COP27閉幕 – 損失と被害に対する基金設立は歴史的一歩であるものの、その他の結果は危険なほど弱いものに

2022年11月20日, シャルム・エル・シェイク(FoEIによるプレスリリース)

原文はこちら

気候変動の取り返しのつかない影響を発展途上国に補償する損失と被害(ロスアンドダメージ)の基金が、米国や他の先進国による一貫した妨害にもかかわらず設立されたことは、膠着状態に陥っていたCOP27の交渉が歴史的な突破口を開いたことを意味します。この基金は発展途上国の主要な要求の一つでありましたが、実現が困難とみられていました。これは歓迎すべき第一歩です。しかし、先進国が責任を放棄する可能性はまだ十分に残されており、その他のCOP27の成果は極めて弱いものでした。

FoEインターナショナルのSara Shawは「数十年の苦闘を経て、ようやくロスアンドダメージのための基金が設立されたことは救いです。しかし現在、基金はまだ空っぽです。正義と公平性に沿って、先進国にそれに貢献することを保証させるための戦いが私たちを待っています。私たちは、十数年前に約束されたものの未だ達成されていない年間1000億ドル目標に対する富裕国の惨憺たる成績を繰り返させてはいけません。」とコメントしました。

COP27の結果には 「クリーンで公正な再生可能エネルギーへの移行」 の必要性への歓迎が含まれていますが、移行を達成するための、排出削減のための資金支援などの合意はなされておらず、緩和に関する成果は弱いものに留まりました。石炭の段階的縮小(フェーズダウン)について昨年合意されましたが、この部分に関して前進がなかったことは化石燃料産業を喜ばせるだけになると懸念しています。

FoEアフリカのBabawale Obayanjuは「COPの結果が 『排出削減の講じられていない石炭火力の段階的縮小』 のみに留まったという事実は、アフリカと気候にとっての大惨事です。石油やガスも迅速かつ公正に段階的に廃止されなければなりません。「排出削減の講じられていない(unabated)」 という小さな言葉は、巨大な抜け穴を作り、新たな化石ベースの水素と炭素の回収・貯蔵プロジェクトへの扉を開き、排出の継続を可能にしてしまいます。豊かな国や企業の利益のためにコミュニティを破壊しているガスを、これ以上アフリカで採掘する必要はありません。COP27で必要だったのは、すべての化石燃料を迅速かつ公平に段階的に廃止するという合意でした。」とコメントしました。

昨年、COP26では環境・社会正義団体の強い反対にもかかわらず、長い議論の末、炭素市場について合意に達しました。COP27では、地球工学や自然に基づくオフセットを炭素市場の仕組みに組み込もうとする急速な動きがみられました。警戒すべき動きです。これに関する議論は2年延長されることになりました。一方、最終決定文書からは、人権、先住民族の権利、労働権への言及は削除されています。

FoEインターナショナルの議長でスリランカ出身のHemantha Withanageは「炭素市場に関する決定を非常に憂慮しています。COP27は、地球工学、危険で検証されていない技術、いわゆる自然に基づく解決策をカーボンオフセット市場に組み込もうとする動きを一時的に遅らせましたが、これらの脅威が去ったわけではありません。炭素市場は、汚染者による継続的な排出、脆弱なコミュニティからの土地、森林、水の奪取、人々の権利の侵害を覆い隠しています。」とコメントしました。

COP27は、エジプトの活動家やジャーナリストに対する国家による弾圧の中で開催されました。これについてSara Shawは次のようにコメントしました。

「COPが終わってエジプトを離れても、私たちはここに残っている良心の囚人を忘ません。人権なくして気候正義はありません。市民社会はこれからもそれぞれの政府に働きかけ続け連帯を示します。」

このプレスリリースに関する連絡先

Sara Shaw, Climate Justice & Energy coordinator, Friends of the Earth International

sara[at]foe.co.uk, WhatsApp/Signal +44 79 7400 8270, @climatemouse, speaks English, Spanish

dipti bhatnagar, Climate justice & energy coordinator, Friends of the Earth International

dipti[at]foei.org, Whatsapp/Signal +258 84 035 6599, @diptimoz, speaks English, Portuguese, Spanish, Hindi

Madeleine Race, madeleine[at]foei.org, @foeint, speaks English, Spanish, French.

