今さら石炭火力の延命計画!?「GENESIS松島計画」の環境アセス配慮書に意見を提出しました

こんにちは。FoE Japanの高橋です。

9月28日、電源開発株式会社(以下、J-POWER)が、長崎県西海市の松島石炭火力発電所の一部の設備を、石炭ガス化複合発電の設備を備え付けるという計画について、計画段階環境配慮書への意見募集を開始しました。

この計画は、1981年から稼働してきた旧式(超臨界圧)石炭火力2機のうち第2号機に、石炭をガス化する設備をつけ、今後も使い続けるというものです。

この事業者であるJ-POWERは、昨年10月の菅前首相によるカーボンニュートラル宣言以降、加速化するカーボンニュートラルの流れを受け、2021年2月に「J-POWER “BLUE MISSION 2050”」を発表しました。そして、立て続けに、2021年4月には、J-POWERの中期計画において、既存設備にガス化設備を付加することにより、水素を利用した高効率な発電システムへの「アップサイクル」を進めるという「J-POWER GENESIS Vision」を発表しました。今回の松島火力発電所での計画は、その「アップサイクル」の第一号の計画です。

気候危機が加速する中、これ以上の気候変動による深刻な被害を防ぐためには、迅速かつ確実に温室効果ガスの削減につながる対策が求められています。今年の8月には、IPCCの第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)が公表され、それを受け、国連事務総長アントニオ・グテーレス氏は、

「2021年以降、石炭火力発電所は新設されるべきではないこと」

「経済協力開発機構(OECD)加盟国は2030年までに、他のすべての国々も2040年までに、既存の石炭火力発電所を段階的に廃止しなければならないこと」

「各国は化石燃料の新たな探査と生産をすべて中止し、化石燃料への補助金を再生可能エネルギーに振り替えるべきであること」

を訴えています。

また、いよいよ来週からのCOP26の議長国英国のジョンソン首相も、10月13日の電話会議にて、岸田首相に対し国内の石炭火力をやめるよう要求しています。

このような背景も踏まえ、FoE Japanもこの「GENESIS松島計画」に対し、下記の通り意見を提出しました。

PDFはこちらです。

1. 石炭火力事業はそもそもおこなうべきではない。パリ協定1.5℃目標の達成を遠ざける。

気候変動による深刻な被害が広がりつつある現在、気候変動によるこれ以上の損害を防ぎ、パリ協定の1.5˚C目標達成のためには、迅速かつ確実に温室効果ガスの削減につながる対策が求められている。今年6月に開催されたG7では、G7各国の首相は石炭火力を最大の温室効果ガス排出源として認め、国内電力システムの大幅な脱炭素化や、石炭火力輸出に対する公的支援の停止にコミットしたさらに、2021年8月に公表されたIPCCの第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)を受け、国連事務総長アントニオ・グテーレス氏は下記のことを訴えている

  • 2021年以降、石炭火力発電所は新設されるべきではないこと。
  • 経済協力開発機構(OECD)加盟国は2030年までに、他のすべての国々も2040年までに、既存の石炭火力発電所を段階的に廃止しなければならないこと
  • 各国は化石燃料の新たな探査と生産をすべて中止し、化石燃料への補助金を再生可能エネルギーに振り替えるべきであること。

石炭火力発電所からの脱却は、世界の要請である。石炭ガス化複合発電という形であっても、石炭を使用し続けることにはかわりなく、気候危機をさらに加速させるものであると言わざるをえない。

2. 同事業はJ-POWERのカーボンニュートラル方針と矛盾する。

2050年カーボンニュートラルを約束した「J-POWER “BLUE MISSION 2050”」の名の下、新たな化石燃料の探査と生産を伴う同事業は、「ゼロエミッションウォッシュ」そのものである。真にカーボンニュートラルを目指すのであれば、石炭の使用を前提とした石炭ガス化複合発電や、石炭由来の「CO2フリー水素」の製造、新たな化石燃料の探査と生産を伴うアンモニアに依存したゼロエミッション火力ではなく、再生可能エネルギーによって2050年にCO2ゼロエミッションを目指すべきである。

3. 設備の「アップサイクル」による温室効果ガス排出削減量の定量的データが示されていない.

本事業は、カーボンニュートラルに向けた流れの加速化に伴い、発電方法を改善するものとして計画されているが、どれほど温室効果ガス排出量が削減されるのかの具体的数値が示されていない。現状の温室効果ガス排出量のほか、設備の「アップサイクル」による温室効果ガス排出削減量の定量的データを記載するべきである。

4. 温室効果ガスの排出量が、配慮事項として考慮されていない。

配慮書では、「アップサイクルにより効率の向上を図り、発電量あたりの二酸化炭素排出量を低減することから、配慮事項として選定しない」との理由から、計画段階配慮事項から温室効果ガス等の項目を削除している。気候変動が加速する中、どのような事業であれ、温室効果ガスの測定が求められているため、温室効果ガスの排出量も、計画段階配慮事項に選定すべきである。

5. 複数案の検討結果が明記されていない。

配慮書では、「複数案の設定を検討したが、環境影響に有意な差がある複数案はなく、計画段階環境配慮書における事業計画案は単一案とした」と記載されているが、太陽光や風力、潮力などの再生可能エネルギーによる発電方法を検討すべきである。なお、気候変動が加速する中、温室効果ガスの更なる増加をもたらす化石燃料やバイオマスによる発電方法や、放射性廃棄物の問題がある原子力発電については、検討案として入れるべきでない。

6. 事業想定区域の動物の生息調査について、現地確認がなされていない。

事業想定区域の動物の生息調査について、文献その他の資料調査に留まっている。事業区域内の動物の生息調査は、現地確認もすべきである。

7. 事業で検討されている技術はいずれも環境負荷の高いものである。

本計画は、1981年に石炭火力発電所として稼働していた松島2号機(出力50万kW)を、石炭ガス化設備を新設し、また、アンモニアやバイオマスも燃料として活用しながら、将来的には石炭由来の「CO2フリー水素」をつくってカーボンニュートラルと目指すというものである。しかし、同計画で予定されている技術には、どれも問題が多い。それぞれの問題点について以下に示す。

  • ガス化施設

2012年以降大崎クールジェンにて実証実験されてきたガス化技術を、今回初めて商用化するとしている。しかし、石炭をガス化して効率を高めたとしても、発電時にCO2を排出することにはかわりないため、問題である。

  • CCS

「ガス化技術は、CCUS/カーボンリサイクルと高い親和性を持つ」と書かれているが、本配慮書において、発電所から排出されたCO2の分離回収設備については新設設備の一覧に記載されておらず、また、温室効果ガスの回収率はどの程度なのか、回収したCO2をどこに貯留するのか、どのように再利用するのかの記述が一切見当たらない。そもそも、CCSは、回収した炭素を埋めるために広大な土地を必要とする。さらに、仮に石炭火力発電所にCCSを設置しても、温室効果ガスの回収率は9割程度と完全ではなく、回収に際しては莫大なエネルギーが必要となる上に、現時点では実用化には高いコストがかかるため、商用化は現実的でない。

  • アンモニア混焼

カーボンニュートラルを実現するために、将来的にはカーボンフリー燃料である燃料アンモニアの混焼をあげている。しかし、水素、燃料アンモニアについては、現状、化石燃料から生成される予定であることが、官民協働燃料アンモニア協議会の中間取りまとめ資料にて記載されている。化石燃料から水素や燃料アンモニアを生産する際には、化石燃料採掘時や水素やアンモニア生成時多くの温室効果ガスを排出する。この時に排出された温室効果ガスを回収した「ブルー水素」「ブルーアンモニア」も検討されているが、回収時に莫大なエネルギーを使うため、石炭よりもブルー水素・ブルーアンモニアの方がカーボンフットプリントが多くなるという研究もある。また、海外で燃料アンモニアや水素を生産し、それを輸送することになると考えられるが、現時点では輸送時にも温室効果ガスが発生する。以上の観点から、ライフサイクル全体で見た際に、温室効果ガスを低減できていない燃料アンモニアは、発電の燃料として使用すべきでない。

  • バイオマス

混焼のための燃料として、アンモニアの他にもバイオマスがあげられている。バイオマス発電は、燃料となる植物の燃焼段階でのCO2排出と、植物の成長過程における光合成によるCO2の吸収量が相殺されるとされ、「カーボン・ニュートラル」であると説明されることが多いが、これは「燃焼」という一つの段階のみをとりあげ、燃料を生産した植生が元通り再生されるという前提にたっている。バイオマス発電は、燃料の栽培、加工、輸送といったライフサイクルにわたるCO2排出を考えれば、実際には、「カーボン・ニュートラル」とは言えない。また、燃料の生産にあたり、森林減少など土地利用変化を伴う場合がある。その場合、森林や土壌に貯蔵されていた大量の炭素が、CO2の形で大気中に排出されることになる。つまり、バイオマス発電の促進が、地表での重要な炭素ストックである森林や土壌を破壊し、むしろCO2排出の原因となってしまうこともある。さらに、燃料生産のために伐採した森林が、もとの状態に回復したとしても、回復には数十年以上かかることが多く、それまでは森林に固定化されていた炭素が燃焼により大気中に放出されるため、大気中のCO2の増加に寄与していることになる。 

  • “ネガティブエミッション”の認識の誤り

配慮書では、「バイオマスの使用に加えて、CCSを実施した場合、光合成を通じて大気中のCO2を固定したバイオマス燃料により発生するCO2を分離・回収して地中に埋めることになるため、発電所の運用によりCO2排出量を実質ゼロにする”ネガティブエミッション”が可能」書かれている。しかしこの考え方は、数万年単位の時間をかけて作られた化石燃料を燃焼することによって排出されたCO2は、数時間〜数百年の時間のサイクルで循環する大気・海洋・陸地における生態系による炭素循環とは違う時間軸での排出であり、生態系による炭素循環の中に組み込まれないという重要な性質を見落としている。

*カーボンニュートラルの問題点については、次を参照されたい。
・FoE Japan, 「“カーボンニュートラル”のまやかし」, 2021/10/18
・FoE Japan, 翻訳レポート発行『カーボンユニコーンを追いかける〜炭素市場と「ネットゼロ」のまやかし〜』」, 2021/10/25

8. その他、意見募集のあり方について

意見提出のあり方について、今回の配慮書への意見提出方法は、郵送のみを想定したものとなっている。より広範な市民からの意見を募集する観点から、郵送だけでなく、電子メール、電子フォーム等を活用することが望ましい。方法書以降の手続きでは、意見募集方法を改善することを要望する。

締切は10月29日!皆で意見を出そう!

本件について、気候変動に取り組むたくさんの仲間が意見を出しています。

意見提出の期限は今週金曜日です。提出方法は、今回郵送のみと限られており、期限までの時間はわずかですが、実際に配慮書に目を通したり、他の団体の意見もぜひ参考にしたりして、意見を届けましょう!

事業者が公表した計画段階環境配慮書はこちら

環境アセスメント GENESIS松島計画(J-POWERのHP)

他団体の提出意見等についてはこちら

・気候ネットワーク:「GENESIS松島計画」に対する環境アセスへの意見提出を(2021/10/15)

・350 New ENEration:https://www.instagram.com/350neweneration/

(高橋英恵)

鉱物資源の需要拡大の先には?――エネルギー基本計画の素案を読む(4)

気候危機への対策として化石燃料からの脱却が急務な中、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の普及が急速に進められようとしています。こうした動きの中で蓄電池などの原料として需要拡大が見込まれるのがリチウム、コバルト、ニッケルなどの「鉱物資源」。エネルギー基本計画の中でも、その安定確保に関する項目が盛り込まれています。しかし、鉱物資源の開発現場では、これまでも生態系や先住民族の生活・文化の破壊など、さまざまな問題が起きてきました。今回は「カーボンニュートラル」の裏に潜む、もう一つの危機に目を向けてみます。

結局、海外依存の鉱物資源確保?

