利を勝ち取るための活動を続けています。マニラでピケを張る皆さんは、依然よい結果を得られていないことから、フィリピン人にとって家族と過ごすとても重要なクリスマスや年末年始も地元コンポステラ・バレーに戻ることができませんでした。様々なサポートを必要としている労働者の皆さんのため、カンパを呼びかけています。日本の皆さんからもぜひご協力をお願いします。

[1]財務省貿易統計のデータをもとに計算

※スミフル労働者の問題の詳細や経緯は、こちらもご参照ください。

※スミフル労働組合メンバーへ支援のカンパのお願い

現在、マニラでスミフルへの抗議の声を上げ続けているNAMASUFA(スミフル労働組合)のメンバーが、食料・薬などの生活支援と活動支援を必要としています。ぜひ、カンパのご協力をお願いします。

下記要項を事務局までお知らせの上、銀行口座にお振り込みください。
お名前/ご住所/お電話番号/ご支援金額/用途指定寄付(バナナ)であること

カンパ入金口座:

1)ゆうちょ銀行 〇一九支店(019) 当座口座 0163403
名義: アジア太平洋資料センター

2)郵便振替口座 00160-4-163403 アジア太平洋資料センター

※寄付に関するお問い合わせ

特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター(PARC)/担当:田中

〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町1-7-11 東洋ビル3F

TEL:03-5209-3455

E-mail:office (@) parc-jp.org


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日本の官民が進めるニッケル開発現場で深刻な被害


日本のフィリピン・ニッケル鉱山/製錬開発の環境・健康影響

日常の中で何気なく使っているスマホやパソコンのリチウムイオン電池。近年、電気自動車などの普及とともに、益々欠かせない電池となっています。その電池の原料として欠かせないのがレアメタル(希少金属)の一つ、ニッケルという鉱物。フィリピンは、現在世界最大のニッケル鉱石生産国で、日本が官民でその開発・製錬に深く関わっています。住友金属鉱山をはじめ、大平洋金属、双日、三井物産が現地企業などに出資し、また国際協力銀行(JBIC)が融資、日本貿易保険(NEXI)が付保しています。

日本が関わるフィリピンのパラワン州や北スリガオ州におけるニッケル鉱山・製錬所周辺地域の河川水や湧水などで、これまで日本の環境基準を超える六価クロムが検出されてきました。天然で存在することがほとんどない六価クロムは東京築地などでも基準値以上が検出され、話題となった毒性の高い物質です。皮膚の腐食、臓器障害、癌、DNA損傷の可能性もあると言います

2018年12月の現地調査(北スリガオ州)

この12月、FoEのスタッフになってから初めて、北スリガオ州タガニートでの現地調査に同行しました。成田空港を離陸してからおよそ16時間、3つのフライトを乗り継ぎ到着したスリガオ空港は美しい緑の山林に囲まれており、雨季の湿気を含んだ暑さと、空気の良さを感じながらプロペラ機を降りました。翌日、車で東岸沿いを2時間ほど南下したところにあるタガニート鉱山付近に到着。グーグルマップでも確認できますが、赤茶になった山肌が幹線道路からもちらほらと目視できるようになりました。しかし、PARC制作ビデオ『スマホの真実』で撮影された鉱山開発の現場が最もよく見える場所には立ち入りができませんでした。

今回、メインの水質調査は、タガニート鉱山/製錬所からの排水が流れ込むタガニート川、ハヤンガボン川にて二日間行われました。六価クロム簡易検知管の検査では引き続き複数地点で環境基準値(0.05 mg/L)を超えており、周辺地域の住民への健康被害や水生生物への悪影響などが懸念される状況でした。1日目の調査では、タガニート川とハヤンガボン川でそれぞれ0.1 mg/L、0.075 mg/Lと、基準値以上の六価クロムが検出され、2日目にもタガニート川で基準値以上の0.15mg/Lが検出。今後、採取した水は専門家に精密に分析してもらう予定です。

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タガニート川検査結果
(2018年12月撮影、FoE Japan)

今回、何度も現場で検査を行なってきたスタッフからも驚きの声が上がったのは、先住民族ママヌワの移転地近くに暮らすビサヤの人びと数軒が主に利用している湧水の検査結果。簡易検知管の検査で基準値の20倍である1.0 mg/Lが計測されました。湧水をホースで導水し、煮沸などの処理もせぬまま飲料水としても利用しているとのことでした。移転地での水不足の際は先住民族ママヌワの人びとも利用し、この地域の住民の重要な水源になっているようでした。

