日立の英ウィルヴァ原発、断念まであと一歩~署名にご協力を

※FoE JapanとPAWBは、日英両政府および日立に対して、ウィルヴァ原発の中止を求める国際署名を行っています(オンラインおよび)。
1月8日に第一次提出を行う予定です。

日立製作所が進めるイギリスでのウィルヴァ原発建設計画が岐路を迎えている。
12月10日のテレ朝の報道(注1)によれば、複数の関係者が「建設費のさらなる増大が見込まれる中、資金の調達先が決まらず計画を断念する方向で検討している」とのことだ。

この報道をうけ、日立の株価は上昇した。市場では「不採算事業への投資を見送り、利益下振れへの警戒感が和らぐ」と評価されたもようだ(注2)。

日立は12月12日に取締役会を開催。この問題について議論を行ったとみられる。
12月16日になって、共同通信が、日立がウィルヴァ原発の計画を「凍結する方向で調整している」「日立は事業継続の可能性を残すが、現状では事実上、撤退する公算が大きい」と報じた(注3)。翌日の17日、中西会長は、「(今の枠組みでは)もう限界だと英政府に伝えた」と発言(注4)。しかし、撤退に向けた最終決定ではなく、依然として継続の余地を残す。日立は2019年内にも最終投資判断をするとしていたが、年度内に早まる可能性がある(注1)。

ウィルヴァ原発は、日立の100%子会社のホライズン・ニュークリア・パワー社がイギリス・ウェールズ北部アングルシー島で進める。ABWR型の原発2基の建設を行うもの。
日立は以前より、ウィルヴァ原発事業を継続する条件として、自社の出資比率を50%以下に縮小するとしていたが、投資パートナーは見つかっていない。日立は東電や中部電、日本原電のほか、国際協力銀行(JBIC)や日本政策投資銀行(DBJ)などに出資を求めてきたが、十分な出資を得るのは難しい情勢となっている(注5)。

東芝も長らくイギリスにもつ原発会社ニュージェンの売却先を探していたが見つからず、今年11月7日にニュージェンの解散を決めた。原発という危険なビジネスに手を出す企業はなかなかいないということだ。

それはそうだ。イギリスでは電力需要は減少している上、風力発電などの再生可能エネルギーの価格がめざましく低下している。先行して計画が進むヒンクリーポイントC原発からの買取電力価格は、市場価格の倍で、その差額は国民負担となる。原発の建設費用は国際的に増加し、この事業でも3兆円にはねあがった。どうみても、原発建設が経済的に成り立つ環境にはない。

一方、日英両政府は、ウィルヴァ原発事業を進めるため、投融資や政府保証などの支援を行おうとしてきた。

ウェールズの住民団体PAWB(People against Wylfa B=ウィルヴァ原発に反対する人々)は、日立が取締役会を開催する前日の12月11日、日立宛てに手紙を送付し、改めて原発計画に反対した。手紙の中で、「イギリス政府によるウィルヴァ原発に対する補助は不公正であり、イギリスの消費者に大きな負担を押し付けることになる。日立にとっても評判を損ねることになる」「日立は、高価で時代遅れで危険で不必要な原発を推進するのではなく、未来のための投資してほしい」と訴えた。

アングルシー島は、美しい海岸線が有名な観光地で、EU保護種であるキョクアジサシも生息する。反対する住民は、原発事故の危険性、核廃棄物が将来にわたり残されること、事業によって自然のみならず、地元に残されているウェールズの文化が破壊されることを恐れている。

ウィルヴァ原発の建設が予定されているアングルシー島の風景(写真提供:PAWB)
事業地周辺にはEUの保護種であるキョクアジサシも生息する
(写真提供:PAWB)

日本政府は、原発輸出政策を国策として進めており、第二次安倍政権になってからはなりふり構わぬトップセールスを展開してきた。しかし、ベトナム、リトアニア、トルコなどで原発輸出が相次いで頓挫(下表)。

トルコ・シノップ原発については、事業費の倍増などから、三菱重工業なども含めた官民連合が撤退に向けた最終調整に入ったと報じられている。FoE Japanは2014年、現地訪問を行い、住民たちと交流。日本の「脱原発をめざす首長会議」から、シノップ周辺で反対の声を上げる首長たちへの応援レターを届けた。また、シノップ原発の地質調査に関して、経済産業省から日本原電の委託調査の不透明さについて、問題提起。日トルコ原子力協定に反対し、シノップの住民の手紙を日本の国会議員に届けたりなどの活動を行ってきた。

トルコ・シノップの美しい漁港(2014年撮影)

日本政府肝いりで進められた原発輸出政策。いまや残るはこのウィルヴァ原発のみだ。日立が国との関係で、ウィルヴァ原発を継続せざるをえないのではないかという懸念もきかれる。日立が現時点でこの事業を中止すれば最大約2700億円の損失が生じるとされているが、撤退判断が遅れればこの額はさらに膨らむだろう。日立には、日本政府に忖度することなく、正しい経営判断を行うことを望みたい。(満田夏花)

注1)日立が英原発建設計画「断念も視野」 建設費増大で(テレ朝、2018年12月10日)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000142690.html
注2)<東証>日立が上昇に転じる 「英原発建設、断念視野」と伝わる(日経、2018年12月10日)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL10HJL_Q8A211C1000000/
注3)日立、英原発計画を凍結へ(共同、2018年12月16日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181216-00000040-kyodonews-bus_all
注4)日立の英原発計画「もう限界」採算見通し厳しく(共同、2018年12月17日)
https://this.kiji.is/447329326390936673?c=39550187727945729
注5)日立の英原発事業、電力大手との出資交渉難航(日経、2018年12月16日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39012980W8A211C1TJC000/

巨額の原子力賠償は国が負担? 賠償措置額が1200億円で据え置かれる理由とは? 原子力損害賠償法見直しにパブコメを!(9月10日まで)

>原子力委員会・文科省との会合報告はこちら

原発事故の賠償の枠組みを定めた「原子力損害賠償法」の改定案が、9月10日まで、一般からの意見公募(パブリック・コメント)にかけられています。しかし、この案では、原子力事業者が事故前に保険などで備える賠償金(賠償措置額)が1200億円にすえおかれることになっています。