まず、鉱物資源について、第6次エネルギー基本計画(素案)の中では、一体どのようなことが書かれているのでしょうか。

以下のように、カーボンニュートラルの実現のために再生可能ネルギーやEVへの移行が不可欠であること、そして、その中で鉱物資源の安定供給が重要との認識が示されています

鉱物資源は、あらゆる工業製品の原材料として、国民生活及び経済活動を支える重要な資源であり、カーボンニュートラルに向けて需要の増加が見込まれる再生可能エネルギー関連機器や電動車等の製造に不可欠である。特に、エネルギーの有効利用の鍵となる蓄電池、モーター、半導体等の製造には、銅やレアメタル等の鉱物資源の安定的な供給確保が欠かせない。」(p.82)

一方、以下のように、海外からの輸入に依存せざるを得ない鉱物資源を安定的に確保するには、さまざまなリスクがあることも認識はしているようです。

「鉱種ごとに埋蔵・生産地の偏在性、中流工程の寡占度、価格安定性等の状況が異なり、上流の鉱山開発から下流の最終製品化までに多様な供給リスクが存在している。」(p.82)
「資源ナショナリズムの高まりや開発条件の悪化等により、資源開発リスクは引き続き上昇傾向にある。」(p.82)

しかし、ここに示されたリスクはあくまで日本側の主観によるリスクであり、後述するような開発現場で影響を受ける人びとや自然環境の視点から見たリスクは一切書かれておらず、一面的なものと言えます。

日本側が特定しているリスクの中で、どうやって必要な鉱物資源を確保していくのか――その方策については、以下のようなことが挙げられています。

・特定国に依存しない強靭なサプライチェーン構築
・リサイクル資源の最大限の活用、製錬等のプロセス改善・技術開発による回収率向上等のため投資を促進
・レアメタルの使用量低減技術やその機能を代替する新材料開発に向けた取組の更なる支援(p.83)

これらを見ると、海外からの調達が前途多難であることから、日本国内での循環型社会の重要性を認識しているようにも見えなくはありません。ただ、今後の技術開発にかかっているという点で不確実性があることは否めず、海外の、ひいては地球の資源をいつまで採掘し続けるのか――という疑問が生まれてきます。

具体的な数値としては、以下のようなものも挙げられています。

・ベースメタル(銅、亜鉛、鉛、アルミニウムなど)の自給率を2018年度の50.1%から2030年までに80%%以上に引上げる。そして、2050年までに日本企業が権益をもつ海外の鉱山等からの調達を合わせて国内需要量相当にする。(p.83)(下線は筆者による)

一見、自給率をほぼ100%まで引き上げるのかと歓迎したくなりますが、下線部はすなわち、日本のカーボンニュートラル社会を実現するため、2050年まで海外での採掘を続けますと言っているのと同じです。
なお、レアメタル(リチウム、ニッケル、クロム、コバルトなど)に至っては、自給率について一律の目標は設けず、「鉱種ごとに安定供給確保に取り組む」(p.83)とされており、具体策は示されていません。

こう見ると、これから需要が急増する鉱物資源の大部分を結局は海外からの調達に頼る、つまりは、海外で資源を掘り続けて日本に運んでくることになってしまいそうです。しかし、それで鉱物資源の採掘現場の環境や人びとの生活、そして私たちの住まいである地球は持続可能なのでしょうか。

2050年に必要な鉱物資源は倍増以上?!

日本だけではなく、世界が現在取り組んでいる気候変動対策の中でどれだけの鉱物資源が必要となるのか――世界銀行グループが2020年5月に発表した報告書「気候変動対策と鉱物:クリーン・エネルギーへの移行に鉱物が果たす役割」では、パリ協定の2度目標達成のため、太陽光や風力等への移行とその蓄電技術に必要とされる鉱物について、2050年時点での予測年間生産量が示されています。(図1)

図 1.  2度シナリオ達成のために求められるエネルギー技術に必要とされる2050年の年間鉱物需要予測(左:2018年生産レベルとの比較(%)/右:2050年の生産量予測(百万トン))
出典:世界銀行グループ報告書「気候変動対策と鉱物:クリーン・エネルギーへの移行に鉱物が果たす役割」(2020年5月)p.73

この左側のグラフの中で目を引くのは、グラファイト、リチウム、コバルト(左1~3本目の棒)の年間生産量が2050年までに2018年比で450%以上になるとの予測が出されていることでしょう。これは、リチウムイオン電池の需要増加が見込まれ、その構成材料として必要なためです。

一方、同じくリチウムイオン電池の材料として欠かせないニッケル(左から6本目の棒)は、2018年比で99%の生産量となっています。この99%というニッケルの生産増加割合については、他の鉱物より小さいからと言って、安心できるものではないという点に注意が必要です。

2050年のニッケル年間生産量は226.8万トン(右側グラフを参照。左側から3本目の棒)と予測されており、2018年時の生産量230万トンとほぼ同量のニッケルの生産が求められるということになります。世銀の同報告書(p.82)によれば、2050年までに使用済み製品からニッケルを100%回収し、新しい製品向けにリサイクル利用ができるようになったとしても、必要とされる一次ニッケル(鉱石を製錬所等で処理した後の生産物)の量は23%しか抑えることができないと予測しています。

このような予測から懸念されるのは、気候変動対策が進められていく中で、どの鉱物資源であれ、開発が継続・拡張され、これまで開発現場で地域コミュニティが経験してきた被害が繰り返し起こる、あるいは、むしろひどくなる可能性です。

土地、環境、生活、命を奪ってきた鉱山開発

下の地図は、2021年3月に英の市民グループが出した報告書に掲載されているもので、太陽光や風力発電、蓄電等に必要な鉱物資源の開発に関連して、地域コミュニティが問題の解決を求めている現場をプロットしたものです。すべてをプロットしたものではありませんが、森林伐採、生物多様性の喪失、土壌浸食、水問題、大気汚染、鉱山廃棄物といった環境問題から、児童・強制労働、地域紛争、汚職、健康被害、ジェンダーへの影響、軍事化、労働問題といった社会問題まで、世界各地でさまざまな問題が引き起こされていることが見て取れます。

図 2. 移行に必要な鉱物資源に関連してコミュニティーが問題解決を求めている一部のサイト
出典:英War on Want報告書「気候変動対策と鉱物:クリーン・エネルギーへの移行に鉱物が果たす役割(A Material Transition: Exploring supply and demand solutions for renewable energy minerals)」(2021年3月)p.16-17

実際にどのような環境社会問題が起きているのか、事例を見てみましょう。

下の写真は、FoE Japanが調査を行なってきたフィリピンのニッケル鉱山の様子を遠目から見たものです。

そして、この鉱山周辺をGoogle Earthで見ると、このように黄土色の広がりが確認でき、森林が伐採されて山肌が露出しているのがわかります。(中央に見える茶色は製錬所の鉱滓ダム)

このニッケル鉱山が面している海岸沿いの風景は、こちらです。

このフィリピンのタガニート・ニッケル鉱山(4,862.75 haの採掘許可。2034年まで)では、1987年から大平洋金属と双日が出資する日系企業が採掘を開始。その後、中国や台湾の企業も進出してきたため、どんどん採掘現場は広がるばかりです。そして、2013年からは住友金属鉱山と三井物産が出資する日系企業が国際協力銀行(JBIC)の支援を受けて、製錬所の稼働も始めました。

この開発の波の中で企業が鉱山サイトを拡張する度、20年以上もの間に少なくとも5回は居住地から追い立てられてきたのが先住民族ママヌワの人びとです。鉱山企業が移転地を用意したのは2011年になってからでした。

「これが最後(の移転)と言われている。ここの生活はコンクリートの家で、電気やテレビもあって、よく見えるかもしれないね。でも、決して自分たちが望んでいた(発展の)形ではないんだ。ここでは農業ができないし、木も山に行かないとない。海は(鉱山サイトから流出した)赤土で汚れてしまって魚も獲れない。生活の糧が近くになく、交通費が必要だろう?」

2012年に移転地での生活の様子をこう語ってくれたママヌワの若きリーダーだった”ニコ”ことヴェロニコ・デラメンテさんは、当時、これ以上の開発で自分たち先住民族の土地が奪われていくことにも懸念を示していました。
「最初にこの地での鉱山活動を許した自分たちの年長者を責めはしない。でも、もしチャンスがあるのであれば、企業が鉱山のために先祖の土地を使うのを止めさせたい。

ニコさんはその5年後の2017年1月、移転地近くでオートバイに乗ってやってきた2人組によって射殺されました。27歳でした。ニコさんはこの時、中国系の企業が同地域で計画していた鉱山開発の拡張に反対の声をあげており、生前から死の脅迫を受けていたとのことです。

このように、自分たちの土地の権利や生活を守ろうと声をあげてきた先住民族や住民が殺害されるという超法規的処刑(Extrajudicial killings)は、さまざまな開発現場で起きています。国際NGOグローバル・ウィットネスの報告書「明日を守ること(Defending Tomorrow)」 (2020年7月)によれば、2019年に殺害された土地・環境擁護者は世界で212人にのぼるとのことです。そして、その犠牲者の数が一番多かったのが鉱山問題に関係するケースでした(50名)。

図3. 2019年に殺害された土地・環境擁護者の人数(左:国別/右:セクター別)
出典:グローバル・ウィットネス報告書「明日を守る(Defending Tomorrow)」 (2020年7月)p.9

資源集約的でない解決策を!

第6次エネルギー基本計画(素案)の中では、「気候変動や周辺環境との調和など環境適合性の確保」という項目があり、以下のようなことが書かれています。

「エネルギーの脱炭素化に当たっては、発電所の建設のための土木・建設工事のための掘削や建設機械の使用等に加え、EVや蓄電池、太陽光パネルなどの脱炭素化を支える鉱物の採掘・加工や製品の製造過程におけるCO2排出を考慮する必要もあり、エネルギー供給面のみならず、サプライチェーン全体での環境への影響も評価しながら脱炭素化を進めていく観点が重要である。」
「気候変動のみならず、周辺環境との調和や地域との共生も重要な課題であり、エネルギー関連設備の導入・建設、運用、廃棄物の処理・処分に際して、これらへの影響も勘案していく必要がある。」(p.18)

昨今、サプライチェーン全体で「責任ある鉱物調達」を目指すという方針やスローガンは、鉱山開発を行う川上の企業から、製品を組立て販売する川下の企業まで、大手の企業であれば、どこでも取り入れてきており、環境・社会・人権配慮が行われ、負の影響は回避あるいは低減される前提で開発が進められてきました。

しかし、上述のように既存の鉱山開発の現場では環境・社会・人権問題が解決されておらず、地域の環境と人びとが多大な犠牲を強いられてきた実態をみると、こうした素案の文言があったからと言って、「周辺環境との調和や地域との共生」が実現できるだろうと楽観的な気分にはなれません。今後、需要が高まる鉱物資源の確保を海外に依存し続け、さらに開発の場所を広げるのであれば尚更です。

気候危機への対処が急務で、化石燃料に依存した社会からの急速な脱却が必要であることは言うまでもありません。しかし、大量の電気を使い続けることが前提であれば、結果的に際限なく鉱物資源を掘り続け、そこで土地、環境、生活、命を奪うような開発を繰り返すことになるでしょう。

今、私たちが考えていかなくてはならないのは、エネルギーや電力需要自体を削減し、鉱物資源への依存を拡大する方向ではない社会システムへの移行ではないでしょうか。

  (波多江秀枝)

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バイオマス発電は大丈夫?――エネルギー基本計画の素案を読む(3)

再生可能エネルギーの一つとして導入が進められてきたバイオマス発電ですが、木質ペレットなど、燃料の多くは海外から輸入されています。需要の急増にともなって、貴重な天然林が伐採されたり、生物多様性が破壊されたりすることが問題となっています。気候変動対策という点からいっても、長い時間をかけて形成され、地上部にも地下部にも大量の炭素を貯留している森林を破壊してしまっては、かえって大気中の二酸化炭素を増やすことにもつながってしまいます。これでは本末転倒ではないでしょうか? 

