日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(5)

県道に面した川越員さんの被害地。目隠しの一列残しもない。

第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その1)

 2019年12月13日、宮崎県内の伐採業者ではじめて森林法違反(森林窃盗)の罪に問われている「黒木林産」社長の黒木達也被告の論告求刑公判が宮崎地裁(今澤俊樹裁判官)で開かれました。検察側は懲役1年6ヶ月を求刑し、論告で「供述は不自然で一貫していない。故意だったことは明らか」と指摘。弁護側は「未契約の山林だと失念していたことによる誤伐だった」として無罪を主張しました*1。判決は2020年1月27日に出る予定です。

 今回は、宮崎県盗伐被害者の会会員の川越員(かず)さん、威尚(たけよし)さん、そして矢野育教さんの事件を紹介します。この事件は本稿第一回瓜生野ツブロケ谷の事件において有罪判決を受けた岩村進と松本喜代美が関与している事件です。
※今回も被害当事者の川越員さん、矢野育教さんのご了承を得て、実名で記述しております。

被害林地概要
 川越員さんの林地は2014(H26)年11月~12月に盗伐被害に遭いました。員さんが被害に気付いたのは伐採直後で、まだ丸太が搬出される前でした。林地の地番は130-1で面積は495m2(0.0495ha)です。土地の名義はご主人の川越威尚(たけよし)さん。
 威尚さんは週1回程度は森を見回っていました。80年生くらいの林分で「3~4人で回さないと管理できないような良材」も数十本あったそうで、よく管理されていた林地でした。この林地は威尚さんの祖母が植えた山で、威尚さんも草刈など手伝いをしていたこともあり、とても愛着がありました。土地の境界の一列は間隔を狭めて植えらており、さらに「キンチク(蓬萊竹)」も植えられていて境界は明確でした*2。この林地の登記は平成19年に済んでいましたが地籍調査はまだ済んでいませんでした。
 林地は本庄川付近の県道17号南俣宮崎線沿いに位置していて、通りからの目隠しとして一列を残すようなこともせず、まさに白昼堂々、盗伐が行われたところです。

盗伐発見後、伐採した張本人たちと遭遇
 2014(H26)年11月、盗伐被害に気付いた数日後の出来事でした。員さんとご主人が被害現場を訪れると、県の耕地整理担当の方が草刈をしていたそうです。員さんたちはその方に「この林地、誰が伐ったんですか?」とたずねると「K林業ですよ」。なんと犯人と思われる事業者が判明したのです。さらには県の方がK林業に連絡を入れてくれ、少しの間に関係者が現場に勢揃いしました。K林業、Y親子、耕地に関する当該地区の役員で員さんのご主人の従兄弟、そして岩村進、その妻の岩村直枝、松本喜代美です。員さんたちは早々に盗伐の張本人と思われる面々と遭遇したのでした。
 ここでの話の中で松本喜代美は「奥のほうに川越さんの山がありました」という発言がありました。つまり伐採する前から員さんたちの林地であることを認識していたのです。それを受けて員さんは松本喜代美に「なぜ境界の確認にこなかったのですか?きちんと確認すればうちの山は伐らずに済んだのではないですか?」と問うと返事はなかったそうです。もう一つ員さんが奇異に感じたこととして、書類上での確認をしたかったのか、松本喜代美とYの息子が話の途中でYの家に戻り、書類を持ってきたそうです。彼らはその書類を員さんたちに見せようとはしませんでしたが、結果として員さんは、K林業が伐採したことと、その伐採が極めて不当なものであろうことを認識したのでした。

 その後、今度はK林業から員さんに「Yの家に岩村、松本がくるから」との連絡があり、員さんご夫妻とご主人の従兄弟を連れ立って、Y宅へ訪問しました。ここでの話もなぜ員さんたちの林地が伐採されたのかが明らかになる情報は得られませんでしたが、車椅子を使用しているYを松本喜代美と岩村直枝がサポートしている光景から、員さんは彼らが「親戚か」と感じるほどの親密な関係にあることを認識したのでした。

丸太搬出阻止のための看板を設置
 不当に伐採されたことを認識した員さんたちは12月19日、現場に「この丸太を運び出してはならない」との看板を立て、明確な意思表示をしました。それを見たのか、翌12月20日、岩村進、その妻の直枝、松本喜代美の3人が員さんの自宅にきました。このとき岩村直枝が約30分ほどをかけて作成した直筆の書面を員さんに残していったそうです(図1)。
 その後、その看板は員さんに連絡もなく撤去され、ほとんどの丸太はK林業によって搬出されてしまったため、12月25日、員さんは再び「丸太の運び出し禁止」の看板を立てました。すると同日、員さんのご主人の従兄弟とK林業が員さん宅に「耕地整理があるから丸太を寄せねばならない」と看板を取り外すよう説得にきたのですが、員さんは「その必要はない。丸太は腐っても構わない」と突き放しました。12月30日、再びご主人の従兄弟とK林業が「残りのスギを出させて貰えないか」と相談に訪れたのですが、員さんは承知しませんでした。しかしながら結局、看板は撤去され、スギ丸太はすべて搬出されてしまったのでした。
 員さんたちは、伐採自体は現行犯ではなかったものの、伐木については明確な意思を示したにも関わらず、丸太の窃盗被害を受けたのです。