東電福島第一原発事故では、現時点で見積もられているだけで7兆円をこす賠償金が発生し、この賠償措置額を大きく上回りました。

180821.jpg

要賠償額の推移

除染や事故収束にかかる費用も入れれば政府試算で21.5兆円とされており、この額はさらに上振れするとみられています。

事故後、東京電力を救済するため、国は「原子力損害賠償・廃炉支援機構」を設立し、国債発行による公的資金や、他の電力事業者からの負担金(もともとは私たちの電気料金)を「機構」経由で東電に流し込んでいる状況です。

支援機構

これでは、事故を引き起こした原子力事業者の負担はほんのわずかですみ、結局は国民が負担するということになりかねません。
利益は企業へ、事故が起きたときの費用は大部分は国民へ…?
そんなことは許されませんし、事故のリスクも含めた原発のトータルなコストが認識されないことにもつながります。

ぜひ、みなさんからもパブコメを出してください。

>パブコメはこちらから(9/10まで)

>(参考)原子力損害賠償法の概要
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo01/siryo1-6.pdf

◆パブコメ文例

  • 1200億円の賠償措置額は引き上げるべき。支援機構を介しての支援を前提にしては、最終的には国民にしわ寄せが行き、モラル・ハザードを引き起こす。
  • 原子力事業者を国が支援することを定めた原賠法第16条は削除すべき。
  • 原賠法の目的(第1条)から「原子力事業の健全な発達に資する」は削除し、被害者の保護のみとすべき。

原子力委員会・文科省との会合報告
本日(9月5日)、国会議員や議員秘書、eシフト有志やこの原賠法の見直しについて、とりわけ、賠償措置額の引き上げをなぜ行わなかったかについて、原子力委員会事務局の内閣府、および原賠法を所管する文科省からご説明いただきました。以下、要点のみまとめました。

内閣府…原子力政策担当室
文部科学省…研究開発局 原子力損害賠償対策室
      原賠法改正準備室

◆原賠法の見直しの経緯・スケジュール
<内閣府からの説明>
原子力損害賠償支援機構法附則第6条第1項に、原賠法見直しについて書かれている。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo01/siryo1-3.pdf
これをうけ、副大臣会議において検討が進められたが、平成27年1月22日の会合で、専門的な検討を原子力委員会に要請することとなった。
これをうけ、原子力委員会では、「原子力損害賠償制度専門部会」を設け、20回の検討を行ってきた。
原子力損害賠償制度専門部会設置について・名簿
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo01/siryo1-1.pdf
現在、そのとりまとめを行い、パブコメにかけているところ。
公聴会については考えていない。委員・オブザーバーの中には、被害者を代表している人もいる。福島県副知事からのヒアリングも行った。
原子力委員会として、課題を整理し、今後、文科省に法改正の議論を引き継ぐ。原賠法の当面の改正においては、1200億円については改正しないという方向。

<文科省からの説明>
原子力委員会からの提言を受け、原賠法の改定案を作成する。国会にかける。原子力委員会の案がパブコメにかかっており、それをもとに改正案をつくるので、改正案のパブコメは考えていない。

◆なぜ、賠償措置額をあげなかったのか
<原子力委員会>
・専門部会において、あげたほうがよいであろう、というのが一応のコンセンサス。しかし、だれの責任でどういう負担するのかというコンセンサスは得られなかった。
・賠償は、事故を起こした事業者が担うべきであるが、その資力を超えた場合、どうするのか。支援機構による相互扶助により捻出するのか、もしくは一般税で補てんすべきという意見もあった。
・現在の賠償措置額1200億円は、民間の保険で措置している。しかし、大幅にこの額を引き上げられないのが現状。引受能力を超えている。国際的には、ほぼ最高レベル。
Q:引き上げられない理由は?
→保険会社に査定を依頼したわけではない。「日本原子力保険プール」からも委員になってもらっていただき、「引き上げられない」という意見をいただいた。
Q:保険料を引き上げても?
→通常の責任保険とは違う。原子力事故では保険金支払い額が巨額になるため、国内損害保険20社によって日本原子力保険プールが結成された。原子力保険はすべて「日本原子力保険プール」を通じて契約される。国際的なシンジケートがあり、そこでどこまでの金額を引き受けられるのかが検討されている。
Q:政府補償契約をあげるべきでは?
→民間保険でカバーできないものを政府が、という考え方。むしろ、そちらの方がモラルハザードになるという意見が多かった。
Q:第16条は事故を起こした原子力事業者を救うための仕組みとなっている。撤廃すべきでは?
→法的整理を行い、賠償額を捻出するというのもありうるが、議論としては、むしろ企業を存続させて、賠償させる方が被害者救済に資するという感じであった。
Q:支援機構の資金源は東電の特別負担金、電力各社の負担金。しかし、22兆円規模の賠償を支払うとなるとざっくり95年かかる。新たに同規模の事故がおきても、対応できないだろう。
→(明確な答えはなし)
Q:支援機構経由で東電に支払われている金額のかなりの部分は国債。これは国民負担では?
→国債については、返済されていくことが前提。確かに利子分は、国庫負担ではあるが…。
Q:原子力委員会の「賠償資力確保のための新たな枠組みの検討について」で挙げられている「第2レイヤー」の「保険的スキームの活用」「資金的な手当」とは何を想定しているのか?
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo18/siryo18-1.pdf#page=12
→「保険的スキーム」は、あらかじめ保険料をとる現行の保険的スキームの拡大。「資金的な手当て」は、賠償措置額を超える部分を国が支払い、あとから回収するというもの。
いずれも委員からは、ピンとくるという意見がなかった(から、パブコメの案にはのせなかったらしい)

◆最後に、私たちから第16条による国による支援は削除すべきと考えていること、第1条の原賠法の目的から、「原子力事業の健全な発達に資する」を削除すべきこと、また、国民的議論を行うために、公聴会を開いてほしいことを、重ねて申し入れました。

住民無視 那須町の除染土埋め戻し実証事業~このまま全国展開?