地域の間伐材・未利用材では足りず、海外から燃料輸入…

バイオマス発電は、固定価格買取制度(FIT)により、促進されてきました。2012年のFIT施行前の導入量は231万kWでした。これにFITで認定されたものを加えた量は、2015年度末に601万kW、2019年12月には1,085万kWにまで急増しています(図1)。うち747万kWが「一般木質バイオマスおよび農産物残さ」(輸入木質ペレット・木質チップ、パーム椰子殻(PKS)など)およびバイオマス液体燃料(パーム油など)による発電で、その多くを海外に依存しているのです。

図 1. バイオマスのFIT認定量
出典:第6回バイオマス持続可能性ワーキンググループ(2020年8月4日)資料1

それでは、第6次エネルギー基本計画素案では、バイオマス発電についてはどのように書かれているのでしょうか?

「木質バイオマスを始めとしたバイオマス発電は、災害時のレジリエンスの向上、森林整備・林業活性化などの役割を担い、地域の経済・雇用への波及効果が大きいなど、地域分散型、地産地消型のエネルギー源として多様な価値を有するエネルギー源である。」(p.34)

確かに、FITの導入時には、地域の間伐材や未利用材を上手にバイオマス発電に使えば、林業が活性化し、森林整備にお金が流れ、「疲弊した山間地が活性化する!」という期待が大きかったことは理解できます。しかし、現状はそう甘くはありませんでした。

そもそも、地域の間伐材、未利用材の量には限界があります。5,000kW級のバイオマス発電所を稼働させるのには、年間約60,000トンの燃料(約10万立方メートル相当)が必要とされていますが、これは一つの県の木材生産量にも匹敵します(注1)。つまり、中規模以上のバイオマス発電所を稼働させるためには、地域の間伐材・未利用材ではまったく足りないのです。

また、林地残材は林地からの搬出コストが高く、大量に調達するためには広範囲から収集する必要があるため、運搬費がかさみます。

このため、ほとんどの大規模なバイオマス発電所は、安定的かつ大量に調達できる輸入バイオマス燃料を前提にして計画されているのです。

経済産業省にもそのような認識はあるようで、前述の続きとして、

「一方、エネルギー利用可能な木質や廃棄物などバイオマス資源が限定的であること、持続可能性の確保、そして発電コストの高止まり等の課題を抱えることから、森林・林業施策などの各種政策を総動員して、持続可能性の確保を大前提に、バイオマス燃料の安定的な供給拡大、発電事業のコスト低減等を図っていくことが必要である。」(p.34)

というようなことが書いてあります。しかし、ここで大前提としている「持続可能性の確保」は具体的には何をさすのでしょうか? また、どのように担保するのでしょうか? 

さらに、「持続可能」であるバイオマス燃料は、どの程度、存在しているのでしょうか? これが大問題です。

「持続可能性」はあいまいなまま

「持続可能性」というからには、少なくとも森林減少・劣化を引き起こしたり、生物多様性を破壊したり、人権侵害や労働問題などを引き起こしたりしてはいけないはずです。

しかし、現在、輸入されているバイオマス燃料の多くは、この点があいまいなまま残されています。

たとえば、日本の主要商社は、バイオマス発電用に年間数百万トンもの木質ペレットを、北米やベトナムから輸入しています。

図 2. 日本の木質ペレット輸入量
出典:財務省 普通貿易統計「品別国別表(HSコード4401.31.000)」よりFoE Japanが作成

日本の商社は、アメリカの大手ペレットメーカーであるエンビバ社、カナダのパシフィック・バイオエナジー社やピナクル・リニューアブル・エナジー社などと木質ペレットの長期売買契約を結んでおり、今後数年以内に輸入量はさらに数百万トン以上上積みされそうです(注2)。

しかし、アメリカやカナダで森林保全に取り組むNGOからは、これらの木質ペレット生産用の木材を得るため、湿地林や天然林が皆伐され、貴重な生態系が破壊されたことが報告されています。企業は「もっとも持続可能な原料を利用している」などと説明していましたが、ペレット工場に次々に丸太が運び込まれている様子が写真入りで報告されています。

貴重なカリブー(トナカイ)の生息地である森林にも伐採が及んでいます。

写真:パシフィック・バイオエナジー社のペレット工場に丸太を運び込むトラック © Dominick DellaSala

写真:木質ペレットの原料生産のために伐採された湿地林(アメリカ・東南部)©Dogwood Alliance

マレーシアやインドネシアから輸入したパーム油も、バイオマス燃料として、発電所で燃やされています。パーム油の需要急増は、原料となるアブラヤシ生産のための農園拡大により、熱帯林減少の原因になるのに加え、先住民族や地域住民の土地や森林を農園にしてしまったり、農園における労働問題が発生したりといった社会的な問題も指摘され続けています。持続可能性が確認されたRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証油を使うとしている企業もありますが、RSPO認証油は供給量に限界があり、食品など従来用途の需要を満たすのに精いっぱいではないでしょうか。

現在、FITの事業計画策定ガイドラインでは、燃料の持続可能性については触れられているものの、具体性がなく、とりわけ木質バイオマスに関しては、第三者機関による認証制度だけではなく、事業者団体による認定や、企業の独自による確認でも足りることになってしまっています(注3)。

そもそもCO2を削減できるのか?

バイオマス発電の促進により、本当にCO2削減ができるのかどうかにも疑問があります。

前述の通り、バイオマス燃料の生産段階において、森林減少・劣化が生じることも多く、その場合、森林や土壌に貯蔵されていた炭素が、CO2の形で大気中に排出されてしまいます。つまり、バイオマス発電の促進が、地表での重要な炭素ストックである森林や土壌を破壊し、むしろCO2排出の原因となってしまうのです。

破壊された森林が元の状態に回復しないこともありますし、回復したとしても、数十年以上かかることが多く、それまでは森林・土壌に固定されていた炭素が燃焼により大気中に放出されるため、大気中のCO2が増加した状態となります(注4)。

バイオマス事業がある場合、ない場合双方における、
一定期間後のCO2の蓄積変化の概念図

森林は森林のまま、「炭素の貯蔵庫」として、また、生物多様性保全のために、そのまま維持していくことが重要なのではないでしょうか?

森林を破壊せず、地域の間伐材・未利用材や廃棄物系によるバイオマス発電がどのくらい可能なのか。これについては慎重に検討する必要があります。

また、バイオマス発電の発電効率は化石燃料と比べても低いため、発電よりも熱利用の方を追求するべきではないでしょうか?

現在のエネルギー基本計画は、2030年における電源構成目標としてバイオマス発電を6-7GWとしています。第6次のエネルギー基本計画においては、さらに拡大して8GW+αとしています。しかし、上記の観点から、バイオマス発電は、廃棄物系、地域の間伐材・未利用などでまかなえる規模とし、熱利用を検討すべきでしょう。

(満田夏花、小松原和恵)

参考)バイオマス発電のFIT認定容量(2021年3月末時点)
メタン発酵ガス:107,807kW
未利用材:561,384kW
建設廃材:94,210kW
一般廃棄物・木質以外:460,251kW
上記合計 1,223,652 kW (1.2GW)
一般木質・農作物残さ:6,738,709kW(6.7GW)「一般木質・農作物残さ」の多くが輸入燃料と考えられます。農作物残渣は、PKS(パーム椰子種子殻)です。

注1)田中淳夫(2019)「絶望の林業」

注2)商社等の木質ペレットの主な長期購入契約は下表参照。

出典:サプライヤー等のウェブサイトよりFoE Japanが作成

注3)FITの「事業計画策定ガイドライン」においては、パーム油、PKSなどの農産物の収穫に伴って生じるバイオマス燃料については、主産物・副産物を問わず、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)、RSB(持続可能なバイオマスのための円卓会議)といった第三者認証制度によって持続可能性が認証されたものでなければならないとしています。一方で、木質バイオマスについては、具体的な認証については記述されておらず、詳細は、林野庁による「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」を参照することとしており、当該ガイドラインでは、第三者認証のみならず「関係団体による認定」「個別企業の独自の取組」も併記しています。

注4)IPCCの報告書の著者をはじめとする科学者796名は、バイオマスエネルギーのために木を伐採すると、森林に貯留されている炭素が放出されること、たとえ森林が再生したとしても、大気中の炭素が数十年から数世紀にわたって増加することを指摘。さらに世界のエネルギーの3%を木材によって発電するとなると、世界の商業伐採量を現在の2倍にしなければ賄えないと警告しています。

“Letter From Scientists to the EU Parliament Regarding Forest Biomass”, 9 January 2018

「カーボンニュートラル」は現状追認?!ーエネルギー基本計画の素案を読む(1)

現在、経済産業省の審議会で「エネルギー基本計画」の改訂が議論されています。「エネルギー基本計画」は3年に一度改訂されるもので、先日第6次計画の「素案」が発表されました。今後「原案」が作成され、その後国民から広く意見を募るパブリックコメントのプロセスが開始されるとみられます。

このブログでは第6次エネルギー基本計画(素案)について、「カーボンニュートラル」というテーマでその中身や問題点をみていきます。

2050年カーボンニュートラル

素案の前文には、「第六次のエネルギー基本計画は、気候変動問題への対応と日本のエネルギー需給構造の抱える課題の克服という二つの大きな視点を踏まえて策定する」と書かれています。また「世界的な状況も踏まえ、我が国は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言するとともに、2021年4月には、2030年度の新たな温室効果ガス削減目標として、2013年度から46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けるとの新たな方針を示した。」とあります。

FoE Japanも含め多くの環境NGOは、先進国たる日本は、2030年に少なくとも60%の温室効果ガスの削減、2050年よりも早期に排出ゼロに近づけていくことを求めていますが、それでは、どのようにカーボンニュートラルを達成するのでしょうか?

化石燃料を脱炭素化?!

