バイオマス発電は大丈夫?――エネルギー基本計画の素案を読む(3)

再生可能エネルギーの一つとして導入が進められてきたバイオマス発電ですが、木質ペレットなど、燃料の多くは海外から輸入されています。需要の急増にともなって、貴重な天然林が伐採されたり、生物多様性が破壊されたりすることが問題となっています。気候変動対策という点からいっても、長い時間をかけて形成され、地上部にも地下部にも大量の炭素を貯留している森林を破壊してしまっては、かえって大気中の二酸化炭素を増やすことにもつながってしまいます。これでは本末転倒ではないでしょうか? 

地域の間伐材・未利用材では足りず、海外から燃料輸入…

バイオマス発電は、固定価格買取制度(FIT)により、促進されてきました。2012年のFIT施行前の導入量は231万kWでした。これにFITで認定されたものを加えた量は、2015年度末に601万kW、2019年12月には1,085万kWにまで急増しています(図1)。うち747万kWが「一般木質バイオマスおよび農産物残さ」(輸入木質ペレット・木質チップ、パーム椰子殻(PKS)など)およびバイオマス液体燃料(パーム油など)による発電で、その多くを海外に依存しているのです。

図 1. バイオマスのFIT認定量
出典:第6回バイオマス持続可能性ワーキンググループ(2020年8月4日)資料1

それでは、第6次エネルギー基本計画素案では、バイオマス発電についてはどのように書かれているのでしょうか?

「木質バイオマスを始めとしたバイオマス発電は、災害時のレジリエンスの向上、森林整備・林業活性化などの役割を担い、地域の経済・雇用への波及効果が大きいなど、地域分散型、地産地消型のエネルギー源として多様な価値を有するエネルギー源である。」(p.34)

確かに、FITの導入時には、地域の間伐材や未利用材を上手にバイオマス発電に使えば、林業が活性化し、森林整備にお金が流れ、「疲弊した山間地が活性化する!」という期待が大きかったことは理解できます。しかし、現状はそう甘くはありませんでした。

そもそも、地域の間伐材、未利用材の量には限界があります。5,000kW級のバイオマス発電所を稼働させるのには、年間約60,000トンの燃料(約10万立方メートル相当)が必要とされていますが、これは一つの県の木材生産量にも匹敵します(注1)。つまり、中規模以上のバイオマス発電所を稼働させるためには、地域の間伐材・未利用材ではまったく足りないのです。

また、林地残材は林地からの搬出コストが高く、大量に調達するためには広範囲から収集する必要があるため、運搬費がかさみます。

このため、ほとんどの大規模なバイオマス発電所は、安定的かつ大量に調達できる輸入バイオマス燃料を前提にして計画されているのです。

経済産業省にもそのような認識はあるようで、前述の続きとして、

「一方、エネルギー利用可能な木質や廃棄物などバイオマス資源が限定的であること、持続可能性の確保、そして発電コストの高止まり等の課題を抱えることから、森林・林業施策などの各種政策を総動員して、持続可能性の確保を大前提に、バイオマス燃料の安定的な供給拡大、発電事業のコスト低減等を図っていくことが必要である。」(p.34)

というようなことが書いてあります。しかし、ここで大前提としている「持続可能性の確保」は具体的には何をさすのでしょうか? また、どのように担保するのでしょうか? 

さらに、「持続可能」であるバイオマス燃料は、どの程度、存在しているのでしょうか? これが大問題です。

「持続可能性」はあいまいなまま

「持続可能性」というからには、少なくとも森林減少・劣化を引き起こしたり、生物多様性を破壊したり、人権侵害や労働問題などを引き起こしたりしてはいけないはずです。

しかし、現在、輸入されているバイオマス燃料の多くは、この点があいまいなまま残されています。

たとえば、日本の主要商社は、バイオマス発電用に年間数百万トンもの木質ペレットを、北米やベトナムから輸入しています。

図 2. 日本の木質ペレット輸入量
出典:財務省 普通貿易統計「品別国別表(HSコード4401.31.000)」よりFoE Japanが作成

日本の商社は、アメリカの大手ペレットメーカーであるエンビバ社、カナダのパシフィック・バイオエナジー社やピナクル・リニューアブル・エナジー社などと木質ペレットの長期売買契約を結んでおり、今後数年以内に輸入量はさらに数百万トン以上上積みされそうです(注2)。

しかし、アメリカやカナダで森林保全に取り組むNGOからは、これらの木質ペレット生産用の木材を得るため、湿地林や天然林が皆伐され、貴重な生態系が破壊されたことが報告されています。企業は「もっとも持続可能な原料を利用している」などと説明していましたが、ペレット工場に次々に丸太が運び込まれている様子が写真入りで報告されています。

貴重なカリブー(トナカイ)の生息地である森林にも伐採が及んでいます。

写真:パシフィック・バイオエナジー社のペレット工場に丸太を運び込むトラック © Dominick DellaSala

写真:木質ペレットの原料生産のために伐採された湿地林(アメリカ・東南部)©Dogwood Alliance

マレーシアやインドネシアから輸入したパーム油も、バイオマス燃料として、発電所で燃やされています。パーム油の需要急増は、原料となるアブラヤシ生産のための農園拡大により、熱帯林減少の原因になるのに加え、先住民族や地域住民の土地や森林を農園にしてしまったり、農園における労働問題が発生したりといった社会的な問題も指摘され続けています。持続可能性が確認されたRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証油を使うとしている企業もありますが、RSPO認証油は供給量に限界があり、食品など従来用途の需要を満たすのに精いっぱいではないでしょうか。

現在、FITの事業計画策定ガイドラインでは、燃料の持続可能性については触れられているものの、具体性がなく、とりわけ木質バイオマスに関しては、第三者機関による認証制度だけではなく、事業者団体による認定や、企業の独自による確認でも足りることになってしまっています(注3)。

そもそもCO2を削減できるのか?

バイオマス発電の促進により、本当にCO2削減ができるのかどうかにも疑問があります。

前述の通り、バイオマス燃料の生産段階において、森林減少・劣化が生じることも多く、その場合、森林や土壌に貯蔵されていた炭素が、CO2の形で大気中に排出されてしまいます。つまり、バイオマス発電の促進が、地表での重要な炭素ストックである森林や土壌を破壊し、むしろCO2排出の原因となってしまうのです。

破壊された森林が元の状態に回復しないこともありますし、回復したとしても、数十年以上かかることが多く、それまでは森林・土壌に固定されていた炭素が燃焼により大気中に放出されるため、大気中のCO2が増加した状態となります(注4)。

バイオマス事業がある場合、ない場合双方における、
一定期間後のCO2の蓄積変化の概念図

森林は森林のまま、「炭素の貯蔵庫」として、また、生物多様性保全のために、そのまま維持していくことが重要なのではないでしょうか?

森林を破壊せず、地域の間伐材・未利用材や廃棄物系によるバイオマス発電がどのくらい可能なのか。これについては慎重に検討する必要があります。

また、バイオマス発電の発電効率は化石燃料と比べても低いため、発電よりも熱利用の方を追求するべきではないでしょうか?

現在のエネルギー基本計画は、2030年における電源構成目標としてバイオマス発電を6-7GWとしています。第6次のエネルギー基本計画においては、さらに拡大して8GW+αとしています。しかし、上記の観点から、バイオマス発電は、廃棄物系、地域の間伐材・未利用などでまかなえる規模とし、熱利用を検討すべきでしょう。

(満田夏花、小松原和恵)

参考)バイオマス発電のFIT認定容量(2021年3月末時点)
メタン発酵ガス:107,807kW
未利用材:561,384kW
建設廃材:94,210kW
一般廃棄物・木質以外:460,251kW
上記合計 1,223,652 kW (1.2GW)
一般木質・農作物残さ:6,738,709kW(6.7GW)「一般木質・農作物残さ」の多くが輸入燃料と考えられます。農作物残渣は、PKS(パーム椰子種子殻)です。

注1)田中淳夫(2019)「絶望の林業」

注2)商社等の木質ペレットの主な長期購入契約は下表参照。

出典:サプライヤー等のウェブサイトよりFoE Japanが作成

注3)FITの「事業計画策定ガイドライン」においては、パーム油、PKSなどの農産物の収穫に伴って生じるバイオマス燃料については、主産物・副産物を問わず、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)、RSB(持続可能なバイオマスのための円卓会議)といった第三者認証制度によって持続可能性が認証されたものでなければならないとしています。一方で、木質バイオマスについては、具体的な認証については記述されておらず、詳細は、林野庁による「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」を参照することとしており、当該ガイドラインでは、第三者認証のみならず「関係団体による認定」「個別企業の独自の取組」も併記しています。

