台湾の脱原発に「待った」!?脱原発政策の行方

 

 昨年2018年、台湾の「2025年に原発ゼロ」政策の是非を問う国民投票が実施され、投票者の過半数が政策廃止に投票しました。今、台湾で何が起きているのか。一橋大学博士課程在籍で、地球公民基金研究員のダン・ウィジさんにお話を聞きました。

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 台湾には2011年の東電福島事故以前から脱原発運動がありましたが、2000年以降沈静化していました。しかし、福島第一原発事故をうけて、再び論争が白熱化し、運動は盛り上がり、最終的に2025年までに原発ゼロにするということが決定されました(法制化された)。

 台湾は、九州と同じくらいの面積で、4箇所の原子力発電所があります。首都台北から近いところに第1、第2原発があり、台湾南部に第3原発があります。1980年代、台北の北部に第4原発建設計画が浮上。それは台湾の民主化運動の盛り上がりの時期とも重なっています。

 2002年、環境基本法に脱原発社会を構築すると明記されました。しかしいつまでに脱原発社会を実現するかについては、定まっていませんでした。福島事故後、「2025年」というタイムラインが書き込まれました。

 2018年、「2025年原発ゼロ政策を撤回」すべきかどうかという国民投票が行われ、投票率54%、賛成が589万票、反対が401万票で、賛成多数で政策撤回が決まってしまいました。

 もともと2025年までに原発ゼロというのは野心的な目標ではありませんでした。現存する原発を40年間運転して、延長稼働しなければ、2025年には自然に原発ゼロとなるからです。ただ、見方をかえると2025年の電源構成には再エネ20%が含まれており、2016年時点で再エネが5%であることを考えると、再生可能エネルギーが原発に代替できるのかということに関しては不安がありました。

 では、なぜこの短期間の間に脱原発に向かい風が吹いたのか?

 背景として、民進党政権への不満が高まっていました。じつは今回の国民投票は、脱原発だけが議題ではありませんでした。10件の国民投票と地方統一選が同時に行われました。

 民進党政権は、エネルギーシフトに加え、年金改革や同性婚の認可を政策として進めてきました。そういった課題に対して、国民党を含め保守勢力は大きく反発し、国民投票で民進党政権の政策に反対しようと乗り出しました。

また、政権の実績に対しても、とくに経済政策がうまく行っていないという世論があり、一般国民の間でも現政権に対する反感が高まっていました。

 そこで、政権全体への信を問うも同然のような10項目の国民投票が浮上してきたのです。

 そこには、もう一つ背景があります。2017年に国民投票法が改正され(これも民進党政権肝いりで実現した)、国民投票の実施のハードルが下がっていました(有権者の1.5%が署名したら実施できることに。もともと5%だった)。皮肉ですが、民進党政権が進めた国民投票法改正が、保守陣営にうまく利用され、自分たちが自分たちの改革に飲み込まれた側面がありました。

 民進党が進めようとする同性婚政策を問う国民投票も反対多数で可決されました。地方統一選においても民進党は大敗を喫し、今回の投票結果は、エネルギーシフトや脱原発に民意が支持しないというよりは、民進党政権への不満の結果としてあらわれた現象とみたほうが妥当だと思います。

 また、政権側の対応も、後手に回りました。政策の一つである同性婚に関しては、とくに保守派の反対が強く、民進党が繊細な課題への意思表明を避けたかったため、原発についても強くでることができませんでした。

 さらに、議題提案者(台湾核エネルギー学会が主導した「以核養緑」国民投票運動が議題提起、表のリーダーは原子力支持任意団体(「核能流言終結者」)が務める。)が、エネルギーシフトの課題を壁として見せることに成功していました。つまり、脱原発政策を支える代替案がちゃんと整備されていないことを声高に叫びました。

 また、大気汚染問題に関する世論がとくに昨年から盛り上がっていました。脱原発を進めたため、火力発電が増やされ、大気汚染が深刻化したという論調が飛び交いましたが、原発が即時停止されたわけではなく、これは明らかに事実と異なります。しかし、こうした言説は、大気汚染問題が深刻な台中市や高雄市で国民党の市長候補者が選挙戦にとり入れたため、一気に広がりました。

