500名以上の科学者が日本政府に書簡を提出:森林バイオマスを使った発電はカーボンニュートラルではない

2月11日(米国時間)、42の国と地域の500名を超える科学者が日本政府に対し、木質バイオマスを使った発電はカーボンニュートラル(炭素中立)ではないと主張する書簡を提出しました。書簡は米国政府、欧州連合(EU)及び韓国政府にも同時に送付されました。

書簡では、バイオマスの発電利用により森林が伐採され、森林に蓄えられている炭素が大気中に放出されること、森林の再生には時間がかかり、数十年から数百年にわたって気候変動を悪化させること、バイオマスの発電利用は化石燃料を使用した場合の2〜3倍の炭素を放出する可能性があることが指摘されています。また、各国政府は「気候変動対策」として、バイオマスを燃焼することに対する補助金やインセンティブにより、実際は気候変動を悪化させていること、そして真の排出削減のためには、森林を燃やすのではなく、保全と再生に努めるべきことが述べられています。

日本では、2012年にFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)が開始されて以降国内のバイオマス発電事業が急増しています。

FIT認定量は、2020年9月には821.5万kWで、そのうち747万kWが一般木質バイオマスおよび農作物残さ(輸入木質ペレット・木質チップ、PKSなど)やバイオマス液体燃料(パーム油など)による発電となっています。同時点で、FIT制度下で稼働している発電事業数は446件、認定されている事業数は709件にのぼります。

大規模バイオマス発電事業は、輸入燃料に頼っています。例えば木質ペレットの輸入量は、2012年には約7.2万トンでしたが、2019年には161.4万トンに急増しています。

書簡は、日本のFIT制度について「日本は、木材を燃やす発電所への補助金をやめる必要がある」と言及しています。

以下、日本語の仮訳です(原文はこちら)。


森林のバイオマスエネルギー利用に関する書簡<仮訳>

2021年2月11日

米国大統領 バイデン様、
欧州委員会委員長 フォン・デア・ライエン様、
欧州理事会議長 ミシェル様、
日本国内閣総理大臣 菅様、
大韓民国大統領 文様

下記に署名した科学者および経済学者は、米国、欧州連合、日本、韓国が、2050年までにカーボンニュートラルを達成するために野心的な目標を発表したことに称賛の意を表します。森林の保全と再生こそが、この目標を達成するための重要な手段であり、同時に地球規模の生物多様性の危機への対処に役立つものです。私たちは、エネルギー生産のための燃料を化石燃料から木質燃料に転換することにより、気候目標と世界の生物多様性の双方が損われることがないよう、強く求めます。

何十年もの間、紙や木材製品の生産者は副産物として各工程の廃棄物を電気や熱を生成してきました。この利用は木材の新たな伐採につながるものではありません。しかし近年では、バイオマスエネルギーのために樹木を伐採し、木材の大部分を燃料に転用することで、森林に蓄えられるはずの炭素を放出させてしまう誤った動きが見られます。

このような新たな伐採の結果、当初は炭素排出量が大幅に増加し「炭素負債」が発生します。バイオマスエネルギー利用のために伐採される木が増えれば増えるほど、炭素負債は増加します。森林を再生し化石燃料を代替することで、最終的にはこの炭素負債が解消されるかもしれません。しかし、森林再生には時間がかかり、世界が気候変動を解決するためにはその時間的猶予がありません。数多くの研究が示しているように、このような木材の燃焼は数十年から数百年にわたって温暖化を悪化させることになります。木材が石炭や石油、天然ガスに取って代わる場合も同様です。

その理由は基本的なことです。森林は炭素を蓄えているからです。乾燥した木材の重量の約半分は炭素です。木材が伐採されて燃やされる場合、エネルギーを供給する前に伐採と加工の過程で、伐採された樹木の多く、しばしば半分以上は、化石燃料を代替することもなく炭素を大気に追加しながら、失われます。また、木材の燃焼は炭素効率が悪く、エネルギーとして燃やされる木材は、化石燃料よりも多くの炭素を排出します。全体的にみて、木材の燃焼により1キロワット時の熱や電気を生成に対して、化石燃料を使用した場合の2~3倍の炭素が大気中に放出される可能性が高いです。