【アップデート情報(2018.9.17)】

・浸出水は測定後、ゼオライトなどで処理し、側溝に流すことになっていることがわかりました。住民の方によると、側溝の水は住宅街を通り、三蔵川に流れるとのこと。心配する住民に対して、環境省は、「十分に対応しているから問題ない」と回答したとのことです。

・環境省は9月17日の週にも、実証事業のための準備作業を開始するとしています。9月16日、実証事業を行う旧テニスコートで行われた「作業説明会」で、環境省は「浸出水は濃度測定し、処理した上で放流する」としたそうです。環境省の管理を問われると「処理水が出なくなるまで。後は町に管理してもらう」と回答したとのことです。

・浸出水の放流問題もさることながら、豪雨の際のオーバーフローや決壊などが心配です。これらの点を断面図に書き込んでみました。

福島県外除染土処分のガイドライン策定へ

環境省は福島県外の汚染状況重点調査地域の除染土計33万m3を埋め立て処分するための施行規則・ガイドラインを策定しようとしており、現在、栃木県那須町、茨城県東海村で実証事業を進めている。しかし、この実証事業は、「安全を確認することありき」で、住民への説明がほとんどないままなし崩し的に進められようとしているようにみえる。

環境省は2箇所の実証事業で施行規則をつくり、全国展開するつもりだ。

「被ばくと健康研究プロジェクト」の田代真人さんに案内していただき、那須町の除染土の埋め戻し実証事業の現場を訪れた。また、住民の方にお話しをきいた。

埋め戻す除染土のセシウム量は不明

那須町伊王野除染土埋め戻し実証事業サイトこの実証事業は、那須町伊王野山村広場内旧テニスコート内に地下保管してある除染土壌350袋、約350m3を袋から取り出し、埋め直すもの。30cmの覆土を行う。(写真右:実証事業が行われようとしている旧テニスコート 7月21日、著者撮影)

除染土の埋め立ての下部には集水砂層とその下に遮水シートを設置(遮水シートの有無については住民への説明では明らかにされなかったが、その後付け加わった)。収集した浸透水の放射性セシウム濃度、周辺の空間線量率の測定、エアサンプリングを行う。

那須町除染土埋め戻し図(コメント入り)

平成 30 年度除去土壌埋立処分実証事業等業務に係る仕様書に加筆)

環境省は、福島県外の除染土壌の放射性セシウムの中央値は800Bq/kg、約95%は2,500Bq/kg以下としているが、実際に埋め戻す土に含まれているセシウム量は現段階では不明だ。

実証事業では、350袋について、重量及び表面線量率(上面1箇所及び側面4箇所)を測定。また、除去土壌計 350 袋中の 35 袋について、放射能濃度測定のための土壌サンプリングを実施する。サンプリングにあたっては、1袋から 10 サンプルを採取して混合し、1検体とする。実証事業の契約期間は、来年3月まで。これでは、長期にわたる影響については捕捉することができない。(くわしくは、環境省による仕様書を参照。)

「新聞報道後、回覧板がまわってきた」

以下、住民の受け止めについて、田代さんや住民たちのお話しをまとめた。

  • 住民がこの実証事業について知ったのは今年2月1日付の下野新聞。近隣住民には2月5日回覧板で「報道でご心配かと思いますが、こういうことやろうとしています…」というような2枚紙がまわってきた。
  • 那須町は、懸念する住民の問い合わせに対して「安全性は確認されている」と回答。いつからいつまでの事業で、そのあとどうするかについては国の事業なので不明。住民説明はやらないと回答。
  • 2017年9月にすでに環境省から那須町に打診があり、12月には議会の災害対策協議会で町から説明があった。反対意見がなかったということで、12月末に環境省にOKの返事を伝えた。こうしたことをあとから知った
  • 町からは、周辺に住む1人の住民に説明があった。そのあと、その人が13人に説明したというが、どういう基準で選ばれた13人であったかは不明
  • 環境省は、セシウムは土壌に吸着して、下方に移動しないというが、それは間違い。わずかではあるが下方に移動するという研究もある。
  • 那須町は基本的には火山灰の影響を受けている土壌で特殊。これをもって、安全性が確認されたとは言えないのではないか
  • 那須町住民申し入れ1805105月10日、住民が環境省に説明会の実施を申し入れた(写真右)。6月8日住民説明会が実現した。19:00~20:30のたった1時間半。住民からの質問が殺到し、15分だけ延長された。住民たちは、実証事業の内容を問うよりも、手続きがおかしいという怒りの表明が多かった。
  • 伊王野は高齢化が進む。ずっと住んでいる人たちは積極的に反対をいいづらい空気。
  • 住民たちとしては、庭先にうまっている除染土をなんとかしてほしい。この実証事業の受け止めは、「きちんとやってくれるなら容認してもよいのではないか」という人、「行政の言うことは信用できない」という人、さまざま。しかし、この実証事業で、結局、フレコンパックから出して埋め立てても安全とされ、庭先の除染土をそのままにする理由付けにつかわれるかも、と懸念している。
  • 町独自の予算で甲状腺がん検査を行うなど、被ばく問題に関してはしっかりとした考えをもっていた町長が脳梗塞で倒れているさなかにこの話しが進行した。
  • 実証事業がいつまでなのか、そのあとどうするのかは、説明されていない。
  • その後、8月7日、住民たちは環境省に対して、再度の説明会を行うことを要請したが、環境省はこれを拒否。環境省の資料によれば、9月にも実証事業が開始されようとしている。

何が問題なのか?

