「処理水」?「汚染水」? どっち? そして、何をどれくらい放出するの?

FoE Japanの満田です。この記事を図でざっくりまとめるとこんな感じです。

もう少し詳しく解説します。

政府は、福島第一原発の敷地でタンク保管されている処理汚染水について、今年4月13日海洋放出を決定しました。

また、同日、経済産業省は「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水』のみを『ALPS処理水』と呼称する」という、少し不思議なプレスリリースを出しました。

さて、この水をめぐっては、政府は従来「ALPS処理水」と呼び、海洋放出に反対する人たちは「汚染水」と呼んでいます。まあ、処理しているのを強調したいのか、まだ汚染されているのを強調したいのかの違いでしょうか…。ただ、政府は、「汚染水」という報道を見かけると、結構しつこく、いや失礼、こまめに、「いや処理水です」と訂正に努めていたようです。

FoE Japanでは、間をとって、というわけではありませんが、「処理されているが放射性物質は残留している水」ということから、「処理汚染水」と呼んでいます。

ところが、タンクの水の7割において、どうしても取り除けないとされていたトリチウム以外の放射性物質について全体として基準を超えているのです。

この水は、事故で溶け落ちた燃料デブリを冷却する水と、建屋内に流入した水が混じった正真正銘のこ~い「汚染水」をALPS(多核種除去装置)など何段階にわたって処理しています(下図)。

残留しているのは、ヨウ素129、ルテニウム106、ストロンチウム90、セシウム137など…。ストロンチウム90というのは、骨にたまる怖い放射性物質。ヨウ素129は、半減期は1570万年で気が遠くなるほど長いのが特徴です。最近では炭素14なんてものが残留していることが明らかになりました。ここらへんの顛末は以下の記事もご覧ください。

ALPS処理水、ヨウ素129などトリチウム以外核種の残留~「説明・公聴会」の前提は崩れた | FoE Japan

東電は、トリチウム以外の放射性物質が基準内におさまるように、二次処理をする、としています。

さて、ここで問題です。

最初の政府による「処理水」の定義(「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水』のみを『ALPS処理水』と呼称する」)からすると、

いま現在、タンクにたまっている水はなんと呼べばよいのでしょうか?

実は、私も気になっていたこの点に関して、質問を出してくれた議員さんが…!

立憲民主党の阿部知子議員です。

そうしたら、回答が出ました。(答弁書といいます)

「政府としてその呼称を定めていない」。

ガクッ。

まあ、呼びたいように呼んでください、ということなのでしょうか。

ということで、私は、引き続き、「処理汚染水」と呼ぶことといたします。悪しからず…。

ちなみに、この質問主意書、もっと重要なことも聞いていますので、ご紹介します。

いまタンクに溜まっている水に含まれいている放射性物質の種類ごとの総量、および放出するであろう水に含まれる放射性物質の核種ごとの総量の推定値についてです。

つまり濃度ではなくて、どれくらいの量が含まれているの? もしくは、どれくらいの量を海に出しちゃうの? ということです。

これ、知りたかった! 実は、私も何度も何度も、東電や経産省に聞き続けてきたのです…。

で、その答えは…

「東電に公表を求める予定はない」

ガクッ。

濃度がわかっているんだからいいでしょ? ということ? でも総量が、総量が、重要なんです~。

おいおいおいおい。

何をどのくらい放出するつもりか、教えてくださいよ~。基本情報でしょ~。

ということで、質問主意書、答弁書のオリジナル、以下に貼り付けます。

阿部知子議員、ありがとうございました。 

(なお、この「水」をめぐっては、東電は、放出前に濃度を測定せず、計算だけで基準を満たしているか判断する方針であることが報じられています。こちらもまた、びっくりです。>東電、放出処理水の濃度測定せず 規制委で妥当性議論へ(2021年6月10日付東京新聞のサイトですが、共同通信の配信です。))

(満田夏花)

