疑問だらけの東電・処理汚染水放出「素案」

3月24日、東電がALPS処理汚染水の放出に関する「素案」を発表した。
「一度に大量に放出せず、年間トリチウム放出量は、廃止措置に要する30~40年の期間を有効に活用する」とし、水蒸気放出・海洋放出のそれぞれのフローを示している。また、タンクの72%の水で基準超えしているトリチウム以外の放射性核種については、「二次処理を行う」としている。
この「素案」、以下のように数々の疑問が呈されているのにもかかわらず、経産省はこれをそのまま自らのウェブサイトに掲載し、現在行っている意見募集の基礎資料の一つとしている。

何が残留しているのか

東電によれば、トリチウムについては、タンク水に約860兆ベクレル残留している。(建屋の中には保守的に見て1,209兆ベクレル残留していると見積もっている。)
トリチウム以外に、セシウム137、134、ストロンチウム90、コバルト60、アンチモン125、ルテニウム106、ヨウ素129なども残留し、告示濃度比総和(注)の分布は以下の通り。

注)告示濃度比総和とは、それぞれの核種の濃度を告示濃度(排出濃度基準)で割ったものを足し合わせたもの。全体として排出基準の何倍になっているかを示す。排出する際は1を下回っていなければならない。

文書名東電への質問200423(解説付き).pdf

告示濃度比総和は、最大14442.15倍とのことだ(2018年10月1日付東電資料では約2万倍となっていた)。つまり、これらの核種で全体としてみたとき基準の最大14000倍以上となっているということを意味する。この数字は東電の説明資料からは省かれている。(ちなみに、2018年10月1日東電資料には書かれていた)

告示濃度比で最大なのはストロンチウム90。化学的性質がカルシウムに似ているので骨に蓄積することが知られている。

残留核種の総量は不明

問題なのは、東電はそれぞれの核種が、総量でどのくらい残留しているのか示していないことだ。タンクごとに核種濃度がわかれば、簡単に計算できるはずなのに、それをしない理由は何なのか。放出する水がどのようなものであるのかは、もっとも重要な情報である。

二次処理するからいいじゃないかということなのかもしれない。しかしそれでは、二次処理後はどの程度の量になるのか。二次処理した上で、その総量を示すべきだと思うのだが、それすら明言していない。

また、少なくとも二次処理せず放出する28%の水については、含まれている放射性核種、その総量、その他の汚染物質について開示すべきではないか。
また、排出する水の総量も不明である。もちろん、トリチウムの排出量、濃度をどうとるかによって変わってくるが、いくつかの代表的なケースごとに示すべきではないか。

「二次処理」の性能試験は?

それでは、「二次処理」によってどのくらい放射性物質を除去できるのか。
東電は、「素案」の中で、「2020年度、高濃度のもの(告示濃度限度比100倍以上)を約2,000m3程度処理し、二次処理の性能を確認する」としている。

リスク管理という観点からは、高濃度の水を優先的に二次処理することは理解できる。
しかし、目的が「二次処理の性能を確認」するためであれば、より低濃度の水も含め、1~100倍のものも含め、処理対象のそれぞれの濃度のバンドから抽出し、二次処理の性能を確認するべきではないか。

問題の多い海洋拡散シミュレーション

東電の「素案」には、海洋放出した際の拡散シミュレーションについても記載されている。

東電処理水200324_ページ_21

東電によれば、「2014年の実気象に対して、放出量を仮定して連続的に放出した場合のシミュレーション結果を一例として提示したもの」とのことである。
年間放出量ごとにトリチウム1ベクレル/ℓ以上となる海域が示されている。

しかし、このシミュレーションには数々の疑問が呈されている。

まず、影響範囲を1Bq/ℓ以上としている理由が不明だ。東電の「素案」p.22の図によれば、原発近傍ですら、核実験や原発事故の影響を受けていない期間の海水の濃度は0.5Bq/ℓ程度にみえる。影響範囲というのであれば、もう少しきめ細かく、0.5Bq/ℓ以上から何段階かに分けて示すべきではないだろうか。

東電処理水200324_ページ_23

また、鉛直方向にも30層にわけてシミュレーションを行ったとのことだが、示されているのは一番上の層だけ。「鉛直方向には均一に分布」しているとして、この30層のシミュレーションは開示していない。しかし、いくら何でも「鉛直方向に均一に分布」というのは不自然ではないだろうか。

原子力市民委員会委員、大沼淳一氏(元愛知県環境調査センター主任研究員)は以下のように指摘している。

「そもそも拡散シミュレーションをする場合には、初期条件と環境条件を明らかにしてからしか作業することが出来ないが、それが明らかにされていない。日間、月間、年間を含めた干満、沿岸流、海底地形、流入河川水、年によって変動する黒潮の蛇行などである。放出される汚染水の水量、放出速度、放流水深、放流口の形状、水温、密度なども必須の入力項目である。シミュレーション結果は、これらの変数を変化させて、そのケース毎に拡散図が示されるべきである」

「素案では、解像度が水平方向は1㎞メッシュ、鉛直方向は水深に対して30層(深さ1㎞まで)とされている。すなわち1km四方で深さ「水深/30」mの箱(水深30mなら100万立米、1000mなら3000万立米)を積み上げて計算していることになるが、いかにも箱が大きすぎる。最初の箱に汚染水を放出して均等にかき回される保証はどこにもない。汚染水の放出速度にもよるが、せめて10mx10m(30層)の箱を積み上げるべきである」

つまり前提条件が不明確な上に、おおざっぱすぎる、ということだ。

ちなみに、「何年間放出すると仮定したのか」という質問に対して、東電は、「1年間の連続放出をした場合、例えば、22 兆ベクレルを一定の放出率で1年間継続して放出する場合、開始から1年以内に放出と拡散とのバランスがとれて、その後は、任意の点における濃度が準定常状態(濃度がある一定の変動範囲内に収まること)となります。従いまして、「何年間」という仮定はしておりません。」と回答している。

前述の大沼氏は、以下のように指摘する。

「素案で示したのは、長期間放出を続けて、準定常状態になった時の汚染分布図」だと回答している。コンピューター上で、数百回(1年間なら約700潮汐)の潮汐を繰り返させた結果であろう。漁民や市民が懸念しているのは、こうした平均値ではない。1日に2回起きる潮汐でも大きさが異なる。大潮と小潮では干満差が全く違う。黒潮の蛇行も季節変化や年変化が大きい。風の影響、降水量の影響なども大きく、沿岸流の方向は逆転することも頻繁に起きている。こうした環境要因の変動ごとに、放出される汚染水塊がどのように拡散するかが知りたいのである。」

東電によれば、このシミュレーションは、電力中央研究所が実施し、米国Rudgers 大学により開発された領域海洋モデル「ROMS:Regional Ocean Modeling System」に、トレーサー計算できるように改良を加えたプログラムを利用しているとのことである。また、シミュレーションの適用にあたっては、Cs-137 の実測データによりモデルの検証を行っているということだ。>参考文献

その他、モニタリングなどに関しても数々の疑問があるが、それらはまた後日述べたい。

(満田夏花)

※FoE Japanでは、「原発ゼロの会」のご協力をえて、東電の「素案」に関して、現在までに3回東電に対して質問書を提出しています。質問への回答は以下をご参照ください。(すべてPDF)

東電回答(2020年4月1日)
東電回答(2020年4月8日)
東電回答(2020年4月29日)

