COP24閉幕 – 公平性に欠けるパリ協定の実施指針、気候変動への行動強化にも繋がらず

12月2日から開催されていた第24回気候変動枠組条約締約国会議(COP24)は、予定していたよりも1日遅い15日に終了しました。

何が期待されていたのか?

今回のCOPで期待されていたのは、気候変動行動強化に関する主な2つの点です(開幕時の論点整理はこちら)。

一つはパリ協定の実施指針(ルールブック)の合意、そして二点目は、各国の気候変動への国別目標(NDC)の強化です。今回のCOP24は、気候変動の緊急性と行動強化の必要性を示したIPCC1.5度特別報告が2018年10月に発表されてから初めて開催されたCOPであることから、2023年の各国の気候変動取り組みの進捗を確認し合うグローバル・ストックテークに5年先立ち、各国が目標強化の取り組みなどについて議論するために設けられた促進的対話(タラノアダイアログ)などを通じて各国の気候変動への国別目標(NDC)の強化が期待されていました。

ルールブックはどうなった?

一点目の主要点であるルールブックにおいては、残念ながら、先進国の気候変動への歴史的責任はほぼ削られる結果となりました。

途上国はルールブック作りにも公平性・共通だが差異ある責任の原則の適用を主張し、NDCに関しても緩和中心ではなく、適応などその他の要素も含めるべきだと主張していました。結果的に、緩和については必須ですが、適応などその他の項目は、NDCに含めたい国は含めることという形になりました。

「透明性枠組み(各国の気候変動対策の取り組みの報告に関する枠組み)」では、各国は2年ごとに各国の排出目録と取り組みの進捗レポートを提出することになります。提出フォーマットに関しては先進国と途上国の間に差が設けられました。(先進国の提出は2022年から、途上国は2024年から)。適応と損失と被害についての報告は要素として盛り込まれましたが、損失と被害に対応するための資金の言及は完全に削除されました。

資金情報の報告については、新たに拠出された公的資金だけでなく、民間から動員された商業融資や投資、保険などもカウントして良いことになりました。

一方、先進国は2年ごとに今後拠出する気候資金の情報についてレポートを別途提出することになりました。資金がなければ自国の気候変動対策実施が難しい途上国にとっては、この点は一つの勝利といえます。

今後2年間は、各国がNDCを強化する非常に重要な年になります。

「グローバルストックテーク」は、2023年から始まる各国が気候変動対策の取り組みを見直し、5年ごとに目標を強化して再提出するプロセスです。グローバルストックテークでは公平性原則が非常に重要な論点であり、途上国、とくにインドなどは、残されているカーボンバジェット(1.5度目標達成のために残された温室効果ガスの排出許容量)や歴史的排出を目標強化のプロセスに盛り込むよう求めましたが、実施指針には残りませんでした。また、「損失と被害」についての言及は最後までアメリカが強行に反対し、本文では言及されず、最終的に脚注に追いやられました。

IPCC1.5度特別報告の扱いは?気候変動行動強化につながったのか?

二点目の各国の気候変動への国別目標(NDC)の強化について、COP24の決定文の中には1.5度特別報告を直接歓迎することができず、各国のNDCの強化は「2020年までにNDCを強化して再提出する」という、これまでの決定文にも含まれていた表現が含まれるのみにとどまりました。IPCC特別報告の内容をそもそも認めないという立場のアメリカに加え、サウジアラビア、ロシア、クウェートなど、温室効果ガスの大型排出国がIPCC特別報告の扱いについて最後まで強硬な立場をとったためです。

タラノアダイアログにおいても各国の取り組み強化が加速されることが期待されていましたが、公平性や1.5度レポートについて言及されたものの、COP決定文の中では「タラノアダイアログの完了を歓迎する」と記したのみで、今後の行動強化には繋がりませんでした。

気候資金は?