今後数十年の地球温暖化の悪化は危険です。この温暖化は、増加する森林火災や海面上昇、猛暑などによる、より直接的な被害を意味します。また、氷河の急速な消失と永久凍土の融解、世界の海の温度上昇と酸性化により、さらに永続的な被害がもたらされることを意味します。これらの被害は、今から数十年後に炭素を除去したとしても、元に戻ることはありません。

木材を燃やすための政府の補助金は、二重の気候問題を引き起こしています。なぜなら、この誤った解決策が本当の炭素排出量削減策に取って代わっているからです。企業は、化石エネルギーの使用を、真に温暖化を減少させる太陽光や風力に転換する代わりに、温暖化を悪化させる木材に転換しています。

日本やフランス領ギアナなどでは、木材を燃やして電気を作るだけでなく、パーム油や大豆油を燃やす案も出ています。これらの燃料を生産するためには、パーム油や大豆の生産を拡大する必要があり、その結果、炭素密度の高い熱帯林が皆伐され、その炭素吸収量が減少し、大気中に炭素が放出されます。

森林や植物油の管理に関する「持続可能性の基準」では、これらの結果を変えることはできません。持続可能な管理とは、木材の伐採後に最終的に炭素負債が返済されることを可能にしますが、それまでの数十年、あるいは数百年の温暖化の進行を変えることはできません。同様に、植物油の需要が増加すれば、食糧需要の高まりによってすでに発生している世界的な森林伐採の圧力にさらに拍車がかかるでしょう。

土地利用変化に起因する排出について、国が責任を負うことは望ましいことではありますが、それだけでは木材を燃やすことをカーボンニュートラルとみなす法律による問題を解決できません。なぜなら、発電所や工場で木材を燃やすための法律で定められたインセンティブを変えるものではないからです。同様に、ディーゼル燃料の使用からの排出について各国が責任を負っているという事実は、ディーゼルがカーボンニュートラルであるという誤った理論に基づいており、トラックがより多くのディーゼルを燃やすことを奨励する法律を是正することにはなりません。国家の気候変動に関する責任を定める条約も、それを果たすための各国のエネルギー関連法も、それらが奨励する諸活動が気候に与える影響を正確に捉えたものでなければなりません。

今後の皆様のご決断は、世界の森林に大きな影響を与えます。もし世界のエネルギー需給量のさらに2%を木材から供給するとしたら、木材の商業伐採量を2倍にする必要があるからです。ヨーロッパでのバイオマスエネルギーの増加は、すでに欧州における森林の伐採量の大幅な増加につながっていることを示す十分な証拠があります。これらのアプローチは、熱帯諸国に森林をもっと伐採するよう促すモデルを作り出し、世界が目指してきた森林に関する合意を台無しにします。既に数か国は森林伐採を増加させると表明しています。

このような悪影響を回避するために、各国政府は、自国産であれ他国産であれ、木材を燃焼させることに対する既存の補助金やその他のインセンティブを廃止しなければなりません。欧州連合は、再生可能エネルギー基準や排出量取引制度において、バイオマスの燃焼をカーボンニュートラルとみなすのをやめる必要があります。日本は、木材を燃やす発電所への補助金をやめる必要があります。また、米国では、新政権が気候変動に関するルールを作り、地球温暖化を抑制するためのインセンティブを生み出す中で、バイオマスをカーボンニュートラルまたは低炭素として扱わないようにする必要があります。

樹木は、生きているものの方がそうでないものより気候と生物多様性の両方にとって価値があります。将来のネット・ゼロ・エミッション目標を達成するために、貴政府は森林を燃やすのではなく、森林の保全と再生に努めるべきです。

ピーター・レイヴン(ミズーリ植物協会 名誉会長、米国ミズーリ州セントルイス)

その他の主唱者:

(*原文をご参照ください)

「木質ペレットをFITの対象とすべきではない」17の米国環境団体が日本政府にレター

米国の17のNGOが、経済産業省 (METI)、林野庁などに対して、木質ペレットをFITの対象から外すよう求める書簡を提出しました。

書簡では、アメリカ南部において、天然林を伐採して木質ペレットが生産されていることを指摘。「森林は木や土壌に膨大な量の炭素を貯蔵し、洪水や嵐といった災害の影響からコミュニティを守っている」として、CO2排出量の削減、生物の生息地保護、洪水調整機能の維持のためには、森林を保全するべきであり、木質ペレットを利用するバイオマスを対象から除外しなければならないと主張しています。