注目されるのは火力発電の扱い、特に石炭です。パリ協定の、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃までに抑える目標を達成するためには、先進国は2030年までに石炭火力発電所を廃止しなくてはならないとされています(注1)。

しかし素案では、「火力発電から大気に排出されるCO2排出を実質ゼロにしていくという、火力政策の野心的かつ抜本的な転換を進めることが必要である。(p.25)」「脱炭素型の火力発電への置き換えに向け、アンモニア・水素等の脱炭素燃料の混焼やCCUS/カーボンリサイクル等の火力発電からのCO2排出を削減する措置(アベイトメント措置)の促進(中略)に取り組む。(中略)非効率な石炭火力については、(中略)最新鋭のUSC(超々臨界)並みの発電効率(事業者単位)をベンチマーク目標として設定する。」(下線部筆者、p.74)

としています。つまり、化石燃料を使い続けながら、CO2排出を削減するとしているのです。化石燃料を脱炭素化する、という言い方も矛盾する表現ではないでしょうか。石炭に関しては、バイオマス混焼やCCS付きの石炭火力(発電所から出る温室効果ガスを回収し利用もしくは貯留する技術)の存続を許しているのみならず、非効率と定義したものだけを廃止する計画です。バイオマス発電はカーボンニュートラルとみなされがちですが、現状日本で利用されている多くのバイオマス燃料は海外からの輸入に頼っており、運輸の面で見てもカーボンニュートラルではありません(詳しい解説は下記動画もご覧ください)。またCCSはコストも高く、全ての温室効果ガスを回収できるわけでもないため気候変動対策としてまったく不十分です。

また、アンモニアや水素への過度の期待も気になります。素案の別の箇所を見ると、天然ガスに関する記述の中に「将来的には、燃焼してもCO2を排出しない水素・アンモニアの原料としての利用拡大が期待され、カーボンニュートラル社会の実現後も重要なエネルギー源である」(p.35)と書かれています。

しかし、実際、現在世の中に流通しているアンモニアの多くは天然ガスから作られています。「燃焼時」には温室効果ガスを排出しないかもしれませんが、生成時や運搬時には温室効果ガスを発生させます。実際、水素生産により年間8億3,000万トンのCO2が排出されており、アンモニア生産には約4億2,000万トンが排出されています。これを合わせると世界の温室効果ガス(GHG)年間排出量の約2%を占めます(注2)。

素案ではまた、「余剰の再生可能エネルギー電力等から水素・アンモニアを製造することで、脱炭素電源のポテンシャルを最大限活用することを可能とするだけでなく、CCUSと組み合わせることで、化石燃料をクリーンな形で有効活用することを可能とする。」(p.36)としていますが、現状ではいわゆる天然ガスから作る水素・アンモニアが供給の多数をしめる中で、再エネだけでつくるグリーン水素の供給はあってもごくわずかです。そもそも、アンモニア混焼や水素を石炭と混焼させて発電する技術は開発段階で、実用化されているわけではありません。CCS/CCUS(二酸化炭素回収貯留・利用)も、回収した二酸化炭素を貯留する場がないことやコストが見合わないことなどから日本で実用化の可能性は低いと言われています(注3)。水素・アンモニアの推進は化石燃料のフェーズアウトを遅らせかねません。

事例:JERAが進める「ゼロエミッション火力」

中部電力と東京電力の合弁会社であるJERAは日本最大の石炭火力発電事業者です。水素・アンモニアを「ゼロエミッション火力」として推進する動きは、昨年10月のJERA(東京電力と中部電力の合弁会社)が2020年10月に公表した「JERAゼロエミッション2050」でも明らかです。この構想の中でJERAは、2050年までのネットゼロを目指し、ゼロエミッション火力の普及と洋上風力発電事業を柱とする計画を打ち出しています。また、「2050年時点で専焼化できない発電所から排出されるCO2はオフセット技術やCO2フリーLNG等を活用」としています。

アンモニア火力については、2040年代にアンモニアによる専焼を開始、2030年代前半から既存の石炭火力への20%混焼を達成、そして2030年までに排出源単位あたりのCO2排出量を20%減らす、という計画です。

この戦略の一環として、2024年より、愛知県碧南市の火力発電所で既存の石炭火力発電所1、2号機(いずれも100万kW)の発電基に20%のアンモニア混焼の実証実験が行われますが、100万kWの発電機で20%のアンモニア混焼の場合、50万トンものアンモニアが必要になります(実証実験では100万kW2基なので、合計100万トン)。つまり、碧南での実証実験基を100%アンモニア専焼にするだけでも500万トンのアンモニアが必要になります。また、もしJERAの石炭火力すべてを2030年代にアンモニア20%混焼とする場合は516万トン(USCのみの場合446万トン)のアンモニア、2040年までにアンモニア専焼とする場合2580万トン(USCのみの場合2230万トン)のアンモニアが必要となります。しかし、現状日本でのアンモニアの消費量は100万トンであり、碧南での実証実験で必要なアンモニア量に匹敵します。仮にJERAが石炭火力全機をアンモニア専焼を実現するには、現状の22〜25倍のアンモニアが必要になるのです。

また、この「ゼロエミッション2050」の影で進められているのが、横須賀石炭火力発電所の建設です。同事業は、2023年に新1号機、2024年に新2号機が稼働開始が予定されていますが、JERAに説明を求めても、「実証実験の結果次第、順次アンモニア混焼を進める」という説明で、横須賀火力発電所がいつゼロエミッション火力になるのかは明確に説明されていないままですし、同混焼技術が商業的に確立していない技術であることも伺えます。また、仮に商業的に今後確立されたとしても、化石燃料由来のアンモニア燃料である限り、ゼロエミッション火力とはいえません。

この「JERAゼロエミッション2050」は、まさに解決を先送りにさせる「ネットゼロ」の典型例といえます。

ネットゼロはノットゼロ

カーボンニュートラルやネットゼロとは、人為的な温室効果ガスの純排出量(絶対量)から森林などによる吸収源による吸収量を引いた量を指します。

すでに大気の二酸化炭素の濃度が420ppm近くになっています(注4)。人類にとって安全とされるCO2濃度は350ppmまでとされます。CO2は排出されるとしばらく大気に留まることを考えれば、気候危機を食い止めるためには「人為的な温室効果ガスの追加排出量」をいかに抑えるかが問題です。

ネットゼロシナリオでは、どれだけ吸収量を見込むかによって、どれくらいの追加排出量が許されるのかが変わってきます。10-10も100-100もゼロですが、100の温室効果ガスを回収するより10の温室効果ガスを回収する方がはるかに楽でコストがかかりません。大規模植林は、土地の確保や生物多様性の面から懸念があります。CCS・DACなどの実用化されていない技術によって大気中の温室効果ガスの除去を見込んでいるのであれば(本当に除去できるのかにかかわらず)、それだけ排出量も追加的に増やせることになってしまいます。温室効果ガスの排出量をなるべく早く、真の意味で可能な限りゼロに近づけていく努力が求められている中、アンモニアや水素、CCSを使ってネットゼロを達成しようというシナリオは気候変動対策にならず、むしろ解決策を先送りにし、既存の化石燃料依存社会を維持してしまうことになります。

「ネットゼロ」政策で問われるべき点

  • いつまでに、どの種類の温室効果ガスを(絶対量で)どれだけ減らすのか?
  • 達成のためにどのくらいの量の温室効果ガスを除去するつもりなのか、またどのような技術に依存しているか?
  • 現在から「ネットゼロ」の目標達成日までに、累積の追加排出量は合計いくらと想定されるのか?
  • 企業や政府はどうなったらネットゼロが達成されたと宣言できるのか?
  • ネットゼロシナリオに「オーバーシュート(気候変動が不可逆的に加速する1.5°Cを超えてしまうこと)」を想定しているか?
    ( ”NOT ZERO: How ‘net zero’ targets disguise climate inaction”を参考に作成)

今、私たちに求められているのは、実用化の目処も立たずコストも高い技術への投資や拡大ではなく、化石燃料の確実なフェーズアウトと、省エネや大量消費・大量生産を軸とした社会からの転換ではないでしょうか。

(深草亜悠美・高橋英恵)

「地元の石炭火力のこと、もっと多くの人に知ってほしい」横須賀市民アンケート(後編)

今年4月、横須賀市と三浦市内の6つの地域で、それぞれの地域に住む住民の方の手によって、気候変動や石炭火力建設についての意識を調査するアンケートが行われました。

今回は、アンケートに関わった大木さん(野比在住)、竹渕さん(岩戸在住)にお時間をいただき、なぜアンケート活動を実施しようと考えたのか、アンケート活動を進める中でのエピソード、そしてこのアンケートに込める思いを伺いました。

(アンケートの結果については、「横須賀市民アンケート(前編)「約64%の方が石炭火力建設反対」をご覧ください。)

アンケート活動のきっかけを教えてください

大木さん

「2020年11月、コンビニの中でばったり、2年ぶりくらいに岸さんという友人に会ったんです。そこで10-15分立ち話をして。その時に、彼女から石炭火力が新しく作られていることを知ったんです。大昔に石炭火力があったのは知っていたんですが、新しい石炭火力がたつとは知らなかった。そのあと、新聞などで自分で調べていくうちに、石炭火力を止めるための訴訟をやっていることとか、全国の石炭火力発電所のあるところでアクションがあることを知ったんです。グレタの言葉も知って、なんとかしないと、と。あと、私はずっと楽器店で働いていて、音楽教室の運営をしていたのですが、コロナの影響で仕事がなくなってしまって。今年に入って仕事を探していたけれど、なかなか見つからない。でも、この石炭火力のことをもっと多くの人に知って欲しいという気持ちも強くて、とりあえず多くの人に知ってもらうために時間を使おうと思ったんです。。というのも、自分が岸さんから石炭火力の話を聞いたとき自分が石炭火力を知らない人間だったので、知らない人がいっぱいいるのではと。

竹渕さん

「石炭火力については、前から横須賀火力建設を考える会(横須賀石炭火力問題について活動している団体)の内藤さんからよく話を聞いていて、逗子でのイベントにも参加したりしていました。何か力になりたいと思い、途中から原告にもなっています。でも、石炭火力についての危機感をもっと強くしたのは、2020年1月の野比での気候変動の勉強会。COP(気候変動に関する国際会議)やグレタの話を聞いて、本当に止めないといけないんだと感じたんです。何かできないかと色々考えていた時に、ハイランド(横須賀石炭火力発電所の建設地の近くの地域)での石炭火力についての意識調査アンケートを知って。でも、このアンケートがハイランドだけで終わったらまずいと思い、アンケートを広げないかと仲間に相談して、そこでやろうということになりました。」

どのようにアンケートを進めたのでしょうか?

大木さん

「1月半ば、アンケートをやりたい人たちで集まりました。その時は、野比、岩戸、佐原の3地域から集まり、まずは自分たちの住んでいる地域で広めようと。でも、地元の知り合いに声をかけてみたら、他にもやりたいという人が増えてきて、バラバラでやるのはもったいないと思ったので、まとまってやろうということになりました。2月半ばには、横須賀火力建設を考える会とも一緒にやろうということになって。アンケートを始めようとした時は3地域30人くらいだったのに、進めていくうちに6つの地域(野比、岩戸、佐原、長沢・津久井・グリーンハイツ、三浦、その他横須賀市内)で112人になったんです。たくさんの人が関わってくれるのはとても嬉しくて。」

アンケート活動の中での苦労はありましたか?

竹渕さん

「私は岩戸に住んでいるので、岩戸でのアンケート活動をしていました。石炭をどうにかしたいと、自発的に25人くらいが集まったんです。10代も3人いたし、80代の方も孫のためになんとかしたいと主体的に関わってくれました。また、初めてこのような活動をするという人も2人加わってくださったんです。とはいえ、アンケート用紙を地元でポスティングすることは、みんなにとってハードルの高いものでした。2つのハードルがあったと思っていて、一つは高齢化。体力的な問題で、階段の多くある世帯などにはポスティングをあきらめました。

もう一つは人の目。「出るくいは打たれる」でないけど、周りがやっていないことへの抵抗は大きかったのだろうなと思います。どれほど彼女たちにとってチャレンジングだったか。」

アンケート活動中の思い出は?

大木さん

「地元のパン屋に買い物に言った時、『アンケートお疲れ様。絶対反対。協力します』とパン屋のオーナーさんがコメントしてくれたこと。あ、見てくれている人がいるんだ!って思ったんです。」

竹渕さん

「直接手渡しできた人には対話ができて、思いが同じとわかったときは嬉しかった。もっとこのアンケートを大きくしなきゃ、と大きなモチベーションになった。知らなかった人に知ってもらえるっていうのはやりがいとして大きかった。」

4000通以上もの回答がありましたが、集計中に気づいたことや感じたことはありますか?