 さらに、問題だったのはカンニングペーパー効果です。国民投票は発議されてから1ヶ月以内に投票が行われなくてはいけません。これでは十分な議論の時間ができません。内容をきちんと理解した上で投票した人はほんの一握りでした。

 ではみんな何に頼って投票したのか?SNSにどの議題になんと答えるかの解答例が出回りました。それに頼って投票した人が多かったのです。脱原発=大気汚染推進という画像も出回りました。フェイクニュースです。

 投票提起者は、これが脱原発法を削除する国民投票であると言わず、これは「以核養緑」のための投票だと説明していました。すなわち、再エネの普及は時間かかるので、2025年までに再エネ20%、LNG50%、石炭30%というエネルギーミックスは無理があり、なので原子力をもっと活用して、再エネの健全な普及を図ろうという意味です。

 (ちなみに、国民投票請求のための署名集めの最中には核エネルギー学会と東電が主催で「東電再建の道」という廣瀬直己会長講演会も行なっていたとのこと)

 実際にこの決定がどのような影響を及ぼすのでしょうか?

 第1・第2原発に関しては、運転延長期間の申請は間に合いません。第3原発は可能ですが、地方自治体首長は否定しており、活断層の問題もあります。第4原発は工事再開のために予算編成が必要です。

 現在、原発擁護派は第4原発の是非を問う国民投票を目論んでいます。また環境団体の説明会に乱入して、嫌がらせすらしています。

 今後、脱原発派は原発安全問題をもっと主張していくつもりです。日本で震災が起きてから8年。台湾でも記憶が薄れつつあります。原発事故の状況についても、引き続き台湾に伝えていく必要があります。

 また、自分たちの活動に資するような、今回の国民投票に対して対抗的な国民投票も考えています。

(聞き手・書き起こし:深草亜悠美)

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大規模開発から守りたい「暮らし」~インドネシア・インドラマユ火力発電所で奪われるものは?

約3年前からFoE Japanが取り組んでいるインドネシア・インドラマユでの石炭火力発電事業・拡張計画問題。本事業は、国際協力機構(JICA)が政府開発援助(ODA)として支援をしています。

私たちは現地NGOであるWALHI(インドネシア環境フォーラム、FoEインドネシア)と協力し合いながら、事業に反対の声を上げている現地住民の支援を続けていますが、12月27日、この反対運動をしている農民3名に対し、彼らの身に覚えのない「国旗侮辱罪」でそれぞれ5ヶ月(2名)と6ヶ月(1名)という実刑判決が言い渡されました。FoE Japanを含む日本の3団体は、これは冤罪であり、国家事業に異を唱える住民への弾圧に他ならないことから、同日、日本政府・JICAに人権状況の改善を求める緊急要請書を提出しました。

本件を担当しているFoE Japanのスタッフは定期的に現地調査をしていますが、今回同スタッフと11月からスタッフに加わった私、杉浦2名で12月に現地調査をしてきました。その時の体験談を踏まえて、本事業のこと、また現地の様子などをご紹介します。

インドネシア・インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画とは

インドネシアの首都であるジャカルタから東に約120~130キロ行ったところに位置する西ジャワ州インドラマユ県。自然に恵まれた環境から、車窓からは見渡す限り農地が広がり、海沿いの村には多くの漁船も見えるなど、農業や漁業が盛んな地域のようでした。

インドネシア・ジャワ島地図(googleマップより)

このインドラマユ県北西部の海沿いに面したスクラ郡とパトロール郡というところに石炭火力発電所の建設が予定されています。発電所の規模は、1,000MWを2基の計2,000MW。東京ドーム約59個分にもおよぶ275.4ヘクタールの広大な敷地が予定地としてとられています。JICAは初めの1基分1,000MWの協力準備調査をすでに行い、現在は基本設計などに対するエンジニアリング・サービス(E/S)借款での貸付17億2,700万円を続けています。また、インドネシア政府の要請を待って、本体工事に対する借款も行う予定になっています(詳しい事業の内容はこちら)。