先住民族ママヌワの移転地近くにあるビサヤ住民の住宅(2018年12月撮影、FoE Japan)

六価クロムの簡易検知管は、汲んだ水を試薬の入った透明なプラスティック製のチューブに吸い取り、六価クロムに反応した場合、1〜2分経過するとピンク色に変化します。この湧水は、チューブで吸い取った直後からみるみるうちに色が変わり始め、その事態の深刻さを人々にどう伝えるのがいいのか、複雑な心境を覚えました。先住民族ママヌワの人びとにとっては、そもそも、鉱山開発によって余儀なくされた移転。移転先で十分な水がなく、このような危険な水を利用することになっている実態――日本の官民が多額の出資・融資をして進める事業によって、住民の人びとが深刻な汚染状態にある水の利用を押し付けられていると自分は感じました。

先住民族ママヌワの移転地近くに暮らす住民が主に利用する湧水の検査結果(2018年12月撮影、FoE Japan)
先住民族ママヌワの移転地近くに暮らす住民らが主に利用している湧水。ホースで導水している(2018年12月撮影、FoE Japan)

FoE Japanは、パラワン州リオツバでも六価クロムがニッケル開発・製錬所の周辺から検出され続けていることから、2016年に製錬事業の最大の出資者である住友金属鉱山に水質調査に関する要請書を提出しました。事業者は、2012年から、鉱石置き場のシート掛け、沈砂池の掘削、また、河川につづく沈砂池の出口付近における活性炭の設置を対策として行っているといいます。しかし、FoEに長年協力してくださっている専門家の大沼淳一氏(金城学院大学元非常勤講師、中部大学元非常勤講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)は、その対策は十分ではないと指摘をしてきました。現に六価クロムは検出され続けているのです。

さらに、深刻な人権侵害も起きています。2017年1月、自分たちの土地・生活の権利を訴えてきた先住民族ママヌワのリーダーであるヴェロニコ・デラメンテ氏が殺害され、住民たちは事業に対する懸念の声を上げにくい状況となっています。また、今回、私たちが水質調査を行ったミンダナオでは、フィリピン政府により戒厳令が敷かれており、周辺の町では軍によるチェックポイントが点在するなど緊張感の高さを肌で感じました。

日々の暮らしに欠かせないリチウムイオン電池に含まれるニッケル。その開発は、深刻な水質汚染や住民リーダーの殺害といった人権侵害にも加担するものであり、多大な犠牲の上になりたっている――今回の訪問で、そのことを改めて痛感しました。

現代社会において、パソコンやスマホを手放すことは困難ですが、まだ使えるのに新しい機種を購入するといった行動は疑問を感じざるを得ません。大量生産・大量消費のひずみの一端を引き続き発信し続け、日本から遠く離れた出来事をより身近に感じてもらえるよう、そして、スマホやパソコンをはじめ、モノを大事に扱う大切さを改めて伝えられるよう、FoE Japanで活動を続けていきたいと思います。 (松本 光)

気候変動と向き合うアジアの人々の声

FoE Japanでは気候変動による被害の実情を探るため、スリランカやフィリピン、インドネシアでの調査を行っています。気候変動は’threat multiplier’(危機を増幅させるもの)と表現される通り、気候変動によって食糧生産の効率が落ちたり、そのために移動を強いられ難民や移住民となったり、また平和が脅かされるといったように、気候変動が別の社会問題をさらに悪化させる原因となっています。

フィリピンの例もまさしく、気候変動が人々に多大な不可をあたえ、貧困の連鎖が断ち切れていない状況を生じさせています。是非、現地の声を聞いてください。

フィリピンの気候変動についてはこちら

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先日伊勢志摩で開催されたG7サミットでは、気候変動・エネルギーは主要課題の一つでした。
2016年内のパリ協定発効の目標が明記された物の、温室効果ガスを最も排出する石炭火力発電に関する記述等はなく、さらには原発を気候変動対策に位置づけるといった大変弱く問題だらけの首脳宣言が出されました。
> FoE Japanによる声明はこちら
>環境4団体による声明はこちら

これまで沢山の温室効果ガスを排出して来た日本は、持続可能な社会に舵を切るどころか、国内でも50基近い石炭火力発電所の建設を計画し、また海外でも現地の人権侵害を無視したような石炭火力への投資が行われているのが現状です。
今も福島事故が収束していない中、また廃棄物の問題も解決していない様々なリスクをはらむ原発は気候変動対策にはなりません。事実、2014年度は原発なしで、温室効果ガスの排出量が減少しています(参考:2014年度の温室効果ガス排出量確報値)。

気候変動はすでに起きています。
省エネ・再エネを推進し、原発や化石燃料に頼らない社会への転換が強く求められています。

COP21報告会 Climte Justice Now!