東京電力福島第一原子力発電所敷地内タンクの放射性物質の総量の公表に関する質問主意書

汚染水の公聴会大もめ~海洋放出に反対意見次々

経済産業省は、東電福島第一原発における多核種除去装置(いわゆるALPS)処理水の処分に関する説明・公聴会を8月30日、31日に富岡、郡山、東京で開催しました。
経産省の資料によれば、タンクにたまっているトリチウムの量は1,000兆ベクレル。
トリチウム以外の放射性物質はほとんど除去されていること、トリチウムは弱い放射線しか出さず、自然界にも存在し、生体濃縮はせず、世界中の原発から排出されているとし、海中放出を含む4案を提案しています。
しかし、放出されたトリチウムの一部は、光合成により有機結合型トリチウムに変化すること、有機結合型トリチウムは生物の体内に長くとどまり生体濃縮をおこすこと、細胞やDNAに取り込まれること、放射線による細胞やDNAの損傷のみならず、崩壊による損傷もおこすことなどが指摘されています。
さらに、今回、ALPS処理水の中に、基準を超えるヨウ素129、ストロンチウム90、ルテニウム106が残存していたことが明らかになりました。ヨウ素129に至っては、FoE Japanの確認では、2017年4月~2018年7月の間に143サンプル中65サンプルで告示濃度超を起こしていたことがわかりました。
しかし、説明・公聴会の資料では、基準を超えていない2014年9月20-28日のデータがつかわれていました。
3会場での「説明・公聴会」で意見をのべた人は、富岡1名、郡山1名で海中放出を容認する意見があったほかは、ほとんどが海中放出など環境への放出に反対しました。とりわけ、県漁連の野崎会長などは漁業への影響を訴えました。

180829

多くの人たちはトリチウムの危険性を指摘した上で、陸上でタンクで長期保管すべきと述べました。

私は東京会場の「説明・公聴会」に参加しました。経産省や委員が公述人の「意見をききおく」だけの公聴会だったはずが、それですまされず、公述人や傍聴者が、経産省の事務局や委員を問い詰める場面もあり、「大もめ」の公聴会となりました。

トリチウム水を海に流すな トリチウム水公聴会

公述人・傍聴者たちが問うたのは、主には以下のようなものでした。

  • なぜ、代替案にタンクでの保管案が入っていないのか
  • トリチウムの危険性についてきちんと検討されていないのはおかしいではないか。
  • なぜ、他核種の残存について資料には書かれておらず、古いデータが使われたのか
  • 現在の海洋放出の計画では、1,000兆ベクレルを52~88カ月かけて放出することになっている。これは年間の排出量が、福島第一原発が動いていたときの保安規定の年間排出の上限(22兆ベクレル)を上回る量となるのだが、よいのか。

>原子力市民委員会による大型タンクでの陸上保管案については、こちらをご覧ください。終了後、山本委員長は、タンク保管案も代替案に加えると発言したと報道されています。私が述べた主な意見は以下のとおりです。

  • 大量のトリチウムを希釈して環境中に放出することに反対。
  • 総量規制を行うべき。また、すでに海中に放射性物質が放出されている。累積的な影響についても考慮すべき。
  • トリチウム、とりわけ有機結合型のトリチウムのリスクについて、資料に掲載されていないのはなぜか。
  • ヨウ素129など他核種が慢性的に残留していたのにもかかわらず、古いデータが使われていたのはなぜか。委員たちは、このことを知らされていたのか。
  • トリチウムのみが残留しているとされていた。他核種については検討されていない。説明・公聴会の前提がくずれた。小委員会での検討をやりなおすべき。

なお、意見陳述時間は5分と限られていたので、全部は発言しきれませんでしたが、事前に提出した意見書を以下に掲載します。(満田夏花)


多核種除去装置(ALPS)処理水の処分に関する意見

<要点>

  • 既設・増設ALPS処理水でヨウ素129、ストロンチウム90の基準超えが明らかに。ヨウ素129は2017年4月~2018年7月まで60回以上基準超え。公聴会の前提は崩れた。
  • 経済産業省が示している処分方法以外にも有力な代替案がある
  • トリチウムのリスクに関して十分検討されていない
  • 放射性物質は、環境中に放出するのではなく、安全保管を行って減衰を待つという原則を守るべきである
  • 公聴会のやり方がおかしい。

1.既設・増設ALPSでヨウ素129、ストロンチウム90の基準超えが明らかに。ヨウ素129は60回以上基準超え。公聴会の前提は崩れた。 ヨウ素129、ストロンチウム90の告示濃度限度(基準)超えがあきらかになった。経済産業省のタスクフォースや多核種除去設備等処理水の小委員会では、「ALPS処理水はトリチウム以外は除去されている」という東電の説明の通りの前提で検討が行われており、他の核種については検討が行われていない。 しかし、今回問題になったのはヨウ素129については増設ALPSで2017年4月~2018年7月まで告示濃度(9Bq/Lを超えるものが60回以上計測されており、出口はA~C。最高は2017年9月18日の62.2Bq/Lであった。慢性的に基準超えしている状況である。180829_2ストロンチウム90に関しては、増設ALPSでは2017年11月30日に141Bq/Lと告示濃度30Bq/L)を超えていた(出口C)。