12月現地調査~事業と闘いつづける住民との村での語らい

今回12月に私たちが訪れたのはムカルサリ村。パトロール郡に位置し、本事業に反対している現地の住民ネットワーク“JATAYU”(インドラマユから石炭の煙をなくすためのネットワーク)の中心地でもあります。実際に私たちもJATAYUメンバーのお家に泊めていただきました。

現地に着いた時には夕方。すでに訪問の連絡をしていたため、その家の皆さんがたくさんのご飯を用意して待ってくれていました。初めて会い、しかもインドネシア語が喋れず、ほぼコミュニケーションがとれない私にも優しい笑顔で「食べな、食べな(現地語でマカン “makan”)」と言ってくれるみなさんの温かさに、緊張がすぐほぐれました。

作ってくださった夜ご飯(2018年12月撮影、FoE Japan)

ご飯を食べながら和やかな雰囲気でお家の方々と話していると、JATAYUのメンバーが続々と家にやって来ました。すると、上述した不当逮捕・勾留されている仲間の農民3名の裁判に関する話題へと移っていきました。和やかな雰囲気がガラッと変わり、みんなの表情も真剣なものになるのがすぐにわかりました。

ここで裁判の内容を説明すると、この3名は、JATAYUが訴訟に勝利し、お祝いをしていたときに、インドネシア国旗を反対に掲げたとして“国旗侮辱罪”で昨年(2017年)12月に逮捕されました。一度は釈放されたものの、今年9月に再逮捕。現在は上述のとおり判決が出ているものの(2名に実刑5ヶ月、1名に実刑6ヶ月)、私たちが訪問した時は裁判の真っ只中でした。この国旗侮辱罪――インドネシア国民だったら国旗の赤白の向きを誰もが知っているなか、3人は「分かっていてそんなバカなことをするわけがない」と罪を否定しています。

インドネシアでは現在、土地・人権・環境といった権利を求め活動する人々への国家による弾圧が高まっており、いくつものケースで反対運動をする人々が犯罪者にしたてあげられています。WALHIによると、現在、本件のような開発事業に伴う環境問題を訴え、「犯罪者扱い」されている住民のケースはインドネシア国内で15件(計63名)にのぼるそうです(参照:FoE アジア太平洋地域の声明「フィリピンとインドネシアは土地権利擁護者に対するテロリストのレッテル貼りや犯罪者扱いを止めよ」(2018年3月) モンガベイ記事「先住民族による抗議を黙らせるため犯罪者扱いや暴力が増加―国連報告書が指摘」(2018年9月))。

本事業も国家プロジェクトのため、私たちは今回の農民3名の「国旗侮辱罪」による不当逮捕もそういった国家の弾圧なのではないかと考えています(26カ国188団体が署名した農民解放を求める要請書も日本政府・JICAに提出)。

捕まっている3人には家族があり、まだ小さなお子さんがいる方もいます。奧さんと子どもと一緒にご飯を食べたり、遊んだり、また仕事をしたり、そんな時間を考えると、自分がやってもいない罪で逮捕・勾留というのは本人にとっても、またご家族にとっても辛く、長い日々だということを今回の現地調査のなかで感じました。

拘束・逮捕されている農民3名(2018年12月撮影、FoE Japan)

村でみなさんの話を聞いていると、JATAYUのメンバーは、ただ自分たちの当然の権利を主張しているだけなのに、仲間・家族がそういう目にあっているということが許せず、怒り、悲しみ、悔しさなど様々な感情が混ざり合っている様子が、彼らの表情、声に出ているのがわかりました。

なんとか仲間の無実を証明し、そして石炭火力発電所の建設を止めたいという意思を改めて確認し、JATAYUとして最後まで闘い抜くという強い思いを感じました。

奪われる生活の基盤

翌日、発電所建設予定地の視察へと向かいました。

村内でバイクに乗り移動。まず、一番初めに驚いたのは民家と建設地の近さ。家が多く立ち並ぶ場所からバイクに乗って2分も経たないうちに、長く続く白いフェンスが目に飛び込んできたのです。

発電所建設予定地を区切るフェンス(2018年12月撮影、FoE Japan)