この実証事業の主な問題としては、以下があげられよう。

  • 住民への説明があまりに不十分で一方的。住民に事業の詳細が知らされず、意見もききいれてもらえていない。
  • 実際に埋め戻す除染土中のセシウムなどの放射性物質の濃度・総量が明らかになっていない。全袋調査を行うべきではないか。
  • 実証事業の契約期間は来年3月までであるが、長期のセシウムの動向や環境への影響を把握するには、モニタリング期間があまりに短い
  • 実質的に最終処分地となってしまいかねない。実証事業後、だれがどのような管理を行うか、モニタリング体制はどのようなものになるのか不明長期的な管理・監視体制をつくるべきではないか。
  • 豪雨対策など、放射性物質を含む土壌の拡散を防止するための措置をとっていない。
  • 除染土の再利用・処分については、フレコン入りの除染土の山を、埋めたり、公共事業につかったり、とりあえず「見えなく」するための場当たり的な方針のように思える。

県別除染土
確かに現在、除染土は庭先に埋められているものもあり、これをこのままにしてよいわけはない。しかし、このように、長期的な管理や豪雨対策もしないまま、除染土を埋設するのは、あまりに乱暴ではないか。

環境省は、除染土を長期的に安全に管理し、拡散を防ぐという視点から、広い層の専門家や市民の参加のもとで、検討を行い、全国レベルでの公聴会など、国民的な議論を行うべきだろう。(満田夏花)

参考:環境省「除去土壌の処分に関する検討チーム会合配布資料」

http://josen.env.go.jp/material/disposal_of_soil_removed/

福島第一 増設ALPS(多核種除去装置)でヨウ素129の基準超え60回以上 除去水処分の説明・公聴会の前提は崩れた

トリチウムしか残留していないはずが…

経済産業省は、東電福島第一原発における多核種除去装置(いわゆるALPS)処理水の処分に関する説明・公聴会を8月30日、31日に富岡、郡山、東京で開催しようとしています。経産省は、処理水はトリチウム以外の放射性物質はほとんど除去されていること、トリチウムは弱い放射線しか出さず、自然界にも存在し、生物濃縮はせず、世界中の原発から排出されているとして、海中放出を行おうとし、原子力規制委員会もこれを後おししています。(ちなみにタンクにたまっているトリチウムの量は約1,000兆ベクレルです。)

ところが、このところ、ALPS処理水にヨウ素129、ストロンチウム90が告知濃度限度(基準値)を超えて残留していたことが明らかになりました。

経済産業省のトリチウム・タスクフォースや多核種除去設備等処理水の小委員会では、トリチウムしか残留していない前提で検討が行われており、他の核種については検討が行われていません。

東電の公表データによれば、ヨウ素129については既設ALPS以外に増設ALPSで、告示濃度を超える値が2017年4月~2018年7月まで60回以上計測されており、出口A~Cでまんべんなく見られます。最高は2017年9月18日の62.2Bq/Lでした(下図)。つまり、何かのはずみに1回高い値がでたのではなく、慢性的に発生しているのです。

増設ALPS出口グラフ

出典:東電公表データ(福島第一原子力発電所における日々の放射性物質の分析結果、「増設多核種」)より作成

ストロンチウム90に関しては、増設ALPSでは2017年11月30日に141Bq/Lと告示濃度(30Bq/L)を超えていました(出口C)。

8月22日の会見で、原子力規制委員会・更田委員長は「2015年くらいに告示濃度を超えるものがあると東電から報告があった」「告示濃度超えがあったのは、古い(既設)ALPSの出口Cでしょう」などと発言しています。更田委員長はかねてより、ALPS除去水に関しては、「海洋放出以外の選択肢はない」とし、今回のヨウ素129などについても、「薄めて告示濃度以下にすれば放出をとどめることはできない」という趣旨の発言をしています。

2015年に東電が告示濃度を超えたと報告し、その対策は取られていたはずです。しかし、2017年4月から現在にいたるまでヨウ素129が60回以上も告知濃度を超えているのはなぜなのでしょうか? 原子力規制委員会や、経済産業省は、こうした状況を把握していたのでしょうか。原子力規制委員長の発言をみる限り、正確に認識していたとは思えません。

ヨウ素129は、半減期1,570万年。特に海藻に濃縮・蓄積される。体内にとりこまれるとほぼすべて甲状腺に集まり、とりわけ胎児や乳幼児への影響が懸念されます。「薄めて出せばよい」とは思えません。なお、放射性ヨウ素については、「美浜の会」の以下の資料が、生物の進化の過程とヨウ素について、また放射性ヨウ素の危険性についてわかりやすく解説しておりたいへん興味深いです。>こちら

海洋放出以外にも有力な代替案がある

ちなみに、研究者・技術者・NGOなどが参加する「原子力市民委員会」は、トリチウムのリスクに関して諸説ある中で海洋放出を強行するのではなく、恒久的なタンクの中に保管することを提案しています。>詳しくはこちら

国家石油備蓄基地で使用している10万トン級の大型タンクを10基建設して、その中に100年以上備蓄する案です。トリチウムの半減期は12.3年。100年で減衰により、トリチウムの量が現在の約1000分の1に減少します。大型タンクでの貯留は、すでに十分実績のある手法であること、現在の1,000トン容量のタンクに比して面積効率がはるかに高いという利点があります。十分現実的な提案なのではないでしょうか。タンクの設置場所については、福島第一原発の敷地内にこだわらず、その周辺またはその他の東電所有地も考えられます。このような地上における保管案が十分に検討されているとは思えません。

また、予定されている説明・公聴会も、海洋など環境中への放出前提のものになっており、こうした代替案については、提示されていません。

いずれにしても説明・公聴会の前提はくずれました。経済産業省は、改めて検討をやりなおすべきでしょう。

(満田夏花)

日本原電に東海第二原発を動かす「経理的基礎」はあるの?