パリ協定は、先進国の途上国に対する資金・技術支援を義務付けています。しかし、ルールブックのいたるところで先進国の資金・技術支援の義務が弱められた表現になっています。

京都議定書のもとで設けられた適応基金は、存続は決まっていますが、これまでクリーン開発メカニズムの利益の一部を原資としていたため、パリ協定下でどのように運営するのか、議論が決着していません。市場メカニズムの議論はCOP25まで先送りされたためです。

また、先進国は2020年までに年間1000億ドルの気候資金を拠出することになっていますが、その約束も2025年までで、それ以降の資金目標が決まっていません。今回のCOP24で、次なる資金目標の議論は2020年から始めることに決まりました。

気候変動の被害は加速する一方

2018年は、日本でも気候変動の被害がさらに拡大しました。猛暑や洪水、大雨などで亡くなる方や、家を失う方がたくさん発生しました。途上国でもその被害は特に甚大です。災害への備えが少なく、農業や漁業など第一次産業に従事する人口も多いため、より大きな気候変動被害を受けます。しかし、そういった人たちほどほとんど温室効果ガスを排出していません。

一方、先進国の政府や銀行、企業はいまだに化石燃料企業やプロジェクトに投資し続けています。間違った気候変動支援が、コミュニティや環境の破壊、そして人権侵害に繋がっています。

また、今回のCOP24では、市民社会の参加に対する抑圧が非常に顕著でした。気候変動の現場でたたかい、実際に化石燃料プロジェクトとたたかう市民社会の声が押さえつけられるようなことがあってはなりません。

公平性や途上国の視点からは、今回のCOP24の結果は非常に残念な結果だったと言わざるを得ません。

今後さらに重要になってくるのは、各国での取り組み、とくに先進国による国内での温室効果ガスの大幅な削減などの取り組みの強化と、途上国への支援強化です。また、化石燃料プロジェクトや間違った気候変動対策に対する草の根の取り組みもとても重要です。

FoE Japanは、これからも公平性の観点を重視した提言活動、実際に気候変動を加速させている化石燃料プロジェクトに対する草の根の取り組みに尽力していきます。

(小野寺ゆうり・深草亜悠美・高橋英恵)

日立の英ウィルヴァ原発、断念まであと一歩~署名にご協力を

※FoE JapanとPAWBは、日英両政府および日立に対して、ウィルヴァ原発の中止を求める国際署名を行っています(オンラインおよび)。
1月8日に第一次提出を行う予定です。

日立製作所が進めるイギリスでのウィルヴァ原発建設計画が岐路を迎えている。
12月10日のテレ朝の報道(注1)によれば、複数の関係者が「建設費のさらなる増大が見込まれる中、資金の調達先が決まらず計画を断念する方向で検討している」とのことだ。

この報道をうけ、日立の株価は上昇した。市場では「不採算事業への投資を見送り、利益下振れへの警戒感が和らぐ」と評価されたもようだ(注2)。

日立は12月12日に取締役会を開催。この問題について議論を行ったとみられる。
12月16日になって、共同通信が、日立がウィルヴァ原発の計画を「凍結する方向で調整している」「日立は事業継続の可能性を残すが、現状では事実上、撤退する公算が大きい」と報じた(注3)。翌日の17日、中西会長は、「(今の枠組みでは)もう限界だと英政府に伝えた」と発言(注4)。しかし、撤退に向けた最終決定ではなく、依然として継続の余地を残す。日立は2019年内にも最終投資判断をするとしていたが、年度内に早まる可能性がある(注1)。

ウィルヴァ原発は、日立の100%子会社のホライズン・ニュークリア・パワー社がイギリス・ウェールズ北部アングルシー島で進める。ABWR型の原発2基の建設を行うもの。
日立は以前より、ウィルヴァ原発事業を継続する条件として、自社の出資比率を50%以下に縮小するとしていたが、投資パートナーは見つかっていない。日立は東電や中部電、日本原電のほか、国際協力銀行(JBIC)や日本政策投資銀行(DBJ)などに出資を求めてきたが、十分な出資を得るのは難しい情勢となっている(注5)。