スタッフの深草です。先週2月18日に Climate Justice Now! パリ合意で気候と人々の生活は守られるのか?を東京で開催しました。ウェブサイトに資料も掲載しています。

昨年2015年12月にパリ協定が合意され、ポスト京都の新しい法的枠組みが生まれました。
このパリ協定や気候変動を巡る動きなどについて、東北大学の明日香寿川先生とFoE小野寺ゆうりから気候の公平性や気候の正義という観点から報告がありました。私からはフィリピンで調査した気候変動影響による損失と被害の様子を報告しました。動く→動かすの稲場雅紀さんからはSDGsとCOPの関わりや、SDGsの最新情報について報告がありました。

Climate Justice (気候の公平性)とは、先進国に暮らす人々が化石燃料を大量消費してきたことで引き起こした気候変動への責任を果たし、すべての人々の暮らしと生態系の尊さを重視した取り組みを行う事によって、化石燃料をこれまであまり使ってこなかった途上国の方が被害を被っている不公平さを正していこうという考え方です。

気候の公平性の観点から、今回のパリ合意が人々や気候を守る事ができるのか?
今回パリ協定において、気候変動の影響、いわゆる「損失と被害(loss and damage)」については、独立した条項が設けられました。気候変動による損失や被害そのものは認められたものの、その損失や被害に対する’補償’に関しては、協定内には盛り込まれませんでした。その背景にはアメリカの強固な反対があり、決定文(合意文の方とはちがい法的拘束力はない)の中では「この協定が損失と被害に対し、補償の根拠になるものではない」と付け加えられました。ただし決定文の中の話なので、今後の交渉によってはかわっていく可能性があります。

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明日香先生は、パリ合意は残念ながら「自主的」な取り組みにまかされた部分が多いが、ビジネスや司法へのインパクトは大きいと評価されていました。
興味深かったのは、気候変動による被害によって生じている人権侵害が訴訟に発展し、実際に勝訴しているケースもあるという事です(例えばオランダの市民団体が温室効果ガスの削減目標が低すぎるということでオランダ政府を訴えたケース。一審で市民側が勝訴し、政府は上告しているそう)。こういったケースが増えてくると、今後気候変動と訴訟リスクといった観点の補償の議論もすすむかもしれません。
ビジネスにおいては、ここ数年化石燃料関連に投資されていたお金からを撤退させる(ダイベストメント)が進んでいます。たとえば、ノルウェーやオランダの政府年金基金はダイベストメントに賛同して化石燃料セクターへの投資からの撤退を表明しています。年金基金だけでなく、大学や保険会社、銀行もダイベストメントに賛同するところが増えています。

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FoE小野寺から、パリ合意にいたるプロセスにおいてもアメリカの意向が大きく反映されたものであったと報告がありました。アメリカの合意は不可欠ですが、米国議会で拒否されてはアメリカの参加がなくなってしまいます。ということで、議会に否決裁決させないような合意内容にするため、という名目で駆け引きがあったようです。
二国間クレジットや炭素取引のスキームがパリにも引き継がれていることに注意が必要だという指摘もありました。このままでは、日本の原発や高効率石炭火力が’温室効果ガス削減に役立つ’として、クレジットのために輸出されてしまう可能性がありますので、要注意です。
さらに過去には、バイオエネルギーのために穀物用農地をエネルギー用に転換したことから、穀物価格が高騰し、食糧安全保障が脅かされるという事態にも発展しています。

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私からは昨年行ったフィリピン調査の報告を行いました。
フィリピンではカテゴリー4や5(5はスーパー台風とも呼ばれ、家屋が倒壊したり甚大な被害がでるレベル。4も浸水や家屋被害などがでる威力の強い台風です)の台風が増えており、繰り返し被害を受けるので、なかなか回復できず貧困の連鎖から抜け出せない人も多くいます。
たとえば、2013年にフィリピンを襲った台風ハイヤンですが、その時に家を失った人がいまだに仮住まいにすんでいたり、住宅補償や生活手段再建の支援がない状態にあります。(詳しくはこちらで報告しています)