結論からいって、日本原電に経理的基礎はなく、原子力規制委員会の「経理的基礎がある」という判断には以下の理由から根拠がないと考える。

発電ゼロにもかかわらず、巨額の電気料金収入

日本原電は2012年以降、発電量はゼロであるが、東京電力、関西電力、中部電力、北陸電力、東北電力から、毎年1,000億円以上の電気料金収入を得て、延命している。その額は、総額7,350億円にものぼる(2012~2017年度)。
逆に言えば、電力各社は、すでに6年もの間、日本原電に対して巨額の電気料金を払い続けている。これは多かれ少なかれ、電気料金に上乗せされている。すなわち、日本原電の延命のための資金を、全国の電力ユーザーが少しずつ負担していることとなる。なかでも最も高額の基本料金を支払っているのは東電であり、その金額は2017年度で520億円にのぼる(2011年度~2017年度は累計3,228億円)。

電気会社各社からの日本原電の電気料金の支払い

純利益の推移

敦賀原発1・2、東海第二原発が動いていた2003~2010年の純利益の平均は17億円。2011年~2017年の平均は25億円の赤字である。
東海第二原発を仮に再稼働できたとしても、敦賀1号機、東海原発の2つの廃炉費用を捻出しつつ、2010年以前のレベルに戻すことは難しい。
一方、安全対策費1740億円を、20年で回収するためには、年間87億円の収益を上げる必要がある。別の言い方では、2010年以前の利益のレベルに戻り、これを安全対策費の返済にあてたとして、返済には100年かかる。

日本原電_純利益の推移

巨額の建設仮勘定の資産性に疑問

日本原電の有価証券報告書では、建設仮勘定として、2017年度1,732億円が計上されている。この内容は不明であるが、仮に建設途上の敦賀3・4号機であるとするならば、新規原発を稼働できるかどうかは可能性が少なく、その資産性には疑問がある。仮に資産性がないと判断されれば、日本原電の純資産は1,649億円であるため、債務超過におちいる恐れがある。

銀行が融資保証を要求

銀行はこれ以上融資ができないと日本原電への貸し付けに融資保証を要求した。2017年11月14日の審査会合で、原子力規制委員会は、日本原電に対して、債務保証の枠組みとして、だれが債務保証を行うのか、その意思はどうかについて、書面で示すことを要求した。しかし、銀行が債務保証を要求している時点で、日本原電の経理的基礎は怪しいとみるべきではないか。

東電・東北電からの書面は根拠にならない

日本原電は、2018年3月14日付で、東京電力と東北電力の二社に対して、「電気料金前払、債務保証等によって弊社に支援資金する意向を有している旨、書面をもってご説明いただきたく何卒よろしくお願いいたします」と要請を出した(2018年3月14日付)。ここで、債務保証のみならず、「電気料金前払」という言葉を入れていることに注意が必要である。
東電と東北電の二社は3月30日付で「工事計画認可取得後に資金支援を行う意向があることを表明いたします」と文書で回答。しかし、両者とも「なお、本文書は、…何ら法的拘束力ある約諾を行うものではないことを申し添えます」とも書いてあり、資金支援を確約したものではない。
この文書は、原発をめぐる電力会社のもたれあいの構造を示すだけであり、日本原電の経理的基礎を何ら示すものではない。

東電の日本原電支援意向表明

東電による日本原電支援は説明がつかない

融資保証であれ、電気料金の前払いであれ、巨額の公的資金が注入されている東電が、日本原電の支援を行うことは、まったく説明がつかい。実質的には、国の資金の迂回融資にあたるのではないか。

電気料金の前払いだとすると、再稼働できるかどうかもわからず、いつから、いくらとなるかもわからない。また、再稼働できたとして、日本原電は東京電力から得る電気料金から、前払いした分を減じた額の収入しか得られないこととなる。実際に発電をはじめたときに発生した諸コストは本来電気料金に含められるべきものであるがわからず、電気料金をさらに値上げしなければ経営を維持することはできない。

東京電力は、「良質な電源を安価で調達することは経営上のメリットがある」としているが、東海第二原発の電気は、決して安価ではない。東電による日本原電支援は、経営的な側面から行っても説明がつかない。(満田夏花)

緊急声明:原子力規制委員会による東海第二原発の審査書案了承に抗議~スケジュールありきのアリバイ審査

国際環境NGO FoE Japan
原子力規制を監視する市民の会

本日(7月4日)、原子力規制委員会が日本原電・東海第二原発の設置変更許可にかかる審査書案を了承しました。今後、パブリック・コメントにかけられます。

今回の審査書案の了承は、多くの問題や危険性、実験で発覚したブローアウトパネルの閉鎖装置のトラブルにも目をつぶり、運転開始40年までに設置変更許可・工事計画・運転延長の認可を間に合わせるため日本原電を急がせた「スケジュールありき」のものです。私たちはこれに強く抗議します。

東海第二原発は、首都圏唯一の原発で、福島第一原発と同様の沸騰水型の原発。30km圏内には約96万人が居住します。まもなく40年の老朽原発でもあり、東日本大震災のときに津波をかぶり、つなわたり運転を3日半続けてようやく冷温停止にいたった被災原発です。周辺の少なくとも18市町村が運転延長もしくは再稼働に反対する意見書を可決しています。

審査では、日本原電の経理的基礎、防潮堤、ケーブルの防火対策、重大事故時における格納容器破損防止などが問題となりました。

とりわけ、経理的基礎については、大きな議論となりました。原発しか持たず、所有する4つの原発のうち2つは廃炉が決まり、現在発電を行っていない日本原電が破たんを免れているのは、東電、関電などがあわせて年間1,000億円の「電気料金」を支払っているからにすぎません。日本原電は1,760億円もの安全対策費を銀行から借りることができず、東京電力と東北電力が日本原電の求めに応じ経済的支援の「意向」を表明する文書を提出。しかし、これらの文書は実際には、資金支援を約束するものではありません。

東京電力は、福島第一原発事故の賠償・廃炉などの費用が払いきれず、巨額の公的資金や各地の電力消費者から徴収された電気料金が注入され、形だけ破綻を免れているのが実態です。さらには、被害者への賠償を値切り、ADRの和解案を拒否し続けているのです。そんな中、他社の原発の再稼働への財政支援をすることなど許されません。それなのに、原子力規制委員会は、東電・東北電の「支援」を前提に、審査書案を了承しました。

また、原子炉建屋の圧力を逃がすブローアウトパネル閉止装置の機能確認試験では、ブローアウトパネルが5cm空いてしまったのにもかかわらず、その改善案の検討は工事計画認可に先送りされました。これは、「通すことありき」の原子力規制委員会の姿勢を如実に示すものではないでしょうか。

