気候変動対策と生態系保全に向け、早急なFITガイドラインの改善を

 こんにちは。バイオマス担当の小松原です。新年度を迎え、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(通称FIT)の「事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)」(以下、ガイドライン)が改訂されました。私たちFoE Japanは、気候変動対策や生態系保全の観点から不十分であるとし、政府への提言やパブリックコメントなどを通して問題点を指摘してきましたが、今回の改訂でも多くの問題は残されたままです。そこで、国内外の環境NGO25団体と一緒に、改訂に対する共同コメントを4月13日に発表しました。今日は、その内容をご紹介します。

温室効果ガス排出量の評価も制限もない                                  木質ペレットやパーム椰子殻(PKS)などの生物由来の燃料を燃やすバイオマス発電は、火力発電であり、燃料を燃やせば当然CO2を排出します。発生したCO2は、植物が成長する過程で吸収して相殺するとし、バイオマス発電はカーボンニュートラルと言われますが、森林が再び成長するまでには長い年月を要します。さらに、輸入バイオマス燃料を利用する発電所は、輸送でも多くのCO2を排出します。排出量を早急かつ大幅に削減できなければ、気候危機を止めることができなくなる瀬戸際に立たされている今、CO2の排出源となるようなバイオマス発電は再生可能エネルギーにそぐわないと、私たちは考えます。ガイドラインは、再エネにそぐわない事業を排除できるように、ライフサイクル全体における温室効果ガス排出量を評価し、厳しい排出量制限を課すものでなければなりませんが、FITが導入してから9年経った今でも、GHG排出量の上限や評価の義務もありません。

パーム油はFITの対象から除外すべき                                     バイオマス発電の燃料の種類の一つに、「農産物の収穫に伴って生じるバイオマス」というものがあり、主産物と副産物に分けられます。農産物を利用するため、食料との競合やバイオマス燃料生産のための農地拡大による森林破壊などが懸念されます。現在は、主産物はパーム油、副産物はパーム椰子殻(PKS)とパームトランクに限って利用が認められていますが、それ以外の新規燃料に関して、今回の改訂で「非可食かつ副産物のバイオマス種を食料競合の懸念がないものとする」ことが明記されました。このこと自体は歓迎すべきことですが、パーム油は可食かつ主産物にもかかわらず、認められてしまっています。ご存知のとおり、パーム油の生産は、最大の熱帯林破壊と称されるほど気候危機を加速させ、生物多様性を脅かすリスクを抱えており、また第三者認証を取得すれば解決できるという単純なものではありません。「非可食かつ副産物」をすでにFITの対象として認められていることを理由にパーム油に適用しないことは、問題です。また、「環境負荷を減少させる」という再エネの目的と相反するものです。これらの理由から、私たちは、ガイドラインは新規・既存問わずに全てのバイオマス燃料を非可食に限定すること、つまりパーム油をFITの対象から除外すべき、と考えます。

持続可能性の確認期限が1年延長された                                     農産物の収穫に伴って生じるバイオマスのうち、主産物は2021年3月末まで、副産物は2022年3月末までに第三者認証(RSPO2013、RSPO2018、RSB、GGL)によって持続可能性を証明することが定められていましたが、新型コロナウイルスの影響や想定より認証取得に時間を要することを理由に、確認の猶予期間がそれぞれ1年延長されました。いかなる理由があっても、持続可能性が担保されていない燃料を使うことは、そもそも再生可能エネルギーに資さないため、制度がそれを容認することはあってはならないことです。また、この猶予は、持続可能性の確保に関する「自主的取組」を行い、かつ取組の内容及び農園等の情報を自社のホームページ等で公開した事業者にのみ許されるはずですが、FoE Japanの調べでは、事業者の多くが情報を開示していません。ガイドラインを守らない事業者がFITの支援を受け続けていることや、こうした事業者を是正する体制がないことも非常に問題です。