写真:Bianka Csenki, Artivist Network (@8iank4 / @artivistnet)

COP27終盤を迎えて – FoEインターナショナル記者会見

COP27の閉幕予定日である18日を迎えました。

FoEインターナショナルは閉幕に先立ち、記者会見を行いました。

記者会見の様子についてお伝えします。(注:登壇者のコメントは抜粋です)

録画を見る:https://unfccc.int/event/friends-of-the-earth-international-closing-analysis-from-experts-and-activists

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最終日前日である17日夜、最後の全体会議が始まり、いくつかの議題を採択して中断しました。議論が終わっていない6条(国際市場メカニズム)や資金等の議題は今も継続して議論されています。18日に閉幕予定ですが、会議はこのまま週末にも継続される見通しです。

気候危機打開のためには、すでに気候危機の影響に苦しむ途上国に対し、先進国が歴史的責任に鑑み、削減目標や支援を強化していく必要があります。

Meena Raman(FoEマレーシア/ Third World Network)は「途上国が最も重視している成果は、COP27で損失と被害(Loss & Damage/ロスダメ)のための資金ファシリティを立ち上げることです。現状のドラフトでは、COP27でファシリティを立ち上げ細かい議論は今後行うというオプション、今後ファシリティを立ち上げることを決定するというオプション、そしてロスダメ資金ファシリティについては何も決定しないというオプションが示されています。最初のオプションですら、資金についてなんの見通しもないことから不十分と言えますが、しかし最初の一歩とは言えます。しかしアメリカを筆頭に先進国が交渉の進展を妨害しています」とコメント。

また「先進国は共通だが差異ある責任を認めようとしていません。パリ協定にすでに明記されている原則です。中国を言い訳に行動しようとしていません。」

Karen Orenstein(FoE US)はアメリカの役割に触れ「アメリカはUNFCCCの交渉で、これまでもフェアプレイヤーではありませんでしたが、今回は特に悪いと同僚が話していました。米国はロスダメ資金に資金を供給できないだろうから設置に反対しているようですが、だからといって他の国が設置しようとしていることを止める必要はありません。ケリーは1.5℃を守ると言っていますが、アメリカこそ気候危機の原因です。LNG輸出国としてトップで、昨日も新たなLNG事業開発に許可を与えました。」とコメントしました。

Soumya Dutta(FoEインド)は、国際炭素メカニズムによりインドで生じている問題について取り合げ「パリ協定成立以降、そしてグラスゴー以降、危険な炭素除去やジオエンジニアリングや自然に基づくオフセットなどが話し合われています。インドでは200以上の炭素市場事業がCDMを通じて行われています。炭素市場事業により先住民族が伝統的に利用してきた森から追い出されています。石炭事業を行う企業が実施する巨大なソーラー事業により、水源が影響をうけ、牧畜を営んできた人々に水が行き渡らなくなりました。過去10年近く炭素市場を見てきましたが、売り手側も買い手側も排出を削減できていません。炭素市場はまったくの詐欺です。」と炭素市場を批判しました。

最後に、Tatiana Roa(FoEコロンビア/CENSAT Agua Viva) は「ラテンアメリカの国々も他の地域と同じく、大きな影響を受けています。気候危機の悪化により、農業や生計手段、食糧安全保障への影響が懸念されます。気候危機の影響を受ける人々が増えているのに、危機に責任のある国は、真の解決策に資金をあてず、化石燃料産業への支援を続けています。真の解決策は、炭素を地中から掘りださないことです。」

昨年のCOPでは、石炭火力のフェーズダウンや化石燃料補助金の廃止などが盛り込まれました。交渉では、決定文書に「すべての化石燃料の廃止」を盛り込むのかどうかなどについて、議論が続いています。

化石燃料からの公正で、迅速なジャスト・トランジションを

11月15日は「エネルギー・デー」ということで、エネルギーに関連するアクションやサイドイベントが多数行われ、化石燃料のフェーズアウト(段階的廃止)を求める市民社会の声が会場内で響き渡りました。

交渉でも、先週の議長国コンサルテーションの場で、昨年に引き続きインド政府が「全ての化石燃料の公正な縮小(equitable phase down of all fossil fuel )」を求めました。

また今週の議長国コンサルテーションでは、ツバルが化石燃料生産の拡大停止や化石燃料補助金の廃止に言及。公正な移行の必要性を訴えました。

石炭火力の廃止だけでなく、全ての化石燃料の削減を求める文言を決定文書に残すよう市民社会から強い声が上がっています。

昨年のCOPでは、決定文書にCOPの歴史上初めて、石炭と化石燃料補助金に関する言及が盛り込まれ注目されましたが、温室効果ガスの排出のほとんどが化石燃料由来であること、そして化石燃料事業に頼り続けることよって、開発現場では水質汚染や環境破壊、人権侵害、土地収奪などの問題が起きていること、そして化石燃料中心の社会が先進国や大企業に利益をもたらし続け、不平等な社会構造の維持に繋がっていること…そういった側面を考えると、一刻も早く全ての化石燃料のフェーズアウトが不可欠です。