私たちはこれに断固として反対し、審査書案の撤回と、審査のやり直しを求めます。

以 上

★こちらもよろしくお願いいたします。
【署名】東京電力さん、私たちのお金を日本原電・東海第二原発の再稼働のために使わないでください

個人署名(Change.org)>https://goo.gl/PjKJEB
署名用紙>PDF
団体署名>こちら
第三次締め切り:2018 年7月末日

180704

声明:第5次エネルギー基本計画の閣議決定に抗議する

2018年7月3日
国際環境NGO FoE Japan

本日(7月3日)、第5次エネルギー基本計画が閣議決定されました。私たちは、民意からも、現実からも乖離した今回の決定に強く抗議します。

1.非民主的な決定プロセス

エネルギー政策の立案に関しては、多くの市民団体が繰り返し要請したのにもかかわらず、公聴会などは開かれず、パブリック・コメントについても「集めた」だけであり、締め切りから2週間あまりで閣議決定してしまいました。パブリック・コメントを踏まえた公開の場での議論や、多少の文言の追加はあるにしろ、内容への反映は行われませんでした。 パブリック・コメントの対応表を見る限り、論拠を上げて脱原発の必要性を指摘する意見が多かったのに対して、それに対するまともな回答はありません。

策定のプロセスにおいて、審議会メンバーのほとんどは、脱原発を願う一般市民の声をほとんど考慮することなく、世論から乖離した発言を繰り返しました。「ご意見箱」によせられた意見についても分析や検討等はされませんでした。

このようなプロセスは、我が国のエネルギー政策の非民主的性格をあらわすものです。エネルギー基本計画の中では、繰り返し「国民の信頼の回復」という言葉が使われ、また、「一方的に情報を伝えるだけでなく、丁寧な対話や双方向型のコミュニケーションを充実することにより、一層の理解促進を図る」としていますが、まったくの空文です。これが是正されない限り、エネルギー政策に対して、国民の信頼を得ることはできません。

2.「ファクト」のねじまげと、
無視された重要な「ファクト」

本計画では、原発は「運転コストが廉価」である、原発は「安定供給に優れている」、原発は「準国産」、再生可能エネルギーは「火力に依存している」、「世界で最も厳しい水準の規制基準」など、明らかに誤りが繰り返し記述され、原発維持を正当化するような誘導が行われています。一方で、以下のような重要なファクトは無視されてしまっています。

  • 東京電力福島第一原発事故はいまだ継続中で、甚大で回復不可能な被害が広範囲にわたり生じている。ふるさとや文化、自然や人々のつながりが失われた。いままでの暮らしが失われた。各地で住宅の提供を打ち切られた避難者が困窮し、貧困化している。人々は分断されてしまっている。被ばくによる健康リスクと不安が生じているが、それを口にすることすらだきない空気となっている。事故原因の究明は終わっていない。廃炉・除染・賠償等の費用が膨れ上がり、政府試算でさえ5兆円、さらに上振れするといわれている。大量の除染土は行きどころがなく、公共事業で使うというような方針が出されている。
  • 原発をめぐる根本的な問題:解決できない核のゴミ問題、事故リスク、コスト、被ばく労働、大規模集中型の電源ゆえの脆弱性…
  • 国民の多くが原発ゼロを望んでいる。2012年に行われたエネルギーの未来に関する「国民的議論」においては、検証委員会は、「少なくとも過半の国民は原発に依存しない社会にしたいという方向性を共有している」と結論づけ、政府は、原発ゼロの方向性を盛り込んだ革新的エネルギー・環境戦略を策定した。世論の傾向はその後も大きな変化は見られない。
  • 原発の建設費用が激増している。たとえばトルコで三菱重工などが計画しているシノップ原発(2基)当初2兆円が4兆円に。イギリスで日立が計画するウィルヴァ原発(2基)は3兆円に倍増。
  • 東芝が、原発事業が原因で、経営破綻しかけた。
  • 東京電力は、福島第一原発事故により実質破たんしたが、「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」を経由した公的資金や各地の電力会社からの資金により、延命している。それにもかかわらず、東電は原発事故被害者への賠償を値切り、ADRの和解勧告を拒否し続けている。
  • 現行の原子力規制基準やその運用は原発の安全を保障するものではない。
  • 核燃料サイクルは破たんしており、まったく実現のめどがたっていない。

3.再処理の放棄を

プルトニウムの削減をプルサーマルの推進に求めることは、まったく本末転倒です。これ以上、プルトニウムを増やさないためにも、再処理・核燃料サイクルの破たんをみとめ、撤退すべきです。

4.抜本的なエネルギー政策の見直しを

私たちは、東電福島第一原発事故への深い反省や解決不可能な核のゴミ問題など、原発をとりまく厳しい情勢、気候変動はまったなしの課題であること、また近年のエネルギー情勢の変化を踏まえ、抜本的で民主的なエネルギー政策の見直しを行うべきだと考えています。

1)早期の脱原発を明記すべき
2)すでに破たんしている核燃料サイクルを中止すべき
3)原発輸出は撤回・中止すべき
4)石炭火力推進はパリ協定に逆行、新増設・輸出は中止すべき
5)持続可能な再生可能エネルギーの推進と、エネルギー需要削減を
6)地産地消で小規模分散型のエネルギー構造を

以 上

※第5次エネルギー基本計画はこちら
※パブリック・コメントの結果はこちら

原発デモ_120505

 

誰のための原発輸出?ウェールズの住民が来日

日立製作所が進めるイギリス・ウェールズでの原発建設計画。

このたび、FoE Japanの招聘で、同原発に反対する地元ウェールズの住民団体PAWBのメンバー3人が来日しました。3人は、福島を訪問。原発事故による避難、最近の被害をめぐる状況についてのお話を聞いたあと、富岡町などを訪問。人影がない町の様子や大量の除染廃棄物を見て、「このようなことが、日本でもウェールズでも、どこでも起こってはならない」と発言しました。

IMG_2227.JPG28日には、FoE Japanが多くのみなさまにご協力いただいて集めた署名5,823筆を、
経済産業省などに提出しました。ご協力ありがとうございました。