図1 員さんの面前で岩村直枝が作成した書面

はじめて警察に相談
 員さんは、最初の看板を立てた後、弁護士にも相談した上で12月22日、幼馴染の行政書士とともに宮崎北警察署へ相談に行きました。員さんは被害地が自身の土地である証明書類(被害地登記識別情報通知書、地籍図、課税明細書)を警察に提示し、被害を訴えましたが、警察は員さんの話は聞いてくれたそうですが、具体的には何もない対応でした。

伐採業者から渡された偽造伐採届
 2015(H27)年1月16日、K林業が員さん宅を訪れ、伐採届(図2左)を手渡し「その書類を持って行って宮崎市森林水産課になぜ許可したのか聞いてこい」と言い捨てるように帰ったそうです。このとき員さんが手にした伐採届は偽の書類ですが、員さんにはその認識はありませんでした。

図2 偽の伐採及び伐採後の造林届出書(伐採届)

 それが偽造伐採届であることは知らずに、員さんはその日のうちに宮崎市役所森林水産課へ行き、偽の伐採届と被害地の所有権を示す証明書類(被害地登記識別情報通知書、地籍図、課税明細書)を提示して「なぜ伐採を許可をしたのですか?」とたずねたところ、担当職員のAは「書類が提出された場合、受理しないわけにはいかない」と回答したそうです。この書類に“稟議の欄がない”ことに担当Aが気付かないはずはないのですが、ただ単に見落としだったのか、故意に見過ごしたのか、定かではないものの、これは行政の大きな失態だったといえます。このとき員さんはAに岩村進の名刺も渡し、悪質な仲介業者であることを伝えています。Aはその名刺もコピーしたそうです。
 また員さんが担当Aと話をしている最中に、偶然にも松本喜代美が市役所を訪れ、窓口で印鑑のみを市役所職員に手渡しているのを目撃したのでした。員さんはとっさに「この人が悪質な仲介業者ですよ!」と大きな声で叫びました。しかしその場にいた十数人の市役所職員で反応する者は誰一人としていなかったそうです。

 後日談として員さんは、あのとき担当のAが員さんから渡された伐採届を入念に吟味し、偽造であることを確認していれば、有印私文書偽造がすぐ判明したのではないか、あわよくばK林業を逮捕まで追い込むことができたのではないかと、市役所の不作為に怒りをあらわにしています。

再び警察へ、しかし「裁判したほうがよい」
 2014(H26)年12月に相談して以来、警察からは何も音沙汰がなかったので、6月5日、員さんは再び北警察署を訪問しました。しかし驚くことに、窓口に行った途端に警察官が出てきて、開口一番「裁判したほうがいいよ」と発したそうです。員さんが持参した偽の伐採届をコピーする程度の対応はありましたが、それ以上話を聞くこともなく帰されてしまいました。ほぼ門前払いを受けた形です。このことを員さんは「駐車場に着くと顔とかよく確認できるのではないか?だから「誰か」を確認することなく、言葉を発することができたのだろう」と振り返ります。
 盗伐被害者の会会長の海老原さんはこうした警察の対応について、「警察には『盗伐被害者は追い返せ』というマニュアルでもあるのだろう。刑事事件の民事事件へのすりかえが徹底されているとしか理解できない」と憤ります。

 次回は、員さんが宮崎県盗伐被害者の会会長、海老原裕美さんと出会い、サポートを受けながら明らかにした事件の全容について説明します。(三柴淳一)

*1 宮崎日日新聞2019年12月4日紙面
*2 地元ではキンヂクとも呼ばれる。この地域では林地の境界にキンチクを植えることがよく知られている。

第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その1)
第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その2)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その1)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その2)

【横須賀石炭訴訟報告 vol.2】再び傍聴者超満員。処分性と原告適格について主張

12月23日、第2回目の横須賀石炭火力訴訟裁判が開廷されました。法廷定員が96名の中、128名が傍聴のために東京地方裁判所に駆けつけ、超満員となりました。

今回は、前回裁判で提出された被告(国)の「横須賀石炭火力行政訴訟の提訴(以下「本件」)は不適法だから却下すべき」という答弁書への反論が主な内容でした。

(訴訟の概要についてはこちら

(第一回目期日の報告はこちら

国が本件を不適法と述べる理由としてあげたのは、

(1)本件は取消訴訟の対象となる処分ではない(処分性がない)

(2)原告らに本件通知の取り消しを求める法律上の利益がない(原告適格がない)

の2点です。上記に対し、原告は以下のように反論しました。

(1)本件は取消訴訟となりうるか?

取消訴訟としてみなされるには、「国・公共団体の行為により、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」である(=「処分性がある」)必要があります。

今回の裁判に当てはめた場合、環境影響評価書の確定通知がないと発電所の操業や建設工事に着手できる権利が発生しないこと、また、電気事業法においても工事の届出をしないと工事することはできないと定められている通り、法律上の手続きを経ないと事業が進まないことから、被告の申立ては通用しないことが言えます。

(2)確定通知の取り消しを求めることで、原告らに法律上の利益はあるか?