化石燃料のフェーズアウトのためには、公正な移行計画が不可欠です。

公正なエネルギー移行に関しては、G7諸国などを中心にJETP(ジャスト・エネルギー・トランジション・パートナーシップ)という途上国向けエネルギー移行支援が行われていますが、透明性の欠如やさらなる債務の拡大など重大な問題点が潜んでいます。

インドネシアで開催されているG20では、11月15日、米国と日本が主導するインドネシアとのJETPについても発表がなされました。しかし、詳細はまだ明らかではなく、今後6ヶ月かけて内容を詰めていくといいます。市民社会からは透明性に欠け、実効性や社会影響などを懸念する声があげられています。

また11月14日、アジア開発銀行(ADB)、インドネシア政府、丸紅が出資する事業者が、ADBの主導するエネルギー移行メカニズム(ETM)の下で、チレボン石炭火力発電所1号機の早期閉鎖を進めることを発表しました。

チレボン1号機が早期閉鎖される方向であることは歓迎されるものの、ETMの下で、バイオマスやアンモニア、水素との混焼など、代替電源を用いて発電所が「再利用」される可能性もあります。また今回の合意では、チレボン1号機において10~15年の早期閉鎖が計画されているようですが、これまで地域社会が被ってきた大気汚染や生計手段への影響についても考慮すれば、チレボン1号機の一刻も早い早期閉鎖と環境修復が必要不可欠です。

さらに、チレボン1号機の事業者(出資者は、丸紅(32.5%)、韓国中部発電(27.5%)、Samtan(20%)、Indika Energy(20%))は早期閉鎖に向けて補償措置を受けることになるため、民間企業がとるべき座礁資産に対する責任を公的資金で補填することによるモラル・ハザードも懸念されます。こうしたメカニズムは、現在も石炭セクターへの投融資を継続している民間企業に対し、将来的に座礁資産に対する責任を逃れる、あるいは回避することが可能であるという誤ったメッセージを送るだけです。

一方、英国のパビリオンでは、昨年のCOPで発表された「クリーンエネルギーへの移行の公的支援に関するグラスゴー声明」(グラスゴー声明)の一周年を記念するイベントが開かれました。

これは、クリーンエネルギーへの公的支援を優先し、2022年末までに新規の化石燃料事業への公的支援を停止することを含んだ声明で 、日本以外のG7諸国が署名していることでも注目されました。

今日のイベントでは、新たにネパールが署名国として加わり(グアテマラも署名予定)、署名国・団体が41に増えました。署名団体のいくつかは、化石燃料に対する公的支援の制限を始めていますが、いくつかの国は、未だ新たな方針を掲げていなかったり、制限を設けても大きな抜け穴を残している国もあります。今後も声明に示された内容が確実に実行されているのか市民社会がウォッチする必要がありますし、署名していない日本政府に対しては、直ちに署名し、公的支援を停止するよう呼びかける必要があります。

(深草亜悠美)

一週目終了 – COP27は「アフリカCOP」なのか

11月6日に開幕したCOP27の一週目が終わりました。

通常一週目に技術的な交渉を中心に行い、二週目には閣僚級の政府関係者が参加し政治的な合意を話し合う段階に入ります。

12日に開催したFoEインターナショナルの記者会見の内容と共に、この1週間のハイライトを紹介します。

(12日のマーチ 写真:https://twitter.com/Artivistnet/status/1591398886287212545?s=20&t=_zR_dnsMIjr64kKaYeWT7Q )

人権なくして気候正義なし

一週目の最後、11/12は「COP27連合」(COP27のために結成された市民社会等のネットワーク)により世界的な行動の日(Global day of action)が呼びかけられており、日本を含め、世界各地で気候変動対策を求めるアクションが行われました。

2013年以降、エジプトの市民社会は深刻な抑圧を受けています。政府は活動家や女性、性的マイノリティ、ジャーナリストを対象に、不当逮捕や弾圧を続けています。

英国系エジプト人の活動家で、良心の囚人であるアラー・アブデル・ファターは、4月2日からハンガーストライキを行っていますが、11月1日からは1日に取っていた100キロカロリーの食事をやめ、COP開始日の6日からは水を飲むことも止めています。COPに先立ち、エジプト含む世界の市民団体などが、アラーの解放を求め、自由に市民活動ができるスペースなしに、気候変動対策はなしえないと声をあげています。

11月15日〜16日のG20開催が近づくインドネシア・バリ島でも市民活動の制限が厳しくなっています。過去10年間に、世界で少なくとも1733名の環境人権擁護者が殺害されました。カナダで、伝統的に守り継いできた水源や森を開発や収奪から守るために立ち上がっている先住民族やその支援者が犯罪者扱いされ、弾圧されています。ベトナムでも、環境問題に取り組んでいた方が逮捕された状況が続いています。