同日、FoE JapanとPAWBとの連名で、日立製作所に対して、原発事業からの撤退を求める要請書を提出しました。また、多くの国会議員との意見交換を行い、さらに、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)を訪問。福島、東京、大阪の3箇所で開催された報告会では、事業が、アングルシー島の美しい自然やウェールズの固有の社会に与える悪影響、放射性廃棄物の行き先が決まっていないこと、そもそも原発は必要とされていないこと、そうした事業が日英の両国民にリスクと負担を押し付ける形で進められている理不尽さを訴えました。
続きを読む

「法的根拠」不明のまま進む除染土の再利用~撤回を求めて署名提出

みなさまにもご協力いただきました、「除染土の再利用方針の撤回を!」署名ですが、昨日6月11日、環境省宛てに15,374筆を提出しました。前回までの提出分27,246筆とあわせると、合計42,620筆となりました。厚く御礼を申し上げます。
署名では、除染土の再利用方針の撤回を求めるとともに、除染のあり方、除染土の処分のあり方に関しては、福島県内外の各地の幅広い人たちの参加のもとでの議論を求めるものになっています。

当日は、除染土の道路の路床材の実証事業が行われようとしている二本松市の「みんなでつくる二本松・市政の会」の菅野さん、鈴木さんにご参加いただき、また、除染土を埋める実証事業が行われようとしている栃木県那須町からも、田代さんが参加されました。まさのあつこさんに全体的な状況についてお話しいただきました。

環境省のこの除染土再利用方針については、以下の検討会の資料をご覧ください。
「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」
この検討会の名称でもわかるように、環境省が除染土壌の「再利用」をする目的は、大量の除染土を減らすことにあります。

再利用の実証事業に関しては、その概要が直近の検討会資料に記されています。>資料

那須町・東海村での除染土の埋め立て処分の実証事業についての情報はこちらをご覧ください。>資料
政府交渉では、驚くべき事実が明らかになりました。

1.除染土の再利用についての法的根拠は不明

法的根拠を問われ、環境省は、「放射性物質対処特措法」41条を上げました。
しかし、環境省の除染土の再利用方針は、除染土の減容化を目的としたものであり、同法の目的に書かれている「事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減する」という目的とは、本質的に異なるのではないかと思います。

第四十一条 除去土壌の収集、運搬、保管又は処分を行う者は、環境省令で定める基準に従い、当該除去土壌の収集、運搬、保管又は処分を行わなければならない。

ちなみに、この「処分」については施行規則はなく、環境省は、那須町・東海村における、埋め立て処分の実証事業や、一連の再利用の実証事業を踏まえて、作成するようです。

「実証事業の法的根拠は?」と問われると、同法の第54条(調査研究、技術開発等の推進)を上げました。
しかし、ここでも、「事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を低減するための方策等に関する調査研究、技術開発等」とされていますが、あくまで事業は、大量の除染土の減容化を目的とした、「再利用」であり、根本的に異なります。

2.飯舘村長泥地区の除染土再利用は、除染と「バーター」

長泥地区では、除染土の農地造成への再利用の実証実験が進められようとしています。
飯舘村から集められた除染土を運びこみ、農地をかさ上げし、上に覆土するというものです。

長泥地区実証実験イメージ
資料
環境省は、長泥の住民の理解を得られた、村からも事業を進めてほしいという要請がきたとしますが、飯舘村の支援を続けられている糸長先生から、長泥のみなさんは、この事業を受け入れなければ、復興拠点に指定されず、家のまわりを除染してもらえないという認識があったという指摘がありました。

環境省は、「条件というわけではない」「”バーター”と言ったかどうか確かではないが、バーターというわけではい」と言っていましたが、長泥地区を復興拠点(「特定復興再生拠点区域」)にする飯舘村の計画の中に、この除染土再利用という「環境再生事業」も記入されています。環境省としては村からの要望で進めていると言いますが、住民たちには、復興拠点事業と除染土再利用の農地造成実証事業が「セット」として説明されていたことが浮かび上がりました。

※たとえば、復興拠点計画の以下の文書の3ページ目に以下のように記されています。
「農の再生にあたっては、実証事業により安全性を確認したうえで、造成が可能な農用地等については、再生資材で盛土した上で覆土することで、農用地等の造成を行い、農用地等の利用促進を図る(環境省事業)。」

環境省は、「この除染土再利用実証事業がなければ、復興拠点に指定できないということではない」と言っていたため、「セット」ではない、ということをあらためて説明しなおすべきではないでしょうか?

3.実証事業で使われる土の詳細はわからない。

二本松でも那須町でも、実証事業で使われる土の汚染レベルなどについてはわかっていません。
「線量から推定するに、だいたい1,000ベクレル/kgくらいのレベルではないか」「実証実験については、決まっていないが1,000~2,000ベクレルくらいのレベルの土を使うのではないか」と言っていましたが、実際に使う土の汚染レベルという最も重要なことを決めずに、実証事業を行うということがありえるのでしょう
か?

4.本当に「実証事業」なのか?

長泥地区・二本松・那須町などで行われるのは、本当に「実証事業」なのでしょうか?
実証事業で、「安全性」を確認するのであれば、環境省が指針で示している上限の値(覆土にもよりますが、8,000Bq)でも大丈夫であるかどうかを示さなければなりません。
一連の「実証事業」は、実証というよりも、アリバイづくり、もしくは除染土を再利用することを、人々に「慣れさせる」ことが目的のように思えてなりません。

一方で、環境省は、「実証事業についてはさまざまな意見をいただき、検討している。白紙撤回も選択肢としてはある」というような趣旨のことも言っていました。

大量の除染土は確かに深刻な問題です。

だからといって、それを公共事業に利用することにより、環境中に拡散させてしまうことは許されるものではありません。環境省は、「管理主体が明確な公共事業で使う」としていますが、実際には、形上、管理主体が明確だったとしても、そこに埋められた放射性物質を「管理」できるわけではありません。

除染土をどうするのか。再利用ありきではなく、根本から議論を進める必要があるのではないでしょうか?