原告適格について、国は「個々人の一般的利益を保護しようとすることではなく、一般的利益としての環境の保全を図ろうとしている」と言って、原告らに環境影響評価の確定通知取消を求めても利益がないと主張しましたが、もしこのまま建設が進んでしまった場合の原告の被害は、

(1)排出されるCO2によって気候変動が進行して生じる被害

(2)排出される大気汚染物質によって生じる身体健康被害

(3)排出される温排水によって漁業資源が失われる等の生業喪失

の3点あるとして、原告側は原告適格を主張しました。

実際、気候変動によって、すでに大型台風等異常気象による損失と被害は起きており、熱中症等の搬送者数も今年は最高記録を更新しています。

また、大気汚染の影響を被る範囲について、神奈川県環境影響評価条例では、一定規模以上の火力発電所については「対象事業の実施区域又は当該法対象事業の実施されるべき区域の周囲から3kmの区域」を関係地域として指定しており、発電所アセス省令においても、火力発電所の周囲20kmの範囲を影響調査の対象地域としています。

温排水による環境の影響についても、近年の調査によって、海水温の上昇に伴う藻場植生の変化が見られる等、影響があることが認められています。

提訴時の45人の原告は発電所の20km圏内に住んでいる方が多く、20km圏外に住む原告であっても熱中症になりやすい年少者や高齢者です。また、新たに3名が原告に加わりましたが、いずれも漁業等関係者です。

以上のように、本件には処分性も原告適格もあることは明らかです。

求められる脱石炭

また、裁判後の報告会では、第二回期日の内容の報告のほか、気候ネットワーク平田仁子さんより、石炭火力をめぐる国際動向についての説明がありました。

パリ協定締結以来、世界の国々は脱石炭に舵を切っています。また、昨年秋からのFridaysForFutureの運動の影響もあり、今年春には欧州で環境派の緑の党が大きな躍進を見せました。そして、9月の気候行動サミットを呼びかけたアントニオ・グテーレス国連事務総長は、1.5度に気温上昇を抑えるために、

・2020までに新規の石炭火力発電を中止

・2050年に実質ゼロ

・2030年までに温室効果ガスを45%削減

を各国に呼びかけました。

一方、日本はCOP25においてもこの要請に応えず、国際的な批判を浴び続けています。

日本がすべきことは、グレーテス国連事務総長の要請を国策に反映すること、そして、それらに伴う仕事・雇用の公正な移行のための戦略を策定することが何より求められます。

本件が早く本審議に移行することとともに、日本の政策が脱石炭へと大きく方向転換されることを望みます。

次回期日は3月23日(月)14:00~、場所は東京地方裁判所(東京・霞ヶ関)です。
今回同様、裁判後は同裁判に係る報告会を、日比谷図書館にて開催します。
法廷に入廷できなかった場合も、裁判の様子はこちらの会にて裁判の報告をさせていただきますので、ぜひご参加ください。
申し込みフォームは後日、下記webサイトに掲載の予定です。
https://yokosukaclimatecase.jp/

FoE Japanは、引き続き、原告および訴訟サポーターのみなさまとともに、石炭火力の新設計画中止を求めて活動してまいります。

(高橋 英恵)

*横須賀石炭火力訴訟では、同裁判を支援するサポーターを募集しています。サポーターに登録いただいた方には次回期日の詳細、また、関連情報をお届けしています。ぜひ、皆様の知人、ご家族もお誘いの上、横須賀訴訟サポーターにご登録ください!

登録はこちらから↓

https://yokosukaclimatecase.jp/support_us/

【COP25 Vol.7】 COP25閉幕―主要議題で合意に至らず。評価できる点も

12月13日に交渉最終日を迎える予定だったCOP25。土曜深夜も交渉が続いた後、日曜昼過ぎに閉幕しました。気候変動がもはや目の前の危機として認識される中、先進国は気候危機の現実から目をそらし、国際市場メカニズムなど「誤った気候変動対策」を推進していることをFoEグループは批判してきました。

 会議終盤、主要議題であった国際市場メカニズムや目標引き上げは合意に至らず、これらの論点は来年の中間会合に持ち越されることになりました。しかし、既に発生・拡大している損失や被害に対応するため、途上国提案を基にした支援制度の強化が盛り込まれました。また、温室効果ガス排出の賠償責任を負わないとする文言を求めた米国の主張は途上国によって拒否されました。国際市場メカニズムに合意がなかったことは、むしろ多くの排出を許すルール決定に至らなかったという意味であり、今後も国際市場メカニズムをめぐる戦いは続くことになります。

FoEグループは、温室効果ガス削減に対する拘束力を持たないパリ協定では1.5℃目標達成は難しく、そもそもパリ協定自体がとても弱い枠組みになってしまったことを批判してきました。

私たちに残された「カーボン・バジェット(炭素予算。温度目標達成と整合する、温室効果ガスの累積排出量の上限値)」はほとんどありません。一刻も早く、社会全体の脱炭素化を行わなくてはいけません。しかし、温室効果ガスの排出は増え続けています。1.5℃目標達成のためには、2030年前でに2018年比で55%の排出削減を行わなくてはいけません(UNEP Emissions Gap Report 2019)。

現在の気候危機に対する責任が大きく、資金や技術を持つ先進国にこそ大きな削減義務があるはずですが、目標引き上げや次回の長期資金目標に関する交渉結果は乏しく、途上国にとって残念な結果に終わりました。

 一方で損失と被害の賠償責任を認めないという文言をどうしても含めたかった米国の主張は日本を含む先進国に支持されたものの、途上国の強い反対で最終的に落とされました。今回のCOPで損失と被害に関する支援強化のための専門家グループとサンティアゴネットワークの設立も決定され、それは評価できる点といえます。

来年のCOP26はスコットランド・グラスゴーで開催される予定で、4年連続ヨーロッパでCOPが行われることになります。特にアジアやラテンアメリカの途上国や市民社会の参加への負担は大きくなるので、参加の機会確保が課題です。また来年は京都議定書が終わり、パリ協定が始まる年でもあります。この10年は「(再び)失われた10年」と表現されることもあります。排出は増え続け、被害は拡大しています。パリ協定の実施はそれぞれの国にかかっていますが、各国が公平性をもって削減に取り組むためルールや、1.5℃目標達成のためにどのように各国目標を引き揚げさせるのか、国際市場メカニズムなどの誤った対策を推進させないためにもCOPの場での戦いも重要です。