東芝も長らくイギリスにもつ原発会社ニュージェンの売却先を探していたが見つからず、今年11月7日にニュージェンの解散を決めた。原発という危険なビジネスに手を出す企業はなかなかいないということだ。

それはそうだ。イギリスでは電力需要は減少している上、風力発電などの再生可能エネルギーの価格がめざましく低下している。先行して計画が進むヒンクリーポイントC原発からの買取電力価格は、市場価格の倍で、その差額は国民負担となる。原発の建設費用は国際的に増加し、この事業でも3兆円にはねあがった。どうみても、原発建設が経済的に成り立つ環境にはない。

一方、日英両政府は、ウィルヴァ原発事業を進めるため、投融資や政府保証などの支援を行おうとしてきた。

ウェールズの住民団体PAWB(People against Wylfa B=ウィルヴァ原発に反対する人々)は、日立が取締役会を開催する前日の12月11日、日立宛てに手紙を送付し、改めて原発計画に反対した。手紙の中で、「イギリス政府によるウィルヴァ原発に対する補助は不公正であり、イギリスの消費者に大きな負担を押し付けることになる。日立にとっても評判を損ねることになる」「日立は、高価で時代遅れで危険で不必要な原発を推進するのではなく、未来のための投資してほしい」と訴えた。

アングルシー島は、美しい海岸線が有名な観光地で、EU保護種であるキョクアジサシも生息する。反対する住民は、原発事故の危険性、核廃棄物が将来にわたり残されること、事業によって自然のみならず、地元に残されているウェールズの文化が破壊されることを恐れている。

ウィルヴァ原発の建設が予定されているアングルシー島の風景(写真提供:PAWB)
事業地周辺にはEUの保護種であるキョクアジサシも生息する
(写真提供:PAWB)

日本政府は、原発輸出政策を国策として進めており、第二次安倍政権になってからはなりふり構わぬトップセールスを展開してきた。しかし、ベトナム、リトアニア、トルコなどで原発輸出が相次いで頓挫(下表)。

トルコ・シノップ原発については、事業費の倍増などから、三菱重工業なども含めた官民連合が撤退に向けた最終調整に入ったと報じられている。FoE Japanは2014年、現地訪問を行い、住民たちと交流。日本の「脱原発をめざす首長会議」から、シノップ周辺で反対の声を上げる首長たちへの応援レターを届けた。また、シノップ原発の地質調査に関して、経済産業省から日本原電の委託調査の不透明さについて、問題提起。日トルコ原子力協定に反対し、シノップの住民の手紙を日本の国会議員に届けたりなどの活動を行ってきた。

トルコ・シノップの美しい漁港(2014年撮影)

日本政府肝いりで進められた原発輸出政策。いまや残るはこのウィルヴァ原発のみだ。日立が国との関係で、ウィルヴァ原発を継続せざるをえないのではないかという懸念もきかれる。日立が現時点でこの事業を中止すれば最大約2700億円の損失が生じるとされているが、撤退判断が遅れればこの額はさらに膨らむだろう。日立には、日本政府に忖度することなく、正しい経営判断を行うことを望みたい。(満田夏花)

注1)日立が英原発建設計画「断念も視野」 建設費増大で(テレ朝、2018年12月10日)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000142690.html
注2)<東証>日立が上昇に転じる 「英原発建設、断念視野」と伝わる(日経、2018年12月10日)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL10HJL_Q8A211C1000000/
注3)日立、英原発計画を凍結へ(共同、2018年12月16日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181216-00000040-kyodonews-bus_all
注4)日立の英原発計画「もう限界」採算見通し厳しく(共同、2018年12月17日)
https://this.kiji.is/447329326390936673?c=39550187727945729
注5)日立の英原発事業、電力大手との出資交渉難航(日経、2018年12月16日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39012980W8A211C1TJC000/