(満田夏花)

▼当日資料

まさのあつこさん資料

環境省からの資料(飯舘・二本松 実証事業資料)

環境省からの資料(5月17日、二本松実証事業説明r資料)

▼除染土再利用の反対を求め、署名を提出しました。

除染土再利用反対署名提出_180611

 

BUND/FoEドイツ 脱原発の歴史と最終処分場問題(報告その1)

323日から27日まで、BUND(ドイツ環境自然保護連盟:FoEドイツ)から代表のフーベルト・ヴァイガー氏ら3名が来日しました。

今回の彼らの来日の目的は、一つは、福島原発事故から7年後の現状を見聞きすること(2425日に飯舘村等訪問)、原発・エネルギー政策について東京で意見交換すること、そしてBUNDとしても注目している日欧貿易協定問題について日本の団体と意見交換することでした。 

327日(火)には、エネルギー政策について議員会館でセミナーを開催しました。
BUNDFoEドイツ)来日セミナー:脱原発・脱石炭・エネルギーシフトと市民参加」
▼詳細・資料はこちら http://foejapan.org/energy/evt/180327.html

IMG_1023

●ドイツの脱原発の歴史とBUND

2007年からBUND代表をつとめるフーベルト・ヴァイガー氏は1972年、自身が良心的兵役拒否(兵役義務の代わりに、福祉団体や環境団体での研修を選択することができます)の研修先として、初めて環境団体を選んだパイオニアだったとのこと。それが当時バイエルンで最大の環境保護団体だったBUND Naturschutz(自然保護連盟)だったそうです。

その後1975年、このバイエルンの団体が母体となって全国の環境団体への働きかけが行われてドイツ全国規模のネットワークBUND(ドイツ環境自然保護連盟)が設立されたそうです。ヴァイガーさんはこの時一番若い設立メンバーだったとのこと。森林学や農学が専門ですが、BUNDのメンバーとして反原発運動や気候変動問題、生態系保全など、精力的に活動を続けてきています。

IMG_1033

ちなみにドイツでは現在、グリーンピースやWWFBUNDFoEドイツ)、NABU(自然保護連盟ドイツ)の4大環境NGOやその他の環境団体にメンバーなどの形で参加する人が約1000万人(!)いると推定されているとのこと。この市民のちからが、政治に対するプレッシャーにもなっているとのことでした。BUNDは約54万人の会員・支持者を抱え、ドイツ各州の本部、さらに各町に支部があり、会員の地道なネットワークと活動によりささえられています。

ドイツの脱原発運動が大きな転機を迎えたのは1986年のチェルノブイリ原発事故でした。

2000キロ離れたドイツ、特にミュンヘンを含む南ドイツにも放射能は降り注ぎ、ドイツの市民は「庭で育てた野菜を食べられない」「子どもを外で遊ばせられない」ことを身をもって体験しました。市民による放射線測定所も各地に設けられました。ちょうどその年に南ドイツで建設中だったヴァッカースドルフ再処理工場の建設反対デモには約12万人が集い、ヴァイガーさんもその一人だったと言います。

2009年、社民党・緑の党連立政権から、自由保守主義政権(メルケル政権、CSU/SPD連立)に交代した後、2002年に決められた脱原発が覆され、原発の運転期間延長が決められましたが、これには多くの市民が反発し、2009年から2011年にかけて大規模な脱原発デモが各地で開催されました。ちょうどそのときに、福島第一原発事故が起こったのです。

20113月にも各地で大規模なデモが企画されていましたが、そこに「福島が警告する」というメッセージが加えられました。ご存じのとおり、メルケル首相はその後方針転換し、老朽原発8基を即時停止、「倫理委員会」を設置して議論したのち、2011年夏には改めて、2022年までの原発全廃を決めています。BUNDでは「即時原発廃止」を求めてその後も様々な発信や働きかけ、集会等の企画を行っています。

現在残る原発は7基ですが、これから順に閉鎖されていきます。

参考(FoE ドイツ資料)

●ドイツの核廃棄物最終処分場問題(フーベルト・ヴァイガー氏より)

参考(FoE Japan吉田資料)

もうひとつ、今まさに進行中の議論が「最終処分場の候補地選定」です。

ドイツでは脱原発を決めたのち、避けて通れない最終処分場問題に関する議論がスタートしました。2013年に「サイト選定法」が制定され、大まかなプロセスと市民参加の方法について大枠が示されました。その後20142016年には「最終処分場委員会」が設置されました。

最終処分場委員会には3つのワーキンググループがありました。

WG1:ダイアローグ・市民参加・透明性確保
WG2:サイト選定法の改訂に向けた評価
WG3:社会的技術的学術的評価指標づくり

中でも、最終処分場候補地としてすでに検討が進んでいた「ゴアレーベン」を完全に白紙撤回するかどうかが、BUNDを含む市民団体の間で大きな争点だったとのことです。(結果、白紙撤回はされず選択肢としてまだ残っています。)

 多くの反原発団体は、最終処分場委員会も含めプロセス全体を批判しています。BUNDの内部でも大きな議論がありましたが、結果、内部から圧力をかけることも必要であると、副代表のクラウス・ブルンスマイヤー氏が最終処分場委員会の委員として参加することを決めています。

20166月には、同委員会の「最終報告書」がまとめられていますが、BUNDはこの最終報告の採択には反対しました。その理由は、
・ゴアレーベンの白紙撤回がなされなかったこと
・どのような放射性廃棄物がこの最終処分場選定の対象になるのか明確にされなかったこと
・立地周辺地域の住民の参画が十分と言えなかったこと
などがありました。
(詳細はBUNDウェブサイト:https://www.bund.net/atomkraft/atommuell/kommission/

現在は、今後の科学的候補地探査、社会的候補地探査から処分場決定までのプロセスを独立して監視し、透明性・中立性・市民参加を促していくための機関として、2017年に「社会諮問委員会(Nationales Begleit Gremium)が発足しました。こちらにもブルンスマイヤー氏が引き続き参加し、圧力をかけながら監視していきたいとのことでした。

脱原発は必ずできる、引き続きぜひ日独で連携していきたいと、ヴァイガー氏は再度強調しました

(吉田 明子)

エネルギーシフト・気候変動政策と若者の動きについて、「報告その2」に続く

IMG_1076