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動く→動かすの稲場さんからはSDGs(持続可能な開発目標)の話がありました。
SDGsもパリ協定と同じ2015年に国連で採択されました。これまでのMDGs(ミレニアム開発目標)にかわる新たな枠組みです。持続可能な社会にむけて17の大きなゴールを定めています。
17の目標のうち、目標13が「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策をとる」です。基本的に気候変動問題はUNFCCC-COP(国連気候変動枠組条約締約国会議。所謂COP21パリ会議など。)の場で決められるので、SDGsにおいて気候変動に対して何か具体的に決まったりする事はありません。
SDGsの主題は「我々の世界を変革する Transforming our world」でした。
印象的だったのは、SDGsでスローガンであった’leave no one behind(誰も取り残さない)’が裏を返せば自分が取り残されないために、このままじゃ自分が取り残されるという方向で推進力にもなっているという話でした。これでは自国中心・競争原理から抜け出せていない、変革にはつながりません。稲場さんのまとめの中で「SDGsをオルタナティブとして、国レベルでの格差と貧困の解消、誰も取り残さない原則にこだわる」必要性と、オルタナティブ思考の市民社会を構築する必要性があげられました。市民社会の重要性は確かですが、強固な市民社会を構築するためにはNGOの役割が重要になってくるのではないでしょうか。

会場の方に回答していただいたアンケートをみると「FoEの見方は悲観的すぎる」「代替案の提示にかけるのでは」といった意見を頂きました。確かにそうかもしれません…COP21やパリ合意に対しFoEグループは厳しい見方をしています。ただ、合意が結ばれたことで完全に満足している環境団体や活動家はいないのではないかというのも私の実感です。協定の細部を検証し、評価出来る点はのばし、不十分な点は変えていく必要があります。気候変動の被害を被って来た人々が補償されるような仕組みづくりの為には政策提言や、被害の可視化といった活動を続ける必要があると感じます。

ただし、明日香さんのお話にもあったように、ビジネスや金融セクターの中で、気候変動をリスクとして捕らえる動きは確実にあるように思います。
パリ協定は始まりにすぎません。

(文責:スタッフ深草)

広がる格差とClimate Justice

こんにちは。スタッフの深草です。昨年12月、気候変動の損失と被害の調査のためにフィリピンに行って来ました。今回はフィリピンで調査してきたことについて報告します。

フィリピンといえば、2013年のCOP19ワルシャワ会議でのフィリピン代表団サノ氏のスピーチがとても印象的でした。皆さんは覚えていらっしゃるでしょうか(注1)。2013年11月、スーパー台風と呼ばれる非常に勢力の強い台風ハイアンがフィリピンに上陸。フィリピンではハイアンにより6000人を越える方が亡くなりました。台風が襲来したちょうどその頃、COP19が開催されており、フィリピン代表団のサノ氏は「気候変動による狂気をとめよう」と呼びかけました。
それから2年、現在のフィリピンは台風被害から回復しているのだろうか?気候変動による狂気は止めることができているのだろうか?そういった疑問を持ちながら、台風ハイアンによる被害が最も大きかったレイテ島タクロバン市周辺の農村を訪れました。

IMG_3419.JPG(台風により壊れたままの教会)

台風ハイアンにより、多くの方が生計手段や家を失いました。例えば、ココナツ収穫はフィリピンの重要な生計手段の一つですが、強風の影響でココヤシが壊滅。現地団体東ビサヤ地域農村補助プログラム(EVRAP)の調査によるとハイアンの影響を受けた地域の90%近くのココナツが被害を受けています。訪れた村では、2年経った今でもココヤシの生産力は戻らず、収穫は減ったまま、もしくはゼロだそうです。
また、台風により約100万戸以上がダメージを受けました (注2)。フィリピン政府は住宅を失った人々のために公営住宅建設を急いでいますが、タクロバン市で計画されている1万3千戸のうち、2015年9月時点で300戸程の公営住宅の建設しか終了していません(注3)。一部の人々は未だに緊急支援物資として供給されたブルーシートに覆われた住まいで居住しています。

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(ブルーシートの壁で覆われた家と住人)

気候変動が広げる格差
気候変動によって海水温度が上昇すると台風の威力が増す(注4)とされています。異常気象による災害が原因で難民の発生率が高まる事 (注5)や、食糧安全保障への影響等、多岐に及ぶ被害が報告されています。近年の国際気候変動交渉では、気候変動への適応の限界を超え‘損失と被害(ロス&ダメージ)’が世界各地で起きていることが認識され、そういった被害にどの様に対応するか、支援していくかが課題となっています。