注4)IPCCの報告書の著者をはじめとする科学者796名は、バイオマスエネルギーのために木を伐採すると、森林に貯留されている炭素が放出されること、たとえ森林が再生したとしても、大気中の炭素が数十年から数世紀にわたって増加することを指摘。さらに世界のエネルギーの3%を木材によって発電するとなると、世界の商業伐採量を現在の2倍にしなければ賄えないと警告しています。

“Letter From Scientists to the EU Parliament Regarding Forest Biomass”, 9 January 2018

「分断ではなく共生を」地域住民抜きの事業に声をあげる、徳島県陸上風力発電所を視察して

6月20日、徳島県那賀町、上勝町、神山町周辺の陸上風力発電所を視察しました。

お話を伺ったのは、徳島県那賀町の「風力発電とまちづくり(共生)を考える会」を立ち上げた桑高仁志さんです。桑高さんは群馬県出身ですが、新潟県の地域復興支援員を経て、8年前に徳島県那賀町の地域おこし協力隊に。現在は古民家ゲストハウスを営む傍ら地域づくりの活動をされています。

桑高さんが風力発電事業に関心を持ったのは、2018年、隣町の方から徳島西部・天神丸での陸上風力事業-(仮称)天神丸風力発電事業について相談を受けてからでした。一杯のそばで買収されたと、冗談を交えながら、そのきっかけを話してくださいました。

「天神丸の事業について話を聞いて、で、環境影響評価書の配慮書が縦覧開始されるというのを町の広報誌で知って、調べてみてインターネットで見てみたら、300ページくらいある。こんなもの地元の爺さん婆さん見ないと思って。だから、要約してわかりやすいリーフレットみたいにしないと地元の人はどこで何が起こるのかがわからない。それで勉強会の資料を作って、公民館押さえても町は周知をさせてくれない。中立ですといっても、公民館や役場の掲示板をつかわせてもらえず、移住者がこうした話題を取り上げることにタブーを感じた。」

きっかけとなった天神丸での計画は2021年5月末に見送りとなりましたが[1]、2020年、徳島南部の那賀町での計画が持ち上がりました。新型コロナによる一回目の緊急事態宣言期間中の縦覧は町広報での事前周知もありませんでした。オンライン縦覧こそ行われましたが、桑高さんは、オンライン中心の縦覧だと地域のお年寄りは取り残されるという問題を指摘します。

とはいえ、県内では、風力発電に疑問を持つ人はとても少ないといいます。

「風力を問題視できる人が少ない。やっぱりメリットとして、雇用が生まれるんじゃないかとか、土木が潤うとか。再生可能エネルギーじたい必要なんだし。たぶん電気代安くなるんでしょとか。あと、考えることをやめてしまっている人たち。何もないところにやって来てくれる。そこに期待してしまう。町としての戦略はずっと林業。今までの産業を、どう守っていくかという考え方だからなかなか新しい雇用が生まれてこない。」

そのほかにも、住民や行政積極的になりづらい理由があるようです。

「那賀町の木頭地区[2]ってところが、過去にダムを「作る」「作らない」で二分された。分断のせいで、村の助役が自殺するようなことも起きた。住民運動の結果、ダムは作らないことになったけれど、そのせいで県にずっと睨まれ、道路の拡張工事とかをしてもらえなかった。村が賛成反対で二分されたという過去があるところに、風力でまた賛成反対の議論になってしまうと。またいざこざが起きると。でも、俺からしたら、声をあげなかったら議論が始まらない。だったら、中立でいいから、事業者からどうやってメリットを引き出すかという知識をつけていきましょうよ、ということをずっと言っているんですけどね。どうしても、登山家とか自然の愛好家とか外部の人から「反対」の声が先に上がってしまう。でも、風力が建つ山を持っている山主はお年寄りで、山が売れないという後ろめたさや、少しでもお金になるんだったらという淡い期待をもってしまう。地元の人は賛成も反対も言わないオロオロしている状態のときに周りの意識高い系の人たちが反対って言っちゃうんですよ。移住者もそうだけど。そうなると地元は、賛成したい人もいるのに反対って言えなくなっちゃう。神山は実際風力が立つにあたって立て看板で「絶対反対」って言っている。海陽町の方は、県議を巻き込んで運動しているが賛成反対の構図ではまた分断が生まれてしまう。」

また、徳島県那賀町の立体地図を見せながら、徳島の風力発電の状況をお話くださいました。

「今稼働中のところは佐那河内(大川原ウインドファーム[3])。今建設中なのがこの上勝神山あたり(上勝・神山ウインドファーム[4])。あと、天神丸ってところで計画されたけど2021年撤回になって(天神丸風力発電事業[5]、オリックス株式会社、144,900kW、42基)、JAG国際エナジーがあたらしくやろうとしているのが木沢から鷲敷までのこの黒い尾根(那賀・勝浦風力発電事業[6])と海陽町(那賀・海部・安芸風力発電事業[7])。天神丸あたりは四国の中でも1000m超えで、ブナの原生林もあって、この辺で風力発電建てられるんだったら、四国はどこでも建てられるでしょって話になるんですよ。だから、那賀町が毅然とした態度で挑めば、建てていい場所、建てちゃいけない場所の基準が出てくると思うんです。また四国で20数頭しかいない絶滅危惧種のツキノワグマ生息域もあるため、ゾーニング(事業適地の絞り込み)をちゃんとやってほしい。クマなんかいらないという地元の人もいれば、クマがいるってことはそれだけ生態系が豊かであるということだから残した方がいいっていう人もいる。」

上勝・神山ウインドファームの建設現場へ

桑高さんにお話を伺ったのち、桑高さんと一緒に、現在建設中の上勝・神山ウインドファームに向かいました。自然観察指導員でもあり森林活動ガイドでもある登山家の坪内強さんが現場を案内くださいました。

左:ヤマツツジ、右:鹿が木の皮を食べた跡

上の写真は、T1の設置場所の脇にある登山道を進んでいった時の風景です。写真を撮った場所と写真の赤丸で囲ったところは本来繋がった登山道だったそうで、陸上風力の部品を運び込むために山が削られ、上記の写真のような形となったそうです。「再エネの主旨はわかる。でも、自然のかたちをここまで変えて発電所を作る必要があるのか?」と案内くださったお二人は漏らします。

風力発電事業への住民の思い

上勝神山ウインドファームの建設現場視察後、意見交換を行いました。

大川原ウインドファームの発電基を見上げながら、坪内さんは、大川原ウインドファームでは、冬の期間、風車のブレードが凍ること、その氷を取り除く作業を時々やっていることをお話くださいました。タワーのブレード上部に届く60m位の高さのクレーンで氷を除去している。現在建設が進む(上勝神山ウインドファームの)高さ80mの風車は、冬期の積雪期には現在のメンテナンス方法では厳しいのではと懸念していました。

また、事業と地域の関わりについても、地域で得たエネルギーなら、電源交付金のように地元にお金を落とすべきところ、風力にはそんな仕組みはなく、何か地元に利益が還元する仕組みがあればよいのですがと話していました。

年に20回は、この尾根を歩いている。ある時、巨大な風速計が山の中に立った。それでなんやろと思っていたら、土質調査のボーリングが始まった。その後重機が入って大規模に山を削り、自然林を伐採して建設用地と作業道が造られた。その結果、家内と四季折々山野草を楽しみながら歩いた尾根筋は通行できなくなってしまった。自然を楽しんで歩く「四国のみち」も尾根道から林道に変更されてしまった。那賀町の建設予定地はサラサドウダン絶滅危惧2類などの珍しい植物が自生していて建設による絶滅が心配される。造形物と自然の美しさ、どちらを残したいか。私は反対って立場ではない。ただ、現場をみて皆に考えてもらいたい。

また、今回一緒に建設現場を視察した、勝浦町の農村体験型宿泊施設や上勝町のキャンプ場で働きながら地域自家発電の研究に携わる新居彗香さんは、

「風力発電事業は桑高さんのSNSの投稿を通じて事業に興味を持った。風力の何が問題なのか分からず、いい点、悪い点を知りたかった。地元では、大川原高原はとても流行っていて、いいじゃんという人が多い。」

と、地域の多くの住民の様子を教えてくださいました。

それに付け加えるように、桑高さんも、風力発電のできる地域は住民が普段来るようなところではなく、地元の人すら行ったことのない山で事業を計画されるから関心持ちづらいと、住民の関心をあげる難しさを教えてくださいました。とはいえ、桑高さんが考えていきたいことは、「風力発電と共生する地域づくり」だといいます。最後に、桑高さんに、徳島での陸上風力発電事業(那賀町と海陽町の事業)について、どのように関わっていこうと考えているのかお聞きしました。