建設地に一番近い家からは本当に目と鼻の先です。このフェンスを越えると石炭火力発電所の計画地になります。

発電所建設予定地入り口(2018年12月撮影、FoE Japan)

そのゲートをくぐると次に私を驚かせたのは広大な敷地でした。

発電所建設予定地(2018年12月撮影、FoE Japan)

果たしてこんなに広大な敷地が必要なのかというくらいの土地の広さ。東京ドーム59個分なんて、今この記事を読んでいる方もなかなか想像ができないと思います。この大きな土地で農作業を依然として続けている住民の方が何人か見られました。普段はもっと多くの農民が田んぼや畑作業をしているそうですが、みんな仲間の裁判のため忙しく、今はあまり作業ができていないとのこと。

そこには農民たちが休憩できる場所もありました。お昼時にはその辺りの農地で働いている方々がきて、ご飯を食べたり休憩をしながらお話をしたりしている様子が見られました。

発電所建設予定地内の休憩所(2018年12月撮影、FoE Japan)

農地でお話を聞いた方の畑には、トマト・ナス・赤タマネギ・かぼちゃなど、様々な野菜がなっており、今では多くのところで見られる単一栽培とは違う昔ながらの小規模混合栽培方法で野菜を作っていました。

発電所建設地内にある農地1(2018年12月撮影、FoE Japan)
発電所建設地内にある農地2(2018年12月撮影、FoE Japan)

こんなに立派な畑――もちろん発電所の建設工事が本格的に始まれば、全て潰されてしまいます。農家の方々が大切に使い育ててきた土壌だってきっとコンクリートが流し込まれる。彼らの生活手段だって無くなります。作物の補償金はもらっている(もしくはこれからもらうはずである)ものの、そんなの一生分もらえるわけではなく、ほんの少し。

お話を聞いた農家の方は、これからどうすればいいかわからないと言います。「建設地外の農地に移るといったって、他の農家だって農地を使いたいだろうから取り合いになる。もともとそんなに土地だって余っていない。」

「今後の生活、本当にどうすればいいかわからない。」

そんな話をきいて、私はすごく胸が苦しくなりました。

作業をする農民(2018年12月撮影、FoE Japan)

この開発予定地の中には、浜辺も含まれています。ここでは小規模漁民が現地の名産である小エビをとって、生計の一つとしています。私たちが沿岸を歩いていると、現地の漁民1名が網を使い小エビ獲りに精を出していました。

海で小エビを獲る漁民(2018年12月撮影、FoE Japan)

こんな浜辺も、全て立ち入り禁止になり、いままで家からすぐだった場所ではなく、しばらく歩く、もしくはバイクで遠くまで行かないと小エビが獲れなくなる。発電所から排出される温排水だって海水の温度を上げ、海洋生態系を壊しかねません。今まで獲れた小エビが獲れなくなってしまうかもしれないのです。

小エビ漁用の網(2018年12月撮影、FoE Japan)

“Livelihood”が壊されるという意味

私は今回のインドネシア訪問が開発現場の初めての現地調査となりました。大学で政治学を学ぶ中で開発学を少し学び、大学院では開発学を専攻しさらに専門性を身につけました。しかし、今回まで実際に現場を見るという機会がなく、今まで机上で勉強してきた“Livelihood”が壊される現状というのを初めてちゃんと理解することができました。

“Livelihood”という言葉は、日本語で「生計・暮らし」と訳されます。しかし、その言葉にはもっと深い意味があり、それは彼らの生活の基礎となる水・土・空気など全てを含む自然環境が欠かせないものであり、また人々が集まって意見を交換したり、話をして笑ったり泣いたりする生活環境も含まれるものなのだと思います。今回の現地訪問で、多くの人々に出会いました。畑仕事をしている農家のご夫婦、魚を網でとる漁民の人、羊を連れて歩き草を食べさせている羊飼いの人、バイクに乗って楽しんでいる若者、元気に田んぼ道を走り回っている子供たち、外で椅子に座って話している畑仕事終わりの方々、家事をしているお母さん方――そんな彼らの当たり前の生活全てが”Livelihood”であり、それがいま壊されようとしています。