歴史的に見れば、日本やアメリカ、イギリス、フランス等の先進国が化石燃料を縦横無尽に消費して発展を遂げて来た事が、今の気候変動問題の原因となっていると言っても過言ではありません。ですが、フィリピンなどの途上国や、赤道に近い国々がより気候変動の影響を受けているという非対称性、不公平さが存在します。災害対策のインフラが未整備もしくは不十分であるために、災害に脆弱で異常気象に対処する能力が限られた途上国では、先進国との貧富の差、そして国内の貧困の連鎖がさらに広がっていきます。こういった観点から、気候の公平性、Climate Justiceを訴えていく必要があるのです。

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(フィリピンのアクションの写真、写真提供:People Surge)

パリ協定は気候と人々の生活を守れるのか?

フィリピンでは台風ハイアンの影響からの回復もままならない状況がありました。それだけでなく、近年カテゴリー4や5(カテゴリー5はスーパー台風ともいわれ、家屋の倒壊などが発生する一番強いレベルの台風)に分類される強い台風が何度も襲来しており、復興が遅れています(注6)。2015年12月にも台風メーローが上陸し、多くの被害を残しました。

貧困地域では、台風によりさらに貧困の度合いが強まります。私たちのインタビューに答えてくださった方の多くは、2年前から回復していない、状況は良くなっていないと話します。

公営住宅も見に行きましたが、農業に頼って暮らしている人々や漁業をしている人々が、コンクリートの小さな家に移住したら、それまでの生活を維持するのは難しくなっていくでしょう。もちろん、家をもらえて嬉しいという人もいました。ですが、どんな支援が適切なのかは、今後も考えていく必要があります。

また、フィリピン政府は高潮対策の為にタクロバン−パロ−タナウアンを結ぶ27kmに及ぶ巨大な堤防建設を推進しています(注7)が、現地のNGOや住民らは、依然として生活再建に苦しんでいる被災住民を立ち退かせるような巨大堤防の前に、生計手段回復のための支援を優先するよう求めています。

気候変動といえば、二酸化炭素を含む温室効果ガスの削減や数値目標ばかりが目に見えがちですが、実際に現実として被害が起きている事をもっと認識し、それを補償する資金の流れや気候変動の責任について、考えていく必要があります。

FoEグループは、気候変動問題における格差や不正義の問題を長年訴えつづけてきました。
気候変動の被害者を救済する資金的枠組みをはじめ、メカニズムを作っていく必要があります。

報告:緊急寄付に協力ありがとうございました!
今回私たちがフィリピン調査を行ったその2、3日後、フィリピンを非常に勢力の強い台風メーローが襲いました。そこで、フィリピン調査のときに現地でお世話になった団体が現地で緊急支援を行うための緊急寄付を呼びかけ、2月18日までに164,430円のご寄付を集める事が出来ました。
このお金は現地で緊急支援・災害人道支援を行っているTabangに送られます(一部既に送金しています)。

2月18日に『COP21報告会 Climate Justice Now!パリ合意は気候と人々の生活を守る事ができるか?』を東京で開催しました。

※このブログ記事は動く→動かすさんのブログに投稿した物を改変して再投稿しています。

参考文献
1.“「この気候変動は狂気だ」フィリピン政府代表がCOP19で涙の演説” 2013年11月12日、ハフィントンポスト、http://www.huffingtonpost.jp/2013/11/11/cop19-philippines_n_4256950.html
2. National Disaster Risk Reduction and Management Council, “Updates re the Effects of Typhoon “Yolanda” (Haiyan)”, 2014年4月17日
3. タクロバン市, “Tacloban City Housing Updates As of 18 September 2015”、 http://tacloban.gov.ph/shelter/
4. IPCC, 第五次報告、Chapter 14 “Climate Phenomena and their Relevance for Future Regional Climate Change” p1220
5. UNHCR, The Environment and Climate Change, 2015. P5
6. Chris Dolce, “2015 Sets a New Record for Category 4 and 5 Hurricanes and Typhoons”, 2015年10月18日、https://weather.com/storms/hurricane/news/record-most-category-4-or-5-hurricanes-typhoons
7. “P7.9-billion embankment to be built in Tacloban, nearby areas”, Philipino Star News, 2015年9月5日