今は準備書前の現地調査をする段階。考えているのは、この間にうまく事業者を引っ張り出せないかと考えている。事業者は、地元が反対していたとしても調査はさせてほしいと言っている。その結果、できるかできないかを協議させてほしいという立場。だから、事業者にうまいこと「じゃぁどういう共生を考えているんですか?地元の小学生中学生と一緒に考えませんか?地元の人が何をしたいのかを聞く場面を設けますんで、よかったらきませんか?」というのをやりたい。子どもとの共生WSとかだったら向こうも断りづらいだろうし。僕は風力発電を、自分たちの町の未来を前向きに考えるテーマとして積極的に捉えようってスタンスなんです。僕は、町のみんなが自分の町の未来を考えるお手伝いをしたい。

一呼吸あって、桑高さんはこう続けました。

「共生というのは一つのキーワードのはず。いいもの悪いものってのはやっぱり皆で議論して初めてわかるもの。事業者のベストの形もあるし、行政のベストな形もあれば、住民のベストな形もあるので、そのすり合わせはやっぱりしないとダメなんです。

僕は、風は地域の資源だと思っている。便利な言葉で、『7つの風』という言葉がある。風土とか風味とか風習とか、風がつくる7つの景観があると。風によって地域は形作られているんだから、その風を使うなら地元が一番その恩恵を受けられるよう対話をしていく必要があるのではないかと思う。」

エネルギーを考えるうえで大切なこととは

今回の視察を通じて、改めて、生活のためであるはずの電力なのに利益追求のための電力になっていること、事業への賛成/反対の議論が地域の分断をもたらしてしまうこと、その分断を恐れ何もいえなくなっている状況を目の当たりにしました。

脱原発や気候変動の防止の観点から、再エネは重要なエネルギー源です。再生可能エネルギーのポテンシャルが高い地域から、大消費地に送電する方法もあります。しかし、事業を誘致すれば自治体にお金がはいるような仕組みができたとしても、それは地域の内発的な活動を阻害したり、地域の人々の分断を生んでしまったりするようなものは、再生可能エネルギーであったとしても許されないはずです。

建設現場の一部をみていても、本当に必要な伐採だったのか、排水や廃棄物の影響をどのように考えているのか、工事で出てきた作業土はどこに行くのか、山に生きる動植物への影響などの疑問が残りました。事業のライフサイクルにわたった環境・社会影響の調査、評価、予測、対策の強化の必要性を感じます。

また、陸上風力発電の建設が進む神山町では、戦前は地域や各戸の小水力発電があり、コミュニティベースで管理していたそうです。しかし、大規模供給にあたり、小水力発電で発電したものを電線に繋げようとすると不具合が生じることから、四国電力は住民の水車を買い上げたり水車を閉じさせたりして、今では住民の中で小水力発電のノウハウがなくなっているということもあるようです。

一方、桑高さんとお話する中で、事業の進め方によっては、住民を巻き込んだ民主的な地域づくりの可能性を感じました。

化石燃料依存社会から脱炭素社会への移行は、単なる「エネルギー・チェンジ」ではなく、発電所周辺の住民の声が無視されたり、発電機の製造に必要な資源や燃料を搾取されたりすることのない電力システムへの「システム・チェンジ」であってほしいと思います。

(高橋英恵)

*再生可能エネルギーの持続可能性に関するFoE Japanの見解はこちら


[1] 2021/5/29、徳島新聞「オリックス、風力発電計画の事業化見送り 美馬、神山、那賀の3市町境

[2] 2005年、鷲敷町、相生町、上那賀町、木沢村、木頭村が合併し、那賀町となった。

[3] 株式会社ユーラスエナジーホールディングス、最大19,500kW(1,300kW x 15基)

[4] 株式会社ユーラスエナジーホールディングス、最大34,500kW(2,300kW x 15基)

[5] オリックス株式会社、最大144,900kW(42基)

[6] JAG国際エナジー、最大96,000kW程度

[7] JAG国際エナジー、最大96,000kW

2030年エネルギーミックスから持続可能な太陽光発電を考える

パワーシフト・キャンペーンの田渕です。FoE Japanは、森林破壊を伴ったり、住民の生活を脅かしたりするような再エネには反対しています。くわしくは、以下の「見解」をご参照いただければと思います。
https://www.foejapan.org/energy/library/180413.html

2030年電力用エネルギーミックスの試算が各団体から出されています、目標値として有用であるため紹介をします。 森林に設置される太陽光発電がどれほど含まれているかを試算をした結果、全体に占める割合は少なく、他の発電方式に変えることで森林破壊を伴ったり、住民の生活を脅かしたりすることのない良いエネルギー社会を目指せるのではないかと思います。

1.2050年温室効果ガスゼロに向けた2030年のエネルギーミックス

2050年温室効果ガスの排出実質ゼロに向け、通過点である2030年の電力に関するエネルギーミックスの試算が各団体から出されている。WWF*1、自然エネルギー財団(以下自然エネ財団)*2、未来のためのエネルギー転換グループ(以下未来エネグループ)*3のレポートから数値を抜粋した電力用2030年発電量予測をグラフ1に示す。

グラフ1.各団体による2030年電力用エネルギーミックス試算

(各レポート内数値を元に筆者作成)

グラフ棒の高さ(電力量総量)は積み上げた数値が大きく異なるのは発電量と需給量の違いなので比較するものではない。

グラフ1に示されているように各団体が試算した2030年電力用エネルギーミックスは基本的に原発、石炭火力はゼロであり、省エネをした上で、総電力量の約半分を再エネで賄う計画となっている。2030年は近い将来でありこれらのエネルギーミックスの実現に向けて最大限努力していかなくてはならない。これらの数値の根拠や条件などの詳細については各レポートを参照されたい。

自然エネ財団と未来エネグループに関しては、太陽光、風力、バイオマスについてレポート内の数値を利用して筆者がさらに細分化した。細分化方法を以下に示す。

<自然エネ財団のデータ細分化>

国土交通省(2013)他の文献を元に表1のように太陽光発電の細分化をしている。

表1 利用可能な土地の推計及び設置可能設備容量*4

(自然エネルギー財団*2の表3-2データを転載,「太陽光発電合計に対する割合[%]は筆者記入)

種類設備容量[GW]太陽光発電合計に対する割合[%]
森林(既存+2019年までの見通し)*下記に詳細記載あり6.76.0%
空き地・原野(民有地)12.911.5%
資材置き場1.00.9%
駐車場2.11.9%
ゴルフ場からの転用12.310.9%
その他・不詳1.51.3%
耕作放棄地52.947.1%
追加転用+追加荒廃農地10.08.9%
湖沼水面2.01.8%
ダム水面8.87.8%
空き家の転用1.91.7%
利用できない建物(廃屋等)-法人所有0.20.2%
合計112.4100.0%

環境へ悪影響を及ぼすかどうかは個々の事案を考慮する必要がある。

建物の上や人工物に設置するものは環境影響が低いと思われるが、既存分を含むものの新たに林地を伐採する可能性がある「森林」を分けてグラフ化した。

森林については自然エネ財団も「森林伐採や造成のコスト、系統連系上の問題が生じやすいこと、環境影響が懸念されることから、2017年までに林地開発許可を得ているもの(約1万ha)に、2018年及び19年の見通し(約0.4万ha)を加えた値とし、それ以上の導入可能性が低い」 *2-P30 としており、見通し分を限定しており電力量全体に占める割合は1%以下で低い。

この設備容量の割合を発電量の割合と同じと仮定し、太陽光(森林)と太陽光(耕作放棄地、追加転用、水面、空き家、人工物、空き地原野、ゴルフ場)に分けた。

<未来エネグループデータ細分化>

太陽光は「屋根置き」「ソーラーシェアリング」「野立て」の3つに分けており、さらに「野立て」については前述した自然エネ財団の設備容量予測の割合(表1)により「森林」とそれ以外に分けた。

未来エネグループのレポートの主題はグリーンリカバリーであり、森林に設置する太陽光発電のようなものは他の手段に置き換えるという考えに基づいている。

この結果、2030年総電力量のうち「森林」は0.7%を占める。(自然エネ財団、未来エネグループ)