木質バイオマスにも厳格な持続可能性基準を                                 FITの認定を受けた多くのバイオマス発電所が、木質ペレットや木質チップを燃料としていますが、ガイドラインには非持続可能な森林伐採や生物多様性への脅威を確実に排除するための厳しい基準がありません。ガイドラインでは、輸入木質バイオマスを利用する際には、「森林認証制度や CoC認証等における認証が必要」と記載するのみで、「詳細は林野庁の「木材・木材製品の合法性、持続可能性の照明のためのガイドライン」を参照すること」としています。林野庁のガイドラインでは、森林認証制度及びCoC認証制度制度のほかに、関係団体による認定と企業による独自の取り組みの3つの方法が認められているため、実質なんでもありの状態です。森林認証は、認証ラベルを貼った木材製品を流通する際の持続可能性を保証するものであり、木質ペレット等の燃料としての利用を想定していないため、それだけでは持続可能性や合法性を担保できない可能性があります。また、関係団体や企業による独自の取り組みでは、第三者性の確保ができません。さらに、2021年2月にFoE Japanが実施したアンケート調査では、CoC認証しか確認していない事業者がいることもわかっており、ガイドラインで定められた方法によって持続可能性を確認したバイオマス燃料のみが発電に使われているかも疑わしいのです。

 このように、FIT導入から9年経った今も、ガイドラインでは気候危機や生物多様性保全に関するリスクを排除できないままです。私たちは、上記の問題を含むガイドラインの改善を訴えるとともに、バイオマス発電が抱える環境・社会影響について情報発信と問題提起を続けていきます。誰もが使う電気は、一番身近な環境問題のひとつ。次回の改訂でもパブリックコメントがあると思いますので、皆さんも一緒に参加してみませんか?

<参考>                                                             ・国内外26の環境NGOによる共同声明 https://www.foejapan.org/forest/biofuel/210413.html                                         ・経産省 事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/fit_2017/legal/guideline_biomass.pdf

日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(13)

第六回 えびの市大字西長江浦(その1)

 2021年1月28日、宮崎県盗伐被害者の会の海老原会長は田村貴昭衆議院議員秘書らとともに林野庁と面会し、実態調査や有罪判決を受けた事業者に出された補助金返還を求めることなどを要請しました*1。さらに3月30日、被害者の会会員3名で再び林野庁と面会し、被害地視察や被害者への聞き取りによる実態把握を要請しました。林野庁からは2020年9月に懲役1年(執行猶予4年)の刑が確定した伐採業者の黒木達也被告に対して拠出された補助金の返還を現金で求めていることや、5月頃に被害地視察を予定していることなどの回答を得ました。
 また宮崎の現場では、最近、検察、警察の動きにやや変化が見られ、国富町、えびの市、都城市で県警による実況見分が続々と実施されています。こうした案件がすべて適切に起訴され、司法による判断が下されることで「盗伐は犯罪」であることが周知・徹底、盗伐行為の撲滅につながることを切に願うところです。

 今回は宮崎県盗伐被害者の会会員の志水惠子さんの事件を紹介します。
※今回も被害当事者の志水惠子さんのご了承を得て、実名で記述しております。

被害林地の概要
 志水さんが被害に遭われた林地は、えびの市大字西長江浦字川内の地番1195-1、1195-20、1216-2の3筆で合計約0.33[ha](3反3畝)、土地の名義は志水さんの母親です。九州縦貫自動車道と宮崎自動車道が交わる「えびのJCT」のすぐ側に位置しており、林地は宮崎自動車道沿いです。実際、志水さんの父親(故人)は宮崎自動車建設用地として林地の一部を提供・売却したそうです。
 ヒノキが多かったこの林地には志水さんは幼少の頃から馴染みがあり、当時、家を建てるために伐採し、その後、父親に連れられて植林の手伝いをしたそうです。父親の逝去後は故人を偲んで毎週のように墓参りをしていた頃もあり、その都度、墓に供えた花の一部を林地にも手向けていたそうです。
 樹齢は55~60年生くらいで、筆者が被害地を見せていただいた際に残っていた切り株の年輪を数えたら72年生のものもありました。