FoEグループは、権利侵害や環境のために立ち上がり、不当逮捕・迫害されている全ての人々に対し、これまでも連帯を示し、声をあげてきました。

グローバル・アクションデーの今日、エジプト国内では自由にデモ活動ができないため、12日には国連の会議場内(国連の会議場は国連の管轄になる)で短いマーチが行われました。本来であれば、路上にでて自由に市民が声をあげられるべきです。

12日に現地で開かれたFoEインターナショナルの記者会見においても、FoEインターナショナルのプログラムコーディネーターであるDipti Bhatnagarは「気候正義には連帯が重要です。私たちは今日ここにいない人のためにもCOPにきて活動しています。エジプト政府による人権侵害を受け入れることはできません。」と発言し、気候正義にとって人権や民主的スペースが不可欠であることを訴えました。

気候変動による損失と被害

COP開幕当初から注目されている損失と被害(ロスダメ)。途上国はロスダメに対する資金支援を長年求めてきましたが、今回のCOPで初めて正式な議題に上がりました。

Bareesh Hasan Chowdhury(FoEバングラデシュ)は12日の会見で「長年議論されてこなかったロスダメ資金に対する期待がある一方、交渉において、先進国は、今でも方向性を捻じ曲げたり議論を遅らせたりしようとしています。ロスダメは将来の問題ではなく、今すでに私たちが経験していることです。ロスダメ資金の合意なしに、シャルム・エル・シェイクを去ることはできません」とコメント。

交渉の中で、途上国グループ全てが、2024年より前に資金ファシリティが運用されることが重要であると主張していますが、アメリカは損失と被害に対しての先進国の責任や賠償を認めておらず、またしても交渉をブロックすることが懸念されます。

炭素市場

パリ協定6条、いわゆる炭素市場や二国間支援に関する交渉も、注目されます。

COP開始前日、6条4項の監督委員会が「除去」に関する勧告(Recommendation)をまとめました。この勧告は幅広い種類の除去手段をオフセットとして取引することを認めるもので、まだ技術的に確立していなかったり(CCS/CCUSなど)、土地収奪や環境への悪影響が予測される土地部門の除去やジオエンジニアリングをも認める内容でした。これに関して、市民社会だけでなく先進国途上国双方の政府からも懸念の声があがっています。

FoEグループはこれまでもオフセットは排出対策に繋がらないとして反対の立場をとってきました。また、「自然に基づく解決策」についても、大規模な土地収奪に繋がりかねないことや、排出削減に繋がらないことなどを訴えてきました(詳しくは:https://foejapan.org/issue/20220613/8344/ )

なお、ジオエンジニアリング(一般的に、気候変動問題の解決のために地球規模の影響をもたらしうる技術を利用することを気候工学、ジオエンジニアリングと呼ぶ)については、環境や社会への影響が未知数なことなどから、2010年に生物多様性条約で全ての気候変動関連ジオエンジニアリング技術に対し、モラトリウム(一時停止)が設けられています。

監督委員会が勧告を採択した段階ですが、第二週目でCOPが委員会に差し戻し、見直しを求める可能性は十分あります。

COPは化石燃料まみれ?

6条の交渉からもわかるように、国際炭素取引市場でのオフセットや自然に基づく解決策など、いわゆる私たちが誤った気候変動対策と呼んでいる策を強力に推し進めようとする(特に先進国の)政府や企業が数多く参加しています。

COP開始時点から強く懸念されていたのはガスを推進する勢力です。COP開始前から、ロシアのウクライナ侵攻を背景に、アフリカでのガス開発への関心が高まり、またアフリカのガス利権関係者は、アフリカのガス開発を開発の権利として主張し、脱化石燃料とは逆方向の主張を繰り広げていました。

12日の記者会見でも、FoEナイジェリアのRita Uwakaは「化石燃料事業の継続はコミュニティへの宣戦布告です。ニジェールデルタ(注:ナイジェリア最大の産油地帯で、環境汚染や人権侵害が非常に深刻な地域)で起きていることからもわかるように、石油採掘が水や土を汚染し、漁業者や農民に影響を与えています。自然は私たちの命です。」とコメント。また、気候危機や企業による環境破壊や土地収奪によって女性が被害を受けており、一方で、土や水を守ってきたのも女性であると強く訴えました。

世界中の市民社会団体や活動家、先住民族が立ち上がり、気候危機やそれを生み出した構造を変えようと取り組む中で、先に述べた通り、市民社会のスペースが世界中で縮小しています。

一方、今回のCOPには石油ガス産業の関係者が少なくとも636人が参加していることがわかっています。これは去年の数字から25%も増加しています。化石燃料産業がパビリオンでイベントを行い、化石燃料由来の水素の喧伝も行っています。