「よりよい海を取り戻したい。海洋放出は反対」…福島の漁業者が訴え

福島第一原発のサイトでタンク内にためられているALPS処理汚染水--。
政府小委員会は、「水蒸気放出」「海洋放出」が現実的とし、「海洋放出」の方が利点が大きいとする報告書をだしました。
FoE Japanでは、2020年3月、小名浜や新地町の漁業者のインタビューを行いましたが、より多くの人たちに漁業者の直接の声をきいていただきたいということで、小名浜から底曳網漁協の理事である柳内さんをお迎えし、永田町の議員会館で、経済産業省・東電・国会議員がいる前で「お話しをきく会」を開催しました。新型コロナの影響を考慮し、一般の方々には、オンラインで参加していただきました。
柳内さんは処理汚染水を海に流すことは、福島の漁業に大きな打撃を与えるとして、放出反対の意見を述べました。

柳内さん(議員会館にて)
(議員会館にて、福島の漁業の状況や処理汚染水を放出に関する懸念を述べる柳内さん)

以下、柳内さんのお話の概要です。>録画映像はこちらから。

・現在、ほとんどの魚種が出荷制限解除になっているが、なかなか震災前の水揚げが回復していない
・ALPS小委員会の報告書が、海洋放出を推奨しているともとれる内容でたいへん危惧している
たとえ浄化して海洋放出が実施されたとしても水産業にとって大きな打撃となる。海外の輸出禁止措置の解除もむずかしくなる
・漁業の先が見通せず、投資意欲も減退している
・投資をしたとしても売り上げが回復しなければ借金のみが残ってしまう
事故前のトリチウムの放出量は年間2.2兆ベクレル、これが東電の「素案」では少なくとも年間22兆ベクレルのトリチウムが、数十年かけて放出されてしまう
・(2018年の)公聴会でいろいろな人が意見を述べたが、多くの人が陸上での保管継続をすべきと発言。しかし、それができないと。できない理由として(敷地外に持ち出すことについて)法律がネックになっているということであったが、たとえば中間貯蔵施設についても新たな法律をつくって対応していた。今回の水の件も同様に対応できるはず。
・事故前の漁業に戻すには、競争力を取り戻さなければならない。福島の海をよりよい海にしていく必要がある。さもないと私たちは復興できない。

また、今回、経済産業省が、「地元をはじめ、幅広い関係者の意見をきく」としていることについては、以下のように指摘。

「関係者の意見をきく、というが、すでに公聴会のときに(海洋放出反対の)意見は言っている。意見をきいて、それをどう反映するかが問題だ」

柳内さんのお話のあと、東電・経済産業省との質疑を行いました。

東電が発表している処理汚染水の「処分素案」に関して、東電は以下のように説明。

・年間の放出量が事故前の福島第一原発の管理目標値22兆ベクレルであるとすると、放出完了までに20~30年かかる。
・排出する水の総量(m3/日)は示すことができない。
・現在、タンクにたまっている水には、トリチウム以外に、セシウム-137、セシウム-134、ストロンチウム-90、コバルト-60、アンチモン-125、ルテニウム-106、ヨウ素-129などの放射性核種が残留している。
・トリチウム以外の核種の告示濃度比総和(各核種の濃度を、その核種の排出濃度基準で割り足し合わせたもの)の最高値は14442.15倍となっている(2018年10月の発表資料では約2万倍)。この中でもっとも告示濃度比総和が高いものはストロンチウム90

東電は、タンク水の二次処理を行い、トリチウム以外の放射性物質の濃度を基準以下に下げると言っていますが、どの程度下げられるのか、残留する放射性核種や微生物などはどの程度になるのかについては、示していません。

東電処理水200324_ページ_10

(東電、3月24日発表のALPS処理水処分素案 p.9)

また、東電が3月24日に公開した、仮に海洋放出を行った場合の拡散シミュレーションについても議論となりました。

東電処理水200324_ページ_21

(東電、3月24日発表のALPS処理水処分素案 p.20)

このシミュレーション、いろいろと問題が多いと思いますが、最も問題なのは放出の前提が示されていないことでしょう。
季節、干潮時・満潮時、水温、水量などが示されていません。

また、東電は、1Bq/L以上の部分を示していますが、なぜ1Bq/Lなのでしょうか。
東電が発表している以下のグラフを見る限り、福島第一原発近くにおいても、核実験や原発事故の影響を受けていない時期の値は0.5Bq/L程度に見えます。

東電処理水200324_ページ_23

(東電、3月24日発表のALPS処理水処分素案 p.23)

さらに、水深ごとの鉛直方向の結果を出してほしいと言っても、「表層から放出されたトリチウムは、海洋の混合の影響によって、鉛直方向に均一に分布する」という回答でした。

「ALPS(多核種除去設備)で処理されたがトリチウムなど放射性物質を含む水」(以下、ALPS処理汚染水)について、現在、経済産業省が一般からの意見を募集しています(5月15日まで)。

多くのみなさまにパブコメを書いていただくことを目的として、以下のオンラインでのパブコメセミナーを開催します。ぜひご参加ください。

〇第1回 ALPS処理汚染水パブコメ・セミナー:4月17日(金)12:00~13:30
(講師:満田夏花/FoE Japan)
〇第2回 ALPS処理汚染水パブコメ・セミナー:4月26日(日)14:00~15:30
〇第3回 ALPS処理汚染水パブコメ・セミナー:5月 2日(土)14:00~15:30
内容:ALPS処理汚染水を議論のポイント
実際にパブコメを書いてみよう

ご参加の方は以下からお申込みください。
https://pro.form-mailer.jp/fms/27c1d91b193245
お申込者に後ほど、メールにて、オンラインでの会議システムzoomの使い方と
参加可能なリンクをお送りします。

▼以下ご一読ください。
【ALPS処理汚染水、大気・海洋放出で本当にいいの? パブコメを出そう!(〆切5月15日)】
http://www.foejapan.org/energy/fukushima/200407.html

★東電福島第一原発で増え続ける、放射能を含んだ「処理水」Q&A
Q:そもそも「処理水」って何?
Q:「処理水」には何が含まれているの?
Q:トリチウムは安全?
Q:海洋放出しか現実的な手段はないの?
Q:敷地は本当に足りないの?
Q:漁業者は何と言っているの? など

http://www.foejapan.org/energy/fukushima/200324.html
http://www.foejapan.org/energy/fukushima/200324.html

ICRP「大規模原子力事故後の放射線防護」勧告草案に意見を出そう!(締め切り:10/25)

>締め切りが10月25日に延期になりました!
>FoE Japanでもコメントを出しました!

ICRPの「大規模原子力事故における人々および環境の放射線防護」草案が公開され、ウェブ上でパブコメにかかっています。
草案全文およびパブコメはこちらから(英語)>http://www.icrp.org/consultations.asp

上記のサイトを開き、「submit comment」という緑のボタンを押し、名前、E-mail、団体名およびコメントを書いて、「Submit」ボタンを押してください。コメントはあらかじめ下書きを書き、コピーペーストするのがおすすめです。PDFファイルも添付できます。日本語でも出せます。

ICRP勧告案の主要部分の日本語訳
>その他の部分の日本語訳(市民団体による仮訳)は、市民科学研のページからダウンロードできます。
今回のとりまとめにあたったICRPタスクグループの甲斐座長による説明資料
ICRP勧告は人々を被ばくから守ったか?~東電福島原発事故の経験から~

ICRPが新しい勧告を出すと、日本を含め多くの国で放射線防護関係の法令の見直しが行われます。しかし、多くの人がパブコメを行われていることすら知らないのではないでしょうか? 