<森林と耕作放棄地の定義>

詳細は各団体のレポートを参照いただきたいが、森林と耕作放棄地の定義を転載して示す。

・森林(既存+2019年までの見通し)の定義

森林については、森林伐採や造成のコスト、系統連系上の問題が発生しやすいこと、環境影響が懸念されることから、2017年までに林地開発許可を得ているもの(約1万ha)に、2018年及び19年の見通し(約0.4万ha)を加えた値とし、それ以上の導入可能性は低いとした。(自然エネ財団レポート*2より)

ちなみに自然エネ財団の新しいレポート(脱炭素の日本への自然エネルギー100%戦略 https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20210309_1.php)における太陽光発電量の予測では、森林他の細かい分類の記載はなく太陽光全体のポテンシャルは環境省のデータを根拠に十分にあるとしている。一方で*2の文献が引用されている。つまり自然エネルギー財団の最新のレポートとしては表2にあるように森林等も試算に入っていると考えた。(森林の扱いについて慎重な姿勢が見える)

・耕作放棄地の定義

過去1年以上作物を作付けしておらず、今後も作付けする意思のない土地であり、全国で42.3万haに上る。そのうち、果樹園等の傾斜がある耕作放棄地は、太陽光発電の設置に適さない場合が多いなど、全ての耕作放棄地が利用可能なわけではない。今回は、太陽光発電事業者へのヒアリングから、利用可能な土地を15%とした。(自然エネ財団レポート*2より)

また、同様に風力については陸上風力と洋上風力に分けた。バイオマスについては自然エネ財団は「未利用木質、一般木質、農業残渣」と「メタン発酵ガス、建築廃材、一般廃棄物、RPS等」に分け、未来エネグループは「木質バイオマス」と「メタン発酵バイオマス、廃棄物」に分けている。今回は風力発電とバイオマス発電に関しては環境への悪影響については考察しないが、今後活用できるデータとして示しておく。

2.持続可能ではない太陽光発電について

メガソーラーの中には森林を伐採して作られるもの、草原などの貴重な緑地を利用するもの、環境懸念を抱えた住民の反対があるものについては持続可能ではない再エネとして環境団体などでも懸念を示してきた*5-1,5-2

前項で示したように既存分を含むものの新たに林地を伐採する可能性がある「森林」は総電力量の0.7%であった。

 これ以外にも、耕作放棄地、原野やゴルフ場跡地、他の中には環境維持することが重要であったり住民の意思を尊重すべきものがあり、個々の事業を考慮する必要があるものが含まれる。

これら環境への懸念があるものではなく、持続可能な太陽光発電を増やすためにソーラーシェアリングを試算より増やすことはできないか検討した。

試算するにあたって採用した文献は「制約条件を考慮したソーラージェアリングの導入ポテンシャル評価 2018土木学会論文 東大 室城ほか」*6で、関東地域のソーラーシェアリングの導入可能性を作物ごと、日照条件や電源系統への接続条件などを考慮して試算している。これによると関東地域でのソーラーシェアリング導入試算量は69,118[GWh/年]であり、文献内条件case1(地理的な制約考慮、電源系統への接続課題は考慮しないなど)を採用すると63,110[GWh/年]となる。

上記文献は関東地域の試算なので、全国の耕作面積比率データ*7から単純比率で計算すると全国のソーラーシェアリング導入試算量は394,438[GWh/年]となる。地域の条件等はさまざまなのでそれを考慮してそのうち10%が導入できたとすると、39,444[GWh/年]になる。この量は2030年総電力需給量(未来エネグループ試算値)の約5.3%にあたる。

これらの数値を表2に示す。

表2 ソーラーシェアリング導入量試算(文献*5,6から筆者試算)

 ソーラーシェアリング導入量試算 [GWh/年]
関東69,118
文献case163,110
関東→全国換算*7394,438
内10%導入の場合39,444
未来エネグループの2030年総電力需給量を100%とした場合の割合5.3%

この試算によるソーラーシェアリング導入量は、未来エネグループのソーラーシェアリング試算量2.2%の2倍以上である(グラフ2)。

もちろんソーラーシェアリングにはさまざまな課題があるため普及は容易ではないが森林破壊や住民の反対のある発電方式の代替手段としてひとつの可能性を示した。

従って、環境への悪影響があって持続可能ではない太陽光発電ではなく例えばソーラーシェアリングの導入拡大を図ることによって、エネルギーミックスは良い方向へ向かうものと思う。

 グラフ2. 2030年電力用需給見通し割合(未来エネグループ)

(未来エネルギーグループのデータから筆者推定を含め作成)

また今回は考察しなかったが、再生可能エネルギーであってもパーム油やPKSを利用したバイオマス、燃料を輸入して燃やす木質バイオマス系*8、環境懸念を持つ住民の反対がある風力発電など、持続可能ではないと思われる再エネは他にもある。

気候危機を緩和させるためには地域の合意が大前提であり、再エネ発電が増えたとしても緑地が減ったり地域を重視しない方法ではかえって危機を悪化させるのではないだろうか。

気候危機対策として実施されようとしているものの中には逆効果であるものもあるのではないか、引き続き持続可能な再エネとはなにか?について考え活動をしていきたい。

(田渕 透)

<参考文献>

*1 脱炭素に向けた2050年ゼロシナリオ(WWF)
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20201215climate01.pdf

*2 2030 年エネルギーミックスへの提案(自然エネルギー財団)
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_2030Proposal.pdf

*3 レポート2030(未来のためのエネルギー転換研究グループ)
https://green-recovery-japan.org/pdf/japanese_gr.pdf

*4 国土交通省(2013)『平成 25 年 世帯・法人土地・建物基本調査』、農水省(2017)「荒廃農地の現状と対策」、太陽光発電に係る林地開発許可基準の在り方に関する検討会(2019)「太陽光発電に係る林地開発許可基準の在り方に関する検討会報告書」、総務省(2019)「平成 30 年住宅・土地統計調査」、一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会(2019)「利用税の課税状況からみたゴルフ場数、延利用者数、利用税額等の推移」より自然エネルギー財団作成。

*5-1 「持続可能な再エネ」電力会社を選ぶことで「よい社会」を選べる(パワーシフトキャンペーン)https://power-shift.org/downloads/15258/

*5-2 鴨川市田原地区メガソーラー計画を取材しました(FoE Japan)
https://power-shift.org/kamogawa_megasolar190302/

*6 制約条件を考慮したソーラージェアリングの導入ポテンシャル評価 2018土木学会論文 東大 室城ほかhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejer/74/6/74_II_221/_pdf/-char/ja

*7 令和2年耕地及び作付面積統計(併載 平成28年~令和元年累年統計)e-Stat 政府統計の総合窓口
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500215&tstat=000001013427&cycle=7&year=20200&month=0&tclass1=000001032270&tclass2=000001032271&tclass3=000001150346

*8 レポート「バイオマス発電は環境にやさしいか? “カーボン・ニュートラルのまやかし”」 FoE Japan
Click to access 210514.pdf

「木質ペレットをFITの対象とすべきではない」17の米国環境団体が日本政府にレター

米国の17のNGOが、経済産業省 (METI)、林野庁などに対して、木質ペレットをFITの対象から外すよう求める書簡を提出しました。

書簡では、アメリカ南部において、天然林を伐採して木質ペレットが生産されていることを指摘。「森林は木や土壌に膨大な量の炭素を貯蔵し、洪水や嵐といった災害の影響からコミュニティを守っている」として、CO2排出量の削減、生物の生息地保護、洪水調整機能の維持のためには、森林を保全するべきであり、木質ペレットを利用するバイオマスを対象から除外しなければならないと主張しています。

アメリカ南部では、木質ペレットの生産のために、端材ではなく、樹木全体が使われたり、天然林が皆伐されたりする状況が報告されています。エンビバ・パートナーズLP社がノースカロライナ州におけるペレット製造工場の原料を得るため、ロアノーク川流域の樹齢100年以上の貴重な湿地広葉樹林の皆伐を行っていることがたびたび報道されてきました。これらの湿地林は、河川の沖積地に発達し、生物多様性に富む森林であるとともに、洪水制御、炭素の貯留といった意味でも重要な意味をもちます。

書簡に署名したDogwood Alliance(ドッグウッド・アライアンス)のキャンペーンディレクターのリタ・フロストさんは、「気候変動に真剣に取り組むのなら、森林を燃料として燃やすことは奨励できない。日本政府にとって、本来は森林、気候、コミュニティを保護するはずである『再生可能エネルギー』の定義から木質ペレットバイオマスを除外するよい機会ではないでしょうか。」とコメントしています。

現在、日本は主として、ベトナム、カナダなどから木質ペレットを輸入していますが、大手商社がアメリカの大手バイオマス企業エンビバ・パートナーLP社と大口の長期契約を結んでおり、今後、アメリカからの木質ペレットの輸入が急増するのではないかとみられています。