大木さん

「自由記述が多かったのが印象的でした。野比のあるアンケートには、筆圧強く「がんばれ」とかいてくれている人もいたんです。また、アンケートの回答用紙と一緒にカンパもくださる方も。読みながらうるうるしてしまいました。見てくれている人がいる、このアンケートの声を国まで届けに行かなくちゃと。横須賀出身の小泉大臣に直接読んで欲しい。あと、アンケートを配っていない地域でも、アンケートの結果を伝えたい、世論を作りたい、国が無視できないくらいに。」

竹渕さん

「岩戸では高齢者が多く、パソコン作業をあまりやったことがない人が多かったけれど、パソコンでの打ち込み作業を紹介し体験もしてもらいました。そして出来上がった集計結果と自由記述はアンケートを配って回ったみなさんと共有しました。自由記述のコメントの中には、元気の出るコメントもある反面、凹むコメントもありました。懸念していることは、『ゼロカーボンになるからいいじゃない』という考えが広がること。とても怖く感じています。解決策は自然エネルギーだということを伝えたい。2050年にCO2排出ゼロになっていればいいというのは遅い。どうにかしたいと思いましたね。」

横須賀は将来、どのようになっていくことを希望しますか?

大木さん

「私は横須賀で生まれ育った。故郷なので、住み続けられる海とか山とか、自然の恵みを未来の子どもたちに引き継ぎたい。横須賀は自然が豊富。横須賀や三浦半島にあった自然エネルギーの方法を探して、地産地消や地域産業として成り立つような使い方があるはず。」

竹渕さん

「大木さんの言う通り、今のままだと横須賀のいいところが活かしきれていないと思う。野比には研究開発の先端地域として大企業の研究機関が来ているけれど、自然エネルギーの研究開発拠点になれば、自然エネルギーのモデル都市にもなれるはず。そうすれば、誰もが住みたくなるのでは。」

最後に

新型コロナウイルスの感染拡大予防のために大きな集会などが実施できない中、一人一人が地域の各戸に自分の足で歩いてアンケート用紙を配っていくという改めて地域で運動することで生まれる連帯感の強さを感じました。

大木さん、竹渕さんのお話を伺う中で、「地元で作られている石炭火力について、皆で考えたい」という思いが伝わってきました。行動が制限される中であるにもかかわらず、自らの足で配布した122人に敬意を評したいと思います。

FoE Japanでは引き続き、石炭火力の建設中止を地域住民の方と共に求めていきます。

(高橋英恵)

「約64%が石炭火力建設反対」横須賀市民アンケート(前編)

今年4月、横須賀市と三浦市の6つの地域で、それぞれの地域に住む地元住民の方の手によって、気候変動や石炭火力建設についての意識を調査するアンケートが行われました。

今回は2回にわたって、第一回はアンケートの結果を、第二回はアンケートに関わった地元の方の声を紹介します。

回答者の3割、いまだ石炭火力新設を知らず。

アンケートは3月下旬から4月上旬にかけて配布され、4月20日が回収締め切りでした。

配布地域は建設地に近い久里浜、野比、北下浦、岩戸を中心に横須賀市全域と三浦市です。

配布数は 25,620 枚、回収数は 4,074 枚、回収率 15.9%でした。

アンケートの質問は、下記の5点です。

1. 久里浜で石炭火力発電所が建設されていることをご存知ですか?(知っていた/噂程度に知っていた/知らなかったから3択)

2.石炭火力による、温暖化や気候変動への影響をどうお考えでしょうか?(影響ない/影響あり/わからないから3択)

3.石炭火力による、健康や生活環境への影響をどうお考えでしょうか?(影響ない/影響あり/わからないから3択)

4. 石炭火力発電所建設についてどうお考えでしょうか?(建設すべき/やむをえない/建設反対/わからないから4択)

5. 将来の望ましいエネルギー源は?(原子力/石炭、LNG、石油/再生可能エネルギー/わからないから複数回答可)

結果、久里浜で石炭火力発電所が建設されていることを知っていたのは45.2%、噂程度に知っていたのは25.1%、知らなかったと回答したのは29.7%でした。建設を知らなかったとの回答が3割弱あり、周知の徹底ができていなかったことが伺えます。

また、石炭火力が気候変動に影響があると考えている方も80%近くおり、健康や生活環境への影響についても、影響があると考える方が約75%いらっしゃいました。

気候変動や生活環境への影響を聞いた上で、石炭火力発電所の建設の可否について考えを尋ねたところ、4.7%の方が建設すべき、約20%の方がやむをえない、約64%の方が建設反対、残りの約11%はわからないとの回答でした。

最後の将来の望ましいエネルギーについては、再生可能エネルギーが全体の約77%、化石燃料や原発を選んだ方それぞれ全体の約8%いらっしゃいました。

自由記述欄の記入数が 1755 通

また、自由記述欄への記入数が 1755 通、回収数の 43.1% と半数に近くもあり関心の高さが示されました。

例えば、問4で「建設すべき」と回答された189名中120名から自由記述に記入があり、「原発が信頼を失った以上、火力発電のほかない。再エネですべて賄えない」「再エネに頼るのはダメ。分散してリスクを低減すべき」「原子力よりましであると思う」「火力発電がなくては便利な生活を出来ない」といった意見が見られました。

一方、「建設反対」と回答された2568人中1166名と約45%の方が自由記述に記入があり、「世界の潮流に逆行」「アレルギーがあり大変不安。建設されたら横須賀から引っ越しを考える」「小泉環境大臣のお膝元このような計画が進行中とは嘆かわしい」「市民の知らないとことで工事が進んでいることに疑問を感じる。ショック。市民として悲しい。」などの意見でした。

また、「やむをえない」「わからない」と回答した人の自由記述は、「もう建設が進んでいる。今更反対しても止まらない」「具体的にどんな問題があるかわからない」というようなものでした。

現実とアンケート結果のギャップ

横須賀市内の石炭火力発電所の建設地域付近の地域や三浦市内の6つの地域で実施した今回のアンケートは回収率は約16%であるものの、回答者全体の6割以上が建設反対という結果となりました。また、石炭火力と気候変動の関係、石炭火力と生活環境や健康との関係に影響があると認識されている方も7割以上ということもわかり、住民の中にはこの事業に懸念を持っていることが明確になったことは、とても大きな成果です。

アンケートの自由記述にも、「環境大臣はなぜ地元の石炭火力を止めようとしないのか」「世界に逆行している石炭火力をなぜ今更作るのか」という声が多く見られました。一方、「再生可能エネルギーだけでは不安定なのでは」「建設が進んでいる以上もう止められない」と悲観的なコメントもありました。地域住民の声を聞かずに建設を進め、諦めを感じさせるやり方には、憤りを覚えます。

また、横須賀石炭火力発電所の事業者であるJERAは昨年10月に「JERAゼロエミッション2050」をうちだし、2030年までに発電原単位あたりのCO2排出量を20%減、2040年までにアンモニア専焼を目指すとしていますが、この横須賀石炭火力発電所をどのようにゼロエミッションにしていくのかは公開されていませんし、そもそもJERAが検討している化石燃料からアンモニアを製造する方法は、炭素回収貯留(CCS)という不確実な技術に頼ったもので、真の脱炭素燃料とは言えません。

さらに、今年6月に開催されたG7首脳会合においては、「石炭火力発電が温室効果ガス排出の唯一最大の原因である」ことを認識し、「国内的には、我々は、2030年代の電力システムの最大限の脱炭素化を達成すること、また、それを更に加速させる行動にコミットする」と明記しています。気候変動をさらに加速させる石炭火力を建設・稼働する余裕はどこにもないはずです。

後編では、アンケート活動に関わった方に、アンケートに至った経緯、活動に込めた想いを伺います。

(高橋英恵)

「分断ではなく共生を」地域住民抜きの事業に声をあげる、徳島県陸上風力発電所を視察して

6月20日、徳島県那賀町、上勝町、神山町周辺の陸上風力発電所を視察しました。

お話を伺ったのは、徳島県那賀町の「風力発電とまちづくり(共生)を考える会」を立ち上げた桑高仁志さんです。桑高さんは群馬県出身ですが、新潟県の地域復興支援員を経て、8年前に徳島県那賀町の地域おこし協力隊に。現在は古民家ゲストハウスを営む傍ら地域づくりの活動をされています。

桑高さんが風力発電事業に関心を持ったのは、2018年、隣町の方から徳島西部・天神丸での陸上風力事業-(仮称)天神丸風力発電事業について相談を受けてからでした。一杯のそばで買収されたと、冗談を交えながら、そのきっかけを話してくださいました。

「天神丸の事業について話を聞いて、で、環境影響評価書の配慮書が縦覧開始されるというのを町の広報誌で知って、調べてみてインターネットで見てみたら、300ページくらいある。こんなもの地元の爺さん婆さん見ないと思って。だから、要約してわかりやすいリーフレットみたいにしないと地元の人はどこで何が起こるのかがわからない。それで勉強会の資料を作って、公民館押さえても町は周知をさせてくれない。中立ですといっても、公民館や役場の掲示板をつかわせてもらえず、移住者がこうした話題を取り上げることにタブーを感じた。」

きっかけとなった天神丸での計画は2021年5月末に見送りとなりましたが[1]、2020年、徳島南部の那賀町での計画が持ち上がりました。新型コロナによる一回目の緊急事態宣言期間中の縦覧は町広報での事前周知もありませんでした。オンライン縦覧こそ行われましたが、桑高さんは、オンライン中心の縦覧だと地域のお年寄りは取り残されるという問題を指摘します。

とはいえ、県内では、風力発電に疑問を持つ人はとても少ないといいます。

「風力を問題視できる人が少ない。やっぱりメリットとして、雇用が生まれるんじゃないかとか、土木が潤うとか。再生可能エネルギーじたい必要なんだし。たぶん電気代安くなるんでしょとか。あと、考えることをやめてしまっている人たち。何もないところにやって来てくれる。そこに期待してしまう。町としての戦略はずっと林業。今までの産業を、どう守っていくかという考え方だからなかなか新しい雇用が生まれてこない。」

そのほかにも、住民や行政積極的になりづらい理由があるようです。

「那賀町の木頭地区[2]ってところが、過去にダムを「作る」「作らない」で二分された。分断のせいで、村の助役が自殺するようなことも起きた。住民運動の結果、ダムは作らないことになったけれど、そのせいで県にずっと睨まれ、道路の拡張工事とかをしてもらえなかった。村が賛成反対で二分されたという過去があるところに、風力でまた賛成反対の議論になってしまうと。またいざこざが起きると。でも、俺からしたら、声をあげなかったら議論が始まらない。だったら、中立でいいから、事業者からどうやってメリットを引き出すかという知識をつけていきましょうよ、ということをずっと言っているんですけどね。どうしても、登山家とか自然の愛好家とか外部の人から「反対」の声が先に上がってしまう。でも、風力が建つ山を持っている山主はお年寄りで、山が売れないという後ろめたさや、少しでもお金になるんだったらという淡い期待をもってしまう。地元の人は賛成も反対も言わないオロオロしている状態のときに周りの意識高い系の人たちが反対って言っちゃうんですよ。移住者もそうだけど。そうなると地元は、賛成したい人もいるのに反対って言えなくなっちゃう。神山は実際風力が立つにあたって立て看板で「絶対反対」って言っている。海陽町の方は、県議を巻き込んで運動しているが賛成反対の構図ではまた分断が生まれてしまう。」