被害前、立木の一部伐採を計画
 実は志水さん、2016(H28)年に立木の一部の伐採、売却を検討したことがあり、友人を誘って立木確認のために林地を訪れています。「他人の木を伐ってはいけない」と思い、小林市の西諸地区森林組合で字図を入手し、事前に林地、立木を確認しようとしたのでした。
 当日、友人はタケノコ採り、ご自身は立木を数えました。よく育ったヒノキが40本、一回り小さなものが70本あり、まっすぐきれいに植えられていて、足場もよかったことを記憶しています。そのうちの100本売却すべく西諸地区森林組合に見積もりを依頼。志水さんは立木のみの販売を想定していたのですが、予想外に森林組合側は林地込みでの買取りを希望し、双方で折り合いが付かず、交渉妥結には至りませんでした。

盗伐発覚、ヒノキの山がニンニク畑に!?
 志水さんが盗伐被害に気付いたのは2020(R2)年1月29日。陸上自衛隊霧島演習場にオスプレイが来るということで、演習場から5kmほどで高台に位置する林地からそれを見に行ったときでした。林道に入ると空が見えているのに違和感を覚え、山中に入ると「木がない」。驚くことにそこにはニンニク畑が広がっていたのです。また掘り起こされた無数の伐根はまだ土が付いている状態で重なり合い、ゴロゴロしている状態でした。
 志水さんはすぐに妹さんに連絡し、えびの市役所農林整備課に連絡を入れてもらいました。その日の午後、えびの市役所農林整備課主任主事S氏、他1名、および志水さん姉妹の計4名で盗伐被害現場を確認。えびの市役所Sからは、志水さんの母親名義の山林であることの証明や境界を明確にすることの必要性を伝えられました。

現場検証で平然と嘘をつく盗伐犯
 それから間もない2020(R2)年2月6日、えびの市役所の呼びかけで関係者が現場で一堂に会しました。志水さんご本人、妹さん、ご友人、えびの市役所農林整備課係長K氏、主任主事S氏、そして盗伐犯のIでした。この日も現場には無数の起こされた伐根が積まれていて、「すごいことになっていた」そうです。
 現場検証がはじまると、Iは「Mさんに聞いて伐採木にはピンクのリボンをたくさんつけていた」と説明し、さらに志水さん本人の面前にもかかわらず平然と「境界についてもMさんに聞いて確認し、志水さんにも立ち会ってもらいました」と言ったそうです。それを聞いた志水さんは冷静に「ここに妹もいますし、私達で立ち会ったものはおりません。Iさん、嘘はいけませんよね」と切り返しました。これにはIも二の句が継げず、その後は一切口を開かなかったようです。なお、MとはIが志水さんの林地に隣接する土地3筆を2017(H29)年3月23日に譲り受けた元の所有者です*2
 ニンニク畑のところで志水さんは法務局等から入手した図面をIにも見せるように広げて、えびの市役所のK、Sに説明しました。「ここはうちの山ですよ。こんな形ではありませんでした。こんなうすっぺらな山ではありませんでした」。Kは字図を見ながら周辺を走り回り境界を確認。K、S、Iとのやりとりの中で、Iは「ここを間違って伐ったかもしれない」とニンニク畑がIの土地でないことを一部認めたのでした。

 志水さんは、このときのことを振り返り、「Iに伐られてとてもショックでした。立木のときをよく知っていたので、山の形が変わってしまったことに本当に驚き、警察に『どこからどこまでが所有林ですか』と問われても『こんなに変わっていたら分かりません』と答えるしかありませんでした。お金の問題などではありません」。
 