以下にレターの本文を掲載します。


2020年9月30日

経済産業大臣 梶山弘志 様
林野庁長官 本郷 浩二 様
バイオマス持続可能性ワーキンググループ委員 各位

私たち、日本の新たな木質ペレットバイオマス市場の供給地である米国の17のNGOは、森林由来の木質ペレットバイオマスを「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」から除外し、森林を燃料とする再生可能エネルギーへの直接的・間接的な補助金を廃止するよう日本政府に求めます。私たちは、世界最大の木質ペレット生産地である地域にくらし、その生産と消費が気候、森林、コミュニティに悪影響を及ぼすことを見てきました。木質ペレットのバイオマスを「再生可能エネルギー」の名の下で生産消費することはグリーンウォッシュに他なりません。
米国南部はエンビバ・パートナーズ社の木質ペレット生産の主要な原料供給地であり、同社はFIT制度のインセンティブにより住友商事を含む日本企業に木質ペレットを大量に供給しています。Dogwood Alliance(ドッグウッド・アライアンス)の現地調査は、木質ペレットバイオマス産業がペレットを天然林から調達している様子を詳細に描きだしました。多くの現地調査により、エンビバ社がペレット製造のために、丸太全体を利用するとともに、天然林の伐採に関わっていることを明らかにしました 。これは、エンビバ社が事業を展開している地域において責任ある行動をとることができていないことを示しています。持続可能性の保証を与えられたことにより、グリーンウォッシュをしているのです。
エンビバ社の工場の多くはノースカロライナ州で操業しています。ノースカロライナ州政府は最近、独自のクリーンエネルギー計画の中で、ノースカロライナ州の森林を外国市場で大規模に利用することは「国内・国際的なレベルで再検討されるべきだ」と述べており、公式文書では、木質ペレット産業が伐採、加工、輸送を通じて同州の炭素排出量を増加させていることを明確に認めています 。ノースカロライナ州のこれらの発言は、バイオマスエネルギーの生産と消費は有害であり、将来的には州がバイオマスエネルギー施設の操業を制限する措置を取る可能性があるということを示しています。
木質ペレットの生産と消費による炭素排出についても深刻な懸念があります。木質ペレットバイオマスは炭素排出量が大きいため、気候変動への効果的な緩和策にはならない、という科学的なコンセンサスが形成されてきています。したがって、再生可能エネルギーの目標を達成するために木質ペレットをバイオマス発電に利用することには大きなリスクがあると言えます。科学者は、木材の原料(パルプ、全木等)に関係なく、木材を使ってペレットを製造すると、数十年から数世紀にわたって大気中の炭素が増加すると示しています。

木質ペレットバイオマス産業は、すでに森林資源が過剰に利用されている地域にさらなる負荷を与えています。米国南部の森林面積は世界全体のわずか2%にすぎませんが、世界の丸太の12%、パルプ・紙製品の19%を生産しています 。言い換えれば、米国南部の木材製品産業は、世界のどの森林よりも生産性が高いということになります。米国南部における工業規模の木質ペレットバイオマス生産は、木質ペレットが低品質の木材製品であるために、より多くの森林伐採を引き起こしています。かつては経済的価値のなかった森林が、木質ペレット産業の急成長によって伐採され、利益を生むようになったのです。
米国南部の森林は、南米の熱帯雨林が伐採される速度の4倍ものスピードで伐採されています。さらに、木質ペレットのために皆伐が行われることは、従来の伐採方法よりもはるかに多くの木質繊維の除去をもたらします。これは、炭素貯蔵や、生態系サービス、および野生生物にさらなる悪影響を及ぼします。
エンビバ社が主導する木質ペレットバイオマス産業は、洪水などの気候変動影響に対するレリジリエンスへの影響だけでなく、大気や水質などコミュニティ全体に直接の影響を及ぼします。研究によると、木質ペレットバイオマス産業は、何百万トンもの温室効果ガスの排出に繋がるだけでなく、喘息や心臓発作を引き起こす可能性のある何トンもの粉塵や、発癌物質やスモッグを形成する汚染物質も排出しています 。このような影響は、主に非白人人口が多く、貧困レベルの中央値を超えているコミュニティで起きています 。工場から1~3 km以内に住む地域住民は、日々目に見える形のチリや埃に覆われて生活しているのです。
米国南部の森林は、樹木や土壌に大量の炭素を蓄積し、洪水や嵐といった災害の影響からコミュニティを守っており、気候変動対策に重要な役割を果たしています。気候変動に関連した大規模な洪水は、何年にもわたって甚大な被害をもたらしており、その経済コストは数百億ドルに上ると推定されています。 エンビバ社のような木質ペレット企業がクリーンエア法(大気浄化法)のガイドラインや規則に従わないで操業を続けた場合、このような気候変動の影響はさらに増幅します。 生きた森林を手付かずのままに残すことで、天然の洪水対策になるのです。
日本政府の目標が発電における温室効果ガスの削減であるなら、再生可能エネルギーとして木質ペレットを使用することは目的に合いません。木質ペレットバイオマスによる排出を米国の土地利用・土地利用変化及び林業(LULUCF)部門の「責任」と仮定するのは難しいでしょう。なぜなら、米国はパリ協定を採択しようとしていないし、京都議定書の締約国でもないからです。したがって、米国は日本で発電に使用される木質ペレットバイオマスからのLULUCF排出量を国際的に計上しないことになります。そうなれば、木質ペレットバイオマスによる排出量がどこの会計にも計上されないということになるのです。温室効果ガスの排出を削減しようとするならば、このような重大な抜け穴に頼るべきではありません。実際、温室効果ガスは大気中に排出されており、文書上だけから消えてしまっているのです。気候変動に関する政府間パネル (IPCC) は、科学者や市民とともに、木質ペレットのバイオマスをカーボンニュートラルとして計算することについて、「バイオエネルギーのためのバイオマスの生産と利用は、土地劣化のリスク、温室効果ガス排出、およびその他の環境開発目標について、マイナスの影響を与えうる。」と警告しました。
我々は、日本政府が気候変動の解決策を模索していることを称賛いたします。しかし、私たちが住むコミュニティのすぐそばで行われている木質ペレット産業を目撃する中で、森林を燃料として燃やすことを促進する政策は間違っているとわかりました。電気のために木を燃やすと大気中により多くの炭素が放出されます。つまりクリーンエネルギーへの道を進むのではなく、後退していくことになります。我々は、日本に対し、再生可能エネルギーの定義及び「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」から木質ペレット森林系バイオマスを除外することを求めます。

賛同団体:

Dogwood Alliance
Natural Resources Defense Council
John Muir Project
Center for Biological Diversity
Southern Forests Conservation Coalition
Earth Action, Inc.
Environmental Protection Information Center
Wild Heritage
Fern
Pivot Point
Partnership for Policy Integrity
North Carolina Climate Justice Collective
350 Triangle
Clean Air Carolina
Restore: The North Woods
Coastal Plain Conservation Group
Spruill Farm Conservation Project

関連情報)
バイオマス発電をめぐる要請書提出ー環境負荷が大きい事業はFIT対象外に
https://www.foejapan.org/forest/biofuel/200714.html

住民がパーム油発電を撃退!(京都府舞鶴市)

うれしいお知らせが飛び込んできました。京都府舞鶴市で日立造船が計画していたパーム油発電所。住民の猛反対でカナダの投資会社が撤退していましたが、6月23日日立造船の株主総会で住民に詰め寄られた常務取締役が「パーム油発電は今後しません」と明言しました。

粘り強い住民の反対が、ついに事業中止を勝ち取ったのです。

パーム油の需要拡大に伴うプランテーション開発は東南アジアにおける熱帯林破壊の最大の要因になっています。そればかりか、京都府福知山市で運転中の三恵エナジーのパーム油発電所では、騒音・悪臭で近隣の住民たちが悩まされています。

H.I.S.が宮城県角田市で進めるパーム油発電所はこのまま稼働してしまうのでしょうか? 国際的な注目が集まっています。>署名サイト:H.I.Sさん、熱帯林をこわすパーム油発電やめて!