また、徳島県那賀町の立体地図を見せながら、徳島の風力発電の状況をお話くださいました。

「今稼働中のところは佐那河内(大川原ウインドファーム[3])。今建設中なのがこの上勝神山あたり(上勝・神山ウインドファーム[4])。あと、天神丸ってところで計画されたけど2021年撤回になって(天神丸風力発電事業[5]、オリックス株式会社、144,900kW、42基)、JAG国際エナジーがあたらしくやろうとしているのが木沢から鷲敷までのこの黒い尾根(那賀・勝浦風力発電事業[6])と海陽町(那賀・海部・安芸風力発電事業[7])。天神丸あたりは四国の中でも1000m超えで、ブナの原生林もあって、この辺で風力発電建てられるんだったら、四国はどこでも建てられるでしょって話になるんですよ。だから、那賀町が毅然とした態度で挑めば、建てていい場所、建てちゃいけない場所の基準が出てくると思うんです。また四国で20数頭しかいない絶滅危惧種のツキノワグマ生息域もあるため、ゾーニング(事業適地の絞り込み)をちゃんとやってほしい。クマなんかいらないという地元の人もいれば、クマがいるってことはそれだけ生態系が豊かであるということだから残した方がいいっていう人もいる。」

上勝・神山ウインドファームの建設現場へ

桑高さんにお話を伺ったのち、桑高さんと一緒に、現在建設中の上勝・神山ウインドファームに向かいました。自然観察指導員でもあり森林活動ガイドでもある登山家の坪内強さんが現場を案内くださいました。

左:ヤマツツジ、右:鹿が木の皮を食べた跡

上の写真は、T1の設置場所の脇にある登山道を進んでいった時の風景です。写真を撮った場所と写真の赤丸で囲ったところは本来繋がった登山道だったそうで、陸上風力の部品を運び込むために山が削られ、上記の写真のような形となったそうです。「再エネの主旨はわかる。でも、自然のかたちをここまで変えて発電所を作る必要があるのか?」と案内くださったお二人は漏らします。

風力発電事業への住民の思い

上勝神山ウインドファームの建設現場視察後、意見交換を行いました。

大川原ウインドファームの発電基を見上げながら、坪内さんは、大川原ウインドファームでは、冬の期間、風車のブレードが凍ること、その氷を取り除く作業を時々やっていることをお話くださいました。タワーのブレード上部に届く60m位の高さのクレーンで氷を除去している。現在建設が進む(上勝神山ウインドファームの)高さ80mの風車は、冬期の積雪期には現在のメンテナンス方法では厳しいのではと懸念していました。

また、事業と地域の関わりについても、地域で得たエネルギーなら、電源交付金のように地元にお金を落とすべきところ、風力にはそんな仕組みはなく、何か地元に利益が還元する仕組みがあればよいのですがと話していました。

年に20回は、この尾根を歩いている。ある時、巨大な風速計が山の中に立った。それでなんやろと思っていたら、土質調査のボーリングが始まった。その後重機が入って大規模に山を削り、自然林を伐採して建設用地と作業道が造られた。その結果、家内と四季折々山野草を楽しみながら歩いた尾根筋は通行できなくなってしまった。自然を楽しんで歩く「四国のみち」も尾根道から林道に変更されてしまった。那賀町の建設予定地はサラサドウダン絶滅危惧2類などの珍しい植物が自生していて建設による絶滅が心配される。造形物と自然の美しさ、どちらを残したいか。私は反対って立場ではない。ただ、現場をみて皆に考えてもらいたい。

また、今回一緒に建設現場を視察した、勝浦町の農村体験型宿泊施設や上勝町のキャンプ場で働きながら地域自家発電の研究に携わる新居彗香さんは、

「風力発電事業は桑高さんのSNSの投稿を通じて事業に興味を持った。風力の何が問題なのか分からず、いい点、悪い点を知りたかった。地元では、大川原高原はとても流行っていて、いいじゃんという人が多い。」

と、地域の多くの住民の様子を教えてくださいました。

それに付け加えるように、桑高さんも、風力発電のできる地域は住民が普段来るようなところではなく、地元の人すら行ったことのない山で事業を計画されるから関心持ちづらいと、住民の関心をあげる難しさを教えてくださいました。とはいえ、桑高さんが考えていきたいことは、「風力発電と共生する地域づくり」だといいます。最後に、桑高さんに、徳島での陸上風力発電事業(那賀町と海陽町の事業)について、どのように関わっていこうと考えているのかお聞きしました。

今は準備書前の現地調査をする段階。考えているのは、この間にうまく事業者を引っ張り出せないかと考えている。事業者は、地元が反対していたとしても調査はさせてほしいと言っている。その結果、できるかできないかを協議させてほしいという立場。だから、事業者にうまいこと「じゃぁどういう共生を考えているんですか?地元の小学生中学生と一緒に考えませんか?地元の人が何をしたいのかを聞く場面を設けますんで、よかったらきませんか?」というのをやりたい。子どもとの共生WSとかだったら向こうも断りづらいだろうし。僕は風力発電を、自分たちの町の未来を前向きに考えるテーマとして積極的に捉えようってスタンスなんです。僕は、町のみんなが自分の町の未来を考えるお手伝いをしたい。

一呼吸あって、桑高さんはこう続けました。

「共生というのは一つのキーワードのはず。いいもの悪いものってのはやっぱり皆で議論して初めてわかるもの。事業者のベストの形もあるし、行政のベストな形もあれば、住民のベストな形もあるので、そのすり合わせはやっぱりしないとダメなんです。

僕は、風は地域の資源だと思っている。便利な言葉で、『7つの風』という言葉がある。風土とか風味とか風習とか、風がつくる7つの景観があると。風によって地域は形作られているんだから、その風を使うなら地元が一番その恩恵を受けられるよう対話をしていく必要があるのではないかと思う。」

エネルギーを考えるうえで大切なこととは

今回の視察を通じて、改めて、生活のためであるはずの電力なのに利益追求のための電力になっていること、事業への賛成/反対の議論が地域の分断をもたらしてしまうこと、その分断を恐れ何もいえなくなっている状況を目の当たりにしました。

脱原発や気候変動の防止の観点から、再エネは重要なエネルギー源です。再生可能エネルギーのポテンシャルが高い地域から、大消費地に送電する方法もあります。しかし、事業を誘致すれば自治体にお金がはいるような仕組みができたとしても、それは地域の内発的な活動を阻害したり、地域の人々の分断を生んでしまったりするようなものは、再生可能エネルギーであったとしても許されないはずです。

建設現場の一部をみていても、本当に必要な伐採だったのか、排水や廃棄物の影響をどのように考えているのか、工事で出てきた作業土はどこに行くのか、山に生きる動植物への影響などの疑問が残りました。事業のライフサイクルにわたった環境・社会影響の調査、評価、予測、対策の強化の必要性を感じます。

また、陸上風力発電の建設が進む神山町では、戦前は地域や各戸の小水力発電があり、コミュニティベースで管理していたそうです。しかし、大規模供給にあたり、小水力発電で発電したものを電線に繋げようとすると不具合が生じることから、四国電力は住民の水車を買い上げたり水車を閉じさせたりして、今では住民の中で小水力発電のノウハウがなくなっているということもあるようです。

一方、桑高さんとお話する中で、事業の進め方によっては、住民を巻き込んだ民主的な地域づくりの可能性を感じました。

化石燃料依存社会から脱炭素社会への移行は、単なる「エネルギー・チェンジ」ではなく、発電所周辺の住民の声が無視されたり、発電機の製造に必要な資源や燃料を搾取されたりすることのない電力システムへの「システム・チェンジ」であってほしいと思います。

(高橋英恵)

*再生可能エネルギーの持続可能性に関するFoE Japanの見解はこちら


[1] 2021/5/29、徳島新聞「オリックス、風力発電計画の事業化見送り 美馬、神山、那賀の3市町境

[2] 2005年、鷲敷町、相生町、上那賀町、木沢村、木頭村が合併し、那賀町となった。

[3] 株式会社ユーラスエナジーホールディングス、最大19,500kW(1,300kW x 15基)

[4] 株式会社ユーラスエナジーホールディングス、最大34,500kW(2,300kW x 15基)

[5] オリックス株式会社、最大144,900kW(42基)

[6] JAG国際エナジー、最大96,000kW程度

[7] JAG国際エナジー、最大96,000kW

2030年エネルギーミックスから持続可能な太陽光発電を考える

パワーシフト・キャンペーンの田渕です。FoE Japanは、森林破壊を伴ったり、住民の生活を脅かしたりするような再エネには反対しています。くわしくは、以下の「見解」をご参照いただければと思います。
https://www.foejapan.org/energy/library/180413.html

2030年電力用エネルギーミックスの試算が各団体から出されています、目標値として有用であるため紹介をします。 森林に設置される太陽光発電がどれほど含まれているかを試算をした結果、全体に占める割合は少なく、他の発電方式に変えることで森林破壊を伴ったり、住民の生活を脅かしたりすることのない良いエネルギー社会を目指せるのではないかと思います。

1.2050年温室効果ガスゼロに向けた2030年のエネルギーミックス

2050年温室効果ガスの排出実質ゼロに向け、通過点である2030年の電力に関するエネルギーミックスの試算が各団体から出されている。WWF*1、自然エネルギー財団(以下自然エネ財団)*2、未来のためのエネルギー転換グループ(以下未来エネグループ)*3のレポートから数値を抜粋した電力用2030年発電量予測をグラフ1に示す。

グラフ1.各団体による2030年電力用エネルギーミックス試算

(各レポート内数値を元に筆者作成)

グラフ棒の高さ(電力量総量)は積み上げた数値が大きく異なるのは発電量と需給量の違いなので比較するものではない。

グラフ1に示されているように各団体が試算した2030年電力用エネルギーミックスは基本的に原発、石炭火力はゼロであり、省エネをした上で、総電力量の約半分を再エネで賄う計画となっている。2030年は近い将来でありこれらのエネルギーミックスの実現に向けて最大限努力していかなくてはならない。これらの数値の根拠や条件などの詳細については各レポートを参照されたい。

自然エネ財団と未来エネグループに関しては、太陽光、風力、バイオマスについてレポート内の数値を利用して筆者がさらに細分化した。細分化方法を以下に示す。

<自然エネ財団のデータ細分化>

国土交通省(2013)他の文献を元に表1のように太陽光発電の細分化をしている。

表1 利用可能な土地の推計及び設置可能設備容量*4

(自然エネルギー財団*2の表3-2データを転載,「太陽光発電合計に対する割合[%]は筆者記入)

種類設備容量[GW]太陽光発電合計に対する割合[%]
森林(既存+2019年までの見通し)*下記に詳細記載あり6.76.0%
空き地・原野(民有地)12.911.5%
資材置き場1.00.9%
駐車場2.11.9%
ゴルフ場からの転用12.310.9%
その他・不詳1.51.3%
耕作放棄地52.947.1%
追加転用+追加荒廃農地10.08.9%
湖沼水面2.01.8%
ダム水面8.87.8%
空き家の転用1.91.7%
利用できない建物(廃屋等)-法人所有0.20.2%
合計112.4100.0%

環境へ悪影響を及ぼすかどうかは個々の事案を考慮する必要がある。

建物の上や人工物に設置するものは環境影響が低いと思われるが、既存分を含むものの新たに林地を伐採する可能性がある「森林」を分けてグラフ化した。

森林については自然エネ財団も「森林伐採や造成のコスト、系統連系上の問題が生じやすいこと、環境影響が懸念されることから、2017年までに林地開発許可を得ているもの(約1万ha)に、2018年及び19年の見通し(約0.4万ha)を加えた値とし、それ以上の導入可能性が低い」 *2-P30 としており、見通し分を限定しており電力量全体に占める割合は1%以下で低い。