FoEUSのKaren Orensteinは会見で「米国政府はさまざまなイニシアチブを発表し、一見良く見えますが、一方でガス開発を拡大し、欧州への輸出を増やそうとしています。米国の気候変動に対する歴史的責任を考えると、排出対策も途上国支援も大幅に拡大しないといけません」とコメント。

また、米国の姿勢について、資金支援の文脈で、FoEマレーシアのMeena Ramanは「現在の資金支援のあり方では、気候危機に緊急に対応することはできません。資金に関する議論の文章はまだほとんどが「括弧付き」(交渉で未合意)です。米国は新たな資金支援なしにCOPに参加しました。また、米国が動かないのを言い訳に米国以外の先進国、EUや日本が動かないだろうことも問題です。気候変動対策が遅れている国々(Laggards)を待っていることはできません。これらの先進国に今すぐ行動を強化するよう叫び続けないといけません」と記者会見で述べました。

アフリカCOP?

12日に会場内で行われたマーチでは、ナイジェリア出身のNnimmo Baseyが「これはアフリカのCOPではありません。人々のためのCOPが必要です。汚染者をCOPから追い出すべきなのです。アフリカは歴史的に、そしてまた今まさに、豊かな国や企業により搾取されてきてました。奪われ、搾取され、破壊されている、まさに帝国主義です。」と力強いスピーチを行いました。

先進国によるアフリカでのガス開発もCOP中の大きな話題の一つとなっています。

12日、アフリカでのガス開発を止めるよう求めるアフリカの市民社会団体の連合「Dont’ Gas Africa」が新たなレポートを発表しました。レポートでは、このまま開発が進めば、投資回収ができず「座礁資産」となる可能性があり、また海外の企業に事業の権利を与えることはアフリカのエネルギーシステムが海外資本によって所有されることを意味し、その利益はアフリカの人々ではなく権益を持つ先進国に渡ること、開発による環境影響は地元の人々が被ること、などと指摘しています。

図:アフリカ大陸で建設中・計画中・操業中の石油・ガス関連インフラ(出典:https://dont-gas-africa.org/cop27-report/#press-release)

交渉がどう進展するのか、また交渉と並行して市民社会がどのようなことを訴えているのか、来週もお伝えしたいと思います。

(深草亜悠美)

気候資金と化石燃料ファイナンス – 日本は最大の化石燃料事業支援国

11/9は、議長国エジプトが「ファイナンス」をテーマとして設定しています。この「ファイナンスの日」に合わせ、会場内で「ファイナンス」に関するアクションが多数行われました。

気候危機が深刻になる中、先進国による途上国への資金支援は不足しています。

これまでも途上国から、すでに生じている変化に適応するための資金や、損失と被害(ロスダメ)に対応するための資金の拠出が強く求められていました。

先進国は2020年までに年間1000億ドル の気候資金を拠出する約束でしたが、それすら達成されておらず、気候危機の被害が拡大する中で資金不足は深刻です。そもそも途上国がNDC(国別気候変動目標)を達成するためには、2030年までに5兆米ドル必要だと試算されており、対策の実行には先進国が資金支援の義務を果たすことが必須です。

また、緑の気候基金(GCF)は緩和・適応事業への資金支援を行う重要な基金ですが、資金が底をついており、この状況も深刻です。また、損失と被害に対する資金拠出の道を開くことが途上国にとって重要です。

一方、先進国がいまだに多くの公的資金を化石燃料事業に費やしていることが問題です。

昨日発表された米国のNGOオイル・チェンジ・インターナショナルのブリーフィングは、日本が石油、ガス、石炭事業に対する世界最大の公的支援国であることを明らかにしました。

日本は2019年から 2021年の間に年間平均106億米ドルを拠出し、ガス事業に対してだけでも年間平均67億米ドルを拠出し、これは世界最大です。

日本の官民はアジア諸国において、多くのLNG事業に関与していますが、今回のCOPが開催されているこのアフリカ地域でも多くの資金を拠出しています。

日本のガスに関する資金の最大の受入国はモザンビークとロシアでした。2019年から2021年にかけて、日本はモザンビークと82億ドルの融資契約を結んでいますが、資金の99.5%は国内消費やエネルギーへのアクセスではなく、採掘と輸出に関連した施設に費やされています。

アフリカ大陸は、世界で一番温室効果ガス排出の少ない地域です。世界の排出のうち、たった3~4%しか排出していません。それにもかかわらず気候変動による大きな影響を受けています。