FoE Japanも参加する原子力市民委員会が、①日本語版を作成すること②日本において公聴会を開催すること③締め切りを延長することーを要請したところ、8/20付で回答がきました。①については主要部分を翻訳する、②についてはすでに類似のもの(福島ダイアログなど)を開催しちるという回答でした。③については、その後、締め切りが10/25まで延長されました。

さて、ICRPの勧告草案の中では、「参考レベル」という言葉が何度もでてきます。これはとてもわかりづらい言葉ですが、「暫定的な目標値」という言い換えが最も近いでしょう。この「参考レベル」以上の被ばくをしているの人たち(図のグレーの部分)を対象に、放射線防護の対策をとっていき、参考レベル以下にしていく。ある程度その対策が進んで、参考レベル以上の人たちの人数がすくなくなれば、参考レベルもまた下げていくというものです。(下図)。

ICRP Pub.111 「原子力事故または放射線緊急事態後の長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用」
http://www.icrp.org/publication.asp?id=ICRP+Publication+111

現行のICRPのPub111は「(現存被ばく状況の)参考レベルは、1~20mSvの下方部分から選択すべきである。過去の経験は、長期の事故後の状況における最適化プロセスを拘束するために用いられる代表的な値は1mSv/年であることを示している」としています。
「現存被ばく状況」とは、原発事故直後の混乱がおさまったあとの、回復期を意味します

今回の改定草案では、以下のようにしています(パラ80)。

「緊急対応時の後の長期汚染地域に居住する人々については、委員会は、長期に続く現存被ばく状況では、実際に人々がうける被ばくの状況やリスクへの耐久性(tolerability)を考慮して、1-20 mSvのバンドまたはそれ以下で参照レベルを選択することを推奨する。一般に、年間1 mSvのオーダーまで被ばくを段階的に被ばくを減らすため、年間10 mSvを超える必要はないであろう。
Publication 111(ICRP、2009b)で、委員会は1–20-mSv帯域の下部の参照レベルの選択を推奨した。選択された参照レベルが一般に10 mSvを超える必要がないであろうという今回の推奨事項は、この立場を明確にするものである。」

つまり、参考レベルの記述のみをみると、現行の勧告と同じことを言っていると解釈できます。

「参考レベル」というわかりづらい概念を設定し、被ばくの「上限」や「基準」を定めず、結果的に高い被ばくでも許容してしまうの? ということ自体も問われるべきでしょう。「上限」とか「基準」を定めても、事故が起こればそれを簡単に超えてしまう。対策もそうそうとれない。とろうとしても膨大な社会的なコスト、影響が発生する。そうすれば、原子力産業が存続できない、ということなのではないでしょうか。

しかし、日本政府はこのICRPの勧告すら守りませんでした。2011年4月に年20mSvを基準に計画的避難区域などを設定しましたが、その後、避難区域解除のいくつかの条件のうち、放射線に関するものは年20mSvを下回ることとしました。つまり、避難・帰還の基準を20mSvで高止まりさせてしまい、「1~20mSvの下方から参考レベルを選び、それを順次下げていく」というICRPの勧告は採用されなかったのです。

一方で、今回の改定草案では、現行の勧告の「緊急時被ばく状況」と「現存被ばく状況」を、「緊急時対応(早期/中間期)」、「回復プロセス」(長期)に分けなおしていることにも注意が必要です(下図)。

ICRP緊急時、回復期

(出典:ICRP「大規模原子力事故における人々および環境の放射線防護」草案 p.10)

「緊急時」を長くとれば、より長い期間、緊急時を理由にして、より高い参考レベルを採用し、政府が、避難などの防護策をとらずにすませることを可能としているのではないか、気になるところです。

いずれにしても、ICRPの勧告はとても抽象的であり、政府には都合のよい解釈を許すものとなっています。

その他、以下のような問題点もあります。

  • 被ばくを、個人のライフスタイル、個人の行動によるものとし、結果的に「被ばく」を個人の責任に帰しているのではないか。
  • 避難区域や避難勧告の設定や土地利用のゾーニングなど、「場の管理」の重要性を軽視している。
  • 避難による健康被害や死亡については触れているが、避難できないことによる葛藤や被ばくリスク、避難者に対する賠償や支援が適切に行われないことによる避難者の窮乏についてはふれられていない。避難の有用性を、「緊急時」の早期に限っているようにも読める。
  • 住民が被ばくを避ける選択を行う権利についてふれていない。

東電福島原発事故を描写している付属書Bについても、多くの問題があります。たとえば、以下のような重要な事実がふれられていません。

  • 避難区域外からも多くの人たちが避難を強いられたのにもかかわらず、2011年12月までは区域外からの避難者に対する賠償はなく、2011年11月に決まった中間指針でも、とても少額であった。その後、避難者に対する住宅提供も次々に落ち切りになり、区域外避難者の困窮、社会的・経済的な圧迫につながった。
  • 避難・被ばく防護の政策、避難区域の再編、避難解除の基準に関して、人々の意見が反映されなかった。例えば、避難解除について、説明会は開かれ、多くの住民が「解除は時期尚早」と意見をいっても、これらの声は無視されてしまった。
  • 避難者・居住者・帰還者を等しく支援するという「子ども・被災者支援法」が満足に実施されなかったが、それについても記載がない。
  • 福島県県民健康調査において、見出された甲状腺がんについて、「事故後の放射線被曝の結果である可能性は低い」とのみ記載し、「甲状腺がんが多く発生している」こと(検討委員会も認めている)、多くのもれがあることなど、重要な事実を記載していない。

みなさまも、ぜひチェックしてみてください。

▼改定の中心となったICRP TG93座長甲斐倫明氏によるプレゼン資料
https://drive.google.com/file/d/12k7NDfkE47iKHGy8XXYyl_G-4O2ctvf_/view

▼満田プレゼン資料

本件に関して、ぜひ日本からも声をあげていきましょう。
FoE Japanでも引き続き発信をしていきます。     (満田 夏花)

《台湾の脱原発情勢》来年も国民投票? 原発推進の揺り戻しと脱原発の秘策とは?

4月18~21日、台湾を訪問しました。台湾の環境団体「緑色公民行動連盟」のお招きです。台北と高雄にて、「8年後の福島の今と日本のエネルギー政策」という題で、とくに原発事故被害が「見えない化」されている現状についてお話しをさせていただきました。

さて、台湾の脱原発の状況です。台湾では第1~第3原発までそれぞれ2基、合計6基の原発がありますが、第一原発1号機は昨年12月に40年の期限を迎えました。残る原子炉も2025年までに40年の期限を迎えます。総発電量に占める原発の割合は11%。

2017年、脱原発政策をかかげる民進党の蔡英文政権のもとで、いったん2025年までの脱原発が電気事業法に書き込まれました。

しかし、2018年11月、この条文削除を問う国民投票で賛成が多数を占め、削除が決まりました。なぜ、このような揺り戻しが起こったのでしょうか。また、来年再度、国民投票が行われるというのですが、その争点は?

脱原発運動を引っ張る「緑色公民行動連盟」の事務局長の崔愫欣(ツイ・スーシン)さんや、高雄での講演会をホストしてくださった「地球公民基金会」の理事の邱花妹(チウ・ファメイ)さんや研究員の陳威志(ダン・ウィジ)さんにお話しをうかがいました。

台北での講演会の後、緑色公民行動連盟のみなさんと。前列、左から2番目の方が、崔さん。

来年の国民投票の争点は?