FoEグループはこれからも現場でたたかう人々とともに、グラスルーツの取り組みを進めるとともに、国際レベル・国内レベルの政策をウォッチしていきます。

*COP25の交渉結果・合意内容に関する詳細な報告は後日掲載予定。

(深草亜悠美・高橋英恵・小野寺ゆうり)

【COP25 vol.6】市民の警鐘は会場に響くか? 参加権利剥奪を伴った大規模抗議

12月11日14時40分、各国閣僚が交渉を実施する会場の前で、笛の音が響き渡りました。この合図の下、気候正義を求める市民団体、若者グループ、女性団体、先住民族団体、労働組合等の多くの市民団体と人々が連帯し、先進国に対して野心の引き上げ、気候危機に対しての行動を求める大規模なアクションを起こしました。

一週間以上にわたったこれまでの交渉では、重要な議題にほぼ進展はありませんでした。重要な議題に中には、歴史的に気候変動の原因を作り続けてきた先進国や企業に求められている、すでに深刻化しつつある損失と被害を受けているコミュニティへの資金提供も含まれます。その代わりに交渉の場から聞こえてくるのは、交渉のグリーンウォッシュ化、間違った気候変動対策、そして抜け穴だらけの市場メカニズム等、気候危機をさらに加速させるような内容です。

さらに、先進国は人権保護メカニズム、ジェンダーアクションプランを市場メカニズムから取り除こうとしています。このような状況に危機感を覚えた市民社会がアクションを企画。当初、参加者は会場内でスピーチを試みましたが、会場の警備の強い指示の下、外へ移動。

外に出てもなお、人々の口から発せられたのは、気候危機の回避に欠かせない社会公正実現の必要性、女性への不公正や妹(姉)が受けた暴力への怒りと悲しみ、先住民族が先祖代々管理してきた土地・森林・水を利益のために奪われつつある現状、未来への危機感、そしてそれでも立ち上がるという市民の歌。このように、スピーチをした気候正義のためにたたかっている人々は皆、口を揃えて「ここで発せられている言葉は抗議の場に集まった人々たちのものだけではなく、自分は世界で苦しむ何百万もの人々を代表している」と訴えました。

当初、参加者らは交渉会場の前で、 “cacerolazo(カスロラゾ)”という、本来の開催国であったチリを含む南米等で頻繁に採用される、鍋やフライパン、その他の道具を叩いて注意を引く抗議スタイルに倣い、手もちのカップやCOP会場で配られたカトラリーを使って音を鳴らしながら、最後の交渉に向かう各国大臣たちに、パリ協定下での市場メカニズム導入への反対、損失と被害への資金援助の強化、そして人権尊重を訴える予定でした。

同時に、交渉会場の外で開催されていた市民サミットに参加していた人々も、交渉会場の入り口まで押し寄せ、会場内でのアクションと同時のメッセージを発信すべく、手持ちの道具を使って音を鳴らしていたそうです。

総参加者数は約320人。しかし、アクションに参加したしていないにも関わらず、イエローバッヂ(交渉の傍聴団体)の参加者は、この日の会場の出入りを禁じられることになりました。

行動の実施が伴わないスピーチが続いてきた25年間。

すでに途上国の何十億人もの人々は、気候危機によって荒廃した生活をすでに目にしています。

市民社会はそのような空虚な言葉へのあきれを通り越して、必死になって「Climate Justice(気候正義)」の実現を、各国政府に訴えています。

交渉の場に叫ばれた人々の声、先進国が行動を起こさないことに対する市民からの警鐘とも言えるカセロラゾの音が、各国代表に届いていることを望みます。

(高橋英恵)

【COP25 Vol.5】COP25は2週目へ

COP 2週目に突入しました。2週目からは各国の閣僚級が集まり、ハイレベル交渉が始まります。1週目の金曜日には気候マーチが開催され、50万人があつまり(主催者発表)、気候正義を求めました。ゴールに設置されたステージにはグレタの姿もあり、希望はCOPではなくマーチに集まっている人々の中にあると訴えました。

 10日火曜から閣僚級会合が始まりますが、いくつかの議題に関する実務レベルの交渉は遅れを見せており、補助機関会合の結論は9日の夜にまでもつれ込む見込みです。FoE グループが注目する交渉の状況はどうなっているのか、そして今週の交渉の行方について、まとめました。

 損失と被害

 気候変動への適応が限界を迎え、すでに各国で損失と被害が生じています。損失と被害に関しては、条約のもとにあるワルシャワ国際メカニズム(WIM, Warsaw International Mechanism)というメカニズムが、専門的アドバイスや損失と被害に関する情報収集などを行なっていますが、今回のCOPでWIMのレビューが行われており、WIMの機能やガバナンスについて議論が行われています。

 「損失と被害」は米国がもっとも強固に懸念を示す議題でもあります。アメリカの強い主張で、COP21の決定文書に、パリ協定の損失と被害に関する第8条を損失と被害の責任の所在を追求する根拠とはしないとする文言がもりこまれました(注1)。