そんなことがわかったら、反対の声が出るのは当たり前です。しかし、その反対の声さえも政府の弾圧によって抑えられようとしているのです。

私たちはそんな状況を決して許せないと思いました。私たちができるあらゆることをしながら、現在捕まっている3名の農民の解放を訴え、またこの石炭火力発電事業を中止させたい。そう固く決意した現地調査になりました。

(開発と環境・森林担当 杉浦 成人)

住友商事・スミフルは今すぐ対応を!血に染まるバナナ―現場からの緊急報告

バナナプランテーションの実態

庶民の食べ物として広く流通するバナナ。日本のコンビニやスーパーなどで見ないことはありません。日本におけるバナナの購入数量は生鮮菓物のなかで2004年以降、みかんを抜き、13年連続1位。その需要の高さが伺えます。その日本のバナナのうち、金額・数量をそれぞれ85%、83%占めるのがフィリピン産[1]。そして、国内販売量No.1を謳(うた)うスミフル(旧住友フルーツ)は、大手金融機関による投融資も受け、住友商事が株を49%保有しています。しかし、スミフルが事業を展開するフィリピンのバナナ農園を巡って、農薬による野菜・環境の被害や深刻な健康被害が告発されてきました

フィリピンにおけるバナナプランテーションへの批判の歴史は日本では長く、故・鶴見良行氏の『バナナと日本人』(1982年、岩波新書)に始まります。しかし、問題は残念ながら解決されていません。今、正当な権利を勝ち取ろうと声をあげるバナナプランテーションの労働者を狙い、軍や警察、私兵などによる脅迫・暴力行為が起き、銃撃・放火事件も相次ぐなか、死傷者が出るなど深刻な事態となっています。 その深刻な人権侵害の状況把握と背景を調査するため、12月にフィリピンのミンダナオ島コンポステラ・バレー州をPARC(アジア太平洋資料センター)と訪問しました。

現場からの緊急報告(コンポステラ・バレー州)

ドゥテルテ大統領が2016年まで市長を務めていた南部の大都市ダバオに到着。翌日、早朝の目覚めとともに衝撃的な一報が入りました。スミフルの労働組合NAMASUFA(Nagkahiusang  Mamumuo  sa  Suyapa  Farm)の現地事務所と組合のリーダーの家など4棟が未明に放火されたというのです。急いで支度し、出発。ダバオから北東へ車でおよそ2時間、コンポステラ・バレー州に入りバナナのプランテーションが視界に入ってきました。途中スミフル専用の港やトラック、バナナを梱包する工場を横目にしながら現場に到着。数十人 の人々が集まっているその奥に煙が見えました。

道の両脇に広がるバナナプランテーション(2018年12月撮影、FoE Japan)

スミフルの労働者から聞取りをするため、使用させてもらう予定だったNAMASUFAの事務所が未だに煙を上げていました。衝撃を隠せませんでした。幸いなことに死傷者はいませんでしたが、リーダーの家や組合事務所を含む4棟、そしてNAMASUFAが所有していたという重要書類が全焼。現場には消防や警察、メディア関係者などはおらず、周辺住民が燻(くすぶ)る炎に水をかけていました。

スミフルの労働組合NAMASUFAのリーダー宅焼け跡(2018年12月撮影、FoE Japan)
バケツで水をかけ火消し(2018年12月撮影、FoE Japan)

NAMASUFAの事務所の焼け跡には、スミフルの備品と思われる焼け焦げた机もありました。日本へ出荷されるバナナの農園・梱包工場で働く労働者たちへの弾圧と理不尽さを目の当たりにし、気持ちの整理がつかないまま、その人たちへのインタビューを開始。根深く、深刻な実態を聞くことになります。

事務所焼け跡からスミフルの備品(2018年12月、FoE Japan)

