【撤退の意思決定を!】日立に英国への原発輸出反対署名を提出&日立前にシロクマくん出現

本日1月8日、日立製作所がイギリスで進めるウィルヴァ原発建設計画の中止を求める署名を、日立および安倍首相に対し提出しました。第一次集約分は、個人署名が2725筆(32カ国)、団体署名が79団体15カ国でした。ご協力いただいたみなさま、本当にありがとうございます。

日立製作所の中西会長自ら、プロジェクトは「もう限界」と発言しています。

まだ遅くありません。時代遅れで危険な原発事業から、今こそ事業から撤退するべきです。

正式に事業撤退の最終決定をさせるためにあと一押し!ということで、一次集約分の署名の提出と、日立製作所が入っている日本生命丸の内のビル前でアピールを行いました。

アピールには英ウェールズの住民団体PAWBのロブさんもインターネット参加。「今や、ウィルヴァニューウィッド原発は、英国と日本政府の支援なしには継続不可能であることは明らか。しかもそのツケを支払わされるのは将来世代で、島にも大きなリスクが押し付けられる」と訴えました。

日立の家電のキャラクターのしろくまくんも参加。原発輸出を強引に進めればしろくまくんのイメージも損なわれかねないと心配だったのでしょうか?

署名は安倍首相にも提出しました(郵送)。安倍首相は、明日からオランダとイギリスを訪問。メイ首相との会談でこの原発輸出案件についてもふれられるとみられています。

この原発案件は日英両首脳の思惑が強く働いています。日立には、賢明な経営判断をしていただきたいと思います。

署名自体は日立が事業から完全撤退するまで継続します。ぜひ引き続きご協力よろしくお願いします。

(満田夏花・松本光・深草亜悠美)

動画も公開中!

FoE Japanでは、これまでに2度、ウィルヴァ原発建設立地の状況調査やウェールズのみなさんにインタビューを行っています。この度その様子をまとめた動画が完成しました。ぜひご覧ください&拡散お願いします。


日立の英ウィルヴァ原発、断念まであと一歩~署名にご協力を

※FoE JapanとPAWBは、日英両政府および日立に対して、ウィルヴァ原発の中止を求める国際署名を行っています(オンラインおよび)。
1月8日に第一次提出を行う予定です。

日立製作所が進めるイギリスでのウィルヴァ原発建設計画が岐路を迎えている。
12月10日のテレ朝の報道(注1)によれば、複数の関係者が「建設費のさらなる増大が見込まれる中、資金の調達先が決まらず計画を断念する方向で検討している」とのことだ。

この報道をうけ、日立の株価は上昇した。市場では「不採算事業への投資を見送り、利益下振れへの警戒感が和らぐ」と評価されたもようだ(注2)。

日立は12月12日に取締役会を開催。この問題について議論を行ったとみられる。
12月16日になって、共同通信が、日立がウィルヴァ原発の計画を「凍結する方向で調整している」「日立は事業継続の可能性を残すが、現状では事実上、撤退する公算が大きい」と報じた(注3)。翌日の17日、中西会長は、「(今の枠組みでは)もう限界だと英政府に伝えた」と発言(注4)。しかし、撤退に向けた最終決定ではなく、依然として継続の余地を残す。日立は2019年内にも最終投資判断をするとしていたが、年度内に早まる可能性がある(注1)。

ウィルヴァ原発は、日立の100%子会社のホライズン・ニュークリア・パワー社がイギリス・ウェールズ北部アングルシー島で進める。ABWR型の原発2基の建設を行うもの。
日立は以前より、ウィルヴァ原発事業を継続する条件として、自社の出資比率を50%以下に縮小するとしていたが、投資パートナーは見つかっていない。日立は東電や中部電、日本原電のほか、国際協力銀行(JBIC)や日本政策投資銀行(DBJ)などに出資を求めてきたが、十分な出資を得るのは難しい情勢となっている(注5)。

東芝も長らくイギリスにもつ原発会社ニュージェンの売却先を探していたが見つからず、今年11月7日にニュージェンの解散を決めた。原発という危険なビジネスに手を出す企業はなかなかいないということだ。

それはそうだ。イギリスでは電力需要は減少している上、風力発電などの再生可能エネルギーの価格がめざましく低下している。先行して計画が進むヒンクリーポイントC原発からの買取電力価格は、市場価格の倍で、その差額は国民負担となる。原発の建設費用は国際的に増加し、この事業でも3兆円にはねあがった。どうみても、原発建設が経済的に成り立つ環境にはない。