この件について、日本のバイオマス発電について国際的な情報発信を続けている米NGOのマイティー・アースがプレスリリースを発出しました。地元の住民の方の声やFITの政策まで、全体的な状況をよく伝えていると思いますので、以下に和訳を掲載します。英語のオリジナルはこちらをご覧ください。

プランテーションのために伐採された山(マレーシア・サラワク州)

写真:パーム油生産のプランテーション開発のために皆伐された山(マレーシア・サラワク州)(c)FoE Japan


Mighty Earth
プレスリリース
2020年7月1日

 

日本最大のパーム油燃焼発電所建設計画が中止

環境グループ、政府に対しFITによる再生可能エネルギー促進政策の改革
HISに対しパーム油発電建設計画を中止するよう要請

国内外の環境NGOのグループは、本日、舞鶴市にパーム油を燃料とする発電所を建設するために設立された会社、「舞鶴グリーンイニシアティブス 合同会社」の解散にあたり、歓迎の意を表明する。物議を醸しているこの66メガワットの大規模バイオマス発電所に対しては、地元住民が、日本や国際的な環境団体の支援も得て、9カ月にわたり反対運動を続けてきた。

ウータン・森と生活を考える会」の石崎雄一郎氏は「これは熱帯林と舞鶴市民にとって大きな勝利でです。旅行会社エイチ・アイ・エスが宮城県で、京都府で三恵エナジーがパーム油発電所を進めていますが、両社に対して事業への関与をやめ、日本政府に対しては、気候変動を悪化させるバイオマス発電への補助金を通じた支援をやめるよう求めます」と話す。

舞鶴パーム油発電所はパーム油を燃料としていることが問題視された。日本は主としてインドネシアおよびマレーシアで生産されたパーム油を輸入している。絶滅危惧種オランウータンの生息環境も含む原生の熱帯林が失われつつあり、過去20年間にインドネシアとマレーシアの350万ヘクタールの熱帯雨林がパーム油生産のためのアブラヤシ農園に転換された。日本は年間約75万トンのパーム油を輸入しており、主に食品や製品に使用されている。もし舞鶴パーム油発電所が建設されれば、年間12万トンのパーム油を燃焼することになり、パーム油生産による環境影響はさらに大きくなる。

11,000人の反対署名など住民からの圧力を受けた事業の投資会社であるカナダ・トロントのAMPエナジーは、2020年4月にプロジェクトから撤退した。4月22日のアースデーに送られた書簡 の中で同社代表取締役のポール・エゼキエル氏は「今後、当社及び当社グループはパーム油を燃料とする発電事業の検討は行いません」と述べた。この中で、エゼキエル会長は「地元住民の強い反対」を含むプロジェクトの困難さを引き合いに出した。

AMPは脱退したが、工場の建設・運営を担う予定の日立造船が新しい投資会社を探すかどうか不明であった。しかし、2020年6月23日の定時株主総会で、舞鶴市民グループの森本隆氏が、日立造船の白木敏之常務取締役に同工場の建設計画について質問したところ白木氏は、「今後、パーム油への投資が行われる見込みがないため、日立造船はこのプロジェクトから撤退する」と回答。6月26日には舞鶴市長が同発電所建設の中止を表明した。

「数年間にわたるであろうと思われたこの発電所との戦いのために、私たちは総力を結集しました。たった9カ月で事業中止に追い込めたことは驚きです。地元の草の根活動と経験豊富なNGOからのアドバイスを組み合わせることで勝利を収めることができたと思います。世界はさまざまな問題を抱えていますが、他の地域の人々も社会を良い方向に変えることができると思います」と「舞鶴西地区の環境を考える会」の森本隆氏は述べた。

ゆっこ勝利ポーズ

長期的なトレンド

日本では、政府によるインセンティブが発電用のパーム油の使用を促進している。2012年には、固定価格買取制度(FIT)により、再生可能エネルギーの発電電力を電力会社に固定価格で買い取ることを保証する制度が開始された。それ以降、FITによるバイオマス発電に対する買取価格(主に木質ペレット、パーム核殻(PKS)、パーム油)は、24円/KWhと世界で最も高かった。

バイオマス発電のためにパーム油を燃やせば燃やすほど、世界のパーム油需要は増える。2018年3月時点で、日本のFITで承認されたパーム油発電所プロジェクトの総容量は1700 MWであり、もしすべてが建設されるとすれば、毎年340万トンのパーム油が燃やされることになる。これは、現在の日本のパーム油輸入量のほぼ5倍である。この需要の急増は、環境に大きな影響を与える恐れがある。

日本の環境NGOは、宮城県角田市に建設中である、舞鶴発電所に次ぐ規模のパーム油発電所とたたかっている。これまでに20万人の反対署名を集めた。この発電所は、日本の大手旅行会社H.I.S.の子会社であるH.I.S. SUPER電力によって建設されている。

「H.I.S.は旅行会社として、従来からボルネオなどでエコツアーを行い、大自然の魅力を体験しようと宣伝してきました。電気を作るために大規模に森林を破壊するパーム油を燃やすビジネスになぜ乗り出すのか、どうやって顧客に説明するのでしょう。私たちは、H.I.S.に対し、日立造船の先例に倣い、パーム油発電所への関与を放棄するよう求めています」と、FoE Japan、満田夏花氏は言う。

泥炭地(西カリマンタン)

写真:プランテーション開発のために開発された泥炭地。蓄えられていた膨大な量の炭素を二酸化炭素として放出する(インドネシア・西カリマンタン州)(c)FoE Japan

環境を破壊するバイオマス発電への補助が、気候変動を悪化させる

残念なことに、日本政府のバイオマス発電促進政策は、森林破壊や著しい温室効果ガス排出につながる燃料源を避けるためのセーフガードを設けていない。経済産業省が2019年に行った分析によると、パーム油の栽培、加工、輸送を含むライフサイクルを通しての排出量は天然ガスと同程度である。しかし、熱帯林が伐採されると、排出量は5倍になる。泥炭地が開発されると排出量は139倍にもなる。
パーム油の燃焼に加えて、日本のバイオマス政策は、森林の伐採や木材の燃焼も促進している。伐採後の森林の成長と炭素の再吸収は遅いため、気候変動に対する取り組みを妨げる。日本で燃やされる木材のほとんどは、ベトナムや北米から輸入される。
舞鶴パーム油発電所に国際的批判が集まる
日本のバイオマス発電所の急増に環境グループが警戒感を示す中、舞鶴パームオイル発電所は、国際的な注目を集めた。国内外の44の金融機関にあてた共同書簡では、8カ国25団体がこのプロジェクトおよびパーム油発電に反対した。
「気候変動を止めるための時間はあと数年ほどしか残されていない中、間違った気候変動対策に時間を浪費することはできません」と、マイティー・アースのシニア・キャンペーン・ディレクター、デボラ・ラピダス氏は言う。「パーム油を燃やすと、炭素を吸収するために必要な森林の破壊が加速します。木質バイオマスを燃やすと、何年分もの炭素の蓄えが、文字どおり煙になってしまいます。舞鶴のパーム油発電所を停止することは、バイオマスの誤った約束を終わらせるための重要なステップであり、真に再生可能な電力のソリューションに焦点を当てるのに役立つでしょう。」

FITの改革が急務

2020年4月、経済産業省は、環境団体の働きかけ応じて、固定価格買取(FIT)制度のもとで、新規に導入されるバイオマス燃料については温室効果ガスの評価を求めることとした。パーム油、木質ペレット、PKS(パーム核殻)などの従来から認められてきた燃料についても、温室効果ガスの排出を厳しく制限するよう求められる。

「日本の再生可能エネルギー促進政策を通じて、気候変動を悪化させる燃料に補助金を出すべきではありません」と、地球・人間環境フォーラムの飯沼佐代子氏は言う。「温室効果ガスの排出量が高いパーム油は固定価格買取制度から除外されるべきであり、経済産業省は木質バイオマスについても厳しい排出枠を採用する必要がありますあります。」

舞鶴パーム油発電所キャンペーン・ウェブサイト
https://maizuru-palm.org/

コンタクト:ウータン・森と生活を考える会 石崎雄一郎 contact-hutan@hutangroup.org

※参考サイト:
Q&A 何が問題?H.I.S.のパーム油発電
https://www.foejapan.org/forest/palm/190609.html

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写真上:パーム油生産のためのアブラヤシ農園(c)FoE Japan

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写真上:アブラヤシの実 (c)FoE Japan

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※パーム油生産のためのアブラヤシ農園開発は、大量に炭素が蓄積されている泥炭地をも開発し、インドネシアでたびたび発生する森林火災の原因とも指摘されている。(c)WALHI リアウ(FoEインドネシア・リアウ支部)

山林から恩恵を受けているということ~鴨川市田原地区メガソーラー計画を取材して

○再生可能エネルギーと開発

福島原発事故以来、原発への依存度を下げるべく、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の割合を増やすことが決定されました。固定価格買取制度もあいまって、国内では大規模な開発を必要とするメガソーラーの建設が多く計画されています。