この設備容量の割合を発電量の割合と同じと仮定し、太陽光(森林)と太陽光(耕作放棄地、追加転用、水面、空き家、人工物、空き地原野、ゴルフ場)に分けた。

<未来エネグループデータ細分化>

太陽光は「屋根置き」「ソーラーシェアリング」「野立て」の3つに分けており、さらに「野立て」については前述した自然エネ財団の設備容量予測の割合(表1)により「森林」とそれ以外に分けた。

未来エネグループのレポートの主題はグリーンリカバリーであり、森林に設置する太陽光発電のようなものは他の手段に置き換えるという考えに基づいている。

この結果、2030年総電力量のうち「森林」は0.7%を占める。(自然エネ財団、未来エネグループ)

<森林と耕作放棄地の定義>

詳細は各団体のレポートを参照いただきたいが、森林と耕作放棄地の定義を転載して示す。

・森林(既存+2019年までの見通し)の定義

森林については、森林伐採や造成のコスト、系統連系上の問題が発生しやすいこと、環境影響が懸念されることから、2017年までに林地開発許可を得ているもの(約1万ha)に、2018年及び19年の見通し(約0.4万ha)を加えた値とし、それ以上の導入可能性は低いとした。(自然エネ財団レポート*2より)

ちなみに自然エネ財団の新しいレポート(脱炭素の日本への自然エネルギー100%戦略 https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20210309_1.php)における太陽光発電量の予測では、森林他の細かい分類の記載はなく太陽光全体のポテンシャルは環境省のデータを根拠に十分にあるとしている。一方で*2の文献が引用されている。つまり自然エネルギー財団の最新のレポートとしては表2にあるように森林等も試算に入っていると考えた。(森林の扱いについて慎重な姿勢が見える)

・耕作放棄地の定義

過去1年以上作物を作付けしておらず、今後も作付けする意思のない土地であり、全国で42.3万haに上る。そのうち、果樹園等の傾斜がある耕作放棄地は、太陽光発電の設置に適さない場合が多いなど、全ての耕作放棄地が利用可能なわけではない。今回は、太陽光発電事業者へのヒアリングから、利用可能な土地を15%とした。(自然エネ財団レポート*2より)

また、同様に風力については陸上風力と洋上風力に分けた。バイオマスについては自然エネ財団は「未利用木質、一般木質、農業残渣」と「メタン発酵ガス、建築廃材、一般廃棄物、RPS等」に分け、未来エネグループは「木質バイオマス」と「メタン発酵バイオマス、廃棄物」に分けている。今回は風力発電とバイオマス発電に関しては環境への悪影響については考察しないが、今後活用できるデータとして示しておく。

2.持続可能ではない太陽光発電について

メガソーラーの中には森林を伐採して作られるもの、草原などの貴重な緑地を利用するもの、環境懸念を抱えた住民の反対があるものについては持続可能ではない再エネとして環境団体などでも懸念を示してきた*5-1,5-2

前項で示したように既存分を含むものの新たに林地を伐採する可能性がある「森林」は総電力量の0.7%であった。

 これ以外にも、耕作放棄地、原野やゴルフ場跡地、他の中には環境維持することが重要であったり住民の意思を尊重すべきものがあり、個々の事業を考慮する必要があるものが含まれる。

これら環境への懸念があるものではなく、持続可能な太陽光発電を増やすためにソーラーシェアリングを試算より増やすことはできないか検討した。

試算するにあたって採用した文献は「制約条件を考慮したソーラージェアリングの導入ポテンシャル評価 2018土木学会論文 東大 室城ほか」*6で、関東地域のソーラーシェアリングの導入可能性を作物ごと、日照条件や電源系統への接続条件などを考慮して試算している。これによると関東地域でのソーラーシェアリング導入試算量は69,118[GWh/年]であり、文献内条件case1(地理的な制約考慮、電源系統への接続課題は考慮しないなど)を採用すると63,110[GWh/年]となる。

上記文献は関東地域の試算なので、全国の耕作面積比率データ*7から単純比率で計算すると全国のソーラーシェアリング導入試算量は394,438[GWh/年]となる。地域の条件等はさまざまなのでそれを考慮してそのうち10%が導入できたとすると、39,444[GWh/年]になる。この量は2030年総電力需給量(未来エネグループ試算値)の約5.3%にあたる。

これらの数値を表2に示す。

表2 ソーラーシェアリング導入量試算(文献*5,6から筆者試算)

 ソーラーシェアリング導入量試算 [GWh/年]
関東69,118
文献case163,110
関東→全国換算*7394,438
内10%導入の場合39,444
未来エネグループの2030年総電力需給量を100%とした場合の割合5.3%

この試算によるソーラーシェアリング導入量は、未来エネグループのソーラーシェアリング試算量2.2%の2倍以上である(グラフ2)。

もちろんソーラーシェアリングにはさまざまな課題があるため普及は容易ではないが森林破壊や住民の反対のある発電方式の代替手段としてひとつの可能性を示した。

従って、環境への悪影響があって持続可能ではない太陽光発電ではなく例えばソーラーシェアリングの導入拡大を図ることによって、エネルギーミックスは良い方向へ向かうものと思う。

 グラフ2. 2030年電力用需給見通し割合(未来エネグループ)

(未来エネルギーグループのデータから筆者推定を含め作成)

また今回は考察しなかったが、再生可能エネルギーであってもパーム油やPKSを利用したバイオマス、燃料を輸入して燃やす木質バイオマス系*8、環境懸念を持つ住民の反対がある風力発電など、持続可能ではないと思われる再エネは他にもある。

気候危機を緩和させるためには地域の合意が大前提であり、再エネ発電が増えたとしても緑地が減ったり地域を重視しない方法ではかえって危機を悪化させるのではないだろうか。

気候危機対策として実施されようとしているものの中には逆効果であるものもあるのではないか、引き続き持続可能な再エネとはなにか?について考え活動をしていきたい。

(田渕 透)

<参考文献>

*1 脱炭素に向けた2050年ゼロシナリオ(WWF)
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20201215climate01.pdf

*2 2030 年エネルギーミックスへの提案(自然エネルギー財団)
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_2030Proposal.pdf

*3 レポート2030(未来のためのエネルギー転換研究グループ)
https://green-recovery-japan.org/pdf/japanese_gr.pdf

*4 国土交通省(2013)『平成 25 年 世帯・法人土地・建物基本調査』、農水省(2017)「荒廃農地の現状と対策」、太陽光発電に係る林地開発許可基準の在り方に関する検討会(2019)「太陽光発電に係る林地開発許可基準の在り方に関する検討会報告書」、総務省(2019)「平成 30 年住宅・土地統計調査」、一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会(2019)「利用税の課税状況からみたゴルフ場数、延利用者数、利用税額等の推移」より自然エネルギー財団作成。

*5-1 「持続可能な再エネ」電力会社を選ぶことで「よい社会」を選べる(パワーシフトキャンペーン)https://power-shift.org/downloads/15258/

*5-2 鴨川市田原地区メガソーラー計画を取材しました(FoE Japan)
https://power-shift.org/kamogawa_megasolar190302/

*6 制約条件を考慮したソーラージェアリングの導入ポテンシャル評価 2018土木学会論文 東大 室城ほかhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejer/74/6/74_II_221/_pdf/-char/ja

*7 令和2年耕地及び作付面積統計(併載 平成28年~令和元年累年統計)e-Stat 政府統計の総合窓口
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500215&tstat=000001013427&cycle=7&year=20200&month=0&tclass1=000001032270&tclass2=000001032271&tclass3=000001150346

*8 レポート「バイオマス発電は環境にやさしいか? “カーボン・ニュートラルのまやかし”」 FoE Japan
Click to access 210514.pdf

歴史的勝利!市民がシェルに勝訴

歴史的な勝利です!
FoEオランダと市民が気候変動対策の強化を求めてシェルを訴えていた裁判で、市民側の訴えが認められました。裁判は17,000人以上のオランダ市民が原告として参加し、6つの環境団体も原告として名前を連ねました。裁判所は、シェルに対して、CO2排出量を2019年比45%削減しなければならないことなどを命じました。
多国籍石油企業シェルの気候変動に対する責任が裁判で認められ、具体的な数値まで出してCO2の削減が命じられたことは画期的です。詳しくは以下のFoEインターナショナルによるプレスリリースをご覧ください。


歴史的勝利:シェルに対し、裁判所がCO2排出大幅削減を命じる。-FoEオランダが気候変動訴訟でシェルに勝訴
(英語原文はこちら

2021年5月26日ハーグ – 史上初めて、危険な気候変動を引き起こしたとして企業の責任を認める判決が下されました。本日、FoEオランダ (Milieudefensie) が17,000人の共同原告および他の6団体と共同で起こした訴訟1の判決が言い渡され、ハーグの裁判所はシェルが10年以内にCO2排出を45%削減しなければならないと命じました。この歴史的な判決は、シェルをはじめとする世界中の環境汚染を引き起こしてきた企業に多大な影響を与えるでしょう。

FoEオランダの事務局長であるドナルド・ポルスは、「これは、私たちの地球、私たちの子どもたちのための非常に大きな勝利であり、すべての人のための住みよい未来へのステップです。シェルは危険な気候変動を引き起こしており、今こそ彼らの破壊的な行為を止めなければならないという判決の内容に、疑いの余地はありません。」とコメントしました。

FoEオランダの弁護士ロジャー・コックスは喜びをあらわにし「これは歴史の転換点です。裁判所が環境汚染を引き起こしている大企業にパリ協定の遵守を命じたのは初めてで、他に例を見ない裁判といえるでしょう。この判決は、大規模な環境汚染をもたらしている他の大企業にも大きな影響を与える可能性があります。」とコメントしました。

ハーグの裁判所の判決は国際的に大きな影響を与えるでしょう。FoEインターナショナルのサラ・ショーは 「これは気候正義のための画期的な勝利です。私たちの願いは、この判決が大規模汚染者に対する気候訴訟の波を引き起こし、彼らに化石燃料の採掘と燃焼を止めるよう強く求めることです。この結果は、現在壊滅的な気候変動の影響に直面しているグローバル・サウスの住民等にとっても勝利です。」とコメントしました。

判決の主なポイント:

  1. シェルは、2030年末までに排出量を実質45%削減しなければならない。
  2. シェルは、顧客(スコープ32)およびサプライヤーからの排出についても責任を負う。
  3. 「生きる権利」 と 「平穏な家庭生活」 に対する人権侵害の脅威がある。
  4. シェルの現在の気候政策は十分に具体的ではないため、シェルは直ちにこの判断に従わなければならない。

ドナルド・ポルズは「この判決は、国際的な気候変動ムーブメントにとって大きな前進です。世界最大の汚染者がついに責任をとらされたわけです。今私は未来への希望に満ちています。気候危機は私たちの国境で待ったり止まったりしないとみんなが知っています。だからこそ、判事がシェルに自らの行動に対する責任を負わせることは非常に重要です。これは、他の大規模な汚染者に対する、今行動を起こさなければならないという明確なシグナルでもあります。」と締めくくりました。