台湾では、来年1月に総統選挙が予定されており、原発推進派が、以下の3つの議題での国民投票を提案しているそうです。

①第四原発の工事再開
②2030年までに電力供給に占める原発の割合を火力よりも大きくする
③原子力規制機関の審査に合格できたら、既存原子炉の20年の延長運転を認める

①の第四原発は、日立と東芝が原子炉を製造することになっていたため、「日の丸原発」とも呼ばれていました。しかし根強い反対運動が続けられており、2014年にそれまで原発を推進してきた国民党の馬英九政権下で「凍結」が決定されたという経緯があります。それをまた進めようという案です。

②については、一見不思議な設問ですが、理由をきくと納得しました。

「台湾では、石炭火力発電による公害にみんなが悩まされており、脱石炭の民意が強い。原発推進派は、その民意を利用して、石炭火力を減らすには原発を進めるしかない、というプロパガンダを行っている」とのことでした。

ちなみに、緑色公民行動連盟など、反原発をけん引する環境団体は、石炭火力の公害問題にも熱心に取り組んでいます。

崔さんたちは、国民投票の乱立には反対のようでしたが、推進派に対抗するために、以下のような設問を提案しようとしているそうです。

④第四原発を廃止
⑤高レベル廃棄物の最終処分場が運営を開始するまで、原発の運転期間を延長させたり、新規の原発の運転を開始したりしてはいけない

④については説明するまでもありませんね。崔さんたち曰く、これについては、賛否は五分五分でどちらに転ぶかわからない、とのこと。

⑤はどうでしょう? 

台湾には、2014年9月時点で約3,400トンの使用済み核燃料があり、敷地内で使用済み燃料を貯蔵できるスペースは限界が近づいています。通常運転40年が経つと5000トンの使用済み核燃料が溜まるそうです。最終処分場は、候補地すらきまっていない状況とのこと。

崔さんたちの意図としては、「トイレなきマンション」状態について、国民の目を向けさせ、このような状況で原発を動かすことの愚を訴えていきたい、ということでした。

前回の国民投票で、反原発派が負けたわけは?

前述のとおり、2018年11月、台湾の国民投票で2025年までの脱原発を定めた電気事業法の条項を削除することへの賛成が多数を占めました。

タン・ウィジさんは、「反原発の負け、というよりも保守勢力の巻き返しが、民進党の批判となってあらわれた」とみています。

崔さんは以下のように説明していました。

「いくつかの理由があると思う。福島第一原発事故の記憶が薄らいだこと、民進党への批判が、民進党がかかげる反原発政策への批判に結びついてしまったこと。国民投票の設問が10以上もあり、有権者が自ら考えるのではなく、 “第一問は〇、第二問は×…”というような単純な宣伝にのってしまったのではないか。また、私たち脱原発運動側が、もう勝ったと思い、脱石炭への運動に比重を移してしまったこともある。」

ちなみに、緑色公民行動連盟は、石炭火力発電所からのPM2.5の問題や、放射性廃棄物の問題にも熱心に取り組んでいます。

邱さんは、「ネット上で発信される原発推進派による宣伝」をあげました。

「とりわけ、『原子力のデマを終わらせる会』(核能流言終結者)という2013年から結成されたグループの力は大きく、若い人たちの支持も獲得していきました。彼らは、自分たちこそが、科学的・理性的であるとし、脱原発派を非科学的・感情的と攻撃しました。福島第一原発事故で直接死んだ人はいない、原子力災害は大きな事故とはならない、原子力に頼らなければ化石燃料は減らせない、太陽光は不安定、LNGは高い、などなどです。
彼らは、停電に対する恐怖心をあおり、原発をやめるのは時期尚早と訴えました。しかし、彼らは台湾に20基も原発をつくりたい、とも言っています」

国民投票の功罪

民意が無視されることが多い日本の現状と比較すると、このように国民投票で直接民意を問える台湾は、うらやましいでようにも思います。

しかし、それにしても、こんなにホイホイ国民投票をやることは、行き過ぎではないでしょうか。

この点を聞いてみると、崔さんは、「民進党になってから、国民投票のハードルを下げた。」と説明してくれました。また、通訳を務めてくれた、とある日系企業の方も、「確かに行き過ぎ。〇か×かで重要な政治的課題を決めることはできないこともあるし、政治の首尾一貫性も重要だし。人権に反することなど、たとえ国民投票で決まっても、守らなければならないこともある」とのご意見でした。私もこれには賛成です。

確かに、単純に真っ向から対立し、議論の多い政治的イシューの場合、ある時点での「民意」は、表面的なポピュリズムに左右されたり、宣伝するための資金が多い側が有利になるかもしれません。同じ土俵の上で、十分に情報を共有し、双方が議論し、お互いの質問に応えたうえで社会的合意を形成し、それを政策につなげていくのにはどうしたらよいのか。

日本の状況を考えると、やや暗たんたる気持ちになりますが、それでも熟議民主主義を確立するためには、不可欠の課題ですね。

2019年4月27日に台北で行われた脱原発を訴えるデモ(提供:緑色公民行動連盟)

※私の「8年後の福島の今と日本のエネルギー政策」の講演について台湾のメディアが報じてくれました。中国語ですが…。

福島核災已八年 日環團:傷害持續只是災民「隱形化」了

福島核災真的無人死亡??日本環團?露災民與死一樣難承受的人生

 

冒頭、「福島原発事故で直接的に死んだ人はいない、という人がいますが、“震災関連死”として亡くなった方は福島県で2,267人。自殺された方も約100人いらっしゃいます。長期化する避難生活の中で、絶望し、心身を病んでしまわれた方が多いのです。直接か間接かは問わず、原発さえなければ、ふるさとで豊かな生活を送っていた方々です。作業員の方々も過酷な労働を強いられています。作業員の労災認定は白血病で3人、肺がんで1人、亡くなった方もいらっしゃいます」ということを申し上げたところがハイライトされているようです。

(満田夏花)

台湾の脱原発に「待った」!?脱原発政策の行方

 

 昨年2018年、台湾の「2025年に原発ゼロ」政策の是非を問う国民投票が実施され、投票者の過半数が政策廃止に投票しました。今、台湾で何が起きているのか。一橋大学博士課程在籍で、地球公民基金研究員のダン・ウィジさんにお話を聞きました。

— 

 台湾には2011年の東電福島事故以前から脱原発運動がありましたが、2000年以降沈静化していました。しかし、福島第一原発事故をうけて、再び論争が白熱化し、運動は盛り上がり、最終的に2025年までに原発ゼロにするということが決定されました(法制化された)。

 台湾は、九州と同じくらいの面積で、4箇所の原子力発電所があります。首都台北から近いところに第1、第2原発があり、台湾南部に第3原発があります。1980年代、台北の北部に第4原発建設計画が浮上。それは台湾の民主化運動の盛り上がりの時期とも重なっています。

 2002年、環境基本法に脱原発社会を構築すると明記されました。しかしいつまでに脱原発社会を実現するかについては、定まっていませんでした。福島事故後、「2025年」というタイムラインが書き込まれました。

 2018年、「2025年原発ゼロ政策を撤回」すべきかどうかという国民投票が行われ、投票率54%、賛成が589万票、反対が401万票で、賛成多数で政策撤回が決まってしまいました。

 もともと2025年までに原発ゼロというのは野心的な目標ではありませんでした。現存する原発を40年間運転して、延長稼働しなければ、2025年には自然に原発ゼロとなるからです。ただ、見方をかえると2025年の電源構成には再エネ20%が含まれており、2016年時点で再エネが5%であることを考えると、再生可能エネルギーが原発に代替できるのかということに関しては不安がありました。

 では、なぜこの短期間の間に脱原発に向かい風が吹いたのか?