一方、日英両政府は、ウィルヴァ原発事業を進めるため、投融資や政府保証などの支援を行おうとしてきた。

ウェールズの住民団体PAWB(People against Wylfa B=ウィルヴァ原発に反対する人々)は、日立が取締役会を開催する前日の12月11日、日立宛てに手紙を送付し、改めて原発計画に反対した。手紙の中で、「イギリス政府によるウィルヴァ原発に対する補助は不公正であり、イギリスの消費者に大きな負担を押し付けることになる。日立にとっても評判を損ねることになる」「日立は、高価で時代遅れで危険で不必要な原発を推進するのではなく、未来のための投資してほしい」と訴えた。

アングルシー島は、美しい海岸線が有名な観光地で、EU保護種であるキョクアジサシも生息する。反対する住民は、原発事故の危険性、核廃棄物が将来にわたり残されること、事業によって自然のみならず、地元に残されているウェールズの文化が破壊されることを恐れている。

ウィルヴァ原発の建設が予定されているアングルシー島の風景(写真提供:PAWB)
事業地周辺にはEUの保護種であるキョクアジサシも生息する
(写真提供:PAWB)

日本政府は、原発輸出政策を国策として進めており、第二次安倍政権になってからはなりふり構わぬトップセールスを展開してきた。しかし、ベトナム、リトアニア、トルコなどで原発輸出が相次いで頓挫(下表)。

トルコ・シノップ原発については、事業費の倍増などから、三菱重工業なども含めた官民連合が撤退に向けた最終調整に入ったと報じられている。FoE Japanは2014年、現地訪問を行い、住民たちと交流。日本の「脱原発をめざす首長会議」から、シノップ周辺で反対の声を上げる首長たちへの応援レターを届けた。また、シノップ原発の地質調査に関して、経済産業省から日本原電の委託調査の不透明さについて、問題提起。日トルコ原子力協定に反対し、シノップの住民の手紙を日本の国会議員に届けたりなどの活動を行ってきた。

トルコ・シノップの美しい漁港(2014年撮影)

日本政府肝いりで進められた原発輸出政策。いまや残るはこのウィルヴァ原発のみだ。日立が国との関係で、ウィルヴァ原発を継続せざるをえないのではないかという懸念もきかれる。日立が現時点でこの事業を中止すれば最大約2700億円の損失が生じるとされているが、撤退判断が遅れればこの額はさらに膨らむだろう。日立には、日本政府に忖度することなく、正しい経営判断を行うことを望みたい。(満田夏花)

注1)日立が英原発建設計画「断念も視野」 建設費増大で(テレ朝、2018年12月10日)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000142690.html
注2)<東証>日立が上昇に転じる 「英原発建設、断念視野」と伝わる(日経、2018年12月10日)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL10HJL_Q8A211C1000000/
注3)日立、英原発計画を凍結へ(共同、2018年12月16日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181216-00000040-kyodonews-bus_all
注4)日立の英原発計画「もう限界」採算見通し厳しく(共同、2018年12月17日)
https://this.kiji.is/447329326390936673?c=39550187727945729
注5)日立の英原発事業、電力大手との出資交渉難航(日経、2018年12月16日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39012980W8A211C1TJC000/

誰のための原発輸出?ウェールズの住民が来日

日立製作所が進めるイギリス・ウェールズでの原発建設計画。

このたび、FoE Japanの招聘で、同原発に反対する地元ウェールズの住民団体PAWBのメンバー3人が来日しました。3人は、福島を訪問。原発事故による避難、最近の被害をめぐる状況についてのお話を聞いたあと、富岡町などを訪問。人影がない町の様子や大量の除染廃棄物を見て、「このようなことが、日本でもウェールズでも、どこでも起こってはならない」と発言しました。

IMG_2227.JPG28日には、FoE Japanが多くのみなさまにご協力いただいて集めた署名5,823筆を、
経済産業省などに提出しました。ご協力ありがとうございました。

同日、FoE JapanとPAWBとの連名で、日立製作所に対して、原発事業からの撤退を求める要請書を提出しました。また、多くの国会議員との意見交換を行い、さらに、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)を訪問。福島、東京、大阪の3箇所で開催された報告会では、事業が、アングルシー島の美しい自然やウェールズの固有の社会に与える悪影響、放射性廃棄物の行き先が決まっていないこと、そもそも原発は必要とされていないこと、そうした事業が日英の両国民にリスクと負担を押し付ける形で進められている理不尽さを訴えました。
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イギリスですすむ日立の原発輸出〜公的資金で後押し!?市民に押し付けられるコストとリスク