 今回のWIMのレビューにおいて、米国は損失と被害の責任や賠償について、COP21の決定文書に挿入されたものと同じ文言を挿入しようと強い姿勢を示しており、パリ協定でも損失と被害への先進国の責任追及を避けようとするアメリカの強い主張が反映されてしまうことになります。

 国際市場メカニズム

 市場メカニズムに関する交渉は遅れています。

 月曜日の早朝現在、いまだ様々な国が求める主要な主張は残ったまま交渉文書が出てきており、本格的な交渉は明日からのハイレベル会合に決着が持ち越される見通しです。(市場メカニズムについて詳しくはこちら)

 2週目に向けて

 2週目はハイレベル会合に入り、市民社会参加者はほとんどの交渉を傍聴できなくなります。とくに市場メカニズムの議論は、さらなる大型排出を許してしまう抜け穴のあるルールが交渉に含まれており、市民社会は非常に大きな危機感を抱いています。

 また、議長国が、Climate Ambition Alliance(気候野心連合)を呼びかけており、野心(気候変動目標)の引き上げを宣言する国を集めています。水曜日にオフィシャルイベントが企画されていますが、視点は公平性に欠けており、「宣言」や「イニシティブ」にとどまり、具体的な行動に結びついているのか市民社会がしっかりと監視する必要があります。

また、第一週目の交渉の様子、第二週目の交渉への期待に関する解説についてはこちらもご覧ください。

(小野寺ゆうり・高橋英恵・深草亜悠美)


注1: CP21.52 Agrees that Article 8 of the Agreement does not involve or provide a basis for any liability or compensation 

【COP25 vol.4】 国際排出取引市場にNOを!気候正義に基づいたルールにYESを!

COP25開幕以来、今回の交渉の大きな論点の1つであるパリ協定第6条の「国際排出取引市場(Carbon market)」に対し、市民社会が強く反対の声を上げています。

そもそも国際排出取引市場とは?

国際排出取引市場の仕組みとしては主に「キャップ・アンド・トレード(cap and trade)」と「カーボン・オフセット(Carbon offsetting)」の2種類があります。

「キャップ・アンド・トレード(cap and trade)」とは、国や地域レベルで排出できる温室効果ガスの排出総量枠(キャップ)を定め、その排出量を排出者(企業・事業等)に分配し、それぞれの排出者が余剰排出枠を売買(トレード)する仕組みのことを言います。

2つめの「カーボン・オフセット(Carbon offsetting)」は、吸収量もしくは排出削減量で他者の排出量の一部を相殺できる仕組みです(例:温室効果ガスを“排出”した代わりに、埋め合わせとして植林・森林保護等を行い、温室効果ガスを“吸収”する)。また、吸収もしくは排出削減できた分を削減クレジットとして、他の排出者に販売することができます。

国際炭素取引はなぜ問題?

一見、国際排出取引市場は温室効果ガスの排出量削減につながるように見えますが、全体としては排出する場所が変わるだけで削減にはならず、抜け穴を通じて逆に排出量の増加につながります。温室効果ガスの継続的な排出を認めることになるため、大規模な温室効果ガスの絶対量削減を遅らせるという大きな欠陥があります。

例えば「キャップ・アンド・トレード」は、排出者Aが自らの割り当てられた排出量より少ない排出で済んだ場合、余った量を他の排出者Bに売ることができ、排出者Bはもともと定められた排出量を超えて温室効果ガスを排出できることになります。

「カーボン・オフセット」の場合、前述のように、「カーボン・オフセット」によって生成された排出権は取引可能なため、キャップ・アンド・トレード同様、売り先の排出者に継続的な排出を認めることになります。また、同じ量の温室効果ガス排出を削減するにしても、先進国を中心とした多くの事業者は、費用を抑えるために途上国等で実施する事例が多く、そのほとんどが実質的な削減となっていなかったり、環境破壊や人権侵害が生じていたりしています。例えば、森林保全を行い、温室効果ガス吸収源を確保した分に見合う金銭的付加価値をつける森林劣化減少を抑えるREDD+(Reducing Emissions from deforestation and forest Degradation )という国際制度がありますが、この制度によって先住民族が住む土地の囲い込みが発生するなどの問題も発生しています。

(カーボン・オフセットについてのFoE Japanの見解はこちら

このような問題点を指摘するため、FoE グループはAsian People Movement on Debt and Development(APMDD, アジアの途上国市民グループ)やIndigenous Environmental Network(IEN, 先住民族グループ)、La Via Campesina(小農民連合)とともに記者会見を開催しました。

アジアの途上国市民グループのメンバーからは、

「(今までは京都議定書の下で国際排出取引市場の仕組みがあり、現在、パリ協定の下で京都議定書の国際排出取引市場に代わる仕組みについて議論されているが)私たちに必要なのは、新たな国際排出取引市場ではなく、国際排出取引市場の廃止です。 化石燃料は地中に留め、使用を減らし、自然と調和する形で環境を回復させていかなければなりません。」

とのコメント。

先住民族グループのメンバーも、

「パリ協定第6条は単に人権保護の観点が欠如しているだけではない。このまま(の6条の議論の流れ)だと気候変動対策が遅れ、破壊と企業による土地収奪につながってしまう。」

と訴えました。

また、La via Campesinaのメンバーは、国際排出取引市場に頼らない方法への舵きりの必要性が強調されました。

「国際炭素取引はむしろ気候変動を促進するだけでなく、小農民から土地を引き剥がす世界最大の犯罪。私たちはこの動きに対抗するために連帯し、アグロエコロジーを進めなければなりません。」