FoEインターナショナルの国際プログラムコーディネーターでモザンビーク在住のDipti Bhatnagarは「世界最大級のガス埋蔵地がモザンビーク北部で見つかり、豊かな国がそれを採掘しようとしている。海の資源や大地に依存して生きている地元のコミュニティからそれらを奪おうとしており、すでにガス開発によって100万人もの難民が発生している。2020年に日本を訪れ、モザンビークでガス開発をしないでほしいと申し入れた。しかしその後、日本政府は事業への融資を決定した。」とスピーチ。日本に対し、そしてその他の先進国や企業に対し、「アフリカを燃やすな(Don’t let Africa Burn)」と訴えました。

また、日本の官民によるガス開発が進むフィリピンから参加したKrishna Ariola(Center for Energy, Ecology and Development)は「気候危機に責任がある国々が、さらに多くの化石燃料を燃やそうとしている。フィリピンや他の東南アジア諸国は、まだ石炭から脱却する途上にあるのに、人々や環境を犠牲にしてガス依存の状況に陥りつつある。海のアマゾンと言われるヴェルデ島海峡で、巨大なガス開発が進んでおり、生物多様性も破壊されようとしている。今すぐ、融資国は化石燃料への公的支援を止めるべきだ」とコメントしました。

日本政府は化石燃料事業への公的支援を直ちにやめ、持続可能で地域のニーズに基づいた支援を行うべきです。

出典:http://priceofoil.org/content/uploads/2022/11/Japans-Dirty-Secret-JPN.pdf

写真(全て):Bianka Csenki, Artivist Network

(深草亜悠美)

COP27開幕 – FoEインターナショナル記者会見

記者会見を視聴する:https://unfccc.int/event/friends-of-the-earth-international-expectations-and-demands-for-climate-justice

FOEIのブリーフィングペーパーはこちら(英語)

FoEIのプレスリリース(11/4)はこちら(英語)

11月6日、エジプトのシャルム・エル・シェイクでCOP27が開幕しました。

開幕当日、FoEインターナショナルは現地で記者会見を行いました。

FoEイングランド・ウェールズ・北アイルランドのRachel Kennerleyは、気候正義の重要性に触れ、「先進国は十分に責任を果たしていません。前議長国の英国は今でも新たな炭鉱の開発や石油・ガス開発を続けています」とコメント。エジプトの人権状況にも触れ、「市民社会スペースなしに気候正義はありえません。ここエジプト、そしてモザンビーク、インド、ベトナム、世界各地で市民社会に危機が訪れています。市民社会のスペースを取り戻すためにたたかい続けます。」とコメントしました。

エジプトと同じくアラブの国であるパレスチナのFoE・PENGONのメンバーAbeer Butmerは「私たちはアラブアフリカ地域のエジプトにいます。エジプトは水ストレスの深刻な国です。適応支援がなければ、気候変動により農業等に大きな影響がでます。私はパレスチナから参加していますが、私たちはイスラエルの占領下で生活しており、気候危機に対する活動ができない状況にあります。抑圧を解体しなくてはいけません。」と付け加えました。

2016年にモロッコ・マラケシュでCOPが開かれて以来のアフリカでの開催です。アフリカの多くの場所で、土地収奪や汚染、人権侵害、そして気候危機により人々が被害を受けています。日本の官民が関わるモザンビークLNG事業や東アジア原油パイプラインなどもその例に含まれます。

FoEアフリカでナイジェリア出身のウブレイ・ジョー・マイモニ(Ubrei-Joe Maimoni)は、「過去アフリカで開かれたCOPは私たちを失望させました。化石燃料をフェーズアウトさせる明確な約束もまだありません。欧州諸国はアフリカでガス開発をすべきではありません。アフリカを燃やさないでください。」と発言。ガス開発ではなく、コミュニティを中心にすえた再生可能エネルギーの開発を行うよう求めました。

気候危機対策のために、化石燃料に依存した社会を変え、持続可能な社会を形成していくことが必要です。一方で、気候危機に対する対策として、「自然に基づく解決策(NBS)」や国際炭素取引市場など「誤った気候変動対策」が強力に推進されています。FoEグループは、これらの対策は、排出を削減せず、むしろ環境や社会に悪影響を与えかねないと警鐘を鳴らしてきました。

FoEインターナショナルのKirtana Chandrasekaranは「企業は排出を続けるために、複雑な抜け穴を作り始めています。オフセットは実質的な排出削減に繋がりません。汚染企業がこの先も化石燃料中心の社会を維持したいがために、ほとんど気候変動に責任のない途上国に責任を押し付けようとしているのです」と非難。続けて、「森林を炭素市場に組み込むべきではありません。先住民族やコミュニティの知恵や知識が気候変動や生物多様性損失から地球を守ってきたのです。世界70%の人々を養っている小規模農家をサポートすべきです。」と訴えました。