なぜ、このような事態になってしまったのか。2017年6月に、スミフルの正社員であることを訴えてきた労働者側が最高裁判決で勝利を収めてから事態が悪化したと言います。判決の内容は労働組合NAMASUFAをスミフルの正式な労働組合と認定し、訴えていた従業員をスミフルの労働者と認めるというものでした。ところが、スミフル側がこれを無視。バナナプランテーション及び梱包工場等の操業を変わらずに続けたことにより、今年10月、フィリピン・ミンダナオ島南東部コンポステラ・バレー州におけるバナナプランテーションの主に梱包工場で働く従業員900余名による大規模なストライキが決行されました。しかし、ストライキに参加した900人は事実上の解雇となっています。暴行・放火・銃撃事件が相次ぎ、今回の組合リーダー宅への放火も二度目でした。

11月30日に組合代表の家に撃込まれた8発中2発の銃弾(2018年12月、FoE Japan)

訴訟やストライキを決行した理由には梱包工場での過酷な労働環境や不当な労働契約、有毒な薬の使用などがあります。毎日23時間、身体がボロボロになるまで働かされたという証言。過大なノルマを課せられ、最低賃金を大きく下回り、辞めた女性もいました。

また、バナナ農園においても、親が土地をバナナ栽培用に契約し、再契約をさせてもらえずに子どもにそのまま受け継がれてしまうケースも深刻で、自分たちが聞き取りしたその契約内容は、23年間も納品単価の据置きを可能にするものでした。自分の土地について、「Intervention Contract(介入契約)」を結ばされた男性は多額の借金を抱えていました。その聞き取りの内容は衝撃的なもので、10年間の契約が切れた後、バナナ農園の運営をスミフルが担うという名目上、スミフルに対し、年間1ヘクタールあたり35,000ペソ(約73,500円)を支払う必要があるという再契約を結ばされたというものでした。さらに、その契約書のコピーは手渡されることもありませんでした。当初の契約内容も、現在の契約内容も、スミフルのみぞ知るところで、自分たちには確認する術がないのです。現在その男性は500,000ペソ(約105万円)の借金があると言います。この地域の最低賃金が1日365ペソ(約767円)であることを考えると、とても払える額ではありません。

地元コンポステラ町での人権状況の悪化とスミフルが交渉を拒否しつづけている現状から、11月下旬、ストライキをしている900余名のうち、およそ330人はコンポステラ・バレー州から遠く離れたフィリピンの首都マニラに乗り込むことを決断し、大統領府前や労働雇用省前、日本大使館前などでのデモ活動を繰り返しています。コンポステラでの聞き取りを終え、マニラに戻ってから、早速その労働者たちが拠点にしている野外テントを訪れました。

その労働者へも聞き取りを行ない、明らかになったのは2014年から施行された『圧縮労働週間制度(Compressed work week)』が悪用されている実態でした。それは週に6日48時間働く代わりに、週に3日36時間ないし4日で48時間働くというものでした。そうすると1日12時間までが日払い(365ペソ=約767円)となり、残業代(1時間あたり52ペソ=約109円)は12時間労働した後に払われるというものです。つまり、同じ賃金(365ペソ)でも1日の労働時間を4時間長く設定できるので、事業者からすると支払いを抑えることができる=従業員は同じ時間を働いているのにもかかわらず収入が減ります。結果として、労働者たちは以前4時間分の残業を得ていた分を、追加で残業しなければ生活できないので、1日20時間以上も働くことになってしまうのです。

マニラでのデモ(2018年11月撮影、FoE Japan)

加えて、「数種類の農薬が使われている。最近では無臭のものになり、農薬を過剰に吸いやすくなり、深刻な健康被害になる恐れがある」と農薬の調合を担当していた男性は危惧しました。今回、梱包工場の労働者への調査では、PARC制作ビデオ『甘いバナナの苦い現実』で登場するような失明のような深刻な被害を受けた人はいませんでしたが、多くの人が皮膚病をはじめ、腹痛、高熱、アレルギーを訴えており、防具も十分に支給されなかったそうです。

マニラでの聞取り(2018年12月撮影、FoE Japan)

これらの事例は氷山の一角であり、こうした労働環境はスミフルに限ったことではなく、他のバナナブランドでも同じようなことが起きているという証言もありました。また、12月4日のTBSラジオで立教大学異文化コミュニケーション学部教授の石井正子さんが「バナナの大量廃棄処分の実態もあるが全容が明らかでない」と話されていたように、バナナには、他にも様々な問題があります。