アメリカ南部では、木質ペレットの生産のために、端材ではなく、樹木全体が使われたり、天然林が皆伐されたりする状況が報告されています。エンビバ・パートナーズLP社がノースカロライナ州におけるペレット製造工場の原料を得るため、ロアノーク川流域の樹齢100年以上の貴重な湿地広葉樹林の皆伐を行っていることがたびたび報道されてきました。これらの湿地林は、河川の沖積地に発達し、生物多様性に富む森林であるとともに、洪水制御、炭素の貯留といった意味でも重要な意味をもちます。

書簡に署名したDogwood Alliance(ドッグウッド・アライアンス)のキャンペーンディレクターのリタ・フロストさんは、「気候変動に真剣に取り組むのなら、森林を燃料として燃やすことは奨励できない。日本政府にとって、本来は森林、気候、コミュニティを保護するはずである『再生可能エネルギー』の定義から木質ペレットバイオマスを除外するよい機会ではないでしょうか。」とコメントしています。

現在、日本は主として、ベトナム、カナダなどから木質ペレットを輸入していますが、大手商社がアメリカの大手バイオマス企業エンビバ・パートナーLP社と大口の長期契約を結んでおり、今後、アメリカからの木質ペレットの輸入が急増するのではないかとみられています。

以下にレターの本文を掲載します。


2020年9月30日

経済産業大臣 梶山弘志 様
林野庁長官 本郷 浩二 様
バイオマス持続可能性ワーキンググループ委員 各位

私たち、日本の新たな木質ペレットバイオマス市場の供給地である米国の17のNGOは、森林由来の木質ペレットバイオマスを「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」から除外し、森林を燃料とする再生可能エネルギーへの直接的・間接的な補助金を廃止するよう日本政府に求めます。私たちは、世界最大の木質ペレット生産地である地域にくらし、その生産と消費が気候、森林、コミュニティに悪影響を及ぼすことを見てきました。木質ペレットのバイオマスを「再生可能エネルギー」の名の下で生産消費することはグリーンウォッシュに他なりません。
米国南部はエンビバ・パートナーズ社の木質ペレット生産の主要な原料供給地であり、同社はFIT制度のインセンティブにより住友商事を含む日本企業に木質ペレットを大量に供給しています。Dogwood Alliance(ドッグウッド・アライアンス)の現地調査は、木質ペレットバイオマス産業がペレットを天然林から調達している様子を詳細に描きだしました。多くの現地調査により、エンビバ社がペレット製造のために、丸太全体を利用するとともに、天然林の伐採に関わっていることを明らかにしました 。これは、エンビバ社が事業を展開している地域において責任ある行動をとることができていないことを示しています。持続可能性の保証を与えられたことにより、グリーンウォッシュをしているのです。
エンビバ社の工場の多くはノースカロライナ州で操業しています。ノースカロライナ州政府は最近、独自のクリーンエネルギー計画の中で、ノースカロライナ州の森林を外国市場で大規模に利用することは「国内・国際的なレベルで再検討されるべきだ」と述べており、公式文書では、木質ペレット産業が伐採、加工、輸送を通じて同州の炭素排出量を増加させていることを明確に認めています 。ノースカロライナ州のこれらの発言は、バイオマスエネルギーの生産と消費は有害であり、将来的には州がバイオマスエネルギー施設の操業を制限する措置を取る可能性があるということを示しています。
木質ペレットの生産と消費による炭素排出についても深刻な懸念があります。木質ペレットバイオマスは炭素排出量が大きいため、気候変動への効果的な緩和策にはならない、という科学的なコンセンサスが形成されてきています。したがって、再生可能エネルギーの目標を達成するために木質ペレットをバイオマス発電に利用することには大きなリスクがあると言えます。科学者は、木材の原料(パルプ、全木等)に関係なく、木材を使ってペレットを製造すると、数十年から数世紀にわたって大気中の炭素が増加すると示しています。