 後日、家族の間で記憶を辿ってみたところ、2017(H29)年1月頃、Iが志水さんの母親宅を売買交渉と思われる目的で訪ねてきていたことを、応対した妹さんが思い出しました。そのときIは「山を30万円で売ってくれませんか」と言ったそうです。妹さんも林地についてはよく把握していて「大きなヒノキが沢山あるでしょう。ヒノキ一本が30万円ですか?」と聞き返すと、Iは5分も経たないうちに帰ったそうです。

えびの警察署を訪問、「あなたの山であると証明できますか?」
 2020(R2)年2月6日、盗伐犯Iと現場で遭遇した後、志水さんはえびの警察署へ盗伐被害の相談に行きました。応対者はえびの警察署S氏。志水さん自身で宮崎地方法務局小林出張所から取寄せた一連書類を見せながら被害概要を説明し、警察の対応を求めました。しかしSからは「あなたの山であると証明できますか」との問いかけのみで、志水さんの連絡先等を確認することもなく、また志水さんが「資料を受け取ってください」と懇願したにもかかわらず、それを彼の手元に預かることもありませんでした。
 この対応に憤慨した志水さんは2月14日、鹿児島県湧水町の土地家屋調査士に相談しました。しかし「作業道ができていて山の形がかわっている状態では測量はできない」との回答でした。
 その回答を得た後、間を置かずにえびの署を再訪問。前回と同じSにそのことを伝えましたが「境界がわからないなら捜査はできない」。志水さんは「警察で測量はしてくれないのか」と食い下がりましたが、「警察はやらない。捜査はできない」の一点張り。それでも志水さんはひたすら「ニンニク畑は私の山です」と訴えましたが、一切聞き入れてもらえませんでした。

 「警察が頼りにならない、助けてもらえない」。想定外の状況に直面し、志水さんは大きなショックを受け途方に暮れていたところ、知人から宮崎県盗伐被害者の会の存在を聞き、すぐさま電話でコンタクトをしました。このやりとりで少し元気を得た志水さん、あきらめずに2020年4月21日、三回目の訪問をしました。応対者は前回のSに加え、その上役の警部補M氏でした。志水さんは前回同様、字図など一連の書類を見せて被害の状況を熱心に説明をし、幸いにもえびの署による現地調査の確約を得ました。

えびの署による現場検証
 2020年4月27日、えびの警察署による被害地の現場検証が実現。えびの署からはM、S、および他1名、えびの市役所農林整備課からKとS、そして志水さん、妹さん、ご友人の3名。志水さんはえびの市役所による現場検証の時同様、熱心に説明をしました。
 ところが警察の反応は市役所のものとは大きく異なるもので、特にSからは「木を伐った人に、残りの山を売ったらどうですか」という打診が三度もありました。この言葉には強い憤りを覚え、被害者に寄り添う気持ちがまったくないと感じ、Sに対して強い不信感を抱いたのでした。

 そうした不信感を抱きながらの警察とのコミュニケーションはとてもストレスがかかり、他の多くの被害者がうつなど心身状態を悪くする経験をしており、志水さんも例外なく一時期、心身状態を崩されました。そして、このストレスフルなえびの警察署とのやりとりは現在も続いています。志水さんの事件は目下、森林法違反(森林窃盗)の3年の時効を迎えているのか否かが争点になっています。

 次回以降、想像を絶するえびの署の対応について、そしてそうした対応にも辛抱強くやり取りを続ける志水さんの取り組みを紹介します。(三柴淳一)

*1 しんぶん赤旗2021年1月29日紙面.
*2 IはMから地番1195-21(10,118m2)1216-1(238m2)、1195-9(297m2)の3筆、計10,653m2(1.06[ha]、約10反)を2017(H29)年3月23日に購入。

第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その1)
第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その2)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その1)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その1)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その3)
第四回 宮崎市田野町字荷物取地乙
第五回 国富町大字木脇(その1)
第五回 国富町大字木脇(その2)
第五回 国富町大字木脇(その3)
第五回 国富町大字木脇(その4)
第六回  えびの市大字西長江浦(その1)