一方の交渉の動きは

COP25においては、今年6月のボン会合で合意した交渉ドラフトがありましたが、水曜日朝、議長により更新された交渉ドラフトが出てきた程度で、一週目は各国・各交渉グループの要求に大きな変化や議論の進展は見られていません。

国際排出取引市場における各国の考え方について、インド、中国、ブラジルは、京都議定書の下で実施されたクリーン開発メカニズム(CDM)で発生したクレジット(温室効果ガス排出権)をパリ協定の下でも使用できるようにすることを求めています。しかし、彼らの保有するクレジットの量はEUの年間排出量に相当する量で、さらなる大量排出が可能になってしまうことから、小島嶼国連合や途上国グループはもちろん、炭素取引を推進したいと考えているEU、日本なども強く反対しています。

また、一部の先進国は、人権とジェンダー保護をルールから除外するよう求めています。 もしこの要求が通過してしまった場合、人権を尊重するための措置が、事業が実施される国の制度にのみ委ねられることになってしまいます。

そのほか、米国等は国際民間航空機関(ICAO)で準備中のカーボン・オフセット制度(CORSIA, Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)との接続を主張していますが、航空業界からの排出量は莫大で、それを相殺しようとするとパーム油など大規模バイオマス燃料の推進などにつながり、森林破壊や土地収奪につながる可能性も高いと指摘されています。

国際排出取引市場に関する本格的な交渉については、2週目の閣僚級会合に委ねられることになりそうです。

NO to Carbon Market, YES to Real Solutions

FoE グループは、記者会見を共催した市民団体とともに、国際炭素市場の問題点をまとめています(”CARBON MARKETS AT COP25, MADRID – A threat to people, politics, and planet –

また、気候正義や企業の責任追及等に取り組んでいる市民団体の1つであるCorporate Accountability International(CAI)によって、パリ協定第6条8項にて提案されている非市場制度(国際炭素取引や市場メカニズムに頼らない気候変動対策)も提案されています。”Real Solutions, Real Zero: How Article 6.8 of the Paris Agreement Can Help Pave the Way to 1.5°”

気候変動による損失や被害が顕在化する現在、気候変動対策は迅速かつ確実なものであるべきであり、炭素市場への依存は取り返しのつかない事態をもたらしかねません。

パリ協定実施期間においては、パリ協定の1.5˚C目標達成のために温室効果ガスの追加的な排出を許す余裕はなく、自らの温室効果ガスの排出は自分で削減することが重要です。そして絶対的な温室効果ガスの削減につながるルールの策定が求められています。

(高橋英恵、深草亜悠美、小野寺ゆうり)

【COP25 vol.3】Final Call? Sayonara Coal 再び

  COPで気候変動に対する取り組みが議論される中、日本の石炭火力支援に抗議する声が再び会場の外で響きました。気候危機の影響を受ける途上国のメンバーを中心に、日本の石炭支援はこれまでもCOPの会場やその他の主要な国際会議の場等で批判されてきました。

 抗議に参加した途上国メンバーの一人は「このCOPが、私たちが“Sayonara coal”と声を上げる最後のCOPになるだろう」とコメント。日本に対する期待というよりは、もう後はない、このまま石炭を推進し続ければ、日本も気候変動によりさらなる影響を受けるだろうことを思ってのコメントでした。

 実際、日本にも気候危機が迫っています。今年も多くの災害が発生し、尊い命が失われました。

 そんな中、日本の梶山経産大臣は石炭温存を明言。「脱石炭」は国際的な常識となってきている中、この発言を受けCOP初日に日本は“化石賞”(気候変動に後ろ向きな国に対し、国際的な気候変動NGOのネットワークClimate Action Network,CANから贈られる賞)を受賞しています。

 日本の石炭支援が批判される理由は気候変動だけではありません。石炭火力発電所の開発が進む地元では、土地収奪や反対派住民のレッテル貼、ハラスメント、生計手段の喪失など様々な問題が報告されています

 日本の国際協力銀行(JBIC)による公的資金支援が行われているインドネシアのチレボン石炭火力発電事業では、地元で住民による環境許認可に係る法廷闘争が続いているなか、許認可発行に係る贈収賄事件が浮上しています。建設を請負う韓国・現代建設の元幹部が地元の前県知事に賄賂を渡したとして、インドネシアの捜査機関が両名をすでに容疑者認定しました。また、これに絡み、丸紅とJERA(東電と中部電力の合弁)が出資する事業者の元取締役社長など上級幹部2名も、同贈収賄事件に絡んで、海外渡航禁止措置を受けています。 

 これまで、同事業の影響を受ける住民は、生計手段の喪失や健康被害を懸念し、同事業への融資を続けるJBICに異議申立てを行なってきました。また今般、JBICとともに融資を続ける3メガ銀行(みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行)が、同事業において国際CSR規範の66項目を遵守していないことが、日本NGO 「Fair Finance Guide Japan」が新しく発表した調査報告書「腐敗にまみれたインドネシア石炭発電」でも明らかになっています。

 現在、日本が関わるものとしては、ベトナムで2つの石炭火力発電所(ブンアン2石炭火力発電所、ビンタン3石炭火力発電所)の計画が進んでいます。さらにインドネシアでは、インドラマユ石炭火力発電所が国際協力機構(JICA)の支援で進んでいます。