補足
1: 共同原告は以下: Action Aid Netherlands, Both ENDS, Fossil Free Netherlands, Greenpeace Netherlands, Young Friends of The Earth Netherlands, the Wadden Sea Association (Waddenvereniging), および17,000人を超えるオランダ市民
2:スコープ3の排出は、スコープ1(直接排出)およびスコープ2(間接排出)以外の、取引先や顧客、従業員の移動手段や、事業からでる廃棄物など、事業にかかわるすべての過程で排出される温室効果ガスを指す。

FoE Japanによる補足:
シェルは、三菱商事他とともにカナダ・ブリティッシュコロンビア州でLNG開発も行なっており、現地先住民族等が反対の声をあげています。なお、本開発で得られる天然ガスについて、現在横須賀市で石炭火力発電所建設事業を行っている株式会社JERAは、2024年度から15年間の購買に基本合意しており(最大約120万㌧/年)、袖ヶ浦ガス火力発電所の新設を計画している東京ガスも2026年度から13年間のLNG購入(最大約60万トン/年)に基本合意しています。詳細はこちら:https://www.foejapan.org/aid/jbic02/lngcanada/index.html

プレスキットはこちら:
オランダ語: https://milieudefensie.nl/actueel/persmap-klimaatzaak-shell
英語: https://en.milieudefensie.nl/news/press-kit-climate-case-against-shell

代表への取材連絡先:
写真やビデオ、FoEオランダ事務局長(ドナルド・ポルズ)および担当弁護士(ロジャー・コックス)へのインタビューリクエストは以下の連絡先にお願いします。

persvoorlichting@milieudefensie.nl 
+31 (0)20 5507 333 / (0)6-46851137

その他の連絡先:
FoEオランダ(Milieudefensie
Arjan de Boer: +31 (0)6 22398887
Jasperine Schupp: +31 (0)6 29593873
Benjamin van Sterkenburg: +31 (0)6 52682416

FoEインターナショナル
Sara Shaw, +44 (0)7974 008 270 (5月27日中)
Sam Cossar +61 413 496 570 / Sam.cossargilbert@foe.org.au (5月28日以降)
Email: press[at]foei.org

気候危機解決、本当に必要なものは「システムチェンジ」

こんにちは。FoEでインターンをしている横浜国立大学の佐藤悠香です。

今回は、1月21日に行われたウェビナー「『私たちに必要なのはシステムチェンジだ』~斎藤幸平さんと考える、気候危機を生んだ世界像からの脱却後の世界像~」に参加報告です。
1時間半と短い時間でしたが、とても内容が濃く、個人的に刺さるものが多かった回でした。

このウェビナーではまず、大月書店の岩下さんからナオミ・クラインの著書『地球が燃えている』刊行記念として、この本の概要やナオミ・クラインが提唱するグリーンニューディールについてご説明いただきました。

気候変動を止めるための新しい社会のあり方「グリーンニューディール」とは、単なる環境政策ではなく、気候変動を格差や社会福祉の問題と結び付けて、包括的な解決策を提唱するものです。

ナオミ・クラインさんの著書『地球が燃えている』で詳しい説明がされていますので、みなさんもぜひ読んでみてください。

斎藤幸平さんからのお話:資本主義からの「脱却」

つぎに、斎藤幸平さんから「気候危機を生んだシステムからの脱却を」というテーマでお話いただきました。(投影資料はこちら

2020年は、今までどおりの「普通」が普通でなくなり、新しい「ニューノーマル」を考える転換点になりました。

しかし、ワクチンが広まり、コロナ危機の前の生活に戻ることが果たして本当に正しいのか。
私たちは破局への道を進んではいないか。改めて今の社会システムのあり方の再考が求められること、そして、コロナ危機と気候危機に直面する今だからこそ、新しい社会システムを求めていく「システムチェンジ」のタイミングにいることを強調されました。

この「システムチェンジ」というのは、単に電力システムとか交通システムの話ではなく、資本主義という経済・社会システムを抜本的に変えていくことを意味します。これは現在の社会を「スローダウン・スケールダウン」していくだけでは不十分で、新しいシステムを掲げる必要があるということです。

また、技術革新を頼り、今の生活水準を落とさずにEV車を普及させ、再エネへの転換を進めるだけでは圧倒的に不十分で根本的なところの解決にはなりません。

資本主義の下で進めるグリーンニューディールは、結局無限の経済成長を求めるだけで、自然と弱者からの収奪を強めてしまうのです。そして、これは結局グローバルな格差拡大につながってしまうことを指摘されました。

私たちは、成長主義とは決別し、抜本的なライフスタイルの転換を伴うグリーンニューディールを求めていく必要があります。

この別の社会のあり方を作り上げていくことは、オルタナティブな享楽主義(alternative hedonism)を求めていくチャンスでもあるといいます。現在のライフスタイルを続けることが本当に幸せなのか、そして、資本主義のもとで暮らす私たちの別の生き方・働き方を再考するきっかけになると、「資本主義からの脱却がもたらす新しい可能性」もお話くださいました。

気候正義(climate justice)とは

つづいて、FoE Japanの高橋さんから、気候変動アクションマップの紹介がありました。気候変動アクションマップは、今の社会システムがもたらしている日本が関係する環境破壊・人権侵害の問題についてまとめ描いたものです。

また、資本主義とも密接に関わり、気候危機解決に向けて最も大切であろう概念「気候正義(climate justice)」とは何か、そしてなぜ気候正義が重要なのかを、海外のFoEのメンバーの言葉を引用しながら説明していただきました。

気候変動は「単に科学や環境の問題ではない」
この言葉を聞いてすぐに意味が分かる方はどれほどいらっしゃるのでしょうか。

気候正義とは、気候変動を引き起こしてきた、自然や人間の搾取に基づく社会の仕組みを社会の公平性を実現する形で変えていくことです。

気候正義が何かを知ると、気候変動解決に向けた運動は、「自然を守りたい」「生物を傷つけたくない」人たちの運動ではないことが分かると思います。そして、気候不正義と資本主義は密接に関わっていることが分かると思います。

あくまでも先進国の豊かな生活を実現するための経済成長を続ける限り、その成長からこぼれ落ちる人々・成長実現のために踏みつぶされる人が大多数になります。そして、この経済活動のせいで生じてくる気候危機のツケまでも払わされるのが、CO2をほとんど排出していない途上国の人々です。

このような不正義と格差を目の前にして、私たちはもっと持続可能で公正な社会を求めていくべきではないでしょうか。こういう話をすると、規模が大きすぎて到底無理そうに聞こえるかもしれませんが、この不可能そうに聞こえることを実現しなければいけないほど、気候危機の中にいる私たちには時間がないのです。

変化を起こすのは市民である私たち

これに気が付くと、「マイ〇〇をもっておけばOK」という話では到底済まないことが分かります。個人のライフスタイルを環境に配慮したものに変えていくことはもちろん大切だけれど、消費者としての努力を求めるよりもそれ以上に市民が、

・本当に公正な政治的意思決定を求めていく

・グリーンウォッシュ企業に”NO”を突きつける

といった声を上げて生産のあり方を抜本的に変えていかない限りは、現在の自然破壊と弱者からの収奪が蔓延した社会は変わりません。

そして、FoE Japanの吉田さんから、FoE Japanの考えるシステムチェンジの原則について、ご紹介いただきました。

「国や企業ではなく市民が声を上げていかない限り、システムチェンジは実現できない。
政府や企業や大きな力を持つ人ではなく、私のような普通の市民が声を上げ続けることが実は一番大切で効果的」
というお話は、私自身としても、これからも声を上げ続けるモチベーションになりました。

また、斎藤さんも、「個人の変化」「政治の変化」「企業の変化」をセットで求め実行していくには、私たち一人一人の声とアクションが必要になるとおっしゃいました。

斎藤さんやFoE Japanのお話を聞くと、「現状を変えなくてはいけないことは分かったけれど私は何をすればいいの?」と思う方も多いと思います。

そのような方は、自らもアクションに参加することがネクストステップになります。NPO・NGO・政治活動・社会運動。世の中にはいろんな立場からすでに声を上げて活動している人がたくさんいます。

そんな人たちに話を聞きにいったり、支援をしたり、自分もその活動に加わることで人とのつながりを増やしていくことが重要なのではないでしょうか。

斎藤さんは、このアクションを起こすことのハードルの高さには二つあるとおっしゃっていました。一つは、アクションに対する心理的なハードル。二つ目は労働時間の長さによる時間的ハードルです。

斎藤さんによると、教育・医療・交通機関といった「コモン」を脱商品化し、みんなの共有財産にしてできるだけ安価にアクセスできるようになれば、賃労働に依存しない生活が維持できるようになります。そして、このように労働時間を減らすことで仕事以外のアクティビティに費やす時間を増やすことが可能になるのです。

私は、Fridays For Future Japanでの活動を通して、一つ目のハードル「アクションすることへの心理的ハードル」を下げていきたいと思っています。

同調圧力が強い日本社会でも、年齢や性別、人種に関わらず誰もがおかしいことは堂々と「おかしい」と言っていいこと、自分の声には価値があること、主張は持つだけでなくアクションを通じて示すことは最高にクールであることを特に同世代に伝えていきたいです。

本当の豊かさを見つける

今回のウェビナーを通じて、自分が特に意識せずに生活していた資本主義というシステムの中で、私たちは本当に必要のないものまで広告やメディアの影響を受け、「より早く、新しいものをたくさん」消費しようとしていたことに気が付きました。

資本主義から脱却するには、まず「足るを知る」こと。そして、物質に左右されない自分にとっての本当の幸せを見つめなおすことが大切です。

大量生産・大量消費ではなく、顔の見える消費をすること。地域への貢献を実感すること。このような暮らし方は単に、弱者とか地球環境とかだけだけでなく結局は自分自身の心の豊かさに繋がっていくのではないでしょうか。

スローダウンした社会のあり方は、今よりずっと公正で絶え間ない消費と労働からのプレッシャーから開放され、人々が心の余裕のある暮らし(働く以外の活動の領域が広がる生活)に繋がるのではないかと思います。

経済指標に左右されない「人間らしい」生活を大切にするには、今の社会でおかしいところを探してみる。興味を持つ。そして、自分で調べたりたくさんの人の声を聞きにいくこと。

そして、そこで得た情報や知識に満足するのではなく、次は自分が本当に実現したい社会のために行動して声を上げること。

このようなことが重要なのではないでしょうか。

水素やEV、アンモニア、自然エネルギーなどのイノベーションの前に、まず私たちが、資本主義の下で地球と弱者に負担をかけ続ける社会システムを見直さない限り何も根本的な解決にはなりません。

そのため、気候危機やグローバルな格差・貧困の解決には、個人のライフスタイルの変化は大前提であるものの、これだけでは実は全く足りてなくて、「国の政策と企業のあり方」をより公正で本当の意味で人々の心を豊かにする方向へいくように、私たち一人ひとりが市民の立場からプレッシャーをかけ続けることが重要です。

資本主義のような絶対に誰かをとりこぼすような社会システム、踏みつけられて泣き叫んでいるようなひとがいるシステムがおかしいと思うなら、レジ袋をもらうのをやめたりマイボトルを持つのだけでは到底十分ではなくて、この経済・産業システムの変革を求めてアクションをすることが大事だという斎藤さんとFoE Japanのみなさんから強いメッセージを受け取りました。

最後に

システムチェンジを求めて声を上げ続けること、そしてそれと同時に新しい社会の形成に向けて、「自分の人生には本当は何が必要なのか」という自分自身の考え方(生き方)を考え直すことが必要になります。

be the change you want to see in the world.
世の中で見たい変化があるならば、まずはその変化に自分がなること。

社会とともに、自分自身もこれまでとは違う「新しい豊かさ」を再考していきたいと思います。

(インターン・佐藤悠香)

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