ヨウ素129は、半減期1,570万年。特に海藻に濃縮・蓄積される。体内にとりこまれるとほぼすべて甲状腺に集まり、とりわけ胎児や乳幼児への影響が懸念される。「薄めて出せばよい」とは思えない。 いずれにしても説明・公聴会の前提はくずれた。経済産業省は、改めて検討をやりなおすべきである。

2.経済産業省が示している処分方法以外にも有力な代替案がある 

経済産業省の5つの案以外にも有力な代替案がある。

研究者・技術者・NGOなどが参加する「原子力市民委員会」は、現在トリチウムのリスクに関してさまざまな説がある中で海洋放出を強行するのではなく、恒久的なタンクの中に保管することを提案している。国家石油備蓄基地で使用している10万トン級の大型タンクを10基建設して、その中に100年以上備蓄する案であり、減衰により、トリチウムの量が現在の1000分の1程度に減少する。大型タンクでの貯留は、すでに実績のある既存の手法であること、現在の1,000トン容量のタンクに比して面積効率がはるかに高いという利点がある。十分現実的な提案なのではないか。タンクの設置場所については、福島第一原発の敷地内にこだわらず、その周辺またはその他の東電所有地も考えられる。このような地上における保管案が十分に検討されているとは思えない。

3.トリチウムのリスクに関して十分検討されていない

経済産業省は「トリチウムは安全である」という前提で、放出に向けたステップを踏もうとしているように思われる。たとえ、経済産業省が言うようにトリチウムの人体への影響がセシウムの700分の1であったとしても、1,000兆Bqのトリチウムの放出は、膨大な放射性物質の放出である。

光合成により有機結合型トリチウムが生じれば、リスクはさらに高まる。決して過小評価すべきではない。作業員や公衆についての疫学調査は、影響をトリチウムに特化することができないため、なかなか有用な結果がでていないようである。しかし、トリチウムが人体に取り込まれた場合、その一部が細胞核の中にまで入り込んで、DNAを構成する水素と置き換わる可能性があること、その場合、エネルギーが低く飛ぶ距離が短いベータ線により遺伝子を損傷する危険性があると指摘する専門家もいる。また、有機結合型トリチウムは、生物濃縮されるのに加え、生体構成分子として体内に蓄積されるため、長期間影響を及ぼしうるという指摘もある。これらのトリチウムのリスクについて、経済産業省におけるトリチウム・タスクフォースで徹底的に議論すべきであろう。トリチウムが、世界中で運転中の原発から放出され続けているという事実は、安全性の証明とはならない。なお、トリチウムの摂取基準は世界的には国によって大きな幅があり、経済産業省が引用しているWHOは10,000Bq/Lであるが、アメリカでは740Bq/L、EUでは100Bq/Lである。このことは、トリチウムのリスクに関して国際的にも定説が得られていないことの表れではないか。

4.放射性物質は、環境中に放出するのではなく、安全保管を行って減衰を待つという原則を守るべきである

経済産業省は、トリチウムの人体への影響がセシウムの700分の1であるとするが、そうであったとしても、1,000兆ベクレルにも及ぶトリチウムの放出のリスクを否定することはできない。さらに他核種が残留していることもわかった。トリチウムを環境中に放出するのではなく、前述の原子力市民委員会の提案などにより、安全保管を行って減衰を待つべきである。

5.公聴会のやり方がおかしい

前述のように、トリチウム以外は除去されていたという公聴会の前提が崩れた。それ以外にも以下の点で公聴会のやり方がおかしい。

①代替案を検討する段階から、多くの意見をきくべき 環境中に放出することが前提となっている。代替案の検討の段階から広く意見をきくべきである。

②資料の作成段階から異なる意見を有する第三者からのインプットを得るべき 資料作成の段階で、経済産業省の「環境放出ありき」の結論に導くのではなく、第三者のインプットをえるか、または環境放出以外の意見をもつ団体等の資料も並列すべきである。

③開催場所が限定的すぎるなぜ、富岡、郡山、東京の3箇所なのかがわからない。福島県でも多くの漁業者がいるいわきで開催しなかったのはなぜか。漁業が影響を受ける太平洋側の主要都市で開催すべきではないか。

④異なる立場の専門家等からの重点的な意見聴取を トリチウムの放出のリスクに警鐘を鳴らしている専門家や漁業・流通関係者、過去の公害経験などに知見を有する人たち等からの重点的な意見聴取を行うべきである。