朝ごはんやおやつにバナナを食べている方、チョコバナナやバナナパフェが好きな人も多いかと思います。栄養価が高く、健康にも良いとされるバナナを食べるなとは言えません。ついつい安いバナナ、黒い点のない黄色いバナナに手が伸びることでしょう。しかし、その安さや黒い点のないバナナを作っている人たちのことを忘れないでほしいと願っています。そのバナナは血に染まっているかもしれません。

なお、ストライキをするスミフルの従業員の方々は現在、収入がない状況で、募金などの支援により自分たちの正当な権利を勝ち取るための活動を続けています。マニラでピケを張る皆さんは、依然よい結果を得られていないことから、フィリピン人にとって家族と過ごすとても重要なクリスマスや年末年始も地元コンポステラ・バレーに戻ることができませんでした。様々なサポートを必要としている労働者の皆さんのため、カンパを呼びかけています。日本の皆さんからもぜひご協力をお願いします。

[1]財務省貿易統計のデータをもとに計算

※スミフル労働者の問題の詳細や経緯は、こちらもご参照ください。

※スミフル労働組合メンバーへ支援のカンパのお願い

現在、マニラでスミフルへの抗議の声を上げ続けているNAMASUFA(スミフル労働組合)のメンバーが、食料・薬などの生活支援と活動支援を必要としています。ぜひ、カンパのご協力をお願いします。

下記要項を事務局までお知らせの上、銀行口座にお振り込みください。
お名前/ご住所/お電話番号/ご支援金額/用途指定寄付(バナナ)であること

カンパ入金口座:

1)ゆうちょ銀行 〇一九支店(019) 当座口座 0163403
名義: アジア太平洋資料センター

2)郵便振替口座 00160-4-163403 アジア太平洋資料センター

※寄付に関するお問い合わせ

特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター(PARC)/担当:田中

〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町1-7-11 東洋ビル3F

TEL:03-5209-3455

E-mail:office (@) parc-jp.org


【撤退の意思決定を!】日立に英国への原発輸出反対署名を提出&日立前にシロクマくん出現

本日1月8日、日立製作所がイギリスで進めるウィルヴァ原発建設計画の中止を求める署名を、日立および安倍首相に対し提出しました。第一次集約分は、個人署名が2725筆(32カ国)、団体署名が79団体15カ国でした。ご協力いただいたみなさま、本当にありがとうございます。

日立製作所の中西会長自ら、プロジェクトは「もう限界」と発言しています。

まだ遅くありません。時代遅れで危険な原発事業から、今こそ事業から撤退するべきです。

正式に事業撤退の最終決定をさせるためにあと一押し!ということで、一次集約分の署名の提出と、日立製作所が入っている日本生命丸の内のビル前でアピールを行いました。

アピールには英ウェールズの住民団体PAWBのロブさんもインターネット参加。「今や、ウィルヴァニューウィッド原発は、英国と日本政府の支援なしには継続不可能であることは明らか。しかもそのツケを支払わされるのは将来世代で、島にも大きなリスクが押し付けられる」と訴えました。

日立の家電のキャラクターのしろくまくんも参加。原発輸出を強引に進めればしろくまくんのイメージも損なわれかねないと心配だったのでしょうか?

署名は安倍首相にも提出しました(郵送)。安倍首相は、明日からオランダとイギリスを訪問。メイ首相との会談でこの原発輸出案件についてもふれられるとみられています。

この原発案件は日英両首脳の思惑が強く働いています。日立には、賢明な経営判断をしていただきたいと思います。

署名自体は日立が事業から完全撤退するまで継続します。ぜひ引き続きご協力よろしくお願いします。

(満田夏花・松本光・深草亜悠美)

動画も公開中!

FoE Japanでは、これまでに2度、ウィルヴァ原発建設立地の状況調査やウェールズのみなさんにインタビューを行っています。この度その様子をまとめた動画が完成しました。ぜひご覧ください&拡散お願いします。