ウェールズ・ウィルヴァで日立の子会社ホライズンが進める原発計画。
イギリスでは高すぎる原発のコストが問題になっています。実際にどれくらいウィルヴァ原発事業が進んでいるのでしょうか。また、誰が莫大なコストを負担するのでしょうか。

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2015年に閉鎖したマグノックスの原発。この横にウィルヴァニューイッドを建設しようとしている。

パート1はこちら

イギリスの市民に押し寄せる負担

現在、イギリス・ウェールズ地方北部で進むウィルヴァニューイッド原発計画は、報道によると総事業費3兆円、それに対し、日本政府100%出資の国際協力銀行(JBIC)および日本貿易保険(NEXI)による融資と保証が検討されているとされています。
イギリスでは、実は1995年以降、一つも新しい原発は建設されていません。2008年に発表された英・原子力白書では、2030年までに新たに12基の原発を建設するとしており、ヒンクリーポイントC、サイズウェルC、ウィルヴァ、オールドバリーB、ムーアサイド、ブラッドウェルBの計8カ所で原発計画が提案されています。まだ1基も建設されていないのが現状ですが、そのうち、計画が最も進んでいるのがイギリス南西部で進むヒンクリーポイントC原発建設です。
ヒンクリーポイントC原発(3200MW、2機のEPR(欧州加圧水型炉)建設)は、フランスのEDFが66.5%、中国広核集団(CGN)が33.5%出資しておこなう原発事業です。事業費は約3兆円(£196億、これは2012年のロンドンオリンピックのコストの2倍だそう)で、このプロジェクトに対してはイギリスの政府債務保証スキームの適用、差額調整契約制度(CfD)による電力価格の保証 がされています。差額調整制度とは、電源別に基準価格(ストライクプライス)を定め、その価格が市場価格を上回った場合、その「差」を電力料金にのせて需要家から回収するシステムです。ヒンクリーポイントC原発の基準価格は£92.50/MWhで35年契約です。2018年1月のイギリスの電力の市場価格はだいたい50 £/MWhでした。単純に今の市場価格で考えると、約40£の差額は電気料金に上乗せされるのです。(ちなみにイギリスの風力価格は2017年末時点で£57.5/MWh
イギリス監査局の試算では、今後2030年までにCfDを通じて、約4兆5千億円(300億ポンド)の事実上の補助金が投入され、電気料金が年間最大2000円(15ポンド)ほど値上りする恐れがあるとしています 。消費者の負担が大きくなることからも、風力の価格が低下していることからも、原発を政府が手厚く支援することに関して、イギリス国内で問題になっています。

ウィルヴァ原発に対しても、イギリス政府が債務保証スキーム適用検討に合意していますが、前述のようにヒンクリーポイントC原発のコストが高すぎるので、ヒンクリーポイントCで用いたスキーム以外を模索するとしており 、ウィルヴァ原発の資金調達の枠組みや電気の買取価格は今の所不明です。また、ウィルヴァの基準価格はヒンクリーポイントCよりもかなり安くなるとも言われており、その場合、事業の採算性は非常に下がることになります。

このように、新規原発建設によるイギリス国民への負担は莫大です。イギリスは電力市場を自由化しているのですが、原発には補助金を投入しない(No public subsidy policy)という政策をとってきました。原発事業によるコストやリスクは事業者が原則負うとことになっていたのですが、ヒンクリーポイントC原発のように、事実上、イギリス政府は手厚く原発建設を支援しています。

日本の役割

ウェールズへの原発輸出は、一民間企業(日立)の事業です。一義的にはプロジェクトのリスクやコストは事業者や融資する銀行などが負うべきですが、日本では小泉内閣の2005年の原子力政策大綱を受けて、翌2006年にまとめられた原子力立国計画で、それまで国内が中心であった日本の原発産業が国際的な市場で原発推進に先導的な役割を果たすことが強調されています。そしてウェールズへの原発輸出に対し、政府100パーセント出資の日本貿易保険(NEXI)による融資保証、国際協力銀行(JBIC)を通じた融資を行うことが報じられています。

東電福島第一事故後も原発輸出は国策として推し進められておりインドやベトナムなどに対し、トップセールスが繰り広げられ、2016年には長年締結交渉が続けられてきたインドとの原子力協定が署名され、2017年には国会審議を経て批准・発効してしまいました。

原発輸出に対して公的信用を付与する際には、政府が輸出相手国が原発の安全を確保するために適切な制度などを有しているか等「安全確認」を行います。2015年に閣議決定された「原子力施設主要紙機材の輸出等に係る公的信用付与に伴う安全配慮等確認の実施に関する要綱」は、相手国が原子力安全条約などの国際条約を締結しているかどうか等をイエス・ノー方式で調査するもので、プロジェクト個別の安全性は審査せず、とても実質的な安全確認はできないものになっています。