再エネの普及は、気候変動の原因である温室効果ガスを減らすための有効な手段でもあります。しかし現在、再エネの名の下に森林を伐採し、環境を破壊するような開発事例(以下、乱開発)が見られるようになってきました。

FoE Japanは、再エネの普及の名の下で山林を破壊することは、生物多様性の保全の観点から、また、気候変動の観点からも、森林は温室効果ガスの吸収に重要な役割を果たすため看過できないものであると考え、再エネによる乱開発の現場の取材を始めています。(FoE Japanでは北杜市も訪問

その一つとして今回、千葉県鴨川市に計画されている、メガソーラーの建設予定地を訪問しました。 (取材日時:2019年2月15日)

○鴨川市、田原地区、メガソーラー計画の主な問題点

千葉県鴨川市におけるメガソーラーは、田原地区という、鴨川市の玄関と言えるような場所に計画されています。同計画は、千葉県による林地開発許可審査中で、まだ着工はされていません。詳細はこちら

同計画の問題点として挙げられているのは、大規模な土地改変です。東京ドーム32個分にもなる広大な山林を平坦にするため、1,300万立方メートルの山を削り、その土砂で谷を埋め立てる予定であると事業者は言います。10トンのダンプトラック約200万台にもなる土砂も移動するそうで、流れる川や沢も埋め立てられる予定となっています。流れる川や沢が埋め立てられた場合、その川や沢に流れていた水が行き場を無くし、地中に水分が含まれていくため、地盤の脆弱化の恐れが考えられています。また、建設予定地は林野庁により「山地災害危険地区」に指定されている急峻な土地で、開発自体も危険や困難が伴う可能性があります。さらに、10万本以上の木が伐採されるとの意見もあり、この開発による大規模な環境破壊は免れません。

削られる予定地の山なみ
事業計画地映像(鴨川の山と川と海を守る会より)

○山林は漁業にとって必須

「山の緑から海に流れる豊富な栄養分は魚にとって大切だ。それを知らない漁師はいない。生計に関わる問題であり、本事業は反対だ」

とてもシンプルなコメントを述べたのは、年間25億円の販売高、組合員数約1400人の鴨川市漁業協同組合を統括する松本ぬい子組合長(以下、松本さん)。「今回の事業は環境破壊である」とさらに付け加え、山と海の関係を強調する松本さんの言葉からは、鴨川で漁業を営む人々は人間が生きるために長年自然を大切にし、持続可能な環境を作り上げてきたことを感じます。

松本ぬい子組合長

○山林の開発は、地主さんだけの問題ではない、公益性がある

現場で説明をする今西さん

鴨川の海と川と山を守る会(以下「守る会」)代表の勝又さんは、メガソーラー開発に対して、地元民の動きに懸念を示しました。「建設予定地は5区の財産区だったのだが、40数年前にリゾート開発会社へ売却している。その後、転売を重ねてきた山なので愛着がわかないのではないか。これは地主さんだけの問題ではない。そこに暮らして田んぼを耕作する人、川の水を利用する人、魚を取る人、それらを利用し、山の恩恵に浴する鴨川市民全体の問題だ」

勝又さん

同じく守る会の今西さんは「市はほとんどなにもしていない。これだけの規模の山を削り、谷を埋めることは、エネルギー問題とは関係なく通常の人の感覚では実行できないはずだ」と憤ります。

「山に降った雨が山林で浄化され川に流れ、そこに住む動物、生命の多様性が維持されている。これらは公共性があるものであり、都市部の方々も関係している。地主さんの意向で開発を決める筋合いのものではない」と今西さんは言います。

守る会では「エネルギーの問題については多様な意見があるが『この場所とこの規模』はダメという言い方をしている」と、統一見解はあると勝又さんは言います。また、「ようやく2018年2月ころから市民や議員の意識が変わり始めたと感じる。市民の関心が少し出てきたからこそ、未だに林地開発許可の審査に時間がかかっていて下りていないのだと思う」と、市民活動の成果についても分析していました。

◯市議会の雰囲気は?

佐藤カズユキ議員

鴨川市議会の中で本事業に唯一反対表明している、佐藤カズユキ議員に話を伺いました。

佐藤議員が反対を表明する理由についてお聞きしたところ、

「漁師の家に生まれ、自然を守ることを公約に掲げている。今回の事業は環境破壊である」

と自然破壊の懸念に加え、

「農業、漁業、林業の1次産業、観光が特徴の当市であるが、本事業はいずれにも大打撃を与える可能性がある。一時的な税金収入よりも失うものの方が大きいと思う」

と、経済的な懸念も理由として挙げていました。

これだけの問題のある事業に他の議員はなぜ表立って反対しないのかについて質問したところ、「事業に賛成の議員もいるが、個人的には反対だと言う議員が多い。しかし、個人的には反対としながらも、あくまでこの問題は市に許可権限はなく、国や県の問題であって市の問題ではないと言う議員が多く、個人の事業であることから、市や市議会が賛否を示すものではないという意見も多い。これは鴨川だけの問題ではないが、地方議会の議員の多くは国の方針にそのまま従う傾向がある」

と、議会の中で自らの意見を発することが困難であることを憂慮の声を漏らしました。

鴨川の市議会の構成については、

「鴨川市議会は圧倒的に自民系が多い。どこの政党であっても、漁業、農業、林業の1次産業が基幹産業である鴨川市を守るのは当然であるが、外部からの投資を優先させるなど、地元産業を守る動きにはなっていない」

との回答。

さらに、「良い再エネ、悪い再エネがある。本事業のような悪い再エネが再エネ全体の評判を落とすことになるのを懸念している」と話し、再エネの固定価格買取制度についても「再エネの使い方をしっかり国が制度化すべきだったと思う。再エネは、再エネ賦課金など国民が負担している公共の事業である。民間の事業利益主義だけ考えると今回のようにおかしくなってしまう」と、懸念を示していました。

加えて、「個人の事業だから私たちは何も言えませんという態度を行政がとっているのが問題。議会内での勉強会も進んでいないし、国からの通達がないと動かない。トップの方の意見が大きく左右する」

と、トップダウンでの動きにしか対応しない鴨川市にも問題があるといいます。

○市長のやるべきことはなにか

鴨川市役所訪問
亀田鴨川市長(左)

今回の訪問では、市民団体や市議会議員の他、2017年3月から鴨川市長を務める、亀田郁夫市長(以下、市長)との会合も実施しました。

鴨川市議会が昨年12月20日、国に対して提出した意見書『大規模太陽光発電施設の開発に対する法整備等を求める』には「自然環境、景観への影響・・・土砂災害等自然災害発生の懸念・・・市民生活を脅かす事態となっている」と説明があり、鴨川市としても、市長としても本事業は「自然環境、景観・・・災害の観点から問題である」と考えるのかを問うたところ、市長は以下のように答えました。

「個人的にはいろいろな意見があるが、法令等の基準に則り対応していく」。加えて、「鴨川市の環境破壊は市への大きな打撃となるのでは」との質問に対しては、「制度の範囲内で対応していくしかない。事業者としても法令遵守を前提として申請している。市としては現行法令の中でできることとして、市民の皆様に対して説明会を開催することや、市民の皆様の疑問に文書で答えることを求めたり、事業終了後あるいは災害等に対応するための積立金をするよう事業者に要請してきたところである」と市民との対話を促しつつも、他の地方行政にあるような条例を市として制定するなどの対策をする構えではありませんでした。

本事業のメリットについて市長は、「市としてメリットの有無で判断するものではないが、地域には短い期間経済的メリットはあろう。市内には、太陽光発電事業者によりミニトマトの温室栽培が行われているところもある」とあくまで中立性を強調しました。

一方で、本事業は鴨川市にとって失われるものについては「地域が担保できる積立金をするように事業者と合意を得たい」と事業者との合意形成に関しては積極的な姿勢は示すものの、本事業のデメリットについての言及はしませんでした。

最後に、「市としてそれ以上対応しないのは他に課題があるからか?」と、鴨川市における福祉や経済など他の課題が優先されて、本事業に関連した対応ができないのかという問いに対して市長は、「他の案件によって今回の事業への対応ができないということではない。繰り返しとなるが、法令に則して中立に対応していく」と否定しました。

と、上記のような形で面談は終了しました。市民や事業者との対話は重要視をしつつも、乱開発の規制を求めるような条例の制定や法令以上の対応には否定的でした。本事業は、鴨川市の基幹産業を脅かす課題とは捉えていないようです。