 フィリピンの市民団Philippines Movement for Climate JusticeのIan Riveraは、

「これまでも「さよなら石炭!」と声を上げてきたにも関わらず、日本政府は過去の過ちから学ぼうとしていない。台風は威力を増し、フィリピンだけでなく、日本、そしてアジア各国に甚大な被害を及ぼしている。“高効率石炭”を売り込み、日本は気候変動対策よりも利益を優先している。ただちにやめるべきだ。世界有数の経済大国としてリソースがあるのだから、日本はクリーンエネルギー中心社会へのシフトを牽引して欲しい。まずは化石燃料支援を止めることから始めて欲しい。」とコメント。

気候変動は、特に途上国や貧しい地域では、すでに生存の問題に差し掛かっています。交渉の場でも、気候変動への適応の限界を迎え生じ始めている損失と被害について議論が行われています。損失と被害は往々にして経済的損失として数値で表されがちですが、貧しい国々ではまさに日々の生存の問題です。生計手段や文化の喪失でもあります。

多くの国々が気候変動の緊急性と重要性を理解し、脱石炭を進めています。

日本には一刻も早い脱石炭と、社会の脱炭素化のためのロードマップづくりが求められます。(深草亜悠美・波多江秀枝)

【COP25 vol.2】COP25初日終了 – 政府によるチリ市民への弾圧への連帯を、そして市場メカニズムにNOを!

COP25初日が終了しました。

開幕の朝、会場入り口にて、南米の先住民族を中心に、チリ政権による市民社会への弾圧に反対する声をあげるアクションが開催されました。冷たい空気の中、15人ほどが眼帯をかけ、チリでたたかう市民への連帯を示し、気候危機の根本には不正義や、市民の声を封じるような政権の存在があるとし、Justice for climate, Justice for Chilean と声をあげました。

気候正義を求めるNGOの連合Demand Climate Justiceのメンバーの一人は「開催地はスペインに変わっても、私たちはチリの人々と共にある。スペインに変更になったからといって、現地で起こっている不正義から目をそらしてはいけない」と語りました。

開催地はスペイン・マドリードに変更となりましたが、COP25の交渉を進める議長はチリのままです。気候正義を求める市民社会としては、市民を弾圧する政府に今回の議長を任せることはできません。

また、初日の午後には、Friends of the EarthインターナショナルとしてCOP25にかける期待を記者に向けて発信。

南米・エルサルバトルのRicardo Navarroは、南米の市民社会と連帯することをうったえました。

「社会的・政治的な不公正、環境不正義を避けるために、私たちが取り組まなければならないことはシステムチェンジです。システムチェンジはいますぐに、すべてが気候危機に瀕する前に起こさなくてはなりません。今こそ、システムチェンジの時なのです。」

「開催地は変わっても南米の市民社会と連帯を」Ricardo Navarro(南米・エルサルバトル)

ナイジェリアのPhilip Jakporは、国際市場メカニズムについて指摘。ナイジェリアではShellや、ENIなど巨大化石燃料企業が化石燃料採掘を続けています。

また、FoEナイジェリアとFoEオランダは、化石燃料採掘を続け、気候危機を加速させているShellを相手取り、訴訟を起こしています。

ナイジェリアのPhilip Jakporは、国際市場メカニズムについて指摘。

しかし、驚くべきことに、Shellは市場メカニズムに参入する見返りとして、オランダ政府から補助金を受け取っています。Phillip Jakporはこれらの事実を記者会見で指摘し、企業の利益ばかり反映され、大規模プランテーションがクレジットになるようなメカニズムは、今すぐにやめるべきであるとコメントしました。

(高橋英恵・深草亜悠美)

【COP25 vol.1】COP25マドリード開幕 – 気候危機を乗り越えるために今システムチェンジを

12月2日から13日までの2週間にわたり、スペイン・マドリードで国連気候変動枠組条約締結国会議(COP25)が開かれます。今回の会議の注目すべき点、市民社会の視点についてまとめました。

声を上げる若者たち

2018年に続き2019年も、世界各地で猛暑や大雨・洪水が起こっています。フランスやパキスタンでは記録的な熱波、アマゾンやインドネシアでの森林火災、日本でも昨年の西日本豪雨に引き続き、今年10月は連続して上陸した巨大台風によって大きな被害がありました。年々脅威を増す気候変動はもはや「気候危機」と表現されています。にもかかわらず、なぜ大人たちはすぐに行動しないのか。そう訴え、2018年8月にスウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリさんが、たった一人でスウェーデン国会前で座り込みを始めました。その行動は世界中の若者を動かし「未来のための金曜日(Fridays For Future)」と呼ばれるムーブメントに発展しています。

日本でも若者たちが声をあげ、これまでに4回「気候マーチ」を開催。9月と11月のグローバルアクションデーには日本全国各地でマーチやスタンディングなどのアクションが行われました。

やはり一番大事な目標の引き上げと行動

これ以上の気候危機を防ぐためには、今すぐ行動することが必要です。私たちに残された時間は残念ながらあまり長くはありません。

パリ協定のもとで、各国はNDC(National Determined Contribution)とよばれる国別の目標を提出することになっています。11月末時点で184 カ国が国連事務局にそれぞれの国の目標を提出しています。しかし各国が提出した計画をそのまま実行すると、今世紀末に3℃以上温度上昇してしまうと計算されています。つまり、各国がNDCを引き上げなければ、1.5℃目標は達成できません。そのため、各国は目標を引き上げて再提出することが求められています。

昨年のCOP24は、IPCCが1.5℃レポートを発表した直後に開かれたこともあり、気候変動への緊急性への認識が高まり、各国が目標を強化することが期待されていました。しかし、COP24での先進国による抜本的な目標の引き上げはみられませんでした。