JBICおよびNEXIは、融資・保証を行うか決定する際に、融資・保証審査に加え、環境社会配慮ガイドラインにのっとり、プロジェクトが社会環境に及ぼす影響を確認・配慮することになっています。しかし、JBIC・NEXIは「安全確認」に関しては「政府が行う」としており、JBIC・NEXIは行わないとしています。つまり政府側にも、JBIC・NEXI側にもプロジェクト個別の安全性を主体的に確認するシステムがないのです。

一般的に、プロジェクトの一義的なリスクは企業や銀行が負うべきですが、保険をかけてリスク分散することもあろうかと思います。しかし、融資保証を行う報道されているのは政府100パーセント出資の公的信用機関です。融資額や保証額が巨額になることが予想されるため、万が一貸し倒れが生じた場合は、国民負担が発生する可能性も指摘されています。

原発は、東電福島第一原発事故でも経験したように、一度事故が起これば、取り返しがつかず、非常にリスクの大きな事業です。事故が怒らなくても、収益性は乏しく、商業上のリスクは大きいのです。まさしく「民間ではカバーできない」規模のリスクです。

世論は脱原発を支持しており、福島事故の被害が続く中、国民的議論もないままに、公的資金で輸出を支援することは社会的に許されるべきではありません。日立製作所や民間大手銀行が負いきれないリスクを、政府100%出資のJBICやNEXIがカバーするということは、リスクを国民に転嫁しているいるといっても過言ではありません。

(スタッフ 深草)

イギリスへの原発輸出ー現地住民の声

イギリス・ウェールズ地方の北西部に位置するアングルシー島で、日立の完全子会社であるホライズンニュークリアパワーが新規原発建設計画を進めています。

この原発事業をめぐって、地元では、もともとの計画が浮上した80年代から、市民による原発反対運動が続いています。FoE Japanは2017年11月現地を訪問。事業の問題点を調査し、地元の声を聞きました。

アングルシー島は人口7万人ほどの小さな島で、18世紀には銅採掘が盛んでした。主な産業として、アルミ加工工場が操業していましたが、2009年に閉鎖し、現在は観光業や農業、そして地元の小さな企業が島の経済を支えています。

また、2015年までマグノックスの原発が稼働していましたが、2012年に2号基が、2015年に1号基が閉鎖。写真の中央に見える建屋が現在解体作業中のマグノックスの原発です。

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中央に見える灰色の建物がマグノックスの原発(ウィルヴァA)

ホライズンが計画しているウィルヴァニューイッド原発の建設は、80年代にウィルヴァB原発計画として浮上しました。しかし「新規原発はいらない」と声を上げた地元市民が現在も活動を続けています(注:ホライズンはもともとドイツの企業、EONとRWEのジョイントベンチャーであったが、2012年に日立に売却した)。

地元の脱原発団体「ウィルヴァBに反対する人々(People Against Wylfa B、PAWB)」の創立メンバーの一人であるディラン・モーガンさんは、ウェールズ語の書籍を扱う書店を経営する傍ら地元大学でウェールズ語を教えています。1988年にPAWBを設立し、以来ウィルヴァ原発反対活動を続けています。

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PAWBのメンバーらと

「88年に始めた活動は成功しました。中央政府は当時、ウィルヴァ原発の計画を凍結させたのです。しかし2006年、労働党のブレア政権で原発推進政策が復活し、それから10年以上に渡りウィルヴァ計画に再び反対の声を上げてきました。」

ディランさんが話すように、イギリスでは1950年代から継続して原発推進政策が進められ、アングルシー島での新規原発建設計画も80年代に持ち上がりました。しかし、90年代はじめに電力部門の民営化やエネルギー政策の見直しで、新規原発建設がストップされて以降、イギリス国内では1995年を最後に原発の新規建設はありませんでした。2006年、ブレア政権のもとエネルギー政策が見直され、原発推進の新たなエネルギー計画(エネルギー白書2007年、原子力白書2008年)が発表されます。

ディランさんは「原発は危険で、健康や環境を脅かすものだと思っています。また建設には莫大なコストがかかることから公的資金の投入なしにはプロジェクトは進まないでしょう。日本の公的資金が投入される可能性が報道されていますが、20世紀の時代遅れのテクノロジーに日本の公的資金を無駄遣いしてほしくないと思っています。」と話します。