 背景として、民進党政権への不満が高まっていました。じつは今回の国民投票は、脱原発だけが議題ではありませんでした。10件の国民投票と地方統一選が同時に行われました。

 民進党政権は、エネルギーシフトに加え、年金改革や同性婚の認可を政策として進めてきました。そういった課題に対して、国民党を含め保守勢力は大きく反発し、国民投票で民進党政権の政策に反対しようと乗り出しました。

また、政権の実績に対しても、とくに経済政策がうまく行っていないという世論があり、一般国民の間でも現政権に対する反感が高まっていました。

 そこで、政権全体への信を問うも同然のような10項目の国民投票が浮上してきたのです。

 そこには、もう一つ背景があります。2017年に国民投票法が改正され(これも民進党政権肝いりで実現した)、国民投票の実施のハードルが下がっていました(有権者の1.5%が署名したら実施できることに。もともと5%だった)。皮肉ですが、民進党政権が進めた国民投票法改正が、保守陣営にうまく利用され、自分たちが自分たちの改革に飲み込まれた側面がありました。

 民進党が進めようとする同性婚政策を問う国民投票も反対多数で可決されました。地方統一選においても民進党は大敗を喫し、今回の投票結果は、エネルギーシフトや脱原発に民意が支持しないというよりは、民進党政権への不満の結果としてあらわれた現象とみたほうが妥当だと思います。

 また、政権側の対応も、後手に回りました。政策の一つである同性婚に関しては、とくに保守派の反対が強く、民進党が繊細な課題への意思表明を避けたかったため、原発についても強くでることができませんでした。

 さらに、議題提案者(台湾核エネルギー学会が主導した「以核養緑」国民投票運動が議題提起、表のリーダーは原子力支持任意団体(「核能流言終結者」)が務める。)が、エネルギーシフトの課題を壁として見せることに成功していました。つまり、脱原発政策を支える代替案がちゃんと整備されていないことを声高に叫びました。

 また、大気汚染問題に関する世論がとくに昨年から盛り上がっていました。脱原発を進めたため、火力発電が増やされ、大気汚染が深刻化したという論調が飛び交いましたが、原発が即時停止されたわけではなく、これは明らかに事実と異なります。しかし、こうした言説は、大気汚染問題が深刻な台中市や高雄市で国民党の市長候補者が選挙戦にとり入れたため、一気に広がりました。

 さらに、問題だったのはカンニングペーパー効果です。国民投票は発議されてから1ヶ月以内に投票が行われなくてはいけません。これでは十分な議論の時間ができません。内容をきちんと理解した上で投票した人はほんの一握りでした。

 ではみんな何に頼って投票したのか?SNSにどの議題になんと答えるかの解答例が出回りました。それに頼って投票した人が多かったのです。脱原発=大気汚染推進という画像も出回りました。フェイクニュースです。

 投票提起者は、これが脱原発法を削除する国民投票であると言わず、これは「以核養緑」のための投票だと説明していました。すなわち、再エネの普及は時間かかるので、2025年までに再エネ20%、LNG50%、石炭30%というエネルギーミックスは無理があり、なので原子力をもっと活用して、再エネの健全な普及を図ろうという意味です。

 (ちなみに、国民投票請求のための署名集めの最中には核エネルギー学会と東電が主催で「東電再建の道」という廣瀬直己会長講演会も行なっていたとのこと)

 実際にこの決定がどのような影響を及ぼすのでしょうか?

 第1・第2原発に関しては、運転延長期間の申請は間に合いません。第3原発は可能ですが、地方自治体首長は否定しており、活断層の問題もあります。第4原発は工事再開のために予算編成が必要です。

 現在、原発擁護派は第4原発の是非を問う国民投票を目論んでいます。また環境団体の説明会に乱入して、嫌がらせすらしています。

 今後、脱原発派は原発安全問題をもっと主張していくつもりです。日本で震災が起きてから8年。台湾でも記憶が薄れつつあります。原発事故の状況についても、引き続き台湾に伝えていく必要があります。

 また、自分たちの活動に資するような、今回の国民投票に対して対抗的な国民投票も考えています。

(聞き手・書き起こし:深草亜悠美)

【撤退の意思決定を!】日立に英国への原発輸出反対署名を提出&日立前にシロクマくん出現

本日1月8日、日立製作所がイギリスで進めるウィルヴァ原発建設計画の中止を求める署名を、日立および安倍首相に対し提出しました。第一次集約分は、個人署名が2725筆(32カ国)、団体署名が79団体15カ国でした。ご協力いただいたみなさま、本当にありがとうございます。

日立製作所の中西会長自ら、プロジェクトは「もう限界」と発言しています。

まだ遅くありません。時代遅れで危険な原発事業から、今こそ事業から撤退するべきです。

正式に事業撤退の最終決定をさせるためにあと一押し!ということで、一次集約分の署名の提出と、日立製作所が入っている日本生命丸の内のビル前でアピールを行いました。

アピールには英ウェールズの住民団体PAWBのロブさんもインターネット参加。「今や、ウィルヴァニューウィッド原発は、英国と日本政府の支援なしには継続不可能であることは明らか。しかもそのツケを支払わされるのは将来世代で、島にも大きなリスクが押し付けられる」と訴えました。

日立の家電のキャラクターのしろくまくんも参加。原発輸出を強引に進めればしろくまくんのイメージも損なわれかねないと心配だったのでしょうか?

署名は安倍首相にも提出しました(郵送)。安倍首相は、明日からオランダとイギリスを訪問。メイ首相との会談でこの原発輸出案件についてもふれられるとみられています。

この原発案件は日英両首脳の思惑が強く働いています。日立には、賢明な経営判断をしていただきたいと思います。

署名自体は日立が事業から完全撤退するまで継続します。ぜひ引き続きご協力よろしくお願いします。

(満田夏花・松本光・深草亜悠美)

動画も公開中!

FoE Japanでは、これまでに2度、ウィルヴァ原発建設立地の状況調査やウェールズのみなさんにインタビューを行っています。この度その様子をまとめた動画が完成しました。ぜひご覧ください&拡散お願いします。


日立の英ウィルヴァ原発、断念まであと一歩~署名にご協力を

※FoE JapanとPAWBは、日英両政府および日立に対して、ウィルヴァ原発の中止を求める国際署名を行っています(オンラインおよび)。
1月8日に第一次提出を行う予定です。

日立製作所が進めるイギリスでのウィルヴァ原発建設計画が岐路を迎えている。
12月10日のテレ朝の報道(注1)によれば、複数の関係者が「建設費のさらなる増大が見込まれる中、資金の調達先が決まらず計画を断念する方向で検討している」とのことだ。

この報道をうけ、日立の株価は上昇した。市場では「不採算事業への投資を見送り、利益下振れへの警戒感が和らぐ」と評価されたもようだ(注2)。

日立は12月12日に取締役会を開催。この問題について議論を行ったとみられる。
12月16日になって、共同通信が、日立がウィルヴァ原発の計画を「凍結する方向で調整している」「日立は事業継続の可能性を残すが、現状では事実上、撤退する公算が大きい」と報じた(注3)。翌日の17日、中西会長は、「(今の枠組みでは)もう限界だと英政府に伝えた」と発言(注4)。しかし、撤退に向けた最終決定ではなく、依然として継続の余地を残す。日立は2019年内にも最終投資判断をするとしていたが、年度内に早まる可能性がある(注1)。