また、FoEマレーシアのMeena Ramanは「前議長であるAlok Sharmaが、グラスゴーで1.5℃の約束を維持することに成功したとコメントしたが、大きな間違いです。」と強く非難。「ネットゼロはまやかしであり、私たちは何度でもそう訴えます。私たちに必要なのは真の削減です。2050年までのネットゼロではほとんど意味がありません。また、パリ協定6条の下で除去(Removal)に関するガイダンスが議論されていますが、まさしくジオエンジニアリングなどの誤った対策が含まれているのです。CBD(生物多様性条約)はジオエンジニアリングのモラトリアムを設けていますが、COP27でジオエンジニアリングが正当化されてしまうことを恐れています。」とコメントしました。また「損失と被害に対する資金に関する議題は、これまでアメリカの妨害により長年議題に挙げることができていませんでした。しかし今回は議題に入りました。しかし悪魔は細部に宿ります。まだ喜べません。議論や動向を注視していく必要があります。また気候資金に関して、2009年に約束された2020年までに年間1000億ドル拠出する目標は達成されていません。先進国に真の解決策をもたらすよう強く求めます。」と交渉への期待と懸念を示しました。

ネットゼロについてはこちらもご覧ください。https://foejapan.org/issue/20211018/4992/

COP27開幕目前 – 議長国エジプトは「実施(行動)のCOP」と位置付け

2022年11月6日から18日まで、エジプトのシャルム・エル・シェイクでCOP27(第27回気候変動枠組条約締約国会議)が開催されます。世界各地で気候変動による影響が拡大し、温室効果ガスの抜本的な削減に加え、適応や損害への対応が迫られています。COP27の注目点などについて解説します。

気候危機

 2022年6月以降の大雨などが原因で、パキスタンは国土の3分の1もが水没するような大規模な災害に見舞われています。1600人以上が命を落とし、数百万人規模の避難民が発生しています。水が引いても衛生状況等の悪化でマラリアの感染が拡大し、300人以上が亡くなっています。人道危機にあるパキスタンに、さらなる支援が必要とされています。

 いわゆる途上国(グローバル・サウス)を中心に気候変動の被害が日々拡大しています。フィリピンやインドネシア、太平洋の島嶼国、アフリカ等の国々が、洪水、熱波、旱ばつ、海面上昇などで生活に大きな影響を受けています。コロナ禍もあり、日本を含む先進国(グローバル・ノース)も大きな被害を受けていますが、債務が膨れ上がる途上国において、もとより貧困や社会格差に喘ぐ貧困層への影響は計り知れません。多くの温室効果ガスを排出してきた先進国には極めて大きな責任があり、先進国は、すでに生じている取り返しのつかない被害に対し、資金支援や「気候債務」の返還を行わなくてはいけません。COP27直前に出された最新の報告書では、各国の2030年目標を積み上げて集計すると、全ての国が目標を実施し、達成したとしても、2.5℃の気温上昇となることが報告されています(昨年の集計では2.7℃)。

損失と被害(ロスダメ)への資金支援を

 中でも重要なのは、歴史的責任の大きい先進国から途上国への支援です。これまでも途上国から、すでに生じている変化に適応するための資金や、損失と被害に対応するための資金の拠出が強く求められていました。

先進国は2020年までに年間1000億ドル(注1) の気候資金を拠出する約束でしたが、それですら達成されておらず、気候危機の被害が拡大する中で資金不足は深刻です。そもそも途上国がNDC(国別気候変動目標)を達成するためには、2030年までに5兆米ドル必要だと試算されており、対策の実行には先進国が資金支援の義務を果たすことが必須です。

 また、緑の気候基金(GCF)は緩和・適応事業への資金支援を行う重要な基金ですが、資金が底をついており、この状況も深刻です。

 COP27でも資金関連の議題は注目されるとみられており、とくに損失と被害(ロスダメ)に対する資金拠出の道を開くことが途上国にとって重要です。

 ロスダメ資金支援について、COP26では、ロスダメについて「対話」を行うことが決定されたのみでした。この対話についても、途上国としては資金について対話を行いたいという意向がありましたが、先進国がそれに反対しています。そもそも「対話」だけで具体的な行動が先送りされている状況に加え、資金に関する議論をブロックしているのです。今回のCOPで中身のある議論ができるか、そしてその先の行動に進めるか、注目されます。

注1:COP16決定で2020年までに年間1000億ドルに資金支援引き上げ、COP25決定で2020年から2024年までの次期資金目標を定める作業計画(NCQG)を採択し、次期資金目標が定まる2025年までの間は最低年間1000億ドルを維持する決定もされました。