ウェールズ訪問中、2度、住民の方と意見交換する場を設けてもらいました。集まったのは地元の脱原発団体(PAWB)のメンバーだけでなく、地元の緑の党のサポーター、FoEのローカルグループ、アングルシー島で働いている人々、また事業に関心はあるけど事業について特に立場が明確なわけではないという住民の方などです。

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アングルシー島に住むある夫婦の方は、「島の若い人は(仕事がないから島を)出て行く。若い人は雇用創出に期待している。個人的には賛成でも反対でもないけれど、福島の事故の話を聞いていると、心配」との意見でした。

地元のアングルシー議会は、原発計画に賛成しています。賛成の最も大きな理由が原発事業による雇用創出です。ホライズン社は建設時に多い時で9000千人の雇用、そして長期的には800名分の雇用を生み出すとしています。この「雇用創出」をめぐっては、様々な観点から懸念の声が上がっています。

アングルシー島に住むという高齢の女性の方は「建設現場では多くの低賃金外国人労働者が働いているのが実態。ウィルヴァ原発の建設にも外部から労働者がやってくるだろう。ただでさえ病院などのインフラが足りていないと感じるのに、九千人もの雇用を受け入れられるとは思わない。」と話します。

また「本土と島をつなぐ橋は2つしかなく、事故の時に避難ができるのか心配」とも指摘。

地元で行政職員をしていたグウィン・エドワーズさんは、PAWBのメンバーの一人。原発建設は長期的な雇用問題解決に貢献しないと警鐘を鳴らします。

「1960年代、最初のウィルヴァ原発建設のときにも雇用創出につながるといわれた。しかしアングルシー島はウェールズの中でも失業率の高い地域。原発に雇用を奪われた地元企業は倒産していき、地元企業が崩壊してしまった」

PAWBメンバーで医者のカールさんも原発産業が雇用を生み出すという論理について、否定しています。来日経験もあり南相馬も訪問したことがあるというカールさんは「日本でもイギリスでも共通に感じたのは、貧しい地域に原発を押し付け、結局なにも起こらなかった(=雇用問題は解決しなかった)ということ。雇用を生み出すというが、原発政策と地元での雇用創出はそもそも関係ない。」

PAWBのメンバーは、原発が雇用をうむという言説に対抗するために、地元経済や雇用に関する代替策の提言も行っています。

他にも、アングルシー島の美しい自然への影響や、長年続く農業への影響も挙げられました。アングルシー島の沿岸部は、ヘリテージコーストと呼ばれ、自然保護区域になっています。

PAWBの創設者の一人でもあるロバート・エリスさんは、地元の元獣医師です。「美しい海岸線をこれ以上壊されたくない」と話します。

新たな原発の建設にはさらに広大な用地を必要とします。用地取得は完了していますが、2011年には300年続いた農業を守る為、農家の方が土地を売るのを拒否し、地元の人々や環境団体もサポートしました

【農地売却に抵抗した農家のインタビュー(ウェールズ語のみ)】

抗議の結果、2012年、ホライズンは土地を買収するのを諦め、運動に勝利した農家により今でも農業が続けられているそうです。

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ロバートさん(中央)と土地買収に抵抗した農家の夫婦(写真:ロバート・エリスさん提供)

ホライズンは、機材納入や運搬のために新たに桟橋を設け、また建設作業者のために新たに合計4000人を収容できる住居施設を建設するとしています。また、新たな送電線の建設、アクセスロードの建設も今後行われる予定で、送電線の建設に反対する市民グループもあります(注:送電線を建設するのは、送電部門を管轄するNational Grid)。

アングルシー島出身で、長年平和活動を続けているシオネッドさんは、核兵器開発の観点から原発に反対しています。

「広島、長崎の悲劇をしり、原子力兵器のために開発されたこの技術に反対することを決めました。また、放射性廃棄物の問題も解決していません。将来世代にこのような遺産をのこすべきではありません。」

続く…

プロジェクト概要

ウィルファB原子力発電プロジェクト(ウィルヴァニューイッド原発、Wylfa Newydd)は、イギリス・ウェールズ地方北部、アングルシー島で二基のABWR(改良型沸騰水型軽水炉)を建設するもの。発電設備容量は合計で2,700MW。ホライズンニュークリアパワー(日立の子会社)が事業主体。

事業名:ウィルヴァニューイッド
事業内容:二基のABWR(改良型沸騰水型軽水炉)の建設(発電設備容量合計2,700MW)
事業主体:ホライズンニュークリアパワー(日立が100%株式所有)
総事業費:不明(約1.5兆〜3兆円と報道あり)
建設開始予定:2019年
運転開始予定:2025年