今年9月にはアントニオ・グレーテス国連事務総長の呼びかけにより国連気候アクションサミットが開催され、気候変動対策への機運が盛り上げられましたが、日本は目標を引き上げていません。COP25では、日本を含む先進国による目標の引き上げと具体的な行動をとることが強く求められます。

石炭火力発電は最も温室効果ガスを排出する発電方法であることから、すでに少なくない数の国々が石炭火力発電事業からの撤退を表明しています。また、パリ協定の1.5℃目標達成のためには、新規の石炭火力発電所の建設は許されず、既存のものも、順次閉鎖していく必要があります。そんな中、日本は国内外で石炭火力発電を推進し、その姿勢が国際的にも批判されています。行動強化の観点からも、日本には国内外で進めている石炭火力発電所の新設中止・撤退がもとめられます。

市場メカニズムの動向

先進国にとって注目されるのが、市場メカニズム(パリ協定6条)のルールづくりです。気候変動における国際市場メカニズムとは、削減努力をして得られた削減分を排出権やクレジットとして金銭的な価値を付加し、市場で売買するメカニズムです。6条のルールづくりは、昨年のルールブックの議論で積み残された議題の一つでした。

いくつかある論点としては、例えば、排出量を「排出権を売却した国(削減努力を行なった国)」と「排出量を買い取った国(買い取って排出分を相殺した国)」の両方で削減としてカウントしてしまうと、重複して削減量をカウントしてしまうことになります。これを避けるため、調整を行う方法やどの範囲で調整を行うのかなどが議論になっています。

また、これまでに発生しているクレジットを2020年以降にも使えるようにしたいという国も存在します。これまでに発生しているクレジットは数十億トン分に相当し、これを許せばさらなる大型排出が可能になってしまいます。

市場メカニズムは結局、排出削減努力を行った分どこか別のところでの排出を許してしまうため、絶対的な削減が達成されるわけではありません。

また、森林保全を行い、二酸化炭素吸収源を確保した分に見合う金銭的付加価値をつけるというREDD+というスキームも行われていますが、そのために先住民族が住む土地の囲い込みが発生するなどの問題も発生しています

上記等の理由から、FoEグループはこれまでも国際市場メカニズムに反対しています

日々大きくなる損失と被害

別の注目議題が、「損失と被害」です。特に途上国で深刻になっている気候変動により生じた損失と被害について、COP19でワルシャワ国際メカニズム(Warsaw International Mechanism, WIM)とよばれるメカニズムが設立されました。

国連気候変動枠組条約のもとには、緩和(温室効果ガスの排出量を削減すること)や適応(すでに起きつつある気候変動に対応していくこと)のための資金メカニズムはありますが、損失と被害へのサポートや支援メカニズムがありません。ワルシャワ国際メカニズムはこれまで、損失と被害に関する知見の蓄積やその共有、気候変動に起因する人口移動(Displacement)に関する助言などを行うなど、小規模な活動にとどまっていましたが、具体的な損失と被害に対するアクションや資金支援についても議論が求められます。

突然変更された開催地

もともとCOP25は南米チリで開催される予定でした。しかし、首都サンティアゴでチリ現政権に対する抗議行動が続いていることを理由に、チリでの開催は急遽中止されました。しかし、即座にスペインが代替地として名乗りでたことから、議長国はチリのまま、開催地をマドリードに移し開催されることになりました。

サンティアゴではすでに市民社会サミットも計画されていました。開催1ヶ月前の突然の開催地変更は、参加を予定していた市民参加者、経済的に制約の大きい途上国の参加者に追加的なコストと手間を強いることになりました。

また、一昨年のCOP23はフィジーを議長国としてドイツのボンで開催され、昨年のCOP24はポーランドで開催されました。来年はグラスゴーで開催することが決まっており、4年連続でヨーロッパでCOPが開催されることになります。COPの開催地は毎年大陸持ち回りで、多様な地域の市民社会の参加を確保してきましたが、物価の高いヨーロッパでの開催は、途上国の参加者にさらなる経済的負担を強いることになります。

私たちのメッセージ:FoEグループとして

FoEグループが考える気候危機への解決策は、多国籍企業等の利益や経済成長を優先する社会から、自然やそれとともに生きる人々を中心にすえた持続可能で民主的な社会への抜本的な変革(System Change)です。

化石燃料事業、環境破壊を引き起こす原発や大規模バイオマス発電等の誤った気候変動対策、カーボンオフセットなど市場原理を利用した「解決策」、損失と被害への資金支援としての保険の導入は、気候変動対策にならないだけではなく、大企業や多国籍企業の力を強め、さらなる経済的な格差の拡大につながります。

これ以上の気候危機を防ぐためには、エネルギーの自治権を人々に取り戻し、経済活動においても遠くの資源を使うのではなく身近な資源を活用すること、森林を奪うのではなく先住民族の知恵による森林管理(コミュニティフォレストマネジメント)や森林農業(アグロエコロジー)を見直すこと、そして、気候変動への責任の公平性に基づいた目標の設定と利益に左右されない公的資金による途上国への支援することが必要です。

社会の公平性を取り戻すことが気候危機対策につながり、また、適切な気候危機対策は公平な社会の実現につながります。社会の公平性と気候危機対策はお互いに切り離せない関係です。この”Climate Justice for ALL”というFoE グループのメッセージを、このCOP25期間を通じ、会場内外で強く訴えていきます。

(小野寺ゆうり・深草亜悠美・高橋英恵)