ウィルヴァ原発は、日立の100%子会社のホライズン・ニュークリア・パワー社がイギリス・ウェールズ北部アングルシー島で進める。ABWR型の原発2基の建設を行うもの。
日立は以前より、ウィルヴァ原発事業を継続する条件として、自社の出資比率を50%以下に縮小するとしていたが、投資パートナーは見つかっていない。日立は東電や中部電、日本原電のほか、国際協力銀行(JBIC)や日本政策投資銀行(DBJ)などに出資を求めてきたが、十分な出資を得るのは難しい情勢となっている(注5)。

東芝も長らくイギリスにもつ原発会社ニュージェンの売却先を探していたが見つからず、今年11月7日にニュージェンの解散を決めた。原発という危険なビジネスに手を出す企業はなかなかいないということだ。

それはそうだ。イギリスでは電力需要は減少している上、風力発電などの再生可能エネルギーの価格がめざましく低下している。先行して計画が進むヒンクリーポイントC原発からの買取電力価格は、市場価格の倍で、その差額は国民負担となる。原発の建設費用は国際的に増加し、この事業でも3兆円にはねあがった。どうみても、原発建設が経済的に成り立つ環境にはない。

一方、日英両政府は、ウィルヴァ原発事業を進めるため、投融資や政府保証などの支援を行おうとしてきた。

ウェールズの住民団体PAWB(People against Wylfa B=ウィルヴァ原発に反対する人々)は、日立が取締役会を開催する前日の12月11日、日立宛てに手紙を送付し、改めて原発計画に反対した。手紙の中で、「イギリス政府によるウィルヴァ原発に対する補助は不公正であり、イギリスの消費者に大きな負担を押し付けることになる。日立にとっても評判を損ねることになる」「日立は、高価で時代遅れで危険で不必要な原発を推進するのではなく、未来のための投資してほしい」と訴えた。

アングルシー島は、美しい海岸線が有名な観光地で、EU保護種であるキョクアジサシも生息する。反対する住民は、原発事故の危険性、核廃棄物が将来にわたり残されること、事業によって自然のみならず、地元に残されているウェールズの文化が破壊されることを恐れている。

ウィルヴァ原発の建設が予定されているアングルシー島の風景(写真提供:PAWB)
事業地周辺にはEUの保護種であるキョクアジサシも生息する
(写真提供:PAWB)

日本政府は、原発輸出政策を国策として進めており、第二次安倍政権になってからはなりふり構わぬトップセールスを展開してきた。しかし、ベトナム、リトアニア、トルコなどで原発輸出が相次いで頓挫(下表)。

トルコ・シノップ原発については、事業費の倍増などから、三菱重工業なども含めた官民連合が撤退に向けた最終調整に入ったと報じられている。FoE Japanは2014年、現地訪問を行い、住民たちと交流。日本の「脱原発をめざす首長会議」から、シノップ周辺で反対の声を上げる首長たちへの応援レターを届けた。また、シノップ原発の地質調査に関して、経済産業省から日本原電の委託調査の不透明さについて、問題提起。日トルコ原子力協定に反対し、シノップの住民の手紙を日本の国会議員に届けたりなどの活動を行ってきた。

トルコ・シノップの美しい漁港(2014年撮影)

日本政府肝いりで進められた原発輸出政策。いまや残るはこのウィルヴァ原発のみだ。日立が国との関係で、ウィルヴァ原発を継続せざるをえないのではないかという懸念もきかれる。日立が現時点でこの事業を中止すれば最大約2700億円の損失が生じるとされているが、撤退判断が遅れればこの額はさらに膨らむだろう。日立には、日本政府に忖度することなく、正しい経営判断を行うことを望みたい。(満田夏花)

注1)日立が英原発建設計画「断念も視野」 建設費増大で(テレ朝、2018年12月10日)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000142690.html
注2)<東証>日立が上昇に転じる 「英原発建設、断念視野」と伝わる(日経、2018年12月10日)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL10HJL_Q8A211C1000000/
注3)日立、英原発計画を凍結へ(共同、2018年12月16日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181216-00000040-kyodonews-bus_all
注4)日立の英原発計画「もう限界」採算見通し厳しく(共同、2018年12月17日)
https://this.kiji.is/447329326390936673?c=39550187727945729
注5)日立の英原発事業、電力大手との出資交渉難航(日経、2018年12月16日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39012980W8A211C1TJC000/

巨額の原子力賠償は国が負担? 賠償措置額が1200億円で据え置かれる理由とは? 原子力損害賠償法見直しにパブコメを!(9月10日まで)

>原子力委員会・文科省との会合報告はこちら

原発事故の賠償の枠組みを定めた「原子力損害賠償法」の改定案が、9月10日まで、一般からの意見公募(パブリック・コメント)にかけられています。しかし、この案では、原子力事業者が事故前に保険などで備える賠償金(賠償措置額)が1200億円にすえおかれることになっています。

東電福島第一原発事故では、現時点で見積もられているだけで7兆円をこす賠償金が発生し、この賠償措置額を大きく上回りました。

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要賠償額の推移

除染や事故収束にかかる費用も入れれば政府試算で21.5兆円とされており、この額はさらに上振れするとみられています。

事故後、東京電力を救済するため、国は「原子力損害賠償・廃炉支援機構」を設立し、国債発行による公的資金や、他の電力事業者からの負担金(もともとは私たちの電気料金)を「機構」経由で東電に流し込んでいる状況です。

支援機構

これでは、事故を引き起こした原子力事業者の負担はほんのわずかですみ、結局は国民が負担するということになりかねません。
利益は企業へ、事故が起きたときの費用は大部分は国民へ…?
そんなことは許されませんし、事故のリスクも含めた原発のトータルなコストが認識されないことにもつながります。

ぜひ、みなさんからもパブコメを出してください。

>パブコメはこちらから(9/10まで)

>(参考)原子力損害賠償法の概要
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo01/siryo1-6.pdf

◆パブコメ文例

  • 1200億円の賠償措置額は引き上げるべき。支援機構を介しての支援を前提にしては、最終的には国民にしわ寄せが行き、モラル・ハザードを引き起こす。
  • 原子力事業者を国が支援することを定めた原賠法第16条は削除すべき。
  • 原賠法の目的(第1条)から「原子力事業の健全な発達に資する」は削除し、被害者の保護のみとすべき。

原子力委員会・文科省との会合報告
本日(9月5日)、国会議員や議員秘書、eシフト有志やこの原賠法の見直しについて、とりわけ、賠償措置額の引き上げをなぜ行わなかったかについて、原子力委員会事務局の内閣府、および原賠法を所管する文科省からご説明いただきました。以下、要点のみまとめました。