化石燃料からの脱却を

 他方で、COP27直前に出された国連報告書でも化石燃料に対する資金の流れが依然大きなままであることが改めて示され、非常に問題です。温室効果ガス削減や、民主的なエネルギーシステムのために、今の化石燃料に依存する社会をいかに早く転換していくかが重要になります。温室効果ガス排出のほとんどが化石燃料を使用することに由来します。パリ協定に掲げられている1.5℃目標達成のためには、先進国は石炭火力発電所を2030年までに廃止する必要があると言われており、また国際エネルギー機関(IEA)も、新規の炭鉱開発やガス・石油の上流開発を拡大することは、2050年ネットゼロ達成への道筋と整合しないことを示しています。

 2022年11月にNGOが発表したレポートによれば、G20諸国やMDBs(多国籍開発金融機関)は、2019年から2021年の間に、年間550億米ドルもの資金を石油、ガス、石炭事業に融資しています。

 2022年2月にロシアがウクライナに侵攻し、ロシア産の化石燃料依存からの脱却を図るため、欧米諸国などが省エネや再生可能エネルギー開発へと舵を切っていますが、同時にアフリカなどにおける新たな化石燃料開発にも関心を示しています。今年のCOP27はアフリカ大陸での開催ですが、そのアフリカで新規のガス開発の推進が行われているのです。気候危機の影響を大きく受けるアフリカ諸国において、再生可能エネルギーへの支援や、すでに生じている被害に対応するための資金こそ必要であるのに、一部の企業や先進国の「エネルギー安全保障」の名の下に化石燃料事業がすすめられているのです。日本政府はロシアにおけるガス事業からの撤退を拒み、官民連携して、モザンビークやカナダ、フィリピンといった国で新たなガス開発事業に関与し続けています。

排出削減の強化ーネットゼロではなくリアルゼロを

 温室効果ガスの削減、いわゆる緩和の議論も注目されます。昨年のグラスゴー会議で「ネットゼロ」が実質的に正当化されてしまいました。ネットゼロとはある一定期間の人為的排出と吸収のバランスの取れた状況をいいます。多くの国や企業がネットゼロを宣言していますが、それらは具体的な削減対策に欠け、大規模植林を想定した吸収量増大や将来の技術発展に頼った内容になっているものが多いのが実情です。昨年のグラスゴー気候合意は緩和に重点をおいた合意で、1.5℃以下に抑えるという目標が強調されたことは評価されるものの、ネットゼロの目標を要に据えているため、具体的な行動に欠けるネットゼロ宣言が事実上正当化されていると言えます。

(ネットゼロについて詳しく:https://foejapan.org/issue/20211018/4992/

 また、緩和作業プログラム(MWP)の運用が来年から開始される予定ですが、この中身を詰める議論が進んでいます。中でも、国際炭素取引制度を通じた吸収源や既存の森林保護による排出回避で化石燃料からの排出を見かけ上相殺(オフセット)する議論が急速に進んでいます。

 CCSやNBS(自然に基づく解決策、Nature Based Solution)といったコンセプトも炭素除去や吸収源拡大に関係するものです。CCSは炭素を回収し、貯留するものですが、現在のところほとんど商業化されておらず、数世紀にわたって漏らさずに貯留できるわけでもなく、また全ての炭素を回収できるわけでもありません。CCSを備えることで化石燃料インフラの利用継続が正当化される傾向にありますが、必要なのは化石燃料依存からの脱却です。

 NBSには大規模植林なども含まれますが、かえって先住民族や地元住民の土地への権利を侵害したり、単一種のプランテーションが広がり生物多様性が脅かされる、さらには生態系の金融商品化(もしくは炭素市場商品化)が急速に進む危険性が指摘されています。

(NBSについて詳しくはこちら:https://foejapan.org/issue/20220613/8344/

市民社会スペースの縮小

 最後に、エジプトの市民社会がおかれている状況も無視できません。

 気候変動政策のみならず、政策を形成する上で市民の参加は欠かせません。しかし、そもそもCOPの場は、一般の参加者、とくにグローバル・サウスからの参加者にとっては、費用等の観点から参加のハードルが高く、とても民主的なスペースであるとは言えません。そして、コロナ禍に入ってから初めて開催された英国・グラスゴーでのCOPは、ワクチンの配分の不平等などから、さらに途上国からの参加のハードルが高まりました。

 今回COPが開催されるエジプトには現在ほとんど市民社会スペースが存在しません。事実上、デモも禁止されています。多くの活動家やジャーナリストが、良心の囚人として逮捕されています。

 気候危機や社会正義のために声を上げる人々がエジプトで、そして世界中で迫害されています。私たちは土地や自然をまもるために立ち上がる人々と連帯し、民主的なスペースなしに気候正義はないと今回のCOPでも訴えていく予定です。

(深草亜悠美・小野寺ゆうり)