⑤自由な質疑および意見陳述の時間を ④に加え、参加者が説明に対して質問および意見陳述ができる時間帯を設けるべきである。

福島第一 増設ALPS(多核種除去装置)でヨウ素129の基準超え60回以上 除去水処分の説明・公聴会の前提は崩れた

トリチウムしか残留していないはずが…

経済産業省は、東電福島第一原発における多核種除去装置(いわゆるALPS)処理水の処分に関する説明・公聴会を8月30日、31日に富岡、郡山、東京で開催しようとしています。経産省は、処理水はトリチウム以外の放射性物質はほとんど除去されていること、トリチウムは弱い放射線しか出さず、自然界にも存在し、生物濃縮はせず、世界中の原発から排出されているとして、海中放出を行おうとし、原子力規制委員会もこれを後おししています。(ちなみにタンクにたまっているトリチウムの量は約1,000兆ベクレルです。)

ところが、このところ、ALPS処理水にヨウ素129、ストロンチウム90が告知濃度限度(基準値)を超えて残留していたことが明らかになりました。

経済産業省のトリチウム・タスクフォースや多核種除去設備等処理水の小委員会では、トリチウムしか残留していない前提で検討が行われており、他の核種については検討が行われていません。

東電の公表データによれば、ヨウ素129については既設ALPS以外に増設ALPSで、告示濃度を超える値が2017年4月~2018年7月まで60回以上計測されており、出口A~Cでまんべんなく見られます。最高は2017年9月18日の62.2Bq/Lでした(下図)。つまり、何かのはずみに1回高い値がでたのではなく、慢性的に発生しているのです。

増設ALPS出口グラフ

出典:東電公表データ(福島第一原子力発電所における日々の放射性物質の分析結果、「増設多核種」)より作成

ストロンチウム90に関しては、増設ALPSでは2017年11月30日に141Bq/Lと告示濃度(30Bq/L)を超えていました(出口C)。

8月22日の会見で、原子力規制委員会・更田委員長は「2015年くらいに告示濃度を超えるものがあると東電から報告があった」「告示濃度超えがあったのは、古い(既設)ALPSの出口Cでしょう」などと発言しています。更田委員長はかねてより、ALPS除去水に関しては、「海洋放出以外の選択肢はない」とし、今回のヨウ素129などについても、「薄めて告示濃度以下にすれば放出をとどめることはできない」という趣旨の発言をしています。

2015年に東電が告示濃度を超えたと報告し、その対策は取られていたはずです。しかし、2017年4月から現在にいたるまでヨウ素129が60回以上も告知濃度を超えているのはなぜなのでしょうか? 原子力規制委員会や、経済産業省は、こうした状況を把握していたのでしょうか。原子力規制委員長の発言をみる限り、正確に認識していたとは思えません。

ヨウ素129は、半減期1,570万年。特に海藻に濃縮・蓄積される。体内にとりこまれるとほぼすべて甲状腺に集まり、とりわけ胎児や乳幼児への影響が懸念されます。「薄めて出せばよい」とは思えません。なお、放射性ヨウ素については、「美浜の会」の以下の資料が、生物の進化の過程とヨウ素について、また放射性ヨウ素の危険性についてわかりやすく解説しておりたいへん興味深いです。>こちら

海洋放出以外にも有力な代替案がある

ちなみに、研究者・技術者・NGOなどが参加する「原子力市民委員会」は、トリチウムのリスクに関して諸説ある中で海洋放出を強行するのではなく、恒久的なタンクの中に保管することを提案しています。>詳しくはこちら

国家石油備蓄基地で使用している10万トン級の大型タンクを10基建設して、その中に100年以上備蓄する案です。トリチウムの半減期は12.3年。100年で減衰により、トリチウムの量が現在の約1000分の1に減少します。大型タンクでの貯留は、すでに十分実績のある手法であること、現在の1,000トン容量のタンクに比して面積効率がはるかに高いという利点があります。十分現実的な提案なのではないでしょうか。タンクの設置場所については、福島第一原発の敷地内にこだわらず、その周辺またはその他の東電所有地も考えられます。このような地上における保管案が十分に検討されているとは思えません。

また、予定されている説明・公聴会も、海洋など環境中への放出前提のものになっており、こうした代替案については、提示されていません。

いずれにしても説明・公聴会の前提はくずれました。経済産業省は、改めて検討をやりなおすべきでしょう。

(満田夏花)