木質ペレットバイオマス産業は、すでに森林資源が過剰に利用されている地域にさらなる負荷を与えています。米国南部の森林面積は世界全体のわずか2%にすぎませんが、世界の丸太の12%、パルプ・紙製品の19%を生産しています 。言い換えれば、米国南部の木材製品産業は、世界のどの森林よりも生産性が高いということになります。米国南部における工業規模の木質ペレットバイオマス生産は、木質ペレットが低品質の木材製品であるために、より多くの森林伐採を引き起こしています。かつては経済的価値のなかった森林が、木質ペレット産業の急成長によって伐採され、利益を生むようになったのです。
米国南部の森林は、南米の熱帯雨林が伐採される速度の4倍ものスピードで伐採されています。さらに、木質ペレットのために皆伐が行われることは、従来の伐採方法よりもはるかに多くの木質繊維の除去をもたらします。これは、炭素貯蔵や、生態系サービス、および野生生物にさらなる悪影響を及ぼします。
エンビバ社が主導する木質ペレットバイオマス産業は、洪水などの気候変動影響に対するレリジリエンスへの影響だけでなく、大気や水質などコミュニティ全体に直接の影響を及ぼします。研究によると、木質ペレットバイオマス産業は、何百万トンもの温室効果ガスの排出に繋がるだけでなく、喘息や心臓発作を引き起こす可能性のある何トンもの粉塵や、発癌物質やスモッグを形成する汚染物質も排出しています 。このような影響は、主に非白人人口が多く、貧困レベルの中央値を超えているコミュニティで起きています 。工場から1~3 km以内に住む地域住民は、日々目に見える形のチリや埃に覆われて生活しているのです。
米国南部の森林は、樹木や土壌に大量の炭素を蓄積し、洪水や嵐といった災害の影響からコミュニティを守っており、気候変動対策に重要な役割を果たしています。気候変動に関連した大規模な洪水は、何年にもわたって甚大な被害をもたらしており、その経済コストは数百億ドルに上ると推定されています。 エンビバ社のような木質ペレット企業がクリーンエア法(大気浄化法)のガイドラインや規則に従わないで操業を続けた場合、このような気候変動の影響はさらに増幅します。 生きた森林を手付かずのままに残すことで、天然の洪水対策になるのです。
日本政府の目標が発電における温室効果ガスの削減であるなら、再生可能エネルギーとして木質ペレットを使用することは目的に合いません。木質ペレットバイオマスによる排出を米国の土地利用・土地利用変化及び林業(LULUCF)部門の「責任」と仮定するのは難しいでしょう。なぜなら、米国はパリ協定を採択しようとしていないし、京都議定書の締約国でもないからです。したがって、米国は日本で発電に使用される木質ペレットバイオマスからのLULUCF排出量を国際的に計上しないことになります。そうなれば、木質ペレットバイオマスによる排出量がどこの会計にも計上されないということになるのです。温室効果ガスの排出を削減しようとするならば、このような重大な抜け穴に頼るべきではありません。実際、温室効果ガスは大気中に排出されており、文書上だけから消えてしまっているのです。気候変動に関する政府間パネル (IPCC) は、科学者や市民とともに、木質ペレットのバイオマスをカーボンニュートラルとして計算することについて、「バイオエネルギーのためのバイオマスの生産と利用は、土地劣化のリスク、温室効果ガス排出、およびその他の環境開発目標について、マイナスの影響を与えうる。」と警告しました。
我々は、日本政府が気候変動の解決策を模索していることを称賛いたします。しかし、私たちが住むコミュニティのすぐそばで行われている木質ペレット産業を目撃する中で、森林を燃料として燃やすことを促進する政策は間違っているとわかりました。電気のために木を燃やすと大気中により多くの炭素が放出されます。つまりクリーンエネルギーへの道を進むのではなく、後退していくことになります。我々は、日本に対し、再生可能エネルギーの定義及び「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」から木質ペレット森林系バイオマスを除外することを求めます。

賛同団体:

Dogwood Alliance
Natural Resources Defense Council
John Muir Project
Center for Biological Diversity
Southern Forests Conservation Coalition
Earth Action, Inc.
Environmental Protection Information Center
Wild Heritage
Fern
Pivot Point
Partnership for Policy Integrity
North Carolina Climate Justice Collective
350 Triangle
Clean Air Carolina
Restore: The North Woods
Coastal Plain Conservation Group
Spruill Farm Conservation Project

関連情報)
バイオマス発電をめぐる要請書提出ー環境負荷が大きい事業はFIT対象外に
https://www.foejapan.org/forest/biofuel/200714.html