内閣府…原子力政策担当室
文部科学省…研究開発局 原子力損害賠償対策室
      原賠法改正準備室

◆原賠法の見直しの経緯・スケジュール
<内閣府からの説明>
原子力損害賠償支援機構法附則第6条第1項に、原賠法見直しについて書かれている。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo01/siryo1-3.pdf
これをうけ、副大臣会議において検討が進められたが、平成27年1月22日の会合で、専門的な検討を原子力委員会に要請することとなった。
これをうけ、原子力委員会では、「原子力損害賠償制度専門部会」を設け、20回の検討を行ってきた。
原子力損害賠償制度専門部会設置について・名簿
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo01/siryo1-1.pdf
現在、そのとりまとめを行い、パブコメにかけているところ。
公聴会については考えていない。委員・オブザーバーの中には、被害者を代表している人もいる。福島県副知事からのヒアリングも行った。
原子力委員会として、課題を整理し、今後、文科省に法改正の議論を引き継ぐ。原賠法の当面の改正においては、1200億円については改正しないという方向。

<文科省からの説明>
原子力委員会からの提言を受け、原賠法の改定案を作成する。国会にかける。原子力委員会の案がパブコメにかかっており、それをもとに改正案をつくるので、改正案のパブコメは考えていない。

◆なぜ、賠償措置額をあげなかったのか
<原子力委員会>
・専門部会において、あげたほうがよいであろう、というのが一応のコンセンサス。しかし、だれの責任でどういう負担するのかというコンセンサスは得られなかった。
・賠償は、事故を起こした事業者が担うべきであるが、その資力を超えた場合、どうするのか。支援機構による相互扶助により捻出するのか、もしくは一般税で補てんすべきという意見もあった。
・現在の賠償措置額1200億円は、民間の保険で措置している。しかし、大幅にこの額を引き上げられないのが現状。引受能力を超えている。国際的には、ほぼ最高レベル。
Q:引き上げられない理由は?
→保険会社に査定を依頼したわけではない。「日本原子力保険プール」からも委員になってもらっていただき、「引き上げられない」という意見をいただいた。
Q:保険料を引き上げても?
→通常の責任保険とは違う。原子力事故では保険金支払い額が巨額になるため、国内損害保険20社によって日本原子力保険プールが結成された。原子力保険はすべて「日本原子力保険プール」を通じて契約される。国際的なシンジケートがあり、そこでどこまでの金額を引き受けられるのかが検討されている。
Q:政府補償契約をあげるべきでは?
→民間保険でカバーできないものを政府が、という考え方。むしろ、そちらの方がモラルハザードになるという意見が多かった。
Q:第16条は事故を起こした原子力事業者を救うための仕組みとなっている。撤廃すべきでは?
→法的整理を行い、賠償額を捻出するというのもありうるが、議論としては、むしろ企業を存続させて、賠償させる方が被害者救済に資するという感じであった。
Q:支援機構の資金源は東電の特別負担金、電力各社の負担金。しかし、22兆円規模の賠償を支払うとなるとざっくり95年かかる。新たに同規模の事故がおきても、対応できないだろう。
→(明確な答えはなし)
Q:支援機構経由で東電に支払われている金額のかなりの部分は国債。これは国民負担では?
→国債については、返済されていくことが前提。確かに利子分は、国庫負担ではあるが…。
Q:原子力委員会の「賠償資力確保のための新たな枠組みの検討について」で挙げられている「第2レイヤー」の「保険的スキームの活用」「資金的な手当」とは何を想定しているのか?
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo18/siryo18-1.pdf#page=12
→「保険的スキーム」は、あらかじめ保険料をとる現行の保険的スキームの拡大。「資金的な手当て」は、賠償措置額を超える部分を国が支払い、あとから回収するというもの。
いずれも委員からは、ピンとくるという意見がなかった(から、パブコメの案にはのせなかったらしい)

◆最後に、私たちから第16条による国による支援は削除すべきと考えていること、第1条の原賠法の目的から、「原子力事業の健全な発達に資する」を削除すべきこと、また、国民的議論を行うために、公聴会を開いてほしいことを、重ねて申し入れました。

住民無視 那須町の除染土埋め戻し実証事業~このまま全国展開?

【アップデート情報(2018.9.17)】

・浸出水は測定後、ゼオライトなどで処理し、側溝に流すことになっていることがわかりました。住民の方によると、側溝の水は住宅街を通り、三蔵川に流れるとのこと。心配する住民に対して、環境省は、「十分に対応しているから問題ない」と回答したとのことです。

・環境省は9月17日の週にも、実証事業のための準備作業を開始するとしています。9月16日、実証事業を行う旧テニスコートで行われた「作業説明会」で、環境省は「浸出水は濃度測定し、処理した上で放流する」としたそうです。環境省の管理を問われると「処理水が出なくなるまで。後は町に管理してもらう」と回答したとのことです。

・浸出水の放流問題もさることながら、豪雨の際のオーバーフローや決壊などが心配です。これらの点を断面図に書き込んでみました。

福島県外除染土処分のガイドライン策定へ

環境省は福島県外の汚染状況重点調査地域の除染土計33万m3を埋め立て処分するための施行規則・ガイドラインを策定しようとしており、現在、栃木県那須町、茨城県東海村で実証事業を進めている。しかし、この実証事業は、「安全を確認することありき」で、住民への説明がほとんどないままなし崩し的に進められようとしているようにみえる。

環境省は2箇所の実証事業で施行規則をつくり、全国展開するつもりだ。

「被ばくと健康研究プロジェクト」の田代真人さんに案内していただき、那須町の除染土の埋め戻し実証事業の現場を訪れた。また、住民の方にお話しをきいた。

埋め戻す除染土のセシウム量は不明

那須町伊王野除染土埋め戻し実証事業サイトこの実証事業は、那須町伊王野山村広場内旧テニスコート内に地下保管してある除染土壌350袋、約350m3を袋から取り出し、埋め直すもの。30cmの覆土を行う。(写真右:実証事業が行われようとしている旧テニスコート 7月21日、著者撮影)

除染土の埋め立ての下部には集水砂層とその下に遮水シートを設置(遮水シートの有無については住民への説明では明らかにされなかったが、その後付け加わった)。収集した浸透水の放射性セシウム濃度、周辺の空間線量率の測定、エアサンプリングを行う。

那須町除染土埋め戻し図(コメント入り)

平成 30 年度除去土壌埋立処分実証事業等業務に係る仕様書に加筆)

環境省は、福島県外の除染土壌の放射性セシウムの中央値は800Bq/kg、約95%は2,500Bq/kg以下としているが、実際に埋め戻す土に含まれているセシウム量は現段階では不明だ。

実証事業では、350袋について、重量及び表面線量率(上面1箇所及び側面4箇所)を測定。また、除去土壌計 350 袋中の 35 袋について、放射能濃度測定のための土壌サンプリングを実施する。サンプリングにあたっては、1袋から 10 サンプルを採取して混合し、1検体とする。実証事業の契約期間は、来年3月まで。これでは、長期にわたる影響については捕捉することができない。(くわしくは、環境省による仕様書を参照。)