○鴨川市の向かうべき方向

今回は鴨川市のメガソーラー建設計画についての視察でしたが、メガソーラーへの懸念だけではなく、鴨川市の前向きな側面も発見しました。

守る会の勝又さんは、「鴨川市は移住者が多く自分で得られるものを自分で得る暮らしがしたい、自然の中で暮らしたいという方が多い。ジビエ、サーフィンも魅力であり、半分第一次産業、半分他の仕事(半農半X)みたいな生活に興味がある方々に良いまちである」と自然と触れ合いながら、自分の興味のあることに取り組める受け皿が鴨川にはあると強調されていました。

また、漁業組合長の松本さんも、「他地区は苦戦している中で当漁協は13年間黒字、若い方も入れ替わり入ってくるし経験者がやりかたを教えるという雰囲気が次世代を育てているようだ」と、鴨川の漁師も外からの移住者への対応も積極的で、これがモデル化されはじめ、鴨川のように漁師が増えることを「鴨川方式」といわれることがあるといいます。新しい風が吹いている鴨川でメガソーラー開発に対して「次世代のために反対。若い人たちの姿があるからこそ、想像がつく」と松本さんは強調します。

○自然とともに生きるとはなにか

今回の訪問で多くの方にお話を伺い、鴨川市における本事業は、再エネへの悪い印象が市民の間で広まるのではないかという懸念を感じました。国際環境経済研究所前所長の澤昭裕氏によると、ドイツでは太陽光発電の「施設建設に当たって森林等の伐採を行えば、その6倍の植林を行わないといけない」そうです。大規模な開発を伴うメガソーラー建設に頼らずとも、植林など対応が難しい耕作放棄地や一般住宅、工場などに設置する再エネを普及させるなど、やるべきことは他にもあります。

大規模に土地を削り、埋めるような事業は、再エネ事業に関わらず根本的に問題です。今回の訪問で、鴨川の経済を支える漁業組合を始め、一部の議員にも大規模開発に対する問題意識があり、自然環境の大切さが共有されていること強く感じました。長年維持されてきた自然環境は失ってから気づくのでは遅いのです。さらに、これは地域の問題ではなく都市部に住む人々も自然の利益を受けており、責任があると感じます。固定価格買取制度や環境影響評価法などの制度は短い期間の利益や影響は考慮していますが、さらに30年50年以上先を見据えるような長期的な視点が必要です。漁業や農業を支える自然保護の大切さを改めて感じ、行動していく必要があるのではないかと感じた取材となりました。

「計画概要」(鴨川の山と川と海を守る会調べ

場所:千葉県鴨川市、鴨川有料道路西側、清澄山系の山林

面積:事業面積250ha, 伐採面積150ha

発電規模:130mw

事業者:AS鴨川ソーラーパワー合同会社

地権者:Aスタイル

造成:大蓉工業

設計:ユニ設計

発電設備:日立製作所

(2019年2月 高橋英恵、松本光、天野遼太郎、田渕透)

【COP24】サイドイベント報告:Reclaiming Power 〜化石燃料からのフェーズアウトを目指して〜

12月4日、Friends of the Earth インターナショナル(FoEI) は、他のNGOとともにCOP24の会場でサイドイベント「“Reclaiming Power: The People’s Global Movement to Phase Out Fossil Fuels for Real Climate Action(パワーを取り戻そう!真の気候アクションのための世界的な脱化石燃料の動き)」実施しました。同イベントで発せられた、世界各地の仲間からのメッセージを紹介します。

 

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Philippine Movement for Climate Justice(フィリピン)の代表イアン・リベラ氏は「中国、韓国、日本の石炭火力プロジェクトへの融資は、誰も望んでいない。」と発言。

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FoE EWNI(England, Wales, North Ireland)のレイチェル・カナーリー 氏は「脱石炭だけでは安心はできない。石油、LNGといった化石燃料も採掘時の環境への大きな悪影響、採掘場付近ではパイプラインの設営を巡っての問題がある」と発言。FoE EWNIはフラッキング(ガスの採掘方法の一種で、多大な環境負荷が発生する)に対するキャンペーンを展開しています。

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FoE ナイジェリアのワリ・オバワンジュ氏からは「地産地消の、再生可能なエネルギーが必要だ。LNGは利権争いなど紛争を地域にもたらしている。」とのメッセージがありました。

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また、参加者から化石燃料への代替案として、原発利用が提案されましたが「原発は、その建設過程から運営に至るまで非民主的に進められる。また、放射能に対する対処法がまだない。原発国フランスでは放射能漏れによって、何日も水が飲めないということが起きた。」との回答が登壇者からありました。

イベントでは、石炭をはじめとする石油や天然ガスといった化石燃料、原発、メガソーラー等、環境に悪影響を与え、人々の生活を脅かすエネルギーを“Dirty Energy(汚いエネルギー)”として批判。FoE グループは非民主的で、環境負荷が大きく、気候変動を加速させるエネルギーを”汚いエネルギー”であるとして反対しており、もちろん原発にも反対しています。

日本が直面しているエネルギーの問題は、今、世界のどの国でも直面している問題なのだと肌で感じます。

みなさん、これでも石炭を、化石燃料を、原発を進めますか?

これら“Dirty Energy”を「必要悪」と捉える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、誰かの犠牲の上に成り立つエネルギーは、本当に必要なのでしょうか?

危険で有害なエネルギーに拠らない経済の仕組みや社会のあり方に、私たちは正面から向き合わなければならないと感じました。

(高橋英恵)

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<参加報告>全国メガソーラ問題シンポジウム

「全国メガソーラ問題シンポジウム」に参加したので報告します。

日にち:2018年10月8日
場所:長野県茅野市茅野市民館
主催:全国メガソーラー問題シンポジウム実行委員会、NPO法人地球守

参加者(筆者推定):約500人
参加者層(筆者推定):地元市民、関係者

□講演内容

「FIT法の何が問題か?」佐久裕司さん

「現代土木の限界と災害、大地環境の仕組みから、メガソーラの何が問題を診る」高田宏臣さん

「メガソーラーをやっつけろ!闘う住民のための十訓」梶山正三さん

 

□各地報告とパネルディスカッション

①長野県諏訪市四賀ソーラー事業
②千葉県鴨川池田地区(田原地区)メガソーラー事業
③静岡県伊豆高原メガソーラーパーク発電所
④愛知県知多郡東浦町メガソーラー計画
⑤三重県四日市足見川メガソーラー計画

 

・伊豆高原案件では、林地開発許可の審議会を4回も実施したものの、許可されてしまった。現状では不許可となることはありえない許可制度である。その中で4回の審議回数になったのは活動の成果ではないか。

 

・太陽光発電事業に関わる規制、条例、法律は以下①~④である。

①環境アセスメント

・全国で太陽光を対象にしている県は長野県、山形県、大分県の3件のみ

・その他なんらかの対象としている都道府県は29ある

・事業者自らが実施するため、都合の悪いチェック等は実施しないという問題点がある。

②林地開発許可

・通常許可されてしまう制度となっている

③市条例(ある場合)

・伊東市の例では、市長の同意が必要としているが、罰則規定がないと無視されてしまうという問題がある

④改正FIT法

・2016年改正FIT法では接続契約をしていないと許可が降りなくなった

・28GWが失効し、22GWが残っている

・法令違反が見つかれば経産省が調査し、取り消しできることになった。伊豆では市長の不同意のままに実行することは違法である、とする活動を実施している

 

パネルディスカッションのまとめでは、このようなメガソーラ問題は原発と同じ構図であり、それは大手資本、海外資本によるものであること、地方にお金は落ちないこと、自然は破壊されること、土地問題があることとした。

 

□聴講した所感

このシンポジウムで報告された5つの事例は環境破壊型、地元非同意型ソーラ発電として許されるものではない。太陽光発電事業で問題を抱える事例はこの他に多数あるが、地元住民の同意が得られていない計画はなんらかの問題があると考える。まず真っ先に改善すべきところは事業者による正確な情報開示と丁寧な説明であり、その上で何が問題かを議論すべきである。しかし現状では情報がないのに問題点を指摘しなくてはならないという不条理を感じる。そんな中、各地の活動では地道に情報収集を行い、整理をしているのは大変なことである。

 

パネルディスカッションでは、現状の太陽光発電事業に関係する制度の整理をしていただき、「環境破壊型」ソーラー発電計画を止めるためのヒントや力の入れどころを示していただいたのが良かった。

 

FoE Japanとしては引き続き、持続可能なエネルギーとはなにかを考えて活動していきたい。

 

<プログラム:主催者HP>
https://megasolarsympo.wixsite.com/-solar-sympo/blank-2

 

(2018年10月 田渕)