「新聞報道後、回覧板がまわってきた」

以下、住民の受け止めについて、田代さんや住民たちのお話しをまとめた。

  • 住民がこの実証事業について知ったのは今年2月1日付の下野新聞。近隣住民には2月5日回覧板で「報道でご心配かと思いますが、こういうことやろうとしています…」というような2枚紙がまわってきた。
  • 那須町は、懸念する住民の問い合わせに対して「安全性は確認されている」と回答。いつからいつまでの事業で、そのあとどうするかについては国の事業なので不明。住民説明はやらないと回答。
  • 2017年9月にすでに環境省から那須町に打診があり、12月には議会の災害対策協議会で町から説明があった。反対意見がなかったということで、12月末に環境省にOKの返事を伝えた。こうしたことをあとから知った
  • 町からは、周辺に住む1人の住民に説明があった。そのあと、その人が13人に説明したというが、どういう基準で選ばれた13人であったかは不明
  • 環境省は、セシウムは土壌に吸着して、下方に移動しないというが、それは間違い。わずかではあるが下方に移動するという研究もある。
  • 那須町は基本的には火山灰の影響を受けている土壌で特殊。これをもって、安全性が確認されたとは言えないのではないか
  • 那須町住民申し入れ1805105月10日、住民が環境省に説明会の実施を申し入れた(写真右)。6月8日住民説明会が実現した。19:00~20:30のたった1時間半。住民からの質問が殺到し、15分だけ延長された。住民たちは、実証事業の内容を問うよりも、手続きがおかしいという怒りの表明が多かった。
  • 伊王野は高齢化が進む。ずっと住んでいる人たちは積極的に反対をいいづらい空気。
  • 住民たちとしては、庭先にうまっている除染土をなんとかしてほしい。この実証事業の受け止めは、「きちんとやってくれるなら容認してもよいのではないか」という人、「行政の言うことは信用できない」という人、さまざま。しかし、この実証事業で、結局、フレコンパックから出して埋め立てても安全とされ、庭先の除染土をそのままにする理由付けにつかわれるかも、と懸念している。
  • 町独自の予算で甲状腺がん検査を行うなど、被ばく問題に関してはしっかりとした考えをもっていた町長が脳梗塞で倒れているさなかにこの話しが進行した。
  • 実証事業がいつまでなのか、そのあとどうするのかは、説明されていない。
  • その後、8月7日、住民たちは環境省に対して、再度の説明会を行うことを要請したが、環境省はこれを拒否。環境省の資料によれば、9月にも実証事業が開始されようとしている。

何が問題なのか?

この実証事業の主な問題としては、以下があげられよう。

  • 住民への説明があまりに不十分で一方的。住民に事業の詳細が知らされず、意見もききいれてもらえていない。
  • 実際に埋め戻す除染土中のセシウムなどの放射性物質の濃度・総量が明らかになっていない。全袋調査を行うべきではないか。
  • 実証事業の契約期間は来年3月までであるが、長期のセシウムの動向や環境への影響を把握するには、モニタリング期間があまりに短い
  • 実質的に最終処分地となってしまいかねない。実証事業後、だれがどのような管理を行うか、モニタリング体制はどのようなものになるのか不明長期的な管理・監視体制をつくるべきではないか。
  • 豪雨対策など、放射性物質を含む土壌の拡散を防止するための措置をとっていない。
  • 除染土の再利用・処分については、フレコン入りの除染土の山を、埋めたり、公共事業につかったり、とりあえず「見えなく」するための場当たり的な方針のように思える。

県別除染土
確かに現在、除染土は庭先に埋められているものもあり、これをこのままにしてよいわけはない。しかし、このように、長期的な管理や豪雨対策もしないまま、除染土を埋設するのは、あまりに乱暴ではないか。

環境省は、除染土を長期的に安全に管理し、拡散を防ぐという視点から、広い層の専門家や市民の参加のもとで、検討を行い、全国レベルでの公聴会など、国民的な議論を行うべきだろう。(満田夏花)

参考:環境省「除去土壌の処分に関する検討チーム会合配布資料」

http://josen.env.go.jp/material/disposal_of_soil_removed/

福島第一 増設ALPS(多核種除去装置)でヨウ素129の基準超え60回以上 除去水処分の説明・公聴会の前提は崩れた

トリチウムしか残留していないはずが…

経済産業省は、東電福島第一原発における多核種除去装置(いわゆるALPS)処理水の処分に関する説明・公聴会を8月30日、31日に富岡、郡山、東京で開催しようとしています。経産省は、処理水はトリチウム以外の放射性物質はほとんど除去されていること、トリチウムは弱い放射線しか出さず、自然界にも存在し、生物濃縮はせず、世界中の原発から排出されているとして、海中放出を行おうとし、原子力規制委員会もこれを後おししています。(ちなみにタンクにたまっているトリチウムの量は約1,000兆ベクレルです。)

ところが、このところ、ALPS処理水にヨウ素129、ストロンチウム90が告知濃度限度(基準値)を超えて残留していたことが明らかになりました。

経済産業省のトリチウム・タスクフォースや多核種除去設備等処理水の小委員会では、トリチウムしか残留していない前提で検討が行われており、他の核種については検討が行われていません。

東電の公表データによれば、ヨウ素129については既設ALPS以外に増設ALPSで、告示濃度を超える値が2017年4月~2018年7月まで60回以上計測されており、出口A~Cでまんべんなく見られます。最高は2017年9月18日の62.2Bq/Lでした(下図)。つまり、何かのはずみに1回高い値がでたのではなく、慢性的に発生しているのです。

増設ALPS出口グラフ

出典:東電公表データ(福島第一原子力発電所における日々の放射性物質の分析結果、「増設多核種」)より作成

ストロンチウム90に関しては、増設ALPSでは2017年11月30日に141Bq/Lと告示濃度(30Bq/L)を超えていました(出口C)。

8月22日の会見で、原子力規制委員会・更田委員長は「2015年くらいに告示濃度を超えるものがあると東電から報告があった」「告示濃度超えがあったのは、古い(既設)ALPSの出口Cでしょう」などと発言しています。更田委員長はかねてより、ALPS除去水に関しては、「海洋放出以外の選択肢はない」とし、今回のヨウ素129などについても、「薄めて告示濃度以下にすれば放出をとどめることはできない」という趣旨の発言をしています。

2015年に東電が告示濃度を超えたと報告し、その対策は取られていたはずです。しかし、2017年4月から現在にいたるまでヨウ素129が60回以上も告知濃度を超えているのはなぜなのでしょうか? 原子力規制委員会や、経済産業省は、こうした状況を把握していたのでしょうか。原子力規制委員長の発言をみる限り、正確に認識していたとは思えません。

ヨウ素129は、半減期1,570万年。特に海藻に濃縮・蓄積される。体内にとりこまれるとほぼすべて甲状腺に集まり、とりわけ胎児や乳幼児への影響が懸念されます。「薄めて出せばよい」とは思えません。なお、放射性ヨウ素については、「美浜の会」の以下の資料が、生物の進化の過程とヨウ素について、また放射性ヨウ素の危険性についてわかりやすく解説しておりたいへん興味深いです。>こちら

海洋放出以外にも有力な代替案がある

ちなみに、研究者・技術者・NGOなどが参加する「原子力市民委員会」は、トリチウムのリスクに関して諸説ある中で海洋放出を強行するのではなく、恒久的なタンクの中に保管することを提案しています。>詳しくはこちら

国家石油備蓄基地で使用している10万トン級の大型タンクを10基建設して、その中に100年以上備蓄する案です。トリチウムの半減期は12.3年。100年で減衰により、トリチウムの量が現在の約1000分の1に減少します。大型タンクでの貯留は、すでに十分実績のある手法であること、現在の1,000トン容量のタンクに比して面積効率がはるかに高いという利点があります。十分現実的な提案なのではないでしょうか。タンクの設置場所については、福島第一原発の敷地内にこだわらず、その周辺またはその他の東電所有地も考えられます。このような地上における保管案が十分に検討されているとは思えません。

また、予定されている説明・公聴会も、海洋など環境中への放出前提のものになっており、こうした代替案については、提示されていません。

いずれにしても説明・公聴会の前提はくずれました。経済産業省は、改めて検討をやりなおすべきでしょう。

(満田夏花)